エプスタイン・バールウイルスのペプチド及びこれらのペプチドに対する抗体
【課題】ヒト・ヘルペスウイルスであるエプスタイン・バールウイルス(EBV)に対する抗体に対して免疫化学的な反応を示すペプチド、これらのペプチドに対するモノクローナル抗体及び抗イディオタイプ抗体を提供する。
【解決手段】エプスタイン−バールウイルス(EBV)と免疫化学的に反応するペプチドもしくはその断片。このペプチドもしくはその断片に対する新規モノクローナル抗体。検査液中のEBVもしくは抗EBV抗体の検出のための方法、及び、この検出法を実施する際に用いる本発明のペプチド、断片、もしくは、ポリペプチドを含む免疫化学的試薬及び検査キット。このペプチドに対するモノクローナル及びポリクローナル抗体を使用し、天然及び変成させた無傷の機能的EBNA−1蛋白質の両方を検出検査液もしくは組織検体中に含まれるEBVの検出。
【解決手段】エプスタイン−バールウイルス(EBV)と免疫化学的に反応するペプチドもしくはその断片。このペプチドもしくはその断片に対する新規モノクローナル抗体。検査液中のEBVもしくは抗EBV抗体の検出のための方法、及び、この検出法を実施する際に用いる本発明のペプチド、断片、もしくは、ポリペプチドを含む免疫化学的試薬及び検査キット。このペプチドに対するモノクローナル及びポリクローナル抗体を使用し、天然及び変成させた無傷の機能的EBNA−1蛋白質の両方を検出検査液もしくは組織検体中に含まれるEBVの検出。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エプスタイン・バールウイルス(EBV)に対する抗体に対して免疫化学的な反応を示すペプチド、これらのペプチドに対するモノクローナル抗体、モノクローナル抗体及び抗イディオタイプ抗体を産生することが可能な細胞系に関する。本発明は、更に、EBVもしくは抗EBV抗体の検出のための免疫学的試薬及び方法にも関する。
【発明の開示】
【0002】
EBVは遍在性のヒト・ヘルペスウイルスであり、これは最初バーキットリンパ腫(BL)のアフリカ形態(風土性もしくはe)に関連して発見された。その後、このウイルスは、鼻咽頭の癌腫(NPC)に関連しても発見され、更に、感染性単核細胞症(IM)の原因物質であることが示された。感染は通常は初期幼年期に起こり、一般的には症状を発現しないという結果を生じるが、時として軽い症状を生じる場合もある。しかしながら、青年期もしくは成人になってからの感染は、末梢における異型リンパ球の存在により特徴付けられるIMを生じることがある。これらのリンパ球の大半はTリンパ球であるが、その数にはEBVによる感染を受けている少集団のBリンパ球が含まれている。Bリンパ球の感染をインビトロにおいて実行することもできる。このような細胞は形質転換を起こして培養系内で漠然と増殖し、「不死化した」、「潜伏的に感染した」、もしくは、「増殖的に形質転換した」と称される。知られている限りでは、EBVに感染した全ての固体は一生涯潜伏的に感染したままとなる。このことは、循環性末梢血リンパ球中における少数のEBVゲノム陽性形質転換B細胞が一生涯を通して継続的に存在すること、及び、口腔咽頭部における継続的であり但し周期的なウイルスの発散により表される。
【0003】
大多数の症例においては、EBV感染の結果リンパ球増殖性疾患を生じ、この疾患は一過的には衰弱を招くことがあるものの常に良性でありかつ自己限定性のものである。しかしながら、ある種の免疫抑制状態にある個体においては、この結果は完全に発達した悪性疾患となることがある。これは、意図的に免疫抑制状態に置かれている個体、特に、サイクロスポリンAで治療を行っている臓器移植を受けた子供、あるいは、HIVに感染している個体での場合におけるように便宜的に免疫抑制状態に置かれている個体、あるいは、XLP(x−関連性リンパ球増殖性症候群)遺伝子を保持している男性患者のように遺伝子的に免疫抑制状態に置かれている場合に生じる。これらの症例においては、結果として生じる悪性疾患の原因はEBV−感染B細胞のポリクローナルな増殖である。更に、このような患者においては、ウイルスの上皮上での非抑制的複製を口部の毛様白斑症の病変中に検出することができる。従って、EBV感染の抑制においては免疫反応が中心的な役割を演じている。
【0004】
細胞もしくは組織中のEBVの存在は、ウイルスのゲノムの検出、もしくは、EBV感染細胞中に普遍的に発現される唯一の潜状関連性蛋白質産物であるEBNA−1蛋白質の証明により実証することができる。
【0005】
上述したように、EBVはヘルペスウイルスの一員である。これは以下に記載するような構造特性を有する。
【0006】
−EBVゲノムは直鎖状の二本鎖DNA分子(172,000塩基対)からなる。
【0007】
−ビリオンは正十二面体カプシドにより囲まれているコア(蛋白質及びDNA)からなり、更に、膜エンベロープがカプシドを被覆している。この正十二面体カプシドは六量体及び五量体のカプソマーから構成されている。膜エンベロープは、外側表面にスパイクをもつ蛋白質/脂質二重層膜でできている。カプシド殻とエンベロープとの間の隙間は被包と呼ばれる無定形蛋白質で埋められている。
【0008】
−全てのヘルペスウイルス同様、EBVは初期感染後に、潜伏性の一生涯を通じる感染を定着させることが可能である。この潜伏性は、宿主の免疫系により抑制されている、EBVとヒト宿主との間の完全な平衡状態を表すものである。
【0009】
現在までに、EBVの3つの基本型、つまり、B95−8(マーモセット細胞系中に産生される形質転換性ウイルス)、P3HR1(バーキットリンパ腫腫瘍細胞系により産生される非形質転換性ウイルス)、及び、Raji(バーキットリンパ腫腫瘍細胞系内における潜伏性ウイルス)、についてはほとんどの生化学的研究及び生物学的研究が行われている。
【0010】
最近の2、3年の間に、基本型ウイルス株、B95−8の完全DNA配列が決定されている。この配列の解析の結果、80を越す読み取り枠が同定された(Baer et al.、1984、Nature 310、p.207−211)。
【0011】
EBVの生物学研究によりある特別の問題が研究者達に投げかけられたが、それは、そのウイルスの生物学的特性(潜伏性感染)が古典的ウイルス分析結果に当てはまらないためである。更に、その細胞及び宿主範囲はヒト(及び、幾つかのより高等な霊長類)のB細胞及び上皮細胞に実際上限定されているが、これらの細胞は一般的にはインビトロにおける培養を容易に行うことができない。更に、完全な許容細胞種中ではウイルスが細胞を溶解しながら複製を行うが、この完全な許容細胞種が不在であるということが大量のウイルスを産生する能力に厳しい制約を課している。
【0012】
B95−8、P3HR1−、及び、Raji−単離物のDNA分子は、詳細な制限酵素エンドヌクレアーゼマッピングのため、及び、大腸菌(E.coli)プラスミド内へのクローニング及びバクテリオファージラムダー内でのクローニングのため、及び、ヌクレオチド配列決定のための基本型となっている。EBV−ゲノムは、非反復DNA構成要素及び縦並びに反復するDNA構成要素で構成されている単一の二本鎖DNA分子でできている。このDNA分子の各末端には多重末端配列が含まれており、この配列は共有結合を可能にし、ゲノムの環状化を起こす。ウイルス粒子中においては、EBV−ゲノムは線状形態のもののみが検出されてくる。それに反して、潜伏感染細胞の核内ではそのEBV−ゲノムは環状のエピソームとして存在しており、時としては宿主細胞染色体内に取り込まれる。
【0013】
内部反復配列であるIR1からIR4までが、EBV−ゲノムを5つの非反復領域に分断している。U2及びU3領域は異なるEBV単離物中では激しく変化しており、前者はEBVのP3HR−1株中においてはほとんど完全に欠損している。
【0014】
EBVの読み枠についての命名法はウイルスゲノム中におけるそれらの位置に基づいている。名前は、発現が開始されるBamH1もしくはEcoR1制限断片の頭文字で始まる。名前中の第3番目の文字はLもしくはRであり、これは発現が標準地図の左側か右側かによって決まる。(つまり、BLLF2は、BamH1制限断片L中で開始される第2の左側の読み枠である。)
EBVの産生周期におけるウイルス抗原の血清学的分類は様々な蛍光技術に基づいている。
【0015】
固定させた潜伏感染B−細胞(例えば、Raji−細胞)の核内において抗補体蛍光抗体技術の手段により特異的に検出される抗原は、エプスタイン−バール核抗原(EBNA)として分類される。
【0016】
化学的因子もしくはウイルス性因子によるウイルス遺伝子発現の活性化の際にはあるクラスの初期抗原(EA)が検出されるが、これらの合成はウイルス性DNA合成の阻害によっては阻止されない。使用する固定液の種類によって(メタノールもしくはアセトン)2つの別個のEAセット、すなわちEAR及びEADを検出することができる。EAは、刺激化された細胞の細胞質及び核内において間接的蛍光抗体法により検出される。ウイルスDNA合成の開始後に(かつ、それに依存して)ウイルス構造蛋白質(VCA)が合成されるが、この蛋白質は、ウイルス産生性細胞(例えば、P3 HR1 細胞)の細胞質及び核内において間接的蛍光抗体法により検出される。生存可能な感染細胞表面においては、ウイルス産生の目的で刺激化を行うと一連の抗原(MA)が間接的蛍光抗体法により検出される。これらの抗原はウイルスエンベロープ上においても見い出すことができ、更に、ウイルス中和のための重要な標的である。
【0017】
ヒト血清中におけるEBV特異的抗体の検出は、Heule and Heule (Human Pathology、5、551−565、1974)により記載されているように、血清学的技術により日常的な作業として実施することができる。
【0018】
生化学的データ及び蛍光抗体法のデータに基づき、5つの異なる種類の抗原分子を認識することが可能である。異なるウイルス性ポリペプチドはそれらの分子量により表示され、それらの特徴を表現するという目的での全てのEBV−蛋白質についての共通の命名法は確立されていない。
【0019】
5つの異なる抗原群とは下記のものである。
【0020】
A.潜伏状態における際に発現される抗原群(EBNA及びLMP)。
【0021】
B.ゲノムの活性化及びウイルス複製の初期誘導に関わる抗原群(IEA)。
【0022】
C.IEA−遺伝子産物により誘導され、かつ、ウイルス性DNAの複製に必要な抗原群であり、これらの抗原は大概ウイルス性酵素である(EA)。
【0023】
D.ウイルス粒子の構造構成物であり、かつ、ウイルスのDNA合成開始後のウイルスの複製周期において後期に発現される抗原群(VCA)。
【0024】
E.感染細胞の細胞膜内に発現される抗原群(MA)。
【0025】
エプスタイン−バール核抗原(EBNA)
読み取り枠BKRF1中にコードされているエプスタイン・バール核抗原1(EBNA−1)は、インビボ及びインビトロにおいて、潜伏感染細胞及び腫瘍関連性細胞の全てにおいて普遍的に発現される唯一のEBVコード蛋白質であり、かつ、DNA複製及び遺伝子活性化の機構を研究するための重要な標的分子を形成している。
【0026】
EBV−陽性細胞においてはイムノブロッティング及び放射線免疫電気泳動によりEBNA−1を同定したが、3つのEBV−陰性細胞系においては同定されなかったため、4つのEBV−陽性ヒト血清を2つのEBV−陰性ヒト血清と対比させて使用している。分析を行った様々な細胞系において同定された抗原には様々な分子量が存在しており、それらは65,000から73,000の範囲にわたるものであった。補体固定性抗原は200倍を上回るまでに部分精製され、かつ、イムノブロッティングにより同定される65kDaのEBNAと一緒に同時精製されることを発見した。EBNAは抗補体蛍光抗体法(ACIF)によって定義されるため、65kDa抗原がEBNAの主要成分であるということが示唆された。
【0027】
EBNA遺伝子については、EBVDNAの、クローン化BamHI K制限酵素断片を有するマウス細胞をトランスフェクションすることにより遺伝子地図を作成した。主要選択マーカーと一緒にこの断片を有するマウス繊維芽細胞系をトランスフェクションすることにより、EBNA−陰性ヒト血清においては同定されないが、EBNA−陽性ヒト血清を使用する場合にACIFにおいて同定される核抗原を安定に発現させることができる。後続の研究においては、Bam K−トランスフェクション細胞が、B95−8細胞のEBNA−1ポリペプチドと一緒に移動する78kDaのポリペプチドを発現することを発見した。
【0028】
より最近の研究によって、通常はp62もしくはp107と呼称されるグリシン−アラニン反復領域内の免疫優勢領域が明らかになり、この領域はヒト血清と強い反応を示す。しかしながら、このgly−ala断片は正常なヒト蛋白質内に含まれていることが明らかになり、更に、これは自己抗体のための標的であることを発見した。更に、より詳細な研究により、進行性CMV、HSV、もしくは、トキソプラズマ感染の患者からの血清中のIgM抗体は特に、時としてこのペプチドと交差反応性を示すことを明らかにした。更に、EBNA−1のAA 461−641をコードする28kDのC末端断片は大腸菌内で発現されるが、このC末端断片がヒト血清抗体と反応することを明らかにした。今のところまでの追加的研究では、診断の際に無傷のEBNA−1蛋白質に置き換えて使用することができるEBNA−1蛋白質断片を確定することには成功していない。
【0029】
EBNA−1の分子サイズは種(strain)の同定(EBNO−タイピング)に使用することができるが、それは、gly−ala反復領域のサイズが個々のウイルス種間で顕著な違いを示すことがあるためである。
【0030】
EBNA−1は、バーキットリンパ腫、鼻咽頭癌腫の細胞、及び、ホジキン氏病において見い出されるリード−ステルンベルク(Reed−Sternberg)細胞中において免疫学的に検出されている。
【0031】
更に、EBNAは、移植及びAIDS患者におけるポリクローナルなリンパ球増殖性病変内においても検出され、EBNAは細胞培養物中におけるBリンパ球の同定用の初期マーカーになっている。
【0032】
EBNA−1分子について、DNA結合性(Ori−P)ドメイン、核局在ドメイン、トランスアクチベーションドメイン、DNAループ形成ドメイン、及び、二量体形成ドメインのようないくつかの機能性ドメインを同定した。EBNA−1は、ホモ二量体分子としてそのDNA結合機能を発揮する。
【0033】
現在では、EBV特異的血清学的診断はかなり本質的な蛍光抗体テストにより行なわれる。標準的なウイルス産生性細胞系を使用する場合にはウイルス抗原の大量産生及び精製は不可能であるため、より簡便で画一的な診断法(例えば、ELISA)への進展は妨げられている。
【0034】
これを行うための唯一の方法は、別の方法により調製されたEBV抗原を使用することであると思われる。これらのEBV抗原は、遺伝子工学技術もしくは合成ペプチド技術のいずれかを用いて調製することが可能である。
【0035】
EBVでの感染の様々な段階において行う信頼性の高い診断法を可能にするための特異的かつ感度の良い方法を開発するためには、免疫優勢ウイルス蛋白質及びそれらのエピトープを確定することが非常に重要である。
【0036】
本発明は、エプスタイン−バールウイルスに対する抗体と免疫化学的に反応し、SEQ ID No(配列番号):1に示されるアミノ酸配列の少なくとも一部分を含むペプチドを提供する。
【0037】
SEQ ID No:1において示されるアミノ酸配列を有するペプチド及びその断片は、従って、本発明の一部である。本発明のペプチドは、試料中のEBVもしくはEBV−抗体の存在を決定するための診断法への使用に特に適することを発見した。更に、本発明のペプチドは、EBV関連疾患の治療における適切な薬剤学的投与形態中に使用することができる。活性成分としてペプチドもしくはその断片を含むものとして得られるワクチンの調製法は、当業者には知られている。
【0038】
天然のEBVと対比して、本発明のペプチドは、これらが安全な非感染起源のものであるという重要な利点を有している。本発明はまた、エプスタイン−バールウイルスに対する抗体と依然として免疫化学的に反応する当該ペプチドの断片も含む。EBNA−1の当該ペプチド領域に特有の特徴により、この領域がEBNA−1蛋白の天然の構造であれ変成した構造であるとともに抗体に近づき易くなる。
【0039】
本明細書において使用されている用語「ペプチド」は、生物学的活性を有するアミノ酸の分子鎖を意味し、産物の特定な長さを意味するのではない。従って、中でも、蛋白質、融合−蛋白質もしくは−ペプチド、オリゴペプチド、及び、ポリペプチドがこれに含まれる。必要であれば、本発明に記載のペプチドを、インビボもしくはインビトロにおいて、例えば、グリコシル化、アミド化、カルボキシル化、もしくは、リン酸化により修飾することができる。本発明に記載のペプチドの、例えば、酸付加塩、アミド、エステル及び具体的にはC末端エステル、及び、N−アセチル誘導体のような機能的変異体も、従って、本発明の一部分とみなされる。本明細書に包含される特別な蛋白質もしくはポリペプチドについては、天然の変異体も存在することが理解できるはずである。これらの変異体は、配列全体におけるアミノ酸の違い、あるいは、当該配列内におけるアミノ酸の欠失、置換、挿入、逆位、もしくは、付加により証明することができる。アミノ酸置換によっては生物学的及び免疫学的活性は本質的には変化しないことを期待することができると言われている。関連するアミノ酸間でのアミノ酸置換、あるいは、進化中に頻繁に起こった置換は、中でも、Ser/Ala、Ser/Gly、Asp/Gly、Asp/Asn、Ile/Val である(Dayhof、M.D.、Atlas of protein sequence and structure 、Nat. Biomed. Res. Found.、Washington D.C.、1978、vol. 5、suppl. 3を参照せよ)。この情報に基づき、LipmanとPearson が、迅速かつ高感度の蛋白質比較のための(Science 227 、1435−1441 、1985)、及び、同類蛋白質間の機能的類似性の決定のための方法を開発した。
【0040】
本明細書中で使用されている用語「断片」は、本発明のペプチドの配列を含むアミノ酸配列を意味する。当該断片は、EBNA−1蛋白質の1つ以上の免疫原決定基を有するペプチドである。断片は、中でも、DNAについては制限酵素を使用し、更に、ポリペプチドについてはプロテアーゼを使用する前駆体分子の酵素的開裂により産生することができる。他の方法には、断片の化学的合成、あるいは、DNA断片によるペプチド断片の発現がある。
【0041】
エピトープ(一つもしくは複数)を含む本発明に記載の適切な免疫原性断片は、いわゆるペプスキャン(pepscan)法に基づき、特許公開公報WO 86/06487 、Geysen、H.M. et al. (Proc.Natl. Acad. Sci. 81 、3998−4002 、1984)、Geysen、 H.M. et al. (J. Immunol. Meth. 102 、259−274 、1987)に記載されている方法により見い出すことができるが、これらの文献においては、検討中の完全なポリペプチドの部分配列に相当する一連の部分的重複ペプチドが合成されており、かつ、それらの抗体との反応性が検討されている。
【0042】
更に、ペプチドの数々の領域は理論的研究に基づいて指定されるエピトープである可能性があるが、これらの理論的研究の推定的評価には限界がある。これらの領域の決定は、 Hopp とWoods (Proc. Natl. Acad. Sci. 78 、3824−3828 、1981)による親水性度(hyolrophilicity) 基準、及び、 Chou とFasman(Advances in Enzymology 47 、45−148、1987)による二次構造予測に基づいている。
【0043】
本発明による好ましいペプチドは、SEQ ID No:2から6に示される推定配列のうちの少なくとも一つを含むペプチドである。
【0044】
SEQ ID No:2−4に示される配列を有するペプチドは、SEQ ID No:1に示されるアミノ酸配列を有するペプチドの断片であり、それぞれ、EBNA−1配列のアミノ酸番号268−391、395−425、及び、419−449に相当する。SEQ ID No:5に示されるアミノ酸配列を有するペプチドは、SEQ ID No:1の配列の断片(SEQ ID No:2−4)の組み合わせ物を含むペプチドである。
【0045】
本発明に記載のペプチドもしくはその断片の調製は、ペプチド合成のための既知の有機化学的方法の内の一つを用いることにより、あるいは、組換えDNA技術を用いて実施することができる。
【0046】
ペプチド合成のための有機化学的方法は、均一相において、あるいは、いわゆる固相を用いてのいずれかで、縮合反応により必要なアミノ酸をカップリングさせることを含むものと考えられる。
【0047】
縮合反応は、以下に記載するように行うことができる。
a)遊離のカルボキシル基及び保護されている他の反応基を有する化合物(アミノ酸、ペプチド)と、遊離のアミノ基及び保護されている他の反応基と有する化合物(アミノ酸、ペプチド)との、縮合試薬の存在下における縮合、
b)活性化されているカルボキシル基及び遊離のもしくは保護されている他の反応基を有する化合物(アミノ酸、ペプチド)と、遊離のアミノ基及び遊離のもしくは保護されている他の反応基を有する化合物(アミノ酸、ペプチド)との縮合。
【0048】
カルボキシル基の活性化は、中でも、カルボキシル基を、酸ハロゲン化物、アジド、無水物、イミダゾリド、あるいは、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシベンゾトリアゾールもしくはp−ニトロフェニルエステルのような活性化エステルに変換させることにより行うことができる。
【0049】
上記縮合反応のための最も一般的な方法は、The Peptides、Analysis、Synthesis 、Biology Vol. 1−3(Ed. Gross 、E.と Meienhofer、J.)1979、1980、1981(Academic Press、Inc.)において記載されているような、カルボジイミド法、アジド法、混合酸無水物法、及び、活性化エステルを使用する方法である。「固相」を使用する、本発明に記載の、上述のペプチドの適切な断片の調製は、例えば、J. Amer. Chem. Soc. 85、2149 (1963)、及び、Int. J. Peptide Protein Res. 35 、161−214(1990)に記載されている。調製すべきペプチドのアミノ酸のカップリングは、通常、カルボキシル端側から開始する。この方法のためには固相が必要であり、この固相上に反応基が存在するか、あるいは、そのような反応基をこの固相上に導入することができる。これは、例えば、ベンゼンと反応性クロロメチル基を有するジビニルベンゼンのコポリマー、あるいは、ヒドロキシメチル官能基もしくはアミン官能基に対して反応するようになっているポリマー固相であることができる。
【0050】
特に適切な固相は、例えば、Wang(1974年)によりJ. Am.Chem. Soc. 95 、1328に記載されているp−アルコキシベンジルアルコール樹脂(4−ヒドロキシ−メチル−フェノキシ−メチル−コポリスチレン−1%ジビニルベンゼン樹脂)である。合成後に、ペプチドを緩和な条件下においてこの固相から分断することができる。
【0051】
所望のアミノ酸配列の合成後、例えば、トリフルオロ酢酸中に溶解させたトリフルオロメタンスルフォン酸もしくはメタンスルフォン酸を用いてペプチドを樹脂から切り離す。ペプチドは、低級アルコール、好ましくは、メタノールもしくはエタノールを用いるエステル交換反応により担体から取り外すこともでき、この場合、ペプチドの低級アルキルエステルが直接形成される。同様に、アンモニアによる分離の場合には、本発明に記載のペプチドのアミドが生じる。
【0052】
縮合反応に関与しないと思われる反応基は、記載したように、酸、塩基、もしくは、還元による加水分解によって非常に容易に再度取り外すことができる基により、効果的に保護される。従って、カルボキシル基は、例えば、メタノール、エタノール、第3級ブタノール、ベンジルアルコール、もしくは、p−ニトロベンジルアルコールを用いるエステル化、及び、固体支持体に結合しているアミンにより効果的に保護することができる。効果的にアミノ基を保護することができる基は、エトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル(t−boc)、もしくは、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基、あるいは、ベンゼンスルフォニルもしくはp−トルエンスルフォニル基のようなスルフォン酸から誘導される酸性基であるが、他の基も使用することができ、それらは、例えば、ベンジル及びトリフェニルメチルのような置換されたもしくは置換されていないアリールもしくはアラルキル基、あるいは、オルト−ニトロフェニルスルフェニル及び2−ベンゾイル−1−メチルビニルのような基である。特に適切なα−アミノ保護基は、例えば、塩基感受性の9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基である[Carpino & Han(1970) J. Amer.Chem. Soc. 92 、5748]。
【0053】
可能な保護基についての広範囲な記述は、The Peptides、Analysis、Synthesis、Biology、Vol.1−9(Eds.Gross、UdenfriendとMeienhofer)1979−1987(AcademicPress、Inc.)に見い出すことができる。
【0054】
リシンのε−アミノ基を保護することも必要であり、更に、アルギニンのグアニジン基も保護することを勧める。この関係で習慣的に用いる保護基は、リシンについてはBoc−基であり、アルギニンについてはPmc−もしくはPms−もしくはMbs−基、あるいは、Mtr−基である。
【0055】
保護基は、特定の基の性質によって異なるが、例えば、トリフルオロ酢酸の助けを借りたり、あるいは、例えば水素及びパラジウムのような触媒を用いる、あるいは、氷酢酸中のHBrを用いる緩和な還元によるような、様々な慣用法により脱離させることができる。
【0056】
既に前述したように、本発明に記載のペプチドは組換えDNA技術を用いて同様に調製することができる。この可能性は、特に、ペプチドが反復配列(「縦列している(in tandem)」)内に取り込まれる場合、あるいは、ペプチドを、(より大きな)蛋白質もしくはポリペプチドの構成成分として、又は、例えば、β−ガラクトシダーゼ(の一部分)との融合蛋白質として調製することができる場合には重要なものである。従って、この種のペプチドは同様に本発明の範囲内に含まれる。この目的のためには、組換えDNAの構成成分として核酸配列を使用するが、その核酸配列は、本発明に記載のペプチドをコードする配列、及び、天然EBVゲノム中において先に示した核酸配列をフランク(flank)する核酸セグメントを実質的に含まない配列である。
【0057】
この後述の方法には、宿主としての適切な微生物内において、問題のペプチドの一つもしくは複数をコードする核酸配列を有する組換えポリヌクレオチドを発現させることによる所望のペプチドの調製法が含まれる。
【0058】
本発明のペプチドをコードする核酸配列を、天然においては会合したり結合したりしていない様々の複製可能なDNA配列と連結させることができ、その結果、適切な宿主の形質転換のために用いることができるいわゆる組換えベクター分子が生じる。有用な組換えベクター分子は、例えば、プラスミド、バクテリオファージ、コスミド、あるいは、ウイルスに由来するものであることが好ましい。
【0059】
核酸配列をクローン化するのに使用することができる特別なベクターもしくはクローニング用ベヒクルは当業者に知られるものであり、かつ、中でも、pBR322のようなプラスミドベクター、様々なpUC、pGEM、及び、ブルースクリプト(Bluescript)プラスミド、例えばkgt−Wes、Charon28のようなバクテリオファージ、及び、M13由来のファージ、あるいは、SV40、アデノウイルス、もしくはポリオーマウイルスのようなウイルス性ベクターを含む(Rodriques、R.L.とD.T. Denhardt, ed.、Vectors:A survey of molecular cloning vectors and their uses、
Butterworths、1988; Lenstra 、J.A. et al.、Arch. Virol.110、1−24、1990)。組換えベクター分子の構築のために使用すべき方法は当業者に知られているものであり、かつ、これらは中でも、Maniatis、T.ら(Molecular Cloning A LaboratoryManual、second edition;Cold Spring Harbor Laboratory、
1989)において説明されている。
【0060】
例えば、本発明のペプチドをコードする核酸配列のクローニングベクター内への挿入は、遺伝子及び所望のクローニング用ベヒクルの両方が、相補的なDNA末端が産生されるような同一の制限酵素で切断された場合に簡単に実施することができる。組換えベクター分子は、所望の形質転換体を選択するのに使用することができるpBR322内におけるアンピシリン及びテトラサイクリン耐性のようなマーカー活性の一つもしくは複数を追加的に含むことができ、その例は、pUC8内におけるアンピシリン耐性及びβ−ガラクシトダーゼのα−ペプチドである。
【0061】
当然のことながら、クローニングベクターの選択された部位に挿入されるヌクレオチド配列は、形質転換した宿主が少なくとも一つもしくは複数の免疫原決定基を有するポリペプチドを産生する限り、本発明のペプチドをコードする完全な核酸配列の断片のみを含んでいてもよいということが理解できるはずである。
【0062】
本発明に記載のペプチドに対する抗体も、本発明の一部分である。
【0063】
調製しかつ上記したペプチドもしくはその断片は、ポリクローナル及びモノクローナルの両抗体を産生するのに使用することができる。本発明のペプチドに対するモノクローナル抗体は、当業者により簡単に作製できる。
【0064】
本発明の以前には、EBNA−1なるこの特定のペプチド断片に対して作製された抗体についての報告はなかった。この時まで当業者の誰もが、抗体に結合するエピトープの入手可能性を知らなかったのである。
【0065】
従って、本発明に記載のモノクローナル抗体は、EBV感染の診断のための新しい手段を提供する。
【0066】
本発明に記載の好ましい抗体は、受託番号92071613として、Porton Down (英国)のEuropean Collection of Animal CellCultures(ECACC)に寄託してあるハイブリドーマ細胞系により産生されるモノクローナル抗体と同一の、EBNA−1に対する反応性を有するモノクローナル抗体である。
【0067】
本発明の新規(モノクローナル)抗体はEBNA.OT1xと表示されるが、これは、Gly−Ala反復領域を欠損しているバキュロウイルス由来のEBNA−1蛋白質でマウスを免疫化することにより作製した。大腸菌内で発現されるEBNA−1からの欠損断片を使用することにより、EBNA.OT1xの結合性エピトープが、推定上の核局在シグナル(nuclear localization signal)の近くの位置430−438内に位置することを突き止めた(SEQ ID No:6に示されている推定配列)。
【0068】
EBNA.OT1xを免疫沈降研究に使用した。EBNA.OT1xはまた、ウエスタンブロット研究及び間接的検出技術を使用する固定した透過処置済み細胞上での蛍光抗体法(FACS)において使用する際には変成させたEBNA−1に対しても結合し、更に、広範囲のウイルス株及びウイルス感染した標的細胞からのEBNA−1とも反応する。EBNA.OT1xは多様なEBV−単離物からのEBNA−1に対して結合し、更に、様々なヒトの腫瘍組織における免疫組織化学的染色法に使用することができる。
【0069】
本発明のモノクローナル抗体を分泌することが可能な、不死化細胞系も、本発明の一部分である。
【0070】
モノクローナル抗体を産生する細胞系の調製は、例えば、KohlerとMilstein技術(KohlerとMilsteinはモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを形成する技術を考案した(G. Kohler と C. Milstein、1975、Nature 256:495− 497 ;1976、Eur. J. Immunol. 6:511−519))、エプスタイン−バールウイルスを用いる形質転換、あるいは、発癌性DNAを用いるBリンパ球の直接的形質転換技術、あるいは、ヒトもしくはマウス−ヒトのハイブリッド型骨髄腫細胞系のいずれかである融合相手を用いるヒトBリンパ球の直接的融合、あるいは、当該骨髄腫細胞系を使用するEBV−形質転換済みB細胞系の直接的融合により実施することができる。
【0071】
本発明に記載の好ましい細胞系は、受託番号92071613として、Porton Down (英国)のEuropean Collection of Animal CellCultures(ECACC)に寄託してある細胞系である。
【0072】
このハイブリドーマ細胞系は、本発明に記載のEBNA−1ペプチドを使用して予め接種してあるマウスに由来するリンパ球と骨髄腫細胞を融合させることにより作製した。(SEQ ID No:5に示されているアミノ酸配列を有するペプチド)本発明は更に、検査液もしくは組織検体中に含まれる全長蛋白質を検出するための免疫学的方法及び生化学的方法への、当該ペプチドに対する抗体の使用を含む。
【0073】
現在までのところ、EBV感染細胞中におけるEBNA−1の検出は、抗EBNA−1抗体源としてヒト血清を使用する抗補体蛍光抗体法(ACIF)を使用することにより実施されていた。間接的蛍光抗体技術では、ヒト血清中のEBNA−1結合抗体を検出することができなかった。ACIFは、余分な補体−インキュベーション段階、及び、補体自体の不安定性により複雑なものになっている。更に、ACIF用に使用される試薬が正しく用いられていない場合には、偽陽性及び偽陰性を示す反応が頻繁に出現する。
【0074】
一方では、EBNA.OT1x抗体はこれらの問題を排除し、かつ、間接的蛍光抗体法により様々なEBV感染細胞内のEBNA−1の高感度検出を可能にする。
【0075】
インビボ及びインビトロの両方において細胞核内にEBNA−1が存在するということは、細胞内に潜伏性EBV−感染の特質(hallmark)があることの証拠となる。
【0076】
EBNA.OT1xは細胞内に浸入していくことが可能であり、そのため、EBV感染細胞内におけるEBNA−1の細胞内における検出を可能にする。EBV.OT1x抗体は、Slaper−Cortenbach ら(Blood 、72、1639−1644 、1988)により記載されているように、緩衝化させたフォルマリン−アセトン(BFA)固定により透過処理したEBV感染細胞内における核染色の蛍光活性化細胞用選別機(FACS)分析に適用することができる。この方法は簡便で迅速であるという利点を有し、かつ、インビトロにおいて培養したEBV感染B−リンパ球の検出を可能にする。この技術はまた、EBV関連性リンパ球増殖性疾患及びリンパ腫の検出及びモニタリングにも適用することもできる。
【0077】
本発明に記載のペプチドに対するモノクローナル及びポリクローナルの両抗体は、診断、及び、組織検体中におけるその場(in situ)の検出のための免疫化学的手法に非常に適している一方で、中和を行うこれらの抗体は、受動免疫療法に非常に有用である。
【0078】
本発明に記載の抗体はまた、異なるEBV単離物のEBNOタイピング(種類分け)にも有用である。前に記述したように、EBV単離物(株)は、産生されるEBNA−1分子の分子量により特徴付けることができるが、その理由は、この蛋白質内のグリシン−アラニン反復領域の長さが広範囲にわたって異なるためである。先述した試薬は主にヒト血清であったがこれとは異なり、EBNA.OT1xモノクローナル抗体は安定かつ再現性の得られる試薬であり、EBVファミリー内において高度に保存されている結合性エピトープを検出するため、これは、EBV株のEBNO−タイピングに非常に適している。
【0079】
本発明の一部分はまた、問題のモノクローナル抗体の「人体適用性(humanizing)」でもある。「人体適用化(humanizecl)」されたモノクローナル抗体の産生のための技術は当業者に知られている。
【0080】
特に、モノクローナル抗体は、抗イディオタイプ抗体を作成するのに使用することができる。抗イディオタイプ抗体を作成するための技術は当業者に知られている。
【0081】
本発明に記載のモノクローナル抗体と反応する抗イディオタイプ抗体は先に記載したように本発明の一部分である。
【0082】
抗イディオタイプ抗体は免疫グロブリンの可変部に対する抗体である。抗イディオタイプ抗体の亜集団は、「抗イディオタイプβ」、もしくは、「内部像(interhal images)」として知られている。これらの抗イディオタイプβ抗体は、抗原との構造的類似性もしくは3次元的類似性のいずれかを有する(Uytdehaag 、F.G.C.M. et al. Immunol. Rev.;90;93−113;1986)。この種類の抗イディオタイプ抗体は、動物モデルにおける感染性疾患に対するワクチンとして広く用いられている(Hiernaux J.R.;Infect. Immun.;56;1407−1413;1988、Kennedy 、R.C. et al.;Science 232;220−223;1986)。アッセイへの使用のために抗イディオタイプ抗体を大量に作成することができる。
【0083】
抗イディオタイプ抗体を作成する技術は当業者に知られている。例えば、本発明に記載の抗イディオタイプ抗体は、BALB/cマウスを、標準的な文献による方法に従いグルタルアルデヒドを用いてKLHに対して結合させフロインドの完全アジュバントと混合したモノクローナル抗体で免疫することにより取得することができる。これらのマウスの脾臓細胞を不死化させることができ、更に、このようにして取得されたハイブリドーマを抗イディオタイプ抗体産生についてスクリーニングすることができる。ハイブリドーマのスクリーニングは、例えば、本発明に記載のモノクローナル抗体を固相(マイクロタイタープレートのウエル)に対して結合させ、増殖しているハイブリドーマの培養上清と一緒にこの固相をインキュベートすることにより実施することができる。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合させたEBVペプチドを添加することができる。培養上清中に含まれる抗イディオタイプ抗体の存在は、その後、固相上にコートされたモノクローナル抗体に対するこのペプチド結合体の結合の阻害により示される。
【0084】
抗イディオタイプ抗体は、例えば、EBV抗体を使用する免疫アッセイにおけるヒト及び/または動物のEBV抗原の結合の阻害に使用することができる。別の方法では、抗イディオタイプ抗体を、本明細書中でこれ以降に記載される免疫化学的試薬の模擬的薬剤として使用することができる。
【0085】
前記抗イディオタイプ抗体はまた、EBVの診断及び治療、並びに、EBV抗原の重要なエピトープ領域の解明のためにも有用である。
【0086】
本発明に記載の一つもしくは複数のペプチドもしくは抗体を含む免疫化学的試薬も本発明の一部分である。
【0087】
本発明に記載の用語「免疫化学的試薬」は、通常は、一つもしくは複数の本発明に記載のペプチド、及び、適切な支持体もしくはラベル化用物質からなる。
【0088】
使用することができる支持体は、例えば、マイクロテスト用ウエルもしくはキュベットの内部壁、チューブもしくは毛細管、膜、フィルター、検査用細片、あるいは、例えば、ラテックス粒子、赤血球、染料ゾル、ゾル粒子としての金属ゾルもしくは金属化合物、BSAもしくはKLHのような担体蛋白質のような粒子の表面である。
【0089】
使用することができるラベル化用物質は、中でも、放射性同位体、蛍光性化合物、酵素、染料ゾル、ゾル粒子としての金属ゾルもしくは金属化合物である。
【0090】
試料中に含まれるEBVに対する抗体の検出のための方法においては、本発明に記載の免疫化学的試薬を試料と接触させる。この後、ペプチドと試料中に含まれる抗体との間に形成される免疫複合体の存在が検出され、この検出により、試料中に含まれるEBV抗体の存在が明らかになり、かつ、定量的な測定を行うことができる。
【0091】
生じる免疫化学反応は免疫化学的試薬の性質及び更に詳しい特徴によって異なり、いわゆるサンドイッチ反応、凝集反応、競合反応、あるいは、阻害反応である。
【0092】
試料中に含まれるEBVの検出のためには、一つもしくは複数の本発明に記載のペプチドを含む本発明に記載の免疫化学的試薬を試料及び抗EBV抗体に接触させることができ、この後、形成される免疫複合体の存在を検出することができ、それにより、試料中に含まれるEBVの存在を決定することができる。試料中に含まれるEBVの検出に特に適切な方法は、ラベル化用物質と共に提供される本発明のペプチドとEBV抗原(試料中に存在する)との間の競合反応に基づいており、この反応により、ペプチドと抗原は固体支持体に結合してあるEBVに対する抗体と競合するのである。
【0093】
本発明は更に、本発明に記載の抗体を試料に接触させ、その後、形成される免疫複合体の存在を検出し、それが、試料中に含まれるエプスタイン−バールウイルスの存在についての測定値になるという特性を有する、試料中に含まれるエプスタイン−バールウイルスの検出のための方法も含む。
【0094】
本発明に記載の検査用キットは、主要な構成成分として上述の免疫化学的試薬を含む。サンドイッチ反応を行ってEBV抗体を検出するためには、その検査用キットは、例えば、固体支持体(一例としてはマイクロテスト用ウエルの内部壁)にコートされている本発明に記載のペプチド、及び、本発明に記載のラベル化ペプチドもしくはラベル化抗−抗体のいずれかを含むことができる。
【0095】
競合反応を行うためには、キットは、固体支持体にコートされいる本発明に記載のペプチド、及び、EBVに対するラベル化抗体、好ましくは当該ペプチドに対するラベル化モノクローナル抗体を含むことができる。
【0096】
凝集反応においては、検査用キットは、粒子もしくはゾルにコートされている本発明に記載のペプチドを含むことができる免疫化学的試薬を含む。
【0097】
検査用キットの他の実施態様は、例えば、固体支持体にコートされている、EBVに対する抗体上の結合部位について検出されるべきEBV抗原との競合反応への、免疫化学的試薬としての本発明に記載のラベル化ペプチドの使用である。
【0098】
図面の簡単な説明:
図1:ヒト血清を使用したペプスキャン分析の結果。X軸上にEBNA−1配列上の個々の各12merペプチドの相対的開始位置を示し、例えば、“0”はAA348で開始する12merペプチドを表わす等々である。Y軸上には、450nmにおける相対的吸光度単位を示す。
【0099】
ラインno.1は、各12merペプチドに対するEBV陰性ヒト血清の免疫反応性を示す。
【0100】
ラインno.2−6は、12merペプチドに対するEBV陽性ヒト血清の免疫反応性を示す。
【0101】
図2:EBNA−1蛋白質に由来する選択された合成ペプチドに対するIgG−反応性についての検査を行った46個のヒト血清試料のELISA反応性(450nmにおける光学密度)。△は、標準的な血清学的分析により陰性を示す血清を表す。□は、標準的な血清学的分析により陽性を示す血清を表す。xは、EBNA−1のみに対するイムノブロットにおいて陽性を示す血清を表す。
【0102】
□、*は、イムノブロットでは抗EBNA−1抗体を検出できないが、他の方法(例えば、抗VCA抗体)ではEBV−血清陽性を示す。
【0103】
A=ペプチド348−369
B=ペプチド368−387
C=ペプチド394−420
D=ペプチド424−452
E=ペプチドGly−Ala
F=コンビ(combi)−ペプチド
G=EBNA−1 Baculo
【0104】
図3:マウスモノクローナル抗体及びウサギ血清を使用するPEPSCAN(ペプスキャン)分析の結果。X−軸上に示されるのはEBNA−1配列上の個々の各12merペプチドの相対的開始位置であり、例えば、「0」はAA348で開始する12merペプチドを示す等々という具合である。Y−軸上に示されるのは450nmにおける相対的吸光度単位である。
【0105】
ライン1は、陰性対照として使用した、EBNA−1由来ペプチドに対する抗EBV VCA p40モノクローナル抗体(EBV.OT41A)の反応性を表す。
【0106】
ライン2−4は、異なる濃度(各々、5μg/ml、10ng/ml 、及び、1ng/ml)における抗EBNA−1マウスモノクローナル抗体EBNA.OT1xの反応性を表す。
【0107】
ライン5は、免疫していないウサギ血清の反応性を表す。
【0108】
ライン6は、組換えEBNA−1で免疫したウサギ血清の反応性を表す。
【0109】
図4:EBNA.OT1xモノクローナル抗体を使用した、EBV−感染細胞中におけるEBNA−1の検出についての間接的蛍光抗体法。A:EBVに潜伏的に感染しているX50−7細胞。B:EBV陰性BJAB細胞と1:1で混合した、EBV発現のために誘導化させたHH514.c16細胞。
【0110】
図5:様々なリンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析:
A:EBV陰性Jurkat細胞の分析、
B:EBV陽性ヒトバーキットリンパ腫細胞(Daudi)の分析、
C:EBV血清陰性ドナーからの末梢血リンパ球の分析、
D:ポリクローナルEBV形質転換ヒトB−リンパ球の分析、
E及びF:樹立されたクローン化B−細胞(EBV−陽性)の分析。
【0111】
Y−軸は計数した細胞数を表し、一方でX−軸は細胞あたりの蛍光強度を表す。
【0112】
各グラフ中の点線は、対照抗体(抗HIV−p24)を表す。
【0113】
図6:
A:モノクローナル抗体EBNA.OT1xを使用した、異なるEBV株のEBNOタイピングの結果。
【0114】
B:ヒト血清を使用した、異なるEBV株のEBNOタイピングの結果。
【0115】
1=BJAB
2=CR+B95.8
3=CR+QIMR−WIL
4=PB−LCL
5=CR+BL72
6=CR+Mwika
7=CR+AG876
8=CR+Ambobi
9=CR+WW1
10=CR+WW2
【0116】
本発明を、以下に示す実施例により更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0117】
PEPSCANによる免疫反応性ドメインの位置決定
12アミノ酸(AA)の長さを有するペプチド、及び、ORF BKRF1のAA配列の11AAの重複部分、位置 348−470を、Geijsen ら(P.N.A.S.、USA 、83、3998− 4002、1984)により元来記載されているように、化学的に活性化させたポリエチレン製のピン上に自動固相ペプチド合成により合成した。
【0118】
EBV特異抗体についての免疫反応性を、Middeldorp とMeloen(J. Virol. Meth. 21、147−159 、1988)により記載されているように決定した。6個の各ヒト血清についてのこのようなPEPSCAN分析の結果を図1に示す。
【0119】
この図から、反応性領域は、12merペプチドではAA20−31、43−65、74−85、及び、90−98で開始することが明らかになり、これは、各々、EBNA−1配列上のAA372−381、391−413、422−433、及び、438−446を表す。類似した反応性が、追加的に一連のヒト血清を使用した場合にも明らかになった。図1中のラインno.1により示されるように、EBV−血清陰性血清を使用した際には顕著な反応は見られなかった。
【実施例2】
【0120】
免疫反応性合成ペプチドの選択
コンピューター分析による、BKRF1 によってコードされるEBNA−1蛋白質に由来する合成ペプチドの選択、及び、これらのペプチドの、正常ヒトドナー血清との免疫反応性の分析を以下に要約する。
【0121】
合成ペプチドは、t−BOC化学的手法を使用する標準的固相合成により作成した。BKRF 1 によってコードされるEBNA−1蛋白質のAA348−470断片からのペプチドを、Jameson と Wolf (CABIOS 4、181−186 、1988)により開発されたコンピュータープログラム「antigenicindex」を使用する推定される高抗原性に基づくか[これに基づきペプチド348−369及び368−387が選択された]、あるいは、実施例1に記載したようにPEPSCANにおける機能的高抗原反応性に基づくか[これに基づきペプチド394−420及び424−452が選択された]、のいずれかにより選択した。
【0122】
更に、PEPSCANにより同定された4つの最も反応性の高いドメイン(図1のB−E)の組み合わせ物を示すコンビ−ペプチドを作成した。このコンビ−ペプチドを SEQ ID. No:5 に示す。
【0123】
対照用には、 A. Linde ら(J. Infect. Dis. 、161 、903−910、1990)により記載されているように、P107グリシン−アラニンコポリマーペプチドを使用した。このペプチドは、EBNA−1蛋白質について以前に公表された免疫反応性ドメインを示す。更に、グリシン−アラニンドメインを除くEBNA−1配列の全長を含む、EBNA−1蛋白質の組換え形を使用した。この組換え蛋白質を、 Frappier と O‘Donnell(J. Biol. Chem.、266 、7819−7826 、1991)により記載されているように、組換えバキュロウイルス感染昆虫細胞から精製した。
【0124】
上述のペプチド及び蛋白質を、固相つまりポリスチレン製のマイクロタイタープレートの壁上に、4℃において一晩という条件及びpH9.6の0.05M NaHCO3 緩衝液中、1mlあたり1μgという濃度でコートした。pH7.4のリン酸緩衝塩水(PBS)で2度洗浄した後、このウエルを、0.05%のTween−20を含むPBS(PBST)で1:100に希釈した100μl のヒト血清で満たし、37℃で1時間インキュベートした。PBSTで3度洗浄した後、HRP標識ヒツジ抗ヒトIgG抗体を、PBST中で適切に希釈して添加し、37℃で1時間インキュベートした。PBSTで3度洗浄した後、結合した酵素活性を、基質としてTMBを用いて検出した。反応は、30分してから100μl の1M H2 SO4 を添加することにより停止させた。吸光度は、マルチスキャン光度計を使用して450nmにおいて測定した。血清は、標準的な免疫蛍光血清学的方法、あるいは、 Middeldorp と Herbrink (J.Virol. Meth.、21、133−146 、1988)により記載されているイムノブロット分析法を使用してEBV抗体の存在について検査した。
【0125】
図2は、固相にコートされている各々のEBNA−1試薬、及び、36種のEBV−血清学的陽性血清(□)と10種のEBV−血清学的陰性血清(△)からなるパネルを使用したELISA実験の結果を示している。この図から、イムノブロットによって検出されるEBNA−1に対する抗体を含まない血清は、コンビ−ペプチド及びバキュロウイルス誘導のEBNA−1蛋白質を除く全てのEBNA由来ペプチドに関して陰性を示したことを理解することができる。
【0126】
上述の実験から、「antigenicindex」に基づくコンピューターによる推定は、自然に感染した個体からの血清に対する免疫原性に関しては推定価値を持たないことが明らかであり、それは、かなり高い荷電状態にあるペプチド348−369及び368−387に対してほぼ全ての血清は陰性であるためである。
【0127】
ペプチド394−420(図1のドメインB+Cの組み合わせ)及び424−452(ドメインD+Eの組み合わせ)についてPEPSCANに基づいて選択されたペプチドは、血清の80−90%に対して良好な反応性を示す。驚くべきことに、コンビ−ペプチドは、検査したEBV−血清学的陽性血清の100%に対して陽性の反応性を示す。EBV血清学的陰性血清はコンビ−ペプチドに対しては反応性を示さないが、それに反し、このような血清の一つが、バキュロウイルス誘導EBNA−1蛋白質に対して偽陽性の反応性を示している。
【実施例3】
【0128】
マウスモノクローナル抗体を使用するEBNA−1上の免疫反応性エピトープの位置決定
マウスモノクローナル抗体及びウサギ血清を用いる、EBNA−1断片348−470上の免疫反応性エピトープの位置決定について用いられる方法は、ヒト血清を用いるエピトープの位置決定のために、既に実施例1において記載してある。ピンに結合しているペプチドに対するマウス抗体の結合はペルオキシダーゼでラベル化したヒツジ抗マウスIgG抗体を使用して測定し、一方、ウサギ抗体の結合はペルオキシダーゼでラベル化したヒツジ抗ウサギ抗体を使用して測定した。
【0129】
結果を図3に示す。これらの結果より、EBNA蛋白質に対して特異的でないモノクローナル抗体(抗EBV VCA− p40、あるいは、免疫していないウサギの血清)は、検査したEBNA−1ペプチドのいずれのものとも反応しないことが理解できる。
【0130】
マウスモノクローナルEBNA.OT1xは、高濃度で使用した際にAA420−445におけるエピトープを認識するが、AA430−438におけるエピトープに対して抗体を希釈するとこの作用は減衰していく。バキュロウイルス誘導EBNA−1蛋白質で免疫することにより得られたウサギ血清121−3は、分析を行ったEBNA−1領域内における3つのエピトープを認識する。
【実施例4】
【0131】
EBNA.OT1xを使用する、EBV−感染細胞中のEBNA−1の検出のための間接的蛍光抗体法
A.EBVに潜伏感染しているX50−7細胞を12ウエルのガラス製スライド板上に、アセトン−メタノール(1:1)で固定し、1%のウシ血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝塩水、pH7.4(PBS)中の2μg/mlのEBNA.OT1x抗体で、37℃で1時間染色した。PBSで4度洗浄した後、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)でラベル化したウサギ抗マウスIgG抗体を添加し、PBS+1%BSAで希釈し、更に、37℃において1時間インキュベートした。更にPBSで4度洗浄した後、FITCでラベル化したヤギ抗ウサギ抗体を添加し、先と同様にインキュベートした。最後に、PBSで4度洗浄した後、このスライド板を固定液(50%グリセロール、pH9.0)で被覆し、更に、カバーグラスで密閉した。
【0132】
B:EBV−産生性細胞株P3HR1からの超誘導クローンであるHH514.c16細胞を、TPA及びブチレートを使用して、6日間、EBV−発現に関して誘導化させ、これを、EBV−陰性BJAB細胞と1:1で混合し、更に、100%アセトンを使用して12ウエスのガラス製スライド板上に固定した。EBNA.OT1xをAにおいて記載したように添加し、PBSで4度洗浄した後、ヤギ抗マウスF(ab)−FITC抗体を添加し、PBS+1%BSAで適切に希釈し、更に、37℃で1時間インキュベートした。PBSで4度洗浄した後、このスライド板を固定液で被覆し、更に、カバーグラスで密閉した。
【0133】
全てのインキュベーション(A及びBにおけるもの)は加湿型チェンバー内で行って試薬の蒸発を防いだ。蛍光染色は、Zeiss社のAxioscope蛍光顕微鏡(倍率400×)を使用して可視化させた。
【0134】
図4A及び4Bにおいて示される結果は、感度を上昇させるために二重FITC−染色技術を用いた場合では、パネルA中に示されるX50−7細胞系について見い出されるような、EBVに潜伏感染している細胞の100%において特徴的な核EBNA染色パターンを示している。パネルBにおける結果は、EBNA.OT1xによる染色の特異性を示しているが、それは、大部分の小さいEBV−陰性BJAB細胞が染色を全く示さないのに対して、大きいEBV−産生性細胞は、細胞の約50%において強い核染色パターンを示すためである。
【実施例5】
【0135】
蛍光活性化細胞選別機(FACS)分析
EBV−陰性ヒトT−細胞(Jurkat)、EBV−陽性ヒト・バーキットリンパ腫細胞(Daudi)、ポリクローナルEBV−形質転換ヒトB−リンパ球、樹立型クローン化B−細胞系、あるいは、EBV−血清学的陰性ドナーからの末梢血リンパ球をBFA−法に従って固定し、更に、4℃において、2×106/mlの細胞濃度で、1%のBSAを含むPBS中のEBNA.OT1x(1μg/ml)と共にインキュベートした。PBSで3度洗浄した後、細胞を、PBS−BSAで適切に希釈したFITCでラベル化したヤギ抗マウスIgG−F(ab)2抗体と共にインキュベートした。再度洗浄段階を行った後、104個の細胞を流動血球計数器(FACSCAN、Becton−Dickinson社)を使用して分析した。陰性対照として、各実験を、無関係なモノクローナル抗体(抗HIV−p24抗体、IgG)との同一細胞の独立したインキュベーションも並行して行った。
【0136】
上述の実験の結果を図5A−Fに示す。各グラフ中の点線は対照モノクローナル抗体を表す一方、実線は、EBNA.OT1xモノクローナル抗体について得られた結果を示している。これらの実験から、Slaper−Cortenbachら(Blood、72、1639−1644、1988)により記載されている固定法としてBFAを用いた場合に、EBNA.OT1xは細胞内に浸透して行くことが可能であり、このため、EBV−感染細胞における細胞内のEBNA−1検出が可能となるという結論を得ることができた。
【実施例6】
【0137】
イムノブロット染色及びEBNOタイピング
イムノブロット染色の手法による変成させたEBNA−1の検出、及び、本発明に記載のEBNA.OT1x抗体を使用する異なるEBV単離物のEBNO−タイピングへのその応用を、以下に説明する。
【0138】
図6においては、世界中の異なる地理的領域から取得したB−細胞系中に存在する様々な異なるEBV株を使用する分析の例を示してある。
【0139】
図6A及び6Bの各ラインにおいては、還元SDS−PAGE試料緩衝液中で沸騰させることにより変成させた、5×104個のEBV−感染細胞もしくは対照(BJAB)細胞の試料を、標準的なSDS−PAGE及びニトロセルロースに対するブロッティングに供した。
【0140】
パネルA(図6A)はEBNA.OT1xモノクローナル抗体を使用するEBNA−染色を示す一方、パネルBは、EBNA−1染色について単一特異性を示すヒト血清を使用した同一分析(つまり、余計なEBNA分子とは反応しない)を示す。強度は異なるものの、両試薬についての染色パターンは同一であり、個々のEBV−単離物間に分子量の違いがあることを示している。BJABは、EBV−陰性細胞系抽出物を表す。
【0141】
これらの実験から、EBNA.OT1xは複数のEBV−株と反応し、かつ、EBNO−タイピングにおける試薬として使用することができるということが結論付けられる。
【0142】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】ヒト血清を使用したペプスキャン分析の結果。X軸上にEBNA−1配列上の個々の各12merペプチドの相対的開始位置を示し、例えば、“0”はAA348で開始する12merペプチドを表わす等々である。Y軸上には、450nmにおける相対的吸光度単位を示す。ラインno.1は、各12merペプチドに対するEBV陰性ヒト血清の免疫反応性を示す。ラインno.2−6は、12merペプチドに対するEBV陽性ヒト血清の免疫反応性を示す。
【図2】EBNA−1蛋白質に由来する選択された合成ペプチドに対するIgG−反応性についての検査を行った46個のヒト血清試料のELISA反応性(450nmにおける光学密度)。△は、標準的な血清学的分析により陰性を示す血清を表す。□は、標準的な血清学的分析により陽性を示す血清を表す。xは、EBNA−1のみに対するイムノブロットにおいて陽性を示す血清を表す。□、*は、イムノブロットでは抗EBNA−1抗体を検出できないが、他の方法(例えば、抗VCA抗体)ではEBV−血清陽性を示す。A=ペプチド348−369、B=ペプチド368−387、C=ペプチド394−420、D=ペプチド424−452、E=ペプチドGly−Ala、F=コンビ(combi)−ペプチド、G=EBNA−1 Baculo。
【図3】マウスモノクローナル抗体及びウサギ血清を使用するPEPSCAN(ペプスキャン)分析の結果。X−軸上に示されるのはEBNA−1配列上の個々の各12merペプチドの相対的開始位置であり、例えば、「0」はAA348で開始する12merペプチドを示す等々という具合である。Y−軸上に示されるのは450nmにおける相対的吸光度単位である。ライン1は、陰性対照として使用した、EBNA−1由来ペプチドに対する抗EBV VCA p40モノクローナル抗体(EBV.OT41A)の反応性を表す。ライン2−4は、異なる濃度(各々、5μg/ml、10ng/ml 、及び、1ng/ml)における抗EBNA−1マウスモノクローナル抗体EBNA.OT1xの反応性を表す。ライン5は、免疫していないウサギ血清の反応性を表す。ライン6は、組換えEBNA−1で免疫したウサギ血清の反応性を表す。
【図4】EBNA.OT1xモノクローナル抗体を使用した、EBV−感染細胞中におけるEBNA−1の検出についての間接的蛍光抗体法。A:EBVに潜伏的に感染しているX50−7細胞。B:EBV陰性BJAB細胞と1:1で混合した、EBV発現のために誘導化させたHH514.c16細胞。
【図5A】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。EBV陰性Jurkat細胞の分析。
【図5B】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。EBV陽性ヒトバーキットリンパ腫細胞(Daudi)の分析。
【図5C】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。EBV血清陰性ドナーからの末梢血リンパ球の分析。
【図5D】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。ポリクローナルEBV形質転換ヒトB−リンパ球の分析。
【図5E】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。樹立されたクローン化B−細胞(EBV−陽性)の分析。
【図5F】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。樹立されたクローン化B−細胞(EBV−陽性)の分析。
【図6A】モノクローナル抗体EBNA.OT1xを使用した、異なるEBV株のEBNOタイピングの結果。
【図6B】ヒト血清を使用した、異なるEBV株のEBNOタイピングの結果。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エプスタイン・バールウイルス(EBV)に対する抗体に対して免疫化学的な反応を示すペプチド、これらのペプチドに対するモノクローナル抗体、モノクローナル抗体及び抗イディオタイプ抗体を産生することが可能な細胞系に関する。本発明は、更に、EBVもしくは抗EBV抗体の検出のための免疫学的試薬及び方法にも関する。
【発明の開示】
【0002】
EBVは遍在性のヒト・ヘルペスウイルスであり、これは最初バーキットリンパ腫(BL)のアフリカ形態(風土性もしくはe)に関連して発見された。その後、このウイルスは、鼻咽頭の癌腫(NPC)に関連しても発見され、更に、感染性単核細胞症(IM)の原因物質であることが示された。感染は通常は初期幼年期に起こり、一般的には症状を発現しないという結果を生じるが、時として軽い症状を生じる場合もある。しかしながら、青年期もしくは成人になってからの感染は、末梢における異型リンパ球の存在により特徴付けられるIMを生じることがある。これらのリンパ球の大半はTリンパ球であるが、その数にはEBVによる感染を受けている少集団のBリンパ球が含まれている。Bリンパ球の感染をインビトロにおいて実行することもできる。このような細胞は形質転換を起こして培養系内で漠然と増殖し、「不死化した」、「潜伏的に感染した」、もしくは、「増殖的に形質転換した」と称される。知られている限りでは、EBVに感染した全ての固体は一生涯潜伏的に感染したままとなる。このことは、循環性末梢血リンパ球中における少数のEBVゲノム陽性形質転換B細胞が一生涯を通して継続的に存在すること、及び、口腔咽頭部における継続的であり但し周期的なウイルスの発散により表される。
【0003】
大多数の症例においては、EBV感染の結果リンパ球増殖性疾患を生じ、この疾患は一過的には衰弱を招くことがあるものの常に良性でありかつ自己限定性のものである。しかしながら、ある種の免疫抑制状態にある個体においては、この結果は完全に発達した悪性疾患となることがある。これは、意図的に免疫抑制状態に置かれている個体、特に、サイクロスポリンAで治療を行っている臓器移植を受けた子供、あるいは、HIVに感染している個体での場合におけるように便宜的に免疫抑制状態に置かれている個体、あるいは、XLP(x−関連性リンパ球増殖性症候群)遺伝子を保持している男性患者のように遺伝子的に免疫抑制状態に置かれている場合に生じる。これらの症例においては、結果として生じる悪性疾患の原因はEBV−感染B細胞のポリクローナルな増殖である。更に、このような患者においては、ウイルスの上皮上での非抑制的複製を口部の毛様白斑症の病変中に検出することができる。従って、EBV感染の抑制においては免疫反応が中心的な役割を演じている。
【0004】
細胞もしくは組織中のEBVの存在は、ウイルスのゲノムの検出、もしくは、EBV感染細胞中に普遍的に発現される唯一の潜状関連性蛋白質産物であるEBNA−1蛋白質の証明により実証することができる。
【0005】
上述したように、EBVはヘルペスウイルスの一員である。これは以下に記載するような構造特性を有する。
【0006】
−EBVゲノムは直鎖状の二本鎖DNA分子(172,000塩基対)からなる。
【0007】
−ビリオンは正十二面体カプシドにより囲まれているコア(蛋白質及びDNA)からなり、更に、膜エンベロープがカプシドを被覆している。この正十二面体カプシドは六量体及び五量体のカプソマーから構成されている。膜エンベロープは、外側表面にスパイクをもつ蛋白質/脂質二重層膜でできている。カプシド殻とエンベロープとの間の隙間は被包と呼ばれる無定形蛋白質で埋められている。
【0008】
−全てのヘルペスウイルス同様、EBVは初期感染後に、潜伏性の一生涯を通じる感染を定着させることが可能である。この潜伏性は、宿主の免疫系により抑制されている、EBVとヒト宿主との間の完全な平衡状態を表すものである。
【0009】
現在までに、EBVの3つの基本型、つまり、B95−8(マーモセット細胞系中に産生される形質転換性ウイルス)、P3HR1(バーキットリンパ腫腫瘍細胞系により産生される非形質転換性ウイルス)、及び、Raji(バーキットリンパ腫腫瘍細胞系内における潜伏性ウイルス)、についてはほとんどの生化学的研究及び生物学的研究が行われている。
【0010】
最近の2、3年の間に、基本型ウイルス株、B95−8の完全DNA配列が決定されている。この配列の解析の結果、80を越す読み取り枠が同定された(Baer et al.、1984、Nature 310、p.207−211)。
【0011】
EBVの生物学研究によりある特別の問題が研究者達に投げかけられたが、それは、そのウイルスの生物学的特性(潜伏性感染)が古典的ウイルス分析結果に当てはまらないためである。更に、その細胞及び宿主範囲はヒト(及び、幾つかのより高等な霊長類)のB細胞及び上皮細胞に実際上限定されているが、これらの細胞は一般的にはインビトロにおける培養を容易に行うことができない。更に、完全な許容細胞種中ではウイルスが細胞を溶解しながら複製を行うが、この完全な許容細胞種が不在であるということが大量のウイルスを産生する能力に厳しい制約を課している。
【0012】
B95−8、P3HR1−、及び、Raji−単離物のDNA分子は、詳細な制限酵素エンドヌクレアーゼマッピングのため、及び、大腸菌(E.coli)プラスミド内へのクローニング及びバクテリオファージラムダー内でのクローニングのため、及び、ヌクレオチド配列決定のための基本型となっている。EBV−ゲノムは、非反復DNA構成要素及び縦並びに反復するDNA構成要素で構成されている単一の二本鎖DNA分子でできている。このDNA分子の各末端には多重末端配列が含まれており、この配列は共有結合を可能にし、ゲノムの環状化を起こす。ウイルス粒子中においては、EBV−ゲノムは線状形態のもののみが検出されてくる。それに反して、潜伏感染細胞の核内ではそのEBV−ゲノムは環状のエピソームとして存在しており、時としては宿主細胞染色体内に取り込まれる。
【0013】
内部反復配列であるIR1からIR4までが、EBV−ゲノムを5つの非反復領域に分断している。U2及びU3領域は異なるEBV単離物中では激しく変化しており、前者はEBVのP3HR−1株中においてはほとんど完全に欠損している。
【0014】
EBVの読み枠についての命名法はウイルスゲノム中におけるそれらの位置に基づいている。名前は、発現が開始されるBamH1もしくはEcoR1制限断片の頭文字で始まる。名前中の第3番目の文字はLもしくはRであり、これは発現が標準地図の左側か右側かによって決まる。(つまり、BLLF2は、BamH1制限断片L中で開始される第2の左側の読み枠である。)
EBVの産生周期におけるウイルス抗原の血清学的分類は様々な蛍光技術に基づいている。
【0015】
固定させた潜伏感染B−細胞(例えば、Raji−細胞)の核内において抗補体蛍光抗体技術の手段により特異的に検出される抗原は、エプスタイン−バール核抗原(EBNA)として分類される。
【0016】
化学的因子もしくはウイルス性因子によるウイルス遺伝子発現の活性化の際にはあるクラスの初期抗原(EA)が検出されるが、これらの合成はウイルス性DNA合成の阻害によっては阻止されない。使用する固定液の種類によって(メタノールもしくはアセトン)2つの別個のEAセット、すなわちEAR及びEADを検出することができる。EAは、刺激化された細胞の細胞質及び核内において間接的蛍光抗体法により検出される。ウイルスDNA合成の開始後に(かつ、それに依存して)ウイルス構造蛋白質(VCA)が合成されるが、この蛋白質は、ウイルス産生性細胞(例えば、P3 HR1 細胞)の細胞質及び核内において間接的蛍光抗体法により検出される。生存可能な感染細胞表面においては、ウイルス産生の目的で刺激化を行うと一連の抗原(MA)が間接的蛍光抗体法により検出される。これらの抗原はウイルスエンベロープ上においても見い出すことができ、更に、ウイルス中和のための重要な標的である。
【0017】
ヒト血清中におけるEBV特異的抗体の検出は、Heule and Heule (Human Pathology、5、551−565、1974)により記載されているように、血清学的技術により日常的な作業として実施することができる。
【0018】
生化学的データ及び蛍光抗体法のデータに基づき、5つの異なる種類の抗原分子を認識することが可能である。異なるウイルス性ポリペプチドはそれらの分子量により表示され、それらの特徴を表現するという目的での全てのEBV−蛋白質についての共通の命名法は確立されていない。
【0019】
5つの異なる抗原群とは下記のものである。
【0020】
A.潜伏状態における際に発現される抗原群(EBNA及びLMP)。
【0021】
B.ゲノムの活性化及びウイルス複製の初期誘導に関わる抗原群(IEA)。
【0022】
C.IEA−遺伝子産物により誘導され、かつ、ウイルス性DNAの複製に必要な抗原群であり、これらの抗原は大概ウイルス性酵素である(EA)。
【0023】
D.ウイルス粒子の構造構成物であり、かつ、ウイルスのDNA合成開始後のウイルスの複製周期において後期に発現される抗原群(VCA)。
【0024】
E.感染細胞の細胞膜内に発現される抗原群(MA)。
【0025】
エプスタイン−バール核抗原(EBNA)
読み取り枠BKRF1中にコードされているエプスタイン・バール核抗原1(EBNA−1)は、インビボ及びインビトロにおいて、潜伏感染細胞及び腫瘍関連性細胞の全てにおいて普遍的に発現される唯一のEBVコード蛋白質であり、かつ、DNA複製及び遺伝子活性化の機構を研究するための重要な標的分子を形成している。
【0026】
EBV−陽性細胞においてはイムノブロッティング及び放射線免疫電気泳動によりEBNA−1を同定したが、3つのEBV−陰性細胞系においては同定されなかったため、4つのEBV−陽性ヒト血清を2つのEBV−陰性ヒト血清と対比させて使用している。分析を行った様々な細胞系において同定された抗原には様々な分子量が存在しており、それらは65,000から73,000の範囲にわたるものであった。補体固定性抗原は200倍を上回るまでに部分精製され、かつ、イムノブロッティングにより同定される65kDaのEBNAと一緒に同時精製されることを発見した。EBNAは抗補体蛍光抗体法(ACIF)によって定義されるため、65kDa抗原がEBNAの主要成分であるということが示唆された。
【0027】
EBNA遺伝子については、EBVDNAの、クローン化BamHI K制限酵素断片を有するマウス細胞をトランスフェクションすることにより遺伝子地図を作成した。主要選択マーカーと一緒にこの断片を有するマウス繊維芽細胞系をトランスフェクションすることにより、EBNA−陰性ヒト血清においては同定されないが、EBNA−陽性ヒト血清を使用する場合にACIFにおいて同定される核抗原を安定に発現させることができる。後続の研究においては、Bam K−トランスフェクション細胞が、B95−8細胞のEBNA−1ポリペプチドと一緒に移動する78kDaのポリペプチドを発現することを発見した。
【0028】
より最近の研究によって、通常はp62もしくはp107と呼称されるグリシン−アラニン反復領域内の免疫優勢領域が明らかになり、この領域はヒト血清と強い反応を示す。しかしながら、このgly−ala断片は正常なヒト蛋白質内に含まれていることが明らかになり、更に、これは自己抗体のための標的であることを発見した。更に、より詳細な研究により、進行性CMV、HSV、もしくは、トキソプラズマ感染の患者からの血清中のIgM抗体は特に、時としてこのペプチドと交差反応性を示すことを明らかにした。更に、EBNA−1のAA 461−641をコードする28kDのC末端断片は大腸菌内で発現されるが、このC末端断片がヒト血清抗体と反応することを明らかにした。今のところまでの追加的研究では、診断の際に無傷のEBNA−1蛋白質に置き換えて使用することができるEBNA−1蛋白質断片を確定することには成功していない。
【0029】
EBNA−1の分子サイズは種(strain)の同定(EBNO−タイピング)に使用することができるが、それは、gly−ala反復領域のサイズが個々のウイルス種間で顕著な違いを示すことがあるためである。
【0030】
EBNA−1は、バーキットリンパ腫、鼻咽頭癌腫の細胞、及び、ホジキン氏病において見い出されるリード−ステルンベルク(Reed−Sternberg)細胞中において免疫学的に検出されている。
【0031】
更に、EBNAは、移植及びAIDS患者におけるポリクローナルなリンパ球増殖性病変内においても検出され、EBNAは細胞培養物中におけるBリンパ球の同定用の初期マーカーになっている。
【0032】
EBNA−1分子について、DNA結合性(Ori−P)ドメイン、核局在ドメイン、トランスアクチベーションドメイン、DNAループ形成ドメイン、及び、二量体形成ドメインのようないくつかの機能性ドメインを同定した。EBNA−1は、ホモ二量体分子としてそのDNA結合機能を発揮する。
【0033】
現在では、EBV特異的血清学的診断はかなり本質的な蛍光抗体テストにより行なわれる。標準的なウイルス産生性細胞系を使用する場合にはウイルス抗原の大量産生及び精製は不可能であるため、より簡便で画一的な診断法(例えば、ELISA)への進展は妨げられている。
【0034】
これを行うための唯一の方法は、別の方法により調製されたEBV抗原を使用することであると思われる。これらのEBV抗原は、遺伝子工学技術もしくは合成ペプチド技術のいずれかを用いて調製することが可能である。
【0035】
EBVでの感染の様々な段階において行う信頼性の高い診断法を可能にするための特異的かつ感度の良い方法を開発するためには、免疫優勢ウイルス蛋白質及びそれらのエピトープを確定することが非常に重要である。
【0036】
本発明は、エプスタイン−バールウイルスに対する抗体と免疫化学的に反応し、SEQ ID No(配列番号):1に示されるアミノ酸配列の少なくとも一部分を含むペプチドを提供する。
【0037】
SEQ ID No:1において示されるアミノ酸配列を有するペプチド及びその断片は、従って、本発明の一部である。本発明のペプチドは、試料中のEBVもしくはEBV−抗体の存在を決定するための診断法への使用に特に適することを発見した。更に、本発明のペプチドは、EBV関連疾患の治療における適切な薬剤学的投与形態中に使用することができる。活性成分としてペプチドもしくはその断片を含むものとして得られるワクチンの調製法は、当業者には知られている。
【0038】
天然のEBVと対比して、本発明のペプチドは、これらが安全な非感染起源のものであるという重要な利点を有している。本発明はまた、エプスタイン−バールウイルスに対する抗体と依然として免疫化学的に反応する当該ペプチドの断片も含む。EBNA−1の当該ペプチド領域に特有の特徴により、この領域がEBNA−1蛋白の天然の構造であれ変成した構造であるとともに抗体に近づき易くなる。
【0039】
本明細書において使用されている用語「ペプチド」は、生物学的活性を有するアミノ酸の分子鎖を意味し、産物の特定な長さを意味するのではない。従って、中でも、蛋白質、融合−蛋白質もしくは−ペプチド、オリゴペプチド、及び、ポリペプチドがこれに含まれる。必要であれば、本発明に記載のペプチドを、インビボもしくはインビトロにおいて、例えば、グリコシル化、アミド化、カルボキシル化、もしくは、リン酸化により修飾することができる。本発明に記載のペプチドの、例えば、酸付加塩、アミド、エステル及び具体的にはC末端エステル、及び、N−アセチル誘導体のような機能的変異体も、従って、本発明の一部分とみなされる。本明細書に包含される特別な蛋白質もしくはポリペプチドについては、天然の変異体も存在することが理解できるはずである。これらの変異体は、配列全体におけるアミノ酸の違い、あるいは、当該配列内におけるアミノ酸の欠失、置換、挿入、逆位、もしくは、付加により証明することができる。アミノ酸置換によっては生物学的及び免疫学的活性は本質的には変化しないことを期待することができると言われている。関連するアミノ酸間でのアミノ酸置換、あるいは、進化中に頻繁に起こった置換は、中でも、Ser/Ala、Ser/Gly、Asp/Gly、Asp/Asn、Ile/Val である(Dayhof、M.D.、Atlas of protein sequence and structure 、Nat. Biomed. Res. Found.、Washington D.C.、1978、vol. 5、suppl. 3を参照せよ)。この情報に基づき、LipmanとPearson が、迅速かつ高感度の蛋白質比較のための(Science 227 、1435−1441 、1985)、及び、同類蛋白質間の機能的類似性の決定のための方法を開発した。
【0040】
本明細書中で使用されている用語「断片」は、本発明のペプチドの配列を含むアミノ酸配列を意味する。当該断片は、EBNA−1蛋白質の1つ以上の免疫原決定基を有するペプチドである。断片は、中でも、DNAについては制限酵素を使用し、更に、ポリペプチドについてはプロテアーゼを使用する前駆体分子の酵素的開裂により産生することができる。他の方法には、断片の化学的合成、あるいは、DNA断片によるペプチド断片の発現がある。
【0041】
エピトープ(一つもしくは複数)を含む本発明に記載の適切な免疫原性断片は、いわゆるペプスキャン(pepscan)法に基づき、特許公開公報WO 86/06487 、Geysen、H.M. et al. (Proc.Natl. Acad. Sci. 81 、3998−4002 、1984)、Geysen、 H.M. et al. (J. Immunol. Meth. 102 、259−274 、1987)に記載されている方法により見い出すことができるが、これらの文献においては、検討中の完全なポリペプチドの部分配列に相当する一連の部分的重複ペプチドが合成されており、かつ、それらの抗体との反応性が検討されている。
【0042】
更に、ペプチドの数々の領域は理論的研究に基づいて指定されるエピトープである可能性があるが、これらの理論的研究の推定的評価には限界がある。これらの領域の決定は、 Hopp とWoods (Proc. Natl. Acad. Sci. 78 、3824−3828 、1981)による親水性度(hyolrophilicity) 基準、及び、 Chou とFasman(Advances in Enzymology 47 、45−148、1987)による二次構造予測に基づいている。
【0043】
本発明による好ましいペプチドは、SEQ ID No:2から6に示される推定配列のうちの少なくとも一つを含むペプチドである。
【0044】
SEQ ID No:2−4に示される配列を有するペプチドは、SEQ ID No:1に示されるアミノ酸配列を有するペプチドの断片であり、それぞれ、EBNA−1配列のアミノ酸番号268−391、395−425、及び、419−449に相当する。SEQ ID No:5に示されるアミノ酸配列を有するペプチドは、SEQ ID No:1の配列の断片(SEQ ID No:2−4)の組み合わせ物を含むペプチドである。
【0045】
本発明に記載のペプチドもしくはその断片の調製は、ペプチド合成のための既知の有機化学的方法の内の一つを用いることにより、あるいは、組換えDNA技術を用いて実施することができる。
【0046】
ペプチド合成のための有機化学的方法は、均一相において、あるいは、いわゆる固相を用いてのいずれかで、縮合反応により必要なアミノ酸をカップリングさせることを含むものと考えられる。
【0047】
縮合反応は、以下に記載するように行うことができる。
a)遊離のカルボキシル基及び保護されている他の反応基を有する化合物(アミノ酸、ペプチド)と、遊離のアミノ基及び保護されている他の反応基と有する化合物(アミノ酸、ペプチド)との、縮合試薬の存在下における縮合、
b)活性化されているカルボキシル基及び遊離のもしくは保護されている他の反応基を有する化合物(アミノ酸、ペプチド)と、遊離のアミノ基及び遊離のもしくは保護されている他の反応基を有する化合物(アミノ酸、ペプチド)との縮合。
【0048】
カルボキシル基の活性化は、中でも、カルボキシル基を、酸ハロゲン化物、アジド、無水物、イミダゾリド、あるいは、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシベンゾトリアゾールもしくはp−ニトロフェニルエステルのような活性化エステルに変換させることにより行うことができる。
【0049】
上記縮合反応のための最も一般的な方法は、The Peptides、Analysis、Synthesis 、Biology Vol. 1−3(Ed. Gross 、E.と Meienhofer、J.)1979、1980、1981(Academic Press、Inc.)において記載されているような、カルボジイミド法、アジド法、混合酸無水物法、及び、活性化エステルを使用する方法である。「固相」を使用する、本発明に記載の、上述のペプチドの適切な断片の調製は、例えば、J. Amer. Chem. Soc. 85、2149 (1963)、及び、Int. J. Peptide Protein Res. 35 、161−214(1990)に記載されている。調製すべきペプチドのアミノ酸のカップリングは、通常、カルボキシル端側から開始する。この方法のためには固相が必要であり、この固相上に反応基が存在するか、あるいは、そのような反応基をこの固相上に導入することができる。これは、例えば、ベンゼンと反応性クロロメチル基を有するジビニルベンゼンのコポリマー、あるいは、ヒドロキシメチル官能基もしくはアミン官能基に対して反応するようになっているポリマー固相であることができる。
【0050】
特に適切な固相は、例えば、Wang(1974年)によりJ. Am.Chem. Soc. 95 、1328に記載されているp−アルコキシベンジルアルコール樹脂(4−ヒドロキシ−メチル−フェノキシ−メチル−コポリスチレン−1%ジビニルベンゼン樹脂)である。合成後に、ペプチドを緩和な条件下においてこの固相から分断することができる。
【0051】
所望のアミノ酸配列の合成後、例えば、トリフルオロ酢酸中に溶解させたトリフルオロメタンスルフォン酸もしくはメタンスルフォン酸を用いてペプチドを樹脂から切り離す。ペプチドは、低級アルコール、好ましくは、メタノールもしくはエタノールを用いるエステル交換反応により担体から取り外すこともでき、この場合、ペプチドの低級アルキルエステルが直接形成される。同様に、アンモニアによる分離の場合には、本発明に記載のペプチドのアミドが生じる。
【0052】
縮合反応に関与しないと思われる反応基は、記載したように、酸、塩基、もしくは、還元による加水分解によって非常に容易に再度取り外すことができる基により、効果的に保護される。従って、カルボキシル基は、例えば、メタノール、エタノール、第3級ブタノール、ベンジルアルコール、もしくは、p−ニトロベンジルアルコールを用いるエステル化、及び、固体支持体に結合しているアミンにより効果的に保護することができる。効果的にアミノ基を保護することができる基は、エトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル(t−boc)、もしくは、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基、あるいは、ベンゼンスルフォニルもしくはp−トルエンスルフォニル基のようなスルフォン酸から誘導される酸性基であるが、他の基も使用することができ、それらは、例えば、ベンジル及びトリフェニルメチルのような置換されたもしくは置換されていないアリールもしくはアラルキル基、あるいは、オルト−ニトロフェニルスルフェニル及び2−ベンゾイル−1−メチルビニルのような基である。特に適切なα−アミノ保護基は、例えば、塩基感受性の9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基である[Carpino & Han(1970) J. Amer.Chem. Soc. 92 、5748]。
【0053】
可能な保護基についての広範囲な記述は、The Peptides、Analysis、Synthesis、Biology、Vol.1−9(Eds.Gross、UdenfriendとMeienhofer)1979−1987(AcademicPress、Inc.)に見い出すことができる。
【0054】
リシンのε−アミノ基を保護することも必要であり、更に、アルギニンのグアニジン基も保護することを勧める。この関係で習慣的に用いる保護基は、リシンについてはBoc−基であり、アルギニンについてはPmc−もしくはPms−もしくはMbs−基、あるいは、Mtr−基である。
【0055】
保護基は、特定の基の性質によって異なるが、例えば、トリフルオロ酢酸の助けを借りたり、あるいは、例えば水素及びパラジウムのような触媒を用いる、あるいは、氷酢酸中のHBrを用いる緩和な還元によるような、様々な慣用法により脱離させることができる。
【0056】
既に前述したように、本発明に記載のペプチドは組換えDNA技術を用いて同様に調製することができる。この可能性は、特に、ペプチドが反復配列(「縦列している(in tandem)」)内に取り込まれる場合、あるいは、ペプチドを、(より大きな)蛋白質もしくはポリペプチドの構成成分として、又は、例えば、β−ガラクトシダーゼ(の一部分)との融合蛋白質として調製することができる場合には重要なものである。従って、この種のペプチドは同様に本発明の範囲内に含まれる。この目的のためには、組換えDNAの構成成分として核酸配列を使用するが、その核酸配列は、本発明に記載のペプチドをコードする配列、及び、天然EBVゲノム中において先に示した核酸配列をフランク(flank)する核酸セグメントを実質的に含まない配列である。
【0057】
この後述の方法には、宿主としての適切な微生物内において、問題のペプチドの一つもしくは複数をコードする核酸配列を有する組換えポリヌクレオチドを発現させることによる所望のペプチドの調製法が含まれる。
【0058】
本発明のペプチドをコードする核酸配列を、天然においては会合したり結合したりしていない様々の複製可能なDNA配列と連結させることができ、その結果、適切な宿主の形質転換のために用いることができるいわゆる組換えベクター分子が生じる。有用な組換えベクター分子は、例えば、プラスミド、バクテリオファージ、コスミド、あるいは、ウイルスに由来するものであることが好ましい。
【0059】
核酸配列をクローン化するのに使用することができる特別なベクターもしくはクローニング用ベヒクルは当業者に知られるものであり、かつ、中でも、pBR322のようなプラスミドベクター、様々なpUC、pGEM、及び、ブルースクリプト(Bluescript)プラスミド、例えばkgt−Wes、Charon28のようなバクテリオファージ、及び、M13由来のファージ、あるいは、SV40、アデノウイルス、もしくはポリオーマウイルスのようなウイルス性ベクターを含む(Rodriques、R.L.とD.T. Denhardt, ed.、Vectors:A survey of molecular cloning vectors and their uses、
Butterworths、1988; Lenstra 、J.A. et al.、Arch. Virol.110、1−24、1990)。組換えベクター分子の構築のために使用すべき方法は当業者に知られているものであり、かつ、これらは中でも、Maniatis、T.ら(Molecular Cloning A LaboratoryManual、second edition;Cold Spring Harbor Laboratory、
1989)において説明されている。
【0060】
例えば、本発明のペプチドをコードする核酸配列のクローニングベクター内への挿入は、遺伝子及び所望のクローニング用ベヒクルの両方が、相補的なDNA末端が産生されるような同一の制限酵素で切断された場合に簡単に実施することができる。組換えベクター分子は、所望の形質転換体を選択するのに使用することができるpBR322内におけるアンピシリン及びテトラサイクリン耐性のようなマーカー活性の一つもしくは複数を追加的に含むことができ、その例は、pUC8内におけるアンピシリン耐性及びβ−ガラクシトダーゼのα−ペプチドである。
【0061】
当然のことながら、クローニングベクターの選択された部位に挿入されるヌクレオチド配列は、形質転換した宿主が少なくとも一つもしくは複数の免疫原決定基を有するポリペプチドを産生する限り、本発明のペプチドをコードする完全な核酸配列の断片のみを含んでいてもよいということが理解できるはずである。
【0062】
本発明に記載のペプチドに対する抗体も、本発明の一部分である。
【0063】
調製しかつ上記したペプチドもしくはその断片は、ポリクローナル及びモノクローナルの両抗体を産生するのに使用することができる。本発明のペプチドに対するモノクローナル抗体は、当業者により簡単に作製できる。
【0064】
本発明の以前には、EBNA−1なるこの特定のペプチド断片に対して作製された抗体についての報告はなかった。この時まで当業者の誰もが、抗体に結合するエピトープの入手可能性を知らなかったのである。
【0065】
従って、本発明に記載のモノクローナル抗体は、EBV感染の診断のための新しい手段を提供する。
【0066】
本発明に記載の好ましい抗体は、受託番号92071613として、Porton Down (英国)のEuropean Collection of Animal CellCultures(ECACC)に寄託してあるハイブリドーマ細胞系により産生されるモノクローナル抗体と同一の、EBNA−1に対する反応性を有するモノクローナル抗体である。
【0067】
本発明の新規(モノクローナル)抗体はEBNA.OT1xと表示されるが、これは、Gly−Ala反復領域を欠損しているバキュロウイルス由来のEBNA−1蛋白質でマウスを免疫化することにより作製した。大腸菌内で発現されるEBNA−1からの欠損断片を使用することにより、EBNA.OT1xの結合性エピトープが、推定上の核局在シグナル(nuclear localization signal)の近くの位置430−438内に位置することを突き止めた(SEQ ID No:6に示されている推定配列)。
【0068】
EBNA.OT1xを免疫沈降研究に使用した。EBNA.OT1xはまた、ウエスタンブロット研究及び間接的検出技術を使用する固定した透過処置済み細胞上での蛍光抗体法(FACS)において使用する際には変成させたEBNA−1に対しても結合し、更に、広範囲のウイルス株及びウイルス感染した標的細胞からのEBNA−1とも反応する。EBNA.OT1xは多様なEBV−単離物からのEBNA−1に対して結合し、更に、様々なヒトの腫瘍組織における免疫組織化学的染色法に使用することができる。
【0069】
本発明のモノクローナル抗体を分泌することが可能な、不死化細胞系も、本発明の一部分である。
【0070】
モノクローナル抗体を産生する細胞系の調製は、例えば、KohlerとMilstein技術(KohlerとMilsteinはモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを形成する技術を考案した(G. Kohler と C. Milstein、1975、Nature 256:495− 497 ;1976、Eur. J. Immunol. 6:511−519))、エプスタイン−バールウイルスを用いる形質転換、あるいは、発癌性DNAを用いるBリンパ球の直接的形質転換技術、あるいは、ヒトもしくはマウス−ヒトのハイブリッド型骨髄腫細胞系のいずれかである融合相手を用いるヒトBリンパ球の直接的融合、あるいは、当該骨髄腫細胞系を使用するEBV−形質転換済みB細胞系の直接的融合により実施することができる。
【0071】
本発明に記載の好ましい細胞系は、受託番号92071613として、Porton Down (英国)のEuropean Collection of Animal CellCultures(ECACC)に寄託してある細胞系である。
【0072】
このハイブリドーマ細胞系は、本発明に記載のEBNA−1ペプチドを使用して予め接種してあるマウスに由来するリンパ球と骨髄腫細胞を融合させることにより作製した。(SEQ ID No:5に示されているアミノ酸配列を有するペプチド)本発明は更に、検査液もしくは組織検体中に含まれる全長蛋白質を検出するための免疫学的方法及び生化学的方法への、当該ペプチドに対する抗体の使用を含む。
【0073】
現在までのところ、EBV感染細胞中におけるEBNA−1の検出は、抗EBNA−1抗体源としてヒト血清を使用する抗補体蛍光抗体法(ACIF)を使用することにより実施されていた。間接的蛍光抗体技術では、ヒト血清中のEBNA−1結合抗体を検出することができなかった。ACIFは、余分な補体−インキュベーション段階、及び、補体自体の不安定性により複雑なものになっている。更に、ACIF用に使用される試薬が正しく用いられていない場合には、偽陽性及び偽陰性を示す反応が頻繁に出現する。
【0074】
一方では、EBNA.OT1x抗体はこれらの問題を排除し、かつ、間接的蛍光抗体法により様々なEBV感染細胞内のEBNA−1の高感度検出を可能にする。
【0075】
インビボ及びインビトロの両方において細胞核内にEBNA−1が存在するということは、細胞内に潜伏性EBV−感染の特質(hallmark)があることの証拠となる。
【0076】
EBNA.OT1xは細胞内に浸入していくことが可能であり、そのため、EBV感染細胞内におけるEBNA−1の細胞内における検出を可能にする。EBV.OT1x抗体は、Slaper−Cortenbach ら(Blood 、72、1639−1644 、1988)により記載されているように、緩衝化させたフォルマリン−アセトン(BFA)固定により透過処理したEBV感染細胞内における核染色の蛍光活性化細胞用選別機(FACS)分析に適用することができる。この方法は簡便で迅速であるという利点を有し、かつ、インビトロにおいて培養したEBV感染B−リンパ球の検出を可能にする。この技術はまた、EBV関連性リンパ球増殖性疾患及びリンパ腫の検出及びモニタリングにも適用することもできる。
【0077】
本発明に記載のペプチドに対するモノクローナル及びポリクローナルの両抗体は、診断、及び、組織検体中におけるその場(in situ)の検出のための免疫化学的手法に非常に適している一方で、中和を行うこれらの抗体は、受動免疫療法に非常に有用である。
【0078】
本発明に記載の抗体はまた、異なるEBV単離物のEBNOタイピング(種類分け)にも有用である。前に記述したように、EBV単離物(株)は、産生されるEBNA−1分子の分子量により特徴付けることができるが、その理由は、この蛋白質内のグリシン−アラニン反復領域の長さが広範囲にわたって異なるためである。先述した試薬は主にヒト血清であったがこれとは異なり、EBNA.OT1xモノクローナル抗体は安定かつ再現性の得られる試薬であり、EBVファミリー内において高度に保存されている結合性エピトープを検出するため、これは、EBV株のEBNO−タイピングに非常に適している。
【0079】
本発明の一部分はまた、問題のモノクローナル抗体の「人体適用性(humanizing)」でもある。「人体適用化(humanizecl)」されたモノクローナル抗体の産生のための技術は当業者に知られている。
【0080】
特に、モノクローナル抗体は、抗イディオタイプ抗体を作成するのに使用することができる。抗イディオタイプ抗体を作成するための技術は当業者に知られている。
【0081】
本発明に記載のモノクローナル抗体と反応する抗イディオタイプ抗体は先に記載したように本発明の一部分である。
【0082】
抗イディオタイプ抗体は免疫グロブリンの可変部に対する抗体である。抗イディオタイプ抗体の亜集団は、「抗イディオタイプβ」、もしくは、「内部像(interhal images)」として知られている。これらの抗イディオタイプβ抗体は、抗原との構造的類似性もしくは3次元的類似性のいずれかを有する(Uytdehaag 、F.G.C.M. et al. Immunol. Rev.;90;93−113;1986)。この種類の抗イディオタイプ抗体は、動物モデルにおける感染性疾患に対するワクチンとして広く用いられている(Hiernaux J.R.;Infect. Immun.;56;1407−1413;1988、Kennedy 、R.C. et al.;Science 232;220−223;1986)。アッセイへの使用のために抗イディオタイプ抗体を大量に作成することができる。
【0083】
抗イディオタイプ抗体を作成する技術は当業者に知られている。例えば、本発明に記載の抗イディオタイプ抗体は、BALB/cマウスを、標準的な文献による方法に従いグルタルアルデヒドを用いてKLHに対して結合させフロインドの完全アジュバントと混合したモノクローナル抗体で免疫することにより取得することができる。これらのマウスの脾臓細胞を不死化させることができ、更に、このようにして取得されたハイブリドーマを抗イディオタイプ抗体産生についてスクリーニングすることができる。ハイブリドーマのスクリーニングは、例えば、本発明に記載のモノクローナル抗体を固相(マイクロタイタープレートのウエル)に対して結合させ、増殖しているハイブリドーマの培養上清と一緒にこの固相をインキュベートすることにより実施することができる。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合させたEBVペプチドを添加することができる。培養上清中に含まれる抗イディオタイプ抗体の存在は、その後、固相上にコートされたモノクローナル抗体に対するこのペプチド結合体の結合の阻害により示される。
【0084】
抗イディオタイプ抗体は、例えば、EBV抗体を使用する免疫アッセイにおけるヒト及び/または動物のEBV抗原の結合の阻害に使用することができる。別の方法では、抗イディオタイプ抗体を、本明細書中でこれ以降に記載される免疫化学的試薬の模擬的薬剤として使用することができる。
【0085】
前記抗イディオタイプ抗体はまた、EBVの診断及び治療、並びに、EBV抗原の重要なエピトープ領域の解明のためにも有用である。
【0086】
本発明に記載の一つもしくは複数のペプチドもしくは抗体を含む免疫化学的試薬も本発明の一部分である。
【0087】
本発明に記載の用語「免疫化学的試薬」は、通常は、一つもしくは複数の本発明に記載のペプチド、及び、適切な支持体もしくはラベル化用物質からなる。
【0088】
使用することができる支持体は、例えば、マイクロテスト用ウエルもしくはキュベットの内部壁、チューブもしくは毛細管、膜、フィルター、検査用細片、あるいは、例えば、ラテックス粒子、赤血球、染料ゾル、ゾル粒子としての金属ゾルもしくは金属化合物、BSAもしくはKLHのような担体蛋白質のような粒子の表面である。
【0089】
使用することができるラベル化用物質は、中でも、放射性同位体、蛍光性化合物、酵素、染料ゾル、ゾル粒子としての金属ゾルもしくは金属化合物である。
【0090】
試料中に含まれるEBVに対する抗体の検出のための方法においては、本発明に記載の免疫化学的試薬を試料と接触させる。この後、ペプチドと試料中に含まれる抗体との間に形成される免疫複合体の存在が検出され、この検出により、試料中に含まれるEBV抗体の存在が明らかになり、かつ、定量的な測定を行うことができる。
【0091】
生じる免疫化学反応は免疫化学的試薬の性質及び更に詳しい特徴によって異なり、いわゆるサンドイッチ反応、凝集反応、競合反応、あるいは、阻害反応である。
【0092】
試料中に含まれるEBVの検出のためには、一つもしくは複数の本発明に記載のペプチドを含む本発明に記載の免疫化学的試薬を試料及び抗EBV抗体に接触させることができ、この後、形成される免疫複合体の存在を検出することができ、それにより、試料中に含まれるEBVの存在を決定することができる。試料中に含まれるEBVの検出に特に適切な方法は、ラベル化用物質と共に提供される本発明のペプチドとEBV抗原(試料中に存在する)との間の競合反応に基づいており、この反応により、ペプチドと抗原は固体支持体に結合してあるEBVに対する抗体と競合するのである。
【0093】
本発明は更に、本発明に記載の抗体を試料に接触させ、その後、形成される免疫複合体の存在を検出し、それが、試料中に含まれるエプスタイン−バールウイルスの存在についての測定値になるという特性を有する、試料中に含まれるエプスタイン−バールウイルスの検出のための方法も含む。
【0094】
本発明に記載の検査用キットは、主要な構成成分として上述の免疫化学的試薬を含む。サンドイッチ反応を行ってEBV抗体を検出するためには、その検査用キットは、例えば、固体支持体(一例としてはマイクロテスト用ウエルの内部壁)にコートされている本発明に記載のペプチド、及び、本発明に記載のラベル化ペプチドもしくはラベル化抗−抗体のいずれかを含むことができる。
【0095】
競合反応を行うためには、キットは、固体支持体にコートされいる本発明に記載のペプチド、及び、EBVに対するラベル化抗体、好ましくは当該ペプチドに対するラベル化モノクローナル抗体を含むことができる。
【0096】
凝集反応においては、検査用キットは、粒子もしくはゾルにコートされている本発明に記載のペプチドを含むことができる免疫化学的試薬を含む。
【0097】
検査用キットの他の実施態様は、例えば、固体支持体にコートされている、EBVに対する抗体上の結合部位について検出されるべきEBV抗原との競合反応への、免疫化学的試薬としての本発明に記載のラベル化ペプチドの使用である。
【0098】
図面の簡単な説明:
図1:ヒト血清を使用したペプスキャン分析の結果。X軸上にEBNA−1配列上の個々の各12merペプチドの相対的開始位置を示し、例えば、“0”はAA348で開始する12merペプチドを表わす等々である。Y軸上には、450nmにおける相対的吸光度単位を示す。
【0099】
ラインno.1は、各12merペプチドに対するEBV陰性ヒト血清の免疫反応性を示す。
【0100】
ラインno.2−6は、12merペプチドに対するEBV陽性ヒト血清の免疫反応性を示す。
【0101】
図2:EBNA−1蛋白質に由来する選択された合成ペプチドに対するIgG−反応性についての検査を行った46個のヒト血清試料のELISA反応性(450nmにおける光学密度)。△は、標準的な血清学的分析により陰性を示す血清を表す。□は、標準的な血清学的分析により陽性を示す血清を表す。xは、EBNA−1のみに対するイムノブロットにおいて陽性を示す血清を表す。
【0102】
□、*は、イムノブロットでは抗EBNA−1抗体を検出できないが、他の方法(例えば、抗VCA抗体)ではEBV−血清陽性を示す。
【0103】
A=ペプチド348−369
B=ペプチド368−387
C=ペプチド394−420
D=ペプチド424−452
E=ペプチドGly−Ala
F=コンビ(combi)−ペプチド
G=EBNA−1 Baculo
【0104】
図3:マウスモノクローナル抗体及びウサギ血清を使用するPEPSCAN(ペプスキャン)分析の結果。X−軸上に示されるのはEBNA−1配列上の個々の各12merペプチドの相対的開始位置であり、例えば、「0」はAA348で開始する12merペプチドを示す等々という具合である。Y−軸上に示されるのは450nmにおける相対的吸光度単位である。
【0105】
ライン1は、陰性対照として使用した、EBNA−1由来ペプチドに対する抗EBV VCA p40モノクローナル抗体(EBV.OT41A)の反応性を表す。
【0106】
ライン2−4は、異なる濃度(各々、5μg/ml、10ng/ml 、及び、1ng/ml)における抗EBNA−1マウスモノクローナル抗体EBNA.OT1xの反応性を表す。
【0107】
ライン5は、免疫していないウサギ血清の反応性を表す。
【0108】
ライン6は、組換えEBNA−1で免疫したウサギ血清の反応性を表す。
【0109】
図4:EBNA.OT1xモノクローナル抗体を使用した、EBV−感染細胞中におけるEBNA−1の検出についての間接的蛍光抗体法。A:EBVに潜伏的に感染しているX50−7細胞。B:EBV陰性BJAB細胞と1:1で混合した、EBV発現のために誘導化させたHH514.c16細胞。
【0110】
図5:様々なリンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析:
A:EBV陰性Jurkat細胞の分析、
B:EBV陽性ヒトバーキットリンパ腫細胞(Daudi)の分析、
C:EBV血清陰性ドナーからの末梢血リンパ球の分析、
D:ポリクローナルEBV形質転換ヒトB−リンパ球の分析、
E及びF:樹立されたクローン化B−細胞(EBV−陽性)の分析。
【0111】
Y−軸は計数した細胞数を表し、一方でX−軸は細胞あたりの蛍光強度を表す。
【0112】
各グラフ中の点線は、対照抗体(抗HIV−p24)を表す。
【0113】
図6:
A:モノクローナル抗体EBNA.OT1xを使用した、異なるEBV株のEBNOタイピングの結果。
【0114】
B:ヒト血清を使用した、異なるEBV株のEBNOタイピングの結果。
【0115】
1=BJAB
2=CR+B95.8
3=CR+QIMR−WIL
4=PB−LCL
5=CR+BL72
6=CR+Mwika
7=CR+AG876
8=CR+Ambobi
9=CR+WW1
10=CR+WW2
【0116】
本発明を、以下に示す実施例により更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0117】
PEPSCANによる免疫反応性ドメインの位置決定
12アミノ酸(AA)の長さを有するペプチド、及び、ORF BKRF1のAA配列の11AAの重複部分、位置 348−470を、Geijsen ら(P.N.A.S.、USA 、83、3998− 4002、1984)により元来記載されているように、化学的に活性化させたポリエチレン製のピン上に自動固相ペプチド合成により合成した。
【0118】
EBV特異抗体についての免疫反応性を、Middeldorp とMeloen(J. Virol. Meth. 21、147−159 、1988)により記載されているように決定した。6個の各ヒト血清についてのこのようなPEPSCAN分析の結果を図1に示す。
【0119】
この図から、反応性領域は、12merペプチドではAA20−31、43−65、74−85、及び、90−98で開始することが明らかになり、これは、各々、EBNA−1配列上のAA372−381、391−413、422−433、及び、438−446を表す。類似した反応性が、追加的に一連のヒト血清を使用した場合にも明らかになった。図1中のラインno.1により示されるように、EBV−血清陰性血清を使用した際には顕著な反応は見られなかった。
【実施例2】
【0120】
免疫反応性合成ペプチドの選択
コンピューター分析による、BKRF1 によってコードされるEBNA−1蛋白質に由来する合成ペプチドの選択、及び、これらのペプチドの、正常ヒトドナー血清との免疫反応性の分析を以下に要約する。
【0121】
合成ペプチドは、t−BOC化学的手法を使用する標準的固相合成により作成した。BKRF 1 によってコードされるEBNA−1蛋白質のAA348−470断片からのペプチドを、Jameson と Wolf (CABIOS 4、181−186 、1988)により開発されたコンピュータープログラム「antigenicindex」を使用する推定される高抗原性に基づくか[これに基づきペプチド348−369及び368−387が選択された]、あるいは、実施例1に記載したようにPEPSCANにおける機能的高抗原反応性に基づくか[これに基づきペプチド394−420及び424−452が選択された]、のいずれかにより選択した。
【0122】
更に、PEPSCANにより同定された4つの最も反応性の高いドメイン(図1のB−E)の組み合わせ物を示すコンビ−ペプチドを作成した。このコンビ−ペプチドを SEQ ID. No:5 に示す。
【0123】
対照用には、 A. Linde ら(J. Infect. Dis. 、161 、903−910、1990)により記載されているように、P107グリシン−アラニンコポリマーペプチドを使用した。このペプチドは、EBNA−1蛋白質について以前に公表された免疫反応性ドメインを示す。更に、グリシン−アラニンドメインを除くEBNA−1配列の全長を含む、EBNA−1蛋白質の組換え形を使用した。この組換え蛋白質を、 Frappier と O‘Donnell(J. Biol. Chem.、266 、7819−7826 、1991)により記載されているように、組換えバキュロウイルス感染昆虫細胞から精製した。
【0124】
上述のペプチド及び蛋白質を、固相つまりポリスチレン製のマイクロタイタープレートの壁上に、4℃において一晩という条件及びpH9.6の0.05M NaHCO3 緩衝液中、1mlあたり1μgという濃度でコートした。pH7.4のリン酸緩衝塩水(PBS)で2度洗浄した後、このウエルを、0.05%のTween−20を含むPBS(PBST)で1:100に希釈した100μl のヒト血清で満たし、37℃で1時間インキュベートした。PBSTで3度洗浄した後、HRP標識ヒツジ抗ヒトIgG抗体を、PBST中で適切に希釈して添加し、37℃で1時間インキュベートした。PBSTで3度洗浄した後、結合した酵素活性を、基質としてTMBを用いて検出した。反応は、30分してから100μl の1M H2 SO4 を添加することにより停止させた。吸光度は、マルチスキャン光度計を使用して450nmにおいて測定した。血清は、標準的な免疫蛍光血清学的方法、あるいは、 Middeldorp と Herbrink (J.Virol. Meth.、21、133−146 、1988)により記載されているイムノブロット分析法を使用してEBV抗体の存在について検査した。
【0125】
図2は、固相にコートされている各々のEBNA−1試薬、及び、36種のEBV−血清学的陽性血清(□)と10種のEBV−血清学的陰性血清(△)からなるパネルを使用したELISA実験の結果を示している。この図から、イムノブロットによって検出されるEBNA−1に対する抗体を含まない血清は、コンビ−ペプチド及びバキュロウイルス誘導のEBNA−1蛋白質を除く全てのEBNA由来ペプチドに関して陰性を示したことを理解することができる。
【0126】
上述の実験から、「antigenicindex」に基づくコンピューターによる推定は、自然に感染した個体からの血清に対する免疫原性に関しては推定価値を持たないことが明らかであり、それは、かなり高い荷電状態にあるペプチド348−369及び368−387に対してほぼ全ての血清は陰性であるためである。
【0127】
ペプチド394−420(図1のドメインB+Cの組み合わせ)及び424−452(ドメインD+Eの組み合わせ)についてPEPSCANに基づいて選択されたペプチドは、血清の80−90%に対して良好な反応性を示す。驚くべきことに、コンビ−ペプチドは、検査したEBV−血清学的陽性血清の100%に対して陽性の反応性を示す。EBV血清学的陰性血清はコンビ−ペプチドに対しては反応性を示さないが、それに反し、このような血清の一つが、バキュロウイルス誘導EBNA−1蛋白質に対して偽陽性の反応性を示している。
【実施例3】
【0128】
マウスモノクローナル抗体を使用するEBNA−1上の免疫反応性エピトープの位置決定
マウスモノクローナル抗体及びウサギ血清を用いる、EBNA−1断片348−470上の免疫反応性エピトープの位置決定について用いられる方法は、ヒト血清を用いるエピトープの位置決定のために、既に実施例1において記載してある。ピンに結合しているペプチドに対するマウス抗体の結合はペルオキシダーゼでラベル化したヒツジ抗マウスIgG抗体を使用して測定し、一方、ウサギ抗体の結合はペルオキシダーゼでラベル化したヒツジ抗ウサギ抗体を使用して測定した。
【0129】
結果を図3に示す。これらの結果より、EBNA蛋白質に対して特異的でないモノクローナル抗体(抗EBV VCA− p40、あるいは、免疫していないウサギの血清)は、検査したEBNA−1ペプチドのいずれのものとも反応しないことが理解できる。
【0130】
マウスモノクローナルEBNA.OT1xは、高濃度で使用した際にAA420−445におけるエピトープを認識するが、AA430−438におけるエピトープに対して抗体を希釈するとこの作用は減衰していく。バキュロウイルス誘導EBNA−1蛋白質で免疫することにより得られたウサギ血清121−3は、分析を行ったEBNA−1領域内における3つのエピトープを認識する。
【実施例4】
【0131】
EBNA.OT1xを使用する、EBV−感染細胞中のEBNA−1の検出のための間接的蛍光抗体法
A.EBVに潜伏感染しているX50−7細胞を12ウエルのガラス製スライド板上に、アセトン−メタノール(1:1)で固定し、1%のウシ血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝塩水、pH7.4(PBS)中の2μg/mlのEBNA.OT1x抗体で、37℃で1時間染色した。PBSで4度洗浄した後、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)でラベル化したウサギ抗マウスIgG抗体を添加し、PBS+1%BSAで希釈し、更に、37℃において1時間インキュベートした。更にPBSで4度洗浄した後、FITCでラベル化したヤギ抗ウサギ抗体を添加し、先と同様にインキュベートした。最後に、PBSで4度洗浄した後、このスライド板を固定液(50%グリセロール、pH9.0)で被覆し、更に、カバーグラスで密閉した。
【0132】
B:EBV−産生性細胞株P3HR1からの超誘導クローンであるHH514.c16細胞を、TPA及びブチレートを使用して、6日間、EBV−発現に関して誘導化させ、これを、EBV−陰性BJAB細胞と1:1で混合し、更に、100%アセトンを使用して12ウエスのガラス製スライド板上に固定した。EBNA.OT1xをAにおいて記載したように添加し、PBSで4度洗浄した後、ヤギ抗マウスF(ab)−FITC抗体を添加し、PBS+1%BSAで適切に希釈し、更に、37℃で1時間インキュベートした。PBSで4度洗浄した後、このスライド板を固定液で被覆し、更に、カバーグラスで密閉した。
【0133】
全てのインキュベーション(A及びBにおけるもの)は加湿型チェンバー内で行って試薬の蒸発を防いだ。蛍光染色は、Zeiss社のAxioscope蛍光顕微鏡(倍率400×)を使用して可視化させた。
【0134】
図4A及び4Bにおいて示される結果は、感度を上昇させるために二重FITC−染色技術を用いた場合では、パネルA中に示されるX50−7細胞系について見い出されるような、EBVに潜伏感染している細胞の100%において特徴的な核EBNA染色パターンを示している。パネルBにおける結果は、EBNA.OT1xによる染色の特異性を示しているが、それは、大部分の小さいEBV−陰性BJAB細胞が染色を全く示さないのに対して、大きいEBV−産生性細胞は、細胞の約50%において強い核染色パターンを示すためである。
【実施例5】
【0135】
蛍光活性化細胞選別機(FACS)分析
EBV−陰性ヒトT−細胞(Jurkat)、EBV−陽性ヒト・バーキットリンパ腫細胞(Daudi)、ポリクローナルEBV−形質転換ヒトB−リンパ球、樹立型クローン化B−細胞系、あるいは、EBV−血清学的陰性ドナーからの末梢血リンパ球をBFA−法に従って固定し、更に、4℃において、2×106/mlの細胞濃度で、1%のBSAを含むPBS中のEBNA.OT1x(1μg/ml)と共にインキュベートした。PBSで3度洗浄した後、細胞を、PBS−BSAで適切に希釈したFITCでラベル化したヤギ抗マウスIgG−F(ab)2抗体と共にインキュベートした。再度洗浄段階を行った後、104個の細胞を流動血球計数器(FACSCAN、Becton−Dickinson社)を使用して分析した。陰性対照として、各実験を、無関係なモノクローナル抗体(抗HIV−p24抗体、IgG)との同一細胞の独立したインキュベーションも並行して行った。
【0136】
上述の実験の結果を図5A−Fに示す。各グラフ中の点線は対照モノクローナル抗体を表す一方、実線は、EBNA.OT1xモノクローナル抗体について得られた結果を示している。これらの実験から、Slaper−Cortenbachら(Blood、72、1639−1644、1988)により記載されている固定法としてBFAを用いた場合に、EBNA.OT1xは細胞内に浸透して行くことが可能であり、このため、EBV−感染細胞における細胞内のEBNA−1検出が可能となるという結論を得ることができた。
【実施例6】
【0137】
イムノブロット染色及びEBNOタイピング
イムノブロット染色の手法による変成させたEBNA−1の検出、及び、本発明に記載のEBNA.OT1x抗体を使用する異なるEBV単離物のEBNO−タイピングへのその応用を、以下に説明する。
【0138】
図6においては、世界中の異なる地理的領域から取得したB−細胞系中に存在する様々な異なるEBV株を使用する分析の例を示してある。
【0139】
図6A及び6Bの各ラインにおいては、還元SDS−PAGE試料緩衝液中で沸騰させることにより変成させた、5×104個のEBV−感染細胞もしくは対照(BJAB)細胞の試料を、標準的なSDS−PAGE及びニトロセルロースに対するブロッティングに供した。
【0140】
パネルA(図6A)はEBNA.OT1xモノクローナル抗体を使用するEBNA−染色を示す一方、パネルBは、EBNA−1染色について単一特異性を示すヒト血清を使用した同一分析(つまり、余計なEBNA分子とは反応しない)を示す。強度は異なるものの、両試薬についての染色パターンは同一であり、個々のEBV−単離物間に分子量の違いがあることを示している。BJABは、EBV−陰性細胞系抽出物を表す。
【0141】
これらの実験から、EBNA.OT1xは複数のEBV−株と反応し、かつ、EBNO−タイピングにおける試薬として使用することができるということが結論付けられる。
【0142】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】ヒト血清を使用したペプスキャン分析の結果。X軸上にEBNA−1配列上の個々の各12merペプチドの相対的開始位置を示し、例えば、“0”はAA348で開始する12merペプチドを表わす等々である。Y軸上には、450nmにおける相対的吸光度単位を示す。ラインno.1は、各12merペプチドに対するEBV陰性ヒト血清の免疫反応性を示す。ラインno.2−6は、12merペプチドに対するEBV陽性ヒト血清の免疫反応性を示す。
【図2】EBNA−1蛋白質に由来する選択された合成ペプチドに対するIgG−反応性についての検査を行った46個のヒト血清試料のELISA反応性(450nmにおける光学密度)。△は、標準的な血清学的分析により陰性を示す血清を表す。□は、標準的な血清学的分析により陽性を示す血清を表す。xは、EBNA−1のみに対するイムノブロットにおいて陽性を示す血清を表す。□、*は、イムノブロットでは抗EBNA−1抗体を検出できないが、他の方法(例えば、抗VCA抗体)ではEBV−血清陽性を示す。A=ペプチド348−369、B=ペプチド368−387、C=ペプチド394−420、D=ペプチド424−452、E=ペプチドGly−Ala、F=コンビ(combi)−ペプチド、G=EBNA−1 Baculo。
【図3】マウスモノクローナル抗体及びウサギ血清を使用するPEPSCAN(ペプスキャン)分析の結果。X−軸上に示されるのはEBNA−1配列上の個々の各12merペプチドの相対的開始位置であり、例えば、「0」はAA348で開始する12merペプチドを示す等々という具合である。Y−軸上に示されるのは450nmにおける相対的吸光度単位である。ライン1は、陰性対照として使用した、EBNA−1由来ペプチドに対する抗EBV VCA p40モノクローナル抗体(EBV.OT41A)の反応性を表す。ライン2−4は、異なる濃度(各々、5μg/ml、10ng/ml 、及び、1ng/ml)における抗EBNA−1マウスモノクローナル抗体EBNA.OT1xの反応性を表す。ライン5は、免疫していないウサギ血清の反応性を表す。ライン6は、組換えEBNA−1で免疫したウサギ血清の反応性を表す。
【図4】EBNA.OT1xモノクローナル抗体を使用した、EBV−感染細胞中におけるEBNA−1の検出についての間接的蛍光抗体法。A:EBVに潜伏的に感染しているX50−7細胞。B:EBV陰性BJAB細胞と1:1で混合した、EBV発現のために誘導化させたHH514.c16細胞。
【図5A】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。EBV陰性Jurkat細胞の分析。
【図5B】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。EBV陽性ヒトバーキットリンパ腫細胞(Daudi)の分析。
【図5C】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。EBV血清陰性ドナーからの末梢血リンパ球の分析。
【図5D】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。ポリクローナルEBV形質転換ヒトB−リンパ球の分析。
【図5E】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。樹立されたクローン化B−細胞(EBV−陽性)の分析。
【図5F】リンパ細胞及び細胞系における核内EBNA−1染色のFACS分析。樹立されたクローン化B−細胞(EBV−陽性)の分析。
【図6A】モノクローナル抗体EBNA.OT1xを使用した、異なるEBV株のEBNOタイピングの結果。
【図6B】ヒト血清を使用した、異なるEBV株のEBNOタイピングの結果。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エプスタイン−バールウイルスに対する抗体と免疫化学的に反応し、配列番号:1に示されるアミノ酸配列の少なくとも一部を含むペプチド。
【請求項2】
配列番号:2から6に示されるアミノ酸配列の一つもしくは複数を含む、請求の範囲項1に記載のペプチド。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載のペプチドに対する抗体。
【請求項4】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
受託番号92071613として、Porton Down (英国)のEuropean Collection of Animal Cell Cultures (ECACC)に寄託してあるハイブリドーマ細胞系により産生されるモノクローナル抗体と同一の、EBNA−1に対する反応性を有するモノクローナル抗体。
【請求項6】
請求項5に記載のモノクローナル抗体を産生することが可能な不死化細胞系。
【請求項7】
受託番号92071613として、Porton Down (英国)のEuropean Collection of Animal Cell Cultures (ECACC)に寄託してある不死化細胞系。
【請求項8】
請求項3から5のいずれか一項に記載の抗体に対して反応性を示す抗イディオタイプ抗体。
【請求項9】
適切な担体もしくはラベル化物に結合している、請求項1もしくは請求項2に記載のペプチドを含む免疫化学的試薬。
【請求項10】
適切な担体もしくはラベル化物に結合してある、請求項3から5のいずれか一項に記載の抗体を含む免疫化学的試薬。
【請求項11】
試料中のEBVの検出のための方法であって、請求項3から5のいずれか一項に記載の抗体と当該試料を接触させ、その後、形成される免疫複合体の存在を検出し、更に、これにより試料中に含まれるEBVの存在を決定する前記方法。
【請求項12】
検査液中の、エプスタイン−バールウイルスに対する抗体の検出のための方法であって、請求項9に記載の免疫化学的試薬を検査液と接触させ、更に、検査液中において形成される免疫複合体の存在を検出することを特徴とする前記方法。
【請求項13】
検査液中の、エプスタイン−バールウイルスに対する抗体の検出のための方法であって、請求項9に記載の免疫化学的試薬を検査液及びエプスタイン−バールウイルスに対する抗体とに接触させ、その後、形成される免疫複合体を検出し、更に、これにより検査液中のエプスタイン−バールウイルスの存在を検出することを特徴とする前記方法。
【請求項14】
請求項11から13のいずれか一項に記載の方法を実施するための検査キット。
【請求項1】
エプスタイン−バールウイルスに対する抗体と免疫化学的に反応し、配列番号:1に示されるアミノ酸配列の少なくとも一部を含むペプチド。
【請求項2】
配列番号:2から6に示されるアミノ酸配列の一つもしくは複数を含む、請求の範囲項1に記載のペプチド。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載のペプチドに対する抗体。
【請求項4】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
受託番号92071613として、Porton Down (英国)のEuropean Collection of Animal Cell Cultures (ECACC)に寄託してあるハイブリドーマ細胞系により産生されるモノクローナル抗体と同一の、EBNA−1に対する反応性を有するモノクローナル抗体。
【請求項6】
請求項5に記載のモノクローナル抗体を産生することが可能な不死化細胞系。
【請求項7】
受託番号92071613として、Porton Down (英国)のEuropean Collection of Animal Cell Cultures (ECACC)に寄託してある不死化細胞系。
【請求項8】
請求項3から5のいずれか一項に記載の抗体に対して反応性を示す抗イディオタイプ抗体。
【請求項9】
適切な担体もしくはラベル化物に結合している、請求項1もしくは請求項2に記載のペプチドを含む免疫化学的試薬。
【請求項10】
適切な担体もしくはラベル化物に結合してある、請求項3から5のいずれか一項に記載の抗体を含む免疫化学的試薬。
【請求項11】
試料中のEBVの検出のための方法であって、請求項3から5のいずれか一項に記載の抗体と当該試料を接触させ、その後、形成される免疫複合体の存在を検出し、更に、これにより試料中に含まれるEBVの存在を決定する前記方法。
【請求項12】
検査液中の、エプスタイン−バールウイルスに対する抗体の検出のための方法であって、請求項9に記載の免疫化学的試薬を検査液と接触させ、更に、検査液中において形成される免疫複合体の存在を検出することを特徴とする前記方法。
【請求項13】
検査液中の、エプスタイン−バールウイルスに対する抗体の検出のための方法であって、請求項9に記載の免疫化学的試薬を検査液及びエプスタイン−バールウイルスに対する抗体とに接触させ、その後、形成される免疫複合体を検出し、更に、これにより検査液中のエプスタイン−バールウイルスの存在を検出することを特徴とする前記方法。
【請求項14】
請求項11から13のいずれか一項に記載の方法を実施するための検査キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6A】
【図6B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図6A】
【図6B】
【公開番号】特開2008−273972(P2008−273972A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120170(P2008−120170)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【分割の表示】特願平6−507783の分割
【原出願日】平成5年9月13日(1993.9.13)
【出願人】(394010986)アクゾ・ノベル・エヌ・ベー (31)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【分割の表示】特願平6−507783の分割
【原出願日】平成5年9月13日(1993.9.13)
【出願人】(394010986)アクゾ・ノベル・エヌ・ベー (31)
【Fターム(参考)】
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