説明

エポキシ化合物、エポキシ基含有シリコーン化合物および硬化性組成物

【課題】ヒドロシリル化反応の際に炭素−炭素二重結合が内部転位を起こしにくく、且つエステル部位の還元反応を起こしにくいエポキシ化合物、また、透明性、耐熱性、ガスバリア性に優れた硬化物が得られる硬化性組成物を提供する。
【解決手段】以下の一般式(1)で表されるエポキシ化合物;


(式中、R1〜R9は、各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜4の整数である。)上記エポキシ化合物と、異なるSi原子に水素原子が結合して形成されるSi−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物とをヒドロシリル化反応することで得られる、エポキシ基含有シリコーン生成物を含む硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物および硬化性組成物に関する。さらに詳しくは、分子内の脂環骨格にエポキシ基と炭素−炭素二重結合を有するノルボルネニル基を含む新規なエポキシ化合物、該化合物から誘導されるエポキシ基含有シリコーン生成物を含む硬化性組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光ダイオード(LED)素子や半導体チップの封止材としては、これらの部品を実装する基板との接着性や強靭性、ガスバリア性などの点から一般にエポキシ樹脂が用いられている。
【0003】
しかし、エポキシ樹脂を封止材として用いた場合、エポキシ樹脂の耐熱性や耐光性が十分でないため、発熱や光エネルギーの大きい青色および白色LEDにおいて、封止材の着色や、クラック発生などが見られ、LED素子の性能を大きく低下させている。そこで、耐熱性および耐光性に優れたシリコーン樹脂をLED封止材として用いる検討が多く実施されている(例えば、特許文献1,2)。しかしシリコーン樹脂は、配線部の金属面や、反射板(リフレクタ)として用いられる有機樹脂との接着性が悪いため、シリコーン樹脂をLED封止樹脂として用いた場合には、長時間の使用により封止樹脂が剥離し、LED素子の封止性が低下することがあった。
【0004】
さらに近年、シリコーン樹脂の欠点として、ガス透過性の高さが問題となっている。例えば、封止樹脂を通り抜けた水蒸気によるLED中の無機蛍光体の劣化や、透過した酸素による基板の配線の銀メッキ表面の酸化劣化などが問題点として挙げられている。
【0005】
上記シリコーン樹脂の欠点を改善させるために、シロキサン骨格の繰り返し単位中に置換基としてエポキシ基を有する、エポキシシリコーン樹脂が検討されている(例えば、特許文献3,4)。この樹脂は、シリコーン樹脂が有する耐熱性、耐光性、透明性と、エポキシ樹脂の有する硬度、強度、接着性、ガスバリア性を併せもつことが期待されている。
【0006】
エポキシシリコーン樹脂の合成法としては、Si−H基を含むシリコーン化合物に対して、エポキシ基を有するオレフィン化合物をヒドロシリル化反応により付加させる方法が一般的に用いられている。
【0007】
この方法によりさまざまなエポキシシリコーン樹脂を合成することが可能であるが、従来より提案されていた、ヒドロシリル化により製造されたエポキシシリコーン樹脂は、その硬化物が光や熱により着色しやすいという問題点を有している。
【0008】
特許文献5には、ヒドロシリル化の副反応として、ビニル化合物中の炭素−炭素二重結合が内部転位した高沸点化合物を生じることが示されている。この副生成物が樹脂中に残存するため、光や熱をかけた際に硬化物が着色すると考えられる。このため特許文献5では、反応物を高真空下で加熱し副生成物を除去することで、硬化物の耐熱性が向上する旨が開示されている。しかし精製には長い処理時間が必要であり、装置上の問題からスケールアップへの対応も困難である。
【0009】
また、特許文献6には、カルボン酸アリルエステルとジメチルクロロシランとをヒドロシリル化反応させた場合、下記一般式で示されるカルボン酸アリルエステルの還元反応(エステル交換反応)によるプロピレンとシリルエステルの生成が副反応として起こり、目的物を高純度で得ることが困難であることが開示されている。
【0010】
このため、特許文献6では、ヒドロシリル化反応触媒としてイリジウム触媒を用いることで前記反応を抑制させることが示されているが、イリジウム触媒を用いた場合には反応液の着色が激しく、光学素子用樹脂やその封止材に適用することは困難であった。
【0011】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−221308号公報
【特許文献2】特開2004-186168号公報
【特許文献3】特開2005−171021号公報
【特許文献4】特開2005−343998号公報
【特許文献5】特開2007−302825号公報
【特許文献6】特開2003−96086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、ヒドロシリル化反応の際に炭素−炭素二重結合が内部転位を起こしにくく、且つエステル部位の還元反応を起こしにくいエポキシ化合物を提供することを目的の一つとしている。また、得られたエポキシ化合物とシリコーン化合物とのヒドロシリル化反応により、硬化することで透明性、耐熱性、ガスバリア性に優れた硬化物が得られるエポキシ基含有シリコーン化合物を含有する硬化性組成物を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは前記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下の一般式(1)で表される分子内の脂環骨格にエポキシ基と炭素−炭素二重結合を有するノルボルネニル基を分子内に有する新規エポキシ化合物、およびこのエポキシ化合物とシリコーン化合物とのヒドロシリル化反応により得られるエポキシ基含有シリコーン生成物を含む硬化性組成物の硬化物により上記課題を解決することができることを見出した。具体的には、本発明は以下に記載するものを含む。
[1]以下の一般式(1)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R1〜R9は、各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜4の整数である。R3またはR4と、R5またはR6とは、互いに結合して環を構成してもよく、環を形成する炭素数は1〜8である。)で表されるエポキシ化合物。
[2]前記一般式(1)中のR1〜R9が、すべて水素原子である、[1]に記載のエポキシ化合物。
[3]前記一般式(1)中のnが0又は1である、[1]または[2]に記載のエポキシ化合物。
[4]前記[1]〜[3]のエポキシ化合物(a1)を、異なるSi原子に水素原子が結合して形成されるSi−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)に、ヒドロシリル化反応により付加してなる、エポキシ基含有シリコーン化合物。
[5]前記化合物(a2)が、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンである、[4]のエポキシ基含有シリコーン化合物。
[6]下記式(7)で表されることを特徴とする[5]のエポキシ基含有シリコーン化合物。
【0017】
【化3】

【0018】
[7][1]〜[3]のいずれか一に記載のエポキシ化合物(a1)と、異なるSi原子に水素原子が結合して形成されるSi−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)とをヒドロシリル化反応することで得られる、エポキシ基含有シリコーン生成物を含む硬化性組成物。
[8]前記シリコーン化合物(a2)が、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンである、[7]に記載の硬化性組成物。
[9]さらに硬化剤または重合開始剤を含む[7]または[8]に記載の硬化性組成物。
[10][7]〜[9]のいずれか一に記載の硬化性組成物を硬化して得られる硬化物。
[11][10]に記載の硬化物を封止材として含む光学素子。
[12][10]に記載の硬化物を封止材として含む電子部品。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかるエポキシ化合物は、分子内にノルボルネン骨格を有しているため、耐熱性が高く、しかもノルボルネニルアルキル基として含むために、還元反応(エステル交換反応)による副生物もない。このため、着色が少ない、透明性が高く、しかも耐熱性の高いという特性を有する。
【0020】
このような本発明のエポキシ化合物から誘導されるエポキシ基含有シリコーン化合物を含む硬化性組成物の硬化物は、透明性、耐熱(黄変)性、ガスバリア性に優れるため、プラスチックレンズなどの光学材料用の原料や発光ダイオード(LED)等の光学素子、半導体チップ等の電子部品の封止材料として有用である。
【0021】
本発明のエポキシ化合物は、特定の構造を有すため、透明性、耐熱性が非常に高い。なお、特開2009−40985号公報には、グリシジル基を有するエポキシ化合物が記載されているが、このエポキシ化合物は、グリシジル部位の耐熱性が低いため、本発明のようにSi−H基を有するシリコーン化合物と反応させても耐熱(黄変)性が不十分となることがある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】合成例1で得られた3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イルメチルの1H−NMRスペクトルである。
【図2】合成例2で得られたSi4−CEAnor反応生成物の1H−NMRスペクトルである。
【図3】比較合成例1で得られたSi4−CEA反応生成物の1H−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明を具体的に説明する。
本発明には、以下の(I)新規エポキシ化合物および(II)エポキシ基含有シリコーン生成物を含む硬化性組成物、ならびに(III)エポキシ基含有シリコーン生成物を含む硬化性組成物の硬化物が含まれる。
【0024】
まず、(I)エポキシ化合物について説明する。
(I)新規エポキシ化合物
本発明にかかる(I)エポキシ化合物は、以下の一般式(1)で表される二官能性エポキシ化合物である。
【0025】
【化4】

【0026】
(式中、R1〜R9は、各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜4の整数である。R3またはR4と、R5またはR6とは、互いに結合して環を構成してもよく、環を形成する炭素数は1〜8である。)
本発明にかかるエポキシ化合物は、分子内にノルボルネン骨格を有しており、この骨格内に内部転位を起こしにくく、ヒドロシリル化に対する反応性が高い炭素−炭素二重結合を有するため、このエポキシ化合物を原料として用いて作製した樹脂は残存炭素−炭素二重結合が少なく、その結果優れた耐熱性を発現すると考えられる。また、脱離しやすい炭素−炭素二重結合を有するアリル基の代わりにノルボルネニルアルキル基とすることで、アリルエステルで生じた還元反応を防ぐことができる。
【0027】
一般式(1)におけるR1〜R9としては、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0028】
なお、R3またはR4と、R5またはR6とが結合して環を構成する場合、環を形成する炭素数は1〜8である。ここで、環を形成する炭素数が1の場合R3、R4が結合する6員環の炭素原子と、R5、R6が結合する6員環の炭素原子との間に炭素数が1個CX12(X1、X2は各々独立して水素原子またはメチル基である)として存在するノルボルナン骨格となる。これらの内、原料の入手の容易さの点では、R1〜R9がすべて水素原子であることが好ましい。また一般式(1)におけるnは、0〜4の整数である。これらの内、原料の入手の容易さの点では、nが0又は1であることが好ましい。
【0029】
本発明(I)のエポキシ化合物の製造方法には特に限定は無いが、エポキシ基の開環を防ぐために、エステル交換触媒存在下、下記一般式(2)で表される分子内の脂環骨格にエポキシ基を含有するカルボン酸エステルの群から選ばれる少なくとも1種と、下記一般式(3)で表される含ノルボルネンアルコールとを反応させる方法が好ましい。
【0030】
【化5】

【0031】
(式中、R1〜R9は、各々独立して水素原子または炭素数1〜4までのアルキル基を表し、R10は炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数3〜4のアルケニル基を表す。)
【0032】
【化6】

【0033】
(式中、nは0〜4の整数である。)
一般式(2)において、R10の具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、アリル基、メタリル基等を挙げることができる。エステル交換反応の反応性を考慮すると、メチル基、エチル基、アリル基が好ましい。
【0034】
一般式(3)において、nが4以下のものは原料として比較的入手しやすく好ましい。また、炭化水素鎖が長すぎるとガスバリア性が低下する傾向があるためこの点でもnは4以下が好ましい。これらの中で特に好ましいものとしては、市販品が容易に入手可能な、nが0である5−ノルボルネン−2−オール、又はnが1である5−ノルボルネン−2−メタノールである。
【0035】
エステル交換反応を行う際、上記(2)と(3)の化合物の混合比率は特に限定されないが、一般式(2)で表されるエステル化合物のモル数をa、一般式(3)で表されるアルコール化合物のモル数をbとするとき、2≧b/a≧1を満たすことが好ましく、より好ましくは1.5≧b/a≧1.1である。
【0036】
また前記アルコール化合物が少なすぎる場合、原料のエステル化合物の残存が見られ、効率的でないことがある。また多すぎる場合も、その過剰量に見合う効果が出ないので、経済的に望ましくないことがある。
【0037】
エステル交換反応の反応温度は、使用するエステル交換触媒の種類によっても異なるが、30〜200℃、好ましくは50〜150℃の範囲から選ばれ、常圧または加圧下、または必要に応じて減圧下で行われることが望ましい。さらに、エステル交換反応は平衡反応であるため、反応を効率的に進行させるためには、生成するアルコールを反応系外に速やかに留出させた方がよい。
【0038】
エステル交換反応を行う際にエステル交換触媒を用いる。エステル交換触媒としては、エステル基を活性化させアルコールとの反応を起こさせるものなら、基本的にはどのような触媒でも用いることが出来る。例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルコラート、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の弱酸塩、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ジクロライド等の有機錫化合物、ジメチルアニリン、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン等の3級アミン等が挙げられる。
【0039】
これらの中で、ジブチル錫オキサイド,ジオクチル錫オキサイド,ジブチル錫ジクロライド等の有機錫化合物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸カリウムなどの求核性の比較的弱い触媒を用いることが好ましい。
【0040】
これらの中で、特に好ましいものとしては、ジブチル錫オキサイド,ジオクチル錫オキサイド,ジブチル錫ジクロライド等の有機錫化合物である。中性の有機錫化合物を触媒として用いることで、エポキシ基の開環を最小限に抑えることが可能となる。
【0041】
エステル交換触媒の使用量としては、原料となる(2)の化合物100質量部に対して0.01質量部〜5質量部、好ましくは0.05質量部〜3質量部である。この場合、少なすぎる場合には反応速度が遅くなるし、多い場合にはその量に見合う効果が得られないばかりか、着色がひどくなり、また副反応のためにかえって収率が低下してしまう場合すらある。また、使用するエステル交換触媒の種類によっては、過剰の使用は、エステル交換触媒との分離に多大な時間や労力を要するという問題がある。
【0042】
本発明にかかる(I)新規エポキシ化合物を、従来公知のエポキシ化合物と同様に、エポキシ樹脂に使用することが可能であり、この場合、透明性、高強度、高耐熱性のエポキシ樹脂が得られ、電気・電子・光学部品の封止材料、成型材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤および粉体塗料などの原料用途に適用できる。このとき、公知の硬化剤、硬化促進剤を使用してもよい。
(II)エポキシ基含有シリコーン生成物を含む硬化性組成物
次に、本発明(II)のエポキシ基含有シリコーン生成物を含む硬化性組成物について説明する。
【0043】
エポキシ基含有シリコーン生成物は、前記本発明(I)の新規二官能性エポキシ化合物(a1)とSi−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)とのヒドロシリル化反応生成物(A)である。
【0044】
このヒドロシリル化反応による生成物(A)は、単一の化合物でなくともよい。生成物(A)としては、シリコーン化合物(a2)に含まれる全てのSi−H基が、エポキシ化合物(a1)の炭素−炭素二重結合と反応した化合物を主成分として含むものであることが好ましい。
【0045】
生成物(A)を調製する際、上記エポキシ化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)との混合比率は、エポキシ化合物(a1)のモル数をx、シリコーン化合物(a2)のモル数をy、シリコーン化合物(a2)1モルに含まれるSi−H基の数をtとするとき、2≧t*y/x≧0.6を満たすことが好ましく、より好ましくは1.5≧t*y/x≧0.7 であり、さらに好ましくは1.2≧t*y/x≧0.8である。t*y/xが、この範囲にあると、耐熱性、透明性の高い硬化物を得ることができる。t*y/xが前記下限よりも小さい場合、未反応の炭素−炭素二重結合が多いため耐熱性に大きく影響する。t*y/xが2よりも大きい場合、残存Si−H基が多いため、加水分解縮合した際に生じる水素により硬化物に気泡が混入する可能性が高く、透明性や強度に影響する。
【0046】
シリコーン化合物(a2)は、異なるSi原子に水素原子が結合して形成される2つ以上のSi−H基を分子内に含むものであれば特に制限はないが、本発明では、下記一般式(4)で表される環状シロキサン化合物、または下記一般式(5)又は一般式(6)で表される鎖状シロキサン化合物であることが好ましい。同一のSi原子に複数の水素原子が結合して形成される複数のSi−H基を分子内に有する場合は、エポキシ化合物(a1)との反応の際の立体障害が大きいため避けた方がよい。
【0047】
【化7】

【0048】
(式中、R11、R12、R13は、各々独立して、炭素数1〜10の有機基を表し、lは2〜6、mは0〜10の整数である。)
【0049】
【化8】

【0050】
(式中、R14、R15、R16、R17は、各々独立して、炭素数1〜10の有機基を表し、pは2〜10、qは0〜50の整数である。)
なお、式(4)中の( )l、( )m内のユニット、式(5)中の( )p、( )q内のユニットは連続していなくともよい。
【0051】
【化9】

【0052】
(式中、R18、R19、R20、R21、R22、R23は、各々独立して、炭素数1〜10の有機基を表し、rは0〜10の整数である。)
前記有機基R11〜R23としては、たとえばメチル基、エチル基、ヘキシル基、フェニル基、オクチル基、デシル基等を挙げることができる。また、R11〜R23は−O−として他の一般式(4)、(5)、(6)から他のシリコーン化合物のSiに結合してもよい。たとえば、国際公開WO2009/119469号にあるような、梯子状や篭状のシリコーン化合物であってもよい。
【0053】
またシリコーン化合物(a2)は硬化物の架橋密度を高める目的から、Si−H基の官能基当量が 50〜300g/eqであることが好ましい。Si−H基の官能基当量とは、Si−H基1個あたりのシリコーン化合物の分子量、すなわち、(シリコーン化合物の分子量/Si−H基数)で定義される。シリコーン化合物(a2)としては、耐熱性の観点からは、メチルヒドロシロキサン化合物を用いることが好ましく、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンが特に好ましい。
【0054】
生成物(A)を調製する際、エポキシ化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)との反応に用いるヒドロシリル化触媒は特に限定されず、公知の金属触媒を使用することができる。例えば、白金黒、アルミナ・シリカ・カーボン等の担体に固体白金を担持させた触媒、塩化第2白金、塩化白金酸、白金‐オレフィン錯体、白金‐ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、Karstedt触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒、ルテニウム系触媒等が挙げられる。
【0055】
前記触媒の添加量は特に限定されないが、十分な反応性を有し、かつ生成物の着色を低く抑えるために、エポキシ化合物(a1)中の炭素−炭素二重結合1モルに対して、10-3〜10-8モルの範囲が好ましく、より好ましくは、10-4〜10-7モルの範囲である。
【0056】
生成物(A)を調製する際の上記反応の反応温度は、原料とするエポキシ化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)との反応性、用いる溶媒などによっても異なるため特に限定されないが、反応速度が十分大きくなり、且つ望まない副反応を抑制するためには、40℃〜200℃の範囲が好ましく、より好ましくは、60℃〜150℃の範囲である。反応温度が40℃を下回ると、効率的に反応が進行せず、また200℃を上回ると、エポキシ基の開環反応が進行する可能性がある。
【0057】
上記反応において原料であるシリコーン化合物(a2)の副反応を抑制するために、溶媒を用いることが好ましい。用いる溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶媒等が挙げられる。これらのうち、基質の溶解性の点から、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサンを用いるのが特に好ましい。また、これらの溶媒は単独で使用してもよく、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0058】
生成物(A)を調製する際の上記反応の反応時間は、原料とするエポキシ化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)の反応性、反応温度などによっても異なるため特に限定されないが、転化率を十分大きくするためには、1時間〜12時間の範囲とすることが好ましい。反応時間が短すぎると、未反応原料が残存することがあり、また長すぎても、原料の転化率が効率的に上昇しない場合が多い。
【0059】
上記反応の反応雰囲気は、窒素・アルゴン等の不活性ガス雰囲気下でも、空気下でも良いが、好ましくは不活性ガス雰囲気であり、より好ましくは窒素雰囲気である。
生成物(A)を調製する際のエポキシ化合物(a1)とシリコーン化合物(a2)との反応方法は、原料であるシリコーン化合物(a2)の副反応を抑制するために、シリコーン化合物(a2)を溶媒で希釈した溶液を、エポキシ化合物(a1)と触媒とを溶媒で希釈した溶液中に滴下する方法が好ましい。シリコーン化合物(a2)と触媒とを共存させた場合、脱水素反応により、シリコーン化合物(a2)のゲル化が進行する可能性がある。
【0060】
上記反応により、エポキシ化合物(a1)の炭素-炭素二重結合と、シリコーン化合物(a2)のSi−H基が反応(ヒドロシリル化)して、生成物(A)が得られる。
必要に応じて、生成物は精製してもよく、精製方法は特に制限されず、一般的な方法を採用することができる。たとえば、活性炭、活性白土などの吸着剤やクロマトグラフィー、蒸留などの方法が挙げられる。なお、生成物(A)の使用目的によって、必ずしも反応生成物を精製する必要はなく、そのまま使用してもよい。
【0061】
本発明(II)の硬化性組成物には、上記生成物(A)とともに、硬化物とするために硬化剤または重合開始剤のいずれかをさらに含むことができる。
まず、硬化剤を含む場合について説明する。
【0062】
硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として公知なものなら特に限定されない。例えば、フェノール樹脂等のフェノール化合物、ジアミン、ポリアミン等のアミン化合物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物、トリメリット酸等の多価カルボキシル基含有化合物等が挙げられ、これら化合物の1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの硬化剤のうち、得られる硬化物の耐熱性、耐光性、透明性等を考えると、酸無水物硬化剤を用いることが好ましい。
【0063】
硬化剤として使用可能な酸無水物としては特に限定されない。例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、無水2,4−ジエチルグルタル酸等を挙げることができる。これらの中で好ましいものとしては、25℃で液状の酸無水物、例えば、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、無水2,4−ジエチルグルタル酸等が挙げられ、中でも脂環式酸無水物が好ましく、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、水素化メチルナジック酸無水物が特に好ましい。これら酸無水物は単独もしくは複数の混合物として用いても良く、例えば、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸と、4−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物等であってもよい。また、液状の酸無水物に固体の酸無水物を溶解して、25℃で液状になっている酸無水物の混合物であってもよい。
【0064】
硬化剤として酸無水物のみを使用する場合には、その使用量は組成物中のエポキシ基の総数に対する酸無水物基の総数の比が、0.7〜1.5の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.8〜1.2の範囲内である。組成物中のエポキシ基の総数に対する酸無水物基の総数が0.7未満であると、架橋密度が低くなることがある。一方、1.5より大きいと、組成物を硬化して得られる硬化物の強度や耐湿性が悪化する傾向がある。
【0065】
上記本発明(II)の生成物(A)を含む硬化性組成物には、必要に応じて硬化促進剤を使用することができる。併用可能な硬化促進剤としては、エポキシ基含有化合物と硬化剤の反応を促進する化合物であれば限定されるものではなく、例えば、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン等のトリアジン系化合物、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニルー4−メチルイミダゾール、ビニルイミダゾール、1−メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のジアザビシクロアルケンなどのシクロアミジン化合物及びその誘導体、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン等の有機ホスフィン化合物、ジシアンジアジド等を挙げることができる。
【0066】
これらの硬化促進剤は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用しても良い。これらの硬化促進剤の中で、好ましいものとしては、トリアジン系化合物及び有機ホスフィン化合物が挙げられる。
【0067】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が達成できれば特に制限はない。しかし、本発明の組成物の硬化性及び本発明の組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性や耐湿性の観点からは、本発明の組成物中のエポキシ基含有化合物の合計100質量部に対し、0.1〜10質量部の範囲内で配合することが好ましく、より好ましくは1〜7質量部である。配合量が0.1質量部未満では短時間で硬化させることが困難であり、10質量部を超えると組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性や耐湿性を悪化させてしまう場合がある。
【0068】
次に重合開始剤について説明する。
本発明の硬化性組成物に含有させることができる重合開始剤は、前記生成物(A)より硬化物を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。通常の脂環式エポキシ基を有する化合物と同様に、カチオン重合開始剤を用いてカチオン重合を行なうことにより硬化物を得ることができる。
【0069】
使用可能なカチオン重合開始剤としては、エポキシ基の開環重合を開始する化合物であれば特に限定されない。カチオン重合開始剤は、大きく、熱によって活性種を生ずる熱カチオン重合開始剤と、光照射されることによって活性種を生ずる光カチオン重合開始剤に分けられるが、前記生成物(A)をカチオン重合させるためのカチオン重合開始剤としては、熱カチオン重合開始剤と光カチオン重合開始剤のいずれのものを用いてもよく、また、併用してもよい。
【0070】
光カチオン重合開始剤は、紫外線の照射によってエポキシ基のカチオン重合を開始する化合物である。例えば、カチオン部分が、トリフェニルスルホニウムやジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウムなどのスルホニウム、ジフェニルヨードニウムやビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムなどのヨードニウム、フェニルジアゾニウムなどのジアゾニウム、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムや1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムなどのピリジニウム、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−FeなどのFeカチオンであり、アニオン部分が、BF4-、PF6-、SbF6-、[BX4-(ただし、Xは少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)で構成されるオニウム塩が挙げられる。
【0071】
熱カチオン重合開始剤としては、トリフル酸(Triflic acid)塩、三弗化硼素エーテル錯化合物、三弗化硼素等のようなカチオン系又はプロトン酸触媒、アンモニウム塩、ホスホニウム塩およびスルホニウム塩等の各種オニウム塩を用いることができる。
【0072】
これらの光及び熱カチオン重合開始剤の中で、オニウム塩が、取り扱い性及び保存安定性と硬化性のバランスに優れるという点で好ましく、その中で、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩及びホスホニウム塩が特に好ましい。
【0073】
カチオン重合開始剤の使用量は特に限定されず、当該開始剤の反応性や、使用するエポキシ基含有シリコーン反応物の粘度、該シリコーン反応物中のエポキシ基の量に応じて適宜設定すればよいが、一般的には、使用するシリコーン反応物100質量部に対し、0.01〜15質量部、より好ましくは0.05〜5質量部の量で添加する。この範囲を外れると、カチオン重合後の硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスが悪くなるため好ましくはない。
【0074】
本発明(II)の生成物(A)を含む硬化性組成物は、必要に応じて各種添加剤を含むことができる。代表的な添加剤としては、例えば、硬化時の熱による酸化劣化を防止し着色の少ない硬化物とするための酸化防止剤や、硬化物の耐光性をさらに向上させるための紫外線吸収剤が挙げられる。
【0075】
酸化防止剤としては、フェノール系、硫黄系、燐系等の酸化防止剤が使用でき、その配合割合は、本発明の組成物中のエポキシ基含有化合物の総量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。
【0076】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、サリチル酸系等の紫外線吸収剤が使用でき、その配合割合は、本発明の組成物中のエポキシ基含有化合物の総量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。
【0077】
その他の添加剤として、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物、微粉末シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ等の珪素化合物、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、カオリン、マイカ、石英粉末、グラファイト、二硫化モリブデン、ガラスビーズ等の粉末状充填材等を配合することもできる。これらの配合割合は、本発明の組成物中のエポキシ基含有シリコーン生成物(A)100質量部に対して、通常、粉末状充填材が100質量部以下であることが好ましい。
【0078】
本発明(II)のエポキシ基含有シリコーン生成物(A)を含む硬化性組成物の調製方法は、各種成分を均一に分散混合できるのであれば、いかなる手法を採用可能である。一般的な手法としては、所定の配合量の成分をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。より具体的には、例えば、上述した成分の所定量を均一に撹拌、混合し、プラネタリーミキサー、三本ロール、二本熱ロール、ライカイ機などの装置を用いて分散混練したのち、真空下で脱泡処理して製造することができる。
(III)硬化性組成物の硬化物
本発明(III)にかかる硬化物は、前記エポキシ基含有シリコーン生成物(A)を含む硬化性組成物の硬化物である。かかる硬化物は、前記(II)の硬化硬化性組成物中に前記硬化剤または熱カチオン重合開始剤を含有する場合には硬化性組成物を熱硬化させることにより得られ、硬化性組成物中に前記光カチオン重合開始剤を含有する場合には硬化性組成物を光硬化させることにより得られる。硬化性組成物を熱硬化させる条件としては特に限定はされないが、一般的には、温度60〜150℃、時間1〜8時間の条件とするのが好ましい。また、硬化性組成物を光硬化させる条件としては特に限定はされないが、一般的には、光源として低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、重水素ランプ、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、タングステンランプ、ガリウムランプ、カーボンアーク灯、白熱電球、蛍光灯、エキシマランプ、レーザーなどを用い、波長200nm〜750nmの光を、照射量50mJ/cm2〜2000mJ/cm2照射することによって行うことが好ましい。
【0079】
本発明の硬化物は、上記したエポキシ基含有シリコーン生成物(A)のエポキシ環が開環重合している。このような硬化物は、透明性、耐熱(黄変)性、ガスバリア性に優れるため、プラスチックレンズなどの光学材料用の原料や発光ダイオード(LED)等の光学素子、半導体チップ等の電子部品の封止材料として好適に利用でき、これらの封止材を含んだ有用な光学素子および電子部品を得ることができる。
【実施例】
【0080】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ制限されるものではない。
エポキシ当量の測定
以下の合成例においてエポキシ当量の測定はJIS K7236に準拠して測定した。
合成例1
3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イルメチルの合成
蒸留装置、ガラス管、玉栓を付けた300mLの三口フラスコに、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル(昭和電工(株)製)100g (0.55mol)、5−ノルボルネン−2−メタノール(Aldrich製)81.8g (0.66mol)、ジブチル錫オキシド(東京化成工業(株)製) 1.37g (55mmol) を入れた。ガラス管より窒素を導入しつつ系を120℃に加熱し、発生するアリルアルコールを蒸留装置で系外に留出させながら5時間撹拌を続けた。得られた反応液を減圧蒸留により精製することで、130℃/0.1Torrの留分において、93.1g の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イルメチルを無色透明液体として得た(収率68%)。図1はその1H−NMRスペクトルである。図1に示した構造式に付された(a)等の符号が示す位置の水素原子に対応するピークに、その符号と同じ符号が付されている。図2以降も同様である。
合成例2
Si4−CEAnor反応生成物の調製
滴下漏斗、還流管、温度計を付けた50mLの三口フラスコに、合成例1で得られた3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イルメチル 4g (16mmol)、Pt(dvs)の3%IPA溶液(エヌ・イー ケムキャット社製 3%−PT−VTS−IPA溶液(ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体イソプロピルアルコール溶液)) 2mg、トルエン 4gを入れ、三口フラスコ内を窒素置換した。前記滴下漏斗に1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン 0.97g (4mmol)、トルエン 2g を入れ、100℃で10分かけて三口フラスコ内に滴下した。滴下終了後、系を120℃に昇温しさらに5時間撹拌を継続した。得られた反応液を真空乾燥することで、4.2g の無色透明液体を得た。図2はその1H−NMRスペクトルである。得られた反応混合物(以下、Si4−CEAnor反応生成物と記載)は、主成分として、一分子の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンに対し、4分子の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イルメチルが反応した以下の式(7)で表される化合物(Si4−CEAnor)を含む。Si4−CEAnor反応生成物のエポキシ当量を測定したところ、341.5g/eqであった。
【0081】
【化10】

【0082】
比較合成例1
Si4−CEA反応生成物の調製
滴下漏斗、還流管、温度計を付けた50mLの三口フラスコに、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル(昭和電工(株)製) 4g (22mmol)、Pt(dvs)の3%IPA溶液(エヌ・イー ケムキャット社製 3%−PT−VTS−IPA溶液(ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体イソプロピルアルコール溶液)) 3mg、トルエン 4gを入れ、三口フラスコ内を窒素置換した。前記滴下漏斗に1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン 1.32g (5.5mmol)、トルエン 2g を入れ、100℃で10分かけて三口フラスコ内に滴下した。滴下終了後、系を120℃に昇温しさらに5時間撹拌を継続した。
【0083】
得られた反応液を真空乾燥することで、4.7gの薄黄色透明液体を得た。図3はその1H−NMRスペクトルである。得られた反応混合物(以下、Si4−CEA反応物と記載)は、主成分として、一分子の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンに対し、4分子の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルが反応した以下の式(8)で表される化合物(Si4−CEA)を含む。Si4−CEA反応物のエポキシ当量を測定したところ、246.48g/eqであった。
【0084】
【化11】

【0085】
[硬化物の作製]
実施例1
Si4−CEAnor樹脂の作製
合成例2で得られた Si4−CEAnor反応生成物 68質量部と、硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業(株)製 HN−5500E) 31質量部、硬化促進剤としてテトラ置換ホスホニウムブロマイド(サンアプロ(株)製 U−CAT5003)1質量部を均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−1時間、100℃−2時間、150℃−2時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
比較例1
Si4−CEA樹脂の作製
比較合成例1で得られたSi4−CEA反応生成物 61質量部と、硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業(株)製 HN−5500E)38質量部、硬化促進剤としてテトラ置換ホスホニウム ブロマイド(サンアプロ(株)製 U−CAT5003)1質量部を均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−1時間、100℃−2時間、150℃−2時間の温度プロファイルで加熱することにより、薄黄色透明の硬化板を得た。
比較例2
脂環式エポキシ樹脂の作製
3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(ダイセル化学(株)製 セロキサイド2021P)46質量部と、硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業(株)製 HN−5500E) 53質量部、硬化促進剤としてテトラ置換ホスホニウム ブロマイド(サンアプロ(株)製 U−CAT5003) 1質量部を均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物を1mm厚のシリコーンゴム紐を挟み込んだアルミ板に流し込み、60℃−1時間、100℃−2時間、150℃−2時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
比較例3
ジメチルシリコーン樹脂の作製
LPS−3412A (信越化学(株)製) 50質量部と、LPS−3412B (信越化学(株)製) 50質量部とを均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−1時間、70℃−1時間、80℃−1時間、90℃−1時間、120℃−1時間、150℃−1時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
色調の測定
実施例1および比較例1〜3で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々測色色差計(日本電色工業株式会社製、ZE−2000)により透過モードでの色数L,a,bを求めた。
透湿度の測定
実施例1および比較例1〜3で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々ガス透過率測定装置(GTRテック株式会社製、GTR−30XASD)により、40℃、1気圧での透湿度 [g/m2・24hr] を求めた。
酸素透過度の測定
実施例1および比較例1〜3で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々ガス透過率測定装置(GTRテック株式会社製、GTR−30XASD)により、40℃での酸素透過度 [cc/m2・24hr・atm] を求めた。
耐熱性の測定
実施例1および比較例1〜3で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々測色色差計(日本電色工業株式会社製、ZE−2000)により透過モードでの色数 L,a,bを測定した。次に該硬化物を150度の回転ギア付きオーブンに入れ、100時間加熱した後の硬化物の色数L,a,bを測定した。加熱前後の色差ΔEを求めた。
【0086】
実施例1および比較例1〜3で得られた硬化板を用いて測定した上記特性値を表1にまとめて記した。
【0087】
【表1】

【0088】
実施例1のΔE値は比較例1,2に比べて小さく、耐熱性に優れた硬化物を与えることが分かる。実施例1の透湿度は比較例2に比べて約1/8と小さく、酸素透過度も比較例1、2と比べて遜色無いレベルであり、ガスバリア性の高い樹脂であることが分かる。比較例3は従来のシリコーン樹脂の一例であるジメチルシリコーン樹脂を同様に評価した結果である。耐熱性は良好であるが実施例1と比較して著しく水蒸気バリア性、酸素バリア性に劣っていた。
【0089】
色調は、従来、光学材料に使用されていた比較例1や2の樹脂と同レベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、青色・白色発光ダイオード等の光学電子用封止材、半導体等の電子回路用封止材などの分野への利用が期待される、耐熱性、ガスバリア性に優れた硬化物を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(1)
【化1】

(式中、R1〜R9は、各々独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0〜4の整数である。R3またはR4と、R5またはR6とは、互いに結合して環を構成してもよく、環を形成する炭素数は1〜8である)で表されるエポキシ化合物。
【請求項2】
前記一般式(1)中のR1〜R9が、すべて水素原子である、請求項1に記載のエポキシ化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)中のnが0又は1である、請求項1または2に記載のエポキシ化合物。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれか一に記載のエポキシ化合物(a1)を、異なるSi原子に水素原子が結合して形成されるSi−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)に、ヒドロシリル化反応により付加してなる、エポキシ基含有シリコーン化合物。
【請求項5】
前記化合物(a2)が、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンである、請求項4に記載のエポキシ基含有シリコーン化合物。
【請求項6】
下記式(7)で表されることを特徴とする請求項5に記載のエポキシ基含有シリコーン化合物。
【化2】

【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一に記載のエポキシ化合物(a1)と、異なるSi原子に水素原子が結合して形成されるSi−H基を分子内に2つ以上含む鎖状または環状のシリコーン化合物(a2)とをヒドロシリル化反応することで得られる、エポキシ基含有シリコーン生成物を含む硬化性組成物。
【請求項8】
前記シリコーン化合物(a2)が、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンである、請求項7に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
さらに硬化剤または重合開始剤を含む請求項7または8に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一に記載の硬化性組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項11】
請求項10に記載の硬化物を封止材として含む光学素子。
【請求項12】
請求項10に記載の硬化物を封止材として含む電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−236207(P2011−236207A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89030(P2011−89030)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】