説明

エポキシ化合物の製造方法

【課題】エポキシ化合物の製造において、へテロポリ酸を用いる方法は高価な重金属を触媒として用いる上、触媒は回収できない。チタノシリケート触媒を用いる方法はメタリルクロライド等の反応転換率が低いことが報告されている。また、クロロヒドリン化を経る方法ではメタリルクロライドからジクロロヒドリン中間体を得る工程において、オレフィン化合物が副生成物として生成し、目的化合物を効率よく得られないという問題がある。
【解決手段】本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水存在下において、N−ブロモ化合物、N−ヨード化合物を用いてオレフィンをハロヒドリン化した後、塩基と反応させ閉環させるといった2段階の工程によりエポキシ化合物が効率的かつ簡便に得られることを見出し、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンの選択的なエポキシ化方法に関する。本発明により得られるエポキシ化合物は、農薬や医薬の中間体、各種ポリマーの原料などとして有用である。
【背景技術】
【0002】
オレフィンのエポキシ化方法としては、タングステンなどの重金属を含むヘテロポリ酸触媒下、オレフィンと過酸化水素を反応させる方法(特許文献1、非特許文献1)、チタノシリケート触媒存在下、オレフィンと過酸化水素水を反応させる方法が報告されている(特許文献2、非特許文献2)。また、塩素化剤を用いてオレフィンをクロロヒドリンに変換し、これと苛性ソーダ水溶液を反応させエポキシ化合物を得る方法が報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−179663
【特許文献2】特開平11−199577
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】The Journal of Organic Chemistry, 1988,53,p.1553.
【非特許文献2】Journal of Catalysis Chemical,2002,208,p.339
【非特許文献3】有機合成化学、1970、28、P.1058
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の製法のうちへテロポリ酸を用いる方法は高価な重金属を触媒として用いる上、触媒は回収できない。チタノシリケート触媒を用いる方法はメタリルクロライド等の反応転換率が低いことが報告されている。また、クロロヒドリン化を経る方法ではメタリルクロライドからジクロロヒドリン中間体を得る工程において、オレフィン化合物が副生成物として生成し、目的化合物を効率よく得られないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水存在下において、N−ブロモ化合物、N−ヨード化合物を用いてオレフィンをハロヒドリン化した後、塩基と反応させ閉環させるといった2段階の工程によりエポキシ化合物が効率的かつ簡便に得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、
水存在下において、下記一般式(1)で示されるオレフィンをN−ブロモ化合物、N−ヨード化合物によりハロヒドリン化した後に、塩基と反応させることを特徴とするオレフィンのエポキシ化方法を提供するものである。
【化1】

(式中、R、R、RおよびRは水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、カルボニル基、エステル基、ニトロ基、シアノ基を表し、R、R、RおよびRのうちいずれか複数個はそれらが含むひとつ以上の炭素原子を介して互いに結合することにより環状構造を形成してもよく、一般式(1)で示されるオレフィンが有する炭素原子の合計数は3〜18である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、ハロヒドリン化工程におけるオレフィン副生成物の生成を抑制し、目的とするエポキシ化合物を高収率かつ簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、水存在下において、オレフィンをN−ブロモ化合物、N−ヨード化合物により、ハロヒドリン化するハロヒドリン化工程と得られたハロヒドリンを塩基と反応させ閉環反応によりエポキシ化合物を得る閉環工程を少なくとも含む。
【0010】
本発明の第一工程であるハロヒドリン化工程について詳細に説明する。
【0011】
オレフィン
本発明で用いられるオレフィンは、下記一般式(1)で示される化合物である。
【化2】

(式中、R、R、RおよびRは水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい、アラルキル基、アリール基、カルボニル基、エステル基、ニトロ基、シアノ基を表し、R、R、RおよびRのうちいずれか複数個はそれらが含むひとつ以上の炭素原子を介して互いに結合することにより環状構造を形成してもよく、一般式(1)で示されるオレフィンが有する炭素原子の合計数は3〜18である。
【0012】
一般式(1)において、R、R、RおよびRが表すハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。R、R、RおよびRが表すアルキル基としては、炭素原子数1〜16のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの直鎖状アルキル基;シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などのシクロアルキル基などが挙げられる。これらのアルキル基は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、などのハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基などのアシル基;アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基などのエステル基などが挙げられる。
【0013】
上記一般式(1)で示される炭素原子数が3〜18のオレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、3−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、3−ヘプテンなどの直鎖状脂肪族オレフィン;2−メチルプロペン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−メチル−2−ペンテン、3−メチル−2−ペンテン、4−メチル−2−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−2−ペンテン、分岐状脂肪族オレフィン;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1−メチル−1−シクロヘキセン、1−イソプロピル−1−シクロヘキセン、1,5−ジメチル−1−シクロオクテン、ピネン、ノルボルネンなどの脂環式オレフィン;スチレン、スチルベン、ビニルナフタレンなどの芳香族オレフィン;1,1−ジフルオロ−1−プロペン、1,1−ジフルオロ−1−ブテン、1,1,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、アリルフルオライド、メタリルフルオライドなどのフッ素含有オレフィン;アリルクロライド、メタリルクロライド、クロチルクロライド、3−クロロ−1−ブテン、trans−1,4−ジクロロ−2−ブテン、cis−1,4−ジクロロ−2−ブテン、3−クロロ−2−クロロメチル−1−プロペン、6−クロロ−1−へキセン、シトロネリルクロライドなどの塩素含有オレフィン;アリルブロマイド、メタリルブロマイド、4−ブロモ−1−ブテン、5−ブロモ−1−ペンテン、シトロネリルブロマイドなどの臭素含有オレフィン;アリルヨーダイド、メタリルヨーダイドなどのヨウ素含有オレフィン;1−クロロ−3−シクロヘキセン、1−クロロ−5−シクロオクテンなどのハロゲン含有シクロオレフィン等が挙げられる。
【0014】
本反応で用いられるオレフィンは下記一般式(2)で表されるものが好ましい。
【化3】

(式中R、R、RおよびRは水素原子、置換されていてもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基を表し、R、R、RおよびRのうちいずれか複数個はそれらが含むひとつ以上の炭素原子を介して互いに結合することにより環状構造を形成してもよく、一般式(2)で示されるオレフィンが有する炭素原子の合計数は3〜18である。Xはハロゲン原子を表す。)
【0015】
一般式(2)において、R、R、RおよびRが表すアルキル基としては、炭素原子数1〜15のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの直鎖状アルキル基;シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などのシクロアルキル基などが挙げられる。これらのアルキル基は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、などのハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基などのアシル基;アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基などのエステル基などが挙げられる。
【0016】
上記一般式(2)で示される炭素原子数が3〜18のオレフィンの具体例としては、アリルフルオライド、メタリルフルオライドなどのフッ素含有オレフィン;アリルクロライド、メタリルクロライド、クロチルクロライド、3−クロロ−1−ブテン、trans−1,4−ジクロロ−2−ブテン、cis−1,4−ジクロロ−2−ブテン、3−クロロ−2−クロロメチル−1−プロペンなどの塩素含有オレフィン;アリルブロマイド、メタリルブロマイド、3−ブロモ−1−ブテン、5−ブロモ−1−ペンテン、などの臭素含有オレフィン;アリルヨーダイド、メタリルヨーダイドなどのヨウ素含有オレフィン等が挙げられる。
【0017】
特に本反応で用いられるオレフィンは下記一般式(3)で表されるものがより好ましい。
【化4】

(式中RおよびR10は水素原子、置換されていてもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基を表し、R、R10はそれらが含むひとつ以上の炭素原子を介して互いに結合することにより環状構造を形成してもよく、R11は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。一般式(3)で示されるオレフィンが有する炭素原子の合計数は4〜18である。Xはハロゲン原子を表す。)
【0018】
一般式(3)において、R、R10が表すアルキル基としては、炭素原子数1〜14のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの直鎖状アルキル基;シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などのシクロアルキル基などが挙げられる。これらのアルキル基は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、などのハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基などのアシル基;アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基などのエステル基などが挙げられる。R、R10が表すアルキル基としては、炭素原子数1〜14のアルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。
【0019】
上記一般式(3)で示される炭素原子数が4〜18のオレフィンの具体例としては、メタリルフルオライドなどのフッ素含有オレフィン;メタリルクロライドなどの塩素含有オレフィン;メタリルブロマイドなどの臭素含有オレフィン;メタリルヨーダイドなどのヨウ素含有オレフィン等が挙げられる。
【0020】
上記一般式(1)、(2)および(3)で表されるオレフィンの中でも、1−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルクロライド、メタリルクロライド、アリルブロマイド、メタリルブロマイド、スチレンなどのオレフィンが好ましい。
上記一般式(1)、(2)および(3)で表されるオレフィンは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
ハロゲン化剤
本発明のハロヒドリン化工程において使用されるハロゲン化剤としては、N−ブロモ化合物、N−ヨード化合物を用いることができる。本発明のN−ブロモ化合物、N−ヨード化合物とは、窒素原子に臭素原子又はヨウ素原子が結合した構造(−N−Br、−N−I)を有する化合物の総称をいう。例えば、N−ブロモスクシンイミド、1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン、トリブロモシアヌル酸、ブロモイソシアヌル酸一ナトリウム、N−ブロモフタルイミド、N−ブロモサッカリン、N−ブロモアセトアミドなどの臭素化剤、N−ヨードスクシンイミド、1,3−ジメチル−5,5−ジヨードヒダントイン、トリヨードシアヌル酸などのヨウ素化剤が挙げられる。これらハロゲン化剤のうち、入手の容易さの面からN−ブロモスクシンイミド、1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイントリブロモイソシアヌル酸、N−ブロモアセトアミドなどのN−ブロモ化合物がより好ましく用いられ、反応性の面から1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン、1,3−ジメチル−5,5−ジヨードヒダントインが特に好ましく用いられる。これらのハロゲン化剤は、単独で使用しても良いし、2種以上を混合して用いることも可能である。
【0022】
ハロゲン化剤の使用量
ハロゲン化剤の使用量は特に限定されないが、反応効率の観点よりオレフィンに対して、0.4〜20倍当量の範囲が好ましく、約1〜10倍当量の範囲がより好ましい。1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン、1,3−ジメチル−5,5−ジヨードヒダントインなどの1分子あたり2個のハロゲン原子を発生させる化合物についてはオレフィンに対して、0.2〜10倍当量の範囲が好ましく、約0.5〜5倍当量の範囲がより好ましい。
【0023】
水の使用量
本発明のハロヒドリン化工程における水の使用量は、特に限定されるものではないが、一般式(1)で示されるオレフィンに対して1〜100倍当量の範囲であり、好ましくは2〜50倍当量の範囲である。有機溶媒を加える場合、その使用量は一般式(1)で示されるオレフィンに対して10〜100倍当量範囲であり、好ましくは20〜50倍当量範囲である。
【0024】
反応溶媒
このハロヒドリン化工程では、反応剤である水以外に特に溶媒を必要としないが、有機溶媒を加えてもよい。ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエテン、クロロホルム、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類などである。これらの溶媒は単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0025】
反応条件
このハロヒドリン化工程における反応温度は特に限定されないが、十分な反応速度が得られ、かつ安全に反応を行える点で、0〜70℃が好ましく、10〜50℃がより好ましい。また、常圧下又は加圧下の何れの条件で反応を行ってもよい。
【0026】
次に、本発明の第二工程である閉環工程について説明する。
【0027】
塩基
閉環反応で使用する塩基としては、特に限定されるものではないが、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、カルボン酸塩などの無機塩基、有機塩基を使用することができる。無機塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、などの水酸化物、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウムなどのリン酸塩、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどのカルボン酸塩などが挙げられえる。また有機塩基としては、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ピリジン、2,6−ルチシン、2,4,6−コリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンなどがあげられる。これらの塩基のうち無機塩基が好ましく用いられ、反応性の面から水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。上記の塩基は単独で用いても2種類以上を併用しても良い。
【0028】
塩基の使用量
本反応で使用する塩基の使用量は特に限定されないが、オレフィンに対して、0.1〜5.0当量とするのが好ましく、0.5〜3.0当量とするのがより好ましい。
【0029】
反応溶媒
本発明の第二工程である閉環工程では、第一工程であるハロヒドリン化で用いた水以外に特に溶媒を必要としないが、有機溶媒を加えてもよい。ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノールなどのアルコール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類などである。これらの溶媒は単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
溶媒の使用量は一般式(1)で示されるオレフィンに対して1〜100倍当量の範囲であり、好ましくは2〜50倍当量の範囲である。
【0030】
反応条件
本発明の第二工程である閉環工程における反応温度は特に限定されないが、十分な反応速度が得られ、かつ安全に反応を行える点で、反応温度は−10〜60℃が好ましく、0〜40℃がより好ましい。また、常圧下又は加圧下の何れの条件で反応を行ってもよい。
【0031】
本発明の方法において、第一工程であるオレフィンとハロゲン化剤を必要に応じて溶媒とともに混合しハロヒドリン化させた後、塩基と必要に応じて溶媒を添加し閉環反応を行う方法が好ましい。すなわち、ハロヒドリン化工程と閉環工程は、ワンポットで実施してもよい。本発明において、ワンポットで実施するということは、ハロヒドリン化工程の反応生成物を単離精製することなく、反応を行うことを意味する。ワンポットで行うことにより、反応を大規模な形態で行うことができるため、非常に反応工程全体として効率的であり、更に、ハロヒドリン化工程後の精製工程が不要であるために、非常に経済的にも優れている。
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
メチルエピクロロヒドリンの製造1
300mLの三口フラスコにメタリルクロライド50.0g(0.552mol)、水39.8g(2.21mol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン78.9g(0.276mol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。2時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら48%NaOH水溶液55.2g(0.663mol)を滴下し、反応液を15〜20℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピクロロヒドリンの定量収率は82.8%であった。
【0034】
[実施例2]
メチルエピクロロヒドリンの製造2
塩基に24%NaOH水溶液110.4g(0.663mol)を用いる以外は実施例1と同じ条件で行い、ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピクロロヒドリンの定量収率は80.9%でメチルエピクロロヒドリンであった。
【0035】
[実施例3]
メチルエピクロロヒドリンの製造3
50mLの三口フラスコにメタリルクロライド5.00g(55.2mmol)、水18.0g(1.00mol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン7.89g(27.6mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。2時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら炭酸ナトリウム8.76g(82.7mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピクロロヒドリンの定量収率は64.8%であった。
【0036】
[実施例4]
メチルエピクロロヒドリンの製造4
50mLの三口フラスコにメタリルクロライド5.00g(55.2mmol)、水20.0g(1.11mol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン7.89g(27.6mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。2時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら炭酸カリウム7.63g(55.2mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピクロロヒドリンの定量収率は67.3%であった。
【0037】
[実施例5]
メチルエピクロロヒドリンの製造5
50mLの三口フラスコにメタリルクロライド5.00g(55.2mmol)、水4.00g(221mmol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン7.89g(27.6mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。2時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら50%水酸化カリウム水溶液7.44g(66.3mmol)を滴下し、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピクロロヒドリンの定量収率は78.8%であった。
【0038】
[実施例6]
メチルエピクロロヒドリンの製造6
50mLの三口フラスコにメタリルクロライド5.00g(55.2mmol)、水15.1g(839mmol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン7.89g(27.6mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。2時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら水酸化カルシウム8.75g(118mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピクロロヒドリンの定量収率は77.8%であった。
【0039】
[実施例7]
メチルエピクロロヒドリンの製造7
50mLの三口フラスコにメタリルクロライド10.0g(0.110mol)、水7.96g(0.442mol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながらN−ブロモスクシンイミド19.7g(0.110mol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。16時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら48%NaOH水溶液11.0g(0.133mol)を滴下し、反応液を15〜20℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピクロロヒドリンの定量収率は75.2%であった。
【0040】
[実施例8]
メチルエピクロロヒドリンの製造8
50mLの三口フラスコにメタリルクロライド10.0g(0.110mol)、水7.96g(0.442mol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながらN−ヨードスクシンイミド24.9g(0.110mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。1.5時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら48%NaOH水溶液11.0g(0.133mol)を滴下し、反応液を15〜20℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピクロロヒドリンの定量収率は65.8%であった。
【0041】
[実施例9]
シクロヘキセンオキシドの製造
50mLの三口フラスコにシクロヘキセン10.0g(0.122mol)、水8.78g(0.487mol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン17.4g(60.9mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。2時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら48%NaOH水溶液12.2g(0.146mol)を滴下し、反応液を15〜20℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、シクロヘキセンオキシドの定量収率は54.3%であった。
【0042】
[実施例10]
1,2−エポキシヘキサンの製造
50mLの三口フラスコに1−ヘキセン18.0g(0.214mol)、水57.8g(3.21mol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン30.6g(0.107mol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。3時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら48%NaOH水溶液21.3g(25.7mmol)を滴下し、反応液を15〜20℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、1,2−エポキシヘキサンの定量収率は52.1%でであった。
【0043】
[実施例11]
メチルエピブロモヒドリンの製造
50mLの三口フラスコにメタリルブロマイド5.00g(37.0mmol)、水3.34g(0.185mol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン5.30g(18.5mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。2時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら48%NaOH水溶液3.70g(44.4mmol)を滴下し、反応液を15〜20℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピブロモヒドリンの定量収率は76.3%であった。
【0044】
[実施例12]
エピクロロヒドリンの製造
50mLの三口フラスコにアリルクロライド5.00g(65.3mmol)、水4.71g(0.261mol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン9.34g(32.7mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。3時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら48%NaOH水溶液6.53g(78.4mmol)を滴下し、反応液を15〜20℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、エピクロロヒドリンの定量収率は81.8%であった。
【0045】
[実施例13]
スチレンオキシドの製造
50mLの三口フラスコにスチレン10.0g(96.0mmol)、水7.00g(388mmol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジブロモヒダントイン13.7g(48.0mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。2時間後のガスクロマトグラフィーでモニターを行い、原料ピークの消失を確認した後、アイスバスで冷却しながら48%NaOH水溶液9.60g(115mmol)を滴下し、反応液を15〜20℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、スチレンオキシドの定量収率は74.1%であった。
【0046】
[比較例1]
メチルエピクロロヒドリンの製造9
50mLの三口フラスコにメタリルクロライド5.00g(55.2mmol)、水3.98g(221mmol)を加えた。この反応液をアイスバスで冷却しながら1,3−ジメチル−5,5−ジクロロヒダントイン5.44g(27.6mmol)を加え、反応液を20〜30℃に保って21時間撹拌した。ガスクロマトグラフィーでモニターを行ったところ反応変化率は67.2%、選択率は63.1%であり、このまま閉環工程を行った。アイスバスで冷却しながら48%水酸化ナトリウム水溶液5.52g(66.2mmol)を滴下し、反応液を20〜30℃に保って撹拌した。ガスクロマトグラフィーを用いて定量測定を行ったところ、メチルエピクロロヒドリンの定量収率は31.9%であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水存在下において、一般式(1)
【化1】

(式中、R、R、RおよびRは水素原子または置換されていてもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基を表し、R、R、RおよびRのうちいずれか複数個はそれらが含むひとつ以上の炭素原子を介して互いに結合することにより環状構造を形成してもよく、一般式(1)で示されるオレフィンが有する炭素原子の合計数は3〜18である。)で示されるオレフィンをN−ブロモ化合物あるいはN−ヨード化合物を用いてハロヒドリン化させた後、塩基と反応させることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
【請求項2】
オレフィンが一般式(2)
【化2】

(式中R、R、RおよびRは水素原子、置換されていてもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基を表し、R、R、RおよびRのうちいずれか複数個はそれらが含むひとつ以上の炭素原子を介して互いに結合することにより環状構造を形成してもよく、一般式(2)で示されるオレフィンが有する炭素原子の合計数は3〜18である。Xはハロゲン原子を表す。)で示されるオレフィンであることを特徴とする請求項1記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
オレフィンが一般式(3)
【化3】

(式中RおよびR10は水素原子、置換されていてもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基を表し、RおよびR10はそれらが含むひとつ以上の炭素原子を介して互いに結合することにより環状構造を形成してもよく、R11は炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。一般式(3)で示されるオレフィンが有する炭素原子の合計数は4〜18である。Xはハロゲン原子を表す。)で示されるオレフィンであることを特徴とする請求項1記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
1−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルクロライド、アリルブロマイド、スチレン、メタリルクロライド、メタリルブロマイドで示されるオレフィンをN−ブロモ化合物あるいはN−ヨード化合物を用いてハロヒドリン化させた後、塩基と反応させることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
塩基が無機塩基である請求項1〜4いずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−168289(P2010−168289A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10180(P2009−10180)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】