説明

エポキシ化合物の製造方法

【課題】あえて過酸化物を用いなくてもエポキシ化合物を高活性かつ高選択的に製造することができ、しかも過酸化物を用いないことから安全に反応を行うことが可能な、エポキシ化合物を製造する新規な方法を提供するものである。
【解決手段】触媒としてパラジウム錯体及びMWW型結晶性チタノシリケートを用い、オレフィン、2級アルコールおよび分子状酸素を接触するエポキシ化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物の新規な製造方法に関するものであり、ジオール又はポリオールの原料として工業的に有用なエポキシ化合物を、あえて過酸化物を用いなくても高活性かつ高選択的に製造することができ、しかも過酸化物を用いないことから安全に反応を行うことが可能な、エポキシ化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物の製造方法、特にプロピレンオキシドの製造方法については、いくつかの方法が知られている。
【0003】
例えばプロピレンからクロルヒドリンを経由するクロルヒドリン法が知られているが、該クロルヒドリン法は、クロルヒドリンを石灰乳で脱塩化水素することから多量の塩化カルシウムが副生し、この副生塩化カルシウムの処理や排水負荷が高くなる等の課題がある。
【0004】
また、過酸化物であるエチルベンゼンヒドロペルオキシドを酸化剤として用いプロピレンを酸化するハルコン法が知られている。この方法によれば、エポキシ化合物の酸素元素源は過酸化物中の酸素原子に由来するものである。
【0005】
従って、該ハルコン法は、生成するエポキシ化合物に対し当モル以上の過酸化物を必要とする。このため、多量の過酸化物の使用により、安全性や経済性の面で課題がある。なお、副生1−フェニルエタノールは原材料として再利用できず、スチレンに転換することが必要となる。
【0006】
そして、多量の副生品処理や販売を必要としない方法として、過酸化物として過酸化水素を用いるエポキシ化法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。この方法は、エポキシ化合物の他、副生する化合物は水であり、クリーンな方法として知られている。
【0007】
しかし、特許文献1に提案の方法においては、生成エポキシ化合物に対して過酸化水素を当モル以上必要とすることから、多量の過酸化物の使用が必要であり、高価な過酸化物の使用により安全性や経済性に課題を有していた。
【0008】
そこで、エポキシ化合物の製造において、高価かつ危険性の高い過酸化物の使用を必要としないエポキシ化合物の製造方法が望まれ、提案されてきた。
【0009】
例えば、周期律表第8〜10族の貴金属とチタノシリケートからなる触媒を用い、酸素と水素によりオレフィンを直接酸化してエポキシ化合物を製造する方法(例えば特許文献2参照。)、ヘテロポリ化合物の過酸化物と貴金属化合物からなる触媒を用い、プロピレンと分子状酸素でエポキシ化合物を製造する方法(例えば特許文献3参照。)、チタン化合物で修飾した多孔性金属酸化物とパラジウムを含有した触媒を用い、プロピレンを分子状酸素で直接酸化し、エポキシ化合物を製造する方法(例えば特許文献4参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平04−005028号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平04−352771号公報(第2頁)
【特許文献3】特開2006−68622号公報(第4頁)
【特許文献4】特許4002971号公報(第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2に提案の方法は、高価な過酸化物を必要としない点で優れている反面、エポキシ化合物への反応効率が低い上に、水素と酸素が共存する反応系であるため、爆発に対する安全対策を施す必要があり、安全性の面でも課題を有するものであった。また、特許文献3に提案の方法においては、触媒を構成するヘテロポリ化合物の過酸化物は、熱的安定性に乏しいことから、触媒の安定性に課題を有する。さらに、特許文献4に提案の方法においては、エポキシ化合物の選択率が低いため、工業的利用にはまだまだ改良の余地を有するものであった。
【0012】
そこで、エポキシ化合物の選択率、触媒の安定性が高く、しかも、安全性、経済性及び生産性にも優れたエポキシ化合物の新規な製造方法が望まれてきた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、触媒としてパラジウム錯体と特定の結晶性チタノシリケートを用い、オレフィン、2級アルコールおよび分子状酸素を接触することにより、あえて過酸化物を必要とせず、安全にエポキシ化合物を高活性かつ高選択的に製造することができるエポキシ化合物の新規な製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、触媒としてパラジウム錯体及びMWW型結晶性チタノシリケートを用い、オレフィン、2級アルコールおよび分子状酸素を接触することを特徴とするエポキシ化合物の製造方法に関するものである。
【0015】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の製造方法においては、触媒としてパラジウム錯体及びMWW型結晶性チタノシリケートを用いるものである。ここで、パラジウム錯体単独又はMWW型結晶性チタノシリケート単独を触媒として用いても高効率でエポキシ化合物を製造することはできない。
【0017】
本発明の製造方法においては、パラジウム錯体を触媒の一構成として用いるものである。該パラジウム錯体としてはパラジウム錯体の範疇に属するものであれば制限はなく、その中でも、反応原料として過酸化物を用いずに高活性かつ高選択的にエポキシ化合物を製造することが可能となることから、2価のパラジウム錯体であることが好ましい。そして、該2価のパラジウム錯体としては、2価のパラジウム錯体の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、その中でも安定性に優れる触媒となることから、例えば窒素系配位子、リン系配位子、酸素系配位子からなる2価のパラジウム錯体を挙げることができる。
【0018】
その際の窒素系配位子としては、例えば芳香族系複素環化合物配位子、脂肪族系アミン化合物配位子、芳香族系アミン化合物配位子が挙げられる。
【0019】
該芳香族系複素環化合物配位子としては、例えばビピリジン配位子、メチルビピリジン配位子、エチルビピリジン配位子、プロピルビピリジン配位子、ブチルビピリジン配位子、ペンチルビピリジン配位子、ヘキシルビピリジン配位子、ジメチルビピリジン配位子、ジエチルビピリジン配位子、ジプロピルビピリジン配位子、ジブチルビピリジン配位子、ジペンチルビピリジン配位子、ジヘキシルビピリジン配位子、トリメチルビピリジン配位子、トリエチルビピリジン配位子、トリプロピルビピリジン配位子、トリブチルビピリジン配位子、トリペンチルビピリジン配位子、トリヘキシルビピリジン配位子、テトラメチルビピリジン配位子、テトラエチルビピリジン配位子、テトラプロピルビピリジン配位子、テトラブチルビピリジン配位子、テトラペンチルビピリジン配位子、テトラヘキシルビピリジン、ペンタメチルビピリジン配位子、ペンタエチルビピリジン配位子、ペンタプロピルビピリジン配位子、ペンタブチルビピリジン配位子、ペンタペンチルビピリジン配位子、ペンタヘキシルビピリジン配位子、フェニルビピリジン配位子、ジフェニルビピリジン配位子、トリフェニルビピリジン配位子、ペンタフェニルビピリジン配位子、ヘキサメチルビピリジン配位子、メチルエチルビピリジン配位子、メチルプロピルビピリジン配位子、メチルブチルビピリジン配位子、メチルペンチルビピリジン配位子、メチルヘキシルビピリジン配位子、メチルフェニルビピリジン配位子等の二座配位のビピリジン系配位子;ビキノリン配位子、メチルビキノリン配位子、エチルビキノリン配位子、プロピルビキノリン、ブチルビキノリン配位子、ペンチルビキノリン配位子、ヘキシルビキノリン配位子、ジメチルビキノリン配位子、ジエチルビキノリン配位子、ジプロピルビキノリン配位子、ジブチルビキノリン配位子、ジペンチルビキノリン配位子、ジヘキシルビキノリン配位子、トリメチルビキノリン配位子、トリエチルビキノリン配位子、トリプロピルビキノリン配位子、トリブチルビキノリン配位子、トリペンチルビキノリン配位子、トリヘキシルビキノリン配位子、テトラメチルビキノリン配位子、テトラエチルビキノリン配位子、テトラプロピルビキノリン配位子、テトラブチルビキノリン配位子、テトラペンチルビキノリン配位子、テトラヘキシルビキノリン配位子、ペンタメチルビキノリン配位子、ペンタエチルビキノリン配位子、ペンタプロピルビキノリン配位子、ペンタブチルビキノリン配位子、ペンタペンチルビキノリン配位子、ペンタヘキシルビキノリン配位子、フェニルビキノリン、ジフェニルビキノリン、トリフェニルビキノリン、ペンタフェニルビキノリン、ヘキサメチルビキノリン配位子、メチルエチルビビキノリン配位子、メチルプロピルビビキノリン配位子、メチルブチルビビキノリン配位子、メチルペンチルビビキノリン配位子、メチルヘキシルビビキノリン配位子、メチルフェニルビビキノリン配位子等の二座配位のビキノリン系配位子;フェナントロリン配位子、メチルフェナントロリン配位子、エチルフェナントロリン配位子、プロピルフェナントロリン配位子、ブチルフェナントロリン配位子、ペンチルフェナントロリン配位子、ヘキシルフェナントロリン配位子、ジメチルフェナントロリン配位子、ジエチルフェナントロリン配位子、ジプロピルフェナントロリン配位子、ジブチルフェナントロリン配位子、ジペンチルフェナントロリン配位子、ジヘキシルフェナントロリン配位子、トリメチルフェナントロリン配位子、トリエチルフェナントロリン配位子、トリプロピルフェナントロリン配位子、トリブチルフェナントロリン配位子、トリペンチルフェナントロリン配位子、トリヘキシルフェナントロリン配位子、テトラメチルフェナントロリン配位子、テトラエチルフェナントロリン配位子、テトラプロピルフェナントロリン配位子、テトラブチルフェナントロリン配位子、テトラペンチルフェナントロリン配位子、テトラヘキシルフェナントロリン配位子、ペンタメチルフェナントロリン配位子、ペンタエチルフェナントロリン配位子、ペンタプロピルフェナントロリン配位子、ペンタブチルフェナントロリン配位子、ペンタペンチルフェナントロリン配位子、ペンタヘキシルフェナントロリン配位子、フェニルフェナントロリン配位子、ジフェニルフェナントロリン配位子、トリフェニルフェナントロリン配位子、ペンタフェニルフェナントロリン配位子、ヘキサメチルフェナントロリン配位子、メチルフェニルフェナントロリン配位子、ジメチルフェニルフェナントロリン配位子、ジメチルジフェニルフェナントロリン配位子、バソフェナントロリンジスルホン酸配位子等の二座配位のフェナントロリン系配位子;ピリジン配位子、メチルピリジン配位子、エチルピリジン配位子、プロピルピリジン配位子、ブチルピリジン配位子、ペンチルピリジン配位子、ヘキシルピリジン配位子、ジメチルピリジン配位子、ジエチルピリジン配位子、ジプロピルピリジン配位子、ジブチルピリジン配位子、ジペンチルピリジン配位子、ジヘキシルピリジン配位子、トリメチルピリジン配位子、トリエチルピリジン配位子、トリプロピルピリジン配位子、トリブチルピリジン配位子、トリペンチルピリジン配位子、トリヘキシルピリジン配位子、テトラメチルピリジン配位子、テトラエチルピリジン配位子、テトラプロピルピリジン配位子、テトラブチルピリジン配位子、テトラペンチルピリジン配位子、テトラヘキシルピリジン配位子、ペンタメチルピリジン配位子、ペンタエチルピリジン配位子、ペンタプロピルピリジン配位子、ペンタブチルピリジン配位子、ペンタペンチルピリジン配位子、ペンタヘキシルピリジン配位子、フェニルピリジン配位子、ジフェニルピリジン配位子、トリフェニルピリジン配位子、ペンタフェニルピリジン配位子、ヘキサフェニルピリジンメチルフェニルピリジン配位子、メチルエチルピリジン配位子、メチルプロピルピリジン配位子、メチルブチルピリジン配位子、メチルペンチルピリジン配位子、メチルヘキシルピリジン配位子、メチルフェニルピリジン配位子等の単座配位のピリジン系配位子;キノリン配位子、メチルキノリン配位子、エチルキノリン配位子、プロピルキノリン配位子、ブチルキノリン配位子、ペンチルキノリン配位子、ヘキシルキノリン配位子、ジメチルキノリン配位子、ジエチルキノリン配位子、ジプロピルキノリン配位子、ジブチルキノリン配位子、ジペンチルキノリン配位子、ジヘキシルキノリン配位子、トリメチルキノリン配位子、トリエチルキノリン配位子、トリプロピルキノリン配位子、トリブチルキノリン配位子、トリペンチルキノリン配位子、トリヘキシルキノリン配位子、テトラメチルキノリン配位子、テトラエチルキノリン配位子、テトラプロピルキノリン配位子、テトラブチルキノリン配位子、テトラペンチルキノリン配位子、テトラヘキシルキノリン配位子、ペンタメチルキノリン配位子、ペンタエチルキノリン配位子、ペンタプロピルキノリン配位子、ペンタブチルキノリン配位子、ペンタペンチルキノリン配位子、ペンタヘキシルキノリン配位子、フェニルキノリン配位子、ジフェニルキノリン配位子、トリフェニルキノリン配位子、ペンタフェニルキノリン配位子、ヘキサフェニルキノリンメチルフェニルキノリン配位子、メチルエチルキノリン配位子、メチルプロピルキノリン配位子、メチルブチルキノリン配位子、メチルペンチルキノリン配位子、メチルヘキシルキノリン配位子、メチルフェニルキノリン配位子等の単座配位のキノリン系配位子;ベンゾキノリン配位子、メチルベンゾキノリン配位子、エチルベンゾキノリン配位子、プロピルベンゾキノリン配位子、ブチルベンゾキノリン配位子、ペンチルベンゾキノリン配位子、ヘキシルベンゾキノリン配位子、ジメチルベンゾキノリン配位子、ジエチルベンゾキノリン配位子、ジプロピルベンゾキノリン配位子、ジブチルベンゾキノリン配位子、ジペンチルベンゾキノリン配位子、ジヘキシルベンゾキノリン配位子、トリメチルベンゾキノリン配位子、トリエチルベンゾキノリン配位子、トリプロピルベンゾキノリン配位子、トリブチルベンゾキノリン配位子、トリペンチルベンゾキノリン配位子、トリヘキシルベンゾキノリン配位子、テトラメチルベンゾキノリン配位子、テトラエチルベンゾキノリン配位子、テトラプロピルベンゾキノリン配位子、テトラブチルベンゾキノリン配位子、テトラペンチルベンゾキノリン配位子、テトラヘキシルベンゾキノリン配位子、ペンタメチルベンゾキノリン配位子、ペンタエチルベンゾキノリン配位子、ペンタプロピルベンゾキノリン配位子、ペンタブチルベンゾキノリン配位子、ペンタペンチルベンゾキノリン配位子、ペンタヘキシルベンゾキノリン配位子、フェニルベンゾキノリン配位子、ジフェニルベンゾキノリン配位子、トリフェニルベンゾキノリン配位子、ペンタフェニルベンゾキノリン配位子、ヘキサフェニルベンゾキノリンメチルフェニルベンゾキノリン配位子、メチルエチルベンゾキノリン配位子、メチルプロピルベンゾキノリン配位子、メチルブチルベンゾキノリン配位子、メチルペンチルベンゾキノリン配位子、メチルヘキシルベンゾキノリン配位子、メチルフェニルベンゾキノリン配位子等の単座配位のベンゾキノリン系配位子;アクリジン配位子、メチルアクリジン配位子、エチルアクリジン配位子、プロピルアクリジン配位子、ブチルアクリジン配位子、ペンチルアクリジン配位子、ヘキシルアクリジン配位子、ジメチルアクリジン配位子、ジエチルアクリジン配位子、ジプロピルアクリジン配位子、ジブチルアクリジン配位子、ジペンチルアクリジン配位子、ジヘキシルアクリジン配位子、トリメチルアクリジン配位子、トリエチルアクリジン配位子、トリプロピルアクリジン配位子、トリブチルアクリジン配位子、トリペンチルアクリジン配位子、トリヘキシルアクリジン配位子、テトラメチルアクリジン配位子、テトラエチルアクリジン配位子、テトラプロピルアクリジン配位子、テトラブチルアクリジン配位子、テトラペンチルアクリジン配位子、テトラヘキシルアクリジン配位子、ペンタメチルアクリジン配位子、ペンタエチルアクリジン配位子、ペンタプロピルアクリジン配位子、ペンタブチルアクリジン配位子、ペンタペンチルアクリジン配位子、ペンタヘキシルアクリジン配位子、フェニルアクリジン配位子、ジフェニルアクリジン配位子、トリフェニルアクリジン配位子、ペンタフェニルアクリジン配位子、ヘキサフェニルアクリジンメチルフェニルアクリジン配位子、メチルエチルアクリジン配位子、メチルプロピルアクリジン配位子、メチルブチルアクリジン配位子、メチルペンチルアクリジン配位子、メチルヘキシルアクリジン配位子、メチルフェニルアクリジン配位子等の単座配位のアクリジン系配位子が挙げられる。
【0020】
脂肪族アミン化合物配位子としては、例えばトリエチルアミン配位子、トリプロピルアミン配位子、トリブチルアミン配位子、トリペンチルアミン配位子、トリヘキシルアミン配位子、トリペンチルアミン配位子、トリオクチルアミン配位子、トリノニルアミン配位子、トリデシルアミン配位子、トリシクロペンチルアミン配位子、トリシクロヘキシルアミン配位子等の単座配位の三級脂肪族アミン系配位子が挙げられる。
【0021】
芳香族系アミン配位子として、例えばトリフェニルアミン配位子、トリス(メチルフェニル)アミン配位子、トリス(エチルフェニル)アミン配位子、トリス(プロピルフェニル)アミン配位子、トリス(ブチルフェニル)アミン配位子、トリス(ペンチルフェニル)アミン配位子、トリス(ヘキシルフェニル)アミン配位子等の単座配位の三級芳香族アミン系配位子が挙げられる。
【0022】
リン酸系配位子としては、例えばトリエチルホスフィン配位子、トリプロピルホスフィン配位子、トリブチルホスフィン配位子、トリペンチルホスフィン配位子、トリヘキシルホスフィン配位子、トリフェニルホスフィン配位子、トリス(メチルフェニル)ホスフィン配位子、トリス(エチルフェニル)ホスフィン配位子、トリス(プロピルフェニル)ホスフィン配位子、トリス(ブチルフェニル)ホスフィン配位子、トリス(ペンチルフェニル)ホスフィン配位子、トリス(ヘキシルフェニル)ホスフィン配位子、トリフリルホスフィン配位子等の単座配位のホスフィン系配位子が挙げられる。
【0023】
酸素系配位子としては、例えばジメチルエーテル配位子、ジエチルエーテル配位子、ジプロピルエーテル配位子、ジブチルエーテル配位子、ジペンチルエーテル配位子、ジヘキシルエーテル配位子、オキサシクロブタン配位子、オキサシクロペンタン配位子、オキサシクロヘキサン配位子、オキサシクロヘプタン配位子、ジオキサン配位子等の単座配位のエーテル系配位子が挙げられる。
【0024】
そして、特に高活性かつ高選択的にエポキシ化合物を製造できることから触媒として用いられるパラジウム錯体の配位子は、窒素系配位子であることが好ましく、特に芳香族系複素環化合物配位子であることが好ましく、その中でも更に二座配位のフェナントロリン系配位子であることが好ましい。
【0025】
また、2価のパラジウム錯体である場合、価数を有することから結合可能な置換基を有するものであってもよく、該置換基としては、制限はなく、例えば塩酸基、硝酸基、硫酸基、アセテート基、アセチルアセトナート基等が挙げられ、その中でも、高活性かつ高選択的にエポキシ化合物を製造できる触媒となることから、アセテート基、アセチルアセトナート基であることが好ましく、特にアセテート基であることが好ましい。
【0026】
そして、特に過酸化水素を必要とせず、高活性、高選択的でエポキシ化合物を安全に製造することができると共に、安定性の高い触媒となることから、下式一般式(1)で表されるパラジウム錯体であることが好ましい。
Pd(OAc)L (1)
(式中、OAcはアセテート基を表し、Lはフェナントロリン系配位子を示す。)
また、該パラジウム錯体は、触媒とした際の安定性が高く、しかもエポキシ化合物を製造する際の生産性に優れることから、後記の2級アルコールに溶解するパラジウム錯体であることが好ましい。
【0027】
該パラジウム錯体の調製法としては、パラジウム錯体の調製が可能であれば如何なる方法を用いることも可能であり、例えばパラジウム塩と上記した配位子を溶媒中で撹拌する方法が挙げられる。ここで使用する溶媒として、例えば後記の反応で使用する溶媒を挙げることができる。また、パラジウム塩としては、例えば塩化パラジウム、臭化パラジウム、よう化パラジウム、水酸化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム等の無機塩;テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、ジアンミンジクロロパラジウム、亜硝酸ジアンミンパラジウム等の無機錯塩;ビス(アセチルアセトナート)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム、塩化アリルパラジウム、ジクロロ(テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム、ジクロロビス(ピリジン)パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム等の有機錯塩;酢酸パラジウム、シュウ酸パラジウム等の有機酸塩、等が挙げられ、その中でも、触媒活性および選択性が高くなることから、有機酸塩が好ましく、特に酢酸パラジウムが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において触媒の一構成として用いられるMWW型結晶性チタノシリケ−トは、ゼオライト構造を有する結晶性SiO(シリカライトと称されることもある。)の結晶格子を形成するケイ素の一部をチタニウムで置き換えた一般式nSiO・(1−n)TiOで表される合成ゼオライト物質である。ここで、nは通常0.8〜0.999である。該MWW型結晶性チタノシリケートは、国際ゼオライト学会の構造コードで示される構造である。そして、MWW型以外の構造を有する結晶性チタノシリケートを用いても、高活性かつ高選択的にエポキシ化合物を製造することは困難となる。また、該MWW型結晶性チタノシリケートの状態としては、特に制限はなく、バルク状のもの、層状に剥離したものなどいずれのものでもよく、その中も、特にエポキシ化合物の収率が高くなることから、層状に剥離したものであることが好ましい。
【0029】
該MWW型結晶性チタノシリケートの合成法としては、例えば特開2007−292171号公報、J.Phys.Chem.B、2004,108,19126等に記載の方法により合成することが可能である。
【0030】
本発明で触媒として用いられるMWW型結晶性チタノシリケートには、必要に応じて、ホウ素、アルミニウム、リン、カルシウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム等が含まれてもよく、これら金属の酸化物源を加えて、異元素含有のMWW型結晶性チタノシリケートとしてもよい。また、該MWW型結晶性チタノシリケートは、そのまま使用してもよく、成型して使用してもよい。成型して使用する場合には、一般にはバインダーを用いるが、該バインダーとしては、例えばシリカ、アルミナ等を挙げることができる。
【0031】
本発明の製造方法においては、触媒として該パラジウム錯体及び該MWW型結晶性チタノシリケートを用いることにより、エポキシ化合物の選択性、生産効率に優れた製造方法となるものである。その中でも特に触媒活性が高く、経済性、生産性に優れるエポキシ化合物の製造方法となることから、2価のパラジウム錯体とMWW型結晶性チタノシリケートであることが好ましく、特に2価のパラジウム錯体と層状に剥離したMWW型結晶性チタノシリケートであることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法における該MWW型結晶性チタノシリケートの使用量は反応形式により適宜選択することが可能であり、例えば固定床連続流通式でエポキシ化合物の製造を行う場合には、反応速度や熱収支によりその使用量を決定すればよく、その中でも製造の際の反応が効率的に進行することから、重量時間空間速度(WHSV)として、0.01〜1000hr−1であることが好ましく、特に0.1〜100hr−1であることが好ましい。ここで、重量時間空間速度(WHSV)とは、単位触媒重量当たりの単位時間(hr)に対するオレフィンの供給量の合計重量を表すものである。また、懸濁床の回分式、または、半回分式でエポキシ化合物の製造を行う場合には、溶媒に対して0.0001〜30重量%であることが好ましく、特に0.001〜10重量%であることが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法における該パラジウム錯体の使用量は、反応形式により適宜選択することが可能であり、例えば固定床連続流通式でエポキシ化合物の製造を行う場合には、反応速度や熱収支によりその使用量を決定すればよく、その中でも製造の際の反応が効率的に進行することから、溶媒に対して0.000001〜30重量%であることが好ましく、特に0.00001〜10重量%であることが好ましい。また、MWW型結晶性チタノシリケートとの比は適宜選択することが可能であり、例えば固定床連続流通式でエポキシ化合物の製造を行う場合には、反応速度や熱収支によりその使用量を決定すればよく、MWW型結晶性チタノシリケートの重量に対し、0.0001〜1000重量%、反応が効率的に進行することから、好ましくは0.001〜100重量%である。
【0034】
本発明の製造方法は、触媒としてパラジウム錯体及びMWW型結晶性チタノシリケートを用い、オレフィン、2級アルコール及び分子状酸素を接触することにより、エポキシ化合物を製造することが可能となるものであり、同時に2級アルコールに対応するケトンをも製造することが可能となる。例えばオレフィンとしてプロピレン、2級アルコールとして2−プロパノールを用いた場合には、原理的にはプロピレン1分子、2−プロパノール1分子及び酸素1分子から、プロピレンオキシド1分子、アセトン1分子及び水1分子が生成するものである。
【0035】
本発明の製造方法におけるオレフィンとしては、オレフィンと称される範疇に属するものであれば如何なるものも用いることが可能であり、例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、メチルシクロペンテン、エチルシクロペンテン、プロピルシクロペンテン、ブチルシクロペンテン、メチルシクロヘキセン、エチルシクロヘキセン、プロピルシクロヘキセン、ブチルシクロヘキセン、ジメチルシクロヘキセン、トリメチルシクロヘキセン、シクロペンチルプロペン、シクロペンチルブテン、シクロペンチルペンテン、シクロヘキシルプロペン、シクロヘキシルブテン、スチレン、フェニルプロペン、フェニルブテン等が挙げられ、反応が効率的に進行することから、好ましくは、炭素数3〜10のオレフィンであり、特にプロピレンであることが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法における2級アルコールとしては、2級アルコールの範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノール、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノール、5−ノナノール、2−デカノール、3−デカノール、4−デカノール、5−デカノール、2−トリデカノール、3−トリデカノール、4−トリデカノール、5−トリデカノール、6−トリデカノール、7−トリデカノール、2−ペンタデカノール、3−ペンタデカノール、4−ペンタデカノール、5−ペンタデカノール、6−ペンタデカノール、7−ペンタデカノール、8−ペンタデカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロノナノール、シクロデカノール、1−フェニルエタノール、1−フェニルプロパノール、1−フェニルブタノール、1−フェニルペンタノール、1−フェニルヘキサノール、1−フェニルヘプタノール、1−フェニルオクタノール、1−フェニルノナノール、1−フェニルデカノール、ベンズヒドロール等を挙げることができ、特に製造の際の反応が効率的に進行することから2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノール、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノール、5−ノナノール、2−デカノール、3−デカノール、4−デカノール、5−デカノール、2−トリデカノール、3−トリデカノール、4−トリデカノール、5−トリデカノール、6−トリデカノール、7−トリデカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロノナノール、シクロデカノール、1−フェニルエタノール、1−フェニルプロパノール、1−フェニルブタノール、1−フェニルペンタノール、1−フェニルヘキサノール、1−フェニルヘプタノール、ベンズヒドロール等の炭素数3〜13の2級アルコールが好ましい。更に入手が容易やケトンの水素化による再利用の容易さから、特に2−プロパノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール、1−フェニルエタノール、ベンズヒドロールが好ましく、さらに2−プロパノールが好ましい。
【0037】
また、2級アルコールの使用量としては、本発明の製造方法が実施できる限りにおいて制限を受けることはなく、特に製造の際の反応が効率的に進行することから、オレフィン1モルに対し0.1〜1000モルが好ましく、特に1〜100モルで用いることが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法における分子状酸素としては、分子状酸素の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば酸素ガスからなる純酸素;窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈された酸素はもとより、空気であってもよい。また、該分子状酸素の使用量としては、本発明の製造方法が実施できる限りにおいて如何なる制限を受けることはなく、特に製造の際の反応が効率的に進行することから、オレフィン1モルに対し0.01〜100モルが好ましく、特に0.1〜50モルが好ましい。また、反応時の酸素圧に制限はなく、例えば常圧〜10MPa、高活性、高選択的に反応が進行することから、好ましくは0.2〜5MPa、さらに好ましくは0.2〜2MPaである。
【0039】
本発明の製造方法により得られるエポキシ化合物としては、例えばプロピレンオキシド、ブテンオキシド、ペンテンオキシド、ヘキセンオキシド、ヘプテンオキシド、オクテンオキシド、ノネンオキシド、デセンオキシド、ドデセンオキシド、シクロプロペンオキシド、シクロブテンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、シクロヘプテンオキシド、シクロオクテンオキシド、シクロノネンオキシド、シクロデセンオキシド、メチルシクロペンテンオキシド、エチルシクロペンテンオキシド、プロピルシクロペンテンオキシド、ブチルシクロペンテンオキシド、メチルシクロヘキセンオキシド、エチルシクロヘキセンオキシド、プロピルシクロヘキセンオキシド、ブチルシクロヘキセンオキシド、ジメチルシクロヘキセンオキシド、トリメチルシクロヘキセンオキシド、シクロペンチルプロペンオキシド、シクロペンチルブテンオキシド、シクロペンチルペンテンオキシド、シクロヘキシルプロペンオキシド、シクロヘキシルブテンオキシド、スチレンオキシド、フェニルプロペンオキシド、フェニルブテンオキシド等が挙げられる。また、場合によっては生成されるケトン化合物としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルブチルケトン、エチルプロピルケトン、メチルペンチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、メチルヘキシルケトン、エチルペンチルケトン、プロピルブチルケトン、メチルヘプチルケトン、エチルヘキシルケトン、プロピルペンチルケトン、ジブチルケトン、メチルオクチルケトン、エチルヘプチルケトン、プロピルヘキシルケトン、ブチルペンチルケトン、メチルウンデシルケトン、エチルデシルケトン、プロピルノニルケトン、ブチルオクチルケトン、ペンチルヘプチルケトン、ジヘキシルケトン、メチルトリデシルケトン、エチルドデシルケトン、プロピルウンデシルケトン、ブチルデシルケトン、ペンチルノニルケトン、ヘキシルオクチルケトン、ジヘプチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、フェニルメチルケトン、フェニルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、フェニルブチルケトン、フェニルペンチルケトン、フェニルヘキシルケトン、フェニルヘプチルケトン、フェニルオクチルケトン、フェニルノニルケトン、ジフェニルケトン等が挙げられる。
【0040】
本発明の製造方法は、液相で行うことが好ましく、その際の溶媒としては如何なる制限を受けるものではなく、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等の1級アルコール類;エチレングリコ−ル、プロピレングリコール等のグリコール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸等のカルボン酸類;ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、プロピオノニトリル、ブチロニトリル等の二トリル類;ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド等のアミド類、又は水等が挙げられる。そして、製造がより効率的に行えることから、ハロゲン化炭化水素及びニトリル類の混合溶媒を用いることが好ましい。その際の溶媒量については制限はなく、その中でも製造がより効率的に進行することから、例えば2級アルコールに対し0〜90容量%であることが好ましく、特に0〜70容量%であることが好ましく、さらに0〜60容量%であることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法における反応温度としては、副反応を抑制しつつ高い反応速度での製造が可能となることから0〜200℃であることが好ましく、特に20〜150℃、さらに40〜100℃であることが好ましい。また、反応圧力としては、常圧〜20MPaが好ましく、特に常圧〜5MPaであることが好ましい。なお、本発明の製造方法においては、オレフィンは気体又は液体のいずれの状態でも用いることができ、液体状態で用いる場合には加圧下で反応すればよい。
【0042】
本発明の製造方法としては、例えばオレフィン、2級アルコール、分子状酸素および触媒としてパラジウム錯体、MWW型結晶性チタノシリケートを一括して反応装置に仕込む回分式、触媒としてパラジウム錯体、MWW型結晶性チタノシリケートを仕込んだ反応装置にオレフィン、2級アルコール及び分子状酸素を連続的に供給する半回分式、オレフィン、2級アルコール及び分子状酸素を連続的に供給するとともに、未反応ガス及び反応液を連続的に抜き出す固定床又は懸濁床の連続式、等のいずれの方法でも実施できる。また、製造されたエポキシ化合物は、反応混合物を順次蒸留するなど公知の方法により分離回収することができる。
【0043】
本発明の製造方法においては、同時に生成する場合のあるケトン化合物は、水素化することにより容易に原料である2級アルコールに戻すことが可能であり、再生利用もすることが可能である。その際の製造方法としては、例えば少なくとも下記の工程(A)〜(D)を行うエポキシ化合物の製造方法とすることが可能である。
工程(A):触媒としてパラジウム錯体およびMWW型結晶性チタノシリケートを用い、オレフィン、2級アルコールおよび分子状酸素を接触し、エポキシ化合物およびケトンを生成する工程。
工程(B):工程(A)の後、未反応のオレフィンと分子状酸素を分離する工程。
工程(C):工程(B)の後、エポキシ化合物を分離する工程。
工程(D):工程(C)の後のケトンと分子状水素を水素化触媒の存在下で接触し、2級アルコールに転化し、該2級アルコールを該工程(A)における2級アルコールとして循環する工程。
【0044】
該工程(B)は、工程(A)の後、得られた反応生成物から未反応のオレフィン及び分子状酸素を分離・回収する工程であり、その際の方法に制限はなく、オレフィン及び分子状酸素は通常気体であることから反応系を開放することにより該反応生成物から分離することが可能である。また、例えばフラッシュ蒸留、減圧法などの方法により分離・回収することができる。そして、該工程(B)により分離した未反応のオレフィン及び/又は分子状酸素は、工程(A)に循環しリサイクルすることもできる。その際は消費されたオレフィンと分子状酸素に対応した量を追加すれば良い。
【0045】
該工程(C)は、工程(B)により未反応のオレフィン及び分子状酸素を分離した後に、反応生成物であるエポキシ化合物を分離・回収する工程であり、例えば蒸留により分離することができる。その際の蒸留条件として、生成するエポキシ化合物により任意に選択することが可能であり、例えばエポキシ化合物がプロピレンオキシドである場合、塔底部の温度を40〜120℃とし、圧力を0.01〜0.3MPaで蒸留することにより、プロピレンオキシドを分離・回収することができる。
【0046】
該工程(D)は、工程(C)によりエポキシ化合物を分離した後に残存する副生品であるケトンと分子状水素とを水素化触媒の存在下で接触し、ケトンを2級アルコールに転化し、該2級アルコールを工程(A)に循環しリサイクルする工程である。
【0047】
この際、副生品であるケトンを残存する反応系としては、ケトンを残存するものであれば特に制限はなく、例えば工程(C)によりエポキシ化合物を分離・回収した反応系をそのまま用いることも可能であり、その中でも、特に生産効率に優れるエポキシ化合物の製造方法となることから、該工程(C)の後にケトン分離工程(D1)を付随し、分離・回収したケトンを水素化するものであることが好ましく、さらに未反応の2級アルコール分離工程(D2)を付随するものであることが好ましい。該未反応の2級アルコールは、工程(A)に循環しリサイクルすることもできる。
【0048】
該工程(D)における水素化触媒としては、特に制限はなく、例えばパラジウム、白金、クロム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル及びコバルトからなる群より選ばれる金属を含有する水素化触媒であり、これらの金属の粒子、固体、担体に担持された状態でも良く、好ましくは金属状態であることが好ましい。また、ケトンの水素化が効率的に進むことから、ラネーニッケル触媒であることが好ましい。
【0049】
該分子状水素としては、分子状水素の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば水素ガスからなる純水素;窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈された水素であってもよい。
【0050】
該工程(D)における水素化反応の条件としては、ケトンの水素化により2級アルコールに転化すれば、特に制限されるものではなく、例えば反応温度30〜180℃、水素圧0.05〜10MPa、水素/ケトン(モル比)=1〜10/1で行うことが可能である。また、重量時間空間速度(WHSV)として、0.1〜10hr−1が例示できる。また、反応形式としては、例えばバッチ式、半回分式、流通式等が例示される。そして、水素化工程後、必要で有れば副生した水を除去することが好ましく、その際の方法としては、例えば、蒸留や分離膜等を用いた分離等が例示される。
【0051】
触媒として用いたMWW型結晶性チタノシリケート、パラジウム錯体の分離は、何れの工程で行ってもよく、MWW型結晶性チタノシリケートの分離方法としては、例えばろ過や蒸留等の方法が挙げられる。また、パラジウム錯体の分離方法としては、例えば蒸留等の方法により分離することができる。分離したMWW型結晶性チタノシリケート、パラジウム錯体は工程(A)に循環しリサイクルすることもできる。
【発明の効果】
【0052】
触媒としてパラジウム錯体及びMWW型結晶性チタノシリケートを用い、オレフィン、2級アルコールおよび分子状酸素を接触させることで、あえて過酸化物を必要とせず、安全に反応を行い、ジオールやポリオール等の原料としての有用性が期待されるエポキシ化合物を高活性かつ高選択的に製造する、新規なエポキシ化合物の製造方法を提供するものである。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
調製例1(層状剥離MWW型結晶性チタノシリケートの調製)
〜(1)MWW型の結晶構造を持つボロシリケートの合成〜
室温で、ピペリジン(和光純薬工業株式会社製純度98%)48.6gをイオン交換水137gに溶解し、ピペリジン水溶液を調製した。激しく攪拌しながらこのピペリジン水溶液に硼酸(和光純薬工業株式会社製99.5%)33.2gを加えた。30分間攪拌を行った後、フュームドシリカ(Carb−o−sil M7D)24.0gを加え、さらに2時間攪拌を続けモル比が、SiO:B:ピペリジン:HO=1:0.67:1.4:19となる混合物を得た。
【0055】
この混合物を300mlのSUS316製のオートクレーブへ移し、150℃で168時間の水熱合成を行った。攪拌終了後、内容物を室温まで冷却し、濾過により内容物から固体生成物を分離し、さらに、イオン交換水を用い、洗浄水のpHが9以下になるまで固体生成物の洗浄を繰り返した。こうして得た固体生成物を空気中80℃で24時間乾燥し、さらに空気雰囲気下、600℃で10時間焼成することで、20.1gの固体を得た。得られた固体は、X線回折装置(XRD)よりMWW型構造であることを確認した。
【0056】
〜(2)脱B化したMWW構造を持つボロシリケートの合成〜
(1)で得られた固体19.5gを、6mol/L硝酸585mlに加え、100℃で20時間撹拌することで、酸処理を施した。酸処理終了後、濾過により得た固体をイオン交換水で洗浄水のpHが4以上になるまで洗浄を繰り返した。洗浄した固体生成物を600℃で10時間焼成し、18.4g(乾燥重量)の固体生成物を回収した。回収した固体を、6mol/lの硝酸550mlに加え、100℃で20時間酸処理した。酸処理終了後、濾過・水洗を行い、80℃で24時間乾燥させた。乾燥後の重量は18.7gであった。
【0057】
〜(3)Ti導入によるMWW構造を持つチタノシリケートの合成〜
室温で、ピペリジン26.8gをイオン交換水55.4gに溶解し、ピペリジン水溶液を調製した。激しく攪拌しながらこのピペリジン水溶液にテトラブチルオルトチタネート(和光純薬工業株式会社製純度95%)3.7gを加え、30分間攪拌を行った後、(2)で得られた固体18.5gを加え、さらに2時間攪拌を続け得た。
【0058】
この混合物を300mlのSUS316製のオートクレーブへ移し、155℃で158時間の水熱合成を行った。水熱合成終了後、内容物を室温まで冷却し、濾過により固体生成物を分離し、イオン交換水を用い、洗浄水のpHが9以下になるまで固体生成物を洗浄した。こうして得た固体生成物を80℃で24時間乾燥し、10.6gの固体生成物を得た。
【0059】
〜(4)層状剥離MWW型結晶性チタノシリケートの調製〜
上記の(3)で得た固体生成物1.5gをヘキサデシルトリメチルブロミド(Aldrich社製純度99%)8.4g、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(東京化成社製純度22.5%水溶液)9.0g、イオン交換水18.0gを混合して得た水溶液に入れた。このスラリーを80℃に加熱して16時間撹拌した。続いて、その懸濁液を超音波洗浄機(アズワン製、(商品名)USD−2R)中で80W、40kHzで1時間処理した後、撹拌しながらスラリーに2mol/lの硝酸6.1gを添加して、pHを1.7とした。硝酸の添加によりスラリーが粘調となったため、イオン交換水200mlを加えてスラリーの粘度を低くした後、遠心分離により固体生成物を回収した。回収した固体生成物は、イオン交換水を用いて、洗浄水のpHが4以上になるまで洗浄を繰り返した。その後、固体生成物を80℃で24時間乾燥した後、600℃で10時間焼成して、1.2gの白色固体を得た。
【0060】
得られた白色固体は、X線回折装置(XRD)より層状剥離MWW型結晶性チタノシリケートであることを確認した。
【0061】
調製例2(MFI型結晶性チタノシリケートの調製)
特許第3697737号公報に準拠しMFI型結晶性チタノシリケートを調製した。
【0062】
温度計及び攪拌装置を備えた内容積1000mlの四つ口フラスコにテトラエチルオルトチタネート44.1g、次いでテトラエチルオルトシリケート198gを窒素気流下で入れ混合した。この混合溶液を0℃に冷却後、25重量%水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液345gをフィードポンプにより1時間かけて滴下した。さらにこの液を室温で1時間攪拌して熟成処理を行った。攪拌後、混合物は均一溶液になった。この四つ口フラスコを油浴で約90℃に加熱し、加水分解によって生じたエタノール及び水を蒸留除去した。
【0063】
蒸留除去された混合物にイオン交換水604gを加えた後、その400mlを温度計及び攪拌装置を備えた内容積500mlのハステロイ製耐圧反応容器に入れ、自圧下、170℃まで2時間で昇温させ、48時間攪拌して水熱合成を行った。オートクレーブの内容物を遠心分離し、60℃のイオン交換水で十分洗浄した。得られた白色粉末を90℃で15時間乾燥後、550℃にて5時間焼成して結晶性チタノシリケート21.5gを得た。
【0064】
得られた結晶性チタノシリケートは、X線回折装置(XRD)よりMFI型構造であることを確認した。
【0065】
(反応液、ガスの分析)
実施例における反応液およびガスの分析は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、(商品名)GC−14A)で行い、キャピラリーカラム(GLサイエンス社製、(商品名)TC−FFAP、60m×0.25mm(内径)、膜厚0.25μm)を使用し、水素炎イオン化検出器(FID)を用い反応生成物を定量した。
【0066】
実施例1
クロロベンゼン5mlに酢酸パラジウム(和光純薬製)0.011g(0.05mmol)と2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(東京化成製、(商品名)バトクプロイン)0.036gを添加し、室温で撹拌し溶解させた後、一晩放置しパラジウム錯体の溶液を調製した。パラジウム錯体の溶液全量を200mlのステンレス製のオートクレーブ(耐圧硝子工業社製、(商品名)TPR−1型)に入れ、2−プロパノール31g(40ml、0.5mol)、アセトニトリル40ml、次いで調製例1により得られた層状剥離MWW型結晶性チタノシリケート0.2gを入れた。次に、オートクレーブを窒素で置換した後、酸素0.4MPa、プロピレン0.8MPa(50mmol)、窒素0.2MPaを加え、反応温度80℃で11.5時間撹拌し、反応を行った。
【0067】
反応液およびガスの分析の結果、プロピレンオキシドの生成量は4.8mmol(収率9.6%)、反応効率は56%と高いものであった。またアセトンの生成量は9.1mmolであった。
【0068】
比較例1
調製例1により得られた層状剥離MWW型結晶性チタノシリケートの代わりに、調製例2により得られたMFI型結晶性チタノシリケートを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によりプロピレンオキシドの製造を行った。
【0069】
反応液およびガスの分析の結果、プロピレンオキシドの生成量は2.1mmol(収率4.2%)であり、反応効率は29%と低いものであった。またアセトンの生成量は7.4mmolであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としてパラジウム錯体およびMWW型結晶性チタノシリケートを用い、オレフィン、2級アルコールおよび分子状酸素を接触することを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
【請求項2】
パラジウム錯体が、2価のパラジウム錯体であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
パラジウム錯体が、下式の一般式(1)で表される2価のパラジウム錯体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
Pd(OAc)L (1)
(式中、OAcはアセテート基を表し、Lはフェナントロリン系配位子を示す。)
【請求項4】
MWW型結晶性チタノシリケートが、層状剥離MWW型結晶性チタノシリケートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
オレフィンが、炭素数3〜10のオレフィンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項6】
2級アルコールが、2−プロパノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール、1−フェニルエタノール及びベンズヒドロールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の2級アルコールであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項7】
二トリル及びハロゲン化炭化水素の混合溶媒中で接触を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のエポキシ化合物の製造方法において、少なくとも下記の工程(A)〜(D)を行うことを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
工程(A):触媒としてパラジウム錯体およびMWW型結晶性チタノシリケートを用い、オレフィン、2級アルコールおよび分子状酸素を接触し、エポキシ化合物およびケトンを生成する工程。
工程(B):工程(A)の後、未反応のオレフィンと分子状酸素を分離する工程。
工程(C):工程(B)の後、エポキシ化合物を分離する工程。
工程(D):工程(C)の後のケトンと分子状水素を水素化触媒の存在下で接触し、2級アルコールに転化し、該2級アルコールを該工程(A)における2級アルコールとして循環する工程。
【請求項9】
該工程(D)における水素化触媒が、パラジウム、白金、クロム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル及びコバルトからなる群より少なくとも1種類以上で選択される金属を含有する水素化触媒であることを特徴とする請求項8に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項10】
該工程(D)における水素化触媒が、ラネーニッケルであることを特徴とする請求項8又は9に記載のエポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−240938(P2012−240938A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110545(P2011−110545)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】