説明

エポキシ化合物の製造方法

【課題】簡便で、反応速度が高く生産効率に優れ、収率の高いオレフィンからのエポキシ化合物の製法の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を、(A)R−COOH(Rはハロゲン原子を有しない炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはハロゲン原子を有しない炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す)で表されるカルボン酸、(B)過酸化水素、および(C)下記(c1)乃至(c5)から選択される酸、の存在下に酸化させるエポキシ化合物の製造方法;(c1)リンを含有する酸、(c2)ハロゲンを含有する炭素数1〜20の有機カルボン酸、(c3)R−SOH(式中、Rは水素原子または、ハロゲン原子で置換されていても良い炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)で表されるスルホン酸、(c4)タングステンを含む無機酸、(c5)モリブデンを含む無機酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重結合含有化合物を原料とするエポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は、ジオールの原料となるとともに、特許文献1の0126段落、0128段落に記載されたポリエーテルを有するポリオレフィンなどを製造するための原料ともなりうる。このように、他の化合物の製造原料として用いる際は、当該他の化合物の性能を十分発揮させるためにも、純度の高いものが求められる。
特許文献1には、ポリオレフィンを、過蟻酸、過酢酸、過安息香酸でエポキシ化する方法、タングステン化合物などのVI族遷移金属触媒と相間移動触媒の存在下において、過酸化水素により酸化する方法が記載されている。
特許文献2には、トルエン中でカルボン酸および過酸化水素の存在下、二重結合含有化合物を酸化しエポキシ化合物を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2005/073282号パンフレット
【特許文献2】特開2009-280728号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、引用文献1および2に記載の方法でもエポキシ化合物を得ることができるものの、反応速度が低下する場合があり生産効率や収率の面で改善の余地があった。
したがって、簡便であり、反応速度が高く生産効率に優れ、かつ収率の高いエポキシ化合物の製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、以下に記載されるものである。
[1]下記一般式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(式(1)中、Aは、炭素数2〜20のオレフィン、または炭素数2〜20のオレフィンとジエンとの重合により形成される基であり、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜18のアルキル基を表す。)で表される化合物を、
(A)R−COOH(式中、Rはハロゲン原子を有しない炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはハロゲン原子を有しない炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)で表されるカルボン酸、
(B)過酸化水素、および
(C)下記(c1)乃至(c5)からなる群より選択される少なくとも1種の酸、
の存在下に反応させることを特徴とする、下記一般式(2)
【0008】
【化2】

【0009】
(式(2)中、A、R1およびR2は、それぞれ式(1)で定義した通りである。)で表されるエポキシ化合物の製造方法;
(c1)リンを含有する酸、
(c2)ハロゲンを含有する炭素数1〜20の有機カルボン酸、
(c3)R−SOH(式中、Rは水素原子または、ハロゲン原子で置換されていても良い炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)で表されるスルホン酸、
(c4)タングステンを含む無機酸、
(c5)モリブデンを含む無機酸。
【0010】
[2]一般式(1)における、Aの数平均分子量(Mn)が4×10〜3×10であることを特徴とする[1]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0011】
[3](c1)リンを含有する酸が、リン酸、ポリリン酸または五酸化リンであり、
(c2)有機カルボン酸が、カルボン酸のα−位に、1つ以上のハロゲンを有する炭素数1〜20の脂肪族カルボン酸、または芳香環の水素原子の少なくとも1つがハロゲンで置換された炭素数6〜20の芳香族カルボン酸であり、
(c3)スルホン酸が、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、またはトリフルオロメタンスルホン酸であり、
(c4)タングステンを含む無機酸が、タングステン酸、ケイタングステン酸、またはリンタングステン酸であり、
(c5)モリブデンを含む無機酸が、リンバナドモリブデン酸である
ことを特徴とする[1]または[2]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0012】
[4]水相と油相とから構成される二相系中で反応させることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【0013】
[5]前記油相は脂肪族または脂環式炭化水素系溶媒を含むことを特徴とする[4]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便であり、生産効率に優れ、かつ収率に高いエポキシ化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明の出発原料は、下記一般式(1)で表される化合物(二重結合含有化合物)である。
【0016】
【化3】

【0017】
一般式(1)中、Aは、炭素数2〜20のオレフィンの重合により形成される基を表す。
【0018】
炭素数2〜20のオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィンが挙げられ、重合により形成される基としてはこれらのオレフィンの単独または共重合体、あるいは特性を損なわない範囲で他の重合性の不飽和化合物と共重合したものであっても良い。この中でも特にエチレン、プロピレン、1−ブテンが好ましい。
【0019】
一般式(1)において、Aで表される基のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略す)により測定した数平均分子量(Mn)は、特に制限はないが、通常4×10〜3×10であり、好ましくは8×10〜2×10である。ここでMnとはポリスチレン換算値である。
本発明においては、一般式(1)の化合物のGPCで測定した数平均分子量(Mn)値から、置換基A以外の分子量を引くことによって得られる値を、置換基AのMnと定義する。置換基A以外の分子量とは、たとえばA−CH=CHの場合、−CH=CHの分子量を指し、この場合27である。
【0020】
分子量500以上について標準ポリスチレンに基づき作成し、より低分子量側に外挿して得たGPCの検量線を使用して、数平均分子量Mnを求める。Aで表されるポリオレフィン鎖の数平均分子量(Mn)は500以上であることが好ましい。
【0021】
一般式(1)においてAで表される基のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、すなわち分子量分布(Mw/Mn)は、特に制限はなく、例えば1.0〜数十のものがあるが、物性の均一性などの点で4.0以下のもの、特に3.0以下のものが好ましいことがある。
【0022】
一般式(1)のAで表される基の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、例えば、ミリポア社製GPC−150を用い以下の条件の下で測定できる。
【0023】
分離カラム:TSK GNH HT(カラムサイズ:直径7.5mm,長さ:300mm)
カラム温度:140℃
移動相 :オルトジクロルベンゼン(和光純薬社製)
酸化防止剤:ブチルヒドロキシトルエン(武田薬品工業社製)0.025質量%
移動速度 :1.0ml/分
試料濃度 :0.1質量%
試料注入量:500マイクロリットル
検出器 :示差屈折計
【0024】
また、一般式(1)中、R1、Rとしては、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜18の炭化水素基であり、炭素数1〜18の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられ、炭化水素基としては好ましくは脂肪族炭化水素基であり、より好ましい炭化水素基としてはアルキル基があげられる。好ましいR、Rとしては、例えば水素、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ヘキサデシル基などである。
【0025】
このような本発明の原料である一般式(1)の化合物は、例えば以下の方法により製造することができる。
(1)特開2001−2731号公報、特開2003−73412号公報および特開2000−239312号公報に示されているようなサリチルアルドイミン配位子を有する遷移金属化合物を重合触媒として用いる重合方法。
(2)チタン化合物と有機アルミニウム化合物とからなるチーグラー型触媒を用いる重合方法。
(3)バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなるバナジウム系触媒を用いる重合方法。
(4)ジルコノセンなどのメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物(アルミノキサン)とからなるメタロセン型触媒を用いる重合方法。
【0026】
<エポキシ化合物の製造方法>
本発明に係る下記一般式(2)
【0027】
【化4】

【0028】
(一般式(2)中、A、R1およびR2は、それぞれ前記一般式(1)で定義したとおりである。)で表されるエポキシ化合物(エポキシ含有重合体)の製造方法は、
上記一般式(1)の化合物を、(A)R−COOH(式中、Rはハロゲン原子を有しない炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはハロゲン原子を有しない炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)で表されるカルボン酸、(B)過酸化水素および(C)下記(c1)乃至(c5)からなる群より選択される少なくとも1種の酸、の存在下に酸化させるものである。
(c1)リンを含有する酸
(c2)ハロゲンを含有する炭素数1〜20の有機カルボン酸
(c3)R−SOH(式中、Rは水素原子または、ハロゲン原子で置換されていても良い炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)で表されるスルホン酸
(c4)タングステンを含む無機酸
(c5)モリブデンを含む無機酸
【0029】
カルボン酸(A)は、R−COOHで表される。一般式中、Rは、ハロゲン原子を有しない炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはハロゲン原子を有しない炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表し、好ましくは、ハロゲン原子を有しない炭素数6〜8の芳香族炭化水素基またはハロゲン原子を有しない炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を用いることができる。また、ハロゲン原子を有しないカルボン酸(A)としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などの脂肪族カルボン酸、および安息香酸、4−メチル安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族カルボン酸からなる群から、一種以上のカルボン酸を選択して用いることができる。これらのうち、反応速度および反応効率の点から、脂肪族カルボン酸が好ましく、酢酸またはプロピオン酸がより好ましく、酢酸が特に好ましい。
【0030】
カルボン酸(A)の量は、通常、一般式(1)で表される化合物1モルに対し0.5モル〜10モル、好ましくは0.8モル〜8モル、さらに好ましくは1.0モル〜5モルである。
【0031】
過酸化水素(B)は、通常水溶液として用いられ、その濃度は、通常3質量%〜90質量%、好ましくは5質量%〜70質量%、さらに好ましくは10質量%〜50質量%である。過酸化水素の使用量は原料の二重結合含有化合物1モルに対し通常0.5モル〜10モル、好ましくは0.8モル〜8モル、さらに好ましくは1.0モル〜5モルである。
【0032】
また、過酸化水素(B)とカルボン酸(A)の量比は、通常1:0.01〜1:20、好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0033】
酸(C)を構成する(c1)〜(c5)の酸としては、それぞれ以下のものを用いることができる。
(c1)リンを含有する酸としては、リン酸、ポリリン酸、五酸化リン等を挙げることができる。
(c2)有機カルボン酸としては、カルボン酸のα−位に、1つ以上のハロゲンを有する炭素数1〜20の脂肪族カルボン酸、または芳香環の水素原子の少なくとも1つがハロゲンで置換された炭素数6〜20の芳香族カルボン酸等を挙げることができる。
(c3)スルホン酸としては、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、またはトリフルオロメタンスルホン酸等を挙げることができる。
(c4)タングステンを含む無機酸としては、タングステン酸、ケイタングステン酸、またはリンタングステン酸等を挙げることができる。
(c5)モリブデンを含む無機酸としては、リンバナドモリブデン酸等を挙げることができる。
【0034】
これらの化合物のうちでも、生産効率および収率の観点から、(c1)リンを含有する酸、(c4)タングステンを含む無機酸を用いることが好ましく、リン酸、ポリリン酸、五酸化リン、ケイタングステン酸、リンタングステン酸を用いることがより好ましく、リン酸、ポリリン酸、ケイタングステン酸、リンタングステン酸がさらに好ましい。
【0035】
酸(C)は、カルボン酸(A)1molに対し、通常0.001〜0.5mol、好ましくは0.005〜0.1molの割合で使用することができ、この範囲で使用して反応速度などを調節することが可能である。
【0036】
本発明におけるエポキシ化反応は、カルボン酸(A)と、過酸化水素(B)とから得られるカルボン酸(A)の過酸化物を反応系内で調製し、一般式(1)で表される化合物と反応させるものである。上記のような酸(C)の存在下で反応させることにより、過酸化物の生成が促進される結果、反応系に高濃度の過酸化物が存在する。これにより、エポキシ化の反応速度が高くなり生産効率に優れるとともに、高収率でエポキシ化合物を得ることができる。
【0037】
このような効果の観点から、酸(C)の酸解離定数(pKa)は、目安としてカルボン酸(A)の酸解離定数(pKa)よりも小さいことが好ましい。
カルボン酸(A)のpKaは、4以上が好ましく、4〜5であることがより好ましく、一方、酸(C)のpKaは、−2〜4が好ましく、1〜4がより好ましいが、酸(C)のpKaは目安として、カルボン酸(A)のpKaよりも小さいことが望ましい。
【0038】
本発明においては、pKa(酸(C))/pKa(カルボン酸(A))の絶対値は特に制限はないが例えば0.0〜0.7、好ましくは0.07〜0.6である。
この範囲であれば、エポキシ化反応をより加速させ、かつ選択率良くエポキシ化合物が得られる。これらpKaの値はFor a comprehensive compilation of bordwell pKa data(http://www.chem.wisc.edu/areas/reich/pkatable/index.htm)に掲載されたものを用いることができる。
【0039】
本発明においては、必要に応じて反応溶媒を使用することもできる。反応溶媒としては、酸化反応に影響を受けない溶媒が使用でき、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒を挙げることができる。
【0040】
芳香族炭化水素溶媒として、好ましくは炭素数6〜10のものであり、より好ましくは炭素数6〜8のものを挙げられる。脂環式炭化水素溶媒としては、好ましくは炭素数5〜10、より好ましくは炭素数6−8のものを挙げられる。脂肪族炭化水素溶媒としては、好ましくは炭素数6〜10、より好ましくは炭素数6〜8のものをあげることができる。反応溶媒を用いる場合、その使用量は、二重結合含有化合物に対して、通常0.5〜50重量倍、好ましくは1〜10重量倍の範囲である。
【0041】
本発明は、例えば、反応器に、溶媒、カルボン酸(A)、酸(C)、一般式(1)で表される化合物を入れて混合し、一般式(1)で表される化合物が均一に溶媒に溶解または溶媒中に分散する温度まで昇温する。所定の反応温度に達した後、過酸化水素水をゆっくり滴下する。反応温度は一般式(1)で表される化合物が均一に溶媒に溶解または溶媒中に分散する温度が好ましいが、反応系中で生成する過酸化物の分解温度も鑑みて設定するのがよい。反応温度に制限はないが、例えば25℃〜150℃、好ましくは50℃〜110℃、さらに好ましくは80℃〜100℃である。本発明の好ましい態様においては、水相と、溶媒を含む油相とから構成される二相系中で反応が行われる。水相は、過酸化水素水由来の水から構成されていてもよく、別途水を加えてもよい。二相系中で反応が行われることにより、反応系中でカルボン酸(A)の過酸化物を調製し、その過酸化物を反応に用いることができるため、安全性に優れる。水相と油相との体積の割合は通常1:1000〜1000:1であるが特にこれに限るものではない。
【0042】
本発明の好ましい態様における、考えうる作用は以下のとおりである。ただし本発明はこの記載に制限されるものではない。すなわち上記のように溶媒と一般式(1)で表される化合物とを含む系に過酸化水素水を加えると、油相と水相とからなる二相系となる。油相には、主に溶媒、一般式(1)で表される化合物が含まれており、水相には主にカルボン酸(A)、過酸化水素(B)と酸(C)が含まれる。水相中でカルボン酸(A)と過酸化水素(B)とからカルボン酸(A)の過酸化物が生成する。過酸化物は油相に移動して酸化剤として作用し、一般式(1)で表される化合物をエポキシ化してエポキシ化合物を生成する。そして、過酸化物はカルボン酸(A)となって水相に移動し、再度過酸化水素(B)との反応に供される。酸(C)は、触媒としてカルボン酸(A)と過酸化水素(B)とから過酸化物が生成する反応に作用し、過酸化物の濃度を向上させる。そのため、エポキシ化の反応速度が高くなり、生産効率に優れ、かつ高収率でエポキシ化合物を得ることができる。
【0043】
本発明の方法においては、溶媒として脂環式炭化水素溶媒または脂肪族炭化水素溶媒を用いることにより、エポキシ化合物の着色を抑制することもできる。これらの溶媒は、エポキシ化反応に従来から用いられてきたトルエンのような芳香族炭化水素溶媒に比べて、水との相溶性が極めて低いため、過酸化物を用いたエポキシ化反応が効率的に進行しない場合があった。本発明のエポキシ化合物の製造方法においては、酸(C)の添加により過酸化物濃度が向上するので、エポキシ化反応が効率的に進行するとともに、さらにエポキシ化合物の着色も抑制される。
【0044】
反応に要する時間は、過酸化水素(B)とカルボン酸(C)の比率、反応温度、二重結合含有化合物の溶媒への溶解性や反応性等の反応条件により変わるが、通常数分〜50時間であり、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは0.5〜5時間の範囲である。過酸化水素(B)の滴下速度は、反応速度と反応熱の除去速度にあわせて、徐々に滴下する。
【0045】
エポキシ化合物のエポキシ基含有率は、1H-NMRによって決定される。例えば、一般式(1)において、Aがエチレンのみの重合により形成される基であり、R=R=水素原子である化合物をエポキシ化して得られたエポキシ基含有化合物の場合、飽和末端におけるメチル基の3プロトン分のピーク(C)が0.65〜0.9ppm、エポキシ基付け根の3プロトン分のピーク(D)が1プロトンずつ2.3〜2.4ppm、2.6〜2.7ppm、2.8〜2.9ppmに観測される。酸化反応が十分でない場合は、末端二重結合の3プロトン分のピーク(E)が4.70〜5.0ppmに2プロトン、5.5〜5.8ppmに1プロトン観測される。各ピーク(C)、(D)および(E)のピーク面積を各々S、SおよびSとすれば、エポキシ基含有率(Ep(%))は下記式にて算出される。
Ep(%)=S×200/(S+S+S
【0046】
また、エポキシ化合物の生成はFT−IRにおいても確認することができる。例えば、一般式(1)において、Aがエチレンのみの重合により形成される基であり、R=R=水素原子である前記化合物をエポキシ化して得られたエポキシ基含有化合物の場合、991cm−1のビニル基のC−H伸縮に基づくピークが消失し、847cm−1付近のピークのC-O-C対称伸縮振動のピークによってエポキシ基の生成を確認できる。
【0047】
本発明においては、エポキシ化合物の製造の場合、反応後に過酸化物の処理をしてもしなくても良いが、安全に実施するために、反応終了後かつ必要に応じて行われる次工程の実施前に、残留過酸化物の還元処理、または分解を行う工程をさらに実施することが望ましい。還元処理の方法に関しては、特に限定されないが、有機還元剤または無機還元剤を用いた還元処理を挙げることができる。分解処理は、熱分解等が挙げられる。
【0048】
有機還元剤としては、クエン酸、およびそれらの塩、アスコルビン酸(ビタミンC)、イソアスコルビン酸、トコフェロール(ビタミンE)、およびそれらの塩、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸n−プロピル、ギ酸iso−プロピル、ギ酸n−ブチル、ギ酸tert−ブチルなどのギ酸エステル類、水素、エチレンなどが挙げられ、無機還元剤としては、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜りん酸ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、アスコルビン酸(ビタミンC)、イソアスコルビン酸、トコフェロール(ビタミンE)、およびそれらの塩からなる群、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸n−プロピル、ギ酸iso−プロピル、ギ酸n−ブチル、ギ酸tert−ブチルなどのギ酸エステル類から選ばれる1種以上の有機還元剤が好ましい。前記の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、またはマグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属の塩が挙げられ、これらのうちナトリウム、カリウム、カルシウム塩が好ましい。
【0049】
残留過酸化物の還元処理においては、残留過酸化物の分解を確実に行うため、前記の還元剤を残留過酸化物に対して過剰に用いることが好ましいが、この場合、過剰分の還元剤を除去する必要が生じる。本発明においては、過剰の還元剤を容易に分液除去でき、無機塩に由来するアッシュ分が残留しない点で、前記の有機還元剤を用いることが有利である。
【0050】
これらの還元剤は、そのまま反応系に加えても良いし、水、あるいは有機溶媒に溶解した状態または懸濁した状態で添加することもできる。還元剤の使用量は、使用した過酸化水素1モルに対して通常0.01モル〜10モル、好ましくは0.1モル〜5モルである。分解処理の方法は特に限定されないが、過酸化物の分解温度を考慮し、反応温度を高めて過酸化物の分解を促進させる、酸あるいは塩基等を加えて過酸化物の分解を促進させる等の方法が挙げられる。還元処理における反応時間は、反応条件により変わるが、通常数分から50時間である。
【0051】
本発明の製造方法では、副生物の生成が少ないため、エポキシ化反応および必要に応じて実施される残留過酸化物の還元処理の後、そのまま引き続いて次工程に用いることもできる。また必要に応じて、分液、晶析、洗浄、濃縮等の簡単な操作により、カルボン酸、水、反応溶媒を除いて目的とするエポキシ基含有化合物を取り出すこともできる。また所望により得られたエポキシ基含有化合物をさらに精製することもできる。
なお、本発明の好ましい態様によれば、後述するオレフィン転化率(%)とエポキシ選択率(%)との積を100で除した値(%)が、85%〜100%、好ましくは90%〜100%、より好ましくは95%〜100%である。すなわちオレフィンがエポキシ基に転化する割合が高い。
【0052】
得られたエポキシ化合物の取り出し方法としては、炭素数1〜10のアルコール、炭素数1〜10のケトン、炭素数1〜10のエステル等の極性溶媒を加えることにより晶析させた固体を、常圧または減圧乾燥により乾燥させて得ても良いし、減圧蒸留、薄膜蒸留(フィルムエバポレーター)、分子蒸留などを用いて反応溶媒、水、不純物等を溜去後、溶融した化合物を直接取り出しても良く、スプレークーラー、ベルトフレーカー、ドラムフレーカー、流動層造粒装置などの装置を用いて造粒し、ペレット形状となった固体を取り出しても良い。また、スプレードライヤー、フラッシュジェットドライヤーなどの装置を用いて、溶媒と不純物を溜去しながら、造粒してペレット形状となった固体を取り出しても良い。これらの方法はそれぞれ組み合わせて実施しても良い。
【0053】
本発明の製造方法により得られたエポキシ化合物は、特開2009−280728号公報に記載のジオール、国際公開2005/073282号パンフレットに記載の一般式(14)または(16)で表されるポリマーの製造などに用いることができる。さらに得られたこれらのポリマーは、上記エポキシ化合物と同様、炭素数1〜10のアルコール、炭素数1〜10のケトン、炭素数1〜10のエステル等の極性溶媒を加えることにより晶析させた固体を、常圧または減圧乾燥により乾燥させて得ても良いし、減圧蒸留、薄膜蒸留(フィルムエバポレーター)、分子蒸留などを用いて反応溶媒、水、不純物等を溜去後、溶融した化合物を直接取り出しても良く、スプレークーラーベルトフレーカー、ドラムフレーカー、流動層造粒装置などの装置を用いて造粒し、ペレット形状となった固体を取り出しても良い。また、スプレードライヤー、フラッシュジェットドライヤーなどの装置を用いて、溶媒と不純物を溜去しながら、造粒してペレット形状となった固体を取り出しても良い。これらの方法はそれぞれ組み合わせて実施しても良い。
【実施例】
【0054】
以下、実施例において、本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
オレフィン転化率とは、一般式(1)の炭素炭素二重結合対する、消費されたものの割合(mol/mol)を百分率で表したものであり(%)、NMR法により求める。
エポキシ選択率とは、消費された一般式(1)の炭素炭素二重結合のモル数に対し、エポキシ基に転化したものの割合(mol/mol)を百分率で表したものであり(%)、NMR法により求める。
【0055】
(合成例1)
〔重合体(V1)の合成:片末端二重結合含有エチレン重合体〕
触媒として使用した化合物(L1)は特開2003−73412号公報の合成例6の方法で合成した。
充分に窒素置換した内容積2000mlのステンレス製オートクレーブに、室温でヘプタン1000mlを装入し、150℃に昇温した。続いてオートクレーブ内をエチレンで30kg/cmG加圧し、温度を維持した。MMAO(東ソーファインケム社製)のヘキサン溶液(アルミニウム原子換算1.00mmol/ml)0.5ml(0.5mmol)を圧入し、次いで下記化合物(L1)のトルエン溶液(0.0002mmol/ml)0.5ml(0.0001mmol)を圧入し、重合を開始した。エチレンガス雰囲気下、150℃で30分間重合を行った後、少量のメタノールを圧入することにより重合を停止した。得られたポリマー溶液を、少量の塩酸を含む3リットルのメタノール中に加えてポリマーを析出させた。メタノールで洗浄後、80℃にて10時間減圧乾燥した。
【0056】
【化5】

【0057】
得られた重合物はホモポリエチレンで、H−NMRの測定結果および物性は以下の通りであった。
H−NMR:δ(CCl) 0.81(t,3H,J=6.9Hz),1.10−1.45(m),1.93(m、2H),4.80(dd,1H,J=9.2,1.6Hz),4.86(dd,1H,J=17.2,1.6Hz),5.60−5.72(m,1H)ppm.
融点(Tm):123℃
GPC:Mw=1,900、Mw/Mn=2.24 A部のMn=821
A部以外の構造:ビニル基
【0058】
(合成例2)
〔重合体(V2)の合成:片末端二重結合含有エチレン−プロピレン共重合体〕
[固体成分(L2−1)の調製]
窒素流通下、150℃で5時間乾燥したシリカ(SiO)30gを466mLのトルエンに懸濁した後、メチルアルモキサンのトルエン溶液(Al原子換算で3.08mmol/mL)134.3mLを25℃で30分かけて滴下した。滴下終了後、30分かけて114℃まで昇温し、その温度で4時間反応させた。その後60℃まで降温し、上澄み液をデカンテーションにより除去した。このようにして得られた固体成分をトルエンで3回洗浄した後、トルエンを加え、固体成分(L2−1)のトルエンスラリーを調製した。得られた固体成分(L2−1)の一部を採取し、濃度を調べたところ、スラリー濃度:0.150g/mL、Al濃度:1.179mmol/mLであった。
【0059】
[固体触媒成分(L2−2)の調製]
窒素置換した300mLのガラス製フラスコにトルエン150mLを入れ、撹拌下、上記で調製した固体成分(L2−1)のトルエンスラリー(固体部換算で1.91g)を装入した。次に、化合物(L1)のトルエン溶液(Zr原子換算で0.0012mmol/mL)50.0mLを15分かけて滴下し、室温で1時間反応させた。その後、上澄み液をデカンテーションにより除去し、ヘプタンで3回洗浄し、ヘプタン100mLを加えて固体触媒成分(L2−2)のヘプタンスラリーを調製した。得られた固体触媒成分(L2−2)のヘプタンスラリーの一部を採取して濃度を調べたところ、Zr濃度0.058mmol/mL、Al濃度14.8mmol/mLであった。
【0060】
充分に窒素置換した内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに、ヘプタン450mlを装入し、室温でエチレン100リットル/hrを15分間流通させ、液相及び気相を飽和させた。続いてプロピレンを28NL導入し、80℃に昇温した後、エチレンで8kg/cmGまで昇圧し、温度を維持した。トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液(アルミニウム原子換算1.00mmol/ml)0.5ml(0.5mmol)を圧入し、ついで上記固体触媒成分(L2−2)をZr原子に換算して0.0001mmolを圧入し、重合を開始した。エチレンガスを連続的に供給しながら圧力を保ち、80℃で60分間重合を行った後、5mlのメタノールを圧入することにより重合を停止し、降温後モノマーを脱圧した。得られたポリマースラリーをメタノール2Lと混合撹拌後濾過した。得られた生成物を80℃にて10時間減圧乾燥することによりエチレン−プロピレン共重合体である末端二重結合含有重合体41.4gを得た。
【0061】
H―NMR:δ(CCl) 0.70−0.99(m),1.00−1.75(m),1.95−2.15(m),4.62−4.72(m,0.15H),4.88−5.04(m,2H),5.38−5.50(m,0.54H),5.72−5.90(m,1H)ppm.
融点(Tm):97.5℃
GPC:Mw=1310、Mw/Mn=1.66 A部以外の置換基を全てビニル基とみなして計算した場合、A部のMn=762
A部以外の構造:ビニル基/プロペニル基/ビニリデン基=81.4/15.7/2.9(mol/mol)の比で存在
【0062】
[実施例1]
〔重合体(E1)の合成:片末端エポキシ基含有エチレン重合体〕
上記重合体(V1)100g(Mn850として、ビニル基108mmol)、酢酸28.3g(472mmol)、85%リン酸0.249g(2.16mmol)、エチルシクロヘキサン300gを4つ口の1000mlセパラブルフラスコに仕込み、内温110℃で10分間攪拌し、原料を完全に溶融させて、内温を90℃にした後、35%過酸化水素水 34.4g(354mmol)を1時間かけて滴下し、内温90〜92℃で6時間撹拌した。IRにて991cm-1のピークの消失を確認後、温水100gを加えて静置し、水層を除去した。その後、ギ酸ブチル10.81g(106mmol)を添加して100℃にて30分間攪拌後、過酸化物試験紙で反応系内の過酸化物が完全に分解されたことを確認して冷却し、内温70℃からゆっくり酢酸エチル300gを加えて生成物を晶析させ、室温にて固体をろ取した。得られた固体を1〜2hPaの減圧下乾燥させることにより、エポキシ基含有エチレン重合体の白色固体96.3gを得た(収率99%、オレフィン転化率100%)。分析結果は以下の通り。
【0063】
Mw: 2750, Mw/Mn=1.97 A部のMn=1353
H―NMR:δ(CCl):δ 0.88(3H,t,J=6.92Hz),1.18−1.66(m),2.38(1H,dd,J=2.64,5.28Hz)), 2.66(1H,dd,J=4.29,5.28Hz)2.80−2.87(1H,m)ppm
IR 4322,4250,2938−2839,2635,915,847,
730,719cm-1
融点(Tm):123℃(DSC)
針入度:0(10−1mm)
軟化点:127.5℃
溶融粘度(140℃):87mPa・s
5%減量温度:365℃(TGA)
【0064】
以下の表−1の様に条件を変えて、エポキシ化合物を製造した。結果を表−1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
[実施例8]
原料の重合体(V1)を合成例2で合成した(V2)に変えた以外は、実施例1と同様の処理を行い、対応するエポキシ基含有重合体87.6g(オレフィン転化率100%、収率89%)を得た。
分析結果は以下の通りであった。
【0067】
Mw:1470, Mw/Mn=1.54 A部のMn:912
H―NMR:δ 0.80−0.88(m),0.9−1.6(m),2.37−2.40(1H,dd,J=2.97,5.28Hz),2.50(m),2.66(1H,dd,J=3.96,5.28Hz),2.80−2.86(1H,m),2.95(1H,m)ppm
IR:4322,4250,3603,3036−2635,2343,1468−1459,1259,915,848,724,717 cm−1
融点(Tm):73.6℃
溶融粘度(140℃):19mPa・s
軟化点 101.5℃
5%減量温度: 322℃(TGA)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式(1)中、Aは、炭素数2〜20のオレフィン、または炭素数2〜20のオレフィンとジエンとの重合により形成される基であり、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜18のアルキル基を表す。)で表される化合物を、
(A)R−COOH(式中、Rはハロゲン原子を有しない炭素数6〜20の芳香族炭化水素基またはハロゲン原子を有しない炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)で表されるカルボン酸、
(B)過酸化水素、および
(C)下記(c1)乃至(c5)からなる群より選択される少なくとも1種の酸、
の存在下に反応させることを特徴とする、下記一般式(2)
【化2】

(式(2)中、A、R1およびR2は、それぞれ式(1)で定義した通りである。)で表されるエポキシ化合物の製造方法;
(c1)リンを含有する酸、
(c2)ハロゲンを含有する炭素数1〜20の有機カルボン酸、
(c3)R−SOH(式中、Rは水素原子または、ハロゲン原子で置換されていても良い炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)で表されるスルホン酸、
(c4)タングステンを含む無機酸、
(c5)モリブデンを含む無機酸。
【請求項2】
一般式(1)における、Aの数平均分子量(Mn)が4×10〜3×10であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
(c1)リンを含有する酸が、リン酸、ポリリン酸または五酸化リンであり、
(c2)有機カルボン酸が、カルボン酸のα−位に、1つ以上のハロゲンを有する炭素数1〜20の脂肪族カルボン酸、または芳香環の水素原子の少なくとも1つがハロゲンで置換された炭素数6〜20の芳香族カルボン酸であり、
(c3)スルホン酸が、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、またはトリフルオロメタンスルホン酸であり、
(c4)タングステンを含む無機酸が、タングステン酸、ケイタングステン酸、またはリンタングステン酸であり、
(c5)モリブデンを含む無機酸が、リンバナドモリブデン酸である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
水相と油相とから構成される二相系中で反応させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記油相は脂肪族または脂環式炭化水素系溶媒を含むことを特徴とする請求項4に記載のエポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−52062(P2012−52062A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197603(P2010−197603)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】