エポキシ化脂肪酸誘導体および鎖延長剤を有する耐加水分解性二軸延伸ポリエステルフィルム及びその製造方法
【課題】重大な問題となる程度のゲルの発生がなく、安定で高い粘度レベルを達成でき、経済的で容易に実現可能な手法で製造できる耐加水分解性ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】鎖延長剤と、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステル及び/又はエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルとを含有する二軸延伸ポリエステルフィルムであって、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、耐加水分解剤の含有量が0.25〜20重量%である。
【解決手段】鎖延長剤と、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステル及び/又はエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルとを含有する二軸延伸ポリエステルフィルムであって、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、耐加水分解剤の含有量が0.25〜20重量%である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さが11〜500μmの耐加水分解性ポリエステルフィルムに関する。詳しくは、少なくとも1種の耐加水分解剤および鎖延長剤を有し、製造中における加水分解速度が極めて遅い耐加水分解性ポリエステルフィルムに関する。本発明は、更にその製造方法およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
特定の厚さを有するポリエステルフィルムは公知である。この種のポリエステルフィルムは、一般に耐加水分解性が低いという欠点を有する。特に、ポリエステルのガラス転移温度を超える状況下において、加水分解を被りやすい。加水分解は湿気を有する条件下で顕著であり、加水分解によってポリエステルの性質が悪化し、ポリエステルの固有粘度IVや標準粘度SVの低下を引起す。特に、フィルムコンデンサー、ケーブルの鎧装、リボンケーブル、エンジン保護フィルム等の高熱に曝されるフィルムや、窓ガラス用フィルム、屋外で使用するフィルム、特に太陽電池モジュールの裏面積層体などの長期間使用するフィルムにおいては、上記耐加水分解性が使用限界の要因となる。
【0003】
上記の加水分解は、脂肪族ポリエステルだけでなく、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエチレンテレフタレート(PET)のような芳香族ポリエステルにおいても著しい。PETでは加水分解が顕著に起りやすいような状況で使用する場合、より耐加水分解性が良好なポリエチレンナフタレート(PEN)や、ポリエーテルイミド、ポリイミド等の他のポリマーが使用される。しかしながら、これらの耐加水分解性が良好なポリマーは、PETと比較して高価であるという問題がある。
【0004】
ポリエステルフィルムの耐加水分解性を向上されるために、耐加水分解剤を添加することが知られている。例えば、カルボジイミドを含有する耐加水分解性が向上したポリエステル原料および当該原料を使用して製造される繊維およびフィルムが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、このような耐加水分解剤を含有するフィルムは、製造工程や使用において、イソシアナートや他の副生物および分解物によるガスが発生し、このガスが粘膜を刺激したり、健康被害をもたらす。射出成型品よりも、シートやフィルムのような大きな表面積を有する成型品の方が、上記の問題が特に生じやすい。
【0005】
ターミナルエポキシ基(末端エポキシ基)を有する耐加水分解剤の耐加水分解性について知られている(例えば、特許文献4〜5参照)。しばしば、これらの化合物のポリマーマトリックス中への混合が不十分なため、延伸フィルムを製造する場合においてフィルム破断を引き起こす。ポリマーマトリックス中への混合が不完全なことにより、更に、エポキシ基の極く一部がポリエステルと反応する。そのため、残余の耐加水分解剤は互いに反応しあい、使用材料のゲル化を引き起こす。押出工程において、耐加水分解性は、末端カルボキシル基の減少を経る第2の効果を伴う初期分子量の上昇に基づいている(フィルムは初期において高IV及びSVを有しており、初期の低いIV/SV値を有する対応するフィルムよりも加水分解的な分解のために分子鎖がより長い必要がある)。最終製品においてでさえ活性であり、最終製品の寿命期間中において耐加水分解性が継続するような安定剤による確かな安定化は、この方法では達成できていない。どちらかと言えば、これは鎖延長効果であって耐加水分解効果ではない。
【0006】
カルボジイミド及び他の基材を耐加水分解剤として使用することが知られている(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、これらの使用は、押出工程において、鎖延長効果による突然の分子量増加(粘度上昇)が顕著となり、押出工程が不安定となり、制御しにくい。
【0007】
また、エポキシ化植物油を耐加水分解剤として有するポリエステルフィルムも知られている(例えば、特許文献7〜8参照)。カルボジイミドを使用した場合に問題となる有毒な分解生成物の発生はなく、植物油の種類を選択することによりポリエステルマトリックス中への混入も良好であり、フィルムの耐加水分解性も良好である。しかしながら、この場合、製造工程における粘度の変化が起こり、特に粘度の低下が生じるという不都合がある。この粘度低下は、押出工程の溶融において特に顕著であり、圧力の変化をもたらす。その結果、押出た後のシートにおいて厚さのばらつきが生じ、製造工程においてフィルムの破断が起こる。
【0008】
粘度の上昇、特に押出工程における粘度上昇は鎖延長剤を使用より達成できる。ポリエステルの鎖延長剤は、同じ様に知られている(例えば、特許文献9参照)。この文献においては、無水物、特にピロメリット酸無水物を有効成分とする鎖延長剤が記載されている。
【0009】
ポリエチレンテレフタレート(PET)用鎖延長剤として、オキサゾリン系またはカプロラクタム系鎖延長剤が知られており、DSM社(オランダ)からAllincoの商品名で市販されている。
【0010】
特許文献10または他の文献に記載のエポキシ系鎖延長剤は、BASF社(独国)からJoncrylの商品名で市販されている。
【0011】
原則上PET用鎖延長剤として好適であるグリシジル末端基を有するポリマーは、Hexion社(米国)からEponの商品名で、Arkema社(仏国)からLotaderの商品名で夫々市販されている。
【0012】
これらの鎖延長剤は良く知られているものの、鎖延長剤として、ポリエステルフィルムの製造における工業的実施で使用された例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5885709号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0838500号明細書
【特許文献3】スイス特許出願公開第621135号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第0292251号明細書
【特許文献5】米国特許第3657191号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0292251号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1634914号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1842871号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1054031号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、上記の先行技術における問題点を解消した耐加水分解性ポリエステルフィルムを提供することにある。すなわち、重大な問題となる程度のゲルの発生がなく、安定で高い粘度レベルを達成でき、経済的で容易に実現可能な手法で製造できる耐加水分解性ポリエステルフィルムを提供する。更に、押出工程において粘度変化が最小となり(粘度上昇、低下が共にない)、フィルム破断を生じさせる押出工程における粘度低下が1日当り4回未満であるような耐加水分解性ポリエステルフィルムを提供する。そして、粘度安定の手段により、フィルムの耐加水分解性に若干の影響を受けるか、理想的には全く影響を受けない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明の第1の要旨は、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステル及びエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルを含有する二軸延伸ポリエステルフィルムであって、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、エポキシ化脂肪酸エステルの含有量が0.1〜5.0重量%で且つエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの含有量が0.2〜10重量%であり、エポキシ化脂肪酸エステルの平均分子量が425g/モル以上であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムに存する。
【0016】
本発明の第2の要旨は、上記の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルムの原料組成物を溶融してフラットダイを介して押出す工程と、一つ以上の引取ロール上に引取って冷却し、固化して実質的に非晶のシートを得る工程と、得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸してフィルムを得る工程と、得られたフィルムを熱固定し、巻取る工程とから成り、上記二軸延伸ポリエステルフィルムは、耐加水分解剤として、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、エポキシ化脂肪酸エステルを0.1〜5.0重量%、エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルを0.2〜10重量%含有し、エポキシ化脂肪酸エステルの平均分子量が425g/モル以上であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法に存する。
【0017】
本発明の第3の要旨は、上記の二軸延伸ポリエステルフィルムから成るリボンケーブル、太陽電池モジュールの裏面積層体および電気絶縁体に存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フィルムの製造工程において問題となる程度のゲルの発生がなく、経済的で容易に実現可能な手法で製造できる耐加水分解性ポリエステルフィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のフィルムの主成分はポリエステルである。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ビベンゾイル変成ポリエチレンテレフタレート(PETBB)、ビベンゾイル変成ポリブチレンテレフタレート(PBTBB)、ビベンゾイル変成ポリエチレンナフタレート(PENBB)及びこれらの混合物が例示される。中でも、PET、PBT、PEN、PTT、これらの混合物およびこれらの共重合ポリエステルが好ましい。
【0020】
ポリエステルを製造する際、ジメチルテレフタレート(DMT)、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,4−ブタンジオール、テレフタル酸(TA)、ベンゼンジカルボン酸および/またはナフタレン−2,6−ジカルボン酸(NDA)等の主モノマーに加えて、イソフタル酸(IPA)、trans−及び/又はcis−1,4−シクロヘキサンジメタノール(c−CHDM、t−CHDM又はc/t−CHDM)、ネオペンチルグリコール及び他の好適なジカルボン酸成分(またはジカルボン酸エステル)並びにジオール成分を使用することが出来る。
【0021】
ジカルボン酸成分は、ジカルボン酸成分の重量に対しTAが90重量%以上、好ましくは95重量%以上であることが好ましい。ジオール成分は、ジオール成分の重量に対しEGが90重量%以上、好ましくは93重量%以上であることが好ましい。更に、ポリマー総重量中のジエチレングリコールの割合が0.25〜3重量%であることが好ましい。特に、ポリマー総重量中のジエチレングリコールの割合が0.75〜1.5重量%であることが好ましく、この範囲ではフィルムの走行性と耐加水分解性が最良となる。なお、上記重量割合において耐加水分解剤の重量は無視する。
【0022】
使用するポリエステルは、末端カルボキシ基濃度が通常3mモル/kg以上、好ましくは10mモル/kg以上、理想的には15mモル/kg以上。末端カルボキシ基濃度が高いほど、鎖延長剤による粘度上昇効果が達成される。少なくとも1つ以上末端のカルボキシ基濃度が30mモル/kg以上のポリエステルをフィルムの重量に対して5重量%以上使用することにより、鎖延長剤が効果的に働く。
【0023】
本発明のフィルムは、更に、表面形状や外観(グロス、ヘーズ等)を調節するために無機粒子または有機粒子を添加してもよい。添加粒子としては、炭酸カルシウム、アパタイト、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子、ゼオライト、及びアルミニウムシリケート等のシリケート等が挙げられる。これらの粒子は、フィルムの重量に対して通常0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜0.6重量%含有される。これらの粒子の中でも、炭酸カルシウム及び二酸化ケイ素が特に好ましい。
【0024】
フィルム製造工程における良好な走行性を達成するために、添加粒子の平均粒径d50は、通常0.1〜20μm、好ましくは0.3〜7μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。ガラス繊維などの繊維状無機添加剤は、フィルム製造中にフィルムの破断が多くなり不経済となるため好ましくない。なお、添加粒子の平均粒径d50は、ポリマー中に添加する前の粒径である。
【0025】
好ましい実施態様において、フィルムは白色フィルムである。好ましい白色顔料は、二酸化チタン、硫酸バリウム、又は、ポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィン共重合体(COC)等のポリエステルと非相溶性ポリマー、並びにこれらの組合せである。なお、後者の非相溶性ポリマーは前者の白色顔料と比較して熱安定性の面で劣る。これらの白色顔料の含有量は、フィルムの重量に対して通常1〜35重量%、好ましくは2〜20重量%、更に好ましくは3〜10重量%である。良好なフィルム走行性および白色性を達成するに、白色顔料の平均粒径d50(上記の無機白色顔料についてのみ)は、通常0.05〜5μm、好ましくは0.1〜1μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。好ましい白色顔料は二酸化チタンであり、良好な耐候性が達成できる。二酸化チタンは他の酸化物によって変成および/または被覆することが好ましい。他の酸化物の元素としてはAl、Si、V、P、Ca及びこれらの組合せが好ましい。これらの白色顔料/粒子は、例えば米国特許第3981737号明細書、欧州特許出願公開第0861299号明細書に記載されている。屋外用途において、白色フィルムは透明フィルムよりも優れている。これは、安定剤(耐加水分解剤)の劣化が少ないためである。更に、フィルムの透明度(透過度、ASTM D1003に準じて測定)は60%以下が好ましく、40%以下が更に好ましい。可視光領域の透明度に加え、370nmのUV領域での透過度20%以下が好ましく、10%以下が更に好ましく、理想的には5%以下である。
【0026】
更に、上記の添加剤に加えて、本発明のフィルムは、難燃剤、フリーラジカル捕捉剤/酸化防止剤およびUV安定剤の1つ以上の添加剤を含有してもよい。難燃剤としては有機リン酸エステルが好ましい。酸化防止剤およびUV安定剤としては、仏国特許出願公開第2812299号明細書に記載の物を選択することが出来る。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、粒子(顔料、または白色顔料としてポリエステルに非相溶なものはあまり好ましくない)、耐加水分解剤および前述の添加剤を、通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下含有し、理想的には全く添加しない。更に、通常延伸フィルムの機械的性質を悪化させる理由から、更なるポリマーを添加しないことが好ましい。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムは、耐加水分解剤を含有する。耐加水分解剤のフィルムの重量に対する配合量は、0.25〜20.0重量%、好ましくは1.0〜6.0重量%、更に好ましくは1.5〜5重量%である。
【0029】
好ましい耐加水分解剤は、エポキシ化脂肪酸エステル及び/又はエポキシ化脂肪酸グリセリンエステル(エポキシ化脂肪酸グリセリド)である。
【0030】
エポキシ化脂肪酸グリセリンエステル(エポキシ化脂肪酸グリセリド)は、グリセリンエステルの混合物または純水なグリセリンエステルであり、グリセリンエステルであり、好ましくは以下の式[1]で示される。
【0031】
CH2ОR1−CHОR2−CH2ОR3 [1]
【0032】
ここで、式[1]中、R1〜R3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1〜R3は、好ましくは下記式[2]で示される。
【0033】
【化1】
【0034】
構成単位(1)〜(3)は任意の順序で結合できる。REはCH3又はHを示す。mは1〜40、好ましくは7〜20、更に好ましくは10〜16である。nは0〜10、好ましくは1〜4、更に好ましくは2〜3である。oは0〜4、好ましくは0である。平均して、mは9〜16、好ましくは11〜13であり、nは1〜3、好ましくは1.5〜2.75、更に好ましくは2〜2.5であり、oは0.5未満である。
【0035】
個々のメチレン基(−CH2−)を有するシークエンス(1)、エポキシ基(−CHОCH−)を有するシークエンス(2)、CHCH3基を有するシークエンス(3)としては、望ましくは、カルボニル基から続くシークエンス(1)は少なくとも2つ、好ましくは7つのメチレン基(1)を有し、続いて1つ以上のシークエンス(2)又はシークエンス(3)を有し、更に、少なくとももう1度シークエンス(1)が繰返されることが好ましい。
【0036】
m=0の場合のグリセリンエステルの混合物中のR1、R2及びR3の合計量は、グリセリンエステルの混合物の重量を基準として、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0037】
1つ以上のR1、R2及びR3は、それぞれ独立して次のように定義される。
【0038】
R1、R2及びR3はHである。R1、R2及びR3は、C8〜C40の不飽和(二重結合または完全にエポキシ化されていない)脂肪酸である。R1、R2及びR3は、(PO)−O−(CH2)2−N(CH3)3である。R1、R2及びR3は、詳細を規定できない他の有機基(生物由来のものであるため)である。しかしながら、このような化合物はあまり好ましくないので、グリセリンエステルの混合物の重量を基準として、通常20重量%以下、好ましくは5重量%以下とする。すなわち、上記の好ましいグリセリンエステルの配合量がグリセリンエステルの混合物の重量を基準として、通常80重量%以上、好ましくは95重量%以上とする。
【0039】
本発明で使用するグリセリンエステルは、生物由来のエポキシ化油が好ましく、グリセリンエステルに加えてプロテイン等の他の基質が少量含有されていてもよく、その含有量は、耐加水分解剤の重量を基準として、通常10重量%以下、好ましくは2重量%以下である。
【0040】
具体的には、耐加水分解剤中の210℃以下の沸点を有する成分の含有量は、耐加水分解剤の総重量を基準として、通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0041】
好ましいエポキシ化脂肪酸グリセリンエステル又はその混合物としては、式[3]:R4OR5で示される化合物である。ここで、R4は好ましくは以下の式[4]で示される。
【0042】
【化2】
【0043】
構成単位(1)〜(3)は任意の順序で結合できる。REはCH3又はHを示す。pは1〜40、好ましくは7〜20、更に好ましくは10〜16である。qは0〜10、好ましくは1〜4、更に好ましくは2〜3である。rは0〜4、好ましくは0である。平均して、pは9〜16、好ましくは11〜13であり、qは1〜3、好ましくは1.2〜2.5であり、rは0.5未満である。
【0044】
個々のメチレン基(−CH2−)を有するシークエンス(1)、エポキシ基(−CHОCH−)を有するシークエンス(2)、CHCH3基を有するシークエンス(3)としては、望ましくは、カルボニル基から続くシークエンス(1)は少なくとも2つ、好ましくは7つのメチレン基(1)を有し、続いて1つ以上のシークエンス(2)又はシークエンス(3)を有し、更に、少なくとももう1度シークエンス(1)が繰返されることが好ましい。
【0045】
R5は、好ましくは式[5]:−(CH2)s−R6で示される。sは0〜50、好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜8である。R6は、H又はCtH(2t+1)を表し、tは3〜10、好ましくは5〜8である。R6の好ましい例は−CH(CH2−CH3)−(CH2)3−CH3である。またR6は、好ましくはO−R4であり、R4は上記式[4」で示される。R6はまた−OHであってもよいが、あまり好ましくはない。
【0046】
エポキシ化脂肪酸エステル中の上記式[3]で示されない他の化合物の含有量は、含有量は、使用する脂肪酸エステルの総重量を基準として、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下とする。すなわち、上記の好ましいエポキシ化脂肪酸エステルの配合量が、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上とする。
【0047】
DIN EN ISO 3682に準じて測定した耐加水分解剤の酸価は、通常10mg(KOH/g)以下、好ましくは2mg(KOH/g)以下である。酸価が高すぎると鎖延長剤と関連してゲルを形成しやすくなる。
【0048】
耐加水分解剤の配合を容易にし、耐加水分解性を効果的にするために、DIN 53018に準じて測定した、25℃における耐加水分解剤の粘度は、通常300mPa・sより大きく、好ましくは500mPa・sより大きく、更に好ましくは700mPa・sより大きい。耐加水分解剤の粘度が低すぎると、押出工程において粘度が低くなる危険があり、フィルムの破断を導く。
【0049】
耐加水分解剤の使用量を基準とした耐加水分解性を向上させるために、耐加水分解剤のエポキシ酸素含有量が、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、更に好ましくは7.5重量%以上であることが好ましい。
【0050】
好ましいエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルとしては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ひまわり油、エポキシ化魚油などが挙げられる。これらのエポキシ化油の組合せの組成物、特に各エポキシ化油の種類やその配合量にして、「Rompp Chemie Lexikon」(10th edition、Georg Thieme Verlag、Stuttgart(独国))に記載されている。特に好ましくはエポキシ化亜麻仁油である。エポキシ化脂肪酸エステルは、熱安定性に優れる不飽和脂肪酸の2−エチルヘキシルエステル、又は熱安定性に優れる菜種油、亜麻仁油、大豆油、魚油などを基にした脂肪酸の混合物が好ましく、エポキシ含有量は、エポキシ化脂肪酸エステルを基準として通常1.5〜15エポキシ酸素重量%、好ましくは4〜10エポキシ酸素重量%である。
【0051】
優れた耐加水分解性を達成するために、耐加水分解剤中の式[1]に示されるエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの含有量が50%重量以上が好ましく、66%重量以上が更に好ましく、75%重量以上が特に好ましい。エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルは、対応するエポキシ化脂肪酸エステルよりも耐加水分解性の効果が高い。
【0052】
更に、押出工程におけるフリーラジカルの副反応による活性オキシラン基の消費の影響を弱めるため、フリーラジカル捕捉剤として安定剤をフィルムに添加することが好ましい。フリーラジカル捕捉剤、熱安定剤などの安定剤の含有量は、フィルムの重量に対しておおよそ50〜15000ppm、好ましくは100〜5000ppm、更に好ましくは300〜1000ppmである。ポリエステル原料に添加する安定剤としては、立体障害性フェノール、2級芳香族アミン等の第1の安定剤の群、または、チオエーテル、ホスファイト、ホスホナイト、ジブチルジチオカルバメート亜鉛などの第2の安定剤の群、相乗効果が期待できる第1の安定剤の群と第2の安定剤の群との組合せ等から選択できる。中でも好ましい安定剤は上記フェノール系安定剤である。フェノール系安定剤としては、立体障害性フェノール(ヒンダードフェノール)、チオビスフェノール、アルキリデンビスフェノール、アルキルフェノール、ヒドロキシベンジル化合物、アシルアミノフェノール、ヒドロキシフェニルプロピオネート等が挙げられ、これらは類「Kunststoffadditive」(プラスチック添加剤、第2版、Gachter Muller著、Carl Hanser−Verlag社)および「Plastics Additives Handbook」(第5版、Dr. Hans Zweifel著、Carl Hanser−Verlag社)に記載されている。好ましい安定剤としては、Ciba Specialties社(Basle、スイス)のCAS番号6683−19−8、36443−68−2、35074−77−2、65140−91−2、23128−74−7、41484−35−9、2082−79−3及び「Irganox」1222であり、特に好ましくは「Irganox」1010、1222、1330、1425及びこれらの組合せ等が挙げられる。
【0053】
驚くべきことに、耐加水分解剤にフリーラジカル捕捉剤を添加するのではなく、フィルム製造中の初期の段階でポリエステル原料に添加する方が好ましいことが明らかになった。
【0054】
本発明のフィルムは耐加水分解剤に加え、鎖延長剤を含有する。鎖延長剤は、少なくとも2つの反応性基を有し、当該反応性基はポリエステルの押出工程時に反応してポリエステル鎖同士を結合することが出来、更に当該反応性基は実質的にポリエステルの押出工程中に消耗され(75%以上が消費)、製造後のポリエステルフィルムの使用時において鎖修復(延長)の効果を有していないことが特徴である。鎖延長剤としては、ビスオキサゾリン類、カルボニルラクタム類、多官能性無水物(任意にポリオールと組合せて使用)、2官能/多官能ターミナルエポキシ化物などが挙げられる。ここで「2官能/多官能」とは、エポキシ基、無水物、アルコール基などの官能基の数を表し、「ターミナル」とは、例えばエポキシ基の場合、主鎖または側鎖の末端にエポキシ基を有することを表す。
【0055】
ビスオキサゾリン類(例えば1,3−PBO、DSM社(オランダ)よりAllincoの商品名で市販されている)は、耐加水分解剤の組合せにおいて、その添加量がフィルムの重量に対して0.5重量%まで効果がない。高添加量(2重量%まで)においては、押出工程における粘度の安定性にいくらか効果があるが、それと同時にフィルムに明らかな黄変を生じさせ、更に、フィルムからある特定のオキサゾリンは染出し、フィルム製造におけるロールに付着する。添加量が2重量%を超えると、安定な製造が困難となる。ビスオキサゾリンは本発明における鎖延長剤としてはあまり好ましくはない。
【0056】
カルボニルラクタム類、例えば、カルボニルビスカプロラクタム(CBC)は、DSM社(オランダ)よりAllincoの商品名で鎖延長剤として市販されている。CBCは本発明の耐加水分解剤とを組合せて、フィルムの重量に対し0.1〜1.3重量%添加することで有効となる。添加量がこれより少ないと効果は非常に小さく、これより多いとゲル化や、押出工程における粘度の突然の上昇などを引き起こす。CBCを使用するに当たって重要なことは、他の耐加水分解剤と併用することで、0.6重量%の添加量であっても押出工程における粘度の突然の上昇を引き起こし、フィルムの破断を生じたりする。CBCの好ましい添加量は0.2〜0.5重量%である。予想に反し、CBCもまた染出しが起こりロールに付着したりフィルムの黄変を引き起こす。この効果は耐加水分解剤によって高められる。CBC及び他のカルボニルラクタムを含有するフィルムの加水分解速度は、それらを含有しないフィルムと比較して若干大きい。従って、CBC及び他のカルボニルラクタムは本発明における鎖延長剤としてはあまり好ましくはない。
【0057】
多官能無水物(ここで、多官能無水物とは無水物基が複数ある化合物を意味する)は、単独でも多官能アルコールと組合せても鎖延長剤として好適である。具体的な多官能無水物および多官能アルコールは欧州特許出願公開第1054031号明細書に記載されている。好ましい化合物としては、テトラカルボン酸二無水物である。特に好ましくは、ピロメリット酸無水物であり、更に多官能アルコール(ポリアルコール)としてはグリコール、ペンタエリスリトール、特に好ましくはペンタエリスリトールである。
【0058】
多官能無水物の添加量は、フィルムの総重量を基準として5重量%以下(これより大きいと突然の粘度上昇を引き起こす危険がある)、好ましくは1.5重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。更に、最適な効果のために、その添加量は0.3重量
以上である。
【0059】
ポリアルコールの添加量は、フィルムの総重量を基準として2重量%未満、好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下であり、この場合、特に良好な粘度の安定性を達成できる。
【0060】
更に、欧州特許出願公開第1054031号明細書に記載されているホスホネートを任意に添加してもよい。ホスホネートの添加量は、フィルムの総重量を基準として2重量%以下、好ましくは0.2重量%以下であり、理想的にはホスホネートの使用量を0.05重量%以下とする。
【0061】
ポリ無水物、および、ポリ無水物、ポリオール、ホスホネート等の混合物を使用することにより押出機内の粘度を安定化できる。一方、これらの化合物を使用した場合、ゲル化の発生レベルを引き上げ、またこの主の鎖延長剤を使用していないフィルムと比較して加水分解速度が大きい。ホスホネートの添加量の増加に従って加水分解速度は特に大きくなり、ポリオールの添加量の増加においては加水分解速度の増加はわずかである。
【0062】
本発明において好ましい鎖延長剤としては、2官能性エポキシドであり、更に好ましくは多官能性エポキシドである。なお、ここで「−−官能性」とは、エポキシ官能基の数である。エポキシ基はエポキシド分子鎖の末端または側鎖に位置する(エポキシ化鎖延長剤)。末端エポキシ官能基は鎖延長剤が下記式[6]で示される。
【0063】
【化3】
【0064】
上記式中、R7及びR8は、水素、脂肪族有機基、芳香族有機基またはそれらの組合せの水素または有機基を表し、R7は好ましくは水素である。
【0065】
多官能性エポキシドは2官能性エポキシドよりも好ましく、これは、より少ない使用量が要求される場合には、より高分子量の最終生成物が形成されるためであり、更にガス状の分解物の量がより少ないからである。1分子中のエポキシ基の数は1を超え、好ましくは2以上、更に好ましくは5以上である。1分子中のエポキシ官能基の数は、通常100以下、好ましくは20以下、理想的には10以下である。エポキシ官能基の数は大きいほど鎖延長効果が大きくなるがゲルを形成する可能性も増大する。
【0066】
鎖延長剤分子のエポキシ価(重量価、分子量/エポキシ官能基数)は、通常200g/モル以上、好ましくは300g/モル以上、理想的には425g/モル以上である。また、鎖延長剤分子のエポキシ価は、通常2000g/モル以下、好ましくは1000g/モル以下である。鎖延長剤分子のエポキシ価が高いほど、ゲルを形成する可能性が低くなる。一方、鎖延長剤分子のエポキシ価が高くなると、効果的な粘度上昇を達成するのに化合物の含有量(重量%)をより高くする必要がある。
【0067】
エポキシ化鎖延長剤の分子量は、通常1500以上、好ましくは2000以上、理想的には3000以上である。また、エポキシ化鎖延長剤の分子量は、通常15000以下、好ましくは10000以下、更に好ましくは5000以下である。このようなエポキシ化鎖延長剤の分子量範囲内において、ポリエステルマトリックス中へのもっとも良好な取込みが達成される。エポキシ化鎖延長剤は、室温において液体であることが好ましい。
【0068】
エポキシ化鎖延長剤の分子量、エポキシ基数および重量エポキシ基価は個別に独立して選択することが出来る。理想的には、これら3つのパラメーターがそれぞれの理想的な範囲であることが好ましい。
【0069】
アラルダイト(接着剤)シリーズや対応するEpon製品などのビスフェノール含有エポキシ化合物はあまり好ましくない。これは、通常の使用雰囲気中に検出可能な量のビスフェノールAを放出するからである。
【0070】
好ましいエポキシ化合物は、原則として、グリシジルメタクリレート、エチレン及び/又はアクリル酸エステルのコポリマー(共重合体)またはターポリマー(3元共重合体)である。このようなエポキシ化合物は、例えば、Arkema社製「Lotader」(フランス)が市販されている。これに関して、特に、Lotader AX8840、AX8900及びAX8950が好ましい。しかしながら、この、Lotaderシリーズにおいて、グリシジル基を含まないものは好ましくない。特に、グリシジル基の代りに無水マレイン酸含有モノマー単位を含むものは好ましくない。一般的に、耐加水分解剤と連動してゲル形成の可能性が大きく鎖延長効果が低いために、無水マレイン酸含有モノマー単位を含むポリマーはあまり好ましくない。Lotaderシリーズの他の好ましい化合物におけるフィルム製造上の技術的問題点は、室温において固体であり、耐加水分解剤と混合できないという点である。すなわち、反応させるためには一旦融解させる必要があり、さらにポリエステルとの混和性も良くない。そのため、良好な粘度の安定性を達成するためには、フィルムの重量に対して2重量%以上、好ましくは4重量%以上のような比較的多い量を使用する必要がある。しかしながら、添加量を大きくすれば、ゲルの形成や突然の粘度上昇のリスクが生じ、製造の運転中止や、最悪の場合、押出機の破損もあり得る。特に添加量が10重量%を超えるとゲルの形成が顕著となる。
【0071】
本発明において特に好ましい鎖延長剤は、下記式[7]で示されるポリマーである。
【0072】
【化4】
【0073】
上記式中、R9〜R13はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜12のアルキル基を表し、好ましくはメチル基である。R14は炭素数1〜12のアルキル基を表し、好ましくはメチル基である。x及びyはそれぞれ独立して0〜100、好ましくは1〜20である。x+yは0より大きく、好ましくは10より大きい。zは2〜100、好ましくは3〜20、更に好ましくは3〜10である。なお、各構成単位は任意の順序で結合できる。
【0074】
個々のポリマー鎖は、好ましい範囲から逸脱しているモノマー比率がランダムに分布しているため、これらの変数は使用するポリマーの平均値に基づく。
【0075】
これらの化合物は、ポリエステルマトリックス中へ良好に取込まれると同時に、鎖延長反応に優れ且つゲルの形成が少ないことが特に顕著である。
【0076】
上記のポリマーの市販品としては、BASF社製「Joncryl ADR」が挙げられ、特に液状製品として好ましい。
【0077】
これらのポリマーの添加量は、フィルムの重量に対して通常2重量%未満、好ましくは1.2重量%未満であり、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上である。
【0078】
本発明のフィルムは、耐加水分解剤および鎖延長剤を上記の範囲内で添加することにより、耐加水分解剤を添加しないフィルムと比較して耐加水分解性が向上する。
【0079】
エポキシ基系の鎖延長剤は特に好ましく、鎖延長剤を添加しないフィルムと比較して、製品フィルムの加水分解速度が大きくならない。これらのエポキシ含有鎖延長剤は、押出工程中にエポキシ化耐加水分解剤と優先的に反応することはなく、この反応が原因で鎖延長ではなくゲルを生じたり、耐加水分解剤が消費されて耐加水分解効果が低減するということがない。製造温度におけるエポキシ化合物のホモポリマー化の見地から、この効果は期待できるものである。
【0080】
耐加水分解剤および鎖延長剤は、二軸延伸ポリエステルフィルムの機械的性質の安定性や破断までの時間を引き伸ばすことを低下させる。更に、フィルムの好適な用途である電気絶縁体での使用において、これらの添加物はフィルムの絶縁耐力を低下させる傾向がある。そのため、耐加水分解剤および鎖延長剤の添加量の合計は、フィルムの総重量を基準として12重量%以下、好ましくは8重量%以下、更に好ましくは6重量%以下である。また、効果的な耐加水分解性を達成し、ポリマーマトリックス中に均一に混合させるために、耐加水分解剤および鎖延長剤の添加量の合計は、フィルムの総重量を基準として1重量%以上、好ましくは2重量%以上である。
【0081】
本発明において、耐加水分解剤および鎖延長剤はフィルム製造過程で直接押出機に計量投入することが好ましい。好ましくは多軸押出機(少なくとも2軸)を使用する。更に、耐加水分解剤および鎖延長剤は予備混合し、直接押出機に計量投入することが好ましい。(溶融)粘度を減少させる傾向にある耐加水分解剤に鎖延長剤を常に一緒に存在させることにより押出工程における突然の粘度上昇を特に効果的に防ぐことが出来る。好ましくは多軸押出機(少なくとも2軸)を使用する。
【0082】
また、耐加水分解剤および鎖延長剤はマスターバッチ法により導入してもよい。換言すれば、耐加水分解剤および鎖延長剤は(一緒にまたは別々に)、押出機(好ましくは多軸押出機)内のポリマー中に導入する。フィルム製造の過程において、ポリマー(又は複数のポリマー)は混合され、単独のポリマー又は他のポリマーと混合した状態で再度押出される。しかしながら、この方法は最初の押出工程において耐加水分解剤が既に消費され、フィルム中にアクティブな状態で存在していないので、あまり好ましい方法とはいえない。従って、マスターバッチ法として特に穏やかな押出条件でさえ、特に鎖延長剤の活性が大きく減少する。
【0083】
本発明のフィルムは、本質的に公知の押出法により製造でき、1層以上から成る。耐加水分解剤は全層に添加することも出来るし、全層を改質しないで特定の層に添加することも出来る。
【0084】
本発明のフィルムの厚さは、通常11〜500μm、好ましくは24〜300μmである。多層の実施態様において耐加水分解剤を含有する層の厚さの合計は、通常10〜500μm、好ましくは40〜300μmである。耐加水分解剤を含有する層の厚さの合計が大きすぎると、製造中に何らかの粘度の不規則性が生じる。耐加水分解剤を含有する層の厚さの合計が小さすぎると、屋外での用途において、総フィルムとして所望の期間の安定性について不十分である(そのような層のフィルムのみを使用した場合)。
【0085】
好ましい実施態様として、フィルムの少なくとも片側、好ましくは両側の最外層は、耐加水分解剤を含有しない。これらの層は、フィルム全体の耐加水分解性の悪化を最小とするために出来る限り薄い方が好ましい。すなわち、それぞれの耐加水分解剤非含有層の厚さは、好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下、理想的に0.8μm以下である。しかしながら、耐加水分解剤非含有層の厚さが0.1μm未満であると耐加水分解剤の滲み出し防止が充分でなくなるため、耐加水分解剤非含有層の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。
【0086】
耐加水分解剤非含有層は、基本的に、耐加水分解剤を含有する層と同じポリマー及び添加剤(上記の耐加水分解剤を除いて)から成る。しかしながら、耐加水分解剤非含有層を構成するポリエステル原料は、末端カルボキシル基濃度が最小となることが好ましいことが明らかになった。そのようなポリエステル原料は、欧州特許出願公開第0738749号明細書に記載されている。好ましい実施態様として、ポリマー中の末端カルボキシル基濃度が、ポリマーの重量を基準として、25mモルH+/kg以下が好ましく、15mモルH+/kg以下が更に好ましく、理想的には8mモルH+/kg以下である。上記の範囲を達成するには、例えば固相重合を行ったりエンドキャップを行ったりする。原料ポリエステルの粘度(IV)は、通常0.61〜0.75(トリクロロエタン/フェノール溶媒中、米国特許第3432591号明細書参照)である。IVが高すぎると、欧州特許出願公開第0738749号明細書に記載されているように、粘度が高いために、フィルム製造の押出し工程においてより高い温度およびより高い剪断力が必要とされるため、溶融状態における加水分解が起こりやすくなるという欠点がある。従って、耐加水分解剤含有層の原料のIV値は0.61〜0.75であることが好ましい。特に好ましくは、耐加水分解剤含有層の原料のIV値(複数層ある場合はその平均IV値)と、耐加水分解剤非含有層の原料のIV値(複数層ある場合はその平均IV値)との差が0.1以下、更に好ましくは0.03以下である。好ましい実施態様として、少なくとも1つの耐加水分解剤非含有の最外層(トップ層)を有し、これにより、耐加水分解剤として使用されるエポキシ化脂肪酸の臭気問題を低減し、メタル化や積層化(例えば、金属や接着剤をこの層に接着する際)を良好とすることが出来る。
【0087】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法は、フィルムの原料組成物を溶融してフラットダイを介して押出す工程と、一つ以上の引取ロール上に引取って冷却し、固化して実質的に非晶のシートを得る工程と、得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸(配向)してフィルムを得る工程と、得られたフィルムを熱固定し、巻取る工程とから成る。押出工程において、押出機のインテイクゾーン(原料供給ゾーン)は295℃を超えて加熱しない方が好ましいことが明らかになった。更に、押出ダイの部分、特にダイリップ及びその近傍領域では290℃以下、好ましくは285℃以下、更に好ましくは275℃以下であることが好ましい。より高温であると安定剤(耐加水分解剤)に熱的負荷がかかり、ゲルを形成しやすくなる。更に、この付近でより高温となると、耐加水分解剤が放出されやすくなる。
【0088】
通常、二軸延伸は連続的に行われる。このため、初めに長手方向(機械方向:MD)に延伸し、次いで横方向(機械方向に対し直角方向:TD)に延伸するのが好ましい。これにより分子鎖が配向する。通常、長手方向の延伸は、延伸比に対応する異なる回転速度を有するロールを使用して行われ、横手方向の延伸はテンターフレームを使用し、フィルムの両端を把持して行われる。
【0089】
延伸時の温度は、所望とするポリエステルフィルムの物性によって決定され、広い範囲で選択できる。通常、長手方向および横方向の延伸はTg+10℃〜Tg+60℃(Tg:フィルムのガラス転移温度)の温度で行われる。長手方向の延伸比は、通常2.0〜6.0、好ましくは3.0〜4.5である。横方向の延伸比は、通常2.0〜5.0、好ましくは3.0〜4.5である。2回目の長手方向および横方向の延伸を行う場合は、その延伸比は通常1.1〜5.0である。
【0090】
長手方向の延伸において同時に横方向の延伸を行う2軸延伸法(同時延伸)で延伸を行ってもよい。長手方向および横方向の延伸比は夫々3.0以上であることが好ましい。
【0091】
熱固定は、通常150〜260℃、好ましくは200〜245℃で0.1〜10秒行う。熱固定の工程に引き続き又は熱固定の過程中に、横方向に対し又任意に長手方向に対しても、通常0〜15%、好ましくは1.5〜8%の弛緩処理を行う。次いで、通常の方法により、フィルムを冷却し、巻取る。
【0092】
本発明の方法で製造されるフィルムは、本発明のフィルムと異なる未変性(耐加水分解剤を含まない)フィルムと比較して、室温〜210℃において加水分解性が顕著に低い。欧州特許出願公開第1634914号明細書に記載されているフィルムでは、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステルを使用し、鎖延長剤は使用していない。この場合と比較して、本発明においては、製造工程においてフィルムの破断を導くような押出工程における粘度の低下が無く、フィルムの生産性を高めることが出来る。
【0093】
フィルムの安定性(耐加水分解性)は、実質的にフィルムの厚さ及び25〜210℃の測定範囲とは独立している。
【0094】
本発明のフィルムは、オートクレーブ中、110℃の飽和水蒸気下で96時間処理しても、SV値500以上であり、機械的性質も安定している。一方、安定剤(耐加水分解剤および鎖延長剤)非含有のフィルムでは、上記の様な処理後のSV値が400未満で減少し、まげ破断強度が悪化する。本発明の安定化フィルムでは、上記の処理条件で、SV値が400となるフィルムの臨界点に達する時間(寿命)は、非安定化フィルムと比較して300%長い。同様のフィルム寿命の相対的な延長は、80℃においても170℃においても認められる。
【0095】
上記の耐加水分解剤および鎖延長剤により安定化したフィルムは、長寿命(1年以上)に設計される製品用途、使用中に高温(例えば80℃以上)、更に高湿(例えば相対湿度が50%以上)に曝されるような製品用途、および屋外用途に特に好適である。
【0096】
また、自動車におけるリボンケーブルの用途も好適である。この用途において、フィルム(好ましくは厚さ12〜200μm)は、ヒートシール接着剤(例えば、「EKP−Heiβsiegellack 230」(EKP Verpackungslacke GmbH社製、ドイツ)を用いて銅に積層する。本発明の耐加水分解剤および鎖延長剤を含有するポリエステルとの複合材は、例えば自動車で発生する機械的応力(振動を含む)に耐え通常のポリエステルから成る複合材に比べて長寿命である。しかしながら、使用する接着剤もまた、実質的に加水分解しない(ポリエステル系接着剤であれば、上記の耐加水分解剤で改質することが望ましい)ことが必要である。
【0097】
更に、好ましい用途としては、太陽電池モジュールの裏面積層体が挙げられる。この場合、長手方向のフィルムの収縮率(150℃、30分間)が1.5%以下で横方向の収縮率(150℃、30分間)が1.2%以下であることが好ましい。安定剤(対加水分解剤)を使用すると、収縮率が大きくなる傾向がる。そのため、対加水分解剤および鎖延長剤の合計量が上記好ましい範囲内であることが好ましく、及び/又は、熱固定温度の最高温度を225℃以上、横方向に4%以上で弛緩処理することが好ましい。太陽電池モジュールの裏面積層体として使用する場合、フィルムの厚さは通常25μm以上、好ましくは45μm以上である。
【0098】
電気絶縁体(例えば、太陽電池モジュールのケーブルや裏面積層体)としての用途として好ましい実施態様において、フィルムの弾性率は、両方向(長手、横)に対して通常3000N/mm2以上、好ましくは4000N/mm2以上、理想的には4500N/mm2以上である。このような機械的性質を有すると、低い延伸比のフィルムと比較して電気絶縁性が向上するという利点もある。耐加水分解剤および鎖延長剤の総含有量を上記の好ましい範囲内にすることにより、上記の機械的性質を達成できる。更に、両方向(長手、横)の延伸比が3.1以上の場合、好ましくは3.3以上の場合に、上記の機械的特性を達成することも出来る。
【0099】
電気絶縁体(例えば、太陽電池モジュールのケーブルや裏面積層体)としての用途として好ましい実施態様において、フィルムの密度は通常1.1g/cm3以上、好ましくは1.3g/cm3以上、理想的には1.4g/cm3以上である。高い機械的強度は電気絶縁性を向上させる。耐加水分解剤および鎖延長剤の総含有量を上記の好ましい範囲内にすること及び/又は最高熱固定温度を200℃以上に設定することにより、上記の機械的性質を達成できる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。評価方法を以下に示す。
【0101】
(1)標準粘度:
ポリエステルの標準粘度SV(DCA)は、DIN 53726に従い、ウベローデ型粘度系を使用し、25℃で測定したジクロロ酢酸1%溶液の比粘度(ηrel)から求めた。ポリエステルの標準粘度SVは、以下の式より算出した。
【0102】
SV=(ηrel−1)×1000
【0103】
(2)収縮率:
熱収縮率は、1辺10cmの正方形のフィルムについて測定した。試料フィルム片は、一辺が長手方向に平行に、もう一辺が長手方向と垂直に(横方向に)なるように切り出して作成した。試料フィルムの長さは正確に測定し(長手方向の辺の初期長さをL0 MD、横方向の辺の初期長さをL0 TDとする)、強制空気乾燥機の中で、収縮温度において(200℃前後)15分間熱処理を行った。試料フィルムを取出し室温にて名がD差を正確に測定する(長手方向の辺の熱処理後の長さをLMD、横方向の辺の熱処理後の長さをLTDとする)。収縮率は以下の式から算出した。
【0104】
長手方向収縮率(%)=100×(L0 MD−LMD)/L0 MD
【0105】
横方向収縮率(%)=100×(L0 TD−LTD)/L0 TD
【0106】
(3)透明度(透過度):
「Haze−gard Plus」(BYK Gardner Instrument社製)を使用し、ASTM D1003に従って測定した。
【0107】
(4)370nmの波長における透過度:
「Lambda 3 UV/Vis」分光計(Perkin Elmer社製)を使用して測定した。
【0108】
(5)密度:
密度は、密度勾配管法(溶媒:四塩化炭素/ヘキサン)、又はガスピクノメーター(ヘリウム又は窒素)法により測定した。
【0109】
(6)原料ポリマー中に添加する前の粒子の平均粒径d50:
粒子の平均粒径d50は、「Master Sizer」(Malvern Instruments社製(英国))を使用して乗法により測定した。(「Horiba LA 500」(堀場製作所社製)又は「Helos」(Sympathec GmbH社製(独国))でも基本的に同一の測定である)。水を入れたセルにサンプルを入れ、試験装置にセットする。試験は自動的に行われ、粒径d50の数学的な計算も一緒に行われる。粒径d50の値は、累積粒径分布曲線から決定する。すなわち、縦軸50%と累積粒径分布曲線の交点を横軸上のd50の値とした。
【0110】
(7)フィルムの機械的性質:
フィルムの機械的性質は、DIN EN ISO 527−1〜−3に従って測定した。
【0111】
(8)オートクレーブによる試験加水分解試験:
フィルム(10cm×2cm)をワイヤーで吊るしてオートクレーブ(Adolf Wolf SANOklav社製 ST−MCS−204)中に入れ、オートクレーブの中に水を2L入れた。オートクレーブを密封し、100℃に加熱した。水蒸気によって中の空気は排出口から送出された。約5分後にバルブを閉じ、温度を110℃に上昇させ、圧力を1.2〜1.5気圧に上昇させた。設定時間が過ぎるとオートクレーブは自動的にスイッチが切れ、排出口が開放され、フィルムを取出した。そして、そのフィルムのSV値を測定した。
【0112】
使用した原料を以下に示す。
【0113】
耐加水分解剤1(HStab 1):
エポキシ酸素含有量8.9重量%のエポキシ化亜麻仁油(Arkema社製、米国)。亜麻仁油は、式[1]に含まれる種々の化合物の中の1例である。
【0114】
耐加水分解剤2(HStab 2):
エポキシ酸素含有量7重量%の亜麻仁油の2−ヘキシルエチルエステル(亜麻仁油油脂の2−(ヘキシルエチル)エステル)(Arkema社製、米国)。HStab 2は、式[1]に含まれる種々の化合物の中の1例である。
【0115】
鎖延長剤1:
Joncryl 4380(室温で液体、分子量:3300、エポキシ価(重量価、分子量/エポキシ基数):450g/モル)。Joncryl 4380は、種々の化合物を含む化学式[7]においてその大きさを規定したものである。
【0116】
ポリエステルR1:
PET(Invista社製(独国)、SV:790、末端カルボキシ基含有量:22mモル/kg、ジエチレングリコール単位含有量0.75重量%)。
【0117】
マスターバッチMB1:
TiO2(「Hombitan LW−SU」、Sachtleben社製(独国))20重量%、及びPET(SV:790、ジエチレングリコール単位含有量:1重量%、末端カルボキシ基含有量:42mモル/kg)80重量%から成るマスターバッチ。二軸押出機中でPETにTiO2を添加して調製。
【0118】
実施例1及び比較例1〜2:
フィルムの製造は以下の方法で行った。表1に示す組成で熱可塑性チップ(MB1及びR1)を混合し、二軸押出機(日本製鋼社製)を使用して278℃で押出した。耐加水分解剤は計量し、ポンプを使用して押出機の投入口に直接供給した。溶融ポリマーはノズルから引取ロールによって引取られた。得られたシートは、116℃で長手方向に延伸比3.4で延伸され、更に、110℃で横方向に延伸比3.3で延伸された。引続き得られたフィルムを225℃で熱固定し、200〜180℃で横方向に6%の弛緩処理を行った。得られたフィルムの厚さは50μmであった。
【0119】
表1に、各実施例および比較例における組成および評価結果について示す。
【0120】
【表1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さが11〜500μmの耐加水分解性ポリエステルフィルムに関する。詳しくは、少なくとも1種の耐加水分解剤および鎖延長剤を有し、製造中における加水分解速度が極めて遅い耐加水分解性ポリエステルフィルムに関する。本発明は、更にその製造方法およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
特定の厚さを有するポリエステルフィルムは公知である。この種のポリエステルフィルムは、一般に耐加水分解性が低いという欠点を有する。特に、ポリエステルのガラス転移温度を超える状況下において、加水分解を被りやすい。加水分解は湿気を有する条件下で顕著であり、加水分解によってポリエステルの性質が悪化し、ポリエステルの固有粘度IVや標準粘度SVの低下を引起す。特に、フィルムコンデンサー、ケーブルの鎧装、リボンケーブル、エンジン保護フィルム等の高熱に曝されるフィルムや、窓ガラス用フィルム、屋外で使用するフィルム、特に太陽電池モジュールの裏面積層体などの長期間使用するフィルムにおいては、上記耐加水分解性が使用限界の要因となる。
【0003】
上記の加水分解は、脂肪族ポリエステルだけでなく、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエチレンテレフタレート(PET)のような芳香族ポリエステルにおいても著しい。PETでは加水分解が顕著に起りやすいような状況で使用する場合、より耐加水分解性が良好なポリエチレンナフタレート(PEN)や、ポリエーテルイミド、ポリイミド等の他のポリマーが使用される。しかしながら、これらの耐加水分解性が良好なポリマーは、PETと比較して高価であるという問題がある。
【0004】
ポリエステルフィルムの耐加水分解性を向上されるために、耐加水分解剤を添加することが知られている。例えば、カルボジイミドを含有する耐加水分解性が向上したポリエステル原料および当該原料を使用して製造される繊維およびフィルムが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、このような耐加水分解剤を含有するフィルムは、製造工程や使用において、イソシアナートや他の副生物および分解物によるガスが発生し、このガスが粘膜を刺激したり、健康被害をもたらす。射出成型品よりも、シートやフィルムのような大きな表面積を有する成型品の方が、上記の問題が特に生じやすい。
【0005】
ターミナルエポキシ基(末端エポキシ基)を有する耐加水分解剤の耐加水分解性について知られている(例えば、特許文献4〜5参照)。しばしば、これらの化合物のポリマーマトリックス中への混合が不十分なため、延伸フィルムを製造する場合においてフィルム破断を引き起こす。ポリマーマトリックス中への混合が不完全なことにより、更に、エポキシ基の極く一部がポリエステルと反応する。そのため、残余の耐加水分解剤は互いに反応しあい、使用材料のゲル化を引き起こす。押出工程において、耐加水分解性は、末端カルボキシル基の減少を経る第2の効果を伴う初期分子量の上昇に基づいている(フィルムは初期において高IV及びSVを有しており、初期の低いIV/SV値を有する対応するフィルムよりも加水分解的な分解のために分子鎖がより長い必要がある)。最終製品においてでさえ活性であり、最終製品の寿命期間中において耐加水分解性が継続するような安定剤による確かな安定化は、この方法では達成できていない。どちらかと言えば、これは鎖延長効果であって耐加水分解効果ではない。
【0006】
カルボジイミド及び他の基材を耐加水分解剤として使用することが知られている(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、これらの使用は、押出工程において、鎖延長効果による突然の分子量増加(粘度上昇)が顕著となり、押出工程が不安定となり、制御しにくい。
【0007】
また、エポキシ化植物油を耐加水分解剤として有するポリエステルフィルムも知られている(例えば、特許文献7〜8参照)。カルボジイミドを使用した場合に問題となる有毒な分解生成物の発生はなく、植物油の種類を選択することによりポリエステルマトリックス中への混入も良好であり、フィルムの耐加水分解性も良好である。しかしながら、この場合、製造工程における粘度の変化が起こり、特に粘度の低下が生じるという不都合がある。この粘度低下は、押出工程の溶融において特に顕著であり、圧力の変化をもたらす。その結果、押出た後のシートにおいて厚さのばらつきが生じ、製造工程においてフィルムの破断が起こる。
【0008】
粘度の上昇、特に押出工程における粘度上昇は鎖延長剤を使用より達成できる。ポリエステルの鎖延長剤は、同じ様に知られている(例えば、特許文献9参照)。この文献においては、無水物、特にピロメリット酸無水物を有効成分とする鎖延長剤が記載されている。
【0009】
ポリエチレンテレフタレート(PET)用鎖延長剤として、オキサゾリン系またはカプロラクタム系鎖延長剤が知られており、DSM社(オランダ)からAllincoの商品名で市販されている。
【0010】
特許文献10または他の文献に記載のエポキシ系鎖延長剤は、BASF社(独国)からJoncrylの商品名で市販されている。
【0011】
原則上PET用鎖延長剤として好適であるグリシジル末端基を有するポリマーは、Hexion社(米国)からEponの商品名で、Arkema社(仏国)からLotaderの商品名で夫々市販されている。
【0012】
これらの鎖延長剤は良く知られているものの、鎖延長剤として、ポリエステルフィルムの製造における工業的実施で使用された例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5885709号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0838500号明細書
【特許文献3】スイス特許出願公開第621135号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第0292251号明細書
【特許文献5】米国特許第3657191号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0292251号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1634914号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1842871号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1054031号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、上記の先行技術における問題点を解消した耐加水分解性ポリエステルフィルムを提供することにある。すなわち、重大な問題となる程度のゲルの発生がなく、安定で高い粘度レベルを達成でき、経済的で容易に実現可能な手法で製造できる耐加水分解性ポリエステルフィルムを提供する。更に、押出工程において粘度変化が最小となり(粘度上昇、低下が共にない)、フィルム破断を生じさせる押出工程における粘度低下が1日当り4回未満であるような耐加水分解性ポリエステルフィルムを提供する。そして、粘度安定の手段により、フィルムの耐加水分解性に若干の影響を受けるか、理想的には全く影響を受けない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明の第1の要旨は、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステル及びエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルを含有する二軸延伸ポリエステルフィルムであって、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、エポキシ化脂肪酸エステルの含有量が0.1〜5.0重量%で且つエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの含有量が0.2〜10重量%であり、エポキシ化脂肪酸エステルの平均分子量が425g/モル以上であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムに存する。
【0016】
本発明の第2の要旨は、上記の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルムの原料組成物を溶融してフラットダイを介して押出す工程と、一つ以上の引取ロール上に引取って冷却し、固化して実質的に非晶のシートを得る工程と、得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸してフィルムを得る工程と、得られたフィルムを熱固定し、巻取る工程とから成り、上記二軸延伸ポリエステルフィルムは、耐加水分解剤として、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、エポキシ化脂肪酸エステルを0.1〜5.0重量%、エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルを0.2〜10重量%含有し、エポキシ化脂肪酸エステルの平均分子量が425g/モル以上であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法に存する。
【0017】
本発明の第3の要旨は、上記の二軸延伸ポリエステルフィルムから成るリボンケーブル、太陽電池モジュールの裏面積層体および電気絶縁体に存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フィルムの製造工程において問題となる程度のゲルの発生がなく、経済的で容易に実現可能な手法で製造できる耐加水分解性ポリエステルフィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のフィルムの主成分はポリエステルである。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ビベンゾイル変成ポリエチレンテレフタレート(PETBB)、ビベンゾイル変成ポリブチレンテレフタレート(PBTBB)、ビベンゾイル変成ポリエチレンナフタレート(PENBB)及びこれらの混合物が例示される。中でも、PET、PBT、PEN、PTT、これらの混合物およびこれらの共重合ポリエステルが好ましい。
【0020】
ポリエステルを製造する際、ジメチルテレフタレート(DMT)、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,4−ブタンジオール、テレフタル酸(TA)、ベンゼンジカルボン酸および/またはナフタレン−2,6−ジカルボン酸(NDA)等の主モノマーに加えて、イソフタル酸(IPA)、trans−及び/又はcis−1,4−シクロヘキサンジメタノール(c−CHDM、t−CHDM又はc/t−CHDM)、ネオペンチルグリコール及び他の好適なジカルボン酸成分(またはジカルボン酸エステル)並びにジオール成分を使用することが出来る。
【0021】
ジカルボン酸成分は、ジカルボン酸成分の重量に対しTAが90重量%以上、好ましくは95重量%以上であることが好ましい。ジオール成分は、ジオール成分の重量に対しEGが90重量%以上、好ましくは93重量%以上であることが好ましい。更に、ポリマー総重量中のジエチレングリコールの割合が0.25〜3重量%であることが好ましい。特に、ポリマー総重量中のジエチレングリコールの割合が0.75〜1.5重量%であることが好ましく、この範囲ではフィルムの走行性と耐加水分解性が最良となる。なお、上記重量割合において耐加水分解剤の重量は無視する。
【0022】
使用するポリエステルは、末端カルボキシ基濃度が通常3mモル/kg以上、好ましくは10mモル/kg以上、理想的には15mモル/kg以上。末端カルボキシ基濃度が高いほど、鎖延長剤による粘度上昇効果が達成される。少なくとも1つ以上末端のカルボキシ基濃度が30mモル/kg以上のポリエステルをフィルムの重量に対して5重量%以上使用することにより、鎖延長剤が効果的に働く。
【0023】
本発明のフィルムは、更に、表面形状や外観(グロス、ヘーズ等)を調節するために無機粒子または有機粒子を添加してもよい。添加粒子としては、炭酸カルシウム、アパタイト、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子、ゼオライト、及びアルミニウムシリケート等のシリケート等が挙げられる。これらの粒子は、フィルムの重量に対して通常0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜0.6重量%含有される。これらの粒子の中でも、炭酸カルシウム及び二酸化ケイ素が特に好ましい。
【0024】
フィルム製造工程における良好な走行性を達成するために、添加粒子の平均粒径d50は、通常0.1〜20μm、好ましくは0.3〜7μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。ガラス繊維などの繊維状無機添加剤は、フィルム製造中にフィルムの破断が多くなり不経済となるため好ましくない。なお、添加粒子の平均粒径d50は、ポリマー中に添加する前の粒径である。
【0025】
好ましい実施態様において、フィルムは白色フィルムである。好ましい白色顔料は、二酸化チタン、硫酸バリウム、又は、ポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィン共重合体(COC)等のポリエステルと非相溶性ポリマー、並びにこれらの組合せである。なお、後者の非相溶性ポリマーは前者の白色顔料と比較して熱安定性の面で劣る。これらの白色顔料の含有量は、フィルムの重量に対して通常1〜35重量%、好ましくは2〜20重量%、更に好ましくは3〜10重量%である。良好なフィルム走行性および白色性を達成するに、白色顔料の平均粒径d50(上記の無機白色顔料についてのみ)は、通常0.05〜5μm、好ましくは0.1〜1μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。好ましい白色顔料は二酸化チタンであり、良好な耐候性が達成できる。二酸化チタンは他の酸化物によって変成および/または被覆することが好ましい。他の酸化物の元素としてはAl、Si、V、P、Ca及びこれらの組合せが好ましい。これらの白色顔料/粒子は、例えば米国特許第3981737号明細書、欧州特許出願公開第0861299号明細書に記載されている。屋外用途において、白色フィルムは透明フィルムよりも優れている。これは、安定剤(耐加水分解剤)の劣化が少ないためである。更に、フィルムの透明度(透過度、ASTM D1003に準じて測定)は60%以下が好ましく、40%以下が更に好ましい。可視光領域の透明度に加え、370nmのUV領域での透過度20%以下が好ましく、10%以下が更に好ましく、理想的には5%以下である。
【0026】
更に、上記の添加剤に加えて、本発明のフィルムは、難燃剤、フリーラジカル捕捉剤/酸化防止剤およびUV安定剤の1つ以上の添加剤を含有してもよい。難燃剤としては有機リン酸エステルが好ましい。酸化防止剤およびUV安定剤としては、仏国特許出願公開第2812299号明細書に記載の物を選択することが出来る。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、粒子(顔料、または白色顔料としてポリエステルに非相溶なものはあまり好ましくない)、耐加水分解剤および前述の添加剤を、通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下含有し、理想的には全く添加しない。更に、通常延伸フィルムの機械的性質を悪化させる理由から、更なるポリマーを添加しないことが好ましい。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムは、耐加水分解剤を含有する。耐加水分解剤のフィルムの重量に対する配合量は、0.25〜20.0重量%、好ましくは1.0〜6.0重量%、更に好ましくは1.5〜5重量%である。
【0029】
好ましい耐加水分解剤は、エポキシ化脂肪酸エステル及び/又はエポキシ化脂肪酸グリセリンエステル(エポキシ化脂肪酸グリセリド)である。
【0030】
エポキシ化脂肪酸グリセリンエステル(エポキシ化脂肪酸グリセリド)は、グリセリンエステルの混合物または純水なグリセリンエステルであり、グリセリンエステルであり、好ましくは以下の式[1]で示される。
【0031】
CH2ОR1−CHОR2−CH2ОR3 [1]
【0032】
ここで、式[1]中、R1〜R3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R1〜R3は、好ましくは下記式[2]で示される。
【0033】
【化1】
【0034】
構成単位(1)〜(3)は任意の順序で結合できる。REはCH3又はHを示す。mは1〜40、好ましくは7〜20、更に好ましくは10〜16である。nは0〜10、好ましくは1〜4、更に好ましくは2〜3である。oは0〜4、好ましくは0である。平均して、mは9〜16、好ましくは11〜13であり、nは1〜3、好ましくは1.5〜2.75、更に好ましくは2〜2.5であり、oは0.5未満である。
【0035】
個々のメチレン基(−CH2−)を有するシークエンス(1)、エポキシ基(−CHОCH−)を有するシークエンス(2)、CHCH3基を有するシークエンス(3)としては、望ましくは、カルボニル基から続くシークエンス(1)は少なくとも2つ、好ましくは7つのメチレン基(1)を有し、続いて1つ以上のシークエンス(2)又はシークエンス(3)を有し、更に、少なくとももう1度シークエンス(1)が繰返されることが好ましい。
【0036】
m=0の場合のグリセリンエステルの混合物中のR1、R2及びR3の合計量は、グリセリンエステルの混合物の重量を基準として、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0037】
1つ以上のR1、R2及びR3は、それぞれ独立して次のように定義される。
【0038】
R1、R2及びR3はHである。R1、R2及びR3は、C8〜C40の不飽和(二重結合または完全にエポキシ化されていない)脂肪酸である。R1、R2及びR3は、(PO)−O−(CH2)2−N(CH3)3である。R1、R2及びR3は、詳細を規定できない他の有機基(生物由来のものであるため)である。しかしながら、このような化合物はあまり好ましくないので、グリセリンエステルの混合物の重量を基準として、通常20重量%以下、好ましくは5重量%以下とする。すなわち、上記の好ましいグリセリンエステルの配合量がグリセリンエステルの混合物の重量を基準として、通常80重量%以上、好ましくは95重量%以上とする。
【0039】
本発明で使用するグリセリンエステルは、生物由来のエポキシ化油が好ましく、グリセリンエステルに加えてプロテイン等の他の基質が少量含有されていてもよく、その含有量は、耐加水分解剤の重量を基準として、通常10重量%以下、好ましくは2重量%以下である。
【0040】
具体的には、耐加水分解剤中の210℃以下の沸点を有する成分の含有量は、耐加水分解剤の総重量を基準として、通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0041】
好ましいエポキシ化脂肪酸グリセリンエステル又はその混合物としては、式[3]:R4OR5で示される化合物である。ここで、R4は好ましくは以下の式[4]で示される。
【0042】
【化2】
【0043】
構成単位(1)〜(3)は任意の順序で結合できる。REはCH3又はHを示す。pは1〜40、好ましくは7〜20、更に好ましくは10〜16である。qは0〜10、好ましくは1〜4、更に好ましくは2〜3である。rは0〜4、好ましくは0である。平均して、pは9〜16、好ましくは11〜13であり、qは1〜3、好ましくは1.2〜2.5であり、rは0.5未満である。
【0044】
個々のメチレン基(−CH2−)を有するシークエンス(1)、エポキシ基(−CHОCH−)を有するシークエンス(2)、CHCH3基を有するシークエンス(3)としては、望ましくは、カルボニル基から続くシークエンス(1)は少なくとも2つ、好ましくは7つのメチレン基(1)を有し、続いて1つ以上のシークエンス(2)又はシークエンス(3)を有し、更に、少なくとももう1度シークエンス(1)が繰返されることが好ましい。
【0045】
R5は、好ましくは式[5]:−(CH2)s−R6で示される。sは0〜50、好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜8である。R6は、H又はCtH(2t+1)を表し、tは3〜10、好ましくは5〜8である。R6の好ましい例は−CH(CH2−CH3)−(CH2)3−CH3である。またR6は、好ましくはO−R4であり、R4は上記式[4」で示される。R6はまた−OHであってもよいが、あまり好ましくはない。
【0046】
エポキシ化脂肪酸エステル中の上記式[3]で示されない他の化合物の含有量は、含有量は、使用する脂肪酸エステルの総重量を基準として、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下とする。すなわち、上記の好ましいエポキシ化脂肪酸エステルの配合量が、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上とする。
【0047】
DIN EN ISO 3682に準じて測定した耐加水分解剤の酸価は、通常10mg(KOH/g)以下、好ましくは2mg(KOH/g)以下である。酸価が高すぎると鎖延長剤と関連してゲルを形成しやすくなる。
【0048】
耐加水分解剤の配合を容易にし、耐加水分解性を効果的にするために、DIN 53018に準じて測定した、25℃における耐加水分解剤の粘度は、通常300mPa・sより大きく、好ましくは500mPa・sより大きく、更に好ましくは700mPa・sより大きい。耐加水分解剤の粘度が低すぎると、押出工程において粘度が低くなる危険があり、フィルムの破断を導く。
【0049】
耐加水分解剤の使用量を基準とした耐加水分解性を向上させるために、耐加水分解剤のエポキシ酸素含有量が、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、更に好ましくは7.5重量%以上であることが好ましい。
【0050】
好ましいエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルとしては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ひまわり油、エポキシ化魚油などが挙げられる。これらのエポキシ化油の組合せの組成物、特に各エポキシ化油の種類やその配合量にして、「Rompp Chemie Lexikon」(10th edition、Georg Thieme Verlag、Stuttgart(独国))に記載されている。特に好ましくはエポキシ化亜麻仁油である。エポキシ化脂肪酸エステルは、熱安定性に優れる不飽和脂肪酸の2−エチルヘキシルエステル、又は熱安定性に優れる菜種油、亜麻仁油、大豆油、魚油などを基にした脂肪酸の混合物が好ましく、エポキシ含有量は、エポキシ化脂肪酸エステルを基準として通常1.5〜15エポキシ酸素重量%、好ましくは4〜10エポキシ酸素重量%である。
【0051】
優れた耐加水分解性を達成するために、耐加水分解剤中の式[1]に示されるエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの含有量が50%重量以上が好ましく、66%重量以上が更に好ましく、75%重量以上が特に好ましい。エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルは、対応するエポキシ化脂肪酸エステルよりも耐加水分解性の効果が高い。
【0052】
更に、押出工程におけるフリーラジカルの副反応による活性オキシラン基の消費の影響を弱めるため、フリーラジカル捕捉剤として安定剤をフィルムに添加することが好ましい。フリーラジカル捕捉剤、熱安定剤などの安定剤の含有量は、フィルムの重量に対しておおよそ50〜15000ppm、好ましくは100〜5000ppm、更に好ましくは300〜1000ppmである。ポリエステル原料に添加する安定剤としては、立体障害性フェノール、2級芳香族アミン等の第1の安定剤の群、または、チオエーテル、ホスファイト、ホスホナイト、ジブチルジチオカルバメート亜鉛などの第2の安定剤の群、相乗効果が期待できる第1の安定剤の群と第2の安定剤の群との組合せ等から選択できる。中でも好ましい安定剤は上記フェノール系安定剤である。フェノール系安定剤としては、立体障害性フェノール(ヒンダードフェノール)、チオビスフェノール、アルキリデンビスフェノール、アルキルフェノール、ヒドロキシベンジル化合物、アシルアミノフェノール、ヒドロキシフェニルプロピオネート等が挙げられ、これらは類「Kunststoffadditive」(プラスチック添加剤、第2版、Gachter Muller著、Carl Hanser−Verlag社)および「Plastics Additives Handbook」(第5版、Dr. Hans Zweifel著、Carl Hanser−Verlag社)に記載されている。好ましい安定剤としては、Ciba Specialties社(Basle、スイス)のCAS番号6683−19−8、36443−68−2、35074−77−2、65140−91−2、23128−74−7、41484−35−9、2082−79−3及び「Irganox」1222であり、特に好ましくは「Irganox」1010、1222、1330、1425及びこれらの組合せ等が挙げられる。
【0053】
驚くべきことに、耐加水分解剤にフリーラジカル捕捉剤を添加するのではなく、フィルム製造中の初期の段階でポリエステル原料に添加する方が好ましいことが明らかになった。
【0054】
本発明のフィルムは耐加水分解剤に加え、鎖延長剤を含有する。鎖延長剤は、少なくとも2つの反応性基を有し、当該反応性基はポリエステルの押出工程時に反応してポリエステル鎖同士を結合することが出来、更に当該反応性基は実質的にポリエステルの押出工程中に消耗され(75%以上が消費)、製造後のポリエステルフィルムの使用時において鎖修復(延長)の効果を有していないことが特徴である。鎖延長剤としては、ビスオキサゾリン類、カルボニルラクタム類、多官能性無水物(任意にポリオールと組合せて使用)、2官能/多官能ターミナルエポキシ化物などが挙げられる。ここで「2官能/多官能」とは、エポキシ基、無水物、アルコール基などの官能基の数を表し、「ターミナル」とは、例えばエポキシ基の場合、主鎖または側鎖の末端にエポキシ基を有することを表す。
【0055】
ビスオキサゾリン類(例えば1,3−PBO、DSM社(オランダ)よりAllincoの商品名で市販されている)は、耐加水分解剤の組合せにおいて、その添加量がフィルムの重量に対して0.5重量%まで効果がない。高添加量(2重量%まで)においては、押出工程における粘度の安定性にいくらか効果があるが、それと同時にフィルムに明らかな黄変を生じさせ、更に、フィルムからある特定のオキサゾリンは染出し、フィルム製造におけるロールに付着する。添加量が2重量%を超えると、安定な製造が困難となる。ビスオキサゾリンは本発明における鎖延長剤としてはあまり好ましくはない。
【0056】
カルボニルラクタム類、例えば、カルボニルビスカプロラクタム(CBC)は、DSM社(オランダ)よりAllincoの商品名で鎖延長剤として市販されている。CBCは本発明の耐加水分解剤とを組合せて、フィルムの重量に対し0.1〜1.3重量%添加することで有効となる。添加量がこれより少ないと効果は非常に小さく、これより多いとゲル化や、押出工程における粘度の突然の上昇などを引き起こす。CBCを使用するに当たって重要なことは、他の耐加水分解剤と併用することで、0.6重量%の添加量であっても押出工程における粘度の突然の上昇を引き起こし、フィルムの破断を生じたりする。CBCの好ましい添加量は0.2〜0.5重量%である。予想に反し、CBCもまた染出しが起こりロールに付着したりフィルムの黄変を引き起こす。この効果は耐加水分解剤によって高められる。CBC及び他のカルボニルラクタムを含有するフィルムの加水分解速度は、それらを含有しないフィルムと比較して若干大きい。従って、CBC及び他のカルボニルラクタムは本発明における鎖延長剤としてはあまり好ましくはない。
【0057】
多官能無水物(ここで、多官能無水物とは無水物基が複数ある化合物を意味する)は、単独でも多官能アルコールと組合せても鎖延長剤として好適である。具体的な多官能無水物および多官能アルコールは欧州特許出願公開第1054031号明細書に記載されている。好ましい化合物としては、テトラカルボン酸二無水物である。特に好ましくは、ピロメリット酸無水物であり、更に多官能アルコール(ポリアルコール)としてはグリコール、ペンタエリスリトール、特に好ましくはペンタエリスリトールである。
【0058】
多官能無水物の添加量は、フィルムの総重量を基準として5重量%以下(これより大きいと突然の粘度上昇を引き起こす危険がある)、好ましくは1.5重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。更に、最適な効果のために、その添加量は0.3重量
以上である。
【0059】
ポリアルコールの添加量は、フィルムの総重量を基準として2重量%未満、好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下であり、この場合、特に良好な粘度の安定性を達成できる。
【0060】
更に、欧州特許出願公開第1054031号明細書に記載されているホスホネートを任意に添加してもよい。ホスホネートの添加量は、フィルムの総重量を基準として2重量%以下、好ましくは0.2重量%以下であり、理想的にはホスホネートの使用量を0.05重量%以下とする。
【0061】
ポリ無水物、および、ポリ無水物、ポリオール、ホスホネート等の混合物を使用することにより押出機内の粘度を安定化できる。一方、これらの化合物を使用した場合、ゲル化の発生レベルを引き上げ、またこの主の鎖延長剤を使用していないフィルムと比較して加水分解速度が大きい。ホスホネートの添加量の増加に従って加水分解速度は特に大きくなり、ポリオールの添加量の増加においては加水分解速度の増加はわずかである。
【0062】
本発明において好ましい鎖延長剤としては、2官能性エポキシドであり、更に好ましくは多官能性エポキシドである。なお、ここで「−−官能性」とは、エポキシ官能基の数である。エポキシ基はエポキシド分子鎖の末端または側鎖に位置する(エポキシ化鎖延長剤)。末端エポキシ官能基は鎖延長剤が下記式[6]で示される。
【0063】
【化3】
【0064】
上記式中、R7及びR8は、水素、脂肪族有機基、芳香族有機基またはそれらの組合せの水素または有機基を表し、R7は好ましくは水素である。
【0065】
多官能性エポキシドは2官能性エポキシドよりも好ましく、これは、より少ない使用量が要求される場合には、より高分子量の最終生成物が形成されるためであり、更にガス状の分解物の量がより少ないからである。1分子中のエポキシ基の数は1を超え、好ましくは2以上、更に好ましくは5以上である。1分子中のエポキシ官能基の数は、通常100以下、好ましくは20以下、理想的には10以下である。エポキシ官能基の数は大きいほど鎖延長効果が大きくなるがゲルを形成する可能性も増大する。
【0066】
鎖延長剤分子のエポキシ価(重量価、分子量/エポキシ官能基数)は、通常200g/モル以上、好ましくは300g/モル以上、理想的には425g/モル以上である。また、鎖延長剤分子のエポキシ価は、通常2000g/モル以下、好ましくは1000g/モル以下である。鎖延長剤分子のエポキシ価が高いほど、ゲルを形成する可能性が低くなる。一方、鎖延長剤分子のエポキシ価が高くなると、効果的な粘度上昇を達成するのに化合物の含有量(重量%)をより高くする必要がある。
【0067】
エポキシ化鎖延長剤の分子量は、通常1500以上、好ましくは2000以上、理想的には3000以上である。また、エポキシ化鎖延長剤の分子量は、通常15000以下、好ましくは10000以下、更に好ましくは5000以下である。このようなエポキシ化鎖延長剤の分子量範囲内において、ポリエステルマトリックス中へのもっとも良好な取込みが達成される。エポキシ化鎖延長剤は、室温において液体であることが好ましい。
【0068】
エポキシ化鎖延長剤の分子量、エポキシ基数および重量エポキシ基価は個別に独立して選択することが出来る。理想的には、これら3つのパラメーターがそれぞれの理想的な範囲であることが好ましい。
【0069】
アラルダイト(接着剤)シリーズや対応するEpon製品などのビスフェノール含有エポキシ化合物はあまり好ましくない。これは、通常の使用雰囲気中に検出可能な量のビスフェノールAを放出するからである。
【0070】
好ましいエポキシ化合物は、原則として、グリシジルメタクリレート、エチレン及び/又はアクリル酸エステルのコポリマー(共重合体)またはターポリマー(3元共重合体)である。このようなエポキシ化合物は、例えば、Arkema社製「Lotader」(フランス)が市販されている。これに関して、特に、Lotader AX8840、AX8900及びAX8950が好ましい。しかしながら、この、Lotaderシリーズにおいて、グリシジル基を含まないものは好ましくない。特に、グリシジル基の代りに無水マレイン酸含有モノマー単位を含むものは好ましくない。一般的に、耐加水分解剤と連動してゲル形成の可能性が大きく鎖延長効果が低いために、無水マレイン酸含有モノマー単位を含むポリマーはあまり好ましくない。Lotaderシリーズの他の好ましい化合物におけるフィルム製造上の技術的問題点は、室温において固体であり、耐加水分解剤と混合できないという点である。すなわち、反応させるためには一旦融解させる必要があり、さらにポリエステルとの混和性も良くない。そのため、良好な粘度の安定性を達成するためには、フィルムの重量に対して2重量%以上、好ましくは4重量%以上のような比較的多い量を使用する必要がある。しかしながら、添加量を大きくすれば、ゲルの形成や突然の粘度上昇のリスクが生じ、製造の運転中止や、最悪の場合、押出機の破損もあり得る。特に添加量が10重量%を超えるとゲルの形成が顕著となる。
【0071】
本発明において特に好ましい鎖延長剤は、下記式[7]で示されるポリマーである。
【0072】
【化4】
【0073】
上記式中、R9〜R13はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜12のアルキル基を表し、好ましくはメチル基である。R14は炭素数1〜12のアルキル基を表し、好ましくはメチル基である。x及びyはそれぞれ独立して0〜100、好ましくは1〜20である。x+yは0より大きく、好ましくは10より大きい。zは2〜100、好ましくは3〜20、更に好ましくは3〜10である。なお、各構成単位は任意の順序で結合できる。
【0074】
個々のポリマー鎖は、好ましい範囲から逸脱しているモノマー比率がランダムに分布しているため、これらの変数は使用するポリマーの平均値に基づく。
【0075】
これらの化合物は、ポリエステルマトリックス中へ良好に取込まれると同時に、鎖延長反応に優れ且つゲルの形成が少ないことが特に顕著である。
【0076】
上記のポリマーの市販品としては、BASF社製「Joncryl ADR」が挙げられ、特に液状製品として好ましい。
【0077】
これらのポリマーの添加量は、フィルムの重量に対して通常2重量%未満、好ましくは1.2重量%未満であり、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上である。
【0078】
本発明のフィルムは、耐加水分解剤および鎖延長剤を上記の範囲内で添加することにより、耐加水分解剤を添加しないフィルムと比較して耐加水分解性が向上する。
【0079】
エポキシ基系の鎖延長剤は特に好ましく、鎖延長剤を添加しないフィルムと比較して、製品フィルムの加水分解速度が大きくならない。これらのエポキシ含有鎖延長剤は、押出工程中にエポキシ化耐加水分解剤と優先的に反応することはなく、この反応が原因で鎖延長ではなくゲルを生じたり、耐加水分解剤が消費されて耐加水分解効果が低減するということがない。製造温度におけるエポキシ化合物のホモポリマー化の見地から、この効果は期待できるものである。
【0080】
耐加水分解剤および鎖延長剤は、二軸延伸ポリエステルフィルムの機械的性質の安定性や破断までの時間を引き伸ばすことを低下させる。更に、フィルムの好適な用途である電気絶縁体での使用において、これらの添加物はフィルムの絶縁耐力を低下させる傾向がある。そのため、耐加水分解剤および鎖延長剤の添加量の合計は、フィルムの総重量を基準として12重量%以下、好ましくは8重量%以下、更に好ましくは6重量%以下である。また、効果的な耐加水分解性を達成し、ポリマーマトリックス中に均一に混合させるために、耐加水分解剤および鎖延長剤の添加量の合計は、フィルムの総重量を基準として1重量%以上、好ましくは2重量%以上である。
【0081】
本発明において、耐加水分解剤および鎖延長剤はフィルム製造過程で直接押出機に計量投入することが好ましい。好ましくは多軸押出機(少なくとも2軸)を使用する。更に、耐加水分解剤および鎖延長剤は予備混合し、直接押出機に計量投入することが好ましい。(溶融)粘度を減少させる傾向にある耐加水分解剤に鎖延長剤を常に一緒に存在させることにより押出工程における突然の粘度上昇を特に効果的に防ぐことが出来る。好ましくは多軸押出機(少なくとも2軸)を使用する。
【0082】
また、耐加水分解剤および鎖延長剤はマスターバッチ法により導入してもよい。換言すれば、耐加水分解剤および鎖延長剤は(一緒にまたは別々に)、押出機(好ましくは多軸押出機)内のポリマー中に導入する。フィルム製造の過程において、ポリマー(又は複数のポリマー)は混合され、単独のポリマー又は他のポリマーと混合した状態で再度押出される。しかしながら、この方法は最初の押出工程において耐加水分解剤が既に消費され、フィルム中にアクティブな状態で存在していないので、あまり好ましい方法とはいえない。従って、マスターバッチ法として特に穏やかな押出条件でさえ、特に鎖延長剤の活性が大きく減少する。
【0083】
本発明のフィルムは、本質的に公知の押出法により製造でき、1層以上から成る。耐加水分解剤は全層に添加することも出来るし、全層を改質しないで特定の層に添加することも出来る。
【0084】
本発明のフィルムの厚さは、通常11〜500μm、好ましくは24〜300μmである。多層の実施態様において耐加水分解剤を含有する層の厚さの合計は、通常10〜500μm、好ましくは40〜300μmである。耐加水分解剤を含有する層の厚さの合計が大きすぎると、製造中に何らかの粘度の不規則性が生じる。耐加水分解剤を含有する層の厚さの合計が小さすぎると、屋外での用途において、総フィルムとして所望の期間の安定性について不十分である(そのような層のフィルムのみを使用した場合)。
【0085】
好ましい実施態様として、フィルムの少なくとも片側、好ましくは両側の最外層は、耐加水分解剤を含有しない。これらの層は、フィルム全体の耐加水分解性の悪化を最小とするために出来る限り薄い方が好ましい。すなわち、それぞれの耐加水分解剤非含有層の厚さは、好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下、理想的に0.8μm以下である。しかしながら、耐加水分解剤非含有層の厚さが0.1μm未満であると耐加水分解剤の滲み出し防止が充分でなくなるため、耐加水分解剤非含有層の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。
【0086】
耐加水分解剤非含有層は、基本的に、耐加水分解剤を含有する層と同じポリマー及び添加剤(上記の耐加水分解剤を除いて)から成る。しかしながら、耐加水分解剤非含有層を構成するポリエステル原料は、末端カルボキシル基濃度が最小となることが好ましいことが明らかになった。そのようなポリエステル原料は、欧州特許出願公開第0738749号明細書に記載されている。好ましい実施態様として、ポリマー中の末端カルボキシル基濃度が、ポリマーの重量を基準として、25mモルH+/kg以下が好ましく、15mモルH+/kg以下が更に好ましく、理想的には8mモルH+/kg以下である。上記の範囲を達成するには、例えば固相重合を行ったりエンドキャップを行ったりする。原料ポリエステルの粘度(IV)は、通常0.61〜0.75(トリクロロエタン/フェノール溶媒中、米国特許第3432591号明細書参照)である。IVが高すぎると、欧州特許出願公開第0738749号明細書に記載されているように、粘度が高いために、フィルム製造の押出し工程においてより高い温度およびより高い剪断力が必要とされるため、溶融状態における加水分解が起こりやすくなるという欠点がある。従って、耐加水分解剤含有層の原料のIV値は0.61〜0.75であることが好ましい。特に好ましくは、耐加水分解剤含有層の原料のIV値(複数層ある場合はその平均IV値)と、耐加水分解剤非含有層の原料のIV値(複数層ある場合はその平均IV値)との差が0.1以下、更に好ましくは0.03以下である。好ましい実施態様として、少なくとも1つの耐加水分解剤非含有の最外層(トップ層)を有し、これにより、耐加水分解剤として使用されるエポキシ化脂肪酸の臭気問題を低減し、メタル化や積層化(例えば、金属や接着剤をこの層に接着する際)を良好とすることが出来る。
【0087】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法は、フィルムの原料組成物を溶融してフラットダイを介して押出す工程と、一つ以上の引取ロール上に引取って冷却し、固化して実質的に非晶のシートを得る工程と、得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸(配向)してフィルムを得る工程と、得られたフィルムを熱固定し、巻取る工程とから成る。押出工程において、押出機のインテイクゾーン(原料供給ゾーン)は295℃を超えて加熱しない方が好ましいことが明らかになった。更に、押出ダイの部分、特にダイリップ及びその近傍領域では290℃以下、好ましくは285℃以下、更に好ましくは275℃以下であることが好ましい。より高温であると安定剤(耐加水分解剤)に熱的負荷がかかり、ゲルを形成しやすくなる。更に、この付近でより高温となると、耐加水分解剤が放出されやすくなる。
【0088】
通常、二軸延伸は連続的に行われる。このため、初めに長手方向(機械方向:MD)に延伸し、次いで横方向(機械方向に対し直角方向:TD)に延伸するのが好ましい。これにより分子鎖が配向する。通常、長手方向の延伸は、延伸比に対応する異なる回転速度を有するロールを使用して行われ、横手方向の延伸はテンターフレームを使用し、フィルムの両端を把持して行われる。
【0089】
延伸時の温度は、所望とするポリエステルフィルムの物性によって決定され、広い範囲で選択できる。通常、長手方向および横方向の延伸はTg+10℃〜Tg+60℃(Tg:フィルムのガラス転移温度)の温度で行われる。長手方向の延伸比は、通常2.0〜6.0、好ましくは3.0〜4.5である。横方向の延伸比は、通常2.0〜5.0、好ましくは3.0〜4.5である。2回目の長手方向および横方向の延伸を行う場合は、その延伸比は通常1.1〜5.0である。
【0090】
長手方向の延伸において同時に横方向の延伸を行う2軸延伸法(同時延伸)で延伸を行ってもよい。長手方向および横方向の延伸比は夫々3.0以上であることが好ましい。
【0091】
熱固定は、通常150〜260℃、好ましくは200〜245℃で0.1〜10秒行う。熱固定の工程に引き続き又は熱固定の過程中に、横方向に対し又任意に長手方向に対しても、通常0〜15%、好ましくは1.5〜8%の弛緩処理を行う。次いで、通常の方法により、フィルムを冷却し、巻取る。
【0092】
本発明の方法で製造されるフィルムは、本発明のフィルムと異なる未変性(耐加水分解剤を含まない)フィルムと比較して、室温〜210℃において加水分解性が顕著に低い。欧州特許出願公開第1634914号明細書に記載されているフィルムでは、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステルを使用し、鎖延長剤は使用していない。この場合と比較して、本発明においては、製造工程においてフィルムの破断を導くような押出工程における粘度の低下が無く、フィルムの生産性を高めることが出来る。
【0093】
フィルムの安定性(耐加水分解性)は、実質的にフィルムの厚さ及び25〜210℃の測定範囲とは独立している。
【0094】
本発明のフィルムは、オートクレーブ中、110℃の飽和水蒸気下で96時間処理しても、SV値500以上であり、機械的性質も安定している。一方、安定剤(耐加水分解剤および鎖延長剤)非含有のフィルムでは、上記の様な処理後のSV値が400未満で減少し、まげ破断強度が悪化する。本発明の安定化フィルムでは、上記の処理条件で、SV値が400となるフィルムの臨界点に達する時間(寿命)は、非安定化フィルムと比較して300%長い。同様のフィルム寿命の相対的な延長は、80℃においても170℃においても認められる。
【0095】
上記の耐加水分解剤および鎖延長剤により安定化したフィルムは、長寿命(1年以上)に設計される製品用途、使用中に高温(例えば80℃以上)、更に高湿(例えば相対湿度が50%以上)に曝されるような製品用途、および屋外用途に特に好適である。
【0096】
また、自動車におけるリボンケーブルの用途も好適である。この用途において、フィルム(好ましくは厚さ12〜200μm)は、ヒートシール接着剤(例えば、「EKP−Heiβsiegellack 230」(EKP Verpackungslacke GmbH社製、ドイツ)を用いて銅に積層する。本発明の耐加水分解剤および鎖延長剤を含有するポリエステルとの複合材は、例えば自動車で発生する機械的応力(振動を含む)に耐え通常のポリエステルから成る複合材に比べて長寿命である。しかしながら、使用する接着剤もまた、実質的に加水分解しない(ポリエステル系接着剤であれば、上記の耐加水分解剤で改質することが望ましい)ことが必要である。
【0097】
更に、好ましい用途としては、太陽電池モジュールの裏面積層体が挙げられる。この場合、長手方向のフィルムの収縮率(150℃、30分間)が1.5%以下で横方向の収縮率(150℃、30分間)が1.2%以下であることが好ましい。安定剤(対加水分解剤)を使用すると、収縮率が大きくなる傾向がる。そのため、対加水分解剤および鎖延長剤の合計量が上記好ましい範囲内であることが好ましく、及び/又は、熱固定温度の最高温度を225℃以上、横方向に4%以上で弛緩処理することが好ましい。太陽電池モジュールの裏面積層体として使用する場合、フィルムの厚さは通常25μm以上、好ましくは45μm以上である。
【0098】
電気絶縁体(例えば、太陽電池モジュールのケーブルや裏面積層体)としての用途として好ましい実施態様において、フィルムの弾性率は、両方向(長手、横)に対して通常3000N/mm2以上、好ましくは4000N/mm2以上、理想的には4500N/mm2以上である。このような機械的性質を有すると、低い延伸比のフィルムと比較して電気絶縁性が向上するという利点もある。耐加水分解剤および鎖延長剤の総含有量を上記の好ましい範囲内にすることにより、上記の機械的性質を達成できる。更に、両方向(長手、横)の延伸比が3.1以上の場合、好ましくは3.3以上の場合に、上記の機械的特性を達成することも出来る。
【0099】
電気絶縁体(例えば、太陽電池モジュールのケーブルや裏面積層体)としての用途として好ましい実施態様において、フィルムの密度は通常1.1g/cm3以上、好ましくは1.3g/cm3以上、理想的には1.4g/cm3以上である。高い機械的強度は電気絶縁性を向上させる。耐加水分解剤および鎖延長剤の総含有量を上記の好ましい範囲内にすること及び/又は最高熱固定温度を200℃以上に設定することにより、上記の機械的性質を達成できる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。評価方法を以下に示す。
【0101】
(1)標準粘度:
ポリエステルの標準粘度SV(DCA)は、DIN 53726に従い、ウベローデ型粘度系を使用し、25℃で測定したジクロロ酢酸1%溶液の比粘度(ηrel)から求めた。ポリエステルの標準粘度SVは、以下の式より算出した。
【0102】
SV=(ηrel−1)×1000
【0103】
(2)収縮率:
熱収縮率は、1辺10cmの正方形のフィルムについて測定した。試料フィルム片は、一辺が長手方向に平行に、もう一辺が長手方向と垂直に(横方向に)なるように切り出して作成した。試料フィルムの長さは正確に測定し(長手方向の辺の初期長さをL0 MD、横方向の辺の初期長さをL0 TDとする)、強制空気乾燥機の中で、収縮温度において(200℃前後)15分間熱処理を行った。試料フィルムを取出し室温にて名がD差を正確に測定する(長手方向の辺の熱処理後の長さをLMD、横方向の辺の熱処理後の長さをLTDとする)。収縮率は以下の式から算出した。
【0104】
長手方向収縮率(%)=100×(L0 MD−LMD)/L0 MD
【0105】
横方向収縮率(%)=100×(L0 TD−LTD)/L0 TD
【0106】
(3)透明度(透過度):
「Haze−gard Plus」(BYK Gardner Instrument社製)を使用し、ASTM D1003に従って測定した。
【0107】
(4)370nmの波長における透過度:
「Lambda 3 UV/Vis」分光計(Perkin Elmer社製)を使用して測定した。
【0108】
(5)密度:
密度は、密度勾配管法(溶媒:四塩化炭素/ヘキサン)、又はガスピクノメーター(ヘリウム又は窒素)法により測定した。
【0109】
(6)原料ポリマー中に添加する前の粒子の平均粒径d50:
粒子の平均粒径d50は、「Master Sizer」(Malvern Instruments社製(英国))を使用して乗法により測定した。(「Horiba LA 500」(堀場製作所社製)又は「Helos」(Sympathec GmbH社製(独国))でも基本的に同一の測定である)。水を入れたセルにサンプルを入れ、試験装置にセットする。試験は自動的に行われ、粒径d50の数学的な計算も一緒に行われる。粒径d50の値は、累積粒径分布曲線から決定する。すなわち、縦軸50%と累積粒径分布曲線の交点を横軸上のd50の値とした。
【0110】
(7)フィルムの機械的性質:
フィルムの機械的性質は、DIN EN ISO 527−1〜−3に従って測定した。
【0111】
(8)オートクレーブによる試験加水分解試験:
フィルム(10cm×2cm)をワイヤーで吊るしてオートクレーブ(Adolf Wolf SANOklav社製 ST−MCS−204)中に入れ、オートクレーブの中に水を2L入れた。オートクレーブを密封し、100℃に加熱した。水蒸気によって中の空気は排出口から送出された。約5分後にバルブを閉じ、温度を110℃に上昇させ、圧力を1.2〜1.5気圧に上昇させた。設定時間が過ぎるとオートクレーブは自動的にスイッチが切れ、排出口が開放され、フィルムを取出した。そして、そのフィルムのSV値を測定した。
【0112】
使用した原料を以下に示す。
【0113】
耐加水分解剤1(HStab 1):
エポキシ酸素含有量8.9重量%のエポキシ化亜麻仁油(Arkema社製、米国)。亜麻仁油は、式[1]に含まれる種々の化合物の中の1例である。
【0114】
耐加水分解剤2(HStab 2):
エポキシ酸素含有量7重量%の亜麻仁油の2−ヘキシルエチルエステル(亜麻仁油油脂の2−(ヘキシルエチル)エステル)(Arkema社製、米国)。HStab 2は、式[1]に含まれる種々の化合物の中の1例である。
【0115】
鎖延長剤1:
Joncryl 4380(室温で液体、分子量:3300、エポキシ価(重量価、分子量/エポキシ基数):450g/モル)。Joncryl 4380は、種々の化合物を含む化学式[7]においてその大きさを規定したものである。
【0116】
ポリエステルR1:
PET(Invista社製(独国)、SV:790、末端カルボキシ基含有量:22mモル/kg、ジエチレングリコール単位含有量0.75重量%)。
【0117】
マスターバッチMB1:
TiO2(「Hombitan LW−SU」、Sachtleben社製(独国))20重量%、及びPET(SV:790、ジエチレングリコール単位含有量:1重量%、末端カルボキシ基含有量:42mモル/kg)80重量%から成るマスターバッチ。二軸押出機中でPETにTiO2を添加して調製。
【0118】
実施例1及び比較例1〜2:
フィルムの製造は以下の方法で行った。表1に示す組成で熱可塑性チップ(MB1及びR1)を混合し、二軸押出機(日本製鋼社製)を使用して278℃で押出した。耐加水分解剤は計量し、ポンプを使用して押出機の投入口に直接供給した。溶融ポリマーはノズルから引取ロールによって引取られた。得られたシートは、116℃で長手方向に延伸比3.4で延伸され、更に、110℃で横方向に延伸比3.3で延伸された。引続き得られたフィルムを225℃で熱固定し、200〜180℃で横方向に6%の弛緩処理を行った。得られたフィルムの厚さは50μmであった。
【0119】
表1に、各実施例および比較例における組成および評価結果について示す。
【0120】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖延長剤と、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステル及び/又はエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルとを含有する二軸延伸ポリエステルフィルムであって、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、耐加水分解剤の含有量が0.25〜20重量%であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
末端カルボキシル基濃度が3mモル/kg以上のポリエステルを使用する請求項1に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム
【請求項3】
白色である請求項1又は2に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項4】
更に、無機粒子、有機粒子、難燃剤、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤およびUV安定剤から成る群より選択される1つ以上の添加剤を含有する請求項1〜3の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項5】
二軸延伸ポリエステルフィルムを構成するポリエステル、耐加水分解剤、鎖延長剤および請求項4に記載の添加剤に加えて、更に5重量%以下のポリマーを含有する請求項1〜4の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項6】
エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの80重量%以上の量が、以下の式[1]で示されるグリセリンエステルである。請求項1〜5の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化1】
式[1]中、R1〜R3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、R1〜R3は、下記式[2]で示される。
【化2】
式[2]中、構成単位(1)〜(3)は任意の順序で結合でき、REはCH3又はHを示し、mは1〜40、nは0〜10、oは0〜4をそれぞれ示し、m=0の場合のグリセリンエステルの混合物中のR1、R2及びR3の合計量は、グリセリンエステルの混合物の重量を基準として30重量%未満である。
【請求項7】
エポキシ化脂肪酸エステルの90重量%を超える量が、式[3]:R4OR5で示される化合物であり、R4は以下の式[4]に示す基であり、R5は以下の式[5]に示す基である請求項1〜6の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化3】
式[4]中、構成単位(1)〜(3)は任意の順序で結合でき、REはCH3又はHを示し、pは1〜40、qは0〜10、rは0〜4をそれぞれ示し、sは0〜50を示し、R6は、H又はCtH(2t+1)、tは3〜10であるか、又はO−R4であり、R4は上記式[4]で示される。
【請求項8】
DIN EN ISO 3682に準じて測定した耐加水分解剤の酸価が10mg(KOH/g)以下である請求項1〜7の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項9】
耐加水分解剤のエポキシ酸素含有量が1重量%以上である請求項1〜8の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項10】
エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルが、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ひまわり油、エポキシ化魚油またはこれら2種以上の混合物である請求項1〜9の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項11】
エポキシ化脂肪酸エステルが、(1)不飽和脂肪酸の2−エチルヘキシルエステル、および、(2)菜種油、亜麻仁油、大豆油および魚油の1つ以上を基にした脂肪酸の混合物の群から選択される請求項1〜10の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項12】
耐加水分解剤中の式[1]に示されるエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの含有量が50%重量を超える請求項6〜11の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項13】
鎖延長剤が少なくとも2つの反応性基を有し、押出工程中にポリエステル/耐加水分解剤/鎖延長剤の混合物を形成し、鎖延長剤の反応性基はポリエステルの押出工程時に反応してポリエステル鎖同士を結合することが出来、鎖延長剤は耐加水分解剤とは異なり、更に鎖延長剤の反応性基は実質的にポリエステルの押出工程中に消耗され、製造後のポリエステルフィルムの使用時において鎖延長の効果を有していない請求項1〜12の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項14】
鎖延長剤が、ビスオキサゾリン類、カルボニルラクタム類、2官能/多官能ターミナルエポキシ化物、または、ポリオールの存在または非存在の多官能性無水物である請求項1〜13の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項15】
鎖延長剤が2官能/多官能ターミナルエポキシ化物であり、鎖延長剤分子の主鎖または側鎖の末端に少なくとも1つのエポキシ基を有する請求項14に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項16】
鎖延長剤が下記式[6]で示される化合物である請求項1〜15の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化4】
上記式中、R7は水素、脂肪族有機基または芳香族有機基を表し、R8は脂肪族有機基または芳香族有機基を表す。
【請求項17】
鎖延長剤が下記式[7]で示されるポリマーである請求項1〜15の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化5】
上記式中、R9〜R13はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜12のアルキル基を表し、R14は炭素数1〜12のアルキル基を表し、x及びyはそれぞれ独立して0〜100であり、x+yは0より大きく、zは2〜100であり、各構成単位は任意の順序で結合してもよい。
【請求項18】
フィルムの総重量を基準とした鎖延長剤の含有量が0.1〜2重量%である請求項1〜17の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項19】
請求項1〜18に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルムの原料組成物を溶融してフラットダイを介して押出す工程と、一つ以上の引取ロール上に引取って冷却し、固化して実質的に非晶のシートを得る工程と、得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸してフィルムを得る工程と、得られたフィルムを熱固定し、巻取る工程とから成り、上記二軸延伸ポリエステルフィルムは、鎖延長剤と、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステル及び/又はエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルとを含有し、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、耐加水分解剤の含有量が0.25〜20重量%であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項20】
請求項1〜18に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成るリボンケーブル。
【請求項21】
請求項1〜18に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成る太陽電池モジュールの裏面積層体。
【請求項22】
請求項1〜18に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成る電気絶縁体。
【請求項1】
鎖延長剤と、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステル及び/又はエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルとを含有する二軸延伸ポリエステルフィルムであって、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、耐加水分解剤の含有量が0.25〜20重量%であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
末端カルボキシル基濃度が3mモル/kg以上のポリエステルを使用する請求項1に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム
【請求項3】
白色である請求項1又は2に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項4】
更に、無機粒子、有機粒子、難燃剤、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤およびUV安定剤から成る群より選択される1つ以上の添加剤を含有する請求項1〜3の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項5】
二軸延伸ポリエステルフィルムを構成するポリエステル、耐加水分解剤、鎖延長剤および請求項4に記載の添加剤に加えて、更に5重量%以下のポリマーを含有する請求項1〜4の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項6】
エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの80重量%以上の量が、以下の式[1]で示されるグリセリンエステルである。請求項1〜5の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化1】
式[1]中、R1〜R3はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、R1〜R3は、下記式[2]で示される。
【化2】
式[2]中、構成単位(1)〜(3)は任意の順序で結合でき、REはCH3又はHを示し、mは1〜40、nは0〜10、oは0〜4をそれぞれ示し、m=0の場合のグリセリンエステルの混合物中のR1、R2及びR3の合計量は、グリセリンエステルの混合物の重量を基準として30重量%未満である。
【請求項7】
エポキシ化脂肪酸エステルの90重量%を超える量が、式[3]:R4OR5で示される化合物であり、R4は以下の式[4]に示す基であり、R5は以下の式[5]に示す基である請求項1〜6の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化3】
式[4]中、構成単位(1)〜(3)は任意の順序で結合でき、REはCH3又はHを示し、pは1〜40、qは0〜10、rは0〜4をそれぞれ示し、sは0〜50を示し、R6は、H又はCtH(2t+1)、tは3〜10であるか、又はO−R4であり、R4は上記式[4]で示される。
【請求項8】
DIN EN ISO 3682に準じて測定した耐加水分解剤の酸価が10mg(KOH/g)以下である請求項1〜7の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項9】
耐加水分解剤のエポキシ酸素含有量が1重量%以上である請求項1〜8の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項10】
エポキシ化脂肪酸グリセリンエステルが、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化菜種油、エポキシ化ひまわり油、エポキシ化魚油またはこれら2種以上の混合物である請求項1〜9の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項11】
エポキシ化脂肪酸エステルが、(1)不飽和脂肪酸の2−エチルヘキシルエステル、および、(2)菜種油、亜麻仁油、大豆油および魚油の1つ以上を基にした脂肪酸の混合物の群から選択される請求項1〜10の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項12】
耐加水分解剤中の式[1]に示されるエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルの含有量が50%重量を超える請求項6〜11の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項13】
鎖延長剤が少なくとも2つの反応性基を有し、押出工程中にポリエステル/耐加水分解剤/鎖延長剤の混合物を形成し、鎖延長剤の反応性基はポリエステルの押出工程時に反応してポリエステル鎖同士を結合することが出来、鎖延長剤は耐加水分解剤とは異なり、更に鎖延長剤の反応性基は実質的にポリエステルの押出工程中に消耗され、製造後のポリエステルフィルムの使用時において鎖延長の効果を有していない請求項1〜12の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項14】
鎖延長剤が、ビスオキサゾリン類、カルボニルラクタム類、2官能/多官能ターミナルエポキシ化物、または、ポリオールの存在または非存在の多官能性無水物である請求項1〜13の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項15】
鎖延長剤が2官能/多官能ターミナルエポキシ化物であり、鎖延長剤分子の主鎖または側鎖の末端に少なくとも1つのエポキシ基を有する請求項14に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項16】
鎖延長剤が下記式[6]で示される化合物である請求項1〜15の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化4】
上記式中、R7は水素、脂肪族有機基または芳香族有機基を表し、R8は脂肪族有機基または芳香族有機基を表す。
【請求項17】
鎖延長剤が下記式[7]で示されるポリマーである請求項1〜15の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【化5】
上記式中、R9〜R13はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜12のアルキル基を表し、R14は炭素数1〜12のアルキル基を表し、x及びyはそれぞれ独立して0〜100であり、x+yは0より大きく、zは2〜100であり、各構成単位は任意の順序で結合してもよい。
【請求項18】
フィルムの総重量を基準とした鎖延長剤の含有量が0.1〜2重量%である請求項1〜17の何れかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項19】
請求項1〜18に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルムの原料組成物を溶融してフラットダイを介して押出す工程と、一つ以上の引取ロール上に引取って冷却し、固化して実質的に非晶のシートを得る工程と、得られた非晶シートを再加熱して二軸延伸してフィルムを得る工程と、得られたフィルムを熱固定し、巻取る工程とから成り、上記二軸延伸ポリエステルフィルムは、鎖延長剤と、耐加水分解剤としてエポキシ化脂肪酸エステル及び/又はエポキシ化脂肪酸グリセリンエステルとを含有し、二軸延伸ポリエステルフィルムの重量に対し、耐加水分解剤の含有量が0.25〜20重量%であることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項20】
請求項1〜18に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成るリボンケーブル。
【請求項21】
請求項1〜18に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成る太陽電池モジュールの裏面積層体。
【請求項22】
請求項1〜18に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムから成る電気絶縁体。
【公開番号】特開2010−116560(P2010−116560A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257257(P2009−257257)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(596099734)ミツビシ ポリエステル フィルム ジーエムビーエイチ (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(596099734)ミツビシ ポリエステル フィルム ジーエムビーエイチ (29)
【Fターム(参考)】
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