説明

エポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物、該組成物の製造方法およびエポキシ基含有エステル化合物

【課題】本発明の目的は、反応性が高く各種架橋剤や反応性希釈剤として用いられるほか、そのもの自体の硬化物として電気特性、寸法安定性、耐熱性、耐候性、耐薬品性、機械的特性に優れ各種成形品或いは光学材料として有用なエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の硬化性組成物は、下記の構造で表されるエポキシ基含有エステル化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物、該組成物の製造方法およびエポキシ基含有エステル化合物に関する。さらに詳しくは、反応性が高く各種架橋剤や反応性希釈剤として用いられるほか、そのもの自体の硬化物として電気特性、寸法安定性、耐熱性、耐候性、耐薬品性、機械的特性に優れ各種成形品或いは光学材料として有用なエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物、該組成物の製造方法およびエポキシ基含有エステル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グリシジル基を有するエポキシ化合物は、電気絶縁材、接着剤、塗料、複合材料のマトリックス樹脂等の有用な架橋剤として、広く用いられている。中でも、グリシジル基を、エステル結合を介して有するグリシジルエステル系化合物が、硬化反応性が高いことが知られており、例えば、グリシジルメタクリレート、トリメリット酸トリグリシジル等のグリシジルエステル化合物が上記各分野で多く用いられている。
【0003】
近年、グリシジル基を、エステル結合を介して有するエポキシ化合物の耐水性、耐候性、又は耐熱性を改善する目的で、脂環式エポキシ基含有化合物が提案されている。脂環式エポキシ基含有化合物は、グリシジルエーテル型エポキシ化合物に比べて硬化収縮が小さく精密成形に優れ、更に耐熱性に優れているので、紫外線硬化型コーティング材料や透明封止材料として使用されている。
【0004】
一方、脂環式エポキシ基含有化合物は、その硬化物が硬くクラックが入りやすいため、機械物性の向上が求められている。また、近年のICチップの集積密度の上昇に伴い、プリント配線板の配線間距離が短くなる傾向にあり、それに適用するためには樹脂の電気絶縁性能が十分でない。
【0005】
脂環式エポキシ基含有化合物の代表的な例としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを挙げることができるが、この化合物の機械物性を向上させるために、特許文献1には下記構造式を有する化合物が提案されている。しかし、下記構造を有する化合物の硬化物は、電気絶縁性能が十分ではない。
【0006】
【化1】

また、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの機械物性を向上させるために、特許文献2に下記一般式(III)で表される化合物が提案されている。しかし、この特許文献2には電気絶縁特性に関しては、具体的には全く開示されていない。
【0007】
【化2】

(式中、R7は、ジオール化合物HO−R7−OHの残基を示す。qは0〜5の整数であり分布を有する。)
なお、本明細書に記載の「脂環式エポキシ基」とは、例えば、シクロヘキセンオキサイドのような脂環基内部に存在するエポキシ基を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−52187号公報
【特許文献2】特開2007−161652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特に電気絶縁特性に優れた硬化物を得られる新規なエポキシ基含有化合物を含む硬化性組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、特定の構造を有する新規なエポキシ基含有エステル化合物を含む組成物を硬化することによって得られる硬化物が、特に電気絶縁特性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の実施態様を含む。
[1]下記一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物。
【0012】
【化3】

(式中、R1は、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含み、かつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールから誘導される有機残基を表す。R2は、それぞれ独立にH又はCH3を表す。R3、R4はそれぞれ独立にOR基又はOH基を表す。ここでRは有機残基である。mは1〜4の整数、nは0〜3の整数、lは0〜3の整数を表す。)
[2]前記一般式(I)中のR1が、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールから誘導される有機残基であることを特徴とする[1]に記載の硬化性組成物。
【0013】
[3]前記一般式(I)中のR1が、ダイマージオールから誘導される有機残基であることを特徴とする[1]に記載の硬化性組成物。
[4]前記一般式(I)中のR1が、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有するアルカンジオール由来の構造単位を有する(ポリ)カーボネートポリオールから誘導される有機残基であることを特徴とする[1]に記載の硬化性組成物。
【0014】
[5]硬化剤または重合開始剤のいずれかをさらに含有することを特徴とする [1]〜[4]のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
[6]下記一般式(II)で表される脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルと、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールとを、エステル交換触媒を用いて反応させて、前記一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を製造する工程を含むことを特徴とする[1]に記載の硬化性組成物の製造方法。
【0015】
【化4】

(式中、R5はH又はCH3を表し、R6は炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数3〜4のアルケニル基を表す。)
[7]前記炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールが、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールであることを特徴とする[6]に記載の硬化性組成物の製造方法。
【0016】
[8]前記炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールが、ダイマージオールであることを特徴とする[6]に記載の硬化性組成物の製造方法。
【0017】
[9]前記炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールが、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有するアルカンジオール由来の構造単位を有する(ポリ)カーボネートポリオールであることを特徴とする[6]に記載の硬化性組成物の製造方法。
【0018】
[10]前記エステル交換触媒が、ジアルキル錫オキサイド、テトラアルキルチタネート及び金属アセチルアセトナート錯体の群の中から選ばれる少なくとも1種以上の化合物であることを特徴とする[6]〜[9]のいずれか1項に記載の硬化性組成物の製造方法。
【0019】
[11]前記エステル交換触媒が、ジブチル錫オキサイド又はジオクチル錫オキサイドであることを特徴とする[6]〜[9]のいずれか1項に記載の硬化性組成物の製造方法。
[12]前記エステル交換触媒の使用量が、脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルと炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールの総量に対して、0.01〜3.0質量%であることを特徴とする[6]〜[11]のいずれか1項に記載の硬化性組成物の製造方法。
【0020】
[13]下記式(1)で表されるエポキシ基含有エステル化合物。
【0021】
【化5】

[14]下記式(2)で表されるエポキシ基含有エステル化合物。
【0022】
【化6】

[15]下記式(3)で表されるエポキシ基含有エステル化合物。
【0023】
【化7】

(式中、oは0以上の整数、pは0以上の整数を表し、かつo+pは1以上の自然数である。)
【発明の効果】
【0024】
本発明のエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物は、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含み、かつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールから誘導される有機残基を有する、特定の化合物を含み、電気絶縁特性に優れた硬化物を与える。本発明では、対応する脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルと、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含み、かつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールとでエステル交換反応を行い、発生するアルコール成分を留去しながら反応させることにより、効率良く、目的とする本発明のエポ
キシ基含有エステル化合物を含む組成物を製造することにより、安価な工業的製造方法を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施合成例A−1で得られた生成物の1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施合成例A−1で得られた生成物のFTIRスペクトルである。
【図3】実施合成例A−2で得られた生成物の1H−NMRスペクトルである。
【図4】実施合成例A−2で得られた生成物のFTIRスペクトルである。
【図5】実施合成例A−3で得られた生成物の1H−NMRスペクトルである。
【図6】実施合成例A−3で得られた生成物のFTIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の硬化性組成物は、下記一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を含む。
【0027】
【化8】

式(I)中、R1は、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含み、かつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールから誘導される有機残基を表す。R2は、それぞれ独立にH又はCH3を表す。R3、R4はそれぞれ独立にOR基又はOH基を表す。ここでRは有機残基である。mは1〜4の整数、nは0〜3の整数、lは0〜3の整数を表す。
【0028】
ここで言う「炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含む」とは、炭素数9以上の炭化水素鎖が飽和であれば、分岐していても或いは環状構造を有していても、または分岐構造と環状構造とを両方有していてもよい。すなわち、9つ以上の炭素原子が炭素原子以外の原子を介さず飽和結合により、分岐及び/または環状に結合している鎖状構造を有することを意味する。ここで、R1が、炭素数9以上の直鎖状の飽和炭化水素鎖のみからなり、かつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールから誘導される有機残基の場合には、常温で結晶性を有する場合が多く、ハンドリング上好ましくない。本発明において、上記分岐及び/または環状に結合している鎖状の構造は、炭素数9以上の分岐及び/又は環状に結合している鎖状構造を分子内に有し、かつ炭素原子の総数が12以上である多価アルコールを原料として用いることで得られる。
【0029】
以下、例を挙げて、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含み、かつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールから誘導される有機残基(R1)について、説明する。
【0030】
多価アルコールから誘導される、炭素数9以上の分岐状の飽和炭化水素鎖を有する有機残基としては、例えば、以下の構造式(5)〜(7)のものを挙げることができる。
【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
【化11】

また、多価アルコールから誘導される、炭素数9以上の環状構造の飽和炭化水素鎖を有する有機残基としては、以下のような構造式(8)〜(11)のものを挙げることもできる。なお、分子構造上、炭素数9以上の環状構造の飽和炭化水素鎖を有する有機残基は、炭素数9以上の分岐状の飽和炭化水素鎖を有する有機残基に含まれることもある。
【0034】
【化12】

【0035】
【化13】

【0036】
【化14】

【0037】
【化15】

上記構造式(5)〜(11)のうち、上記構造式(8)、(10)、(11)は、「炭素数の総計が12以上」であるという条件も満たしている。従って、これらは一般式(I)のR1に含まれる。これに対して、上記構造式(5)〜(7)、(9)は「炭素数の総計が12以上」であるという条件を満たさない。従って、これらは、R1には含まれない。
【0038】
ただし、例えば、構造式(5)の構造単位がカーボネート結合を介して2分子結合した下記構造式(12)で表される有機残基であれば、「炭素数9以上の分岐状の飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールから誘導される有機残基」という条件を満たすことになる。従って、構造式(12)は、R1に含まれる。
【0039】
【化16】

なお、R1中に、多価アルコールから誘導される炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を有する場合、カーボネート結合を介して、多価アルコールから誘導される炭素数9以上の直鎖状の飽和炭化水素鎖を含んでいてもよい。この場合、上記の構造式(12)と同様に、炭素数の総計が12以上の要件も満たす。
【0040】
1が炭素数9未満の炭化水素鎖を有する多価アルコールから誘導される有機残基や、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が11以下である多価アルコールから誘導される有機残基である場合には、その化合物を硬化して得られる硬化物の電気絶縁特性が、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールから誘導される有機残基を使用して得られた硬化物の電気絶縁特性と比較して低くなる傾向にあり、好ましくない。
【0041】
1の好ましい構造としては、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールから誘導される有機残基、ダイマージオールから誘導される有機残基、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有するアルカンジオール由来の構造単位を有する(ポリ)カーボネートポリオールから誘導される有機残基が挙げられる。
【0042】
本明細書に記載の「ダイマージオール」とは、ダイマー酸及び/又はその低級アルコールエステルを触媒存在下で水素添加して、ダイマー酸のカルボン酸部分をアルコールとした炭素数36程度のジオールを主成分としたものである。ダイマー酸由来の炭素−炭素二重結合も水素化した水添ダイマージオールが特に好ましい。市販品としては、例えば、PRIPOL2033等(ユニケマ社製)やSovermol908(コグニス社製)を挙げることができる。また、ここで言う「ダイマー酸」とは、不飽和脂肪酸の分子間重合反応で得られる酸であるが、炭素数が11〜22の不飽和脂肪酸を二量化して得られ、炭素数36程度の二塩基酸が主成分である。市販品としては、例えばPRIPOL1006、同1009、同1015、同1025等(ユニケマ社製)、EMPOL1062(コグニス社製)を挙げることができる。
【0043】
本明細書に記載の(ポリ)カーボネートポリオール中の「(ポリ)カーボネート」という表現は、分子中にカーボネート結合を1個以上有していることを意味する。従って、本明細書に記載の「(ポリ)カーボネートポリオール」とは、分子中にカーボネート結合を1個以上有し、アルコール性水酸基を2個以上有する化合物を意味する。例えば、水酸基を1分子中に2個有している(ポリ)カーボネートジオール、水酸基を1分子中に3個以上有している(ポリ)カーボネートトリオール、(ポリ)カーボネートテトラオールが挙げられる。
【0044】
(ポリ)カーボネートポリオールは、モノマーからカーボネート結合にて、二量化あるいはポリマー化し生成する。モノマーとしては、多価アルコールが使用できる。多価アルコールを使用しカーボネート結合を生成する方法としては、例えば、多価アルコールと炭酸エステルを、触媒の存在下で、エステル交換反応させることによって合成することができる。
【0045】
(ポリ)カーボネートポリオールを生成するモノマーとしては、炭素数が9以上でありかつ分岐した炭化水素を骨格とした脂肪族多価アルコール、炭素数が9以上でありかつ環状構造を有する脂肪族多価アルコール、あるいは、分岐構造及び環状構造を両方有する脂肪族多価アルコールを用いることができる。中でも、分岐した炭化水素を骨格とした脂肪族多価アルコールは、生成する(ポリ)カーボネートポリオールの粘度を低くする傾向がある。
【0046】
(ポリ)カーボネートポリオールの平均分子量は、3000以下であることが好ましい。平均分子量が3000以下の(ポリ)カーボネートポリオールを使用して製造されるエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物は、硬化することにより十分な耐薬品性を有する硬化物とすることができる。(ポリ)カーボネートポリオール化合物中の水酸基は、平均で1分子中2個以上であり、2個以上4個以下であることが好ましいが、エポキシ基含有エステル化合物の粘度の低下及びエポキシ基含有エステル化合物の粘度のバラツキ低減の観点から(ポリ)カーボネートポリオールを生成するモノマーとして、ジオール成分を主成分にすることが特に好ましい。具体的なジオール成分としては、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,10−デカメチレングリコールまたは1,2−テトラデカンジオール、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールなどを挙げることができる。
【0047】
(ポリ)カーボネートジオールは、その骨格中に複数種のアルキレン基を有する(ポリ)カーボネートジオール(共重合(ポリ)カーボネートジオール)であってもよく、共重合(ポリ)カーボネートジオールの使用は、エポキシ基含有エステル化合物の結晶化防止の観点から有利な場合が多い。
【0048】
なお、硬化物の電気絶縁特性を損なわない範囲であれば、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を有する多価アルコール以外の多価アルコールや構造式(13)、(14)で示されるような炭素数9以上の直鎖状の炭化水素鎖を有する多価アルコールを共重合(ポリ)カーボネートポリオールの1成分として使用することができる。後者の例としては前記構造式(3)のoが、0でない場合が挙げられる。
【0049】
【化17】

【0050】
【化18】

一般式(I)中、R2は、それぞれ独立にH又はCH3を表す。ここで言う「それぞれ独立に」とは、例えば、一般式(I)中、m=3の場合には、1分子中に3個のR2が存在することになり、その3個のR2が、それぞれ独立にH又はCH3であることを意味する。即ち、3個のR2のすべてがHであっても、3個のR2のすべてがCH3であっても、或いは3個のR2の内2個がHで1個がCH3であっても、2個がCH3で1個がHであっても、いっこうに差し支えないことを意味する。同様に、m=l=1の場合、1分子中に2個のR2が存在することになり、その2個のR2が、それぞれ独立にH又はCH3であることを意味する。即ち、2個のR2のすべてがHであっても、2個のR2のすべてがCH3であっても、一方のR2がHであり他方のR2がCH3であってもいっこうに差し支えないことを意味する。
【0051】
一般式(I)中、R3、R4は各々OR基(Rは有機残基)又はOH基を表す。R3とR4は同一の構造であっても、異なる構造であってもいっこうに差し支えない。また、lが2又は3の場合には、分子中の複数個のR3とR4が存在することを意味するが、複数個のR3とR4は、同一構造であっても、異なる構造であってもよい。
【0052】
一般式(I)中、mは1〜4の整数であり、より好ましくは2〜4の整数である。m=0の場合には、エポキシ基を分子内に含有しない化合物になり、本発明のエポキシ基含有エステル化合物には含まれない。また、m≧5の整数である場合には、その硬化物が硬くなりすぎるため好ましくない。m=1の化合物のみを用いる場合には、その硬化物は線状の重合物になり、耐溶剤性等の薬品に対する耐性が低くなるため好ましくない。ただし、mが2〜4の整数である化合物と併用して用いる場合には、硬化物は十分な耐薬品性を有することができる。
【0053】
一般式(I)中、l及びnは各々0〜3の整数を表す。lが4以上の整数であるときには、相対的にエポキシ基の含有量が少なくなるため好ましくない。また、nが4以上の整数であるときには、化合物の耐水性が低下する傾向にあり好ましくない。
【0054】
一般式(I)で表される化合物の例としては、例えば、前記構造式(1)〜(3)の化合物や下記の構造式(15)、(16)の化合物を挙げることができる。
【0055】
【化19】

【0056】
【化20】

次に、本発明のエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物の製造方法について説明する。
【0057】
前記一般式(I)のエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物は、下記一般式(II)で表される脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルと、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールとを、エステル交換触媒を用いて反応させることにより対応するエポキシ基含有エステル化合物を製造することができる。
【0058】
【化21】

(式中、R5はH又はCH3を表し、R6は炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数3〜4のアルケニル基を表す。)
まず、本発明のエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物の原料成分である上記一般式(II)で表される脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルについて説明する。式中、R5はH又はCH3を表す。また、式中、R6は炭素数1〜4までのアルキル基又は炭素数1〜4までのアルケニル基を表す。具体的には、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソピロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、アリル基、メタリル基、3−ブテニル基等を挙げることができる。これらの中で、エステル交換反応の進行のし易さ及び発生するアルコールの留去のし易さを考慮すると、好ましいものとしては、メチル基、エチル基、n―プロピル基、アリル基、メタリル基であり、さらに好ましくは、アリル基、メタリル基である。なお、このような脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルとしては、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルなどが挙げられる。
【0059】
次に、本発明のエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物の原料成分である「炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコール」について説明する。
【0060】
本発明のエポキシ基含有エステル化合物の製造方法の原料成分である「炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコール」中の「炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖」は前述した通りであり、一般式(I)中のR1として炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールを原料として用いることができる。
【0061】
本発明で原料として用いることができる好ましい多価アルコールとしては、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、ダイマージオール、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有するアルカンジオール由来の構造単位を有する(ポリ)カーボネートポリオール等を挙げることができる。
【0062】
次に、本発明のエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物の製造方法において必須成分として使用されるエステル交換触媒について説明する。
エステル交換触媒としては、エステル基を活性化させアルコールとの反応を起こさせるものであれば、基本的にはどのような触媒でも用いることが出来る。例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属及びアルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、及びアルカリ金属及びアルカリ土類金属の弱酸塩、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルコラート、アルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物、また、Hf,Mn,U,Zn,Cd,Zr,Pb,Ti,CoおよびSnの酸化物、Hf,Mn,U,Zn,Cd,Zr,Pb,Ti,CoおよびSnの水酸化物、Hf,Mn,U,Zn,Cd,Zr,Pb,Ti,CoおよびSnの無機酸塩、Hf,Mn,U,Zn,Cd,Zr,Pb,Ti,CoおよびSnのアルコキシド、Hf,Mn,U,Zn,Cd,Zr,Pb,Ti,CoおよびSnの有機酸塩、Hf,Mn,U,Zn,Cd,Zr,Pb,Ti,CoおよびSnのアセチルアセトナートのような有機錯体、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ジクロライド等の有機錫化合物、ジメチルアニリン、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン等の3級アミン等である。
【0063】
これらの中で、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ジクロライド等のジアルキル錫化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のテトラアルキルチタネート、マンガンアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナート、ハフニウムアセチルアセトナ−ト等の金属アセチルアセトナート錯体を用いることが好ましい。
【0064】
これらの中で、特に好ましいものは、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ジクロライド等のジアルキル錫化合物、マンガンアセチルアセトナート,ジルコニウムアセチルアセトナート、ハフニウムアセチルアセトナ−ト等の金属アセチルアセトナート錯体であり、最も好ましいものは、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイドである。
【0065】
反応の形態としては、一般式(II)で表される脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルと、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールとをエステル交換触媒の存在下に加熱するという方法をとる。反応温度は、使用するエステル交換触媒の種類によっても異なるが、30〜200℃、好ましくは50〜160℃の範囲から選ばれ、不活性ガス雰囲気中で常圧または加圧下、または必要に応じて減圧下で反応させることが望ましい。さらに、反応を効率的に行なうためには、生成するアルコール成分を反応系外に速やかに留出させたほうがよい。
【0066】
一般式(II)で表される脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルの使用量としては、反応を完結させる(即ち、原料である炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールの水酸基のほとんどをエステルに変換する)ためには、原料である炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールに対して理論量以上必要であるが、反応速度、平衡等を考慮すれば、更に過剰モル使用したほうがよい。しかし、脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルをあまりに大過剰
用いても、その過剰量に見合う効果は発現せず経済的にも好ましくない。
【0067】
また、脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルの使用量は、反応を完結させる必要がない場合(即ち、原料である炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールの水酸基の一部は反応せずに残っても良い場合)には、原料である炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールに対して理論量未満の量を使用してもいっこうに差し支えない。
【0068】
したがって、通常脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルの使用量は、原料である炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールの理論量に対して、0.8〜5.0倍モルであり、より好ましくは0.9〜4.0倍モルである。その際の仕込み方法としては反応の最初に仕込んでもよいし、反応途中に順次加えてもよい。
【0069】
エステル交換触媒の使用量としては、脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルと、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールの総量に対して、0.01〜3質量%、好ましくは0.02〜0.4質量%程度である。0.01質量%未満の場合には反応速度が遅くなり、3質量%より多い場合にはその量に見合う効果が得られないばかりか、着色がひどくなり、また副反応のためにかえって収率が低下してしまう場合がある。また、使用するエステル交換触媒の種類によっては、過剰の使用は、エステル交換触媒との分離に多大な時間や労力を要するという問題がある。
【0070】
本反応系で生成した前記一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物の単離法としては、使用する触媒の種類によって異なるが、例えば、ジブチル錫ジオキシドを使用した場合には、反応により発生したアルコール成分及び未反応の脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルを減圧留去後、生成した前記一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物が蒸留可能な化合物の場合には、蒸留精製を行なうだけで、製品として使用できる精製品を得ることが出来る。また、生成した前記一般式(1)で表されるエポキシ基含有エステル化合物が蒸留できない化合物の場合には、水洗等手段を使用して精製することが可能である。このようにして前記構造式(1)〜(3)、(15)、(16)等の化合物を単離することができる。なお、本発明の硬化性組成物の製造方法において、上記エステル交換触媒の使用量は非常に少ないので、反応により発生したアルコール成分及び未反応の脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルを減圧留去したものをそのまま使用することもできる。また、反応物中には通常前記一般式(I)で表される複数種類のエポキシ基含有エステル化合物が含有されるが、これらの混合物を含む組成物より得られる硬化物も良好な電気絶縁特性を発現する。
【0071】
本発明の一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物より硬化物を得るには、組成物を硬化させるための硬化剤または重合開始剤のいずれかを含む。以下これらについて説明する。
【0072】
まず硬化剤を含む場合について説明する。
本発明の硬化性組成物に含有させることができる硬化剤は、一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を硬化させることができる化合物であれば特に限定されるものではない。例えば、フェノール樹脂等のフェノール化合物、ジアミン、ポリアミン等のアミン化合物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物、トリメリット酸等の多価カルボキシル基含有化合物等が挙げられ、これら化合物の1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
硬化剤として使用可能なフェノール化合物としては特に制限はない。例えば、硬化剤として一般に使用される1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物でよく、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換又は非置換のビフェノール等の1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、フェノール類及び/又はナフトール類とジシクロペンタジエンから共重合により合成される、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂やジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、これら2種以上を共重合して得たフェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
上記のフェノール化合物の中でも、耐リフロークラック性の観点からはアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型とアラルキル型の共重合型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂が好ましく、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型とアラルキル型の共重合型フェノール樹脂がより好ましい。これらの好ましいフェノール樹脂は、いずれか1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、それらの性能を発揮するためには、フェノール樹脂全量に対して、上記好ましいフェノール樹脂を30質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。
【0075】
硬化剤としてフェノール化合物のみを使用する場合には、その使用量は硬化性組成物中のエポキシ基の総数に対するフェノ−ル性水酸基の総数の比が0.7〜1.5の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.8〜1.2の範囲内である。組成物中のエポキシ基の総数に対するフェノ−ル性水酸基の総数の比が0.7未満になると、架橋密度が低くなり好ましくない。一方、1.5より大きいと、組成物を硬化して得られる硬化物の電気絶縁特性や耐水性が悪化する傾向にあり好ましくない。
【0076】
硬化剤として使用可能な酸無水物としては特に限定されない。例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸等を挙げることができる。これらの中で好ましいものとしては、25℃で液状の酸無水物、例えば、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、無水2,4−ジエチルグルタル酸等が挙げられ、中でも脂環式酸無水物が好ましく、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、水素化メチルナジック酸無水物が特に好ましい。これら酸無水物は単独もしくは複数の混合物として用いても良く、例えば、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸と、4−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物等であってもよい。また、液状の酸無水物に固体の酸無水物を溶解して、25℃で液状になっている酸無水物の混合物であってもよい。
【0077】
硬化剤として酸無水物のみを使用する場合には、その使用量は組成物中のエポキシ基の総数に対する酸無水物基の総数の比が、0.7〜1.5の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.8〜1.2の範囲内である。組成物中のエポキシ基の総数に対する酸無水物基の総数が0.7未満であると、架橋密度が低くなり好ましくない。一方、1.5より大きいと、組成物を硬化して得られる硬化物の電気絶縁特性や耐水性が悪化する傾向にあり好ましくない。
【0078】
硬化剤として使用可能なアミン化合物としては1級及び2級のアミノ基を有する化合物であれば特に限定されない。例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、メタキシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン等のポリアミン類や前記ポリアミン類とモノマー酸やダイマー酸等のカルボン酸と反応させたポリアミドポリアミン化合物、前記ポリアミン類とフェノール類とホルムアルデヒドとの重縮合物であるマンニッヒ型硬化剤、前記ポリアミン類にエポキシ樹脂等を付加させたエポキシアダクト型硬化剤などが挙げられる。これらアミン化合物は単独もしくは複数の混合物として用いても良い。
【0079】
硬化剤としてアミン化合物のみを使用する場合には、その使用量は組成物を硬化して得られる硬化物の耐水性及び耐熱性の観点から、以下の式で表される範囲内であることが好ましい。
【0080】
0.7≦(組成物中の2級アミノ基の総数+組成物中の1級アミノ基の総数×2)/組成物中のエポキシ基の総数≦1.5
硬化剤として使用可能な多価カルボキシル基含有化合物としては、トリメロット酸、ピロメリット酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、特開2007−154134号公報に記載のカルボキシル基含有ポリウレタン等を挙げることができる。コハク酸、アジピン酸及びグルタル酸のようなジカルボン酸は、単独で用いるよりも3官能以上のポリカルボン酸と併用して用いる方が硬化物の耐熱性の観点から好ましい。
【0081】
硬化剤としてポリカルボン酸のみを使用する場合には、その使用量は本発明の硬化性組成物中のエポキシ基の総数に対するカルボキシル基の総数の比が、0.7〜1.5の範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは、0.8〜1.2の範囲内である。組成物中のエポキシ基の総数に対するカルボキシル基の総数の比が0.7未満になると、架橋密度が低くなり好ましくない。一方、1.5より大きいと、組成物を硬化して得られる硬化物の電気絶縁特性や耐水性が悪化する傾向にあり好ましくない。
【0082】
なお、硬化剤として使用可能なフェノ−ル化合物、酸無水物、アミン化合物及びポリカルボン酸を混合して用いてもよい。本発明の組成物を硬化して得られる硬化物の電気絶縁特性が十分に発揮されるという観点からは、上記硬化剤の中では酸無水物又は多価カルボキシル基含有化合物が好ましい。
【0083】
上記本発明の硬化性組成物には、必要に応じて硬化促進剤を使用することができる。特に、使用する硬化剤がフェノ−ル化合物、酸無水物及びポリカルボン酸の中から選ばれる場合には、硬化促進剤を併用することが好ましい。併用可能な硬化促進剤としては、エポキシ基含有化合物と硬化剤の反応を促進する化合物であれば限定されるものではなく、例えば、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、2,4−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビ
ニル−s−トリアジン・イソシアヌル酸付加物等のトリアジン系化合物、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾリウムトリメリテート、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾリウムトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2'−ウンデシルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2'−エチル−4'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、N,N'−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N'−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)アジポアミド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、
2−フェニルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−[2'−メチルイミダゾリル−(1')]−エチル−s−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2−メチル−4−フォルミルイミダゾール、2−エチル−4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルフォルミルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾール、ビニルイミダゾール、1−メチルイミダゾール、1−アリルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−ブチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール臭化水素塩、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド等のイミダゾール系化合物、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のジアザビシクロアルケンなどのシクロアミジン化合物及びその誘導体、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミノ基含有化合物、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等の有機ホスフィン化合物、ジシアンジアジド等を挙げることができる。
【0084】
これらの硬化促進剤は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用しても良い。これらの硬化促進剤の中で、好ましいものとしては、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物及び3級アミノ基含有化合物が挙げられる。
【0085】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が達成できれば特に制限はない。しかし、本発明の組成物の硬化性及び本発明の組成物を硬化して得られる硬化物の電気絶縁特性や耐水性の観点からは、本発明の組成物中のエポキシ基含有化合物の合計100質量部に対し、0.1〜10質量部の範囲内で配合することが好ましく、より好ましくは1〜7.0質量部である。配合量が0.1質量部未満では短時間で硬化させることが困難であり、10質量部を超えると組成物を硬化して得られる硬化物の電気絶縁特性や耐水性を悪化させてしまう場合がある。
【0086】
また、本発明の硬化性組成物には、一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物以外の他のエポキシ基含有化合物を併用して用いることができる。一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物以外のエポキシ基含有化合物としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換又は非置換のビフェノール、スチルベン系フェノール類等のジグリシジルエーテル(ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂)、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸類のグリシジルエステル型エポキシ樹脂、アニリン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したもの等のグリシジル型またはメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、分子内のオレフィン結合をエポキシ化して得られるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ(3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、硫黄原子含有エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0087】
本発明の硬化性組成物には、必要に応じて各種添加剤を含むことができる。代表的な添加剤としては、例えば、硬化時の熱による酸化劣化を防止し着色の少ない硬化物とするための酸化防止剤や、硬化物の耐光性をさらに向上させるための紫外線吸収剤が挙げられる。
【0088】
酸化防止剤としては、フェノール系、硫黄系、燐系等の酸化防止剤が使用でき、その配合割合は、本発明の組成物中のエポキシ基含有化合物の総量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。
【0089】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、サリチル酸系等の紫外線吸収剤が使用でき、その配合割合は、本発明の組成物中のエポキシ基含有化合物の総量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。
【0090】
その他の添加剤として、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物、微粉末シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ等の珪素化合物、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、カオリン、マイカ、石英粉末、グラファイト、二硫化モリブデン、ガラスビーズ等の粉末状充填剤;二酸化チタン、モリブデン赤、紺青、群青、カドミウム黄、カドミウム赤、有機色素等の着色剤または顔料;三酸化アンチモン、ブロム化合物、燐化合物等の難燃剤等を配合することもできる。これらの配合割合は、本発明の組成物中のエポキシ基含有エステル化合物の総量100質量部に対して、通常、粉末状充填剤が100質量部以下、着色剤、顔料、難燃剤はそれぞれ30質量部以下であることが好ましい。さらに必要に応じてレベリング剤、カップリング剤、イオン吸着体等を併用することができる。
【0091】
次に重合開始剤を含む場合について説明する。
本発明の硬化性組成物に含有させることができる重合開始剤は、一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物より硬化物を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。通常の脂環式エポキシ基を有する化合物と同様に、カチオン重合開始剤を用いてカチオン重合を行なうことにより硬化物を得ることができる。
【0092】
使用可能なカチオン重合開始剤としては、エポキシ基の開環重合を開始する化合物であれば特に限定はない。カチオン重合開始剤は、大きく、熱によって活性種を生ずる熱カチオン重合開始剤と、光照射されることによって活性種を生ずる光カチオン重合開始剤に分けられるが、一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を含む組成物をカチオン重合させるためのカチオン重合開始剤としては、熱カチオン重合開始剤と光カチオン重合開始剤のいずれのものを用いてもよく、また、併用してもよい。
【0093】
光カチオン重合開始剤は、紫外線の照射によってエポキシ基のカチオン重合を開始する化合物である。例えば、カチオン部分が、スルホニウム、ヨードニウム、ジアゾニウム、アンモニウム、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Feカチオンであり、アニオン部分が、BF4-、PF6-、SbF6-、[BX4-(ただし、Xは少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)で構成されるオニウム塩が挙げられる。具体的に、スルホニウム塩には、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビステトラフルオロボレート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム テトラフルオロボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド ビステトラフルオロボレート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が、ヨードニウム塩には、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウム テトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム テトラフルオロボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム テトラフルオロボレート、
4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等、ジアゾニウム塩には、フェニルジアゾニウム ヘキサフルオロホスフェート、フェニルジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、フェニルジアゾニウム テトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が、アンモニウム塩には、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム ヘキサフルオロアンチモネート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム テトラフルオロボレート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウム テトラフルオロボレート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe塩には、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)ヘキサフルオロホスフェート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)ヘキサフルオロアンチモネート、2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)テトラフルオロボレート、2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe(II)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0094】
これら光カチオン重合開始剤の市販品として、例えば、UVI−6990、UVI−6974(ダウケミカル社製)、オプトマーSP−150、オプトマーSP−170((株)ADEKA社製)、FC−508、FC−512(3M社製)、イルガキュア261(チバ・スペシャルティーケミカルス社製)、R HODORSIL PHOTOINITIATOR2074(Rhodia社製)、CD−1012(SARTOMER社製)、PCI−019、PCI−021(日本化薬(株)社製)、CPI−100P、CPI−100A(サンアプロ(株)社製)、TEPBI−S(日本触媒(株)社製)、サンエイドSI−60L、SI−80L及びSI−100L(三新化学工業(株)社製)、UVE−1014及びUVE−1016(ジェネラル・エレクトリック(General Electric)社製)、KI−85(デグサ(Degussa)社製)等が入手できる。
【0095】
熱カチオン重合開始剤として、トリフル酸(Triflic acid)塩、三弗化硼素エーテル錯化合物、三弗化硼素等のようなカチオン系又はプロトン酸触媒、アンモニウム塩、ホスホニウム塩およびスルホニウム塩等の各種オニウム塩を用いることができる。
【0096】
トリフル酸塩の例としては、3M社からFC−520として入手できるトリフル酸ジエチルアンモニウム、トリフル酸トリエチルアンモニウム、トリフル酸ジイソプロピルアンモニウム、トリフル酸エチルジイソプロピルアンモニウム等(これらの多くはR.R.Almによって1980年10月発行のモダン・コーティングス(Modern Coatings)に記載されている)がある。
【0097】
アンモニウム塩としては下記一般式(IV)で表されるものが挙げられる。
【0098】
【化22】

式中、R9〜R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、さらに、置換基を有していてもよい。また、R9〜R12のうちの2個が互いに結合して、N、P、O、又はS原子を含む複素環を形成していてもよい。X-は対イオンを表し、BF4-、AsF6-、SbF6-、SbCl6-、(C654-、SbF5(OH)-、HSO4-、p−CH364SO3-、HCO3-、H2PO4-、CH3CO2-、ハロゲンイオン(Cl-、Br-、I-等)などから選ばれる。
【0099】
具体的には、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルアンモニウムハイドロジェンサルフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウム−p−トルエンスルホネート、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N−ジメチル−N−ベンジルアニリニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジメチル−N−ベンジルピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N−ジエチル−N−ベンジルトリフルオロメタンスルホネート、N,N−ジメチル−N−(4−メトキシベンジル)ピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N−ジエチル−N−(4−メトキシベンジル)トルイジニウムヘキサフルオロアンチモネートなどが好ましいものとして挙げられる。
【0100】
ホスホニウム塩としては下記一般式(V)で表されるものが挙げられる。
【0101】
【化23】

式中、R13〜R16は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、さらに、置換基を有していてもよい。また、R13〜R16のうちの2個が互いに結合して、N、P、O、又はS原子を含む複素環を形成していてもよい。Y-は対イオンを表し、BF4-、AsF6-、SbF6-、SbCl6-、(C654-、SbF5(OH)-、HSO4-、p−CH364SO3-、HCO3-、H2PO4-、CH3CO2-、ハロゲンイオン(Cl-、Br-、I-等)などから選ばれる。
【0102】
具体的には、エチルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネートなどが好ましいものとして挙げられる。
【0103】
スルホニウム塩としては、下記一般式(VI)及び下記一般式(VII)で示されるスルホニウム塩で表されるものが挙げられる。
【0104】
【化24】

式中、R17〜R19は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、さらに、置換基を有していてもよい。また、R17〜R19のうちの2個が互いに結合して、N、P、O、又はS原子を含む複素環を形成していてもよい。Z-は対イオンを表し、BF4-、AsF6-、SbF6-、SbCl6-、(C654-、SbF5(OH)-、HSO4-、p−CH364SO3-、HCO3-、H2PO4-、CH3CO2-、ハロゲンイオン(Cl-、Br-、I-等)などから選ばれる。
【0105】
【化25】

式中、R20〜R21は、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数3〜12のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、さらに、置換基を有していてもよい。また、R20〜R21のうちの2個が互いに結合して、N、P、O、又はS原子を含む複素環を形成していてもよい。また、Arは置換基を有してよいアリール基を表す。A-は対イオンを表し、BF4-、AsF6-、SbF6-、SbCl6-、(C654-、SbF5(OH)-、HSO4-、p−CH364SO3-、HCO3-、H2PO4-、CH3CO2-、ハロゲンイオン(Cl-、Br-、I-等)などから選ばれる。
【0106】
具体的には、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルシネート、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアルシネート、ジフェニル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアルシネートなどが挙げられる。
【0107】
上記オニウム塩類には市販品があり、例えば、アデカオプトンCP−66およびアデカオプトンCP−77((株)ADEKA社製)、サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80LおよびサンエイドSI−100L(三新化学工業(株)社製)、およびCIシリーズ(日本曹達(株)社製)などを好ましく用いることができる。
【0108】
これらの光及び熱カチオン重合開始剤の中で、オニウム塩が、取り扱い性及び保存安定性と硬化性のバランスに優れるという点で好ましく、その中で、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩及びホスホニウム塩が取り扱い性及び保存安定性と硬化性のバランスに優れるという点で特に好ましい。
【0109】
カチオン重合開始剤の使用量は特に限定されず、当該開始剤の反応性や、使用する一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物の粘度、該エステル化合物中のエポキシ基の量に応じて適宜設定すればよいが、一般的には、使用する1分子中に2つ以上の脂環式エポキシ基を有するエステル化合物100質量部に対し、0.01〜15質量部、より好ましくは0.05〜5質量部の量で添加する。この範囲を外れると、カチオン重合後の硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスが悪くなるため好ましくはない。
【0110】
上記重合開始剤を含む硬化性組成物においても前述の硬化剤を含む硬化性組成物の場合と同様にエポキシ基含有エステル化合物以外の他のエポキシ基含有化合物を併用して用いることができる。また、必要に応じて、前述の硬化剤を含む硬化性組成物の場合と同様に各種添加剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属酸化物、珪素化合物、金属水酸化物、粉末状充填剤、着色剤または顔料、難燃剤、イオン吸着体、カップリング剤)を配合することができる。これらの配合割合も前述の硬化剤を含む硬化性組成物の場合と同様である。
【0111】
その他上記重合開始剤を含む硬化性組成物においてはジオールまたはトリオール類、ビニルエーテル類、オキセタン化合物等の硬化性モノマーおよびオリゴマ−等の合成樹脂等を配合することもできる。硬化性モノマーおよびオリゴマ−の添加量は組成物中のエポキシ基含有化合物の総量100質量部に対してそれぞれ50質量部以下であることが好ましい。
【0112】
本発明の硬化性組成物は、各種成分を均一に分散混合できるのであれば、いかなる手法を用いて調製してもよい。一般的な手法としては、所定の配合量の成分をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練した後、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。より具体的には、例えば、上述した成分の所定量を均一に撹拌、混合し、プラネタリーミキサー、三本ロール、二本熱ロール、ライカイ機などの装置を用いて分散混練したのち、真空下で脱泡処理して製造することができる。
【0113】
上記の手法により製造された硬化性組成物を硬化することにより電気絶縁特性の良好な硬化物を得ることができる。本発明の硬化性組成物の硬化は、硬化性組成物中に硬化剤や硬化促進剤を含む場合その種類によって最適な硬化温度条件は異なるが、一般的には40〜200℃にて実施され、好ましくは50〜185℃である。40℃以下の場合には十分に硬化が進行しない場合があり、また、200℃以上では硬化反応が急速に進行して、硬化物に大きな応力歪みが生じることがある。硬化時間は用いる硬化剤や硬化促進剤の種類、組成物の配合比にもよるが、0.5時間以上加熱することが好ましく、さらに好ましくは1時間以上加熱することが望ましい。硬化時間が0.5時間未満の場合には、硬化が十分に進行していない場合がある。また、硬化温度は段階的に上昇されることが好ましく、例えば100℃×3時間の加熱後に、120℃×3時間の加熱を行なうと、単純に110℃×6時間の加熱より機械的強度に優れた硬化物が得られる。このような方法によって得られた硬化物は、電気絶縁特性が良好である。
【0114】
硬化性組成物中にカチオン重合開始剤を含む場合には、カチオン重合開始剤として熱カチオン重合開始剤を用いて熱硬化する場合と、光カチオン重合開始剤を用いて光硬化する場合がある。
【0115】
熱カチオン重合開始剤を用いて熱硬化する場合には、硬化反応はその熱カチオン重合開始剤がカチオン種やルイス酸の発生を開始する温度以上で行われ、好ましくは40〜200℃にて実施され、さらに好ましくは50〜185℃である。40℃以下の場合には十分に硬化が進行しない場合があり、また、200℃以上では硬化反応が急速に進行して、硬化物に大きな応力歪みが生じることがある。硬化時間は用いる熱カチオン重合開始剤の種類、組成物の配合比にもよるが、10分以上加熱することが好ましく、さらに好ましくは1時間以上加熱することが望ましい。硬化時間が0.5時間未満の場合には、硬化が十分に進行していない場合がある。また、硬化温度は段階的に上昇されることが好ましく、例えば100℃×3時間の加熱後に、120℃×3時間の加熱を行なうと、単純に110℃×6時間の加熱より機械的強度に優れた硬化物が得られる。
【0116】
光カチオン重合開始剤を用いて光硬化する場合には、硬化反応は光カチオン重合開始剤の感光波長の光を照射することによって行われる。光照射のために使用される可視光線又は紫外線の光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、重水素ランプ、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、タングステンランプ、ガリウムランプ、カーボンアーク灯、白熱電球、蛍光灯、エキシマランプ、レーザーなどを用いることが出来る。これらの光源の内、高圧水銀灯、メタルハライドランプが特に好ましい。
【0117】
可視光線又は紫外線硬化の光源の波長としては通常200nm〜750nm、好ましくは200nm〜450nmであり、照射量としては通常50mJ/cm2〜2000mJ/cm2、好ましくは100mJ/cm2〜1500mJ/cm2である。
【0118】
電子線を用いた硬化では、その照射方式として、スキャニング方式、ブロードビーム方式、カーテンビーム方式、イオンプラズマ方式等を挙げることができ、その照射量としては通常0.1Gy〜200kGyであり、1Gy〜100kGyが好ましい。
【0119】
このような方法によって得られた硬化物は、電気絶縁特性の良好な硬化物である。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ制限されるものではない。
<エポキシ当量の測定>
エポキシ当量の測定はJIS K7236に準拠して測定した。
【0121】
(実施合成例A−1)
攪拌機、温度計および精留塔のついた1000ml三ッ口丸底フラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル 600.0g(3.29モル)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール323.2g(1.65モル)及びジブチル錫オキサイド 1.84gを入れ、窒素気流下、130℃に調節した油浴により加熱し反応を行った。反応の進行とともに、生成してくるアリルアルコールを精留塔から留出させて300mlナス型フラスコで取得し、反応進行に伴い、徐々に1000ml三ッ口丸底フラスコ内を減圧にして行き、10時間反応を行った。アリルアルコールの留出量は、180g(理論量の92.1%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルを留去して、淡黄色粘稠液状の生成物(以下「生成物A1」とも記す。)を得た。
【0122】
生成物A1のガスクロマトグラフィー分析(以下「GC分析」とも記す)により、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールは検出限界未満であった。また、生成物A1のGC分析により、5.8質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルが残存していることを確認した。生成物A1のエポキシ当量は250.5g/eqVであった。
【0123】
生成物A1を1H−NMR(内標物質にテトラメチルシロキサン:0.1質量ppmを使用)によって分析したところ、生成物A1のうち78.0質量%が構造式(1)で表される化合物、16.2質量%が構造式(16)で表される化合物であった。生成物A1の1H−NMR(溶媒:CDCl3)及びIRスペクトルを、それぞれ図1及び図2に記す。
【0124】
【化26】

【0125】
【化27】

1H−NMRスペクトルの主な帰属は、以下の通りである(アンダーラインを付けた水素が該当プロトンであることを意味する)。
【0126】
4.6ppm(未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルのCH2=CHC2OCO−)、
3.3〜3.6ppm(構造式(16)で表される化合物の−C2OH)、
3.81〜4.26ppm(−C2OCO−)、
3.16〜3.26ppm(3,4−エポキシシクロヘキサン環(構造式(17))の
【0127】
【化28】

0.95〜2.53ppm(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環の環状の全ての >C−、−C2− 及び 3,4−エポキシシクロヘキサン環(構造式(18))の
【0128】
【化29】

また、IRスペクトルの主な帰属は以下の通りである。
【0129】
3530cm-1付近の吸収帯(OH伸縮)
2946cm-1付近及び2876cm-1付近の吸収帯(CH2伸縮)
1731cm-1付近の吸収帯(カルボン酸エステルC=O伸縮)
1456cm-1付近及び1437cm-1付近の吸収帯(CH2変角)
1137cm-1付近の吸収帯(カルボン酸エステルのC−O伸縮)
(実施合成例A−2)
攪拌機、温度計および精留塔のついた2000ml三ッ口丸底フラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル 669.9g(3.68モル)、水添ダイマージオール(コグニス社製 商品名:Sovermol908 水酸基価209mgKOH/g) 886.8g及びジブチル錫オキサイド 3.16gを入れ、130℃に調節した油浴により加熱し反応を行った。反応の進行とともに、生成してくるアリルアルコールを精留塔から留出させて500mlナス型フラスコで取得し、反応進行に伴い、徐々に2000ml三ッ口丸底フラスコ内を減圧にし、8時間反応を行った。アリルアルコールの留出量は、191.0g(理論量の99.6%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルを留去して、淡黄色粘稠液状の生成物(以下「生成物A2」とも記す。)を得た。
【0130】
生成物A2の液体クロマトグラフィー分析(以下「LC分析」とも記す)により、水添ダイマージオールは検出限界未満であった。また、生成物A2のGC分析により、3.1質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルが残存していることを確認した。また、生成物A2のエポキシ当量は396.4g/eqVであった。
【0131】
生成物A2を1H−NMRによって分析したところ、生成物A2のうち96.0質量%が両末端とも3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボキシレートに交換された化合物(構造式(2))、0.9質量%は片末端が水酸基のままで他の片末端が3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボキシレートになっている化合物であった。生成物A2の1H−NMR(溶媒:CDCl3)及びIRスペクトルを、それぞれ図3及び図4に記す。
【0132】
1H−NMRスペクトルの主な帰属は、以下の通りである(アンダーラインを付けた水素が該当プロトンであることを意味する)。
4.6ppm(未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルの CH2=CHC2OCO−)、
3.6ppm(水添ダイマージオールのモノ3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボキシレートのC2OH)、
4.05ppm(−C2OCO−)、
3.16〜3.23ppm(3,4−エポキシシクロヘキサン環(構造式(17)の
0.84〜2.54ppm(水添ダイマージオ−ル由来のアルキレンのCH、CH2及び3,4−エポキシシクロヘキサン環(構造式(18))の
また、IRスペクトルの主な帰属は以下の通りである。
【0133】
3448cm-1付近の吸収帯(OH伸縮)
2926cm-1付近及び2854cm-1付近の吸収帯(CH2伸縮)
1734cm-1付近の吸収帯(カルボン酸エステルのC=O伸縮)
1459cm-1付近及び1434cm-1付近の吸収帯(CH2変角)
1172cm-1付近の吸収帯(カルボン酸エステルのC−O伸縮)
(実施合成例A−3)
攪拌機、温度計および精留塔のついた2000ml三ッ口丸底フラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル 500.0g(2.74モル)、炭素数9のアルカンジオールを原料としたポリカーボネートジオール((株)クラレ社製 商品名:クラレポリオールC−1015N 水酸基価116.4mgKOH/g)1300g及びジブチル錫オキサイド 3.60gを入れ、窒素気流下、130℃に調節した油浴により加熱し反応を行った。反応の進行とともに、生成してくるアリルアルコールを精留塔から留出させて300mlナス型フラスコで取得し、反応進行に伴い、徐々に2000ml三ッ口丸底フラスコ内を減圧にして行き、8時間反応を行った。アリルアルコールの留出量は、155.2g(理論量の99.1%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルを留去して、淡黄色粘稠液状の生成物(以下「生成物A3」とも記す。)を得た。
【0134】
生成物A3のLC分析により、ポリカーボネートジオールは検出限界未満であった。また、生成物A3のGC分析により、0.5質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルが残存していることを確認した。生成物A3のエポキシ当量は609.0g/eqVであった。
【0135】
生成物A3を1H−NMR(内標物質にテトラメチルシロキサン:0.1質量ppmを使用)によって分析したところ、生成物A3のうち94.7質量%が構造式(3)で表される化合物、3.5質量%が構造式(19)で表される化合物であった。生成物A3の1H−NMR(溶媒:CDCl3)及びIRスペクトルを、それぞれ図5及び図6に記す。
【0136】
【化30】

【0137】
【化31】

1H−NMRスペクトルの主な帰属は、以下の通りである(アンダーラインを付けた水素が該当プロトンであることを意味する。)。
【0138】
4.6ppm(未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルのCH2=CHC2OCO−)、
3.87〜4.13ppm(−C2OCO−、−C2OCOOC2−)、
3.6〜3.7ppm(構造式(19)で表される化合物の−C2OH)、
3.16〜3.25ppm(3,4−エポキシシクロヘキサン環(構造式(17))の
1.17〜2.53ppm(ポリ(アルキレンカーボネート)構造単位中の−CH2−C(CH3)−CH2、−CH2−C2−CH2−、−CH(CH3)−C2−CH2−及び3,4−エポキシシクロヘキサン環(構造式(18))の
0.93〜0.96ppm(ポリ(アルキレンカーボネート)構造単位中の−CH(C3)−)
また、IRスペクトルの主な帰属は以下の通りである。
【0139】
3467cm-1付近の吸収帯(OH伸縮)
2932cm-1付近及び2857cm-1付近の吸収帯(CH2伸縮)
1744cm-1付近の吸収帯(カーボネート部分のC=O伸縮)
1258cm-1付近の吸収帯(カーボネート部分のC−O伸縮)
(比較合成例A−1)
攪拌機、温度計および精留塔のついた2000mlセパラブルフラスコに3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリル1555.03g(8.53モル)、1,4−ブタンジオール384.70g(4.27モル)及びジブチル錫オキサイド 3.86gを入れ、フラスコ内の内温が127〜128℃になるように油浴を調整して加熱し反応を行った。反応の進行とともに、生成してくるアリルアルコールを精留塔から留出させて500mlナス型フラスコで取得し、反応進行に伴い、徐々にフラスコ内を、液体窒素トラップを介して接続したダイヤフラムポンプを用いて減圧にし、5時間反応を行った。アリルアルコールの留出量は、456.7g(理論量の92.1%)であった。反応終了後、400Paにして未反応の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルを留去し、淡赤褐色粘調液体の生成物(以下「生成物A4」とも記す。)を得た。
【0140】
生成物A4のGC分析により、1,4−ブタンジオールは検出限界未満であった。また、生成物A4のGC分析により、5.1質量%の3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルが残存していることが確認した。また、生成物A4のエポキシ当量は185.5g/eqVであった。
【0141】
1H−NMRによって分析したところ、生成物A5のうち91.2質量%が構造式(20)で表される化合物、3.7質量%が構造式(21)で表される化合物であることが確認された。
【0142】
【化32】

【0143】
【化33】

(実施配合例1)
生成物A1 100g、カチオン重合開始剤(三新化学工業(株)製 商品名;サンエイドSI−100L)1.00g、シリコーン系消泡剤(商品名:TSA750S、GE・東芝シリコーン(株)社製)1.40gを混合し、ハイブリッドミキサー(グレード名:HM−500(株)キーエンス製)で5分間撹拌、10分間脱泡処理を行った。この配合物を配合組成B1とした。
【0144】
(実施配合例2〜6及び比較配合例1〜4)
表1に示す配合組成に従って配合し、ハイブリッドミキサー(グレード名:HM−500(株)キーエンス製)で5分間撹拌、10分間脱泡処理することのより、配合物を調整した。実施配合例2〜6で調整した配合物を、それぞれ配合組成B2〜B6とし、比較配合例1〜4で調整した配合物を、それぞれ、比較配合組成B1〜B4とした。なお、表1中に記載の実施配合例1〜6及び比較配合例1〜4の各成分の数字の単位は「g」である。
【0145】
【表1】

長期電気絶縁信頼性試験(配合組成B1〜B6及び比較配合組成B1〜B4)
フレキシブル銅張り積層板(商品名:UPISEL−N BE1310(グレード名)、宇部興産(株)製)をエッチングして製造した櫛形基板(銅配線幅/銅配線間幅=50μm/50μm)に、上記配合組成B1を、ガラス棒を用いて、50μmの厚さ(乾燥後)になるように塗布(配線接続部は除く)した。その後、熱風循環式乾燥機を用いて、100℃×1時間、120℃×1時間、150℃×1時間と、段階的に温度を上げて硬化させ、試験片を得た。
【0146】
また、上記、配合組成B1と同様にして、フレキシブル銅張り積層板(商品名:UPISEL−N BE1310(グレード名)、宇部興産(株)製)をエッチングして製造した櫛形基板(銅配線幅/銅配線間幅=50μm/50μm)に、配合組成B2〜B6及び比較配合組成B1〜B4を、ガラス棒を用いて、50μmの厚さ(乾燥後)になるように塗布(配線接続部は除く)し、表2に示す温度及び時間で、熱風循環式乾燥機を用いて硬化させ、試験片を得た。
【0147】
次に、配合組成B1〜B6及び比較配合組成B1〜B4より得られた試験片を用いて、バイアス電圧100Vを印加し、温度85℃、湿度85%RHの条件下で、温湿度定常試験(長期電気絶縁信頼性試験)を、MIGRATION TESTER MODEL MIG−8600(IMV(株)社製)を用いて行った。上記温湿度定常試験において、スタート初期(初期抵抗値:[Ω])、スタートしてから500時間後(500時間後の抵抗値:[Ω])および1000時間後の抵抗値(1000時間後の抵抗値:[Ω])を測定し、その結果を表2に示した。
【0148】
【表2】

表2の結果より、本発明の一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物を硬化させることによって、高いレベルでの長期電気絶縁特性を有する硬化物を提供できることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を含む硬化性組成物。
【化1】

(式中、R1は、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有するアルカンジオール由来の構造単位を有する(ポリ)カーボネートポリオールから誘導される有機残基を表す。R2は、それぞれ独立にH又はCH3を表す。R3、R4はそれぞれ独立にOR基又はOH基を表す。ここでRは有機残基である。mは1〜4の整数、nは0〜3の整数、lは0〜3の整数を表す。)
【請求項2】
さらに、下記一般式(II)で表される脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルを含むことを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【化2】

(式中、R5はH又はCH3を表し、R6は炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数3〜4のアルケニル基を表す。)
【請求項3】
さらに、下記式(3)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【化3】

(式中、oは0以上の整数、pは0以上の整数を表し、かつo+pは1以上の自然数である。)
【請求項4】
さらに、下記の構造式(16)で表される化合物を含むことを特徴とする請求項3に記載の硬化性組成物。
【化4】

【請求項5】
硬化剤または重合開始剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
下記一般式(II)で表される脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルと、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールとを、エステル交換触媒を用いて反応させて、前記一般式(I)で表されるエポキシ基含有エステル化合物を製造する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物の製造方法。
【化5】

(式中、R5はH又はCH3を表し、R6は炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数3〜4のアルケニル基を表す。)
【請求項7】
前記炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールが、炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有するアルカンジオール由来の構造単位を有する(ポリ)カーボネートポリオールであることを特徴とする請求項6に記載の硬化性組成物の製造方法。
【請求項8】
前記エステル交換触媒が、ジアルキル錫オキサイド、テトラアルキルチタネート及び金属アセチルアセトナート錯体の群の中から選ばれる少なくとも1種以上の化合物であることを特徴とする請求項6または7に記載の硬化性組成物の製造方法。
【請求項9】
前記エステル交換触媒が、ジブチル錫オキサイド又はジオクチル錫オキサイドであることを特徴とする請求項6または7に記載の硬化性組成物の製造方法。
【請求項10】
前記エステル交換触媒の使用量が、脂環式エポキシ基含有カルボン酸エステルと炭素数9以上の分岐構造及び/又は環状構造を有する飽和炭化水素鎖を含みかつ炭素数の総計が12以上である多価アルコールの総量に対して、0.01〜3.0質量%であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の硬化性組成物の製造方法。
【請求項11】
下記式(3)で表されるエポキシ基含有エステル化合物。
【化6】

(式中、oは0以上の整数、pは0以上の整数を表し、かつo+pは1以上の自然数である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−100550(P2013−100550A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−35764(P2013−35764)
【出願日】平成25年2月26日(2013.2.26)
【分割の表示】特願2008−168620(P2008−168620)の分割
【原出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】