説明

エポキシ樹脂の製造方法及び該製造方法を用いて得られたエポキシ樹脂

【課題】本発明は、ゲル成分の生成を抑えつつ、有機結合性塩素を含む全塩素を効率的に除去できるエポキシ樹脂の製造方法、その製造方法より得られるエポキシ樹脂及び該エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のエポキシ樹脂の製造方法は、(1)塩素分を含有する粗エポキシ樹脂を、ケト基を有する溶媒を含む溶媒に溶解して溶液を得る工程、及び(2)前記工程(1)で得られた溶液を、金属アルコキシド化合物で処理して塩素分が低減されたエポキシ樹脂を得る工程を含む。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂の製造方法、該製造方法を用いて得られたエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物の硬化物は耐熱性、接着性、耐水性、機械的強度及び電気特性等に優れていることから様々な用途に使用されている。近年、電気・電子分野に使用されるエポキシ樹脂として、腐食性や電気信頼性の問題からハロゲン原子を含有する不純物の少ないエポキシ樹脂が望まれている。そのため、ハロゲン原子を含有する不純物をさらに低減する技術の開発が望まれている。
【0003】
特許文献1には、金属アルコキシドのアルコール溶液を用いて樹脂中の加水分解性塩素を低減させる手法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、粉末状のアルカリ金属水酸化物を使用した全塩素を低減した樹脂が、特許文献3には脱塩素反応時の溶媒としてスルホキシド系の化合物を使用して樹脂中の全塩素を低減した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4−50923号公報
【特許文献2】特公平6−62596号公報
【特許文献3】特公平3−12088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、樹脂中の加水分解性塩素を低減させることはできるが、樹脂中の有機結合性塩素の低減効果は少ない。また、特許文献2及び3に樹脂中の有機結合性塩素の低減する方法が記載されているが、これらの方法では、ゲル状不純物が多量に生成する場合がある。さらに、特許文献3に記載されているスルホキシド化合物を使用すると、硫黄元素が十分除去できずに、精製して得られたエポキシ樹脂を他の樹脂で変性を行うと、変性時にゲル化してしまう場合がある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、ゲル成分の生成を抑えつつ、有機結合性塩素を含む全塩素を効率的に除去できるエポキシ樹脂の製造方法、その製造方法より得られるエポキシ樹脂及び該エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の方法により、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0010】
[1]
(1)塩素分を含有する粗エポキシ樹脂を、ケト基を有する溶媒を含む溶媒に溶解して溶液を得る工程、及び
(2)前記工程(1)で得られた溶液を、金属アルコキシド化合物で処理して塩素分が低減されたエポキシ樹脂を得る工程、
を含む、エポキシ樹脂の製造方法。
【0011】
[2]
前記工程(2)における処理温度が40℃以下である、[1]記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【0012】
[3]
前記工程(2)における処理時間が290分以下である、[1]または[2]記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【0013】
[4]
前記金属アルコキシド化合物が固体である、[1]〜[3]のいずれかに記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【0014】
[5]
前記金属アルコキシド化合物が、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシドおよびカリウムブトキシドからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【0015】
[6]
前記ケト基を有する溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンからなる群より選ばれる1種以上の溶媒を含む、[1]〜[5]のいずれかに記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【0016】
[7]
[1]〜[6]のいずれかに記載のエポキシ樹脂の製造方法により得られるエポキシ樹脂。
【0017】
[8]
[7]に記載のエポキシ樹脂を2官能以上のフェノール化合物および/またはイソシアネート化合物と反応させて得られる変性エポキシ樹脂。
【0018】
[9]
[7]に記載のエポキシ樹脂または[8]に記載の変性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエポキシ樹脂の製造方法によれば、ゲル成分の生成を抑えつつ、全塩素を効率的に除去したエポキシ樹脂及び該エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0021】
<エポキシ樹脂の製造方法>
本実施形態のエポキシ樹脂の製造方法は、(1)塩素分を含有する粗エポキシ樹脂を、ケト基を有する溶媒を含む溶媒に溶解して溶液を得る工程、(2)前記工程(1)で得られた溶液を、金属アルコキシド化合物で処理して塩素分が低減されたエポキシ樹脂を得る工程を含む。これらの工程(1)及び(2)を含む精製工程(精製方法)を行うことによって、ゲル成分の生成を抑えつつ、粗エポキシ樹脂から塩素分を十分に低減したエポキシ樹脂を得ることができる。
【0022】
<粗エポキシ樹脂>
本実施形態に用いる粗エポキシ樹脂は、公知の方法で得ることができ、例えば、1分子当たり平均2個以上の活性水素を有する化合物と、エピクロロヒドリン化合物とを、アルカリ金属水酸化物の存在下に縮合反応させて得ることができる。原料となる上記活性水素を有する化合物としては、たとえば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシナフタレンなどの種々のフェノール類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、ビフェニルフェノール樹脂などの種々のフェノール樹脂類;種々のフェノール類と、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザールなどの種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂等の各種のフェノール系化合物;ジアミノジフェニルメタン、アミノフェノール、キシレンジアミンなどの種々のアミノ化合物;メチルヘキサヒドロキシフタル酸、ダイマー酸などの種々のカルボン酸類などが挙げられる。
【0023】
このような製造方法で得られる粗エポキシ樹脂中には、不純物として塩素分が含まれる。塩素分としては、例えば、無機塩素や有機結合性塩素が挙げられる。更に有機結合性塩素はアルカリ金属水酸化物によって容易に脱塩素化できる加水分解性塩素や、アルカリ金属水酸化物でも脱塩素が困難な難加水分解性塩素が挙げられる。これら無機塩素と有機結合性塩素とを合わせて、本実施形態では「全塩素」とよぶ。
【0024】
本実施形態の製造方法において、工程(1)で使用されるケト基を有する溶媒は、構造中にケト基を有していれば特に限定されないが、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの鎖状ケトン類;シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンなどの環状ケトン類が挙げられる。これらのうち、1種以上含有していればよく、さらにトルエンなど他の溶媒との併用も可能である。中でも、前記ケト基を有する溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンからなる群より選ばれる1種以上の溶媒を含むことが好ましい。これらの溶媒を使用することで、効率的に粗エポキシ樹脂中の塩素分を除去できるだけでなく、粗エポキシ樹脂を上記溶媒に溶解した溶液の粘度の上昇を抑えることができ、ゲル成分の生成を抑えることができる。特に鎖状ケトン類を使用した場合、使用する金属アルコキシド化合物の前記溶液への溶解性が向上するため、粗エポキシ樹脂中の塩素分含有の不純物と金属アルコキシド化合物とを効率よく反応させることができる。この中でも、金属アルコキシド化合物の溶解度の高さの点から、アセトンやメチルエチルケトンが好ましく、アセトンがより好ましい。これらの溶媒を使用すると、該溶媒とエポキシ樹脂との親和性が低く蒸留後の残溶媒分を無くすことができるため、使用した溶媒の影響を受けることなく、後述のフェノール化合物等を用いた変性反応を行うことができる。
【0025】
本実施形態のエポキシ樹脂の製造方法は、上記精製工程を含むことにより、塩素量が低減(以下「低塩素化」とも記す)されたエポキシ樹脂を得ることができる。
【0026】
上記精製工程を含むことにより、低塩素化できる理由としては、明らかではないが、本発明者らは下記のように推定している。
【0027】
粗エポキシ樹脂中には、上述したとおり、塩素分として、例えば、無機塩素と有機結合性塩素とが共に含まれている。有機結合性塩素中の加水分解性塩素は金属アルコキシド中の金属イオンにより無機塩素として分離され、難加水分解性塩素はアルコキシイオンによる2分子脱離反応により無機塩素として分離され、これら分離した無機塩素を精製水で洗浄除去することにより、粗エポキシ樹脂中の塩素分を低減できると推定している。このときの溶媒として、ケト基をもつ溶媒を用いると、ケト基の分極した酸素が、難加水分解性塩素が結合した炭素原子に作用するため、更に粗エポキシ樹脂中の塩素原子が外れやすくなるものと推定している。
【0028】
本実施形態のエポキシ樹脂の製造方法において、工程(1)で用いる粗エポキシ樹脂の濃度は、工程(1)で用いる粗エポキシ樹脂およびケト基を有する溶媒の合計を100質量%とした場合、10〜100質量%未満の範囲内であることが好ましく、製造の容易さの点から15〜100質量%未満の範囲内であることがより好ましい。
【0029】
工程(2)における処理温度としては、40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。工程(2)における処理温度の下限としては、0℃以上であることが好ましい。40℃以下で、粗エポキシ樹脂中の塩素分含有の不純物と金属アルコキシド化合物との反応を行うことで、高分子量化反応を抑えることができ、得られるエポキシ樹脂のエポキシ当量や粘度が高くなることを抑えることができる。
【0030】
工程(2)における処理時間としては、290分以下であることが好ましい。工程(2)における処理時間の下限としては、5分以上であることが好ましい。高分子量化反応は逐次反応であるため、工程(2)における処理時間が290分以下であることで、高分子量成分の増加を防ぐことができる。また、工程(2)における処理時間は、より好ましくは、90分以下である。
【0031】
工程(2)で用いられる金属アルコキシド化合物としては、たとえば、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リチウムプロポキシド、ナトリウムプロポキシド、カリウムプロポキシド、リチウムブトキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムブトキシドやこれらの異性体が挙げられ、使用時にはこれら1種または2種以上を使用することができる。これらの金属アルコキシド化合物は、粗エポキシ樹脂中の塩素分含有の不純物と低温の反応が可能であることから、これらの金属アルコキシド化合物を用いるとエポキシ樹脂同士の反応を抑えることができる。そのため、高分子量化反応が起きにくく、ゲル化成分の生成を抑えることができる。前記金属アルコキシド化合物は、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシドおよびカリウムブトキシドからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含むことが好ましい。この中でも、反応溶液中で難加水分解性塩素を脱離するために必要なアルコキシイオンを生成しやすいという点から、ナトリウムメトキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムブトキシドが好ましく、カリウムブトキシドがより好ましい。
【0032】
本実施形態に用いる金属アルコキシド化合物の添加量は、粗エポキシ樹脂中の全塩素量が十分に低減され、かつエポキシ樹脂のゲル化などが起こらなければ限定されないが、エポキシ樹脂中に含まれる全塩素量に対して、1〜20モル当量であることが好ましく、反応速度の点から、2.5〜20モル当量であることがより好ましく、不純物イオンを洗浄するときの油水分離を容易にする点から、2.5〜15モル当量であることがより好ましい。
【0033】
金属アルコキシド化合物は、固体であることが好ましい。金属アルコキシド化合物が液体の場合、ケトン類に溶解させて使用しても脱塩素反応は起こるが、金属アルコキシド濃度が一気に低下するため、反応時間を長く要する。金属アルコキシド化合物を固体で投入すると、金属アルコキシド化合物が溶媒に少しずつ溶解していくため、局所的に高濃度の金属アルコキシド溶液となるため、脱塩素化反応が進行しやすい。金属アルコキシド化合物を反応系内に均一に分散させるという点から、金属アルコキシド化合物は顆粒状や粉末状であることがより好ましい。
【0034】
また、本実施形態の製造方法では、さらに(3)分離した塩素分とエポキシ樹脂とを分離する工程を含んでもよい。
【0035】
工程(3)において塩素分とエポキシ樹脂とを分離する方法としては、エポキシ樹脂がゲル化せず、かつ工程(2)でエポキシ樹脂から分離した塩素分が除去されれば特に限定されないが、例えば精製水を投入し、塩素イオンを水溶液に溶解させて分離する方法や、イオン交換樹脂を用いて分離する方法、エポキシ樹脂の分子蒸留により分離する方法等が挙げられる。精製水を投入し、塩素イオンを水溶液に溶解させて分離する方法の場合、予め燐酸や炭酸、硝酸などの酸を添加して中性領域に中和した後、精製水で洗浄すると、有機層と水層との分離が良好になり、また、ケト基を含む溶媒を蒸留により除去するときに、高分子量化反応を起こさなくなるため、好ましい。
【0036】
<エポキシ樹脂>
本実施形態のエポキシ樹脂は、上述のエポキシ樹脂の製造方法により得られる。
【0037】
上述の製造方法によって得られる本実施形態のエポキシ樹脂は、高分子量化反応が抑制された反応を経由して得られるエポキシ樹脂であるため、反応前と比較してエポキシ当量の増加が抑えられている。また、本実施形態のエポキシ樹脂は、アルカリ金属水酸化物を使用したときに引き起こされる加水分解が起こりにくいため、α−グリコールの生成を抑制できる。その結果、本実施形態のエポキシ樹脂は、反応速度や硬化により得られる硬化物の物性が変化しない。
【0038】
<変性エポキシ樹脂>
本実施形態の変性エポキシ樹脂は、上述のエポキシ樹脂を、2官能以上のフェノール化合物および/またはイソシアネート化合物と反応(「変性」ともいう)させて得ることができる。上述の製造方法で得られるエポキシ樹脂は、通常、硫黄成分が含まれていないため、変性時に高分子量化反応が起こらない。
【0039】
2官能以上のフェノール化合物としては、フェノール性水酸基が2個以上あれば特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、ビフェノール、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシベンゼンの置換基付加体、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,4−〔1−〔4−〔1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル〕フェニル〕エチリデン〕ビスフェノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、ナフトールノボラック、フェノールアラルキル等が挙げられ、これらは1種あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
【0040】
イソシアネート化合物とは、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、メタンジイソシアネート、ブタン−1,1−ジイソシアネート、エタン−1,2−ジイソシアネート、ブタン−1,2−ジイソシアネート、トランスビニレンジイソシアネート、プロパン−1,3−ジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、2−ブテン−1,4−ジイソシアネート、2−メチルブテン−1,4−ジイソシアネート、2−メチルブタン−1,4−ジイソシアネート、ペンタン−1,5−ジイソシアネート、2,2−ジメチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、ヘキサン−1,6−ジイソシアネート、ヘプタン−1,7−ジイソシアネート、オクタン−1,8−ジイソシアネート、ノナン−1,9−ジイソシアネート、デカン−1,10−ジイソシアネート、ジメチルシランジイソシアネート、ジフェニルシランジイソシアネート、ω,ω'−1,3−ジメチルベンゼンジイソシアネート、ω,ω'−1,4−ジメチルベンゼンジイソシアネート、ω,ω'−1,3−ジメチルシクロヘキサンジイソシアネート、ω,ω'−1,4−ジメチルシクロヘキサンジイソシアネート、ω,ω'−1,4−ジメチルナフタレンジイソシアネート、ω,ω'−1,5−ジメチルナフタレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1−メチルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、1−メチルベンゼン−2,5−ジイソシアネート、1−メチルベンゼン−2,6−ジイソシアネート、1−メチルベンゼン−3,5−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4'−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−2,4'−ジイソシアネート、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、3,3'−ジメチルビフェニル−4,4'−ジイソシアネート、2,3'−ジメトキシビスフェニル−4,4'−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、3,3'−ジメトキシジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、4,4'−ジメトキシジフェニルメタン−3,3'−ジイソシアネート、ジフェニルサルフアイト−4,4'−ジイソシアネート、ジフェニルスルフォン−4,4'−ジイソシアネート等の2官能イソシアネート化合物;
ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(4−フェニルイソシアネートチオフォスフェート)−3,3'、4,4'−ジフェニルメタンテトライソシアネート等の多官能イソシアネート化合物;
上記イソシアネート化合物の2量体や3量体等の多量体、アルコールやフェノールによりマスクされたブロックイソシアネートおよびビスウレタン化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。これらイソシアネート化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記のイソシアネート化合物のうち、好ましくは2または3官能イソシアネート化合物であるが、さらに好ましくは2官能イソシアネート化合物である。さらに好ましくはイソホロン型、ベンゼン型、トルエン型、ジフェニルメタン型、ナフタレン型、ポリメチレンポリフェニレンポリフェニル型、ヘキサメチレン型を持つ2官能イソシアネート化合物である。
【0042】
<エポキシ樹脂組成物>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、上述のエポキシ樹脂または変性エポキシ樹脂を含む。
【0043】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、上述のエポキシ樹脂または変性エポキシ樹脂を、用途によって他のエポキシ樹脂や硬化剤と混合して得ることができる。本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、含有するエポキシ樹脂または変性エポキシ樹脂における塩素量が少ないため、エポキシ樹脂組成物全体としても塩素量が低く抑えられる。その結果、本実施形態のエポキシ樹脂組成物を電気回路基板に使用した場合、金属部、特に銅や銀の腐食性の改善に繋がる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
本実施例において、各物性の測定方法は以下のとおりとした。
【0046】
(1)エポキシ当量
JIS K7236に従って求めた。すなわち、エポキシ樹脂をプロピルアルコールとベンジルアルコールとの溶液に溶解したのち、ヨウ化カリウムを加え、1規定の塩酸により滴定を行った。
【0047】
(2)全塩素量
JIS K7246に従って求めた。すなわち、エポキシ樹脂をジエチレングリコールモノブチルエーテルに溶解し、1規定の水酸化カリウム−プロピレングリコール溶液を加え、20分間煮沸した後に、硝酸銀で電位差滴定を行った。
【0048】
(3)加水分解性塩素量
JIS K7243−2に従って求めた。すなわち、エポキシ樹脂をトルエン溶液に溶解し、さらに0.1規定の水酸化カリウム−メタノール水溶液を加えて15分間煮沸した後、硝酸銀で電位差滴定を行った。
【0049】
(4)α−グリコール量
JIS K7146に従って求めた。すなわち、エポキシ樹脂をクロロホルムに溶解し、過ヨウ素酸溶液で反応させた後に、硫酸、ヨウ化カリウムを加え、チオ硫酸ナトリウムで滴定を行った。
【0050】
(5)数平均分子量
昭和電工社製shodex A−804、A−803、A−802、A802をカラムとして使用してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析を行い、分子量既知のポリスチレンの溶出時間との比較で数平均分子量を求めた。数平均分子量3000以上の成分を高分子量成分のある領域とした。
【0051】
[実施例1]
ビスフェノールA型エポキシ(旭化成エポキシ(株)社製AER260、エポキシ当量188(g/eq)、全塩素量1566ppm、加水分解性塩素量517ppm、α−グリコール量18(meq/kg)、以下「BisA−Ep」とも記す。)50質量部を、脱水アセトン100質量部に室温25℃で溶解させて溶液を得た。その後、得られた溶液に、ナトリウムメトキシドを粉末のまま0.10質量部投入し、40℃で90分反応をさせた。その後、前記溶液に、水を20質量部投入し、反応を停止させた後に、アルカリ当量のリン酸を加えて中和させ、減圧下でアセトンを回収した。その後、前記溶液に、トルエンを100質量部加え、更に3回水で洗浄し、油層と水層とを分離させた。3回の水の洗浄終了後に、前記油層からトルエンを減圧下で回収し、エポキシ樹脂Aを得た。得られたエポキシ樹脂Aは、エポキシ当量194(g/eq)、全塩素量145ppm、加水分解性塩素量77ppm、α−グリコールの量25(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Aにおいて、高分子量成分は生成していなかった。
【0052】
[実施例2]
脱水アセトンを脱水メチルエチルケトン(MEK)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂Bを得た。得られたエポキシ樹脂Bは、エポキシ当量196(g/eq)、全塩素量172ppm、加水分解性塩素量100ppm、α−グリコール量18(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Bにおいて、高分子量成分は生成していなかった。
【0053】
[実施例3]
脱水アセトンをシクロヘキサノンに変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂Cを得た。得られたエポキシ樹脂Cは、エポキシ当量194(g/eq)、全塩素量185ppm、加水分解性塩素量92ppm、α−グリコール量21(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Cにおいて、高分子量成分は生成していなかった。
【0054】
[実施例4]
ナトリウムメトキシド0.10質量部をカリウムt−ブトキシド0.36質量部に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂Dを得た。得られたエポキシ樹脂Dは、エポキシ当量187(g/eq)、全塩素量80ppm、加水分解性塩素量40ppm、α−グリコールの量19(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Dにおいて、高分子量成分は生成していなかった。
【0055】
[実施例5]
実施例4において、カリウムt−ブトキシドを、一旦脱水アセトンを用いた5質量%溶液にして投入し、その他は実施例4と同様に行い、エポキシ樹脂Eを得た。得られたエポキシ樹脂Eは、エポキシ当量187(g/eq)、全塩素量85ppm、加水分解性塩素量40ppm、α−グリコールの量20(meq/kg)、GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Eにおいて、高分子量成分は生成しておらず、実施例4とほぼ同等の樹脂を得た。
【0056】
[実施例6]
反応条件を50℃で30分に変更した以外は実施例4と同様に行い、エポキシ樹脂Fを得た。得られたエポキシ樹脂Fは、エポキシ当量197(g/eq)、全塩素量55ppm、加水分解性塩素量8ppm、α−グリコールの量28(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Fにおいて、高分子量成分が2質量%生成していた。
【0057】
[実施例7]
反応条件を30℃で300分に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂Gを得た。得られたエポキシ樹脂Gは、エポキシ当量199(g/eq)、全塩素量45ppm、加水分解性塩素量1ppm、α−グリコールの量40(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Gにおいて、高分子量成分が5質量%生成していた。
【0058】
[実施例8]
反応条件を50℃で300分に変更した以外は実施例1と同様に行ったところ、反応中に樹脂が高分子量化してしまい、油水分離がうまくいかず、回収できなかった。そこで、酢酸エチルを50質量部添加し、分離してきた有機層を分取し、得られた有機層から減圧下で有機溶媒を除去して、エポキシ樹脂Hを得た。得られたエポキシ樹脂Hは、エポキシ当量526(g/eq)、全塩素量23(ppm)、加水分解性塩素量10(ppm)、α−グリコール量31(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Hにおいて、高分子量成分は42質量%生成していた。
【0059】
[実施例9]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂をビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、エピクロン830、エポキシ当量 172(g/eq)、全塩素量 3015ppm、加水分解性塩素量1416ppm、α−グリコール量 25(meq/kg)以下「BisF−Ep」とも記す。)に変更し、アセトンの量を200質量部に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂Iを得た。得られたエポキシ樹脂Iは、エポキシ当量175(g/eq)、全塩素量187ppm、加水分解性塩素82ppm、α−グリコール量25(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Iにおいて、高分子量成分は生成していなかった。
【0060】
[実施例10]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂をテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(JER株式会社製、エピコート604、エポキシ当量 110(g/eq),全塩素量 6008(ppm)、加水分解性塩素量287(ppm)、α−グリコール量 35(meq/kg)、以下「TGDDM」とも記す。)に変更し、投入するナトリウムメトキシドの量を0.60質量部に変更し、アセトンの量を200質量部に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂Jを得た。得られたエポキシ樹脂Jは、エポキシ当量120(g/eq)、全塩素量226(ppm)、加水分解性塩素46(ppm)、α−グリコール量45(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Jにおいて、高分子量成分は生成していなかった。
【0061】
[実施例11]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂をトリグリシジルアミノフェノール樹脂(JER株式会社製、エピコート630、エポキシ当量 98(g/eq)、全塩素量 6502(ppm)、加水分解性塩素量906(ppm)、α−グリコール量 35(meq/kg)、以下「TGAP」とも記す。)に変更し、投入するカリウムt−ブトキシドの量を0.60質量部に変更し、アセトンの量を200質量部に変更した以外は実施例4と同様に行い、エポキシ樹脂Kを得た。得られたエポキシ樹脂Kは、エポキシ当量115(g/eq)、全塩素量154(ppm)、加水分解性塩素66(ppm)、α−グリコール量42(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Kにおいて、高分子量成分は生成していなかった。
【0062】
[比較例1]
ビスフェノールA型エポキシ(旭化成エポキシ(株)社製AER260、エポキシ当量193(g/eq)、全塩素量1566ppm、加水分解性塩素量517ppm、α−グリコール量18(meq/kg))50質量部を用いて、特公平4−50923号公報に記載の実施例1に準じて反応を行った。すなわち、ビスフェノールA型エポキシの濃度が40質量%になるよう75質量部のトルエンにビスフェノールA型エポキシ50質量部を溶解して溶液を得た。該溶液を110℃で還流して、該溶液中の水分量を0.05質量%未満とした。次いで、前記溶液を105℃まで冷却して、カリウムt−ブトキシドの14質量%のt−ブタノール溶液2.6質量部を加え、30分攪拌した。その後、前記溶液を45℃まで冷却し、水を0.63質量部入れ、さらに45℃に保持しながらドライアイス1.8質量部を15分かけて加えた。その後、更に3回精製水で洗浄し、油層と水層とを分離させた。3回の精製水による洗浄終了後に、前記油層からトルエンを減圧下で回収し、エポキシ樹脂Lを得た。得られたエポキシ樹脂Lは、エポキシ当量242(g/eq)、全塩素量825(ppm)、加水分解性塩素量34(ppm)、α−グリコール量68(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Lにおいて、高分子量成分を12質量%生成していた。
【0063】
[比較例2]
ナトリウムメトキシドの代わりに、粒系の水酸化カリウムを使用した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂Mを得た。得られたエポキシ樹脂Mは、エポキシ当量190(g/eq)、全塩素量1134(ppm)、加水分解性塩素量310(ppm)、α−グリコール量40(meq/kg)であり、脱塩素反応の進行度合いが少なかった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Mにおいて、高分子量成分は生成していなかった。
【0064】
[比較例3]
溶媒をアセトンからトルエンに変更した以外は実施例1と同様に行ったところ、水洗時の油水分離が悪く分離に長時間を要したが、エポキシ樹脂Nを得た。得られたエポキシ樹脂Nは、エポキシ当量189(g/eq),全塩素量972(ppm)、加水分解性塩素量181(ppm)、α−グリコール量30(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Nにおいて、分子量3000以上の成分を含んでいなかった。
【0065】
[比較例4]
市販されているビスフェノールA型エポキシ(旭化成エポキシ(株)社製AER260、エポキシ当量188(g/eq)、全塩素量1566ppm、加水分解性塩素517ppm量、α−グリコール量18(meq/kg))を用いて、特公平3−12088号公報に記載の実施例15と同様の方法で反応を行った。すなわち、ビスフェノールA型エポキシを100質量部、ジメチルスルホキシド200質量部に溶解して溶液を得た。得られた溶液を50℃に加温した後、カリウムt−ブトキシドを0.76質量部投入し、30分反応させ、エポキシ樹脂Oを得た。得られたエポキシ樹脂Oはエポキシ当量201(g/eq)、全塩素量351(ppm)、加水分解性塩素量65(ppm)、α−グリコール量61(meq/kg)であった。GPCから求めたチャートを解析したところ、エポキシ樹脂Oにおいて、高分子量成分は8質量%生成していた。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)塩素分を含有する粗エポキシ樹脂を、ケト基を有する溶媒を含む溶媒に溶解して溶液を得る工程、及び
(2)前記工程(1)で得られた溶液を、金属アルコキシド化合物で処理して塩素分が低減されたエポキシ樹脂を得る工程、
を含む、エポキシ樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)における処理温度が40℃以下である、請求項1記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程(2)における処理時間が290分以下である、請求項1または2記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記金属アルコキシド化合物が固体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記金属アルコキシド化合物が、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシドおよびカリウムブトキシドからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ケト基を有する溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンからなる群より選ばれる1種以上の溶媒を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂の製造方法により得られるエポキシ樹脂。
【請求項8】
請求項7に記載のエポキシ樹脂を2官能以上のフェノール化合物および/またはイソシアネート化合物と反応させて得られる変性エポキシ樹脂。
【請求項9】
請求項7に記載のエポキシ樹脂または請求項8に記載の変性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−95916(P2013−95916A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243402(P2011−243402)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】