説明

エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物及び光半導体装置

【課題】 高エネルギー光源での劣化による着色の少なさを維持しつつ、温度条件等の変化に対する耐クラック性が良好であり、かつ硬化時の透明性に優れる硬化物を与えるエポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、その硬化物及びそれで封止した光半導体装置を提供する。
【解決手段】 多価カルボン酸無水物及びシロキサン構造含有高分子を含むエポキシ樹脂硬化剤であり、好ましくは、前記シロキサン構造含有高分子は、シロキサン構造含有ポリエステルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、その硬化物及び光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸無水物とエポキシ樹脂から得られるエポキシ樹脂硬化物は、安価で、透明性、電気絶縁性、耐薬品性、耐湿性、接着性等に優れており、電気絶縁材料、半導体材料、接着材料、塗料材料等、様々な用途で用いられている。代表的な使用例の一つとして、発光ダイオード(Light−emitting diode:以下LEDと略す)の発光素子を保護するための封止材を挙げることができるが、近年になって短波長の光を発する光源と蛍光体とを組み合わせた白色LEDが普及するにつれ、封止材の劣化が問題視されるようになってきた。
【0003】
すなわち、白色LEDの場合、より高エネルギーの光源を用いるため、従来の赤色や緑色のLEDに比べて封止材が劣化して着色しやすく、LEDの寿命が短くなってしまうという問題が発生する。また、発光素子の改良によって小型化及び大電流化が進むにつれ、LEDを長時間点灯させた場合に発生する熱も大きくなり、これによっても同様に封止材の劣化が引き起こされる。
【0004】
このような光や熱による劣化を抑制することは、エポキシ樹脂のさらなる普及において重要な課題となっている。これを解決する方法として、光や熱により劣化しやすい芳香族エポキシ樹脂に代わって脂環式エポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物の提案がなされている(例えば、特許文献1、2及び3参照)。
【0005】
一方で、こういった脂環式エポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物は、得られる硬化物が強靭性に乏しく、温度等の条件変化によってクラックを生じやすいという欠点があった。これを解決するためにエポキシ樹脂組成物から得られる硬化物を強靭化する方法としては、種々の高分子からなる改質剤を用いる手法が知られており、例えばエポキシ樹脂組成物にポリエステル樹脂を添加することにより硬化物の透明性を損なわずに強靭性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
しかし、一般にポリエステル樹脂は縮合時に色が付きやすいため、上記特許文献4に記載された発明では、その実施例に示されるように硬化物が黄色から褐色に著しく着色してしまう。そのため、例えば上記LED封止材のように無色透明であることが要求される用途においては実用上問題があった。またエポキシ変性シリコーンは、上記劣化による着色が少なくかつ硬質であることから次世代のエポキシ樹脂の主剤として近年注目されている。しかし、このエポキシ変性シリコーンを主剤としても、上記ポリエステル樹脂を改質剤として含むエポキシ樹脂組成物は、透明な硬化物を得るのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−196151号公報
【特許文献2】特開2003−012896号公報
【特許文献3】特開2003−221490号公報
【特許文献4】特開2004−131553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、上記着色の少なさを維持しつつ、耐クラックのような強靭性及び透明性に優れる硬化物を与えるエポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、その硬化物及び光半導体装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、多価カルボン酸無水物に対し、改質剤としてシロキサン構造含有高分子を添加混合することにより、強靭性及び透明性に優れる硬化物を与えるエポキシ樹脂硬化剤が容易に得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、以下に関する。
(1) 多価カルボン酸無水物及びシロキサン構造含有高分子を含むエポキシ樹脂硬化剤。
【0011】
(2) 多価カルボン酸無水物が、下記一般式(1)で表される化合物である前記(1)記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【化1】


(一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は直鎖若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基を表し、R〜Rから選ばれる二つが結合して環を形成してもよい。)
【0012】
(3) シロキサン構造含有高分子が、シロキサン構造含有ポリエステルである前記(1)又は(2)記載のエポキシ樹脂硬化剤。
(4) シロキサン構造含有高分子が、多価カルボン酸無水物100重量部に対して1〜60重量部含まれる前記(1)〜(3)のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【0013】
(5) エポキシ樹脂及び前記(1)〜(4)のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物。
(6) 前記(5)に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
(7) 前記(6)に記載の硬化物で光半導体素子が封止されてなる光半導体装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、着色の少なさを維持しつつ、耐クラック性のような強靭性及び透明性に優れる硬化物を与えるエポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、その硬化物及び光半導体装置を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】表面実装型LEDパッケージの要部構成を表す縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる多価カルボン酸無水物は特に制限は無く、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水イタコン酸、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは二種類以上併用してもよい。
【0017】
本発明により得られる硬化物が、強靭性及び透明性に優れるという効果をより顕著に発揮させるためには、多価カルボン酸無水物が上記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0018】
このような化合物としては、例えばヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらは二種類以上併用してもよい。
【0019】
多価カルボン酸無水物の使用量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して酸無水物基が0.8〜1当量になるよう配合することが好ましく、0.9〜1当量になるよう配合することがより好ましい。酸無水物基が0.8当量以上であると、硬化が十分であり、硬化物の強靭性の良好な機械的特性が得られる。また、酸無水物基が1以下の場合、同様に硬化物の良好な機械的特性を得ることができる。
【0020】
本発明に用いるシロキサン構造含有高分子には特に制限は無いが、本発明により得られる硬化物の特徴である、耐クラック性等の強靭性及び透明性に優れるという効果をより顕著に発揮させる一例として、シロキサン構造含有ポリエステルが挙げられる。シロキサン構造含有ポリエステル以外のシロキサン構造含有高分子は、シロキサン構造含有ポリウレタン、シロキサン構造含有アクリル樹脂等が挙げられる。
【0021】
シロキサン構造含有ポリエステルは、二以上のアルキル基を有する多価アルコール成分と、二以上のカルボキシル基を有する多価カルボン酸成分とが重縮合してなり、これら二種の成分の少なくとも一方はシロキサン構造を含む。これら二種の成分の両方にシロキサン構造を含むのが好ましい。また、多価アルコール成分がジオール成分であり、多価カルボン酸成分がジカルボン酸成分であるのが好ましい。各成分は、それぞれ一種類を単独で使用しても、二種類以上併用してもよい。
【0022】
シロキサン構造を含むジオール成分として所謂末端ジオール型のポリオルガノシロキサン、両末端ヒドロキシポリオルガノシロキサン、シリコーンジオール等の名称で入手できる化合物や、その変性物を用いることができる。例えば、信越化学工業株式会社製の製品名X−22−160AS、KF−6001、KF−6002、KF−6003(以上、ジオール成分)、X−22−4015(多価アルコール成分)、チッソ社製のFM−4411、FM−4421、FM−4425、旭化成ワッカーシリコーン社製のIM11、IM15等が挙げられる。
【0023】
また、シロキサン構造を含む多価カルボン酸成分として信越化学工業株式会社製のX−22−162C(ジカルボン酸成分)、X−22−3701E(多価カルボン酸成分)、X−22−3710(ジカルボン酸成分を含む、モノカルボン酸成分)等が挙げられる。
【0024】
シロキサン構造を含まないジオール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレンブリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール・ブロックコポリマー、エチレングリコール−テトラメチレングリコールコポリマー、2−メチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0025】
シロキサン構造を含まないジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
上記シロキサン構造を含まない多価アルコール成分及び/又は多価カルボン酸成分のような、シロキサン構造を含まない成分は、シロキサン構造含有高分子内の90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明に用いるシロキサン構造含有高分子の重量平均分子量は、3,000〜100,000であることが好ましく、6,000〜30,000であることがより好ましい。シロキサン構造含有高分子の重量平均分子量が3,000以上であれば、得られる硬化物の強靭性が十分となり、耐クラック性等の機械的特性が良好である。また、シロキサン構造含有高分子の重量平均分子量が100,000以下であれば、多価カルボン酸無水物との相溶性が低下することなく、得られる硬化物の透明性が良好である。本発明において、重量平均分子量は、下記の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定し標準ポリスチレンに換算した値を用いている。
【0027】
本発明に用いるシロキサン構造含有高分子の製造方法には特に制限は無く、重合触媒や温度等は公知の方法を適用することができる。
〈GPC条件〉
使用機器:日立L−6000型〔(株)日立製作所社製〕
カラム :ゲルパックGL−R420+ゲルパックGL−R430+ゲルパックGL−R440(計3本)〔いずれも日立化成工業社製商品名〕
溶離液 :テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流量 :1.75ml/min.
検出器 :L−3300RI〔(株)日立製作所〕
【0028】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤において、シロキサン構造含有高分子は、多価カルボン酸無水物100重量部に対して1〜60重量部含まれることが好ましく、10〜50重量部含まれることがより好ましい。シロキサン構造含有高分子の含有量が1重量部以上であると、得られる硬化物の強靭性が十分であり、耐クラック性が良好である。また、シロキサン構造含有高分子の含有量が60重量部以下であれば、得られる硬化物のガラス転移温度が低下せず、実用上好ましい程度に維持される。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂は特に制限は無いが、着色を防ぐ耐光性及び耐熱性の面からエポキシ変性シリコーンまたは脂環式エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ変性シリコーンは、1分子中にシロキサン骨格及び2個以上のエポキシ基を有するものであり、例えば、信越化学工業株式会社製の製品名KF−105、X−22−163A、X−22−163B、X−22−163C、X−22−169AS、X−22−169B等が挙げられる。
【0030】
脂環式エポキシ樹脂は、1分子中に脂環式骨格及び2個以上のエポキシ基を有するものであり、例えば3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは二種類以上併用してもよい。
【0031】
また、目的に応じて脂環式エポキシ樹脂やエポキシ変性シリコーン以外のエポキシ樹脂も用いることができる。このようなエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールS等のビスフェノール類とエピクロロヒドリンとの反応により得られるビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラックとエピクロロヒドリンとの反応により得られるフェノールノボラック型エポキシ樹脂、多価カルボン酸とエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは二種類以上併用してもよい。
【0032】
エポキシ変性シリコーンを使用する場合、エポキシ変性シリコーン以外のエポキシ樹脂の使用量は、エポキシ変性シリコーン100重量部に対して0〜80重量部とするのが好ましく、0〜20重量部とするのがより好ましい。エポキシ変性シリコーン以外のエポキシ樹脂の使用量が80重量部以下であれば硬化物の耐光性及び耐熱性が充分に得られる。
【0033】
本発明においては、多価カルボン酸無水物及びシロキサン構造含有高分子を混合することにより目的とするエポキシ樹脂硬化剤を得ることができるが、その製造方法には特に制限は無く、公知の方法を適用することができる。エポキシ樹脂硬化剤の色相が悪い場合は、水素化触媒存在下で水素化することで色相改善を行っても良い。その際用いる水素化触媒としては、ニッケルなどの鉄族元素またはパラジウム、ロジウム、白金などの白金族元素を活性成分として含むものが好ましく、活性成分を担体に保持させた形態のものがより好ましい。
【0034】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は前記エポキシ樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂を含む。樹脂組成物の製造方法には特に制限は無く、公知の方法を適用することができる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、目的に応じて硬化促進剤を適宜添加することができる。硬化促進剤としては、例えば2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、ベンジルジメチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の三級アミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウム o,o−ジエチルホスホロジチオネート、テトラブチルホスホニウム ベンゾトリアゾラート等のホスホニウム塩、オクチル酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の金属塩、アセチルアセトン亜鉛、ベンゾイルアセトン亜鉛等の金属錯体などが挙げられる。
【0036】
硬化促進剤のエポキシ樹脂組成物中の配合量は、0.01〜8重量%とするのが好ましく、0.1〜5重量%とするのがより好ましい。硬化促進剤の配合量が0.01重量%以上であると、十分な効果が得られる。また、硬化促進剤の配合量が8重量%以下であれば、得られる硬化物の、透明度が落ちたり、着色やTgの低下等の耐熱性が低下したりするおそれがない。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、得られる硬化物の特性を損ねない範囲で各種添加剤を目的に応じてさらに添加することができる。添加剤としては、可撓化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、消泡剤、チキソトロピー性付与剤、離型剤等が挙げられる。更に、例えば、硬化物の耐光性及び耐熱性をさらに向上させるための酸化防止剤、硬化における重合反応を制御するための連鎖移動剤、硬化物の機械的物性、接着性、取扱い性を改良するための充填剤、可塑剤、低応力化剤、カップリング剤、染料、光散乱剤などが挙げられる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させることにより、劣化による着色の少なさを維持しつつ、耐クラック性及び透明性に優れる硬化物を得ることができる。硬化物の製造方法には特に制限は無く、公知の方法を適用することができる。加熱硬化の温度及び時間は特に限定されないが、90〜180℃、1〜12時間が好ましい。エポキシ樹脂組成物を塗布、ポッティング、含浸等の方法により、LED発光素子等の表面上に設け、加熱硬化することにより、LED発光素子等を封止することができる。
【0039】
本発明の光半導体装置は、LED発光素子、フォトダイオード素子等の光半導体素子が上記硬化物で封止されたものであり、耐クラック性等の強靭性及び透明性に優れ、さらに耐光性及び耐熱性にも優れるものである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0041】
(実施例1)
攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応容器に信越化学工業株式会社製シリコーンジオールであるX−22−160ASを288部、ネオペンチルグリコール118部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸198部、テトラブチルチタネート0.04部を仕込んで160℃になるまで加熱し、さらに160℃から250℃まで4時間かけて昇温した。次いで1時間かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下まで減圧してから250℃で1時間反応させシロキサン構造含有高分子(I)を得た。
【0042】
攪拌機、温度計及びガス導入管を備えた反応容器にシロキサン構造含有高分子(I)15重量部及び多価カルボン酸無水物として4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸85重量部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら60℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂硬化剤(I)を得た。
【0043】
エポキシ樹脂硬化剤(I)40重量部に対して、エポキシ樹脂としてエポキシ変性シリコーン(KF−105:信越化学工業株式会社製)100重量部、硬化促進剤としてテトラ−n−ブチルホスホニウム o,o−ジエチルホスホロジチオネート(日本化学工業株式会社製ヒシコーリン(登録商標)PX−4ET)0.1重量部を加え、80℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂組成物(I−a)を得た。また、エポキシ樹脂硬化剤(I)142重量部に対して、脂環式エポキシ樹脂として3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業株式会社製セロキサイド(登録商標)2021P)100重量部、硬化促進剤としてテトラ−n−ブチルホスホニウム o,o−ジエチルホスホロジチオネート(上記日本化学工業株式会社製PX−4ET)1重量部を加え、80℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂組成物(I−b)を得た。
【0044】
次に、エポキシ樹脂組成物(I−a)を減圧下で十分に脱泡させてから、1mm厚のシリコーン製のスペーサーをガラス板で挟んだ型に注入して、それぞれ150℃で24時間加熱して硬化物(I−a)を得た。また、エポキシ樹脂組成物(I−b)を減圧下で十分に脱泡させてから、板状の金型及び図1に示す表面実装型LEDパッケージに注入して、それぞれ120℃で1時間加熱した後にさらに150℃で4時間加熱して硬化物(I−b)を得た。
【0045】
(実施例2)
攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応容器に信越化学工業株式会社製シリコーンジオールであるX−22−160AS158部、ネオペンチルグリコール132部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸237部、テトラブチルチタネート0.04部を仕込んで160℃になるまで加熱し、さらに160℃から250℃まで4時間かけて昇温した。次いで1時間かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下まで減圧してから250℃で1時間反応させシロキサン構造含有高分子(II)を得た。
以下、実施例1と同様にして硬化物(II−a)及び(II−b)を得た。
【0046】
(実施例3)
攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応容器にチッソ社製シリコーンジオールであるFM−4411 250部、ネオペンチルグリコール99部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸198部、テトラブチルチタネート0.04部を仕込んで160℃になるまで加熱し、さらに160℃から250℃まで4時間かけて昇温した。次いで1時間かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下まで減圧してから250℃で1時間反応させシロキサン構造含有高分子(III)を得た。
以下、実施例1と同様にして硬化物(III−a)及び(III−b)を得た。
【0047】
(実施例4)
実施例3と同様にしてシロキサン構造含有高分子(III)を得、攪拌機、温度計及びガス導入管を備えた反応容器にシロキサン構造含有高分子(III)10重量部及び多価カルボン酸無水物として4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸90重量部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら60℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂硬化剤(IV)を得た。
【0048】
エポキシ樹脂硬化剤(IV)40重量部に対して、エポキシ樹脂としてエポキシ変性シリコーン(KF−105:信越化学工業株式会社製)106重量部、硬化促進剤としてテトラ−n−ブチルホスホニウム o,o−ジエチルホスホロジチオネート(上記日本化学工業株式会社製PX−4ET)0.1重量部を加え、80℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂組成物(IV−a)を得た。また、エポキシ樹脂硬化剤(IV)142重量部に対して、脂環式エポキシ樹脂として3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(上記ダイセル化学工業株式会社製2021P)106重量部、硬化促進剤としてテトラ−n−ブチルホスホニウム o,o−ジエチルホスホロジチオネート(上記日本化学工業株式会社製PX−4ET)1重量部を加え、80℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂組成物(IV−b)を得た。
以下、実施例1と同様にして硬化物(IV−a)及び(IV−b)を得た。
【0049】
(実施例5)
実施例3と同様にしてシロキサン構造含有高分子(III)を得、攪拌機、温度計及びガス導入管を備えた反応容器にシロキサン構造含有高分子(III)5重量部及び多価カルボン酸無水物として4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸95重量部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら60℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂硬化剤(V)を得た。
【0050】
エポキシ樹脂硬化剤(V)40重量部に対して、エポキシ樹脂としてエポキシ変性シリコーン(KF−105:信越化学工業株式会社製)118重量部、硬化促進剤としてテトラ−n−ブチルホスホニウム o,o−ジエチルホスホロジチオネート(上記日本化学工業株式会社製PX−4ET)0.1重量部を加え、80℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂組成物(V−a)を得た。また、エポキシ樹脂硬化剤(V)142重量部に対して、脂環式エポキシ樹脂として3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(上記ダイセル化学工業株式会社製2021P)118重量部、硬化促進剤としてテトラ−n−ブチルホスホニウム o,o−ジエチルホスホロジチオネート(上記日本化学工業株式会社製PX−4ET)1重量部を加え、80℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂組成物(V−b)を得た。
以下、実施例1と同様にして硬化物(V−a)及び(V−b)を得た。
【0051】
(比較例1)
4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸34重量部に対して、エポキシ樹脂としてエポキシ変性シリコーン(KF−105:信越化学工業株式会社製)100重量部、硬化促進剤としてテトラ−n−ブチルホスホニウム o,o−ジエチルホスホロジチオネート(上記日本化学工業株式会社製PX−4ET)0.1重量部を加え、80℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂組成物(VII−a)を得た。また、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸116重量部に対して、脂環式エポキシ樹脂として3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(上記ダイセル化学工業株式会社製2021P)100重量部、硬化促進剤としてテトラ−n−ブチルホスホニウム o,o−ジエチルホスホロジチオネート(上記日本化学工業株式会社製PX−4ET)1重量部を加え、80℃に加熱して攪拌し、均一になるまで溶解させてエポキシ樹脂組成物(VII−b)を得た。
以下、実施例1と同様にして硬化物(VII−a)及び(VII−b)を得た。
【0052】
(比較例2)
攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応容器に、ネオペンチルグリコール208部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸172部、テトラブチルチタネート0.04部を仕込んで160℃になるまで加熱し、さらに160℃から250℃まで4時間かけて昇温した。次いで1時間かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下まで減圧してから250℃で1時間反応させ高分子(VIII)を得た。
以下、実施例1と同様にして硬化物(VIII−a)及び(VIII−b)を得た。
【0053】
実施例1〜5及び比較例1〜2で得た硬化物(I−a)〜(VIII−a)は外観、透過率を測定し、また、硬化物(I−b)〜(VIII−b)はガラス転移温度、曲げ強度、曲げ弾性率、実装信頼性を評価し、その結果を表1に示した。表1における特性評価の方法は以下の通りである。
【0054】
・外観:目視により判定した。
・透過率:分光光度計によって測定した。
・Tg(ガラス転移温度):板状硬化物から2mm×5mm×5mmの試料を切り出し、機械的熱分析(TMA)により測定した。
測定装置 SSC−5200(セイコー電子工業社製)
測定条件 荷重20g/毎分5℃加熱
【0055】
・曲げ強度:JIS K7171に従って測定した。
・曲げ弾性率:JIS K7171に従って測定した。
【0056】
・実装信頼性:評価に用いた表面実装型LEDパッケージは図1に示す構造のものである。半導体発光素子102と、樹脂からなる封止体104とを有し、樹脂成形体100は、リードフレームから成形した一対のリード105、106を熱硬化性樹脂からなる樹脂部103によりモールドした構造を有する。そして、樹脂部103には開口部101が形成されており、その中に半導体発光素子102が載置されている。そして、半導体発光素子102を包含するように透明封止樹脂104により封止されている。半導体発光素子102は、リード106の上にマウントされている。そして、半導体発光素子102の電極(図示せず)とリード105とが、ワイア107により接続されている。2本のリード105、106を通して半導体発光素子102に電力を供給すると発光が生じ、その発光が透明封止樹脂104を通して光取り出し面108から取り出される。前記透明封止樹脂104として上記で調製したエポキシ樹脂組成物を注入し、120℃で1時間加熱した後にさらに150℃で4時間加熱して硬化させた。
【0057】
表面実装型LEDパッケージの実装信頼性は、冷熱温度サイクル下(1サイクルを−40℃/30min−85℃/30minとし、0及び100サイクルで評価)でパッケージ内の各樹脂組成物のひび割れ(クラック)、及び透明封止樹脂とパッケージ成形体の間の剥離(不良)の有無により評価した。100サイクル終了後での不良品率(=不良の数/試験に用いたパッケージ数*100(%))を計算し、実装信頼性とした。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示したように、実施例1〜5で本発明のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物から透明な硬化物が得られ、また、本発明のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物から得られた硬化物はTgの低下を抑え、機械特性及び実装信頼性に優れることが判った。それに対し比較例1の硬化物は、曲げ強度が低く、実装信頼性が劣り、比較例2は、硬化物が白濁した。本発明により、耐クラック性等の強靭性及び透明性に優れる硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を得ることができた。
【符号の説明】
【0060】
100・・・・・樹脂成形体
101・・・・・開口部
102・・・・・半導体発光素子
103・・・・・樹脂部(熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂)
104・・・・・透明封止樹脂
105・・・・・リード
106・・・・・リード
107・・・・・ワイア
108・・・・・光取出し面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸無水物及びシロキサン構造含有高分子を含むエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項2】
多価カルボン酸無水物が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【化1】



(一般式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は直鎖若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基を表し、R〜Rから選ばれる二つが結合して環を形成してもよい。)
【請求項3】
シロキサン構造含有高分子が、シロキサン構造含有ポリエステルである請求項1又は請求項2に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項4】
シロキサン構造含有高分子が、多価カルボン酸無水物100重量部に対して1〜60重量部含まれる請求項1〜請求項3のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項5】
エポキシ樹脂及び請求項1〜請求項4のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化物で光半導体素子が封止されてなる光半導体装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−18888(P2013−18888A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153886(P2011−153886)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】