説明

エポキシ樹脂硬化剤

【目的】 本発明の目的は、エポキシ樹脂塗膜表面の粘着状態を解消でき、かつ塗膜に水滴を滴下した際に生じる白化等の変化を防止できるエポキシ樹脂用硬化剤を提供することにある。
【構成】 ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物のうち少なくとも1種を含むポリアミン化合物(A)と、炭素数が16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)とからなるエポキシ樹脂硬化剤。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はエポキシ樹脂硬化剤、および該エポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂とからなるエポキシ樹脂塗料に関するものである。詳しくは、塗料、床材、金属やコンクリートなどの防食等に用いられる被覆材料に有用であるエポキシ樹脂硬化剤、及びエポキシ樹脂塗料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】各種ポリアミン化合物はエポキシ樹脂硬化剤として広く知られている。特に、脂肪族のポリアミン化合物は常温硬化用のエポキシ樹脂硬化剤として広く用いられており、このような常温硬化タイプのエポキシ樹脂およびエポキシ樹脂硬化剤の用途として、塗料などの被覆材料がある。上記脂肪族アミンの中で、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは他の脂肪族アミンにくらべ、耐候性に優れ、また、硬化が速いため低温硬化性に適しているという特徴を有している。しかし、脂肪族ポリアミンは皮膚刺激性があり、また、大気中の二酸化炭素や水蒸気を吸収しやすいという欠点を有している。
【0003】特に、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンをエポキシ樹脂硬化剤として使用した場合、塗装から数日経過しても塗膜の表面が粘着状態を呈し、また、硬化後に水滴を塗膜上に滴下するとその部分が白化するという欠点を有している。そのため、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを含むこれらの脂肪族ポリアミン類はそのままの形で塗料用エポキシ樹脂硬化剤として使用されることは少ない。これらの欠点を改善する代表的な脂肪族ポリアミンの変性方法等として、以下に挙げる変性法等が知られている。
【0004】
(1)エポキシ化合物との反応による変性(2)フェノールおよびホルムアルデヒドとのマンニッヒ反応による変性(3)カルボン酸との反応によるポリアミド変性(4)アクリロニトリル等とのマイケル付加反応による変性(5)3級アミン化合物、フェノール類等の硬化促進剤の添加しかしながら、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの変性物でも、上記の欠点は十分に解消されるには到らない。一方、上記(5)のように硬化促進剤を添加すると可使時間が短くなり、作業性が悪くなるという問題も生ずる。
【0005】また、不飽和ポリエステル樹脂におけるパラフィンワックスのように、塗膜の表面を覆って空気中の二酸化炭素や水蒸気の吸収を防ぐ方法もあるが、パラフィンワックスはエポキシ樹脂やエポキシ樹脂硬化剤とは容易に混合しにくいという性質があり、さらにパラフィンワックスで覆った塗膜上にさらに重ね塗りをすると、塗膜間の密着不良を生じやすく、いわゆる相間剥離が起きやすい。そのため、パラフィンワックスのエポキシ樹脂分野への適用は困難である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンもしくはビス(アミノメチル)シクロヘキサンの変性物をエポキシ樹脂の硬化剤として使用しても、エポキシ樹脂塗膜表面の粘着状態を解消でき、かつ塗膜に水滴を滴下した際に生じる白化等の変化を防止できるエポキシ樹脂用硬化剤を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明らは、鋭意検討した結果、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび/またはビス(アミノメチル)シクロヘキサンの変性物と特定の炭素数のアルキル基を有するアミン化合物からなるエポキシ樹脂硬化剤を使用することにより上記課題を解決できることを見いだし、本発明に到達した。
【0008】すなわち、本発明は、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物のうち少なくとも1種を含むポリアミン化合物(A)と、炭素数が16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)とからなるエポキシ樹脂硬化剤および、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物のうち少なくとも1種を含むポリアミン化合物(A)と、炭素数が16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)とからなるエポキシ樹脂硬化剤、およびエポキシ樹脂とから本質的になるエポキシ樹脂塗料に関する発明である。
【0009】本発明で使用されるエポキシ樹脂硬化剤はビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物のうち少なくとも1種を含むポリアミン化合物(A)と、炭素数が16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)とからなるエポキシ樹脂硬化剤である。
【0010】ポリアミン化合物(A)としては、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物の3種うち、いずれか1種、もしくは2種以上含まれていればよい。ポリアミン化合物を2種以上含む場合、その配合割合には特に規定はない。これらの組み合わせのうち、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン単独、あるいは、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物とビス(アミノメチル)シクロヘキサンの混合物を使用すると、望ましい結果が得られる。
【0011】本発明で使用するビス(アミノメチル)シクロヘキサンとして、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが代表的でなものとして挙げられる。
【0012】本発明で使用するビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物は1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと以下に挙げるエポキシ化合物との反応生成物が挙げられる。変性に用いられるエポキシ化合物として、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどのモノエポキシ化合物やビスフェノールAジグリシジルエーテル等のジエポキシ化合物が例示できる。これら変性に用いられるエポキシ化合物は、1種のエポキシ化合物でも複数のエポキシ化合物の混合でもよい。変性の際の配合比としては、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのアミノ基に対して、使用されるエポキシ化合物のエポキシ基の当量比は0.05〜0.5の範囲が望ましい。なお、エポキシ化合物中に2官能以上のエポキシ化合物を含む場合では、エポキシ基の当量比はアミノ基に対して0.05〜0.2の範囲が更に望ましい。
【0013】本発明で使用されるビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物は、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ニトリル基もしくはカルボニル基に隣接した炭素−炭素二重結合を有する化合物との反応生成物を挙げることができる。具体的に変性に用いられる化合物の例として、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル等が挙げられる。これらの化合物の中で、アクリロニトリルのようにニトリル基に隣接する炭素−炭素二重結合を有する化合物の方が望ましい。変性の際の配合比としては、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのアミノ基に対して、使用される化合物の二重結合の当量比は0.05〜0.5の範囲が望ましい。
【0014】また、本発明で使用されるポリアミン化合物(A)には、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物の3種以外のポリアミン化合物が含有されてもよい。これらのポリアミン化合物を具体的に挙げると、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのポリアミド変性物やマンニッヒ変性物のような他の変性物でもよいし、イソホロンジアミン、メタキシレンジアミンやそれらの化合物のエポキシ変性物、マイケル付加変性物などでもよい。これらの他のポリアミン化合物はビス(アミノメチル)シクロヘキサンの特徴や本発明の効果を損なわない程度の量であることが望ましく、ポリアミン化合物全体の50重量%以下であることが望ましい。
【0015】本発明で使用する炭素数16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)は、1官能のアミン化合物が望ましく、具体的に挙げるとヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等、1級アミンを有する化合物であることが望ましい。
【0016】本発明では炭素数16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)がエポキシ樹脂硬化剤に含有されていることが特徴であるが、炭素数が上記範囲未満の炭素数のアミン化合物では、本発明の課題である塗膜の粘着状態の解消や耐水性の向上を期待することができない。一方、上記範囲を越える炭素数のアミン化合物では、先に挙げたポリアミン化合物との相溶性が低下し、エポキシ樹脂硬化剤が均一または透明にならないという不都合が起きる。
【0017】本発明に使用するエポキシ樹脂の成分組成比、すなわち、ポリアミン化合物(A)と炭素数が16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)の配合割合は、ポリアミン化合物(A)100重量部に対し、アミン化合物(B)を2〜6重量部含むことが望ましい。アミン化合物(B)の配合割合が上記2重量部以上で、特に塗膜の粘着状態の解消や耐水性の向上をはかることができ、一方、上記6重量部以下で特にポリアミン化合物との相溶性を低下することなく、エポキシ樹脂硬化剤が常温で均一かつ透明性を維持できる。
【0018】また、エポキシ樹脂硬化剤の組成によっては常温でもエポキシ樹脂硬化剤が白濁を生ずる場合、ポリアミン化合物(A)とアミン化合物(B)以外に第三の成分を添加すると、常温で均一かつ透明なエポキシ樹脂硬化剤を得られることがある。この場合の第三の成分として、ベンジルアルコール、メタキシレンとホルムアルデヒドとの反応生成物(例えば、三菱ガス化学(株)製、商品名:ニカノールY)、オクチルアミン、ドデシルアミンなどが挙げられる。
【0019】本発明で使用されるエポキシ樹脂は常温、すなわち15℃〜30℃において液状のものが望ましく、代表的なものとして、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの重合生成物またはビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの重合生成物が挙げられる。また、これらにのエポキシ樹脂にブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどの反応性希釈剤やベンジルアルコール等の非反応性希釈剤が含まれていてもよい。また、本発明の塗料にエポキシ樹脂またはエポキシ樹脂硬化剤中に顔料が含まれていてもよい。次に、実施例により、この発明をより詳細に説明する。
【0020】
【実施例】
参考例1攪拌装置、温度計、窒素導入管、還流冷却管および滴下ろうとを備えた反応容器に1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン284g(2mol)を仕込み、80℃、窒素気流下でビスフェノールAジグリシジルエーテル(エポキシ当量190g/eq)76gを約1時間で滴下し、滴下終了後120℃に昇温し、その温度で2時間反応を行なった。得られた反応生成物は無色透明の液体であった。この反応生成物をポリアミンAとする。
【0021】参考例2参考例1と同様の方法で1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン284g(2mol)とアクリロニトリル106g(2mol)を反応させた。得られた反応生成物は淡黄色の透明な液体であった。この反応生成物をポリアミンBとする。
【0022】実施例1〜51,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンまたは参考例で示したポリアミン化合物、炭素数16〜18のアルキル基を有するアミン化合物および希釈剤を表1に示した割合で混合し、加熱等により均一な状態にして室温まで冷却し、エポキシ樹脂硬化剤を調整した。それぞれのエポキシ樹脂硬化剤に表1に示すような実施例番号1〜5を付した。続いて、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とを表3に示す割合で混合し、冷間圧延鋼板上に200μmの厚さに塗装し、23℃で1週間硬化して、塗膜を作製した。これら塗膜について外観の評価、耐水試験および重ね塗り試験を行なった。評価方法は以下に示した通りである。結果を表3および表5にまとめて示す。
【0023】評価方法■ 外観:塗膜の光沢、透明性および粘着状態の有無を調べた。
■ 耐水試験:冷間圧延鋼板上に塗装後、1日後に蒸留水を滴下し、水滴を拭き取った後塗膜表面の変化の有無を調べた。
■ 重ね塗り試験:冷間圧延鋼板上に塗装後、7日後にもう一度同じ塗料をその上に塗装し、さらに23℃で7日間硬化させた。続いて、2mm間隔の碁盤目を25個作製し、碁盤目テープ法(JIS K5400)による試験を行ない、塗膜間の密着性を調べた。
【0024】比較例1〜3表2の比較例1〜3に示したように、炭素数16〜18のアルキル基を有する化合物を添加しない配合組成のものをエポキシ樹脂硬化剤として使用し、実施例と同様の方法で評価を行なった。結果は表4に示す。
【0025】
表1 エポキシ樹脂硬化剤の組成実施例番号 1 2 3 4 5 組成(重量比) 1,3−BAC1) 95 98 − − 58 ポリアミンA − − 98 − − ポリアミンB − − − 98 − IPDA2) − − − − 38 ヘキサデシルアミン 5 − − − − オクタデシルアミン − 2 2 2 4 ニカノールY3) − − 18 20 − 外観(25℃) 透明 透明 透明 透明 透明 粘度(cps/25℃) 9 9 92 56 7 表中の略号
1)1,3−BAC3:1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン 2)IPDA :イソホロンジアミン 3)ニカノールY :メタキシレンとホルムアルデヒドの反応生成物
【0026】
表2 エポキシ樹脂硬化剤の組成比較例番号 1 2 3 組成(重量比)
1,3−BAC1) 100 − 60 ポリアミンA − 100 − IPDA2) − − 40 ニカノールY3) − 18 − 外観(25℃) 透明 透明 透明 粘度(cps/25℃) 9 90 7 表中の略号
1)1,3−BAC3:1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン 2)IPDA :イソホロンジアミン 3)ニカノールY :メタキシレンとホルムアルデヒドの反応生成物
【0027】
表3実施例番号 1 2 3 4 5 塗膜配合(重量比) BADGE3) 100 100 100 100 100 エポキシ樹脂硬化剤 19 19 30 42 20 可使時間(分) 70 65 155 180 85 塗膜の評価4) 外観 光沢 E E E E E 透明性 E E E E E 粘着状態 E E E E E 耐水性 E E E E E 表中の略号
3)ビスフェノ−ルAジグリシジルエーテルの略、エポキシ当量190g/eq4)塗膜の評価 光沢、透明性:E−優秀、G−良好、F−やや不良、P−不良 粘着状態 :E−無し、P−有り 耐水性 :E−変化無し、P−白化
【0028】
表4 塗膜の特性比較例番号 1 2 3 塗膜配合(重量比) BADGE5) 100 100 100 エポキシ樹脂硬化剤 19 30 21 可使時間(分) 65 150 80 塗膜の評価6) 外観 光沢 F F F 透明性 G F G 粘着状態 P P P 耐水性 P P P 5)ビスフェノ−ルAジグリシジルエーテルの略、エポキシ当量190g/eq6)塗膜の評価 光沢、透明性:E−優秀、G−良好、F−やや不良、P−不良 粘着状態 :E−無し、P−有り 耐水性 :E−変化無し、P−白化
【0029】
表5 重ね塗り試験の結果実施例番号 2 3 2塗膜間の残存碁盤目数 25/25 25/25
【0030】
【発明の効果】本発明で使用されるエポキシ樹脂硬化剤では炭素数16〜18のアルキル基を有する化合物を含有することを特徴とし、本発明の課題であるビス(アミノメチル)シクロヘキサンの欠点であった塗膜表面の粘着状態が解消され、更に、耐水性に優れたエポキシ樹脂硬化塗膜が得られる。しかも、その塗料は硬化までの可使時間が短縮されず、その塗膜は光沢、透明性に優れ、重ね塗りをした際の塗膜間の密着性を低下させることなく本発明の課題を解決することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物のうち少なくとも1種を含むポリアミン化合物(A)と、炭素数が16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)とからなるエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項2】 ポリアミン化合物(A)100重量部に対し、炭素数が16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)を2〜6重量部配合してなる請求項1記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項3】 ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物が、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、ニトリル基もしくはカルボニル基に隣接した炭素−炭素二重結合を有する化合物との反応生成物である請求項1記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項4】 炭素数が16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)が1官能のアミン化合物である請求項1記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項5】 ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのエポキシ変性物、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンのマイケル付加変性物のうち少なくとも1種を含むポリアミン化合物(A)と、炭素数が16〜18のアルキル基を有するアミン化合物(B)とからなるエポキシ樹脂硬化剤、およびエポキシ樹脂とから本質的になるエポキシ樹脂塗料。