説明

エポキシ樹脂硬化用微粒子及びエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法

【課題】エポキシ樹脂用硬化剤として用いられ、水系エポキシ樹脂に対する分散性に優れ、硬化物の信頼性を高めることのできるエポキシ樹脂硬化用微粒子及びエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】表面に活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を有するエポキシ樹脂硬化用微粒子であって、水系媒体中で、下記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを重合させることによって得られるエポキシ樹脂硬化用微粒子。
[化1]


一般式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を表し、Aは活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂用硬化剤として用いられ、水系エポキシ樹脂に対する分散性に優れ、硬化物の信頼性を高めることのできるエポキシ樹脂硬化用微粒子及びエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着剤、シール剤、コーティング剤等の様々な用途に用いられている。一般に、エポキシ樹脂には、硬化反応を進行させるための成分として硬化剤が、また、硬化性を向上させるための成分として硬化促進剤が添加される。特に、硬化剤又は硬化促進剤とエポキシ樹脂とを一液にするために、潜在性をもたせた硬化剤又は硬化促進剤が多用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の粉末状アミン化合物(A)をコアとし、上記アミン化合物(A)とエポキシ樹脂(B)の反応生成物をシェルとしてなる硬化剤(I)と、所定量のエポキシ樹脂(B)とからなる一液性エポキシ樹脂配合品用マスターバッチ型硬化剤が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の一液性エポキシ樹脂配合品用マスターバッチ型硬化剤は、低温での硬化性に劣ることが問題である。近年、特に電子機器分野においては、回路の高密度化に対応し、接続信頼性を向上させるために、硬化剤の貯蔵安定性を損なわずに低温での硬化性を一層向上させることが強く求められている。
【0004】
また、特許文献2には、アミンアダクト(A)と低分子アミン化合物(B)を主成分とする所定のエポキシ樹脂用硬化剤(C)からなるコアの表面を合成樹脂および/または無機酸化物からなるシェルによって被覆されている構造を持つマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤が記載されている。しかしながら、特許文献2に記載のマイクロカプセル型エポキシ樹脂用硬化剤では、特に電子機器分野において必要とされる、ばらつきの少ない小さい平均粒子径を実現することは困難である。
【0005】
更に、特許文献1及び2に記載のエポキシ樹脂用硬化剤は、アミン系硬化剤とエポキシ樹脂とを途中段階まで反応させて得られた粉体であり、アミン系硬化剤とエポキシ樹脂との接触界面が硬化しているにすぎない。そのため、このようなエポキシ樹脂用硬化剤は時間の経過とともに硬化反応が進行しやすく、充分な貯蔵安定性を得ることは困難である。
【0006】
貯蔵安定性を改善するためには、例えば、光照射によって塩基性化合物を発生し、エポキシ樹脂を硬化するための触媒活性を発現する、塩基発生剤の研究も行われている。
例えば、特許文献3には、所定のアミンイミド化合物に150〜750nmの光照射をし、塩基を発生させる塩基の発生方法が記載されている。特許文献3には、同文献に記載の方法によれば、エポキシ樹脂の低温硬化が可能であり、貯蔵安定性に優れる硬化性組成物を提供することができると記載されている。
【0007】
一方、近年、環境問題又は安全性に対する社会的要請の高まりから、環境負荷が少なく、作業上の安全性が高い水系エポキシ樹脂が注目されている。
しかしながら、従来の塩基発生剤は油溶性であり、水系エポキシ樹脂に対する溶解性が低く、また、分散性も悪いことから、このような塩基発生剤を用いて均一で信頼性の高い硬化物を形成することは困難である。また、塩基発生剤を溶解するために有機溶剤を用いれば、環境負荷の軽減又は安全性の確保といった水系エポキシ樹脂の使用目的を充分に達成することはできない。従って、貯蔵安定性、低温硬化性等のエポキシ樹脂用硬化剤に必要とされる性能を備え、かつ、水系エポキシ樹脂に対応することのできる新しいエポキシ樹脂用硬化剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−70523号公報
【特許文献2】特開2007−204670号公報
【特許文献3】特開2006−328427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、エポキシ樹脂用硬化剤として用いられ、水系エポキシ樹脂に対する分散性に優れ、硬化物の信頼性を高めることのできるエポキシ樹脂硬化用微粒子及びエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、表面に活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を有するエポキシ樹脂硬化用微粒子であって、水系媒体中で、下記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを重合させることによって得られるエポキシ樹脂硬化用微粒子である。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を表し、Aは活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を表す。
以下、本発明を詳述する。
【0013】
本発明者らは、表面に活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を有するエポキシ樹脂硬化用微粒子であって、水系媒体中で、所定の構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを重合させることによって得られるエポキシ樹脂硬化用微粒子は、エポキシ樹脂用硬化剤として好適に用いられることを見出した。本発明者らは、該エポキシ樹脂硬化用微粒子は、水系エポキシ樹脂に対し均一に分散することができ、硬化物の信頼性を高めることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、表面に活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を有する。
上記活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基は、活性エネルギー線を照射されるか又は加熱されると分解し、塩基が生成する。生成した塩基は硬化剤となってエポキシ樹脂と反応し、硬化物を形成することから、上記活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を有することで、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子はエポキシ樹脂用硬化剤として好適に用いられる。また、上記活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基は、活性エネルギー線を照射されるか又は加熱されてはじめて分解することから、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、エポキシ樹脂組成物に添加されてもエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性を低下させることはない。
【0015】
上記活性エネルギー線として、例えば、赤外線、可視光線又は紫外線等の光、X線又はγ線等の放射線、イオンビーム等が挙げられる。
また、上記活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基は、熱によって塩基が生成する場合、例えば、100℃等の温度に加熱された場合に分解し、塩基を生成することが好ましい。
【0016】
上記活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基は特に限定されないが、下記一般式(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)で表される活性エネルギー線によって塩基が生成する構造を有することが好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
一般式(2)中、pは0又は1であり、Rは二価の連結基を表し、R及びRは脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R及びRのうちのいずれか一方は芳香族炭化水素基を表す。
【0019】
【化3】

【0020】
一般式(3)中、R及びRは二価の連結基を表し、R及びRは脂肪族炭化水素基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
上記Arの置換基は特に限定されず、例えば、ニトロ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0021】
【化4】

【0022】
一般式(4)中、Rは二価の連結基を表し、Ar及びArは芳香族炭化水素基又は芳香族カルボニル基を表す。
【0023】
【化5】

【0024】
一般式(5)中、R及びRは二価の連結基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
上記Arの置換基は特に限定されず、例えば、ニトロ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0025】
【化6】

【0026】
一般式(6)中、Rは二価の連結基を表し、R及びRは水素原子又はメチル基を表し、Arはヒドロキシフェニル基を表す。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、水系媒体中で、下記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを重合させることによって得られる。
【0028】
【化7】

【0029】
一般式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を表し、Aは活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を表す。
【0030】
上記一般式(1)で表される構造を有するモノマーは特に限定されず、例えば、上記一般式(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)で表される活性エネルギー線によって塩基が生成する構造を有する塩基発生不飽和化合物等が挙げられる。
上記一般式(2)で表される活性エネルギー線によって塩基が生成する構造を有する塩基発生不飽和化合物として、具体的には、例えば、下記式(2−1)、(2−2)又は(2−3)で表される構造を有する塩基発生不飽和化合物等が挙げられる。
【0031】
【化8】

【0032】
上記一般式(3)で表される活性エネルギー線によって塩基が生成する構造を有する塩基発生不飽和化合物として、具体的には、例えば、下記式(3−1)で表される構造を有する塩基発生不飽和化合物等が挙げられる。
【0033】
【化9】

【0034】
上記一般式(4)で表される活性エネルギー線によって塩基が生成する構造を有する塩基発生不飽和化合物として、具体的には、例えば、下記式(4−1)、(4−2)、(4−3)又は(4−4)で表される構造を有する塩基発生不飽和化合物等が挙げられる。
【0035】
【化10】

【0036】
上記一般式(5)で表される活性エネルギー線によって塩基が生成する構造を有する塩基発生不飽和化合物として、具体的には、例えば、下記式(5−1)又は(5−2)で表される構造を有する塩基発生不飽和化合物等が挙げられる。また、上記一般式(6)で表される活性エネルギー線によって塩基が生成する構造を有する塩基発生不飽和化合物として、具体的には、例えば、下記式(6−1)で表される構造を有する塩基発生不飽和化合物等が挙げられる。
【0037】
【化11】

【0038】
上記一般式(1)で表される構造を有するモノマーとしては、更に、例えば、下記式(a)〜(w)で表される構造を有する塩基発生不飽和化合物等を用いることもできる。
【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
上記ラジカル重合性モノマーは、上記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分としていれば特に限定されず、必要に応じて、他のラジカル重合性モノマーを含有してもよい。
上記他のラジカル重合性モノマーは特に限定されず、例えば、カルボキシル基含有モノマー、ニトリル系モノマー、アクリル酸エステルモノマー、メタクリル酸エステルモノマー、ビニルモノマー等が挙げられる。これらの他のラジカル重合性モノマーのなかでも、カルボキシル基含有モノマー等の親水性モノマーが好ましい。
【0042】
上記カルボキシル基含有モノマーは特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。
上記ニトリル系モノマーは特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0043】
上記アクリル酸エステルモノマーは特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等が挙げられる。
上記メタクリル酸エステルモノマーは特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等が挙げられる。
上記ビニルモノマーは特に限定されず、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0044】
上記ラジカル重合性モノマーが上記他のラジカル重合性モノマーを含有する場合、上記他のラジカル重合性モノマーの配合量は特に限定されないが、主成分である上記一般式(1)で表される構造を有するモノマー100重量部に対する好ましい上限が50重量部である。上記他のラジカル重合性モノマーの配合量が50重量部を超えると、得られるエポキシ樹脂硬化用微粒子は、表面の上記活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基が少なくなり、硬化剤としての機能を発揮できないことがある。
【0045】
更に、上記ラジカル重合性モノマーを重合させる際には、水溶性高分子、乳化剤、分散剤等を用いてもよい。
上記水溶性高分子は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキシド、アラビアガム、ゼラチン、グリセリン、アルキルセルロース、ヒドロキシ−アルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、ボリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等が挙げられる。
【0046】
上記水溶性高分子の配合量は特に限定されないが、上記ラジカル重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限が0.001重量部、好ましい上限が5重量部である。上記水溶性高分子の配合量が0.001重量部未満であると、上記水溶性高分子を用いることによる分散安定効果が充分に得られないことがある。上記水溶性高分子の配合量が5重量部を超えると、得られるエポキシ樹脂硬化用微粒子の表面に吸着した上記水溶性高分子又は未吸着の上記水溶性高分子が、橋かけ凝集を引き起こすことがある。
【0047】
上記乳化剤は特に限定されず、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0048】
上記乳化剤の配合量は特に限定されないが、上記ラジカル重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が10重量部である。上記乳化剤の配合量が0.01重量部未満であると、得られるエポキシ樹脂硬化用微粒子の粒子径を充分に小さくすることができないことがあり、また、形成したエポキシ樹脂硬化用微粒子が凝集してしまうことがある。上記乳化剤の配合量が10重量部を超えると、得られるエポキシ樹脂硬化用微粒子の粒子純度が低下することがある。
【0049】
上記分散剤として、例えば、無機粉体等が挙げられる。
上記分散剤の配合量は特に限定されないが、上記ラジカル重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限が0.001重量部、好ましい上限が5重量部である。
【0050】
上記水系媒体は特に限定されず、ラジカル重合性モノマーを重合させる際に通常用いられる水系媒体であればよく、例えば、水、アルコール、水とアルコールとの混合物等が挙げられる。
上記アルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール等が挙げられる。
【0051】
上記重合させる方法は特に限定されず、例えば、乳化重合、懸濁重合、分散重合、ソープフリー重合等により重合させる方法が挙げられる。
【0052】
上記乳化重合又は上記懸濁重合を用いる場合、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、例えば、以下のようにして得られる。
上記水系媒体に、上記ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、及び、上記乳化剤又は上記水溶性高分子を添加し、上記ラジカル重合性モノマーを含有する油滴を上記水系媒体中に分散させた後、上記ラジカル重合性モノマーを重合させて、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子を得る。なお、上記油滴を上記水系媒体中に分散させるために、一般的に、乳化重合においては乳化剤が、懸濁重合においては水溶性高分子及び/又は分散剤が用いられる。
上記乳化重合及び上記懸濁重合において、重合開始剤は、上記ラジカル重合性モノマー等と一緒に上記水系媒体に添加されてもよく、予め上記ラジカル重合性モノマー等が上記水系媒体に添加された後、上記ラジカル重合性モノマーを重合させる際に上記水系媒体に添加されてもよい。また、上記乳化重合において、重合開始剤は親水性であり、上記懸濁重合において、重合開始剤は、親油性である。
【0053】
上記分散重合を用いる場合、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、例えば、以下のようにして得られる。
上記水系媒体に、上記ラジカル重合性モノマー、親水性又は親油性の重合開始剤、並びに、上記水溶性高分子及び/又は上記乳化剤を溶解した後、上記ラジカル重合性モノマーを重合させて、ポリマーを析出させる。このポリマーが上記水系媒体中で凝集し、粒子状となることにより、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子が得られる。
【0054】
上記ソープフリー重合を用いる場合、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、例えば、以下のようにして得られる。
上記水系媒体に、上記ラジカル重合性モノマー及び親水性の重合開始剤を添加し、上記ラジカル重合性モノマーを含有する油滴を上記水系媒体中に分散させた後、上記水系媒体中に溶解している上記ラジカル重合性モノマーを順次重合させて、ポリマーを析出させる。このポリマーが上記水系媒体中で凝集し、粒子状となることにより、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子が得られる。
【0055】
上記親油性の重合開始剤は特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、ラウロイルパーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサイド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ化合物等が挙げられる。これらの重合開始剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0056】
上記親水性の重合開始剤として、例えば、過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
上記過酸化物は特に限定されず、例えば、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化t−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸t−ブチルヒドロペルオキシド、過蟻酸t−ブチル、過酢酸t−ブチル、過安息香酸t−ブチル、過フェニル酢酸t−ブチル、過メトキシ酢酸t−ブチル、過N−(3−トルイル)カルバミン酸t−ブチル、重硫酸アンモニウム、重硫酸ナトリウム等が挙げられる。
上記アゾ化合物は特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、1,1’−アゾビス(1−アミジノ−1−シクロプロピルエタン)、2,2’−アゾビス(2−アミジノ−4−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−N−フェニルアミノアミジノプロパン)、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−エチルアミノ−2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(1−アリルアミノ−1−イミノ−2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−N−シクロへキシルアミジノプロパン)、2,2’−アゾビス(2−N−ベンジルアミジノプロパン)及びその塩酸、硫酸、酢酸塩等、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)エチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−1,1’−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド]等が挙げられる。
これらの重合開始剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、上記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを上述のように水系媒体中で重合させて得られることから、水系エポキシ樹脂に対して均一に分散することができる程度に表面の親水性が高く、水系エポキシ樹脂に対し均一に分散することができ、均一な硬化物を形成して、硬化物の信頼性を高めることができる。
このようにエポキシ樹脂硬化用微粒子の表面の親水性が高まる理由として、例えば、上記乳化剤、上記水溶性高分子又は上記分散剤がエポキシ樹脂硬化用微粒子の表面に吸着していること、また、上記分散重合又は上記ソープフリー重合を用い、かつ、上記ラジカル重合性モノマーが上記親水性モノマーを含有する場合には、析出したポリマーが親水性基を外側に向けて凝集すること等が挙げられる。
【0058】
本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、上記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを重合させて得られることで、表面に上記活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を有することができ、エポキシ樹脂用硬化剤として好適に用いられる。
本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、上記一般式(1)で表される構造を有するモノマーに由来するセグメントを有することが好ましい。更に、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子は、上記一般式(1)で表される構造を有するモノマーに由来するセグメントと、上記親水性モノマーに由来するセグメントとを有することがより好ましい。これにより、表面の親水性が増し、水系エポキシ樹脂に対する分散性が更に向上する。
【0059】
本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子の数平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限は0.03μm、好ましい上限は0.5μmである。本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子の数平均粒子径が0.03μm未満であると、得られるエポキシ樹脂硬化用微粒子は、凝集しやすくなることがある。本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子の数平均粒子径が0.5μmを超えると、得られるエポキシ樹脂硬化用微粒子に活性エネルギー線を照射しても、エポキシ樹脂硬化用微粒子が活性エネルギー線を遮ることで、充分な硬化を行うことができないことがある。本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子の数平均粒子径のより好ましい下限は0.05μm、より好ましい上限は0.3μmである。
【0060】
なお、本明細書中、エポキシ樹脂硬化用微粒子の数平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布計(Particle Sizing Systems社製、「NICOMP model 380 ZLS−S」)により測定した値を意味する。
【0061】
本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子の用途は特に限定されないが、上述したように、エポキシ樹脂用硬化剤としての用途が好ましく、水系エポキシ樹脂に対する分散性の高さから、水系エポキシ樹脂の硬化反応を進行させるためのエポキシ樹脂用硬化剤としての用途がより好ましい。
なお、上述したように、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子が水系エポキシ樹脂に対する分散性に優れるのは、本発明のエポキシ樹脂硬化用微粒子が、上記水系媒体中で、上記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを重合させることによって得られるためである。
表面に活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を有するエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法であって、上記水系媒体中で、上記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを重合させるエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、エポキシ樹脂用硬化剤として用いられ、水系エポキシ樹脂に対する分散性に優れ、硬化物の信頼性を高めることのできるエポキシ樹脂硬化用微粒子及びエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0064】
(実施例1)
500mL容積の丸底セパラブルフラスコに、ポリビニルピロリドン1.5gと、メタノール150gと、一般式(1)で表される構造を有するモノマーとして(9H−フルオレン−9−イル)メチル 2−(メタクリロイルオキシ)エチルカルバメート(塩基の作用で自己触媒的に分解して塩基が生成する構造を有する塩基発生不飽和化合物)4.0gとを添加して、攪拌しながらフラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、親油性の重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.74gをメタノール10g中に溶解して得られた重合開始剤溶液を添加し、50℃で重合を行うことにより微粒子を得た。得られた微粒子をメタノールで洗浄後、減圧乾燥して、エポキシ樹脂硬化用微粒子(数平均粒子径1.17μm)を得た。
【0065】
(実施例2)
500mL容積の丸底セパラブルフラスコに、ポリビニルピロリドン1.5gと、メタノール150gと、一般式(1)で表される構造を有するモノマーとして4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル 2−(メタクリロイルオキシ)エチルカルバメート(光によって塩基が生成する構造を有する塩基発生不飽和化合物)4.0gとを添加して、攪拌しながらフラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、親油性の重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.74gをメタノール10g中に溶解して得られた重合開始剤溶液を添加し、50℃で重合を行うことにより微粒子を得た。得られた微粒子をメタノールで洗浄後、減圧乾燥して、エポキシ樹脂硬化用微粒子(数平均粒子径1.17μm)を得た。
【0066】
(実施例3)
500mL容積の丸底セパラブルフラスコに、ポリビニルピロリドン1.5gと、メタノール150gと、一般式(1)で表される構造を有するモノマーとして(9H−フルオレン−9−イル)メチル 2−(メタクリロイルオキシ)エチルカルバメート(塩基の作用で自己触媒的に分解して塩基が生成する構造を有するモノマー)2.0g及び4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル 2−(メタクリロイルオキシ)エチルカルバメート(光によって塩基が生成する構造を有するモノマー)2.0gとを添加して、攪拌しながらフラスコ内を窒素雰囲気下にした。その後、親油性の重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.74gをメタノール10g中に溶解して得られた重合開始剤溶液を添加し、50℃で重合を行うことにより微粒子を得た。得られた微粒子をメタノールで洗浄後、減圧乾燥して、エポキシ樹脂硬化用微粒子(数平均粒子径1.17μm)を得た。
【0067】
(比較例1)
粒子化していない(9H−フルオレン−9−イル)メチル 2−(メタクリロイルオキシ)エチルカルバメート(塩基の作用で自己触媒的に分解して塩基が生成する構造を有するモノマー)のホモポリマーをそのまま用いた。
【0068】
(評価)
実施例で得られたエポキシ樹脂硬化用微粒子、及び、比較例で得られたホモポリマーについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(1)水系エポキシ樹脂に対する分散性
得られたエポキシ樹脂硬化用微粒子又はホモポリマー10重量部、水系エポキシ樹脂(EX−512、ナガセケムテックス社製)15重量部を、ホモディスパーを用いて攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
得られたエポキシ樹脂組成物を厚さ500μmに塗布し、100℃120分加熱した。エチルメチルケトンにより加熱後のエポキシ樹脂組成物の未硬化部分を取除いた後、エポキシ樹脂組成物を真空乾燥した。乾燥後のエポキシ樹脂組成物の断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより、水系エポキシ樹脂に対するエポキシ樹脂硬化用微粒子又はホモポリマーの分散性を評価した。
未硬化部分の空洞がみられなかった場合を○、未硬化部分の空洞を確認した場合を×とした。なお、エポキシ樹脂硬化用微粒子又はホモポリマーが均一に分散されていないと未硬化部分が残り、この未硬化部分がエチルメチルケトンで溶出されて、未硬化部分の空洞が生じる。
【0070】
(2)硬化物の信頼性
各エポキシ樹脂硬化用微粒子又はホモポリマーについて、塩基発生量を合わせるため、以下のようにしてそれぞれのエポキシ樹脂組成物を調製した。
実施例1で得られたエポキシ樹脂硬化用微粒子の40重量%分散液0.6gと、水溶性エポキシ樹脂(EX−512、ナガセケムテックス社製)0.1gとを攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。また、実施例2で得られたエポキシ樹脂硬化用微粒子の30重量%分散液0.1gと、水溶性エポキシ樹脂(EX−512、ナガセケムテックス社製)0.1gとを攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。また、実施例3で得られたエポキシ樹脂硬化用微粒子の40重量%分散液0.3gと、水溶性エポキシ樹脂(EX−512、ナガセケムテックス社製)0.05gとを攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。更に、比較例1で得られたホモポリマー0.01gと、水溶性エポキシ樹脂(EX−512、ナガセケムテックス社製)0.2gと、PVA0.5gと、メタノール0.2gとを攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0071】
得られたエポキシ樹脂組成物をガラス基板上にバーコーティングして塗膜を作製し、この塗膜に対して、波長365nmの光を1000mJ/cm照射した後、120℃で30分間加熱を行った。得られた硬化膜の硬度を、鉛筆硬度試験により評価した。鉛筆硬度試験では、硬化膜を鉛筆で引っかいて3mm以上のキズが入った状態を不具合とし、キズが生じなかった最も硬い鉛筆硬度を評価した。鉛筆硬度が硬いほど、硬化物の信頼性が高いことを意味する。なお、比較例1のエポキシ樹脂組成物については不均一硬化が起こり、評価する膜に至らなかった。
【0072】
(3)貯蔵安定性
得られたエポキシ樹脂硬化用微粒子又はホモポリマーとビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828、ジャパンエポキシレジン社製)とを5:10の重量比で混合し、エポキシ樹脂組成物を300g調製した後、得られたエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度(Pa・s)をB型粘度計により測定した。その後、エポキシ樹脂組成物を遮光された恒温室にて25℃で30日間放置した後の粘度(Pa・s)を測定した。
得られた貯蔵前後(25℃、30日間の放置前後)の粘度の差を算出することにより、貯蔵安定性を評価した。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、エポキシ樹脂用硬化剤として用いられ、水系エポキシ樹脂に対する分散性に優れ、硬化物の信頼性を高めることのできるエポキシ樹脂硬化用微粒子及びエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を有するエポキシ樹脂硬化用微粒子であって、
水系媒体中で、下記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを重合させることによって得られる
ことを特徴とするエポキシ樹脂硬化用微粒子。
【化1】

一般式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を表し、Aは活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を表す。
【請求項2】
活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基は、下記一般式(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)で表される活性エネルギー線によって塩基が生成する構造を有することを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂硬化用微粒子。
【化2】

一般式(2)中、pは0又は1であり、Rは二価の連結基を表し、R及びRは脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表し、R及びRのうちのいずれか一方は芳香族炭化水素基を表す。
【化3】

一般式(3)中、R及びRは二価の連結基を表し、R及びRは脂肪族炭化水素基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【化4】

一般式(4)中、Rは二価の連結基を表し、Ar及びArは芳香族炭化水素基又は芳香族カルボニル基を表す。
【化5】

一般式(5)中、R及びRは二価の連結基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
【化6】

一般式(6)中、Rは二価の連結基を表し、R及びRは水素原子又はメチル基を表し、Arはヒドロキシフェニル基を表す。
【請求項3】
乳化剤、水溶性高分子又は分散剤が表面に吸着していることを特徴とする請求項1又は2記載のエポキシ樹脂硬化用微粒子。
【請求項4】
表面に活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を有するエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法であって、
水系媒体中で、下記一般式(1)で表される構造を有するモノマーを主成分とするラジカル重合性モノマーを重合させる
ことを特徴とするエポキシ樹脂硬化用微粒子の製造方法。
【化7】

一般式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を表し、Aは活性エネルギー線又は熱によって塩基が生成する基を表す。

【公開番号】特開2011−225645(P2011−225645A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94315(P2010−94315)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】