説明

エポキシ樹脂粉体塗料組成物

【課題】高度な密着性、防食性、可撓性、耐衝撃性が再現よく発現できるエポキシ樹脂粉体塗料組成物の提供
【構成】ビスフェノールFとエピクロルヒドリンより合成され、エポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有する固形のエポキシ樹脂であって、そのエポキシ当量が800乃至3000g/eq、フェノール性水酸基当量が1000乃至4000g/eqの範囲であるビスフェノールF型固形エポキシ樹脂と硬化剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂粉体塗料組成物よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料組成物に関するものである。詳しくは、分子内にエポキシ基とフェノール性水酸基の両方を併せ持ち、熱硬化性を示すビスフェノールF型固形エポキシ樹脂と、硬化剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂粉体塗料組成物であって、従来のエポキシ樹脂硬化物が持つ化学的、物理的特性が更に向上できるエポキシ樹脂粉体塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂粉体塗料は、その優れた化学的、物理的特性により塗料、電気、土木、接着剤等の広範な用途に使用されている。しかし近年各用途に応じて要求される性能はますます高度化してきている。粉体塗料分野では被塗物とのより強度な密着性、防食性、可撓性、耐衝撃性、長期信頼性が求められている。しかし、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする従来公知のエポキシ樹脂粉体塗料では、苛酷な環境下や長期信頼性が必要とされる分野への応用は、必ずしもその要求特性を満たすものではなかった。例えば寒冷地で使用される気体や液体の輸送埋設管、或いは被覆後折り曲げ等の加工を必要とされる鉄筋や鋼線、或いは耐チッピング性が要求される自動車下回り、高度な耐衝撃性が要求される鋳鉄管、さらには陰極剥離性等の長期防食性が要求される海洋での鉄鋼製構造材料への応用には限界があった。かかる要求に応える粉体塗料組成物として、例えば特許文献1にはビスフェノールA型エポキシ樹脂等に、フェノール性水酸基を分子末端に有するビスフェノールA型フェノール系硬化剤を配合した組成物が開示され、耐衝撃性、可撓性などの物理性能に優れ、なおかつ好ましい低温特性を有することができることを特徴としている。このようなフェノール系硬化剤としては、比較的低分子量のエポキシ樹脂に、化学量論的に過剰のビスフェノール類を反応させた物質であり、例えば東都化成社製の「エポトートZX−767」、「エポトートZX−798P」やジャパンエポキシレジン社製の「エピキュアー171」、「エピキュアー172」、ダウケミカル社製の「DEH−81」等が市販されている。このように工業的に有効なフェノール系硬化剤ではあるが、当然ながらエポキシ樹脂とフェノール系硬化剤をそれぞれ別々に製造し、品質を管理することが必要であった。それ故、両者を用いた粉体塗料組成物を製造する場合、混合方法によっては均一な組成物になり得ず、期待した硬化物物性が発現できないことがあった。またビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールA型のフェノール硬化剤による組み合わせでは、可撓性は向上するものの、密着性や陰極剥離性等の防食性は必ずしも満足できるものではなかった。
エポキシ樹脂粉体塗料の防食性を改良する方法として、例えば特許文献2には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の代わりに、市販のビスフェノールF型固形エポキシ樹脂を主成分とする粉体塗料組成物の提案がなされている。しかし、市販のビスフェノールF型固形エポキシ樹脂では防食性が改良できるものの、耐衝撃性や耐屈曲性等の機械特性が充分に満足されるものではなかった。
一方、エポキシ基とフェノール性水酸基を分子レベルで均一に含んだ樹脂としては、例えば特許文献3には、低分子量のエポキシ樹脂とビスフェノールとをアルカリ金属等の触媒の存在下、重付加反応し、途中で反応を終了して得ることが提案されている。しかしながらこの方法ではアルカリ金属等の触媒が除去できておらず、樹脂の貯蔵安定性に問題があった。また反応の終点を制御することが困難なため、安定して同一品質の樹脂を得ることも困難であった。さらにはこの方法は低分子量のエポキシ樹脂を一旦製造してから、ビスフェノールと反応させるものであり、工程が煩雑で工業的には不利である。
【特許文献1】特公平6−57814号公報
【特許文献2】特許第2813986号公報
【特許文献3】特許第2654796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記のような従来の問題点を解決するものであり、より高度な密着性、防食性、可撓性、耐衝撃性が再現よく発現できるエポキシ樹脂粉体塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の要旨は、ビスフェノールFとエピクロルヒドリンより合成され、エポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有する固形のエポキシ樹脂であって、そのエポキシ当量が800乃至3000g/eq、フェノール性水酸基当量が1000乃至4000g/eqの範囲であるビスフェノールF型固形エポキシ樹脂と硬化剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂粉体塗料組成物である。
【発明の効果】
【0005】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物は、硬化反応の際に有効なフェノール性水酸基を分子中に含有したビスフェノールF型固形エポキシ樹脂と、硬化剤を必須成分として成る。それ故、高度な密着性、防食性、可撓性、耐衝撃性が再現良く発現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
ビスフェノールFは、フェノールとホルムアルデヒドとを酸性触媒下で縮重合反応で得られるもので、通常は3核体以上の成分を約10%以上含有し、さらにはパラ−パラ体、オルソ−パラ体、オルソ−オルソ体の各異性体を含有する。本発明で用いるエポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有するビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の製造で用いられるビスフェノールFは、2核体含有率が90重量%以上が好ましく、より好ましい2核体含有率は93%以上であり、更には98%以上が望ましい。2核体含有率が90重量%未満では3核体以上の多核体成分が多くなり、エポキシ化の反応制御が困難となったり、塗膜の可撓性や耐衝撃性が低下するためである。このようなものとして商品名;BPF(2核体純度約90%)、BPF−D(2核体純度98%以上)(いずれも本州化学社製)、パラ−パラ結合部位数を増大させて2核体含有率を高めパラ位/オルソ位=1.5以上としたビスフェノールF、パラ位の比率がほぼ100%であるテトラメチルビスフェノールFが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0007】
本発明で用いられるエポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有するビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の製造方法としては、ビスフェノールF1モルに対し、エピクロルヒドリン1.0モル乃至1.2モル、好ましくは1.0モル乃至1.1モルをアルカリ金属水酸化物の存在下で反応させて得ることができる。エピクロルヒドリンが1.0モル未満では、得られるエポキシ樹脂中のフェノール性水酸基が必要以上に多くなり、硬化性が極端に低下し好ましくない。また、エピクロルヒドリンが1.2モル以上では、得られるエポキシ樹脂中のフェノール性水酸基が極わずかとなり、塗膜の可撓性が極端に低下し好ましくない。
【0008】
ビスフェノールFとエピクロルヒドリンとの反応の際に存在させるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムまたはこれらの混合物等が挙げられ、水溶液の形で用いるのが好ましく、通常市販されている水酸化ナトリウム水溶液がより好ましい。
【0009】
反応及び精製に使用するアルカリ金属水酸化物の総量は、エピクロルヒドリン1モルに対して0.98モル〜1.05モルが好ましい。より好ましくは0.99モル〜1.03モルである。0.98モル以下では、2官能フェノール類とエピクロルヒドリンとの反応が進みにくく、加水分解性塩素が多量残存しやすいためであり、1.05モル以上では高分子量体が生成したり、フェノール性水酸基が極わずかとなり好ましくない。
【0010】
ビスフェノールFとエピクロルヒドリンとの反応は、エポキシ基とは反応しない溶媒中で行う事ができ、具体的にはトルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン等のケトン類、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジエチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル等のグリコールエーテル類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル等の脂肪族エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の脂環式エーテル類が挙げられ、それら2種以上混合して使用することもできる。これらの溶媒はビスフェノールF100重量部に対して反応中は10〜200重量部、より好ましくは50〜100重量部の範囲である。
【0011】
反応形態は、ビスフェノールF、エピクロルヒドリン及び溶媒を反応容器に仕込み、溶解した後、アルカリ金属水酸化物の水溶液を滴下しながら、常圧で70〜100℃、30分〜4時間で行うことができる。その際、アルカリ金属水酸化物の水溶液は連続的に滴下しても良く、又分割して滴下しても良い。またビスフェノールFをアルカリ金属水酸化物の水溶液及び溶媒に溶解した後、エピクロルヒドリンを滴下する方法でも良く、同様に常圧で70〜100℃、30分〜4時間で行うことができる。反応温度が70℃未満では反応が進みにくくなり、100℃以上ではエピクロルヒドリンが反応系外に留出する危険があり好ましくない。このようにして反応を終了するが、加水分解性塩素量が0.05重量%を超える場合は、アルカリ金属水酸化物を前記全量範囲内で残りの量を加えて、60〜90℃の温度で10分〜2時間再閉環反応を行なった後、中和、水洗等の方法で過剰のアルカリ金属水酸化物や副生塩を除去し、さらに溶媒を減圧留去すると、精製された本発明で使用できるビスフェノールF型固形エポキシ樹脂が得られる。
【0012】
このようにして得られたエポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有するビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の性状は、エポキシ当量が800g/eq乃至3000g/eq、且つフェノール性水酸基当量が1000g/eq乃至4000g/eqの範囲であることが好ましい。より好ましくはエポキシ当量が1000g/eq乃至2000g/eq、且つフェノール性水酸基当量が1200g/eq乃至3000g/eqの範囲である。エポキシ当量が3000g/eq以上やフェノール性水酸基当量が4000g/eq以上では、分子量が高くなり製造困難となるか、またはエポキシ基及びフェノール性水酸基の密度が小さくなり過ぎ、塗膜物性が低下して好ましくない。またエポキシ当量が800g/eq以下やフェノール性水酸基当量が1000g/eq以下では、分子量が小さいため軟化点が低く、得られる粉体塗料がブロッキングしやすくなり好ましくない。また下式(1)で示されるようにエポキシ当量とフェノール性水酸基当量の比(X/Y)は0.4以上、1.0以下が好ましい。より好ましくは0.5以上、0.9以下である。X/Yが0.4未満では、エポキシ基に対してフェノール性水酸基が極わずかであり、塗膜の可撓性が充分に発現できず好ましくない。1.0を超える場合は、エポキシ基に比してフェノール性水酸基が過剰であり、硬化性が低下して好ましくない。また軟化点は70℃乃至120℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは80℃乃至110℃の範囲である。軟化点が70℃未満では得られる粉体塗料がブロッキングしやすくなり、120℃以上では粘度が高く粉体塗料の製造が困難であったり、塗膜外観が悪くなり好ましくない。また加水分解性塩素含有量は0.03重量%以下であることが好ましい。加水分解性塩素含有量が0.03重量%以上では、塩基性の硬化剤を用いた場合、硬化反応が阻害され、その結果、塗膜物性が低下して好ましくない。
【0013】
【数1】

ただし、X:エポキシ当量(g/eq)
Y:フェノール性水酸基当量(g/eq)
【0014】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物に用いられる硬化剤は、一般的にエポキシ樹脂粉体塗料組成物に使用されているもので良く、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の有機酸ジヒドラジド類、無水フタル酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等の酸無水物、酸官能基末端のポリエステル樹脂、ジアミノジフェニルメタン等のアミン類、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類、2−メチルイミダゾリン、2−エチル−4−メチルイミダゾリン等のイミダゾリン類、イミダゾール化合物のトリアジン塩、シアノエチル塩、シアノエチルトリメリット酸塩などの各種塩類、酢酸亜鉛、酢酸ナトリウムなどの金属系化合物類、テトラエチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウム塩類、アミド化合物類、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物類、ジシアンジアミドなどを挙げることができる。またこれらは単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物には、必要に応じて従来のエポキシ樹脂を配合することができる。例えばビスフェノールAおよびビスフェノールF等のビスフェノール類ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等のノボラック型ポリグリシジルエーテル、脂環式エポキシ樹脂等の1種または数種類を混合して用いる事ができる。
【0016】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物には更に充填剤、顔料、硬化促進剤、流動調整剤、その他改質剤等を添加することができる。本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物の製造方法として、一般的な粉体塗料の方法で製造することができる。例えば、エポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有するビスフェノールF型固形エポキシ樹脂と、硬化剤、及び他の材料を予備混合した後、押出機等で溶融混練して冷却後粉砕機で微粉砕する。さらに分級機で粒度分布を調整して粉体塗料を得ることができる。本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物を被塗装素材に塗膜を形成させる方法としては、流動浸漬法、静電塗装法、予熱静電塗装法等によって塗装し、予熱温度を利用した放冷硬化や、熱風乾燥炉等で後硬化させることが可能である。
【実施例】
【0017】
以下、参考例、及び実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は実施例のみに制限されるものではない。尚、実施例及び比較例における各成分の配合部数は、特に断らない限り重量部を示すものである。
【0018】
なお分析方法として、エポキシ当量はJIS K−7236、軟化点はJIS K−7234により測定した。
フェノール性水酸基当量は、テトラヒドロフラン96重量%とメタノール4重量%の混合溶液中でフェノール性水酸基にテトラメチルアンモニウムヒドロキサイドを作用させて発色させ、分光光度計を用いて、305nmにおける吸光度を測定し、予め原料に用いた2官能フェノール類を標準として同様の操作により作成した検量線により換算して求めた。
加水分解性塩素量の測定方法は、サンプル約2gを三角フラスコに秤取り、ジオキサンで溶解後、0.1N−KOHメタノール溶液25mlを加え、70℃の温水中で30分反応させた。次いで200mlビーカーに移し取り、アセトン、イオン交換水、及び酢酸3mlを加えて後、0.01N−AgNO3水溶液による電位差滴定で求めた。
【0019】
参考例1 エポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有するビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の製造例1
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、及び冷却管を備えた反応装置に、ビスフェノールF(商品名;BPF、本州化学社製)を200部(1.0モル)、エピクロロヒドリンを101部(1.09モル)、メチルイソブチルケトンを200部加え、40℃で溶解させた後、30%NaOH水溶液147部(1.10モル)を1時間で滴下した。その後90℃で2時間反応を行った。次にメチルイソブチルケトンを350部、水を200部仕込み、溶解後静置して水層を除去した。次に燐酸で中和、水洗して水層を除去した。さらに水洗を行いろ過した後、メチルイソブチルケトンを留去してエポキシ樹脂(A)を得た。この樹脂を分析したところ、エポキシ当量が1250g/eq、フェノール性水酸基当量が2100g/eq、加水分解性塩素量が0.01%であった。性状は表1に示した。
【0020】
参考例2 エポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有するビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の製造例2
参考例1と同じ装置にビスフェノールF(商品名;BPF、本州化学社製)を200部(1.0モル)、エピクロロヒドリンを97部(1.05モル)、メチルイソブチルケトンを200部加え、40℃で溶解させた後、48.5%NaOH水溶液25部(0.30モル)を30分で滴下した。次いで70℃で1時間予備的反応を行った。次に48.5%NaOH水溶液62部(0.75モル)を1時間で滴下した。その後90℃で3時間反応を行った。次にメチルイソブチルケトンを350部、水を250部仕込み、溶解後静置して水層を除去した。さらに48.5%NaOH水溶液1.6部(0.02モル)を滴下して、80℃で0.5時間反応を行った。次に燐酸で中和、水洗して水層を除去した。さらに水洗を行いろ過した後、メチルイソブチルケトンを留去してエポキシ樹脂(B)を得た。性状は表1に示した。
【0021】
参考例3 エポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有するビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の製造例3
BPFに代えてBPF−D(本州化学社製)を用いた。参考例1と同じ装置にBPF−Dを200部(1.0モル)、エピクロロヒドリンを95部(1.03モル)、メチルイソブチルケトンを200部加え、40℃で溶解させた後、48.5%NaOH水溶液25部(0.30モル)を30分で滴下した。次いで70℃で1時間予備的反応を行った。次に48.5%NaOH水溶液60部(0.73モル)を1時間で滴下した。その後90℃で3時間反応を行った。次にメチルイソブチルケトンを350部、水を250部仕込み、溶解後静置して水層を除去した。さらに48.5%NaOH水溶液1.6部(0.02モル)を滴下して、80℃で0.5時間反応を行った。次に燐酸で中和、水洗して水層を除去した。さらに水洗を行いろ過した後、メチルイソブチルケトンを留去してエポキシ樹脂(C)を得た。性状は表1に示した。
【0022】
参考例4 エポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有するビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の製造例4
参考例1と同じ装置に、BPF−Dを200部(1.0モル)、エピクロロヒドリンを97部(1.05モル)、メチルイソブチルケトンを200部加え、40℃で溶解させた後、48.5%NaOH水溶液25部(0.30モル)を30分で滴下した。次いで70℃で1時間予備的反応を行った。次に48.5%NaOH水溶液62部(0.75モル)を1時間で滴下した。その後90℃で3時間反応を行った。次にメチルイソブチルケトンを350部、水を250部仕込み、溶解後静置して水層を除去した。さらに48.5%NaOH水溶液1.6部(0.02モル)を滴下して、80℃で0.5時間反応を行った。次に燐酸で中和、水洗して水層を除去した。さらに水洗を行いろ過した後、メチルイソブチルケトンを留去してエポキシ樹脂(D)を得た。性状は表1に示した。
【0023】
参考例5 エポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有するビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の製造例5
参考例1と同じ装置に、ビスフェノールF(商品名;BPF、本州化学社製)を200部(1.0モル)を200部(1.0モル)、エピクロロヒドリンを102部(1.1モル)、メチルイソブチルケトンを200部加え、40℃で溶解させた後、30%NaOH水溶液157部(1.18モル)を1時間で滴下した。その後90℃で3時間反応を行った。次にメチルイソブチルケトンを350部、水を200部仕込み、溶解後静置して水層を除去した。次に燐酸で中和、水洗して水層を除去した。さらに水洗を行いろ過した後、メチルイソブチルケトンを留去してエポキシ樹脂(E)を得た。この樹脂を分析したところ、エポキシ当量が1750g/eq、フェノール性水酸基当量が10000g/eq、加水分解性塩素量が0.003wt%であった。
【0024】
参考例6;ビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの通常の直接合成法により製造される市販の汎用エポキシ樹脂:エポトートYDF−2004(東都化成社製)の性状を表1に示す。
【0025】
参考例7;ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの通常の直接合成法により製造される市販の汎用エポキシ樹脂:エポトートYD−014(東都化成社製)の性状を表1に示す。
【0026】
参考例8;ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂とビスフェノールAとの間接合成法により製造される市販のフェノール系硬化剤:エポトートZX−767(東都化成社製)の性状を表1に示す。
【0027】
【表1】

※1 X:エポキシ当量(g/eq)
Y:フェノール性水酸基当量(g/eq)
【0028】
実施例1
参考例1で得られたエポキシ樹脂(A)100部に対し、硬化剤として2−メチルイミダゾールを0.5部、白色顔料として酸化チタンを50部、流れ調整剤としてアクロナール4F(BASF社製)を0.5部、ワキ防止剤としてベンゾインを0.5部配合した。これら配合物をヘンシェルミキサーでドライブレンドし、次いでエクストルーダー(池貝鉄工社製PCM−30)で樹脂温度が100℃〜130℃になるよう溶融混練を1回行い、冷却後に微粉砕した。さらに100メッシュの篩いを用いて分級して粉体塗料を得た。得られた粉体塗料をサンドブラスト処理した鋼板に静電粉体塗装を行い、180℃で20分焼き付け、膜厚約100μmの塗装試験板を得た。
【0029】
実施例2
参考例1で得られたエポキシ樹脂(A)100部に対し、硬化剤としてジシアンジアミドを1.0部、及び2−メチルイミダゾールを0.2部とした以外は実施例1と同様の配合、操作により粉体塗料及び塗装試験板を得た。
【0030】
実施例3
エポキシ樹脂を参考例2で得られたエポキシ樹脂(B)に変更した以外は実施例1と同様の配合、操作により粉体塗料及び塗装試験板を得た。
【0031】
実施例4
エポキシ樹脂を参考例3で得られたエポキシ樹脂(C)に変更した以外は実施例1と同様の配合、操作により粉体塗料及び塗装試験板を得た。
【0032】
実施例5
エポキシ樹脂を参考例4で得られたエポキシ樹脂(D)に変更した以外は実施例1と同様の配合、操作により粉体塗料及び塗装試験板を得た。
【0033】
比較例1
エポキシ樹脂を参考例5で得られたエポキシ樹脂(E)に変更した以外は実施例1と同様の配合、操作により粉体塗料及び塗装試験板を得た。
【0034】
比較例2
エポキシ樹脂をエポトートYDF−2004に変更し98.3部を配合した。また硬化剤としてジシアンジアミドを1.7部、及び2−メチルイミダゾールを0.2部配合した以外は実施例1と同様の配合、操作により粉体塗料及び塗装試験板を得た。
【0035】
比較例3
エポキシ樹脂をエポトートYD−014に変更し98.3部を配合した。また硬化剤としてジシアンジアミドを1.7部、及び2−メチルイミダゾールを0.2部配合した以外は実施例1と同様の配合、操作により粉体塗料及び塗装試験板を得た。
【0036】
比較例4
エポキシ樹脂をエポトートYD−014に変更し、74部を配合した。また硬化剤としてフェノール系硬化剤のエポトートZX−767を26部、及び2−メチルイミダゾールを0.5部配合した以外は実施例1と同様の配合、操作により粉体塗料及び塗装試験板を得た。
【0037】
各種試験結果を表2に示した。なお試験板は耐陰極剥離試験に5×90×90mm(SS41)、耐屈曲性試験に0.3×50×150mm(SPCC)、それ以外の試験には0.8×70×150mm(SPCC)の用い、サンドブラスト処理を施した。
評価方法は以下に示す方法で行った。
1)付着性;JIS K−5400に従い碁盤目テープ法で評価。すきま間隔;1mm。評価点数: 満点を10とした。
2)耐沸騰水性;試験板を沸騰水中に2時間浸漬し、取り出し後付着性を評価した。
3)耐酸性;試験板を5%硫酸中に30日間浸漬し、取り出し後付着性を評価した。
4)耐アルカリ性;試験板を5%NaOH中に30日間浸漬し、取り出し後付着性を評価した。
5)耐塩水噴霧性;試験板にクロスカットを入れた後、JIS K 5400の耐塩水噴霧試験に準拠して試験を行った。500時間塩水噴霧後にカッターにて強制剥離を行い、クロスカット部からの片側剥離幅を測定した。(○;1mm未満、△1mm以上、3mm未満、×;3mm以上)
6)耐陰極剥離性;試験板の塗膜側に直径6mmの鋼面に達する穴をドリルで開け、内径60mmのアクリル製円筒を設置して、3wt%NaCl水溶液を介し、飽和カロメル電極電位を照合して−1.5Vの電位をかけた。試験は23℃で30日間保持した後、中心から初期に開けた穴を除く放射方向の最大剥離幅(mm)を測定した。(○;2mm未満、△2mm以上、5mm未満、×;5mm以上)
なお上記1)から6)の試験は試験板3枚による平均値とした。
下記7)から9)の試験は試験板10枚について評価し、異常が無かった枚数を示し、満点を10とした。
7)エリクセン;エリクセン試験器を用いて、ポンチを10mm押し出し塗膜の割れや剥がれを目視で判定した。
8)耐衝撃性;JIS K−5400に従いデュポン衝撃試験機により1/4インチの撃心とこれに対応する台を用いて1kgの重りを50cmの高さより落下させて、塗膜の割れや剥がれを目視で判定した。
9)耐屈曲性;JIS K−5400に従い屈曲試験器に直径2mmの心棒をセットして評価。
塗膜の割れや剥がれを目視で判定した。
【0038】
【表2】

※2 X:配合後のエポキシ当量(g/eq)(計算値)
Y:配合後のフェノール性水酸基当量(g/eq)(計算値)
【産業上の利用可能性】
【0039】
表2の結果、本発明の分子内にエポキシ基とフェノール性水酸基の両方を併せ持つビスフェノールF型固形エポキシ樹脂と、硬化剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂粉体塗料組成物は、陰極剥離性等の防食性や付着性が極めて優れ、耐衝撃性や耐屈曲性にも優れているため、広範な金属被覆材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールFとエピクロルヒドリンより合成され、エポキシ基とフェノール性水酸基の両方を含有する固形のエポキシ樹脂であって、そのエポキシ当量が800乃至3000g/eq、フェノール性水酸基当量が1000乃至4000g/eqの範囲であるビスフェノールF型固形エポキシ樹脂と硬化剤を必須成分として含有するエポキシ樹脂粉体塗料組成物。
【請求項2】
請求項1記載のビスフェノールF型固形エポキシ樹脂のエポキシ当量とフェノール性水酸基当量の関係が、次の式(1)を満足することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料組成物。
【数1】

ただし、X:エポキシ当量(g/eq)
Y:フェノール性水酸基当量(g/eq)
【請求項3】
請求項1記載のビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の軟化点が70℃乃至120℃の範囲であることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料組成物。
【請求項4】
請求項1記載のビスフェノールFの2核体純度が90重量%以上であることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料組成物。
【請求項5】
請求項1記載のビスフェノールF型固形エポキシ樹脂の加水分解性塩素量が0.03重量%以下であることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料組成物。

【公開番号】特開2007−161775(P2007−161775A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356724(P2005−356724)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000221557)東都化成株式会社 (53)
【Fターム(参考)】