エポキシ樹脂粉体塗料
【課題】 エポキシ樹脂粉体塗料の基本特性を維持しつつ、塗膜の撥水・撥油性を向上させることで、インクジェット捺印時に鮮明な印字のできる絶縁被覆を与えるエポキシ樹脂粉体塗料及びその製造方法を提供するものである。
【解決手段】 エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料であり、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、フッ素系レベリング剤(D)を含有する原材料混合物を溶融混練後、これを粉砕してエポキシ樹脂粉体塗料を得ることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法である。
【解決手段】 エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料であり、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、フッ素系レベリング剤(D)を含有する原材料混合物を溶融混練後、これを粉砕してエポキシ樹脂粉体塗料を得ることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂粉体塗料は、電気的特性、機械的特性、熱的特性に優れており、従来の溶剤型塗料と比較して、塗料中に溶剤を含有しないため、低公害で作業環境性にも優れたものであること、塗装直後でも使用できること、多層の重ね塗りが可能で塗膜厚みを厚くできること、比較的安価であること、塗装時に余過剰分の塗料が回収利用できることなどの利点から、電子部品、OA機器、家電製品、建材、自動車部品等の絶縁保護装飾用塗料として、広く使用されている。
【0003】
エポキシ樹脂粉体塗料により絶縁被覆された部品等に型番を明示するためにインクやレーザー照射により印字が行われている。従来のエポキシ樹脂粉体塗料の絶縁被覆にインクジェット捺印した場合、被覆表面でインクが滲みやすいため、鮮明な文字やパターンを印字することができない。鮮明な印字を得るためにレーザー発色性を有する無機化合物を粉体塗料に配合する方法等がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−306260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料の基本特性を維持しつつ、インクジェット捺印時に鮮明な印字のできる絶縁被覆を与えるエポキシ樹脂粉体塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(3)により達成される。
(1)エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
(2)前記フッ素系レベリング剤(D)の含有量が、前記粉体塗料全体に対して0.05〜0.4重量%である請求項1に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
(3)前記フッ素系レベリング剤(D)が下記一般式(I)で表される化合物である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【化2】
一般式(I)において、Rはアルキル基、n=1〜19である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エポキシ樹脂粉体塗料の基本特性を維持しつつ、インクジェット捺印時に鮮明な印字のできる絶縁被覆を与えるエポキシ樹脂粉体塗料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の粉体塗料は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とする。
以下、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料(以下、単に「粉体塗料」ということがある)について詳細に説明する。
【0009】
本発明の粉体塗料に用いられるエポキシ樹脂(A)としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などを用いることができ、これらを単独または混合して用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、塗膜が機械的特性、電気的特性に優れたものになり好ましい。また、これらのエポキシ樹脂の分子量やエポキシ当量なども特に限定されず、粉体塗料の配合や要求される性状に合わせて適宜選択すればよい。
一例を挙げると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、エポキシ当量が450〜2000であるのものを用いると、粉体塗料の塗装性が優れたものになり好ましい。
【0010】
エポキシ樹脂(A)の含有量についても特に限定されないが、後述する硬化剤(B)、及び、無機充填材(C)との合計量に対して30〜63重量%であることが好ましく、さらに好ましくは35〜58重量%である。エポキシ樹脂(A)をかかる範囲の含有量とすることで、粉体塗料の塗装性、即ち塗膜の平滑性や塗装後の硬化工程である焼成時に外観を良好なものにできる。
【0011】
本発明の粉体塗料に用いられる硬化剤(B)としては特に限定されず、一般にエポキシ樹脂用の硬化剤として用いられている公知のものが使用できる。例えば、ジシアンジアミド、フェノール樹脂、イミダゾール化合物、アミン化合物、芳香族系酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、ジシアンジアミドやイミダゾール化合物、酸無水物を用いると、硬化性、密着性、耐熱性等が優れ好ましい。なお、硬化剤(B)の含有量についても特に限定されず、用いるエポキシ樹脂の種類、硬化剤の種類などを考慮して適宜設定すればよい。
【0012】
本発明の粉体塗料に用いられる無機充填材(C)としては特に限定されないが、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、タルク等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
無機充填材(C)の含有量についても特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、及び、無機充填材(C)の合計量に対して35〜60重量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜55重量%である。無機充填材(C)をかかる範囲の配合量とすることで、粉体塗料の塗装性を良好なものにできる。配合量が上記下限値よりも少ないと焼成時にタレやトガリといった外観上の不具合を起こすことがあり、一方、上記上限値よりも多いと塗膜の平滑性が低下することがある。
また、無機充填材(C)の粒径は特に限定されないが、通常、平均粒径として2〜30μmのものが用いられる。かかる平均粒径を有する無機充填材を用いることにより、粉体塗料に良好な流動性と塗膜の強度を付与することができる。
【0013】
本発明の粉体塗料は、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とする。
上記フッ素系レベリング剤(D)を含有することで、硬化後の塗膜の撥水・撥油性が向上し、インクジェット捺印時にインクが滲まず、鮮明な印字やパターンを得ることができる。
このフッ素系レベリング剤一般式(I)のn数は、5〜9が好ましく、n=7が最も好ましい。n数がこれよりも小さいとレベリング性が乏しくなる傾向がある。また、これよりも大きいと有機揮発分が多くなり、硬化塗膜に凹凸が生じやすくなる。
【0014】
フッ素系レベリング剤(D)の含有量は、粉体塗料全体に対して0.05〜0.4重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.3重量%である。これにより、塗膜の撥水・撥油性が向上してインクが滲みにくくなり、インクジェット捺印時の印字を鮮明にすることができる。レベリング剤の添加量が前記下限値よりも少ないと十分な撥水・撥油性を得ることが出来す、インクが滲みやすくなり、また、前記上限値よりも多いと熱硬化時に有機成分の揮発により塗膜表面上に凹凸が生じ、印字の鮮明度が低下する。
【0015】
また、上記フッ素系レベリング剤(D)は、一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。一般式(I)で表される化合物であるフッ素系レベリング剤を選択することにより、基本的な粉体特性を維持しつつ、塗膜の撥水・撥油性を大幅に向上させ、インクジェット捺印時にインクが滲まず、鮮明度に優れた塗膜を形成することが出来る。
【化3】
一般式(I)において、Rはアルキル基、n=1〜19である。
【0016】
なお、本発明の粉体塗料には上記配合物のほかにも、本発明の目的を損なわない範囲内で酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料、フッ素系レベリング剤以外のレベリング剤、硬化促進剤等を配合してもよい。
【0017】
次に本発明のエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある)について説明する。
本発明の製造方法は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有する原材料混合物を溶融混練後、これを粉砕してエポキシ樹脂粉体塗料を得ることを特徴とする。上記原材料混合物を溶融混錬後、粉砕するにより、粉体塗料中における各成分の均一分散性を高めることができる。
【0018】
本発明の製造方法において、上記原材料混合物を溶融混練して粉砕する方法を具体的に示すと、例えば、上記原材料混合物を、エクストルーダー等の溶融混練装置により80〜120℃で溶融混合し、冷却後ハンマーミル等で粗砕する。これを、粉砕装置を用いて適当な粒度に粉砕した後、分級することができる。
【0019】
また、本発明の粉体塗料については、粉体の流動性向上のため、シリカなどの微粉末で粉体塗料粒子の表面を被覆することもできる。このような処理を行なう方法としては、粉砕時に微粉末を添加しながら混合する粉砕混合やヘンシェルミキサー等による乾式混合を用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例、比較例で使用した原材料は次のとおりである。
(1)エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量850)
(2)硬化剤:ジシアンジアミド
(3)硬化促進剤:2−フェニルイミダゾール
(4)無機充填材:炭酸カルシウム(平均粒径20μm)
(5)レベリング剤A:フッ素系レベリング剤 一般式(I)において、n=7
(6)レベリング剤B:アクリル酸アルキルエステル共重合体
【化4】
【0021】
<実施例1>
エポキシ樹脂55重量部、硬化剤2.3重量部、硬化促進剤0.2重量部、無機充填材として炭酸カルシウム42.5重量部、フッ素系レベリング剤A 0.01重量部をヘンシェルミキサーにより20分間混合して、原材料混合物を調製した。これを、エクストルーダーを用いて混練後、粉砕装置にて粉砕して粉体塗料を得た。
【0022】
<実施例2>
フッ素系レベリング剤Aを0.05重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0023】
<実施例3>
フッ素系レベリング剤Aを0.2重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0024】
<実施例4>
フッ素系レベリング剤Aを0.5重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0025】
<比較例1>
フッ素系ではないレベリング剤Bを用いて、実施例3と同様にして粉体塗料を得た。
【0026】
<比較例2>
レベリング剤を用いず、エポキシ樹脂55重量部、硬化剤2.3重量部、硬化促進剤0.2重量部、無機充填材として炭酸カルシウム42.5重量部をヘンシェルミキサーにより20分間混合して、原材料混合物を調製した。これを、エクストルーダーを用いて混練後、粉砕装置にて粉砕して平均粒子径20〜50μmの粉体塗料を得た。
【0027】
実施例及び比較例の粉体塗料について、その配合を表1に示す。なお、表1に記載されている原材料の配合量は「重量部」を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
実施例及び比較例で得られた粉体塗料について次の評価を行った。
(1)インク鮮明度
実施例1〜4及び比較例1、2の樹脂組成物について硬化物を作製し、硬化物表面にインクジェット方式で捺印を施した。
◎はインク鮮明度が優れている、○は使用上問題ないレベル、×は鮮明度が劣るの3段階で示した。
【0030】
(2)密着性
鋼板(1.6×70×100mm)に塗膜の厚さが平坦部で約250μmとなるように静電塗装装置により塗装した。これを300kHzの高周波により、60秒間で150℃まで加熱して硬化させた。デュポン衝撃試験機により、硬化塗膜に対して500gの錘を落下させ、塗膜が剥がれる高さを評価した。
上記評価の結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
実施例1はフッ素系レベリング剤の量が十分ではなかったが、撥水・撥油性が高く、インクが滲みにくい鮮明度の良好な塗膜が得られた。実施例2、3は十分な量のフッ素系レベリング剤を添加したため、撥水・撥油性が向上し、塗膜にインクが滲まず、鮮明度が大幅に向上した。実施例4はフッ素系レベリング剤の添加量が過剰であったため、有機成分が揮発し、塗膜表面に若干の凹凸が生じた。一方、比較例1はフッ素系ではないレベリング剤のみを用いたが、塗膜の撥水・撥油性が十分ではなく、インクが滲み、鮮明度に劣る塗膜が形成された。また、比較例2はレベリング剤を全く添加していないため、塗膜の平滑性、撥水・撥油性が悪く、鮮明度に劣る塗膜が形成された。
【0033】
実施例1〜4は、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、及び、フッ素系レベリング剤を含有する本発明の粉体塗料であり、フッ素系レベリング剤を含有しない比較例と比べ、いずれも衝撃強さなど、粉体の基本特性は同等であったが、塗膜のインクが滲まず、鮮明度に優れていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、インクジェット捺印時に鮮明な印字が出来る絶縁皮膜を与えることができ、このような用途に好適である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂粉体塗料は、電気的特性、機械的特性、熱的特性に優れており、従来の溶剤型塗料と比較して、塗料中に溶剤を含有しないため、低公害で作業環境性にも優れたものであること、塗装直後でも使用できること、多層の重ね塗りが可能で塗膜厚みを厚くできること、比較的安価であること、塗装時に余過剰分の塗料が回収利用できることなどの利点から、電子部品、OA機器、家電製品、建材、自動車部品等の絶縁保護装飾用塗料として、広く使用されている。
【0003】
エポキシ樹脂粉体塗料により絶縁被覆された部品等に型番を明示するためにインクやレーザー照射により印字が行われている。従来のエポキシ樹脂粉体塗料の絶縁被覆にインクジェット捺印した場合、被覆表面でインクが滲みやすいため、鮮明な文字やパターンを印字することができない。鮮明な印字を得るためにレーザー発色性を有する無機化合物を粉体塗料に配合する方法等がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−306260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料の基本特性を維持しつつ、インクジェット捺印時に鮮明な印字のできる絶縁被覆を与えるエポキシ樹脂粉体塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(3)により達成される。
(1)エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
(2)前記フッ素系レベリング剤(D)の含有量が、前記粉体塗料全体に対して0.05〜0.4重量%である請求項1に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
(3)前記フッ素系レベリング剤(D)が下記一般式(I)で表される化合物である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【化2】
一般式(I)において、Rはアルキル基、n=1〜19である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エポキシ樹脂粉体塗料の基本特性を維持しつつ、インクジェット捺印時に鮮明な印字のできる絶縁被覆を与えるエポキシ樹脂粉体塗料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の粉体塗料は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とする。
以下、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料(以下、単に「粉体塗料」ということがある)について詳細に説明する。
【0009】
本発明の粉体塗料に用いられるエポキシ樹脂(A)としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などを用いることができ、これらを単独または混合して用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、塗膜が機械的特性、電気的特性に優れたものになり好ましい。また、これらのエポキシ樹脂の分子量やエポキシ当量なども特に限定されず、粉体塗料の配合や要求される性状に合わせて適宜選択すればよい。
一例を挙げると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、エポキシ当量が450〜2000であるのものを用いると、粉体塗料の塗装性が優れたものになり好ましい。
【0010】
エポキシ樹脂(A)の含有量についても特に限定されないが、後述する硬化剤(B)、及び、無機充填材(C)との合計量に対して30〜63重量%であることが好ましく、さらに好ましくは35〜58重量%である。エポキシ樹脂(A)をかかる範囲の含有量とすることで、粉体塗料の塗装性、即ち塗膜の平滑性や塗装後の硬化工程である焼成時に外観を良好なものにできる。
【0011】
本発明の粉体塗料に用いられる硬化剤(B)としては特に限定されず、一般にエポキシ樹脂用の硬化剤として用いられている公知のものが使用できる。例えば、ジシアンジアミド、フェノール樹脂、イミダゾール化合物、アミン化合物、芳香族系酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、ジシアンジアミドやイミダゾール化合物、酸無水物を用いると、硬化性、密着性、耐熱性等が優れ好ましい。なお、硬化剤(B)の含有量についても特に限定されず、用いるエポキシ樹脂の種類、硬化剤の種類などを考慮して適宜設定すればよい。
【0012】
本発明の粉体塗料に用いられる無機充填材(C)としては特に限定されないが、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、タルク等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
無機充填材(C)の含有量についても特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、及び、無機充填材(C)の合計量に対して35〜60重量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜55重量%である。無機充填材(C)をかかる範囲の配合量とすることで、粉体塗料の塗装性を良好なものにできる。配合量が上記下限値よりも少ないと焼成時にタレやトガリといった外観上の不具合を起こすことがあり、一方、上記上限値よりも多いと塗膜の平滑性が低下することがある。
また、無機充填材(C)の粒径は特に限定されないが、通常、平均粒径として2〜30μmのものが用いられる。かかる平均粒径を有する無機充填材を用いることにより、粉体塗料に良好な流動性と塗膜の強度を付与することができる。
【0013】
本発明の粉体塗料は、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とする。
上記フッ素系レベリング剤(D)を含有することで、硬化後の塗膜の撥水・撥油性が向上し、インクジェット捺印時にインクが滲まず、鮮明な印字やパターンを得ることができる。
このフッ素系レベリング剤一般式(I)のn数は、5〜9が好ましく、n=7が最も好ましい。n数がこれよりも小さいとレベリング性が乏しくなる傾向がある。また、これよりも大きいと有機揮発分が多くなり、硬化塗膜に凹凸が生じやすくなる。
【0014】
フッ素系レベリング剤(D)の含有量は、粉体塗料全体に対して0.05〜0.4重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.3重量%である。これにより、塗膜の撥水・撥油性が向上してインクが滲みにくくなり、インクジェット捺印時の印字を鮮明にすることができる。レベリング剤の添加量が前記下限値よりも少ないと十分な撥水・撥油性を得ることが出来す、インクが滲みやすくなり、また、前記上限値よりも多いと熱硬化時に有機成分の揮発により塗膜表面上に凹凸が生じ、印字の鮮明度が低下する。
【0015】
また、上記フッ素系レベリング剤(D)は、一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。一般式(I)で表される化合物であるフッ素系レベリング剤を選択することにより、基本的な粉体特性を維持しつつ、塗膜の撥水・撥油性を大幅に向上させ、インクジェット捺印時にインクが滲まず、鮮明度に優れた塗膜を形成することが出来る。
【化3】
一般式(I)において、Rはアルキル基、n=1〜19である。
【0016】
なお、本発明の粉体塗料には上記配合物のほかにも、本発明の目的を損なわない範囲内で酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料、フッ素系レベリング剤以外のレベリング剤、硬化促進剤等を配合してもよい。
【0017】
次に本発明のエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある)について説明する。
本発明の製造方法は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有する原材料混合物を溶融混練後、これを粉砕してエポキシ樹脂粉体塗料を得ることを特徴とする。上記原材料混合物を溶融混錬後、粉砕するにより、粉体塗料中における各成分の均一分散性を高めることができる。
【0018】
本発明の製造方法において、上記原材料混合物を溶融混練して粉砕する方法を具体的に示すと、例えば、上記原材料混合物を、エクストルーダー等の溶融混練装置により80〜120℃で溶融混合し、冷却後ハンマーミル等で粗砕する。これを、粉砕装置を用いて適当な粒度に粉砕した後、分級することができる。
【0019】
また、本発明の粉体塗料については、粉体の流動性向上のため、シリカなどの微粉末で粉体塗料粒子の表面を被覆することもできる。このような処理を行なう方法としては、粉砕時に微粉末を添加しながら混合する粉砕混合やヘンシェルミキサー等による乾式混合を用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例、比較例で使用した原材料は次のとおりである。
(1)エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量850)
(2)硬化剤:ジシアンジアミド
(3)硬化促進剤:2−フェニルイミダゾール
(4)無機充填材:炭酸カルシウム(平均粒径20μm)
(5)レベリング剤A:フッ素系レベリング剤 一般式(I)において、n=7
(6)レベリング剤B:アクリル酸アルキルエステル共重合体
【化4】
【0021】
<実施例1>
エポキシ樹脂55重量部、硬化剤2.3重量部、硬化促進剤0.2重量部、無機充填材として炭酸カルシウム42.5重量部、フッ素系レベリング剤A 0.01重量部をヘンシェルミキサーにより20分間混合して、原材料混合物を調製した。これを、エクストルーダーを用いて混練後、粉砕装置にて粉砕して粉体塗料を得た。
【0022】
<実施例2>
フッ素系レベリング剤Aを0.05重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0023】
<実施例3>
フッ素系レベリング剤Aを0.2重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0024】
<実施例4>
フッ素系レベリング剤Aを0.5重量部に増量した以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0025】
<比較例1>
フッ素系ではないレベリング剤Bを用いて、実施例3と同様にして粉体塗料を得た。
【0026】
<比較例2>
レベリング剤を用いず、エポキシ樹脂55重量部、硬化剤2.3重量部、硬化促進剤0.2重量部、無機充填材として炭酸カルシウム42.5重量部をヘンシェルミキサーにより20分間混合して、原材料混合物を調製した。これを、エクストルーダーを用いて混練後、粉砕装置にて粉砕して平均粒子径20〜50μmの粉体塗料を得た。
【0027】
実施例及び比較例の粉体塗料について、その配合を表1に示す。なお、表1に記載されている原材料の配合量は「重量部」を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
実施例及び比較例で得られた粉体塗料について次の評価を行った。
(1)インク鮮明度
実施例1〜4及び比較例1、2の樹脂組成物について硬化物を作製し、硬化物表面にインクジェット方式で捺印を施した。
◎はインク鮮明度が優れている、○は使用上問題ないレベル、×は鮮明度が劣るの3段階で示した。
【0030】
(2)密着性
鋼板(1.6×70×100mm)に塗膜の厚さが平坦部で約250μmとなるように静電塗装装置により塗装した。これを300kHzの高周波により、60秒間で150℃まで加熱して硬化させた。デュポン衝撃試験機により、硬化塗膜に対して500gの錘を落下させ、塗膜が剥がれる高さを評価した。
上記評価の結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
実施例1はフッ素系レベリング剤の量が十分ではなかったが、撥水・撥油性が高く、インクが滲みにくい鮮明度の良好な塗膜が得られた。実施例2、3は十分な量のフッ素系レベリング剤を添加したため、撥水・撥油性が向上し、塗膜にインクが滲まず、鮮明度が大幅に向上した。実施例4はフッ素系レベリング剤の添加量が過剰であったため、有機成分が揮発し、塗膜表面に若干の凹凸が生じた。一方、比較例1はフッ素系ではないレベリング剤のみを用いたが、塗膜の撥水・撥油性が十分ではなく、インクが滲み、鮮明度に劣る塗膜が形成された。また、比較例2はレベリング剤を全く添加していないため、塗膜の平滑性、撥水・撥油性が悪く、鮮明度に劣る塗膜が形成された。
【0033】
実施例1〜4は、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、及び、フッ素系レベリング剤を含有する本発明の粉体塗料であり、フッ素系レベリング剤を含有しない比較例と比べ、いずれも衝撃強さなど、粉体の基本特性は同等であったが、塗膜のインクが滲まず、鮮明度に優れていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、インクジェット捺印時に鮮明な印字が出来る絶縁皮膜を与えることができ、このような用途に好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項2】
前記フッ素系レベリング剤(D)の含有量が、前記粉体塗料全体に対して0.05〜0.4重量%である請求項1に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項3】
前記フッ素系レベリング剤(D)が、一般式(I)で表される化合物である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【化1】
一般式(I)において、Rはアルキル基、n=1〜19である。
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填材(C)、及び、フッ素系レベリング剤(D)を含有することを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項2】
前記フッ素系レベリング剤(D)の含有量が、前記粉体塗料全体に対して0.05〜0.4重量%である請求項1に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項3】
前記フッ素系レベリング剤(D)が、一般式(I)で表される化合物である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【化1】
一般式(I)において、Rはアルキル基、n=1〜19である。
【公開番号】特開2008−81527(P2008−81527A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259964(P2006−259964)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]