説明

エポキシ樹脂系塗り床材用希釈剤

【課題】希釈効果を保ちつつ、健康上、環境上問題のあるトルエンやキシレンを含まない現場作業型エポキシ樹脂系塗り床材用の希釈剤の提供であって、形成される塗り床の物性面や仕上がりの満足できる塗り床を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂系塗り床材の専用希釈剤として、炭素数7以下のアルコールからなる希釈剤また、炭素数7以下のアルコールと炭素数10以下のエステル化合物とを混合してなる希釈剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂系塗り床材の専用の希釈剤及び該希釈剤により希釈されたエポキシ樹脂系塗り床材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、耐薬品性及び汎用性が高いため、現場施工型の塗り床材として多く使用されている。通常、エポキシ樹脂系塗り床材は、エポキシ樹脂基剤と硬化剤とを、施工現場において施工直前に2液混合し施工に供される。そしてこの際、エポキシ樹脂基剤を予め専用の溶剤を用いて希釈しておくか、又はエポキシ樹脂基剤と硬化剤との混合物に専用の溶剤を用いて希釈し、施工するのが一般的である。特に、冬場では、エポキシ樹脂系塗り床材は粘度が高くなる傾向があるため、施工を容易にするためには専用の溶剤で希釈して施工する必要がある。
【0003】
従来、これらのエポキシ樹脂系塗り床材を希釈する専用の溶剤として、トルエンやキシレン、アルコールを混合したものが使用されてきた。例えば、トルエンやキシレンにn−ブタノール等の低級アルコール系化合物を混合した希釈剤は、エポキシ樹脂組成物(基剤又は/及び硬化剤)に対して少量の添加量で十分な希釈効果が得られるため、作業性に優れかつ経済的であり、施工後の塗り床の圧縮強度が比較的低下し難いとともに非常に重要視される色分かれ等の仕上がり不良が生じ難いという特徴があった。
【0004】
しかし、最近、建築物から放散するトルエンやキシレン等の揮発性物質がシックハウスやシックスクールの原因物質であるとされ、建築現場ではこれらの物質の使用が問題視されるようになってきた。さらに、トルエンやキシレンは、PRTR法の指定物質や厚生労働省指針値指定VOC(揮発性有機化合物)に含まれ、施工作業者への健康上の配慮や、物質の使用量及び排出量の管理、さらには学校等の公共の建築物における定期的な室内濃度測定管理を必要とする問題もあった。
【0005】
このような観点から、トルエンやキシレンといった指定物質を使用しない樹脂等の希釈剤が望まれており、例えば、特許文献1には、a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂、b)高級アルコール系希釈剤、c)有機ベントナイト及び微粉末シリカからなる揺変剤、d)a)を硬化させるのに十分な量の硬化剤からなり、上記各成分を混合して使用する際の混合直後の粘度が、1000〜50000cpで、且つチクソトロピー指数範囲が2.0〜8.0であることを特徴とする配管内面のライニング用組成物が開示されており、該組成物の希釈剤として、b)高級アルコール系希釈剤が使用されていることが開示されている。
【特許文献1】特開平8−59962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、エポキシ樹脂系塗り床材を希釈するために使用されていた希釈剤であって、トルエンやキシレンを含まないものは、最終的に得られる塗り床の圧縮強度等といった物性面や、色分かれ等の仕上がり不良で十分満足することができなかった。
本発明の目的は、希釈効果を保ちつつ、健康上、環境上問題のあるトルエンやキシレンを含まない現場作業型エポキシ樹脂系塗り床材用の希釈剤の提供であって、形成される塗り床の物性面や仕上がりの満足できる塗り床を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、エポキシ樹脂系塗り床材の専用希釈剤であって、炭素数7以下のアルコールからなる希釈剤を提供する。
【0008】
また、本発明は、エポキシ樹脂系塗り床材の専用希釈剤であって、炭素数7以下のアルコールと炭素数10以下のエステル化合物とを混合してなる希釈剤を提供する。
【0009】
本発明の希釈剤は、施工直前にエポキシ樹脂基剤及び硬化剤を混合し、施工に供する2液混合型のエポキシ樹脂系塗り床材に対して使用する専用の希釈剤であり、従来使用されていたトルエンやキシレンを含む希釈剤と比較して、同等以上の希釈効果を得ることができる。さらに、施工後の塗り床の仕上げにおいて防滑面や圧縮強度等を保つことができ、色分かれ等も起きないことからも優れている。また、低沸点物質であることから、施工後の塗り床材を短時間で乾燥させることができ、塗り床中での残留の心配も軽減することができる。
【0010】
なお、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の範囲に含まる意を包含するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態に係る希釈剤は、エポキシ樹脂系塗り床材用の希釈剤であって、炭素数7以下のアルコールからなる希釈剤である。
【0013】
本実施形態で使用されるアルコールは、炭素数が7以下のアルコール(以下、低級アルコールとする)であればよく、1級〜3級アルコールのいずれかでもよい。メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、ベンジルアルコール等が例示される。中でも、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールが好ましい。
また、本実施形態で使用される低級アルコールは、上記例示した低級アルコールの中から2種類以上混合したものであってもよく、中でもメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールから選ばれた2種類以上の混合物が好ましい。また、低級アルコールの混合物である変性エタノール(変性アルコール)を選ぶこともできる。
【0014】
低級アルコールの純度は、一般に市販されている工業用グレードや一級グレード以上の純度のものでよく、さらに純度の高い特級グレードであれば好ましい。一般に低級アルコールは水との親和性が高く、保存中等に低級アルコール中に水分の混入を避けることは困難であるため、不純物として本発明の効果を阻害しない程度の水分を含んでいてもよい。また、その他の不純物も、本発明の効果を阻害しない程度であれば、不純物を含んでいてもよい。
【0015】
本実施形態に係る低級アルコール系希釈剤は、施工前のエポキシ樹脂基剤に予め所望量添加することもでき、さらに使用直前のエポキシ樹脂基剤及び硬化剤の混合時に所望量添加することもできる。中でも、混合時に添加すると、現場作業時に施工作業内容に合わせたエポキシ樹脂系塗り床材の粘度に調整がしやすいことから好ましい。
【0016】
次に、本発明の第二の実施形態に係る希釈剤として、炭素数7以下のアルコールと炭素数10以下のエステル化合物とを混合してなる希釈剤について説明する。
【0017】
本実施形態で使用される低級アルコールは、上記に例示した炭素数が7以下のアルコールから選ばれる。また2種類以上の低級アルコールの混合物を用いてもよい。
【0018】
また、本実施形態で使用されるエステル化合物は、モノカルボン酸及びジカルボン酸由来であって、炭素数が10以下のエステル化合物であればよく、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸イソプロピル、酪酸イソペンチル、カプロン酸エチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等が例示される。中でも、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、コハク酸ジメチルが好ましい。
また、本実施形態で使用されるエステル系化合物は、上記例示したエステル系化合物の中から2種類以上混合することができ、中でも酢酸エチル、プロピオン酸メチル、コハク酸ジメチルから選ばれた2種類以上の混合物が好ましい。
【0019】
エステル化合物の純度は、一般に市販されている工業用グレードや一級グレード以上の純度のものでよく、さらに純度の高い特級グレードであれば好ましい。また、本発明の効果を阻害しない程度であれば、不純物を含んでいてもよい。
【0020】
また、低級アルコール及びエステル化合物の混合比率は、低級アルコール100質量部に対して、エステル系化合物が10〜100質量部とするのが好ましく、中でも15〜70質量部であるとより好ましい。
【0021】
また、本実施形態に係る低級アルコール及びエステル化合物系希釈剤は、施工前のエポキシ樹脂基剤に予め所望量添加することもでき、さらに使用直前の該基剤及び硬化剤の混合時に所望量添加することもできる。中でも、施工前のエポキシ樹脂基剤に添加すると、色顔料等の成分、特にグリーン系の色顔料成分の分離を防ぐ効果が大きくなることから好ましい。
【0022】
次に、本実施形態に係る低級アルコール系希釈剤、低級アルコール及びエステル化合物系希釈剤の使用方法、さらには該希釈剤で希釈されたエポキシ樹脂系塗り床材について説明する。
【0023】
本実施形態に係る希釈剤は、使用する時期や現場、施工内容によって適宜添加量を調整すればよい。通常、使用するエポキシ樹脂基剤100質量部に対して、0.1〜20質量部添加するのがよく、中でも0.1〜5質量部添加するのが好ましい。
エポキシ樹脂基剤100質量部に対して本実施形態に係る希釈剤を0.1〜20質量部添加し希釈すると、エポキシ樹脂基剤を構成する各成分の分離が起こりにくい。またエポキシ樹脂基剤及び硬化剤を混合したエポキシ樹脂系塗り床材にエポキシ樹脂基剤100質量部に対して本実施形態に係る希釈剤を0.1〜20質量部添加し希釈すると、現場作業性に優れ、かつ施工後の塗り床材を短時間で乾燥させることができるとともに塗り床中での残留の心配が軽減され、さらには得られる塗り床の圧縮強度等の物性に優れたエポキシ樹脂系塗り床材を得ることができる。
【0024】
本実施形態に係る希釈剤を用いて希釈されたエポキシ樹脂基剤又はエポキシ樹脂系塗り床材は、23℃における粘度が100〜10000mPa・sとなるように本実施形態に係る希釈剤を添加し希釈するとよい。中でも、特に冬場の使用も考慮して、10℃におけるエポキシ樹脂基剤又はエポキシ樹脂系塗り床材の粘度が100〜4000mPa・s程度、好ましくは100〜3500mPa・s程度となるように本実施形態に係る希釈剤を用いて希釈すると、経済的な使用量で、施工作業性に適しかつ得られる塗り床の物性も良好であるエポキシ樹脂系塗り床材とすることができる。
【0025】
ここで、本実施形態で使用されるエポキシ樹脂基剤は、エポキシ樹脂、無機充填材及び顔料等を混合して構成される。
エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を有する化合物であって、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等の一般に知られているエポキシ樹脂であればよい。例えば、エピコート825、エピコート828(いずれもJSR社製)、D.E.R.331(ダウケミカル社製)、エピクロン830、エピクロン840、エピクロン850(いずれも大日本インキ化学社製)、アデカレジンEP−4100G、アデカレジンEP−4901(いずれも旭電化社製)、エポミックR110、エポミックR140(いずれも三井化学社製)等が挙げられる。
【0026】
無機充填材は、一般に知られたシリカ粉、珪砂、バライト、タルク等が挙げられる。無機充填材は、施工内容に応じた無機材料を無機フィラーや骨材として所望量配合することができる。また、顔料は、所望の塗り床の色に合わせて一般に知られた顔料を配合することができる。
【0027】
硬化剤は、アミン化合物等の一般に知られているエポキシ樹脂用の硬化剤であればよい。例えば、アデカハードナーEH−461(旭電化社製)、ポリアミドアミン2386(エアープロダクツジャパン社製)が挙げられ、施工される塗り床の用途や要求される物性等を考慮して選ばれる。
なお、硬化剤は、通常、エポキシ樹脂の反応に寄与するエポキシ基と同じ等量となるように配合比率が設定されているため、本実施形態においてもエポキシ樹脂に応じて、適宜硬化剤の量を設定すればよい。
【0028】
本実施形態に係る希釈剤を用いて希釈されたエポキシ樹脂系塗り床材は、前記のエポキシ樹脂基剤及び硬化剤の他に、硬化促進剤や安定化剤等の他の配合物を含んでいてもよい。
【0029】
エポキシ樹脂系塗り床材は、塗り床施工の直前の現場においてエポキシ樹脂基剤及び硬化剤を混合・調製し、カナゴテ等を用いて塗り床施工に供する。
このように調製された本実施形態に係るエポキシ樹脂系塗り床材は、下地コンクリートに直接施工してもよいし、プライマー処理等を行った塗り床の仕上げ材として施工してもよい。また2度塗以上の複数回塗布し、塗り床を仕上げることもできる。
【実施例】
【0030】
以下に本実施形態の実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0031】
(配合物サンプルの調製)
10℃環境下において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、無機充填材、着色顔料、その他添加剤からなるエポキシ樹脂基剤(ケミクリートE基剤、エービーシー商会製)100質量部に対して、表1、表2に示すアルコール、又はアルコール及びエステル化合物とを予め混合し、配合品サンプルを調製した。
【0032】
(粘度測定)
調製した各配合物サンプルを10℃環境下24時間保管し、その後配合品サンプルをB型粘度計を用いて粘度測定した。
【0033】
(作業性評価及び施工後の塗り床の色分かれ評価1)
次いで、10℃環境下24時間保管した各配合品サンプルに、変性脂肪族ポリアミンを主成分とした硬化剤(ケミクリートE硬化剤、エービーシー商会製)をエポキシ樹脂基剤100質量部に対して20質量部混合して塗り床材サンプルとし、施工時の作業性評価に供した。
作業性の評価方法として、予めコンクリート平板にビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とする基剤と変性脂肪族アミンを主成分とする硬化剤からなるプライマー(ケミクリートプライマーNS、エービーシー商会製)を塗布し硬化させた塗膜の上に、各塗り床材を10℃環境下でカナゴテを用いて1回目の塗布を行い24時間保管した。さらに1回目の塗布と同様に2度目の塗布を行い、10℃環境下、7日間養生した。
作業性は、1度目、2度目の塗り付けの感触(作業性)について総合的に評価した。また、養生後の塗り床の外観を目視にて観察し、塗り床施工後の色分かれ評価(色分かれ評価2)を行った。
【0034】
(エポキシ樹脂基剤中における色分かれ評価2)
サンプル7及び8のである配合品サンプルを10℃環境下に24時間保管し、その後エポキシ樹脂基剤を構成する成分、特に着色顔料が分離していないかを目視にて観察し、エポキシ樹脂基剤中における色分かれ評価(色分かれ評価1)を行った。
【0035】
表1にサンプル1〜サンプル6に関する色分かれ評価1、粘度、作業性評価の結果を示す。炭素数7以下の低級アルコール系希釈剤を添加したサンプル1〜4は、従来使用されていたトルエン系希釈剤を同量添加したサンプル6と同等以上の作業性を与える希釈効果を有することがわかった。また、色分かれ評価2の結果からも良好な塗り床の仕上がり性を与えることが分かった。
一方、炭素数が10であるアルコールを添加したサンプル5は、同じ添加量では粘度及び作業性が、サンプル1〜4に比べて劣り、希釈効果が不十分であった。従って、サンプル5の配合では、希釈剤をエポキシ樹脂基剤に対してさらに大量に添加する必要があることがわかった。
【0036】
表2にサンプル7及び8に関する色分かれ評価1、色分かれ評価2、粘度、作業性評価を示す。低級アルコール及びエステル化合物系希釈剤を用いて希釈したエポキシ樹脂基剤であるサンプル7及びサンプル8は、顔料をはじめとしたエポキシ樹脂基剤の各成分の分離が認められず、色分かれ評価1の結果は良好であった。
また、従来使用されていたトルエンを含む希釈剤を同量添加したサンプル6と同等以上の作業性を与える希釈効果を有し、色分かれ評価2の結果からも良好な塗り床の仕上がり性を与えることが分かった。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂系塗り床材の専用希釈剤であって、炭素数7以下のアルコールからなる希釈剤。
【請求項2】
エポキシ樹脂系塗り床材の専用希釈剤であって、炭素数7以下のアルコールと炭素数10以下のエステル化合物とを混合してなる希釈剤。
【請求項3】
請求項2に記載の希釈剤であって、炭素数7以下のアルコール100質量部に対して炭素数10以下のエステル化合物が10〜100質量部混合されることを特徴とする希釈剤。
【請求項4】
エポキシ樹脂基剤100質量部に対して、請求項1〜3のいずれかに記載の希釈剤を0.1〜20質量部混合してなるエポキシ樹脂系塗り床材。






【公開番号】特開2006−104398(P2006−104398A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295684(P2004−295684)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(598108412)株式会社エービーシー建材研究所 (13)
【Fターム(参考)】