説明

エポキシ樹脂系組成物

【課題】 貯蔵安定性に優れ、併せて、硬化力も備えもち、かつプリプレグにした際も貯蔵安定性を損なわないエポキシ樹脂系組成物を提供すること。
【解決手段】 テトラフェニルホスホニウムチオシアネート(TPP−SCN)を含浸させた非中空型多孔質無機微粒子を硬化促進剤として配合した、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を少なくとも含有することを特徴とするエポキシ樹脂系組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート含浸非中空型多孔質無機微粒子を含有するエポキシ樹脂系組成物、およびプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エポキシ樹脂系組成物を用いると、優れた機械的、化学的および電気的性質を有する成形体などが得られるため、エポキシ樹脂系組成物は、接着剤、塗料、注型材料の形態でコイル、コンデンサー、プリント基板などの各種の電気部品、あるいは半導体素子や集積回路の絶縁封止などの用途に広く使用されている。
【0003】
上記した用途の中で、電子機器の分野では、回路の高密度化や接続信頼性の向上に対応するため、またスマートフォン等のモバイル機器においては、特に高集積化への要求が高く、回路材料も進歩し続けている。
このため、接続材料の1つとして用いられるエポキシ樹脂系組成物の性能も、より優れたものが要求されている。
【0004】
特に最近では、低コスト化のためパッケージ生産サイクル時間を短縮し生産性を向上するといったニーズが多々あり、パッケージ用樹脂封止材であるエポキシ樹脂系組成物に対して、速硬化性が要求されてきている。また、速硬化性と相反する性質として貯蔵安定性も要求されている。
【0005】
硬化促進剤としては、イミダゾールやトリフェニルホスフィン(以下、TPPと呼ぶこともある。)等が用いられている。イミダゾールは一般的に、硬化促進能力は良好であるものの、エポキシ樹脂から塩素を引き抜くため、エポキシ樹脂系硬化物は耐湿信頼性に劣り、電子材料用途としては不適であった。TPPを用いたエポキシ樹脂系硬化物は一般的に、耐湿信頼性に優れるものの、TPP自体の硬化促進能力が低いため、速硬化性に劣り、また、得られた硬化物のTgも低くなる傾向にある(非特許文献1、2参照)。
【0006】
また、速硬化のためにこれら硬化促進剤の添加量を増やすと、硬化促進剤の反応により、エポキシ樹脂系組成物の貯蔵安定性が著しく低下するという問題があった。そのため、速硬化性と貯蔵安定性を兼ね備えるエポキシ樹脂系組成物の開発が望まれていた。
【0007】
貯蔵安定性の改善の目的で、ホスフィン類をマイクロカプセル化する技術が開発された(特許文献1、2参照)が、カプセル成分が異物として残留するという問題があった。更に貯蔵安定性の改善を目的として多孔質無機微粒子に硬化促進剤としてDBU、DBN等の液状アミンを含浸させ、表面を酸無水物で皮膜形成して得られるアミン含浸型多孔質無機微粒子も提案された(特許文献3参照)が、皮膜形成の処理工程が必要であり、硬化物にとって皮膜は異物となる可能性があった。またDBU、DBN等の液状アミンはイミダゾールと同様、エポキシ樹脂から塩素を引き抜く(非特許文献2参照)ため、エポキシ樹脂系硬化物は耐湿信頼性に劣り、電子材料用途としては不適であった。
【0008】
また、同様に多孔質無機微粒子に硬化促進剤としてリン系硬化促進剤を含浸させるリン系化合物含浸型多孔質無機微粒子も提案された(特許文献4参照)が、硬化促進剤としてTPPを使用した場合、耐湿信頼性に優れるものの、TPP自体の硬化促進能力から充分な性能が得られるものではなかった。更に、エポキシ樹脂系組成物を調製する際には、ロール、ニーダーなどの混練機等で樹脂を80℃〜100℃程度まで加熱溶融させた上で混錬することが一般的であるが、TPP含浸型多孔質無機微粒子を用いた場合、加熱してエポキシ樹脂系組成物を調製する際に、TPP(融点80℃)が溶解し、樹脂中に滲み出るため、得られたエポキシ樹脂系組成物の貯蔵安定性にはさらに改善の余地があった。
【0009】
特にエポキシ樹脂系組成物を積層板やフィルムに用いる場合、エポキシ樹脂系組成物は有機溶媒に溶解しワニスとして用いられることが多い。3級ホスフィンは一般的に有機溶媒への溶解性が高いため、これらの硬化促進剤を含浸させた多孔質無機微粒子を用いたエポキシ樹脂系組成物は、ワニスとした際に硬化促進剤が多孔質無機微粒子外に溶出してしまうため、プリプレグの貯蔵安定性には改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許3308347号公報
【特許文献2】特開平11−269353号公報
【特許文献3】特開2009−209209号公報
【特許文献4】特開2009−57393号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「先端半導体パッケージ材料技術」、技術情報協会発行(2010年8月31日)、p.38〜49
【非特許文献2】「高分子材料・技術総覧」、産業技術サービスセンター発行(2004年9月7日)、p.135
【非特許文献3】「エポキシ樹脂の配合設計と高機能化」、サイエンス&テクノロジー発行(2008年8月20日)、p.66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものである。すなわち、貯蔵安定性に優れ、併せて、硬化力も備えもち、かつプリプレグにした際も貯蔵安定性を損なわないエポキシ樹脂系組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような状況に鑑み、本発明者らは鋭意検討した。その結果、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート(以下、TPP−SCNと呼ぶこともある。)を非中空型多孔質無機微粒子に含浸させた、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を硬化促進剤として配合すれば、貯蔵安定性に優れ、併せて、硬化力も備えもち、かつプリプレグにした際も、TPP−SCNは溶媒への溶解性が低く、多孔質無機微粒子外に溶出しないため、貯蔵安定性を損なわないエポキシ樹脂系組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の内容をその要旨とするものである。
〔1〕(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)テトラフェニルホスホニウムチオシアネート含浸非中空型多孔質無機微粒子を少なくとも含有し、当該非中空型多孔質無機微粒子の吸油量が30〜300ml/100gであることを特徴とするエポキシ樹脂系組成物。
〔2〕非中空型多孔質無機微粒子がシリカ、珪酸カルシウム、アパタイト、アルミナ、ゼオライトから選択される1種または2種以上であることを特徴とする〔1〕に記載のエポキシ樹脂系組成物。
〔3〕さらに無機充填剤を含有することを特徴とする〔1〕または〔2〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
〔4〕〔1〕〜〔3〕に記載のエポキシ樹脂系組成物を溶媒に溶解して得られるワニス。
〔5〕〔4〕に記載のワニスを繊維質基材に含浸させた後、60℃〜140℃で乾燥して得られるプリプレグ。
【発明の効果】
【0015】
TPP−SCNは融点が300℃以上と高く、また各樹脂への溶解性が比較的低いため、そして、非中空型、かつ吸油量が30〜300ml/100gである多孔質無機微粒子の構造は強靭なため、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を樹脂に加熱下配合した際に、内包されたTPP−SCNが樹脂へ溶け出す可能性は少ない。更にTPP−SCNは有機溶媒への溶解性が低いため、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を樹脂に配合したエポキシ樹脂系組成物をワニスとした際にも、内包したTPP−SCNが多孔質無機微粒子外に溶出してしまう可能性は少ない。
【0016】
そのため、本発明のTPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を成分として含有するエポキシ樹脂系組成物は、組成物を調製した後やプリプレグにした際にも、室温保存下では硬化反応を抑制できるため、貯蔵安定性に優れることとなり、従来必要であった組成物やプリプレグの冷蔵保管が必要なくなる。また、TPP−SCNの効果により硬化時の加熱条件下に速やかに硬化が進行するために、現場での作業効率を高めることができ、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】製造例1で得られたTPP−SCN含浸非中空型多孔質シリカ(MC1−TPP−SCN)のSEM写真を示す。
【図2】製造例2で得られたTPP−SCN含浸非中空型多孔質シリカ(MC2−TPP−SCN)のSEM写真を示す。
【図3】製造例3で得られたTPP−SCN含浸中空型多孔質シリカ(MC3−TPP−SCN)のSEM写真を示す。
【図4】製造例4で得られたTPP−SCN含浸高吸油型多孔質シリカ(MC4−TPP−SCN)のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂系硬化剤、(C)TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を含有するエポキシ樹脂系組成物である。
【0019】
本発明においてエポキシ樹脂組成物とは、前記(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂系硬化剤、(C)TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を均一に混ぜ合わせた混合物を指し、エポキシ樹脂硬化物とは、当該エポキシ樹脂組成物にある特定の条件下で熱をかけることによってエポキシ樹脂が流動性を失って、硬化した固形物を指す。
また、本発明において、硬化力と速硬化性は同義で使用される。
【0020】
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、汎用的なエポキシ樹脂を用いることが可能であり、エポキシ基を分子中に2個以上含有するものであれば、制限なく使用することができる。例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、および脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で、又は2種類以上を混合して使用することができる。また、有姿でそのまま使用してもよく、適宜溶剤や添加材等を添加して使用することもできる。
【0021】
(B)フェノール樹脂系硬化剤
フェノール樹脂系硬化剤としては、特に限定されず、汎用的なフェノール樹脂を用いることが可能であり、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、有姿でそのまま硬化剤として使用してもよく、適宜溶剤や添加材等を添加し、硬化剤組成物として使用することもできる。
【0022】
(C)TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子
TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子は、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート(TPP−SCN)を内包または担持させた非中空型多孔質無機微粒子の構成をとる。本発明の硬化促進剤は貯蔵安定性や取扱いを容易とする観点から、適宜溶剤や添加剤等を含んでもよい。また、発明の効果を損なわないことを限度に、他の硬化促進剤を併用してもよい。
【0023】
多孔質無機微粒子に内包または担時させるTPP−SCNは、速硬化性が高いリン系硬化促進剤として知られており、融点は300℃以上である。
TPP−SCNを内包または担持する多孔質無機微粒子としては、シリカ、珪酸カルシウム、アパタイト、アルミナ、ゼオライトなどが挙げられる。シリカはフィラーとして広く使われているため、前述の多孔質無機微粒子の中でも特にシリカが、異物とならないため好ましい。
【0024】
本発明において、多孔質無機微粒子の内部は非中空型であることが好ましく、またその吸油量は高くなりすぎないことが好ましい。多孔質無機微粒子に中空型多孔質無機微粒子や高吸油型多孔質無機微粒子を使用すると、TPP−SCN含浸型多孔質無機微粒子を作製する際や、混練機等でエポキシ樹脂系組成物を調製する際に、多孔質無機微粒子が崩壊してしまう可能性があり、多孔質無機微粒子の崩壊は、エポキシ樹脂系組成物の、貯蔵安定性の悪化や流動性の悪化の原因となる可能性があるためである。
なお、本発明において、吸油量とは多孔質無機微粒子が最大限吸収することのできる溶液の量を指し、吸油能と同義で使用される。
【0025】
なお、上記の吸油量は、JIS K5101−13−2に従い、試料に煮あまに油を滴下しながらパレットナイフで練り合わせ、螺旋状に巻き起こる状態になった点を終点とし、下記式により求めることができる。
【0026】
【数1】

【0027】
本発明において、非中空型多孔質無機微粒子にTPP−SCNを内包または担持させる上で、非中空型多孔質無機微粒子の吸油量はある程度大きいほうが好ましい。具体的には、30〜300ml/100gであることが好ましく、50〜250ml/100gであることがより好ましく、70〜200ml/100gであることがさらに好ましい。吸油量が30ml/100gより少ないと、内包または担持可能なTPP−SCNの量が少なく、硬化促進能力を十分に発揮できない可能性がある。吸油量が300ml/100gより大きいと、非中空型多孔質無機微粒子の強度が不十分となり、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を作製する際や、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を使用しエポキシ樹脂系組成物を調製する際に、非中空型多孔質無機微粒子が崩壊する可能性がある。
【0028】
TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子の平均粒径は0.1〜50μmであることが好ましく、0.3〜20μmであることがより好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましい。0.1μm以下であると、樹脂組成物の増粘を引き起こす可能性があり、また粒子の凝集を招くことで、分散が困難になる可能性もある。15μm以上であると、薄型のプリプレグ、フィルムや両面銅張積層板などに使用しにくい欠点がある。 なお、平均粒径は、粒度分布測定装置を用いて測定し、累積50%となる粒子径(メジアン径)である。
本発明にかかる非中空型多孔質無機微粒子は、上記に説明する物性を満たすものであれば、市販品を入手して使用することができる。
【0029】
本発明のTPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子の作製方法としては特に限定されないが、TPP−SCNを溶媒に溶解して得られる溶液に、非中空型多孔質微粒子を浸漬することにより、TPP−SCNが速やかに非中空型多孔質微粒子に吸着され、次いで溶媒を除去することにより得ることができる。
TPP−SCNはクロロホルム、ジメチルスルホキシド等への溶解度が比較的高いが、これらの溶媒に対しても溶解度が充分ではないため、加熱した上で浸漬することが好ましい。
【0030】
非中空型多孔質無機微粒子が内包または担持するTPP−SCNの量は、当該微粒子の吸油量に依存し、本発明に使用されるTPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子は、内包または担持するTPP−SCNの量が最大になるように調製される。そのため、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子は、非中空型多孔質無機微粒子の吸油量より過剰となるTPP−SCN溶液を用いて、含浸させ、調製することが望ましい。
【0031】
<エポキシ樹脂組成物>
エポキシ樹脂系組成物は、フェノール樹脂系硬化剤と硬化性エポキシ樹脂とTPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子とを少なくとも含んでなり、これらを混合するだけで、ただちにエポキシ樹脂系組成物を調製できる。
【0032】
本発明におけるTPP−SCN含浸型多孔質無機微粒子は、TPP−SCNの融点が300℃以上と高く、また各樹脂への溶解性が比較的低いため、そして、非中空型、かつ吸油量が30〜300ml/100gである多孔質無機微粒子は構造的に強靭なため、TPP−SCN含浸型多孔質無機微粒子を樹脂に加熱下配合した際に、内包または担持されたTPP−SCNが樹脂中へ溶け出すこと、および、多孔質無機微粒子が崩壊することによってTPP−SCNが樹脂中に放出される可能性は低くなり、硬化反応を最小限に抑えることができる。その結果、樹脂系組成物の貯蔵保存性を向上させることが出来る。
【0033】
また、硬化促進剤を直接添加せずに、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子を用いることによって、硬化促進剤を樹脂に溶融混練時にエポキシ樹脂系組成物中に容易に均一分散させることが容易となり、非中空型多孔質無機微粒子はTPP−SCNの硬化促進能力に影響を及ぼさないため、硬化時の加熱条件下で速硬化することができる。
【0034】
エポキシ樹脂系組成物は、膨張係数を小さくするために、公知の各種無機充填剤を含有することができる。無機充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化アルミニウムなどを挙げることができる。またそれらは、シランカップリング剤などのカップリング剤で表面処理してもよい。その他、エポキシ樹脂系組成物に添加される公知の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、イオントラップ剤、離型剤、カーボンブラックなどの顔料などが挙げられる。
【0035】
エポキシ樹脂系組成物のうち、本発明にかかるTPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子の含有量は、硬化促進剤成分の内包または担持量によるので特に限定しないが、硬化性エポキシ樹脂100質量部に対して2.0質量部〜20質量部であることが好ましく、更に好ましくは5.0質量部〜15.0質量部である。かかる含有量が2.0質量部より少ないと、硬化促進効果を十分に発揮することができない場合があり、また、20.0質量部より多い場合、エポキシ樹脂系組成物の硬化が早過ぎることが懸念されるためである。一方で、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子の含有量は、エポキシ樹脂系組成物の保存安定性には影響を与えない。
【0036】
フェノール樹脂系硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂中のエポキシ当量と、フェノール樹脂の水酸基当量との当量比を考慮して決定される。一般的には、エポキシ当量と水酸基当量との当量比が1:0.1〜1.5、より好ましくは1:0.8〜1.2となるように、フェノール樹脂系硬化剤の含有量を決定する。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂系組成物は場合により溶剤を含んでいてもよい。溶剤を含むエポキシ樹脂系組成物(ワニス)はガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙などの繊維質基材に含浸させ加熱乾燥して得たプリプレグを熱プレス成形することにより、エポキシ樹脂系硬化物とすることが出来る。このエポキシ樹脂系組成物の溶剤含有量は、本発明のエポキシ樹脂系組成物と該溶剤の総量に対して通常10〜70重量%、好ましくは15〜70重量%程度である。
【0038】
また、エポキシ樹脂系組成物を溶解または分散させる溶剤としては、例えばγ−ブチロラクトン類、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶剤、テトラメチレンスルフォン等のスルフォン類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤、好ましくは低級アルキレングリコールモノ又はジ低級アルキルエーテル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶剤、好ましくは2つのアルキル基が同一でも異なってもよいジ低級アルキルケトン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤が挙げられる。これらは単独であっても、また2以上の混合溶剤であってもよい。
【0039】
以下、本発明にかかるエポキシ樹脂系組成物のワニス、およびプリプレグの製造方法について説明する。
まず、硬化性エポキシ樹脂、フェノール樹脂、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子等を溶剤に投入して溶解させる。この際、必要に応じて加熱してもよい。また必要に応じて、無機充填剤等を添加し、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状のエポキシ樹脂系組成物が調製される。
【0040】
得られたワニス状のエポキシ樹脂系組成物を前述の繊維質基材に含浸し、加熱乾燥することによりBステージ化を行い、プリプレグを得ることができる。加熱乾燥時の温度は、60℃以上が好ましく、TPP−SCN含浸非中空型多孔質無機微粒子に内包または担持されたTPP−SCNが樹脂中に溶け出す恐れがあるため、140℃以下が好ましい。このプリプレグは多層基板などにおける層間絶縁層として使用することが出来る。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び試験例を以って、本発明の有用性について具体的に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0042】
〈製造例1〉TPP−SCN含浸非中空型多孔質シリカMC1−TPP−SCNの作製
攪拌装置、還流冷却管、および温度計を装備した1Lの四つ口フラスコにテトラフェニルホスホニウムチオシアネート(北興化学工業社製、商品名:TPP−SCN、融点300℃以上)75gおよびクロロホルム900gを投入し、30℃まで加熱することで均一溶液を得た。これに非中空型多孔質シリカ(平均粒径:2μm、比表面積:350m/g、吸油量150ml/100g)100gを添加し、30℃で2時間攪拌後、反応液を濾過し、得られた残渣を乾燥することで、TPP−SCN含浸非中空型多孔質シリカ(以下、MC1−TPP−SCNと呼ぶ。)を120g得た。
TPP−SCN含浸非中空型多孔質シリカをSEM観察して得られた写真を図1に示す。SEM写真から多孔質の崩壊は認められず、真球状であることが分かる。
【0043】
〈製造例2〉TPP−SCN含浸非中空型多孔質シリカMC2−TPP−SCNの作製
攪拌装置、還流冷却管、および温度計を装備した1Lの四つ口フラスコにテトラフェニルホスホニウムチオシアネート(北興化学工業社製、商品名:TPP−SCN、融点300℃以上)75gおよびクロロホルム900gを投入し、30℃まで加熱することで均一溶液を得た。これに非中空型多孔質シリカ(平均粒径:5μm、比表面積:400m/g、吸油量130ml/100g)100gを添加し、30℃で2時間攪拌後、反応液を濾過し、得られた残渣を乾燥することで、TPP−SCN含浸非中空型多孔質シリカ(以下、MC2−TPP−SCNと呼ぶ。)を116g得た。
TPP−SCN含浸非中空型多孔質シリカをSEM観察して得られた写真を図2に示す。SEM写真から多孔質の崩壊は認められず、真球状であることが分かる。
【0044】
〈製造例3〉TPP−SCN含浸中空型多孔質シリカMC3−TPP−SCNの作製
攪拌装置、還流冷却管、および温度計を装備した1Lの四つ口フラスコにテトラフェニルホスホニウムチオシアネート(北興化学工業社製、商品名:TPP−SCN、融点300℃以上)75gおよびクロロホルム900gを投入し、30℃まで加熱することで均一溶液を得た。これに中空型多孔質シリカ(平均粒径:10μm、比表面積:500m/g、吸油量140ml/100g)100gを添加し、30℃で2時間攪拌後、反応液を濾過し、得られた残渣を乾燥することで、TPP−SCN含浸中空型多孔質シリカ(以下、MC3−TPP−SCNと呼ぶ。)を114g得た。
TPP−SCN含浸中空型多孔質シリカをSEM観察して得られた写真を図3に示す。SEM写真から多孔質の崩壊した様子が分かる。
【0045】
〈製造例4〉TPP−SCN含浸高吸油型多孔質シリカMC4−TPP−SCNの作製
攪拌装置、還流冷却管、および温度計を装備した1Lの四つ口フラスコにテトラフェニルホスホニウムチオシアネート(北興化学工業社製、商品名:TPP−SCN、融点300℃以上)75gおよびクロロホルム900gを投入し、30℃まで加熱することで均一溶液を得た。これに高吸油型多孔質シリカ(平均粒径:5μm、比表面積:680m/g、吸油量370ml/100g)100gを添加し、30℃で2時間攪拌後、反応液を濾過し、得られた残渣を乾燥することで、TPP−SCN含浸高吸油型多孔質シリカ(以下、MC4−TPP−SCNと呼ぶ。)を128g得た。
TPP−SCN含浸高吸油型多孔質シリカをSEM観察して得られた写真を図4に示す。SEM写真から多孔質の崩壊した様子が分かる。
【0046】
〈製造例5〉TPP含浸非中空型多孔質シリカMC1−TPPの作製
攪拌装置、還流冷却管、および温度計を装備した500mLの四つ口フラスコにトリフェニルホスフィン(北興化学工業社製、商品名:TPP、融点82℃)150gを投入し、トルエン150gに溶解させた。これに非中空型多孔質シリカ(平均粒径:2μm、比表面積:350m/g、吸油量150ml/100g)100gを添加し、室温で2時間攪拌後、反応液を濾過し、得られた残渣を乾燥することで、TPP含浸非中空型多孔質シリカ(以下、MC1−TPPと呼ぶ。)を160g得た。
【0047】
〈製造例6〉TPP含浸非中空型多孔質シリカMC2−TPPの作製
攪拌装置、還流冷却管、および温度計を装備した500mLの四つ口フラスコにトリフェニルホスフィン(北興化学工業社製、商品名:TPP、融点82℃)150gを投入し、トルエン150gに溶解させた。これに非中空型多孔質シリカ(平均粒径:5μm、比表面積:400m/g、吸油量130ml/100g)100gを添加し、40℃で2時間攪拌後、反応液を濾過し、得られた残渣を乾燥することで、TPP含浸非中空型多孔質シリカ(以下、MC2−TPPと呼ぶ。)を154g得た。
【0048】
〈実施例1〉
エポキシ樹脂のNC−3000(エポキシ当量274、日本化薬社製)28.0質量部、フェノール樹脂系硬化剤のMEH−7851M(水酸基当量210、明和化成社製)21.2質量部、MC1−TPP−SCN2.5質量部をメチルエチルケトン25重量部に投入し、80℃に加熱・混合した後、室温まで冷却しエポキシ樹脂系組成物のワニスを得た。ここで、エポキシ当量と水酸基当量の当量比は、1.0である。本ワニスを厚さ約100μmのガラス布に含浸後、120℃で10分乾燥してプリプレグを得た。
得られたプリプレグをビニール袋中で揉んで粉出しを行い、ガラス布を除くことで、ゲルタイム、レオメーター、熱時硬度の測定用のエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0049】
〈実施例2〉
MC1−TPP−SCN2.5質量部に代えて、MC2−TPP−SCN2.8質量部とした以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0050】
〈比較例1〉
MC1−TPP−SCN2.5質量部に代えて、MC3−TPP−SCN2.5質量部とした以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0051】
〈比較例2〉
MC1−TPP−SCN2.5質量部に代えて、MC4−TPP−SCN1.6質量部とした以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0052】
〈比較例3〉
MC1−TPP−SCN2.5質量部に代えて、TPP(北興化学工業社製)0.4質量部とした以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0053】
〈比較例4〉
MC1−TPP−SCN2.5質量部に代えて、TPP−SCN(北興化学工業社製)0.4質量部とした以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0054】
〈比較例5〉
MC1−TPP−SCN2.5質量部に代えて、MC1−TPP1.0質量部とした以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0055】
〈比較例6〉
MC1−TPP−SCN2.5質量部に代えて、MC2−TPP1.0質量部とした以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂系組成物を得た。
【0056】
〔ゲルタイム測定〕
JIS K 6910記載のゲル化時間測定方法に準じ、鋼板温度を175℃として、実施例1〜2および比較例1〜6で得られたエポキシ樹脂系組成物のゲルタイム(GT)を測定した。本測定において、ゲル化試験器としては日新科学社製GT―Dを使用した。
【0057】
〔レオメーター測定〕
実施例1〜2および比較例1〜6で得られたエポキシ樹脂系組成物の加熱時の粘度変化を、レオメーターにより経時測定した。レオメーターとしてはレオテック社製コーンプレート型レオメーターRC20−CPSを使用し、エポキシ樹脂系組成物を175℃熱板上で測定した。
【0058】
〔熱時硬度測定〕
実施例1〜2および比較例1〜6で得られたエポキシ樹脂系組成物の熱時硬度を、デュロメーターにより経時測定した。デュロメーターとしてはテクロック社製デュロメーターGS−720Gを使用し、エポキシ樹脂系組成物を175℃熱板上で測定した。
【0059】
各例の配合、および当該組成物を調製直後から6ヶ月間40℃で保存した後のGT測定結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すように、本発明にかかるエポキシ樹脂系組成物は、40℃で保存した場合でもゲル化時間は全く変化せず、貯蔵安定性に極めて優れているといえる(実施例1、2)。
一方、比較例1、2の場合には、40℃で短期保存の場合はゲル化時間の変化は少ないが、長期間保存するとゲル化時間が短くなった。初期硬化が進んだことを示唆しており、実施例1、2と比較すると、長期貯蔵安定性に劣るといえる。
【0062】
比較例3、4の場合には、40℃で保存すると短期間でゲル化時間が大幅に短くなった。初期硬化が進んだことを示唆しており、明らかに貯蔵安定性に劣るといえる。よって硬化促進剤を非中空型多孔質無機微粒子(吸油量30〜300ml/100g)に内包または担持することが、貯蔵安定性付与には重要であるといえる。
比較例5、6の場合にも、40℃で保存すると徐々にゲル化時間が短くなった。これは、エポキシ樹脂系組成物のワニスを作製中に、溶剤として用いたMEKにより、内包したTPPがマイクロカプセル外に溶出したためと考えられる。
【0063】
次に、実施例1、2、比較例1〜6について、レオメーター測定結果を表2に、熱時硬度測定結果を表3に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
表2、3から、本発明にかかるエポキシ樹脂系組成物(実施例1、2)は、TPP−SCNそのものを用いた場合(比較例4)と比較し、エポキシ樹脂系組成物の硬化力損失は殆どないことが分かる。また熱時硬度測定結果から、本発明にかかるエポキシ樹脂系組成物(実施例1、2)は、硬化促進剤にTPP(比較例3)もしくはTPP含浸非中空型多孔質無機微粒子(比較例5、6)を用いた場合と比較し、エポキシ樹脂系組成物の硬化力が高い、つまり速硬化性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のエポキシ樹脂系組成物は、貯蔵安定性に優れ、併せて、硬化力も備えもち、かつプリプレグにした際も貯蔵安定性を損なわないため、例えば、各種小型の電気・電子部品内の回路材料における接続材料として、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂硬化剤、(C)テトラフェニルホスホニウムチオシアネート含浸非中空型多孔質無機微粒子を少なくとも含有し、当該非中空型多孔質無機微粒子の吸油量が30〜300ml/100gであることを特徴とするエポキシ樹脂系組成物。
【請求項2】
非中空型多孔質無機微粒子がシリカ、珪酸カルシウム、アパタイト、アルミナ、ゼオライトから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂系組成物。
【請求項3】
さらに無機充填剤を含有することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のエポキシ樹脂系組成物。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のエポキシ樹脂系組成物を溶媒に溶解して得られるワニス。
【請求項5】
請求項4に記載のワニスを繊維質基材に含浸させた後、60℃〜140℃で乾燥して得られるプリプレグ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−67795(P2013−67795A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−198599(P2012−198599)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】