説明

エポキシ樹脂組成物、及びエポキシ樹脂

【課題】耐熱性に優れたエポキシ樹脂、及び該エポキシ樹脂に用いることができるエポキシ樹脂組成物の提供。
【解決手段】一般式(A1)で表される化合物(A)と、エポキシ基及び芳香族炭化水素基を有する化合物(B)とを配合してなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物;前記エポキシ樹脂組成物は、さらに、硬化促進剤が配合されてなることが好ましい;前記エポキシ樹脂組成物を硬化してなることを特徴とするエポキシ樹脂。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた新規なエポキシ樹脂、及び該エポキシ樹脂に用いることができるエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、多官能性エポキシ化合物と硬化剤化合物との反応で形成される3次元網目構造体である。エポキシ樹脂は優れた熱的、機械的、電気的性質を有するため、接着剤、塗料、電気・機械用材料、土木建築材料など、多方面において使用されている。近年、エポキシ樹脂の応用は、航空機材料のような高性能複合材料や、プリント配線基板、LSI封止材のような電子材料等の先端技術分野にも拡がりつつある。
【0003】
現在、エポキシ樹脂としては、成形加工性に優れ、硬化物がバランスの取れた性質を示すことから、エポキシ基及び芳香族炭化水素基を有するエポキシ化合物と、フェノール化合物とを反応させて得られるものが一般的に用いられている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−105062号公報
【特許文献2】国際公開第07/013284号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、エポキシ樹脂の応用が拡がるなか、より高性能のエポキシ樹脂への要求がある。特に、半導体、自動車や分散電源のインバータ等の用途では、その製造段階や使用段階で150℃程度の熱が発生することもあるため、耐熱性を有するエポキシ樹脂が要求される。
しかしながら上記特許文献1〜2記載の、フェノール化合物を硬化剤として用いた従来のエポキシ樹脂は、成形加工性に優れるものの、そのガラス転移温度(Tg)は150℃前後が限界であり、耐熱性に劣るという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、耐熱性に優れたエポキシ樹脂、及び該エポキシ樹脂に用いることができるエポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、 ピロガロールから合成される多官能フェノール二量体化合物を硬化剤として用いることで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記の特徴を有するエポキシ樹脂を提供するものである。
(1)下記一般式(A1)で表される化合物(A)と、エポキシ基及び芳香族炭化水素基を有する化合物(B)とを配合してなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【0007】
【化1】

【0008】
(2)化合物(B)が、下記一般式(B1)で表される化合物であることを特徴とする(1)のエポキシ樹脂組成物。
【0009】
【化2】

[式中、Aは芳香族炭化水素基であり、X、Yはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭化水素基でありn1、n2はそれぞれ独立に1以上の整数であり、mは0以上の整数である。但し、mが0の場合、n1は2以上の整数である。式中の複数のA、X、Yはそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。]
【0010】
(3)前記式(B1)中、Aがビフェニル、ナフタレン、又はアントラセンの核から水素原子を2つ以上除いた基であることを特徴とする(2)のエポキシ樹脂組成物。
(4)さらに、硬化促進剤が配合されてなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかのエポキシ樹脂組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれかのエポキシ樹脂組成物を硬化してなることを特徴とするエポキシ樹脂。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、耐熱性、難燃性、及び成形加工性に優れたエポキシ樹脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】製造例1における、(a)化合物(A)−1、(b)DMSO、及び(c)ピロガロールのH−NMRの測定結果を示す図である。
【図2】製造例2における化合物(A)−2のH−NMRの測定結果を示す図である。
【図3】製造例1〜2における化合物(A)−1、(A)−2、及びピロガロールのFT−IRの測定結果を示す図である。
【図4】実験例1〜2における、(a)実験例1(DMSO)で得られた化合物、(b)実験例2(DMSO)で得られた化合物、(c)ピロガロール、及び(d)フェニルグリシジルエーテルのH−NMRの測定結果を示す図である。
【図5】実験例1〜2における、(a)実験例1(CDCl)で得られた化合物、(b)実験例2(CDCl)で得られた化合物のH−NMRの測定結果を示す図である。
【図6】実験例1〜2における、実験例1〜2で得られた化合物、ピロガロール、及びフェニルグリシジルエーテルのFT−IRの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記一般式(A1)で表される化合物(A)と、エポキシ基及び芳香族炭化水素基を有する化合物(B)とを配合してなる。
【0014】
【化3】

【0015】
<化合物(A)>
本発明において、化合物(A)は、上記式(A1)で表される化合物であり、後述する化合物(B)と共に用いることで、化合物(B)の硬化剤として機能する。
上記式(A1)中、中央のメチレン基の結合位置は、特に限定されるものではなく、それぞれ独立に、2つのピロガロール環の4位に結合していても、5位に結合していてもよいが、合成のしやすさの点で、2つのピロガロール環の4位にそれぞれ結合していることが好ましい。
【0016】
化合物(A)は、公知の方法により製造することができる。
例えば、3官能フェノール構造であるピロガロールを用いて、その二量体を合成することにより、化合物(A)を得ることができる。具体的には、例えば、酸の存在下で、ピロガロールと、ホルムアルデヒドとを攪拌し、反応させることにより化合物(A)を製造することができる。
使用する酸としては、ピロガロールとホルムアルデヒドとの反応を進行させ得るものであれば特に限定されるものではなく、塩酸、硝酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸等の強酸を用いることができる。酸の使用量は、酸の種類により適宜決定すればよい。
使用するピロガロール、ホルムアルデヒドとしては、市販のものを用いることができる。
ホルムアルデヒドは、ピロガロール1モルに対して、0.1〜1モルを用いることが好ましく、0.3〜0.7モルを用いることがより好ましい。
反応条件は、適宜決定すればよいが、例えば、反応温度は20〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましく、反応時間は1〜50時間が好ましく、3〜30時間がより好ましい。
反応終了後、反応液に炭酸水素ナトリウムや水酸化ナトリウム等の塩基を添加して、反応液中の酸を中和してもよい。塩基の使用量は、用いた酸の量及び塩基の種類に応じて適宜決定すればよい。
このようにして得られる反応液はさらに、必要に応じて減圧濃縮を行った後、例えば、分液漏斗に移して溶媒を用いて分液し、さらに必要に応じて濃縮、乾燥を行うことにより目的物を得ることができる。溶媒としては、酢酸エチル等を用いることができる。なお、得られる化合物(A)は高い吸湿性を有することが本発明者らの検討により判明しているため、分液後に乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば減圧オーブンを用いて、40〜80℃、好ましくは55〜65℃で、6〜20時間乾燥させることが好ましい。
得られた化合物の構造は、H−核磁気共鳴(NMR)スペクトル法、13C−NMRスペクトル法、19F−NMRスペクトル法、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)等を用いた赤外線吸収(IR)スペクトル法、質量分析(MS)法、元素分析法、X線結晶回折法等の一般的な有機分析法により確認できる。
【0017】
以下に、化合物(A)として、ピロガロールの4位同士がメチレン基により結合し2量体を形成した化合物の合成経路を示す。
【0018】
【化4】

【0019】
なお、上記のような方法により化合物(A)を製造した場合、生成物には、化合物(A)と、化合物(A)の原料である単量体ピロガロールとが存在し得る。具体的には、上記のようにして化合物(A)を製造した場合、生成物は通常、30モル%以上の化合物(A)と70モル%以下の単量体ピロガロールとを含むものとなるが、このような比率の生成物をそのまま用いた場合にも、耐熱性、難燃性、及び成形加工性に優れるという本発明の効果を有するエポキシ樹脂を得ることができる。そのため、本発明では、生成物の単離を行い、化合物(A)のみからなるものをエポキシ樹脂組成物に用いてもよく、単離を行わず、化合物(A)と単量体ピロガロールとの混合物をエポキシ樹脂組成物に用いてもよい。
このとき、化合物(A)と単量体ピロガロールとの混合物中の単量体ピロガロールの割合は、80モル%以下であることが好ましい。単量体ピロガロールが80モル%以下であることで、本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂の耐熱性がより向上する。また、化合物(A)中に1モル%以上の単量体ピロガロールが含有されることにより、化合物(A)と化合物(B)との反応性が向上するため、好ましい。
本発明において化合物(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のエポキシ樹脂組成物における化合物(A)の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1個に対し水酸基0.5から1.2の範囲であることが好ましく、0.6から1.0の範囲であることがより好ましい。
【0020】
<化合物(B)>
本発明において、化合物(B)は、エポキシ基及び芳香族炭化水素基を有する化合物である。
化合物(B)は、エポキシ基及び芳香族炭化水素基を有し、且つ、前記化合物(A)と共に反応させることにより好適にエポキシ樹脂を形成し得るものであれば特に限定されるものではないが、下記一般式(B1)で表される化合物であることが好ましい。
【0021】
【化5】

[式中、Aは芳香族炭化水素基であり、X、Yはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭化水素基であり、n1、n2はそれぞれ独立に1以上の整数であり、mは0以上の整数である。但し、mが0の場合、n1は2以上の整数である。式中の複数のA、X、Yはそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。]
【0022】
上記式(B1)中、Aは芳香族炭化水素基である。本発明において芳香族炭化水素基とは、芳香族性を示す環を有する炭化水素基をいう。
Aの芳香族炭化水素基として具体的には、ベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、インダセン、ターフェニル、ビフェニレン、ターフェニル、アセナフチレン、フェナレン等の芳香族性を有する化合物の核から水素原子を2つ以上除いた基が挙げられる。
また、これら芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。ここで芳香族炭化水素基が置換基を有するとは、芳香族炭化水素基を構成する水素原子の一部又は全部が置換基により置換されたことをいう。置換基としては、アルキル基、フッ素原子、フッ素化アルキル基、水酸基等が挙げられる。
置換基としてのアルキル基としては、鎖状のアルキル基であることが好ましく、その炭素数は1〜10であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1〜4であることがさらに好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
置換基としてのフッ素化アルキル基としては、上記炭素数1〜10の鎖状のアルキル基の水素原子の一部又は全部がフッ素により置換された基が挙げられる。
なかでも、本発明におけるAの芳香族炭化水素基としては、ビフェニル、ナフタレン、又はアントラセンの核から水素原子を2つ以上除いた基であることが好ましい。
また、上記式(B1)中に複数のAがある場合、つまり、mが1以上である場合は、該複数のAは同じであっても異なっていてもよいが、工業上の理由から、同じであることが好ましい。
【0023】
上記式(B1)中、Xは置換基を有していてもよい炭化水素基である。
Xの炭化水素基は、芳香族炭化水素基であってもよく、芳香族性を有しない脂肪族炭化水素基であってもよい。
芳香族炭化水素基としては、上述したAの1価の芳香族炭化水素基の核からさらに水素原子を1つ除いた2価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基は、鎖状であっても環状であってもよく、また、飽和であっても不飽和であってもよいが、飽和炭化水素基であることが好ましい。
鎖状の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。直鎖状のアルキレン基として具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。また、分岐鎖状のアルキレン基として具体的には、−C(CH−、−CH(CH)−、−CH(CHCH)−、−C(CH)(CHCH)−、−C(CH)(CHCHCH)−、−C(CHCH−等のアルキルメチレン基;−CH(CH)CH−、−CH(CH)CH(CH)−、−C(CHCH−、−CH(CHCH)CH−、−C(CHCH−CH−等のアルキルエチレン基等が挙げられる。
環状の脂肪族炭化水素基は、単環式基であっても、多環式基であってもよい。具体的には、シクロペンタン、シクロへキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等から水素原子を2つ除いた2価のモノシクロアルキレン基;アダマンタン、イソボルナン、ノルボルナン等から水素原子を2つ除いた2価のポリシクロアルキレン基等が挙げられる。
【0024】
また、これら脂肪族炭化水素基は、炭化水素基を構成する炭素原子の一部又は全部がヘテロ原子により置換されていてもよく、炭化水素基を構成する水素原子の一部又は全部が置換基により置換されていてもよい。
炭素原子を置換するヘテロ原子としては、例えば酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等が挙げられる。ヘテロ原子により置換されていてもよい脂肪族炭化水素基として具体的には、−O−、−C(O)O−、等が挙げられる。
水素原子を置換する置換基としては、フッ素原子、フッ素化アルキル基、酸素原子、水酸基等が挙げられる。また、脂肪族炭化水素基が環状である場合は、置換基として炭素数1〜10のアルキル基も挙げられる。ここで、フッ素化アルキル基、炭素数1〜10のアルキル基としては、上述したAの芳香族炭化水素基の置換基のフッ素化アルキル基、炭素数1〜10のアルキル基と同様のものが挙げられる。
【0025】
なかでも、本発明におけるXとしては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、アルキルメチレン基、アルキルエチレン基、これらの基と酸素原子が結合した2価の基、これらの基の一部又は全部の水素原子が水酸基により置換かれた基が好ましい。
【0026】
上記式(B1)中、Yは置換基を有していてもよい炭化水素基である。
Yの置換基を有していてもよい炭化水素基としては、上記Xの置換基を有していていもよい炭化水素基と同様のものが挙げられ、なかでも鎖状であること好ましく、ヘテロ原子で置換されたアルキレン基がより好ましく、−O−CH−が特に好ましい。
上記XとYとは、同じであっても異なっていてもよい。
また、上記式(B1)中に複数のYがある場合、つまり、mが1以上である場合は、該複数のYは同じであっても異なっていてもよいが、工業上の理由から、同じであることが好ましい。
【0027】
上記式(B1)中、n1は1以上の整数であり、その数はAの芳香族炭化水素基の種類に応じて決定すればよいが、1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましく、1又は2であることが特に好ましい。
上記式(B1)中、n2は1以上の整数であり、その数はAの芳香族炭化水素基の種類に応じて決定すればよいが、1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましく、1又は2であることが特に好ましい。
上記式(B1)中、mは0以上の整数であり、0〜5であることが好ましく、0〜3であることがより好ましく、0又は1であることが特に好ましい。
但し、mが0の場合、n1は2以上の整数である。すなわち、本発明において、式(B1)で表される化合物は、その構造内に少なくとも2つのエポキシ基を有する。
【0028】
以下に、上記式(B1)で表される化合物の好ましい例として、下記式(B2)〜(B3)で表される化合物を示す。
【0029】
【化6】

[式中、A、X、Yは前記同様であり、式中の複数のA、Yは同じであっても異なっていてもよい。]
【0030】
また、上記式(B2)で表される化合物の好ましい具体例を式(B21)〜(B22)として、上記式(B3)で表される化合物の好ましい具体例として、下記式(B31)〜(B32)で表される化合物を示す。
【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

[式中、pは1以上の整数であり、qは0以上の整数である。]
【0033】
上記式(B22)において、pは1以上の整数であり、1〜8であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。
上記式(B32)において、qは0以上の整数であり、0〜2であることが好ましく、0〜1であることがより好ましい。
【0034】
化合物(B)は、公知の方法により製造してもよく、市販のものを用いてもよい。
また、化合物(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のエポキシ樹脂組成物において、化合物(B)は、化合物(A)と単量体ピロガロールとの合計フェノール当量を1として、化合物(B)のエポキシ当量が1〜8となるように配合されることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、2〜3であることがさらに好ましい。
【0035】
<その他の成分>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記化合物(A)及び化合物(B)以外に、その他の成分を配合することができる。その他の成分としては、例えば、硬化促進剤が挙げられる。
硬化促進剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。具体的には、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩を有する化合物、芳香族アミン化合物等が挙げられる。
ホスフィン化合物としては、エチルホスフィン、プロピルホスフィン等のアルキルホスフィン、フェニルホスフィン等の1級ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン等のジアルキルホスフィン、ジフェニルホスフィン、メチルフェニルホスフィン、エチルフェニルホスフィン等の2級ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、アルキルジフェニルホスフィン、ジアルキルフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリ−p−スチリルホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリ−4−メチルフェニルホスフィン、トリ−4−メトキシフェニルホスフィン、トリ−2−シアノエチルホスフィン等の3級ホスフィン等が挙げられる。
ホスホニウム塩を有する化合物としては、テトラフェニルホスホニウム塩、アルキルトリフェニルホスホニウム塩等を有する化合物が挙げられ、具体的には、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−メチルフェニルボレート、ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネート等が挙げられる。
芳香族アミン化合物としては、イミダゾール類が挙げられ、具体的には、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−ビニル−2−メチルイミダゾール、1−プロピル−2−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、1−シアノメチル−2−メチル−イミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。
これら硬化促進剤は、常法により製造してもよく、市販のものを用いてもよい。
また、硬化促進剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明のエポキシ樹脂組成物に硬化促進剤を配合する場合、硬化促進剤の配合量は、化合物(A)と(B)との合計100質量部に対し、0.1〜5.0質量部であることが好ましく、0.1〜3.0質量部であることがより好ましく、0.3〜1.5質量部であることが特に好ましい。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記化合物(A)、化合物(B)、及び硬化促進剤以外に、本発明の効果を妨げない範囲で、その他の添加剤、例えば、着色剤、染料、安定剤、離型剤等を配合することができる。これら着色剤、染料、安定剤、離型剤としては、公知のものを用いることができる。
【0037】
[エポキシ樹脂]
本発明のエポキシ樹脂は、上記エポキシ樹脂組成物を硬化してなるものである。
エポキシ樹脂組成物を硬化させる方法は特に限定されるものではなく、エポキシ樹脂組成物を加熱する、エポキシ樹脂組成物に紫外線を照射する等の方法により行うことができる。
エポキシ樹脂組成物を加熱する場合の加熱温度及び加熱時間は特に限定されるものではなく、エポキシ樹脂組成物の配合に応じて適宜決定することが好ましい。例えば、加熱温度は、80〜300℃であることが好ましく、100〜280℃であることがより好ましく、150〜250℃であることが特に好ましい。加熱時間は、0.5〜12時間であることが好ましく、1〜10時間であることが好ましく、1〜8時間であることが特に好ましい。
また、エポキシ樹脂組成物を加熱する際、段階的に昇温しながら加熱することも好ましい。具体的には、110〜130℃で1〜2時間の後、170〜190℃で1〜2時間加熱する方法;110〜130℃で1〜2時間の後、170〜190℃で1〜2時間加熱し、さらに190〜210℃で1〜2時間加熱する方法;110〜130℃で1〜2時間の後、170〜190℃で1〜2時間加熱し、さらに210〜230℃で1〜2時間加熱する方法;110〜130℃で1〜2時間の後、130〜150℃で1〜2時間加熱し、さらに170〜190℃で1〜2時間加熱する方法等が挙げられる。
【0038】
上記のようにして得られる本発明のエポキシ樹脂は、耐熱性に優れたものとなる。
この理由は明らかではないが、本発明の化合物(A)は、同一平面上に3つのOH基を有し、それらのOH基が化合物(B)のエポキシ基と反応する。そのため、従来のフェノール化合物からなる硬化剤、具体的にはフェノールノボラック樹脂等のように、OH基がランダムに存在する硬化剤を用いた場合と比べて、同一平面上で反応できるOH基の数が多く、そのため、化合物(A)と(B)とを反応させる際の架橋密度が高くなり、耐熱性及び難燃性に優れると推察される。
また、本発明のエポキシ樹脂は、化合物(A)としてベンゼン骨格を有するため、従来のフェノール化合物からなる硬化剤を用いた場合と同様に、成形加工性に優れたものとなると思われる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0040】
[製造例1]
(化合物(A)−1の合成)
500mLナスフラスコにピロガロール(和光純薬社製)37.81g(0.3mol)、pH4.0に調製したHCl(和光純薬社製) 225mL、ホルマリン(和光純薬社製)12.174g(0.15mol)の順に加えたのち、70℃で一晩攪拌し、化合物(A)−0を得た。溶液は赤く変色した。
次いで、使用した酸を中和するために、NaHCO 1.89mgを加え、55℃でエバポレーションし、分液漏斗に移した後、酢酸エチルを溶媒として用いて分液し、目的物である赤色固体を得た(収量:35.96g(うち、水層由来:15.10g、酢酸エチル層由来:20.86g)、収率:86%)。なお、酢酸エチル層から得られた赤色固体を化合物(A)−1として以下の実施例に用いた。
【0041】
[製造例2]
(化合物(A)−2の合成)
上記製造例1と同様にして得た化合物(A)−0に対して中和を行わず、これを化合物(A)−2とした(収量:38.22g、収率:96%)。
【0042】
[製造例3]
(化合物(A)−3の合成)
上記製造例2と同様にして得た化合物(A)−2の吸湿性を下げるため、60℃の減圧オーブンで一晩(24時間)減圧乾燥し、化合物(A)−3を得た。
【0043】
上記により得られた化合物(A)−1〜(A)−3について、H−NMR(DRX300、BRUKER社製)及びFT−IRによる分析を行い、化合物(A)−1〜(A)−3が下記構造を有する化合物であることを確認した。なお、H−NMRの内部標準は
溶媒アセトンD6、TMSを基準ピークとした。図1(a)〜(c)に化合物(A)−1及び単量体ピロガロールのH−NMRの結果を、図2に化合物(A)−2のH−NMRの結果を、図3に化合物(A)−1、(A)−2、単量体ピロガロールのFT−IRの結果を示す。
【0044】
【化9】

【0045】
[実験例1〜2]
(フェノール性OH基とエポキシ基との配合割合に関する検討)
3官能のフェノールであるピロガロール(PY;フェノール当量42)のすべてのフェノール性−OH基が反応するか否かを検討した。エポキシ基を有する試薬として、フェニルグリシジルエーテル(PGE)(フェノール当量 150.07)、硬化促進剤としてテトラフェニルホスホニウムチオシアネート(TPPB−SCN)(PY+PGE100質量部に対して0.5質量部)を用いた。
【0046】
(実験例1 <PY:PGE=1:3の系>)
化学量論量のPGEを用いることで、すべての−OH基が反応するか否かを検討した。具体的には、PY 0.9993g、PGE 3.5707g、TPPB−SCN0.01785g(PY+PGE100質量部に対して0.5質量部)を加え、120℃に加熱しておいたオイルバスに浸し、120℃で1時間の後、140℃で2時間、さらに180℃で2時間の硬化条件で加熱し、室温まで一晩冷却後、粘性固体を得た。これを上記同様にしてH−NMR、及びFT−IRにより測定した。
H−NMRの結果を図4(a)及び図5(a)に、FT−IRの結果を図6に示す。図4(a)はDMSOにより測定した結果であり、図5(a)はCDClにより測定した結果である。また、図4(c)にPYのみの結果、図4(d)にPGEのみの結果を示す。
図4(a)及び図5(a)の結果、PYのフェノール性−OH基のピーク(8.0〜9.0ppm)が観察されず、PGEのエポキシ環のピークも観測されなかった。また、図6の結果、910cm−1のエポキシ環のピークが消失していた。このことから、PYのすべてのフェノール性−OH基が、PGEのエポキシ基と反応していることが示唆された。
【0047】
(実験例2 <PY:PGE=1:2の系>)
化学量論量から少し減らしたPGEを用いることで、未反応−OH基の有無を検討した。PY1.0020 g、PGE 2.3821 g、TPPB−SCN (0.5 phr) 0.01193 gを加え、120℃に加熱しておいたオイルバスに浸し、120℃で1時間の後、140℃で2時間、さらに180℃で2時間の硬化条件で加熱し、室温まで一晩冷却後、粘性固体を得た。得られた粘性固体を上記同様にしてH−NMR及びFT−IRにより測定した。
H−NMRの結果を図4(b)及び図5(b)に、FT−IRの結果を図6に示す。図4(b)はDMSOにより測定した結果であり、図5(b)はCDClにより測定した結果である。また、図4(c)にPYのみの結果、図4(d)にPGEのみの結果を示す。
図4(b)及び図5(b)の結果、観察されるはずのPYのフェノール性−OH基のピーク(8.0〜9.0ppm)が観察されなかった。
【0048】
[実施例1〜8、比較例1〜3]
(示差走査熱量測定)
化合物(A)、化合物(B)、及び硬化剤の硬化反応挙動を示差走査熱量測定(DSC)により検討した。
表1に示す各成分を混合し、アセトン2g程度(エポキシ樹脂と同量程度)を加えて溶解し、均一な溶液を得た。そして、60℃減圧オーブン中で脱気処理を行い、示差走査熱量計(DSC−60、島津製作所製)を用いて、窒素雰囲気下(20mL/分)、昇温温度(10℃/分)で発熱ピークを観測して、硬化反応特性を確認した。硬化開始温度であるTonset、及び発熱ピーク温度であるTpeakを表1に併記する。
【0049】
下記表1中の略号のうち、(A)−1〜(A)−3はそれぞれ製造例1〜3における化合物(A)−1〜(A)−3を示し、それ以外はそれぞれ以下の意味を示す。また、化合物(A)及び化合物(B)の配合量は、表1中の[ ]内の数値に、化合物(A)はフェノール当量、化合物(B)はエポキシ当量として数値で示し、硬化促進剤の配合量は、表1中の[ ]内の数値に、化合物(A)と(B)との合計100質量部に対する量(質量部)(per hundred resin;phr)として示す。
(A)−4:ピロガロール(和光純薬社製)
(B)−1:ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)(JER(登録商標)828、ジャパンエポキシレジン社製;前記式(B31)で表される化合物)
(B)−2:ビフェニル型エポキシ樹脂(NC−3000、日本化薬社製;前記式(B22)で表される化合物)
(B)−3:ナフタレン型エポキシ樹脂(EPICLON(登録商標)HP−4032D、DIC社製;前記式(B21)で表される化合物)
(B)−4:ジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂(JER(登録商標)YX8800、ジャパンエポキシレジン社製;前記式(B32)で表される化合物)
(C)−1:テトラフェニルホスホニウムチオシアネート(TPP−SCN)(北興化学社製)
(C)−2:ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネート(TPPB−SCN)(北興化学社製)
(C)−3:1−シアノメチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ−CN)(四国化成社製)
(C)−4:テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−メチルフェニルボレート(TPP−MK)(北興化学社製)
【0050】
【表1】

【0051】
上記の結果から、本発明に係る実施例1〜8のエポキシ樹脂は、比較例1〜3のエポキシ樹脂と同様に、通常の条件において反応及び成形できることが確認できた。
【0052】
[実施例9〜26、比較例4〜7]
(エポキシ樹脂の製造)
表2に示す各成分を混合し、溶媒としてアセトン(エポキシ樹脂と同量程度)を加えて溶解し、均一な溶液を得た。
実施例9〜11、13〜26、並びに比較例4〜5及び7では、得られた溶液をテフロン(登録商標)膜上に流し込み、真空ポンプを用いて脱気させたものを注型板に流し入れた後、再度真空ポンプを用いて脱気し、オーブンを用いて表2中に示す温度及び時間で加熱し、硬化させてエポキシ樹脂を作製した。
実施例12及び比較例6では、得られた溶液をポリイミド膜上に流し込み、真空ポンプを用いて脱気させたものをポリイミド膜から剥離し、ある程度細かくしたものを注型板に流しいれた後、再度真空ポンプを用いて脱気し、オーブンを用いて表2中に示す温度及び時間で加熱し、硬化させてエポキシ樹脂を作製した。
【0053】
下記表2中の略号は全て表1と同様のものを示し、(A)−1〜(A)−4と、(B)−1〜(B)−4とは、化学量論量にて用いた。また、硬化促進剤の配合量は、比較例1は1phr、それ以外は全例0.5phrとした。
【0054】
(ガラス転移点・熱膨張率)
上記により得られたエポキシ樹脂を用い、熱機械分析(TMA)を行い、ガラス転移点(Tg)及び熱膨張率(CTE)について検討した。
具体的には、島津製作所社製のTMA‐60(商品名)を用いて、昇温速度5℃/分、圧縮法、荷重5g、空気100ml/分で測定を行った。サンプルのエポキシ樹脂の試験片は5(縦)×5(横)×10(高さ)mmに磨いたものを最終硬化温度で10分加熱してひずみをとった後に測定した。TMA曲線の傾きより、Tg(℃)と、50〜100℃におけるCTE(ppm)を算出した。結果を表2に示す。
【0055】
(架橋密度)
上記により得られたエポキシ樹脂を用い、動的粘弾性試験(DMA)を行い、架橋密度について検討した。
具体的には、SIIナノテクノロジー社製のDMS‐6100(商品名)を用いて、昇温速度5℃/分、周波数1Hzの空気中で測定を行った。
貯蔵弾性率E’を求め、tanδのピークからTgを求めた。さらにガラス状態の貯蔵弾性率から架橋密度を算出した。架橋密度は以下のゴム状態式(1)から算出した。
【0056】
【数1】

【0057】
ρ:架橋密度(mol/m
E’:(Tg+20)℃における貯蔵弾性率(Pa)
φ:フロント係数(一般的にはφ=1(‐))
R:気体定数8.31(J/K・mol)
T:(Tg+20)(K)である。
十分に貯蔵弾性率が一定になる温度とされるE’=(Tg+40)℃における貯蔵弾性率(Pa)、T=(Tg+40)(K)を用いて算出した。結果を表2に示す。
【0058】
(原料質量減少温度・残渣量)
上記により得られたエポキシ樹脂を用い、熱重量測定(TGA)を行い、原料質量が減少する温度及び残渣量について検討した。
具体的には、島津製作所社製のTGA‐50(商品名)を用い、昇温速度5℃/分、窒素20ml/分で測定を行い、40℃時点の質量を基準として、質量が5%減量したときの温度をTd5、10%減量したときの温度をTd10とした。結果を表2に示す。
また、40℃時点の質量を基準として、800℃まで加熱した際の残渣量(質量%)を求め、化学的な耐熱性を評価した。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
上記の結果から、本発明に係る実施例9〜26のエポキシ樹脂は、比較例4〜7と比較して、Tgが顕著に高く、耐熱性に優れることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のエポキシ樹脂は、耐熱性に優れるため、耐熱性の要求される半導体、自動車や分散電源のインバータ等の製造分野で好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A1)で表される化合物(A)と、エポキシ基及び芳香族炭化水素基を有する化合物(B)とを配合してなることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
化合物(B)が、下記一般式(B1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】

[式中、Aは芳香族炭化水素基であり、X、Yはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭化水素基であり、n1、n2はそれぞれ独立に1以上の整数であり、mは0以上の整数である。但し、mが0の場合、n1は2以上の整数である。式中の複数のA、X、Yはそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。]
【請求項3】
前記式(B1)中、Aがビフェニル、ナフタレン、又はアントラセンの核から水素原子を2つ以上除いた基であることを特徴とする請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、硬化促進剤が配合されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなることを特徴とするエポキシ樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−25800(P2012−25800A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163030(P2010−163030)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第59回高分子学会年次大会実行委員会、第59回高分子学会年次大会予稿集、平成22年5月11日
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】