説明

エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた建築材

【課題】本発明の課題は、塩素などを含有する薬品と接触しても臭気物質が生成しにくいエポキシ樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】本発明により、エポキシ樹脂、アミン硬化剤および金属塩を含んでなる、建築材用エポキシ樹脂組成物およびエポキシ系建築材が提供される。本発明においては、金属塩として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、特にCa(OH)を使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂組成物に関する。特に本発明は、エポキシ樹脂組成物と塩素との接触による異臭物質の生成が抑制された、床材等の建築用途に適したエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品に関し、クロロフェノール類を原因物質とする異味異臭のトラブルが報告されている。例えば、野菜の栽培時に散布された農薬が残留、分解して、薬品様臭を呈するジクロロフェノールが生成することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、水中に含まれていたフェノールと残留塩素が反応し、ジクロロフェノール及びトリクロロフェノールを生成し、食品を汚染するトラブルが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
その他にも、殺菌や漂白を目的として木製品に散布された次亜塩素酸ナトリウムなどに含まれる残留塩素と木材中のリグニン及びその分解物とが反応して、ジクロロフェノール及びトリクロロフェノールが生成することも報告されている(例えば、非特許文献3参照)。また、生成したトリクロロフェノールが変換菌によって非常に官能閾値が低いトリクロロアニソールに変換され、トリクロロアニソールによって食品の香味が損なわれることが知られている。さらに、防黴剤として木製品に散布されたトリクロロフェノールが変換菌によってトリクロロアニソールに変換され、生成したトリクロロアニソールの臭気により食品が汚染され、食品の回収等の大きな問題を引き起こすことが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
【非特許文献1】「横浜市衛生研究所における食品の苦情対応事例−薬品臭等に関する苦情−」、平成20年2月28日掲載、横浜市ホームページ(http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/)
【非特許文献2】荻原勉ほか、「クロロフェノール類を異臭の原因物質とした甘納豆の苦情事例」、東京都健康安全研究センター年報、54,227−230(2003)
【非特許文献3】Die Weinwirtschaft Technik, 13,9,276−279(1985)
【非特許文献4】日本包装学会誌,Vol.3,No.1,35(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、エポキシ樹脂は、光沢があり、強度などの機械的特性に優れていること、薬品に対して優秀な耐性を有すること、硬化中に放出される揮発性分が少ないこと、接着性が良好であることなどから、床材などの土木建築用途、塗料、接着剤などに広く使用されている。特に、清潔さが求められる食品製造場や食品加工場、病院などの床材として、エポキシ樹脂が多用されている。
【0005】
しかしながら、エポキシ樹脂系建築材に由来する臭気については、従来あまり検討されておらず、溶剤臭の低減が検討される程度であった。例えば、特開2005−48118号には、原料の溶解や施工性の向上のために使用される溶媒をより低臭気の溶媒に変更することによって、建築作業の環境改善を図ることが記載されている。このように、従来、エポキシ樹脂については、施工時や施工直後の溶剤臭を低減するための検討はなされていたものの、硬化後のエポキシ樹脂に由来して発生する臭気については十分な検討がなされていない。
【0006】
このような状況の中、本発明者は、床材などの建築材として使用されるエポキシ樹脂が塩素などのハロゲンと接触するとジクロロフェノールやトリクロロフェノールを始めとする各種ハロゲン化フェノールが生成し、臭気の原因となることを見出した。さらに本発明者は、生成したジクロロフェノールやトリクロロフェノールが、極めて官能閾値が低く、カビ臭の原因となるトリクロロアニソールに微生物によって変換され、異臭の原因となることを突き止めた。
【0007】
特に、清潔さが求められる製造現場、病院などでは、洗浄、除菌などを目的として塩素を含む薬剤が使用され、床材などの建築材が薬剤中の塩素と接触する機会が比較的多い。例えば、食品製造後、塩素を含む薬剤やその水溶液を用いて製造ラインの洗浄が行われることがあるが、その廃液がエポキシ樹脂組成物からなる床材などに接触することがある。また、殺菌や除菌を目的として、エポキシ樹脂系の建築材に塩素を含む薬剤やその水溶液を直接散布することもある。
【0008】
したがって、エポキシ樹脂系の建築材が塩素に接触すると、ジクロロフェノール、トリクロロフェノールを始めとする各種塩素化フェノールが生成し、さらに、微生物によってトリクロロアニソール(TCA)が生成して、異臭トラブルが発生するおそれがある。例えば、これらの異臭成分が環境中に揮散して異臭を生じたり、また、異臭成分が食品製造工程において生じると食品を汚染し食品の香味を損なうことになる。
【0009】
さらに、近年、塩素系殺菌剤に代えて臭素系殺菌剤の使用が拡大しているが、塩素系薬品の場合と同様に、フェノール系物質と臭素系薬品との接触によりトリブロモアニソール(TBA)が発生し、異臭トラブルが発生するおそれもある。
【0010】
そこで、本発明者はこのような問題点に着目し、建築材などに用いられるエポキシ樹脂が塩素などのハロゲンと接触した際に生成する各種ハロゲン化フェノールを抑制し、エポキシ樹脂に由来する臭気を低減させることを検討した。すなわち、本発明の課題は、エポキシ樹脂に由来する臭気の発生が抑制され、優れた低温硬化性、高速硬化性及び良好な作業性を有するエポキシ樹脂であって、硬化物の機械的強度、耐薬品性、耐水性等の特性に優れたエポキシ樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、硬化剤としてアミン系硬化剤を使用し、金属水酸化物を添加することにより、塩素などのハロゲンと接触した場合でも臭気物質が生成しにくいエポキシ樹脂硬化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、1つの態様において本発明は、エポキシ樹脂、アミン硬化剤および金属塩を含んでなる建築材用エポキシ樹脂組成物である。好ましい態様において、金属塩として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、特にCa(OH)を使用することができる。さらに、他の態様において本発明は、エポキシ樹脂、アミン硬化剤および金属塩から得られるエポキシ系建築材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエポキシ樹脂は、塩素などのハロゲンと接触してもハロゲン化フェノールが生成しにくく、臭気の発生が低減される。したがって、本発明のエポキシ樹脂組成物は、床材などの建築材料として有用であり、特に、臭気の発生を防止することが求められる製造現場、特に食品加工現場や食品製造現場、あるいは、薬品との接触が比較的多い病院や研究施設などの建築材料として極めて好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
1つの態様において、本発明は、床材を始めとするエポキシ系建築材である。本発明の建築材は、エポキシ樹脂、アミン系硬化剤、金属塩から得られる。本発明の建築材は、現場で施工して製造したものでもよく、あらかじめ製造したものでもよい。具体的には、本発明の建築材を現場で製造する場合、塗床材などを現場で施工する態様が好ましく、建築材をあらかじめ製造する場合、シート状や板状の建築材をあらかじめ製造し、現場に適用する態様が好ましい。また、好ましい態様において、本発明における建築材は、床材、防水材、防食材、ライニング材、塗料などとして好適に用いることができる。コンクリ―トの被覆材、橋梁などの構造物の補強材などとして用いることもできる。さらに、本発明の建築材は、屋外のみならず、特に屋内に塗布施工する用途に好適に用いることができる。
【0015】
また他の態様において、本発明は、建築材用のエポキシ樹脂組成物である。本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、金属塩を含んでなる。ここで本発明のエポキシ樹脂組成物は、各成分が混合されたものだけでなく、各成分が一式になったキット(組み合わせ物)をも包含する。したがって、ある態様において、本発明のエポキシ樹脂組成物は、建築材を製造するためのキットである。例えば、本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(主剤)と硬化剤とが組み合わされ、使用時に主剤と硬化剤とを混合してエポキシ樹脂を硬化させる2液型エポキシ樹脂組成物であってもよい。本発明のエポキシ樹脂組成物は1液型のエポキシ樹脂組成物であってもよいが、好ましい態様において本発明のエポキシ樹脂組成物は2液型エポキシ樹脂組成物である。本発明において、後述する金属塩は、エポキシ樹脂および硬化剤とは別の成分としてキットを構成してもよく、また、あらかじめエポキシ樹脂または硬化剤に配合しておいてもよい。
【0016】
さらに他の態様において、本発明は、エポキシ樹脂に由来する臭気の抑制方法である。すなわち、ある観点からは、本発明は、エポキシ樹脂とアミン硬化剤に金属塩を添加することを含んでなる、エポキシ樹脂に由来する臭気の抑制方法である。
【0017】
(エポキシ樹脂)
本発明においてエポキシ樹脂とは、高分子内にエポキシ基を有し、グラフト重合により硬化させる熱硬化性樹脂をいう。本明細書においてエポキシ樹脂という場合、硬化前のプレポリマーまたは硬化後のポリマーを意味する。
【0018】
本発明で使用できるエポキシ樹脂としては、その構造を特に限定されるものではなく、種々のエポキシ樹脂を使用できる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格やナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、多官能性エポキシ樹脂など種々のエポキシ樹脂を使用でき、これらを単独でも2種類以上の混合物として使用しても良い。本発明において好ましいエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0019】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、市販品を使用することができ、例えば、エピコート825、エピコート827、エピコート828(ジャパンエポキシレジン社製)、D.E.R.331(ダウケミカル社製)、エピクロン830、エピクロン840、エピクロン850(大日本インキ化学社製)、アデカレジンEP−4000、アデカレジンEP−4100、アデカレジンEP−4100G、アデカレジンEP−4901(旭電化社製)、エポミックR110、エポミックR140(三井化学社製)等を挙げることができる。
【0020】
また、本発明で使用するエポキシ樹脂の分子量は、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは350〜1000、特に好ましくは350〜500である。これらの分子量のエポキシ樹脂を使用すると建築材として好適な物性が得られる。樹脂の性状も特に制限されず、液体状や固体状のものを使用しうるが、常温で硬化するものが好ましい。
【0021】
本発明においては希釈剤を配合することが出来る。希釈剤を配合することにより、施工時の作業性を向上させることができる。希釈剤としては、反応性、非反応性を問わず種々の希釈剤を使用できる。反応性希釈剤としては、末端にエポキシ環を1以上有するグリシジルエーテルやグリシジルエステルを使用することができ、非反応性希釈剤としては、ベンジルアルコールをはじめとした各種希釈剤を使用できる。また、希釈剤は、単独でも2種類以上を配合しても良い。本発明においては、フェノール類とハロゲンに由来する異臭物質の発生を抑制するため、希釈剤として、スチレン化フェノール、フェニルグリシジルエーテルなどのフェノール系希釈剤を使用しないことが好ましく、非フェノール系希釈剤を使用することが好ましい。非フェノール系希釈剤としては、例えば、非フェノール系のアルコール、ケトン、エステル、グリコールエーテル、芳香族炭化水素などが挙げられ、具体的には、トルエン、キシレン、ブチルアルコール、プロピルアルコール、ベンジルアルコール、メチルエチルケトン、アセトンといった溶剤あるいは水を例示することができる。また本発明においては、希釈剤が改質剤としても機能するような場合であっても、希釈剤とする。
【0022】
本発明においては充填材を使用することもできる。充填材としては、一般に知られる種々の無機充填材、有機充填材、有機・無機複合充填材を単独または2種類以上を配合して使用することができる。好ましい態様においては、充填材として無機充填材が使用され、例えばシリカ、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレーおよび硫酸バリウムなどが好ましい。
【0023】
その他にも、本発明のエポキシ樹脂には、目的に応じて公知の添加剤を添加することができ、例えば、顔料、界面活性剤、硬化促進剤などを配合することができる。
【0024】
(硬化剤)
本発明においては、硬化剤としてアミン系硬化剤を使用する。本発明で使用する硬化剤は、アミン系であれば特に限定されるものではなく、種々の脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン等を使用することが出来る。また、これらアミンを変性した変性ポリアミンを使用してもよい。変性方法としては、特に限定されるものではなく、カルボン酸で変性したポリアミノアミド、フェノール類とホルムアルデヒドで変性したマンニッヒ変性ポリアミン、エポキシ樹脂との反応物であるエポキシアダクト変性ポリアミン、マイケル付加反応物であるシアノエチル化変性ポリアミンなどが挙げられる。特に本発明においては、硬化させたエポキシ樹脂組成物に含まれるフェノール類を少なくすることにより臭気物質の発生を抑制することができるため、フェノール類を含まないアミン系硬化剤が好ましい。なかでも、仕上がり性、硬化性が良好で、残留するフェノール化合物が少なく異臭物質の生成が効果的に抑制されるため、エポキシアダクト変性ポリアミンが望ましい。また、本発明のアミン系硬化剤は、単独でも2種以上を混合して使用してもよく、さらに水を含有してもよい。
【0025】
アミン系硬化剤として用いる具体的なポリアミンとしては、例えば、m−キシレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミン類;1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−3,6−ジエチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン類;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン類が挙げられる。また、これに限定されるものではないが、ポリアミノアミドとしては、ポリアミン類とダイマー酸等のカルボン酸類とを反応させたもの、マンニッヒ変性ポリアミンとしては、前記ポリアミン類と、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類およびフェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、レゾルシン等の芳香核に少なくとも一個のアルデヒド反応点を有するフェノール類と反応させることによって得られるものを使用することができる。さらに、エポキシアダクト変性ポリアミンとしては、前記ポリアミン類と、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ブチルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類またはカルボン酸のグリシジルエステル等の各種のエポキシ樹脂とを反応させることによって得られる物を挙げることができる。
【0026】
また、本発明の硬化剤には希釈剤を配合してもよい。希釈剤を配合することにより作業性を向上させることができる。希釈剤としては、種々の希釈剤を使用でき、例えば、トルエン、キシレン、芳香族混合炭化水素などの希釈剤を使用することができる。この際、希釈剤は、単独で使用しても2種類以上を配合して使用してもよい。
【0027】
(金属塩)
本発明のエポキシ樹脂組成物は金属塩を含んで構成される。本発明において使用する金属塩としては、フェノール系化合物とフェノラート(フェノキシド)を形成し得る金属を含んでいれば特に制限はなく、ナトリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、鉄などの金属を有する塩を使用することができる。本発明の金属塩としては金属の水酸化物が好ましく、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム等が挙げられるが、安全性や塩素化フェノールの生成抑制効果を考慮すると水酸化カルシウムが特に望ましい。また、上記金属塩は、単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0028】
本発明において金属塩の添加方法は特に制限されず、エポキシ樹脂側、アミン系硬化剤側のどちらに配合してもよく、別成分として用いてもよい。金属塩の配合量は、本発明の目的を達しうる限り特に制限されないが、硬化したエポキシ樹脂の光沢性および平滑性などの仕上がり、ならびに、施工時の作業性などの観点から、エポキシ樹脂硬化物に対し、好ましくは0.1〜10重量%、より望ましくは0.5〜8重量%、さらに望ましくは1〜6重量%、最も望ましくは4〜6重量%程度である。
【0029】
本発明において、金属塩の添加によりエポキシ樹脂に由来する臭気が抑制されるメカニズムについて、その詳細は明らかでなく、本発明は以下の理論に拘束されるわけでないが、金属塩の添加によりエポキシ樹脂または硬化剤に含まれるフェノール系化合物がフェノラートを形成し、塩素などのハロゲンとの反応によるハロゲン化フェノールの生成が抑制されるためと推測される。
【0030】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂とアミン系硬化剤との配合割合は特に制限されず、エポキシ樹脂の用途や作業性に応じて調整することができる。好ましい態様において、エポキシ樹脂組成物のエポキシ基100に対するアミン系硬化剤の活性水素の当量比は80〜120であり、硬化物の機械的強度の観点から90〜110であることがより好ましい。
【0031】
さらに、本発明においては、エポキシ樹脂組成物にラジカル捕捉剤を添加することが好ましい。本発明に使用するラジカル捕捉剤としては、構造中にフェニル基を持たないもしくは分解によりフェニル基を生成しないラジカル捕捉剤が好ましいため、非フェノール系のラジカル捕捉剤が望ましい。具体的には、アミン系化合物、硫黄系化合物、リン系化合物、鉄、錫、亜硝酸、チオ硫酸、有機酸を有する化合物などが好ましく、分子量が1000以下であることがより好ましい。具体的には、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル4)セバケートなどのヒンダードアミン系化合物やフェニル-α-ナフチルアミン、テトラメチルチウラムジサルファイド、トリラウリトリチオフォスファイト、塩化鉄(II)などの2価鉄塩、塩化すず(II)などの2価すず塩、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩、チオ硫酸ナトリウム,チオ硫酸カリウムなどのチオ硫酸塩、硫化カリウムなどのの硫化物塩などを挙げることができる。本発明において、ラジカル捕捉剤を添加することによって異臭を抑制できる理由は定かでなく、また、本発明は以下のメカニズムに拘束されるものではないが、ラジカル捕捉剤によって、塩素や臭素などのハロゲンに起因するエポキシ樹脂の分解やハロゲン化が抑制されるため、建築材に由来する異臭物質の生成が抑制されるものと考えられる。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤の他に、硬化促進剤、可塑剤、染料、顔料、難燃剤、充填剤、レベリング剤、消泡剤などの公知の添加剤をさらに含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種類のみを使用しても2種類以上を組み合わせて使用してもよく、また、エポキシ樹脂やアミン系硬化剤にあらかじめ混合しても、別成分として組み合わせてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書においては、特に断らない限り、配合量その他は重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0034】
種々のエポキシ樹脂に対し本発明の金属塩を添加し、金属塩添加による塩素化フェノールの生成抑制効果を確認した。使用した材料、試験方法は以下のとおりである。
【0035】
材料
[基剤A] ケミクリートE基剤(エービーシー商会製):分子量約370のビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂系塗り床材基剤
[基剤B]
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量約370) 50部
・フェノール系希釈剤(スチレン化フェノールなど) 10部
・充填剤(シリカ粉) 40部
・着色剤 5部
[基剤C]
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量約370) 50部
・非フェノール系希釈剤(芳香族アルコール) 10部
・充填剤(シリカ粉) 45部
・着色剤 5部
・水酸化カルシウム 5部
[硬化剤A] ケミクリートE硬化剤(エービーシー商会製):変性脂肪族ポリアミンを主成分とする硬化剤
[硬化剤B] ケミクリートE・NP硬化剤(エービーシー商会製):エポキシアダクト変性アミン系硬化剤を主成分とする硬化剤
以下の実験においては、(実験1〜2)で基材Aと硬化剤A、(実験3〜7)で基材Bと硬化剤B、(実験8)で基材Cと硬化剤Bを使用した。表1に、具体的な配合および水酸化カルシウムの添加量を示す。
【0036】
試験方法
上記エポキシ樹脂系塗床材の基剤に水酸化カルシウムを添加したものを、実施例とした。エポキシ樹脂系塗床材の基剤および硬化剤を5:1の割合で混合攪拌し、ステンレス板に約1kg/mとなるよう均一に塗布した。塗布後7日間養生し、床材を作製した。
【0037】
(トリクロロフェノール生成量)
上記のようにして作製したエポキシ系塗床材について、塩素との接触によるトリクロロフェノール(TCP)の生成量を測定した。一般にフェノール化合物と残留塩素が反応すると塩素化フェノールがモノクロロフェノール、ジクロロフェノール、トリクロロフェノールの順に生成されるが、短時間でトリクロロフェノールまで反応が進むことから、本実施例ではTCPの生成量を測定した。
【0038】
作製した床材400cmに対して次亜塩素酸水溶液(有効塩素濃度2000ppm)を10ml塗布し、その上に線状低密度ポリエチレンフィルム(膜厚:0.12mm、密度:0.912g/cm)を密着させて、乾燥防止のためにアルミホイルで覆い、20〜25℃にて15時間静置する。その後、TCPが収着した線状低密度ポリエチレンフィルムをn−ヘキサンに48時間浸漬し、TCPを浸漬液に溶出させる。ヘキサン浸漬液をロータリーエバポレーターで濃縮後、ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメーターで分析し、2,4,6−トリクロロフェノールの生成量を測定した。
【0039】
なお、本試験方法によるTCP生成量の検出限界は0.1μg/mである。
【0040】
(塗布時の作業性)
上記エポキシ系塗床材について、攪拌直後および10分後における作業性を5段階で評価した。評価基準は以下のとおりである。
5:極めて良好、4:良好、3:標準、2:やや劣る、1:劣る
(床材の平滑性)
上記のようにして硬化させたエポキシ系塗床材について、床材の平滑性を5段階で評価した。評価基準は以下のとおりである。
5:極めて良好、4:良好、3:標準、2:やや劣る、1:劣る
【0041】
【表1】

表1に結果を示す。この結果が示すように、種々のエポキシ床材に水酸化カルシウムを配合することで、床材と塩素とが接触した際のTCP生成量が低減した。水酸化カルシウムを配合することにより、塗膜に残存するフェノールと塩素との反応が抑制され、塩素接触時のトリクロロフェノールの生成が抑制されたものと推測される。
【0042】
表1から明らかなように、一般的な塗り床材に水酸化カルシウムを配合したところ、TCPの生成が85%抑制された(実験例1〜2)。また、硬化剤としてエポキシアダクト変性硬化剤を使用し、水酸化カルシウムの配合量を変化させたところ、水酸化カルシウムの配合量が増えるにつれてTCPの生成量が抑制された(実験例3〜7)。さらに、水酸化カルシウムの配合に加えて、希釈剤として非フェノール系の希釈剤を使用すると、TCPの生成量が極めて抑制された(実験例8)。さらにまた、本件発明に係る床材は、施工時の作業性や床材の平滑性についても問題のないレベルだった。
【0043】
このように、本発明のエポキシ塗料は、残留塩素との接触によって生成する塩素化フェノール量が少なく、エポキシ系樹脂に起因する異臭を抑制することができる。また、本発明においては、金属塩によりフェノールとハロゲンとの反応を抑制して異臭物質の生成を減少させるため、本発明の建築材は臭素系薬品に対しても異臭が発生しくにいものと考えられる。したがって、本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、エポキシ系床材に起因する異臭トラブルを回避することが可能であり、製造工程や環境中への汚染物質の揮散を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、アミン硬化剤および金属塩を含んでなる、建築材用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属塩がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物である、請求項1に記載の建築材用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属塩がCa(OH)である、請求項2に記載の建築材用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
非フェノール系希釈剤をさらに含んでなる、請求項2または3に記載の建築材用エポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−292980(P2009−292980A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149949(P2008−149949)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【出願人】(598108412)株式会社エービーシー建材研究所 (13)
【出願人】(000127639)株式会社エービーシー商会 (28)
【Fターム(参考)】