説明

エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物の製造方法

【課題】電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質なエポキシ樹脂硬化物を与え、且つ成形性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】メソゲン基を含む液晶ユニットと、前記液晶ユニットの少なくとも片端に結合した柔軟ユニットと、末端のエポキシ基とを有するエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記柔軟ユニットは、以下の式:
【化1】


(式中、nは4以上の整数である)からなる群より選択される一種以上の基であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物の製造方法に関し、特に、各種電子機器に組み込まれる絶縁シートなどのエポキシ樹脂硬化物の製造に用いられるエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化・小型化・軽量化に伴い、電子部品の高密度化が進んでいる。これにより電子部品内での発熱量が著しく増大しており、部品の信頼性・寿命低下の一因となっている。このように、電子機器における熱問題は極めて重要な課題であり、その対策に使用される放熱材料には熱伝導性の更なる向上が求められている。放熱材料の中でも、特に電気絶縁性が求められる分野では樹脂が放熱材料として使用されているが、この樹脂の熱伝導性向上策としては、熱伝導性の高い無機セラミックスなどの無機充填材を添加する手法が一般的である。しかしながら、この方法では、添加量の制限から十分な熱伝導性を得ることが難しいため、樹脂自体の熱伝導性を向上させることが望まれている。
【0003】
以上のような理由から、樹脂自体において高い熱伝導率を達成するという課題は極めて重要なことであり、熱伝導率を向上させた樹脂硬化物を与えるものとして、メソゲン基を有するエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。このエポキシ樹脂組成物から得られるエポキシ樹脂硬化物は、メソゲン骨格が規則的に配向しているため、無機充填剤を添加しなくても0.6W/m・K以上の高い熱伝導率が得られることが特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4118691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているメソゲン基を有するエポキシ樹脂は融点が高く、硬化剤と均一に混合するためには高温で融解させる必要がある。そして、このエポキシ樹脂を高温下で硬化剤と混合した場合、エポキシ樹脂の硬化反応が急速に進み、ゲル化時間が短くなる。その結果、これらの成分の均一混合が難しく、均質なエポキシ樹脂硬化物が得られないという問題がある。さらに、シート状のエポキシ樹脂硬化物(例えば、絶縁シート)を製造する場合、溶剤を添加したエポキシ樹脂組成物が一般的に使用されるところ、特許文献1に記載のエポキシ樹脂は、溶剤に対する溶解性が低いため、このエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物ではシート状に成形することが難しいという問題もある。
従って、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質なエポキシ樹脂硬化物を与え、且つ成形性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質なエポキシ樹脂硬化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、メソゲン基を含む液晶ユニットを有するエポキシ樹脂において、液晶ユニットの少なくとも片端に所定の柔軟ユニットを導入することにより、融点を低下させると共に、エポキシ樹脂組成物に一般的に使用される溶剤に対する溶解性を向上させ得ることを見出した。さらに、本発明者らは、このエポキシ樹脂組成物を、特定の条件下で加熱して硬化させることにより、エポキシ樹脂硬化物の熱伝導性をより一層向上させ得ることを見出した。
すなわち、本発明は、メソゲン基を含む液晶ユニットと、前記液晶ユニットの少なくとも片端に結合した柔軟ユニットと、末端のエポキシ基とを有するエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記柔軟ユニットは、以下の式:
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、nは4以上の整数である)からなる群より選択される一種以上の基であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
また、本発明は、前記エポキシ樹脂組成物を加熱して硬化させる第1硬化工程と、前記第1硬化工程で得られたエポキシ樹脂硬化物を前記第1硬化工程における加熱温度よりも高い温度に加熱して、さらに硬化させる第2硬化工程とを含むことを特徴とするエポキシ樹脂硬化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質なエポキシ樹脂硬化物を与え、且つ成形性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質なエポキシ樹脂硬化物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1硬化工程及び第2硬化工程を行うことによって製造されるエポキシ樹脂硬化物の模式図である。
【図2】第2硬化工程のみを行うことによって製造されるエポキシ樹脂硬化物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本実施の形態のエポキシ樹脂組成物は、メソゲン基を含む液晶ユニットと、この液晶ユニットの少なくとも片端に結合した柔軟ユニットと、末端のエポキシ基とを有するエポキシ樹脂を含有する。
【0012】
液晶ユニットに含まれるメソゲン基としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものであり得る。ここで、メソゲン基とは、液晶性を示す官能基を意味し、例えば、安息香酸フェニル、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン、ジアゾベンゼン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン及びこれらの誘導体が挙げられる。液晶ユニット中のメソゲン基の数は特に限定されず、1つ以上であり得る。液晶ユニットが複数のメソゲン基を有する場合、メソゲン基は同一でも異なっていてもよい。
【0013】
液晶ユニットは、上記のようなメソゲン基を含むものであれば特に限定されない。ただし、熱伝導性の観点からは、液晶ユニットは、フェニルエステル構造、ビフェニルエステル構造、ビフェニルエーテル構造、フェニルケトン構造、ビフェニルケトン構造、フェニルアミド構造又はビフェニルアミド構造を有することが好ましく、下記の式で表されるビフェニルエステル構造(1)、ビフェニルエーテル構造(2)、ビフェニルケトン構造(3)又はビフェニルアミド構造(4)を有することがより好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
エポキシ樹脂中の液晶ユニットの数は特に限定されず、1つ以上であり得る。エポキシ樹脂中に複数の液晶ユニットが含まれる場合、液晶ユニットの種類は同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
柔軟ユニットは、エポキシ樹脂の融点を低下させると共に、溶剤に対するエポキシ樹脂の溶解性を向上させる効果を与えるユニットである。この柔軟ユニットは、液晶ユニットの少なくとも片端に結合しており、且つ下記の式で表される基である。
【0017】
【化3】

【0018】
上記式中、nは4以上の整数である。nが4未満であると、エポキシ樹脂の融点を低下させる効果や、溶剤に対するエポキシ樹脂の溶解性が十分でない。
ここで、柔軟ユニットは、液晶ユニットと直接結合することができるが、酸素などの所定の原子を介して結合していてもよい。合成の容易性の観点からは、柔軟性ユニットは酸素を介して液晶ユニットに結合していることが好ましい。
エポキシ樹脂中の柔軟ユニットの数は、液晶ユニットの数に応じて決定される。したがって、エポキシ樹脂中の柔軟ユニットの数は1つ以上である。エポキシ樹脂中に複数の柔軟ユニットが含まれる場合、柔軟ユニットの種類は同一であっても異なっていてもよい。
【0019】
エポキシ樹脂は、溶剤への溶解性の向上及び低融点化を図る観点から、分岐構造を有することができる。分岐構造としては、特に限定されることはなく、液晶ユニットが分岐していても、液晶ユニットの少なくとも片端に柔軟ユニットが2つ以上ずつ結合することによって分岐していてもよい。
【0020】
上記のような構造を有するエポキシ樹脂は、一般的に公知の合成手法により調製することができる。例えば、液晶ユニットや柔軟ユニットとなる原料化合物を反応させて結合した後、末端にエポキシ基を導入すればよい。この反応の具体的な条件については、使用する原料化合物や反応方法などによって異なるため、一義的に定義することができない。そのため、使用する原料化合物や反応方法などに応じて適宜設定する必要がある。
【0021】
本実施の形態のエポキシ樹脂組成物は、当該樹脂組成物を硬化させるために、硬化剤を含むことができる。この硬化剤は、エポキシ樹脂と架橋反応を生じさせることが可能なものであれば特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。硬化剤の例としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、及び無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物;ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物;無水フタル酸、及び無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物;ジシアンジアミド、及びアジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジド;並びにトリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン及びその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、及び2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類が挙げられる。これらの硬化剤は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
上記の硬化剤の中でも、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂硬化物中の分子鎖の液晶構造の配向性を向上させる観点から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエタン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ビフェノール及びジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ジアミン;ベンゼントリアミン、メラミン、2,4,6−トリアミノピリミジンなどのトリアミン;3,3’−ジアミノベンジジン、2,4,5,6−テトラアミノピリミジンなどのテトラアミン;並びにカテコール、メチルカテコール、ジメチルカテコール、ブチルカテコール、フェニルカテコール、メトキシカテコール、ピロガロール、メチルハイドロキノン、テトラヒドロキシベンゼン、ブロモカテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、メチル−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ジメチル−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ブチル−1,2−ジヒドロキシナフタレン、メトキシ−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシ−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシ−1,2−ジヒドロキシナフタレン、ブロモ−1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、メチル−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ジメチル−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ブチル−2,3−ジヒドロキシナフタレン、メトキシ−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシ−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシ−2,3−ジヒドロキシナフタレン、ブロモ−2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、メチル−1,8−ジヒドロキシナフタレン、ジメチル−1,8−ジヒドロキシナフタレン、ブチル−1,8−ジヒドロキシナフタレン、メトキシ−1,8−ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシ−1,8−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシ−1,8−ジヒドロキシナフタレン、及びブロモ-1,8-ジヒドロキシナフタレンなどの多価フェノール化合物が好ましい。
【0023】
本実施の形態のエポキシ樹脂組成物における硬化剤の配合量は、使用する成分に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、一般的に100質量部のエポキシ樹脂に対して0.1質量部以上200質量部以下である。
【0024】
本実施の形態のエポキシ樹脂組成物は、このエポキシ樹脂組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂硬化物の熱伝導性を向上させる観点から、無機充填材をさらに含むことができる。
無機充填材としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。無機充填材の例としては、ニッケル、スズ、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、コバルト、インジウム及びこれらの合金などの金属粒子;酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム及び酸化チタンなどの金属酸化物粒子;窒化ホウ素、窒化ケイ素及び窒化アルミニウムなどの金属窒化物粒子;炭化珪素、黒鉛、ダイヤモンド、非晶質カーボン、カーボンブラック及び炭素繊維などの炭素化合物粒子;石英及び石英ガラスなどのシリカ化合物粉類などが挙げられる。これらの無機充填材は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
また、上記の無機充填材の中でも、エポキシ樹脂硬化物の電気絶縁性の観点から、無機充填材は、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンド、石英、石英ガラスなどであること好ましい。
【0025】
無機充填材の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上150μm以下、より好ましくは3μm以上120μm以下である。無機充填材の平均粒径が0.1μm未満であると、二次凝集のために無機充填材をエポキシ樹脂組成物中に分散させることが困難になることがある。一方、無機充填材の平均粒径が150μmを超えると、エポキシ樹脂組成物をシート状に成形して硬化させた場合に、エポキシ樹脂硬化物の表面荒れが発生し易くなることがある。
【0026】
本実施の形態のエポキシ樹脂組成物における無機充填材の配合割合は、無機充填材がエポキシ樹脂硬化物中で好ましくは20体積%以上80体積%以下、より好ましくは30体積%以上70体積%以下となるような割合であることが望ましい。この範囲の割合であれば、エポキシ樹脂組成物をシート状に成形する場合に作業性が優れると共に、エポキシ樹脂硬化物の熱伝導性をより一層高めることができる。エポキシ樹脂硬化物における無機充填材の割合が20体積%未満であると、所望の熱伝導性を有するエポキシ樹脂硬化物が得られないことがある。一方、エポキシ樹脂硬化物における無機充填材の割合が80体積%を超えると、エポキシ樹脂組成物中に無機充填材を均一に分散させることが困難となり、作業性や成形性に支障を生じることがある。その結果、シート状のエポキシ樹脂硬化物を製造できない場合がある。
【0027】
また、無機充填材の濡れ性の改善や、エポキシ樹脂と無機充填材との界面の補強、無機充填材の分散性の向上を目的として、無機充填材にカップリング処理を施すこともできる。この処理に使用可能なカップリング剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。カップリング剤の例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びγ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらのカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
カップリング剤の使用量は、エポキシ樹脂やカップリング剤の種類などに応じて適宜設定すればよいが、一般的に、100質量部のエポキシ樹脂に対して0.01質量部以上1質量部以下である。
【0028】
本実施の形態のエポキシ樹脂組成物は、当該組成物の粘度を調整する観点から溶剤を含むことができる。溶剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。溶剤の例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、及びクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;フェノール、及びパラクロロフェノールなどのフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、及び1,2−ジメトキベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン;酢酸エチル;tert−ブチルアルコール;グリセリン;エチレングリコール;トリエチレングリコール;エチレンブリコールモノメチルエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル;エチルセルソルブ;ブチルセルソルブ;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;ピリジン;トリエチルアミン;テトラヒドロフラン;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;ブチロニトリル;二硫化炭素;メチルエチルケトン;シクロヘキサノン;シクロペンタノンなどが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
本実施の形態のエポキシ樹脂組成物における溶剤の含有量は、特に限定されることはなく、一般的に50質量%以上70質量%以下である。
【0029】
上記のような成分を含有する本実施の形態のエポキシ樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法に従って行うことができる。例えば、本実施の形態のエポキシ樹脂組成物は、以下のようにして製造することができる。
まず、所定量のエポキシ樹脂と、このエポキシ樹脂を硬化させるために必要な量の硬化剤とを混合する。次に、この混合物に溶剤を加えた後、無機充填材を加えて予備混合する。なお、エポキシ樹脂組成物の粘度が低い場合には、溶剤を加えなくてもよい。次に、この予備混合物を3本ロールやニーダなどを用いて混練することによってエポキシ樹脂組成物を得ることができる。なお、エポキシ樹脂組成物にカップリング剤を配合する場合、カップリング剤は混練工程前までに加えればよい。
【0030】
上記のようにして製造される本実施の形態のエポキシ樹脂組成物は、メソゲン基を含む液晶ユニットを有するエポキシ樹脂を含有しているので、特定の温度範囲において、メソゲン構造が規則的に配向して液晶状態となる性質を有している。液晶状態の種類としては、ネマティック相、スメクティック相、コレステリック相などが挙げられる。また、このエポキシ樹脂組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂硬化物(重合体)でも、液晶状態の場合と同じように、メソゲン構造が規則的に配向した構造を与えることができる。この配向構造は、メソゲン構造が一定方向に配向したスメクティック相及びネマティック相であることが好ましい。ここで、スメクティック相とは、メソゲン構造の長軸方向が一定の方向に向かって並んでおり、さらにメソゲン構造が層状に配置されている状態のものを意味する。また、ネマティック相とは、メソゲン構造の重心位置に秩序は無いが、その長軸方向が一定の方向に向かって並んでいる状態のものを意味する。このような配向構造の規則性が高いほど熱伝導性が高くなる。
【0031】
したがって、本実施の形態のエポキシ樹脂組成物から得られるエポキシ樹脂硬化物は、規則的に配向したメソゲン構造を有するため熱伝導性が高いと共に、樹脂を主成分としているため電気絶縁性が高い。また、本実施の形態のエポキシ樹脂組成物は、溶剤に対するエポキシ樹脂の溶解性に優れているため、成形性も良好である。
【0032】
実施の形態2.
実施の形態1のエポキシ樹脂組成物は、加熱して硬化させることにより、熱伝導性が高いエポキシ樹脂硬化物を形成することができるが、特定の条件下で加熱して硬化させることにより、熱伝導性がより一層高いエポキシ樹脂硬化物を形成することができる。
すなわち、本実施の形態のエポキシ樹脂硬化物の製造方法は、実施の形態1のエポキシ樹脂組成物を加熱して硬化させる第1硬化工程と、第1硬化工程で得られたエポキシ樹脂硬化物を第1硬化工程における加熱温度よりも高い温度に加熱して、さらに硬化させる第2硬化工程とを含む。
【0033】
以下、本実施の形態のエポキシ樹脂硬化物の製造方法について図面を用いて説明する。
本実施の形態のエポキシ樹脂硬化物の製造方法は、加熱温度が異なる2つの硬化工程を有する。
最初の硬化工程である第1硬化工程では、エポキシ樹脂組成物を比較的低い温度で加熱して硬化させることにより、分子鎖を高度に配向させる(図1(a))。図1(a)中、1は分子鎖、2は架橋部である。ここで、「比較的低い温度」とは、分子鎖を配向させながらエポキシ樹脂組成物を硬化させ得る温度を意味する。具体的な温度は、使用するエポキシ樹脂組成物などによって異なるため、一義的に定義することができないが、一般的に80℃以上200℃以下である。また、第1硬化工程における加熱時間も、使用するエポキシ樹脂組成物などによって異なるため、一義的に定義することができないが、一般的に0.5時間以上24時間以下である。
【0034】
第1硬化工程で得られるエポキシ樹脂硬化物は、X線散乱法により測定した散乱プロファイルにおいて少なくとも3つの散乱ピークを有することが好ましい。ここで、「散乱プロファイル」とは、X線散乱測定により得られる散乱強度を、散乱ピークに対応する波数(散乱ベクトル:q)の関数として表したものであり、「散乱ピーク」とは、散乱プロファイルをガウシアン関数で近似したときのピークをいう。
また、第1硬化工程で得られるエポキシ樹脂硬化物は、散乱ピークの強度を低周波数側から順にピーク強度(1)〜(3)としたときに、ピーク強度(1)に対するピーク強度(3)の強度比が0.05以上0.50以下であることが好ましい。また、ピーク強度(1)に対するピーク強度(2)の強度比は0.02以上0.20以下であることが好ましい。これらの強度比が上記範囲未満であると、分子鎖の配向が不十分であり、所望の熱伝導性を有するエポキシ樹脂硬化物が得られないことがある。一方、これらの強度比が上記範囲を超えると、剛性が低下し、エポキシ樹脂硬化物に割れや亀裂などが生じることがある。
【0035】
2つ目の硬化工程である第2硬化工程では、第1硬化工程における加熱温度よりも高い温度に加熱して、さらに硬化させることにより、エポキシ樹脂硬化物中の架橋密度を高める(図1(b))。ここで、「第1硬化工程における加熱温度よりも高い温度」とは、第1硬化工程における加熱温度よりも高く、且つエポキシ樹脂組成物の硬化温度範囲内の温度を意味する。具体的な温度は、使用するエポキシ樹脂組成物などによって異なるため、一義的に定義することができないが、一般的に150℃以上250℃以下である。また、第1硬化工程における加熱温度と第2硬化工程における加熱温度との差も、使用するエポキシ樹脂組成物などによって異なるため、一義的に定義することができないが、一般的に5℃以上100℃以下である。さらに、第2硬化工程における加熱時間も、使用するエポキシ樹脂組成物などによって異なるため、一義的に定義することができないが、一般的に0.5時間以上24時間以下である。
【0036】
本実施の形態のエポキシ樹脂硬化物の製造方法では、所望の形状のエポキシ樹脂硬化物を得るために、第1硬化工程の前に、エポキシ樹脂組成物を所望の形状に成形してもよい。例えば、シート状のエポキシ樹脂硬化物を製造する場合、第1硬化工程の前に、エポキシ樹脂組成物を基材上にシート状に塗工して乾燥させた後、上記の硬化工程を行えばよい。
基材上への塗工方法としては、特に限定されないが、バーコーター、マルチコーター、スピナー、ロールコーターなどの適切な塗工機を用いて行うことができる。また、エポキシ樹脂硬化物の表面品質を考慮し、キャスト法を用いてもよい。
また、基材に塗工したエポキシ樹脂組成物の乾燥は、室温で行うことができるが、必要に応じて80℃以上150℃以下に加熱することによって、溶剤などの揮発を促進させてもよい。
【0037】
上記のようにして製造される本実施の形態のエポキシ樹脂硬化物は、熱伝導性及び電気絶縁性が高いので、電子機器の放熱材料として一般的に使用されている絶縁シートとして用いることができる。
本実施の形態のエポキシ樹脂硬化物を絶縁シートとして用いる場合、絶縁シートの厚みは、好ましくは20μm以上800μm以下、より好ましくは30μm以上300μm以下である。絶縁シートの厚みが20μm未満であると、部材間に挟着されたとき、挟着面の凹凸に対する追従性が不十分で、界面熱抵抗が上昇することがある。一方、絶縁シートの厚みが800μmを超えると、熱の伝達距離が長くなるため、熱抵抗が上昇することがある。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
21.2gの4−ヒドロキシ安息香酸メチルエステル、25gの6−ブロモ−1−ヘキセン、57.8gの炭酸カリウム、及び200mLのジメチルホルムアミドをナス型フラスコに入れ、窒素置換を行った後、80℃にて24時間加熱攪拌して反応させた。反応終了後、反応物を1Lの水に投入し、これに300mLのジクロロメタンを入れて抽出操作を行った。このジクロロメタン溶液を200mLの水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エパポレーターによってジクロロメタンを除去した。得られた粗生成物をジクロロメタン及びヘキサンの混合溶媒(容積比:ジクロロメタン/ヘキサン=10/1)を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製し、黄色液状の4−(5−ヘキセニロシロキシ)安息香酸メチルエステルを35g得た。
【0039】
次に、30gの4−(5−ヘキセニロキシ)安息香酸メチルエステルを3Nの水酸化カリウム水溶液に加え、80℃で24時間攪拌した。この溶液をろ過した後、室温まで冷却し、6Nの塩酸水溶液をゆっくり投入することで酸析を行った。その後、塩化カルシウムを乾燥剤として用いて減圧乾燥を行うことによって白色結晶の4−(5−ヘキセニロキシ)安息香酸を25.8g得た。
次に、10gの4−(5−ヘキセニロキシ)安息香酸をフラスコに入れた後、100mLの塩化チオニルをゆっくり投入し、40℃で2時間攪拌した。その後、減圧蒸留により過剰な塩化チオニルを除去することによって4−(5−ヘキセニロキシ)安息香酸クロリドを23g得た。
次に、100mLのテトラヒドロフランに、4.7gのビフェニル−4,4’−ジオール、及び7.7gのトリエチルアミンを室温にて溶解させた後、この溶液を氷浴バスで冷却した。この冷却溶液に、15.8gの4−(5−ヘキセニロキシ)安息香酸クロリドを溶解した100mLのテトラヒドロフランをゆっくりと滴下し、滴下終了後に室温で4時間攪拌した。次に、得られた溶液をろ過してトリエチルアミン塩酸塩を除去した後、エバポレーターによって溶媒を除去した。その後、得られた生成物をメタノールで洗浄することによって、白色結晶の下記式(5)で表されるビニル化合物を13.9g得た。
【0040】
【化4】

【0041】
合成したビニル化合物の構造は、赤外分光分析、並びにH−NMR及び13C−NMR測定によって確認した。なお、以下においても、合成した化合物の構造の確認は、本方法と同様にして行った。
上記式(5)で表されるビニル化合物13.9gを100mLのクロロホルムに溶解した後、この溶液に6.9gの3−クロロ過安息香酸をゆっくり投入し、室温で48時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、1Nの炭酸水素ナトリウム水溶液100mLを入れて洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去し、さらにエバポレーターにて溶媒を除去した。得られた固体を50mLのジクロロメタンに溶解し、これを300mLのヘキサンに投入することによって再沈殿させ、下記式(6)で表されるエポキシ樹脂を13g得た。
合成したエポキシ樹脂の融点について、示差走査熱量測定(DSC)を用い、昇温速度10℃/分の条件下で測定した。なお、以下においても、エポキシ樹脂の融点の測定は、本方法と同様にして行った。
【0042】
【化5】

【0043】
上記式(6)で表されるエポキシ樹脂10gを、170℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製の容器に入れ、150℃のオーブンで予め溶解したパラフェニレンジアミン(PDA)硬化剤0.87gを加えて攪拌混合することにより、均一なエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を170℃のオーブンで2時間加熱して硬化させることによって均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。また、このエポキシ樹脂硬化物についてX線散乱測定を行い、測定された散乱プロファイルにおける散乱ピークの強度を低波数側から順にピーク強度(1)〜(3)としたときに、ピーク強度(1)に対するピーク強度(3)の強度比及びピーク強度(1)に対するピーク強度(2)の強度比を算出したところ、それぞれ0.25及び0.07となり、分子鎖が高度に配向していることが確認された。ここで、X線散乱測定は、株式会社リガク製RINT 2000(出力:40kV,50mA)によって発生させたX線をNiフィルターで偏光し、Kβ線を除いたCuKα線(波長:1.5416Å)を取り出し、さらにグラファイトモノクロメーターで単色化した後、測定試料(エポキシ樹脂硬化物)に照射した。また、検出器にはイメージングプレートを用いた。
次に、上記で得られたエポキシ樹脂硬化物を215℃のオーブンで6時間加熱して、さらに硬化させた。最終的に得られたエポキシ樹脂硬化物についても偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0044】
(実施例2)
上記式(6)で表されるエポキシ樹脂10gを、170℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製の容器に入れ、190℃のオーブンで予め溶解した3,3’−ジアミノベンジジン(DBZ)硬化剤0.91gを加えて攪拌混合することにより、均一なエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を190℃のオーブンで12時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。また、このエポキシ樹脂硬化物についても実施例1と同様のX線散乱測定を行い、強度比を算出したところ、ピーク強度(1)に対するピーク強度(3)の強度比及びピーク強度(1)に対するピーク強度(2)の強度比はそれぞれ0.18及び0.05となり、分子鎖が高度に配向していることが確認された。
次に、上記で得られたエポキシ樹脂硬化物を230℃のオーブンで6時間加熱して、さらに硬化させた。最終的に得られたエポキシ樹脂硬化物についても偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0045】
(実施例3−1)
50mLのテトラヒドロフランに、2gのビフェニル−4,4’−ジオール及び10mLのトリエチルアミンを室温にて溶解させた後、この溶液を氷浴バスで冷却した。この冷却溶液に、7gの3,4,5−トリメトキシベンゾイルクロリドを溶解した20mLのテトラヒドロフランをゆっくりと滴下した後、室温で4時間攪拌した。次に、得られた溶液をろ過してトリエチルアミン塩酸塩を除去した後、エバポレーターによって溶媒を除去した。その後、得られた生成物をメタノールで洗浄することによって、ビフェニル−4,4’−ジイルビス(3,4,5−トリメトキシベンゾエート)を3.9g得た。
次に、3gのビフェニル−4,4’−ジイルビス(3,4,5−トリメトキシベンゾエート)を200mLのジクロロメタンに溶解させた後、氷浴バスで冷却し、この冷却溶液に30gの三臭化ホウ素をゆっくりと滴下した。析出した固体をろ過した後、真空乾燥器で乾燥させることによって、ビフェニル−4,4’−ジイルビス(3,4,5−トリヒドロキシベンゾエート)を2.5g得た。
【0046】
次に、2.0gのビフェニル−4,4’−ジイルビス(3,4,5−トリヒドロキシベンゾエート)、8.0gの6−ブロモ−1−ヘキサン酸、6.9gの炭酸カリウム、及び150mLのジメチルホルムアミドをナス型フラスコに入れて窒素置換を行った後、80℃にて24時間加熱攪拌して反応を行った。反応終了後、反応物を1Lの水に投入した後、沈殿物をろ別し、メタノールで洗浄することによって、6,6’,6”−(5−((4’−(4−(4−カルボキシブトキシ)−3,5−ビス(5−カルボキシペンチロキシ)ベンゾイロキシ)ビフェニル−4−イルオキシ)カルボニル)ベンゼン−1,2,3−トリイル)トリス(オキシ)トリヘキサン酸を5g得た。
次に、4gの6,6’,6”−(5−((4’−(4−(4−カルボキシブトキシ)−3,5−ビス(5−カルボキシペンチロキシ)ベンゾイロキシ)ビフェニル−4−イルオキシ)カルボニル)ベンゼン−1,2,3−トリイル)トリス(オキシ)トリヘキサン酸、及び9.3gの4−アリルオキシ安息香酸4−ヒドロキシフェニルエステルを10mLのN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた後、縮合剤であるジフェニル(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾキサゾイル)フォスフォナート(DBOP)9.3gを添加し、室温にて24時間攪拌して反応させた。その後、反応溶液を1Nの炭酸水素ナトリウム水溶液200mLに投入した。生じた沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥を行って、下記式(7)で表されるビニル化合物を13g得た。
【0047】
【化6】

【0048】
上記式(7)で表されるビニル化合物5gを200mLのクロロホルムに溶解した後、この溶液に30gの3−クロロ過安息香酸をゆっくり投入し、室温で48時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、1Nの炭酸水素ナトリウム水溶液100mLを入れて洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去し、さらにエバポレーターによって溶媒を除去した。得られた固体を200mLのジクロロメタンに溶解し、これを500mLのヘキサンに投入することによって再沈殿させ、下記式(8)で表されるエポキシ樹脂を4.5g得た。
【0049】
【化7】

【0050】
上記式(8)で表されるエポキシ樹脂10gを、180℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製の容器に入れ、150℃のオーブンで予め溶解したジアミノジフェニルメタン(DDM)硬化剤1.07gを加えて攪拌混合することにより、均一なエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を180℃のオーブンで4時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
次に、上記で得られたエポキシ樹脂硬化物を230℃のオーブンで8時間加熱して、さらに硬化させた。最終的に得られたエポキシ樹脂硬化物についても偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0051】
(実施例3−2)
実施例3−1で調製したエポキシ樹脂組成物を180℃のオーブンで12時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
(実施例3−3)
実施例3−1で調製したエポキシ樹脂組成物を230℃のオーブンで12時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0052】
(実施例4−1)
10gのビフェニル−4,4’−ジオール、53gの酸化鉄(III)、及び200mLのジクロロメタンを500mLの三口フラスコに入れた後、55gの4−メトキシベンゾイルクロリドを溶解した100mLのジクロロメタン溶液を氷浴バスで冷却しながらゆっくりと滴下した。滴下後、混合溶液を氷浴バス中にて8時間攪拌し、さらに室温にて4時間攪拌して反応させた。反応終了後、この反応溶液を氷に加え、さらに塩酸をゆっくりと加えて6時間攪拌した。固体をろ過した後、200mLのクロロホルムに溶解させた。この溶液を分液ロートに移し、100mLの水で3回洗浄した後、1Nの炭酸水素ナトリウム水溶液100mLでさらに3回洗浄し、そして最後に100mLの水で洗浄した。有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによって溶媒を除去し、残った固体をメタノールで洗浄することによってビフェニル−4,4’−ジイルビス(4−メトキシフェニル)メタノンを9g得た。
次に、8gのビフェニル−4,4’−ジイルビス(4−メトキシフェニル)メタノンを200mLのジクロロメタンに溶解した後、氷浴バスで冷却し、この溶液に19gの三臭化ホウ素をゆっくりと滴下した。析出した固体をろ過し、真空乾燥器で乾燥させることによって、ビフェニル−4,4’−ジイルビス(4−ヒドロキシフェニル)メタノンを7.5g得た。
【0053】
次に、7gのビフェニル−4,4’−ジイルビス(4−ヒドロキシフェニル)メタノン、8.7gの6−ブロモ−1−ヘキセン、8gの炭酸カリウム、及び200mLのジメチルホルムアミドをフラスコに入れて窒素置換を行った後、80℃にて24時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応物を1Lの水に投入した後、300mLのジクロロメタンを加えて抽出操作を行った。得られたジクロロメタン溶液を200mLの水で3回洗浄した。次に、硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによってジクロロメタンを除去した。得られた粗生成物をジクロロメタン及びヘキサンの混合溶媒(容積比:ジクロロメタン/ヘキサン=10/1)を用いたカラムクロマトグラフィーによって精製し、白色固体のビフェニル−4,4’−ジイルビス(4−(5−ヘキセニルオキシ)シフェニル)メタノンを8g得た。
次に、5gのビフェニル−4,4’−ジイルビス(4−(5−ヘキセニルオキシ)シフェニル)メタノンを100mLのクロロホルムに溶解した後、この溶液に7.7gの3−クロロ過安息香酸をゆっくり投入し、室温で48時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、1Nの炭酸水素ナトリウム水溶液100mLを入れて洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去し、さらにエバポレーターによって溶媒を除去した。得られた固体を50mLのジクロロメタンに溶解し、これを300mLのヘキサンに投入することによって再沈殿させ、下記式(9)で表されるエポキシ樹脂を4g得た。
【0054】
【化8】

【0055】
上記式(9)で表されるエポキシ樹脂10gを170℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製の容器に入れ、150℃のオーブンで予め溶解したパラフェニレンジアミン(PDA)硬化剤0.92gを加えて攪拌混合することによって均一なエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を170℃のオーブンで2時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
次に、上記で得られたエポキシ樹脂硬化物を220℃のオーブンで6時間加熱して、さらに硬化させた。最終的に得られたエポキシ樹脂硬化物についても偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0056】
(実施例4−2)
実施例4−1で調製したエポキシ樹脂組成物を170℃のオーブンで8時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
(実施例4−3)
実施例4−1で調製したエポキシ樹脂組成物を220℃のオーブンで8時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0057】
(実施例5−1)
2.7gのビフェニル−4,4’−ジオール、36gの1,6−ジブロモヘキサン、20gの炭酸カリウム、及び100mLのアセトンをナス型フラスコに入れて窒素置換を行った後、攪拌しながら加熱還流を24時間行うことによって反応させた。反応終了後、エバポレーターによってアセトンを除去し、10mLのテトラヒドロフランを加えて希釈した後、これを200mLの水に投入した。生じた沈殿物をろ別した後、ヘキサンで洗浄し、4,4’−ビス(6−ブロモヘキシシロキシ)ビフェニルを5.3g得た。
次に、5gの4,4’−ビス(6−ブロモヘキシシロキシ)ビフェニル、10.7gのヒドロキノン、13.5gの炭酸カリウム、及び100mLのジメチルホルムアミドをフラスコに入れ、80℃にて6時間反応させた。反応終了後、反応溶液を500mLの水に投入した。生じた沈殿物をろ別した後、ジメチルスルホキシドを用いて再結晶することにより、4,4’−(6,6’−(ビフェニル−4,4’−ジイルビス(オキシ)ビス(ヘキサン−6,1−ジイル)ビス(オキシ)ジフェノールを2.3g得た。
次に、2.3gの4,4’−(6,6’−(ビフェニル−4,4’−ジイルビス(オキシ)ビス(ヘキサン−6,1−ジイル)ビス(オキシ)ジフェノール、2.9gのアリルブロマイド、3.3gの炭酸カリウム、及び30mLのアセトンをフラスコに入れ、窒素置換を行った後、攪拌しながら加熱還流を6時間行うことによって反応させた。反応終了後、エバポレーターによって反応溶液からアセトンを除去し、3mLのテトラヒドロフランで希釈した後、これを100mLの水に投入した。生じた沈殿物をろ別した後、ヘキサンで洗浄し、4,4’−ビス(6−(4−アリルオキシ)ヘキシロキシ)ビフェニルを2g得た。
【0058】
次に、1.5gの4,4’−ビス(6−(4−アリルオキシ)ヘキシロキシ)ビフェニルを50mLのクロロホルムに溶解させた後、これに5gの3−クロロ過安息香酸をゆっくり投入し、室温で48時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、1Nの炭酸水素ナトリウム水溶液100mLを入れて洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、有機層に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去し、さらにエバポレーターによって溶媒を除去した。得られた固体を50mLのジクロロメタンに溶解し、これを200mLのヘキサンに投入することによって再沈殿させ、下記式(10)で表されるエポキシ樹脂を1.2g得た。
【0059】
【化9】

【0060】
上記式(10)で表されるエポキシ樹脂10gを、170℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製の容器に入れ、150℃のオーブンで予め溶解したパラフェニレンジアミン(PDA)硬化剤0.79gを加えて攪拌混合することによって均一なエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を170℃のオーブンで2時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
次に、上記で得られたエポキシ樹脂硬化物を215℃のオーブンで6時間加熱して、さらに硬化させた。最終的に得られたエポキシ樹脂硬化物についても偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0061】
(実施例5−2)
実施例5−1で調製したエポキシ樹脂組成物を170℃のオーブンで8時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
(実施例5−3)
実施例5−1で調製したエポキシ樹脂組成物を215℃のオーブンで8時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0062】
(実施例6)
20.0gの4−ヒドロキシフェニル安息香酸、129gのテトラブチルホスホニウムハイドロキサイド、及び150mLのテトラヒドロフランをナス型フラスコに入れ、窒素置換を行った後、室温にて10分撹拌した。次に、この溶液を0℃とした後、8.1mLのアリルブロミドを滴下した。滴下終了後、この溶液を室温にまで戻し、12時間撹拌することによって反応を行った。反応終了後、エバポレーターによってテトラヒドロフランを減圧除去した。得られた粗生成物を300mLの1N塩酸水に投入し酸析を行った後、析出物をろ過によって回収することで白色固体の下記式(11)で表される4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボン酸を21.3g得た。
【0063】
【化10】

【0064】
一方、2.00gのベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、24.21mLの1,6−ジブロモヘキサン、及び5.88mLの1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデック−7−センを80mLの塩化メチレンに溶解した後、12時間撹拌しながら加熱還流させることで反応を行った。反応終了後、反応溶液を室温まで冷却し、塩化メチレンを加え、2Nの水酸化ナトリウム水溶液及び水を用いて分液洗浄を行った。塩化メチレン溶液に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによって溶媒を減圧除去した。得られた粗生成物を展開溶媒に酢酸エチル及びヘキサンの混合溶媒(容積比:酢酸エチル/ヘキサン=1/20)を用いたシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーを行うことによって精製し、無色透明な液状の下記式(12)で表されるテトラキス(6−ブロモヘキシル)ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸エステルを2.83g得た。
【0065】
【化11】

【0066】
次に、2.83gのテトラキス(6−ブロモヘキシル)ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸エステル、4.77gの4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボン酸、2.33mLの1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデック−7−セン、及び50mLのテトラヒドロフランを冷却管付きナス型フラスコに入れ、窒素置換を行った後、80℃で24時間撹拌することにより反応を行った。反応終了後、反応溶液を室温まで冷却し、塩化メチレンを加え、2Nの水酸化ナトリウム水溶液及び水を用いて分液洗浄を行った。塩化メチレン溶液に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによって溶媒を減圧除去した。得られた粗生成物を展開溶媒に塩化メチレンを用いたシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーを行うことによって精製し、白色固体の下記式(13)で表されるテトラキス(6−((4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボニル)オキシ)ヘキシル)ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸エステルを3.40g得た。
【0067】
【化12】

【0068】
次に、1.50gのテトラキス(6−((4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボニル)オキシ)ヘキシル)ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸エステル、1.29gのm−クロロ過安息香酸、及び30mLのクロロホルムを冷却管付きナス型フラスコに入れ、24時間撹拌しながら加熱還流させることにより反応を行った。反応溶液を室温まで冷却した後、塩化メチレンを加え、硫酸水素ナトリウムの飽和水溶液及び飽和重曹水を用いて分液洗浄を行った。塩化メチレン溶液に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによって溶媒を減圧除去した。得られた粗生成物を展開溶媒にクロロホルムを用いたシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーを行い、溶媒除去後に得られた固体をさらに酢酸エチルを用いた再結晶を行って精製し、白色結晶の下記式(14)で表されるテトラキス(6−((4’−(オキシラン−2−イルメトキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボニル)オキシ)ヘキシル)ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸エステルを0.60g得た。
【0069】
【化13】

【0070】
上記式(14)で表されるエポキシ樹脂10gを、170℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製の容器に入れ、190℃のオーブンで予め溶解した3,3’−ジアミノベンジジン(DBZ)硬化剤0.64gを加えて攪拌混合することにより、均一なエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を190℃のオーブンで12時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
次に、上記で得られたエポキシ樹脂硬化物を230℃のオーブンで6時間加熱して、さらに硬化させた。最終的に得られたエポキシ樹脂硬化物についても偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0071】
(実施例7)
4.00gの4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボン酸、12.10mLの1,6−ジブロモヘキサン、及び2.83mLの1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデック−7−センを40mLのクロロホルムに溶解した後、12時間撹拌しながら加熱還流させることで反応を行った。反応終了後、反応溶液を室温まで冷却し、塩化メチレンを加え、2Nの水酸化ナトリウム水溶液及び水を用いて分液洗浄を行った。塩化メチレン溶液に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによって溶媒を減圧除去した。得られた粗生成物を展開溶媒にクロロホルムを用いたシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーを行うことによって精製し、白色固体の下記式(15)で表される6−ブロモヘキシル−4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボン酸エステルを2.95g得た。
【0072】
【化14】

【0073】
次に、0.60gのペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸、2.80gの6−ブロモヘキシル−4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボン酸エステル、及び1.21mLの1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデック−7−センを20mLの塩化メチレンに溶解させた後、12時間撹拌しながら加熱還流させることで反応を行った。反応終了後、反応溶液を室温まで冷却し、塩化メチレンを加え、2Nの水酸化ナトリウム水溶液及び水を用いて分液洗浄を行った。塩化メチレン溶液に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによって溶媒を減圧除去した。得られた粗生成物を展開溶媒にクロロホルムを用いたシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーを行うことによって精製し、黄色固体の下記式(16)で表されるテトラキス(6−((4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボニル)オキシ)ヘキシル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸エステルを1.04g得た。
【0074】
【化15】

【0075】
次に、1.00gのテトラキス(6−((4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボニル)オキシ)ヘキシル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸エステル、1.29gのm−クロロ過安息香酸、及び30mLのクロロホルムを冷却管付きナス型フラスコに入れ、24時間撹拌しながら加熱還流させることにより反応を行った。反応溶液を室温まで冷却した後、塩化メチレンを加え、硫酸水素ナトリウムの飽和水溶液及び飽和重曹水を用いて分液洗浄を行った。塩化メチレン溶液に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによって溶媒を減圧除去した。得られた粗生成物を展開溶媒にクロロホルムを用いたシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーを行い、溶媒除去後に得られた固体をさらに酢酸エチルを用いた再結晶を行って精製し、黄色結晶の下記式(17)で表されるテトラキス(6−((4’−(オキシラン−2−イルメトキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボニル)オキシ)ヘキシル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸エステルを0.50g得た。
【0076】
【化16】

【0077】
上記式(17)で表されるエポキシ樹脂10gを、170℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製の容器に入れ、190℃のオーブンで予め溶解した3,3’−ジアミノベンジジン(DBZ)硬化剤0.58gを加えて攪拌混合することにより、均一なエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を190℃のオーブンで12時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
次に、上記で得られたエポキシ樹脂硬化物を230℃のオーブンで6時間加熱して、さらに硬化させた。最終的に得られたエポキシ樹脂硬化物についても偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0078】
(実施例8)
4.40gの4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボン酸、1.21mLの1,6−ジブロモヘキサン、及び3.89mLの1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデック−7−センを40mLのクロロホルムに溶解させた後、12時間撹拌しながら加熱還流させることで反応を行った。反応終了後、反応溶液を室温まで冷却し、塩化メチレンを加え、2Nの水酸化ナトリウム水溶液及び水を用いて分液洗浄を行った。塩化メチレン溶液に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによって溶媒を減圧除去した。得られた粗生成物を展開溶媒にクロロホルムを用いたシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーを行うことによって精製し、白色固体の下記式(18)で表されるヘキサン−1,6−ジイルビス(4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボン酸エステル)を3.71g得た。
【0079】
【化17】

【0080】
次に、1.36gのヘキサン−1,6−ジイルビス(4’−(アリルオキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボン酸エステル)、1.19gのm−クロロ過安息香酸、及び30mLのクロロホルムを冷却管付きナス型フラスコに入れ、24時間撹拌しながら加熱還流させることにより反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、塩化メチレンを加え、硫酸水素ナトリウムの飽和水溶液及び飽和重曹水を用いて分液洗浄を行った。塩化メチレン溶液に硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、エバポレーターによって溶媒を減圧除去した。得られた粗生成物を展開溶媒にクロロホルムを用いたシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーを行い、溶媒除去後に得られた固体をさらに酢酸エチルを用いた再結晶を行って精製し、白色固体の下記式(19)で表されるヘキサン−1,6−ジイルビス(4’−(オキシラン−2−イルメトキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボン酸エステル)を1.00g得た。
【0081】
【化18】

【0082】
上記式(19)で表されるエポキシ樹脂10gを、170℃に保ったホットプレート上に置いたアルミ製の容器に入れ、190℃のオーブンで予め溶解した3,3’−ジアミノベンジジン(DBZ)硬化剤0.86gを加えて攪拌混合することにより、均一なエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物を190℃のオーブンで12時間加熱して硬化させることにより、均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
次に、上記で得られたエポキシ樹脂硬化物を230℃のオーブンで6時間加熱して、さらに硬化させた。最終的に得られたエポキシ樹脂硬化物についても偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。
【0083】
(実施例9−1)
上記式(6)のエポキシ樹脂30gと、パラフェニレンジアミン(PDA)硬化剤2.61gと、メチルエチルケトン(MEK)104.34gとを攪拌混合した後、樹脂硬化物中の窒化ホウ素粒子(無機充填材、昭和電工株式会社製)が50体積%となるように窒化ホウ素粒子65.79gを添加して十分に攪拌混合することによって均一なエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物をマルチコーターにてPETフィルム上に塗工して乾燥させた後、170℃で2時間加熱して硬化させることによってシート状の均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。なお、エポキシ樹脂組成物は、塗工性やシートへの成形性が良好であった。
次に、このシート状のエポキシ樹脂硬化物を215℃のオーブンで6時間加熱して、さらに硬化させた。このようにして製造されたシート状のエポキシ樹脂硬化物は、100μmの厚みを有していた。
【0084】
(実施例9−2)
実施例9−1で調製したエポキシ樹脂組成物を170℃のオーブンで8時間加熱して硬化させることにより、シート状の均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。
(実施例9−3)
実施例9−1で調製したエポキシ樹脂組成物を215℃のオーブンで8時間加熱して硬化させることにより、シート状の均質なエポキシ樹脂硬化物を得た。
【0085】
(比較例1)
下記式(20)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂を公知の方法によって合成した。
【0086】
【化19】

【0087】
上記式(20)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂10gを200℃に加熱し、ジアミノジフェニルメタン硬化剤(DDM)3.1gを加えて攪拌混合したところ、エポキシ樹脂の硬化反応が急速に進んでしまい、均一な混合を行う前に硬化してしまった。その結果、得られたエポキシ樹脂硬化物は不均質であった。また、このエポキシ樹脂硬化物について、実施例1と同様のX線散乱測定を行い、強度比を算出したところ、ピーク強度(1)に対するピーク強度(3)の強度比及びピーク強度(1)に対するピーク強度(2)の強度比はいずれも0.00となり、分子鎖の配向が確認されなかった。
次に、上記で得られたエポキシ樹脂硬化物を230℃のオーブンで4時間加熱して、さらに硬化させた。最終的に得られたエポキシ樹脂硬化物について偏光顕微鏡を用いて観察を行ったところ、分子鎖の配向が確認された。しかし、このエポキシ樹脂硬化物は不均質であった。
【0088】
(比較例2)
上記式(20)で表されるビフェニル型エポキシ樹脂30gと、ジアミノジフェニルメタン(DDM)硬化剤9.3gとを均一に攪拌混合した後、樹脂硬化物中の窒化ホウ素粒子(無機充填材、昭和電工株式会社製)が50体積%となるように窒化ホウ素粒子74.34gを添加し、さらにメチルエチルケトン(MEK)117.9gを添加して十分に攪拌混合することによってエポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物をマルチコーターにてPETフィルム上に塗工して乾燥させたところ、乾燥中に樹脂成分が剥がれ落ち、評価に値するようなシート状のエポキシ樹脂硬化物を得ることができなかった。この結果は、使用したビフェニル型エポキシ樹脂が、高い結晶性を有しているために溶剤への溶解性が低く、また融点が高いことに起因しているものと考えられる。
【0089】
上記の各実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂硬化物について、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(株式会社理学電機製LF/TCM−FA8510B)を用いてエポキシ樹脂硬化物の厚み方向における熱拡散率及び比熱を測定し、また、水中置換法により各エポキシ樹脂硬化物の密度を測定した。得られた測定値から、エポキシ樹脂硬化物の熱伝導率を算出した(熱伝導率=熱拡散率×比熱×密度)。その結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1において、実施例1〜8と比較例1とを比較するとわかるように、液晶ユニットの少なくとも片端に所定の柔軟ユニットを有するエポキシ樹脂は、所定の柔軟ユニットを有さないエポキシ樹脂に比べて融点が低かった。また、所定の柔軟ユニットを有するエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物から得られるエポキシ樹脂硬化物は、所定の柔軟ユニットを有さないエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物から得られるエポキシ樹脂硬化物に比べて熱伝導率が高かった。さらに、実施例9−1〜9−3と比較例2とを比較するとわかるように、所定の柔軟ユニットを有するエポキシ樹脂は、溶剤に対する溶解性が高く、エポキシ樹脂組成物中に均一に混合することができ、成形性も良好であったのに対し、所定の柔軟ユニットを有さないエポキシ樹脂は、溶剤に対する溶解性が低く、エポキシ樹脂組成物中に均一に混合することができず、成形性も不十分であった。
【0092】
また、実施例3−1と実施例3−2及び3−3との比較、実施例4−1と実施例4−2及び4−3との比較、実施例5−1と実施例5−2及び5−3との比較、実施例9−1と実施例9−2及び9−3との比較からわかるように、2段階の加熱工程を行うことで、エポキシ樹脂硬化物の熱伝導性がより一層高くなった。この結果は、実施例3−1、4−1、5−1及び9−1の方法では、2段階の硬化工程を行うことにより、図1(b)に示すように、分子鎖が高度に配向していると共に架橋密度が高くなったことに起因していると考えられる。一方、実施例3−2、4−2、5−2及び9−2の方法では、比較的低温での硬化工程を行っただけ(すなわち、第1硬化工程のみを行ったもの)であるため、図1(a)に示すように、架橋密度を十分に高めることができなかったことに起因していると考えられる。また、実施例3−3、4−3、5−3及び9−3の方法では、高温での硬化工程を行っただけ(すなわち、第2硬化工程のみを行ったもの)であるため、図2に示すように、分子鎖の配向が十分でなかったことに起因していると考えられる。
【0093】
以上の結果からわかるように、本発明のエポキシ樹脂組成物は、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質なエポキシ樹脂硬化物を与え、且つ成形性に優れている。また、本発明のエポキシ樹脂硬化物の製造方法は、電気絶縁性及び熱伝導性が高い均質なエポキシ樹脂硬化物を与えることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 分子鎖、2 架橋部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソゲン基を含む液晶ユニットと、前記液晶ユニットの少なくとも片端に結合した柔軟ユニットと、末端のエポキシ基とを有するエポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記柔軟ユニットは、以下の式:
【化1】

(式中、nは4以上の整数である)からなる群より選択される一種以上の基であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶ユニットは、フェニルエステル構造、ビフェニルエステル構造、ビフェニルエーテル構造、フェニルケトン構造、ビフェニルケトン構造、フェニルアミド構造又はビフェニルアミド構造を含むことを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂は、分岐構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
無機充填材をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を加熱して硬化させる第1硬化工程と、
前記第1硬化工程で得られたエポキシ樹脂硬化物を前記第1硬化工程における加熱温度よりも高い温度に加熱して、さらに硬化させる第2硬化工程と
を含むことを特徴とするエポキシ樹脂硬化物の製造方法。
【請求項6】
前記第1硬化工程は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を、分子鎖が配向するように加熱して硬化させることを特徴とする請求項5に記載のエポキシ樹脂硬化物の製造方法。
【請求項7】
前記第1硬化工程で得られたエポキシ樹脂硬化物は、X線散乱法により測定した散乱プロファイルにおいて少なくとも3つの散乱ピークを有し、且つ前記散乱ピークの強度を低周波数側から順にピーク強度(1)〜(3)としたときに、前記ピーク強度(1)に対する前記ピーク強度(3)の強度比が0.05以上0.50以下であることを特徴とする請求項5又は6に記載のエポキシ樹脂硬化物の製造方法。
【請求項8】
前記ピーク強度(1)に対する前記ピーク強度(2)の強度比が0.02以上0.20以下であることを特徴とする請求項7に記載のエポキシ樹脂硬化物の製造方法。
【請求項9】
前記第1硬化工程の前に、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物をシート状に成形することを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂硬化物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−41507(P2012−41507A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186402(P2010−186402)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】