説明

エポキシ樹脂組成物及び半導体装置

【課題】放熱性及び耐反り性に優れ、ワイヤースイープ量の低減が図られたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ハイドロキノン型エポキシ樹脂と、アルミナ粒子と、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンとを含有し、アルミナ粒子のエポキシ樹脂組成物中の含有量が70〜90質量%であるエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を封止するためのエポキシ樹脂組成物及びこのエポキシ樹脂組成物を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板に実装された半導体素子(半導体チップ)が樹脂組成物によって封止された半導体装置が周知である。エポキシ樹脂は、接着性や電気的性質に優れているため、エポキシ樹脂を配合するエポキシ樹脂組成物は、現在、半導体装置の製造において半導体素子を機械的、電気的に保護するための封止材の主流となっている。一般に、封止材としてのエポキシ樹脂組成物は、主剤であるエポキシ樹脂、硬化剤であるフェノール樹脂、無機充填材及び硬化促進剤等を主成分とし、これに難燃剤等のその他の添加剤が配合されて調製されている。難燃剤としては、特許文献1、2に記載されるように、有機リン化合物である2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを配合することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3804614号公報(段落0030)
【特許文献2】特許第3982344号公報(段落0014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、半導体素子の高集積化や大型化に伴う半導体素子の発熱量の増加に対応するため、放熱性に優れたエポキシ樹脂組成物が望まれている。この要望に応えるために、熱伝導率が相対的に高いアルミナの粒子を無機充填材として配合することが知られている。しかし、アルミナはシリカ等に比べると熱膨張係数が高いため、アルミナ粒子を配合すると、BGA(Ball Grid Array)等の片面封止型の半導体装置における反りの問題が大きくなる。反りの問題とは、片面封止型の半導体装置の構造がエポキシ樹脂組成物の硬化物と基板とが貼り合わされたバイメタルのような構造であるため、それぞれの熱膨張係数が相違することにより、温度変化に伴う伸縮長さの不一致に起因して半導体装置に反りが生じるという問題である。
【0005】
本発明は、放熱性及び耐反り性に優れる(高熱伝導性及び低反り性を有する)と共に、ワイヤースイープ量の低減(高流動性)が図られたエポキシ樹脂組成物及び半導体装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の一局面は、エポキシ樹脂及び無機充填材を含有するエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂として構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂を含有し、無機充填材としてアルミナ粒子を含有し、アルミナ粒子のエポキシ樹脂組成物中の含有量が70〜90質量%であり、添加剤として2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを含有するエポキシ樹脂組成物である。
【0007】
【化1】

【0008】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、無機充填材としてアルミナ粒子を含有し、アルミナ粒子のエポキシ樹脂組成物中の含有量が70〜90質量%であるから、放熱性に優れたエポキシ樹脂組成物が得られる。また、構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂を必須成分として含有するから、ワイヤースイープ量の低減が図られる。また、添加剤としての2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンが難燃剤として機能するだけでなく耐反り性の改良剤としても機能するから、熱膨張係数が相対的に高いアルミナ粒子が配合されているにも拘わらず、半導体装置の反りの問題が低減する。以上により、放熱性及び耐反り性に優れる(高熱伝導性及び低反り性を有する)と共に、ワイヤースイープ量の低減(高流動性)が図られたエポキシ樹脂組成物が提供される。
【0009】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、ハイドロキノン型エポキシ樹脂の全エポキシ樹脂中の含有量が例えば20質量%以上であることが好ましい。20質量%未満では、ワイヤースイープ量の低減効果が不足気味となるからである。
【0010】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、硬化物の熱伝導率が例えば2.8(W/m・K)以上であることが好ましい。硬化したエポキシ樹脂組成物が高熱伝導性であることが確保されるからである。
【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、アルミナ粒子以外の無機充填材として例えばシリカ粒子を含有することが好ましい。シリカはアルミナに比べると熱膨張係数が低いため、耐反り性がより一層向上するからである。
【0012】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンのエポキシ樹脂組成物中の含有量が例えば0.1〜3質量%であることが好ましい。0.1質量%未満では、耐反り性の改良効果が不足気味となり、3質量%を超えると、耐湿性が低下して半田リフロー時にエポキシ樹脂組成物の硬化物に割れが生じる可能性があるからである。
【0013】
また、本発明の他の一局面は、基板に実装された半導体素子が前記エポキシ樹脂組成物によって封止された半導体装置である。本発明のエポキシ樹脂組成物は、放熱性及び耐反り性に優れ、ワイヤースイープ量の低減が図られているので、本発明の半導体装置は、放熱性及び耐反り性に優れ、ワイヤースイープ量が低減された半導体装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、放熱性及び耐反り性に優れ、ワイヤースイープ量の低減が図られたエポキシ樹脂組成物及び半導体装置が提供される。よって、本発明は、半導体素子を機械的、電気的に保護するための封止材の技術分野において広範な産業上の利用可能性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、エポキシ樹脂組成物の放熱性向上のためにアルミナを配合したときに顕著化する半導体装置の反りの問題に対処し得る技術の開発中に、従来、難燃材として用いられてきた2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンが耐反り性の改良剤としても機能することを見出して本発明を完成したものである。つまり、放熱性に優れたエポキシ樹脂組成物を得ようとして無機充填材としてアルミナ粒子を配合したときに、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを添加すると、熱伝導率は高い値に維持されたまま、無機充填材としてシリカ粒子のみを配合した場合と同程度まで半導体装置の反り量が低減するという知見を得たのである。また、エポキシ樹脂として構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂を配合すると、エポキシ樹脂組成物の流動性が向上して、ワイヤースイープ量が飛躍的に低減するという知見も得て本発明を完成したものである。
【0016】
すなわち、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、基本的構成としてエポキシ樹脂と無機充填材とを含有し、さらに硬化剤や硬化促進剤等を含有する。エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂として構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂を含有する。また、エポキシ樹脂組成物は、無機充填材としてアルミナ粒子を含有し、アルミナ粒子のエポキシ樹脂組成物中の含有量は70〜90質量%である。そして、エポキシ樹脂組成物は、添加剤として2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを含有する。
【0017】
【化2】

【0018】
ハイドロキノン型エポキシ樹脂の全エポキシ樹脂中の含有量は例えば20質量%以上であることが好ましい。硬化したエポキシ樹脂組成物(硬化物)の熱伝導率は例えば2.8(W/m・K)以上であることが好ましい。エポキシ樹脂組成物は、アルミナ粒子以外の無機充填材として例えばシリカ粒子を含有してもよい。2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンのエポキシ樹脂組成物中の含有量は例えば0.1〜3質量%であることが好ましい。本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、放熱性及び耐反り性に優れ、ワイヤースイープ量の低減が図られているので、基板に実装された半導体素子がこのエポキシ樹脂組成物によって封止された半導体装置は、放熱性及び耐反り性に優れ、ワイヤースイープ量が低減された半導体装置である。
【0019】
本実施形態において、エポキシ樹脂としては、封止用エポキシ樹脂組成物の技術分野で従来使用されるエポキシ樹脂が特に限定なく使用可能である。そのようなエポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェニレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、及びブロム含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0020】
本実施形態において、エポキシ樹脂のエポキシ樹脂組成物中の含有量は、2〜15質量%が好ましく、3〜12質量%がより好ましく、4〜10質量%がさらに好ましい。
【0021】
そして、本実施形態においては、エポキシ樹脂として、前記構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂が必須成分として含有される。これにより、エポキシ樹脂組成物の流動性が向上して、ワイヤースイープ量の低減が図られる。ハイドロキノン型エポキシ樹脂の全エポキシ樹脂中の含有量は例えば20質量%以上であることが好ましく、28質量%以上であることがより好ましい。20質量%未満では、ワイヤースイープ量の低減効果が不足気味となるからである。
【0022】
本実施形態において、硬化剤としては、封止用エポキシ樹脂組成物の技術分野で従来使用される硬化剤が特に限定なく使用可能である。そのような硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等、各種の多価フェノール化合物又はナフトール化合物等が挙げられる。これらは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本実施形態において、エポキシ樹脂と硬化剤との配合割合(エポキシ樹脂/硬化剤)は、当量比(エポキシ当量/水酸基当量)で、0.5〜1.5が好ましく、0.8〜1.2がより好ましい。この配合割合が過度に小さいと、硬化剤が過多となって経済的に不利となり、この配合割合が過度に大きいと、硬化剤が過少となって硬化不足となる。
【0024】
本実施形態において、無機充填材としては、アルミナ粒子が必須成分として用いられる。アルミナはシリカ等に比べると熱伝導率が高い。したがって、アルミナ粒子を含有することにより、放熱性に優れたエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0025】
アルミナ粒子以外の無機充填材としては、封止用エポキシ樹脂組成物の技術分野で従来使用される無機充填材が特に限定なく使用可能である。そのような無機充填材としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、窒化珪素等の各種の無機粒子が挙げられる。これらは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、耐反り性の観点からシリカ粒子がより好ましい。シリカはアルミナに比べると熱膨張係数が低い。したがって、シリカ粒子を含有することにより、耐反り性に優れたエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0026】
本実施形態において、無機充填材のエポキシ樹脂組成物中の含有量は、70〜90質量%が好ましく、80〜90質量%がより好ましく、85〜90質量%がさらに好ましい。無機充填材の含有量が過度に少ないと、無機充填材の種々の機能(例えばエポキシ樹脂組成物の硬化物の強度を向上する機能等)が良好に発揮されなくなり、無機充填材の含有量が過度に多いと、エポキシ樹脂組成物の流動性が低下して成形時にボイド等が発生する可能性がある。
【0027】
特に、本実施形態においては、アルミナ粒子のエポキシ樹脂組成物中の含有量は、放熱性に優れたエポキシ樹脂組成物を得るという観点から、70〜90質量%が好ましく、75〜90質量%がより好ましく、80〜90質量%がさらに好ましい。
【0028】
なお、アルミナはシリカ等に比べると比重が大きい。したがって、同じ質量%を配合した場合に、平均粒子径が同じであると、アルミナ粒子はシリカ粒子等に比べて粒子の個数が少なくなる。このことは、エポキシ樹脂組成物の流動性の観点から有利に働く。
【0029】
本実施形態において、硬化促進剤としては、封止用エポキシ樹脂組成物の技術分野で従来使用される硬化促進剤(エポキシ基とフェノール性水酸基との反応を促進するもの)が特に限定なく使用可能である。そのような硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等の有機ホスフィン類;1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。これらは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本実施形態において、硬化促進剤のエポキシ樹脂組成物中の含有量は、エポキシ樹脂と硬化剤との合計含有量100質量部に対して2〜5質量部である。硬化促進剤の含有量が2質量部より少ないと、硬化促進機能が良好に発揮されなくなり、硬化促進剤の含有量が5質量部より多いと、成形性に不具合が生じる可能性がある。
【0031】
本実施形態において、エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤に加えて、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを必須の添加剤として含有する。2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンは、本来的には、難燃剤として機能する。したがって、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを含有することにより、ハロゲンフリー及びアンチモンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物が得られる。
【0032】
また、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンは難燃剤として機能するだけでなく耐反り性の改良剤としても機能する。したがって、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを含有することにより、熱膨張係数が相対的に高いアルミナが必須成分として配合されているにも拘わらず、耐反り性に優れたエポキシ樹脂組成物が得られる。その結果、半導体装置の反りの問題が低減する。
【0033】
2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンが耐反り性の改良材として機能する理由は必ずしも明らかではない。本発明者は、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンが硬化時にエポキシ樹脂と反応してマトリックス樹脂中にリン元素(P)を均一に導入する結果、封止成形して得られた成形物の耐熱性や機械的特性の低下が起こり難くなること、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンがエポキシ樹脂と反応する結果、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンが成形後の硬化物の表面にブリード(析出)しなくなること等が理由ではないかと考察している。
【0034】
本実施形態において、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンのエポキシ樹脂組成物中の含有量は、0.1〜3質量%が好ましく、0.2〜2質量%がより好ましく、0.3〜1質量%がさらに好ましい。2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンの含有量が過度に少ないと、耐反り性の改良効果及び難燃効果が不足気味となり、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンの含有量が過度に多いと、耐湿性が低下して半田リフロー時にエポキシ樹脂組成物の硬化物に割れが生じる可能性がある。
【0035】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、さらに、カップリング剤、離型剤、着色剤、難燃剤、イオントラップ剤、可撓剤等のその他の添加剤を含有してもよい。本実施形態において使用可能なカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシランやN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランやγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシドキシシラン等が挙げられ、これらは1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態において使用可能な離型剤としては、例えば、カルナバワックスやモンタンワックス等の高融点のワックス類、ステアリン酸等の高級脂肪酸及びその塩やエステル類、カルボキシル基含有ポリオレフィン等が挙げられ、これらは1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態において使用可能な着色剤としては、例えば、カーボンブラックや各種顔料等が挙げられる。本実施形態において使用可能な難燃剤としては、ハロゲンフリー及びアンチモンフリーの難燃剤が好ましく、例えば、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムあるいは水酸化カルシウム等の金属水酸化物(金属水和物)等が挙げられる。これらのその他の添加剤のエポキシ樹脂組成物中の含有量は、各添加剤の機能を良好に発揮させる範囲内で適宜決定すればよいが、例えば、エポキシ樹脂組成物全量中、0.01〜5質量%の範囲内である。
【0036】
本実施形態において、エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱伝導率は例えば2.8(W/m・K)以上であることが好ましく、3.0(W/m・K)以上であることがより好ましい。エポキシ樹脂組成物の硬化物が高熱伝導性であり、放熱性に優れることが確保されるからである。
【0037】
本実施形態において、エポキシ樹脂組成物は、例えば次のようにして調製される。すなわち、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、硬化促進剤、ジフェニルホスフィニルハイドロキノン及びその他の材料をそれぞれ所定の量づつ配合し、ミキサーやブレンダー等で均一に混合した後、ニーダーやロール等で加熱、混練する。混練後、冷却固化し、所定の粒度に粉砕して、常温で固体状の粉状又は粒状のエポキシ樹脂組成物を得る。必要に応じて、さらに打錠することにより、タブレット状としてもよい。
【0038】
本実施形態において、半導体装置は、例えば次のようにして作製される。すなわち、半導体素子実装用基板に半導体素子を実装し、金線で基板と半導体素子とを電気接続(ワイヤーボンディング)した後、基板上の半導体素子を本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物で封止する。この封止を実行するには金型を用いたトランスファ成形を採用することができる。
【0039】
つまり、トランスファ成形においては、半導体素子が実装されワイヤボンディングされた基板を金型のキャビティ内に配置した後、このキャビティ内に溶融状態のエポキシ樹脂組成物を所定の圧力で注入し、キャビティ内に充満させる。このときの注入圧力は、例えば4〜7MPa、金型温度は、例えば160〜190℃、成形時間は、例えば45〜300秒等に設定される(エポキシ樹脂組成物の組成や半導体装置の種類等に応じて適宜変更可能)。次に、金型を閉じたまま後硬化(ポストキュア)を行った後、型開きして成形物すなわち半導体装置(パッケージ)を取り出す。このときの後硬化条件は、例えば160〜190℃で2〜8時間等に設定される(エポキシ樹脂組成物の組成や半導体装置の種類等に応じて適宜変更可能)。
【0040】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、放熱性及び耐反り性に優れ、ワイヤースイープ量の低減が図られているので、基板に実装された半導体素子がこのエポキシ樹脂組成物によって封止された半導体装置は、放熱性及び耐反り性に優れ、ワイヤースイープ量が低減された半導体装置である。
【0041】
以下、実施例を通して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
表1に示す配合(質量%)にて、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材、添加剤、硬化促進剤及びその他の材料をブレンダーで30分間混合し、均一化した後、80℃に加熱した2本ロールで加熱、混練して、押し出し、冷却固化後、粉砕機で所定の粒度に粉砕して、常温で固体の粉粒状エポキシ樹脂組成物を調製した。実験番号1〜12において用いた材料は次の通りである。
【0043】
(エポキシ樹脂1)
・ビフェニル型エポキシ樹脂:三菱化学社製の「YX4000H」(エポキシ当量195)
(エポキシ樹脂2)
・構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂:新日鐵化学社製の「YDC1312」(エポキシ当量175)
(硬化剤)
・フェノールアラルキル樹脂:三井化学社製の「XL−225」(水酸基当量176)
(無機充填材)
・アルミナ粒子1:電気化学工業社製の球状アルミナ「DAW45」(平均粒子径45μm)
・アルミナ粒子2:電気化学工業社製の球状アルミナ「DAW05」(平均粒子径5μm)
・シリカ粒子1:電気化学工業社製の溶融シリカ「FB940」(平均粒子径13μm)
・シリカ粒子2:龍森社製の溶融シリカ「SO32R」(平均粒子径1.6μm)
(添加剤)
・2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノン:北興化学社製の「PPQ(登録商標)」
(カップリング剤)
・γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:信越化学工業社製の「KBM403」
(離型剤)
・カルナバワックス:大日化学社製の「F1−100」
(着色剤)
・カーボンブラック:三菱化学社製の「MA600」
(硬化促進剤)
・トリフェニルホスフィン:北興化学社製の「ホクコーTPP(登録商標)」
【0044】
調製した粉粒状エポキシ樹脂組成物を用い、次の条件でトランスファ成形を行うことにより、半導体装置として下記概要のPBGAパッケージを作製した。
【0045】
(トランスファ成形条件)
・金型温度:175℃
・注入圧力:6.9MPa(70kgf/cm
・成形時間:90秒
・後硬化:175℃/6時間
(PBGAパッケージ概要)
・チップサイズ:10mm×10mm
・パッケージサイズ:15mm×15mm
・パッケージ厚み:1.17mm
・基板厚み:0.56mm
【0046】
作製したパッケージについて次の評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
(熱伝導率)
非定常プローブ法のQTM−D3(京都電子工業社製)を用いて、硬化した封止材(エポキシ樹脂組成物)の熱伝導率(W/m・K)を測定した。
【0048】
(反り量)
表面粗さ測定器(ミツトヨ社製のSJ−402)を用いて、パッケージの対角線とパッケージの表面との距離の最大値をパッケージの反り量(μm)として測定した。
【0049】
(ワイヤースイープ量)
軟X線装置を用いて、式「(トランスファ成形によるワイヤー移動距離/ワイヤー長さ)×100」に従い、ワイヤースイープ量(%)を算出した。
【0050】
【表1】

【0051】
実験番号1〜5は、本発明の範囲にあるエポキシ樹脂組成物である。すなわち、エポキシ樹脂として構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2)を含有し、無機充填材としてアルミナ粒子を含有し、アルミナ粒子のエポキシ樹脂組成物中の含有量が70〜90質量%であり、添加剤として2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを含有するエポキシ樹脂組成物である。
【0052】
実験番号1〜5のうちでも、実験番号1は、構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂の全エポキシ樹脂中の含有量が20質量%未満(18質量%)、実験番号2は、20質量%以上(22質量%)、実験番号3は、20質量%以上(29質量%)である。また、実験番号4は、実験番号3に対し、アルミナ粒子のエポキシ樹脂組成物中の含有量が70質量%、実験番号5は、90質量%である。
【0053】
一方、実験番号6〜12は比較例である。実験番号6は、実験番号1〜3に対し、構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂を含有していない。実験番号7は、実験番号3に対し、アルミナ粒子を含有していない。実験番号8は、実験番号3に対し、アルミナ粒子のエポキシ樹脂組成物中の含有量が70質量%未満である。実験番号9は、実験番号3に対し、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを含有していない。また、実験番号10は、構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂を含有せず、アルミナ粒子を含有せず、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを含有していない。実験番号11及び12は、構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂を含有せず、2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを含有していない。
【0054】
表1から明らかなように、実験番号1〜5は、いずれも、熱伝導率、反り量、ワイヤースイープ量のすべてにおいて優れた結果であった。
【0055】
一方、実験番号6はワイヤースイープ量に劣り、実験番号7及び8は熱伝導率に劣り、実験番号9は反り量に劣り、実験番号10は熱伝導率及びワイヤースイープ量に劣り、実験番号11及び12は反り量及びワイヤースイープ量に劣っていた。
【0056】
以上により、本発明のエポキシ樹脂組成物は、放熱性及び耐反り性に優れると共に、ワイヤースイープ量が低減していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂及び無機充填材を含有するエポキシ樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂として構造式(I)で示されるハイドロキノン型エポキシ樹脂を含有し、
無機充填材としてアルミナ粒子を含有し、
アルミナ粒子のエポキシ樹脂組成物中の含有量が70〜90質量%であり、
添加剤として2−(ジフェニルホスフィニル)ハイドロキノンを含有するエポキシ樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
ハイドロキノン型エポキシ樹脂の全エポキシ樹脂中の含有量が20質量%以上である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
硬化物の熱伝導率が2.8(W/m・K)以上である請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
基板に実装された半導体素子が請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物によって封止された半導体装置。

【公開番号】特開2012−224758(P2012−224758A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94064(P2011−94064)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】