説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】金属に対する接着性、及び、透明性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体とを含有するエポキシ樹脂組成物。
[化1]


式(1)中、Xは炭素数1〜8のアルキル鎖、脂環、芳香環、又は、炭素数1〜4のアルキル基を有する芳香環を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、コーティング剤、印刷インキ、レジストインキ、接着剤、半導体封止材料、光半導体封止材料、成形材料、電気絶縁材料等に有用なエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着性、絶縁性、耐熱性、作業性、コストパフォーマンス等に優れているために、塗料、接着剤、複合材等の分野から半導体封止材料、プリント配線板材料等の電気・電子材料分野にまで幅広く使用されている。その中でも、電気・電子材料分野においては時代の流れとともに材料に求められる特性も高度化されてきている。
【0003】
近年、発光ダイオード(LED)に代表される光半導体用途やモバイル機器や携帯電話等のバックライト光源、センサ、車載部品等多方面で展開されている。これらLED素子を保護する方法としては、気密封止及び樹脂封止があり、気密封止は金属やセラミック等の中空容器の中にLED素子を、また、樹脂封止はLED素子を樹脂材料の中に、封入する方法である。樹脂封止型LEDの封止材料としては、主に、エポキシ樹脂系材料とシリコーン樹脂系材料があり、汎用LEDには接着性に優れ安価なエポキシ樹脂系材料が使用されている。
【0004】
一方で、電子材料の高性能化や小型化によって、エポキシ樹脂系材料のさらなる特性の向上が望まれているが、未だ、金属に対する接着性においては充分な性能を満たしておらず、特に、アルミニウム、銅、金等の貴金属に対しては不充分である。
例えば、銅との接着性を向上させる研究として、非特許文献1には、銅の酸化によってアンカー効果を利用して接着性を向上させる方法が開示されているが、この方法は絶縁性の低下や高周波化を阻害する等有効な手段とは言い難い。
【0005】
また、硫黄原子は難接着性金属、特に銅との親和性が高く、硫黄原子をエポキシ樹脂系材料に導入するとこれらの接着性が向上することが知られており、非特許文献2には、チオエステル基を有するポリマーによってエポキシ樹脂系材料を改質する方法が開示されている。
しかし、非特許文献2で示されているチオエステル基を有するポリマーは結晶性のポリマーであり透明性に欠け、例えば、樹脂の透明性が重要であるLED素子の封止材料に用いる場合、集光性に大きな影響を及ぼしLED素子自体の寿命に悪影響を及ぼす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Cho and E.C.Cho,J.Adhes.Sci.Tachnol.,2000,14,p.1333−1353
【非特許文献2】Macromol.Mater.Eng.2006,291,p.205−209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金属に対する接着性、及び、透明性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エポキシ樹脂と、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体とを含有するエポキシ樹脂組成物である。
【0009】
【化1】

【0010】
式(1)中、Xは炭素数1〜8のアルキル鎖、脂環、芳香環、又は、炭素数1〜4のアルキル基を有する芳香環を示す。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、特定の構造を有するポリチオエステル重合体を配合することにより、金属に対する接着性、及び、透明性に優れるエポキシ樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を含有する。
上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を含有することにより、本発明のエポキシ樹脂組成物は、金属に対する優れた接着性と高い透明性とを両立させることができる。
【0013】
上記式(1)で表される繰り返し構造単位は特に限定されず、例えば、下記式(2)〜(12)で表される繰り返し構造単位等が挙げられる。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
【化6】

【0019】
【化7】

【0020】
【化8】

【0021】
【化9】

【0022】
【化10】

【0023】
【化11】

【0024】
【化12】

【0025】
上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は1000、好ましい上限は50万である。
なお、本明細書において、前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、ポリスチレン換算により求められる値である。GPCによってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、Shodex KF803L、Shodex KF804L(いずれも、昭和電工社製)等が挙げられる。
【0026】
上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量は特に限定されないが、エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましい下限は0.01重量部、好ましい上限は25重量部である。上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量が0.01重量部未満であると、得られるエポキシ樹脂が耐熱性や金属に対する接着性に劣るものとなることがある。上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量が25重量部を超えると、得られるエポキシ樹脂が金属に対する接着性に劣るものとなることがある。上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は20重量部、さらに好ましい下限は1重量部、さらに好ましい上限は15重量部である。
【0028】
上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を製造する方法としては、例えば、ジカルボン酸ハロゲン化物を用いる溶融重合法、溶液重合法、界面重合法、エステル交換法、直接重合法等を用いることができる。
具体的には例えば、下記式(13)で表されるビス−(4−メルカプトフェニル)スルホンと式(14)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物とを無溶媒または溶媒中で反応させることによって、脱ハロゲン化水素を行い重合することにより製造することができる。
【0029】
【化13】

【0030】
【化14】

【0031】
式(14)中、Xは炭素数1〜8のアルキル鎖、脂環、芳香環、又は、炭素数1〜4のアルキル基を有する芳香環を表し、Yはハロゲン原子を表す。
【0032】
上記式(14)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物は、市販のものを用いることができるが、式(14)中のYが塩素原子のものが好ましく、例えば、マロン酸塩化物、コハク酸塩化物、グルタル酸塩化物、アジピン酸塩化物、ピメリン酸塩化物、スベリン酸塩化物、アゼライン酸塩化物、セバシン酸塩化物、ウンデカン二酸塩化物、ドデカン二酸塩化物、フタル酸塩化物、イソフタル酸塩化物、テレフタル酸塩化物、5−tert−ブチルイソフタル酸塩化物等が挙げられる。
【0033】
上記式(14)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物は、上記ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホン1モルに対して、0.5〜1.5モル使用することが好ましく、0.9〜1.2モル使用することがより好ましい。
【0034】
上記ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホンと上記式(14)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物との反応において、溶媒は用いなくてもよいが、原料が固体であったり、反応液の粘度が高く攪拌が不充分となったりする場合は、必要に応じて溶媒を用いてもよい。
上記溶媒としては、非水系のものが好ましく、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ブロモプロパン、ブロモブタン、ブロモペンタン、ブロモヘキサン、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル等のハロゲン化アルキル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、石油エーテル、ベンジン、ケロシン、トルエン、キシレン、メシチレン、ベンゼン等の炭化水素類等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含有する。
上記エポキシ樹脂は特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、含窒素環エポキシ樹脂であるトリグリシジルイソシアヌレートやヒダントイン型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロ型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等を用いることができる。これらの中でも、LED素子等の光半導体用の封止材料として広く用いられ、透明性、強靭性、耐熱性にも優れることから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適に用いられる。また、半導体封止材料として需要が大きく、耐熱性、耐薬品性、電気特性に優れた硬化物を与えることから、ノボラック型であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂も好適に用いられる。これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。
上記硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、潜在性硬化剤である三フッ化ホウ素アミン錯体やジシアンジアミド等を、それぞれの用途に応じて使用することができる。また、半導体封止材料に広く用いられるノボラック型フェノール樹脂等のフェノール樹脂を硬化剤として用いることもできる。
上記アミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミンやジアミノジフェニルメタンやジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミンを使用することができる。しかしながら、上記アミン系硬化剤は金属に対して優れた接着性を示すものの、人体への毒性や高い粘性及び着色の原因となる。
上記酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ナジック酸、水素化無水ナジック酸、無水トリメット酸、無水ピロメリット酸等を用いることができる。
上記酸無水物系硬化剤は低い粘度で扱いやすく、配合物の可使時間が比較的長く、硬化物が電気絶縁性、機械的特性、耐熱安定性、耐薬品性に優れるものとなり、さらに、上記アミン系硬化剤と比較して安全衛生性に優れている等の利点を有しており、LED素子等の光半導体の封止材料、半導体の封止材料、電気・電子絶縁材料に好適に用いることができる。これらの酸無水物系硬化剤の中でも、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸が好適に用いられる。
これらの硬化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記硬化剤の配合量は特に限定されないが、上記エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、硬化剤におけるエポキシ基と反応可能な活性基が0.5〜1.5当量となるように配合することが好ましく、0.7〜1.2当量となるように配合することがより好ましい。
【0038】
一般に酸無水物系硬化剤等の硬化剤は、ポットライフが長く毒性が小さいが、一方で、硬化反応が比較的緩やかに進行するため、硬化に高温、長時間を要することがある。したがって、必要に応じて硬化剤と硬化促進剤とを併用してもよい。
【0039】
上記硬化促進剤としては、例えば、ベンジルメチルアミン等の3級アミンや2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。
また、上記硬化剤として半導体封止材料に好適なフェノール樹脂を用いる場合、上記硬化促進剤として、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類、オクチル酸スズ等の金属化合物等を用いることが好ましい。
【0040】
上記硬化促進剤の配合量は特に限定されないが、硬化物の耐熱性や接着性に優れた硬化物が得られることから、上記エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は5.0重量部である。上記硬化促進剤の配合量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は2重量部である。
また、上記硬化剤としてフェノール樹脂を用いる場合、上記硬化促進剤は上記エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部配合することが好ましい。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤を含有してもよい。
上記酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、ブチル化ヒドリキシアニソール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール類や、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のビスフェノール類や、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等の高分子型フェノール類や、テトラキス[メチレン−3−(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、10−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10オキサイド等のオキサホスファフェナントレンオキサイド類等が挙げられる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、チクソトロピー付与剤を含有してもよい。
上記チクソトロピー付与剤としては市販されているものを用いることができ、例えば、アエロジル(日本アエロジル社製)やディスパロン(楠本化成社製)等が挙げられる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、顔料を含有してもよい。
上記顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料や、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラック等の有機顔料が挙げられる。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤を含有してもよい。
上記紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリチレート等のサリチル酸エステルや、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類や、2−ヒドロキシベンゾフェノン等のヒドロキシベンゾフェノン類等が挙げられる。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、離型剤を含有してもよい。
上記離型剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸、ポリエチレン系離型剤、ポリエチレン−ポリオキシエチレン系離型剤、カルナバワックス等が挙げられる。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、難燃剤を含有してもよい。
上記難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチルメチルホスホネート、臭素化有機リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイドーポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
【0047】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、造膜剤、無機充填剤、ゴム改質剤、界面活性剤、反応性希釈剤、各種オリゴマー、各種ポリマー等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記エポキシ樹脂、上記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体、及び、上記硬化剤等を、3本ロール等の装置を用いて混合する従来公知の方法が挙げられる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、塗料、コーティング剤、印刷インキ、レジストインキ、接着剤、半導体封止材料、光半導体封止材料、成形材料、電気絶縁材料等の用途に用いることができる。なかでも、LED素子等を保護するための光半導体封止材料として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、金属に対する接着性、及び、透明性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は、金属に対して高い接着性を示すため、電子材料分野、特に封止材料分野において有用である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0052】
(合成例1)
[式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の製造]
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却器を備え付けた300mL容の四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホン7.06g(0.025モル)およびクロロホルム250gを仕込み、トリエチルアミン5.31g(0.053モル)を徐々に加え、室温で30分撹拌した。その後、スベリン酸塩化物5.54g(0.026モル)を徐々に加え、30分間還流した。還流後、脱水メタノールを5g加えた。反応溶液をアセトン/メタノール溶液に滴下し、再沈殿させた。沈殿物をメタノール、水、アセトンで洗浄し、減圧濾過後、乾燥させ、式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を7.9g得た。ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホンに対する得られたポリチオエステル重合体の収率は75%であった。
なお、得られたポリチオエステル重合体は、下記の物性を有することから同定することができた。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl):1.36(t、4H),1.62(t、4H)、2.67(t、4H)、7.55(d、4H)、7.94(d、4H)
IR(KBr)1709cm−1
また、カラムとしてShodex KF804L&KF803L(昭和電工社製)を用いたGPC(クロロホルム溶媒、カラム温度40℃、流速1.0ml/min)で測定し、ポリスチレン換算したところ、得られたポリチオエステル重合体の重量平均分子量は56600であった。
【0053】
(合成例2)
[式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の製造]
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却器を備え付けた300mL容の四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホン7.06g(0.025モル)およびクロロホルム250gを仕込み、トリエチルアミン5.31g(0.053モル)を徐々に加え、室温で30分撹拌した。その後、アゼライン酸塩化物5.91g(0.026モル)を徐々に加え、30分間還流した。還流後、脱水メタノールを5g加えた。反応溶液をアセトン/メタノール溶液に滴下し、再沈殿させた。沈殿物をメタノール、水、アセトンで洗浄し、減圧濾過後、乾燥させ、式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を9.0g得た。ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホンに対する得られたポリチオエステル重合体の収率は83%であった。
なお、得られたポリチオエステル重合体は、下記の物性を有することから同定することができた。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl):1.34(m、6H)、1.69(t、4H)、2.66(t、4H)、7.55(d、4H)、7.95(d、4H)
IR(KBr)1710cm−1(チオエステル結合のカルボニル基)
また、合成例1と同様にして測定したところ、得られたポリチオエステル重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は66500であった。
【0054】
(合成例3)
[式(10)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の製造]
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却器を備え付けた300mL容の四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホン7.06g(0.025モル)およびクロロホルム250gを仕込み、トリエチルアミン5.31g(0.053モル)を徐々に加え、室温で30分撹拌した。その後、イソフタル酸塩化物5.33g(0.026モル)を徐々に加え、その後、30分間還流した。還流後、脱水メタノールを5g加えた。沈殿物をメタノール、水、アセトンで洗浄し、減圧下、60℃で乾燥させ、式(10)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を7.6g得た。ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホンに対する得られたポリチオエステル重合体の収率は73%であった。
なお、得られたポリチオエステル重合体は、下記の物性を有することから同定することができた。
IR(KBr)1680cm−1(チオエステル結合のカルボニル基)
また、得られたポリチオエステル重合体はクロロホルムに難溶であったためポリスチレン換算重量平均分子量は測定出来なかった。
【0055】
(実施例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「jER828」)100重量部に対して、合成例1で作製した式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体5重量部を溶解させ、硬化剤としてリカシッドMH−700(新日本理化社製、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=70/30)90重量部、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成社製、「キュアゾール2E4MZ」)1重量部を添加し、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0056】
(実施例2)
式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量を10重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0057】
(実施例3)
式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量を20重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0058】
(実施例4)
式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体に代えて、合成例2で作製した式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0059】
(実施例5)
式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体に代えて、合成例3で作製した式(10)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0060】
(実施例6)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「jER806」)100重量部に対して、合成例1で作製した式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体10重量部を溶解させ、硬化剤としてo−クレゾールノボラック樹脂(日本化薬社製)70重量部、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(ナカライテスク社製、特級)3重量部を添加し、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0061】
(比較例1)
式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0062】
(比較例2)
式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いなかったこと以外は、実施例6と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0063】
(比較例3)
式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体に代えて、下記式(15)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0064】
【化15】

【0065】
(比較例4)
式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体に代えて、下記式(16)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0066】
【化16】

【0067】
<評価>
実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂組成物について以下の評価を行った。
【0068】
(1)金属に対する接着性
(引張せん断接着強度)
無酸素銅板(JIS H3100(C1020P)、100×25×1.6mm)をアセトンで脱脂後、研磨紙(240番)で研磨し、アセトンで研磨屑を洗浄した。その後、10%硝酸で30秒間エッチングし、蒸留水で洗浄した後、乾燥させて、試験片とした。
得られた試験片に、実施例1〜6、比較例1、2で得られたエポキシ樹脂組成物を、接着部が12.5×25mmの長方形になるように塗布し、もう一枚の試験片を張り合わせ、120℃で2時間加熱した後、さらに、170℃で2時間加熱して硬化させ、引張せん断試験片とした。
万能試験機(ミネベア社製、「NMB−50kNB」)を用いて、つかみ具距離100mm、試験速度5mm/minの条件で引張せん断試験を実施した。結果を表1、2に示した。
【0069】
(90度剥離接着強度)
電解銅箔を5cm以上×5cm以上に切断し、アセトンで防腐剤を洗浄後、10%硝酸で30秒間エッチングし、蒸留水で洗浄した後、60℃で乾燥させて、試験片とした。
1〜6、比較例1、2で得られたエポキシ樹脂組成物100重量部に対してAEROGEL(#200、平均粒子径12μm)を3重量部添加したものをアルミ板に塗布し、その上から得られた試験片の平滑面を重ね合わせた。120℃で2時間加熱した後、さらに、170℃で2時間加熱して硬化させ、硬化後、幅1cmずつカッターで切れ目を入れ、90度剥離試験片とした。なお、アルミ板については、アセトンで脱脂後、研磨紙(600番)で研磨し、アセトンで研磨屑を除去し乾燥させたものを使用した。
DAGE−SERISE4000(アークラック社製)を用いて、試験速度25mm/minの条件で90度剥離試験を実施した。結果を表1、2に示した。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1より、エポキシ樹脂100重量部に対して、上記式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を10重量部添加すると、上記式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を添加しないエポキシ樹脂組成物と比較して、引張せん断接着強度は約1.5倍、90度剥離接着強度は約2.5倍向上した。また、上記式(7)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を20重量部添加すると引張せん断接着強度は約1.8倍、90度剥離接着強度は約3.0倍向上した。
また、表2より、エポキシ樹脂組成物の組成を半導体封止材料に適したものとした場合でも充分な効果を示すことが確認できた。
【0073】
(2)透明性
実施例2、4、比較例3、4で得られたエポキシ樹脂組成物について、超小型射出成形機(CSI社製、「mini max molder」)を用いて、試験片(30mm×6mm×3mm)を作製し、黒色8ポイントのMS明朝体で「住友精化」と印字した白紙上に試験片を置き、印字が読み取れるかどうかで透明性を判断し、読み取れた場合を「○」、読み取れなかった場合を「×」として評価した。結果を表3に示した。
【0074】
【表3】

【0075】
表3より、スルホン骨格を有する繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いる本発明のエポキシ樹脂組成物は、スルフィド骨格を有する繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いるエポキシ樹脂組成物と異なり、透明性に非常に優れたものとなることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、金属に対する接着性、及び、透明性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体とを含有するエポキシ樹脂組成物。
【化1】

式(1)中、Xは炭素数1〜8のアルキル鎖、脂環、芳香環、又は、炭素数1〜4のアルキル基を有する芳香環を示す。
【請求項2】
更に、硬化剤を含有する請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の含有量が、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01〜25重量部である請求項1又は2記載のエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−144622(P2012−144622A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3180(P2011−3180)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【Fターム(参考)】