説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】金属に対する接着性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体とを含有するエポキシ樹脂組成物。
[化1]


式(1)中、Xは炭素数1〜8のアルキル鎖、脂環、芳香環、または、炭素数1〜4のアルキル基を有する芳香環を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、コーティング剤、印刷インキ、レジストインキ、接着剤、半導体封止材料、光半導体封止材料、成形材料、電気絶縁材料などに有用なエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着性、絶縁性、耐熱性、作業性、コストパフォーマンスなどに優れているために、塗料、接着剤、複合材などの分野から半導体封止材料、プリント配線板材料などの電気・電子材料分野にまで幅広く使用されている。その中でも、電気・電子材料分野においては時代の流れとともに材料に求められる特性も高度化されてきている。
【0003】
特に、近年、半導体や発光ダイオード(LED)などの装置は、生産性や信頼性などのバランスが優れることからエポキシ樹脂組成物を用いて封止されるのが主流となっている。しかし、エポキシ樹脂組成物の硬化物と、例えば、半導体装置内部に存在する半導体素子やリードフレーム上の各種メッキされた接合部分などとの界面で剥離が生じ、さらにはこの剥離に起因したクラックの発生などによって、信頼性が著しく低下する問題が生じているため、エポキシ樹脂のさらなる特性の向上が望まれている。しかし、未だ、金属に対する接着性においては充分な性能を満たしておらず、特に、アルミニウムや銅、銀、金などの貴金属に対しては接着性が不充分である。
【0004】
例えば、非特許文献1には、銅の酸化によるアンカー効果を利用して、エポキシ樹脂組成物と銅との接着性を向上させる方法が開示されているが、この方法は絶縁性の低下や高周波化を阻害するなどの問題があり、有効な手段とは言い難い。
【0005】
硫黄原子は難接着性金属、特に銅との親和性が高く、硫黄原子をエポキシ樹脂系材料に導入するとこれらの接着性が向上することが知られており、特許文献1には、銅との密着性に優れる化合物としてトリアジンチオール化合物が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のトリアジンチオール化合物は、フリーなチオール基等によって副生物を生じ、結果、銅配線等の電子部品に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0006】
特許文献2には、チオール基やメルカプトメチル基などを有する芳香族硫黄化合物を用いた樹脂添加剤が開示されている。チオール基などを有する芳香族硫黄化合物は金属との親和性が良く、得られるエポキシ樹脂組成物の接着性を向上させるが、一方で、反応性に富むため、電子材料用途において半田リフロー時に高温にさらされることによって硫黄酸化物等の有害成分を副生し、電子材料の信頼性を著しく低下させることがあるという問題がある。また、低分子の含硫黄化合物は不快な臭気を持つものが多く、取り扱いが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−158240号公報
【特許文献2】特開2006−117881号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K.Cho and E.C.Cho,J.Adhes.Sci.Tachnol.,2000,14,p.1333−1353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、金属に対する接着性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エポキシ樹脂と、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体とを含有するエポキシ樹脂組成物である。
【0011】
【化1】

【0012】
式(1)中、Xは炭素数1〜8のアルキル鎖、脂環、芳香環、または、炭素数1〜4のアルキル基を有する芳香環を示す。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明者らは、特定の構造を有するポリチオエステル重合体を配合することにより、金属との接着部位で剥離やクラックなどを生じにくく、有害物質を副生することがほとんどないエポキシ樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を含有する。
前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を含有することにより、本発明のエポキシ樹脂組成物は、金属に対する優れた接着性を有する。
また、前記式(1)中におけるXがアルキル鎖である場合の炭素数は4〜8であることが好ましく、炭素数が多い方が、重合体が柔軟な構造を示し、高い接着性能向上の効果が発現される。
【0015】
前記式(1)で表される繰り返し構造単位は特に限定されず、例えば、下記式(2)〜(12)で表される繰り返し構造単位などが挙げられる。
【0016】
【化2−1】

【化2−2】

【化2−3】

【0017】
前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は2000、好ましい上限は50万である。前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の重量平均分子量が2000未満であると、得られるエポキシ樹脂組成物が金属に対する接着性に劣るものとなることがある。
なお、本明細書において、前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、ポリスチレン換算により求められる値である。GPCによってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、Shodex KF803L、Shodex KF804L(いずれも、昭和電工社製)などが挙げられる。
【0018】
前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量は特に限定されないが、エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましい下限は0.01重量部、好ましい上限は25重量部である。前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量が0.01重量部未満であると、得られるエポキシ樹脂組成物が耐熱性や金属に対する接着性に劣るものとなることがある。前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量が25重量部を超えると、得られるエポキシ樹脂組成物が金属に対する接着性に劣るものとなることがある。前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は20重量部、さらに好ましい下限は1重量部、さらに好ましい上限は15重量部である。
【0020】
前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を製造する方法としては、例えば、ジカルボン酸ハロゲン化物を用いる溶融重合法、溶液重合法、界面重合法、エステル交換法、直接重合法などを用いることができる。
具体的には例えば、下記式(13)で表されるビス−(4−メルカプトフェニル)スルホンと下記式(14)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物とを無溶媒または溶媒中で反応させることによって、脱ハロゲン化水素を行い重合することにより製造することができる。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
式(14)中、Xは炭素数1〜8のアルキル鎖、脂環、芳香環、または、炭素数1〜4のアルキル基を有する芳香環を表し、Yはハロゲン原子を表す。式(14)中におけるXがアルキル鎖である場合の炭素数は4〜8であることが好ましい。
【0024】
前記式(14)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物は、市販のものを用いることができるが、前記式(14)中のYが塩素原子のものが好ましく、例えば、マロン酸塩化物、コハク酸塩化物、グルタル酸塩化物、アジピン酸塩化物、ピメリン酸塩化物、スベリン酸塩化物、アゼライン酸塩化物、セバシン酸塩化物、ウンデカン二酸塩化物、ドデカン二酸塩化物、フタル酸塩化物、イソフタル酸塩化物、テレフタル酸塩化物、5−tert−ブチルイソフタル酸塩化物などが挙げられる。
【0025】
前記式(14)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物は、前記ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホン1モルに対して、0.5〜1.5モル使用することが好ましく、0.9〜1.2モル使用することがより好ましい。
【0026】
前記ビス−(4−メルカプトフェニル)スルホンと前記式(14)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物との反応において、溶媒は用いなくてもよいが、原料が固体であったり、反応液の粘度が高く攪拌が不充分となったりする場合は、必要に応じて溶媒を用いてもよい。
前記溶媒としては、非水系のものが好ましく、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ブロモプロパン、ブロモブタン、ブロモペンタン、ブロモヘキサン、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピルなどのハロゲン化アルキル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、石油エーテル、ベンジン、ケロシン、トルエン、キシレン、メシチレン、ベンゼンなどの炭化水素類などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含有する。
前記エポキシ樹脂は特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、含窒素環エポキシ樹脂であるトリグリシジルイソシアヌレートやヒダントイン型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロ型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂などを用いることができる。これらの中でも、LED素子などの光半導体用の封止材料として広く用いられ、透明性、強靭性、耐熱性にも優れることから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適に用いられる。また、半導体封止材料として需要が大きく、耐熱性、耐薬品性、電気特性に優れた硬化物を与えることから、ノボラック型であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂も好適に用いられる。これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。
前記硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、潜在性硬化剤である三フッ化ホウ素アミン錯体やジシアンジアミドなどを、それぞれの用途に応じて使用することができる。また、半導体封止材料に広く用いられるノボラック型フェノール樹脂などのフェノール樹脂を硬化剤として用いることもできる。
前記アミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミンやジアミノジフェニルメタンやジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ポリアミンを使用することができる。しかしながら、前記アミン系硬化剤は金属に対して優れた接着性を示すものの、人体への毒性や高い粘性および着色の原因となる。
前記酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ナジック酸、水素化無水ナジック酸、無水トリメット酸、無水ピロメリット酸などを用いることができる。
前記酸無水物系硬化剤は低い粘度で扱いやすく、配合物の可使時間が比較的長く、硬化物が電気絶縁性、機械的特性、耐熱安定性、耐薬品性に優れるものとなり、さらに、前記アミン系硬化剤と比較して安全衛生性に優れているなどの利点を有しており、LED素子などの光半導体の封止材料、半導体の封止材料、電気・電子絶縁材料に好適に用いることができる。これらの酸無水物系硬化剤の中でも、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸が好適に用いられる。
これらの硬化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
前記硬化剤の配合量は特に限定されないが、前記エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、硬化剤におけるエポキシ基と反応可能な活性基が0.5〜1.5当量となるように配合することが好ましく、0.7〜1.2当量となるように配合することがより好ましい。
【0030】
一般に酸無水物系硬化剤などの硬化剤は、ポットライフが長く毒性が小さいが、一方で、硬化反応が比較的緩やかに進行するため、硬化に高温、長時間を要することがある。したがって、必要に応じて硬化剤と硬化促進剤とを併用してもよい。
【0031】
前記硬化促進剤としては、例えば、ベンジルメチルアミンなどの3級アミンや2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類などが挙げられる。
また、前記硬化剤として半導体封止材料に好適なフェノール樹脂を用いる場合、前記硬化促進剤として、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7などの第3級アミン類、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類、オクチル酸スズなどの金属化合物などを用いることが好ましい。
【0032】
前記硬化促進剤の配合量は特に限定されないが、硬化物の耐熱性や接着性に優れた硬化物が得られることから、前記エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は5.0重量部である。前記硬化促進剤の配合量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は2重量部である。
また、前記硬化剤としてフェノール樹脂を用いる場合、前記硬化促進剤は前記エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部配合することが好ましい。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、線膨張係数を調整することを目的として、無機フィラーを含有してもよい。
前記無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク等が挙げられる。
一般的には、樹脂と金属との線膨張係数のミスマッチを防ぐために、低線膨張率化が望まれている。また、線膨張係数はガラス転移温度以上では大きく高まるので、ガラス転移温度未満およびガラス転移温度以上での線膨張係数の評価が必要である。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤を含有してもよい。
前記酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、ブチル化ヒドリキシアニソール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのモノフェノール類や、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などのビスフェノール類や、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどの高分子型フェノール類や、テトラキス[メチレン−3−(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、10−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10オキサイドなどのオキサホスファフェナントレンオキサイド類などが挙げられる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、チクソトロピー付与剤を含有してもよい。
前記チクソトロピー付与剤としては市販されているものを用いることができ、例えば、アエロジル(日本アエロジル社製)やディスパロン(楠本化成社製)などが挙げられる。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、顔料を含有してもよい。
前記顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩などの無機顔料や、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラックなどの有機顔料が挙げられる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤を含有してもよい。
前記紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリチレートなどのサリチル酸エステルや、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール類や、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン類などが挙げられる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、離型剤を含有してもよい。
前記離型剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸、ポリエチレン系離型剤、ポリエチレン−ポリオキシエチレン系離型剤、カルナバワックスなどが挙げられる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、難燃剤を含有してもよい。
前記難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチルメチルホスホネート、臭素化有機リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイドーポリエーテル、臭素化ポリエーテルなどが挙げられる。
【0040】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、造膜剤、ゴム改質剤、界面活性剤、反応性希釈剤、各種オリゴマー、各種ポリマーなどの添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、前記エポキシ樹脂、前記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体、および、前記硬化剤などを、3本ロールなどの装置を用いて混合する従来公知の方法が挙げられる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、塗料、コーティング剤、印刷インキ、レジストインキ、接着剤、半導体封止材料、光半導体封止材料、成形材料、電気絶縁材料などの用途に用いることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、金属に対する接着性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は、金属に対して高い接着性を示すため、電子材料分野、特に封止材料分野において有用である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0045】
(合成例1)
[式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の製造]
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却器を備え付けた300mL容の四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、ビス−(2−メルカプトエチル)スルフィド3.09g(0.020モル)およびクロロホルム200gを仕込み、トリエチルアミン4.25g(0.042モル)を徐々に加え、室温で30分撹拌した。その後、アゼライン酸塩化物4.73g(0.021モル)を徐々に加え、30分間還流した。還流後、脱水メタノールを5g加えた。反応溶液をアセトン/メタノール溶液に滴下し、再沈殿させた。沈殿物をメタノール、水、アセトンで洗浄し、減圧濾過後、乾燥させ、式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体4.9gを得た。ビス−(2−メルカプトエチル)スルフィドに対する得られたポリチオエステル重合体の収率は80%であった。
なお、得られたポリチオエステル重合体は、下記の物性を有することから同定することができた。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl):1.31(m、6H)、1.64(m、4H)、2.55(t、4H)、2.74(m、4H)、3.09(m、4H)
IR(KBr)1686cm−1(チオエステル結合のカルボニル基)
また、カラムとしてShodex KF804L&KF803L(昭和電工社製)を用いたGPC(クロロホルム溶媒、カラム温度40℃、流速1.0ml/min)で測定し、ポリスチレン換算したところ、得られたポリチオエステル重合体の重量平均分子量は45550であった。
【0046】
(合成例2)
[式(10)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の製造]
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却器を備え付けた300mL容の四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、ビス−(2−メルカプトエチル)スルフィド3.86g(0.025モル)およびクロロホルム125gを仕込み、トリエチルアミン5.315g(0.042を徐々に加え、室温で30分撹拌した。その後、イソフタル酸塩化物5.33g(0.026モル)を徐々に加え、30分間還流した。還流後、脱水メタノールを5g加えた。反応溶液をアセトン/メタノール溶液に滴下し、再沈殿させた。沈殿物をメタノール、水、アセトンで洗浄し、減圧濾過後、乾燥させ、式(10)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体6.8gを得た。ビス−(2−メルカプトエチル)スルフィドに対する得られたポリチオエステル重合体の収率は96%であった。
なお、得られたポリチオエステル重合体は、下記の物性を有することから同定することができた。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl):2.92(t、4H)、3.36(t、4H)、7.55(t、1H)、8.13(dd、2H)、8.51(s、1H)
IR(KBr)1662cm−1(チオエステル結合のカルボニル基)
また、カラムとしてShodex KF804L&KF803L(昭和電工社製)を用いたGPC(クロロホルム溶媒、カラム温度40℃、流速1.0ml/min)で測定し、ポリスチレン換算したところ、得られたポリチオエステル重合体の重量平均分子量は17390であった。
【0047】
(実施例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「jER828」)100重量部に対して、合成例1で作製した式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体5重量部を溶解させ、硬化剤としてリカシッドMH−700(新日本理化社製、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=70/30)90重量部、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成社製、「キュアゾール2E4MZ」)1重量部を添加し、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0048】
(実施例2)
式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量を10重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0049】
(実施例3)
式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の配合量を20重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0050】
(実施例4)
式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体に代えて、合成例2で作製した式(10)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0051】
(実施例5)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「jER806」)100重量部に対して、合成例1で作製した式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体10重量部を溶解させ、硬化剤としてo−クレゾールノボラック樹脂(日本化薬社製)70重量部、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(ナカライテスク社製、特級)3重量部を添加し、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0052】
(比較例1)
式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0053】
(比較例2)
式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を用いなかったこと以外は、実施例5と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0054】
<評価>
実施例および比較例で得られたエポキシ樹脂組成物について以下の評価を行った。
【0055】
(金属に対する接着性)
(1)引張せん断強度
無酸素銅板(JIS H3100(C1020P)、100×25×1.6mm)をアセトンで脱脂後、研磨紙(240番)で研磨し、アセトンで研磨屑を洗浄した。その後、10%硝酸で30秒間エッチングし、蒸留水で洗浄した後、乾燥させて、試験片とした。
得られた試験片に、実施例、比較例で得られたエポキシ樹脂組成物を、接着部が12.5×25mmの長方形になるように塗布し、もう一枚の試験片を張り合わせ、120℃で2時間加熱した後、さらに、170℃で2時間加熱して硬化させ、引張せん断試験片とした。
引張せん断試験は万能試験機(ミネベア社製、「NMB−50kNB」)を用いて、つかみ具距離100mm、試験速度5mm/minの条件で実施した。結果を表1および表2に示した。
【0056】
(2)90度剥離強度
電解銅箔を5cm以上×5cm以上に切断し、アセトンで防腐剤を洗浄後、10%硝酸で30秒間エッチングし、蒸留水で洗浄した後、60℃で乾燥させて、試験片とした。
実施例、比較例で得られたエポキシ樹脂組成物100重量部に対してAEROGEL(#200、平均粒子径12μm)を3重量部添加したものをアルミ板に塗布し、その上から得られた試験片の平滑面を重ね合わせた。120℃で2時間加熱した後、さらに、170℃で2時間加熱して硬化させ、硬化後、幅1cmずつカッターで切れ目を入れ、90度剥離試験片とした。なお、アルミ板については、アセトンで脱脂後、研磨紙(600番)で研磨し、アセトンで研磨屑を除去し乾燥させたものを使用した。
90度剥離試験は、DAGE−SERISE4000(アークラック社製)を用いて、試験速度25mm/minの条件で実施した。結果を表1および表2に示した。
【0057】
(3)線膨張係数
実施例1〜4、比較例1で得られたエポキシ樹脂組成物をそれぞれ金属製の金型に流し込み、120℃で2時間加熱した後、さらに、170℃で2時間加熱して硬化させ、4×4×10mmサイズの試験片を得た。線膨張係数の測定は、TMASS6000(SII社製)を用いて、スタート荷重−50mN、リミット荷重−50mN、レート0.1mN/min、2℃/minの条件で、圧縮モードで実施した。ガラス転移温度未満およびガラス転移温度以上における結果を表1に示した。
【0058】
(4)透過率
実施例1〜4、比較例1で得られたエポキシ樹脂組成物をそれぞれ直径50mm、深さ2mmの円形モールドに流し込み、120℃で2時間加熱して硬化させ、円板の試験片を得た。透過率の測定は、HazeMeterNDH4000(日本電子工業社製)を用いた。結果を表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1より、エポキシ樹脂100重量部に対して、式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を10重量部添加すると、式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を添加しないエポキシ樹脂組成物と比較して、引張せん断強度は約1.5倍、90度剥離強度は約3.1倍向上した。また、式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を20重量部添加すると、引張せん断強度は約1.7倍、90度剥離強度は約3.5倍向上した。同様に、式(10)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を添加したエポキシ樹脂組成物も、金属に対する接着性に優れるものとなった。
一般的に、金属と樹脂との線膨張係数のギャップが大きくなると界面での剥離が生じやすくなり、樹脂には低い線膨張係数が望まれている。表1より、実施例1〜4で得られたエポキシ樹脂組成物においては、ポリチオエステル重合体を添加しても大幅な線膨張係数の変化はなく、封止材料用途においては無機フィラーを充填することによって線膨張係数を調整することが可能であることから、問題となるレベルではない。さらに、含硫黄化合物を添加するときの懸念として硬化物の黄変が挙げられるが、実施例1〜4で得られたエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂の透明性を維持することができ、特にLED等の光学材料に有用である。
表2においても、エポキシ樹脂100重量部に対して、式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を10重量部添加すると、式(8)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体を添加しないエポキシ樹脂組成物と比較して、金属に対する接着性が向上した。実施例5で得られたエポキシ樹脂組成物は、特に半導体封止材料等に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、金属に対する接着性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体とを含有するエポキシ樹脂組成物。
【化1】

式(1)中、Xは炭素数1〜8のアルキル鎖、脂環、芳香環、または、炭素数1〜4のアルキル基を有する芳香環を示す。
【請求項2】
さらに、硬化剤を含有する請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリチオエステル重合体の含有量が、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01〜25重量部である請求項1または2記載のエポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−201690(P2012−201690A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64355(P2011−64355)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【Fターム(参考)】