説明

エポキシ樹脂組成物

(a)エポキシ樹脂及び(b)少なくとも1種の無機リン含有化合物安定剤、例えば二塩基性ピロリン酸ナトリウム(SPD)化合物などの添加剤を含む低色度のエポキシ樹脂組成物であって、得られるエポキシ樹脂組成物は、貯蔵安定であり、低い色度を示す。当該低色度のエポキシ樹脂組成物は、発光ダイオード(LED)において有用なエポキシ封止剤を調製するのに使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低色度(low color)のエポキシ樹脂組成物及びかかる組成物の発光ダイオード(LED)における使用に関する
【背景技術】
【0002】
例えば発光ダイオード(LED)などのオプトエレクトロニック装置は、それらの用途が、信号ランプ、フルカラーディスプレイその他の照明器具などを含む様々なディスプレイ及び照明用途に拡がってきたため、オプトエレクトロニクスの分野は爆発的に成長している。
【0003】
特定のエポキシ樹脂材料は優れた光学的透過性、機械的特性、及び接着特性を有する。例えば、環式脂肪族エポキシ樹脂はLEDを収容し保護するための封止材又はコーティングとしての特殊な有用性がある。しかし、従来のエポキシ樹脂材料は、通常、LED内の光エミッターから発生した熱及び光により引き起こされる色形成などの欠点を有する。これは、LED光出力の退色及びLEDの実用寿命の短縮をもたらす。
【0004】
グリシジルエーテル含有エポキシ樹脂、特に芳香族部分を含むものは、高温での貯蔵による色形成が高いという欠点を有することもある。さらに、それらのエポキシ樹脂は、高温での貯蔵により粘度が増加することもある。芳香族ビスフェノール化合物(例えばビスフェノールA)から誘導されたジグリシジルエーテルは通常、「液状エポキシ樹脂」又はLERと呼ばれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
改善された熱安定性を提供し、熱老化による色形成の速度が遅く、LEDの実用寿命を長くするために、LEDにおける封止材又はコーティングとして使用するための低色度の環式又は脂環式エポキシ樹脂組成物を開発することが当業界で求められている。グリシジルエーテル含有エポキシ樹脂の貯蔵安定性を改善することも必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施態様は、(a)少なくとも1種のエポキシ樹脂及び(b)少なくとも1種の無機リン含有化合物安定剤を含むエポキシ樹脂組成物に関する。
本発明の別の実施態様は、本発明の低色度のエポキシ樹脂組成物の製造方法に関する。
本発明のさらに別の実施態様は、本発明の上記の低色度のエポキシ樹脂組成物を含むエポキシ樹脂封止材に関する。
本発明のさらに別の実施態様は、上記のエポキシ樹脂組成物を含む発光ダイオードに関する。
本発明のさらに別の実施態様は、より貯蔵安定なグリシジルエーテル含有エポキシ樹脂に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明の単純な発光ダイオード(LED)構造の透視部分断面図である。
【図2】図2は、一定の高い温度で試料を貯蔵した後、時間(150℃での日数)の関数としての試料の色形成(APHA色)を示すグラフ図である。図2は、比較例C(二塩基性ピロリン酸ナトリウム(SPD)を含まないエポキシ樹脂)及び実施例2(SPDを含むエポキシ樹脂)についてのデータを示す。
【図3】図3は、一定の高い温度で試料を貯蔵した後、時間(150℃での日数)の関数としての試料の粘度(25℃でのブルックフィールド(Brookfield)粘度、cps)を示すグラフ図である。図3は、比較例C(SPDを含まないエポキシ樹脂)及び実施例2(SPDを含むエポキシ樹脂)についてのデータを示す。
【図4】図4は、一定の高い温度で試料を貯蔵した後、時間(150℃で数日間)の関数としての試料のエポキシド当量(EEW)を示すグラフ図である。図4は、比較例C(SPDを含まないエポキシ樹脂)及び実施例2(SPDを含むエポキシ樹脂)についてのデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
用語「安定性」という用語は、本明細書において、例えば少なくとも40℃を超える所定温度で少なくとも30日を超える貯蔵で色及び粘度の変化速度が低いことを意味する。好ましくは、20℃〜約40℃の温度で2ヶ月間から2年間である。
用語「色」は、本明細書において、300〜760ナノメートルの範囲内のおおよその波長の電磁エネルギーの吸収を意味する。
用語「低色度」は、本明細書において、上記色範囲でのエネルギー吸収が少ないことを意味する。
本明細書において使用する場合に、用語「低色度添加剤(low color additive)」は、樹脂材料に添加するのに適し、かかる樹脂材料の色形成を減少(又は低減)するのに有用な添加剤を意味する。樹脂材料は、例えばエポキシ樹脂などの任意の樹脂マトリックスを含んでもよい。
本明細書において使用する場合に、用語「低色度のエポキシ樹脂組成物」は、低色度添加剤を含むエポキシ樹脂組成物を意味する。得られるエポキシ樹脂組成物は、かかる低色度添加剤を含まない同じエポキシ樹脂組成物よりも低減された又はより低い色形成を示す。
「色安定性」とは、本明細書において、対照に対して所定の時間で色変化が少ないことを意味する。
試料に関して「熱エージング」とは、試料を公称25℃の貯蔵温度よりも高い温度に加熱し、安定剤を含む試料の特定の所定の1又は複数の特性、例えば色及び/又は粘度が安定剤を含まない「対照」試料の同じ特性と比較することを意味する。有効であるためには、安定化された試料材料が安定化されていない対照試料よりも少ない色変化を示すべきである。
本明細書において「色形成の速度」とは、単位時間あたりの色の変化率を意味する。
「全可視光スペクトル」という語句は、可視光スペクトルが波長約400〜760ナノメートルの電磁エネルギーであることを意味する。
【0009】
本発明によれば、低色度のエポキシ樹脂組成物は、(a)少なくとも1種のエポキシ樹脂化合物及び(b)少なくとも1種の無機リン含有化合物安定剤を含む。無機リン含有化合物安定剤は、実施例では低色度添加剤として使用した。低色度添加剤は、例えば、無機ホスフェート化合物を含んでよい。本発明の1つの例示で、ホスフェート化合物としては、例えばポリリン酸ナトリウム又はピロリン酸ナトリウムが挙げられる。ピロリン酸ナトリウムの一例は、好ましくは二塩基性ピロリン酸ナトリウム(SPD)化合物又は四塩基性ピロリン酸ナトリウム(SPT)化合物である。
【0010】
本発明の低色度のエポキシ樹脂組成物において使用されるエポキシ樹脂、成分(a)は、1分子当り1又は2個以上のエポキシ基を含む1又は2種以上のエポキシド樹脂化合物を含むものであることができる。エポキシ樹脂は少なくとも1つのビシナルエポキシ基を含む化合物である。エポキシ樹脂は、飽和又は不飽和の、脂肪族、環式脂肪式、芳香族又は複素環式であることができ、置換されていてもよい。エポキシ樹脂はモノマーであってもポリマーであってもよい。本発明において有用なエポキシ樹脂の広範な列挙は、引用により本明細書に援用するLee, H.及びNeville, K., "Handbook of Epoxy Resins (エポキシ樹脂ハンドブック)", McGraw-Hill Book Company,NewYork, 1967年, 第2章第257頁〜第307頁に見られる。
【0011】
本発明の成分(a)について本明細書に開示する実施態様において使用されるエポキシ樹脂は、様々なものであることができ、かかるエポキシ樹脂としては、従来の及び市販入手可能なエポキシ樹脂が挙げられ、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。本明細書に開示する組成物についてエポキシ樹脂を選択する際に、最終製品の特性にのみ考慮がなされるべきでなく、樹脂組成物の加工に影響を及ぼしうる粘度及び他の特性も考慮されるべきである。
【0012】
当業者に知られている特に好適なエポキシ樹脂は、多官能アルコール類、フェノール類、環式脂肪族カルボン酸、カルボン酸、芳香族アミン又はアミノフェノールと、エピクロロヒドリンとの反応生成物に基づく。幾つかの非限定的な実施態様は、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、及びパラ−アミノフェノールのトリグリシジルエーテルである。当業者に知られている他の好適なエポキシ樹脂としては、エピクロロヒドリンとo−クレゾールとの反応生成物と、それぞれ、エピクロロヒドリンとフェノールノボラックとの反応生成物が挙げられる。2種又は3種以上のエポキシ樹脂の混合物を使用することも可能である。
【0013】
硬化性組成物を調製するために本発明において有用なエポキシ樹脂、成分(a)は、市販の製品から選択することができる。例えば、ダウ・ケミカル社(The Dow Chemical Company)から入手可能なERL−4221 D脂環式エポキシド、D.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂、D.E.R.(登録商標)332エポキシ樹脂、D.E.R.(登録商標)334エポキシ樹脂、D.E.R.(登録商標)580エポキシ樹脂、D.E.N.(登録商標)431エポキシノボラック、D.E.N.(登録商標)438エポキシノボラック、D.E.R.(登録商標)736エポキシ樹脂、又はD.E.R.(登録商標)732エポキシ樹脂を使用することができる。上記エポキシ樹脂成分に使用することができる他の市販のエポキシ樹脂は、D.E.R.(登録商標)330エポキシ樹脂又はD.E.R.(登録商標)354エポキシ樹脂であることができる。本発明の一例として、エポキシ樹脂成分(a)は、ビスフェノールAの次グリシジルエーテル、液状エポキシ樹脂、175〜185のエポキシド当量、9.5Pa・sの粘度及び1.16g/ccの密度を有するD.E.R.(登録商標)383エポキシ樹脂であることができる。D.E.R.(登録商標)はダウ・ケミカル社の商標である。
【0014】
成分(a)として有用な他の好適なエポキシ樹脂は、例えば米国特許第3,018,262号、第7,163,973号、第6,887,574号、第6,632,893号、第6,242,083号、第7,037,958号、第6,572,971号、第6,153,719号及び第5,405,688号、PCT公開WO2006/052727号、米国特許出願公開第20060293172号及び第20050171237号に開示されており、これらのそれぞれを引用により本明細書に援用する。
【0015】
一般的に、本発明において有用なエポキシ樹脂は、約90〜約2000、好ましくは約140〜約1670、より好ましくは約250から約1000の平均分子量を有する。
【0016】
本発明において有用なエポキシ樹脂のエポキシド当量は、一般的に約70〜約1000、より好ましくは約98〜約500である。本明細書において使用される場合に、用語「エポキシド当量」とは、分子中に存在するオキシラン基の平均数で割ったポリエポキシド分子の平均分子量を指す。
【0017】
一般的に、低色度のエポキシ樹脂組成物において使用されるエポキシ樹脂は、低色度のエポキシ樹脂組成物の総質量を基準にして、一般的には約50重量パーセント(wt%)〜約99wt%、より好ましくは約63wt%〜約99wt%、最も好ましくは約63wt%〜約99wt%である。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物において使用されるリン含有化合物(P−化合物)、成分(b)は、1又は2種以上のホスフェート化合物、例えばアルカリ金属ピロリン酸塩、例えばピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、トリフェニルホスフィンなど、及びこれらの混合物など任意の無機ピロホスフェートから選択される化合物などを含んでよい。好ましくは、本発明において使用されるホスフェート化合物は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオンなどから成る群から選択される。本発明において有用なホスフェート化合物の他の例は、1981年4月に発行(Googleから)されたIntroduction to Phosphorous Chemistry, H. Goldwhite, Cambridge Press, 第128頁など、及びAdvanced inorganic Chemistry, FA Cotton and G Wilkinson, Interscience Publishers, 1966, Chapter 20に記載されており、それぞれ引用により本明細書に援用する。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂配合物に低い色度と低い粘度上昇をもたらすのに有用なさらに他のP−化合物としては、当該技術分野でピロリン酸二ナトリウム及びピロリン酸二水素二ナトリウムとも呼ばれている二塩基性ピロリン酸ナトリウム(SPD);及び四塩基性ピロリン酸ナトリウム(SPT)、並びにこれらの混合物が挙げられる。二塩基性ピロリン酸ナトリウムと類似のP−化合物は、引用により本明細書に援用する欧州特許第403,542号(B1)明細書に記載されている。欧州特許第403,542号(B1)明細書には、例えば、本発明において有用な次のP−化合物が記載されている:ピロリン酸四ナトリウム;ピロリン酸メチル三ナトリウム;ピロリン酸ジイソアミル二カリウム;トリポリリン酸t−ブチル四カリウム;テトラポリリン酸、例えばテトラポリリン酸トリエチル三カリウムなど;一般的にリン酸三カルシウムと呼ばれているヒドロキシリン酸カルシウム、及びこれらの混合物。
【0020】
本発明において有用なP−化合物の他の例としては、ピロリン酸四ナトリウム、テトラベンジルジホスフェート、テトラブチルアンモニウムピロホスフェート(3:1)、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0021】
P−化合物、成分(b)が、本発明のエポキシ樹脂組成物に低色度を提供することが都合良い。従って、本発明のP−化合物は「低色度添加剤」と見なすことができる。本発明において、エポキシ樹脂(成分(a))中の少量(例えば約175ppm未満)の低色度添加剤の存在は、低色度添加剤を含まないエージングされたエポキシ樹脂と比較して、低色度添加剤を含むエージングされたエポキシ樹脂の色形成速度を減少させることが見出された。
【0022】
本発明において有用な好ましい低色度添加剤の一例は、ポリピロホスフェート(ポリホスフェート)、より好ましくは、四塩基性ピロリン酸ナトリウム(SPT)化合物又は二塩基性ピロリン酸ナトリウム(SPD)化合物などの無機ピロホスフェート化合物である。
【0023】
SPTの化学構造は次のとおりである。
【0024】
【化1】

【0025】
SPDの化学構造は次のとおりである。
【0026】
【化2】

【0027】
一般的には、望ましい利点が得られるようにできるだけ多くのピロホスフェート添加剤(すなわち、SPT又はSPD)をエポキシ樹脂組成物に添加することが望ましいが、エポキシ樹脂組成物中に存在するピロホスフェートが不溶性になって曇りを生じるほど多量ではない。従って、低色度のエポキシ樹脂組成物を形成するためにエポキシ樹脂組成物に添加されるピロホスフェート(すなわちSPT又はSPD)の量は、一般的に、約25ppm〜約175ppm以下、好ましくは約100ppm〜約175ppm、より好ましくは約125ppm〜約175ppmの範囲内である。
【0028】
本発明において有用な低色度添加剤は、エポキシ樹脂の色形成の速度を低減するために使用することができる。例えば、環式脂肪族エポキシ樹脂(CER)及び液状エポキシ樹脂(LER)などのエポキシ樹脂に、例えばSPDなどの低色度添加剤を加えることは、加速エージング実験で色安定性に対する有益な効果を有することが示された(下記実施例を参照)。エポキシ樹脂の他の特性、例えば粘度及びエポキシド当量(EEW)も、エポキシ樹脂中に例えばSPDなどの低色度添加剤が存在することによって改善されることもあり(下記実施例を参照)。
【0029】
加速エージング実験は、一般的に、エポキシ樹脂の色形成に及ぼす時間及び温度の効果を予測するために使用される。加速エージング実験は、例えば、(1)エポキシ樹脂を、高温に長時間、一般的には約100℃〜約200℃に約1時間〜約600時間加熱し、(2)エージングされたエポキシ樹脂の特性、例えば色、EEW及び粘度を特定の時間間隔、例えば約1〜約10時間間隔で測定し、(3)加熱後に測定された特性についての結果と実験の開始時に測定された特性値とを比較することによって実施できる。加速エージング実験は、エポキシ樹脂メーカーにとって、エージングした場合のエポキシ樹脂の色と他の特性の応答を理解するために有用である。加速エージング実験は、通常、空気雰囲気下で実施される。これは、エポキシ樹脂がそれらの用途のほとんどで、通常、貯蔵及び使用される条件である。
【0030】
様々な加速エージング実験は、当該技術分野においてよく知られている。本発明において使用される加速エージング実験の一例は、150℃で約1〜150時間、エポキシ樹脂試料を加熱し、色を測定するというものである。
本発明において、加速エージング実験は、低色度添加剤を使用していないエージングされたエポキシ樹脂と比べて、SPDを含むエージングされたエポキシ樹脂の特性に及ぼすSPDなどの低色度添加剤を使用する効果を測定するために使用される(下記実施例及び図2〜4参照)。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物において任意の硬化剤を使用でき、硬化剤としては、例えば、酸無水物、多官能性カルボン酸、アミン、多官能性アミン、超酸(例えばHPF、HSbF、CFSOHなど)、及びそれらの混合物が挙げられる。
本発明のエポキシ樹脂組成物において任意の触媒を使用でき、触媒としては、例えば、1又は2種以上のルイス酸及び塩基が挙げられる。
【0032】
本発明において有用であることができる他の任意成分は、当業者に知られている樹脂配合物に通常使用されているものである。例えば、酸無水物、フィラー、顔料、成分(a)と異なる他のエポキシ樹脂、安定剤、可塑剤、触媒失活剤、及びこれらの混合物など、の添加剤の組み合わせを本発明の組成物に加えることができる。
【0033】
本発明において使用される任意の添加剤の濃度は、組成物の総質量を基準にして、一般的には0wt%〜約99wt%、好ましくは約0.1wt%〜約95wt%、より好ましくは約0.25wt%〜約75wt%、最も好ましくは約0.5wt%〜約33wt%であることができる。
【0034】
硬化性エポキシ樹脂組成物を効果的に硬化させる量の硬化剤(架橋剤又は硬化剤)と混合された上記の低色度のエポキシ樹脂組成物を含む硬化性又は熱硬化性の低色度のエポキシ樹脂組成物を本発明において調製することができる。硬化剤の例としては、酸無水物、アミン、フェノール系化合物、及び酸が挙げられるが、これらに限定されない。硬化性の低色度のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、硬化触媒を含んでもよい。硬化条件で硬化した場合に、硬化性の低色度のエポキシ樹脂組成物は、硬化又は熱硬化したエポキシ樹脂を提供する。
【0035】
本発明の低色度の硬化性の脂環式又は環式脂肪族含有エポキシ樹脂組成物を硬化させる方法は、大気圧(例えば760mmHg)、過圧(superatmospheric pressure)又は減圧(subatmospheric pressure)で、約0℃〜約300℃、好ましくは約25℃〜約250℃、より好ましくは約50℃〜約200℃の温度で実施できる。
【0036】
本発明の低色度の硬化性のグリシジルエーテル含有エポキシ樹脂組成物を硬化させる方法は、大気圧(例えば760mmHg)で、過圧又は減圧で、約−10℃〜約250℃、より好ましくは約10℃〜約220℃、より好ましくは約25℃〜約200℃の温度で実施できる。
【0037】
硬化を完了するために必要な時間は、用いられた温度に依存することがある。温度が高いほど一般的により短かい時間を必要とし、温度が低いほど一般的により長い時間を必要とする。一般的には、硬化の完了に必要な時間は、約1分間〜約48時間、好ましくは約15分間〜約24時間、より好ましくは約30分間〜約12時間である。
【0038】
本発明の低色度の硬化性エポキシ樹脂組成物を部分的に硬化させて部分的に硬化した中間生成物を形成し、その後、その中間製品を完全に十分に硬化させるよう実施することも可能である。
【0039】
本発明の低色度のエポキシ樹脂組成物は、多くの用途、例えば、LEDの封止材(照明、光ファイバエミッタ、自動照明、方向指示灯などを含む多くのLED最終用途がある)、光学センサー、読書用のレンズなど、望遠鏡の光学系、OLED(有機発光ダイオード)用のフィルム接着剤、光起電力セルの封止剤及びコーティング、耐候性エポキシコーティング、屋外電気絶縁材、及び任意のエポキシコーティング配合物などにおいて有用であることができる。
【0040】
グリシジルエーテルを含有するエポキシ樹脂の場合に、本発明の低色度のエポキシ樹脂組成物は、装飾及び保護コーティングにおいて特に有用であることができる。これらのコーティングの例としては、一般的な金属コーティング、例えば食品缶ライニング、又はアプライアンス又はパイプライン用の粉体コーティングなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのグリシジルエーテルに基づく樹脂についての他の最終用途は、複合材料及び電気回路板などの用途におけるバインダーである、さらに、グリシジルエーテル含有エポキシ樹脂は、ポッティング及びキャスティング用途におけるコンポーネントとしての有用性がある。
【0041】
好ましくは、本発明の低色度の脂環式又は環式脂肪族エポキシ樹脂組成物は、例えば、高いガラス転移温度(Tg)、例えば約100℃より高いTg、電気アークトラック抵抗に対する良好な耐性(ASTM D2303法で測定した場合)、例えばトラックが発生するまで約1000分間を超えるという耐性、低い色度、例えば約50APHA未満の色、及び約250ppm未満の低い加水分解可能な塩化物含有量を必要とする用途において有用であることができる。
【0042】
本発明の一実施態様において、低色度のエポキシ樹脂組成物は、発光ダイオード(LED)のための電気用注型品(例えば、ポッティング及び封止コーティング)に使用できる。LEDの封止のようなエポキシ樹脂の多くのオプトエレクトロニクス用途において、硬化後又は加速エージング試験後に低い色度を有するエポキシ樹脂組成物が望まれている。本発明の低色度のエポキシ樹脂組成物は、特に、白色及び青色の高強度(例えば約18ルーメン毎ワット以上)のLEDのような非常に低い色度を必要とする特殊なLED用途に有用であることができる。
【0043】
本発明の一実施形態において、本発明の低色度の脂環式又は環式脂肪族エポキシ樹脂組成物は、エポキシ封止材として発光ダイオード(LED)において使用できる。
【0044】
LEDは、電流が印加された場合に光を発するドープ半導体(PN)接合半導体ダイオードを含む固体デバイスである。図1は、符号10で一般的に示される本発明のLED構造の一例を示す。一般的に、LEDの基本的な構造は、図1に示すように、アノード11、カソード12、リフレクタ13、LEDチップ(LED半導体)14、ワイヤボンド(ホイスカー)15、及びLED10を覆い又は格納するための封止材料16を含むことができる。本発明の低色のエポキシ樹脂組成物は、封止材16に使用することができる。
【0045】
LED10で使用されるLED半導体14のタイプは、LEDの出力光の色を決定する。III−V半導体をもたらす(i)1又は2種以上の第III族元素と(ii)1又は2種以上の第V族元素の組み合わせからLED半導体を形成できる。適切なIII−V族半導体材料の例としては、窒化物、例えば窒化ガリウムなど;及びリン化物、例えばリン化インジウムガリウムなどが挙げられる。GaN系III−V化合物半導体、例えばInGaN、AlGaN、AlInGaN及びGaNなどからのLED発光は、短波長(すなわち紫外線)から長波長(すなわち赤色光)までの全可視光スペクトルをカバーすることができる。
【0046】
LEDにおいて、電力が光と熱の両方に変換される。本発明において有用な任意の封止材は、電気的な及び発光の非効率性の両方から散逸した熱に耐えることを必要とし、LEDの実用寿命を長くするために、LEDの用途で望まれているように、封止材は透明なままでなければならない。LEDの実用寿命又は動作寿命は、LED光出力強度の経時低下によって特徴付けられる。LEDが一定の期間後にその元の強度の半分に劣化した場合、LEDはその実用寿命の終わりにあると見なされる。典型的なLEDの実用寿命は「電源オン時間」の10,000時間から100,000時間であるであろう。電源オン時間は、電圧をLEDに印加し、光が放出された実時間を意味します。本発明のエポキシ封止材組成物を用いると、LEDの実用寿命を、典型的なLEDの実用寿命を超えるほどに長くすることができると考えられる。
【0047】
本発明の別の実施態様によると、エポキシ封止材は、(a)エポキシ樹脂と(b)低色度添加剤を含む低色度のエポキシ樹脂組成物を含み、低色度添加剤が、ピロホスフェート化合物、例えば四塩基性ピロホスフェート化合物(SPT)、二塩基性ピロホスフェート化合物(SPD)、又はそれらの混合物などを含む。
【0048】
本発明の低色度のエポキシ樹脂封止材は、熱エージング後の色形成の速度を、例えば、安定化されていないエポキシ樹脂のそれの30%未満に減少させるのに有用であることが本発明において発見された。
【0049】
本発明のエポキシ封止材は様々なタイプのLEDで使用できる。例えば、一実施形態において、封止材は、高い発光効率(例えば約5ルーメン毎ワット(lm/W)を超える)を有するLEDにおいて特に有用である。これらのタイプのLEDの一例は高輝度LED(例えば約28lm/Wを超える(高出力LED))(HB LED)である。HB LEDは、一般的に、AlGaAs系(赤色)、InGaAlPを(黄緑色〜赤色)、又はInGaN(青色、青緑色、緑色、白色)の材料から製造されたタイプのLEDと呼ばれている。HB LEDは、一般的に、約5lm/Wを超える、好ましくは約22lm/Wを超える、より好ましくは約65lm/Wを超える発光効率を有する。HB LEDは、自動車の表示、バックライト信号及び電子機器などの用途に使用できる。
【0050】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
以下の実施例で使用する様々な用語及び名称には、例えば、次のものがある:
ERL−4221 D環式脂肪族エポキシドは、ダウ・ケミカル社から市販されている蒸留された環式脂肪族エポキシであり;
D.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂は、ダウ・ケミカル社から市販されているビスフェノールAのジグリシジルエーテルであり;
「SPD」は二塩基性ピロリン酸ナトリウムを表し;
「SPT」は四塩基性ピロリン酸ナトリウムを表し;
「EEW」はエポキシド当量を表し;
「ppm」は百万分率を表す。
【実施例】
【0051】
実施例1及び比較例A及びB
試料Aは、エポキシ樹脂(ERL−4221 D)のみを含み、対照試料(「比較例」)として使用した。試料Bはエポキシ樹脂(ERL−4221D)とVICTAWET(登録商標)35Bを含む(「比較例B」)。試料Cは、エポキシ樹脂(ERL−4221D)とAkzoから供給されたSPTを含む(本発明の「実施例1」)。
上記試料の色度を、0が最も明るく、500が最も暗いとして、0から500までの白金−コバルト/ハーゼン(Hazen)/APHAカラースケールで測定した。白金−コバルト/ハーゼン/APHAカラースケールは、明るい色から暗い色の一連の透明な淡黄色液体(PtCo標準)を含み、最も明るい色は0と表示され、最も暗い色は500と表示される。PtCo標準は、白金-コバルト原液を特定の希釈倍率で一連の透明な淡黄色液体に希釈することにより調製される。試料のPtCo色は、まず、ガラスシリンダーにPtCo標準を入れて測定する。上記試料を、PtCo標準に対する色の比較のために光路長が同じ経路長になるように、同じ液体深さで同じタイプのガラスシリンダーに入れる。
試料の加速エージングは、次のように測定した:比較例A及びB並びに実施例1の試料を150℃のオーブン内に入れた。約120時間後、試料をオーブンから取り出し、周囲温度(例えば約25℃)に冷却した。試料の色をPtCo標準に照らして調べた。結果は、以下の表Iに記載されている
【0052】
【表1】

【0053】
SPT添加剤を含まずにVICTAWET(登録商標)35B(2−エチルヘキシルリン酸のナトリウム塩;SPI Suppliesから市販されているアニオン性のリン酸エステル)を含む比較例Bは、120時間のエージング実験中に高い色形成速度を示した。120時間後の得られたエージングされた比較例Bの色度は約500を超えた。しかし、VICTAWET(登録商標)35Bが存在せずSPT添加剤を含む実施例1の場合、得られたエージングされた実施例1の色度は37に減少した。従って、SPTの存在は、エージングされたエポキシ樹脂の色の形成をかなり減らす。
【0054】
実施例2及び比較例C
エポキシ樹脂(D.E.R.(登録商標)331)のみを含む試料を対照試料(「比較例C」)として使用した。比較例Cは、32オンス広口ガラス瓶に600グラム(g)のエポキシ樹脂D.E.R.(登録商標)331を加えることにより調製した。
エポキシ樹脂D.E.R.(登録商標)331とSPD(Sigmaから市販されている実用グレード)を含む試料(「実施例2」)は、1000mLプラスチックトリポア(tripour)に600グラムのD.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂を加えることにより調製した。D.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂を含むトリポアを高速分散機に固定した。ミキシングブレードの底は、トリポアの底から約3/4インチの位置にあり、シャフトはおよそトリポアを中心とした。D.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂を、ボルテックスを用いて適度な速度(すなわち約200〜約1000rpmの速度)で混合した。樹脂を約1分間混合した後、0.105グラムのSPDをエポキシ樹脂に加えた。D.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂とSPDを15分間連続的に混合し、本明細書で「実施例2」と呼ぶ混合物を形成した。
実施例2を32オンス広口透明ガラス瓶に移し入れた。エポキシ樹脂、すなわちD.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂とSPDとを混合後に、SPDの目に見える粒子は実施例2中に存在していなかった。
【0055】
比較例C及び実施例2を含む各ガラスの瓶の上に1枚のアルミ箔を手でかぶせてぴったり合わせた。このアルミ箔の蓋は、空気媒介汚染から試料を保護するために使用したもので、その目的は、決して瓶内のヘッドスペースの大気組成を制御しようとするものではない。
一定の高温(150℃)で試料を保存した後の時間の関数として、比較例C(SPDを含まない)及び実施例2(SPDを含む)についての色、粘度及びEEWの特性を以下の方法に従って測定した:
比較例C及び実施例2の色は、ハンター比色計と20mmの経路長を使用してASTM D1209に従って測定した。
比較例C及び実施例2の粘度(ブルックフィールド粘度)は、コーン(CPE#52)及びプレートをスピンドルの代わりに使用したほかは、ASTM D4878に従って測定した。
比較例C及び実施例2のEEWは、ASTM D1652に従って測定した。
【0056】
比較例C及び実施例2を含む32オンスの広口透明なガラスの瓶の各々を、150℃で動作するオーブンに入れ貯蔵した。比較例C及び実施例2のアリコートを、オーブンから試料を取り出し、3日間、7日間、14日間、21日間及び29日間の時間間隔でアリコートを収集することによって、収集した。
比較例C及び実施例2の両方を、同じ時間間隔で同時にオーブンから取り出した。各それぞれからのアリコートの各間隔で、比較例C及び実施例2のそれぞれに由来する60グラムのアリコートを32オンスガラス瓶から2オンス瓶に移した。2オンスガラス瓶を、次に、その瓶に付属していたプラスチック製のふたを使用して密封した。アルミ箔の蓋を32オンス瓶の上にかぶせ、瓶を150℃のオーブンに戻した。集めたアリコートを周囲条件(例えば、760mmHg及び25℃)で貯蔵した。
32オンス瓶内の比較例C及び実施例2を150℃のオーブン内で合計29日間貯蔵した。時間間隔をおいてアリコートを集めるプロセスを、3日間、7日間、14日間、21日間及び29日間の時間間隔で繰り返した。2オンスガラス瓶に集めたアリコートの全てを、同時に分析するための試料の組として供した。
時間間隔をおいて比較例C(SPDを含まない)及び実施例2(SPDを含む)から集められたアリコートについての色、粘度及びEEWを測定した。色及び粘度の結果を下記表II及びIIIに示す。
比較例C及び実施例2の色、粘度及びEEWの結果も図2〜4に時間(日数)の関数として示した。
【0057】
【表2】

【0058】
比較例C及び実施例2についての色の増加は、色形成が150℃で29日間のエージング実験中に両方の試料で生じたことを示す。しかし、SPDを含む実施例2は、29日間のエージング実験中、SPDを含まない比較例Cと比べて、色の増加が少なかった。従って、SPDの存在によって、エージングされたエポキシ樹脂の色形成が著しく低減した。
【0059】
【表3】

【0060】
比較例C及び実施例2の粘度の増加は、29日間のエージング実験中に両方の試料でオリゴマーが形成されたであろうことを示唆している。なぜなら、高い分子量のオリゴマーは、比較例C及び実施例2の粘度を増加させるからである。上記結果は、SPDが、粘度の増加を引き起こす反応を遅らせることができることを示している。粘度の増加の原因となる反応によって、オリゴマーの分子量、オリゴマーの濃度、又は比較例C及び実施例2中に存在するオリゴマーの分子量及び濃度の両方が増加することもある。
図2及び図3に基づくと、エポキシ樹脂(比較例C及び実施例2)の特性(色及び粘度)は、高温(例えば、150℃)で時間の関数として増加した。しかし、実施例2(SPDを含む)の色及び粘度の増加は、比較例C(SPDを含まない)の対応する増加よりも少なかった。上記結果は、実施例2におけるSPDの存在が、SPDを含まない比較例Cと比べて、高温で時間の関数としてエポキシ樹脂の特性の変化を遅らせたことを示している。
LER中のSPDの溶解度を測定することができる。SPDが可溶性である場合、試験濃度(0.0175%w/w)よりも高いLER中のSPD濃度は、ここ及び先に報告した結果よりも強い遅延効果を潜在的に有するであろう。SPDがLER中で高濃度で可溶性である場合、LERの色に及ぼす高濃度のSPDの効果は、加速エージング実験を使用して測定可能である。完全に配合され硬化したエポキシ組成物の色に及ぼすSPDの効果は、加速エージングを使用して試験できる。
【0061】
実施例3〜5並びに比較例D及びE
熱エージングの調査は、環式脂肪族樹脂ERL−4221 Dと、エポキシ樹脂D.E.R.(登録商標)332について行った。P−化合物を、エポキシ樹脂に直接混合した。樹脂試料は、約300〜350ミリリットル(ml)の量で調製し、150℃の温度制御オーブンに入れた。試料を、間隔をおいて採取し、色度を測定した。試料を20mlのセルに入れ、ハンター比色計を用いて白金−コバルトカラースケールに照らして読取りを行った。3つの読取り値を平均化して、環式脂肪族樹脂については表IVに、芳香族エポキシ樹脂については表Vに示す、APHA報告値を得た。
【0062】
【表4】

【0063】
上記表IVに示されているように、ピロリン酸四ナトリウム及びトリフェニルホスフィンの存在によって、エージングされたエポキシ樹脂の色形成が著しく低減した。
【0064】
【表5】

【0065】
上記表Vに示されているように、ピロリン酸四ナトリウム及びトリフェニルホスフィンの存在によって、エージングされたエポキシ樹脂の色形成が著しく低減した。
【0066】
実施例6
300gの環式脂肪族エポキシドERL4221D及び0.0526gのSPDを含む試料を調製した。この試料をここでは「実施例6」と呼ぶ。実施例6は、実施例2に記載した手順に従って上記材料を1690rpmで混合することにより調製した。SPD濃度は、実施例6の試料において、175ppmであった。
実施例6の試料の外観は、試料の調製直後、白色で泡状の液体であった。実施例6の試料の外観は、時間の経過とともに液体中の泡が壊れるにつれてクリアで透明な液体に変化した。
【0067】
実施例7及び比較例F−プラック(Plaque)の作製
8オンスガラス瓶内で各試料について記載した成分を手動で混合することによりプラックを作製した。遠心分離を用いて2500rpmで試料を3分間脱気した。各試料を別々の金型に注ぎ入れ、次いで、金型を温度90℃に設定された強制空気循環オーブン内に入れた。使用した強制空気循環オーブンは、Blue Mブランド(Thermal Process Solutions,ペンシルベニア州ニューコロンビア)であった。実施例の組成物を含む金型及び各比較例の組成物を含む金型を両方とも同じ時間でオーブンに入れ、同じ実験条件下で使用するためのプラックを作製した。
硬化スケジュールの最初の工程は、試料を含む金型を、オーブン内で90℃で加熱することからなっていた。例えば酸無水物のような比較的揮発性の成分を強制的に金型から蒸発させないと同時に、熱硬化した試料において目で見える気泡が形成する原因となり得るポリマー分子量の増加を生じずに、ポリマー分子量を増加させるために硬化スケジュールの最初の工程を適用した。
エポキシ配合物が電子及び電気部品、回路及び接続を保護するために使用される場合、熱硬化物の気泡を回避することが重要である。エポキシは、しばしば比較的厚い塊として適用され、これらの用途のために熱硬化され、そして、これらの効果を組み合わせて、熱硬化物中に気泡が出現することを促進するためにこれらの効果を使用できる。
揮発性の反応性成分の蒸発によって、組成と、反応性の化学成分間での化学量論をわずかに及び再現性なく変化することがあり、これによって熱硬化物の最終的な特性がわずかに変化することがある。
硬化スケジュールの第2工程は、90℃から実施例に依存するより高い温度までのオーブン温度を調節することからなる。ポリマーの分子量をさらに高めるため、及び熱硬化物を完全に架橋させるために、硬化スケジュールの第2工程を使用した。
【0068】
硬化スケジュールの第2工程を完了後、オーブンの温度を60℃に調節した。オーブンを60℃に設定してから16時間後にオーブンから金型を取り出した。金型を分解し、得られたプラック(長さ6インチ×幅6インチ×厚さ1/8インチ)を金型から取り出した。
42.57gの試料実施例4、49.56gのメチルテトラヒドロフタル酸無水物(MTHPA)、7.40gのTONE(登録商標)0301カプロラクトントリオール及び0.49gの1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)触媒を含むプラック試料を作製した。この試料をここでは「実施例7」と呼ぶ。TONE 0301はダウ・ケミカル社から得た。MTHPAはDixie Chemical Company,Inc.(テキサス州パサデナ)から得た製品ECA100であった。DBUはSigma−Aldrich Chemical Co.(ウィスコンシン州ミルウォーキー)から得た。
42.55gのERL4221D、49.57gのMTHPA、7.38gのTONE 0301及び0.51gのDBUを含むプラック試料を作製し、対照試料(「比較例F」)として使用した。
硬化スケジュールの第2工程は、実施例7の試料及び比較例の試料Fについて、160℃で3時間であった。
【0069】
ワイヤカッターを使用して各プラックから約10mgの試験片を採取した。各試験片を使用し、TA Instruments(デラウェア州ニューキャッスル)により供給された示差走査熱量計(DSC)を用いて熱硬化物のガラス転移温度(Tg)を測定した。各試験片をアルミニウムDSCパンに入れた。
DSCを動作させるのに使用したソフトウェアは、以下の方法ログを使用して2つの連続する温度勾配を用いて各試験片を熱処理するようにプログラムした:
1:30.00℃で平衡化する。
2:220.00℃まで勾配10.00℃/分。
3:サイクル1の終了を記す。
4:30.00℃で平衡化する。
5:サイクル2の終了を記す。
6:220.00℃まで勾配10.00℃/分。
7:方法の終了。
最初の熱勾配を使用して試験片から熱履歴及びネットワークの形成に伴う応力を除去した。第2の熱勾配を使用して試験片のTgを測定した。
DSCを使用して適用されるサーマルプロセスに対する試料の応答の変曲点の中点を計算するソフトウェアを使用して、試験片に関連するTgを測定した。DSCを使用して各試料について2つの試験片をTgについて分析し、結果を記録し報告した。
実施例7の熱硬化した試料及び比較例Fの熱硬化した試料の外観は、各場合で、黄色透明であった。
【0070】
Tgを測定するために使用した実施例7の試料の試験片の質量は13.70mg及び12.97mgであり、Tgの結果はそれぞれ179.88℃及び177.89℃であった。環式脂肪族エポキシド及びSPDを含んでいた実施例7の試料についてのTgの測定値の平均値は178.89℃であり、標準偏差は1.4071℃であった。
Tgを測定するために使用した比較例Fの試料の試験片の質量は11.93mg及び10.37mgであり、Tgの結果はそれぞれ176.50℃及び176.85℃であった。環式脂肪族エポキシドを含みSPDを含まなかった比較例Fの試料についてのTgの測定値の平均値は176.68℃であり、標準偏差は0.2475℃であった。
Tgの結果から、実施例7の試料におけるSPDの存在が、SPDを含まなかった比較例Fの試料のTgと比較して、熱硬化物のTgに対して負の影響を有していないことが示された。
Tgを試料について測定したのは、しばしば、熱硬化物の硬化の程度に関する指標及び耐熱性に関する指標を得るためにTgが使用されるからである。
【0071】
実施例8及び比較例G-プラックの作製
41.88gの試料例2、37.65gのメチルヘキサヒドロフタル酸無水物(MHHPA)及び0.80gのベンジルジメチルアミン(BDMA)触媒を含むプラック試料を作製した。このプラック試料をここで「実施例8」と呼ぶ。MHHPAはLindau Chemicals,Inc.(ノースカロライナ州コロンビア)から入手した製品Lindride 52Dであった。BDMAはSigma−Aldrichから入手した。
41.87gのD.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂、37.65gのMHHPA及び0.80gのBDMAを含むプラック試料を作製し、対照試料(「比較例G」)として使用した。
硬化スケジュールの第2段階は、実施例8及び比較例Gの試料に対して150℃で4時間であった。
実施例8及び比較例Gの熱硬化した試料の外観は、各場合で、黄色透明であった。
実施例7の試料のTgを測定するために使用したDSC及び方法ログを、実施例8及び比較例Gの試料のTgを測定するために使用した。
【0072】
Tgを測定するために使用した実施例8の試料の試験片の質量は11.96mg及び12.58mgであり、Tgの結果はそれぞれ147.58℃及び146.42℃であった。D.E.R.331及びSPDを含んでいた実施例8の試料についてのTgの測定値の平均値は147.00℃であり、標準偏差は0.8202℃であった。
Tgを測定するために使用した比較例Gの試料の試験片の質量は14.15mg及び14.41mgであり、Tgの結果はそれぞれ148.70℃及び148.26℃であった。D.E.R.331エポキシ樹脂を含みSPDを含まなかった比較例Gの試料についてのTgの測定値の平均値は148.48℃であり、標準偏差は0.3111℃であった。
Tgの結果から、実施例8の試料におけるSPDの存在が、SPDを含まなかった比較例Gの試料のTgと比較して、熱硬化物のTgに対して負の影響をほとんど有していないことが示された。
【0073】
実施例9及び比較例H−薄膜コーティングの作製
8オンスのガラス瓶内でD.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂とD.E.H.(登録商標)52エポキシ樹脂硬化剤を手動で混合することによりコーティングを調製した。アミン官能基を含むD.E.H.52エポキシ硬化剤は、ダウ・ケミカル社から入手した。
薄膜コーティングを適用した基板は、低炭素冷間圧延スチール試験パネルの艶消仕上げのリン酸鉄(Bonderite 1000)処理側であった。処理されたスチールパネルは、Q-Lab Corporation(オハイオ州クリーブランド)から購入した。
#10ドクターコーティング用途バーを使用して、2つのスチールパネルに各試料の1つの薄膜を適用した。
スチールパネルに適用された各試料の1つのコーティングを、強制空気循環オーブンを使用してパネルを60℃(140°F)で16時間加熱することにより強制的に硬化させた。かかる試料をここでは「60℃試料」と呼ぶ。スチールパネルに適用された各試料の1つのコーティングを、パネルを実験台に16時間の最短時間放置することにより21.7℃(71°F)で硬化させた。それらの試料をここでは「室温試料」と呼ぶ。
実施例2のアリコート24.38gと5.61gのD.E.H.52エポキシ硬化剤を含む試料を調製した。これを、ここでは「実施例9」と呼ぶ。
24.33gのD.E.R.(登録商標)331エポキシ樹脂と5.71gのD.E.H.52エポキシ硬化剤を含む試料を調製し、対照試料(「比較例H」)として使用した。
上記コーティングの特性を、60℃試料及び室温試料の定義に記載したようにコーティングを16時間硬化させた後に求めた。
【0074】
コーティング試料の耐溶剤性を、溶剤擦過法である方法ASTM D4752を用いて測定した。コーティング表面を、皮膚接触を避けるためにブチルゴム手袋を着用した後に人差し指を使ってタオルに圧力を加えることにより、アセトンで飽和させたペーパータオルを使用して手で擦った。往復擦過運動を、コーティング表面の約2平方インチの領域に適用した。コーティングに損傷を与えたりコーティングを軟化するのに必要とした擦過の回数を観測し記録した。
溶媒膨潤は、次の教科書:Flory, P. J., "Principles of Polymer Chemistry(ポリマー化学の原理), Cornell University Press, 1953に記載されているように、ネットワーク構造の膨潤に関する理論に基づいて熱硬化性樹脂の反応性化学官能基の変換のレベルを示すために使用されることがある。変換のレベルがより高いほど又はネットワークの分子量がより高いほど、耐溶剤性が高い。上記溶剤擦過法は、平衡膨潤法を使用して予測されるであろう結果を迅速にかつ相対的に推測するために基材に適用されたコーティングを使用する粗い方法である。平衡膨潤法は、フリーのコーティングフィルム試料と、溶剤の存在下で試料が熱力学的平衡に達するための時間を必要とする。
コーティングの外観を観察し、記録した。表面の粘着性(粘り気)と表面下のバルクコーティングの硬さを、コーティング表面上に存在する未反応のエポキシ樹脂との皮膚接触を防止するためにブチルゴム手袋をまず着用した後に人差し指を使用してコーティング表面を押すことで決定した。
実施例7の60℃試料と比較例Hの試料は、光沢があり、粘着性ではなく、耐溶剤性は、アセトン擦過数が100回を超えるものであった。
【0075】
コーティングをスチールパネルに適用してから16時間及び48時間後、実施例9の室温試料と比較例Hの試料の表面は曇りがあり、低光沢であるように見え、粘着感があったが、硬かった。コーティングをスチールパネルに適用してから7日後に、実施例9及び比較例Hのコーティングは、乾いた感触であり粘着性でなく、その他の特性は、コーティングを16時間後及び48時間後に評価し、同じままであった。
60℃試料と室温試料を比較した後、実施例9の試料と比較例FHの試料との間に外観及び特性上の違いはなかった。このことは、エポキシ-アミンコーティング中のSPDの存在は硬化及び特性に影響を及ぼさないことを示している。
室温試料の曇りのある低光沢の外観及び粘着性は、おそらく、コーティングと大気との間の界面付近に湿り空気が存在する場合にアミンと二酸化炭素と水分との間で起こることが知られている反応によるものであろう。二酸化炭素と水分はアミンをかけてエポキシと競争する。競争反応の結果、未反応のエポキシが残り、水和アミン塩がコーティング表面付近に形成され、水和アミン塩が曇り及び低光沢の外観と表面の粘着感の原因である。
競争反応が表面下のバルクコーティングの特性に及ぼす影響は小さい。なぜなら、表面からバルクへの二酸化炭素及び水分の拡散が、形成されるポリマーネットワークにより妨げられるからである。
60℃試料は、アミンと空気中の二酸化炭素及び水分との反応によって、本質的に影響を受けないことが観察された。オーブン内でコーティング表面に暖かい空気を吹き付けることは、アミンと二酸化炭素と水分との反応を制限するのに役立ち、アミンとエポキシとの反応を促進した。
【0076】
本開示は、限られた数の実施形態を含むが、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきで、本明細書の実施形態によって限定されるべきではなく、本開示の利益を有する当業者には他の実施態様が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のエポキシ樹脂及び(b)少なくとも1種のリン含有化合物を含むエポキシ樹脂組成物であって、前記リン含有化合物が最終的なエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性を高める、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記リン含有化合物が無機リン含有化合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記無機リン含有化合物が無機ホスフェート化合物を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ホスフェート化合物が無機ピロホスフェート化合物又は無機ポリホスフェート化合物である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記無機ピロホスフェート化合物が二塩基性ピロリン酸ナトリウム又は四塩基性ピロリン酸ナトリウムである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中の二塩基性ピロリン酸ナトリウム又は四塩基性ピロリン酸ナトリウムの量が、前記組成物の総質量を基準にして175ppm以下の範囲内である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記リン含有化合物がトリフェニルホスフィンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂が環式脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、芳香族エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂、又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
改善された貯蔵安定性を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
ホモ重合する傾向が低減された請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
(a)少なくとも1種のエポキシ樹脂及び(b)少なくとも1種の低色度添加剤を混合することを含み、前記低色度添加剤がホスフェート化合物を含み、前記ホスフェート化合物が最終的な低色度のエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性を高める、低色度のエポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物及び硬化剤を含む、硬化性の低色度のエポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
前記硬化剤が、酸無水物、フェノール系化合物、アミン、カルボン酸、カチオン性化合物、超酸、又はこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項11に記載の硬化性組成物。
【請求項14】
請求項11に記載の組成物の硬化物を含む硬化した物品。
【請求項15】
請求項13に記載の硬化した物品を含むコーティング。
【請求項16】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物を含む低色度のエポキシ封止材。
【請求項17】
請求項1に記載の組成物から調製されたエポキシ封止材を含む発光ダイオード。
【請求項18】
ホモ重合する傾向が低減された請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物を含むグリシジルエーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−506733(P2013−506733A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532249(P2012−532249)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/050615
【国際公開番号】WO2011/041340
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】