説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】 (1)可使時間が長く保存安定性に優れ、(2)高い形状保持性を有し、(3)構成部材同士を良好に接合し、(4)耐溶剤性に優れた接着剤となるエポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 ビスフェノールF型エポキシ樹脂と、潜在性硬化剤と、揺変剤とを含有し、前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して前記揺変剤を3.0質量部以上5.0質量部以下含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機器等の分野において、機器を構成する構成部材の接合にはエポキシ樹脂組成物が多く用いられている。例えば、特許文献1には、優れた接着性を有するエポキシ樹脂組成物として、液状エポキシ樹脂と液状硬化剤とを含有し、無溶媒であるエポキシ樹脂組成物が記載されている。また、特許文献2には、硬化性に優れたエポキシ樹脂組成物として、主剤と硬化剤の混合等を必要としない、所謂一液性の熱硬化型エポキシ樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−155129号公報
【特許文献2】特開昭63−72722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂組成物を用いて部材を接合する場合においては、製造工程に関わる課題と、製品信頼性に関わる課題がある。
【0005】
製造工程に関わる課題としては、下記の(1)、(2)が挙げられる。
【0006】
(1)可使時間
部材の接合に用いる硬化剤として、アミン系硬化剤が知られている。アミン系硬化剤は高い接合力を示すため、硬化剤として好ましい。
【0007】
しかし、アミン系硬化剤は反応性が高いものが多く、常温下でも数分から数時間程度で粘度上昇や硬化反応を起こしやすい。そのため、製造工程で長時間使用する場合、粘度上昇により安定した塗布量の制御が困難となる場合がある。
【0008】
(2)形状保持性
産業機器、例えばインクジェット記録ヘッドの組み立てにおいて、接着剤を用いて接合する箇所が複数存在することがある。これらの箇所において、できる限り同一種の接着剤を用いて接合し組み立てることで、高効率に製造することができる。
【0009】
しかし、複数の箇所に接着剤を適用する場合、各々の部位の構造や形状は異なり、位置も上面や側面等様々である。そのため、部位によっては接着剤が塗布された直後にダレたり、塗布直後の盛りが下がり部材間に隙間が生じてしまうことがある。あるいは、加熱硬化中に接着剤の粘度がいったん低下する場合があり、接着剤が接合部位以外の場所へ流れ出してしまうことがある。
【0010】
一方、製品信頼性に関わる課題としては、下記の(3)、(4)が挙げられる。
【0011】
(3)構成部材間の接合力
接着させる部材は、材質の異なる部材であったり、あるいは表面の極性や線膨張係数等、特性の異なる部材であったりする場合がある。そのため、異種部材の接合を接着剤で行う場合、一方への接合力は高いが、他方への接合力が弱くなることもある。これに対し、接合力を向上させるために部材への表面処理やプレコート塗布等を施す場合もあるが、製造工程数が増えてしまう。また、接着剤を高温下で十分硬化させて接合力を高めることもできるが、部材の種類によっては耐熱性に課題がある。
【0012】
特にインクジェット記録ヘッドにおいては、インクが通る流路部、液室、ノズル部は常にインクに浸漬された状態にある。従って、このような場所を接着する場合、インクやインクに含まれる溶剤による接着剤の膨潤、もしくは部材と接着剤の界面へのインクの接触が原因で接合力が低下し、部材が剥離する場合がある。
【0013】
(4)接着剤の耐溶剤性
インクジェット記録ヘッドのように、インク(溶剤)と接触する部分に接着剤を用いる場合もある。接着剤からインクへ成分の一部が溶出した場合、インクの吐出や、インクのpHや粘度等物性値に影響を与える場合もある。また、接着剤の構成成分が多いほどインクへ溶出する可能性のある成分も増えるため、接着剤の構成成分はできるだけ簡素なものが求められる。
【0014】
本発明者が上記の(1)〜(4)に関して検討を行ったところ、特許文献1の接着剤では(1)、(3)および(4)の点で課題があった。また、特許文献2の接着剤では、(2)の点で課題があった。
【0015】
本発明は、上記(1)〜(4)の課題を解決するエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂と、潜在性硬化剤と、揺変剤とを含有し、前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して前記揺変剤を3.0質量部以上5.0質量部以下含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、(1)可使時間が長く保存安定性に優れ、(2)高い形状保持性を有し、(3)構成部材同士を良好に接合し、(4)耐溶剤性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】インクジェット記録ヘッドの概略の構成を示す図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの断面図である。
【図3】インクジェット記録ヘッドの概略の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について具体例をもって詳細に説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂と、潜在性硬化剤と、揺変剤とを含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0021】
(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のオキシラン基を有するものであり、従来公知のビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることができる。
【0022】
本発明では、樹脂としてエポキシ樹脂、さらにはエポキシ樹脂の中でもビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることにより、後述する潜在性硬化剤や揺変剤と相乗的に作用し、上記(1)〜(4)の効果を有する組成物を得ることができる。
【0023】
尚、本発明においては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とは構造が異なるエポキシ樹脂を併用してもよい。併用する場合は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂に対して併用するエポキシ樹脂を、ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上50質量部以下とすることが好ましい。
【0024】
(潜在性硬化剤)
潜在性硬化剤は、あらかじめエポキシ樹脂に混合した状態で長期保存でき、熱・光・圧力・湿気などの刺激が与えられると硬化反応を開始する硬化剤のことである。
【0025】
潜在性硬化剤としては、例えば加熱により溶解または分解、活性化し、アニオン機構によりエポキシ基を自己重合させる第三アミン(3級アミン)やイミダゾール、またはこれらの塩が挙げられる。他には、ジシアンジアミドや有機酸ジヒドラジド等をエポキシ基と付加反応させた高融点活性水素化化合物や、加熱により活性化し、カチオン機構によりエポキシ樹脂を重合させるルイス酸やブレンステッド酸の塩が挙げられる。但し、高融点活性水素化化合物は硬化温度が高温となり、ルイス酸やブレンステッド酸の塩は耐水性がやや劣ることがある。一方、第三アミンやイミダゾールまたはこれらの塩を硬化剤として用いた場合、エポキシ基は自己重合型反応で架橋が進行するため、酸や第一もしくは第二アミンによる硬化反応に比べると、生じる水酸基の数は少ない。その結果、エポキシ樹脂組成物は水や極性溶媒に対する高い耐性を有する。これらの点を考慮すると、第三アミンやイミダゾールまたはこれらの塩の少なくともいずれかを用いることが好ましい。尚、第三アミンまたはイミダゾール、およびこれらの塩には、高融点分散型と可溶型が存在するが、硬化温度の観点より可溶型であることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明においては、潜在性硬化剤として、第三アミンやイミダゾールの部分をマスクした構造のものを用いるのが好ましい。また、主剤(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)がエポキシ基を有するため、構造中にエポキシ基を有する潜在性硬化剤であると、分散状態が良好となり均一に硬化しやすくなるため好ましい。さらには、エポキシ基を有する構造の潜在性硬化剤の中でも、三級アミンエポキシアダクト系化合物の複合型で固体分散型の硬化剤を用いるのが好ましい。潜在性硬化剤は、エポキシ基との反応もしくはエポキシ基の自己重合を促進させるが、全てがエポキシ基と反応するわけではなく、一部は硬化物中に残る。第三アミンはイミダゾールに比べると一般的に分子量が大きく、かつ無極性である。このため、第三アミンは、溶出し難く、耐溶剤性の点で有利である。第三アミンの特に好ましい具体例としては、味の素ファインテクノ製の「AH―203」を挙げることができる。
【0027】
また、潜在性硬化剤を用いることにより、一液性のエポキシ樹脂組成物を得ることができる。一液性のエポキシ樹脂組成物は、二液性のエポキシ樹脂組成物に比べ、使用時の計量や混合が不要であるため生産効率が向上したり、組成物の長期保存が可能となったりする点で好ましい。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、耐溶剤性の点から、ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して、潜在性硬化剤を15質量部以上25質量部以下とすることが好ましい。また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して、潜在性硬化剤を15質量部以上20質量部以下とすることがより好ましい。
【0029】
(揺変剤)
揺変剤は、揺変性(チキソ性)を有する材料である。揺変性とは、等温状態において剪断変形を与えたときに見かけ上の粘度が一時的に低下するが、静置し時間が経つと元の見かけ上の粘度に回復する性質である。揺変性を有することで、組成物塗布時は流動性が良好となり塗布性に優れ、かつ塗布後は形状保持やダレ防止の効果を得ることができる。揺変剤としては、例えば無機系としてシリカ微粒子(アエロジル)、アルミナ、雲母等、有機系として酸化ポリスチレン系、重合油系、界面活性剤系等が挙げられる。中でも、耐溶剤性およびインク組成物への影響の点から、シリカ微粒子(アエロジル)であるヒュームドシリカを用いることが好ましい。ヒュームドシリカは、粒子表面に有するシラノール基の水素架橋結合の働きにより、少量の添加でエポキシ樹脂組成物に揺変性を与える。
【0030】
本発明で用いる揺変剤は、1次粒子の数平均粒子径が5nm以上50nm以下であることが好ましい。より好ましくは5nm以上20nm以下である。
【0031】
揺変剤の具体例としては、日本アエロジル製「Aerosil 200」、「Aerosil RX200」、「Aerosil RY200」、「Aerosil R805」を挙げることができる。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して揺変剤を3.0質量部以上5.0質量部以下含有する。ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して揺変剤を3.0質量部以上とすることで、硬化後の流れ出しを抑制することができる。好ましくは、3.5質量部以上とする。また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して揺変剤を5.0質量部以下とすることで、塗布性を向上させることができる。好ましくは、4.0質量部以下とする。
【0033】
(その他)
本発明のエポキシ樹脂組成物は、充填剤を含有してもよい。充填剤としては、例えば、無機充填剤としてシリカ、珪藻土、アルミナ等が挙げられ、有機充填剤としてシリコーンゴム、メタクリル酸メチル、ポリスチレン等が挙げられる。充填剤は、単独で用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。但し、本発明のエポキシ樹脂組成物は、充填剤の含有量をビスフェノールF型エポキシ樹脂の含有量よりも少なくすることが好ましい。このようにすることで、塗布性を向上させることができる。より具体的には、ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して、充填剤は80質量部以下とすることが好ましい。本発明のエポキシ樹脂組成物は、前述した各成分を攪拌型の分散機で混合したり、ビーズミルで分散したり、三本ロールで分散混合したりすることによって調合することができる。
【0034】
(インクジェット記録ヘッド)
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて接合を行い形成したものとして、インクジェット記録ヘッドを例に説明する。
【0035】
図1(a)はインクジェット記録ヘッドの構成を分解して示す分解斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示された各構成部材を組み合わせた状態を示す斜視図である。
【0036】
図1(a)に示すインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出する複数の記録素子からなるインク吐出用ノズル101aを具備する記録素子ユニットと、記録素子ユニットが固定されたチッププレート103を有する。記録素子ユニットは、TAB(Tape−Automated Bonding)方式により作製された電気配線シート101、電気配線シート101と接合されたインク吐出用ノズル101aを有する記録素子、電気配線シート101の変形防止部材102で構成されている。
【0037】
そして、記録素子ユニットが固定されたチッププレート103と、チッププレート103と組み合わせされる支持部材104の接合を考慮すると、支持部材104に接着剤が塗布される溝部が形成されていることが好ましい。図2は、図1(b)におけるA−A´での断面図である。図2に示すように、本発明のエポキシ樹脂組成物(接着剤)202はチッププレート201と支持部材203の間に介在しており、両者を接合するとともに、接着剤自体がインク流路の一部を形成している。支持部材104には供給口105が形成されており、配線基板101bが設けられている。
【0038】
また、図3に示すように、支持部材301には、インクタンクから供給されたインクを一定量貯蔵するとともにインク吐出用ノズル101aへ供給する液室303と、液室303に接合される流路形成部材302とを有する。支持部材301の液室303の周囲には接着剤が塗布される溝部が形成されていることが好ましく、流路形成部材302の周囲には溝部に嵌合される凸部が形成されていることが好ましい。本発明のエポキシ樹脂組成物は支持部材と流路形成部材との間に介在しており、両者を接合している。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例にて説明する。以下において、「部」および「%」とあるのは全て質量基準である。
【0040】
<エポキシ樹脂組成物原材料>
以下の表1〜3に示す原材料を用いて、真空攪拌脱泡ミキサーV−mini300(EME社製)によって表4−1および4−2に示す組成で調合を行い、実施例および比較例で用いるエポキシ樹脂組成物を得た。尚、表4−1および表4−2に示す数値の単位は「質量部」である。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
【表4−1】

【0045】
【表4−2】

【0046】
<評価>
得られたエポキシ樹脂組成物を用い、以下の評価を行った。尚、各評価においてエポキシ樹脂組成物を硬化させる際には、エポキシ樹脂組成物を表5−1および5−2に記載の条件(○がついた条件)でオーブンにより加熱することで行った。
【0047】
(1)保存安定性
エポキシ樹脂組成物を常温(25℃)下で保管し、保管前に対する粘度の増加を観測した。粘度はE型粘度計にて25℃下で測定し、1か月後の粘度増加率が±5%以内だったものを○、1日後の粘度増加率は2.0倍未満であり1週間後の粘度増加率が1.5倍以上だったものを△、1日後の粘度増加率が2.0倍以上だったものを×とした。
【0048】
(2)耐溶剤性
エポキシ樹脂組成物2.5gを硬化させた硬化物を、クリアインク50mlに、121℃、2atm下で10時間投入した。その後、硬化物の外観観察を目視にて行った。ここで用いたクリアインクは、グリセリンを9%、トリエチレングリコールを9%、メタノールを5%、アセチレノールE100を1%、残りを水で計100%として処方したものである。判断基準は、硬化物に著しい膨潤や溶解が見られなかった場合を○、硬化物に著しい膨潤や溶解が見られた場合を×とした。
【0049】
また、UV分光光度計による吸光度測定を行い、硬化物からの溶出物の有無を確認した。最初に、上記クリアインクのみを121℃、2atm下に投入した後の原液を参照溶液とした。次に、クリアインクに硬化物を入れて同様の処理を行った後の原液について、1cm幅の石英セルで波長200から400nmにおける吸光度を測定した。この結果、吸光度が3未満のものを○、3以上4未満のものを△、4以上のものを×とした。
【0050】
また、クリアインクへの投入前後の硬化物の質量を測定して膨潤率を算出し、5%未満だったものを◎、5%以上7%未満だったものを○、7%以上10%未満だったものを△、10%以上だったものを×とした。
【0051】
(3)接合試験
(3−1)剥離試験
アルミナ製チッププレートおよび変性PPE樹脂の板であるノリルSE1X(GEプラスチック製)の表面に、5.0cm四方のエポキシ樹脂組成物の硬化膜を作製した。硬化膜を2.0mm角にクロスカットした後、メンディングテープ(Scotch、住友スリーエム製)を用いて1回目の剥離を行った。さらに、BCI−7インクタンク(キヤノン製)のシアン、マゼンタおよびイエローインクからインクを同量抜きとって混合して得たインクに、この試料を100℃、2atm下で10時間投入した。その後、1回目と同様にしてメンディングテープによる2回目の剥離を行い、剥離前のクロスカット部面積と1回目および2回目の剥離後のエポキシ樹脂硬化膜の面積を比較した。この結果、面積残存率((剥離後の面積/剥離前のクロスカット部面積)×100)が90%以上100%以下のものを○、50%以上90%未満のものを△、50%未満のものを×とした。
【0052】
(3−2)破壊試験
図1および図3に示す形態のヘッド用の部品を使用して、チッププレート103と支持部材104(301)、および支持部材301と流路形成部材302の接合を、各エポキシ樹脂組成物を硬化させることで行った。各構成部材としては、以下のものを用いた。
チッププレート;アルミナ
支持部材;ノリルRN1300(GEプラスチック製)
流路形成部材;ノリルSE1X(GEプラスチック製)
次に、接合部を破壊し、接合部の状態について目視にて評価を行った。接着剤部の凝集破壊が発生もしくは構成部材が破壊したものを○、接着剤が界面剥離していずれかの構成部材上で硬化していたものを△、接合部内部の接着剤が一部半硬化であったものを×とした。
【0053】
(4)塗布性
上記と同様に図1および図3に示す形態のヘッド用の部品を使用して、チッププレート103と支持部材104(301)、および支持部材301と流路形成部材302の接合部へ、エポキシ樹脂組成物をエアー加圧式ディスペンサーにて連続塗布した。この際に、目視にて評価を行い、以下の基準で評価を行った。
○;連続塗布を良好に行うことができ、塗布後形状の保持性にも優れる。
△;連続塗布はある程度行うことができ、塗布後形状の保持性は優れる。
×;連続塗布は良好に行うことができない、或いは塗布後形状の保持性が低い。
【0054】
(5)硬化後流れ出し
上記と同様に図1および図3に示す形態のヘッド用の部品を使用して、支持部材301と流路形成部材302の接合を、各エポキシ樹脂組成物を硬化させて行った。硬化させた後、エポキシ樹脂組成物の流れ出しについて目視にて、以下の基準で評価を行った。
○;エポキシ樹脂組成物が接合部に留まり部材同士が固定された。
△;部材同士は固定されているがエポキシ樹脂組成物が接合部以外にまでややはみ出した。
×;部材同士は固定されているがエポキシ樹脂組成物が接合部以外にまでかなり広がった。
【0055】
以上の評価結果を表5−1および5−2に示す。
【0056】
【表5−1】

【0057】
【表5−2】

【0058】
表5−1に示す通り、実施例1〜25のエポキシ樹脂組成物は、良好な接着剤であった。
【0059】
一方、表5−2に示す通り、揺変剤を含有していない比較例1のエポキシ樹脂組成物は、形状保持性が低く、硬化後流れ出しが発生し、保存安定性が低かった。また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有していない比較例2〜14のエポキシ樹脂組成物は、耐溶剤性および接合力(剥離、破壊試験)の少なくともいずれかが良好ではなかった。潜在性硬化剤を含有していない比較例15〜18のエポキシ樹脂組成物も、耐溶剤性および接合力の少なくともいずれかが良好ではなかった。ビスフェノールF型エポキシ樹脂に対する揺変剤の含有量が少ない比較例19のエポキシ樹脂組成物は、硬化後の流れ出しが良好ではなかった。ビスフェノールF型エポキシ樹脂に対する揺変剤の含有量が多い比較例20のエポキシ樹脂組成物は、塗布性が良好ではなかった。
【0060】
以上のことから、本発明によれば、(1)保存安定性に優れ、(2)高い形状保持性を有し、(3)構成部材同士を良好に接合し、(4)耐溶剤性に優れた接着剤となるエポキシ樹脂組成物を提供できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂と、潜在性硬化剤と、揺変剤とを含有し、前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して前記揺変剤を3.0質量部以上5.0質量部以下含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記潜在性硬化剤が、第三アミンまたはイミダゾールの少なくともいずれかである請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記揺変剤が、ヒュームドシリカである請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
インク吐出用ノズルを具備する記録素子ユニットが固定されたチッププレートと前記チッププレートと組み合わされる支持部材との間に介在し、インク流路を形成する接着剤である請求項1から3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して、潜在性硬化剤を15質量部以上25質量部以下含有する請求項1から4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して、潜在性硬化剤を15質量部以上20質量部以下含有する請求項1から4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
充填剤を含有する請求項1から6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記充填剤の含有量は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対して80質量部以下である請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
インク吐出用ノズルを具備する記録素子ユニットが固定されたチッププレートと前記チッププレートと組み合わされる支持部材とを有するインクジェット記録ヘッドであって、前記チッププレートと前記支持部材との間に請求項1から4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物が介在していることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−91774(P2013−91774A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181546(P2012−181546)
【出願日】平成24年8月20日(2012.8.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】