説明

エポキシ系接着剤組成物及び接合方法

【課題】 フラックスを用いることなく、酸化被膜を表面に有する金属の酸化被膜を除去しつつ、該金属を確実に接合することを可能とするエポキシ系接着剤組成物を得る。
【解決手段】 酸化膜を表面に有する金属の接合に用いられるエポキシ系接着剤組成物であって、エポキシ樹脂と、水溶性を有しない有機酸とを含み、硬化前のpHが5より小さく、硬化後のpHが6〜8の範囲にあり、DSCによる発熱量から求められた硬化の際の反応比率が90%以上であるエポキシ系接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半田などの酸化膜を表面に有する金属を接合する用途に用いられるエポキシ系接着剤組成物及び接合方法に関し、より詳細には、フラックスを用いることなく半田などを確実に接合することを可能とするエポキシ系接着剤組成物及び接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品を基板に実装するに際し、高密度実装を果たすために、半田ボールや半田バンプが用いられている。すなわち、電子部品素子の下面に複数の半田バンプを形成しておき、半田バンプを実装基板上の電極に当接させるように、電子部品素子を実装基板上に搭載する。この状態で半導体装半田バンプを加熱し、半田バンプを溶融させ、溶融半田を固化することにより、電子部品素子が実装基板上に実装されている。
【0003】
もっとも、半田バンプによる接合部分は、電子部品素子と実装基板上との間の面積の一部であるため、接合強度を高めるため、並びに信頼性を高めるために、電子部品素子の下面の半田バンプによる接合される部分以外の部分が、エポキシ系接着剤などの熱硬化型の接着剤により実装基板に接合されている。この接着剤は、半田バンプによる接合後に電子部品素子と実装基板との隙間に注入され、硬化されたり、あるいは予め実装基板と部品素子との間に上記接着剤を介在させ、半田バンプにより硬化前の接着剤を押し退け、半田バンプを実装基板上の電極に当接させた状態で加熱し、半田バンプによる接合と、接着剤による熱硬化による接合とを果たす方法などが用いられていた。
【0004】
ところで、上記半田バンプは、通常、表面に酸化膜を有する。この酸化膜が存在すると、加熱した際の溶融半田の濡れ拡がり性が悪化し、電子部品素子を実装基板上の電極に確実に接合し、かつ十分な接合強度を得ることが困難である。そこで、通常、接合に先立ち、酸性のフラックスを半田バンプ表面に塗布し、酸化膜が除去されていた。しかしながら、酸性のフラックスが残存すると、電極が経時により腐食するおそれがあるため、酸化膜除去後には、フラックスを洗浄していた。そのため、煩雑な洗浄工程を実施しなければならなかった。
【0005】
他方、下記の特許文献1には、半田バンプが形成された電子部品を実装基板に搭載するためのエポキシ系接着剤として、フラックスとして機能する有機酸よりなる活性剤を含有するエポキシ系接着剤が開示されている。ここでは、エポキシ系接着剤中に、カルボン酸のような有機酸よりなる活性剤が含有されているので、接着剤を半田バンプに塗布し、半田バンプの溶融硬化により電子部品を実装基板上の電極に接合するとともに、半田バンプに押し退けられている接着剤により電子部品素子を実装基板上に接合している。そして、上記活性剤が半田バンプに予め接着剤されて酸化被膜が除去されることになるため、接合が確実に行われ、フラックスの使用を省略することが可能とされている。
【特許文献1】特開平11−204568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のエポキシ系接着剤では、接着剤中に有機酸が含有されているため、酸化皮膜は除去されるものの、接着剤硬化物中に有機酸が残存することとなる。そのため、長期間使用していると、硬化物中の有機酸により、電極が腐食したりし、信頼性が低下するおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、フラックスを用いることなく、酸化皮膜を有する金属の酸化皮膜を除去しつつ、該金属を接合することを可能とするエポキシ系接着剤組成物及び接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエポキシ系接着剤組成物は、酸化膜を表面に有する金属の接合に用いられるエポキシ系接着剤組成物であって、エポキシ樹脂と、水溶性を有しない有機酸とを含み、硬化前のpHが5より小さく、硬化後のpHが6〜8の範囲にあり、DSCによる発熱量から求められた硬化の際の反応比率が90%以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るエポキシ系接着剤組成物のある特定の局面では、前記水溶性を有しない有機酸が酸無水物である。
【0010】
本発明に係るエポキシ系接着剤組成物の他の特定の局面では、前記エポキシ基に対し、前記酸無水物が0.3〜0.9当量比の範囲で含まれている。
【0011】
本発明に係る接合方法は、本発明のエポキシ系接着剤組成物を用いて、酸化皮膜を有する金属を接合することを特徴とする。
【0012】
また、上記酸化皮膜を有する金属が半田である場合には、半田表面の酸化皮膜が上記エポキシ系接着剤組成物中の有機酸により除去される。
【0013】
本発明に係る接合方法のさらに他の特定の局面では、前記酸化膜を表面に有する金属が、電子部品に固着された半田バンプであり、半田バンプに前記エポキシ系接着剤組成物エポキシを接触させた後に、半田バンプを加熱により溶融し、しかる後硬化させることにより、電子部品が半田バンプにより部材に接合される。
【0014】
本発明に係るエポキシ系接着剤組成物は、酸化膜を表面に有する金属の接合に用いられる。この場合、酸化膜を表面に有する金属は特に限定されず、例えば、前述した半田バンプなどの半田、あるいはCu、Alなどが挙げられる。また、本発明に係るエポキシ系接着剤組成物は、上記酸化膜を表面に有する金属をエポキシ系接着剤の接着力により直接接合してもよいが、例えば酸化物を表面に有する金属を溶融し、硬化し、金属の接合力を利用する場合には、エポキシ系接着剤組成物は、金属による接合力を補助するように作用する。
【0015】
すなわち、本発明において、「酸化膜を表面に有する金属の接合に用いられる」なる表現は、エポキシ系接着剤による接着だけでなく、金属自体の接合力を利用した場合におい、補助的にエポキシ系接着剤組成物が接着作用を発現する場合をも含むものとする。このような補助的にエポキシ系接着剤組成物の接着力が発現する場合とは、半田バンプによる電子部品素子の電極への接合用途などが挙げられる。このような特定の用途における接合方法自体は後ほど詳述することとする。
【0016】
上記エポキシ系接着剤組成物は、接着成分として、エポキシ樹脂を含む。エポキシ樹脂としては特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などの様々な種類のエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0017】
また、本発明に係るエポキシ系接着剤組成物は、好ましくは、エポキシ樹脂を硬化させる硬化剤を含有する。このような硬化剤としては、特に限定されず、従来よりエポキシ樹脂の硬化剤としては汎用されている、フェノール系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、酸及び酸無水物系硬化剤、イミダゾール系硬化剤などが挙げられる。
【0018】
なお、上述したように、本発明においては、必須成分として、水溶性を有しない有機酸が含有されている。水溶性を有しない有機酸が、エポキシ樹脂の硬化剤として作用していてもよい。
【0019】
上記水溶性を有しない有機酸としては、例えば、有機系の酸無水物が挙げられ、このような有機系の酸無水物としては、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸などの酸無水物、あるいはフェノールなどの水溶性を有しない弱酸性の有機酸が挙げられる。上記水溶性を有しない有機酸が配合されており、それによって本発明のエポキシ系接着剤組成物は、硬化前のpHが5よりも小さくされている。従って、上記水溶性を有しない有機酸は、硬化前のエポキシ樹脂組成物のpHが5より小さくなるようにその種類及び含有割合が好ましくは選ばれる。
【0020】
また、本発明に係るエポキシ系接着剤組成物は、硬化前のpHが5よりも小さく、酸性であるため、酸化膜を表面に有する金属に接触されると、酸化膜を除去する作用を発現する。よって、酸化膜を表面に有する金属の接合に際し、予め本発明に係るエポキシ系接着剤組成物を該金属の表面に接触させることにより、酸化膜を除去でき、該金属の接合を確実に行うことができる。
【0021】
他方、本発明に係るエポキシ系接着剤組成物は、硬化後のpHは6〜8の範囲にある。従って、硬化後には、強い酸性条件下による接着作用は発現しないため、経時により、接着剤硬化物として接触する金属材料などの腐食が生じ難い。
【0022】
また、本発明に係るエポキシ系接着剤組成物では、DSC(示差操作型熱量計)による発熱量から求められた硬化の際の反応率が90%以上である。この反応率が90%未満では、水溶性を有しない有機酸の反応による消費が十分でなく、接着剤硬化物と接触している電極などの金属が経時による腐食するおそれがある。好ましくは、上記反応比率は95%以上である。
【0023】
上記水溶性を有しない有機酸とは、好ましくは、上記酸無水物が用いられ、その場合、より好ましくは、エポキシ基に対し、酸無水物が0.3〜0.9当量比の範囲で含まれる。0.3当量比未満では、酸化膜を除去する効果が十分でないことがあり、0.9当量比を超えると、酸無水物が硬化後に残存し、反応比率が十分に低くならず、経時により電極等の他の金属の腐食を引き起こすおそれがある。
【0024】
より好ましくは、上記酸無水物の配合割合は、0.5〜0.85当量比である。
【0025】
本発明に係るエポキシ系接着剤組成物では、上記硬化剤の他、本発明の課題達成を阻害しない範囲で、他の硬化促進剤、様々な添加剤を添加することができる。このような硬化促進剤としては、イミダゾール等などが挙げられ、添加剤としては、シランカップリング剤などを挙げることができる。
【0026】
本発明に係る接合方法は、本発明エポキシ系接着剤組成物を用いて、酸化被膜を有する金属を接合することを特徴とする。
【0027】
この場合、本発明のある特定の局面では、酸化被膜を有する金属として半田が用いられる。半田は、前述したように、通常表面に酸化被膜を有する。そして、酸化被膜が存在すると、溶融されたとしても、半田の濡れ性が十分でなくなり、半田による接合を確実に行い得ないことがある。これに対して、本発明に係るエポキシ系接着剤を半田に予め接触させた場合には、半田表面の酸化被膜が除去されることになる。従って、半田を加熱により溶融した場合、濡れ性が高められ、該半田の溶融・硬化により、接合すべき部材同士が確実に接合され、しかも、該部材同士が本発明のエポキシ系接着剤組成物の硬化物によっても接合され、接合すべき部材同士の接合強度が効果的に高められる。
【0028】
特に、本発明では、電子部品素子を実装基板上に搭載する用途に、本発明の接合方法を効果的に用いることができる。この接合方法では、電子部品素子の下面に予め半田バンプが形成されている。そして、実装基板上に本発明に係るエポキシ系接着剤組成物を塗布し、しかる後、該エポキシ系接着剤組成物を押し退けるように半田バンプ側から電子部品素子を実装基板上に搭載する。エポキシ系接着剤組成物に接触し、かつ該エポキシ系接着剤組成物を押し退けつつ半田バンプが実装基板上の電極に当接される。従って、半田バンプ表面の酸化被膜が確実にエポキシ系接着剤組成物中の有機酸の作用により除去される。
【0029】
そして、加熱により、半田バンプを溶融し、固化し、半田による接合を果たす。この場合、半田の濡れ性が高められ、半田による接合が確実に行われる。
【0030】
また、上記エポキシ系接着剤組成物が硬化されると、該エポキシ系接着剤組成物の接着力によっても、上記電子部品素子と実装基板とが強固に接合されることになる。
【0031】
なお、エポキシ系接着剤組成物の硬化は、半田バンプの溶融加熱に際しての熱による熱硬化を利用してもよく、半田による接合とは別途エポキシ系接着剤組成物を熱硬化させるように加熱を行ってもよく、あるいは光硬化などを利用してエポキシ系接着剤組成物を硬化させてもよい。
【0032】
よって、上記電子部品素子としては、半導体素子などの様々な電子部品素子を挙げるとこができる。
【0033】
なお、半田バンプ以外のCuバンプなどの酸化被膜を表面に有する他の金属バンプを用いた接合方法にも本発明のエポキシ系接着剤組成物を用いることができる。
【0034】
さらに、金属バンプに限らず、バンプ以外の金属材料であって、表面に酸化被膜を有する部分の他の部材との接合にも、本発明に係るエポキシ系接着剤組成物を効果的に用いることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係るエポキシ系接着剤組成物では、エポキシ樹脂と、水溶性を有しない有機酸とを含み、硬化前のpHが5より小さく、硬化後のpHが6〜8の範囲にあり、DSCによる発熱量から求められた反応比率が90%以上であるため、硬化前には、酸化膜を表面に有する金属と接触されると、該酸化膜を確実に除去することができる。従って、該酸化膜を表面に有する金属の接合を確実に行うことができる。他方、硬化後には、pHは6〜8の範囲にあるため、経時により硬化物に接触している金属が腐食し難い。特に、上記反応比率が90%以上であるため、有機酸が十分に消費されて、硬化が行われているので、長期間高温・高湿度下に放置された場合であっても、硬化物に接触している金属等の腐食が生じ難い。
【0036】
水溶性を有しない有機酸が酸無水物である場合には、酸化被膜を有する金属の酸化被膜を確実に除去することができるとともに、硬化後には、酸無水物が容易に分解し、酸無水物による金属の腐食等を効果的に防止することができる。特に、酸無水物が、エポキシ基に対し、0.3〜0.9当量比の範囲で含有されている場合には、酸化膜を確実に除去することができるとともに、硬化物に接触している金属の経時による腐食をより確実に防止することができる。
【0037】
よって、エポキシ系接着剤組成物を用いた本発明の接合方法では、酸化膜を表面に有する金属に該エポキシ系接着剤組成物を接触させた後に、酸化被膜を確実に除去して接合を確実に行うことができるとともに、経時による金属等の腐食が生じ難い。
【0038】
また、酸化被膜を表面に有する金属が半田である場合、半田は通常酸化膜を表面に有するので、本発明に係る接合方法の場合では、上記エポキシ系接着剤組成物中の有機酸の作用により酸化膜が確実に除去されるので、半田による接合に際しての半田の濡れ性を効果的に高めることができる。よって、半田による接合を確実に行うことができる。
【0039】
特に、酸化膜を表面に有する金属が、電子部品に付着された半田バンプであり、電子部品を半田バンプに本発明のエポキシ系接着剤組成物を用いて接合する場合には、該半田バンプの酸化膜が確実に除去され、半田バンプによる接合が確実に行われる。しかも、本発明に係るエポキシ系接着剤組成物の硬化物により、電子部品が実装基板の電極等に確実に接合される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(使用した材料)
(1)エポキシ化合物
エポキシ基含有アクリルポリマー:日本油脂社製、品番:CP−30、重量平均分子量10000、エポキシ当量500
ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物:大日本インキ社製、品番:HP7200
ナフタレン型エポキシ:大日本インキ社製、品番:HP4032D
(2)硬化剤
トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸:JER社製、品番:YH−307
フェノール系硬化剤:JER社製、品番:PR−HF−3
ジシアンジアミド系硬化剤:旭電化社製、品番:EH3636AS
(3)硬化促進剤
イミダゾール系硬化剤:四国化成工業社製、品番:2MAOK
イミダゾール系硬化剤:四国化成工業社製、品番:2E4MZ
カルボン酸イミダゾール硬化剤:四国化成社製、品番:2PZ−CNS
マイクロカプセル型潜在性硬化剤:旭化成社製、品番:HX3748
(4)フラックス
ロジン:荒川化学社製、品番:アビチエン酸
(5)シランカップリング剤
アミノシランカップリング剤:チッソ社製、品番:S320
【0042】
(実施例1)
下記の表1に示すように、エポキシ樹脂として、エポキシ樹脂A(エポキシ基含有アクリルポリマー、日本油脂社製、品番:CP−30)40重量部と、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ社製、品番:HP7200)20重量部と、ナフタレン型エポキシ樹脂(大日本インキ社製、品番:HP4032D)76重量部と、硬化剤としてトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(JER社製、品番:YH−307)60重量部と、硬化促進剤としてイミダゾール(四国化成社製、品番:2MAOK)4重量部と、シランカップリング剤(チッソ社製、アミノシランカップリング剤、品番:S320)2重量部とを含む組成物を混練し、エポキシ系接着剤組成物を用意した。
【0043】
上記エポキシ系接着剤組成物1gをガラス瓶に入れ、該ガラス瓶中にイオン交換水10mlを入れ、室温で一昼夜浸透した。しかる後、ガラス瓶中の液体をpHをpHメータにて測定した。
【0044】
次に、上記のようにして用意したエポキシ系接着剤組成物を別途170℃のオーブンに30分間養生し、熱硬化し、硬化物サンプルを得た。この硬化物サンプルを凍結粉砕手法により粉砕し、フッ化エチレン樹脂からなる加圧容器中に粉砕された硬化物1gを投入し、イオン交換水10mlを入れ、120℃のオーブンで加熱しつつ、24時間浸透した。しかる後、放冷し、硬化前のpHを測定した方法と同様にして硬化後のpHを測定した。
【0045】
上記エポキシ系接着剤組成物を3℃/分の昇温速度で−40℃+250℃の温度領域でDSCにより測定を行った。発熱ピークは100〜200℃の範囲に現れるので、そのピークの面積を求めた。さらに、170℃のオーブン中で30分間エポキシ系接着剤組成物を加熱養生し、同様にして、DSCによる発熱ピーク面積を測定した。加熱反応前の発熱ピークから求められた面積と、オーブン中で加熱養生した後の面積との比率を測定し、DSCで測定された発熱ピークによる反応比率を計算した。
【0046】
他方、上記エポキシ系接着剤組成物を用い、電子部品チップを実装基板(ガラスエポキシからなる基板であって、基板表面に金メッキにより電極が形成されている)に実装した。より具体的には、172本の半田バンプが下面に高密度に形成されている1cm角の電子部品チップを用意し、上記基板上にエポキシ系接着剤組成物を十分電極を覆う程度塗布し、上記電子部品チップを搭載し、260℃及び20秒の条件で加熱し、接合した。接合後に、電子部品チップ側と実装基板側との導通抵抗値すなわち半田バンプによる接合部分の導通抵抗に相当する導通抵抗値を測定した。併せて、X線透過装置により、上記半田バンプの接合部分における半田の濡れ性を写真により評価した。
【0047】
また、別途、ポリイミドフィルム上に、L/S比(ラインアンドスペース比)30μm/30μmとなるようにくし形配線電極をフォトレジスト法により形成した。このくし型配線電極上に、エポキシ系接着剤組成物を約10μmの厚みとなるように塗布し、さらに表面を無アルカリガラスで被覆し、ホットプレート上で200℃の温度で1分間加熱し、養生硬化した。しかる後、くし型配線電極の一方電位に接続される側の端部と、他方電位に接続される側の端部との間に、5Vの電圧を印加し、120℃及び相対湿度85%の環境の中で100時間放置した。この高温高湿度放置試験終了後に、絶縁抵抗値を測定した。高温高湿度放置試験前の絶縁抵抗値からの絶縁抵抗値の変化を求めるとともに、光学的に観察し、くし型電極表面の良・不良を評価した。
【0048】
結果を下記の表1に示す。
【0049】
(実施例2〜4及び比較例1〜6)
使用したエポキシ樹脂及び硬化剤の種類及び配合割合を下記の表1に示すように変更したことを除いては、実施例1と同様にしてエポキシ系接着剤組成物を作製し、同様にして評価した。結果を下記の表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から明らかなように、比較例1〜6では、水溶性を有しない有機酸が配合されていないため、高温高湿度放置試験後において、電極の銅が腐食しており、特に比較例1では、陽極の銅も腐食していた。これに対し、実施例1〜4では、高温高湿度下に放置された後においても、電極の腐食はみられず、また絶縁抵抗値も1010Ωであった。
【0052】
一方、比較例1〜4では、高温高湿度放置試験終了後の絶縁抵抗値が104Ωまたは105Ωと低下していた。また、比較例4では、半田接合試験において、導通抵抗が高く、半田の濡れ性が十分でないため、電子部品チップが基板に確実に接合されていなかった。これは、硬化剤が十分に配合されていなことによると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化膜を表面に有する金属の接合に用いられるエポキシ系接着剤組成物であって、エポキシ樹脂と、水溶性を有しない有機酸とを含み、硬化前のpHが5より小さく、硬化後のpHが6〜8の範囲にあり、DSCによる発熱量から求められた硬化の際の反応比率が90%以上であることを特徴とするエポキシ系接着剤組成物。
【請求項2】
前記水溶性を有しない有機酸が酸無水物である、請求項1に記載のエポキシ系接着剤組成物。
【請求項3】
前記エポキシ基に対し、前記酸無水物が0.3〜0.9当量比の範囲で含有されている、請求項2に記載のエポキシ系接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ系接着剤組成物を用い、酸化膜を表面に有する金属に接触させた後に、該金属を接合することを特徴とする、接合方法。
【請求項5】
前記酸化膜を表面に有する金属が半田である、請求項4に記載の接合方法。
【請求項6】
前記酸化膜を表面に有する金属が、電子部品に固着された半田バンプであり、半田バンプに前記エポキシ系接着剤組成物エポキシを接触させた後に、半田バンプを加熱により溶融し、しかる後硬化させることにより、電子部品を半田バンプにより部材に接合することを特徴とする、請求項4に記載の接合方法。


【公開番号】特開2007−16127(P2007−16127A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199077(P2005−199077)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】