説明

エマルションおよびその製造方法、ならびに該エマルションを用いた水性塗料組成物

【課題】良好な外観を得ることができ、かつ優れた耐アルカリ性を有するエマルションを提供すること。
【解決手段】本発明のエマルションは、ミニエマルション重合方法によって得られる、水性媒体中に樹脂粒子が分散されたエマルションである。該樹脂粒子は、水酸基を有する樹脂で構成された外殻と、該外殻に内包されたメラミン樹脂とを含み、その平均粒子径は50nm〜500nmである。該外殻は、メラミン樹脂を内包したモノマー混合物微粒子が水性媒体中に分散されたプレエマルションを重合することにより形成される。該モノマー混合物は、不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーを含まず、重合温度が55℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルションおよびその製造方法ならびに該エマルションを用いた水性塗料組成物に関する。より詳細には、本発明は、良好な外観を得ることができ、かつ優れた耐アルカリ性を有するエマルションおよび該エマルションを用いた水性塗料組成物に関し、さらに、そのようなエマルションの簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、溶剤型塗料から水性塗料へ転換することが社会的に求められている。
【0003】
硬化剤を含む塗料は、含まない塗料に比べて塗膜の物性に優れるので、主として自動車を含む工業用の分野で一般的に使用されている。水性塗料組成物に用いられる硬化剤としてメラミン樹脂が知れらている。メラミン樹脂を水性樹脂で内包し水中に分散させることにより、均質な塗膜が得られることが知られている。
【0004】
特許文献1は、メラミン樹脂硬化剤を含有する硬化型水性樹脂分散体を記載している。特許文献1によれば、多量の有機溶剤を用いることなく、硬化型水性樹脂分散体を安定化させることができ、仕上がりを良好にすることができる旨が記載されている。しかし、この技術によれば、水性樹脂を形成するモノマーに所望でない反応が生じていると考えられる。実際、この技術によれば、塗膜内部に均一な架橋構造を形成することができず、その結果、塗膜の外観および耐アルカリ性が不十分である。
【特許文献1】特開2006−45453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、良好な外観を得ることができ、かつ優れた耐アルカリ性を有するエマルションおよび該エマルションを用いた水性塗料組成物ならびにそのようなエマルションの簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエマルションは、ミニエマルション重合方法によって得られる水性媒体中に樹脂粒子が分散されたエマルションである。該樹脂粒子は、水酸基を有する樹脂で構成された外殻と、該外殻に内包されたメラミン樹脂とを含み、その平均粒子径は50nm〜500nmである。該外殻は、メラミン樹脂を内包したモノマー混合物微粒子が水性媒体中に分散されたプレエマルションを重合することにより形成される。該モノマー混合物は、不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーを含まず、重合温度が50℃以下である。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記メラミン樹脂は、エマルションの全固形分質量に対して1〜50質量%の割合で含有されている。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記メラミン樹脂の数平均分子量が1,300以下である。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記外殻を構成する樹脂の数平均分子量が50,000未満である。
【0010】
本発明のさらに別の局面によれば、水性塗料組成物が提供される。この水性塗料組成物は、上記のエマルションを含有する。
【0011】
本発明のさらに別の局面によれば、エマルションの製造方法が提供される。この製造方法は、メラミン樹脂と、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物とを水性媒体中に分散させて、該メラミン樹脂を内包したモノマー混合物粒子が水性媒体中に分散されたプレエマルションを調製する工程と;該プレエマルション中の該モノマー混合物を重合して、該メラミン樹脂を内包する樹脂粒子が水性媒体中に分散されたエマルションを得る工程とを含む。該樹脂粒子の平均粒子径は、50nm〜500nmである。該モノマー混合物は、不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーを含まず、重合温度は、50℃以下である。
【0012】
好ましい実施形態においては、連鎖移動剤を上記モノマー混合物の全固形分質量に対して0.5〜5質量%の割合で使用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エマルションに分散した樹脂粒子の外殻を水酸基を有する樹脂で構成し、当該外殻にメラミン樹脂を内包させることにより、良好な外観を得ることができ、かつ優れた耐アルカリ性を有するエマルションおよび水性塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
A.エマルションの全体的な構成
本発明のエマルションは、水性媒体中に樹脂粒子が分散されたエマルションである。樹脂粒子は、水酸基を有する樹脂で構成された外殻と、外殻に内包されたメラミン樹脂とを含む。外殻は、内包するメラミン樹脂を完全に覆う必要はなく、樹脂粒子として水性媒体中に安定に存在できればよい。樹脂粒子の平均粒子径は50nm〜500nmであり、好ましくは100nm〜300nmである。エマルションにおける樹脂粒子の平均粒子径がこのような範囲であれば、凝集物や沈降物を生じない、分散安定性に優れたエマルションを得ることができる。エマルションの固形分(すなわち、外殻樹脂およびメラミン樹脂の固形分の合計)は、好ましくは20〜50質量%である。なお、樹脂粒子の平均粒子径は、試料を脱イオン水にて希釈し、レーザー散乱式粒度分布測定装置(大塚電子製、商品名ELS−800)を用いて25℃で測定したときの値(キュムラント解析により求めた値)である。
【0015】
B.メラミン樹脂
上記メラミン樹脂としては、目的に応じて任意の適切なメラミン樹脂が採用され得る。好ましくは反応性基が化学式(−N−(CHOR))で表される完全アルキル型、化学式(−N−(CHOR)CHOH)で表されるメチロール基型、化学式(−N−(CHOR)H)で表されるイミノ基型、または(−N−(CHOR)CHOH)と(−N−(CHOR)H)とが混在するメチロール/イミノ基型である。さらに好ましくはメチロール基型、イミノ基型またはメチロール/イミノ基型である。上記化学式中、Rは任意の適切なアルキル基である。上記化学式中のRは、好ましくはメチル基(メチル化メラミン樹脂)、ブチル基(ブチル化メラミン樹脂)、または一部がメチル基であり一部がブチル基(メチルブチル混合メラミン樹脂)である。特に好ましくはブチル基である。上記化学式中のRがブチル基のブチル化メラミン樹脂を用いることにより、得られる塗膜の耐アルカリ性および耐水性を向上させることができる。なお、上記メラミン樹脂は、2種以上のアルキル基を有し得る。また、上記メラミン樹脂は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられ得る。
【0016】
上記メラミン樹脂の数平均分子量は、好ましくは300〜1,300、さらに好ましくは300〜1,000、特に好ましくは300〜800である。メラミン樹脂の数平均分量がこのような範囲であれば、塗膜の外観、耐アルカリ性および耐水性を向上させることができる。
【0017】
上記メラミン樹脂の固形分質量は、エマルションの全固形分100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、さらに好ましくは5〜35質量部である。このような配合比でメラミン樹脂を含有することにより、耐アルカリ性を向上させることができ、かつエマルションの安定的な製造が可能になる。
【0018】
上記メラミン樹脂の溶解性パラメーター(SP)は、好ましくは9.0<SP<12.0、さらに好ましくは9.5<SP<11.5である。本明細書において「溶解性パラメーター」とは、Hildebrandによって提唱されたパラメーターをいい、凝集エネルギー密度の平方根で定義される。代表的な溶媒や樹脂の溶解性パラメーターは、例えばポリマーハンドブックに記載されている。本明細書においては、樹脂の溶解性パラメーターは、例えば以下の手順で決定される:樹脂0.5gを秤量してビーカーにとり、良溶媒(例えば、アセトン、ジオキサン、ブチルセルソルブ、THF)10mlをホールピペットで加えて樹脂を溶解し、樹脂溶液を調製する。この樹脂溶液を20℃に保持し、水またはヘキサンを滴下し、白濁した点を滴定値とする。この滴定値から、以下の式を用いて樹脂の溶解性パラメーターδresinを算出する。
【数1】

ここで、Vmlはヘキサンによる滴定終了時の混合溶媒の分子容であり、Vmhは水による滴定終了時の混合溶媒の分子容である。δmlおよびδmhは、それぞれヘキサンまたは水による滴定終了時の混合溶媒の溶解性パラメーターであり、以下の式で表される。
【数2】


ここで、δwaterおよびδhexaneは、それぞれ水およびヘキサンの溶解性パラメーターであり、δは良溶媒の溶解性パラメーターである。φmlは混合溶媒中のヘキサンの体積分率であり、φmhは混合溶媒中の水の体積分率である。
【0019】
上記メラミン樹脂として、市販品を採用し得る。市販品の具体例としては、三井サイテック社製 商品名「サイメル300」、「サイメル235」、「サイメル236」、「サイメル285」等が挙げられる。
【0020】
C.メラミン樹脂を内包する外殻
上記外殻は、上記メラミン樹脂を内包する。好ましくは、当該外殻は、水酸基を有する樹脂で構成される。このような水酸基を有する樹脂でメラミン樹脂を内包することにより、塗膜形成時の硬化性にきわめて優れた水性塗料組成物を得ることができる。
【0021】
上記外殻を構成する樹脂は、代表的には、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを単独重合することにより得られるホモポリマーであり得る。あるいは、少なくとも水酸基含有エチレン性不飽和モノマーと、該水酸基含有エチレン性不飽和モノマーと共重合可能な任意の適切な他のモノマー(不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーを除く)とを共重合することにより得られるコポリマーであってもよい。外殻を構成する樹脂が水酸基含有エチレン性不飽和モノマー由来部分を有することにより、塗膜の外観を向上させることができる。上記樹脂がコポリマーである場合、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー由来の繰り返し単位の含有比率は、モノマーの仕込み比で3〜40質量%である。3質量%未満では、水酸基が少なすぎて、塗膜形成時の硬化性が不十分な場合がある。40質量%を超えると、重合が十分に進行せず、外殻が十分に形成されない場合がある。
【0022】
上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸とC2−C8ジオールとのハーフエステル〔例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート〕およびそれらのε−カプロラクトン変性体等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記他のモノマーの具体例としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸ジシクロペンタジエニル、アクリル酸ジシクロペンタジエニル、メタクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル、アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニルなどの(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン、ビニルナフタレンなどのスチレン系モノマー;メタクリルアミド、アクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジブチルメタクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、N,N−ジオクチルメタクリルアミド、N,N−ジオクチルアクリルアミド、N−モノブチルメタクリルアミド、N−モノブチルアクリルアミド、N−モノオクチルメタクリルアミド、N−モノオクチルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミドなどのアミドモノマー;ビニルケトン等が挙げられる。さらに、樹脂粒子に内部架橋をもたらすモノマー(代表的には、不飽和二重結合を2個以上含有するモノマー)も使用可能である。このようなモノマーの具体例としては、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコ−ルジメタクリレート、ジアリルフタレート等が挙げられる。当該他のモノマーは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられ得る。用いられる他のモノマーの数、種類、組み合わせおよび量は、エマルション化が可能であり、かつ上記所望の平均粒子径を有するモノマー混合物粒子および樹脂粒子が得られる限りにおいて、目的に応じて適切に設定され得る。
【0024】
本発明においては、他のモノマーとして不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーを用いない。不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーを用いた場合、酸化重合が起こることにより、塗膜内部に均一な架橋構造を形成することができず、その結果、塗膜の外観および耐アルカリ性が不十分となるおそれがある。
【0025】
上記外殻を構成する樹脂の数平均分子量は、好ましくは50,000未満、さらに好ましくは3,000〜50,000、特に好ましくは3,000〜15,000である。上記外殻を構成する樹脂の数平均分量がこのような範囲であれば、塗膜の外観および耐水性を向上させることができる。特に好ましくは、上記メラミン樹脂の数平均分子量が300〜800であり、かつ、外殻構成樹脂の数平均分子量が3,000〜15,000である。このような範囲であれば、塗膜の外観と耐アルカリ性が相乗効果的に優れたものとなる。
【0026】
D.エマルションの製造方法
本発明のエマルションは、ミニエマルション重合方法により調製され得る。当該ミニエマルション重合方法は、上記メラミン樹脂と、上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物とを水性媒体中に分散させて、該メラミン樹脂を内包したモノマー混合物粒子が水性媒体中に分散されたプレエマルションを調製する工程と;プレエマルション中のモノマー混合物を重合して、該メラミン樹脂を内包する樹脂粒子が水性媒体中に分散されたエマルションを得る工程とを含む。ミニエマルション重合方法を用いることにより、プレエマルション油滴からモノマーが水中へ拡散移動し乳化重合することなく、樹脂粒子に疎水性物質(例えば、メラミン樹脂)を内包することが可能となる。その結果、均一性に優れた塗膜が得られるとともに、疎水性の塗膜形成成分(例えば、メラミン樹脂)を水性組成物に適用することができる。以下、本発明に用いられるミニエマルション重合方法の一例における具体的な手順を説明する。
【0027】
まず、モノマー混合物を調製する。モノマー混合物は、少なくとも1つの上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマーと上記共重合可能な他のモノマーとを目的に応じて所定の割合で混合することにより調製される。水酸基含有エチレン性不飽和モノマーは、単独で用いてもよい。したがって、本明細書において「モノマー混合物」は、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー単独の場合を包含する。上述したとおり、モノマー混合物における水酸基含有エチレン性不飽和モノマーの含有量は、好ましくは3〜40質量%である。モノマー混合物は、任意の適切な分散機(例えば、ホモミキサー、ディスパーミキサー)を用いて予備乳化されてもよい。
【0028】
次に、得られたモノマー混合物、上記メラミン樹脂、乳化剤および必要に応じて任意の適切な添加剤を、高速剪断乳化機を用いて乳化することにより、プレエマルションを得る。本発明の製造方法によれば、モノマー混合物粒子がメラミン樹脂を内包した状態で水性分散媒中に分散しているプレエマルションが実現され得る。プレエマルションにおけるモノマー混合物粒子の平均粒子径は、得られるエマルションにおける樹脂粒子の平均粒子径に対して好ましくは0.5〜1.5倍、さらに好ましくは0.8〜1.2倍に設定され得る。より具体的には、モノマー混合物粒子の平均粒子径は、好ましくは100nm〜400nm、さらに好ましくは100nm〜300nmである。モノマー混合物粒子がこのような範囲の平均粒子径を有し、かつ、メラミン樹脂を内包していることにより、非常に優れた硬化性を有し、かつ優れた硬度を有する塗膜を形成し得るエマルションを得ることができる。モノマー混合物粒子の平均粒子径は、乳化剤の量および剪断条件(例えば、回転数、剪断応力、剪断時間、剪断時の圧力)を調整することにより制御され得る。
【0029】
上記高速剪断乳化機としては、所望のプレエマルションが得られる限りにおいて任意の適切な装置が採用され得る。具体例としては、高速回転剪断型撹拌機、コロイドミル、高圧コロイドミル、高圧噴射式乳化分散機、超音波乳化分散機、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。例えば、高速回転剪断型撹拌機は、回転翼と固定環との微細な間隙で起こる強力な剪断効果および/または衝撃力を利用して、液体を微粒化する。攪拌機としてT.Kロボミックス(登録商標;プライミクス株式会社製)を用いる場合の回転数は、例えば10,000〜20,000rpmであり、攪拌時間は、例えば5分〜60分であるが、これらの条件は機器の大きさにより変化するため、周速10〜30m/秒となるように攪拌機を制御することが好ましい。
【0030】
上記乳化剤としては、代表的には、アニオン系乳化剤またはノニオン系乳化剤が用いられる。アニオン系乳化剤の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。ノニオン系乳化剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。乳化剤の添加量は、好ましくは、モノマー混合物100質量部に対して1〜15質量部である。乳化剤の量が1質量部未満である場合には、エマルションの製造時に凝集物を生じるおそれがある。乳化剤の量が15質量部を超えると、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0031】
乳化剤は、反応性乳化剤であってもよい。反応性乳化剤はエチレン性不飽和結合を有する界面活性剤である。反応性乳化剤は、アニオン型、カチオン型、ノニオン型の3種のタイプに分類される。反応性乳化剤は、上記通常の乳化剤と併用してもよく、単独で用いてもよい。反応性乳化剤は、上記モノマー混合物に含まれてもよい。反応性乳化剤を用いる場合の使用量(上記通常の乳化剤と併用する場合は反応性乳化剤と通常の乳化剤との合計)は、モノマー混合物100質量部に対して1〜15質量部である。なお、上記モノマー混合物に反応性乳化剤が含まれる場合であって当該反応性乳化剤がイオン性基を有する場合(すなわち、アニオン型またはカチオン型である場合)には、その使用量は、好ましくは10質量部以下である。
【0032】
市販のアニオン型反応性乳化剤の具体例としては、エレミノールJSシリーズ(三洋化成工業社製)、ラテムルSシリーズ、ラテムルPDシリーズ、SASKシリーズ(花王社製)、アクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープSE、SRシリーズ(旭電化社製)、アントックスMS−60(日本乳化剤社製)等が挙げられる。市販のカチオン型反応性乳化剤の具体例としては、ラテムルKシリーズ(花王社製)等が挙げられる。市販のノニオン型反応性乳化剤の具体例としては、アクアロンRNシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープNE、ERシリーズ(旭電化社製)等が挙げられる。
【0033】
上記添加剤の具体例としては、重合開始剤、連鎖移動剤等が挙げられる。
【0034】
重合開始剤としては、油溶性または水溶性のいずれのタイプのものであってもよい。油溶性の重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、オクタノイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド等の有機系過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられる。水溶性の重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビス(2−メチルプロピオンニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノブタン酸)、ジメチルアゾビス(2−メチルプロピオネート)、アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕、アゾビス{2−メチル−N−〔2−(1−ヒドロキシブチル)〕−プロピオンアミド}等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩が挙げられる。これらは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられ得る。好ましくは、本発明においては、上記重合開始剤に糖、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、鉄錯体等の還元剤を併用したレドックス重合系が採用され得る。レドックス重合系とすることで、重合時および貯蔵時の増粘を抑制でき、製造性および貯蔵安定性に優れたエマルションを得ることができる。重合開始剤は、上記モノマー混合物100質量部に対して好ましくは0.1〜5質量部の割合で用いられ得る。
【0035】
連鎖移動剤としては、外殻を構成する樹脂の分子量を所望の範囲に調節し得る任意の適切な連鎖移動剤が採用され得る。具体例としては、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルへキシル、2−メチル−5−t−ブチルチオフェノール、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。連鎖移動剤は、上記モノマー混合物100質量部に対して好ましくは0.5〜5質量部の割合で用いられ得る。
【0036】
次に、上記プレエマルションをミニエマルション重合し、エマルションを得る。上記モノマー混合物粒子が上記メラミン樹脂を内包した状態で水性分散媒中に分散しているプレエマルションをミニエマルション重合することにより、当該モノマー混合物がメラミン樹脂を内包したまま重合し、外殻を形成する。その結果、メラミン樹脂を内包した樹脂粒子(すなわち、カプセル状の樹脂粒子)が分散したエマルションが得られる。重合条件は、モノマー混合物に用いられるモノマーの種類、メラミン樹脂の含有量等に応じて適切に選択され得る。ミニエマルション重合における重合温度は好ましくは55℃以下、より好ましくは35〜50℃である。ここで、重合温度とは重合開始から終了までの間における最高到達温度をいう。重合温度が55℃以下となるよう制御することにより、所望でないモノマーの反応を少なくすることができる。その結果、塗膜内部に均一な架橋構造を構成することができる。すなわち、重合温度が上記のような範囲であれば、塗膜の外観および耐アルカリ性を向上させることができる。本発明によれば、特定の外殻樹脂構成モノマーおよびメラミン樹脂を用いてこのような低温で重合することにより、塗膜の外観および耐アルカリ性の優れたエマルションを得ることができる。また、重合開始温度は好ましくは55℃以下、より好ましくは室温〜50℃である。1つの実施形態においては、重合時間は1〜8時間である。以上のようにして、本発明のエマルションが得られる。
【0037】
E.水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、上記のエマルションを含有する。水性塗料組成物におけるエマルションの固形分は、水性塗料組成物の全固形分に対して好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。エマルションの固形分比率が30質量%より少ない場合には、得られる塗膜の耐水性が低下する傾向がある。
【0038】
本発明の水性塗料組成物は、上記エマルションに加えて、任意の適切な塗料用添加剤をさらに含有し得る。塗料用添加剤の具体例としては、硬化触媒(例えば、金属ドライヤー)、pH調整剤(例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム)、消泡剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、相溶化剤、架橋剤、増粘剤、静電助剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤等が挙げられる。添加される塗料用添加剤の数、種類および量は、目的に応じて適切に選択され得る。本発明の塗料組成物が目的に応じて色材(例えば、顔料)や他の樹脂成分をさらに含有し得ることはいうまでもない。
【0039】
本発明の水性塗料組成物は、クリヤー塗料、エナメル塗料、建築用、自動車外板用、自動車部品用などの塗料用途、印刷インキ等の被覆材、不織布用の接合剤、接着剤、充填材、形成材料、レジスト等に好適に使用することができる。
【0040】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0041】
[実施例1]
(メラミン樹脂内包エマルションの調製)
攪拌機(プライミクス株式会社製、商品名T.K.ロボミックス(登録商標))を備えた5Lステンレスビーカーに、脱イオン水1000部、ラテムルPD−104(商品名、花王株式会社製、反応性界面活性剤20%水溶液)250部を入れた。これを2000rpmで攪拌しているところにモノマー混合物1000部(スチレン329.1部、メチルメタクリレート161.1部、エチルアクリレート339.8部、2−ヒドロキシエチルアクリレート150部、メタクリル酸20部)、ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)10部および低分子量のメラミン樹脂としてサイメル235(日本サイテック社製、数平均分子量630、固形分質量100質量%)333部を均一に混合したものを徐々に加え、一次乳化物を得た。これを氷水で冷却しながら、12000rpmで20分乳化してプレエマルションを得た。得られたプレエマルションの粒子径を大塚電子株式会社製、商品名ELS−800で測定した。プレエマルションにおけるモノマー混合物粒子の平均粒子径は191nmであった。
【0042】
次に、撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入管およびウォターバスを備えた5L縦長フラスコに、脱イオン水300部を仕込み、150rpmで攪拌しながら40℃に昇温した。脱イオン水117.4部およびカヤブチルH−70(化薬アクゾ社製、t−ブチルヒドロパーオキサイド水溶液、純度70質量%)14.3部とを混合した開始剤水溶液、脱イオン水100部とスーパーライトC(三菱ガス化学社製、NaHSO・CHO・2HO)5.7部とを混合した還元剤水溶液、および上記で得られたプレエマルションを3時間かけて並行滴下した(レドックス重合系)。プレエマルション、開始剤水溶液および還元剤水溶液の滴下終了後、2時間静置した。そこへDMAE(ジメチルアミノエタノール)をpH7付近になるまで滴下した。DMAE水溶液の滴下終了後、1時間静置した。このとき、重合開始温度は40℃とし、重合時の最高到達温度は49℃であった。その後室温に冷却し、200メッシュで濾過し取り出し、メラミン樹脂内包エマルションを得た。得られたエマルションの固形分は44.6%、pHは7.3、樹脂粒子の平均粒子径は202nmであった。さらに、GPC分析により、内包物(メラミン樹脂)のピークを除くアクリル樹脂のピークから数平均分子量を求めたところ、12,500であった。
【0043】
(水溶性ポリエステル樹脂の調製)
攪拌機、温度計、還流管、デカンターおよび窒素ガス吹込み管を備えた四つ口フウラスコにカージュラーE−10(昭和セル石油株式会社製、バーサティック酸グリシジルエスエル)、イソフタル酸30質量部、トリメチロールプロパン23質量部、ヘキサヒドロキシ無水フタル酸9質量部、およびプラクセルM(ダイセル工業株式会社のε−カプロラクトン)7質量部を仕込み、220℃で加熱し、水の還流がなくなるまで縮合反応を行った。次に反応混合物に無水トリメット酸を6質量部加え、180℃で加熱し、水を除去しながら酸価50になるまで、縮合反応を行った。これを固形分が75質量%になるようにブチルセロソルブで希釈し、水酸基価150、数平均分子量1200のポリエステル樹脂を得た。
【0044】
(水性塗料組成物の調製)
上記ポリエステル樹脂26.7質量部、DMAE1.3質量部、酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名CR−97)212.5質量部、脱イオン水104質量部をSGミルで1時間分散し、着色料分散ペーストを得た。ステンレス容器においてラボミキサーを使用して、上記で得られたメラミン樹脂内包エマルション179.4質量部に、上記着色顔料分散ペースト334.5質量部およびイオン交換水45.6質量部を混合することによって、水性塗料組成物を調製した。
【0045】
[実施例2]
メラミン樹脂としてサイメル235の代わりにU−2020(三井サイテック社製、平均分子量1,250)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてプレエマルションを得た。また、実施例1と同様にして、このプレエマルションからメラミン樹脂内包エマルションを得た。このとき、重合時の最高到達温度は49℃であった。さらに、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0046】
[実施例3]
ドデシルメルカプタンを不使用としたこと以外は、実施例1と同様にしてプレエマルションを得た。また、実施例1と同様にして、このプレエマルションからメラミン樹脂内包エマルションを得た。このとき、重合時の最高到達温度は53℃であった。GPC分析により、該メラミン樹脂内包エマルションの内包物(メラミン樹脂)のピークを除くアクリル樹脂のピークから数平均分子量を求めたところ、103,100であった。さらに、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0047】
[比較例1]
メラミン樹脂としてサイメル235の代わりにU−2020(三井サイテック社製、平均分子量1,250)を用いたこと、およびドデシルメルカプタンを不使用としたこと以外は、実施例1と同様にしてプレエマルションを得た。さらに、実施例1と同様にして、このプレエマルションからメラミン樹脂内包エマルションを得た。このとき、重合時の最高到達温度は50℃であった。さらに、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0048】
[比較例2]
重合開始温度を60℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、メラミン樹脂内包エマルションを得た。このとき、重合時の最高到達温度は64℃であった。さらに、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0049】
[比較例3]
(不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーの製造)
大豆油脂肪酸51.9部、グリシジルメタクリレート27.9部、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド0.16部およびハイドロキノンモノメチルエーテル0.14部を反応容器に入れ、攪拌しながら170〜180℃の温度で反応を行った。エポキシ基とカルボキシル基の付加反応は残存カルボキシル基の量を測定しながら追跡した。反応が完了するまで約3時間かかった。
【0050】
モノマー混合物に含まれる2−ヒドロキシエチルアクリレート150部に代えて、上記不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、メラミン樹脂内包エマルションを得た。このとき、重合時の最高到達温度は49℃であった。GPC分析を試みたところ、溶媒であるTHFに一部分不溶であった。可溶部分は数平均分子量13,200であった。さらに、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。なお、不溶部分は不飽和部分が酸化重合した結果生じたものと考えられる。
【0051】
[比較例4]
実施例1と同様にしてプレエマルションを調製した(平均粒子径191nm)。次いで実施例1と同様の設備を用い脱イオン水300部を80℃に昇温した。過硫酸アンモニウム(APS)5部を脱イオン水208.7部に溶解させた開始剤水溶液、および上記で得られたプレエマルションを3時間かけて並行滴下した。プレエマルション、開始剤水溶液および還元剤水溶液の滴下終了後、2時間静置した。そこへDMAEをpH7付近になるまで滴下した。DMAE水溶液の滴下終了後、1時間静置した。このとき、重合開始温度は80℃とし、重合時の最高到達温度は81℃であった。その後室温に冷却し、200メッシュで濾過し取り出し、メラミン樹脂内包エマルションを得た。得られたエマルションの固形分は44.1%、pHは7.1、樹脂粒子の平均粒子径は257nmであった。GPC分析を試みたところ、メラミン樹脂が自己縮合した結果、溶媒であるTHFに一部分不溶であった。可溶部分は数平均分子量14,200であった。さらに、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0052】
[比較例5]
メラミン樹脂としてサイメル235の代わりにU−2020(三井サイテック社製、平均分子量1,250)を用いたこと以外は、比較例4と同様にして、メラミン樹脂内包エマルションを得た。このとき、重合時の最高到達温度は81℃であった。GPC分析を試みたところ、溶媒であるTHFに一部分不溶であった。可溶部分は数平均分子量13,900であった。さらに、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。なお、不溶部分はメラミン樹脂が自己縮合した結果生じたものと考えられる。
【0053】
[比較例6]
ドデシルメルカプタンを不使用としたこと以外は、比較例4と同様にしてプレエマルションを得た。また、比較例4と同様にして、このプレエマルションからメラミン樹脂内包エマルションを得た。このとき、重合時の最高到達温度は82℃であった。GPC分析を試みたが、高分子量化が進みTHFに不溶であった。このため分子量の測定は出来なかった。さらに、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0054】
[比較例7]
メラミン樹脂としてサイメル235の代わりにU−2020(三井サイテック社製、平均分子量1,250)を用いたこと、およびドデシルメルカプタンを不使用としたこと以外は、比較例4と同様にしてプレエマルションを得た。また、比較例4と同様にして、このプレエマルションからメラミン樹脂内包エマルションを得た。このとき、重合時の最高到達温度は81℃であった。GPC分析を試みたが、高分子量化が進みTHFに不溶であった。このため分子量の測定は出来なかった。さらに、実施例1と同様にして、水性塗料組成物を調製した。
【0055】
(評価)
上記で得られた水性塗料組成物を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
<製造性>
樹脂粒子の重合の際の製造性を下記基準に基づき評価した。
○:樹脂粒子の重合時に、増粘が見られない。
×:樹脂粒子の重合時に、増粘が見られる。
<貯蔵安定性>
調製直後の水性塗料組成物と40℃にて10日間貯蔵した後の水性塗料組成物を観察し、両者を比較することにより、貯蔵安定性を評価した。評価基準は以下の通りとした。
○:調製直後の水性塗料組成物と比較して、増粘やゲル化が見られない。
△:調製直後の水性塗料組成物と比較して、やや増粘した。
×:調製直後の水性塗料組成物と比較して、増粘やゲル化が見られる。
<目視による塗膜外観の評価>
水性塗料組成物調製から3日後に塗膜を形成し、得られた塗膜の表面の状態を下記基準に基づき目視で評価した。
◎:表面に凸凹が確認できず、光沢も非常に良好である。
○:表面に凸凹が確認できず、光沢も良好である。
×:表面に凸凹が確認でき、かつ光沢もない
<耐アルカリ性>
5%NaOH水溶液に20℃で12時間浸漬した後の塗膜の表面の状態を下記基準に基づき目視で評価した。
◎:浸漬しなかった塗膜と比較して、外観に差異が見られない。
○:浸漬しなかった塗膜と比較して、わずかに光沢が低下しているもののほとんど差異がみられない。
△:浸漬しなかった塗膜と比較して、光沢が低下しているものの差異は小さく実用レベルである。
×:ふくれ、はがれなどの異常がある。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から明らかなように、本発明の実施例のメラミン樹脂内包エマルションから得られた塗膜は、比較例のメラミン樹脂内包エマルションから得られた塗膜に比べて、貯蔵安定性、塗膜外観および耐アルカリ性が優れている。比較例4〜7は、重合開始温度が80℃であることにより、メラミンが反応しブタノール等を生じ、増粘すると考えられる。外殻を構成する樹脂が不飽和脂肪酸モノマーを有する比較例3は、耐アルカリ性が不十分である。また、外殻を構成する樹脂およびメラミン樹脂がともに分子量が大きい比較例1は、塗膜外観および耐アルカリ性が不十分である。これらのことから、本発明の優れた効果は、外殻が水酸基を有する樹脂で構成されること、レドックス重合系を採用し重合温度を最適化すること、外殻を構成する樹脂およびメラミン樹脂の分子量を最適化することの相乗効果により達成されていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のエマルションおよび水性塗料組成物は、環境問題に配慮した塗料として好適に利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミニエマルション重合方法によって得られる、水性媒体中に樹脂粒子が分散されたエマルションであって、
該樹脂粒子が、水酸基を有する樹脂で構成された外殻と、該外殻に内包されたメラミン樹脂とを含み、
該樹脂粒子の平均粒子径が50nm〜500nmであり、
該外殻が、メラミン樹脂を内包したモノマー混合物微粒子が水性媒体中に分散されたプレエマルションを重合することにより形成され、
該モノマー混合物が不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーを含まず、重合温度が55℃以下である、
エマルション。
【請求項2】
前記メラミン樹脂が、エマルションの全固形分質量に対して1〜50質量%の割合で含有されている、請求項1に記載のエマルション。
【請求項3】
前記メラミン樹脂の数平均分子量が1,300以下である、請求項1または2に記載のエマルション。
【請求項4】
前記外殻を構成する樹脂の数平均分子量が50,000未満である、請求項1から3のいずれかに記載のエマルション。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のエマルションを含有する、水性塗料組成物。
【請求項6】
メラミン樹脂と、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物とを水性媒体中に分散させて、該メラミン樹脂を内包したモノマー混合物粒子が水性媒体中に分散されたプレエマルションを調製する工程と、
該プレエマルション中の該モノマー混合物を重合して、該メラミン樹脂を内包する樹脂粒子が水性媒体中に分散されたエマルションを得る工程と、を含み、
該樹脂粒子の平均粒子径が50nm〜500nmであり、
該モノマー混合物が不飽和脂肪酸エステル基含有エチレン性不飽和モノマーを含まず、重合温度が50℃以下である
エマルションの製造方法。
【請求項7】
連鎖移動剤を前記モノマー混合物の全固形分質量に対して0.5〜5質量%の割合で使用する、請求項6に記載のエマルション製造方法。

【公開番号】特開2008−274045(P2008−274045A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116912(P2007−116912)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発 革新的水性塗料の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】