説明

エマルション

【課題】紫外線吸収能に優れるとともに、ポリマー微粒子がもつ基本性能を充分に発揮することができるエマルション、また重合性紫外線吸収性化合物の重合工程において凝集物が生じる等の不具合が抑制され、種々の特性を有するモノマーを充分に共重合することができるエマルションの製造方法を提供するものである。
【解決手段】下記一般式(1);
【化1】


(式中、R〜Rは、置換基を表す。)で表される化合物を必須とする単量体成分を含む重合溶液を重合してなるエマルションであって、該エマルションは、単量体成分に対する乳化剤量を2.5質量%以下として調製されたものであるエマルション。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー微粒子が水系溶媒中に分散してなるエマルションに関する。より詳しくは、紫外線吸収能を有するポリマー微粒子が水系溶媒中に分散してなる、ラテックス又はポリマーコロイドとも呼ばれるポリマーエマルションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマー微粒子が水系溶媒中に分散してなるエマルションは、様々な用途において適用が検討されており、例えば、接着剤、コーティング剤、水性塗料等の広範な用途に用いられている他、医療分野における診断薬の配合成分等にも用いられている。このようなポリマーエマルションにおいて、有用性を向上するために紫外線吸収能を付与することが検討されている。これにより、コーティング分野等では長期にわたる耐侯性の向上を実現したり、紫外線の遮断能を付与したり、また化粧品や医薬品等の用途等では紫外線からの皮膚の保護機能を付与することが可能となる。この場合、紫外線吸収剤をエマルションに添加するか、又は、重合性紫外線吸収性化合物(単量体)を共重合することによってポリマーエマルションを調製することになる。しかし紫外線吸収剤をエマルションに添加する形態は、紫外線吸収剤の揮散や漏出等の不具合があることから、重合性紫外線吸収性化合物を共重合して調製されるポリマーエマルションの実用化が求められている。
【0003】
従来の重合性紫外線吸収性化合物を共重合して調製されるポリマーエマルションとしては、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するベンゾトリアゾール系重合性紫外線吸収性化合物と界面活性剤の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び/又はスチレン系単量体を主成分とする単量体混合物を、水媒体中で乳化共重合して得られる水性分散型耐候性樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。例えば、ベンゾトリアゾール系重合性紫外線吸収性化合物として2−(2′−ヒドロキシ−5′−メタアクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ−ルが挙げられるが、この化合物(モノマー)が高融点モノマーであり、他の共重合させるモノマーに溶けにくく、溶かそうとするとスラリー状態となることから、通常のエマルション合成技術を用いることができない。実施例においては、あらかじめベンゾトリアゾール系重合性紫外線吸収性化合物を加熱、乳化してモノマーエマルションを調製した後、共重合する他のモノマーを滴下することによって重合を行い、水性分散型耐候性樹脂組成物が調製されている。この場合、ベンゾトリアゾール系重合性紫外線吸収性化合物の乳化に多くの界面活性剤が必要であり、例えば、実施例においては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メタアクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ−ル30部に対して、界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テルが10.9部使用されている。
【0004】
しかしながら、この水性分散型耐候性樹脂組成物においては、ポリマーエマルションがもつ基本性能を充分に発揮することができず、またその調製工程において、モノマーやモノマーエマルション、重合開始剤等をモノマーエマルション中に添加したときに凝集物が形成されやすいといった不具合があった。更に、このような調製方法の場合、モノマーエマルションを最初に調製することから、モノマーが固形でモノマーエマルション中に残存する条件では適用不可能であるが、実施例のように2−(2′−ヒドロキシ−5′−メタアクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ−ルのような高融点モノマーを高比率で用いる場合、固形分が残存することになり、このモノマーを充分に重合させることは困難であった。
【0005】
したがって、紫外線吸収能を有するポリマー微粒子が水系溶媒中に分散してなるポリマーエマルションにおいて、重合性紫外線吸収性化合物を共重合して調製することが求められることになるが、重合性紫外線吸収性化合物が充分に共重合されるようにすることや、調製されたポリマーエマルションが種々の分野に好適な基本性能を充分に発揮することができるようにする工夫の余地があった。また、重合性紫外線吸収性化合物を共重合してポリマーエマルションを調製する場合、様々な特性をポリマーに付与することができる各種のモノマーを共重合することができれば、ポリマーエマルションが種々の分野で有用な特性を発揮することができるものとなるが、重合性紫外線吸収性化合物を用いる共重合が困難であることから、この点においても工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2000−313705号公報(第1−2、5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、紫外線吸収能に優れるとともに、ポリマー微粒子がもつ基本性能を充分に発揮することができるエマルション、また重合性紫外線吸収性化合物の重合工程において凝集物が生じる等の不具合が抑制され、種々の特性を有するモノマーを充分に共重合することができるエマルションの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、紫外線吸収能を有するポリマー微粒子が水系溶媒中に分散してなるエマルションについて種々検討したところ、重合性紫外線吸収性化合物を他のモノマーと共重合して調製したものが、耐侯性が持続する等の優れた特性を発揮できることに着目した。そして、単量体成分に対する乳化剤量を2.5質量%以下、好ましくは1.7質量%以下として調製されたものが、乳化剤に起因する性能低下を顕著に抑制することができ、紫外線吸収能に優れるとともに、ポリマー微粒子がもつ基本性能を充分に発揮することができることを見いだした。すなわち、乳化剤量を上記範囲内とすることに、紫外線吸収能やポリマー微粒子がもつ基本性能に関する性能低下を顕著に抑制することができるという臨界的意義を見いだしたものである。また、段階的な分散機構を備える撹拌機を用いて重合性紫外線吸収性化合物を水系溶媒中に分散させることを特徴とする製造方法によって、上記乳化剤量の範囲を達成することができること、更に、このような製造方法において、重合性紫外線吸収性化合物とともに開始剤も段階的な分散機構を備える撹拌機で水系溶媒中に分散混合させたり、段階的な分散機構を備える撹拌機によって分散させた重合溶液を連続的に重合させてエマルションを調製したりすることによって、重合性紫外線吸収性化合物の重合工程において凝集物が生じる等の不具合が抑制され、種々の特性を有するモノマーを充分に共重合することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表す。Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、シアノ基及びニトロ基からなる群より選ばれる少なくとも一つを表す。Rは、炭素数1〜12の直鎖状若しくは枝分れ鎖状のアルキレン基又は−O−R−を表す。Rは、炭素数2若しくは3の直鎖状又は枝分れ鎖状のアルキレン基を表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。)で表される化合物を必須とする単量体成分を含む重合溶液を重合してなるエマルションであって、上記エマルションは、単量体成分に対する乳化剤量を2.5質量%以下として調製されたものであるエマルションである。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明は、上記一般式(1)で表される化合物を必須とする単量体成分を含む重合溶液を重合してなるエマルションである。
上記単量体成分に必須として含まれる上記一般式(1)で表される化合物は、ベンゾトリアゾール基が紫外線吸収能を有することから、これによって形成されるエマルションは、優れた紫外線遮蔽効果を発揮することになる。なお、上記エマルションとは、重合溶液、水系重合だけでなく、溶液重合の後に相転換してエマルションとしたものも含むものである。
【0012】
上記エマルションは、単量体成分に対する乳化剤量を2.5質量%以下、好ましくは1.7質量%以下として調製されたものである。乳化剤量をこの範囲内とすることで、紫外線吸収能に優れるとともに、ポリマー微粒子がもつ基本性能を充分に発揮することができることになる。また、エマルションを使用する場合、泡立ち等の問題の発生を抑制することができ、ハンドリングが容易になるとともに、コーティング剤等の用途に使用する場合に塗膜の乾燥性や安定性等を優れたものとすることができる。
上記乳化剤量は、エマルションの調製工程において、単量体成分の乳化等で使用される乳化剤の量である。なお、エマルション重合によって調製される場合には、単量体成分を乳化して重合するために使用される乳化剤の量であるが、重合体を調製した後に乳化してエマルションを作製する場合には、重合体の乳化のために使用される乳化剤の量となる。このように、本発明のエマルションは、エマルション重合によって調製される形態の他、重合体を調製した後に乳化してエマルションを作製する形態も含むものである。いずれの場合にも、本発明における乳化剤量は、単量体成分100質量%を基準とし、エマルション調製工程において使用された乳化剤の量(質量%)で示されることになる。
【0013】
本発明の合成方法の場合は従来のバッチ合成法に比べて乳化剤の使用量を低減できる。そのために乳化剤を使用する場合は、0.1〜2.5質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.7質量%である。ここに示した乳化剤の使用比率は固形分比率が40%以上のポリマーエマルションの場合に一般的に適用できるものである。モノマー組成や固形分比率によっては乳化剤使用量の低減という点で0.1〜1質量%の範囲やさらに好ましくは0.1〜0.5質量%の範囲で乳化剤を使用することができる。ここに示した乳化剤の使用量の範囲は、ポリマー形成時に反応し、ポリマー分子の構成残基(要素)となる反応性乳化剤と、ポリマー形成時に重合反応を起こさずポリマー分子の構成残基とならない通常の乳化剤それぞれに適用できる。また、2種類以上の乳化剤を使用する場合は総使用量に適用してよい。反応性乳化剤、通常の乳化剤を使用する場合、その使用量は、ともに5質量%以下又は3質量%以下などと前段落記述の範囲を超えて用いることは可能である。しかし、これらの乳化剤を多量に用いる場合は、ポリマーエマルションの特性劣化が懸念される。ただし、反応性乳化剤をポリマーの構成残基として特性を積極的に利用する場合は本段落、前段落の範囲を超えて用いることは差し支えない。
乳化剤の影響を低減するためには反応性乳化剤を0.1〜2.5質量%の範囲や先に述べたさらなる低比率の範囲で用いることは好ましい選択である。すなわち、ポリマーエマルションが調製できた時点で遊離の反応性乳化剤の比率は理論的には0質量%になるからである。
本発明においては、乳化剤を使用しないでエマルションを調製することも好ましい選択であり、また乳化剤の使用量を0.1質量%以下あるいはモノマー中の不純物と同等以下として事実上は乳化剤を使用しない条件でエマルションを調製することも好ましい選択である。
【0014】
上記乳化剤のうち、通常の乳化剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が好適であり、反応性乳化剤としては、反応性界面活性剤が好適である。高分子界面活性剤も用いられるが、モノマー組成によって反応性乳化剤又は通常の乳化剤として反応又は作用させることができる。通常は、1種又は2種以上の乳化剤を用いることが好適である。
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、(ラウリル硫酸ナトリウム)、ドデシル硫酸アンモニウム(ラウリル硫酸アンモニウム)等のアルキル硫酸エステル塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類;ポリオキシエチレンアルキルスルホン酸塩(市販品では、例えば、第一工業製薬(株)製、製品名:ハイテノール18E等);ポリオキシエチレンアルキルアリールスルホン酸塩(市販品では、例えば、第一工業製薬(株)製、製品名:ハイテノールN−08等);ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸ホルマリン縮合物;ドデシル酸アンモニウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ヒマシ油カリ石ケン等の脂肪酸塩;等が好適である。
【0015】
上記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(市販品では、例えば、三洋化成工業(株)製、製品名:ナロアクティーN−200等);ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル(市販品では、例えば、三洋化成工業(株)製、製品名:ノニポール−200等);ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの縮合物;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリアミド;エチレンオキサイドと脂肪族アミンの縮合生成物;等が挙げられる。
上記カチオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライド、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミンの塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0016】
上記反応性界面活性剤としては、例えば、種々の分子量(エチレンオキシド付加モル数が異なる)のポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN類 特許2651736号)やその硫酸塩(例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンHS類、アクアロンBC類 特許2652459号、実施例に用いたアクアロンBC1025もその一例)やアリル(オキシ)基を導入したポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH類 特許2596441号)、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン・アルキルフェノールエーテル(メタ)アクリル酸エステル、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレングリコールのモノマレイン酸エステル及びその誘導体及びポリオキシアルキレン・アルキルエーテル・リン酸エステル等が挙げられる。
上記両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド型乳化剤等が挙げられる。
上記高分子界面活性剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレート等のポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;又はこれらの重合体を構成する重合性単量体のうちの1種以上を共重合成分とする共重合体;等が挙げられ、実施例で用いた「DM−1N」もその一例である。
【0017】
上記エマルションは、重合溶液中の単量体成分割合を40質量%以上として調製されたものであることが好ましい。すなわち、本発明のエマルションは、エマルション調製工程において、単量体成分及び溶媒によって構成される重合溶液を100質量%としたときの重合溶液中の単量体成分割合(モノマー濃度)を上記質量%以上として調製されるものとすることが好ましい。これにより、例えばコーティング用途等において、エマルションの乾燥性が向上するとともに、薄く塗工された場合においてもエマルション中のポリマー粒子の割合が多いことに起因して、一般式(1)で表される化合物による紫外線吸収能が充分に発揮されることになる。また、その他のポリマー粒子が有する特性を効率的に充分に発揮することが可能となる。より好ましくは、40〜60質量%であり、更に好ましくは、45〜60質量%である。
【0018】
上記エマルションの分子量分布はゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により測定で比較的広い傾向を示す。上記エマルションの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)はGPCチャートで単峰性でも通常は2以上であり、モノマー組成や反応条件によっては3以上になり、10以上やさらには50以上を示すものもある。二峰性(多峰性)の場合、分子量分布全体としては10以上やさらには50以上という値を示すことが多い。なお実施例1(Mw 700万、Mn 610万)や実施例2(Mw 730万、Mn 640万)のように分子量が高いとGPCカラムの分離性能の限界近くに達するために見掛け上Mw/Mnが1付近になることがあった。この場合でも分子量標準サンプルの場合に比べてGPCチャートのピークの傾きが緩やかであったので分子量分布が広いことが確認できた。上記エマルションの分子量分布が、上記範囲である場合、本発明の作用効果が充分に発揮されることになるが、エマルションの用途に応じて上記と異なる範囲のものであってもよい。
【0019】
(ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)の測定条件)
合成したポリマーエマルションをポリマー濃度で0.15〜0.2%になるようにテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、孔径0.45μmのミクロフィルタで濾過したのちGPCにて分析した。この測定においては東ソー社製TSK−GEL G5000HXL、TSK−GEL CMHXL−Lカラムを装着したHLC−8120GPC型の装置を用い、溶媒としてTHFを使用した。装置の制御と上記重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の解析はGPC−8020 model II型ソフトウェアを用い、ポリスチレンを分子量標準として実施した。
【0020】
上記エマルションは、上記一般式(1)で表される化合物を必須とする単量体成分を含む重合溶液を重合してなるものである。上記一般式(1)で表される化合物としては、2−[2´−ヒドロキシ−5´−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−5´−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−5´−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−5´−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−3´−tert−ブチル−5´−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、及び、2−〔2´−ヒドロキシ−5´−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3´−tert−ブチルフェニル〕−5−tert−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール:2−〔2´−ヒドロキシ−5´−(メタクロイルオキシエトキシエチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学株式会社製の紫外線吸収性モノマー、製品名:RUVA−93。以下「RUVA−93」と言う)等であることが好ましい。より好ましくは、2−〔2´−ヒドロキシ−5´−(メタクロイルオキシエトキシエチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール(RUVA−93)である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記単量体成分としては、上記一般式(1)で表される化合物を必須として含むものである。その割合としては、全単量体成分に対して25質量%以上であることが好ましい。20質量%未満であると、上記一般式(1)で表される化合物を必須とする単量体成分を含む重合溶液を重合してなるエマルションが、充分に紫外線遮蔽効果を発揮することができないおそれがある。より好ましくは、35質量%以上であり、更に好ましくは、45質量%以上である。
【0022】
上記単量体成分としては、上記一般式(1)で表される化合物を必須として含む限り、その他の化合物を含んでいてもよい。その他の化合物、特に共重合可能な各種のモノマーを含むことにより、様々な特性をエマルションに付与することができ、ポリマーエマルションを種々の分野で有用な特性を発揮させることができる。
上記その他の化合物としては、(i)紫外線吸収効果を有する化合物、(ii)紫外線などによって生成したラジカルを捕捉又は消去する効果をもつ化合物(以下、紫外線安定性基を有する単量体という)、(iii)その他の重合性単量体等の1種又は2種以上であることが好ましい。
上記(i)紫外線吸収効果を有する化合物としては、下記一般式(2);
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、R及びRは、上記一般式(2)中のR及びRと同じである。Rは、炭素数1〜12の直鎖状又は枝分れ鎖状のアルキレン基を表す。Rは、水素原子又は水酸基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。)で表される化合物が好適である。なお、枝分かれ鎖状とは、炭素−炭素結合が直鎖状でなく分岐して結合するものを含み、分岐状であって枝分かれ鎖状であってもよい。
【0025】
上記一般式(2)で表されるベンゾフェノン化合物としては、特に限定されず、例えば、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシ−4´−(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、及び、2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノン等の1種又は2種以上を好適に用いることができる。
【0026】
上記(i)紫外線吸収効果を有する化合物としては、また、下記一般式(3);
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、Rは、上記一般式(2)中のRと同じ意味を表す。Rは、直接結合、−(CHCHO)−又は−CHCH(OH)−CHO−を表す。nは、1〜5の整数である。R10〜R17は、同一若しくは異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルコキシ基、アルケニル基及びアルキル基からなる群より選ばれる1種以上の基を表す。)で表される化合物が好適である。
【0029】
上記一般式(3)で表されるトリアジン化合物としては、特に限定されず、例えば、2,4−ジフェニル−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)]−s−トリアジン、2,4−ビス(2−メチルフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)]−s−トリアジン、及び、2,4−ビス(2−メトキシフェニル)−6−[2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)]−s−トリアジン等の1種又は2種以上を好適に用いることができる。
【0030】
上記(ii)紫外線安定性基を有する単量体としては、特に限定はされないが、例えば、下記一般式(4)及び(5)で表されるピペリジン類のモノマーが好ましく挙げられる。
【0031】
【化4】

【0032】
式中、R18は、水素原子又はシアノ基を表す。R19及びR20は、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。R21は、水素原子又は炭化水素基を表す。R22は、酸素原子又はイミノ基を表す。
【0033】
【化5】

【0034】
式中、R18〜R20及びR22は、上記一般式(5)中のR18〜R20及びR22と同じである。R23及びR24は、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。
【0035】
上記一般式(4)で表されるモノマーとしては、特に限定されず、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及び、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の1種又は2種以上が好ましい。
【0036】
上記一般式(5)で表されるモノマーとしては、限定はされず、例えば、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及び、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記(iii)その他の重合性単量体としては、上記一般式(1)と共重合可能な単量体であればよく、以下の単量体の1種又は2種以上が好適である。このような単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸及び無水マレイン酸等のカルボキシル基を有する単量体及びこれらの金属塩等が好ましい。上記金属塩としては、Na塩、K塩、NH塩、Mg塩、Ca塩、Sr塩、Zn塩、Zr塩及びAl塩等であり、具体的には、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸カルシウム、(メタ)アクリル酸ストロンチウム、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ジルコニウム、(メタ)アクリル酸アルミニウム、イタコン酸ナトリウム、イタコン酸カリウム、イタコン酸アンモニウム、イタコン酸マグネシウム、イタコン酸カルシウム、イタコン酸ストロンチウム、イタコン酸亜鉛、イタコン酸ジルコニウム、イタコン酸アルミニウム、マレイン酸ナトリウム、マレイン酸カリウム、マレイン酸アンモニウム、マレイン酸マグネシウム、マレイン酸カルシウム、マレイン酸ストロンチウム、マレイン酸亜鉛、マレイン酸ジルコニウム、マレイン酸アルミニウム、フマル酸ナトリウム、フマル酸カリウム、フマル酸アンモニウム、フマル酸マグネシウム、フマル酸カルシウム、フマル酸ストロンチウム、フマル酸亜鉛、フマル酸ジルコニウム及びフマル酸アルミニウム等が好ましい。
【0038】
上記単量体としては、上記カルボキシル基を有する単量体の他に、下記の単量体の1種又は2種以上が好ましい。
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル系モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及び水酸基末端可撓性(メタ)アクリレート(例えば、ダイセル化学工業株式会社製、製品名:プラクセルFM)等の活性水素を持った基を有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート及びN−メチロール(メタ)アクリルアミド等の含窒素モノマー。
【0039】
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2個の重合性二重結合を有するモノマー;塩化ビニル等のハロゲン含有モノマー;スチレン及びα−メチルスチレン等の芳香族系モノマー;ビニルエーテル;メチル 3−メトキシアクリレート(CHO−CH=CHCOOCH);下記一般式(6);
【0040】
【化6】

【0041】
(式中、R25は、水素原子又はメチル基を表す。R26は、炭素数1以上の炭化水素基を表す。)で表される単量体。
【0042】
上記一般式(6)において、R26で表される置換基(炭素数1以上の炭化水素基)は、特に限定はされず、例えば、下記に例示される置換基が好適である。
シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基及びシクロドデシル基等の炭素数4以上の脂環式炭化水素基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基及びオクタデシル基等炭素数4以上の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基。
【0043】
ボルニル基及びイソボルニル基等の炭素数4以上の多環式炭化水素基;ベンジル基、グリシジル基、テトラヒドロフルフリル基、フルフリル基、2−ヒドロキシエチル基、2−フェノキシエチル基、2−(アセトアセトキシ)エチル基、N,N−ジメチルアミノエチル基、N,N−ジエチルアミノエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基及び4−ヒドロキシブチル基等の芳香環や酸素原子や窒素原子やイオウ原子やリン原子等を部分構造に持つ炭化水素基;トリフルオロエチル基、テトラフルオロプロピル基、オクタフルオロペンチル基及びヘプタドデカフルオロデシル基等のハロゲン原子を部分構造に持つ炭化水素基;等が好ましい。なかでも、脂環式炭化水素基、分枝鎖状アルキル基、及び、炭素数6以上の直鎖状アルキル基がより好ましい。
【0044】
上記一般式(6)で表される単量体としては、特に限定されないが、例えば、下記に例示される化合物が好適である。
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート及びイソステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸(低級、中級、高級)アルキルエステル。
【0045】
ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンチル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート。
【0046】
トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、2−プロペノイックアシッド〔2−〔1,1−ジメチル−2−〔(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ〕エチル〕−5−エチル−1,3−ジオキサン−5−イル〕メチルエステル(日本化薬社製、商品名:KAYARAD R−604)、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート及びヘプタドデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0047】
これらのなかでも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパン(メタ)アクリレートがより好ましい。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記(i)紫外線吸収効果を有する化合物、(ii)紫外線安定性基を有する単量体及び(iii)その他の重合性単量体の割合としては、全単量体成分に対して(i)が0〜30質量%、(ii)が0〜15%及び(iii)が残部であることが好ましい。
【0049】
上記エマルションは、使用目的に応じて、必要により、各種添加剤等を添加もよい。
上記添加剤としては、例えば、多官能イソシアネートや多官能ヒドラジン等の硬化剤、成膜助剤、顔料、分散剤、増粘剤、防腐剤、充填剤、帯電防止剤、及び、艶消し剤等が挙げられる。また、エマルションは、水と有機物を含むものであるため、カビ等の微生物が生育してしまうおそれがある。微生物による品質劣化を防ぐため、上記添加剤として、公知の各種静菌剤や殺菌剤を使用してもよい。前述した親水性の有機溶剤の中にはエチルアルコール等のように静菌作用や殺菌作用を有するものがあるため、このような親水性の有機溶剤を、前記水系溶媒の全体に対して、例えば15〜40重量%、好ましくは20〜30重量%配合することで静菌剤等を添加した場合と同様の効果を得ることができる。
また上記エマルションに対して、洗浄、固形分調整、粘度調整等を行ってもよい。
【0050】
本発明はまた、上記エマルションを製造する方法であって、該製造方法は、上記一般式(1)で表される化合物を必須とする単量体成分及び水系溶媒を含む重合溶液、並びに、開始剤を必須としてエマルションを調製する工程を含み、段階的な分散機構を備える撹拌機を用いて上記一般式(1)で表される化合物を水系溶媒中に分散させるエマルションの製造方法でもある。
本発明のエマルションの製造方法について、その有利な点を本発明とは相違するエマルションの製造方法と対比して説明する。
【0051】
エマルションの製造方法においては、通常では、初期反応後にモノマーエマルションを添加するために、モノマーエマルションの調製においてモノマーを充分に乳化する必要があった。しかし、一般式(1)で表される化合物のように紫外線吸収能を有するモノマーを用いる場合、当該モノマーが高融点で他のモノマーに溶けにくいことから、充分に乳化させるために界面活性剤の量を低減できなかった。さらにモノマーエマルションを最初に調製する必要があるので、モノマーが固形で残存するような条件は適用することができなかった。したがって、例えば高融点モノマーを高比率で用いると固形分が残るので重合させることは困難であった。これらの問題に加えて、モノマーやモノマーエマルション、重合開始剤等を重合溶液中に添加したときに凝集物が形成されやすいという不具合もよく見られた。
【0052】
一般式(1)で表される化合物を充分に分散してモノマーエマルションを調製する場合、例えば多孔板を用いる方法は、固形分があるモノマー混合物に対して用いることができない。また、多孔板中で固形物が析出する場合は装置の耐久性に不安がある。スタチックミキサを用いる場合は、流速を早くしないと分散させにくい。エネルギー投入量は少なくできる可能性があるが、高圧条件で流路に流すので装置が高価になるなどといった点を解決する必要があった。
【0053】
これに対して、本発明のエマルションの製造方法においては、一般式(1)で表される化合物を充分に分散してモノマーエマルションを調製してエマルションを製造することができ、重合性紫外線吸収性化合物の重合工程において凝集物が生じる等の不具合が抑制され、重合性紫外線吸収性化合物に加えて、種々の特性を有するモノマーを充分に共重合することができるといった利点を有することになる。これらの利点をまとめると、次のようになる。
【0054】
(1)本方法の特徴としては、低エネルギー(実施例の場合、1Whr/L程度)で高融点モノマーを投入して分散させることができるので、高融点モノマーの使用が容易であり、凝集物の析出が少なくなる。
(2)懸濁状態で高融点モノマーを用いたエマルション合成ができる。
(3)高融点モノマーを用いてエマルションを調製する方法において、低界面活性剤条件でもエマルション合成が可能である。
【0055】
(4)後述するように、連続合成で行う場合には、スケールアップが容易となり、工業的製法として有利である。
(5)安全性の面で優れている。すなわち、後述するように、管(チューブ状反応器)を用いてエマルション重合を行う場合、特に発熱の大きい部分を管内で行うことになるので、重合にともなう除熱が容易であり、反応熱発生量の大きい部分の体積が限定的となって反応温度の制御が容易となる。その結果、モノマー濃度(NV)を例えば40〜45質量%の一括仕込み相当の安定的操作が実施可能となる。
【0056】
上記エマルションを製造する方法においては、上記一般式(1)で表される化合物を必須とする単量体成分及び水系溶媒を含む重合溶液、並びに、開始剤を必須としてエマルションを調製する工程を含むものであることが好ましい。
一般的な有機溶媒と比較して、水は比熱、気化熱ともに大きい。そのために、反応に用いる溶媒を水系のものとすることにより、反応熱の発生による温度上昇が起きにくいことや、反応熱の発生が大きくなりすぎたときでも温和な沸騰程度ですむという利点がある。上記水系溶媒は、水を含むものである限り特に限定されず、必要に応じて親水性の有機溶剤等を併用することができる。
【0057】
上記親水性の有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール及び2−ブチルアルコール等の低級1価アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール及びグリセロール等の低級2価又は低級多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等の低級ケトン類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン及びジオキサン等の水と任意の比率で混合可能なエーテル類;等の1種又は2種以上が好ましい。
【0058】
上記親水性の有機溶剤を水と併用する場合、親水性の有機溶剤の配合割合は、得られるエマルションの使用目的に応じて適宜設定すればよく、90重量%以下が好適である。90重量%を超えると、実質的には有機溶剤として扱うべきものとなり、水系のエマルションが調製できないおそれがある。より好ましくは、70重量%以下であり、更に好ましくは、50重量%以下であり、特に好ましくは、30重量%以下である。水系溶媒としての特性を考慮すると、50重量%以下であることが好ましく、揮発性有機成分が少ないことが望まれる使用目的の場合等では20重量%以下とすることが好ましい。また、環境面を考慮した場合等では10重量%以下とすることが特に好ましく、最も好ましくは配合しないこと(0重量%)である。
【0059】
水系溶媒の使用量は、用いる単量体成分、開始剤及び重合溶液等に依存して適宜設定することができる。好ましくは、重合溶液(反応混合物)に対して70重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは60〜40重量%である。
上記重合溶液は、上記単量体成分及び水性溶媒を含むものである限りその他の成分例えば、連鎖移動剤や開始剤などを含んでいてもよい。
【0060】
上記開始剤としては、本発明の作用効果を発揮するものであれば特に限定されず、中でも、重合開始剤が好ましい。重合開始剤としては、例えば、2,2´−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル及び2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド等のアゾ系重合開始剤;過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素、アスコルビン酸塩、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド及びジ−tert−ブチルパーオキサイド等のレドックス系重合開始剤;等の通常のラジカル重合開始剤等の1種又は2種以上が好ましい。
【0061】
上記重合開始剤の使用量は、本発明のエマルションを好適に調製できる範囲であれば特に限定されず、例えば、単量体成分に対して、0.05〜2重量%であることが好ましい。0.05重量%未満であると、重合速度が遅くなりポリマー微粒子の凝集物が生成しやすくなるほか、未反応のモノマーが残存しやすくなるおそれがあり、2重量%を超えると、重合安定性が低下するほか、ポリマー微粒子の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。より好ましくは、0.1〜1重量%である。
【0062】
上記重合反応においてはまた、必要に応じて、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、(CHO)Si−S−S−Si(OCH、及び、(CHO)Si−S−Si(OCH等の連鎖移動剤の少なくとも1種を、本発明の効果を損なわない範囲で用い、得られるポリマーの分子量を調整することもできる。同様に、pH緩衝剤、キレート剤及び成膜助剤等の公知の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で使用してもよい。
【0063】
本発明は、段階的な分散機構を備える撹拌機を用いて上記一般式(1)で表される化合物を水系溶媒中に分散させるエマルションの製造方法でもある。このような分散工程においては、上記一般式(1)で表される化合物を必須とする単量体成分が、撹拌力によって水系溶媒中に単量体成分が微粒子(液滴)として単分散され、いわゆるモノマーエマルションを調製することが好適である。
上記段階的な分散機構を備える撹拌機としては、上記一般式(1)で表される化合物を複数の段階を経て水系溶媒中に分散させる機能を有するものであり、段階的に分散が進むものであることが好ましい。段階的に分散を促進させることで、エネルギー消費量を低減させることができ、高融点モノマーの使用が容易となり、凝集物の析出が少なくなる利点がある。
【0064】
上記分散工程においては、上記攪拌機を用いて単量体成分をモノマーエマルションを調製することができるが、単量体成分の分散工程においては、必要に応じて、公知の分散技術を併用することもできる。このような分散技術としては、例えば、オリフィスやスリット等の小孔や小空隙から噴出させる方法、音波や超音波により振動を与える方法、並びに、ガラス、セラミック、金属及び樹脂等の球体(小球体やビーズ等)とともに振とうする方法等が挙げられる。
上記分散工程の時間や撹拌力の大きさについては、調製するモノマーエマルション中の単量体成分の微粒子が、その粒径等において所望の範囲を満たすものとなるよう各種方法に応じて適宜設定すればよく、限定はされない。
【0065】
上記撹拌により水系溶媒中に単量体成分を単分散させるに際し、水系溶媒と単量体成分との混合の方法としては、例えば、撹拌前に予め単量体成分を水系溶媒に一括添加して混合しておく方法、撹拌下の水系溶媒に単量体成分を逐次添加(連続添加及び/又は間欠添加)して混合する方法、撹拌に際し水系溶媒と単量体成分とを所望の比率で別々に逐次添加(連続添加及び/又は間欠添加)して混合する方法等が挙げられるが、これらに限定はされない。本発明の製造方法においては、上記撹拌機を用いて行うことが好ましく、この場合は、水系溶媒とモノマーとを所望の比率で別々に逐次添加して混合する方法を適用してもよい。
【0066】
上記段階的な分散機構を備える撹拌機に供される単量体成分としては、水系溶媒と単量体成分とが、単に両者を合わせただけの状態(相互分離の状態)であってもよく、予め撹拌等の任意の方法により単量体成分を所望の粒径の微粒子となるようにほぼエマルション化した状態又は粗くエマルション化した状態であってもよく、水系媒体中に単量体成分の液滴が肉眼で確認できる程度に撹拌等された状態であってもよい。
【0067】
上記モノマーエマルションの調製において、単分散させた単量体成分の微粒子の粒径は、限定はされず、ポリマーエマルションの用途や物性を考慮し、所望の粒径のポリマーの微粒子が合成されるよう適宜設定すればよいが、例えば、平均粒子径で、0.02〜10μmが好ましく、より好ましくは、0.05〜5μm、さらに好ましくは、0.08〜5μm、特に好ましくは、0.08〜2.5μmである。また、単分散させた単量体成分の微粒子の粒径の変動係数も、上記粒径と同様に限定はされないが、例えば、30%以下が好ましく、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。
【0068】
本発明のエマルションの製造方法は、重合溶液と開始剤とを必須として調製するものである。上記開始剤は、モノマーエマルションの調製過程(分散工程)でモノマーエマルションと共存させてもよく、モノマーエマルションの調製後(分散工程後)に共存させてもよい。これらの中でも、モノマーエマルションの調製過程(分散工程)でモノマーエマルションと共存させることが好ましい。開始剤の存在により重合反応が開始することになるが、分散工程中に開始剤を添加する場合、開始剤も充分分散・混合されることになるため、分散工程後に添加する場合に比べて、開始剤の局所濃度を低くすることができ、開始剤が局部的に高濃度となった部分で重合反応が進行してしまうおそれを低下させることができる。このように、上記製造方法が、上記一般式(1)で表される化合物とともに開始剤も段階的な分散機構を備える撹拌機で水系溶媒中に分散させるエマルションの製造方法である形態もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0069】
上記製造方法は、段階的な分散機構を備える撹拌機によって分散させた重合溶液を連続的に重合させてエマルションを調製するエマルションの製造方法であることが好ましい。連続的に重合させて行う場合には、スケールアップが容易となり、工業的製法として有利なものとなる。連続的に重合させるとは、上記モノマーエマルションの調製に引き続き、又は、同時に重合させることと未重合のモノマーエマルション(重合反応時間0)が重合反応を進行した反応混合物と直接混合されることがない反応様式を意味する。これに対して通常のバッチ操作では未重合のモノマーエマルションが重合反応が進行した反応混合物と直接混合される。見かけはバッチ形式の場合でもモノマーエマルションは攪拌装置内で重合していて、反応熱の発生状況から推測される反応率は通常25%以上であり、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上である。実施例の場合は80%以上と推定される。なお、重合反応は単量体成分の単分散状態が保持しながら行われる限り、撹拌の有無は問わない。なお、上記重合反応の反応条件等は、使用するモノマーの種類等に応じて公知の重合方法及びその条件から適宜選択すればよい。中でも、ラジカル重合法が簡便で効率的であるため好ましい。
【0070】
上記重合反応は、段階的な分散機構を備える撹拌機において、又は、該攪拌機に接続された反応容器において行うことができる。このような重合反応の反応容器としては、分散させた重合溶液を連続的に重合させてエマルションを調製するものであればよく、チューブ(管)タイプを基本とする。実際の装置では基本の通りに初期重合反応段階から後期重合反応(熟成)段階まで一貫して管状反応器で行わせてもよいが、初期重合反応段階を攪拌機内で行わせて大部分の反応熱を小容量の管状部分で発生させた後に後期重合反応を大口径の反応管や反応槽で行わせる操作も可能である。また、攪拌機に若干の管状反応器(反応管)を取り付けて重合反応を管状反応器内で行わせ、わずかに残るモノマーを所定の量に低減させるという熟成段階を反応槽で行わせることも好ましい選択である。これらのいずれの形態においても凝集物の生成が抑制しやすいだけでなく、管内で重合反応を行うことになるので、重合にともなう発熱の除熱が容易であり、反応熱発生量の大きい部分の体積が限定的となって反応温度の制御が容易となり、安全性の面で優れている。その結果、モノマー濃度を例えば40〜45質量%と高くしながら、一括仕込み相当の操作が可能となる。
上記重合容器としては、中空タイプの管であることが好ましく、その他スタチックミキサ等の反応混合物を攪拌する装置等を設置してもよい。
【0071】
上記重合反応において、反応温度は、常圧の条件下では、通常、室温〜100℃の範囲が好ましい。反応速度を考慮すると、より好ましくは、70〜100℃であり、さらに好ましくは85〜100℃である。
【0072】
上記重合の反応時間は、重合開始から熟成完了までの時間(保持時間)を意味し、用いるモノマーの種類や組成、重合開始剤の種類等に応じて、重合反応が効率よく完結し得るように適宜設定することができ、例えば、重合開始から終了まで0.1〜8時間とするのが現実的である。保持時間は短い方が装置の生産性を高くできるので、短くすること、例えば、0.1〜1時間とすることが好ましい。上記重合時は、重合を容易にするため、一般的には、重合開始剤やモノマーや水などの原料を窒素等の不活性ガス雰囲気下や減圧下で脱酸素して用いることが好ましいが、水系媒体の温度がその沸点付近である場合、溶存酸素がほとんどなくなるので、あらかじめ脱酸素しなくても重合を行うことができる。
【0073】
以下に、本発明のエマルションを製造する装置(攪拌機)の好適な例を示す。上記攪拌機は、複数の撹拌翼と攪拌翼を固定する固定軸と固定軸を通して攪拌翼を駆動するモーターとから構成されるものであり、原料供給口と開始剤供給口と排出口とを有するものである。
本発明の製造方法においては、例えば、水系溶媒とモノマーとを含む混合物を撹拌機の一端から他端に通す間に上記モノマーや水を含む原料が段階的又は連続的に混合・分散されることになる。原料供給口には「供給配管」が接続され、「供給配管」に取り付けられた原料タンクやポンプなどから原料が注入される。
【0074】
上記撹拌機とは、筒状容器の内部に撹拌能を有する部品を備えている撹拌機であり、詳しくは、「筒状容器」と、該筒状容器の中心軸に沿って設けられた回転可能な「固定軸」と、該固定軸にこれと垂直方向に所定の間隔を設けて固定された複数の「攪拌翼」とを備え、上記固定軸を回転させることにより上記攪拌翼が回転することを特徴とする撹拌機である。上記筒状容器の一端から他端に向けて水系溶媒とモノマーとを含む混合物を通過させることで、上記モノマーの微粒子が上記水系溶媒中に単分散してなる液(すなわちモノマーエマルション)を連続的に得ることができる。
上記供給配管としては、水系溶媒とモノマーとを含む混合物を撹拌機の一端(原料供給口)に供給することができる配管であれば、その材質や形態(形状、長さ等)については、何ら限定はされず、適宜選択して採用できる。例えば、配管中で上記混合物を加熱しやすいように熱伝導性に優れた材質の配管を用いてもよく、又は、水系溶媒とモノマーとをそれぞれ別の配管で供給したり、途中で配管どうしを合流させたりしてもよい。また、上記配管は外部から加熱できる機器等あるいは構造あるいは機構を備えていてもよい。
【0075】
上記撹拌機については、具体的には、図1において示す撹拌機が例示できる。
図1では、原料供給口4(一端)と開始剤供給口5とを有する撹拌機が示されている。上記撹拌機においては、筒状容器7の内部に、複数の攪拌翼3が、互いに筒状容器7の中心軸方向に所定の間隔をあけながら、それぞれ上記中心軸に対して垂直方向に(上記中心軸に垂直な平面上に)配置されるように固定軸2に固定されていて、この固定軸2をこれに連結しているモーター1により回転させることで攪拌翼3を回転させることができる。実際の操作例としては、原料供給口4(一端)が上、排出口6(他端)が下となるように、撹拌機を上下方向に配置し(設置し)、攪拌翼3を回転させながら、原料供給口4から筒状容器7内へ水系溶媒とモノマーとを含む混合物を供給する。供給された混合物は、各々の攪拌翼3の回転により撹拌力を受けながら筒状容器7内を下の方に移動していき、最終的には排出口6からモノマーエマルションが得られる。重合開始剤は、開始剤供給口5から注入するか、又は、図2又は図3に示すように攪拌機の筒状容器の途中に設けられた重合開始剤供給口5から重合開始剤を注入することとなり、排出口6からポリマーエマルション又は重合途上のエマルションが得られる。なお、撹拌機は、上述のように、原料供給口4を上、排出口6を下として上下方向に配置することが好ましいが、これは水系溶媒とモノマーとを含む混合物の漏出を防ぐために有利だからであり、該漏出を防止する処置が充分になされていれば、撹拌機の配置方向は、特に限定されず、適宜任意に設定できる。
【0076】
撹拌機において、攪拌翼3は、通常6枚以上が固定軸2に固定されていることが好ましい。より好ましくは、9枚以上であり、さらに好ましくは、12枚以上であり、特に好ましくは、15枚以上である。多数の攪拌翼3を備えていることにより、水系溶媒とモノマーとの混合、及び、モノマーエマルションの調製を良好に行うことができる。攪拌翼3の形状は、限定はされないが、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形やそれ以上の多角形形状であってもよいし、円盤状や歯車状であってもよく、棒状であってもよい。
撹拌機において、筒状容器7の形状は、通液可能な筒状であればよく、特に限定されないが、円筒状(円柱状)が好ましい。円筒状である場合、その軸方向の長さと、軸方向に垂直な断面の直径(円筒の内径)との比「軸方向の長さ/断面の直径」は、1/1以上の範囲で適宜設定すればよく、限定はされないが、例えば、3/1以上が好ましく、より好ましくは6/1以上、さらに好ましくは10/1以上である。上記比の上限は、限定はされないが、100/1程度であることが好ましい。より好ましくは、50/1であり、さらに好ましくは、30/1である。
【0077】
撹拌機を用いたモノマーエマルションの調製においては、比較的穏やかな撹拌力を多段階的に作用させることでモノマー微粒子の粒径の均一化を図ることができる。これに対し、従来よく使用される分散(乳化)機は撹拌翼が1枚(1段階)であるので、連続的にモノマーエマルションを調製するに際しては、モノマー液滴が所望の粒径になるまで充分に撹拌力を作用させることができず、比較的粒径の大きなモノマー液滴であってもそのまま重合反応に供され、ポリマー粒子の粒径のばらつきを生じさせる。また、乳化分散用タービンを使用した機器が多く開発されているが、強力なせん断力によりモノマーを乳化させるので、モノマー液滴が所望の粒径となるまでの充分な撹拌力を作用させることはできるものの、粒径の均一化を図るという点では有利とは言えない。
【0078】
上記撹拌機を使用することにより、モノマーエマルション中のモノマー液滴の粒径をより一層均一にすることができる。具体的には、モノマーの種類や組成及び重合反応条件等にも依るが、通常、該粒径の変動係数を約30%以下にすることができ、好ましくは20%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは5%以下にすることができる。
【0079】
上記攪拌機は、上述の構成を有する攪拌機であることが好適であるが、更に、攪拌機の温度を調節するための温度調節装置を備えたものであってもよい。攪拌機の温度を調節できるようにすることで、攪拌機内部での分散工程や重合反応等において好適な温度とすることができる。
上記攪拌機はまた、原料供給口に反応原料加熱用の加熱管を備えたものであってもよい。原料を適当な温度に加熱して攪拌機に供給することで、上記一般式(1)で表される化合物を好適に分散することができる。
【0080】
上記攪拌機は、排出口に反応管を設置したものであることが好ましい。反応管を設置することにより、撹拌機によって分散させた重合溶液を連続的に重合させてエマルションを調製することができる。反応管は一定の温度(反応温度)を保つことが望ましいために、熱交換器としての機能をもつことが好ましい。したがって例えば所望の温度に設定された水浴、油浴中に設置することが好ましい。また、所望の温度に保たれた気流中に設置してもよい。反応管の熱交換機能を上げるために放熱板(放熱フィン)やヒートパイプ等を取り付けたり、ヒートパイプの一部としてもよい。その他の反応管の形態としては熱交換器そのものを反応管として用いてもよい。ここに、記述した反応管の温度調節方法は上記攪拌機の温度調節の具体的方法と考えてもよい。
【0081】
上記反応管は、その管内に撹拌用のコイルをセットし、撹拌作用をもたせることが好ましい。撹拌用の板及び/又はコイルは静置又は固定して、反応液流による自己撹拌を行わせてもよく、電動機や磁力等を用いてで回転、振動、揺動等の動作を行わせてもよい。
上記反応管としては、攪拌機と接続しやすいことや工業的な入手しやすさという利点を有するため、ステンレス製の円筒状の管が好適である。また、角型管や小判型管などの単管も好適である。これらの内部に熱媒体を通過させることにより、熱交換機能を確保することは好ましい選択である。この点で2重管構造や多重管構造とすることも好ましい。また単管ではなく流路を分岐させて2本以上の管を並行して用いてもよい。
【0082】
図1は、上記攪拌機の可能な基本形式の一例である。図4は、図1の形式の攪拌機に反応管を装着した例を示す写真である。上記一般式(1)で表される化合物を必須とする単量体及び水系溶媒を含む重合溶液は、原料供給口4から供給される。次いで、モーター1により駆動される攪拌翼3により、上記重合溶液は攪拌され、排出口に進むにしたがって複数の攪拌翼と接触して分散され、段階的に分散が進むことになる。開始剤は、開始剤供給口5から導入することができる。またこの攪拌機の排出口6に反応管を設置することもできる。
【0083】
図2は、上記攪拌機の可能な基本形式の好ましい一例である。図5は、図2の形式の攪拌機に反応管を装着した例を示す写真である。この攪拌機では、撹拌部分の後半部分、すなわち中央から最後段部分までの適当な部位に開始剤供給口5を設けるものである。開始剤供給口の設置位置は、反応状態等を考慮して決めることができる。この攪拌機は、重合反応速度が速く、特に反応熱の除去に特に注意する必要がある場合に好ましい。この攪拌機においても、排出口6に反応管を設置することができる。
【0084】
図3は、上記攪拌機の可能な基本形式の重要な一例である。図7は、図3の形式の攪拌機に反応管を装着した例を示す写真である。この攪拌機では、攪拌部分の初段ないし前半部分に開始剤(溶液)導入管を取り付けるものである。この攪拌機は、通常のエマルション重合に用いる攪拌機として好ましい構成である。この場合はモノマー液滴の微粉砕と同時に重合反応が起こるので、例えば通常のエマルション合成方法ではモノマー液滴の融合が激しいなどの理由により合成不可能な原料組成でも、エマルションが合成できる。この攪拌機においても、排出口6に反応管を設置することができる。攪拌装置の可能な形式としては、図1〜図3に区分されるが、図6のように中央部付近に開始剤供給口を設置して図2と図3の形式の境界付近の構成とすることも可能である。
【0085】
図3に示す攪拌機においては、攪拌機の一部を反応管として用い、反応管の長さを短くすることや見かけ上反応管を用いない形態を採用することもできる。図10は、図3の形式の攪拌機を直接エマルション回収容器(リザーバ)にセットした装置構成の一例を示す写真である。図1〜図3の模式図では、排出口付近流路は屈曲しているが、図10のように排出口付近の流路を屈曲させずに用いることができる。反応原料混合物の加熱温度、流速、攪拌機の温度、攪拌機の容積や長さ等の反応条件を適正化することにより攪拌機の中でポリマーエマルションの重合反応の一部又は全部を行わせることができるからである。この場合、ポリマーエマルションの重合反応の一部を行わせて攪拌機に続いて設置することができる反応容器の中でさらなる重合反応をおこなわせれば半連続化重合法となり、全部を行わせれば連続化重合法の一様式となる。なお、重合反応中に激しく発熱する場合、攪拌機の除熱が困難となる場合が想定されるが、過大な反応熱の発生により反応混合物が沸騰すれば攪拌機中の反応液は、排出口へと排出されることになり、撹拌機中の反応熱発生量(発生速度)が低下する。したがって、このような安全操作上の好ましい自己制御特性を示すため、攪拌機の中で反応熱が発生すること自体は、図2及び3に示す攪拌機を用いる安全性を損なうものではない。なお、除熱や原料供給速度の設定に注意して反応混合物が沸騰しないようにすることが好ましく、上記温度調節装置を攪拌機に設置することにより更に安全性を高めることができる。
【0086】
上記図3の攪拌機を用いる場合、半連続化重合法又は連続化重合法となるが、単量体成分はミセル及び/又はモノマー液滴中で重合反応が進行することとなるため、攪拌機から排出される反応混合物は、最終調製物であるポリマーエマルションに近いものとなる。一方、単純なバッチ法では、投入されるモノマーエマルションと反応容器中のポリマーエマルションは明らかに異質なものであり、ポリマー粒子は単純なモノマー液滴と混在することになる。この特徴により半連続化重合法は見かけはバッチ的な合成操作であっても、その本質はバッチ合成法とは異なるものである。
【発明の効果】
【0087】
本発明の紫外線吸収能を有するエマルションは、上述の構成よりなり、紫外線吸収能に優れるとともに、ポリマー微粒子がもつ基本性能を充分に発揮することができるエマルション、また重合性紫外線吸収性化合物の重合工程において凝集物が生じる等の不具合が抑制され、種々の特性を有するモノマーを充分に共重合することができるエマルションの製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0088】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0089】
実施例1
攪拌機に反応原料加熱用の加熱管と反応管を取り付け、モノマー(2EHA54g、CHMA67.8g、MMA36g、MAA1g、RUVA−93 67.8g)、水240g、濃アンモニア水0.35g、界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム3.38g)からなるスラリー状混合物を加熱管に通して加熱し、攪拌機に導入した。同時に攪拌機の第二の通液口には重合開始剤水溶液(過硫酸アンモニウム1.52g、水30g、ラウリル硫酸ナトリウム0.28g)を供給して、モノマー液滴の微粉砕と同時に重合反応を行わせた。このとき、加熱管と反応管の加熱温度は90℃とした。反応管の出液口から排出された初期の反応混合物を除去し、エマルションの外観を呈する反応混合物を受器に回収した。
回収したエマルションは379gであり、固形分比率45.4%、粒子径65nm(SD29%)、重量平均分子量700万であった。
【0090】
実施例2
モノマーを(CHMA67.8g、MAA1g、LMA39.8g、BMA50.6g、RUVA−93 67.8g)として実施例1と同様に操作して420gのエマルションを回収した。固形分比率44.7%、粒子径72nm(SD27%)、重量平均分子量730万であった。
【0091】
参考例1
モノマーを(スチレン167g、MAA0.83g)、水を300g、濃アンモニア水を0.21g、界面活性剤を反応性乳化剤(アクアロンBC1025 3.3g、固形分量0.83g)、重合開始剤水溶液は(過硫酸アンモニウム1.5g、水15g)、加熱管と反応管の加熱温度を92℃とし、実施例1と同様に操作して455gのエマルションを回収した。固形分比率31.7%、粒子径143nm(SD5.2%)、重量平均分子量149kであった。数平均分子量は51kであり、Mw/Mnは2.9であった。
【0092】
実施例3
モノマーを(CHMA80g、MMA40g、MAA0.5g、Chisorb568780g)、水を250g、濃アンモニア水を0.1g、界面活性剤を反応性乳化剤(アクアロンBC1025 28g、固形分量7g)、重合開始剤水溶液は(過硫酸アンモニウム1.5g、水15g)、加熱管と反応管の加熱温度を92℃とし、実施例1と同様に操作して401gのエマルションを回収した。固形分比率40.3%、粒子径68nm(SD39%)、重量平均分子量220万であった。数平均分子量は873であり、Mw/Mnは2.5であった。
【0093】
実施例4
1Lセパラブルフラスコに撹拌翼、温度計、攪拌機を取り付け、水浴を用い95℃に加熱し窒素置換した。攪拌機に反応原料加熱用の加熱管を取り付け、モノマー(2EHA132g、GMA1.4g、MMA68g、MAA1.8g、RUVA−93 200g)、水520g、濃アンモニア水0.9g、界面活性剤(高分子界面活性剤DM−1N 50g、固形分量10g、(株)日本触媒製)からなるスラリー状混合物を95℃の加熱管に通して加熱し、攪拌機に導入した。同時に攪拌機の第二の通液口には重合開始剤水溶液(過硫酸アンモニウム3.0g、水30g)を供給して、モノマー液滴の微粉砕と同時に重合反応を行わせた。攪拌機の出液口から排出された反応混合物はセパラブルフラスコ中の撹拌翼により均質化させた。エマルション986gを回収した。固形分比率41.5%、粒子径176nm(SD19%)、凝集物発生比率は0.072%であった。
【0094】
実施例5
モノマーを(2EHA132g、MMA68g、MAA1.8g、RUVA−93 200g)、水を540g、界面活性剤を(反応性乳化剤アクアロンBC1025 32g、固形分量8g)とし、加熱温度を93℃として実施例5と同様に操作した。エマルション990gを回収した。固形分比率40.9%、粒子径172nm(SD7.7%)、重量平均分子量44k、凝集物発生比率は0.15%であった。数平均分子量は22kであり、Mw/Mnは2.0であった。
【0095】
実施例6
モノマーを(2EHA76g、MMA124g、MAA1.8g、RUVA−93 200g)、水を540g、界面活性剤を(反応性乳化剤アクアロンBC1025 32g、固形分量8g)とし、加熱温度を92℃として実施例5と同様に操作した。エマルション992gを回収した。固形分比率41.0%、粒子径178nm(SD13%)、重量平均分子量66k、凝集物発生比率は0.072%であった。数平均分子量は29kであり、Mw/Mnは2.3であった。
【0096】
参考例2
モノマーはスチレン400gのみ、水を550g、界面活性剤なしとし、セパラブルフラスコに予め水20gと過硫酸アンモニウム1gを投入し加熱温度を94−95℃として実施例5と同様に操作して840gのエマルションを回収した。固形分比率20.4%、粒子径330nm(SD39%)、分子量分布は幅広の二峰性(多峰性)を示し、高分子量側の重量平均分子量は1690k、数平均分子量は1010k、低分子量側の重量平均分子量は79k、数平均分子量は31kであり、全体としては重量平均分子量は742k、数平均分子量51k、Mw/Mnは14.5であった。
【0097】
参考例3
モノマーを(スチレン333g、MAA1.67g)、水を600g、濃アンモニア水0.42g、界面活性剤を(反応性乳化剤アクアロンBC1025 7g、固形分量1.75g)とし、重合開始剤水溶液(過硫酸アンモニウム2.5g、水30g)、セパラブルフラスコに予め水38gと過硫酸アンモニウム0.4gを投入し加熱温度を95−97℃として実施例5と同様に操作して993gのエマルションを回収した。固形分比率33.2%、粒子径182nm(SD16%)、重量平均分子量133kであった。数平均分子量は47kであり、Mw/Mnは2.8であった。
【0098】
実施例7
反応フラスコには水20g、濃アンモニア水0.1g、界面活性剤DM−1N 5g(固形分量1g)を最初に投入し、モノマーを(2EHA107g、CHMA275g、HEMA6g、LA−87 8g、GMA2g)、水を530g、濃アンモニア水1.33g、界面活性剤を(DM−1N30g、固形分量6g)とし、加熱温度を70℃として実施例5と同様に操作した。エマルション1009gを回収した。固形分比率39.7%、粒子径200nm(SD7.3%)、凝集物発生比率は0.10%であった。
【0099】
実施例8
反応フラスコには水20g、界面活性剤ラウリル硫酸ナトリウム0.5gを最初に投入し、モノマーを(CHMA163g、HEMA28g、MAA1g、LMA125g、スチレン84g)、水を550g、濃アンモニア水0.5g、界面活性剤をラウリル硫酸ナトリウム6gとし、加熱温度を70℃として実施例5と同様に操作した。エマルション1015gを回収した。固形分比率39.8%、粒子径72nm(SD21%)、重量平均分子量1590k、凝集物発生比率は0.035%であった。数平均分子量は158kであり、Mw/Mnは10.1であった。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、本発明の攪拌機の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の攪拌機の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の攪拌機の一例を示す模式図である。
【図4】図4は、図1の形式の撹拌機に反応管を装着した装置構成の一例を示す写真である。
【図5】図5は、図2の形式の撹拌機に反応管を装着した装置構成の一例を示す写真である。
【図6】図6は、撹拌部分の中央部付近に開始剤供給口をもつ図2又は図3の形式の撹拌機に反応管を装着した装置構成の一例を示す写真である。
【図7】図7は、図3の形式の撹拌機に反応管を装着した装置構成の一例を示す写真である。
【図8】図8は、図3の形式の撹拌機に反応原料加熱用の加熱管と反応管を装着した装置構成の一例を示す写真である。
【図9】図9は、図3の形式の撹拌機に反応原料加熱用の加熱管と反応管とエマルション回収容器(リザーバ)を装着した装置構成の一例を示す写真である。この構成を基本とする装置を実施例1、2、3及び参考例1に用いた。
【図10】図10は、図3の形式の撹拌機に反応原料加熱用の加熱管を装着し、撹拌機の中で重合反応を進行させることにより、見かけ上は反応管を装着しない装置構成の一例を示す写真である。この構成を基本とする装置を実施例4、5、6、7、8、参考例2及び3に用いた。
【符号の説明】
【0101】
1:モーター
2:固定軸
3:攪拌翼
4:原料供給口
5:開始剤供給口
6:排出口
7:筒状容器
8:反応管
9:支持用三角架
10:リザーバ接続用シリコーンチューブ
11:反応原料加熱用の加熱管
12:エマルション回収容器(リザーバ)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表す。Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、シアノ基及びニトロ基からなる群より選ばれる少なくとも一つを表す。Rは、炭素数1〜12の直鎖状若しくは枝分れ鎖状のアルキレン基又は−O−R−を表す。Rは、炭素数2若しくは3の直鎖状又は枝分れ鎖状のアルキレン基を表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。)で表される化合物を必須とする単量体成分を含む重合溶液を重合してなるエマルションであって、該エマルションは、単量体成分に対する乳化剤量を2.5質量%以下として調製されたものであることを特徴とするエマルション。
【請求項2】
前記エマルションは、重合溶液中の単量体成分割合を40質量%以上として調製されたものであることを特徴とする請求項1記載のエマルション。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエマルションを製造する方法であって、
該製造方法は、前記一般式(1)で表される化合物を必須とする単量体成分及び水系溶媒を含む重合溶液、並びに、開始剤を必須としてエマルションを調製する工程を含み、
段階的な分散機構を備える撹拌機を用いて前記一般式(1)で表される化合物を水系溶媒中に分散させることを特徴とするエマルションの製造方法。
【請求項4】
前記製造方法は、前記一般式(1)で表される化合物とともに開始剤も段階的な分散機構を備える撹拌機で水系溶媒中に分散させることを特徴とする請求項3記載のエマルションの製造方法。
【請求項5】
前記製造方法は、段階的な分散機構を備える撹拌機によって分散させた重合溶液を連続的に重合させてエマルションを調製することを特徴とする請求項3又は4記載のエマルションの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−316233(P2006−316233A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143308(P2005−143308)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】