説明

エマルジョンの自動分離方法

【課題】試液の分注からエマルジョンの分離に至る、一連の操作の自動化および無人化を図る。
【解決手段】自動分注装置1のプローブ5によって、分散媒容器15から分散媒16をエマルジョン容器7に分注する。プローブ5によって、分散液容器17から分散液18をエマルジョン容器7に分注する。エマルジョン容器7内において上下2相に分かれている分散媒16と分散液18とを攪拌混合してエマルジョン化する。プローブ5によって、エマルジョン容器7から分離容器11上に配されたフィルター13を通して、エマルジョン化された試液を分離容器11へ分注することにより、エマルジョン化された試液を2相に分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョンをフィルターに通して2相に分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医療、化粧品、塗料、接着剤または油剤などの分野における研究開発において、互いに相溶解しない液体を攪拌混合してエマルジョン化し、再度2相に分離回帰させることがある。例えば、合成物の粗精製、血中薬物の抽出または農作物の残留農薬抽出などのために、液液抽出を行なう際に必要な工程である。その際に、遠心分離法に代えて、エマルジョンをフィルターに通して2相に分離する方法が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1では、水とポリカーボネート溶液からなるエマルジョンを、水との接触角が40度以下のフィルターに通すことによって、水溶液相とポリカーボネート溶液相とに分離している。
【0004】
特許文献2では、液中に油を含むエマルジョンを、それぞれ繊維径および繊維密度を段階的に変えた複数層のフィルターからなる第1セパレーターと第2セパレーターとに通して分離している。具体的には、被処理液を第1セパレーターに繊維径が大きくてかつ繊維密度の粗い方から、繊維径が小さくかつ繊維密度の細かい方に向かって通して、粗大なごみの除去および油分をある程度肥大化させる。ついで被処理液を第2セパレーターに繊維径が小さくてかつ繊維密度の細かい方から、繊維径が大きくかつ繊維密度の粗い方に向かって通すことで、エマルジョンを2相に分離している。
【0005】
【特許文献1】特公昭46−41622号公報(第3欄)
【特許文献2】特開平8−309102号公報(段落番号0020〜0021、図2)
【0006】
特許文献1、2に記載の発明は、特定のエマルジョンを画一的に大量処理するのには適しているが、少量の各種の試液を処理する際には適さないことがある。研究室などでは新薬の開発、含有成分の検出などのために多種多様なエマルジョンを取り扱い、その取扱量は少量で足りる。各試験では別試液の混入を防ぐため試験毎に容器やフィルターを交換する必要があるが、特許文献1、2では、一度装置を組んでしまえば目詰まりや老朽化がない限りフィルターを交換することはなく、研究室レベルでの分離方法には適用できないからである。
【0007】
研究室などでの試験操作の殆どは手作業で行われており、個々の試液の試験手順は基本的に共通している。したがって、研究者は試液の分注操作などの単純作業を繰り返し行なうだけで多くの手間暇を要しており、非常に煩雑であった。単純作業とは言え、データの正確性を確保するために、ある程度の熟練を要し、有能な研究者が煩雑な作業に拘束される無駄が生じていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、多種多様な少量の試液の分注やエマルジョンの分離など一連の操作の自動化および無人化を図り、試験に要するコストを削減することにある。本発明の目的は、機械化を図って常に一定の試液を作成でき、確度の高いデータを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエマルジョンの自動分離方法では、エマルジョン化した試液をフィルターに通して2相に分離するために、処理テーブル2上をXYZ方向に移動可能なアーム4と、アーム4に設けた試液分注用のプローブ5と、プローブ5に試液を吸引保持したりプローブ5から試液を排出する分注手段とを含む自動分注装置1を備えている。
【0010】
そして分離方法は、図3に示すごとく、プローブ5によって、分散媒容器15から分散媒16をエマルジョン容器7に分注する第1工程と、プローブ5によって、分散液容器17から分散液18をエマルジョン容器7に分注する第2工程と、エマルジョン容器7内において上下2相に分かれている分散媒16と分散液18とを、攪拌混合してエマルジョン化する第3工程と、プローブ5によって、エマルジョン容器7から分離容器11上に配されたフィルター13を通して、エマルジョン化された試液を分離容器11へ分注することにより、エマルジョン化された試液を分離容器11内で2相に分離する第4工程とからなる。なお、図3の第2工程図では、エマルジョン容器7内において分散媒16が下方に、分散液18が上方に積相しているが、分散媒16や分散液18の比重によってはこれが上下逆転することもある。
【0011】
第1ないし第4工程の各工程において、それぞれ次の工程に移る前には、リンスステーション20でプローブ5を洗浄する。エマルジョンとは、互いに溶解しない2つの液相からなり、一方の液相(分散液)が他方の液相(分散媒)に微粒子状に分散している状態をいい、乳濁液ともいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試液の分注からエマルジョンの分離にわたる第1ないし第4工程の一連の作業を自動的に行なえるので、この操作に研究員が付きっきりになる必要がなくなり、これらの作業に要する人的コストを大幅に削減できる。自動分注装置の分注手段によって分注量などを精密に量れるので、常に一定量の試液を分注でき、確度の高いデータが得られる。
【0013】
次の工程に移る前にプローブ5の内外面に付着している残留試液をリンスステーション20で洗い落せば、各工程で扱う試液に他の試液が混ざることがなく、正確なデータを得るに有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1および図2は本発明方法を実施するのに用いる自動分注装置1を示しており、処理テーブル2に隣接配置されている。自動分注装置1は、アーム4を駆動する本体部25と、本体部25に連結されて処理テーブル2上をXYZ方向に移動するアーム4と、アーム4に設けた中空針状のステンレス製プローブ5と、プローブ5に正圧または負圧を作用させてプローブ5に試液を吸引保持したりプローブ5から試液を排出する分注手段とを備えている。分注手段は図外の三方弁シリンジポンプを使用しており、三方弁シリンジポンプとプローブ5とが、フレキシブルなチューブによってつながっている。
【0015】
これらの機器の動作はコンピュータ制御されており、自動分注装置1の動作手順を時間の経過に従って制御する専用のプログラムソフトが組み込んである。試験を行う前に、試液の種類とその収容位置、および分注量などの試験パラメータを例えばキーボードで入力することにより分注手順が決定され、任意の分注工程で任意の場所にアーム4を移動させることにより、プローブ5で試液を正確に吸引保持し、次に保持していた試液を排出できる。
【0016】
処理テーブル2上には、エマルジョン容器7を保持するエマルジョン生成ラック8と、エマルジョン生成ラック8の下方に設置され、エマルジョン容器7内の試液を攪拌混合してエマルジョンを生成するスターラー9と、分離容器11を保持するフィルターラック12と、分散媒16を収容する分散媒容器15と、分散液18を収容する分散液容器17と、プローブ5を洗浄するリンスステーション20とが、それぞれ任意位置に配置してある。図1および図2における機器の配置は一例であって、他の異なる配置でもよい。上記のようにアーム4の動きは全てコンピュータ制御されているので、その配置に合わせてアーム4の動きを設定できるからである。
【0017】
エマルジョン生成ラック8とフィルターラック12とには、それぞれ複数個のエマルジョン容器7と分離容器11とが起立状に保持されており、各エマルジョン容器7内には攪拌子を入れてある。スターラー9には、各エマルジョン容器7の位置に対応させた複数個の磁石が内蔵されており、これを回転させるとエマルジョン容器7内の攪拌子が回転し、エマルジョン容器7内の試液を攪拌混合できる。
【0018】
フィルターラック12上の各分離容器11の上方には、フィルターが配されている。具体的には、図3の第4工程図において分離容器11の開口上端に内嵌する円形の筒部と、筒部の上端外周縁に設けたフランジと、筒部の下端に連設した細管部と、分離容器11の開口上端に嵌合する上蓋とからなる注射器状のカラム14を使用し、カラム14の筒部内に円盤状のフィルター13が配されている。このカラム14を分離容器11の上端内部に上方から装着し、上蓋の中央にはプローブ5が密着状に挿通される挿通孔が貫通状に設けられている。
【0019】
処理テーブル2上にはリンスステーション20が設けられており、ここに洗浄水を収容した容器が配されている。リンスステーション20にプローブ5を突入して洗浄水を吸引排出するオーバーフロー方式により、プローブ5の内外面が洗浄される。
【0020】
〈準備工程〉
処理テーブル2上のエマルジョン生成ラック8およびフィルターラック12に、それそれ必要個数、すなわち試液の種類や試験回数分のエマルジョン容器7および分離容器11をセットし、各分離容器11の上方に試液に対応したフィルターを設置する。分散媒容器15および分散液容器17は、一定の試液を配合量を変更して混合する場合は図1および図2に示すように一種類でよいが、種々の試液を使用する場合にはそれら全てを配置しておく。次いで、コンピュータのプログラムソフトに各工程におけるアーム4の移動工程や移動場所、および試液の分注量などを入力する。これらの作業は人手で行うが、後の第1〜第4工程は自動分注装置1が行ってくれる。
【0021】
〈第1工程〉
まず、自動分注装置1のアーム4が分散媒容器15上に移動し、分注手段でプローブ5に分散媒16を所定量吸引保持し、プローブ5から分散媒16をエマルジョン生成ラック8上のひとつのエマルジョン容器7に排出する。これを繰り返して分散媒容器15内の分散媒16をエマルジョン生成ラック8の各エマルジョン容器7に所定量ずつ順次分注して行く。全てのエマルジョン容器7に分散媒16を分注し終えると、リンスステーション20でプローブ5は洗浄される。
【0022】
〈第2工程〉
次に、アーム4が分散液容器17上に移動して、分注手段でプローブ5に分散液18を所定量吸引保持し、プローブ5から分散液18をエマルジョン生成ラック8上のひとつのエマルジョン容器7に排出する。これを繰り返して、分散液容器17内の分散液18をエマルジョン生成ラック8の各エマルジョン容器7に所定量ずつ順次分注していく。第2工程での分注順序は、第1工程での分注順序と同一である。全てのエマルジョン容器7に分散液18を分注し終えると、再びリンスステーション20でプローブ5は洗浄される。
【0023】
〈第3工程〉
各エマルジョン容器7に分散媒16および分散液18を分注し終えると、スターラー9が起動してエマルジョン容器7内の分散媒16および分散液18を攪拌混合し、エマルジョン化される。スターラー9の起動タイミングや攪拌時間もコンピュータのプログラムソフトで制御されており、起動・攪拌・停止は全自動で行われる。
【0024】
〈第4工程〉
スターラー9によってエマルジョン容器7内の分散媒16および分散液18がエマルジョン化したら、プローブ5でエマルジョン容器7内の全エマルジョン19を吸引保持したのちに、プローブ5がカラム14の上蓋の挿通孔に挿通してエマルジョン19をカラム14内に排出し、エマルジョン19をフィルター13に通して分離容器11に分注する。カラム14の上蓋の挿通孔にプローブ5が挿通されると、カラム14は密閉状態となり、ここにエマルジョン19を注入するとカラム14の内部圧力が上昇してエマルジョン19は加圧状にフィルター13を透り、これでエマルジョン19が分離容器11内において分散媒16と分散液18とに分離される。また、カラム14と分離容器11とは密着していないので、分離容器11の内部空気の逃げ道も確保されている。
【0025】
(試験例)
上記の自動試験装置を用いて、馬血清中の含有薬物成分測定用の試液と、オレンジジュースの色素量試験用の試液を作成した。本試験例では、分散液16は馬血清および果汁100%のオレンジジュースであり、分散媒18には馬血清に対してn−ヘキサンおよびクロロホルムを、オレンジジュースに対して2,2,4−トリメチルペンタンをそれぞれ使用した。オレンジジュースは、試験に際してジュース5mlに対して0.5mlの塩酸を添加してpHを調整した。
【0026】
〈準備工程〉
エマルジョン容器7としてバイアルを、分離容器11として試験管をそれぞれ3個ずつ用意し、エマルジョン生成ラック8とフィルターラック12の所定位置にセットした。試験管11上に設置するフィルター13は、n−ヘキサン分散媒エマルジョン用に、PTFE製20μm細孔フィルター内蔵のインキュベーションカラム(Intavis社製)を、クロロホルム分散媒エマルジョン用に、PTFE製1μm細孔フィルター内蔵のカラム(Whatman社製)を、オレンジジュースエマルジョン用に、PE製20μm細孔フィルター内蔵のインキュベーションカラム(Intavis社製)をそれぞれ使用した。
【0027】
〈第1〜第4工程〉
処理テーブル2上には、分散媒容器15としてn−ヘキサン、クロロホルムおよび2,2,4−トリメチルペンタンのそれぞれを収容した試液瓶を3個配置し、分散液容器17として馬血清を収容した試液瓶ひとつと、pH調整オレンジジュースを収容したバイアルひとつを配置した。その後、プログラムソフトにアーム4の移動手順や各試液の分注量などの必要データを入力して自動分注装置1を起動したところ、上記第1〜第4工程が自動で遂行されてエマルジョンが全自動で2相に分離された。なお、本試験例では、第1、第2および第4工程において、次の工程に移る前以外にも、一回の分注毎にリンスステーション20でプローブ5を洗浄した。
【0028】
全ての工程が終了したのち、試験管11上のフィルター13を手で取り外して分散媒18をスポイトで取り出し、含有薬物量の測定など次ステップの各試験を行った。
【0029】
本発明者らは、本発明の自動分離方法の信頼性を評価するために、遠心分離機でエマルジョンを分離した場合と比較した。その結果、本発明によれば遠心分離機で分離した場合と同等もしくはそれ以上に、明確にエマルジョンが2相に分離されることを確認できた。
【0030】
上記の実施例では、X軸、Y軸およびZ軸のそれぞれに移動可能な3つの腕からなるアーム4を例示したが、その必要はない。例えば、産業用ロボットなどで使用されているような1本のアームがXYZ方向に移動できるものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明で使用する装置の斜視図
【図2】処理テーブル上の機器の配置例を示す概略平面図
【図3】各工程を示す概念図
【符号の説明】
【0032】
1 自動分注装置
2 処理テーブル
4 アーム
5 プローブ
7 エマルジョン容器
8 エマルジョン生成ラック
9 スターラー
11 分離容器
12 フィルターラック
15 分散媒容器
17 分散液容器
20 リンスステーション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルジョン化した試液をフィルターに通して2相に分離するために、処理テーブル(2)上をXYZ方向に移動可能なアーム(4)と、アーム(4)に設けた試液分注用のプローブ(5)と、プローブ(5)に試液を吸引保持したりプローブ(5)から試液を排出する分注手段とを含む自動分注装置(1)を備えており、
プローブ(5)によって、分散媒容器(15)から分散媒(16)をエマルジョン容器(7)に分注する第1工程と、
プローブ(5)によって、分散液容器(17)から分散液(18)をエマルジョン容器(7)に分注する第2工程と、
エマルジョン容器(7)内において上下2相に分かれている分散媒(16)と分散液(18)とを、攪拌混合してエマルジョン化する第3工程と、
プローブ(5)によって、エマルジョン容器(7)から分離容器(11)上に配されたフィルター(13)を通して、エマルジョン化された試液を分離容器(11)へ分注することにより、エマルジョン化された試液を分離容器(11)内で2相に分離する第4工程とからなるエマルジョンの自動分離方法。
【請求項2】
第1ないし第4工程の各工程において、それぞれ次の工程に移る前にリンスステーション(20)で前記プローブ(5)を洗浄する請求項1記載のエマルジョンの自動分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−326419(P2006−326419A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150647(P2005−150647)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(596030209)エムエス機器株式会社 (2)
【Fターム(参考)】