説明

エマルジョンインキ及びインキカートリッジ

【課題】定着性、耐カール性に加えて保存安定性も有するエマルジョンインキ、及び、該インキを容器内に収容したインキカートリッジの提供。
【解決手段】(1)油相と水相からなり、該油相と水相の少なくとも一方に着色剤と分散剤を含有し、前記水相にインキ全体の5〜20重量%の両親媒性溶媒を含有するエマルジョンインキ。
(2)両親媒性溶媒が、コハク酸ビスエトキシジグリコールである(1)記載のエマルジョンインキ。
(3)水相にエステル油を含有する(1)又は(2)記載のエマルジョンインキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョンインキ及び該インキを容器内に収容したインキカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエマルジョンインキはオイルを主成分とする油相と、水を主成分とする水相を界面活性剤を用いて乳化することで得られる。水相には水の他に水溶性有機溶媒として、環境面やコスト、エマルジョンインキとしての性能維持のために、グリセリンが広く使用されている。しかし、グリセリンは親水性が強いため、インキが印刷用紙上に印字された場合、水と一緒にセルロース中の水素結合を切断してしまい、用紙カールやコックリングが発生してしまうという不具合があった。また、例えば、3−メチル−1,3−ブタンジオールなどのように、グリセリンと比較して多少疎水性が強い水溶性有機溶媒もあるが、保存性の点でグリセリンよりも大きく劣る。そのため、従来、耐カール性と保存性を両立させることができなかった。
一方、特許文献1には、本発明で用いるのと同じコハク酸ビスエトキシジグリコールなどの二塩基酸のエステルを含有する油剤に係る発明が開示されている。しかし、その用途は潤滑剤、保湿剤、外用剤に止まり、エマルジョンインキについては記載も示唆もされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、定着性、耐カール性に加えて保存安定性も有するエマルジョンインキ、及び該インキを容器内に収容したインキカートリッジの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、次の1)〜8)の発明によって解決される。
1) 油相と水相からなり、該油相と水相の少なくとも一方に着色剤と分散剤を含有し、前記水相にインキ全体の5〜20重量%の両親媒性溶媒を含有することを特徴とするエマルジョンインキ。
2) 両親媒性溶媒が、下記一般式で表されるコハク酸ビスエトキシジグリコールであることを特徴とする1)記載のエマルジョンインキ。
【化1】

3) 更に水相にエステル油を含有することを特徴とする1)又は2)記載のエマルジョンインキ。
4) エステル油が、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸ブチルエステル、大豆油脂肪酸オクチルエステルから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする3)記載のエマルジョンインキ。
5) エステル油の含有量が、コハク酸ビスエトキシジグリコールの含有量に対して、10〜30重量%であることを特徴とする3)又は4)記載のエマルジョンインキ。
6) 更に水相にグリセリンを含有することを特徴とする1)〜5)のいずれかに記載のエマルジョンインキ。
7) 更に油相に界面活性剤を含有することを特徴とする1)〜6)のいずれかに記載のエマルジョンインキ。
8) 1)〜7)のいずれかに記載のエマルジョンインキを容器内に収容したことを特徴とするインキカートリッジ。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、定着性、耐カール性に加えて保存安定性も有するエマルジョンインキ、及び該インキを容器内に収容したインキカートリッジを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】孔版印刷用インキの容器の一例を示す図。
【図2】インキジェット用インキの容器の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明では、水溶性有機溶媒でありながら疎水性が強い両親媒性溶媒を水相に含有させることにより、定着性、耐カール性に加えて保存安定性も有するエマルジョンインキを得ることができる。好ましい両親媒性溶媒としてはコハク酸ビスエトキシジグリコールがあり、特に前記一般式で表される化合物が好ましい。
コハク酸ビスエトキシジグリコールは、その構造中に親水性部と疎水性部を持つため、一般的な水溶性有機溶媒と比べて印刷用紙に馴染みやすく、印字後の定着性が向上する。また、コハク酸ビスエトキシジグリコールは、その構造からエステル油を溶解させながら水相にも溶解するという特徴を持ち、コハク酸ビスエトキシジグリコールの疎水性部とエステル油の効果により、セルロース中の水素結合を切断する確率が低くなり、結果として耐カール性が向上すると考えられる。
コハク酸ビスエトキシジグリコールの含有量は、インキ全体の5〜20重量%とする。20重量%を超えるとエマルジョンインキ製造の際、乳化しにくくなる。また、5重量%未満では、コハク酸ビスエトキシジグリコールを含有させる効果が十分に発現しない。
【0008】
また、印刷用紙のカールは、水や水溶性有機溶媒などによるセルロース中の水素結合の切断により発生するが、水相にエステル油を含有させると一層、耐カール性が向上する。
エステル油はコハク酸ビスエトキシジグリコールに溶解させて水相に添加する。エステル油としては、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸ブチルエステル、大豆油脂肪酸オクチルエステルから選ばれた少なくとも1種が好ましい。
エステル油のコハク酸ビスエトキシジグリコールへの溶解量は、コハク酸ビスエトキシジグリコールの10〜30重量%が好ましく、20〜30重量%が更に好ましい。
また、本発明のエマルジョンインキは、高速印字においても印刷用紙のカールを抑制することができ、高速搬送及び高速両面印刷を可能とする。
【0009】
更に、水相にグリセリンを含有させると、保存安定性が一層向上する。しかし、コハク酸ビスエトキシジグリコールはグリセリンと混合しないため、予め水とグリセリンの混合溶液を作成しておき、そこにコハク酸ビスエトキシジグリコールを混合する必要がある。混合比率は特に限定されないが、当然ながらグリセリン比率を多くすると耐カール性が悪化し、逆にグリセリン比率を少なくすると保存安定性が多少劣るため、使用目的や保存条件などを考慮して両者の混合比率を決める必要がある。
【0010】
着色剤としては公知のものが使用でき、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスカーボンなどのカーボンブラック類、アルミニウム粉、ブロンズ粉などの金属粉、弁柄、黄鉛、群青、酸化クロム、酸化チタンなどの無機顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料などのアゾ顔料、無金属フタロシアニン系顔料や銅フタロシアニン顔料などのフタロシアニン系顔料、アントラキノン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ジオキサンジン系、スレン系、ペリレン系、ペリノン系、チオインジゴ系、キノフラノン系、金属錯体などの縮合多環系顔料、酸性又は塩基性染料のレーキなどの有機顔料、ジアゾ染料、アントラキノン系染料などの油溶性染料、蛍光顔料などが挙げられる。また、無機粒子を有機顔料又はカーボンブラックで被覆した着色剤粒子を用いてもよい。染料は耐光性の面で問題があるため、不溶性着色剤を使用することが好ましいが、色を補う目的で添加しても構わないし、色によって染料と顔料を使い分けてもよい。
【0011】
代表的なカーボンブラックとしては、MA−100、MA−7、MA−70、MA−77、MA−11、#40、#44(三菱化学社製)、Raven1100、Raven1080、Ravene1255、Raven760、Raven410(コロンビヤンカーボン社製)などが挙げられる。
蛍光顔料としては、合成樹脂を塊状重合する際又は重合した後に様々な色相を発色する蛍光染料を溶解又は染着し、得られた着色塊状樹脂を粉砕して微細化した所謂、合成樹脂固溶体タイプのもので、染料を担持する合成樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、スルホンアミド樹脂、アルキド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などを染料に担持する蛍光顔料などが挙げられる。
これらの染料や顔料は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
分散された着色剤の平均粒子径は0.1〜10μmが好ましく、0.1〜1.0μmがより好ましい。
着色剤の添加量はインキ全体の1.0重量%以上であることが好ましく、更に好ましくは4〜10重量%である。
【0012】
着色剤の分散剤としては、アルキルアミン系高分子化合物、アルミニウムキレート化合物、スチレン−無水マレイン酸系共重合高分子化合物、ポリカルボン酸エステル型高分子化合物、脂肪酸系多価カルボン酸、高分子ポリエステルのアミン塩類、エステル型アニオン界面活性剤、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩類、長鎖ポリアミノアミドと高分子酸ポリエステルの塩、ポリアミド系化合物、燐酸エステル系界面活性剤、アルキルスルホカルボン酸塩類、α−オレフィンスルホン酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸塩類、ポリエチレンイミン、アルキロールアミン塩及びアルキド樹脂などの不溶性着色剤分散能を有する樹脂などが挙げられる。
【0013】
この他にもインキの保存安定性を阻害しない範囲であれば、イオン性界面活性剤、両親媒性界面活性剤などを着色剤の分散剤として使用しても構わない。これらの分散剤は単独で、又は2種以上混合して添加すれば良く、高分子及び樹脂以外の分散剤の添加量は着色剤重量の40重量%以下、好ましくは2〜35重量%とすればよい。アルキド樹脂は高分子量の樹脂を添加する時に不溶性着色剤の分散安定性に特に効果があるが、アルキド樹脂を単独で又は他の分散剤と併用して使用する場合の樹脂の添加量は、重量比で、不溶性着色剤1に対して0.05以上であることが好ましい。
【0014】
本発明におけるオイル成分は植物油及びその誘導体が好ましく、公知のものが使用できる。その例としては、大豆油、ナタネ油、コーン油、ゴマ油、トール油、パーム油、綿実油、ひまわり油、サンフラワー油、ウォルナッツオイル、ポピーオイル、リンシードオイルなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし2種以上を混合して用いても良い。
ただし、水相に含有させるオイルは、メチル、ブチル、イソプロピル、プロピル、オクチルなど、エステル化した植物油でなくてはならない。
また、その他のオイル成分として、各種工業用溶剤、モーター油、ギヤー油、軽油、灯油、スピンドル油、マシン油、流動パラフィンなどの鉱物油のほか、合成油も使用できる。オイル成分はインキ保存安定性の向上などのため揮発性の異なる油を複数混合して使用するが、揮発性オイルは地球環境に対して悪影響を及ぼす可能性があるのでなるべく使用しない方が良い。
【0015】
上記植物油には、乾性油、半乾性油、不乾性油があり、ヨウ素価によって分類される。ヨウ素価は100gの油に吸着されるヨウ素のグラム数で表される。このヨウ素価が大きいほど不飽和結合が多く存在するため固まりやすくなる。
印刷後のインキ定着性及び保存安定性を考慮すると、インキ中の植物油又はその誘導体のヨウ素価は、オイルA〜オイルZを用いたとして、下記式を満足することが好ましい。
【数1】

【0016】
一般に酸化による腐敗は連鎖反応である。一旦油脂の1分子が酸化されると順に他の分子を酸化して反応が続く。油脂の酸化反応は次のような簡単な式で示される各段階から成り立っている。
【化2】

【0017】
上記のように、酸化は触媒の影響で不飽和脂質「RH」が水素結合を失って遊離ラジカル「R・」を形成することによって開始される(式1)。この遊離ラジカル「R・」が、酸素分子と反応して過酸化物ラジカル「ROO・」を生成し(式2)、次いで、「ROO・」と「RH」との反応によりヒドロペルオキシド「ROOH」と遊離ラジカル「R・」が生じる(式3)。そして連鎖反応が続き、過酸化物の量が増加して自動酸化の速度は益々速くなってしまう。式4、式5は停止反応である。
【0018】
ヨウ素価が高い乾性油及び半乾性油においては上述のような酸化反応が顕著に起こり、それによって油の乾燥(固化)が進み、ひいては植物油を含有している油性インキも固化してしまう。インキの固化が発生すると吐出不良などの不具合が生じてしまうため、特にヨウ素価が高い(不飽和結合が多く含まれる)植物油を使用する際は、植物油中の脂肪酸(リノレン酸、リノール酸、オレイン酸など)の酸化を防ぐために酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0019】
酸化防止剤「AH」(Hは離れやすい水素)が存在すると、遊離ラジカル「R・」や過酸化物ラジカル「ROO・」に対し水素を与えて酸化防止剤自身がラジカル「A・」となり、連鎖反応が中断される(式6、式7)。酸化防止剤のラジカル「A・」は、ラジカル同士が反応して二量体を形成したり(式8)、遊離ラジカル「R・」や過酸化物ラジカル「ROO・」と反応して安定な化合物を生成する(式9、式10)。
6. R・+AH→RH+A・
7. ROO・+AH→ROOH+A・
8. A・+A・→AA
9. A・+R・→RA
10. A・+ROO・→ROOA
【0020】
酸化防止剤を加えることにより上述のような酸化防止機構が生じ、油の乾燥(固化)が抑制され、ひいては前記植物油を含有している油性インキの固化も抑制される。
酸化防止剤としては公知のものが使用でき、ジフェニルフェニレンジアミン、イソプロピルフェニルフェニレンジアミンなどのアミン系化合物、トコフェロール、ジブチルメチルフェノールなどのフェノール系化合物、メルカプトメチルベンゾイミダゾールなどの硫黄系化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。ただし、植物油含有量に対して極めて少量の酸化防止剤を添加した場合には、適切な酸化防止効果は期待できず、逆に植物油含有量に対して多量の酸化防止剤を一度に添加してしまうと酸化促進剤として作用してしまう場合もある。よって、少量の酸化防止剤でも植物油の酸化を抑えるために相乗剤を加えることが好ましい。
【0021】
相乗剤とは、それ自身は酸化防止作用を殆ど持たないが、酸化防止剤と併用するとその作用を増強するものであり、酸性物質で、幾つかの水酸基又はカルボキシル基を持っている多官能性化合物である。相乗剤はその作用機構から2種類に分けることができる。
第一の種類は真の意味の協力作用を示すもので、酸化防止剤Aと相乗剤Bを併用する時に認められる。相乗剤Bは酸化防止剤Aよりはるかに弱い連鎖停止作用しか持たないが、相乗剤Bが酸化防止剤のラジカルA・に水素供与体として働くために(式11)、見掛け上、相乗剤Bが酸化防止剤Aと同様に酸化防止作用を持つように見える。
7. ROO・+AH→ROOH+A・
11. A・+BH→AH+B・
【0022】
第二の種類は自動酸化の触媒としての金属の活性を抑制することによって主酸化防止剤の作用を増強する金属不活性化剤である。クエン酸やポリリン酸は金属不活性化剤であるが、金属が存在しなくてもフェノール系酸化防止剤に対して協力的に働くことが知られている。
【0023】
相乗剤としては、メチオニン、アスコルビン酸、トレオニン、ロイシン、牛乳タンパク質加水分解物、ノルバリン、パルミチン酸アスコルビル、フェニルアラニン、シスチン、トリプトファン、プロリン、アラニン、グルタミン酸、バリン、膵臓タンパクのペプシン消化液、アスパラギン、アルギニン、バルビツール酸、アスフェナミン、ニンヒドリン、プロパニジン、ヒスチジン、ノルロイシン、グリセロリン酸、カゼインのトリプシン加水分解液、カゼインの塩酸加水分解液など公知のものが使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
相乗剤の添加量については、相乗剤の添加量が酸化防止剤の添加量よりも非常に大きい場合、上式7及び式11の反応がかなりの確率で起こり、時間が経過しても植物油中の不飽和結合が酸化されない状態になり、印字後の画像において摩擦に対して色が落ちにくい等のメリットが薄れてしまう可能性がある。ただし、その反面、ヨウ素価が高い植物油に対しては、インキの固化による吐出不良などの問題が解消されるというメリットもある。従って、相乗剤の添加量を酸化防止剤の添加量に対して50〜150重量%の範囲内にすることによって、ヨウ素価が高い植物油も使用することが可能となり、また酸化の程度を調節することにより、印字後の画像において摩擦に対して色が落ちにくい等のメリットを残すことが可能となる。
【0025】
油相には、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物などのノニオン系界面活性剤を使用することができる。その添加量はインキ全体の1〜8重量%が好ましく、2.2〜6.0重量%がより好ましい。
【0026】
また、油相には、ロジン、重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、ロジンポリエステル樹脂、水素化ロジンエステルなどのロジン系樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、環化ゴムなどのゴム誘導体樹脂、テルペン樹脂、アルキド樹脂、重合ひまし油などの樹脂を1種又は2種以上混合して添加してもよい。また、樹脂の添加量は、インキのコスト及び印刷適性から2〜50重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。樹脂の重量平均分子量が小さい場合及び添加量が少ない場合には、定着性への効果が小さいこと、また重量平均分子量が大きすぎたり、樹脂の添加量が多い場合には印刷スクリーン目詰まりなどの不具合が生じてしまう。
【0027】
カルボキシル基を含有するアルキド樹脂は、油脂と多塩基酸と多価アルコールから構成される。油脂としては大豆油などの半乾性油及びこれらの脂肪酸が挙げられ、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、ひまし油、米糠油、綿実油などのヨウ素価80以下の不乾性油又は半乾性油からなるアルキド樹脂も支障が無い範囲で使用することができる。
多塩基酸としては無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラヒドロフタル酸、フマル酸、イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和多塩基酸が挙げられる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリット、ジペンタエリスリット、マンニット、ソルビットなどが挙げられる。
アルキド樹脂の油長は油脂中の脂肪酸がトリグリセライドで存在した時の樹脂中の重量%で示される。
【0028】
カルボキシル基を含有するアルキド樹脂としては、インキの定着性を考慮すると大豆油変性アルキド樹脂などヨウ素価が80以上のものを使用することが好ましい。また支障の無い範囲で油長60〜90、ヨウ素価80以下のものも使用することができる。アルキド樹脂の油長は60〜90、ヨウ素価80前後であることが好ましいが、アルキド樹脂の重量平均分子量は3万未満が好ましく、1万以下であることがより好ましい。具体的には、アラキード5301X−50、アラキード8012、アラキード5350(荒川化学社製)などが好ましい。また、その添加量は、油性インキ全体の1〜10重量%が好ましく、2〜5重量%がより好ましい。
カルボキシル基を含有するアルキド樹脂の添加形態は、着色剤である顔料を樹脂で包含した形態でもよいし、着色剤を分散した形態でもよい。
【0029】
インキにはゲル化剤を添加してもよい。ゲル化剤は、インキに含まれる樹脂をゲル化してインキの保存安定性、定着性、流動性を向上させる役割を持ち、インキ中の樹脂と配位結合する化合物が好ましい。その例としては、Li、Na、K、Al、Ca、Co、Fe、Mn、Mg、Pb、Zn、Zrなどの金属を含む有機酸塩、有機キレート化合物、金属石鹸オリゴマーなどがあり、具体的には、オクチル酸アルミニウムなどのオクチル酸金属塩、ナフテン酸マンガンなどのナフテン酸金属塩、ステアリン酸亜鉛などのステアリン酸塩、アルミニウムジイソプロポキシドモノエチルアセトアセテートなどの有機キレート化合物などが挙げられる。
これらのゲル化剤は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
その添加量はインキ中の樹脂の15重量%以下が好ましく、5〜10重量%がより好ましい。
【0030】
また、インキには滲み防止あるいは粘度調整のために体質顔料を添加してもよい。体質顔料の例としては、白土、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナホワイト、ケイソウ土、カオリン、マイカ、水酸化アルミニウム、有機ベントナイトなどの無機微粒子及びポリアクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの有機微粒子又はこれらの共重合体からなる微粒子が挙げられる。
体質顔料の添加量はインキ全体の0.1〜50重量%が好ましく、1〜5重量%がより好ましい。
【0031】
本発明では、水相に電解質により影響を受ける材料が存在しない場合に、エマルジョンの保存安定性を高めるため水相に電解質を添加することが好ましい。その添加量は水相の0.1〜2重量%が好ましい。
電解質としては、クエン酸イオン、酒石酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオンなどの陰イオンあるいはアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンなどを含むものが好ましい。例えば、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが好ましい。これらの電解質は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
水相には必要に応じて抗菌剤を添加してもよい。その例としては、サリチル酸、フェノール類、p−オキシ安息香酸メチル、p−オキシ安息香酸エチルなどの芳香族ヒドロキシ化合物及びその塩素化合物、ソルビン酸やデヒドロ酢酸、MIT(メチルイソチアゾリン)、BIT(ブチルイソチアゾリン)、OIT(オクチルイソチアゾリン)などのチアゾリン系のもの、有機窒素硫黄化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。その添加量はインキ中に含有される水の3重量%以下が好ましく、0.1〜1.2重量%がより好ましい。
また、水相には水の蒸発防止剤と凍結防止剤を添加してもよい。これらは兼用可能であり、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどの低級飽和一価アルコール、グリセリンやソルビトールなどの多価アルコールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。その添加量はインキ中の水の15重量%以下が好ましく、4〜12重量%がより好ましい。
【0033】
また、水相には保湿や粘性のために水溶性高分子化合物を添加してもよい。その例としては、デンプン、マンナン、アルギン酸ソーダ、ガラクタン、トラガントガム、アラビアガム、ブルラン、デキストラン、キサンタンガム、ニカワ、ゼラチン、コラーゲン、カゼインなどの天然高分子化合物、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ピドロキシプロピルメチルセルロース、ピドロキシメチルデンプン、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプンなどの半合成高分子化合物、アクリル酸樹脂及びポリアクリル酸ナトリウムなどの中和物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンとポリアクリル酸のコポリマー、ポリアクリルアミド、ポリN−アルキル置換アクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルメチルエーテルなどの合成高分子化合物などが挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。その添加量はインキ全体の25重量%以下が好ましく、0.5〜15重量%がより好ましい。
【0034】
本発明のインキカートリッジは、本発明のインキを容器内に収容したものであり、必要に応じて適宜選択したその他の部材等を有する。
容器としては特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、プラスチック製容器、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で形成されたインキ袋等を有するものが挙げられる。
図1、図2にインキ容器の構成例を示す。
図1は孔版印刷用インキの容器の一例である。インキをインキ注入口102からインキ袋101に充填した後、キャップ103を閉じる。使用時には、キャップ103を外し、インキ注入口102を装置本体のホルダーにセットして装置にインキを供給する。インキ袋101は、プラスチックフィルム等の包装部材により形成する。このインキ袋101は、通常紙製のカートリッジケース104に収容され、インキカートリッジ105として、画像形成装置に着脱可能に装着して用いられるようになっている。
【0035】
図2はインキジェット用インキの容器の一例である。インキをインキ注入口202からインキ袋201内に充填し、排気した後、インキ注入口202を融着により閉じる。使用時には、ゴム部材からなるインキ排出口203に装置本体の針を刺して装置にインキを供給する。インキ袋201は、透気性の無いアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。このインキ袋201は、通常プラスチック製のカートリッジケース204内に収容され、インキカートリッジ205として、画像形成装置に着脱可能に装着して用いられるようになっている。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0037】
実施例1〜14、比較例1〜4
<エマルジョンインキの調製>
本発明のエマルジョンインキは、従来のエマルジョンインキ製造の時と同様にして油相及び水相を調製し、この両者を公知の乳化機内で乳化させて製造することができる。
即ち、表1〜表3の各実施例及び比較例の欄に示す着色剤、分散剤、界面活性剤を混練して分散体とし、これにオイルを混ぜ合わせて油相を調製した。
一方、着色剤、分散剤、イオン交換水、水溶性有機溶媒、両親媒性溶媒、電解質、抗菌剤、及びオイルを混合して水溶液(水相)を調製した。
次いで、上記油相に対し、上記水溶液を除々に添加して乳化させ、エマルジョンインキを得た。
【0038】
実施例及び比較例で使用した材料の詳細は以下のとおりである。
・カーボンブラック:コロンビヤンカーボン社製Raven1080
・銅フタロシアニン:大日精化社製、SEIKALIGHT BLUE A612
・ポリグリセリン脂肪酸エステル:日光ケミカルズ社製、NIKKOL Tetrag
lyn 1−SV(HLB=6.0)
・モノオレイン酸ソルビタン:日光ケミカルズ社製、NIKKOL SO−10V
・ポリビニルピロリドン:日本触媒社製、K−30W
・グリセリン:日本油脂社製
・1,3−ブタンジオール:関東化学社製
・コハク酸ビスエトキシジグリコール(前記一般式で表される化合物)
:高級アルコール工業社製、ハイアクオスターDCS
・ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム:旭化成ケミカルズ社製、ペリセアLB−10
・硫酸マグネシウム:関東化学社製
・有機窒素系硫黄化合物(抗菌剤):日本エンバイロケミカルズ社製デルトップ512
・大豆油脂肪酸メチルエステル:Vertec Biosolvents社製、Ver
tecbio Gold #4(ヨウ素価=119.5)
・大豆油脂肪酸ブチルエステル:カネダ社製ベジソルMB
・大豆油脂肪酸オクチルエステル:カネダ社製#5090(ヨウ素価=86.3)

【0039】
<エマルジョンインキの評価>
上記各エマルジョンインキについて、次のようにして各種特性を評価した。なお比較例4は乳化できなかったため、特性の評価は省略した。結果を纏めて表1〜表3に示す。
【0040】
・インキの定着性
東北リコー社製孔版印刷機:Priport N500により、10mm×10mmのベタ画像を記録媒体の四隅及び中央部の計5ヵ所に配置した画像を120rpmの速度で印刷した。
次いで、中央部のベタ部について、反射式光学濃度計(マクベス社製:RD914)により画像濃度を測定した。
次いで、該中央部のベタ部を、消しゴムを取り付けた安田精機製作所製クロックメーターで10往復擦り、再度反射式光学濃度計で画像濃度を測定した。
そして、擦化前後の画像濃度差を初期の画像濃度で割った値を定着率として算出した。なお、この数値が大きいほど優れていることになる。
【0041】
・用紙カール量
東北リコー社製孔版印刷機:Priport N500により、100mm×190mmのベタ画像(先端余白10mm、左右余白各10mm)を、60rpmの速度で印刷し、10枚目の画像が出力されてから10秒後のカール量を測定した。なお、用紙バラツキを考慮し、同じ操作を3回繰り返したときの平均値を採用した。
【0042】
・高温保存安定性
各エマルジョンインキを、60℃の条件下で45日間放置し、放置前後のインキ粘度を粘度計(Bohlin社製:CSR−10)で測定し、放置前後の粘度差について、以下の評価基準で評価した。
○:放置前後の粘度差はほとんど見られない。
△:放置前後で多少の粘度差が見られる。
×:放置前後で顕著な粘度差が見られる。

【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
各実施例と比較例1〜3から、水相に両親媒性溶媒を含有させることにより、定着性、耐カール性に加えて、保存安定性も向上することが分かる。
実施例1〜2と比較例4から、コハク酸ビスエトキシジグリコールの含有量が、インキ全体の20重量%以下であれば乳化可能であるが、20重量%を超えると乳化できなくなることが分かる。
実施例3〜8と実施例1から、水相に各種エステル油を含有させることにより耐カール性が向上することが分かる。
実施例3〜7と実施例8から、水相に更にグリセリンを含有させると、耐カール性及び保存安定性が向上することが分かる。
【符号の説明】
【0047】
101 インキ袋
102 インキ注入口
103 キャップ
104 カートリッジケース
105 インキカートリッジ
201 インキ袋
202 インキ注入口
203 インキ排出口
204 カートリッジケース
205 インキカートリッジ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0048】
【特許文献1】国際公開2008−96845号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相と水相からなり、該油相と水相の少なくとも一方に着色剤と分散剤を含有し、前記水相にインキ全体の5〜20重量%の両親媒性溶媒を含有することを特徴とするエマルジョンインキ。
【請求項2】
両親媒性溶媒が、下記一般式で表されるコハク酸ビスエトキシジグリコールであることを特徴とする請求項1記載のエマルジョンインキ。
【化3】

【請求項3】
更に水相にエステル油を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のエマルジョンインキ。
【請求項4】
エステル油が、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸ブチルエステル、大豆油脂肪酸オクチルエステルから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項3記載のエマルジョンインキ。
【請求項5】
エステル油の含有量が、コハク酸ビスエトキシジグリコールの含有量に対して、10〜30重量%であることを特徴とする請求項3又は4記載のエマルジョンインキ。
【請求項6】
更に水相にグリセリンを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエマルジョンインキ。
【請求項7】
更に油相に界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエマルジョンインキ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のエマルジョンインキを容器内に収容したことを特徴とするインキカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−35928(P2013−35928A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172195(P2011−172195)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】