説明

エラストマーを用いた細胞調査装置及びその装置の使用方法

本発明は、エラストマーを用いて細胞を調査する装置及びその使用方法に関する。このエラストマー(1)は、底部(2,3)とそれよりも厚い周縁領域(4,6,8)とを有し、底部(3)には、規則的な微細構造が配置されている。そのようなエラストマーは、特に、一軸方向式の延伸調査に適している。そのような装置の有利な使用方法も同じく開示している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマーを用いて細胞を調査する装置及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞変形システムは、基礎研究と医学/臨床分析において、動物の組織で起こるような周期的な変形をシミュレーションするために重要な貢献を果たしている。例えば、動脈の血管又は消化管の周りの、そのような変形は、細胞に関する信号を発生するとともに、機能が保証されなくならない形で、当該組織の形態的及び機能的な変化を生じさせる。
【0003】
典型的には、細胞は、加えられた変形に対して所定の角度方向を向く。その場合の角度は、加えられた変形の方向に関して60°〜90°の範囲で変化する。細胞培養中の細胞の静的又は周期的な変形の実験によるシミュレーションは、所謂セルストレッチャを用いて行われる。その場合、細胞の新しい向きを知ることは、構造を持つ組織を理解するための重要な研究テーマとなっている。
【0004】
セルストレッチャは、研究用構造では、片方向、両方向及び等両方向式ストレッチャに分類される。等両方向式セルストレッチャは、大抵は弾力性の有る膜の一端を引っ張るために様々な形式のピストンシステムを使用している。空気圧式駆動部を用いてピストン内に正圧又は負圧を加えることによって、そこに置かれた膜を延伸している。細胞を表面に付着させて、変形を加える場合、細胞を膜上に散らしている。そのようなシステムの欠点は、等方延伸実験が非常に限定された利用可能な結果しか提供しないことである。
【0005】
一軸方向と二軸方向式のセルストレッチャは、電気モーター式駆動部を使用している。典型的には、ステッピングモーター又は直流モーターを使用している。支持機器とそれに対応する駆動部の間に取り付けられた弾力性の有る膜、所謂エラストマー又はチェンバーは、一軸方向に延伸することができる。そのような駆動部を少なくとも四つ、有利には、八つ使用することによって、弾力性の有る膜又はチェンバーを二つの方向に順次延伸することを順番に二軸方向に行うことができる。
【0006】
そのような従来技術による二軸方向式セルストレッチャの欠点は、専らモーターの数とそれに伴う高価な電子制御機器である。更に、従来技術によるセルストレッチャがエラストマーの変形及び細胞力を測定できず、そのため検出した結果を実験中、即ち、組織内の細胞の延伸によって引き起こされる応答のシミュレーションと関連付けることができないことも欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ドイツ特許公開第102005005121号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、より良好に細胞に対する外部の機械的な応力の影響を調査することができる、エラストマーを用いて細胞を調査するための装置を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、請求項1による装置と副請求項によるその装置の使用方法によって解決される。有利な実施形態は、それぞれ従属請求項に記載されている。
【0010】
架橋シリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン、PDMS)から成るエラストマーは、延伸実験の間に細胞培養皿としての役割も同時に果たすチェンバーとして実現される。このエラストマー製チェンバーは、細胞を収容する役割を果たす。即ち、エラストマーの上に細胞を散らして、その表面上に付着させる。そのために、このエラストマーは、底部と、それよりも厚い周縁領域とを有する。
【0011】
底部には、規則的な微細構造が配置されており、その上に細胞を付着させて設置する。この微細構造の直径及び底部の微細構造間の間隔は、有利には、マイクロメートルの範囲内にあり、典型的には、約1〜10μmである。この微細構造の深さは、調整可能であり、細胞が微細構造を識別させるか、或いは所望の通り識別させるように変更することができる。この微細構造は、実験において、エラストマーに加わる延伸量と細胞に作用する力を計測可能とする基準尺としての役割を果たす。
【0012】
本発明による装置によって、エラストマー製チェンバーに加わる延伸量と実際に細胞に起こる延伸量の間の差を初めて正確に計測することが可能となる。X方向へのチェンバーの延伸は、横方向の収縮、そのためY方向へのエラストマーの圧縮を引き起こす。それは、エラストマー製チェンバー、特に、細胞が付着しているチェンバー底部のクッション形の変形を生じさせる。チェンバー底部の変形形態は、微細構造の識別によって正確に計測することができる。更に、エラストマーのEモジュールを知ることによって、周期的な延伸調査での付着している細胞の力も初めて計測することが可能となる。
【0013】
微細構造の識別は、細胞を散らさない校正を目的とする場合でも、一定時間に渡って実験を実施している間でも可能である。それによって、推定される細胞の偏向角度を正確に予想することが初めて可能となり、そのような予想を検証するのに最適となるように、実験パラメータを調整することができる。
【0014】
本発明の枠組みにおいて、細胞を調査する装置によって、エラストマーを用いた細胞に対する静的又は周期的な力の作用の影響を正確に計測できることが分かった。この場合、細胞をエラストマー又は一般的に言うと弾力性の有る基板上に載せて、その基板上に細胞を付着させた後、基板を静的又は周期的に延伸する、即ち、細胞を底部と一緒に変形させる。その場合、細胞の新たな方向が、使用する基板の横向きの収縮量に依存すること、即ち、周期的な延伸実験で同時に細胞が如何なる程度圧縮されるのかが分かった。そのような横方向の収縮率は、弾力性の有る基板の(X方向への)延伸量に対する(Y方向への)圧縮量の比率として規定され、付着している細胞がX−Y平面内の変形運動だけを感知するので、チェンバー底部の(Z方向への)厚さの変化を無視することができる。ポアソン比とも呼ばれる横方向の収縮率は、材料に特有であり、例えば、基板材料としてPDMSを使用した場合、0.5となる。チェンバー及び底部の圧縮量は、それに対応する幾何学的な造形及び強度によって変化する。
【0015】
本発明の枠組みにおいて、従来技術による装置では、細胞に起こる延伸の正確な特徴付け、力の計測及び横方向の収縮の計測が不可能であることが分かった。更に、エラストマー製チェンバーの横方向の収縮が、特に、新たな方向での細胞の挙動に対して決定的な影響を及ぼすことが分かった。それに関連して、セルストレッチャの従来技術で周知のセルチェンバーは不正確さを伴うので、実験の評価に大きな誤差を生させる。
【0016】
弾力性の有る基板は、有利には、四角形、例えば、正方形の桶の形状を有し、その理由は、特に、チェンバーの製造に関して、例えば、注型方法で、そのための雌型を簡単かつ安価に製作できるからである。
【0017】
特に有利には、エラストマーは、その周縁領域に孔を有する。これらの孔は、空孔の形をしており、有利には、Z方向に向かってエラストマーの周縁部全体を貫通している。これらの孔は、エラストマーをセルストレッチャのモーター式駆動部と安定して係止するためのガイドである。
【0018】
これらの孔は、特に有利には、エラストマー製チェンバーの製造方法の間に共通の架橋プロセスで自動的に周縁部に形成される。それに対して、雌型には、孔のための所望の大きさのピンが雌型の相応の位置に差し込まれる。これらのピンは、エラストマーをセルストレッチャに固定するためのピンと同じ大きさを有する。ポリマー(PDMSシリコーンオイル)が共重合体(架橋剤)と混合され、この依然として液体のエラストマーが、雌型に流し込まれて、更に、架橋していない状態の液体としてピンを取り囲む。その後、PDMSは、メーカー指示書に基づき硬化又は架橋される。硬化後、特に有利には、出来る限り最善の手法でエラストマー内の孔とセルストレッチャのモーターの支持部との形状結合が保証され、エラストマーがセルストレッチャの固定部と安定して連結される。
【0019】
有利には、エラストマーは、角を丸くされた周縁領域を有する。有利には、従来技術による鋭い角の移行部と異なり、そのような領域は、頻繁に繰り返される延伸と圧縮による持続的な負荷の場合でも裂けない。
【0020】
これらの丸くされた角は、有利には、外向きの周縁領域と内向きの周縁領域の一方又は両方に設けることができる。孔が丸い角に配置され、それを介して、エラストマーがセルストレッチャの支持ピンと連結されているので、基板を延伸している間のチェンバー底部への、そのため細胞へのセルストレッチャの特に良好な力の伝達が保証される。これらの丸くされた角は、それと関連する有利な力の推移によって、従来技術で周知の尖った角よりも大幅に正確にストレッチャで生じる振幅を伝達する。
【0021】
本発明の別の実施形態では、エラストマー製チェンバーの角の壁の厚さは、それ以外の周縁領域の壁の厚さよりも厚い。そのことは、有利には、延伸調査の間にチェンバーを一層安定化させる。
【0022】
特に有利には、エラストマーは、対向する周縁領域の壁の厚さが同じであり、そのため、対向しない周縁領域の壁を同じ又は異なる厚さとすることができる形状を有する。壁の高さは一定である。特に有利には、エラストマー製チェンバーの引張方向に対して平行な周縁部の壁の厚さによって、チェンバー底部の横方向の収縮量を調整するように、エラストマー製チェンバーを変更することができる。そのことは、延伸する振幅が同じ場合に、細胞が新たな方向を向くことができるようにする。
【0023】
エラストマーの引張方向に対して平行な周縁部がそれ以外の周縁領域よりも撓み難いように製作することによって、圧縮を小さく、延伸を大きくした(基板の横方向の収縮が小さい)実験が可能となる。
【0024】
しかし、エラストマーの引張方向に対して平行な周縁領域は、断続的に取り除くことも、完全に取り除くこともできる。そうすることによって、横方向の収縮が拡大される。エラストマー製チェンバーの自由に垂れ下がる底部、即ち、引張方向に対して平行な周縁領域が無いことによって、最大限の横方向の収縮が実現される。従って、横方向の収縮の発生による一軸方向式細胞延伸システムを用いて、二軸方向式細胞延伸システムをシミュレーションし、それに応じた細胞の挙動を研究することが可能である。周知の二軸方向式細胞延伸システムのコストが一軸方向式システムの何倍となるので、それはコストを削減する方向に向けた大きなステップである。
【0025】
特に有利には、引張方向に対して垂直なエラストマーの周縁領域を強化することができる。そのような強化は、エラストマー底部への、そのためその上に散らされた細胞への力の特に均一な伝達を実現する。そのような強化策には、例えば、支持アングル材などのエラストマーとの形状結合のためのクリップ形態の材料が含まれる。そのような引張方向に対して垂直な追加の支持体は、引張方向への周縁領域の撓みを防止して、セルストレッチャにチェンバーを取り付けた場合に、チェンバーに加わる延伸量と細胞に実際に起こる延伸量の間の比率を明らかに改善する。更に、追加の支持体又は支持アングル材の使用は、細胞の挙動を調査することができるチェンバー底部の、そのため大幅に大きな領域の同形の延伸形態を生じさせる。
【0026】
横方向の収縮の計測の外に、それと同時に基板延伸の前、間及び後に細胞力を分析するために微細構造を使用することができる。それによって、二つの物理パラメータ(引張力と細胞力)の多次元の同時データ分析が初めて可能となる。引っ張られた状態で細胞力を分析する分解能の限界は、使用するチェンバーにおいて、チェンバー底部に蛍光を発するナノボールを更に持ち込むことによって向上される。
【0027】
基本的に、そのような微細構造は、特許文献1に記載されている通り、スタンパーによって作り出すことができる。しかし、本発明はそれに限定されない。そのような構造は、むしろ蛍光を発するナノボール及びそれと同等の規則的な構造によっても作り出すことができる。
【0028】
更に、エラストマー製チェンバーは、異なる弾力性で製造するか、或いは異なる弾力性のエラストマーを薄い層にコーティングすることができる。有利には、本装置は、弾力性が0.1kPa〜1MPaの範囲内にあるエラストマーを有する。
【0029】
駆動システムとして、有利には、選定した駆動部の技術仕様の範囲内で、例えば、速度、行程などの全てのパラメータを使用者が自由に設定できる商用のリニア駆動部を使用することができる。
【0030】
別の自由に選定可能なパラメータは、開始位置と終了位置での滞留時間であり、任意選択として、個々の又は周期的な延伸量を調整することが可能である。この場合、サイクル数又は任意選択により実験の継続時間を自由に選択することができる。
【0031】
この駆動部は、自己校正式であり、エラストマー製チェンバーの幾何形状と関連して自動的に零点を提供する。更に、このチェンバーは、チェンバー底部の緩みを均すために、自由に選定可能な程度で事前に延伸することができる。このコンピュータプログラムでは、任意の時点で動作中の駆動制御プログラムを中断、停止し、任意の時点で再開することが可能であり、例えば、CO2 インキュベーターから顕微鏡に実験場所を変更する場合に、電力を投入しない状態に駆動部を切り換えて、別の場所に持って行くことができる。このコンピュータプログラムは、書換式データ記憶媒体によっても実行できるので、同じく一方のPCから他方のPCに持ち運ぶことができる。従って、例えば、中断された実験を別のPCで再開することもできる。更に、このコンピュータプログラムは、例えば、カメラを制御して、実験中に画像を撮影するための信号を別の動作中のプログラムに伝えるためのインタフェースを備えている。更に、全てのプログラム設定は、テキストファイルとして記録しておくことができる。ユーザーが実験のために選定した動作パラメータは、開始設定として任意に記録し、再び呼び出すことができる。
【0032】
このセルストレッチシステム全体は、細胞用顕微鏡に直に装着できる挟持用フレームに取り付けられる。そうすることによって、問題の発生毎に、時間を分けた調査も可能となる。システム全体のコンパクトな構造によって、CO2 インキュベーターに採用することも可能である。
【0033】
本発明による装置の有利な使用方法は、細胞の延伸調査、詳しく言うと、特に、一軸方向式延伸調査に使用することである。
【0034】
そのために、有利には、底部上に細胞を散らして付着させる。本発明による装置の有利な使用方法は、加えられた延伸量に応じたエラストマーの横方向の収縮量を微細構造によって校正及び変更することである。
【0035】
そのために、このエラストマーは、所定の通り、専らエラストマーのX方向への引張を起こすことができるセルストレッチャによる一軸方向式延伸調査に使用される。本発明による装置の壁の厚さが異なる周縁領域において異なるように実現することができるので、エラストマー製チェンバーの壁の厚さの変更によって、エラストマー製チェンバーの横方向の収縮量を自由に設定できるため、両方向式セルストレッチャが不要となる。
【0036】
特に有利な使用方法は、セルストレッチャの引張方向におけるエラストマーの周縁領域をエラストマーを含まない材料で強化するものと規定する。
【0037】
本装置の別の利点は、細胞の偏向角度を微細構造によって正確に計測でき、横方向の収縮量に応じた細胞の偏向角度を後の調査で自由に計測でき、実験中に横方向の収縮量を細胞結合部の実情に適合することが可能である。
【0038】
更に、チェンバー底部は、延伸の間に全ての位置で同じ、特に、再現可能な挙動を示す。
【0039】
以下において、実施例と添付図面に基づき本発明を詳しく説明する。ここに提示した数量及び材料は例示であって、それに限定されるものと解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】エラストマー製セルチェンバーシステムの図
【図2】二つのクリップ状補強部を備えたエラストマー製セルチェンバーシステムの図
【図3】四つのクリップ状補強部を備えたエラストマー製セルチェンバーシステムの図
【発明を実施するための形態】
【0041】
(1)第一の実施例
図1は、細胞の延伸調査において構造を持つセルチェンバーシステムとして使用される本発明によるエラストマーの平面図と断面図を模式的に図示している。
【0042】
このエラストマー1は、化学的には、基質としてのビニール末端ポリジメチルシロキサンから構成される。架橋剤としては、メチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体を使用した。その製造時、先ずは基質と架橋剤を互いに混合して、ガスを抜き、次に、セルチェンバーの雌型に充填した。プラチナ触媒を基質と混合して、一夜の間60°で架橋を促進した。エラストマーは、硬化後約50kPaの弾力性を有する。
【0043】
セルチェンバーシステム1は、第一の近似形態において、正方形の形状を有する。縁の長さは、35ミリメートルである。四つの角6は、それぞれ補強されている。即ち、周縁領域8と4が、それぞれ5ミリメートルの厚さしかないのに対して、角6は、直径10ミリメートルの半円形であり、それ以外の外側の周縁4,8から突き出た耳形状の丸い補強部を有する。これらの角は、外向きにも内向きにも丸くなっている。
【0044】
これらの措置は、有利には、延伸実験において、ストレッチャの(図示されていない)固定ピンによって孔7に加えられる張力から角を保護して、容易に裂けないか、或いは損傷されないという作用を奏する。
【0045】
各角6には、エラストマー材料を貫通する孔7が有る。この孔7は、直径が3ミリメートルであり、各角6の中心に配置されている。
【0046】
これらの孔7は、セルチェンバー1の架橋の間に直接作られる。基質と共重合体は、孔6と同じ直径のピンを備えた雌型に流し込まれて、硬化される。延伸実験では、このチェンバー1の孔7は、製造方法の架橋時の直径と同じ直径のピンに再び差し込まれる。従って、これらの孔7は、実験において、セルストレッチャ及びその(図示されていない)固定ピンと完璧に形状結合して、固定されることとなる。それは、有利には、チェンバー底部3への延伸の正確な伝達を引き起こす。更に、角6の丸くされた補強部によって、エラストマーが裂ける虞が最小化される。
【0047】
更に、四つの角6は、その内側の領域5も丸くされている。この措置も、有利には、単独で、加えられた延伸をチェンバー底部に正確に伝達する作用を奏する。更に、それによって、エラストマー1が裂ける虞も一層最小化される。
【0048】
周縁領域4,6,8では、エラストマーの厚さが一様に5ミリメートルである。対向する周縁領域4又は8の厚さ(又は奥行き)は、一様に5ミリメートルであるのに対して、四つの角6は、10ミリメートルである。
【0049】
周縁領域4,6,8以外では、底部領域2,3の厚さが、典型的には、0.1〜0.5ミリメートルと大幅に小さい。これらの底部は、構造化された中央の領域3と、その中央の領域と周縁領域4,6,8の間に配置された構造化されていない領域2とを有する。中央の領域3は、隆起と窪みの形の規則的に配置された構造を有する。これらの隆起と窪みは、互いに、例えば、1.5μmの一様な間隔と2μmの直径を有する。これらの構造の深さは、典型的には、チェンバーの弾力性に応じて、50〜500nmの範囲内に有る。この構造は、構造上に散らされた(図示されていない)細胞の延伸調査において、印加された振幅が如何なる程度でセルストレッチャからチェンバー底部に、そのため細胞に伝達されるのかを測定するための定規又は基準尺としての役割を果たす。従って、そのような底部の中央の領域における構造3によって、初めてエラストマー製チェンバーに加わる延伸量と実際に細胞に起こる延伸量の間の差を正確に計測することができる。
【0050】
(2)第二の実施例
図2は、又もや四つの角26の各々に中央の孔27を備えた図1と同様のセルチェンバー21を図示している。このチェンバー21としてのエラストマーは、図1のエラストマーと異なり、対向する周縁領域24と角26に全部で二つのクリップ状の補強部29を備えている。これらの補強部29は、周縁領域及び孔とぴったり形状結合する形で設置されている。これらのクリップ29は、有利には、太い矢印で表示された加えらた張力のために周縁部が損傷することを一層防止する作用を奏する。ここでは、これらのクリップ29は、陽極処理されたアルミニウムから構成されている。
【0051】
図2では、延伸実験での引張方向が太い矢印の通りX方向に与えられる。対向する周縁領域24が、それに対して直角に配置された周縁領域28よりも強固に、即ち、X方向に対して、より強固に実現されている、例えば、二倍強固である場合、それによって、Y方向への圧縮量が大きくなり、そのため横方向の収縮量が増大する。そのため、周縁領域24:28の厚さを変更することによって、測定チェンバーのX方向への延伸量と引張方向に対して直交するY方向への圧縮量の比率を調整することが可能となる。それによって、多数の別の実施例が考えられる。
【0052】
(3)第三の実施例
図3は、又もや四つの角36の各々に中央の孔を備えた極めて似たセルチェンバー31を図示している。このエラストマー31は、図1及び2と異なり、角36の直ぐ上だけに全部で四つのクリップ状の補強部39を備えている。これらの補強部39は、角36及び孔とぴったり形状結合する形で設置されている。これらのクリップ39は、有利には、太い矢印で表示されたX方向に加わえられる張力のために周縁部が損傷することを一層防止する作用を奏する。更に、図2のクリップ29の作用を上回る形で、これらのクリップ99は、対向する周縁領域38の撓みを防止している。そのため、図3の周縁補強部は、横方向の収縮を最小化する一方向式ストレッチャで使用することができる。
【0053】
図3の周縁補強部は、有利には、二方向式ストレッチシステムでも使用することができる。
【0054】
クリップ39は、陽極処理されたアルミニウムから構成される。厚さとサイズは、使用するチェンバー構成に応じて設定される。ここで選択した実施例では、クリップ39の材料の厚さは、典型的には、0.5〜1.0マイクロメートルである。その造形は、エラストマー製チェンバーのサイズに準拠し、チェンバーの厚さ又は高さが5ミリメートルの場合、クリップが係合する深さは、典型的には4.5ミリメートルである。
【0055】
図2と3のクリップは、特に有利には、薄いエラストマー底部への延伸の伝達を増強する。それらは、エラストマーと形状結合する形で配置されており、そのため引張方向(太い矢印)に配置された周縁領域24,34の撓みを防止する。
【0056】
(4)更に別の実施例
更に別の実施例は、図2と図3に図示された測定チェンバーに関する。それらの実施例は、側壁28,38が無い形で製作されたものであり、セルストレッチャに採用される。(周縁補強部28,38が無い)エラストマー製チェンバーの自由に垂れ下がる底部によって、最大限の横方向の収縮が達成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を収容するエラストマーを用いて細胞を調査する装置において、
このエラストマーが、内側に配置された底部とそれよりも厚い周縁領域とを有し、その底部に、規則的な微細構造が配置されていることを特徴とする装置。
【請求項2】
当該の周縁領域が、エラストマーを貫通する少なくとも一つの孔を有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
当該のエラストマーが、エラストマーが架橋する間に当該の孔を作る手法で製作されることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
対向する側に少なくとも二つの孔が配備されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の装置。
【請求項5】
当該の周縁領域の角が丸くされていることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項6】
当該のエラストマーの周縁領域の壁の厚さが、それと対向しない断続的に、或いは完全に取り除かれた領域よりも厚いことを特徴とする請求項1から5までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項7】
当該のエラストマーの周縁領域の角の壁の厚さが、それ以外の周縁領域の壁の厚さよりも厚いことを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項8】
当該のエラストマーが、対向する周縁領域の厚さが同じである形状を有することを特徴とする請求項1から7までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項9】
当該のエラストマーが、対向しない周縁領域の厚さが異なる形状を有することを特徴とする請求項1から8までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項10】
当該のエラストマーの周縁領域が、エラストマーを含まない材料で部分的に補強されていることを特徴とする請求項1から9までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項11】
当該のエラストマーと形状結合するクリップ状の補強部が配備されていることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか一つに記載の装置をその底部に付着した細胞の延伸調査で使用する方法であって、
加えられた延伸量に応じたエラストマーの横方向の収縮量を微細構造によって測定する方法。
【請求項13】
エラストマー製チェンバーの周縁部の厚さを変更することによって、エラストマー製チェンバーの横方向の収縮量を変化させることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
エラストマーの周縁領域をセルストレッチャの引張方向に関してエラストマーを含まない材料で補強することを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−507136(P2013−507136A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533475(P2012−533475)
【出願日】平成22年9月25日(2010.9.25)
【国際出願番号】PCT/DE2010/001139
【国際公開番号】WO2011/044872
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(390035448)フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (100)
【Fターム(参考)】