説明

エラストマーチューブおよびその劣化検知方法

【課題】 チューブの劣化の有無を簡単に検知できるようなエラストマーチューブや劣化検知方法を提供する。
【解決手段】 透明または半透明のエラストマーにより中空円筒状のチューブ壁11が形成されたエラストマーチューブ1であって、チューブ壁11には、チューブの長さ方向に沿って金属線12が埋入一体化されており、少なくとも金属線の外周面部分は、酸化により変色する金属とされている。金属線の変色を目視することで、チューブ1の劣化が検知できる。金属線12は亜鉛やニッケルなどで金属メッキされていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性に優れたエラストマー製のチューブ、特にチューブ壁の中に、金属線を埋入一体化したエラストマーチューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴムなどのエラストマー材料により円筒状のチューブ壁を構成し、ステンレス線などの金属線を、チューブの長さ方向に沿うように、チューブ壁に埋入もしくは添着して一体化したエラストマーチューブが知られている。このような金属線入りのエラストマーチューブは、手指で自由に曲げられると共に、その曲げ形状を金属線により維持できるので、便利である。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゴム製のチューブにステンレス線などの金属線を埋め込んだ医療用のチューブが開示されている。また、特許文献2には、複数本の合成樹脂チューブを並列かつ帯状に連結し、いずれかのチューブに塑性変形する金属線をチューブ長手方向に沿って配置した平型多連チューブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−82637号公報
【特許文献2】実開全文昭63−125271号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの金属線埋入チューブは、繰り返し使用される場合がある。例えば、医療用や歯科用のチューブとして使用される際は、使用の都度、チューブの曲げ・伸ばしが繰り返されると共に、チューブの洗浄・殺菌処理が繰り返される。
【0006】
金属線入りチューブは、その構造上、金属線が埋入された部分から劣化することがある。例えば、金属線が折損してチューブ壁を傷つけてピンホールを生じさせたり、金属線周りのチューブ壁が損傷して、金属線がチューブ内部やチューブ外部に露出したりするといった劣化をする場合がある。このように劣化したチューブは、医療用等の用途には適さないことがある。
【0007】
そのため、金属線入りチューブの劣化の有無を簡単に検知しうるようなエラストマーチューブや劣化検知方法が求められるに至った。従って、本発明の目的は、チューブの劣化の有無を簡単に検知できるようなエラストマーチューブや劣化検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、鋭意検討の結果、チューブ壁に酸化により変色する金属線を埋入すると、金属線の変色を観察することによってチューブの劣化が検知できることを知見し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、透明または半透明のエラストマーにより中空円筒状のチューブ壁が形成されたエラストマーチューブであって、チューブ壁には、チューブの長さ方向に沿って金属線が埋入一体化されており、少なくとも金属線の外周面部分は、酸化により変色する金属とされた、エラストマーチューブである(第1発明)。
【0010】
本発明においては、金属線は金属メッキされていることが好ましい(第2発明)。さらに、第2発明においては、亜鉛またはニッケルによって金属メッキされることが好ましい(第3発明)。さらに、第3発明においては、金属線の主体となる金属は、メッキされた金属よりもイオン化傾向が小さいことが好ましい(第4発明)。さらに、第4発明においては、金属線が亜鉛メッキされたスチール線であることが好ましい(第5発明)。
【0011】
また、本発明は、チューブの長さ方向に沿って金属線がチューブ壁に埋入一体化されたエラストマーチューブの劣化を検知する方法であって、チューブ壁を透明または半透明のエラストマーで構成すると共に、少なくとも金属線の外周面部分を、酸化により変色する金属で構成して、金属線の変色の有無を目視することによって、エラストマーチューブの劣化を検知する方法である(第6発明)。第6発明においては、チューブを使用した後に、オートクレーブ処理してから金属線の変色を目視することが好ましい(第7発明)。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエラストマーチューブ(第1発明)や本発明のエラストマーチューブの劣化検知方法(第6発明)によれば、金属線の変色を目視することによりチューブの劣化が簡単に検知できるという効果が得られる。
【0013】
さらに、第2発明のように、金属線が金属メッキされる場合には、金属線の機械的性質とチューブの劣化検知性が両立しやすい。さらに、第3発明のように、亜鉛メッキまたはニッケルメッキするようにすれば、劣化検知性が特に良くなる。
【0014】
さらに、第4発明のように、金属線の主体となる金属が、メッキされた金属よりもイオン化傾向が小さくなるようにした場合には、金属線の機械的性質を維持したままで金属線が変色するので、金属線の機能が失われる前に、早期にチューブの劣化が検知できる。
【0015】
また、第7発明のように、オートクレーブ処理の後で金属線の変色を目視するようにすれば、変色が明瞭に確認しやすく、チューブの劣化検知がよりたやすく行われうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態のエラストマーチューブの端部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面を参照しながら、歯科の吸引チューブとして用いられるエラストマーチューブを例として、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0018】
図1に示すようにエラストマーチューブ1はエラストマーにより形成された円筒状のチューブ壁11を有し、チューブ壁11には金属線12が埋入されて一体化されている。エラストマーチューブ1は手指の操作により曲げ変形させることが可能であり、金属線12の働きによって、曲げた形状を維持できる。本実施形態のエラストマーチューブ1は、例えば、歯科診療時に唾液等を吸引するための吸引用のチューブとして使用できる。
【0019】
チューブ壁11を構成するエラストマーとしては、透明または半透明のエラストマーが使用される。例えば、ゴム(シリコーンゴム、ウレタンゴムなど)や、熱可塑性エラストマー(オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマーなど)がエラストマーとして使用できる。エラストマーが透明または半透明であることによって、チューブの外部から、埋入された金属線12が透けて見えて、金属線の表面が目視可能とされている。
【0020】
チューブ壁11には、チューブの長さ方向に沿って直線状に、一本の金属線12が埋入一体化されている。このような構造のチューブは、金属線を送り出しながらエラストマーを円筒状に押出し加工することによって得ることができる。
【0021】
金属線12において、少なくとも金属線の外周面部分は、酸化により変色する金属とされている。酸化により変色する金属としては、好ましくは亜鉛やニッケルが例示される。本実施形態においては、金属線12として、亜鉛メッキされたスチール線が使用されている。このように、埋入される金属線は、金属メッキされている金属線であることが好ましく、さらには、金属線の主体となる金属が、メッキされた金属よりもイオン化傾向が小さいことがとくに好ましい。ここで、複数の金属成分からなる合金が金属メッキされる場合においては、メッキされた金属とは、メッキされる合金中の主成分となる金属をいう。
【0022】
金属線12としては、亜鉛メッキされたスチール線のほか、ニッケル線や亜鉛線、亜鉛メッキされた銅線や、ニッケルメッキされたスチール線、ニッケルメッキされた銅線などが例示できる。このように、金属線の外周面部分が、酸化により変色する金属(好ましくは亜鉛とニッケル)により構成されていれば良い。なお、亜鉛メッキやニッケルメッキは、純粋な亜鉛やニッケルによるメッキに限定されず、亜鉛やニッケルのほかの金属成分を含む金属メッキを含む。
【0023】
金属線12がチューブ壁11に埋入一体化される形態は特に限定されない。金属線12は、チューブ壁に対し接着状態で埋入されていても良いし、非接着状態で埋入されていても良い。あるいは、金属線12は、チューブ壁に対し密着して埋入されていても良いし、遊挿状態で埋入されていても良い。接着・密着して埋入すると、変色の進行が抑えられるので、埋入状態を調整することで、金属線の変色のしやすさが調整されうる。
【0024】
エラストマーチューブ1は以下のように使用される。エラストマーチューブ1は手指の操作により曲げ変形させることが可能であり、金属線12の働きによって、曲げた形状を維持できる。曲げ形状を繰り返し変更することもできる。特に医療用途などにおいては、チューブを使用し、取り外し、洗浄・消毒して再使用するなど、繰り返し使用することができる。
【0025】
通常、金属線12はチューブ壁11に完全に埋入した状態で使用に供される。従って、金属線12の外周面での酸化の進行は抑えられており、金属線の変色はあまり起こらない。
【0026】
しかしながら、チューブ1を繰り返し使用する間に、金属線12とチューブ壁11が接触する部分が弱くなったり(例えばピンホールや亀裂が生じたり)、チューブ端部のシールが不十分となったりすると、金属線12とチューブ壁11の間に酸素や水分が供給されるようになり、金属線12の外周面の酸化や変色が進む。従って、本発明のエラストマーチューブ1によれば、チューブの外側から金属線12を観察し、変色の有無を確認することで、チューブ1の劣化の有無を間接的に確認できる。即ち、金属線の変色が目視により確認された場合には、チューブ1に何らかの劣化が生じたものと判断し、チューブを交換するなどといった対策を講ずることができる。
【0027】
特に、医療用チューブの加熱殺菌処理などを目的として、オートクレーブ処理を行う場合には、オートクレーブの際の高温により、金属の酸化・変色が促進されるので、オートクレーブ処理に引き続いて金属線の変色を目視確認するようにすれば、チューブの劣化をより敏感に検知できる。例えば、亜鉛は水分が存在する高温環境下で黒変するので、オートクレーブ処理と組み合わせて使用されると、変色の検知が非常にたやすくなる。
【0028】
酸化により変色する金属の中でも、亜鉛(Zn)やニッケル(Ni)は、特に変色がはっきりと現れやすいので、金属線の外周面部分を構成する金属として特に好ましい。
【0029】
また、金属線12を金属メッキされた金属線とすれば、金属線の主体部分は金属線12としての好ましい機械的特性(弾性や降伏応力、強度など)が確保しやすい金属(例えばスチール線など)としながら、金属線12の外周部分には、酸化により変色する金属を効率的に配置でき、チューブ1の機械的特性や劣化検知性をより高めることができる。
【0030】
また、金属メッキされた金属線において、さらに、金属線の主体となる金属が、メッキされた金属よりもイオン化傾向が小さくなるようにすれば、例えば、スチール線に亜鉛メッキした金属線や、銅線にニッケルメッキした金属線のようにすれば、酸化反応において主にメッキされた金属(亜鉛やニッケル)が選択的・優先的に反応するようになるので、金属線が変色しても、金属線の主体部分(スチール線や銅線の部分)には、ほとんど影響が出ない。従って、金属線12の主体部分が腐食してその機能を喪失する以前に、未然にチューブの劣化を金属線表層の変色により検知し、チューブの交換が可能となる。
【0031】
(実施例)
亜鉛メッキしたスチール線をシリコーンゴム製のチューブ壁に埋入一体化した外径7mm内径4mmのエラストマーチューブを製造して試験に供した。
試験では、チューブを所定の屈曲形状に折り曲げた後に直線状に戻す操作を2回行い、その後、洗浄液でチューブを洗浄し、130℃のオートクレーブ処理を行った後に、金属線の変色を確認した。この試験を繰り返し行って、金属線の変色の経過を調べた。
【0032】
試験結果によれば、1回目の試験では変色は認められなかったが、2回目の試験で金属線がやや黒ずんでいるのが観察された。この時点では、金属線には当初の金属光沢が残っていた。3回目の試験後には、金属線の全体が完全に黒変し、金属線の周辺の気密性や液密性に何らかの劣化が生じたことがはっきりと確認された。
【0033】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に本発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、以下に示す実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施することもできる。
【0034】
チューブ壁に埋入一体化される金属線は複数本が埋入されていても良い。また、チューブ壁の形態は、厳密な円筒であることが必要なわけではなく、金属線埋入部分の肉厚が厚くされていても良いし、チューブ壁に凸条や凹溝やひだがあっても良い。また、上記実施形態では、一本のチューブの実施形態について説明したが、2本やそれ以上のチューブが並列に一体化されたようなチューブ(チューブユニットや多連チューブ)に対しても、本発明は実施できる。
【0035】
金属線とチューブ壁は接着状態であっても良いし、非接着状態であっても良い。非接着状態であれば、金属線の変色がチューブの全長に渡って観察されやすく、劣化の検知性に優れる。
【0036】
また、金属線の埋入形態も、チューブの長さ方向に沿って金属線が埋入されるものであれば、金属線はゆるく螺旋状になったものやゆるいジグザグ状になったものであっても良い。即ち、本発明は、金属線が直線状に埋入されたチューブに限定されるものではない。
【0037】
また、本発明におけるチューブの劣化とは、上記説明したような、ピンホールや亀裂の発生やチューブの端部シールの破壊などに限定されるものではない。チューブを使用すれば、何がしかの劣化が起こりうるので、チューブの使用履歴が明らかになるようにすることも、チューブの劣化検知に含まれる。例えば、金属線を遊挿状態でチューブ壁に埋入しておき、かかるチューブが使用された後に、洗浄、オートクレーブ処理にかけられると、金属線が変色するようにしておけば、チューブの使用履歴(使用の有無)を明らかにしうる。チューブの劣化の監視を厳しく行う必要がある場合には、このように、使用履歴がわかるようにして、劣化検知することができる。
【0038】
また、エラストマーチューブの用途も特に限定されるものではなく、医療用途のほか、理化学分野での輸液用途などにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のエラストマーチューブは例えば歯科診療用の吸引チューブに使用でき、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0040】
1 エラストマーチューブ
11 チューブ壁
12 金属線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明または半透明のエラストマーにより中空円筒状のチューブ壁が形成されたエラストマーチューブであって、
チューブ壁には、チューブの長さ方向に沿って金属線が埋入一体化されており、
少なくとも金属線の外周面部分は、酸化により変色する金属とされた、エラストマーチューブ。
【請求項2】
金属線は金属メッキされている請求項1に記載のエラストマーチューブ。
【請求項3】
亜鉛またはニッケルによって金属メッキされた請求項2に記載のエラストマーチューブ。
【請求項4】
金属線の主体となる金属は、メッキされた金属よりもイオン化傾向が小さい、請求項3に記載のエラストマーチューブ。
【請求項5】
金属線は、亜鉛メッキされたスチール線である請求項4に記載のエラストマーチューブ。
【請求項6】
チューブの長さ方向に沿って金属線がチューブ壁に埋入一体化されたエラストマーチューブの劣化を検知する方法であって、
チューブ壁を透明または半透明のエラストマーで構成すると共に、少なくとも金属線の外周面部分を、酸化により変色する金属で構成して、
金属線の変色の有無を目視することによって、エラストマーチューブの劣化を検知する方法。
【請求項7】
チューブを使用した後に、オートクレーブ処理してから金属線の変色を目視する、請求項6に記載のエラストマーチューブの劣化検知方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−57358(P2013−57358A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195775(P2011−195775)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】