説明

エラストマー形成性組成物、エラストマーシートの製造方法、複合シートの製造方法、建築工事用シートの製造方法

【課題】
シート状の成形品を構成する無黄変または難黄変のウレタンエラストマーを形成するため
に使用される新規な組成物を提供すること。
【解決手段】
(A)非芳香族系のイソシアネートと、数平均分子量500〜10,000の活性水素基含有化合物とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマー(a1)の末端イソシアネート基をブロック化剤で封鎖した、潜在イソシアネート基含有量が2〜15質量%であり、平均官能基数が2〜3である第1のブロックイソシアネート(A1);およびウレトジオン二量体を20質量%以上の割合で含むポリイソシアネート変性体(a2)のイソシアネート基をブロック化剤で封鎖した第2のブロックイソシアネート(A2);並びに(B)数平均分子量が250〜12,000の活性水素基含有化合物を混合してなる一液硬化型のエラストマー形成性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー形成性組成物、エラストマーシートの製造方法、複合シートの製造方法、建築工事用シートの製造方法に関し、さらに詳しくは、シート状の成形品を構成する無黄変または難黄変のポリウレタンエラストマーを形成するために好適に使用される新規な組成物、当該組成物を使用して行うシート状の成形品(エラストマーシート・複合シート・建築工事用シート)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
〔エラストマーシート〕
よごれ防止マット、玄関マット、机上マットなどの用途に、軟質ポリ塩化ビニルからなるエラストマーシートが使用されている。
【0003】
かかるエラストマーシートは、液状またはゾル状の塩化ビニル組成物を金型内で冷却または加熱して固化(硬化)させることにより製造することができる。
【0004】
しかしながら、軟質ポリ塩化ビニルは、DOPなどの可塑剤による環境ホルモンの問題、焼却に伴って発生するダイオキシンの問題などを有している。
【0005】
このため、環境衛生などの事情から、軟質ポリ塩化ビニルに代わるエラストマーシートの材料開発が望まれていた。
【0006】
このような事情から、最近において、ポリウレタンからなるエラストマーシートが紹介されている。
【0007】
かかるエラストマーシートを形成するためのウレタン系組成物(ポリウレタン原料)として、イソシアネート化合物(主剤)と、活性水素基含有化合物(硬化剤)とからなる二液硬化型の組成物が使用されている。
【0008】
しかしながら、二液硬化型のウレタン系組成物を使用してエラストマーシートを製造するためには、第1液を収容するタンク、第2液を収容するタンク、第1液と第2液とを一定の割合で混合するための機構(ミキシングヘッド)などの設備が必要となり、シートの製造装置としての構成が複雑となる。
【0009】
また、二液硬化型のウレタン系組成物にあっては、二液混合後の可使時間(ポットライフ)が短く、かつ、硬化速度の制御が困難である。
【0010】
このため、混合してから短時間で流動性が低下して面積の大きいシートを形成することができなかったり、形成されるシートの厚みにバラツキが生じたりすることがある。
〔複合シート〕
建築養生・塗装飛散防止・落下物対策などのために使用する建築工事用シート;軒出しテント、屋形テント、テント倉庫、ルーフィング用、看板用、野積みシートなどのテントシート;自動車用幌シート;フレキシブルコンテナなどとして、繊維性基布とエラストマーとの複合シート知られている。例えば、「ターポリン」と称される複合シートは、防水性を要求されるが、通気性について要求されない用途において好適に使用されている。また、最近の建築養生シートにおいては、風圧の軽減性能と、軽量であるという点からメッシュタイプのシートが好適に使用されている。
【0011】
かかる複合シートには、(i)繊維性基布の少なくとも一面にエラストマー層が積層されてなる積層型の複合シート、(ii)繊維性基布の両面にエラストマー層が積層されるとともに、当該繊維性基布の内部にエラストマーの連続相が含有されてなる含浸型の複合シートがある。
【0012】
上記(i)の積層型の複合シートは、エラストマー形成性組成物を繊維性基布の少なくとも一面に塗布(コーティング)することにより、当該エラストマー形成性組成物の塗膜を形成し、次いで、当該塗膜を硬化させてエラストマー層を形成することにより製造することができる。
【0013】
また、上記(ii)の含浸型の複合シートは、エラストマー形成性組成物に繊維性基布を浸漬(ディッピング)することにより、エラストマー形成性組成物を繊維性基布に含浸させ、次いで、含浸されたエラストマー形成性組成物を硬化させ、繊維性基布の表面および内部にエラストマーの連続相を形成することにより製造することができる。
【0014】
繊維性基布とエラストマーの複合シートとして、特定の複合糸から形成された繊維性基布の少なくとも一面が、軟質塩化ビニル系樹脂組成物層により被覆されてなるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0015】
この軟質塩化ビニル系樹脂組成物層は、繊維性基布の少なくとも一面に塗布した軟質塩化ビニルペーストゾルを固化することにより形成される。
【0016】
しかしながら、軟質ポリ塩化ビニルは、DOPなどの可塑剤による環境ホルモンの問題、焼却に伴って発生するダイオキシンの問題などを有している。
【0017】
このため、環境衛生などの事情から、複合シートを構成するエラストマーとして、軟質ポリ塩化ビニルに代わる材料の開発が望まれていた。
【0018】
繊維性基布とエラストマーの複合シートとして、下記(1)〜(3)のような積層シートが紹介されている。
(1)繊維性基布の少なくとも一面に、ウレタン系樹脂と、難燃剤(難燃性付与剤・難燃助剤)と、特定の架橋剤(アジリジン系化合物、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物およびカップリング剤から選ばれた少なくとも1種)とを含む難燃性ウレタン系樹脂層が積層されてなる積層シート(例えば、特許文献2参照。)。
【0019】
この難燃性ウレタン系樹脂層は、ウレタン系樹脂を含有する組成物(溶液または水性エマルジョン)を繊維性基布の少なくとも一面に塗布した後、これを熱処理することにより形成される。
(2)繊維性基布の少なくとも一面に、ウレタン系樹脂と難燃性付与剤と特定の架橋剤とを含む高難燃性中間層と;ウレタン系樹脂と難燃助剤とカップリング剤(架橋剤)とを含む準難燃性最外層とが積層されてなる積層シート(例えば、特許文献3参照。)。
【0020】
これら高難燃性中間層および準難燃性最外層は、ウレタン系樹脂を含有する中間層形成用の組成物(溶液または水性エマルジョン)を繊維性基布の少なくとも一面に塗布した後、ウレタン系樹脂を含有する最外層形成用の組成物(溶液または水性エマルジョン)を塗布し、その後、これを熱処理することにより形成される。
(3)繊維性基布の少なくとも一面に、ウレタン系樹脂/アクリル系樹脂の樹脂混合物と、シリコーン系樹脂と、特定の架橋剤(アジリジン系化合物、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、イソシアネート系化合物および/またはカップリング剤)とを含む樹脂層が積層されてなる積層シート(例えば、特許文献4参照。)。
【0021】
この樹脂層は、ウレタン系樹脂/アクリル系樹脂の樹脂混合物と、シリコーン系樹脂と、特定の架橋剤とを含有する組成物(溶液または水性エマルジョン)を繊維性基布の少なくとも一面に塗布した後、これを熱処理することにより形成される。
【0022】
しかしながら、上記(1)〜(3)の積層シート(複合シート)においては、繊維性基布の少なくとも一面に積層される樹脂層(難燃性ウレタン系樹脂層,高難燃性中間層/準難燃性最外層)を形成するための組成物に含有されるウレタン系樹脂が、既に高分子化された固形物であって、当該固形物を有機溶剤に溶解した溶液、または水に分散した水性エマルジョンとして使用される(繊維性基布に塗布される)ものであるため、繊維性基布と馴染みにくく、この結果、当該ウレタン系樹脂によって繊維性基布の表面を均質に被覆することができずに塗布ムラを発生させたり、形成される難燃性ウレタン系樹脂層(エラストマー層)と繊維性基布との間で層間剥離を生じたりする。また、上記(1)〜(3)の積層シートは、建築工事用シートなどに要求される柔軟性を有するものとならない。
【0023】
また、ウレタン系樹脂の溶液を繊維性基布に塗布して樹脂層(エラストマー)を形成する場合には、引火性のある有機溶剤を回収する設備や工程が必須となる。このため、ポリ塩化ビニルによる複合シートを製造していたときの既存設備・方法をそのまま採用することができない。
【0024】
他方、ウレタン系樹脂の水性エマルジョンを繊維性基布に塗布して樹脂層を形成する場合には、分散媒である水の除去(乾燥処理)に長時間を要し、製造効率に劣る。
【0025】
さらに、上記(1)〜(3)の積層シートを製造(エラストマーを形成)するには、特定の架橋剤による架橋工程が必須となる。この架橋反応は複雑な機構であって、所期の機械的強度を有するエラストマーを形成するよう制御することはきわめて困難である。
【0026】
また、アジリジン系化合物やオキサゾリン系化合物など、使用される架橋剤は、人体に有害であり、環境衛生の観点から使用を避けることが望ましい。
【0027】
しかも、ウレタン系樹脂の水性エマルジョンを繊維性基布に塗布して形成される樹脂層(エラストマー)は、架橋工程を実施しても、機械的強度および耐摩耗性が低く、建築工事用シートの構成材料などに要求される性能を具備することができない。
【0028】
建築工事用シートなどを構成するエラストマーには、繊維性基布への追従性、複合シートとしての柔軟性を確保するなどの観点から、ある程度低硬度であること(JIS−A硬度で60以下)が必要である。また、当該エラストマーには、ある程度高い引張強度(例えば3MPa以上)も要求される。
【0029】
しかしながら、従来公知の建築工事用シートなどを構成するエラストマーは、これらの物性(低硬度および高引張強度)を共に具備するものではなかった。
【0030】
また、通常屋外で使用される建築工事用シート、テントシート、自動車用の幌シートなどを構成するエラストマーには、紫外線による経時的な着色(黄変)がないことが要求される。
【特許文献1】特開2002−30572号公報
【特許文献2】特開平11−302979号公報
【特許文献3】特開平11−323736号公報
【特許文献4】特開2002−69854号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
【0032】
本発明の目的は、シート状の成形品(エラストマーシートまたは複合シート)を構成する無黄変または難黄変のポリウレタンエラストマーを形成するために好適に使用される新規な組成物を提供することにある。
【0033】
本発明の他の目的は、シート状の成形品を構成する無黄変または難黄変の難燃性ポリウレタンエラストマーを形成するために好適に使用される新規な組成物を提供することにある。
【0034】
本発明の他の目的は、第1液と第2液の混合機構、高圧ポンプ、高い密閉性の金型などを要しない簡単な構成の製造装置を用いて、シート状の成形品を構成するポリウレタンエラストマーを容易に形成することができる一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0035】
本発明の他の目的は、ポリウレタンエラストマーを形成することができる一液硬化型の組成物であって、有機溶剤および水を含有しない無溶剤タイプの組成物を提供することにある。
【0036】
本発明の他の目的は、ポリ塩化ビニルにより構成されるシート状成形品を製造する場合と同様の製造設備・方法で、シート状の成形品を構成するポリウレタンエラストマーを容易に形成することができる一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0037】
本発明の他の目的は、短い時間で硬化して、所期の物性(硬度および引張強度)を有するポリウレタンエラストマーを確実に形成することができる硬化性の良好な一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0038】
本発明の他の目的は、短い時間で硬化して、熱的安定性の良好なポリウレタンエラストマーを確実に形成することができる硬化性の良好な一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0039】
本発明の他の目的は、低硬度でありながら、ある程度高い機械的強度を有するウレタンエラストマーシートを形成することができる一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0040】
本発明の他の目的は、低硬度でありながら、金型からの取出しが容易なウレタンエラストマーシートを形成することができる一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0041】
本発明の他の目的は、厚みが均一で薄肉のウレタンエラストマーシートを形成することができる一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0042】
本発明の他の目的は、繊維性基布の少なくとも一面にウレタンエラストマー層が積層されてなる複合シートを製造するために好適に使用される一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0043】
本発明の他の目的は、繊維性基布の内部にウレタンエラストマーが含有されてなる複合シートを製造するために好適に使用される一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0044】
本発明の他の目的は、繊維性基布の少なくとも一面にウレタンエラストマー層が積層されてなる建築工事用シートを製造するために好適に使用される一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0045】
本発明の他の目的は、繊維性基布の内部にウレタンエラストマーが含有されてなる建築工事用シートを製造するために好適に使用される一液硬化型の組成物を提供することにある。
【0046】
本発明の更に他の目的は、新規なエラストマー形成性組成物を使用するエラストマーシートの製造方法を提供することにある。
【0047】
本発明の更に他の目的は、新規なエラストマー形成性組成物を使用する複合シートの製造方法を提供することにある。
【0048】
本発明の更に他の目的は、新規なエラストマー形成性組成物を使用する建築工事用シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0049】
本発明の組成物は、シート状の成形品を構成する、JIS−A硬度が30〜60のポリウレタンエラストマーを形成するための組成物であって、(A)非芳香族系のイソシアネートと、数平均分子量500〜10,000の活性水素基含有化合物とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマー(a1)〔以下、「特定のイソシアネートプレポリマー(a1)」という。〕の末端イソシアネート基をブロック化剤で封鎖した、潜在イソシアネート基含有量が2〜15質量%であり、平均官能基数が2〜3である第1のブロックイソシアネート(A1);およびウレトジオン二量体を20質量%以上の割合で含むポリイソシアネート変性体(a2)〔以下、「特定のポリイソシアネート変性体(a2)」という。〕のイソシアネート基をブロック化剤で封鎖した第2のブロックイソシアネート(A2);並びに(B)数平均分子量が250〜12,000の活性水素基含有化合物を混合してなる一液硬化型のエラストマー形成性組成物である。
【0050】
本発明のエラストマー形成性組成物においては、下記の形態が好ましい。
〔1〕特定のポリイソシアネート変性体(a2)が、ウレトジオン二量体を20〜80質量%の割合で含むこと。
〔2〕特定のポリイソシアネート変性体(a2)が、ウレトジオン二量体を30〜60質量%の割合で含むこと。
〔3〕特定のポリイソシアネート変性体(a2)が、ウレトジオン二量体を20〜80質量%の割合で含み、イソシアヌレート環状三量体を80〜20質量%の割合で含むこと。
〔4〕特定のポリイソシアネート変性体(a2)が、ウレトジオン二量体を30〜60質量%の割合で含み、イソシアヌレート環状三量体を60〜20質量%の割合で含むこと。
〔5〕一液型のエラストマー形成性組成物が常温液状であること。
〔6〕特定のポリイソシアネート変性体(a2)が、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の変性体からなること。
〔7〕特定のイソシアネートプレポリマー(a1)が、HDIのプレポリマーからなること。
〔8〕難燃剤を含有するものであること。
〔9〕ポリウレタンエラストマーからなるシート(単独のシート体)を製造するために、金型内において硬化処理されるものであること。
〔10〕繊維性基布の少なくとも一面にエラストマー層が積層されてなる複合シート(以下、「積層型の複合シート」ともいう。)を製造するために、当該繊維性基布の少なくとも一面に塗布された後に硬化処理されるものであること。
〔11〕繊維性基布の内部にエラストマーの連続相が含有されてなる複合シート(以下、「含浸型の複合シート」ともいう。)を製造するために、当該繊維性基布に含浸された後に硬化処理されるものであること。
【0051】
本発明のエラストマーシートの製造方法は、本発明のエラストマー形成性組成物を金型内で硬化処理する工程を含むことを特徴とする。
【0052】
本発明の複合シートの製造方法は、積層型の複合シートを製造する方法であって、本発明のエラストマー形成性組成物を繊維性基布の少なくとも一面に塗布する工程と、当該エラストマー形成性組成物による塗膜を硬化させてエラストマー層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0053】
本発明の複合シートの製造方法は、含浸型の複合シートを製造する方法であって、本発明のエラストマー形成性組成物に繊維性基布を浸漬する工程と、当該繊維性基布に含浸されたエラストマー形成性組成物を硬化させる工程とを含むことを特徴とする。
【0054】
本発明の建築工事用シートの製造方法は、積層型の複合シートからなる建築工事用シートを製造する方法であって、本発明のエラストマー形成性組成物を繊維性基布の少なくとも一面に塗布する工程と、当該エラストマー形成性組成物による塗膜を硬化させてエラストマー層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0055】
本発明の建築工事用シートの製造方法は、含浸型の複合シートからなる建築工事用シートを製造する方法であって、本発明のエラストマー形成性組成物に繊維性基布を浸漬する工程と、当該繊維性基布に含浸されたエラストマー形成性組成物を硬化させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0056】
本発明のエラストマー形成性組成物によれば以下の効果が奏される。
(1)シート状の成形品(エラストマーシート・複合シート)を構成する無黄変または難黄変性のポリウレタンエラストマーを確実に形成することができる。
(2)難燃剤を含有することにより、シート状の成形品を構成する無黄変または難黄変性の難燃性ポリウレタンエラストマーを確実に形成することができる。
(3)可塑剤による環境ホルモンの問題、焼却に伴うダイオキシンの問題などを発生させることはない。
(4)一液硬化型の常温液状組成物であるので、簡単な構成の製造装置を用いて、シート状の成形品を構成するポリウレタンエラストマーを容易に形成することができる。
(5)一液硬化型の組成物であるので、可使時間(ポットライフ)に制限がなく、保存安定性にも優れている。
(6)有機溶剤および水を含有しない無溶剤タイプの一液硬化型の組成物であるので、塗布または浸漬後、乾燥処理を実施することなく、直ちに硬化処理を実施することができる。
(7)有機溶剤および水を含有しない無溶剤タイプの一液硬化型の組成物であるので、溶剤を回収する設備や工程が不要であり、ポリ塩化ビニルにより構成されるシート状成形品を製造する場合と同様の製造設備・方法で、シート状の成形品を構成するポリウレタンエラストマーを容易に形成することができる。
(8)ウレトジオン基が導入された第2のブロックイソシアネート(A2)を必須成分としているので、硬化性に優れ、短い時間で硬化して、所期の物性(硬度および引張強度)を有するポリウレタンエラストマーを確実に形成することができる。
(9)ウレトジオン二量体とともにイソシアヌレート環状三量体を一定の割合で含む特定のポリイソシアネート変性体(a2)のイソシアネート基をブロック化剤で封鎖して得られる第2のブロックイソシアネート(A2)が含有されてなる組成物は、短い時間で硬化して、熱的安定性の良好なポリウレタンエラストマーを確実に形成することができる。
(9)低硬度(JIS−A硬度で60以下)でありながら、ある程度高い機械的強度(引張強度が3MPa以上)を有するウレタンエラストマーシートを確実に形成することができる。
(10)低硬度(JIS−A硬度で60以下)でありながら、金型からの取出しが容易なウレタンエラストマーシートを確実に形成することができる。
(11)厚みが均一で薄肉のウレタンエラストマーシートを確実に形成することができる。(12)建築工事用シートなどの構成要素として望ましい諸特性(無黄変または難黄変性・低硬度・高強度・耐摩耗性・繊維性基布に対する接着性および追従性)を兼ね備えたエラストマーを確実に形成することができる。
(13)耐摩耗性および柔軟性に優れた複合シート(積層型複合シートおよび含浸型複合シート)を確実に製造することができる。
【0057】
本発明のエラストマーシートの製造方法によれば、無黄変または難黄変性・低硬度・高強度・耐摩耗性などの好ましい特性を兼ね備えたポリウレタンからなる、厚みが均一で薄肉のエラストマーシートを確実に製造することができる。
【0058】
本発明の複合シートの製造方法によれば、無黄変または難黄変性・低硬度・高強度・耐摩耗性・繊維性基布に対する接着性および追従性などの好ましい特性を兼ね備えたエラストマーを構成要素とする複合シートを確実に製造することができる。
【0059】
本発明の建築工事用シートの製造方法によれば、無黄変または難黄変性・低硬度・高強度・耐摩耗性・繊維性基布に対する接着性および追従性などの好ましい特性を兼ね備えたエラストマーを構成要素とする建築工事用シートを確実に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
<シート状の成形品>
本発明のエラストマー形成性組成物は、シート状の成形品を構成するポリウレタンエラストマーを形成するための組成物(ポリウレタン原料)である。
【0061】
ここに、「シート状の成形品」には、(1)エラストマーのみからなるシート、(2)繊維性基布の少なくとも一面にエラストマー層が積層されてなる積層型の複合シート、(3)繊維性基布の内部にエラストマーの連続相が含有されてなる含浸型の複合シートが含まれる。
【0062】
なお、「含浸型の複合シート」には、粗目布状の編織物(繊維性基布)を構成している糸が、エラストマーにより被覆されてなるネット状の成形品も含まれる。
【0063】
本発明のエラストマー形成性組成物は、第1のブロックイソシアネート(A1)と、第2のブロックイソシアネート(A2)と、(B)活性水素基含有化合物とを混合してなる一液硬化型のエラストマー形成性組成物である。
【0064】
以下、これらの必須成分について説明する。
<第1のブロックイソシアネート(A1)>
本発明のエラストマー形成性組成物の必須成分である第1のブロックイソシアネート(A1)は、特定のイソシアネートプレポリマー(a1)の末端イソシアネート基をブロック化剤で封鎖してなるブロックイソシアネートである。
【0065】
第1のブロックイソシアネート(A1)を得るために使用される特定のイソシアネートプレポリマー(a1)は、非芳香族系のイソシアネート〔以下、「非芳香族イソシアネート(i)」ともいう。〕と、数平均分子量500〜10,000の活性水素基含有化合物〔以下、「活性水素基含有化合物(ii)」ともいう。〕とを反応させることにより得られる。
【0066】
特定のイソシアネートプレポリマー(a1)を得るために使用するイソシアネート〔非芳香族イソシアネート(i)〕が「非芳香族系」であることにより、最終的に得られるエラストマーは、低硬度(JIS−Aで30〜60)であっても、ある程度高い機械的強度(引張強度で3MPa以上)を有するものとなる。
【0067】
また、非芳香族イソシアネート(i)は、実質的に無黄変のイソシアネートであるため、最終的に得られるエラストマーによって構成されるシート状の成形品(例えば、建築工事用シート)を長期間にわたり屋外で使用しても、当該成形品が経時的に着色(変色)するようなことはない。
【0068】
非芳香族イソシアネート(i)の具体例としては、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの水素添加芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式イソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネートを挙げることができる。
【0069】
これらのうち、入手が容易で、特定のイソシアネートプレポリマー(a1)の形成が容易であるなどの観点から、HDIを使用することが好ましい。
【0070】
特定のイソシアネートプレポリマー(a1)を得るために使用する活性水素基含有化合物(ii)の数平均分子量は500〜10,000とされ、好ましくは1000〜2000とされる。
【0071】
活性水素基含有化合物(ii)の数平均分子量が500〜10,000であることにより、得られるイソシアネート成分〔特定のイソシアネートプレポリマー(a1)〕中に一定量のソフトセグメントを導入することができ、この結果、最終的に得られるエラストマーにおけるソフトセグメントの含有割合が高くなり、当該エラストマーの機械的強度(特に破断時伸び)の向上を図ることができる。
【0072】
活性水素基含有化合物(ii)の具体例としては、後述の(B)活性水素化合物として挙げられている化合物の中から数平均分子量が500〜10,000のものが選択される。
【0073】
特定のイソシアネートプレポリマー(a1)の合成方法としては、過剰量の非芳香族イソシアネート(i)中に活性水素含有化合物(ii)を添加し、50〜100℃で1〜6時間反応させる方法が挙げられる。
【0074】
特定のイソシアネートプレポリマー(a1)におけるイソシアネート基含有量(いわゆるNCO含量)としては、2〜15質量%であることが好ましく、更に好ましくは4〜10質量%とされる。
【0075】
特定のイソシアネートプレポリマー(a1)の有する末端イソシアネート基を封鎖するブロック化剤としては、ε−カプロラクタム、MEKオキシム、アセト酢酸エチルなどを挙げることができる。
【0076】
ブロック化反応は、特定のイソシアネートプレポリマー(a1)中に、前記ブロック化剤を添加し、反応させることにより行うことができる。
【0077】
ブロック化剤の使用量としては、特定のイソシアネートプレポリマー(a1)の有するイソシアネート基のすべてを不活性化できる(ブロック化率=100%)量とされ、ブロック化反応に供されないブロック化剤が僅かに残留するような量であることが好ましい。
【0078】
第1のブロックイソシアネート(A1)は、常温〜80℃の温度範囲で液状であることが取扱い上の点から好ましい。
【0079】
第1のブロックイソシアネート(A1)の潜在イソシアネート基含有量は2〜15質量%とされ、好ましくは4〜10質量%とされる。
【0080】
本発明において、潜在イソシアネート基含有量とは、ブロックイソシアネートの加熱によって再生されるイソシアネート基の含有割合であって、ブロックイソシアネートの質量(ブロック化剤を含む全質量)を100質量%としたときの当該イソシアネート基の質量割合をいう。なお、「再生されるイソシアネート基」には、ブロック化剤の解離によって再生されるもののほか、ブロックイソシアネートにウレトジオン基が含有されている場合には、当該ウレトジオン基の開環によって再生されるものも含まれる。
【0081】
ブロックイソシアネートの潜在イソシアネート基含有量が2質量%未満である場合には、最終的に得られるエラストマーに導入されるウレタン基の割合が過小となり、建築工事用シートなどを構成するエラストマーに要求される機械的強度を得ることができない。一方、この含有量が15質量%を超えると、最終的に得られるエラストマーに導入されるウレタン基の割合が過大となり、建築工事用シートなどを構成するエラストマーに要求される硬度条件(JIS−A硬度が60以下)を具備することができなくなる。
【0082】
第1のブロックイソシアネート(A1)の平均官能基数は2〜3とされる。
【0083】
第1のブロックイソシアネート(A1)を一定の温度以上に加熱すると、ブロック化剤が解離してイソシアネート基が再生する。
【0084】
第1のブロックイソシアネート(A1)の活性を顕在化させるための加熱温度としては、通常100〜250℃とされ、好ましくは130〜210℃とされる。
<第2のブロックイソシアネート(A2)>
本発明のエラストマー形成性組成物の必須成分である第2のブロックイソシアネート(A2)は、特定のポリイソシアネート変性体(a2)のイソシアネート基をブロック化剤で封鎖してなるブロックイソシアネートである。
【0085】
第2のブロックイソシアネート(A2)を得るために使用される特定のポリイソシアネート変性体(a2)は、ウレトジオン二量体を20質量%以上の割合で含むポリイソシアネートの変性体である。
【0086】
特定のポリイソシアネート変性体(a2)を構成するウレトジオン二量体は、1個のウレトジオン基と、少なくとも2個のイソシアネート基とを分子中に有してなるポリイソシアネートの変性体である。ウレトジオン二量体を加熱することにより、1個のウレトジオン基から2個のイソシアネート基が再生され、ポリイソシアネート2分子が得られる。ここに、ウレトジオン基(自己ブロック)からのイソシアネート基の再生は、揮発性のあるブロック化剤の解離を伴わない点で有利である。
【0087】
特定のポリイソシアネート変性体(a2)におけるウレトジオン二量体の含有割合は、通常20質量%以上とされ、好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは30〜60質量%とされる。
【0088】
ウレトジオン二量体の含有割合が20質量%未満である場合には、これを含有してなるエラストマー形成性組成物に良好な硬化性(加熱により短い時間で硬化して、所期の物性を有するポリウレタンエラストマーを形成することができる性能)を付与することができず、加熱時間(硬化時間)の短縮化を十分に図ることができない。
【0089】
特定のポリイソシアネート変性体(a2)は、ウレトジオン二量体のみからなるものであってもよいが、他の種類の変性体が含有されていてもよい。
【0090】
特定のポリイソシアネート変性体(a2)を構成する「他の種類の変性体」としては、 (1)ポリイソシアネートのイソシアヌレート環状三量体、
(2)ウレトジオン基を含有する三量体以上の変性体、
(3)ウレトジオン基を含有しない四量体以上の変性体などを挙げることができる。
【0091】
これらのうち、ポリイソシアネートのイソシアヌレート環状三量体が含有されていることが好ましく、これにより、最終的に得られるエラストマーの熱的安定性を向上させることができる。
【0092】
特定のポリイソシアネート変性体(a2)におけるイソシアヌレート環状三量体の含有割合としては、20〜80質量%であることが好ましく、更に好ましくは20〜60質量%とされる。
【0093】
イソシアヌレート環状三量体の含有割合が過小である場合には、得られるエラストマーの熱的安定性の向上効果を十分に発揮させることができない。
【0094】
一方、この割合が過大となる場合には、加熱時間(硬化時間)の短縮化を十分に図ることができない。
【0095】
ここに、特定のポリイソシアネート変性体(a2)の好ましい組成としては、「ウレトジオン二量体:イソシアヌレート環状三量体:その他の変性体(質量比)」=20〜80:80〜20:0〜50とされ、更に好ましくは30〜60:60〜20:10〜50とされる。
【0096】
ウレトジオン二量体を得るために使用されるポリイソシアネート(単量体)としては、非芳香族イソシアネート(i)の例示化合物として既述した脂環式イソシアネートおよび脂肪族イソシアネートを挙げることができ、これらのうち、入手が容易で取扱性に優れていることなどから、HDIを使用することが好ましい。
【0097】
HDIのウレトジオン二量体およびイソシアヌレート環状三量体を含む特定のポリイソシアネート変性体(a2)を合成する方法としては、特許第3297954号公報に記載されている方法を挙げることができる。具体的には、HDI、またはHDIの有するイソシアネート基の一部にポリオールを付加してなるものを、触媒の存在下に、40〜80℃で反応(二量化反応・三量化反応)させる方法である。反応の進行は、反応生成物におけるイソシアネート基の濃度を測定することにより追跡し、目的の反応率に到達したときに停止剤(例えば、リン酸、パラトルエンスルホン酸メチルなど)を添加して、反応を停止させ、次いで、反応生成物中に遊離して存在している未反応のHDI(単量体)を除去する。未反応のHDIを除去する方法としては、溶剤(例えばn−ヘキサン)抽出、薄膜蒸留(0.01〜0.1Torr/120〜140℃)などを挙げることができ、未反応のHDIの残留含有率は0.5質量%未満とすることが好ましい。
【0098】
ここに、二量化反応・三量化反応を促進させることのできる触媒としては、トリエチルフォスフィン、ジブチルエチルフォスフィン、トリ−n−プロピルフォスフィン、トリイソプロピルフォスフィン、トリ−n−ブチルフォスフィン、トリイソブチルフォスフィン、トリ−t−ブチルフォスフィン、トリアミルフォスフィン、トリオクチルフォスフィン、トリベンジルフォスフィン、ベンジルメチルフォスフィンなどの有機リン化合物などを挙げることができる。
【0099】
さらに、助触媒として、フェノール性またはアルコール性のヒドロキシ化合物を併用することが好ましい。ここに、フェノール性のヒドロキシ化合物としては、フェノール、クレゾール、トリメチルフェノールなどが挙げられ、アルコール性のヒドロキシ化合物としては、エタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールなどが挙げられる。
【0100】
特定のポリイソシアネート変性体(a2)におけるイソシアネート基含有量としては、15〜30質量%であることが好ましく、更に好ましくは20〜25質量%とされる。
【0101】
特定のポリイソシアネート変性体(a2)の有するイソシアネート基を封鎖するブロック化剤としては、特定のアダクトイソシアネート(a1)の末端イソシアネート基を封鎖するブロック化剤として例示したε−カプロラクタム、MEKオキシム、アセト酢酸エチルなどを挙げることができる。
【0102】
ブロック化反応は、特定のポリイソシアネート変性体(a2)中に、前記ブロック化剤を添加し、反応させることにより行うことができる。
【0103】
ブロック化剤の使用量としては、特定のポリイソシアネート変性体(a2)の有するイソシアネート基のすべてを不活性化できる(ブロック化率=100%)量とされ、ブロック化反応に供されないブロック化剤が僅かに残留するような量であることが好ましい。
【0104】
第2のブロックイソシアネート(A2)は、常温〜80℃の温度範囲で液状であることが取扱い上の点から好ましい。
【0105】
第2のブロックイソシアネート(A2)の潜在イソシアネート基含有量〔ブロック化剤の解離による再生イソシアネートと、ウレトジオン基の開環による再生イソシアネートとの合計の含有割合〕としては8〜30質量%であることが好ましく、更に好ましくは15〜25質量%とされる。
【0106】
第2のブロックイソシアネート(A2)の平均官能基数は2〜4であることが好ましい。
【0107】
第2のブロックイソシアネート(A2)を一定の温度以上に加熱すると、ブロック化剤が解離してイソシアネート基が再生するとともに、ウレトジオン二量体などに由来するウレトジオン基が開環して2個のイソシアネート基が再生(ブロック化剤の放出を伴わない再生)する。
【0108】
第2のブロックイソシアネート(A2)の活性を顕在化させるための加熱温度、すなわち、ブロック化剤を解離させるとともに、ウレトジオン基を開環させてイソシアネート基を再生させるための加熱温度としては、通常100〜200℃とされ、好ましくは120〜180℃とされる。
【0109】
本発明のエラストマー形成性組成物は、第2のブロックイソシアネート(A2)による優れた硬化性(ウレトジオン基により発現される硬化性)が付与され、一定の温度以上に加熱することによって短い時間で硬化して、所期の物性(硬度および引張強度)を有するポリウレタンエラストマーを形成することができる。
<(B)活性水素基含有化合物>
本発明のエラストマー形成性組成物の必須成分である(B)活性水素基含有化合物としては、(1)低分子量(250≦Mn<500)のアミノ基含有化合物、(2)高分子量(500≦Mn≦12,000)のアミノ基含有化合物、(3)低分子量(250≦Mn<500)の水酸基含有化合物、(4)高分子量(500≦Mn≦12,000)の水酸基含有化合物、(5)3級アミノ基と水酸基を併有する化合物を挙げることができる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0110】
なお、アミノ基含有化合物は、通常、水酸基含有化合物よりも反応性が高いので、アミノ基含有化合物と水酸基含有化合物とを併用する場合には、両者の反応性を考慮して、それぞれの化合物を選択する必要がある。
【0111】
(B)活性水素基含有化合物の数平均分子量は250〜12,000とされ、好ましくは300〜8,000とされる。
【0112】
活性水素基含有化合物の数平均分子量が250未満であると、最終的に得られるエラストマーに導入されるウレタン基の割合が過大となり、建築工事用シートなどを構成するエラストマーに要求される硬度条件(JIS−A硬度が60以下)を具備することができなくなる。一方、数平均分子量が12,000を超えると、最終的に得られるエラストマーに導入されるウレタン基の割合が過小となり、建築工事用シートなどを構成するエラストマーに要求される機械的強度を得ることができない。
【0113】
(B)活性水素基含有化合物として使用される低分子量のアミノ基含有化合物の具体例としては、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3−アミノ−1−シクロヘキシルアミノプロパン、イソホロンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロへキサン、ポリオキシアルキレンポリアミンなどを挙げることができる。
【0114】
なお、MOCAなどハロゲンを含有するポリアミンよりも、ハロゲンを含有しないポリアミンを使用することが好ましい。
【0115】
また、第1のブロックイソシアネート(A1)および第2のブロックイソシアネート(A2)との反応性の観点から、低分子量のアミノ基含有化合物の有するアミノ基としては、芳香族環についたもので、芳香環の隣接位置にアルキル基があるものや芳香環についた2級アミノ基が好ましい。
【0116】
脂肪族1級ジアミノ化合物は、イソシアネートとの反応性が大きすぎるため、高分子化したエラストマーを得ることが難しい。
【0117】
(B)活性水素基含有化合物として使用される高分子量のアミノ基含有化合物としては、ポリエーテルポリオールの末端における水酸基をアミノ基に置換したポリオキシアルキレンポリアミンを挙げることができ、官能基(アミノ基)数が2〜3、数平均分子量が1,000〜5,000であるポリオキシアルキレンポリアミンの市販品をハンツマン社より入手することができる。
【0118】
(B)活性水素基含有化合物として使用される高分子量の水酸基含有化合物としては、通常のポリウレタン樹脂のソフトセグメントを構成する公知のポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリ炭酸エステル系ポリオールなどを挙げることができる。
【0119】
ここに、ポリエステル系ポリオールとしては、数平均分子量が500未満の水酸基含有化合物と、多塩基酸(例えばアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカジカルボン酸、フマル酸、無水フタル酸)との重縮合反応により得られるポリオールを挙げることができる。
【0120】
ポリエーテル系ポリオールとしては、数平均分子量が500未満の水酸基含有化合物にアルキレンオキサイドを付加して得られる化合物を挙げることができ、その具体例としては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、エチレンオキサイド、プロオキサイドの付加体であるポリオキシエチレンオキシプロピレンポリオール、テトラヒドロフランから得られるPTMG、3−メチルテトラヒドロフランを含有するテトラヒドロフランから得られる液状PTMGを挙げることができる。
【0121】
ポリ炭酸エステル系ポリオールとしては、低分子量の水酸基含有化合物(例えば、活性水素基含有化合物(ii)として例示した水酸基含有化合物と同一の化合物)と、低分子量カーボネート(例えばジアルキルカーボネート、アルキレンカーボネート、ジフェニルカーボネート)との脱アルコール反応または脱フェノール反応により得られるポリオールを挙げることができる。
【0122】
(B)活性水素基含有化合物として使用される、3級アミノ基と水酸基を併有する化合物としては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’,N”−ペンタキス(2−ヒドロキシプロピル)ジエチレントリアミンなどを挙げることができる。
【0123】
<(C)難燃剤>
本発明のエラストマー形成性組成物には、(C)難燃剤が含有されていることが好ましい。かかる難燃剤としては、特に限定されるものではなく、エラストマーの難燃剤として公知の有機ハロゲン系化合物、リン系化合物、(イソ)シアヌル酸誘導体化合物等の窒素含有化合物、無機化合物などを使用することができる。なお、環境の観点からはハロゲンを含有しない難燃剤を使用することが好ましい。
【0124】
(C)難燃剤として使用される有機ハロゲン系化合物の具体例としては、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ジブロモネオペンチルグリコール、デカブロモジフェニルオキサイド(DBDPO)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、トリブロモフェノール(TBP)、エチレンビステトラブロモフタルイミド、臭素化ポリスチレン、TBBPAエポキシオリゴマー、TBBPAビスジブロモプロピルエーテル、エチレンビスペンタブロモジフェニルなどを挙げることができる。
【0125】
(C)難燃剤として使用されるリン系化合物としては、オルソリン酸アンモニウムと尿素の縮合生成物などのポリリン酸アンモニウム系化合物;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートおよびオクチルジフェニルホスフェートなどのリン酸エステル類;高分子量化したポリホスフェートなどの縮合リン酸エステル類などを挙げることができる。
【0126】
(C)難燃剤として使用される(イソ)シアヌル酸誘導体化合物(ハロゲン非含有含窒素化合物)としては、メラミン、硫酸メラミン、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、メチロールメラミン、シアヌル酸トリメチルエステル、シアヌル酸トリエチルエステル、アンメリン、アンメリド、2,4,6−トリオキシシアニジンおよびメラミンシアヌレートなどのシアヌル酸誘導体;イソアンメリン、イソメラミン、イソアンメリド、トリメチルカルボジイミド、トリエチルカルボジイミドおよびトリカルボイミドなどのイソシアヌル酸誘導体などを挙げることができる。
【0127】
(C)難燃剤として使用される、(イソ)シアヌル酸誘導体化合物以外の窒素含有化合物(ハロゲン非含有含窒素化合物)としては、例えばジシアンジアミド、ジシアンジアミジシン、グアニジン、スルファミン酸グアニジン、及びジグアニドなどのシアナミド誘導体;並びに尿素、ジメチロール尿素、ジアセチル尿素、トリメチル尿素、及びN−ベンゾイル尿素などの尿素誘導体などを挙げることができる。
【0128】
(C)難燃剤として使用される無機化合物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、四ホウ酸酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、二リン酸ナトリウム、リン酸亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンおよび窒素化グアニジン、赤燐などを挙げることができる。
<任意成分>
本発明のエラストマー形成性組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲において、任意成分として、通常のエラストマー形成性組成物(ポリウレタン原料)を構成する成分が含有されていてもよい。かかる任意成分としては、触媒、可塑剤、消泡剤、補強剤などを挙げることができる。
【0129】
任意成分である触媒としては、第1のブロックイソシアネート(A1)および第2のブロックイソシアネート(A2)の潜在イソシアネート基からブロック化剤を解離させる(イソシアネート基の顕在化)とともに、ウレタン化反応を促進させることのできる物質、例えばジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート(DOTDL)、トリエチルアミン、ネオデカン酸ビスマス、ジアザビシクロウンデセンなどを挙げることができ、これらのうち、ジオクチルチンジラウレート(DOTDL)が好ましい。
【0130】
本発明の一液硬化型のエラストマー形成性組成物は常温液状であることが好ましいが、
さらに低粘度化させるために、可塑剤を添加することもできる。
尚、ここでの常温とは10〜30℃の温度範囲であり、液状とは粘度が50,000MPa・S以下であるものを云う。
【0131】
かかる可塑剤としては、例えばポリエステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、エポキシ系可塑剤、フタル酸系可塑剤などを挙げることができる。
【0132】
消泡剤を含有させることにより、本発明のエラストマー形成性組成物の調製時に巻き込まれた空気に由来する泡を除去することができる。
【0133】
かかる消泡剤としては、シリコーン系の消泡剤を挙げることができる。
【0134】
補強剤を含有させることにより、得られる成形品の強度(引張強度・曲げ強度)および保形性を向上させることができる。
【0135】
かかる補強剤としては、ガラス繊維などの無機充填剤を挙げることができる。
【0136】
更に公知の各種添加剤を加えることができる。例えば、成形品(エラストマー)の着色を目的とする染料および顔料、離型剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、電気絶縁性向上剤、防かび剤、有機酸の金属塩、アミド系ワックス、金属酸化物、金属水酸化物などの増量剤などを挙げることができる。
【0137】
本発明のエラストマー形成性組成物は一液硬化型の組成物であり、主剤、硬化剤からなる二液硬化型の組成物と異なり、混合操作が不要で、混合後のポットライフを考慮する必要もない。また貯蔵においても、液性を保持したまま保管可能である。
【0138】
本発明のエラストマー形成性組成物は、一定の温度以上に加熱することにより、第1のブロックイソシアネート(A1)および第2のブロックイソシアネート(A2)のそれぞれの有する潜在イソシアネート基からブロック化剤が解離してイソシアネート基が再生するとともに、第2のブロックイソシアネート(A2)の有するウレトジオン基が開環して2個のイソシアネート基が再生し、ウレタン化反応および/またはウレア化反応が瞬時に行われ、シャープに硬化する。
<エラストマーシート>
本発明のエラストマー形成性組成物は、JIS−A硬度が30〜60のポリウレタンエラストマーからなるシート(エラストマーシート)を製造するために、金型に注入された後、当該金型内で硬化処理される。
【0139】
本発明のエラストマーシートの製造方法は、本発明のエラストマー形成性組成物を金型内で硬化処理する工程を含むことを特徴とする。
【0140】
ここに、金型への注入操作は、容量の小さな吐出機や手作業でも可能である。
【0141】
金型に注入された本発明のエラストマー形成性組成物を一定の温度で加熱することにより、第1のブロックイソシアネート(A1)および第2のブロックイソシアネート(A2)のそれぞれの有する潜在イソシアネート基におけるブロック化剤が解離してイソシアネート基が再生(顕在化)するとともに、第2のブロックイソシアネート(A2)の有するウレトジオン基が開環して2個のイソシアネート基が再生(顕在化)し、これらの再生されたイソシアネート基と、(B)活性水素含有化合物との反応(硬化反応)が生じる。金型内における加熱条件としては、100〜250℃で1〜10分間とされる。
【0142】
硬化処理により得られるエラストマーシートは、低硬度のエラストマーでありながら、金型から容易に取り出すことができる。
【0143】
本発明のエラストマー形成性組成物(製造方法)によって形成されるエラストマーシートは、よごれ防止用床置きマット、玄関マット、机上マットなどの用途に好適に使用することができる。
【0144】
上記の用途に使用するという観点から、当該エラストマーシートの厚さは、通常0.2〜5mmとされ、好ましくは0.2〜3mmとされる。
【0145】
また、当該エラストマーシートの硬度(JIS−A硬度)は30〜60であることが必要とされる。
【0146】
また、当該エラストマーシートの引張強度は、3MPa以上であることが好ましく、更に好ましくは5MPa以上とされる。
【0147】
また、当該エラストマーシートの破断時伸びは100%以上であることが好ましく、更に好ましくは200%以上とされる。
<複合シート>
本発明のエラストマー形成性組成物は、積層型の複合シートを製造するために、繊維性基布の少なくとも一面に塗布された後に硬化処理される。
【0148】
また、本発明のエラストマー形成性組成物は、含浸型の複合シートを製造するために、繊維性基布に含浸された後に硬化処理される。
<繊維性基布>
繊維性基布を構成する繊維としては、特に限定されるものではなく、木綿、麻などの天然繊維;ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維などの無機繊維;ビスコースレーヨン、キュプラ、ポリノジックなどの再生繊維;ジアセテート繊維、トリアセテート繊維、プロミックスなどの半合成繊維;ナイロン6、ナイロン66、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートなど)、芳香族ポリアミド、アクリル、およびポリオレフィンなどの合成繊維を例示することができ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0149】
繊維性基布の組織を形成する糸(繊維の集合体)としては、短繊維紡績糸(スパンヤーン)、長繊維糸条(フィラメントヤーン)、マルチフィラメント糸、スプリットヤーン、テープヤーン、マルチフィラメントにステープルファイバー(短繊維)を絡ませた複合糸(特開2002−30572号公報参照)、当該複合糸を更に撚り合わせた複合撚糸(同公報参照)などの何れであってもよい。
【0150】
繊維性基布の基布組織としては、織物、編物、不織布またはこれらの複合体の何れであってもよい。
【0151】
また、繊維性基布の編織組織としては、(i)少なくともそれぞれ、糸間間隙をおいて平行に配置された経糸および緯糸を含む糸条により構成された粗目布状の編織物(メッシュ・網地・網目織り・ネットなどと称されるものをすべて含む概念)、および(ii)糸条間に実質上間隙が形成されていない非粗目布状の編織物の何れであってもよく、複合シートの用途に応じて、「粗目布状」および「非粗目布状」の何れにするか選択すればよい。
【0152】
ここに、通気性が要求される複合シート(例えば、最近の建築工事用シート)を構成する繊維性基布には「粗目布状」の編織物が使用され、通気性が要求されない複合シート(例えばテントシートなどに代表されるターポリン)を構成する繊維性基布には「非粗目布状」の編織物が使用される。上記(i)の粗目布状の編織物の透孔面積率(空隙率)としては、10〜95%程度であることが好ましく、網目の糸間間隔としては、0.5〜5mmが好ましい。又、網目を構成する糸の太さは、0.05〜1mmのものが好ましい。
【0153】
繊維性基布の厚さとしては、複合シートの用途や要求性能によっても異なるが、例えば建築工事用シートを構成する繊維性基布の場合、0.05〜2mmであることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2mmである。
【0154】
ここに、網目の大きなものは、糸を太くする必要があり、それに伴って繊維性基布も厚くなる。
<積層型の複合シートの製造方法>
本発明の積層型の複合シートの製造方法は、本発明のエラストマー形成性組成物を繊維性基布の少なくとも一面に塗布(コーティング)する工程と、当該エラストマー形成性組成物による塗膜を硬化させてエラストマー層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0155】
エラストマー形成性組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ナイフコータ、ロールコータ、スプレーなどを使用する方法を挙げることができる。
【0156】
本発明のエラストマー形成性組成物は、無溶剤タイプであるため、塗膜の乾燥(溶剤の除去)を実施することなく、直ちに塗膜の硬化処理を実施することができる。
【0157】
本発明のエラストマー形成性組成物による塗膜の硬化処理(エラストマー層の形成)は、オーブンや熱プレスにより当該塗膜を加熱することにより行われる。加熱条件としては、100〜250℃で1〜10分間とされる。塗膜の硬化処理により、繊維性基布の少なくとも一面にエラストマー層が積層されてなる積層型の複合シートが得られる。
【0158】
積層型の複合シートを構成するエラストマー層の厚さは0.05〜2mmであることが好ましく、更に好ましくは0.1〜1mmとされる。
【0159】
積層型の複合シートの厚さは、0.2〜3.0mmであることが好ましく、更に好ましくは0.4〜2.0mmとされる。
<含浸型の複合シートの製造方法>
本発明の含浸型の複合シートの製造方法は、本発明のエラストマー形成性組成物に繊維性基布を浸漬(ディッピング)する工程と、当該繊維性基布に含浸されたエラストマー形成性組成物を硬化させる工程とを含むことを特徴とする。
【0160】
浸漬によってエラストマー形成性組成物を繊維性基布に十分に含浸させた後(すなわち、当該繊維性基布を構成する糸がエラストマー形成性組成物により完全に被覆された後)、当該繊維性基布をロールなどに通して過剰量のエラストマー形成性組成物を絞り出してもよい。
【0161】
繊維性基布に含浸されたエラストマー形成性組成物の硬化処理は、オーブンや熱プレスにより当該繊維性基布を加熱することにより行われる。加熱条件としては、100〜250℃で1〜10分間とされる。硬化処理により、繊維性基布の内部にエラストマーの連続相が含有されてなる含浸型の複合シートが得られる。
【0162】
粗目布状の編織物からなる繊維性基布を使用して得られる複合シートは、当該繊維性基布の粗目組織に由来するネット状の成形品となり、通気性が要求される用途に使用することが可能となる。
【0163】
含浸型の複合シートの厚さは、0.2〜3.0mmであることが好ましく、更に好ましくは0.4〜2.0mmとされる。この厚さは、繊維性基布を構成する糸の太さと付着したエラストマーの厚さに依存する。
【0164】
本発明の製造方法により得られた複合シートは、建築養生・塗装飛散防止・落下物対策などのために使用する建築工事用シート;軒出しテント、屋形テントなどのテントシート;自動車用幌シート;フレキシブルコンテナなどの用途に好適に使用することができる。
【0165】
上記のような用途に使用するという観点から、複合シートを構成するエラストマー(積層型の複合シートにおけるエラストマー層/含浸型の複合シートの内部に含有されるエラストマーの連続相)の硬度(JIS−A硬度)は30〜60であることが必要とされる。この硬度が30未満であると、上記の用途に使用する複合シートを構成するエラストマーに要求される機械的強度を得ることができない。一方、この硬度が60を超えると、積層型の複合シートにおいて、繊維性基布に対する追従性が低下して層間剥離を生じたり、含浸型の複合シートにおいて、所期の柔軟性が得られなかったりする。
【0166】
また、複合シートの製造に使用したエラストマー形成性組成物を、複合シートを製造したときと同一の硬化条件(加熱条件)で形成したエラストマーシートの引張強度は、3MPa以上であることが好ましく、更に好ましくは5MPa以上とされる。
【0167】
また、当該エラストマーシートの破断時伸びは100%以上であることが好ましく、更に好ましくは200%以上とされる。
【実施例1】
【0168】
以下に、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定して解釈されるものではない。
【0169】
なお、以下において「部」および「%」は、特にことわらない限り、それぞれ、「質量部」および「質量%」を意味する。
【0170】
また、以下の実施例において、(B)活性水素基含有化合物としては、下記の水酸基含有化合物(B−1)〜(B−2)を使用した。
(1)水酸基含有化合物(B−1):
3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびトリメチロールプロパンと、アジピン酸との重縮合反応により得られたポリエステル系ポリオール「F−1010」(株式会社クラレ製,水酸基価=164mgKOH/g,平均官能基数=約3,数平均分子量=1,027)
(2)水酸基含有化合物(B−2):
3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびトリメチロールプロパンと、アジピン酸との重縮合反応により得られたポリエステル系ポリオール「F−3010」(株式会社クラレ製,水酸基価=56mgKOH/g,平均官能基数=3,数平均分子量=3000)
〔合成例1(第1のブロックイソシアネート(A1)の合成)〕
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の336grと、クラレポリオールP−1010NF1000grとを100℃で反応させ次いでε−カプロラクタム237gを100℃で反応させることにより、透明な粘調液体からなる第1のブロックイソシアネート(A1)を得た。以下、これを「ブロックイソシアネート(A1−1)」という。このブロックイソシアネート(A1−1)の潜在イソシアネート基含有量は5.3%、平均官能基数は2であった。
〔合成例2(第2のブロックイソシアネート(A2)の合成)〕
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた四ッ口フラスコに、HDI(日本ポリウレタン工業(株)製;イソシアネート基含有量=49.9%、固形分=100%)1000部と、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール7.5部とを仕込んだ。これを攪拌しながら50〜60℃に加熱し、イソシアネート基含有量が49.1%に達するまでウレタン化反応を進めた。そしてその後、この反応液中にトリブチルフォスフィン(触媒)1.0部を加えてウレトジオン化およびイソシアヌレート化反応を進め、イソシアネート基含有量が42.5%に到達した時点でパラトルエンスルホン酸メチル(停止剤)1.1部を加えて反応を停止させ、淡黄色の反応生成液を得た。未反応のHDIを120〜140℃、0.01〜0.05Torrで薄膜蒸留により除去することによりHDIの変性体を得た。
【0171】
得られたHDIの変性体のイソシアネート基含有量は22.2%、ウレトジオン二量体の含有割合は47%、イソシアヌレート環状三量体の含有割合は31%、未反応のHDIの残留含有率は0.3%、平均官能基数は2.6であった。ここで、ウレトジオン二量体およびイソシアヌレート環状三量体の含有割合は、示差屈折率計検出によるGPCによって測定された各ピークの面積百分率をもとに検量線から求めた値である。また、未反応のHDIの残留含有率は、ガスクロマトグラフィー分析により求めた値である。
【0172】
以上のようにして得られたHDIの変性体を特定のポリイソシアネート変性体(a2)とし、このHDIの変性体100部と;ε−カプロラクタム59.8部とを反応容器に仕込み、80℃で6時間反応させることにより、第2のブロックイソシアネート(A2)を得た。以下、これを「ブロックイソシアネート(A2−1)」という。このブロックイソシアネート(A2−1)の潜在イソシアネート基含有量は24.9%であった。
<実施例1>
合成例1により得られたブロックイソシアネート(A1−1)670部と、合成例2により得られたブロックイソシアネート(A2−1)50部と、水酸基含有化合物(B−1)280部と、ジオクチルチンジラウレート(DOTDL)1部とを混合用容器に仕込み、この系を混合攪拌して均一化することにより、常温液状の本発明のエラストマー形成性組成物を調製した。
【0173】
このようにして得られたエラストマー形成性組成物を、200℃に加熱された金型に注入し、当該エラストマー形成性組成物を当該金型内で6分間にわたり加熱硬化させた後、10分間冷却し、金型を開放して厚さ2mmのエラストマーシート(150mm×200mmの成型品)を取り出した。このエラストマーシートの取出し(脱型)は容易に行うことができた。
<実施例2>
合成例1により得られたブロックイソシアネート(A1−1)420部と、合成例2により得られたブロックイソシアネート(A2−1)50部と、水酸基含有化合物(B−2)530部と、ジオクチルチンジラウレート(DOTDL)1部とを混合用容器に仕込み、この系を混合攪拌して均一化することにより、常温液状の本発明のエラストマー形成性組成物を調製した。
【0174】
このようにして得られたエラストマー形成性組成物を、200℃に加熱された金型に注入し、当該エラストマー形成性組成物を当該金型内で6分間にわたり加熱硬化させた後、10分間冷却し、金型を開放して厚さ2mmのエラストマーシート(150mm×200mmの成型品)を取り出した。このエラストマーシートの取出し(脱型)は容易に行うことができた。
<比較例1>
ジメチルホルムアルデヒド(DMF)40部と、テトラヒドロフラン(THF)40部との混合溶剤に、熱可塑性のウレタン系樹脂「P−390」(日本ミラクトラン社製)20部を溶解して、ウレタン系樹脂の溶液(比較用のエラストマー形成性組成物)を調製した。
【0175】
このようにして得られたウレタン系樹脂の溶液(固形分濃度=20%)を片面開放の金型に注入し、100℃で20分間かけて混合溶剤の一部を蒸発させ、次いで、150℃に雰囲気温度を高め20分掛けて、さらに溶剤を蒸発させた後、10分間冷却し、金型から厚さ1mmのエラストマーシート(150mm×250mmの成型品)を取り出した。厚さ2mmのシートの作製を試みたが、液層の厚みが10mmになり、この液層の厚みでは1時間以上掛けないとフラットなシートはできないので、2mm厚のシートは作製しなかった。
<比較例2>
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた2000mLの四つ口フラスコに、分子量2,000のポリカプロラクトン86.5gと、ネエオペンチルグリコール53.4gと、トリメチロールプロパン4.3gと、ジメチロールプロピオン酸17.9gと、N−メチル−2−ピロリドン34.5gとを仕込み、窒素を導入しながら、90℃まで昇温して内容物を溶解した。
【0176】
次に、この系を40℃まで冷却した後、アセトン72gを入れ、内温が30℃になったところで、トリレンジイソシアネート137.8gを1時間掛けて滴下した。内温を30〜40℃に保ち、8時間反応を行った後、100.5gのアセトンで希釈した。得られたプレポリマーのイソシアネート基含有量は0.90%であった。
【0177】
次に、この系に、ジメチルエタノールアミン10.7g、イソホロンジアミン9.2gを含有する水504.4gを滴下し、反応させることで水性ポリウレタン樹脂を得た。この水性ポリウレタン樹脂を更に40℃で減圧下、アセトン除去を行い、固形分37.1%の水性ポリウレタン樹脂エマルジョンを得た。
【0178】
この水性エマルジョンを比較例1と同様にして片面開放の金型に注入してシートの作製を試みたが、表面皮張りのため、2時間掛けても水分が残り、1mm厚のシートを得ることはできなかった。
<比較例3>
アダクトイソシアネート「C−2612」(日本ポリウレタン工業(株)製)301部と、合成例2で得られたHDIの変性体〔特定のポリイソシアネート変性体(a2)〕57部と、水酸基含有化合物(B−1)465部とを混合用容器に仕込み、この系を混合攪拌して均一化することにより、比較用のエラストマー形成性組成物を調製した。
【0179】
このようにして得られたエラストマー形成性組成物を、室温下に2時間放置したところ、一部がゲル化していて、金型に注入することはできなかった。
<エラストマーシートの評価>
(1)物性の測定:
実施例1〜2で得られたエラストマーシートの各々について、JIS K 7312(1996)に準拠し、硬さ(JIS−A)、100%モジュラス(M100
)、引張強さ(TB )および破断時伸び(EB )を測定した。なお、引張試験用の試験片は2号ダンベルを使用した。結果を下記表1に示す。
(2)耐摩耗性:
実施例1〜2で得られたエラストマーシートの各々について、JIS K
7312(1996)−24.5(テーバー摩耗試験)に準拠して、試験片の摩耗量を測定した。結果を併せて下記表1に示す。このときの摩耗輪はH−22を使用した。
(3)厚みの均一性:
大面積のシートを製造するための金型を用いたこと以外は実施例1〜2と同様にして、厚さ2mmの大面積のエラストマーシート(600mm×900mmの成型品)を製造した。
【0180】
得られたエラストマーシートの各々について、下記の基準に従って厚みの均一性を評価した。結果を併せて下記表1に示す。
(厚みの均一性)
「○」:厚みの差が5%以下である。
【0181】
「△」:厚みの差が5%を超え、10%以下である。
【0182】
「×」:厚みの差が10%を超えている。
【0183】
【表1】

【0184】
<実施例3>
実施例1で調製したエラストマー形成性組成物75部に、メラミンシアヌレート(難燃剤:日産化学製、MC−610、平均粒子径1〜5μm)20部と、三酸化アンチモン(難燃剤)5部と、ジオクチルチンジラウレート(DOTDL)0.1部とを添加し、この系を混合攪拌して均一化することにより、スラリー状の難燃性のエラストマー形成性組成物(本発明のエラストマー形成性組成物)を調製した。
【0185】
このようにして得られたエラストマー形成性組成物に、ポリエステル系のフィラメントから形成された粗目布状(ネット状)の織物(目付=80g/m2
,厚さ=0.2mm,糸の太さ=0.1mm,網目の糸間間隔=1.5mm,透孔面積率=約90面積%)からなる繊維性基布を浸漬し、当該繊維性基布にエラストマー形成性組成物を含浸させた。
【0186】
次いで、エラストマー形成性組成物が含浸された繊維性基布を、210℃に設定されたオーブン内に2分間放置して、エラストマー形成性組成物を硬化させることにより、繊維性基布の内部にエラストマーの連続相が含有されてなる厚さ0.5mmの複合シートを製造した。得られた複合シートは、繊維性基布の粗目組織に由来するネット状の成形品(繊維性基布を形成するフィラメントがエラストマーによって完全に被覆された成形品,透孔面積率=約50面積%)であり、建築工事用シートなどに要求される柔軟性を有するものであった。
<実施例4>
実施例1で調製したエラストマー形成性組成物に代えて、実施例3で調製したエラストマー形成性組成物75部を使用して難燃性のエラストマー形成性組成物を調製し、当該エラストマー形成性組成物に繊維性基布を浸漬したこと以外は実施例3と同様にして、繊維性基布の内部にエラストマーの連続相が含有されてなる厚さ0.6mmの複合シートを製造した。得られた複合シートは、繊維性基布の粗目組織に由来するネット状の成形品であり、建築工事用シートなどに要求される柔軟性を有するものであった。
<比較例4>
実施例1で調製したエラストマー形成性組成物に代えて、比較例1で調製したエラストマー形成性組成物(ウレタン系樹脂の溶液)75部を使用して難燃性のエラストマー形成性組成物を調製し、当該エラストマー形成性組成物に繊維性基布を浸漬し、オーブンによる加熱温度を180℃に変更したこと以外は実施例3と同様にして厚さ0.5mmの複合シートを製造した。
【0187】
得られた複合シートは、繊維性基布を形成するフィラメントがエラストマーによって十分に被覆されず、むき出し状態であり、また、当該複合シートは柔軟性を有するものではなかった。
<比較例5>
実施例1で調製したエラストマー形成性組成物に代えて、比較例2で調製したエラストマー形成性組成物(ウレタン系樹脂の水性エマルジョン)75部を使用して難燃性のエラストマー形成性組成物を調製し、当該エラストマー形成性組成物に繊維性基布を浸漬し、120℃のオーブンで10分、150℃のオーブンで10分の加熱に変更したこと以外は実施例3と同様にして厚さ0.5mm複合シートを製造した。
【0188】
得られた複合シートは、繊維性基布を形成するフィラメントがエラストマーによって十分に被覆されず、むき出し状態であり、また、当該複合シートは柔軟性を有するものではなかった。
<実施例5>
実施例3と同様にして難燃性のエラストマー形成性組成物(本発明のエラストマー形成性組成物)を調製した。
【0189】
このようにして得られたエラストマー形成性組成物を、ポリエステル系のフィラメントから形成された非粗目布状の織物(目付=200g/m2
,厚さ=0.15mm,糸の太さ=0.1mm,網目の糸間間隔=0mm,透孔面積率=0面積%)からなる繊維性基布の両面に、ロールコータを用いて塗布した(膜厚400μm)。
【0190】
次いで、エラストマー形成性組成物が両面に塗布された繊維性基布を、210℃に設定されたオーブン内に2分間放置して、エラストマー形成性組成物の塗膜を硬化させることにより、繊維性基布の両面にエラストマー層が積層されてなる厚さ0.6mmの複合シートを製造した。得られた複合シートにおいて、エラストマー層は繊維性基布に対して強固に接着しており、また、当該複合シートは、柔軟性を有するものであった。
<実施例6>
実施例4と同様にして難燃性のエラストマー形成性組成物(本発明のエラストマー形成性組成物)を調製した。
【0191】
このようにして得られたエラストマー形成性組成物を、非粗目布状の織物からなる繊維性基布の両面に塗布したこと以外は実施例5と同様にして、繊維性基布の両面にエラストマー層が積層されてなる厚さ1.0mmの複合シートを製造した。得られた複合シートにおいて、エラストマー層は繊維性基布に対して強固に接着しており、また、当該複合シートは、柔軟性を有するものであった。
<参考例1>
合成例1により得られたブロックイソシアネート(A1−1)422部と、水酸基含有化合物(B−1)155部と、ジオクチルチンジラウレート(DOTDL)1部とを混合用容器に仕込み、この系を混合攪拌して均一化することにより、エラストマー形成性組成物を調製した。
<実験例>
実施例1および参考例1で得られたエラストマー形成性組成物の各々を200℃に加熱された金型に注入し、加熱時間を種々変更して、厚さ2mmのエラストマーシートを形成した。得られたエラストマーシートの各々について、上記と同様にして物性(JIS−A硬さ・引張強さ・破断時伸び)を測定した。結果を下記表2に示す。
【0192】
【表2】



【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明の組成物により形成されるエラストマーシートは、よごれ防止マット、玄関マット、机上マットなどの用途に適用できる。
【0194】
本発明の組成物を用いて製造される複合シートは、建築養生・塗装飛散防止・落下物対策などのために使用する建築工事用シート;軒出しテント、屋形テント、テント倉庫、ルーフィング用、看板用、野積みシートなどのテントシート;自動車用幌シート;フレキシブルコンテナなどなどの用途に適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の成形品を構成する、JIS−A硬度が30〜60のポリウレタンエラストマー
を形成するための組成物であって、
(A)非芳香族系のイソシアネートと、数平均分子量500〜10,000の活性水素基含有化合物とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマー(a1)の末端イソシアネート基をブロック化剤で封鎖した、潜在イソシアネート基含有量が2〜15質量%であり、平均官能基数が2〜3である第1のブロックイソシアネート(A1)、および
ウレトジオン二量体を20質量%以上の割合で含むポリイソシアネート変性体(a2)の
イソシアネート基をブロック化剤で封鎖した第2のブロックイソシアネート(A2)、並
びに
(B)数平均分子量が250〜12,000の活性水素基含有化合物を
混合してなる一液硬化型のエラストマー形成性組成物。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート変性体(a2)が、ウレトジオン二量体を20〜80質量%の割
合で含む請求項1に記載のエラストマー形成性組成物。
【請求項3】
前記ポリイソシアネート変性体(a2)が、更にイソシアヌレート環状三量体を20〜8
0質量%の割合で含む請求項2に記載の常温で液状であるエラストマー形成性組成物。
【請求項4】
(C)難燃剤を含有する請求項1乃至請求項3の何れかに記載のエラストマー形成性組成
物。
【請求項5】
ポリウレタンエラストマーからなるシートを製造するために、金型内において硬化処理さ
れる請求項1乃至請求項4の何れかに記載のエラストマー形成性組成物。
【請求項6】
繊維性基布の少なくとも一面にエラストマー層が積層されてなる複合シートを製造するた
めに、当該繊維性基布の少なくとも一面に塗布された後に硬化処理される請求項1乃至請
求項4の何れかに記載のエラストマー形成性組成物。
【請求項7】
繊維性基布の内部にエラストマーの連続相が含有されてなる複合シートを製造するために
、当該繊維性基布に含浸された後に硬化処理される請求項1乃至請求項4の何れかに記載
のエラストマー形成性組成物。
【請求項8】
ポリウレタンエラストマーからなるシートを製造する方法であって、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のエラストマー形成性組成物を金型内で硬化処理す
る工程を含むエラストマーシートの製造方法。
【請求項9】
繊維性基布の少なくとも一面にエラストマー層が積層されてなる複合シートを製造する方
法であって、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のエラストマー形成性組成物を繊維性基布の少なく
とも一面に塗布する工程と、当該エラストマー形成性組成物による塗膜を硬化させてエラ
ストマー層を形成する工程とを含む複合シートの製造方法。
【請求項10】
繊維性基布の内部にエラストマーの連続相が含有されてなる複合シートを製造する方法で
あって、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のエラストマー形成性組成物に繊維性基布を浸漬す
る工程と、当該繊維性基布に含浸されたエラストマー形成性組成物を硬化させる工程とを
含む複合シートの製造方法。
【請求項11】
繊維性基布の少なくとも一面にエラストマー層が積層されてなる建築工事用シートを製造
する方法であって、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のエラストマー形成性組成物を繊維性基布の少なく
とも一面に塗布する工程と、当該エラストマー形成性組成物による塗膜を硬化させてエラ
ストマー層を形成する工程とを含む建築工事用シートの製造方法。
【請求項12】
繊維性基布の内部にエラストマーの連続相が含有されてなる建築工事用シートを製造する
方法であって、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のエラストマー形成性組成物に繊維性基布を浸漬す
る工程と、当該繊維性基布に含浸されたエラストマー形成性組成物を硬化させる工程とを
含む建築工事用シートの製造方法。


【公開番号】特開2008−81698(P2008−81698A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266536(P2006−266536)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】