エラストマー複合材料
【課題】 温度に対する電気抵抗の変化挙動や、PTC特性を示す温度範囲等を調整することが可能なエラストマー複合材料を提供する。
【解決手段】 エラストマー複合材料は、エラストマーと、グラフト化炭素系フィラーと、を有する。グラフト化炭素系フィラーは、グラフェン層状構造を持つ炭素系フィラーの表面に、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーが、該メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化されてなる。グラフトポリマーの種類や分子量を選択することにより、変形や温度に対する電気抵抗の変化挙動や、PTC特性を示す温度範囲等を調整することができる。
【解決手段】 エラストマー複合材料は、エラストマーと、グラフト化炭素系フィラーと、を有する。グラフト化炭素系フィラーは、グラフェン層状構造を持つ炭素系フィラーの表面に、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーが、該メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化されてなる。グラフトポリマーの種類や分子量を選択することにより、変形や温度に対する電気抵抗の変化挙動や、PTC特性を示す温度範囲等を調整することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、温度が上昇すると電気抵抗が増加するPTC(Positive Temperature Coefficient)材料として有用なエラストマー複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、PTC特性を有する材料(PTC材料)は、温度センサ、温度ヒューズ、ヒーター等に利用されている。PTC材料としては、例えば、チタン酸バリウム等のセラミックス系材料や、樹脂とカーボンとを複合化した有機系材料等が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。セラミックス系材料は、キュリー温度で強誘電体相から常誘電体相へ相転移する。このため、キュリー温度以上になると、電気抵抗が著しく増加する。一方、有機系材料は、温度の上昇に伴う樹脂の膨張により、樹脂中のカーボン同士の接触が寸断されて、電気抵抗が増加する。
【特許文献1】特開2004−14950号公報
【特許文献2】特開平8−306510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記セラミックス系材料は、形状の自由度が少ない。加えて、高温で焼成する必要があるためコストが高い。また、上記セラミックス系材料および有機系材料では、いずれも温度に対する電気抵抗の変化挙動を調整することは難しい。したがって、例えば、電気抵抗が急激に増加する温度を任意に選択することができない。このため、使用可能な温度範囲が限定されてしまう。
【0004】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、温度に対する電気抵抗の変化挙動や、PTC特性を示す温度範囲等を調整することが可能なエラストマー複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、エラストマーに導電性フィラーを充填した複合材料について鋭意研究を重ねる中で、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するという、極めて特異なエラストマー複合材料を開発した。ここで、「弾性変形」には、圧縮、伸張、曲げ等による変形がすべて含まれる。開発したエラストマー複合材料は、エラストマーに導電性フィラーが所定の状態で充填されてなる。同エラストマー複合材料によると、エラストマー分を介した導電性フィラー同士の接触により、三次元的な導電パスが形成される。このため、同エラストマー複合材料は、荷重が印加されていない状態(以下、適宜「無荷重状態」と称す)、言い換えると、変形していない自然状態で、高い導電性を有する。この理由は、次のように考えられる。図1、図2に、同エラストマー複合材料の、荷重の印加前後における導電パスの変化をモデルで示す。ただし、図1、図2に示すのは、同エラストマー複合材料の一例であり、導電性フィラーの充填状態、形状等を何ら限定するものではない。
【0006】
図1に示すように、エラストマー複合材料100において、導電性フィラー102の多くは、エラストマー101中に一次粒子の状態(略単独の状態)で存在している。また、導電性フィラー102の充填率は高く、最密充填に近い状態で配合されている。これにより、無荷重状態において、エラストマー複合材料100には、導電性フィラー102による三次元的な導電パスPが形成されている。よって、無荷重状態では、エラストマー複合材料100の電気抵抗は小さい。一方、図2に示すように、エラストマー複合材料100に荷重が印加されると、エラストマー複合材料100は弾性変形する(図2中の点線枠は、図1の無荷重状態を示している。)。ここで、導電性フィラー102は最密充填に近い状態で配合されているため、導電性フィラー102が移動できるスペースはほとんどない。よって、エラストマー複合材料100が弾性変形すると、導電性フィラー102同士が反発し合い、導電性フィラー102同士の接触状態が変化する。その結果、三次元的な導電パスPが崩壊し、電気抵抗が増加する。
【0007】
また、開発した上記エラストマー複合材料によると、温度が上昇した場合にも、エラストマーの膨張により導電性フィラー同士の接触状態が変化して、電気抵抗が増加する。すなわち、上記エラストマー複合材料は、温度が上昇すると電気抵抗が増加するPTC特性を有する。
【0008】
このように、上記エラストマー複合材料は、弾性変形量の増加や温度の上昇に従って電気抵抗が増加するという新規な材料であるが、さらに検討を重ねた結果、以下の課題が明らかになった。すなわち、上記エラストマー複合材料の導電性は、充填された導電性フィラーの初期位置により決定される。よって、導電性フィラーの分散性が悪いと、導電性フィラーが偏在して初期位置にばらつきが生じるため、同エラストマー複合材料全体において均一な導電性が得られない。また、導電性フィラーの凝集により、三次元的な導電パスが形成されにくくなり、導電性が低下する。さらにまた、導電性フィラーの偏在により、引張強度等の機械的特性が低下するおそれもある。
【0009】
また、エラストマーと導電性フィラーとの組み合わせにより、両者の接着性が充分でない場合には、エラストマーが弾性変形や膨張、収縮を繰り返すことにより、導電性フィラーがエラストマーから分離する。これにより、導電性フィラーは初期位置から移動して、徐々に凝集する。その結果、初期に形成されていた三次元的な導電パスが崩れ、無荷重状態における導電性が低下してしまう。加えて、導電性フィラーの凝集により、引張強度等の機械的特性が低下するおそれもある。
【0010】
そこで、これらの課題を解決するためになされた、本発明のエラストマー複合材料は、エラストマーと、グラフェン層状構造を持つ炭素系フィラーの表面に、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーが、該メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化されてなるグラフト化炭素系フィラーと、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明における「エラストマー」は、ゴムおよび熱可塑性エラストマーを含む。通常、エラストマーを補強するという目的のためには、黒鉛化度(結晶性)が比較的低く、比表面積が大きく、表面の官能基が多いカーボンブラック等が使用される。カーボンブラックは、炭素六員環が結合し網状に広がった面(グラフェンシート)が数層積み重なったグラフェン層状構造を有すると考えられている。
【0012】
一方、グラフェン層状構造が発達し、黒鉛化度(結晶性)が比較的高く、表面の官能基が少ない炭素系フィラーは、エラストマーに対する補強性に乏しいが、エラストマーに導電性を付与する性能に優れる。黒鉛化度(結晶性)の高い炭素系フィラーの表面には、官能基が少ないので、官能基を足がかりにして、同炭素系フィラーの表面に新たな官能基やポリマーを導入することは難しい。したがって、エラストマーに対する補強性の向上等を目的として、同炭素系フィラーの表面状態を改良することは困難である。
【0013】
この点、本発明におけるグラフト化炭素系フィラーの表面には、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーが、同メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化されている。すなわち、メタロセン誘導体の配位子を炭素系フィラーの表面の炭素六員環と置換させることにより、官能基の多少に関わらず、炭素系フィラーの表面にグラフトポリマーをグラフト化している。ここで、「メタロセン誘導体を含むグラフトポリマー」は、グラフトポリマー中に、メタロセン誘導体由来の構造を含んでいればよく、例えば、メタロセン誘導体とモノマーとの共重合体、メタロセン誘導体により末端変性されたポリマー等を含む概念である。
【0014】
グラフトポリマーとエラストマーとは、ファンデルワールス力等の分子間力やポリマー鎖の絡み合いにより(物理的結合)、あるいは共架橋することにより(化学的結合)、互いに結合される。これにより、グラフトポリマーとエラストマーとの界面接着性が向上する。図3に、本発明のエラストマー複合材料における、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの結合状態をモデルで示す。図3に示すように、グラフト化炭素系フィラー1において、炭素系フィラー10の表面には、グラフトポリマー11がグラフト化されている。グラフトポリマー11とエラストマー12とは、互いに絡み合い、あるいは共架橋して結合されている。これにより、グラフト化炭素系フィラー1はエラストマー12に固定されている。
【0015】
このように、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの接着性が良好であるため、つまり両者が分離しにくいため、本発明のエラストマー複合材料は、引張強度等の機械的特性に優れる。また、後に詳しく説明するが、エラストマー中に、グラフト化炭素系フィラーが所定の状態で充填されている場合、本発明のエラストマー複合材料は、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。ここで、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの接着性は良好である。このため、弾性変形を繰り返しても、グラフト化炭素系フィラーは凝集しにくい。同様に、温度変化に伴い、エラストマーが膨張、収縮を繰り返しても、グラフト化炭素系フィラーは凝集しにくい。すなわち、繰り返し使用しても、初期の三次元的な導電パスが維持され、導電性は低下しにくい。したがって、本発明のエラストマー複合材料は耐久性に優れる。
【0016】
また、グラフト化炭素系フィラーは、炭素系フィラーの表面がグラフトポリマーで被覆されてなる。このため、グラフト化炭素系フィラー同士は凝集しにくい。よって、グラフト化炭素系フィラーは一次粒子の状態で存在しやすい。つまり、分散性が高い。さらに、グラフトポリマーとエラストマーとの相溶性が良好な場合には、グラフト化炭素系フィラーの分散性は、より高くなる。グラフト化炭素系フィラーの分散性が高いと、本発明のエラストマー複合材料の全体において、導電パスがむらなく形成される。したがって、本発明のエラストマー複合材料の全体において均一な導電性が得られる。また、グラフト化炭素系フィラーが凝集しにくいため、引張強度等の機械的特性も向上する。また、グラフト化炭素系フィラーは一次粒子の状態で存在しやすいため、エラストマー中に高充填率で配合することが可能となる。これにより、本発明のエラストマー複合材料において、三次元的な導電パスを形成させて、無荷重状態において高い導電性を発現させることができる。
【0017】
また、グラフトポリマーの熱特性に応じて、本発明のエラストマー複合材料の導電性を調整することも可能である。例えば、グラフトポリマーは、ガラス転移温度(Tg)以上において急激に分子運動が活性化し、ヤング率が低下して体積膨張する。これにより、被覆された炭素系フィラーの拘束状態が変化して、炭素系フィラー間の距離が大きくなる。このため、Tg近傍で、温度に対する大きな導電性変化を誘起することができる。したがって、Tgをはじめとするグラフトポリマーの熱特性を調整することにより、導電性が急激に変化する温度を任意に選択することができる。
【0018】
また、グラフト化炭素系フィラー同士は、グラフトポリマーの絡み合いにより結合されている。このため、グラフトポリマーの種類によって、エラストマーの体積膨張による炭素系フィラー間の距離変化が異なる。つまり、グラフトポリマーの種類を変更することにより、温度上昇に伴う電気抵抗の増加挙動を調整することができる。
【0019】
また、グラフト化炭素系フィラーにおいて、グラフトポリマーが絶縁皮膜として作用する場合、その絶縁皮膜の厚さ(グラフトポリマーの厚さ)を調整することにより、炭素系フィラー自身の導電性を調整することができる。
【0020】
また、エラストマーの架橋密度によって、エラストマーの熱膨張率は変化する。例えば、温度が上昇した場合に、エラストマーの熱膨張率が大きいと、グラフト化炭素系フィラー間の距離が大きく増加する。これにより、電気抵抗の変化は大きくなる。反対に、エラストマーの熱膨張率が小さいと、グラフト化炭素系フィラー間の距離の増加は少ない。これにより、電気抵抗の変化は小さくなる。したがって、エラストマーの架橋密度を調整することにより、温度に対する電気抵抗の変化挙動を調整することができる。
【0021】
このように、本発明のエラストマー複合材料によると、グラフトポリマーの種類、被覆状態、エラストマーとグラフトポリマーとの組み合わせ、グラフト化炭素系フィラーの配合量、エラストマーの架橋密度等を調整することにより、変形や温度に対する電気抵抗の変化挙動や、PTC特性を示す温度範囲等を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のエラストマー複合材料の実施形態を説明する。なお、本発明のエラストマー複合材料は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態において実施することができる。
【0023】
本発明のエラストマー複合材料において、エラストマーは、ゴムおよび熱可塑性エラストマーから適宜選択すればよい。例えば、本発明のエラストマー複合材料を、温度センサ、変形センサ等の材料として使用する場合、エラストマーは、絶縁性であることが望ましい。また、後述するグラフトポリマーとの相溶性や、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するという特性を発現させるという観点では、グラフト化炭素系フィラーとの関係を考慮して選択することが望ましい。
【0024】
例えば、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの混合物(エラストマー組成物)を調製した場合に、パーコレーションカーブにおける飽和体積分率(φs)が35vol%以上となるものを用いることが望ましい。通常、絶縁性のエラストマーに、導電性の炭素系フィラーを混合してエラストマー組成物とした場合、エラストマー組成物の電気抵抗は、炭素系フィラーの配合量によって変化する。図4に、エラストマー組成物における、炭素系フィラーの配合量と電気抵抗との関係を模式的に示す。
【0025】
図4に示すように、エラストマー101に炭素系フィラー103を混合していくと、エラストマー組成物の電気抵抗は、はじめはエラストマー101の電気抵抗とほとんど変わらない。しかし、炭素系フィラー103の配合量がある体積分率に達すると、電気抵抗が急激に低下して、絶縁体−導電体転移が起こる(第一変極点)。この第一変極点における炭素系フィラー103の配合量を、臨界体積分率(φc)と称す。また、さらに炭素系フィラー103を混合していくと、ある体積分率から、電気抵抗の変化が少なくなり電気抵抗変化が飽和する(第二変極点)。この第二変極点における炭素系フィラー103の配合量を、飽和体積分率(φs)と称す。このような電気抵抗の変化は、パーコレーションカーブと呼ばれ、エラストマー101中に炭素系フィラー103による導電パスP1が形成されるためと考えられている。
【0026】
例えば、炭素系フィラーの粒子径が小さい、炭素系フィラーとエラストマーとの相溶性が悪い等の理由により、炭素系フィラーが凝集し、凝集体が形成されている場合には、一次元的な導電パスが形成され易い。このような場合には、エラストマー組成物の臨界体積分率(φc)は、20vol%程度と比較的小さくなる。同様に、飽和体積分率(φs)も比較的小さくなる。言い換えると、臨界体積分率(φc)および飽和体積分率(φs)が小さい場合には、炭素系フィラーは一次粒子として存在し難く、二次粒子(凝集体)を形成し易い。よって、この場合、炭素系フィラーをエラストマー中に多量に配合することは難しい。つまり、炭素系フィラーを最密充填に近い状態で配合することは難しい。また、粒子径の小さな炭素系フィラーを多量に配合すると、凝集構造が三次元的に成長するため、変形に対する電気抵抗の変化が乏しくなる。
【0027】
本発明のエラストマー複合材料において、エラストマー組成物の飽和体積分率(φs)が35vol%以上である場合、グラフト化炭素系フィラーを、エラストマー中に略単粒子状態で安定に存在させることができる。よって、エラストマー中にグラフト化炭素系フィラーを高充填率で配合することができる。エラストマーにグラフト化炭素系フィラーを略単粒子状態で、かつ高充填率で配合することにより、本発明のエラストマー複合材料には、三次元的な導電パスが形成される。すなわち、本発明のエラストマー複合材料は、無荷重状態で高い導電性を有する。また、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。なお、本明細書において、「略単粒子状態」とは、グラフト化炭素系フィラーの全重量を100重量%とした場合の50重量%以上が、凝集した二次粒子としてではなく、単独の一次粒子の状態で存在していることをいう。また、「高充填率」とは、グラフト化炭素系フィラーが最密充填に近い状態で配合されていることをいう。
【0028】
飽和体積分率(φs)以上の領域においては、本発明のエラストマー複合材料の電気抵抗は低く、安定した導電性が発現される。よって、飽和体積分率(φs)が35vol%以上の場合には、変形した際の導電体から絶縁体への電気抵抗の変化範囲が広くなる。飽和体積分率(φs)が40vol%以上となるものを用いると、より好適である。
【0029】
エラストマーの具体例として、例えば、ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、エチレン−プロピレン共重合ゴム[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)等]、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Cl−IIR、Br−IIR等)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(AR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、合成ラテックス等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素系等の各種熱可塑性エラストマー、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いればよい。なかでも、グラフト化炭素系フィラーとの相溶性が極めて良好なEPDMが好適である。また、グラフト化炭素系フィラーとの相溶性が良好なNBR、シリコーンゴムも好適である。
【0030】
本発明のエラストマー複合材料において、グラフェン層状構造を持つ炭素系フィラー(以下、本実施形態において、単に「炭素系フィラー」と称す)の種類は特に限定されるものではない。例えば、熱硬化性樹脂を炭化して製造されたカーボンビーズ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、気相成長炭素繊維(VGCF)等が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いることができる。
【0031】
また、炭素系フィラーの形状は、球状、針状、角柱状、鱗片状等、特に限定されるものではない。例えば、本発明のエラストマー複合材料に、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するという特性を発現させる場合には、炭素系フィラーのアスペクト比(短辺に対する長辺の比)は、1以上2以下の範囲が望ましい。アスペクト比が2より大きくなると、グラフト化炭素系フィラー同士の接触により一次元的な導電パスが形成され易いからである。この場合、上記飽和体積分率(φs)が35vol%未満となるおそれがある。また、エラストマー中における炭素系フィラーの充填状態を、より最密充填状態に近づけるという観点から、炭素系フィラーとして、真球あるいは極めて真球に近い形状(略真球状)の粒子を採用するとよい。
【0032】
また、グラフト化炭素系フィラーは、できるだけ凝集せず、一次粒子の状態で存在することが望ましい。よって、平均粒子径を考慮して、炭素系フィラーを選択するとよい。例えば、略真球状の炭素系フィラーを採用する場合、炭素系フィラーの平均粒子径(一次粒子)は、0.05μm以上100μm以下であることが望ましい。0.05μm未満の場合には、凝集して二次粒子を形成し易い。また、上記飽和体積分率(φs)が35vol%未満となるおそれがある。好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。反対に、100μmを超えると、弾性変形によるグラフト化炭素系フィラーの並進運動(平行運動)が、粒子径に比べて相対的に小さくなり、エラストマー複合材料の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢となる。好ましくは60μm以下、より好ましくは30μm以下である。なお、炭素系フィラーの平均粒子径、およびグラフトポリマーやエラストマーの種類等を適宜調整することで、上記臨界体積分率(φc)および飽和体積分率(φs)を、所望の範囲内に調整することができる。
【0033】
また、炭素系フィラーの粒度分布におけるD90/D10の値は、1以上30以下であることが望ましい。ここで、D90は、累積粒度曲線において積算重量が90%となる粒子径を、D10は、同積算重量が10%となる粒子径である。D90/D10の値が30を超えると、粒度分布がブロードになるため、エラストマー複合材料の弾性変形に対する電気抵抗の増加挙動が不安定になる。これにより、検出の再現性が低下するおそれがある。D90/D10の値が10以下であるとより好適である。なお、炭素系フィラーとして、二種類以上の粒子を使用する場合には、D90/D10の値は100以下であればよい。
【0034】
このような炭素系フィラーとしては、例えば、種々のカーボンビーズが好適である。具体的には、大阪ガスケミカル社製のメソカーボンマイクロビーズ[MCMB6−28(平均粒子径約6μm)、MCMB10−28(平均粒子径約10μm)、MCMB25−28(平均粒子径約25μm)]、日本カーボン社製のカーボンマイクロビーズ:ニカビーズ(登録商標)ICB、ニカビーズPC、ニカビーズMC、ニカビーズMSB[ICB0320(平均粒子径約3μm)、ICB0520(平均粒子径約5μm)、ICB1020(平均粒子径約10μm)、PC0720(平均粒子径約7μm)、MC0520(平均粒子径約5μm)]、日清紡社製のカーボンビーズ(平均粒子径約10μm)等が挙げられる。
【0035】
また、本発明のエラストマー複合材料に所望の導電性を発現させるため、グラフト化炭素系フィラーは、パーコレーションカーブにおける臨界体積分率(φc)以上の割合で配合されていることが望ましい。ここで、グラフト化炭素系フィラーを略単粒子状態でかつ高充填率で配合するという観点から、臨界体積分率(φc)は30vol%以上であることが望ましい。35vol%以上であるとより好適である。換言すれば、グラフト化炭素系フィラーの充填率は、エラストマー複合材料の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上であることが望ましい。30vol%未満の場合には、グラフト化炭素系フィラーが最密充填に近い状態で配合されないため、所望の導電性が発現しない。また、エラストマー複合材料の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢になり、電気抵抗の増加挙動を制御することが難しくなる。35vol%以上であるとより好適である。反対に、グラフト化炭素系フィラーの充填率は、エラストマー複合材料の全体の体積を100vol%とした場合の65vol%以下であることが望ましい。65vol%を超えると、エラストマーへの混合が困難となり、成形加工性が低下する。また、エラストマー複合材料が弾性変形しにくくなる。55vol%以下であるとより好適である。
【0036】
グラフト化炭素系フィラーは、上記炭素系フィラーの表面に、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーがグラフト化されてなる。ここで、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーは、上述したように、グラフトポリマー中に、メタロセン誘導体由来の構造を含んでいればよい。具体的には、メタロセン誘導体とモノマーとの共重合体、メタロセン誘導体により末端変性されたポリマー等が挙げられる。メタロセンは、鉄、コバルト、ニッケル等の金属イオンにシクロペンタジエニルアニオンが二つ配位してなる有機金属化合物である。メタロセン誘導体は、シクロペンタジエニル環の一方に、ビニル基、カルボキシ基、アルデヒド基、水酸基、カルボニル基、アミノ基、エポキシ基等を一つ以上持つものであればよい。例えば、ジルコノセン誘導体、ニッケロセン誘導体、フェロセン誘導体、ハフノセン誘導体、チタノセン誘導体、バナジノセン誘導体、コバルトセン誘導体等が挙げられる。なかでも、種々の誘導体が入手容易であるという観点から、フェロセン誘導体を用いるとよい。具体的には、ビニルフェロセン、フェロセンカルボン酸、フェロセンアルデヒド、フェロセンメタノール、フェロセンエタノール、アセチルフェロセン、アミノフェロセン等が好適である。
【0037】
フェロセン誘導体を含むグラフトポリマーの重量平均分子量は、エラストマーとの結合性等を考慮して、1500以上であることが望ましい。フェロセン誘導体を含むグラフトポリマーとしては、例えば、ビニルフェロセンとビニル基を有するモノマーとの共重合体や、フェロセン誘導体のシクロペンタジエニル環上にあるヘテロ元素を活用した、エステル、アミド、エーテル等との縮合体等が好適である。前者の具体例としては、ビニルフェロセン−スチレン共重合体、ビニルフェロセン−イソプレン共重合体、ビニルフェロセン−メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。また、後者の具体例としては、フェロセンカルボン酸と水酸基末端変性ポリブタジエンとのエステル縮合体、アミノフェロセンとカルボキシル化ニトリル−ブタジエンゴムとのアミド縮合体等が挙げられる。
【0038】
メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーは、該メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化される。配位子交換反応は、例えば、炭素系フィラーとメタロセン誘導体を含むグラフトポリマーとを溶剤に分散させて、アルミニウムおよび塩化アルミニウムの存在下、所定の温度で加熱攪拌することにより行うことができる。溶剤は、メタロセン誘導体の種類、反応温度等により適宜選択すればよく、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、デカリン等を用いることができる。配位子交換反応、すなわち、メタロセン誘導体の一方のシクロペンタジエニル環が炭素系フィラーの表面の炭素六員環と置換することにより、炭素系フィラーの表面にメタロセン誘導体を含むグラフトポリマーがグラフト化される。グラフトポリマーとエラストマーとは、互いのポリマー鎖の絡み合いにより結合される。また、グラフトポリマーの種類によっては、本発明のエラストマー複合材料の製造における加硫時に、エラストマーと共架橋して結合される。
【0039】
また、本発明のエラストマー複合材料において、エラストマーの架橋密度を調整することにより、温度に対する電気抵抗の変化挙動を調整することができる。架橋密度の調整は、例えば、架橋剤の量等を調整して行えばよい。例えば、架橋密度を大きくすると、温度の上昇に伴うエラストマーの熱膨張率は小さくなる。このため、温度が上昇しても、グラフト化炭素系フィラー間の距離の増加は少ない。したがって、温度変化に対する電気抵抗の変化は小さくなる。一方、架橋密度を小さくすると、温度の上昇に伴うエラストマーの熱膨張率は大きくなる。このため、温度が上昇すると、グラフト化炭素系フィラー間の距離は大きく増加する。したがって、温度変化に対する電気抵抗の変化は大きくなる。
【0040】
本発明のエラストマー複合材料は、上記エラストマー、グラフト化炭素系フィラーに加え、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。
【0041】
本発明のエラストマー複合材料の製造方法は、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーを、該メタロセン誘導体の配位子交換反応により、グラファイト構造を持つ炭素系フィラーの表面にグラフト化させるグラフト化炭素系フィラー合成工程と、合成したグラフト化炭素系フィラーと、エラストマーと、を混練してエラストマー組成物を得るエラストマー組成物調製工程と、得られたエラストマー組成物を加熱して架橋させる架橋工程と、を有するよう構成するとよい。具体的には、例えば、次のようにして製造すればよい。まず、グラフト化炭素系フィラーを合成する。次に、エラストマーに、加硫助剤、軟化剤等の添加剤を添加して、混練りする。これに、合成したグラフト化炭素系フィラーを加えて混練りした後、さらに、架橋剤、加硫促進剤を加えて混練りし、エラストマー組成物とする。次に、エラストマー組成物を所定の形状に成形し、それを金型に充填して、所定の条件下でプレス加硫する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により、本発明のエラストマー複合材料についてさらに詳しく説明する。
【0043】
(1)エラストマー複合材料の製造
(a)グラフトポリマーの合成
グラフトポリマーとして、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴム、およびビニルフェロセン−スチレン共重合体の二種類を合成した。第一に、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムの合成について述べる。まず、フラスコ中において、両末端OH変性液状ブタジエンゴム(出光石油化学社製「R−15TH」、重量平均分子量1200)6gと、フェロセンカルボン酸(アルドリッチ社製)2.8gと、を溶媒のテトラヒドロフラン(THF(脱水);和光純薬工業社製)50mlに配合し、攪拌して溶解させた。続いて、フラスコを氷浴に入れ、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;和光純薬工業社製)2.7gと、N,N’−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP;和光純薬工業社製)0.12gと、を順に投入して溶解させた。その後、室温にて6時間攪拌した。生成物の溶媒を酢酸エチルで置換して、1Nの塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム溶液により酸、アルカリ洗浄を繰り返して精製し、脱水、乾燥させて、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムを単離した。得られたフェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムの重量平均分子量を、GPC(Gel permeation Chromatography)により測定したところ、約1700であった。
【0044】
第二に、ビニルフェロセン−スチレン共重合体の合成について述べる。まず、スチレンモノマー(和光純薬工業社製)1.59gと、ビニルフェロセン(アルドリッチ社製)0.36gと、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)0.0028gと、トルエン(脱水、和光純薬工業社製)5mlと、を50mlの三つ口フラスコへ仕込んだ。フラスコ内を真空引きして系内の溶存酸素を除去した後、フラスコをオイルバスに入れ、90℃の温度下で12時間攪拌した。生成物をメタノール中に再沈殿させて精製し、脱水、乾燥させてビニルフェロセン−スチレン共重合体を単離した。得られたビニルフェロセン−スチレン共重合体の重量平均分子量を、上記同様に測定したところ、約6000であった。
【0045】
(b)グラフト化炭素系フィラーの合成
得られたフェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴム、ビニルフェロセン−スチレン共重合体を、各々グラフトポリマーとして用い、二種類のグラフト化炭素系フィラーを合成した。まず、カーボンビーズ(日本カーボン社製「ニカビーズICB0520」、平均粒子径約5μm、粒度分布におけるD90/D10=3.2)10gと、グラフトポリマー10gと、所定量のアルミニウム粉末(和光純薬工業社製)、塩化アルミニウム(和光純薬工業社製)、1,4−ジオキサン(アルドリッチ社製)と、をフラスコに仕込み、オイルバス中90℃の温度下で、12時間攪拌した。その後、未反応のビニルフェロセン、アルミニウム粉末および塩化アルミニウムを分離して精製し、乾燥させて、グラフト化炭素系フィラーを得た。
【0046】
なお、アルミニウム粉末等の仕込み量は、グラフトポリマーの種類により、次のようにした。すなわち、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムを使用した場合には、アルミニウム粉末0.236g、塩化アルミニウム4.62g、1,4−ジオキサン400mlとし、ビニルフェロセン−スチレン共重合体を使用した場合には、アルミニウム粉末0.575g、塩化アルミニウム11.25g、1,4−ジオキサン100mlとした。
【0047】
また、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムがグラフト化されたグラフト化炭素系フィラーのグラフト化率は10%であり、ビニルフェロセン−スチレン共重合体がグラフト化されたグラフト化炭素系フィラーのグラフト化率は2%である。ここで、グラフト化率は、次式(1)により算出した値である。
グラフト化率(%)=Wp/(Wc+Wp)×100・・・(1)
[式(1)中、Wcはカーボンビーズの重量である。Wpはグラフトポリマーの重量である。]
【0048】
(c)エラストマー複合材料の製造
合成したグラフト化炭素系フィラーを各々用いて、エラストマー複合材料をした。まず、各々のグラフト化炭素系フィラーについて、下記表1に示すグループ1の所定の原料を、ロール練り機にて素練りした。次に、グラフト化炭素系フィラーを所定量添加して、ロール練り機にて混合、分散させた。さらに、同表1に示すグループ2の所定の原料を添加して、ロール練り機にて混合、分散させ、グラフト化炭素系フィラーの充填率の異なる種々のエラストマー組成物を調製した。
【0049】
【表1】
【0050】
次に、調製したエラストマー組成物を、各々、縦40mm、横40mm、厚さ5mmのシート状に成形した。これを金型に充填し、170℃で20分間プレス加硫することにより、エラストマー複合材料を得た。得られたエラストマー複合材料のうち、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムによるグラフト化炭素系フィラーを用いたものを、実施例1とし、ビニルフェロセン−スチレン共重合体によるグラフト化炭素系フィラーを用いたものを、実施例2とした(以下、本実施例において同じ)。
【0051】
(2)エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの接着性評価
実施例1のエラストマー複合材料(グラフト化率10%)の一つを切断し、その断面を電子顕微鏡で観察した。また、同複合材料を一方向に数%伸張させて、同様に断面を観察した。なお、観察したエラストマー複合材料におけるグラフト化炭素系フィラーの充填率は、51.7vol%であった。一方、比較のため、グラフト化されていない炭素系フィラー(日本カーボン社製「ニカビーズICB0520」、以下実施例において同じ。)を用いて、実施例1と同様に製造したエラストマー複合材料(比較例)についても、伸張の前後における断面を観察した。図5に、比較例のエラストマー複合材料の断面写真を示す。図5中、(a)は自然状態の断面を、(b)は伸張状態の断面をそれぞれ示す。また、図6に、実施例1のエラストマー複合材料の断面写真を示す。ここで、図6中、(a)は自然状態の断面を、(b)は伸張状態の断面をそれぞれ示す。
【0052】
図5(a)、(b)に示すように、比較例のエラストマー複合材料を伸張した場合には、炭素系フィラーはエラストマーから剥がれている。これに対して、実施例1のエラストマー複合材料によると、図6(a)に示すように、自然状態において、グラフトポリマーとエラストマーとが絡み合い接着している。このため、伸張しても、図6(b)に示すように、グラフト化炭素系フィラーはエラストマーから剥がれずに接着されている。このように、実施例1のエラストマー複合材料によると、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの接着性が良好であることが確認された。
【0053】
(3)グラフト化炭素系フィラーの分散性評価
上記(1)のエラストマー複合材料の製造において、調製したエラストマー組成物を、各々、縦40mm、横40mm、厚さ5mmのシート状に成形して成形体とした。この成形体を金型に充填し、厚さ方向両端に一対の電極を配置して、170℃で20分間プレス加硫した。これを10mm四方に切り出して、実施例1、実施例2について種々のセンサ素子を作製した。また、比較のため、実施例1、実施例2の各々について、グラフト化されていない炭素系フィラーを用いてセンサ素子を作製した(比較例)。
【0054】
作製した各センサ素子について、電極間の電気抵抗値をテスターにより測定した。測定結果を図7、図8に示す。図7は、実施例1のセンサ素子の測定結果を示す。図8は、実施例2のセンサ素子の測定結果を示す。
【0055】
図7、図8に示すように、実施例1、実施例2の各センサ素子において、炭素系フィラーの充填率に対するパーコレーションカーブが得られた。そして、実施例のいずれのセンサ素子においても、比較例と比較して、パーコレーションカーブがグラフト化炭素系フィラーの高充填率側にシフトした。特に、図7に示すように、グラフト化率が10%と高い場合には、充填率が高くても電気抵抗は高くなった。この理由は、次のように考えられる。すなわち、実施例1、実施例2のセンサ素子によると、グラフト化炭素系フィラーが高分散しているため、充填率が低いと同フィラー同士が接触しにくく、導電パスが形成されにくい。このため、グラフト化炭素系フィラーの充填率が低い場合には、電気抵抗が高くなった。また、グラフトポリマーに被覆されているため、グラフト化炭素系フィラー自体の導電性が低下した。以上より、本発明のエラストマー複合材料から作製された実施例のセンサ素子によると、グラフト化炭素系フィラーの分散性が高いことが確認された。
【0056】
(4)温度変化に伴う電気抵抗変化の測定
ビニルフェロセン−スチレン共重合体がグラフト化され、グラフト化率が1.4%、10%の二種類のグラフト化炭素系フィラーを用いたエラストマー組成物から、上記(3)と同様にして、センサ素子を作製した。なお、各々におけるグラフト化炭素系フィラーの充填率は、50vol%、54vol%の二種類とした。作製したセンサ素子について、雰囲気温度の変化に伴う電気抵抗の変化を測定した。結果を図9に示す。なお、図9には、比較例として、グラフト化されていない炭素系フィラーを用いて作製されたセンサ素子の結果も併せて示す(炭素系フィラーの充填率は47vol%、51vol%の二種類)。
【0057】
図9に示すように、グラフト化炭素系フィラーが充填されているセンサ素子によると、電気抵抗が急激に変化する温度範囲があることがわかる。このような温度範囲は、グラフトポリマーの熱特性に依存すると考えられる。したがって、グラフトポリマーの設計により、電気抵抗の変化挙動を調整することができる。
【0058】
また、グラフト化率10%の上記センサ素子を加熱して、センサ素子自身の温度変化に伴う電気抵抗の変化を測定した。図10に、実験装置の模式図を示す。図10(a)に示すように、実験装置2は、センサ素子20と電源21と熱電対22とを備えている。センサ素子20は、エラストマー複合材料からなるセンサ本体200と、センサ本体200の厚さ方向(図の上下方向)両端に配置された一対の電極201a、201bと、からなる。電源21は、電極201a、201bと接続されている。また、熱電対22は、センサ本体200に装着されている。
【0059】
電源21により電圧を印加すると、ジュール熱によりセンサ本体200が加熱され、センサ本体200が熱膨張する。この時のセンサ本体200の温度は、熱電対22により測定される。所定の温度まで加熱した後、電圧の印加を停止して、電源21を取り外す。その後直ちに、図10(b)に示すように、電極201a、201bにテスター23を接続する。テスター23により、センサ本体200の冷却過程における電気抵抗を測定する。同時に、熱電対22によりセンサ本体200の温度を測定する。
【0060】
図11に、測定結果を示す。図11に示すように、温度の低下と共に電気抵抗は減少した。特に、温度が180℃から150℃付近へ低下する際に、電気抵抗の急激な変化が見られた。これより、本センサ素子は、温度ヒューズ等として適用可能であることがわかる。
【0061】
以上説明したように、本発明のエラストマー複合材料は、PTC特性を有するため、温度センサ、温度ヒューズ、ヒーターとして有用である。また、本発明のエラストマー複合材料によると、電気抵抗の増加に基づいて、対象となる部材、部位に作用する荷重、および部材、部位の様々な変形を検出することができる。よって、本発明のエラストマー複合材料は、変形センサとして有用である。また、本発明のエラストマー複合材料は、グラフトポリマーの種類や分子量を適宜選択することにより、溶媒センサ、湿度センサ等としても機能する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】エラストマー複合材料の荷重印加前の導電パスを示す模式図である。
【図2】同エラストマー複合材料の荷重印加後の導電パスを示す模式図である。
【図3】本発明のエラストマー複合材料におけるエラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの結合状態を示す模式図である。
【図4】エラストマー組成物におけるパーコレーションカーブの模式図である。
【図5】比較例のエラストマー複合材料の断面写真であり、(a)は自然状態を、(b)は伸張状態を示す。
【図6】本発明のエラストマー複合材料の断面写真であり、(a)は自然状態を、(b)は伸張状態を示す。
【図7】実施例1のセンサ素子におけるパーコレーションカーブである。
【図8】実施例2のセンサ素子におけるパーコレーションカーブである。
【図9】実施例2のセンサ素子における雰囲気温度の変化に対する電気抵抗の変化を示すグラフである。
【図10】実施例2のセンサ素子について、温度変化に伴う電気抵抗変化を測定する実験装置の模式図であり、(a)はセンサ素子の加熱状態を、(b)はセンサ素子の冷却過程における電気抵抗の測定状態を示す。
【図11】実施例2のセンサ素子について、同センサ素子自身の温度変化に対する電気抵抗の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1:グラフト化炭素系フィラー
10:炭素系フィラー 11:グラフトポリマー 12:エラストマー
2:実験装置 20:センサ素子 200:センサ本体 201a、201b:電極
21:電源 22:熱電対 23:テスター
100:エラストマー複合材料 101:エラストマー 102:導電性フィラー
103:炭素系フィラー
P:導電パス P1:導電パス
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、温度が上昇すると電気抵抗が増加するPTC(Positive Temperature Coefficient)材料として有用なエラストマー複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、PTC特性を有する材料(PTC材料)は、温度センサ、温度ヒューズ、ヒーター等に利用されている。PTC材料としては、例えば、チタン酸バリウム等のセラミックス系材料や、樹脂とカーボンとを複合化した有機系材料等が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。セラミックス系材料は、キュリー温度で強誘電体相から常誘電体相へ相転移する。このため、キュリー温度以上になると、電気抵抗が著しく増加する。一方、有機系材料は、温度の上昇に伴う樹脂の膨張により、樹脂中のカーボン同士の接触が寸断されて、電気抵抗が増加する。
【特許文献1】特開2004−14950号公報
【特許文献2】特開平8−306510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記セラミックス系材料は、形状の自由度が少ない。加えて、高温で焼成する必要があるためコストが高い。また、上記セラミックス系材料および有機系材料では、いずれも温度に対する電気抵抗の変化挙動を調整することは難しい。したがって、例えば、電気抵抗が急激に増加する温度を任意に選択することができない。このため、使用可能な温度範囲が限定されてしまう。
【0004】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、温度に対する電気抵抗の変化挙動や、PTC特性を示す温度範囲等を調整することが可能なエラストマー複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、エラストマーに導電性フィラーを充填した複合材料について鋭意研究を重ねる中で、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するという、極めて特異なエラストマー複合材料を開発した。ここで、「弾性変形」には、圧縮、伸張、曲げ等による変形がすべて含まれる。開発したエラストマー複合材料は、エラストマーに導電性フィラーが所定の状態で充填されてなる。同エラストマー複合材料によると、エラストマー分を介した導電性フィラー同士の接触により、三次元的な導電パスが形成される。このため、同エラストマー複合材料は、荷重が印加されていない状態(以下、適宜「無荷重状態」と称す)、言い換えると、変形していない自然状態で、高い導電性を有する。この理由は、次のように考えられる。図1、図2に、同エラストマー複合材料の、荷重の印加前後における導電パスの変化をモデルで示す。ただし、図1、図2に示すのは、同エラストマー複合材料の一例であり、導電性フィラーの充填状態、形状等を何ら限定するものではない。
【0006】
図1に示すように、エラストマー複合材料100において、導電性フィラー102の多くは、エラストマー101中に一次粒子の状態(略単独の状態)で存在している。また、導電性フィラー102の充填率は高く、最密充填に近い状態で配合されている。これにより、無荷重状態において、エラストマー複合材料100には、導電性フィラー102による三次元的な導電パスPが形成されている。よって、無荷重状態では、エラストマー複合材料100の電気抵抗は小さい。一方、図2に示すように、エラストマー複合材料100に荷重が印加されると、エラストマー複合材料100は弾性変形する(図2中の点線枠は、図1の無荷重状態を示している。)。ここで、導電性フィラー102は最密充填に近い状態で配合されているため、導電性フィラー102が移動できるスペースはほとんどない。よって、エラストマー複合材料100が弾性変形すると、導電性フィラー102同士が反発し合い、導電性フィラー102同士の接触状態が変化する。その結果、三次元的な導電パスPが崩壊し、電気抵抗が増加する。
【0007】
また、開発した上記エラストマー複合材料によると、温度が上昇した場合にも、エラストマーの膨張により導電性フィラー同士の接触状態が変化して、電気抵抗が増加する。すなわち、上記エラストマー複合材料は、温度が上昇すると電気抵抗が増加するPTC特性を有する。
【0008】
このように、上記エラストマー複合材料は、弾性変形量の増加や温度の上昇に従って電気抵抗が増加するという新規な材料であるが、さらに検討を重ねた結果、以下の課題が明らかになった。すなわち、上記エラストマー複合材料の導電性は、充填された導電性フィラーの初期位置により決定される。よって、導電性フィラーの分散性が悪いと、導電性フィラーが偏在して初期位置にばらつきが生じるため、同エラストマー複合材料全体において均一な導電性が得られない。また、導電性フィラーの凝集により、三次元的な導電パスが形成されにくくなり、導電性が低下する。さらにまた、導電性フィラーの偏在により、引張強度等の機械的特性が低下するおそれもある。
【0009】
また、エラストマーと導電性フィラーとの組み合わせにより、両者の接着性が充分でない場合には、エラストマーが弾性変形や膨張、収縮を繰り返すことにより、導電性フィラーがエラストマーから分離する。これにより、導電性フィラーは初期位置から移動して、徐々に凝集する。その結果、初期に形成されていた三次元的な導電パスが崩れ、無荷重状態における導電性が低下してしまう。加えて、導電性フィラーの凝集により、引張強度等の機械的特性が低下するおそれもある。
【0010】
そこで、これらの課題を解決するためになされた、本発明のエラストマー複合材料は、エラストマーと、グラフェン層状構造を持つ炭素系フィラーの表面に、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーが、該メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化されてなるグラフト化炭素系フィラーと、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明における「エラストマー」は、ゴムおよび熱可塑性エラストマーを含む。通常、エラストマーを補強するという目的のためには、黒鉛化度(結晶性)が比較的低く、比表面積が大きく、表面の官能基が多いカーボンブラック等が使用される。カーボンブラックは、炭素六員環が結合し網状に広がった面(グラフェンシート)が数層積み重なったグラフェン層状構造を有すると考えられている。
【0012】
一方、グラフェン層状構造が発達し、黒鉛化度(結晶性)が比較的高く、表面の官能基が少ない炭素系フィラーは、エラストマーに対する補強性に乏しいが、エラストマーに導電性を付与する性能に優れる。黒鉛化度(結晶性)の高い炭素系フィラーの表面には、官能基が少ないので、官能基を足がかりにして、同炭素系フィラーの表面に新たな官能基やポリマーを導入することは難しい。したがって、エラストマーに対する補強性の向上等を目的として、同炭素系フィラーの表面状態を改良することは困難である。
【0013】
この点、本発明におけるグラフト化炭素系フィラーの表面には、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーが、同メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化されている。すなわち、メタロセン誘導体の配位子を炭素系フィラーの表面の炭素六員環と置換させることにより、官能基の多少に関わらず、炭素系フィラーの表面にグラフトポリマーをグラフト化している。ここで、「メタロセン誘導体を含むグラフトポリマー」は、グラフトポリマー中に、メタロセン誘導体由来の構造を含んでいればよく、例えば、メタロセン誘導体とモノマーとの共重合体、メタロセン誘導体により末端変性されたポリマー等を含む概念である。
【0014】
グラフトポリマーとエラストマーとは、ファンデルワールス力等の分子間力やポリマー鎖の絡み合いにより(物理的結合)、あるいは共架橋することにより(化学的結合)、互いに結合される。これにより、グラフトポリマーとエラストマーとの界面接着性が向上する。図3に、本発明のエラストマー複合材料における、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの結合状態をモデルで示す。図3に示すように、グラフト化炭素系フィラー1において、炭素系フィラー10の表面には、グラフトポリマー11がグラフト化されている。グラフトポリマー11とエラストマー12とは、互いに絡み合い、あるいは共架橋して結合されている。これにより、グラフト化炭素系フィラー1はエラストマー12に固定されている。
【0015】
このように、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの接着性が良好であるため、つまり両者が分離しにくいため、本発明のエラストマー複合材料は、引張強度等の機械的特性に優れる。また、後に詳しく説明するが、エラストマー中に、グラフト化炭素系フィラーが所定の状態で充填されている場合、本発明のエラストマー複合材料は、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。ここで、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの接着性は良好である。このため、弾性変形を繰り返しても、グラフト化炭素系フィラーは凝集しにくい。同様に、温度変化に伴い、エラストマーが膨張、収縮を繰り返しても、グラフト化炭素系フィラーは凝集しにくい。すなわち、繰り返し使用しても、初期の三次元的な導電パスが維持され、導電性は低下しにくい。したがって、本発明のエラストマー複合材料は耐久性に優れる。
【0016】
また、グラフト化炭素系フィラーは、炭素系フィラーの表面がグラフトポリマーで被覆されてなる。このため、グラフト化炭素系フィラー同士は凝集しにくい。よって、グラフト化炭素系フィラーは一次粒子の状態で存在しやすい。つまり、分散性が高い。さらに、グラフトポリマーとエラストマーとの相溶性が良好な場合には、グラフト化炭素系フィラーの分散性は、より高くなる。グラフト化炭素系フィラーの分散性が高いと、本発明のエラストマー複合材料の全体において、導電パスがむらなく形成される。したがって、本発明のエラストマー複合材料の全体において均一な導電性が得られる。また、グラフト化炭素系フィラーが凝集しにくいため、引張強度等の機械的特性も向上する。また、グラフト化炭素系フィラーは一次粒子の状態で存在しやすいため、エラストマー中に高充填率で配合することが可能となる。これにより、本発明のエラストマー複合材料において、三次元的な導電パスを形成させて、無荷重状態において高い導電性を発現させることができる。
【0017】
また、グラフトポリマーの熱特性に応じて、本発明のエラストマー複合材料の導電性を調整することも可能である。例えば、グラフトポリマーは、ガラス転移温度(Tg)以上において急激に分子運動が活性化し、ヤング率が低下して体積膨張する。これにより、被覆された炭素系フィラーの拘束状態が変化して、炭素系フィラー間の距離が大きくなる。このため、Tg近傍で、温度に対する大きな導電性変化を誘起することができる。したがって、Tgをはじめとするグラフトポリマーの熱特性を調整することにより、導電性が急激に変化する温度を任意に選択することができる。
【0018】
また、グラフト化炭素系フィラー同士は、グラフトポリマーの絡み合いにより結合されている。このため、グラフトポリマーの種類によって、エラストマーの体積膨張による炭素系フィラー間の距離変化が異なる。つまり、グラフトポリマーの種類を変更することにより、温度上昇に伴う電気抵抗の増加挙動を調整することができる。
【0019】
また、グラフト化炭素系フィラーにおいて、グラフトポリマーが絶縁皮膜として作用する場合、その絶縁皮膜の厚さ(グラフトポリマーの厚さ)を調整することにより、炭素系フィラー自身の導電性を調整することができる。
【0020】
また、エラストマーの架橋密度によって、エラストマーの熱膨張率は変化する。例えば、温度が上昇した場合に、エラストマーの熱膨張率が大きいと、グラフト化炭素系フィラー間の距離が大きく増加する。これにより、電気抵抗の変化は大きくなる。反対に、エラストマーの熱膨張率が小さいと、グラフト化炭素系フィラー間の距離の増加は少ない。これにより、電気抵抗の変化は小さくなる。したがって、エラストマーの架橋密度を調整することにより、温度に対する電気抵抗の変化挙動を調整することができる。
【0021】
このように、本発明のエラストマー複合材料によると、グラフトポリマーの種類、被覆状態、エラストマーとグラフトポリマーとの組み合わせ、グラフト化炭素系フィラーの配合量、エラストマーの架橋密度等を調整することにより、変形や温度に対する電気抵抗の変化挙動や、PTC特性を示す温度範囲等を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のエラストマー複合材料の実施形態を説明する。なお、本発明のエラストマー複合材料は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態において実施することができる。
【0023】
本発明のエラストマー複合材料において、エラストマーは、ゴムおよび熱可塑性エラストマーから適宜選択すればよい。例えば、本発明のエラストマー複合材料を、温度センサ、変形センサ等の材料として使用する場合、エラストマーは、絶縁性であることが望ましい。また、後述するグラフトポリマーとの相溶性や、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するという特性を発現させるという観点では、グラフト化炭素系フィラーとの関係を考慮して選択することが望ましい。
【0024】
例えば、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの混合物(エラストマー組成物)を調製した場合に、パーコレーションカーブにおける飽和体積分率(φs)が35vol%以上となるものを用いることが望ましい。通常、絶縁性のエラストマーに、導電性の炭素系フィラーを混合してエラストマー組成物とした場合、エラストマー組成物の電気抵抗は、炭素系フィラーの配合量によって変化する。図4に、エラストマー組成物における、炭素系フィラーの配合量と電気抵抗との関係を模式的に示す。
【0025】
図4に示すように、エラストマー101に炭素系フィラー103を混合していくと、エラストマー組成物の電気抵抗は、はじめはエラストマー101の電気抵抗とほとんど変わらない。しかし、炭素系フィラー103の配合量がある体積分率に達すると、電気抵抗が急激に低下して、絶縁体−導電体転移が起こる(第一変極点)。この第一変極点における炭素系フィラー103の配合量を、臨界体積分率(φc)と称す。また、さらに炭素系フィラー103を混合していくと、ある体積分率から、電気抵抗の変化が少なくなり電気抵抗変化が飽和する(第二変極点)。この第二変極点における炭素系フィラー103の配合量を、飽和体積分率(φs)と称す。このような電気抵抗の変化は、パーコレーションカーブと呼ばれ、エラストマー101中に炭素系フィラー103による導電パスP1が形成されるためと考えられている。
【0026】
例えば、炭素系フィラーの粒子径が小さい、炭素系フィラーとエラストマーとの相溶性が悪い等の理由により、炭素系フィラーが凝集し、凝集体が形成されている場合には、一次元的な導電パスが形成され易い。このような場合には、エラストマー組成物の臨界体積分率(φc)は、20vol%程度と比較的小さくなる。同様に、飽和体積分率(φs)も比較的小さくなる。言い換えると、臨界体積分率(φc)および飽和体積分率(φs)が小さい場合には、炭素系フィラーは一次粒子として存在し難く、二次粒子(凝集体)を形成し易い。よって、この場合、炭素系フィラーをエラストマー中に多量に配合することは難しい。つまり、炭素系フィラーを最密充填に近い状態で配合することは難しい。また、粒子径の小さな炭素系フィラーを多量に配合すると、凝集構造が三次元的に成長するため、変形に対する電気抵抗の変化が乏しくなる。
【0027】
本発明のエラストマー複合材料において、エラストマー組成物の飽和体積分率(φs)が35vol%以上である場合、グラフト化炭素系フィラーを、エラストマー中に略単粒子状態で安定に存在させることができる。よって、エラストマー中にグラフト化炭素系フィラーを高充填率で配合することができる。エラストマーにグラフト化炭素系フィラーを略単粒子状態で、かつ高充填率で配合することにより、本発明のエラストマー複合材料には、三次元的な導電パスが形成される。すなわち、本発明のエラストマー複合材料は、無荷重状態で高い導電性を有する。また、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する。なお、本明細書において、「略単粒子状態」とは、グラフト化炭素系フィラーの全重量を100重量%とした場合の50重量%以上が、凝集した二次粒子としてではなく、単独の一次粒子の状態で存在していることをいう。また、「高充填率」とは、グラフト化炭素系フィラーが最密充填に近い状態で配合されていることをいう。
【0028】
飽和体積分率(φs)以上の領域においては、本発明のエラストマー複合材料の電気抵抗は低く、安定した導電性が発現される。よって、飽和体積分率(φs)が35vol%以上の場合には、変形した際の導電体から絶縁体への電気抵抗の変化範囲が広くなる。飽和体積分率(φs)が40vol%以上となるものを用いると、より好適である。
【0029】
エラストマーの具体例として、例えば、ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、エチレン−プロピレン共重合ゴム[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)等]、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Cl−IIR、Br−IIR等)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(AR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、合成ラテックス等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素系等の各種熱可塑性エラストマー、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いればよい。なかでも、グラフト化炭素系フィラーとの相溶性が極めて良好なEPDMが好適である。また、グラフト化炭素系フィラーとの相溶性が良好なNBR、シリコーンゴムも好適である。
【0030】
本発明のエラストマー複合材料において、グラフェン層状構造を持つ炭素系フィラー(以下、本実施形態において、単に「炭素系フィラー」と称す)の種類は特に限定されるものではない。例えば、熱硬化性樹脂を炭化して製造されたカーボンビーズ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、気相成長炭素繊維(VGCF)等が挙げられる。これらのうち、一種を単独で、あるいは二種以上を併せて用いることができる。
【0031】
また、炭素系フィラーの形状は、球状、針状、角柱状、鱗片状等、特に限定されるものではない。例えば、本発明のエラストマー複合材料に、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加するという特性を発現させる場合には、炭素系フィラーのアスペクト比(短辺に対する長辺の比)は、1以上2以下の範囲が望ましい。アスペクト比が2より大きくなると、グラフト化炭素系フィラー同士の接触により一次元的な導電パスが形成され易いからである。この場合、上記飽和体積分率(φs)が35vol%未満となるおそれがある。また、エラストマー中における炭素系フィラーの充填状態を、より最密充填状態に近づけるという観点から、炭素系フィラーとして、真球あるいは極めて真球に近い形状(略真球状)の粒子を採用するとよい。
【0032】
また、グラフト化炭素系フィラーは、できるだけ凝集せず、一次粒子の状態で存在することが望ましい。よって、平均粒子径を考慮して、炭素系フィラーを選択するとよい。例えば、略真球状の炭素系フィラーを採用する場合、炭素系フィラーの平均粒子径(一次粒子)は、0.05μm以上100μm以下であることが望ましい。0.05μm未満の場合には、凝集して二次粒子を形成し易い。また、上記飽和体積分率(φs)が35vol%未満となるおそれがある。好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。反対に、100μmを超えると、弾性変形によるグラフト化炭素系フィラーの並進運動(平行運動)が、粒子径に比べて相対的に小さくなり、エラストマー複合材料の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢となる。好ましくは60μm以下、より好ましくは30μm以下である。なお、炭素系フィラーの平均粒子径、およびグラフトポリマーやエラストマーの種類等を適宜調整することで、上記臨界体積分率(φc)および飽和体積分率(φs)を、所望の範囲内に調整することができる。
【0033】
また、炭素系フィラーの粒度分布におけるD90/D10の値は、1以上30以下であることが望ましい。ここで、D90は、累積粒度曲線において積算重量が90%となる粒子径を、D10は、同積算重量が10%となる粒子径である。D90/D10の値が30を超えると、粒度分布がブロードになるため、エラストマー複合材料の弾性変形に対する電気抵抗の増加挙動が不安定になる。これにより、検出の再現性が低下するおそれがある。D90/D10の値が10以下であるとより好適である。なお、炭素系フィラーとして、二種類以上の粒子を使用する場合には、D90/D10の値は100以下であればよい。
【0034】
このような炭素系フィラーとしては、例えば、種々のカーボンビーズが好適である。具体的には、大阪ガスケミカル社製のメソカーボンマイクロビーズ[MCMB6−28(平均粒子径約6μm)、MCMB10−28(平均粒子径約10μm)、MCMB25−28(平均粒子径約25μm)]、日本カーボン社製のカーボンマイクロビーズ:ニカビーズ(登録商標)ICB、ニカビーズPC、ニカビーズMC、ニカビーズMSB[ICB0320(平均粒子径約3μm)、ICB0520(平均粒子径約5μm)、ICB1020(平均粒子径約10μm)、PC0720(平均粒子径約7μm)、MC0520(平均粒子径約5μm)]、日清紡社製のカーボンビーズ(平均粒子径約10μm)等が挙げられる。
【0035】
また、本発明のエラストマー複合材料に所望の導電性を発現させるため、グラフト化炭素系フィラーは、パーコレーションカーブにおける臨界体積分率(φc)以上の割合で配合されていることが望ましい。ここで、グラフト化炭素系フィラーを略単粒子状態でかつ高充填率で配合するという観点から、臨界体積分率(φc)は30vol%以上であることが望ましい。35vol%以上であるとより好適である。換言すれば、グラフト化炭素系フィラーの充填率は、エラストマー複合材料の全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上であることが望ましい。30vol%未満の場合には、グラフト化炭素系フィラーが最密充填に近い状態で配合されないため、所望の導電性が発現しない。また、エラストマー複合材料の弾性変形に対する電気抵抗の変化が緩慢になり、電気抵抗の増加挙動を制御することが難しくなる。35vol%以上であるとより好適である。反対に、グラフト化炭素系フィラーの充填率は、エラストマー複合材料の全体の体積を100vol%とした場合の65vol%以下であることが望ましい。65vol%を超えると、エラストマーへの混合が困難となり、成形加工性が低下する。また、エラストマー複合材料が弾性変形しにくくなる。55vol%以下であるとより好適である。
【0036】
グラフト化炭素系フィラーは、上記炭素系フィラーの表面に、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーがグラフト化されてなる。ここで、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーは、上述したように、グラフトポリマー中に、メタロセン誘導体由来の構造を含んでいればよい。具体的には、メタロセン誘導体とモノマーとの共重合体、メタロセン誘導体により末端変性されたポリマー等が挙げられる。メタロセンは、鉄、コバルト、ニッケル等の金属イオンにシクロペンタジエニルアニオンが二つ配位してなる有機金属化合物である。メタロセン誘導体は、シクロペンタジエニル環の一方に、ビニル基、カルボキシ基、アルデヒド基、水酸基、カルボニル基、アミノ基、エポキシ基等を一つ以上持つものであればよい。例えば、ジルコノセン誘導体、ニッケロセン誘導体、フェロセン誘導体、ハフノセン誘導体、チタノセン誘導体、バナジノセン誘導体、コバルトセン誘導体等が挙げられる。なかでも、種々の誘導体が入手容易であるという観点から、フェロセン誘導体を用いるとよい。具体的には、ビニルフェロセン、フェロセンカルボン酸、フェロセンアルデヒド、フェロセンメタノール、フェロセンエタノール、アセチルフェロセン、アミノフェロセン等が好適である。
【0037】
フェロセン誘導体を含むグラフトポリマーの重量平均分子量は、エラストマーとの結合性等を考慮して、1500以上であることが望ましい。フェロセン誘導体を含むグラフトポリマーとしては、例えば、ビニルフェロセンとビニル基を有するモノマーとの共重合体や、フェロセン誘導体のシクロペンタジエニル環上にあるヘテロ元素を活用した、エステル、アミド、エーテル等との縮合体等が好適である。前者の具体例としては、ビニルフェロセン−スチレン共重合体、ビニルフェロセン−イソプレン共重合体、ビニルフェロセン−メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。また、後者の具体例としては、フェロセンカルボン酸と水酸基末端変性ポリブタジエンとのエステル縮合体、アミノフェロセンとカルボキシル化ニトリル−ブタジエンゴムとのアミド縮合体等が挙げられる。
【0038】
メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーは、該メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化される。配位子交換反応は、例えば、炭素系フィラーとメタロセン誘導体を含むグラフトポリマーとを溶剤に分散させて、アルミニウムおよび塩化アルミニウムの存在下、所定の温度で加熱攪拌することにより行うことができる。溶剤は、メタロセン誘導体の種類、反応温度等により適宜選択すればよく、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、デカリン等を用いることができる。配位子交換反応、すなわち、メタロセン誘導体の一方のシクロペンタジエニル環が炭素系フィラーの表面の炭素六員環と置換することにより、炭素系フィラーの表面にメタロセン誘導体を含むグラフトポリマーがグラフト化される。グラフトポリマーとエラストマーとは、互いのポリマー鎖の絡み合いにより結合される。また、グラフトポリマーの種類によっては、本発明のエラストマー複合材料の製造における加硫時に、エラストマーと共架橋して結合される。
【0039】
また、本発明のエラストマー複合材料において、エラストマーの架橋密度を調整することにより、温度に対する電気抵抗の変化挙動を調整することができる。架橋密度の調整は、例えば、架橋剤の量等を調整して行えばよい。例えば、架橋密度を大きくすると、温度の上昇に伴うエラストマーの熱膨張率は小さくなる。このため、温度が上昇しても、グラフト化炭素系フィラー間の距離の増加は少ない。したがって、温度変化に対する電気抵抗の変化は小さくなる。一方、架橋密度を小さくすると、温度の上昇に伴うエラストマーの熱膨張率は大きくなる。このため、温度が上昇すると、グラフト化炭素系フィラー間の距離は大きく増加する。したがって、温度変化に対する電気抵抗の変化は大きくなる。
【0040】
本発明のエラストマー複合材料は、上記エラストマー、グラフト化炭素系フィラーに加え、各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。
【0041】
本発明のエラストマー複合材料の製造方法は、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーを、該メタロセン誘導体の配位子交換反応により、グラファイト構造を持つ炭素系フィラーの表面にグラフト化させるグラフト化炭素系フィラー合成工程と、合成したグラフト化炭素系フィラーと、エラストマーと、を混練してエラストマー組成物を得るエラストマー組成物調製工程と、得られたエラストマー組成物を加熱して架橋させる架橋工程と、を有するよう構成するとよい。具体的には、例えば、次のようにして製造すればよい。まず、グラフト化炭素系フィラーを合成する。次に、エラストマーに、加硫助剤、軟化剤等の添加剤を添加して、混練りする。これに、合成したグラフト化炭素系フィラーを加えて混練りした後、さらに、架橋剤、加硫促進剤を加えて混練りし、エラストマー組成物とする。次に、エラストマー組成物を所定の形状に成形し、それを金型に充填して、所定の条件下でプレス加硫する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により、本発明のエラストマー複合材料についてさらに詳しく説明する。
【0043】
(1)エラストマー複合材料の製造
(a)グラフトポリマーの合成
グラフトポリマーとして、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴム、およびビニルフェロセン−スチレン共重合体の二種類を合成した。第一に、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムの合成について述べる。まず、フラスコ中において、両末端OH変性液状ブタジエンゴム(出光石油化学社製「R−15TH」、重量平均分子量1200)6gと、フェロセンカルボン酸(アルドリッチ社製)2.8gと、を溶媒のテトラヒドロフラン(THF(脱水);和光純薬工業社製)50mlに配合し、攪拌して溶解させた。続いて、フラスコを氷浴に入れ、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;和光純薬工業社製)2.7gと、N,N’−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP;和光純薬工業社製)0.12gと、を順に投入して溶解させた。その後、室温にて6時間攪拌した。生成物の溶媒を酢酸エチルで置換して、1Nの塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム溶液により酸、アルカリ洗浄を繰り返して精製し、脱水、乾燥させて、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムを単離した。得られたフェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムの重量平均分子量を、GPC(Gel permeation Chromatography)により測定したところ、約1700であった。
【0044】
第二に、ビニルフェロセン−スチレン共重合体の合成について述べる。まず、スチレンモノマー(和光純薬工業社製)1.59gと、ビニルフェロセン(アルドリッチ社製)0.36gと、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)0.0028gと、トルエン(脱水、和光純薬工業社製)5mlと、を50mlの三つ口フラスコへ仕込んだ。フラスコ内を真空引きして系内の溶存酸素を除去した後、フラスコをオイルバスに入れ、90℃の温度下で12時間攪拌した。生成物をメタノール中に再沈殿させて精製し、脱水、乾燥させてビニルフェロセン−スチレン共重合体を単離した。得られたビニルフェロセン−スチレン共重合体の重量平均分子量を、上記同様に測定したところ、約6000であった。
【0045】
(b)グラフト化炭素系フィラーの合成
得られたフェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴム、ビニルフェロセン−スチレン共重合体を、各々グラフトポリマーとして用い、二種類のグラフト化炭素系フィラーを合成した。まず、カーボンビーズ(日本カーボン社製「ニカビーズICB0520」、平均粒子径約5μm、粒度分布におけるD90/D10=3.2)10gと、グラフトポリマー10gと、所定量のアルミニウム粉末(和光純薬工業社製)、塩化アルミニウム(和光純薬工業社製)、1,4−ジオキサン(アルドリッチ社製)と、をフラスコに仕込み、オイルバス中90℃の温度下で、12時間攪拌した。その後、未反応のビニルフェロセン、アルミニウム粉末および塩化アルミニウムを分離して精製し、乾燥させて、グラフト化炭素系フィラーを得た。
【0046】
なお、アルミニウム粉末等の仕込み量は、グラフトポリマーの種類により、次のようにした。すなわち、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムを使用した場合には、アルミニウム粉末0.236g、塩化アルミニウム4.62g、1,4−ジオキサン400mlとし、ビニルフェロセン−スチレン共重合体を使用した場合には、アルミニウム粉末0.575g、塩化アルミニウム11.25g、1,4−ジオキサン100mlとした。
【0047】
また、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムがグラフト化されたグラフト化炭素系フィラーのグラフト化率は10%であり、ビニルフェロセン−スチレン共重合体がグラフト化されたグラフト化炭素系フィラーのグラフト化率は2%である。ここで、グラフト化率は、次式(1)により算出した値である。
グラフト化率(%)=Wp/(Wc+Wp)×100・・・(1)
[式(1)中、Wcはカーボンビーズの重量である。Wpはグラフトポリマーの重量である。]
【0048】
(c)エラストマー複合材料の製造
合成したグラフト化炭素系フィラーを各々用いて、エラストマー複合材料をした。まず、各々のグラフト化炭素系フィラーについて、下記表1に示すグループ1の所定の原料を、ロール練り機にて素練りした。次に、グラフト化炭素系フィラーを所定量添加して、ロール練り機にて混合、分散させた。さらに、同表1に示すグループ2の所定の原料を添加して、ロール練り機にて混合、分散させ、グラフト化炭素系フィラーの充填率の異なる種々のエラストマー組成物を調製した。
【0049】
【表1】
【0050】
次に、調製したエラストマー組成物を、各々、縦40mm、横40mm、厚さ5mmのシート状に成形した。これを金型に充填し、170℃で20分間プレス加硫することにより、エラストマー複合材料を得た。得られたエラストマー複合材料のうち、フェロセンカルボン酸末端変性ブタジエンゴムによるグラフト化炭素系フィラーを用いたものを、実施例1とし、ビニルフェロセン−スチレン共重合体によるグラフト化炭素系フィラーを用いたものを、実施例2とした(以下、本実施例において同じ)。
【0051】
(2)エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの接着性評価
実施例1のエラストマー複合材料(グラフト化率10%)の一つを切断し、その断面を電子顕微鏡で観察した。また、同複合材料を一方向に数%伸張させて、同様に断面を観察した。なお、観察したエラストマー複合材料におけるグラフト化炭素系フィラーの充填率は、51.7vol%であった。一方、比較のため、グラフト化されていない炭素系フィラー(日本カーボン社製「ニカビーズICB0520」、以下実施例において同じ。)を用いて、実施例1と同様に製造したエラストマー複合材料(比較例)についても、伸張の前後における断面を観察した。図5に、比較例のエラストマー複合材料の断面写真を示す。図5中、(a)は自然状態の断面を、(b)は伸張状態の断面をそれぞれ示す。また、図6に、実施例1のエラストマー複合材料の断面写真を示す。ここで、図6中、(a)は自然状態の断面を、(b)は伸張状態の断面をそれぞれ示す。
【0052】
図5(a)、(b)に示すように、比較例のエラストマー複合材料を伸張した場合には、炭素系フィラーはエラストマーから剥がれている。これに対して、実施例1のエラストマー複合材料によると、図6(a)に示すように、自然状態において、グラフトポリマーとエラストマーとが絡み合い接着している。このため、伸張しても、図6(b)に示すように、グラフト化炭素系フィラーはエラストマーから剥がれずに接着されている。このように、実施例1のエラストマー複合材料によると、エラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの接着性が良好であることが確認された。
【0053】
(3)グラフト化炭素系フィラーの分散性評価
上記(1)のエラストマー複合材料の製造において、調製したエラストマー組成物を、各々、縦40mm、横40mm、厚さ5mmのシート状に成形して成形体とした。この成形体を金型に充填し、厚さ方向両端に一対の電極を配置して、170℃で20分間プレス加硫した。これを10mm四方に切り出して、実施例1、実施例2について種々のセンサ素子を作製した。また、比較のため、実施例1、実施例2の各々について、グラフト化されていない炭素系フィラーを用いてセンサ素子を作製した(比較例)。
【0054】
作製した各センサ素子について、電極間の電気抵抗値をテスターにより測定した。測定結果を図7、図8に示す。図7は、実施例1のセンサ素子の測定結果を示す。図8は、実施例2のセンサ素子の測定結果を示す。
【0055】
図7、図8に示すように、実施例1、実施例2の各センサ素子において、炭素系フィラーの充填率に対するパーコレーションカーブが得られた。そして、実施例のいずれのセンサ素子においても、比較例と比較して、パーコレーションカーブがグラフト化炭素系フィラーの高充填率側にシフトした。特に、図7に示すように、グラフト化率が10%と高い場合には、充填率が高くても電気抵抗は高くなった。この理由は、次のように考えられる。すなわち、実施例1、実施例2のセンサ素子によると、グラフト化炭素系フィラーが高分散しているため、充填率が低いと同フィラー同士が接触しにくく、導電パスが形成されにくい。このため、グラフト化炭素系フィラーの充填率が低い場合には、電気抵抗が高くなった。また、グラフトポリマーに被覆されているため、グラフト化炭素系フィラー自体の導電性が低下した。以上より、本発明のエラストマー複合材料から作製された実施例のセンサ素子によると、グラフト化炭素系フィラーの分散性が高いことが確認された。
【0056】
(4)温度変化に伴う電気抵抗変化の測定
ビニルフェロセン−スチレン共重合体がグラフト化され、グラフト化率が1.4%、10%の二種類のグラフト化炭素系フィラーを用いたエラストマー組成物から、上記(3)と同様にして、センサ素子を作製した。なお、各々におけるグラフト化炭素系フィラーの充填率は、50vol%、54vol%の二種類とした。作製したセンサ素子について、雰囲気温度の変化に伴う電気抵抗の変化を測定した。結果を図9に示す。なお、図9には、比較例として、グラフト化されていない炭素系フィラーを用いて作製されたセンサ素子の結果も併せて示す(炭素系フィラーの充填率は47vol%、51vol%の二種類)。
【0057】
図9に示すように、グラフト化炭素系フィラーが充填されているセンサ素子によると、電気抵抗が急激に変化する温度範囲があることがわかる。このような温度範囲は、グラフトポリマーの熱特性に依存すると考えられる。したがって、グラフトポリマーの設計により、電気抵抗の変化挙動を調整することができる。
【0058】
また、グラフト化率10%の上記センサ素子を加熱して、センサ素子自身の温度変化に伴う電気抵抗の変化を測定した。図10に、実験装置の模式図を示す。図10(a)に示すように、実験装置2は、センサ素子20と電源21と熱電対22とを備えている。センサ素子20は、エラストマー複合材料からなるセンサ本体200と、センサ本体200の厚さ方向(図の上下方向)両端に配置された一対の電極201a、201bと、からなる。電源21は、電極201a、201bと接続されている。また、熱電対22は、センサ本体200に装着されている。
【0059】
電源21により電圧を印加すると、ジュール熱によりセンサ本体200が加熱され、センサ本体200が熱膨張する。この時のセンサ本体200の温度は、熱電対22により測定される。所定の温度まで加熱した後、電圧の印加を停止して、電源21を取り外す。その後直ちに、図10(b)に示すように、電極201a、201bにテスター23を接続する。テスター23により、センサ本体200の冷却過程における電気抵抗を測定する。同時に、熱電対22によりセンサ本体200の温度を測定する。
【0060】
図11に、測定結果を示す。図11に示すように、温度の低下と共に電気抵抗は減少した。特に、温度が180℃から150℃付近へ低下する際に、電気抵抗の急激な変化が見られた。これより、本センサ素子は、温度ヒューズ等として適用可能であることがわかる。
【0061】
以上説明したように、本発明のエラストマー複合材料は、PTC特性を有するため、温度センサ、温度ヒューズ、ヒーターとして有用である。また、本発明のエラストマー複合材料によると、電気抵抗の増加に基づいて、対象となる部材、部位に作用する荷重、および部材、部位の様々な変形を検出することができる。よって、本発明のエラストマー複合材料は、変形センサとして有用である。また、本発明のエラストマー複合材料は、グラフトポリマーの種類や分子量を適宜選択することにより、溶媒センサ、湿度センサ等としても機能する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】エラストマー複合材料の荷重印加前の導電パスを示す模式図である。
【図2】同エラストマー複合材料の荷重印加後の導電パスを示す模式図である。
【図3】本発明のエラストマー複合材料におけるエラストマーとグラフト化炭素系フィラーとの結合状態を示す模式図である。
【図4】エラストマー組成物におけるパーコレーションカーブの模式図である。
【図5】比較例のエラストマー複合材料の断面写真であり、(a)は自然状態を、(b)は伸張状態を示す。
【図6】本発明のエラストマー複合材料の断面写真であり、(a)は自然状態を、(b)は伸張状態を示す。
【図7】実施例1のセンサ素子におけるパーコレーションカーブである。
【図8】実施例2のセンサ素子におけるパーコレーションカーブである。
【図9】実施例2のセンサ素子における雰囲気温度の変化に対する電気抵抗の変化を示すグラフである。
【図10】実施例2のセンサ素子について、温度変化に伴う電気抵抗変化を測定する実験装置の模式図であり、(a)はセンサ素子の加熱状態を、(b)はセンサ素子の冷却過程における電気抵抗の測定状態を示す。
【図11】実施例2のセンサ素子について、同センサ素子自身の温度変化に対する電気抵抗の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1:グラフト化炭素系フィラー
10:炭素系フィラー 11:グラフトポリマー 12:エラストマー
2:実験装置 20:センサ素子 200:センサ本体 201a、201b:電極
21:電源 22:熱電対 23:テスター
100:エラストマー複合材料 101:エラストマー 102:導電性フィラー
103:炭素系フィラー
P:導電パス P1:導電パス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、
グラフェン層状構造を持つ炭素系フィラーの表面に、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーが、該メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化されてなるグラフト化炭素系フィラーと、を有するエラストマー複合材料。
【請求項2】
前記メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーの重量平均分子量は1500以上である請求項1に記載のエラストマー複合材料。
【請求項3】
前記メタロセン誘導体は、ジルコノセン誘導体、ニッケロセン誘導体、フェロセン誘導体、ハフノセン誘導体、チタノセン誘導体、バナジノセン誘導体、コバルトセン誘導体から選ばれる一種以上を含む請求項1または請求項2に記載のエラストマー複合材料。
【請求項4】
前記フェロセン誘導体は、ビニルフェロセン、フェロセンカルボン酸、フェロセンアルデヒド、フェロセンメタノール、フェロセンエタノール、アセチルフェロセン、アミノフェロセンから選ばれる一種以上を含む請求項3に記載のエラストマー複合材料。
【請求項5】
前記炭素系フィラーは、熱硬化性樹脂を炭化して製造されたカーボンビーズ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、メソカーボンマイクロビーズ、気相成長炭素繊維から選ばれる一種以上を含む請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のエラストマー複合材料。
【請求項6】
前記炭素系フィラーは略真球状を呈し、該炭素系フィラーの平均粒子径は0.05μm以上100μm以下である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のエラストマー複合材料。
【請求項7】
前記エラストマーは、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴムから選ばれる一種以上を含む請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のエラストマー複合材料。
【請求項8】
前記炭素系フィラーは略真球状を呈し、
前記グラフト化炭素系フィラーは、前記エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されており、
弾性変形可能であって、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のエラストマー複合材料。
【請求項9】
前記エラストマーと前記グラフト化炭素系フィラーとを有するエラストマー組成物の、該グラフト化炭素系フィラーの配合量と電気抵抗との関係を表すパーコレーションカーブにおいて、電気抵抗変化が飽和する第二変極点の該グラフト化炭素系フィラーの配合量(飽和体積分率:φs)が35vol%以上である請求項8に記載のエラストマー複合材料。
【請求項10】
前記グラフト化炭素系フィラーの充填率は、エラストマー複合材料全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上65vol%以下である請求項8または請求項9に記載のエラストマー複合材料。
【請求項1】
エラストマーと、
グラフェン層状構造を持つ炭素系フィラーの表面に、メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーが、該メタロセン誘導体の配位子交換反応によりグラフト化されてなるグラフト化炭素系フィラーと、を有するエラストマー複合材料。
【請求項2】
前記メタロセン誘導体を含むグラフトポリマーの重量平均分子量は1500以上である請求項1に記載のエラストマー複合材料。
【請求項3】
前記メタロセン誘導体は、ジルコノセン誘導体、ニッケロセン誘導体、フェロセン誘導体、ハフノセン誘導体、チタノセン誘導体、バナジノセン誘導体、コバルトセン誘導体から選ばれる一種以上を含む請求項1または請求項2に記載のエラストマー複合材料。
【請求項4】
前記フェロセン誘導体は、ビニルフェロセン、フェロセンカルボン酸、フェロセンアルデヒド、フェロセンメタノール、フェロセンエタノール、アセチルフェロセン、アミノフェロセンから選ばれる一種以上を含む請求項3に記載のエラストマー複合材料。
【請求項5】
前記炭素系フィラーは、熱硬化性樹脂を炭化して製造されたカーボンビーズ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、メソカーボンマイクロビーズ、気相成長炭素繊維から選ばれる一種以上を含む請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のエラストマー複合材料。
【請求項6】
前記炭素系フィラーは略真球状を呈し、該炭素系フィラーの平均粒子径は0.05μm以上100μm以下である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のエラストマー複合材料。
【請求項7】
前記エラストマーは、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴムから選ばれる一種以上を含む請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のエラストマー複合材料。
【請求項8】
前記炭素系フィラーは略真球状を呈し、
前記グラフト化炭素系フィラーは、前記エラストマー中に略単粒子状態でかつ高充填率で配合されており、
弾性変形可能であって、弾性変形量が増加するに従って電気抵抗が増加する請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のエラストマー複合材料。
【請求項9】
前記エラストマーと前記グラフト化炭素系フィラーとを有するエラストマー組成物の、該グラフト化炭素系フィラーの配合量と電気抵抗との関係を表すパーコレーションカーブにおいて、電気抵抗変化が飽和する第二変極点の該グラフト化炭素系フィラーの配合量(飽和体積分率:φs)が35vol%以上である請求項8に記載のエラストマー複合材料。
【請求項10】
前記グラフト化炭素系フィラーの充填率は、エラストマー複合材料全体の体積を100vol%とした場合の30vol%以上65vol%以下である請求項8または請求項9に記載のエラストマー複合材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2008−239747(P2008−239747A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81053(P2007−81053)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]