説明

エリスロポエチンコンジュゲート

【課題】N末端α−アミノ基を有し、かつ骨髄細胞による網状赤血球及び赤血球の産生の増加を生じるというin vivo生物学的活性を有し、かつヒトエリスロポエチン、及び1〜6個のグリコシル化部位の付加又は少なくとも1個のグリコシル化部位の再編成により修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有するその類似体からなる群より選択されるエリスロポエチン糖タンパク質を含む、エリスロポエチンのポリ(エチレングリコール)とのコンジュゲートを提供する。
【解決手段】式:−CO−(CH2x−(OCH2CH2m−OR[ポリ(エチレングリコール)基の−COは、該N末端α−アミノ基とアミド結合を形成しており;Rは低級アルキルであり;xは2又は3であり;かつmは約450〜約1350である]のポリ(エチレングリコール)基1個と共有結合で結合している糖タンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
赤血球新生は、細胞破壊を補うために起こる赤血球の産生である。赤血球新生は、適切な組織への酸素供給のために十分な赤血球が利用されうることを可能にする、制御された生理学的メカニズムである。天然に存在するヒトエリスロポエチン(EPO)は、腎臓において産生され、赤血球産生を刺激する液性の血漿因子である(Carnot, P及びDeflandre, C(1906)C.R.Acad.Sci.143: 432; Erslev, AJ(1953) Blood 8: 349; Reissmann, KR(1950)Blood 5: 372; Jacobson, LO, Goldwasser, E, Freid, W及びPlzak, LF(1957)Nature 179: 6331-4)。天然に存在するEPOは、骨髄に拘束された赤血球前駆細胞の分裂及び分化を刺激し、赤血球先駆細胞上の受容体と結合することにより、その生物学的活性を発揮する(Krantz, BS(1991)Blood 77: 419)。
【0002】
エリスロポエチンは、組換えDNA技術を使用して生合成的に製造されており(Egrie, JC, Strickland, TW, Lane, Jら(1986)Immunobiol.72: 213-224)、チャイニーズハムスターの卵巣組織細胞(CHO細胞)へと挿入されそこで発現させられた、クローニングされたヒトEPO遺伝子の産物である。ヒトエリスロポエチン(hEPO)の優勢な完全にプロセシングを受けた型の一次構造は、図1に示されている。Cys7−Cys161間及びCys29−Cys33間に2個のジスルフィド架橋が存在する。糖部分を含まないEPOのポリペプチド鎖の分子量は、18,236Daである。完全なEPO分子においては、分子量のおよそ40%が、タンパク質上のグリコシル化部位でタンパク質をグリコシル化する炭水化物基によって占められる(Sasaki, H, Bothner, B, Dell, A及びFukuda, M(1987)J.Biol.Chem.262: 12059)。
【0003】
ヒトエリスロポエチンは赤血球形成に不可欠であるため、このホルモンは、低いか、又は欠損している赤血球産生を特徴とする血液障害の処置において有用である。臨床的に、EPOは、慢性腎不全患者(CRF)における貧血(Eschbach, W, Egri, JC, Downing, MRら(1987)NEJM 316: 73-78; Eschbach, JW, Abdulhadi, MH, Browne, JKら(1989)Ann.Intern.Med.111: 992; Egrie, JC, Eschbach, JW, McGuire, T, Adamson, JW(1988)Kidney Intl.33: 262; Lim, VS, Degowin, RL, Zavala, Dら(1989)Ann.Intern.Med.110: 108-114)、並びにエイズ及び化学療法を受けている癌患者における貧血(Danna, RP, Rudnick, SA, Abels, RI In: MB, Garnick編 Erythropoietin in Clinical Applications-An International Perspective.New York, NY: Marcel Dekker; 1990: 301-324頁)の処置において使用されている。しかしながら、EPOのような商業的に入手可能なタンパク質治療薬のバイオアベイラビリティは、短い血漿半減期、及びプロテアーゼ分解に対する感受性によって制限されている。従って、例えば、PEG化EPO誘導体が、これらの問題を克服するために提案されている。
【0004】
PEG化タンパク質への一般的な経路は、モノPEG化タンパク質とオリゴPEG化タンパク質との混合物を与える。さらに、ポリエチレングリコール化合物(PEG)は、タンパク質表面上の利用可能な反応性基の量及び反応性に依って、タンパク質のいくつかの位置に結合する。そのような混合物は、重大な欠点をもたらしうる:PEGは、タンパク質特異的受容体と相互作用する位置に結合し、治療効力を決定的に減少させるか、又は阻害すらする可能性がある。この短所を解決するためには、そのような混合物の活性成分の分離及び精製、又は形成を回避するための選択的な合成経路のいずれかが必要とされる。明白に、混合物の形成の回避は、本質的により高い収率で、単一の位置異性体に関して純粋な活性医薬成分を入手することをより容易にする。PEG−タンパク質混合物の位置異性体の分離は、生産規模における一般的な道具では不可能ですらある。
【0005】
組換え作製されたポリペプチドの選択的な修飾のためのいくつかの方法が、提案されている。
【0006】
欧州特許出願EP651,761は、組換え作製されたポリペプチドの末端α−炭素反応性基における選択的な修飾を開示している。この方法の第一工程は、生物学的に付加された保護基により、末端α−炭素反応性基を保護するよう、組換え作製されたポリペプチドを形成することである。生物学的に付加された保護基は、好ましくはアミノ酸、ペプチド、及び/又は酵素的もしくは化学的に分解可能な部位を少なくとも1個含有し、かつ好ましくは所望のポリペプチドの配列には存在しない配列を有しているポリペプチドである。生物学的に保護されたポリペプチドを、形成後、側鎖基を保護するために化学的な保護剤と反応させ、次いで生物学的に付加された保護基に特異的な分解試薬で分解する。これらの手段によって、保護されていないN末端アミノ基及び保護された側鎖反応性基を有するポリペプチドが作製される。保護されていないN末端アミノ基は、N末端が修飾され、かつ側鎖が保護されたポリペプチドを形成させるために、修飾剤により修飾される。次いで、それは、N末端が修飾されたポリペプチドを形成させるために脱保護される。EP651,761は、任意のアミノ酸配列が、生物学的に付加された保護基として付加されうることを教示している。しかしながら、哺乳動物発現系においては、EPOは、プロセシングを受けた成熟EPOを与えるためにシグナルペプチダーゼによって切断除去されるリーダーシグナル配列を含んで発現される。そのようなシグナルペプチダーゼは、P1’及びP3’切断部位の限定されたアミノ酸残基のみを認識する(R.E.Dalbeyら Protein Sci.6, 1129(1997))。従って、生物学的に付加された保護ペプチドは、シグナル配列の切断のための少なくとも3個のアミノ酸からなるN末端アミノ酸配列の後に、保護基の酵素的又は化学的な除去のためのアミノ酸配列が続いたものから構築されなければならない。シグナルペプチダーゼ及び切断プロテアーゼの両方の認識配列が同一であるか、又は密接な関係にある場合には、生物学的に付加された保護基の配列を、少数のアミノ酸へと減少させることが可能となる。
【0007】
さらに、N末端の選択的な修飾は、アルデヒド(又はケトン)で官能化された標的巨大分子への化学選択的(chemoselective)ライゲーションにより達成された(欧州特許出願EP788,375; Gaertner, HF, Offord, RE, Bioconjugate Chem., 7(1), 38-44(1996))。しかしながら、この方法は、N末端のセリン又はトレオニンにのみ有効である。
【0008】
N末端アラニンの選択的修飾は、アラニンのピルビン酸塩へのアミノ基転移によって証明された(欧州特許出願EP964,702及びEP605,963)。この方法の問題は、形成されたEPO誘導体が、減少したin vitro活性を示した点である。また、転移剤Cu2+/グリオキシル酸/NaOAcは、EPO分子内の副反応を生成させる可能性が高い。
【0009】
部位特異的N末端修飾は、トランスグルタミナーゼにより媒介されるポリ(エチレングリコール)誘導体の取り込みによっても示された(Sato, H., Yamamoto, K, Hayashi, E, Takahara, Y, Bioconjugate Chem.11(4), 502-509(2000))。しかし、この方法は、低い収率のみを示し、そしてN末端におけるペプチドタグの取り込みを必要とし、従ってポリペプチド構造を修飾する。
【0010】
グリオキシリルに基づく標識試薬による修飾も、選択的なN末端修飾を可能にするが(Zhao, ZG, Im, JS, Clarke, DF, Bioconjugate Chem.10, 424-430(1999))、システインに限定される。
【0011】
本発明は、N末端α−アミノ基を有し、かつ骨髄細胞による網状赤血球及び赤血球の産生の増加を生じるというin vivo生物学的活性を有し、かつヒトエリスロポエチン、及び1〜6個のグリコシル化部位の付加又は少なくとも1個のグリコシル化部位の再編成により修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有するその類似体からなる群より選択されるエリスロポエチン糖タンパク質を含むエリスロポエチンコンジュゲートを提供する。該糖タンパク質は、式:
【0012】
【化5】

【0013】
[式中、ポリ(エチレングリコール)基の−COは、該N末端α−アミノ基とアミド結合を形成しており;Rは低級アルキルであり;xは、2又は3であり;かつmは、約450〜約1350である]のポリ(エチレングリコール)基1個と共有結合で結合している。
【0014】
未修飾EPO(即ち、PEGが結合されていないEPO)及び従来のPEG−EPOコンジュゲートと比較して、本発明のコンジュゲートは、増加した循環血中半減期及び血漿滞留時間、減少したクリアランス、並びに増加した臨床的in vivo活性を有している。本発明のコンジュゲートは、EPOと同じ用途を有している。特に、本発明のコンジュゲートは、EPOが患者を治療するために使用されるのと同じ方式で、骨髄に拘束された赤血球前駆細胞の分裂及び分化を刺激することにより、患者を治療するために有用である。
【0015】
本発明は、N末端α−アミノ基を有し、かつ骨髄細胞による網状赤血球及び赤血球の産生の増加の誘導というin vivo生物学的活性を有し、かつヒトエリスロポエチン、及び1〜6個のグリコシル化部位の付加又は少なくとも1個のグリコシル化部位の再編成により修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有するその類似体からなる群より選択されるエリスロポエチン糖タンパク質を含むコンジュゲートを提供する。該糖タンパク質は、式:
【0016】
【化6】

【0017】
[式中、ポリ(エチレングリコール)基の−CO(即ち、カルボニル)は、該N末端α−アミノ基とアミド結合を形成しており;Rは、低級アルキルであり;xは、2又は3であり;かつmは、約450〜約1350である;即ちmは、コンジュゲートからエリスロポエチン糖タンパク質を差し引いたものの分子量が約20〜約60kDa(キロダルトン)になるよう選択される]のポリ(エチレングリコール)基1個と共有結合で結合している。
【0018】
本発明のコンジュゲートは、未修飾EPOと同様に使用されうることが見出された。しかしながら、本発明のコンジュゲートは、増加した循環血中半減期及び血漿滞留時間、減少したクリアランス、並びに増加した臨床的in vivo活性を有している。これらの改良された特性のため、本発明のコンジュゲートは、未修飾EPOの場合の週3回ではなく、週1回、投与されうる。減少した投与頻度は、改良された患者のコンプライアンスをもたらし、それは、改良された治療結果、及び改良された患者の生活の質につながると予想される。ポリ(エチレングリコール)に結合したEPOの従来のコンジュゲートと比較して、本発明のコンジュゲートの分子量及びリンカー構造を有しているコンジュゲートは、改良された効力、安定性、曲線下面積(AUC)、及び循環血中半減期を有していることが見出された。
【0019】
「N末端α−アミノ基」という用語は、ペプチドのN末端アミノ残基、即ち遊離α−アミノ(NH2−)基を含むアミノ酸を有するペプチド又はタンパク質の鎖の末端をさす。
【0020】
「エリスロポエチン」又は「EPO」という用語は、図1(配列番号:1)もしくは図2(配列番号:2)、好ましくは図1に示されたアミノ酸配列、又は赤血球生成の刺激、並びに骨髄に拘束された赤血球前駆細胞の分裂及び分化の刺激に関係がある生物学的特性を有し、それらと実質的に相同なアミノ酸配列を有する糖タンパク質をさす。本明細書において使用されるように、これらの用語は、故意に、例えば部位特異的突然変異誘発により修飾されたそのようなタンパク質、又は偶然に突然変異により修飾されたそのようなタンパク質を含む。これらの用語は、付加的なグリコシル化部位1〜6個を有する類似体、糖タンパク質のカルボキシ末端に、グリコシル化部位少なくとも1個を含む、付加的なアミノ酸少なくとも1個を有している類似体、及びグリコシル化部位少なくとも1個の再編成を含むアミノ酸配列を有する類似体も含む。これらの用語は、天然のヒトエリスロポエチン及び組換え作製されたヒトエリスロポエチンの両方を含む。
【0021】
「中間体EPO」という用語は、N末端伸長部を有するエリスロポエチン糖タンパク質誘導体をさす。好ましくは、アミノ酸伸長部は、分泌シグナル配列の後に、場合により精製タグ、例えば(例えば、H. M.Sassenfeld, Trends in Biotechnol.8, 88-93(1990)に記載されたような)ヒスチジンタグが続き、その後に、タンパク質の消化のための酵素認識配列が続いたもの(その後には、後記定義のようなエリスロポエチン糖タンパク質アミノ酸配列が続く)を含む。
【0022】
「修飾型EPO」という用語は、分泌シグナルが切断除去された中間体EPO、例えば、タンパク質分解的切断部位、例えば配列APPRIEGRによりN末端が伸長されたEPO糖タンパク質、即ちAPPRIEGR−EPO(配列番号:3)、又はAPPによりN末端が伸長されたEPO糖タンパク質、即ちAPP−EPO(配列番号:4)、又はAPPGAAHYによりN末端が伸長されたEPO糖タンパク質、即ちAPPGAAHY−EPO(配列番号:5)、又はそれらと実質的に相同な配列をさす(図3、4及び5も参照のこと)。
【0023】
「保護された修飾型EPO」という用語は、化学的保護剤によるε−アミノ基のアシル化、例えばシトラコニル化によって入手される修飾型EPOをさす。
【0024】
「保護されたEPO」という用語は、保護された修飾型EPOのタンパク質分解的切断の後に得られるEPO誘導体、即ちε−アミノ基が化学的保護剤により修飾されており、遊離のN末端α−アミノ基が存在しているEPOを意味する。
【0025】
「相同アミノ酸配列」という用語は、本明細書及び特許請求の範囲において定義されるようなPEG化エリスロポエチン化合物の場合、対応するアミノ酸配列が、対応するタンパク質分解的切断配列又は図1もしくは2に示される対応するエリスロポエチンアミノ酸との少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、必要とされる生物学的活性(対応するプロテアーゼにより切断可能であるか、又は骨髄細胞による網状赤血球及び赤血球の産生の増加の誘導というin vivo生物学的活性を有する)を示すことを意味する。好ましくは、相同性は、90%、より好ましくは95%である。
【0026】
本発明のエリスロポエチンコンジュゲートは、式I:
【0027】
【化7】

【0028】
[式中、x、m、及びRは、前記と同義である]により表されうる。式I中、Pは、骨髄細胞による網状赤血球及び赤血球の産生の増加の誘導というin vivo生物学的活性を有する、本明細書に記載されたエリスロポエチン糖タンパク質の残基(即ち、式Iに示されるカルボニルと共にアミド連結を形成しているN末端アミノ基を除く)である。
【0029】
本発明の好ましい実施態様において、Rはメチルである。好ましくは、mは、約550〜約1000、より好ましくは約650〜約750である。
【0030】
本発明の最も好ましい実施態様において、Rはメチルであり、かつmは約650〜約750である(即ち式
【0031】
【化8】

【0032】
[式中、mは、650〜750であり、かつPは、前記と同義である]を有する前記定義のようなコンジュゲート)。好ましくは、mは、約730という平均値を有する。
【0033】
好ましくは、前記定義のようなコンジュゲートの糖タンパク質は、ヒトエリスロポエチンである。ヒトエリスロポエチン及び前記定義のような類似タンパク質は、内因性遺伝子活性化により発現されうる。好ましいヒトエリスロポエチン糖タンパク質は、図1又は2に示されるようなもの、最も好ましくは図1に示されるようなものである。
【0034】
さらに、Pは、ヒトエリスロポエチン及び付加的なグリコシル化部位1〜6個を有するその類似体の残基からなる群より選択されうる。後に詳細に示されるように、EPOの調製及び精製は、当分野において周知である。EPOとは、組織、タンパク質合成、天然又は組換えの細胞を含む細胞培養物のような任意の従来の起源より得られるような、天然又は組換えのタンパク質、好ましくはヒトのタンパク質である。突然変異タンパク質又はその他の修飾型タンパク質のようなEPOの活性を有する任意のタンパク質が、包含される。組換えEPOは、組換えDNA技術によって、又は内因性遺伝子活性化によって、CHO細胞系、BHK細胞系、COS細胞系、HeLa細胞系、もしくはPER.C6細胞系、又はその他の動物もしくはヒトに由来する適切な細胞系における発現により、調製されうる。EPOを含むタンパク質の内因性遺伝子活性化による発現は、当分野において周知であり、例えば米国特許第5,733,761号、第5,641,670号、及び第5,733,746号、並びに国際公開公報WO93/09222号、WO94/12650号、WO95/31560号、WO90/11354号、WO91/06667号、及びWO91/09955号(これらの内容は各々参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。エリスロポエチン糖タンパク質産物の調製のための好ましいEPO種は、ヒトEPO種である。より好ましくは、EPO種は、図1又は図2に示されたアミノ酸配列、より好ましくは図1に示されたアミノ酸配列を有するヒトEPOである。
【0035】
一つの実施態様において、Pは、付加的なグリコシル化部位1〜6個を有する糖タンパク質類似体の残基であってもよい。1個以上のオリゴ糖基によるタンパク質のグリコシル化は、ポリペプチド骨格上の特定の位置で起こり、タンパク質の安定性、分泌、細胞内局在化、及び生物学的活性のようなタンパク質の物理的特性に大きな影響を与える。グリコシル化には、通常、二つの型がある。O結合型オリゴ糖は、セリン残基又はトレオニン残基に付加され、N結合型オリゴ糖は、アスパラギン残基に付加される。N結合型及びO結合型両方のオリゴ糖に見い出される一つの型のオリゴ糖は、9個以上の炭素原子を含有しているアミノ糖のファミリーであるN−アセチルノイラミン酸(シアル酸)である。シアル酸は、通常、N結合型及びO結合型両方のオリゴ糖の末端残基であり、負の電荷を保持しているため、糖タンパク質へ酸性特性を付与する。165個のアミノ酸を有するヒトエリスロポエチンは、3個のN結合型オリゴ糖鎖及び1個のO結合型オリゴ糖鎖を含有しており、それらは、糖タンパク質の総分子量の約40%を構成している。N結合型グリコシル化は、24位、38位、及び83位に位置するアスパラギン残基で起こり、O結合型グリコシル化は、126位に位置するセリン残基で起こる。オリゴ糖鎖は、末端シアル酸残基で修飾されている。エリスロポエチンのシアル化は、肝臓の結合タンパク質との結合、及びその後のクリアランスを防止するため、グリコシル化エリスロポエチンからの全てのシアル酸残基の酵素的な除去は、in vivo活性の損失をもたらすが、in vitro活性の損失はもたらさない。
【0036】
本発明の糖タンパク質は、シアル酸付加のための部位の数の増加をもたらす、ヒトエリスロポエチンのアミノ酸配列の1個以上の変化を有するヒトエリスロポエチンの類似体を含む。グリコシル化に利用可能な部位を増加させるか又は改変させるアミノ酸残基の付加、欠失、又は置換を有するこれらの糖タンパク質類似体は、部位特異的突然変異誘発によって作製されうる。ヒトエリスロポエチンに見い出されるものより大きなシアル酸レベルを有する糖タンパク質類似体は、生物学的活性のために必要とされる二次構造及び三次構造を妨害しないグリコシル化部位を付加することにより作製される。本発明の糖タンパク質は、N結合型又はO結合型の部位に近接しているアミノ酸1個以上の置換を通常含む、グリコシル化部位における炭水化物付加の増加したレベルを有する類似体も含む。本発明の糖タンパク質は、エリスロポエチンのカルボキシ末端から伸長し、少なくとも1個の付加的な炭水化物部位を提供する1個以上のアミノ酸を有する類似体も含む。本発明の糖タンパク質は、少なくとも1個のグリコシル化部位の再編成を含むアミノ酸配列を有する類似体も含む。そのようなグリコシル化部位の再編成は、ヒトエリスロポエチンの1個以上のグリコシル化部位の欠失、及び1個以上の天然には存在しないグリコシル化部位の付加を含む。エリスロポエチン上の炭水化物鎖の数の増加、従ってエリスロポエチン1分子当たりのシアル酸の数の増加は、増加した可溶性、タンパク質分解的切断に対するより大きな抵抗性、減少した免疫原性、増加した血清半減期、及び増加した生物学的活性のような有利な特性を付与しうる。付加的なグリコシル化部位を有するエリスロポエチン類似体は、1995年3月1日公開のエリオット(Elliot)の欧州特許出願第640619号に、より詳細に開示されている。
【0037】
好ましい実施態様において、本発明の糖タンパク質は、これらに限定はされないが、下記より選択された修飾により修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を含むエリスロポエチンのような、少なくとも1個の付加的なグリコシル化部位を含むアミノ酸配列を含む。
【0038】
【表3】

【0039】
アミノ酸配列の修飾に関して本明細書において使用される表記は、対応する未修飾タンパク質(例えば、図1及び図2のhEPO)の上付き数字により示される位置が、それぞれの上付き数字の直前にあるアミノ酸へと変化していることを意味する。
【0040】
糖タンパク質は、少なくとも1個のグリコシル化部位の再編成を含むアミノ酸配列を有する類似体であってもよい。再編成は、ヒトエリスロポエチンのN結合型炭水化物部位のいずれかの欠失、及びヒトエリスロポエチンのアミノ酸配列の88位におけるN結合型炭水化物部位の付加を含みうる。好ましくは、糖タンパク質は、Gln24Ser87Asn88Thr90EPO;Gln38Ser87Asn88Thr90EPO;及びGln83Ser87Asn88Thr90EPOからなる群より選択される類似体である。
【0041】
本明細書において使用されるように、「低級アルキル」とは、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐のアルキル基を意味する。低級アルキル基の例は、メチル、エチル、及びイソプロピルを含む。本発明によると、Rは、任意の低級アルキルである。Rがメチルであるコンジュゲートが、好ましい。
【0042】
「m」という記号は、ポリ(エチレンオキシド)基の中のエチレンオキシド残基(OCH2CH2)の数を表す。エチレンオキシドの単一PEGサブユニットは、約44ダルトンの分子量を有している。従って、(EPOの分子量を除外した)コンジュゲートの分子量は、数「m」に依存する。本発明のコンジュゲートにおいて、「m」は、約450〜約1350(約20〜約60kDaの分子量に相当)、好ましくは約650〜約750(約30kDaの分子量に相当)、最も好ましくは約730である。数mは、得られる本発明のコンジュゲートが、未修飾EPOと比較可能な生理学的活性(未修飾EPOの対応する活性と同じであるか、それより多いか、又はその一部である活性)を有するように選択される。ある数に「約」が付いている分子量は、それが、従来の分析技術によって決定されるようなその数の合理的な範囲に含まれていることを意味する。エリスロポエチン糖タンパク質と共有結合で結合したポリ(エチレングリコール)鎖の分子量が、約20〜約60kDaであり、好ましくは約32kDaであるように、数「m」は選択される。
【0043】
前記の化合物の調製のための方法の工程は、単一コピー糖タンパク質が、N末端α−アミンにおいて1個以上の生物学的に付加された保護基で保護されるよう、組換え単一コピーエリスロポエチン糖タンパク質又はその一部を形成させることを含む。次いで、組換えエリスロポエチンを、反応性の側鎖アミノ基を選択的に保護し、それによりアミノ側鎖基がPEG化試薬で修飾されるのを防止するため、保護基と反応させることができる。エリスロポエチン糖タンパク質は、保護されていない末端アミノ酸α−炭素反応性アミノ基を形成させるために、生物学的保護基に特異的な切断試薬少なくとも1つにより切断されうる。保護されていない末端アミノ酸α−炭素反応性基は、PEG化試薬で修飾されうる。次いで、側鎖が保護され末端が修飾されたエリスロポエチン糖タンパク質は、末端が修飾された(=PEG化された)組換えエリスロポエチン糖タンパク質を形成させるため、側鎖基において脱保護される。
【0044】
従って、本発明は、
a)タンパク質分解的切断部位を含むN末端ペプチド伸長部を含む組換えEPOタンパク質の発現、好ましくは無血清発酵、
b)ε−アミノ基の保護、
c)N末端ペプチド伸長部のタンパク質分解的切断、
d)N末端α−アミノ基のPEG化、
e)エリスロポエチン糖タンパク質のε−アミノ基の脱保護、を含み、
f)場合により、前記の各工程の後に精製工程が行われてもよい、方法にも関する。
【0045】
本発明は、組換えEPOが、図1〜5に示されるアミノ酸配列からなる群より選択される配列を含む、前記方法にも関する。ε−アミノ基は、シトラコニル化によって保護されてもよく、N末端α−アミノ基は、式:
【0046】
【化9】

【0047】
[式中、R、m及びxは、前記と同義である]によりPEG化されうる。
【0048】
より詳細には、前記の工程は、以下のようにして実施されうる。
【0049】
A)修飾型EPOの発現、発酵、及び精製:
EPO及びEPO関連分子に関するクローニング及び発現の方法は、当分野において既知である。ヒトエリスロポエチン(EPO)は、赤血球の形成を刺激するヒト糖タンパク質である。その調製及び治療への適用は、例えば米国特許第5,547,933号及び第5,621,080号、EP-B 0 148 605、Huang, S.L., Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)2708-2712、EP-B 0 205 564、EP-B 0 209 539、及びEP-B 0 411 678、並びにLai, P.H.ら、J.Biol.Chem.261(1986)3116-3121、及びSasaki, H.ら、J.Biol.Chem.262(1987)12059-12076に詳細に記載されている。治療に使用するためのエリスロポエチンは、組換え手段によって作製されうる(EP-B 0 148 605、EP-B 0 209 539、及びEgrie, J.C., Strickland, T.W., Lane, J.et al.(1986)Immunobiol.72: 213-224)。
【0050】
無血清培地におけるエリスロポエチンの発現及び調製のための方法は、例えば1996年11月14日公開のブルグ(Burg)のWO96/35718号、及び1992年6月12日公開のコッホ(Koch)の欧州特許出願公開第513738号に記載されている。前述の刊行物に加え、EPO遺伝子を含有している組換えCHO細胞の無血清発酵が実施されうることが知られている。そのような方法は、例えばEP-A 0 513 738、EP-A 0 267 678に記載されており、一般的な形式では、Kawamoto, T.et al., Analytical Biochem.130(1983)445-453、EP-A 0 248 656、Kowar, J.及びFranek, F., Methods in Enzymology 421(1986)277-292、Bavister, B., Exp.Zoology 271(1981)45-51、EP-A 0 481 791、EP-A 0 307 247、EP-A 0 343 635、WO 88/00967に記載されている。
【0051】
エリスロポエチン及びその誘導体の精製法も、当分野において既知である。
【0052】
EP-A 0 267 678には、透析後の無血清培養物中に産生されたEPOの精製のためのS−セファロース上のイオン交換クロマトグラフィー、C8カラム上の分取用逆相HPLC、及びゲル濾過クロマトグラフィーが、記載されている。これに関して、ゲル濾過クロマトグラフィー工程は、S−セファロースファーストフロー上のイオン交換クロマトグラフィーと交換されうる。ブルートリスアクリル(Blue Trisacryl)カラム上の色素クロマトグラフィーを、イオン交換クロマトグラフィーの前に実施することも提案されている。
【0053】
組換えEPOの精製のための方法は、Nobuo, I.et al., J.Biochem.107(1990)352-359に記載されている。しかしながら、この方法においては、EPOが、精製工程の前に、Tween(登録商標)20、フェニルメチルスルホニルフロリド、エチルマレイミド、ペプスタチンA、硫酸銅、及びオキサミン酸の溶液で処理される。1996年11月14日公開のブルグ(Burg)のWO96/35718を含む刊行物は、無血清発酵方法においてエリスロポエチンを調製するための方法を開示している(EPOsf)。
【0054】
B)反応性側鎖アミノ基を選択的に保護するための保護剤との反応:保護された修飾型EPOの調製
適切な化学的保護剤は、保護されていない側鎖アミンにおいて結合を形成し、N末端における結合より安定性が低く、そしてN末端における結合とは異なるものである。多数の化学的保護剤が既知である(例えば、欧州特許出願EP651,761参照)。無水マレイン酸又は無水シトラコン酸のような環式ジカルボン酸無水物が好ましい。
【0055】
シトラコニル化は、標的のポリペプチド又は融合タンパク質(本明細書において修飾型EPOと呼ばれる)の特性が、保護のためのわずかにアルカリ性の条件、及び脱保護のための酸性条件を許容する場合、好ましい方法である(Dixon, HBF; Perham, RN: Biochem.J.109(2), 312-14(1968); Atassi, MZ, Habeeb, AFSA: Methods Enzymol.25(Pt.B), 546-53(1972))。
【0056】
場合により、保護された修飾型EPOは、次の工程を実施する前に精製されうる。
【0057】
保護された修飾型EPOのタンパク質分解的切断:保護されたEPOの調製
融合タンパク質の切断のための適切なプロテアーゼは、Carter, P: Site- specific proteolysis of fusion proteins. in Protein Purification: From Molecular Mechanisms to Large Scale Processes, ACS, Washington DC, 181-193頁(1990)によって記載されている。そのようなプロテアーゼは、標的タンパク質配列内の任意の位置ではなく、その認識配列において選択的に切断するための狭い特異性を必要とする。例は、IEGR↓において切断する因子Xa、及びDDDDK↓において切断するエンテロキナーゼである。さらに、エンテロキナーゼは、インターロイキンに対しP1’及びP2’部位における特異性を示すDDDDK↓APを切断することが報告されている(P.Carter)。しかしながら、リジンの側鎖ε−アミノ基を保護するための化学的保護剤を導入しなければならない場合には、エンテロキナーゼは好ましくない。この場合には、その酵素は、求められた分解部位において、もはや機能しないであろう。
【0058】
PP↓XP(X=T、S、A)において優先的に分解するIgAプロテアーゼは、特に有用である。XP配列は、それをインターロイキン及びエリスロポエチンにとって適切なものにする(EP513073)。もう一つの適切なプロテアーゼは、HY↓において分解するサブチリシンBPN’異型(Genenase(登録商標), Genencor Int.Inc.)である。
【0059】
場合により、保護されたEPOタンパク質は、この段階で精製されうる。
【0060】
D)PEG化試薬による修飾:
ヒトEPOは、9個の遊離アミノ基、アミノ末端アミノ基及び8個のリジン残基のε−アミノ基を含有している。PEG化試薬が式IIのSBA化合物である場合、pH7.5、タンパク質:PEG比1:3、反応温度20〜25℃において、それをEPOと反応させると、モノPEG化種、ジPEG化種、及び微量のトリPEG化種の混合物が生成することが見出された。PEG化EPOは、混合物として投与されてもよいし、又は陽イオン交換クロマトグラフィーで分離された異なるPEG化種として投与されてもよい。反応条件(例えば、試薬の比率、pH、温度、タンパク質濃度、反応時間等)を操作することによって、異なるPEG化種の相対量を変動させることができる。
【0061】
保護されたEPOのため本明細書に明記されたような手法を使用すると、保護されたEPOのN末端アラニンのN末端α−アミノ基のみがPEG化される。リジン側鎖のε−アミノ基は全て保護されているため、ジPEG化された保護されたEPOもオリゴPEG化された保護されたEPOも形成されない。
【0062】
式Iの化合物は、既知のポリマー材料:
【0063】
【化10】

【0064】
[式中、R及びmは、前記と同義である]から、式IIの化合物を、工程c)のエリスロポエチン糖タンパク質と縮合させることにより、調製されうる。xが3である式IIの化合物は、ポリ(エチレングリコール)のα−低級アルコキシ、酪酸スクシンイミジルエステル(低級アルコキシ−PEG−SBA)である。xが2である式IIの化合物は、ポリ(エチレングリコール)のα−低級アルコキシ、プロピオン酸スクシンイミジルエステル(低級アルコキシル−PEG−SPA)である。アミドを形成させるため、活性化されたエステルをアミンと反応させる任意の従来の方法を利用することができる。前記の反応において、例示されたスクシンイミジルエステルは、アミド形成を誘導する脱離基である。コンジュゲートを作製するための式IIの化合物のようなスクシンイミジルエステルの使用は、1997年9月30日発行の米国特許第5,672,662号(Harrisら)に開示されている。
【0065】
PEG化反応は、最大5mg/mlの最終タンパク質濃度で、1:5というモル比(EPO対PEG−SBA試薬)で実施されうる。好ましいPEG化試薬は、Rがメチルであり;xが3であり;かつmが650〜750(約32kDaの平均分子量に対応する、平均約730、メトキシ−PEG−SBAは商業的に入手可能である:Shearwater Polymers, Inc.)である式IIの化合物であるメトキシ−PEG−SBAである。
【0066】
反応混合物からの反応生成物の精製は、実施例に記載されるような従来のクロマトグラフィー精製によって達成されうる。
【0067】
E)ε−アミノ基(側鎖アミノ基)の脱保護:
保護剤の分解は、従来の方法によって達成されうる(前記参照)。脱シトラコニル化の場合には、タンパク質の脱保護は、低いpH、例えばpH2.5の溶液を、室温で5時間撹拌することにより達成されうる。反応は、水酸化ナトリウムによりpHを4.5に調整することにより停止させることができ、溶液は精製の準備が整うまで−20℃で凍結保存される。
【0068】
反応混合物からの反応生成物の精製は、実施例に記載されたような従来のクロマトグラフィー精製によって達成されうる。
【0069】
本発明に係るEPO又はEPOコンジュゲートの特異的活性は、当分野において既知の様々なアッセイによって測定されうる。精製された本発明のEPOタンパク質の生物学的活性は、ヒト患者への注射によるEPOタンパク質の投与が、未注射又はコントロールの対象群と比較して、骨髄細胞による網状赤血球及び赤血球の産生の増加をもたらすようなものである。本発明に従い得られ、かつ精製されたEPOタンパク質又はその断片の生物学的活性は、Annableら、Bull.Wld.Hlth.Org.(1972)47: 99-112、及びPharm.Europa Spec.Issue Erythropoietin BRP Bio 1997(2)による方法によってテストされうる。EPOタンパク質の活性を測定するためのもう一つの生物学的アッセイ、正常赤血球(normocythaemic)マウスアッセイは、実施例4に記載されている。
【0070】
本発明に係るコンジュゲートは、EPOが投与されるのと同じ方式で、治療的に有効な量で、患者へ投与されうる。治療的に有効な量とは、骨髄細胞による網状赤血球及び赤血球の産生の増加を生じるというin vivo生物学的活性に必要なコンジュゲートの量である。コンジュゲートの正確な量は、処置を受ける状態の正確な型、処置を受ける患者の状態、及び組成物中のその他の成分のような要因の影響を受ける優先の問題である。例えば体重1kg当たり0.01〜10μg、好ましくは体重1kg当たり0.1〜3μgが、例えば週1回、投与されうる。
【0071】
本発明は、前記のようなコンジュゲートと、薬学的に許容されうる賦形剤とを含む対応する医薬組成物にも関する。
【0072】
コンジュゲートを含有している医薬組成物は、低いか、又は欠損している赤血球産生を特徴とする血液障害に罹患しているヒト患者への様々な手段による投与にとって有効な強度で製剤化されうる。平均的なコンジュゲートの治療的に有効な量は、変動しうるが、特に資格を有する医師の推奨及び処方に基づくべきである。
【0073】
本発明に従い調製されたエリスロポエチン糖タンパク質生成物は、当分野において既知の方法によって、薬学的に許容されうる担体又はビヒクルを用いて、注射に適した医薬組成物へと調製されうる。例えば、適切な組成物は、WO97/09996、WO97/40850、WO98/58660、及びWO99/07401に記載されている。例えば、本発明の化合物は、浸透圧剤、例えば132mM塩化ナトリウムを含有しているpH7の10mMリン酸ナトリウム/カリウム緩衝液で製剤化されうる。場合により、医薬組成物は、保存剤を含有していてもよい。医薬組成物は、異なる量のエリスロポエチン、例えば10〜10000μg/ml、例えば50μg/ml又は400μg/mlを含有しうる。
【0074】
好ましくは、医薬組成物は、前記定義のようなコンジュゲートと、溶液のpHを約5.5〜約7.0の範囲に維持するのに適した薬学的に許容されうる緩衝液の中の多価無機陰イオンとを含み、場合により1個以上の薬学的に許容されうる賦形剤を含み、例えば、組成物は、1ml当たり約10〜約10000μgのエリスロポエチンコンジュゲート、10〜200mmol/lの硫酸塩、約10〜約50mmol/lのリン酸塩(pH6.0〜6.5)を含み、場合により最大1mMのCaCl2を含み、場合により約1〜約5%のポリオールを含む。適切な組成物の例は、以下の通りである:
a)50μg/ml又は400μg/mlのエリスロポエチンコンジュゲート、10mMリン酸ナトリウム/カリウム、100mM NaCl(pH7.0)、
b)50μg/ml又は400μg/mlエリスロポエチンコンジュゲート、10mMリン酸ナトリウム、120mM硫酸ナトリウム(pH6.2)、
c)50μg/ml又は400μg/mlエリスロポエチンコンジュゲート、10mMリン酸ナトリウム、40mM硫酸ナトリウム、3%マンニトール(pH6.2)、
d)50μg/ml又は400μg/mlエリスロポエチンコンジュゲート、10mMリン酸ナトリウム、40mM硫酸ナトリウム、3%マンニトール、7.5μM CaCl2(pH6.2)、
e)50μg/ml又は400μg/mlエリスロポエチンコンジュゲート、50mMアルギニン、100mM硫酸ナトリウム、1mM CaCl2(pH6.2)、及び
f)50μg/ml又は400μg/mlエリスロポエチンコンジュゲート、50mMアルギニン、30mM硫酸ナトリウム、3%マンニトール、1mM CaCl2(pH6.2)。
【0075】
さらに好ましい組成物は、10〜10000μg/mlエリスロポエチン、好ましくは25〜2500μg/mlエリスロポエチン、及び
a)10mMリン酸ナトリウム/カリウム、100mM NaCl(pH7.0)、又は
b)10mMリン酸ナトリウム、120mM硫酸ナトリウム(pH6.2)、又は
c)10mMリン酸ナトリウム、40mM硫酸ナトリウム、3%マンニトール(w/v)(pH6.2)、又は
d)10mMリン酸ナトリウム、40mM硫酸ナトリウム、3%マンニトール(w/v)、10mMメチオニン、0.01%プルロニックF68(w/v)(pH6.2)、又は
e)40mMアルギニン、30mM硫酸ナトリウム、3%マンニトール(w/v)(pH6.2)、又は
f)40mMアルギニン、30mM硫酸ナトリウム、3%マンニトール(w/v)、10mMメチオニン、0.01%プルロニックF68(w/v)(pH6.2)、を含みうる。
【0076】
最も好ましい実施態様において、組成物は、50、100、400、800、又は2500μg/mlの量のエリスロポエチンタンパク質を含む。最も好ましい組成物は、10mMリン酸ナトリウム、40mM硫酸ナトリウム、3%マンニトール(w/v)、10mMメチオニン、0.01%プルロニックF68(w/v)(pH6.2)、又は40mMアルギニン、30mM硫酸ナトリウム、3%マンニトール(w/v)、10mMメチオニン、0.01%プルロニックF68(w/v)(pH6.2)を含む。
【0077】
本発明のコンジュゲートは、慢性腎不全患者(CRF)、エイズにおける貧血と相関している疾患の治療又は予防、及び化学療法を受けている癌患者の処置のための薬剤の調製に特に有用である。
【0078】
本発明は、薬剤の調製、特に慢性腎不全患者(CRF)、エイズにおける貧血と相関している疾患の処置又は予防、及び化学療法を受けている癌患者の処置のための薬剤の調製のための、前記定義のようなコンジュゲートの使用にも関する。
【0079】
本発明のさらなる実施態様は、前記のようなコンジュゲートを患者に投与する工程を含む、慢性腎不全患者(CRF)、エイズ、及び化学療法を受けている癌患者における貧血を含む障害の予防的並びに/又は治療的な処置のための方法に関する。
【0080】
本発明は、慢性腎不全患者(CRF)、エイズ、及び化学療法を受けている癌患者における貧血と関連した疾患の処置のための前記定義のような化合物にも関する。
【0081】
本発明のもう一つの面は、前記のような方法によって調製された前記化合物を含む。
【0082】
本発明のさらなる実施態様は、タンパク質分解的切断部位を表すN末端ペプチド伸長部を有し、場合によりN末端精製タグを含む、図1及び図2に示されるようなアミノ酸配列を含むエリスロポエチン糖タンパク質をさす。これらのペプチドの例は、APPRIEGR−EPO、APP−EPO、及びAPPGAAHY−EPOである(図3〜5も参照のこと)。本発明の一つの実施態様は、図3〜5に示されるようなアミノ酸配列を含むエリスロポエチン糖タンパク質に関する。
【0083】
本発明は、本明細書に記載された本発明を例示するものであり制限するものではない以下の実施例を参照することにより、よりよく理解されるであろう。
【実施例】
【0084】
実施例1:修飾型EPOの発現、発酵、及び精製
(1)修飾型EPO構築物の発現
a)試薬
特記しない限り、使用された生化学的試薬は全てRoche Diagnostics GmbH(Mannheim, Germany)製であり、細胞培養試薬は全てGibco-BRL(Eggenstein, Germany)製であった。
【0085】
b)野生型EPO発現構築物のクローニング
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞における安定的な発現のため、pcDNA3(Invitrogen BV, Groningen, Netherlands)、pCI−neo(Promega, Madison, WI, USA)のような標準的な真核生物発現ベクターを、G418耐性をコードするneo遺伝子を、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター及びその後期ポリアデニル化シグナルによって発現レベルが調節されるマウスのデヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR、Crouseら J.Biol.Chem.257, 7887-7897(1982))をコードする遺伝子に置換することにより改変した。pcDNA3の場合、得られたベクターは、p.11381と名付けられた(M.Tackeら Hepatology 26, 1626-1633(1997))。
【0086】
野生型エリスロポエチンをコードする断片は、例えばJacobs K.ら、Nature 313, 806-10(1985)により記載されているような、当分野において既知の方法に従い得ることができる。好ましくは、コーディング断片は、プライマーEPO−EcoRI 5’−GAGCCTGAATTCACCACC及びEPO−SalI 5’−AGGTGGGTCGACCTGGTCATCTGTCCCCTGを使用して増幅される。PCR断片を、EcoRI及びSalI(プライマー配列中、これらの部位には下線が施されている)で消化し、予め消化されたpCI−dhfrベクター断片のマルチプルクローニングサイトへクローニングした。従って、EPO遺伝子の発現は、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー/プロモーター領域、制御された発現のための最適化されたキメライントロン、及びSV40後期ポリアデニル化シグナルの調節下にある。
【0087】
c)APPRIEGR−EPO発現構築物のクローニング
APPRIEGRペプチドを、2つのアニール化されたオリゴヌクレオチドAPPRIEGRfor、5’−CGCCCCCCCCCGAATCGAGGGCC、及びAPPRIEGRrev、5’−CGCGGCCCTCGATTCGGGGGGGGG(NarI部位のレムナントに下線が施されている)によってNarI DNA断片として組み立て、N末端シグナル配列と、成熟EPOコーディング領域との間にクローニングした。
【0088】
d)APP−EPO発現構築物のクローニング
APPペプチドを、2つのアニール化されたオリゴヌクレオチドAPPfor、5’−CGCCCCCCC、及びAPPrev、5’−CGGGGGGGG(NarI部位のレムナントに下線が施されている)によってNarI DNA断片として組み立て、N末端シグナル配列と、成熟EPOコーディング領域との間にクローニングした。
【0089】
e)APPGAAHY−EPO発現構築物のクローニング
APPGAAHYペプチドを、2つのアニール化されたオリゴヌクレオチドAPPGAAHYfor、5’−CGCCCCCCCCGGCGCCGCCCACTA、及びAPPGAAHYrev、5’−CGTAGTGGGCGGCGCCGGGGGGGG(NarI部位のレムナントに下線が施されている)によってNarI DNA断片として組み立て、N末端シグナル配列と、成熟EPOコーディング領域との間にクローニングした。
【0090】
f)細胞培養手法
dhfr酵素遺伝子が欠損している突然変異誘発された細胞系CHO/dhfr-(ATCC CRL−9096)を、アメリカンタイプティッシュコレクション(American Type Tissue Collection)(Manassas, VA, USA)より入手した。トランスフェクトされていない細胞を、α−MEM、5%透析済ウシ胎仔血清(FCS)、2mMグルタミンの中で培養した。細胞を、FuGENE6トランスフェクション試薬を使用して、EPOプラスミドによりトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を、10%透析済FCS、2mMグルタミンが補足された、ヌクレオシドを欠くα−MEM(α−MEM)の中で選択した。単一コロニーを、FACSによって単離し、増幅し、培養上清を、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって、EPOの産生及び分泌に関してアッセイした。EPO発現レベルは、増加した濃度のメトトレキサート(MTX、Sigma Chemical Co., St.Louis, MO, USA)を含有している培養培地におけるdhfr遺伝子及びEPO遺伝子の増幅により、数倍に増強された。
【0091】
(2)発酵
以下、修飾型EPOの発酵及び精製を記載する。
【0092】
接種物調製及び発酵
修飾型EPO産生CHO細胞系(宿主細胞系:ATCC CRL−9096、dhfr酵素遺伝子欠損)に由来する細胞バンクを、1バイアル、液体窒素保存槽の気相より採取した。細胞を、ガラススピナーフラスコへ移し、湿潤CO2インキュベーター内で炭酸水素塩で緩衝された培地中で培養した。接種物調製及び発酵のために使用される典型的な無血清培地は、1992年6月12日公開のコッホ(Koch)の欧州特許出願第513738号、又は1996年11月14公開のブルグ(Burg)のWO96/35718号に開示されており、例えば培地としてDMEM/F12(例えば、JRH Biosciences/Hazleton Biologics, Denver, US,オーダーNo.57-736)を含有しており、さらに炭酸水素ナトリウム、L+グルタミン、D+グルコース、組換えインスリン、亜セレン酸ナトリウム、ジアミノブタン、ヒドロコルチゾン、硫酸鉄(II)、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、及び例えばポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリデキストラン、ポリエチレングリコール、プルロニックF68、血漿増量剤ポリゲリン(polygelin)(HEMACCEL(登録商標))、又はポリビニルピロリドン(WO96/35718)のような哺乳動物細胞用の安定化剤を含有している。
【0093】
培養物を、混入微生物の欠如に関して顕微鏡によりチェックし、細胞密度を測定した。これらのテストを、各分割工程において実施した。
【0094】
初期増殖期の後、新鮮な培地で細胞培養物を出発細胞密度へと希釈し、別の増殖周期を経させた。ガラススピナーフラスコ1個当たりおよそ2lの培養物容量が得られるまで、この手法を繰り返した。およそ12回の倍化の後、この培養物1〜5リットルが利用可能となり、次いでそれを10l接種物発酵槽のための接種物として使用した。
【0095】
3〜5日後、10l発酵槽内の培養物を、100l発酵槽のための接種物として使用することができた。
【0096】
さらなる3〜5日の培養の後、100l発酵槽内の培養物を、1000l製造発酵槽のための接種物として使用することができた。
【0097】
収集及び細胞分離
バッチリフィード方法(batch refeed process)を使用した、即ち所望の細胞密度に到達した時点で、培養物のおよそ80%を収集した。残りの培養物に、新鮮な培養培地を補充し、次の収集まで培養した。1回の製造ランは、最高10回の後の収集:9回の部分的な収集及び1回の発酵終了時の全収集からなっていた。収集は3〜4日毎に行った。
【0098】
決定された収集容量を、冷却された容器へ移した。細胞を遠心分離又は濾過によって除去し、廃棄した。遠心分離工程の修飾型EPO含有上清を、インライン(in-line)でろ過し、第二の冷却された容器に収集した。精製においては、各収集物を別々に取り扱った。修飾型EPOタンパク質の典型的な精製方法を以下に説明する。
【0099】
(3)修飾型EPOの精製
EPOタンパク質の精製のための典型的な方法は、1996年11月14日公開のブルグ(Burg)のWO96/35718号に開示されている。その精製方法は、修飾型EPOに適用可能であり、それを以下に説明する。
【0100】
(1)ブルーセファロース(Blue Sepharose)クロマトグラフィー
ブルーセファロース(Pharmacia)は、シバクロン(Cibacron)ブルー染料が表面に共有結合で結合しているセファロースビーズからなる。修飾型EPOは、大部分の非タンパク質性混入物質及びタンパク質性不純物より強くブルーセファロースと結合するため、修飾型EPOをこの工程において濃縮することができる。ブルーセファロースカラムの溶出は、塩濃度及びpHを増加させることにより実施される。
【0101】
カラムに、ブルーセファロースを充填し、NaOHで再生させ、平衡化緩衝液(塩化ナトリウム/カルシウム及び酢酸ナトリウム)で平衡化した。酸性化され、かつろ過された発酵槽上清を装填させた。装填の完了後、カラムを、まず、比較的高い塩化ナトリウム濃度を含有している平衡化緩衝液と類似の緩衝液で洗浄し、続いてトリス塩基緩衝液で洗浄した。生成物を、1M NaClを含有しているトリス塩基緩衝液で溶出させ、単一の画分に収集した。
【0102】
(2)ブチルトヨパール(Butyl Toyopearl)クロマトグラフィー
ブチルトヨパール650C(Toso Haas)は、脂肪族ブチル残基が共有結合でカップリングしているポリスチレンに基づくマトリックスである。修飾型EPOは、大部分の不純物より強くこのゲルと結合するため、イソプロパノールを含有している緩衝液により溶出することができる。
【0103】
カラムに、ブチルトヨパール650Cを充填し、NaOHで再生させ、トリス塩基緩衝液で洗浄し、イソプロパノールを含有しているトリス塩基緩衝液で平衡化した。
【0104】
ブルーセファロース溶出物を、カラム平衡化緩衝液中のイソプロパノールの濃度に調整し、カラムに装填させた。次いで、カラムを、増加したイソプロパノール濃度を有する平衡化緩衝液で洗浄した。生成物を、溶出緩衝液(高いイソプロパノール含量を有するトリス塩基緩衝液)で溶出させ、単一の画分に収集した。
【0105】
(3)ハイドロキシアパタイトウルトロゲル(Ultrogel)クロマトグラフィー
ハイドロキシアパタイトウルトロゲル(登録商標)(Biosepra)は、機械的特性を改良するためにアガロースマトリックスに組み込まれたハイドロキシアパタイトからなる。修飾型EPOは、ハイドロキシアパタイトに対する低い親和性を有しており、従ってタンパク質不純物より低いリン酸塩濃度で溶出することができる。
【0106】
カラムにハイドロキシアパタイトウルトロゲルを充填し、リン酸カリウム/塩化カルシウム緩衝液及びNaOH、続いてトリス塩基緩衝液で再生させた。次いで、それを、少量のイソプロパノール及び塩化ナトリウムを含有しているトリス塩基緩衝液で平衡化した。
【0107】
ブチルトヨパールクロマトグラフィーの修飾型EPO含有溶出物を、トリス塩基緩衝液で希釈し、カラムへと装填させた。その後、カラムを、平衡化緩衝液、並びにイソプロパノール及び塩化ナトリウムを含まないトリス塩基緩衝液で洗浄した。生成物を、低濃度のリン酸カリウムを含有しているトリス塩基緩衝液で溶出させ、単一の画分に収集した。
【0108】
ハイドロキシアパタイトウルトロゲルカラムの溶出物を濃縮し、シトラコニル化緩衝液に対して透析濾過(diafiltered)した。濃縮/透析濾過は、カットオフ値10kDaのミリポアペリコン(Millipore Pellicon)XLメンブレンを装備したミリポアラボスケール(Millipore Labscale)(登録商標)TFFシステムを用いて実行した。
【0109】
実施例2:修飾型EPOのシトラコニル化、タンパク質分解的切断、及び保護されたEPOの精製
修飾型EPOの溶液をpH8.5〜9.0に調整し、室温で撹拌した。無水シトラコン酸(Merck 8.41321.0100)を、数回に分けて撹拌された溶液に徐々に添加した;pHスタットを用いて、0.5N NaOHの添加により、pH9.0を維持した。無水シトラコン酸の総量は、修飾型EPOの中のリジンのε−アミノ基に対し5倍モル過剰に相当する。無水シトラコン酸の添加が完了した時点で、反応混合物を室温で1時間撹拌した。残存している無水シトラコン酸を、2Mエタノールアミン溶液の添加によって除去し、pH9.0に調整した。
【0110】
保護された修飾型EPOの分解を、分解プロテアーゼの添加によって達成した。実施例1(1c)に記載されたような構築物の場合、因子Xa(Roche Molecular Biochemicals、オーダー番号602388)を1:100(w/w)で修飾型EPOに添加し、数時間室温で撹拌した。分解の進行は、試料を収集し分解生成物に関してアッセイすることにより調節した。低い分裂速度の場合には、プロテアーゼの量を増加させることができる。
【0111】
(EP513,073の記載のようにして調製される)IgAプロテアーゼ及びジェネナーゼ(Genenase)(登録商標)(Genencor Int.Inc.)のようなその他のプロテアーゼを適用する場合には、それに応じて手法を実行した。
【0112】
反応混合物からのプロテアーゼの除去は、スーパーデックス(Superdex)(登録商標)75pg(Pharmacia)でのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、又はRP−HPLCで達成された。
【0113】
スーパーデックス75pg材料は、架橋アガロース及びデキストランビーズからなる。充填後、カラムをNaOHで再生させ、100mM塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液系により平衡化した。
【0114】
前工程からの反応混合物を、カットオフ値10kDaのミリポアペリコンXLメンブレンを装備したミリポアラボスケール(登録商標)TFFシステムで、10mg/mlに濃縮した。カラム容量の約1〜5%のこの溶液を、一度にカラムに適用した。クロマトグラフィーを、平衡化緩衝液系で実行した。生成物を、数画分に収集し、それらを分析用rpHPLCによって分析されるような純度に従いプールした。
【0115】
プールされた画分を、カットオフ値10kDaのミリポアペリコンXLメンブレンを装備したミリポアラボスケール(登録商標)TFFシステムで、7〜8mg/mlに濃縮した。
【0116】
実施例3:N末端PEG化EPOの調製
PEG化反応を、5mg/mlの最終タンパク質濃度で、1:5のモル比(保護されたEPO対PEG−SBA試薬)で実施した。使用されたPEG化試薬は、Rがメチルであり;xが3であり;かつ、mが650〜750(約32kDaの平均分子量に相当する、平均約730)である式IIの化合物であるメトキシ−PEG−SBAであった。
【0117】
30kDaのPEG−SBA(Shearwater Polymers, Inc.)を、1mM HClに溶解させた。20mMという最終リン酸塩濃度を得るために十分な100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を、反応混合物に添加した。保護されたEPO(反応混合物中およそ3mg/ml)を添加し、反応混合物を常温(20〜25℃)で撹拌した。2時間後、酸でpHを2.5に調整することにより、反応を停止させた。
【0118】
タンパク質の脱シトラコニル化を、常温で5時間、pH2.5の溶液を撹拌することにより達成した。水酸化ナトリウムを用いてpHを4.5に調整することにより反応を停止させ、溶液を精製の準備が整うまで−20℃で凍結保存した。
【0119】
過剰の試薬、反応副生成物、及び非PEG化EPOからのN末端PEG化EPO(PEG−A1−EPO)の分離は、SP−セファロースFF(Pharmacia)でのクロマトグラフィーによって達成された。SP−セファロース材料は、セファロースビーズの表面に共有結合で結合したスルホプロピル(SP)基からなる。カラムにSP−セファロースを充填し、リン酸及びNaOHで再生させ、酢酸ナトリウム緩衝液で平衡化した。
【0120】
前工程からの反応混合物を酢酸ナトリウム緩衝液(pH3)で1:5に希釈し、SP−セファロースカラムに適用した。過剰の試薬及び反応副生成物を除去するため、カラムを平衡化緩衝液で洗浄した。続いて、100mM NaClによる洗浄を行った。次いで、PEG−A1−EPOを200mM NaClで溶出させた。生成物を数画分に収集し、それらを高速サイズ排除クロマトグラフィーによって測定されるようなその純度に従いプールした。カラム上に残留している非PEG化EPOを、750mM NaClで溶出させた。
【0121】
次いで、PEG−A1 EPOプールを、およそ4.5〜7.5mg/mlに濃縮し、保存緩衝液、10mMリン酸カリウム、100mM NaCl(pH7.5)へと透析濾過した。濃縮/透析濾過は、常温で、カットオフ値10kDaのミリポアペリコンXLメンブレンを装備したミリポアラボスケール(登録商標)TFFシステムを用いて達成した。濃縮されたPEG−A1 EPOを滅菌ろ過し、−20℃で凍結保存した。
【0122】
実施例4:正常赤血球マウスアッセイにより測定されたPEG−A1−EPOのin vivo活性
正常赤血球マウスバイオアッセイは、当分野において既知であり(Pharm.Europa Spec.Issue Erythropoietin BRP Bio 1997(2))、Ph.Eur.BRPのエリスロポエチンの研究論文の中の方法である。試料をBSA−PBSで希釈した。7〜15週齢の正常な健康マウスに、実施例1〜3からのPEG−A1−EPO溶液、EPO溶液、及びコントロールとしての緩衝液を、0.2ml、皮下注射で(s.c.)投与した。6日間にわたり、血液を尾静脈の穿刺によって採取し、0.15μmolアクリジンオレンジ染色溶液1ml中に血液1μlが存在するよう希釈した。染色時間は3〜10分であった。網状赤血球計数は、赤色蛍光ヒストグラムの分析により、フローサイトメーターで微量蛍光定量的(microfluorometrically)に実施した。網状赤血球数は、(分析された血液細胞30,000個当たりの)絶対値で与えた。提示されたデータについて、各群は1日当たり5匹のマウスからなり、マウスは一度だけ採血された。
【0123】
結果を、表1に示す。
【0124】
結果は、マウス1匹当たりの同じ用量(100ng)を使用した場合の、CHO細胞に由来するEPOと比較して、有意に増加した網状赤血球の量、及び網状赤血球数最大値のシフトによって示される、PEG−A1−EPO種の優れた活性及び延長された半減期を示している。
【0125】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】ヒトEPO(165アミノ酸)の一次構造を示す図である。
【図2】ヒトEPO(166アミノ酸)の一次構造を示す図である。
【図3】APPRIEGR−EPOの一次構造及び対応する核酸配列を示す図である。下線が施されたアミノ酸配列は、分泌シグナル配列に相当し、波線は、タンパク質分解的切断部位に特異的なアミノ酸配列に相当する。
【図4】APP−EPOの一次構造及び対応する核酸配列を示す図である。下線が施されたアミノ酸配列は、分泌シグナル配列に相当し、波線は、タンパク質分解的切断部位に特異的なアミノ酸配列に相当する。
【図5】APPGAAHY−EPOの一次構造及び対応する核酸配列を示す図である。下線が施されたアミノ酸配列は、分泌シグナル配列に相当し、波線は、タンパク質分解的切断部位に特異的なアミノ酸配列に相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端α−アミノ基を有し、かつ骨髄細胞による網状赤血球及び赤血球の産生の増加を生じるというin vivo生物学的活性を有し、かつヒトエリスロポエチン、及び1〜6個のグリコシル化部位の付加又は少なくとも1個のグリコシル化部位の再編成により修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有するその類似体からなる群より選択されるエリスロポエチン糖タンパク質を含むコンジュゲートであって;該糖タンパク質が、式
【化1】


[式中、ポリ(エチレングリコール)基の−COは、該N末端α−アミノ基とアミド結合を形成しており;
Rは、低級アルキルであり;
xは、2又は3であり;かつ
mは、約450〜約1350である]
のポリ(エチレングリコール)基1個と共有結合で結合している、コンジュゲート。
【請求項2】
式:
【化2】


[式中、x、m、及びRは、請求項1と同義であり、かつPは、ポリ(エチレングリコール)基と共にアミド結合を形成しているN末端α−アミノ基を除く糖タンパク質の残基である]の請求項1記載のコンジュゲート。
【請求項3】
Rが、メチルである、請求項1又は2記載のコンジュゲート。
【請求項4】
mが、550〜1000である、請求項1〜3記載のコンジュゲート。
【請求項5】
mが、約650〜約750である、請求項1〜4記載のコンジュゲート。
【請求項6】
Rが、メチルであり、かつmが、約650〜約750である、請求項1〜5記載のコンジュゲート。
【請求項7】

【化3】


[式中、mは、650〜750であり、かつPは、請求項2と同義である]を有する、請求項1〜6記載のコンジュゲート。
【請求項8】
糖タンパク質が、ヒトエリスロポエチンである、請求項1〜7記載のコンジュゲート。
【請求項9】
ヒトエリスロポエチン糖タンパク質が、内因性遺伝子活性化により発現される、請求項1〜7のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項10】
糖タンパク質が、図1又は図2に示される配列を有する、請求項1〜9のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項11】
糖タンパク質が、1〜6個のグリコシル化部位の付加により修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有する、請求項1〜8のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項12】
糖タンパク質が、
【表1】


からなる群より選択される修飾により修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有する、請求項1〜11のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項13】
糖タンパク質が、少なくとも1個のグリコシル化部位の再編成により修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有する、請求項1〜7のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項14】
再編成が、ヒトエリスロポエチンのN結合型グリコシル化部位のいずれかの欠失、及びヒトエリスロポエチンの配列の88位におけるN結合型グリコシル化部位の付加を含む、請求項13のコンジュゲート。
【請求項15】
糖タンパク質が、
【表2】


からなる群より選択される修飾により修飾されたヒトエリスロポエチンの配列を有する、請求項14のコンジュゲート。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに定義されたコンジュゲートと、薬学的に許容されうる賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項17】
医薬の調製のための、請求項1〜15のいずれかに記載のコンジュゲートの使用。
【請求項18】
慢性腎不全患者(CRF)、エイズにおける貧血と相関している疾患の治療又は予防のための、及び化学療法を受けている癌患者の処置のための、請求項1〜15のいずれかに記載のコンジュゲートの使用。
【請求項19】
請求項1〜15のいずれかに記載のコンジュゲートを患者に投与する工程を含む、慢性腎不全患者(CRF)、エイズ、及び化学療法を受けている癌患者における貧血を含む障害の予防的並びに/又は治療的な処置のための方法。
【請求項20】
請求項1〜15のいずれかに定義されたコンジュゲートの調製のための方法であって、
a)タンパク質分解的切断配列を含む、N末端ペプチド伸長部を含む組換えEPOタンパク質の発現、好ましくは無血清発酵、
b)ε−アミノ基の保護、
c)N末端ペプチド伸長部のタンパク質分解的切断、
d)N末端α−アミノ基のPEG化、
e)エリスロポエチン糖タンパク質のε−アミノ基の脱保護、を含み、
f)場合により、前記の各工程の後に精製工程が実施されてもよい、方法。
【請求項21】
組換えEPOが、図1〜5に示されたアミノ酸配列からなる群より選択される配列を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
工程b)において、ε−アミノ基がシトラコニル化により保護される、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
N末端α−アミノ基が、式:
【化4】


[式中、R、m、及びxは、請求項1〜15のいずれかと同義である]によりPEG化される、請求項20〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
請求項20〜23に記載の方法により調製された、請求項1〜15のいずれかに記載の化合物。
【請求項25】
慢性腎不全患者(CRF)、AIDS、及び化学療法を受けている癌患者における貧血と関連した疾患の処置のための、請求項1〜15のいずれかに記載の化合物。
【請求項26】
タンパク質分解的切断部位を表すN末端ペプチド伸長部を有し、場合によりN末端精製タグを含む、図1及び図2に示されるようなアミノ酸配列を含むエリスロポエチン糖タンパク質。
【請求項27】
請求項1〜26に記載されたものと実質的に等価な、新規の化合物、プロセス、及び方法、並びにそのような化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−69155(P2008−69155A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−241171(P2007−241171)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【分割の表示】特願2002−551010(P2002−551010)の分割
【原出願日】平成13年12月8日(2001.12.8)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】