説明

エリスロポエチン受容体作動薬の安定な懸濁製剤

治療用途用懸濁製剤に、粘性のある流体特徴を示す非水性の単相ビヒクルおよび前記ビヒクルの中に分散しているエリスロポエチン受容体作動薬を含んで成る粒子製剤を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、一般に、連続送達に適するように調製した薬製剤に関する。
【0002】
エリスロポエチン(EPO)は、主に腎臓で産出される多面的糖蛋白ホルモンである。EPOは骨髄による赤血球生成を促進しかつ骨髄の外側では組織保護効果、例えば神経防護作用などを及ぼす。EPOはこれの細胞表面受容体と結合することで生物学的効果を及ぼす。EPO受容体作動薬(ERA)はEPO受容体を活性化し得る種類の組換え型分子である。ERAの種類の組換え型分子は生来のヒトEPO(hEPO)に相同性を示す配列を含有しているか或は含有していなくてもよい。生来のhEPOに相同性を示す配列を含有するERAクラスに入る製品の例を以下の表1に示す。
【0003】
【表1】

【0004】
ERA製品は、慢性腎不全による貧血、癌の化学療法および手術に伴う貧血およびエイズのAZT治療に続発性の貧血の治療で処方されている。現在市場に出ているERA製品は週に3回(EPREX(R), ERYPO(R)およびPROCRIT(R))または週に1回(ARANESP(R))の皮下または筋肉内注射で患者に投与される。現在市場に出ている数種のERA製品は液状であり、2から8℃で貯蔵する必要がありかつ室温および高温で不安定である。ERAは凝集を起こし易いことから、薬剤の効力が低下する可能性がありかつ望まれない副作用を誘発する可能性もある。現在のERA投与に伴う副作用には、これらに限定するものでないが、血栓事象、感染、高血圧、筋肉痛および頭痛が含まれる。
【0005】
ERAを低い投薬量で連続的に送達、例えば移植可能送達デバイス、例えば浸透圧、機械的または電気機械的ポンプインプラント(pump implants)などを用いて連続的に送達することができるようになれば、ERA投与に伴う治療効果が向上する可能性がある。移植可能送達デバイスを用いると一般に患者の応諾が確保される、と言うのは、患者による移植可能デバイスの改ざんは容易ではなくかつ薬剤を患者に投入することなく数週間、数カ月または数年間にさえ及んで治療投薬を行うことができるようにそれをデザインすることができるからである。注射を数日毎に行うのではなく、そのようなデバイスを1回挿入すると、比較的短い時間的間隔で多数回投与する必要がある注射に比べて、部位の刺激が軽減され、患者および医者の労働災害が少なくなり、廃棄物処分災害が減少し、注射を繰り返し行う時に要する装置費用が低下することで費用効果が向上しかつ効力が向上する。
【0006】
移植可能送達デバイスを用いてERAを長期間に渡って制御された速度で送達するには
、ERAの安定性を高温、例えば37℃以上で当該デバイスの有効寿命に渡って維持する製剤の中にそれを含有させる必要がありかつそのような製剤は流動し得る形態でなければならない。
【発明の開示】
【0007】
発明の要約
本発明は、1つの態様において、粘性のある流体特徴を示す非水性の単相ビヒクルおよび前記ビヒクルの中に分散しているエリスロポエチン受容体作動薬を含んで成る粒子製剤を含んで成る懸濁製剤に関する。
【0008】
本発明は、別の態様において、ある被験体における赤血球生成を促進する方法に関し、この方法は、前記被験体にこの上に記述した如き懸濁製剤を有効量で投与することを含んで成る。
【0009】
本発明は、更に別の態様において、移植可能送達デバイスに関し、これは、この上に記述した如き懸濁製剤がエリスロポエチン受容体作動薬が使用環境中で治療的に有効な速度で連続的に送達されるに充分な量で入っている貯蔵部を含んで成る。
【0010】
以下の説明から本発明の他の特徴および利点が明らかになるであろう。
【0011】
発明の詳細な説明
ここに、好適な態様をいくつか言及することで本発明を詳細に説明する。以下に行う説明では、本発明を完全に理解することができるように数多くの具体的詳細を挙げる。しかしながら、本発明はそのような具体的な詳細のいくつかまたは全部を用いなくても実施することができることは本分野の技術者に明らかであろう。他の例として、良く知られている特徴および/または工程段階の詳細な説明は行わないが、これは本発明を不必要に曖昧にするものではない。添付図および以下の考察の言及によって本発明の特徴および利点がより良好に理解されるであろう。
【0012】
本発明の態様では、エリスロポエチン受容体作動薬(ERA)を持続時間に渡って制御された速度で送達することを可能、例えば移植可能送達デバイスなどを用いて可能にする安定な製剤を提供するものである。本発明は、ある程度ではあるが、ERA粒子製剤を非水性の単相ビヒクルの中に懸濁させておくと高温、例えば37℃以上で長期間、例えば3カ月から12カ月に及んで安定なERA懸濁製剤がもたらされることを見いだしたことが基になっている。前記ERA粒子製剤を前記ビヒクルに入れて懸濁させる前にそれが示す水分含有量は一般に低く、好適には5%未満である。そのようなERA粒子製剤の製造は、蛋白質粒子を生じさせるに適することが本技術分野で公知の技術、例えば噴霧乾燥および凍結乾燥などを用いて実施可能である。そのようなERA粒子製剤は全体が高純度のERAであってもよいか或は高純度のERAが1種以上のアジュバントまたは賦形剤と一緒に配合された粒子製剤であってもよい。
【0013】
用語「ERA」または「エリスロポエチン受容体作動薬」は、EPO受容体を活性化させ得る種類の分子を指す。そのような分子は生来のhEPOに相同性を示す配列を含有しているか或は含有していなくてもよい。本発明の1つの態様に従うERAは、組換え型hEPOの生物学的活性を有するポリペプチドおよび蛋白質、EPO類似物、EPOアイソフォーム、EPO疑似物、EPOフラグメント、ハイブリッドEPO蛋白質、融合蛋白質オリゴマーおよび前記の多量体、前記の同族体、前記のグリコシル化パターン変形、前記の変異体およびこの上に挙げた主要でない修飾形を含有するEPO分子から成る群から選択可能である。本発明に従うERAは合成方法によっても製造方法によっても限定されず、組換え(cDNAまたはゲノムDNAから生じさせるか否かに拘わらず)、合成、遺伝子組換えおよび遺伝子活性化方法で合成または製造されたそれらが含まれる。
【0014】
特に好適なERAは、哺乳動物における赤血球生成を促進し得るERAである。哺乳動物における赤血球生成を促進し得るERAの例には、これらに限定するものでないが、エポエチンアルファ(商標名EPREX(R),ERYPO(R),PROCRIT(R)),エポエチンベータ(商標名NEORECORMON(R))およびダーベポエチンアルファ(商標名NESPTM, ARANESP(R))が含まれる。ダーベポエチンアルファの1つの形態がPCT公開WO 95/05465(Amgen,Inc.)に記述されており、これの個別の内容は引用することによって本明細書に組み入れられる。そのWO 95/05465 公開に示されているダーベポエチンアルファには、グリコシル化用追加的部位を少なくとも1個含有するか或はそれ用の部位が少なくとも1個転位しているアミノ酸配列を含んで成るhEPO類似物が含まれる。そのグリコシル化部位は炭化水素鎖がN結合もしくはO結合するための部位である。
【0015】
哺乳動物における赤血球生成を促進し得るとして示された他のERAには、hEPO類似物、例えばPCT公開WO 99/66054 (Genzyme Transgenics Corp)(これの個別の内容は引用することによって本明細書に組み入れら)に記述されているヒト血清アルブミン融合蛋白質など、およびEPO変異体、例えばPCT公開WO 99/38890 (Beth Israel Deaconess Medical Center)(これの個別の内容は引用することによって本明細書に組み入れら)に記述されているEPO変異体などが含まれる。そのWO 99/38890公開に示されているEPO変異体には、EPOをコードする単離された核酸が含まれ、その場合の核酸は、非コード領域の中に変異を1個以上有しかつEPOの生物学的活性が変化している。1つの態様における変異は51非コード領域の中に存在する。
【0016】
哺乳動物における赤血球生成を促進し得るとして示された他のERAには、EPOオメガ[これは米国特許第5,688,679号(Powell) (これの個別の内容は引用することによって本明細書に組み入れら)に記述されているhEPO遺伝子のApa I制限フラグメントから生じ得る]、および変化したグリコシル化hEPO、例えばPCT公開WO 99/11781 (Hoechst Marion Roussel Deutschland GMBH)(これの個別の内容は引用することによって本明細書に組み入れら)に記述されているそれらが含まれる。そのWO 99/11781公開に示されている変化したグリコシル化hEPOには、EPOの主構造形態の一部または全部を有するポリペプチドが含まれ、それは外因性DNA配列の真核生物発現の産物である。
【0017】
哺乳動物における赤血球生成を促進し得るとして示された別のERAには、ポリエチレングリコール(PEG)接合エリスロポエチン類似物が含まれ、それは例えばPCT公開WO 98/05363 (Ortho Pharmaceutical Corporation) (これの個別の内容は引用することによって本明細書に組み入れら)およびWO 01/76640 (Amgen, Inc.) (これの個別の内容は引用することによって本明細書に組み入れら)および米国特許第5,643,575号(Martinez他) (これの内容は引用することによって本明細書に組み入れら)などに記述されている。
【0018】
他の例には、PCT公開WO 99/05268 (Boehringer Mannheim GMBH) (これの個別の内容は引用することによって本明細書に組み入れら)およびWO 94/12650 (Transkaryotic Therapies, Inc.)(これの個別の内容は引用することによって本明細書に組み入れら)に記述されている如き内因性ヒトEPOの発現が修飾を受けた細胞株が含まれる。また、ERAの組織および細胞保護形態も考えられる。
【0019】
本発明に従うERAには、また、長期に作用するEPO形態も含まれ得る。本明細書で用いる如き「長期に作用するEPO」には、循環半減期が長い持続放出型EPO組成物および製剤が含まれ、これらは典型的に免疫原性およびクリアランス値の低下などの如き修飾、およびEPOを重合体微小球の中に封じ込めることなどで達成される。
【0020】
長期に作用するEPOの一例がPCT公開WO 02/49673 (F. Hoffman−La Roche AG) (これの内容は引用することによって本明細書に組み入れら)に開示されている。そのWO 02/49673公開には、N末端にアルファ−アミノ基を有するエリスロポエチン糖蛋白を含んで成る接合体が記述されており、それはhEPOまたはhEPOの配列を有する類似物から選択されるが、そのような類似物では、糖蛋白がPEG基と共有結合するようにグリコシル化部位が1−6個付加しているか或はグリコシル化部位が転位していることによる修飾を受けている。
【0021】
長期に作用するEPOの他の例には、これらに限定するものでないが、PCT公開WO
02/32957 (中外製薬株式会社)に開示されているPEG修飾EPO、PCT公開WO 94/28024 (Enzon, Inc.)に開示されている非抗原性重合体と共有結合している酸化された炭水化物部分を少なくとも1個有していてエリスロポエチン活性を示す糖蛋白質接合体、およびスクシニミジルカルボキシメチル化PEG(SCM−PEG)、スクシニミジルプロピオネートPEG(SPA−PEG)およびSBA−PEGを用いて作られた他のPEG−EPOが含まれる。
【0022】
本発明の1つの態様では、ERAが高温、例えば37℃以上で凝集を起こさないように、それに安定化を非水性の単相ビヒクルの中に懸濁させる前に受けさせておく。1つの態様では、ERAが凝集を起こさないように、それに安定剤および緩衝剤を用いた安定化を受けさせる。1つの態様における安定剤には糖が含まれる。そのような糖をERA粒子製剤中に0.1から99.9重量%の範囲の量で存在させてもよい。そのような粒子製剤に含有させることができる糖の例には、これらに限定するものでないが、スクロース、トレハロース、グルコース、ラクトース、マルトースおよびフルクトースが含まれる。1つの態様では、前記粒子製剤で用いる緩衝剤を0.1から99.8重量%の範囲の量で存在させる。そのような緩衝剤が有するpH値は、好適には5.0から8.0、より好適には5.5から7.5の範囲である。1つの態様では、溶液中の緩衝剤の濃度を5mMから50mMの範囲内にする。緩衝剤の例には、これらに限定するものでないが、クエン酸塩、ヒスチジン、燐酸塩、こはく酸塩、マレイン酸塩、トリス、酢酸塩、炭酸塩およびグリ−グリ(gly−gly)が含まれる。これらの例の中でクエン酸塩およびヒスチジン緩衝剤が最も好適である。ERAに対する安定剤の比率は多様であり得る。クエン酸塩緩衝剤を用いる場合、ERAに対する安定剤の比率を好適には2.0より高くする。
【0023】
本発明の他の態様では、ERA粒子製剤で用いる安定剤に、更に、アミノ酸、ポリオールおよび重合体から成る群から選択した1種以上の成分を含めることも可能である。前記粒子製剤にアミノ酸を0から99.9重量%、ポリオールを0から99.9重量%および重合体を0から99.9重量%含有させてもよい。前記粒子製剤に入れることができるアミノ酸の例には、これらに限定するものでないが、ヒスチジン、グリシン、アラニン、L−ロイシン、グルタミン酸、イソロイシン、メチオニン、L−トレオニン、2−フェニルアミンおよびアルギニンが含まれる。前記粒子製剤に入れることができるポリオールの例には、これらに限定するものでないが、ソルビトールおよびマンニトールが含まれる。前記粒子製剤に入れることができる重合体の例には、これらに限定するものでないが、ポリビニルピロリドン(PVP)、デキストランおよびプロピレングリコールが含まれる。
【0024】
前記粒子製剤に他の賦形剤、例えば界面活性剤、充填剤および塩などから選択した他の
賦形剤を含有させることも可能である。前記粒子製剤に界面活性剤を0から10重量%、好適には0から5重量%、充填剤を0から99.9重量%、好適には0から70重量%、および塩を0から99.9重量%、好適には0から70重量%含有させてもよい。前記粒子製剤に含有させる界面活性剤はイオン性または非イオン性であってもよい。界面活性剤の例には、これらに限定するものでないが、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(商標名 TWEEN(R) 20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(商標名 TWEEN(R) 80)、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール(商標名 PLURONIC(R) F68)およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が含まれる。充填剤の例には、これらに限定するものでないが、マンニトールおよびグリシンが含まれる。塩の例には、これらに限定するものでないが、塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムが含まれる。
【0025】
以下の表2に、凝集に対抗する安定化を受けさせた凍結乾燥エポエチンアルファ(EPO)組成物の例に加えて前記組成物を37℃で3カ月間貯蔵した時の可溶凝集物総量をサイズエクスクルーシブクロマトグラフィー(Size Exclusive Chromatography)(SEC)で測定した時の値も示す。
【0026】
【表2】

【0027】
本発明で用いるに適した非水性の単相ビヒクルは、溶媒、重合体(液状および非液状)、非重合体(液状および非液状)および界面活性剤の如何なる組み合わせであってもよい。そのようなビヒクルの成分の選択では、そのビヒクルが水と混和し得るように選択するが、そのビヒクルのあらゆる成分が水と容易に混和する必要はない。結果としてもたらされるビヒクルが物理的および化学的の両方で全体に渡って均一である均質な系であるようにビヒクルの成分を選択して組み合わせる。そのようなビヒクルは、生物学的環境に反応して経時的に崩壊または分解する点で生分解性である。そのようなビヒクルが生物学的環境中で起こす分解は、1つ以上の物理的もしくは化学的過程、例えば酵素の作用、酸化、還元、加水分解(例えば蛋白分解)、置換、または可溶化、乳化もしくはミセル形成による溶解などで起こり得る。
【0028】
本発明のビヒクルに含める成分の選択では、そのビヒクルが示す粘度が約1,000か
ら10,000,000ポイズ、好適には10,000から250,000ポイズの範囲などであるように選択する。ERAが高温、例えば37℃以上の温度で長期間に渡って示す安定性を維持する目的で、そのビヒクルがERAと反応しないようにビヒクル成分を選択する。そのビヒクルの成分に重合体および溶媒を含める場合、例えば薬剤投与中に送達デバイスの部分的または完全な遮断が起こる度合を軽減するなどの目的で、好適には、そのビヒクルを水と混合した時に前記ビヒクルに入っている重合体と溶媒が相分離を全く起こさないか或は起こすとしても僅かであるようにする。その選択したERAが乾燥した粒子のままであることで前記選択したERAの安定性が達成されるようにする目的で、そのビヒクルが選択したERAをほとんどまたは全く溶かさないようにビヒクル成分を選択する。
【0029】
1つの態様では、そのようなビヒクルに少なくとも1種の重合体を含める。そのような重合体は好適には生体適合性でありかつ生分解性であるか或は生分解性でなくてもよい。そのようなビヒクルを生じさせようとする時に用いるに有用な重合体の例には、これらに限定するものでないが、ピロリドン、例えばポリビニルピロリドン(分子量が2,000から1,000,000)、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ乳酸ポリグリコール酸(PLGA)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリオキシエチレン−ポリオキシ−プロピレンブロック共重合体(37℃で高い粘度を示す)、例えばPLURONIC(商標)105など、および不飽和アルコールのエステルまたはエーテル、例えば酢酸ビニルなどが含まれる。そのようなビヒクルには、また、前記重合体と一緒になって生体適合性で水と混和し得る非水性の単相ビヒクルをもたらし得る薬学的に受け入れられる溶媒のいずれも含まれ得る。そのようなビヒクルを生じさせようとする時に用いるに有用な溶媒の例には、これらに限定するものでないが、安息香酸ベンジル(BB)、ベンジルアルコール(BA)、乳酸ラウリル(LL)、ラウリルアルコール(LA)、ポリエチレングリコール、グリコフラール(GF)、ビタミンEが含まれる。
【0030】
そのようなビヒクルに異なる2種以上の重合体または単一重合体のいろいろなグレードを含めてもよい。そのようなビヒクルに前記重合体1種または2種以上と組み合わせた2種以上の溶媒を含めることも可能である。特に、水と混和しかつ安定なERA製剤の生成を助長するビヒクルを生じさせようとする時には2種以上の溶媒を用いる必要があり得る。そのようなビヒクルに含める重合体1種または2種以上および溶媒1種または2種以上の量を変えることで所望の性能特徴を有するビヒクルを生じさせることができる。一般的には、そのようなビヒクルに重合体1種または2種以上を約40から80重量%含有させかつ溶媒1種または2種以上を約20から60重量%含有させることになるであろう。
【0031】
そのビヒクルに、重合体および溶媒以外に、また、他の賦形剤、例えば1種以上の界面活性剤または防腐剤などを含有させることも可能である。そのようなビヒクルで用いることができる界面活性剤には、これらに限定するものでないが、ポリソルベート、例えば商標名TWEEN(商標)の下で入手可能なポリソルベートなど、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、例えば商標名PLURONIC(商標)の下で入手可能な共重合体など、ソルビタンの脂肪酸エステル、例えば商標名SPAN(商標)の下で入手可能なエステルなど、カプリル酸グリセリル、ラウリン酸グリセリル、PEG−8カプリル酸カプリン酸グリセリド、オレイン酸ポリグリセリル−6、ジオクチリルナトリウム、スルホスクシネートおよびビタミンE TPGSが含まれる。当該製剤が使用環境に送達された後にERAがビヒクルから放出されるのを助長するか或はERAをビヒクルの中に懸濁させた時にERAが示す安定性の維持に役立たせる目的で界面活性剤1種または2種以上をビヒクルに含めてもよい。界面活性剤1種または2種以上を含める場合、それがビヒクルを占める度合を典型的には20重量%未満、好適には10重量%未満、より好適には5重量%未満にする。そのようなビヒクルで用いることができる防腐剤には、例えば、
抗酸化剤および抗菌剤が含まれる。潜在的に有用な抗酸化剤の例には、これらに限定するものでないが、トコフェロール(ビタミンE)、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエンおよび没食子酸プロピルが含まれる。1種以上の防腐剤をビヒクルに混合する場合、それの使用量は用途、使用する防腐剤および望まれる結果に応じて変わるであろう。含有させる防腐剤の量は一般に所望の防腐効果を達成するに充分な量のみである。
【0032】
しかしながら、そのようなビヒクルは重合体1種または2種以上および溶媒1種または2種以上を含有するビヒクルに限定されない。さらなる例として、そのようなビヒクルは非重合体を含有するビヒクルであってもよい。非重合体材料の例には、単相ビヒクルとして機能する疎水性糖材料、オルガノゲルまたは脂質材料が含まれる。典型的な糖材料には、これらに限定するものでないが、周囲または生理学的温度下で流体として存在するスクロースエステル、例えば酢酸イソ酪酸スクロース(SAIB)などが含まれる。SAIBは液状の非重合体である。SAIBの如きある種の非重合体材料は「混ぜ物無し」、即ち他の溶媒の添加無しに使用可能である。非重合体材料を含有させたビヒクルにまた1種以上の溶媒を含有させることも可能である。非重合体材料を含有させたビヒクルにまた1種以上の界面活性剤を含有させることも可能であり、それのいくつかの例をこの上に挙げた。非重合体材料を含有させたビヒクルにまた防腐剤を含有させることも可能であり、それのいくつかの例もまたこの上に挙げた。
【0033】
そのような非水性の単相ビヒクルにERA粒子製剤をいろいろな量で充填することでERAが所望の速度で選択した期間に渡って投与されることを可能にする懸濁製剤を生じさせることができる。本懸濁製剤のERA含有量を0.1から40重量%、好適には0.1から20重量%にしてもよい。本懸濁製剤の調製では、移植可能送達デバイスからそれが所望の流量で分与されるように調製を実施してもよい。ERAが1日当たり1ngから1日当たり600μgの範囲の量で数カ月から1年に渡って送達されるように本懸濁調製を調製してもよい。ERAが低い流量で供給されるようにデザインした浸透圧性ポンプインプラントを用いて送達する場合、好適には、それが1日当たり0.5から5μLの範囲で送達されるように本懸濁製剤を調製するが、約1.5μL/日および1.0μL/日の流量が特に好適である。本懸濁製剤をポンプインプラントなどの如き移植可能送達デバイスに限定するものでなく、それをまた蓄積注射として用いることも可能であることを注目すべきである。
【0034】
本発明は、また、本発明の態様に従うERA懸濁製剤を充填しておいた移植可能送達デバイスも包含する。そのような移植可能送達デバイスの具体化では、被験体の中に移植した後に流動性製剤を制御された速度で持続期間に渡って送達し得る如何なる送達システムデバイスも使用可能である。本発明に従う移植可能送達デバイスには、例えば浸透圧性ポンプインプラント、例えば商標名DUROS(商標)の下で入手可能なポンプインプラントなど、または調節装置型ポンプインプラント、例えばCodman of Raynham(マサチューセッツ)、Medtronic of Minneapolis(ミネソタ)およびTricumed Medinzintechnik GmbH(ドイツ)などから入手可能なポンプインプラント、または他の非浸透圧性ポンプインプラントが含まれ得る。
【0035】
EPO(エポエチンアルファ)の粒子製剤が非水性の単相ビヒクル中で示す安定性を評価する検定を実施した。サイズエクスクルーシブクロマトグラフィー(SEC)を用いて粒子製剤の安定性を評価した。その安定性をEPO充填率および可溶凝集物総量に換算して評価した。EPO充填率は粒子製剤に入っている可溶EPO全体(単量体、二量体および他の高分子量生成物を包含)のパーセントである。EPO充填率は、不溶なEPOが貯蔵または送達中に有意な量で生じたか否かに関する情報をいくらか与えるものである。可
溶凝集物総量は、単量体より大きくかつ水に溶解するEPO関連化合物のパーセントである。
【0036】
以下の実施例は説明の目的で示すものであり、本明細書に特に記述しない限り、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0037】
EPO粒子製剤の調製を下記の如く実施した:EPOのバルク溶液を濃度が約3.1mg/mlの凍結溶液として得た。そのEPO溶液に10mMのヒスチジン緩衝溶液を用いた透析を受けさせた。その透析を受けさせたEPO溶液にスクロース(安定剤)およびTWEEN(商標)20(界面活性剤)をEPOとスクロースと界面活性剤の比率が所望の比率になるように添加した。その緩衝剤を添加した溶液に噴霧乾燥を受けさせることでEPO:スクロース:Tween 20:10mMのヒスチジンの比率が1:4.53:0.03:0.50に相当し、pHが6.9でありそしてEPO充填率が16.5%の固体状粒子を得た。
【実施例2】
【0038】
前記EPO粒子製剤を高温で貯蔵した時にそれが示す安定性を評価した。実施例1で調製したままのEPO粒子製剤の3サンプルを40℃で3カ月間貯蔵した。これらのサンプルにSECを用いた分析を初期、1カ月、2カ月および3カ月目に受けさせた。初期時点のEPO粒子製剤が示した平均粒径は約4.5μmであり、ガラス転移温度は54.9±5.6℃でありかつ水分含有量は1.16±0.01%であった。以下の表3に安定性の結果を示す。この結果から前記EPO粒子はこれを40℃で3カ月間貯蔵した時に凝集に対抗する安定化を受けていることが分かる。
【0039】
【表3】

【実施例3】
【0040】
懸濁製剤の調製を下記の如く実施した:実施例1に記述した如く調製したEPO粒子製剤をCeraphyl(商標)31/PVPビヒクルに目標粒子充填率が約10%(重量
/重量)になるように入れて懸濁させた。
【実施例4】
【0041】
実施例3で調製した懸濁液の3サンプルをガラス製容器に入れて40℃で3カ月間貯蔵した。これらのサンプルにSECを用いた分析を初期、1カ月、2カ月および3カ月目に受けさせた。以下の表4に安定性の結果を示す。3カ月目の懸濁液で観察した可溶凝集物総量は約1.57%であるのに対比して、3カ月目のEPO粉末で観察したそれは0.1%であった。40℃で3カ月間貯蔵した時の結果は、Ceraphyl(商標)31/PVPビヒクルに入れて懸濁させたEPOが安定であることを示している。
【0042】
【表4】

【0043】
EPO粒子製剤を非水性の単相ビヒクルに入れて懸濁させそして移植可能送達デバイス、例えば浸透圧性ポンプインプラントなどを用いてそれを放出させた時の放出速度を評価する検定を実施した。図1に、この検定で用いる浸透圧性ポンプインプラント100の図式図を示す。浸透圧性ポンプインプラント100には、開放末端部104、106を有するチタン製円筒102が含まれている。拡散調節装置108を前記円筒102の末端部106に取り付ける。その拡散調節装置108に、前記円筒102の内側から外側に向かう流体の送達を可能にする送達用導管110を持たせる。その拡散調節装置108による送達用導管110は真っすぐである。しかしながら、真っすぐ以外の形態を持たせた拡散調節装置も考えられ、それらも本発明に包含させる。本検定では、直径が0.25mmおよび0.5mmで長さが1.5mmの真っすぐな送達用導管が備わっている拡散調節装置を用いた。半透膜114を円筒102の末端部104に挿入することで、円筒102の外側と内側の間に流体透過性バリヤーを生じさせる。ピストン116および浸透圧剤122を円筒102の中に配置する。薬剤貯蔵部120を円筒102の中に限定する。
【0044】
以下の実施例は説明の目的で示すものであり、本明細書に特に記述しない限り、本発明を限定することを意図するものでない。
【実施例5】
【0045】
浸透圧性ポンプインプラント100の薬剤貯蔵部120の中に実施例3で調製した懸濁液[124(図1)で示す如き]を約150μL(約150mg)充填した。目標投薬量は3000IU/日(24μg/日)であった。
【実施例6】
【0046】
実施例5に記述した如き浸透圧性ポンプを数個調製した。その浸透圧性ポンプの各々の膜末端部を、燐酸塩緩衝食塩水(PBS)を3mL充填して栓をしておいたVacutainer(商標)の中に入れた後、前記浸透圧性ポンプの拡散調節装置末端部を乾燥しているVacutainer(商標)の中に入れた。このシステムをキャップ付き試験管の中に前記拡散調節装置側が下に来るように入れた後、それの一部を37℃の水浴の中に浸漬した。7日後、前記システムの中の数個を前記水浴から取り出した後、前記システムの拡散調節装置末端部の所の乾燥したVacutainers(商標)を、放出速度用ビヒクル(クエン酸塩が20mMでスクロースが50mg/mLでpHが6.9)を2.5mL充填しておいたVacutainers(商標)に置き換え、そしてそのシステムを水浴の中に戻した。このようにして、前記システムの中の数個は放出速度用ビヒクルの中にポンプ輸送(放出速度用ビヒクルの中にポンプ輸送)する一方で他は空の容器の中にポンプ輸送(空気の中にポンプ輸送)するようにした。
【0047】
特定時間点で、前記システムが放出速度用ビヒクルの中にポンプ輸送するように、拡散調節装置末端部の所のVacutainers(商標)を、この上で説明したように、放出速度用ビヒクルを2.5mL充填しておいた新しいVacutainers(商標)に置き換えた。前記拡散調節装置末端部から取り出したVacutainers(商標)から集めたサンプルを高性能液クロ(HPLC)で分析した。特定時間点で、前記システムが空気の中にポンプ輸送するように、前記システムを前記水浴から取り出し、前記拡散調節装置末端部の所のVacutainers(商標)を新しい乾燥しているVacutainers(商標)に置き換えた後、そのシステムを水浴の中に戻した。前記拡散調節装置末端部から取り出したVacutainers(商標)から集めたサンプルの重量を測定した後、それをHPLCで分析した。分析に充分な量の材料を集める目的で、放出された製剤を3または4日間に渡って集めた。
【0048】
37℃で3カ月に渡る1日当たりの放出速度を図2Aおよび2Bにプロットする。図2Aに、前記システムが放出速度用ビヒクルの中にポンプ輸送した時の放出速度を示す。図2Bに、前記システムが空気の中にポンプ輸送した時の放出速度を示す。この結果は、前記システムがEPOを37℃で3カ月に渡ってほぼ目標速度(23.5μg)で一定に送達することを示している(ゼロ次送達)。その放出されたサンプルが2.5カ月の時点で示す生物活性を細胞増殖方法で評価した。その結果を図3に示す。その結果から37℃で2.5カ月間に渡って放出されたEPOが示す生物活性はバルク溶液のそれに比べてあまり低下していないことが分かる。37℃で2.5カ月間に渡って放出されたEPOが含有する単量体の量は99%を超えていた。
【0049】
本発明を限られた数の態様に関して記述してきたが、本開示の利点を習得した本分野の技術者は、本明細書に開示した如き本発明の範囲から逸脱することのない他の態様を考案することができることを理解するであろう。以下に本発明の典型的な態様を要約する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の1つの態様に従うERA製剤が入っている浸透圧性ポンプを示す図式図である。
【図2A】図2Aに、本発明の1つの態様に従うERA製剤が入っている浸透圧性ポンプが放出速度用ビヒクルの中にポンプ輸送している時の放出速度を示す。
【図2B】図2Bに、本発明の1つの態様に従うERA製剤が入っている浸透圧性ポンプが空気の中にポンプ輸送している時の放出速度を示す。
【図3】図3に、本発明の1つの態様に従って放出された製剤が示した生物活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性のある流体特徴を示す非水性の単相ビヒクル、および
前記ビヒクルの中に分散しているエリスロポエチン受容体作動薬を含んで成る粒子製剤、を含んで成る治療用途用懸濁製剤。
【請求項2】
40℃で少なくとも3カ月に渡って安定である請求項1記載の懸濁製剤。
【請求項3】
40℃で12カ月に及んで安定である請求項1記載の懸濁製剤。
【請求項4】
粒子製剤をビヒクルの中に分散させる前にそれが示す水分含有量が5重量%未満である請求項1記載の懸濁製剤。
【請求項5】
粒子製剤が更に糖、アミノ酸、ポリオール、重合体およびこれらの組み合わせから成る群から選択される安定剤および緩衝剤も含んで成る請求項1記載の懸濁製剤。
【請求項6】
緩衝剤がヒスチジンおよびクエン酸塩緩衝剤から成る群から選択される請求項5記載の懸濁製剤。
【請求項7】
糖がスクロースである請求項5記載の懸濁製剤。
【請求項8】
緩衝剤がクエン酸塩緩衝剤でありそしてエリスロポエチン受容体作動薬に対する前記安定剤の比率が2.0よりも大きい請求項5記載の懸濁製剤。
【請求項9】
粒子製剤が更に界面活性剤、充填剤および塩の中の少なくとも1種も含んで成る請求項5記載の懸濁製剤。
【請求項10】
ビヒクルが溶媒、重合体、非重合体および界面活性剤から成る群から選択される1種以上の成分を含んで成る請求項1記載の懸濁製剤。
【請求項11】
エリスロポエチン受容体作動薬が該懸濁製剤中に約0.1から40重量%の範囲の量で存在する請求項1記載の懸濁製剤。
【請求項12】
エリスロポエチン受容体作動薬がエポエチンアルファ、エポエチンベータおよびダーベポエチンアルファから成る群から選択される請求項1記載の懸濁製剤。
【請求項13】
移植可能送達デバイスを用いる送達可能な請求項1記載の懸濁製剤。
【請求項14】
エリスロポエチン受容体作動薬を使用環境中で12カ月に及んで目標投薬量で連続的に放出する請求項1記載の懸濁製剤。
【請求項15】
ある被験体における赤血球生成を促進する方法であって、
前記被験体に粘性のある流体特徴を示す非水性の単相ビヒクルおよび前記ビヒクルの中に分散しているエリスロポエチン受容体作動薬を含んで成る粒子製剤を含んで成る懸濁製剤を有効量で投与することを含んで成る方法。
【請求項16】
被験体への投与が移植可能送達デバイスによる投与である請求項15記載の方法。
【請求項17】
被験体への投与が長期の連続投与である請求項15記載の方法。
【請求項18】
移植可能送達デバイスであって、粘性のある流体特徴を示す非水性の単相ビヒクルおよび前記ビヒクルの中に分散しているエリスロポエチン受容体作動薬を含んで成る粒子製剤を含んで成る懸濁製剤がエリスロポエチン受容体作動薬が使用環境中で治療的に有効な速度で連続的に送達されるに充分な量で入っている貯蔵部を含んで成る移植可能送達デバイス。
【請求項19】
エリスロポエチン受容体作動薬を3カ月間に及んで連続的に送達する請求項18記載の移植可能送達デバイス。
【請求項20】
エリスロポエチン受容体作動薬を12カ月間に及んで連続的に送達する請求項18記載の移植可能送達デバイス。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−509160(P2008−509160A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525044(P2007−525044)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/027965
【国際公開番号】WO2006/017772
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】