説明

エルゴチオネインの製造方法

【課題】食品、化粧品あるいは医薬品として安全かつ安価に利用できるエルゴチオネインの新規な製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも前駆体、メチル基供与体およびS付加源を含む原料に、エルゴチオネイン合成活性を有する酵素を作用させることを特徴とする。ルゴチオネイン合成活性を有する酵素はきのこ由来であることが好ましく、人工栽培されたきのこ、またはきのこの廃棄部分を用いることで製造コストをさらに安価にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエルゴチオネインの製造方法に関し、さらに詳しくは、食品、化粧品または医薬品として安全かつ安価に利用できるエルゴチオネインの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エルゴチオネインはライ麦角菌クラビセプスプルプレア(Claviceps purpurea)から単離された天然分子である(非特許文献1参照)。一方、エルゴチオネインはラットの赤血球と肝臓中で確認され、その他多くの動物組織、特にヒトの組織においても確認された(非特許文献2参照)。エルゴチオネインは菌類やマイコバクテリアによって生合成される。植物へは、菌類によって分生胞子内で合成されたエルゴチオネインが根から吸収されることにより蓄積する。動物は植物の摂食により、エルゴチオネインを摂取している。
エルゴチオネインの正確な生物学的役割はいまだに明らかではないが、その抗酸化特性はよく知られている(非特許文献3、4参照)。よって近年、エルゴチオネインはその抗酸化特性に注目され、食品、化粧品あるいは医薬品としての利用が期待されている。
【0003】
しかしながら、植物中に存在するエルゴチオネインは極めて少量であるため、十分な量のエルゴチオネインを摂取するには、極めて多量の植物を摂食しなければならない。このため、エルゴチオネインを大量に製造すべく、エルゴチオネインの製造方法として化学合成法(特許文献1、2)や発酵法(特許文献3)、エルゴチオネインを多く含有するタモギタケ等のきのこからの精製方法(特許文献4、5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−501575号公報
【特許文献2】特開2006−160748号公報
【特許文献3】特公昭43−20716号公報
【特許文献4】特開2008−110988号公報
【特許文献5】特開2009−161498号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tarnet C.,C.R.Acad.Sci.,149(1909)p222−224
【非特許文献2】Melville D.B.,Vitam.Horm.,17,(1958)p155−204
【非特許文献3】Hartman P.E.,Meth.Enzymol.,186(1990)p310−318
【非特許文献4】Akanmu D.et al.,Journal Arch.Biochem.Biophys.,288(1991)p10−16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化学合成法や発酵法によりエルゴチオネインを大量に製造すれば、容易に十分量のエルゴチオネインを摂取可能となる。しかしながら、化学合成法によれば、その工程が複雑かつ高コストであり、得られるエルゴチオネインが極めて高価となる。しかも、化学合成法ではその工程で種々の化学薬品を使用するため、得られたエルゴチオネインは食品として安全に利用できるものではない。
一方、発酵法では菌類を用いてエルゴチオネインを製造しているので、化学合成法に比較して安全面では優れているものの、収量が少ないため、得られるエルゴチオネインはやはり極めて高価なものとなる。
また、エルゴチオネインを多く含有するきのこから精製した場合でも、その工程は抽出、カラムクロマトグラフィーによる分離、凍結乾燥等複雑であり、やはりコスト高につながる。
そこで、本発明の課題は、食品、化粧品あるいは医薬品として安全かつ安価に利用できるエルゴチオネインの新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討したところ、ヒラタケ属等に属するきのこがエルゴチオネインを多量に含有していることを知り、これらきのこにはエルゴチオネインを合成する活発な酵素群が存在し、これらの酵素群を利用することによって、安全かつ安価にエルゴチオネインを多量に得ることができるものと考え検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の発明を包含する。
[1]少なくとも前駆体、メチル基供与体およびS付加源を含む原料に、エルゴチオネイン合成活性を有する酵素を作用させることを特徴とするエルゴチオネインの製造方法。
[2]エルゴチオネイン合成活性を有する酵素が、きのこ由来であることを特徴とする前記[1]に記載のエルゴチオネインの製造方法。
[3]エルゴチオネイン合成活性を有する酵素が、きのこ子実体もしくは菌糸体のホモジネート、または該ホモジネートから調製したエルゴチオネイン合成活性を有する画分に含まれることを特徴とする前記[2]に記載のエルゴチオネインの製造方法。
[4]きのこが、ヒラタケ属、ヒトヨタケ属、サンゴハリタケ属、エノキタケ属、マイタケ属、オオイチョウタケ属、シイタケ属、ハラタケ属、シロタモギタケ属、フミツキタケ属、キシメジ属、シメジ属またはスギタケ属に属する一種または二種以上であることを特徴とする前記[2]または[3]に記載のエルゴチオネインの製造方法。
[5]人工栽培されたきのこ、またはきのこの廃棄部分を用いることを特徴とする前記[2]〜[4]のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。
[6]前駆体がヒスチジンまたはその塩であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。
[7]メチル基供与体がS−アデノシルメチオニンもしくはその塩、またはメチオニンもしくはその塩であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。
[8]S付加源がシステインもしくはその塩、またはシスチンもしくはその塩であることを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。
[9]原料が酵母エキスであることを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエルゴチオネインの製造方法は、例えば、食用とされている種々のきのこより調製した粗酵素液を用い、酵母エキスや、ヒスチジン、システイン、S−アデノシルメチオニンといった食品素材等を原料に用いてエルゴチオネインを酵素合成するものであり、得られたエルゴチオネインを含有する組成物をそのまま、あるいは乾燥、粉末化または精製して利用するため、食品、化粧品あるいは医薬品として安全かつ安価に利用可能なエルゴチオネインを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】エリンギの子実体粗酵素液(pH8.5)を用いた場合のエルゴチオネインの生成濃度を示す図である。
【図2】エリンギの各子実体粗酵素液(pH8.5)を用い、酵母エキス量を変化させた時のエルゴチオネインの生成濃度を示す図である。
【図3】エリンギ、タモギタケ、ササクレヒトヨタケの各子実体粗酵素液(pH8.5)を用いた場合のエルゴチオネインの生成濃度を示す図である。
【図4】エリンギ子実体粗酵素液(pH8.5)による、3段階の反応温度(25℃、30℃、40℃)におけるエルゴチオネインの生成濃度を示す図である。
【図5】pHの異なる3種類のエリンギ子実体粗酵素液(pH4.5、6.0、8.5)によるエルゴチオネインの生成濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエルゴチオネインの製造方法(以下、「本発明の製造方法」という。)は、少なくとも前駆体、メチル基供与体およびS付加源を含む原料に、エルゴチオネイン合成活性を有する酵素を作用させてエルゴチオネインを製造する方法であればよい。エルゴチオネイン合成活性を有する酵素は特に限定されないが、例えば、マイコバクテリア由来、菌類由来、きのこ由来の酵素が例示され、その中でも安全かつ安価な観点から、特にきのこ由来であることが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法に用いるきのことしては、エルゴチオネインを含有するものであればいずれでも用いることができるが、ヒラタケ属、ヒトヨタケ属、サンゴハリタケ属、エノキタケ属、マイタケ属、オオイチョウタケ属、シイタケ属、ハラタケ属、シロタモギタケ属、フミツキタケ属、キシメジ属、シメジ属またはスギタケ属に属する一種または二種以上のきのこであることが好ましい。
【0013】
ヒラタケ属に属するきのことしては、例えばヒラタケ、エリンギ、ウスヒラタケ、タモギタケ、トキイロヒラタケ、ヒマラヤヒラタケなどが挙げられる。ヒトヨタケ属に属するきのことしては、例えば、イヌセンボンタケ、ササクレヒトヨタケ、ヒトヨタケ、イタチタケ、キララタケなどが挙げられる。サンゴハリタケ属に属するきのことしては、例えば、サンゴハリタケ、サンゴハリタケモドキ、ヤマブシタケ、フサハリタケなどが挙げられる。エノキタケ属に属するきのことしては、例えば、エノキタケなどが挙げられる。マイタケ属に属するきのことしては、例えば、マイタケ、シロマイタケ、アンニンコウなどが挙げられる。オオイチョウタケ属に属するきのことしては、例えば、オオイチョウタケ、ムレオオイチョウタケなどが挙げられる。シイタケ属に属するきのことしては、例えば、シイタケなどが挙げられる。ハラタケ属に属するきのことしては、例えば、ウスキモリノカサ、ザラエノハラタケ、ツクリタケ、ヒメマツタケなどが挙げられる。シロタモギタケ属に属するきのことしては、例えば、ブナシメジ、シロタモギタケなどが挙げられる。フミツキタケ属に属するきのことしては、例えば、コフミヅキタケ、フミツキタケ、ハタケキノコ、タマムクエタケ、ツバナシフミヅキタケ、ツチナメコ、ヤナギマツタケなどが挙げられる。キシメジ属に属するきのことしては、例えば、ニオウシメジ、ミドリシメジ、ニオイキシメジ、シロシメジ、シモコシ、シモフリシメジ、ハエトリシメジ、ヌズミシメジ、クロゲシメジ、ケショウシメジ、マツタケモドキ、マツタケ、サウーバなどが挙げられる。シメジ属に属するきのことしては、例えば、シャカシメジ、ハタケシメジ、オシロイシメジ、ホンシメジ、スミゾメシメジなどが挙げられる。スギタケ属に属するきのことしては、例えば、ナメコ、スギタケ、スギタケモドキ、ハナガサタケ、ヌメリスギタケモドキ、アカツムタケ、ヤケアトツムタケ、チャナメツクタケ、シロナメツムタケなどが挙げられる。
【0014】
特にエルゴチオネインを多量に含有するタモギタケ、ササクレヒトヨタケ、ヤマブシタケ、エリンギ、ヒラタケ、エノキタケからなる群より選ばれた一種または二種以上のきのこを好適に用いることができる。人工栽培されたきのこ、あるいはきのこの廃棄部分を用いることによって、エルゴチオネインの製造コストをさらに安価にすることができる。
【0015】
これらのきのこからエルゴチオネイン合成活性を有する粗酵素を調製し、本発明の製造方法に使用することができる。エルゴチオネイン合成活性を有する粗酵素としては、きのこをエルゴチオネインの合成に適した緩衝液にてホモジナイズすることにより得られるホモジネート、該ホモジネートを遠心分離することにより得られる上清、この上清を透析膜によって透析した画分、およびこの画分を種々のカラムクロマトグラフィーによって分離、精製したエルゴチオネイン合成活性を有する画分のいずれを用いることもできる。ここで、エルゴチオネインの合成に適した緩衝液としては、例えば、トリス−塩酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、りん酸カリウム緩衝液、クエン酸緩衝液などが挙げられる。
【0016】
本発明において言う「きのこ」には、茎部分と傘部分とからなる子実体(石鎚部分も含む)はもちろん、種々の培地にて得られた菌糸体やそれらの乾燥物、粉末等も含まれる。なお、きのこの乾燥、粉末化や粗酵素の調製段階において、加熱はエルゴチオネイン合成酵素群の活性低下を招くため避けるべきであるのはいうまでもない。
【0017】
これらきのこにおいて、エルゴチオネインは、他の菌類やマイコバクテリアと同様、ヒスチジンからメチル基付与反応、S付加反応の二段階を経て合成されていると予想される。そこで、本発明の製造方法は、少なくとも前駆体、メチル基供与体およびS付加源を含む原料にエルゴチオネイン合成活性を有する酵素を作用させることを特徴としている。前駆体としてはヒスチジンが好ましく、メチル基供与体としはS−アデノシルメチオニンまたはメチオニンが好ましく、S付加源としてはシステインまたはシスチンが好ましい。ヒスチジン、S−アデノシルメチオニン、メチオニン、システイン、シスチンは塩酸塩や硫酸塩など様々な塩型をとってもよい。また、これらを高含有する酵母エキスを原料として好適に用いることができる。酵母エキスは、市販品を購入して使用することができる。
本発明の製造方法における酵素反応は、pH4〜9、温度20〜50℃の範囲で行なうことが好ましく、さらに好ましくはpH4.5〜8.5、温度25〜40℃の範囲で行なう。反応時間は特に限定されず、反応条件、反応量等に応じて適宜選択することが好ましい。通常、0.5〜72時間が好ましく、さらに好ましくは10〜60時間、好適には15〜48時間である。
【0018】
本発明の製造方法において用いる酵母エキスや、ヒスチジン、システイン、S−アデノシルメチオニンといった各種アミノ酸の添加量は特に限定されるものではなく、所望する量のエルゴチオネインが得られる範囲で任意に選定される。ただし、ヒスチジン1モルに対しメチル基供与体であるS−アデノシルメチオニンは3モル必要であり、また、S付加源であるシステインもヒスチジンに対し1モル相当量必要となる。酵母エキスを使用する場合においても、ヒスチジン、S−アデノシルメチオニン、システイン等の含有量を把握しておくことが、高い変換率を維持する上で重要である。また、高い変換率でエルゴチオネインを製造するために、原料としての酵母エキスに対して、ヒスチジン、システイン、S−アデノシルメチオニン等からなる群より選ばれた一種または二種以上のアミノ酸を添加することが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法により、エルゴチオネインはエルゴチオネイン含有組成物として得られる。このエルゴチオネイン含有組成物は、そのまま乾燥、さらに粉末化した形態のほか、不溶物を遠心分離や濾過等の工程により除去した上清、その上清を噴霧乾燥等することにより得られる粉末、不溶物を除去した上清にエタノール等の溶媒を添加して不溶物を析出させ、粗精製した溶液、その溶液を噴霧乾燥等することにより得られる粉末等、さまざまな形態で提供することができる。また、エタノール等の溶媒添加により不溶物を除去した粗精製画分を、種々のカラムクロマトにかけることでエルゴチオネイン純度を高めることも可能である。なお、エルゴチオネインの製造量は、例えば、高速液体クロマトグラフ法(HPLC、実施例参照)等の公知の方法により測定することができる。
【0020】
本発明の製造方法により得られるエルゴチオネイン含有組成物は、食品、化粧品あるいは医薬品として安全かつ安価に利用することができる。
【実施例】
【0021】
<粗酵素液の調製1>
エリンギ、タモギタケ、ササクレヒトヨタケそれぞれの子実体の凍結乾燥粉末10gに150mLの0.05Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)を添加し、氷冷下、5分間ホモジナイザーに掛けた。得られたホモジネートを30,000g×30分の遠心分離に掛け、上清を回収した。この上清を分画分子量15,000の透析チューブに入れ、0.01Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)にて24時間透析を行なった。同様に透析を計3回繰り返し、透析内液を得、これを各種きのこ子実体粗酵素液(pH8.5)とした。
【0022】
<実施例1>
ヒスチジン7.75mg(50μmol)、システイン6.05mg(50μmol)、S−アデノシルメチオニン65.24mg(150μmol)を0.01Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、5mLとした。ここへ、前記<粗酵素液の調製1>で調製したエリンギ子実体粗酵素液(pH8.5)20mLを加え、25℃恒温槽内で、振盪しながら24時間反応を行なった。反応開始前、反応開始4、24時間後に反応液をサンプリングし、3分間ボイルして反応を停止させた。遠心分離上清を回収し、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)にてエルゴチオネイン蓄積量を測定した。HPLCによるエルゴチオネインの定量は以下の方法により行なった。
【0023】
<定量法>
カラムにはHILIC系(具体的にはジーエルサイエンス製Inertsil HILIC 5μm、φ4.6×250mm)を用い、移動相には2mM酢酸アンモニウム、80%アセトニトリルのアイソクラティック条件で、流速0.8mL/分、カラム温度40℃、UV検出器にて260nmの吸収により、ピークを検出した。所定の保持時間に出現するピークの面積より既知濃度のエルゴチオネイン標品のピーク面積を用いて定量した。
なお、後述する実施例6〜9におけるエルゴチオネイン含有粉末中のエルゴチオネインの定量に際しては、粉末サンプル0.5gを70%エタノール30mlに添加し、室温下で一晩、振盪しながら抽出を行ない、濾過により抽出液から不溶成分を除いた後、遠心真空濃縮装置にて濃縮乾固を行ない、得られた残渣をイオン交換水に再溶解し5mlとしたものをHPLC用サンプルとした。
【0024】
結果を図1に示した。図1から明らかなように、エリンギ子実体粗酵素液(pH8.5)によりヒスチジンからエルゴチオネインが合成され、その蓄積量は反応時間を経るにしたがい増加した。
【0025】
<実施例2>
ヒスチジン7.75mg(50μmol)、システイン6.05mg(50μmol)、酵母エキス(オリエンタル酵母工業製、酵母エキス「赤」LotNo.56306)0.125g、0.25gまたは0.5gを0.01Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、5mLとした。ここへ、前記<粗酵素液の調製1>で調製したエリンギ子実体粗酵素液(pH8.5)20mLを加え、25℃恒温槽内で、振盪しながら24時間反応を行なった。反応開始前、反応開始24時間後に反応液をサンプリングし、3分間ボイルして反応を停止させた。遠心分離上清を回収し、HPLC(分析条件は前記)にてエルゴチオネイン蓄積量を測定した。
【0026】
結果を図2に示した。図2から明らかなように、エリンギ子実体粗酵素液(pH8.5)によるヒスチジンからのエルゴチオネイン合成量は酵母エキス添加量に依存して増大した。
【0027】
<実施例3>
ヒスチジン7.75mg(50μmol)、システイン6.05mg(50μmol)、酵母エキス(極東製薬製、粉末酵母エキス LotNo.AAK44O01)0.33gを0.01Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、5mLとした。ここへ、前記<粗酵素液の調製1>で調製した3種類のきのこ子実体粗酵素液(pH8.5)20mLをそれぞれ加え、25℃恒温槽内で、振盪しながら24時間反応を行なった。反応開始前、反応開始6、24時間後に反応液をサンプリングし、3分間ボイルして反応を停止させた。遠心分離上清を回収し、HPLC(分析条件は前記)にてエルゴチオネイン蓄積量を測定した。
【0028】
結果を図3に示した。図3から明らかなように、3種類のきのこ子実体粗酵素液(pH8.5)によりヒスチジンからエルゴチオネインが合成され、その蓄積量は反応時間を経るにしたがい増加した。
【0029】
<実施例4>
ヒスチジン7.75mg(50μmol)、システイン6.05mg(50μmol)、酵母エキス(オリエンタル酵母工業製、酵母エキス「赤」LotNo.56306)0.5gを0.01Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、5mLとした。ここへ、前記<粗酵素液の調製1>で調製したエリンギ子実体粗酵素液(pH8.5)20mLを加え、25℃、30℃、40℃恒温槽内で、振盪しながら24時間反応を行なった。反応開始前、反応開始4、24時間後に反応液をサンプリングし、3分間ボイルして反応を停止させた。遠心分離上清を回収し、HPLC(分析条件は前記)にてエルゴチオネイン蓄積量を測定した。
【0030】
結果を図4に示した。図4から明らかなように、反応温度25℃、30℃、40℃において、エリンギ子実体粗酵素液(pH8.5)によりヒスチジンからエルゴチオネインが合成され、その蓄積量は反応時間を経るにしたがい増加した。
【0031】
<粗酵素液の調製2>
エリンギ子実体の凍結乾燥粉末10gに150mLの0.2M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を添加し、氷冷下、5分間ホモジナイザーに掛けた。得られたホモジネートを30,000g×30分の遠心分離に掛け、上清を回収した。この上清を分画分子量15,000の透析チューブに入れ、0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)にて24時間透析を行なった。同様に透析を計3回繰り返し、透析内液を得、これをエリンギ粗酵素液(pH4.5)とした。
【0032】
<粗酵素液の調製3>
エリンギ子実体の凍結乾燥粉末10gに150mLの0.1Mりん酸カリウム緩衝液(pH6.0)を添加し、氷冷下、5分間ホモジナイザーに掛けた。得られたホモジネートを30,000g×30分の遠心分離に掛け、上清を回収した。この上清を分画分子量15,000の透析チューブに入れ、0.04Mりん酸カリウム緩衝液(pH6.0)にて24時間透析を行なった。同様に透析を計3回繰り返し、透析内液を得、これをエリンギ粗酵素液(pH6.0)とした。
【0033】
<実施例5>
ヒスチジン7.75mg(50μmol)、システイン6.05mg(50μmol)、酵母エキス(オリエンタル酵母工業製、酵母エキス「赤」LotNo.56306)0.5gを粗酵素のpHに対応するpHの緩衝液に溶解し、5mLとした。ここへ、前記<粗酵素液の調製1〜3>で調製した3種類のエリンギ子実体粗酵素液(pH4.5、6.0、8.5)20mLをそれぞれ加え、30℃恒温槽内で、振盪しながら24時間反応を行なった。反応開始前、反応開始6、15、20、24時間後に反応液をサンプリングし、3分間ボイルして反応を停止させた。遠心分離により上清を回収し、HPLC(分析条件は前記)にてエルゴチオネイン蓄積量を測定した。
【0034】
結果を図5に示した。図5から明らかなように、反応pH4.5、6.0、8.5において、エリンギ子実体粗酵素液によりヒスチジンからエルゴチオネインが合成され、その蓄積量は反応時間を経るにしたがい増加した。
【0035】
<実施例6>
ヒスチジン77.5mg(500μmol)、システイン60.5mg(500μmol)、酵母エキス(オリエンタル酵母工業製、酵母エキス「赤」LotNo.56306)5gを0.04Mりん酸カリウム緩衝液(pH6.0)に溶解し50mLとした。ここへ、前記<粗酵素液の調製3>で調製したエリンギ子実体粗酵素液(pH6.0)50mLを加え、30℃恒温槽内で、振盪しながら24時間反応を行なった。反応終了後、遠心分離により上清を回収し、得られた上清を−80℃にて凍結の後、凍結乾燥器にて乾燥を行ない、エルゴチオネイン含有粉末およそ10gを得た。得られた凍結乾燥粉末10gは、およそ700mgのエルゴチオネインを含有していた。
【0036】
<実施例7>
ヒスチジン77.5mg(500μmol)、システイン60.5mg(500μmol)、酵母エキス(オリエンタル酵母工業製、酵母エキス「赤」LotNo.56306)5gを0.04Mりん酸カリウム緩衝液(pH6.0)に溶解し50mLとした。ここへ、前記<粗酵素液の調製3>で調製したエリンギ子実体粗酵素液(pH6.0)50mLを加え、30℃恒温槽内で、振盪しながら24時間反応を行なった。反応液100mLにエタノール300mLを添加し、よく混和した後、遠心分離により上清を回収した。ロータリーエバポレータにて上清を20mLまで濃縮し、濃縮液を−80℃にて凍結の後、凍結乾燥器にて乾燥を行ない、エルゴチオネイン含有粉末およそ0.7gを得た。得られた凍結乾燥粉末0.7gは、およそ329mgのエルゴチオネインを含有していた。
【0037】
<実施例8>
酵母エキス(オリエンタル酵母工業製、酵母エキス「赤」LotNo.56306)5gを0.04Mりん酸カリウム緩衝液(pH6.0)に溶解し50mLとした。ここへ、前記<粗酵素液の調製3>で調製したエリンギ子実体粗酵素液(pH6.0)50mLを加え、30℃恒温槽内で、振盪しながら24時間反応を行なった。反応終了後、遠心分離により上清を回収し、得られた上清を−80℃にて凍結の後、凍結乾燥器にて乾燥を行ない、エルゴチオネイン含有粉末およそ5gを得た。得られた凍結乾燥粉末5gは、およそ270mgのエルゴチオネインを含有していた。
【0038】
<実施例9>
エリンギ子実体の凍結乾燥粉末10gに150mLの0.04Mりん酸カリウム緩衝液(pH6.0)を添加し、氷冷下、5分間ホモジナイザーに掛けた。得られたホモジネートにヒスチジン232.5mg(1.5mmol)、システイン181.5mg(1.5mmol)、酵母エキス(オリエンタル酵母工業製、酵母エキス「赤」LotNo.56306)15gを添加し、よく混和した後、30℃恒温槽内で48時間の静置反応を行なった。得られた反応物を真空攪拌乾燥器内で乾燥し、粉砕機にてエルゴチオネイン含有エリンギ粉末およそ25gを得た。得られたエリンギ粉末25gはおよそ975mgのエルゴチオネインを含有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前駆体、メチル基供与体およびS付加源を含む原料に、エルゴチオネイン合成活性を有する酵素を作用させることを特徴とするエルゴチオネインの製造方法。
【請求項2】
エルゴチオネイン合成活性を有する酵素が、きのこ由来であることを特徴とする請求項1に記載のエルゴチオネインの製造方法。
【請求項3】
エルゴチオネイン合成活性を有する酵素が、きのこ子実体もしくは菌糸体のホモジネート、または該ホモジネートから調製したエルゴチオネイン合成活性を有する画分に含まれることを特徴とする請求項2に記載のエルゴチオネインの製造方法。
【請求項4】
きのこが、ヒラタケ属、ヒトヨタケ属、サンゴハリタケ属、エノキタケ属、マイタケ属、オオイチョウタケ属、シイタケ属、ハラタケ属、シロタモギタケ属、フミツキタケ属、キシメジ属、シメジ属またはスギタケ属に属する一種または二種以上であることを特徴とする請求項2または3に記載のエルゴチオネインの製造方法。
【請求項5】
人工栽培されたきのこ、またはきのこの廃棄部分を用いることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。
【請求項6】
前駆体がヒスチジンまたはその塩であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。
【請求項7】
メチル基供与体がS−アデノシルメチオニンもしくはその塩、またはメチオニンもしくはその塩であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。
【請求項8】
S付加源がシステインもしくはその塩、またはシスチンもしくはその塩であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。
【請求項9】
原料が酵母エキスであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のエルゴチオネインの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−50350(P2011−50350A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204304(P2009−204304)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】