説明

エルトリエータ用マイクロ流路システムおよび粒子分離方法

【課題】従来のエルトリエーション装置において必要となる、高速で回転するロータ部分に対して外部ポンプを用いて送液するための接続機構を必要としないエルトリエータ装置を提供するとともに、装置自体がディスポーザブルなエルトリエータシステムを提供する。
【解決手段】基板に流路が形成され、回転軸を中心に回転可能なエルトリエータ用マイクロ流路システムであって、流路は、入口、出口、前記入口に接続される入口溶液チャンバー、及び、入口と出口の間に形成される分離チャンバーを有し、入口と回転軸の間の距離は、出口と回転軸の間の距離よりも短く、分離チャンバーの入口と回転軸との間の距離は、分離チャンバーの出口と回転軸との間の距離よりも長いこととする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動植物細胞、バクテリア、ウイルス等の細胞またはそれらの構成要素であるオルガネラ等の生物粒子、また、ポリマー粒子、セラミックス粒子や金属微粒子を、粒子サイズおよび比重に応じて連続的に分離を行うためのマイクロ流路システムおよびそれを用いた遠心エルトリエータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成高分子微粒子、無機粉体、金属粉体などの粒子を分離する技術は、基礎研究のみならず粉体工業、電子産業、食品産業、医薬品産業等における特定の大きさの粒子の選抜や、粒径分布の分析などの幅広い分野において重要である。また、多種類の細胞からなる複雑な細胞集団から、特定の比重あるいは大きさの細胞を分離・選抜する技術は、再生医療や診断医療、生化学等の研究分野において必須である。
【0003】
微粒子や細胞の分離・分級法として、エルトリエーション法と呼ばれる連続遠心分離手法が知られており、その装置はエルトリエータと呼ばれている。エルトリエーション法は、粒子がその沈降速度に応じて遠心力と対向する流れの力の平衡位置に集まるという原理に基づいている。即ち粒子に働く遠心力とそれと反対方向に働く対向流により、粒子サイズおよび比重に基づく粒子の勾配層を遠心機のロータに設置したチャンバー内に形成する。ロータの回転速度を下げていく、あるいは対向流の流速を上げていくことにより、粒子の平衡位置を変化させてゆき、サイズの小さい粒子、あるいは比重の小さい粒子からチャンバー外に流出させていき、これをフラクションとして回収し、フラクション毎に粒径のそろった粒子を集める方法である。
【0004】
一般に、チャンバーとしては回転中心の方向に向かうほど徐々に拡大するものを使用する。これにより、対向流の流速に流れ方向の勾配を設ける。これにより、チャンバー内の回転中心から遠心(外側)方向に、小さい粒子から大きい粒子、あるいは比重の小さい粒子から大きい粒子、という滞留位置分布の勾配が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−265742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上述の従来のエルトリエーション法では、高速で回転するロータ部分に対して、外部ポンプを用いて送液するための接続機構が必要となる。さらに、回転数あるいはポンプによる送液量を徐々に変化させる必要があるため、これら2つのパラメータを独自に制御する機構が必要となり、装置自体も非常に高価なものとなる。そのため、ディスポーザブルなシステムとはなりえず、試料間のコンタミネーションを避ける必要がある際は、試行毎に流路内部を洗浄、殺菌する必要がある。
【0007】
本発明は、従来の技術の有する上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来必要であった外部における送液装置を不要とし、ディスポーザブルで装置全体を安価にすることを可能とするエルトリエータ用マイクロ流路システムおよび粒子分離方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第一の観点に係る発明は、平均粒径がRμm(Rは1000以下)である粒子を分離するための、ポリマー、ガラス、あるいは金属材料によって形成され、任意の回転装置によって特定の回転軸(RA)に対して回転操作を行うことができるエルトリエータ用マイクロ流路システムであり、そのシステムにおいて、(1)入口(DP)と出口(DR)を連結する内径1.5Rμm〜100mmの流路(D)が存在し、(2)入口(DP)と回転軸(RA)との直線距離は、出口(DR)と回転軸(RA)との直線距離に比べ短くなるように構成されており、(3)流路(D)は、流路(D)を入口(DP)から出口(DR)へとたどった場合に回転軸(RA)からの直線距離が徐々に短くなる部分(DS)を少なくとも1箇所有しており、(4)流路(D)は、入口(DP)を介して、エルトリエータ用マイクロ流路システムの静止時および回転時に液体を内部に保持することを可能とする入口溶液チャンバー(IC)と接続されており、(5)流路(D)は、分離チャンバー(DC)と呼ばれる構造を部分(DS)に有しており、(6)エルトリエータ用マイクロ流路システム全体を回転軸(RA)に対して回転することにより、当該粒子は溶液A(組成a)と共に流路(D)に導入され、分離チャンバー(DC)内において、当該粒子は大きさおよび比重の差に応じて異なる位置に滞留するため、あるいは当該粒子の少なくとも一部は滞留することができないため、当該粒子は分離される、というものである。これにより従来のエルトリエータ装置において不可欠であった、ポンプ等の外部送液装置が不要になる、という優れた効果が発揮される。
【0009】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、流路(D)は、出口(DR)を介して、静止時および回転時に液体を内部に保持することが可能である出口溶液チャンバー(OC)と接続されることが好ましい。このようにすることで、分離され流路から排出された粒子を、装置内の出口チャンバーに保持することが可能となり、回転操作の停止後に、流路から排出された粒子を回収することが可能となる。
【0010】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、分離チャンバー(DC)は、流路(D)の下流に行くに従い、少なくとも部分的に、徐々にあるいは段階的にその断面積Sが増加していることが好ましい。このようにすることで、分離チャンバー内に効率的に流速勾配を形成することが可能となるため、大きさあるいは比重の差による粒子の滞留位置の差を、分離チャンバー内に効率的に形成することが可能となり、分離精度の向上が可能となる。
【0011】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、流路(D)は、入口(DP)および分離チャンバー(DC)によって挟まれた区間において分岐点BPにおいて分岐し合流点CPにおいて再合流する分岐流路(DB)を少なくとも一本有することが好ましい。すなわち粒子が導入されない分岐流路を設けることで、たとえ流路が2次元平面的に形成されている場合であっても、分岐チャンバーの壁面近傍ではなく中央付近に、効率的に粒子を導入することが可能となる。
【0012】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、入口溶液チャンバー(IC)は、個別に溶液を導入できる複数の入口溶液チャンバーが並列あるいは直列に接続された構造であることが好ましい。このようにすることで、導入した全ての細胞を効率的に分離チャンバー内に導入することが可能となるほか、流路内に導入される溶液の組成や物性を、段階的あるいは徐々に変化させることも可能となる。
【0013】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、出口溶液チャンバー(OC)は、出口(DR)から排出された溶液を個別に回収できる複数の出口溶液チャンバーが並列あるいは直列に接続された構造であることが好ましい。このようにすることで、分離チャンバーから経時的に排出された、性質の異なる粒子のフラクションを、フラクションごとに異なる出口溶液チャンバーに保持することが可能となり、回転の停止後に、それらを個別に回収することが可能となる。
【0014】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、流路(D)に導入される溶液の比重が、段階的にあるいは徐々に増加することが好ましい。このようにすることで、流路内の流速を経時的に変化させることなく、粒子の滞留位置を徐々に変化させることが可能となるため、より簡単な操作によって効率的な粒子の分離が可能となる。
【0015】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、流路(D)、および分離チャンバー(DC)は、平板状基板の表面に加工された溝状の構造と、他の平板状基板を貼り合わせることで作製されていることが好ましい。このようにすることで、たとえばポリマー基板を用いて安価かつ大量にエルトリエータ装置を作製することが可能となるため、装置自体をディスポーザブルにすることも可能となる。
【0016】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、分離対象である粒子とは、細胞、ウイルス、バクテリア、オルガネラ等の生体粒子であることが好ましい。成体粒子を分離することで、医療や生化学等の研究分野において重要なプロセスを実現することができる。
【0017】
また、本発明の他の一観点に係る粒子分離方法は、上記第一の観点にかかるエルトリエータ用マイクロ流路システムを利用し、粒子の分離を行う、というものである。これにより、従来法に比べ操作が簡便かつ安価なエルトリエータ装置による粒子や細胞の分離が可能となる。
【0018】
本発明の他の一観点に係るエルトリエータ用マイクロ流路システムは、基板に流路が形成され、回転軸を中心に回転可能なエルトリエータ用マイクロ流路システムであって、流路は、入口、出口、入口に接続される入口溶液チャンバー、及び、入口と出口の間に形成される分離チャンバーを有し、入口と回転軸の間の距離は、出口と回転軸の間の距離よりも短く、分離チャンバーの入口と回転軸との間の距離は、分離チャンバーの出口と回転軸との間の距離よりも長いこととする。
【0019】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、出口に接続される出口溶液チャンバーを有することが好ましい。
【0020】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、分離チャンバーの断面積は、分離チャンバーの入口から分離チャンバーの出口に向かうに従い、徐々にあるいは段階的に断面積が増加していることが好ましい。
【0021】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、流路は、入口及び分離チャンバー入口の間に、流路が分岐する分岐点及び前記分岐点により分岐された流路が合流する合流点を有することが好ましい。
【0022】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、直列又は並列に接続された複数の入口溶液チャンバーを有することが好ましい。
【0023】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、直列又は並列に接続された複数の出口溶液チャンバーを有することが好ましい。
【0024】
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、流路形状に対応した溝が形成された基板と、平板上の基板とを張り合わせることにより形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、以上に述べられたように構成されるため、流路部および分離チャンバーへ外部から送液を行うシステムが不要となる。そのため、装置自体の回転操作を行うだけで、粒子の分離・回収が可能となる。そのため、たとえば安価なポリマー基板に形成した流路構造を利用することで、ディスポーザブルな装置となり得る。よって、従来必要であった試行間の洗浄・殺菌等の処理が不要な装置となり得る。
【0026】
また本発明は、以上に述べられたように構成されるため、従来の大型遠心機と専用ロータを必要とする装置と比較して、装置自体の小型化が可能である。
【0027】
更に本発明は、以上に述べられたように構成されるため、装置の回転数、あるいは溶媒の粘度を変化した場合に、流路内の流速および遠心力の均衡は、ほとんど影響を受けない、つまり、分離の精度は主に溶媒の密度のみによって決定される。そのため、操作条件の影響を受けにくく、非常に簡単なシステム構成によっても、精度よく細胞の分離・回収が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態に係るエルトリエータ用マイクロ流路システムの概略図であり、図1(a)は図1(b)および図1(c)におけるB矢視図であり、図1(b)は図1(a)におけるA0−A1線における断面図であり、また、図1(c)は図1(a)におけるA2−A3線における断面図である。
【図2】実施形態に係るエルトリエータ用マイクロ流路システムにおける流路構造の、図1に示したシステムとは異なる形態を有するシステムの概略図である。
【図3】実施形態に係るエルトリエータ用マイクロ流路システムにおける流路構造の、図1および図2に示したシステムとは異なる形態を有するシステムの概略図である。
【図4】実施形態に係るエルトリエータ用マイクロ流路システムにおける流路構造の、図1、2、および3に示したシステムとは異なる形態を有するシステムの概略図である。
【図5】実施例1において用いたエルトリエータ用マイクロ流路システムの概略図であり、図5(a)は図5(b)におけるB矢視図、図5(b)は図5(a)におけるA0−A1線における断面図、図5(c)は図5(a)における個別の流路(D)と回転軸(RA)の拡大図である。図5(a)および図5(c)はほぼ実寸通りである。
【図6】実施例1における結果を示すグラフであり、横軸は分離されたフラクション番号、縦軸は各粒子の存在割合を示している。
【図7】実施例2において用いたエルトリエータ用マイクロ流路システムの概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係るエルトリエータ用マイクロ流路システム及び粒子分離方法の最良の形態を詳細に説明するものとする。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の零時にのみ限定されるものでは無い。
【0030】
図1は、本実施形態に係るエルトリエータ用マイクロ流路システムの概略図である。図1(a)は図1(b)および図1(c)におけるB矢視図であり、図1(b)は図1(a)におけるA0−A1線における断面図であり、また、図1(c)は図1(a)におけるA2−A3線における断面図である。
【0031】
図1(a)において、流路(D)は、流路を下流へとたどった場合に回転軸(RA)との直線距離が短くなる部分(流路部DS)、分離チャンバー(DC)、入口(DP)、出口(DR)、を有しており、入口(DP)を介して入口溶液チャンバー(IC)と接続されている。また、回転軸RAとは、任意の回転装置によってシステムを回転させたときの、回転の中心となる位置を便宜的に表したものであり、必ずしも回転運動を行うための物理的な軸が取り付けられていることを意味するものではない。
【0032】
このエルトリエータ用マイクロ流路システムは、2枚の基板を接着することで形成されており、入口溶液チャンバー(IC)を除く流路構造は、そのうちの1枚の基板の表面状に形成された溝構造と、他の基板との間隙に平面的に構成されており、流路深さは一定であるが、流路構造は3枚以上の基板を用いて形成されていても良く、また、流路深さは部分的に異なっていても良く、さらに、システムが、径の同じあるいは異なる円管によって少なくとも部分的に接続された構造であっても良い。ただし、流路構造が少なくとも部分的に平面的に構成されているものの方が、流路構造の作製が容易になり、また、より精密な作製を可能とする、といった点において、より好ましい。
【0033】
なお、平面的に構成された流路構造を作製する場合、例えば、モールディングやエンボッシングといった鋳型を利用した作製技術は、流路構造を容易に作製可能であるという点において好ましいが、その他にも、ウェットエッチング、ドライエッチング、レーザー加工、電子線直接描画、機械加工等の作製技術を用いることも可能である。
【0034】
なお、平面的に構成された流路構造を作製する場合の、マイクロ流体システムの材質としては、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、アクリル等の各種ポリマー材料、ガラス、シリコン、セラミクス、ステンレスなどの各種金属、などを用いることができ、また、これらの材料のうち、任意の2種類の基板を組み合わせて用いることも可能である。
【0035】
さらに、図1(a)に示す流路構造において、流路(D)および分離チャンバー(DC)は、回転軸(RA)から遠心方向に直線的に延長される流路部分と、回転軸を中心とした円弧状の流路部分によって構成されているが、これらの構造は必ずしも直線状、あるいは円弧状の構造である必要はない。
【0036】
さらに、図1(a)に示す流路構造において、回転操作時に遠心力のバランスをとるために、エルトリエータ用マイクロ流路システムの重心が回転軸上に存在しているが、安定的な回転操作が可能となれば必ずしもシステムの重心が回転軸上に存在する必要は無く、たとえば、より大きな装置に取り付けて回転を行う場合など、回転軸がエルトリエータ用マイクロ流路システムから離れた位置にあっても良い。
【0037】
なお、図1(a)に示す流路構造において、流路(D)の入口(DP)は、出口(DR)よりも回転軸(RA)に近い位置に存在しているため、回転軸に対して回転運動を行った場合に、入口から出口へと溶液を連続的に導入することが可能となる。
【0038】
この流路構造に対し、入口溶液チャンバー(IC)に粒子懸濁溶液である溶液Aを滴下し、その後、エルトリエータ用マイクロ流路システム全体を任意の回転装置によって回転軸(RA)に対して回転操作を行うと、遠心力の効果によって、入口(DR)から溶液Aが導入される。
【0039】
なお、溶液滴下後に、入口溶液チャンバー(IC)の開口部に対し少なくとも部分的に覆いを被せることにより、回転操作による溶液Aおよび粒子の飛散あるいは散逸を防ぐことが可能であるが、あらかじめ溶液チャンバー(IC)の開口部を狭める、あるいは溶液チャンバーの壁面を回転軸方向に対し傾斜させることによっても、同等の効果が発揮される。
【0040】
なおその際、流路(D)および分離チャンバー(DC)は、予め粒子を含まない溶液である溶液Bにより満たされていることが好ましく、また、溶液Bの組成は、溶液Aの組成と同じ、あるいは近いことが好ましい。
【0041】
流路D内に導入された粒子に対し、流路部(DS)において、遠心力は回転軸から遠心側に、流れは回転軸方向に印加されるため、粒子混合物に含まれる特定の大きさ・比重・形状を有する粒子を、分離チャンバー内の特定の位置に滞留させることが可能となる。一方、十分に小さい、あるいは十分に比重の小さい粒子は、出口(DR)より排出される。本実施形態ではエルトリエータ装置内部に溶液チャンバーを組み込み、装置自体を回転させることによって発生した遠心力を用いて送液を行うことができるようになっている。
【0042】
また、適当な時間回転した後、入口溶液チャンバー(IC)内の溶液を溶液Bに置換することで、再度回転操作を行うことによって、入口溶液チャンバー(IC)内の粒子を効率的に分離チャンバー(DC)あるいは出口(DR)へと導入することが可能となる。
【0043】
また、適当な時間回転した後、入口溶液チャンバー(IC)内の溶液を溶液Aに比べ比重が大きい溶液である溶液Cに置換し、再度回転操作を行うことによって、分離チャンバー(IC)内に滞留した粒子を段階的に出口(DR)より排出することが可能となり、分離が達成される。
【0044】
なお、回転操作における回転数は、100〜30000rpmの範囲にあることが好ましく、500〜10000rpmの範囲であることがより好ましいが、導入する細胞等の粒子に悪影響を及ぼさない範囲であれば構わない。
【0045】
また、用いる溶液A、溶液B、溶液Cの粘度は、安定的な操作を可能とする範囲であれば構わないが、粘度が高くなりすぎると流量が低くなるため、100cP以下であることが望ましい。
【0046】
なお、回転数、溶液の粘度、および流路の大きさ(幅、長さ等)によって、流路内における流量が決定されるが、これらの値は、分離チャンバー(DC)において、流路の拡大とともに流速が均一に減速するような状態が保たれる必要があるという観点から、流路内で安定な層流が保たれる、つまり具体的には、レイノルズ数が1000以下になるような範囲にあれば良い。なお、幅または深さが1mm以下の流路であって、遠心力駆動の送液を行う場合では、この条件を達成することは容易である。
【0047】
図2は、エルトリエータ用マイクロ流路システムにおける流路(D)の、他の例の概略図である。
【0048】
図2に示す流路(D)は、分岐点(BP)において分岐し、合流点(CP)において合流する分岐流路(DB)を有している。分岐点(BP)において、入口から導入された流量のほぼ50%が分岐流路(DB)に振り分けられ、また、再合流点に到達するまでに当該粒子が遠心力により回転軸とは逆側の壁面に沿って流れる、つまり、粒子は分岐流路(DB)に導入されないことによって、再合流点において粒子は流路断面の中央付近を通過する。そのため、分離チャンバー(DC)内においても、粒子は中心付近を流れることが可能であり、壁面への粒子の堆積を抑制することが可能であり、分離の精度を向上することができる。
【0049】
なお、図2における流路構造において、分岐・再合流部分(DB)は2本への分岐構造により構成されているが、上述した効果が得られる限り、その本数は必ずしも2本である必要はなく、また、その位置も必ずしも図2に図示された位置である必要はない。ただし、再合流する部分は、図2に図示されているように分離チャンバー(DC)に近接していることが好ましい。また、分岐流路(DB)へ導入される流量は、粒子の流れる位置が分離チャンバー(DC)内の中央付近に来る状態であれば、50%でなくても構わない。
【0050】
また、図2における流路構造において、分離チャンバー(DC)は、下流に行くに従って(即ち分離チャンバーの入口から出口に向かうに従って)幅が広くなる、つまり断面積Sが増加する部分を有しており、流速が徐々に減少するような設計となっている。このことにより、分離チャンバー(DC)内において滞留する粒子のサイズあるいは比重の範囲を大きくすることが可能である。
【0051】
また、図2における流路構造は、エルトリエータ用マイクロ流路システム内部に、溶液の保持を可能とする出口溶液チャンバー(OC)を有しているため、分離チャンバー(DC)に滞留し、さらに分離チャンバー(DC)から段階的に排出された粒子を個別に回収はすることが可能となる。
【0052】
また、図2における流路構造は、下流に行くに従って幅が広くなる、つまり断面積Sが増加する部分を有しており、流速が徐々に減少するような設計となっている。このことにより、分離チャンバー(DC)内において滞留する粒子のサイズあるいは比重の範囲を広げることが可能である。
【0053】
なお、適切な流路設計を行うことにより、分離チャンバー(DC)内に滞留する粒子サイズの範囲を制御することが可能である。ここで記述する流路設計とは、回転軸(RA)と入口(DP)および出口(DR)の最短距離、分離チャンバー(DC)の位置と形状、あるいは流路(D)の直径などの値を、分離目的の対象となる粒子にあわせて設定することを意味する。
【0054】
なお、特定の粒子の分離を達成するためには、流路のネットワークを抵抗回路のアナログとして考える、つまり、流量分配は圧力に比例し流路の抵抗に反比例する、という考えに基づいて予測あるいは計算し、流路内の各地点における圧力と、流路構造の抵抗値を考慮することにより、各地点における流量の分配割合を調節あるいはあらかじめ計算する、という段階を経ることが望ましい。その場合の抵抗の計算において、ハーゲン・ポアズイユの式等を利用することができる。
【0055】
図3は、多数の入口・出口溶液チャンバーを有するエルトリエータ用マイクロ流路システムの概略図である。
【0056】
図3に示すエルトリエータ用マイクロ流路システムは、それぞれ独立に溶液を導入することが可能である3つの入口溶液チャンバー(IC1、IC2、IC3)が流路によって直列に接続された構造と、それぞれ独立に溶液を回収することが可能である3つの出口溶液チャンバー(OC1、OC2,OC3)が流路によって直列に接続された構造を有する。
【0057】
図3に示すエルトリエータ用マイクロ流路システムにおいて、流路(D)を溶液Bで満たした後、OC3に粒子懸濁液である溶液A、OC2に粒子を含まない溶液B、OC1に溶液Aとは異なる組成である溶液Cをそれぞれ導入し、回転操作を行うことで、これらの溶液が流路(D)に順に導入されるため、回転操作を停止することなく、異なる組成の溶液の自動的な導入が可能となる。なお、より回転軸に近い位置に存在する入口溶液チャンバーに、より比重の高い溶液を入れることが望ましく、回転軸から遠い位置に存在する入口溶液チャンバーに、粒子懸濁溶液を導入することが望ましいが、分離目的を達成できれば、密度や組成の異なる溶液を導入しても良く、また、より多数の入口溶液チャンバーが存在していても良い。
【0058】
また、図3に示すエルトリエータ用マイクロ流路システムにおいて、複数の出口溶液チャンバー(OC)が存在するため、流路(D)から排出された溶液を、経時的に異なる出口溶液チャンバー(OC)に保持することが可能となる。つまりこの場合、排出された溶液は、排出された順に、OC3、OC2、OC1の出口溶液チャンバーにおいて保持されるため、それらを回転停止後に独立して回収することが可能である。これらの出口溶液チャンバー(OC)も、目的に応じた個数、あるいは容積のものを用いることができる。
【0059】
図4は、多数の入口・出口溶液チャンバーを有するエルトリエータ用マイクロ流路システムの他の例の概略図である。
【0060】
図4に示すエルトリエータ用マイクロ流路システムは、それぞれ独立に溶液を回収することが可能である3つの出口溶液チャンバー(OC1、OC2,OC3)が流路によって直列に接続された構造を有している。それぞれの出口溶液チャンバーに、一定量以上の溶液が導入されない機構を備えることで、流路(D)から排出された溶液は、上流側の出口溶液チャンバー(OC1)から下流側出口溶液チャンバー(OC3)への順に導入されるため、排出された溶液は、排出された順に、OC1、OC2、OC3の出口溶液チャンバーにおいて保持されるため、それらを回転停止後に独立して回収することが可能である。
【0061】
上記したマイクロ流路システムを用いて、分離を行う対象となる粒子としては、目的に応じて、ポリスチレン等のポリマー粒子、金属微粒子、セラミックス粒子、またはそれらの表面に物理的あるいは化学的な処理を施した粒子を用いることができる他、動植物細胞、細菌、ウイスルやそれらの構成要素であるオルガネラ等の生物粒子を用いることができる。
【0062】
また、粒子懸濁溶液としては、目的に応じて様々な溶液を用いることができ、例えば粒子としてポリマー粒子や金属粒子を用いる場合には、各種化学物質を含む水溶液の他、有機溶媒、イオン性流体等を用いることができる。さらに、粒子として細胞等の生物粒子を用いる場合には、細胞培養液や緩衝液などの細胞と等張の水溶液を用いるのが好ましい。ただし、たとえばバクテリアや植物細胞のような比較的低張あるいは高張溶液に対し耐性をもつ細胞の場合には、必ずしも等張である必要はない。また、操作の都合上、溶液の比重と粒子の比重の差が極端に大きくない系がより好ましく、また、分離対象となる粒子群には、溶液Aの比重よりも比重の小さな粒子が含まれていることが望ましい。
【0063】
また、エルトリエータ用マイクロ流路システムを回転する手段としては、通常の遠心分離装置や電気モータなどを利用することができるが、一定の回転速度を一定時間保持できる装置であればよい。
【0064】
以上に述べたシステム構成および操作により、粒子や細胞の混合物のうち、目的に応じたある粒子や細胞のみを、正確かつ簡便に分離・回収することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態にかかるエルトリエータ用マイクロ流路システムは溶液チャンバー、流路、および分離チャンバー構造を安価な材料、たとえばポリマーを用いて形成することで、装置がディスポーザブルとなり得るため、従来試料間のコンタミネーションを避ける際に必要であった、流路内部の洗浄や殺菌といったプロセスを不要とすることを可能とするシステムとなる。
【実施例】
【0066】
以下、上記実施形態に係るエルトリエータ用マイクロ流路システムについて実際に作製し、粒子分離方法を行なうことで本発明の効果を確認した。以下説明する。
【0067】
(実施例1)
図5は、本実施例に係るマイクロ流路システム図である。図5(a)は、図5(b)におけるB矢視図、図5(b)は図5(a)におけるA0−A1線における断面図、図5(c)は図5(a)における個別の流路(D)と回転軸(RA)の拡大図である。
【0068】
このエルトリエータ用マイクロ流路システムは、微細な溝構造を有する平板状のポリマー基板(PDMS(ポリジメチルシロキサン))と、溝構造を有さない平板状のポリマー基板(PDMS)を上下にボンディングすることにより形成されている。
【0069】
上部のポリマー基板の下面には、流路構造が形成されており、その深さは約20μmである。この値に関しては、分離対象となる粒子の大きさに応じて、最大100mmまでの任意の値の流路構造を採用することが可能であり、また、下部の基板の上面にも同様の加工が施されていても良く、流路構造は部分的に深さが異なっていても良い。
【0070】
またこのエルトリエータ用マイクロ流路システムは、同一の機能を有するマイクロ流路構造を4つ備えている。この個数は、システム1つ当たり1つでも良く、複数であってもよい。また、それぞれの流路構造が、同一の機能を有する構造ではなく、異なるものであっても良い。
【0071】
入口溶液チャンバー(IC)および出口溶液チャンバー(OC)は、それぞれ上部の基板に形成された貫通孔と、下部の基板によって構成されている。またそれぞれ、取り外しの可能な入口シール構造(IS)および出口シール構造(OS)によって部分的に塞がれており、システムの非回転時に、外部からピペット等を用いて溶液の注入あるいは回収が可能となり、また、システムの回転時に、チャンバー内部の溶液が外部に飛散することなく保持されるようになっている。シール構造としては、市販の粘着テープや平らなポリマー基板など、上部の基板に密着するものであれば、様々な材料あるいは形状のものを用いることが可能である。なお、図5に示す構造以外であっても、外部との溶液の交換が可能であり、また、回転時の溶液の飛散を防ぐことができれば、遠心方向に傾いたチャンバー構造、あるいは深さ方向に断面積の異なるチャンバー構造なども採用することができる。
【0072】
このエルトリエータ用マイクロ流路システムにおいて、入口溶液チャンバー(IC)および出口溶液チャンバー(OC)は流路(D)によって接続されており、入口溶液チャンバー(IC)および出口溶液チャンバー(OC)は流路(D)の一部とは定義されない。
【0073】
流路(D)は、入口から出口へと流路をたどった時に、一度外側に向かった後、回転軸に近づくようにターンしており、ターン後の部分において分岐・再合流する分岐流路と、その下流において幅が徐々に拡大し収束する分離チャンバー(DC)を有する。
【0074】
流路(D)の幅は、分離チャンバー(DC)以外の部分は100μmであり、また、分離チャンバー(DC)における最大値は5mmである。これらの値も、流路深さと同様、分離対象となる粒子の性質や粒子の最大処理量に応じて、最大100mmまでの任意の値の流路構造を採用することが可能である。
【0075】
なお、本発明で提案したエルトリエータ用マイクロ流路システムでは、分離チャンバー(DC)の幅、深さ、および長さを変化させることで、分離チャンバー(DC)内に滞留する粒子の粒径および比重の範囲を変化させることができる。そのため、分離対象となる粒子の性質に応じて、デザインの異なる流路構造を採用することが望ましい。
【0076】
また、分岐点BPにおける流量の分配割合の理論値は50%である、つまり、流量は等しく等分され、合流点(CP)において合流するような流路設計となっている。この流量分配の割合は、流量・管径・圧力損失の関係を表したハーゲン・ポアズイユの式などをもとに計算・設定することができ、流路設計時に反映させることで、任意の割合に設定することが可能である。
【0077】
以上の構成において、上記したエルトリエータ用マイクロ流路システムを用いた、粒子の分離の実施例として実施した、粒子径の異なるポリスチレン粒子の分離について説明する。
【0078】
まず、粒子懸濁溶液(溶液A)としては0.5%Tween80水溶液を用い、直径1.0μm、3.0μm、5.0μmのポリスチレン粒子を懸濁させた。
【0079】
流路(D)を溶液B(0.5%Tween80水溶液)で満たした後、入口溶液チャンバー(IC)内の溶液を粒子懸濁液に置換した後に、入口溶液チャンバー(IC)および出口溶液チャンバー(OC)にそれぞれ入口シール構造(IS)および出口シール構造(OC)を取り付け、回転装置(スピンコーター)を用い、1500rpmでシステムの回転操作を行った。なお入口および出口シール構造としては、PDMS製の薄層シート(厚み約0.5mm)を利用した。
【0080】
そして、300秒あるいは900秒ごとに回転を止めると共に、組成の同じあるいは異なる溶液を入口チャンバー(IC)に10μL滴下するとともに、出口溶液チャンバー(OC)に保持された溶液を回収し、回収された溶液を、それぞれフラクション1〜フラクション7と名付けた。ここでフラクション1とは、1回目の回転操作の後に回収された溶液の番号であり、それぞれの回転操作1〜7における溶液と回転時間は、次のような条件である。回転操作1:0.5%Tween80水溶液(比重1.00g/mL)、300秒、回転操作2:0.5%Tween80水溶液、900秒、回転操作3:0.5%Tween80水溶液、900秒、回転操作4:0.5%Tween80水溶液、300秒、回転操作5:0.5%Tween80+2.7%CsCl水溶液(比重1.02g/mL)、300秒、回転操作6:0.5%Tween80+2.7%CsCl水溶液、300秒、回転操作7:0.5%Tween80+5.4%CsCl水溶液(比重1.04g/mL)、900秒。
【0081】
回転操作を行って粒子を分離チャンバー(DC)へと導入したところ、図5に示したエルトリエータ用マイクロ流路システムを用いた場合、分岐流路(DB)には粒子が流れ込まず、合流点(CP)において粒子は流路中心部付近を流れたため、粒子は分離チャンバー(DC)の中央部へと導入されることが確認された。分岐流路(DB)を有さない流路(D)の場合には、粒子は分離チャンバー(DC)へ導入されたものの、その濃度は不均一であり、壁面近傍に堆積する粒子も確認された。
【0082】
また、流路(D)内の溶液が0.5%Tween80水溶液であり、回転数が1500rpmである場合、分離チャンバー(DC)には1.0μmの粒子は滞留せず、3.0μmの粒子は分離チャンバー(DC)の下流部、5.0μmの粒子は分離チャンバー(DC)の上流部に主に滞留することが確認された。
【0083】
図6は、上記の回転操作によって分離された粒子の、フラクション毎の存在割合を示したグラフである。直径1.0μm、3.0μm、5.0μmの粒子は、効率的に分離されていることが確認された。
【0084】
(実施例2)
図7は、本実施例のマイクロ流路システムの図である。図7に示すエルトリエータ用マイクロ流路システムおよび粒子分離方法は、血球分離用に設計・作製されたものであり、図5に示す流路システムと同様、4つの同一の流路(D)を有しており、図5に示す流路システムと比較して、出口溶液チャンバー(OC)がより遠心側に位置している。流路深さ、幅、分離チャンバー(DC)の形状は、図5に示した流路構造と同じである。
【0085】
分離対象となる粒子としては、ヒト血球(赤血球・白血球を含む)を用いた。溶液としては、血液1に対し、0.1%BSAを含むPBS(リン酸緩衝生理食塩水)9を混合した血液希釈液(溶液A)を用いた。
【0086】
まず、流路(D)を0.1%BSAを含むPBS(溶液B)で満たした後、入口溶液チャンバー(IC)内に残存する溶液Bを上記の血液希釈液(溶液A)と置換した。
【0087】
システムを1500rpmで300秒回転したところ、赤血球、白血球とも分離チャンバー(DC)に導入されたことが確認されたため、入口溶液チャンバー(IC)に溶液Bを更に滴下し、1500rpmで900秒回転操作を行ったところ、白血球のみが選択的に分離チャンバー(DC)内に滞留することが確認され、赤血球と白血球の分離が達成された。更に、分離チャンバー(DC)において、サイズの小さい白血球は下流側に、サイズの大きい白血球は上流側にそれぞれ滞留することも観察された。また、溶液の比重を段階的に高めることで、滞留した白血球を出口溶液チャンバー(OC)へと排出することも可能であった。
【0088】
なお、図5に示したエルトリエータ用マイクロ流路システムを利用したポリスチレン微粒子の分離および、図7に示したエルトリエータ用マイクロ流路システムを利用した血球分離において、回転数を変化させて同様の実験を行ったところ、500〜5000rpmの範囲において、粒子が分離チャンバー(DC)内に滞留する位置にはほとんど変化は見られなかった。これは、分離チャンバー(DC)内における流れの流速と、遠心力による粒子の移動速度は、ともにシステムの回転数に比例するため、それらの効果が打ち消し合ったためであると考えられる。つまり、本発明によるエルトリエータ用マイクロ流路システムを利用した粒子分離方法は、回転数の影響を受けにくいため、信頼性の高い分離操作を容易に可能にするものと考えられる。
【0089】
さらに、図5に示したエルトリエータ用マイクロ流路システムを利用したポリスチレン微粒子の分離および、図7に示したエルトリエータ用マイクロ流路システムを利用した血球分離において、溶液の粘度を変化させて同様の実験を行ったところ、溶液の粘度が1cP〜20cPの範囲において、粒子が分離チャンバー(DC)内に滞留する位置にはほとんど変化は見られなかった。これは、分離チャンバー(DC)内における流れの流速と、遠心力による粒子の移動速度は、ともに溶液の粘度に反比例するため、それらの効果が打ち消し合ったためであると考えられる。つまり、本発明によるエルトリエータ用マイクロ流路システムを利用した粒子分離方法は、溶液の粘度の影響を受けにくく、粒子の挙動は溶液の比重によってほぼ決定されるため、信頼性の高い分離操作を容易に可能にするものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、以上説明したように構成されているため、既存のエルトリエータシステムにおいて必要となる、外部におけるポンプ等を利用して、回転するチャンバー部に連続的に送液を行うための複雑な装置が不必要となり、装置価格の大幅な低下に寄与できるものと考えられる。
【0091】
また、本発明は、以上説明したように構成されているため、システム全体を安価なポリマー材料等によって形成可能であり、ディスポーザブルな装置を提供することが可能となる。そのため、診断医療や再生医療、生化学や細胞生物学などの研究分野等において、簡便に利用することのできる有用な細胞分離装置を提供できるものと考えられる。ディスポーザブルな装置を提供することで、通常のエルトリエータ装置では必須である、装置の洗浄操作が不要となるほか、サンプル間でのクロスコンタミネーションを防ぐことが可能である。
【0092】
さらに、本発明は、以上説明したように構成されているため、サンプル量(粒子の個数あるいは粒子懸濁液の容量)がわずかであっても、サンプルをロスすることなく、効率的に粒子を分離し回収することが可能となるため、貴重な細胞等の粒子を分離する上で非常に効率的である。
【0093】
さらに、本発明は、以上説明したように構成されており、一度の回転操作によって自動的な溶液組成の変化を可能とするため、装置・操作の自動化が非常に容易なシステムの提供を可能とする、という優れた効果を発揮すると期待される。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径がRμm(Rは1000以下)である粒子を分離するための、ポリマー、ガラス、あるいは金属材料によって形成され、任意の回転装置によって特定の回転軸(RA)に対して回転操作を行うことができるエルトリエータ用マイクロ流路システムであり、そのシステムにおいて、
(1)入口(DP)と出口(DR)を連結する内径1.5Rμm〜100mmの流路(D)が存在し、
(2)前記入口(DP)と回転軸(RA)との直線距離は、前記出口(DR)と前記回転軸(RA)との直線距離に比べ短くなるように構成されており、
(3)前記流路(D)は、前記流路(D)を前記入口(DP)から前記出口(DR)へとたどった場合に前記回転軸(RA)からの直線距離が徐々に短くなる部分(DS)を少なくとも1箇所有しており、
(4)前記流路(D)は、前記入口(DP)を介して、エルトリエータ用マイクロ流路システムの静止時および回転時に液体を内部に保持することを可能とする入口溶液チャンバー(IC)と接続されており、
(5)前記流路(D)は、分離チャンバー(DC)を部分(DS)に有しており、
(6)エルトリエータ用マイクロ流路システム全体を回転軸(RA)に対して回転することにより、前記粒子は溶液A(組成a)と共に前記流路(D)に導入され、前記分離チャンバー(DC)内において、前記粒子は大きさおよび比重の差に応じて異なる位置に滞留するため、あるいは前記粒子の少なくとも一部は滞留することができないため、前記粒子は分離されるエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項2】
前記流路(D)は、前記出口(DR)を介して、静止時および回転時に液体を内部に保持することが可能である出口溶液チャンバー(OC)と接続される請求項1に記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項3】
前記分離チャンバー(DC)は、前記流路(D)の下流に行くに従い、少なくとも部分的に、徐々にあるいは段階的にその断面積Sが増加している請求項1又は2に記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項4】
前記流路(D)は、前記入口(DP)および前記分離チャンバー(DC)によって挟まれた区間において分岐点BPにおいて分岐し合流点CPにおいて再合流する分岐流路(DB)を少なくとも一本有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項5】
前記入口溶液チャンバー(IC)は、個別に溶液を導入できる複数の前記入口溶液チャンバーが並列あるいは直列に接続された構造である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項6】
前記出口溶液チャンバー(OC)は、前記出口(DR)から排出された溶液を個別に回収できる複数の前記出口溶液チャンバーが並列あるいは直列に接続された構造である請求項2乃至5のいずれか1項に記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項7】
前記流路(D)に導入される溶液の比重が、段階的にあるいは徐々に増加することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項8】
前記流路(D)、および前記分離チャンバー(DC)は、平板状基板の表面に加工された溝状の構造と、他の平板状基板を貼り合わせることで作製されている請求項1乃至7のいずれか1項に記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項9】
分離対象である粒子は、細胞、ウイルス、バクテリア、オルガネラ等の生体粒子である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項記載のエルトリエータ用マイクロ流路システムを利用する、粒子分離方法。
【請求項11】
基板に流路が形成され、回転軸を中心に回転可能なエルトリエータ用マイクロ流路システムであって、
前記流路は、入口、出口、前記入口に接続される入口溶液チャンバー、及び、前記入口と前記出口の間に形成される分離チャンバーを有し、
前記入口と前記回転軸の間の距離は、前記出口と前記回転軸の間の距離よりも短く、前記分離チャンバーの入口と前記回転軸との間の距離は、前記分離チャンバーの出口と前記回転軸との間の距離よりも長いエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項12】
前記出口に接続される出口溶液チャンバーを有する請求項11記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項13】
前記分離チャンバーの断面積は、前記分離チャンバーの入口から前記分離チャンバーの出口に向かうに従い、徐々にあるいは段階的に断面積が増加している請求項11記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項14】
前記流路は、前記入口及び前記分離チャンバー入口の間に、流路が分岐する分岐点及び前記分岐点により分岐された流路が合流する合流点を有する請求項11記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項15】
直列又は並列に接続された複数の入口溶液チャンバーを有する請求項11記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項16】
直列又は並列に接続された複数の出口溶液チャンバーを有する請求項11記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。
【請求項17】
前記流路形状に対応した溝が形成された基板と、平板上の基板とを張り合わせることにより形成される請求項11記載のエルトリエータ用マイクロ流路システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−76017(P2012−76017A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223564(P2010−223564)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 化学工学会、第42回秋季大会 研究発表講演要旨集、平成22年8月6日発行
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】