説明

エレクトレットシート

【課題】 本発明は、高い圧電性を有するエレクトレットシートを提供する。
【解決手段】 本発明のエレクトレットシートは、合成樹脂とシリカ粒子とを含む合成樹脂シートに電荷を注入して上記合成樹脂シートを帯電させているので、エレクトレットシートに外力が加わると、合成樹脂粒子とシリカ粒子との界面にたまった正電荷と負電荷とが相対変位を生じ、この相対変位に伴って良好な電気応答を生じ、エレクトレットシートは優れた圧電性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた圧電性を有するエレクトレットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットは絶縁性の高分子材料に電荷を注入することにより、内部に帯電を付与した材料である。エレクトレットは繊維状に成形して集塵フィルターなどとして広く用いられている。
【0003】
又、合成樹脂シートはこれを帯電させることによってセラミックスに匹敵する非常に高い圧電性を示すことが知られている。このような合成樹脂シートを用いたエレクトレットは、その優れた感度を利用して音響ピックアップや各種圧力センサーなどへの応用が提案されている。
【0004】
エレクトレットシートとして、特許文献1には、塩素化ポリオレフィンが付与されているシートであって、かつ、該シートが1×10-10クーロン/cm2以上の表面電荷密度を有するエレクトレットシートが開示されているが、エレクトレットシートの圧電性が低いという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−284063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い圧電性を有するエレクトレットシートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレクトレットシートは、合成樹脂とシリカ粒子とを含む合成樹脂シートに電荷を注入して上記合成樹脂シートを帯電させてなることを特徴とする。
【0008】
上記合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ−4−メチルペンテン、エチレン−プロピレンゴムなどのポリオレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリシクロオレフィン系樹脂、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などのジエン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレンなどの塩素系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ化エチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体などのフッ素系樹脂、ポリシアン化ビニル、ポリシアン化ビニリデンなどのシアノ系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸樹脂などのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11などのポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられ、吸湿性が低くて絶縁性に優れており電荷保持力が高いことから、ポリオレフィン系樹脂を含有していることが好ましく、絶縁性、柔軟性及び電荷保持性が優れており、エレクトレットシートが優れた圧電性を有することから、ポリプロピレン系樹脂を含有していることがより好ましい。なお、合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0009】
合成樹脂は絶縁性に優れていることが好ましく、合成樹脂としては、JIS K6911に準拠して印可電圧500Vにて電圧印可1分後の体積固有抵抗値(以下、単に「体積固有抵抗値」という)が1.0×1010Ω・m以上である合成樹脂が好ましい。
【0010】
合成樹脂の上記体積固有抵抗値は、エレクトレットシートがより優れた圧電性を有することから、1.0×1013Ω・m以上が好ましく、1.0×1015Ω・m以上がより好ましい。
【0011】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体、又は、エチレン成分を50重量%を超えて含有するエチレンと少なくとも1種のエチレン以外の炭素数が3〜20のα―オレフィンとの共重合体を挙げることができる。エチレン単独重合体としては、高圧下でラジカル重合させた低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中低圧で触媒存在下で重合させた中低圧法高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)などを挙げることができる。エチレンとα―オレフィンを共重合させることで直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)を得ることができ、上記α―オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられ、炭素数が4〜10のα−オレフィンが好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレン中におけるα−オレフィンの含有量は通常、1〜15重量%である。
【0012】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分を50重量%を超えて含有しておれば、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数3〜20のオレフィンとの共重合体などが挙げられる。なお、ポリプロピレン系樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数3〜20のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0013】
なお、プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。
【0014】
合成樹脂がポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とを含有する場合、合成樹脂中におけるポリエチレン系樹脂の含有量は、多すぎると、エレクトレットシートの圧電性が低下することがあるので、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。又、合成樹脂としてポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とを併用する場合、合成樹脂中におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は、少なすぎると、エレクトレットシートの圧電性が低下することがあるので、50重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましい。
【0015】
ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、小さいと、エレクトレットシートの電荷の保持性が低下してエレクトレットシートの性能が長期間に亘って安定的に維持されないことがあるので、150MPa以上が好ましく、150〜3000MPaがより好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定された値をいう。
【0016】
ポリシクロオレフィン系樹脂としては、シクロアルケンの単独重合体又は共重合体が挙げられる。シクロアルケンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセンなどが挙げられる。ポリシクロオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリシクロブテン、ポリシクロペンテン、ポリシクロヘキセン、ポリシクロオクテン、ポリ3−メチルシクロペンテン、ポリ4−メチルシクロペンテン、ポリ3−メチルシクロヘキセンなどが挙げられる。
【0017】
ジエン系樹脂としては、ジエン系モノマーの単独重合体又は共重合体が挙げられる。ジエン系モノマーとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、クロロプレンなどの共役ジエン化合物が挙げられる。ジエン系樹脂としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリペンタジエン、ポリヘキサジエン、ポリジシクロペンタジエンなどを挙げることができる。ジエン系モノマーには、エチレンとプロピレンと上記ジエン系モノマーとの共重合体も含まれる。
【0018】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素添加物、ノルボルネン系モノマーとα−オレフィンとの付加型重合体、ノルボルネン系モノマー同士の付加重合体、及び、これらの誘導体などが挙げられる。ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。ノルボルネン系モノマーと付加重合するα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる 。
【0019】
エレクトレットシートにはシリカ粒子が含有されている。このシリカ粒子と合成樹脂との界面に電荷がたまりやすく、シリカ粒子と合成樹脂との界面に電荷が見掛け上、正電荷と負電荷に分極した状態でたまっている。そして、シリカ粒子と合成樹脂との界面に、分極した状態でたまっている正電荷と負電荷が相対に変動することによって電気応答を生じ、エレクトレットシートは優れた圧電性を発揮する。更に、シリカ粒子と合成樹脂との界面にたまった電荷は、エレクトレットシートを高温条件下にて使用した場合にも放電しにくく、エレクトレットシートは、高温条件下でも優れた圧電性を維持する。
【0020】
シリカ粒子としては、特に限定されず、例えば、超微粒子状シリカ、中空シリカ粒子などが挙げられる。超微粒子状シリカは内部が中実になっており、超微粒子状シリカとしては、例えば、ホワイトカーボン(珪酸ナトリウムから湿式法により製造される)、超微粒子状無水シリカ(ハロゲン化ケイ素から乾式法により製造される)、フュームドシリカ、シリカゲルなどが挙げられる。なお、シリカ粒子は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0021】
シリカ粒子として中空シリカ粒子を用いた場合、上述したように、合成樹脂とシリカ粒子との界面の他に、中空シリカ粒子内の空隙部に存在する空気と中空シリカ粒子との界面にも電荷を見掛け上、正電荷と負電荷に分極した状態でためることができる。更に、中空シリカ粒子内部の空気をイオン化することによって、電荷を見掛け上、正電荷と負電荷に分極した状態でためることができる。又、中空シリカ粒子の内部に存在する空気によって合成樹脂シートの絶縁性を高めることができる。よって、シリカ粒子として中空シリカ粒子を用いることによって、エレクトレットシート中に、見かけ上、分極した状態に存在する正電荷と負電荷を多く存在させることができ、これらの正電荷と負電荷が相対に変動することによって電気応答を生じ、エレクトレットシートはより優れた圧電性を発揮する。
【0022】
シリカ粒子が水分を含んでいると、合成樹脂シートの絶縁性が低下してエレクトレットシートの圧電性が低下する虞れがある。従って、シリカ粒子の含水率は0.1重量%以下であることが好ましく、0.08重量%以下がより好ましく、0.06重量%以下が特に好ましい。なお、シリカ粒子中の含水率は下記の要領で測定される。先ず、使用するシリカ粒子W1(g)を用意する。シリカ粒子を200℃に2時間に亘って加熱、保持した後のシリカ粒子の重量W2(g)を測定する。シリカ粒子の重量W1と重量W2との差をシリカ粒子に含有されていた水分量であるとして、下記式によってシリカ粒子の含水率を算出する。
シリカ粒子の含水率=100×(W1−W2)/W1
【0023】
シリカ粒子の含水率を低下させる方法としては、特に限定されず、例えば、シリカ粒子を常圧又は真空度1000〜95000Paで且つ80〜250℃の条件下にて1〜50時間に亘って加熱保持する方法などが挙げられ、好ましくは、シリカ粒子を常圧又は真空度1000〜95000Paで且つ80〜110℃の条件下にて1〜10時間に亘って加熱保持した後に、シリカ粒子を常圧又は真空度1000〜95000Paで且つ115〜250℃の条件下にて1〜50時間に亘って加熱保持する方法が挙げられる。
【0024】
シリカ粒子の平均一次粒子径は、小さいと、シリカ粒子が凝集し易くなり、合成樹脂中に均一に分散させることが困難となり、シリカ粒子と合成樹脂との界面に保持できる電荷量が低下して、エレクトレットシートの圧電性が低下することがある一方、大きいと、シリカ粒子と合成樹脂との界面に保持できる電荷量が低下して、エレクトレットシートの圧電性が低下することがあるので、5nm〜1μmが好ましく、10nm〜0.5μmがより好ましい。なお、シリカ粒子の平均一次粒子径は下記の要領で測定された値をいう。先ず、シリカ粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影し、得られた写真からシリカ粒子を任意に50個選定する。各シリカ粒子において、写真上に表れたシリカ粒子を包囲し得る最小径の真円の直径をシリカ粒子の粒子径とする。各シリカ粒子の粒子径の相加平均値をシリカ粒子の平均一次粒子径とする。
【0025】
中空シリカ粒子の殻の厚みは、小さいと、シリカ粒子と合成樹脂との界面に保持できる電荷が不安定となり、十分な電荷を保持できず、エレクトレットシートの圧電性が低下することがあり、大きいと、シリカ粒子と合成樹脂との界面に保持できる電荷量が低下して、エレクトレットシートの圧電性が低下することがあるので、2〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましい。なお、中空シリカ粒子の殻の厚みは、殻部分を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察することによって測定された値をいう。
【0026】
合成樹脂中におけるシリカ粒子の分散性を向上させて、シリカ粒子と合成樹脂との界面の面積を増加させてエレクトレットシートの圧電性を向上させるために、シリカ粒子に表面処理を施してもよい。このような表面処理方法としては、例えば、シランカップリング剤などの有機シリカ化合物でシリカ粒子の表面を表面処理する方法が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ基、アミノ基、グリシジル基、メタクリロキシ基及びメルカプト基からなる群より選ばれた1種又は2種以上の官能基を有するシランカップリング剤が好適に用いられ、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられ、単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0027】
合成樹脂シート中におけるシリカ粒子の含有量は、少ないと、エレクトレットシートの圧電性が低下し、多いと、エレクトレットシートの機械的強度が低下し或いはエレクトレットシートの成形性が低下する虞れがあるので、合成樹脂100重量部に対して0.05〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。
【0028】
なお、合成樹脂シートには、その物性を損なわない範囲内において、酸化防止剤、金属害防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、ブロッキング防止剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0029】
そして、合成樹脂シートは、合成樹脂非発泡シートであっても合成樹脂発泡シートであってもよい。又、合成樹脂シートは、汎用の要領で一軸延伸又は二軸延伸されていてもよい。
【0030】
合成樹脂非発泡シートの製造方法としては、例えば、(1)合成樹脂及びシリカ粒子を含む合成樹脂組成物を押出機に供給して溶融混練し押出機に取り付けたTダイからシート状に押出して合成樹脂非発泡シートを製造する方法、(2)合成樹脂及びシリカ粒子を含む合成樹脂組成物を押出機に供給して溶融混練し押出機に取り付けたサーキュラダイから円筒状体を押出し、この円筒状体を押出方向に連続的に内外周面間に亘って切断して円筒状体を展開し合成樹脂非発泡シートを製造する方法が挙げられる。
【0031】
又、合成樹脂発泡シートの製造方法としては、合成樹脂、シリカ粒子、及び、熱分解型発泡剤を含む合成樹脂組成物を押出機に供給して熱分解型発泡剤の分解温度未満の温度にて溶融混練し押出機に取り付けたTダイから発泡性樹脂シートを押出し、この発泡性樹脂シートを必要に応じて架橋した上で、発泡性樹脂シートを熱分解型発泡剤の分解温度以上に加熱して発泡させて合成樹脂発泡シートを製造する方法が挙げられる。なお、熱分解型発泡剤としては、分解によってガスを発生させればよく、例えば、アゾジカルボンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などが挙げられる。
【0032】
合成樹脂シートの厚みは、薄いと、エレクトレットシートの強度が不十分となることがあり、厚いと、エレクトレットシートの取扱い性が低下することがあるので、10〜3000μmが好ましい。
【0033】
上記合成樹脂シートに汎用の要領で電荷を注入することによって合成樹脂シートを帯電させてエレクトレットシートを製造することができる。合成樹脂シートに電荷を注入する方法としては、特に限定されず、例えば、(1)合成樹脂シートを一対の平板電極で挟持し、一方の平板電極をアースすると共に他方の平板電極を高圧直流電源に接続して、合成樹脂シートに直流又はパルス状の高電圧を印加して合成樹脂に電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させる方法、(2)電子線、X線などの電離性放射線や紫外線を合成樹脂シートに照射して、合成樹脂シートの近傍部の空気分子をイオン化することによって合成樹脂に電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させる方法、(3)合成樹脂シートの一面にアースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、合成樹脂シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極又はワイヤー電極を配設し、針状電極の先端又はワイヤー電極の表面近傍への電界集中によりコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極又はワイヤー電極の極性により発生した空気イオンを反発させて合成樹脂に電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させる方法などが挙げられる。上記方法の中で合成樹脂シートに容易に電荷を注入することができるので、上記(2)(3)の方法が好ましく、上記(3)の方法がより好ましい。
【0034】
上記(1)(3)の方法において、合成樹脂シートに印加する電圧の絶対値は、小さいと、合成樹脂シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあり、大きいと、アーク放電してしまい、却って、合成樹脂シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあるので、3〜100kVが好ましく、5〜50kVより好ましい。
【0035】
上記(2)の方法において、合成樹脂シートに照射する電離性放射線の加速電圧の絶対値は、小さいと、空気中の分子を十分に電離することができず、合成樹脂シートに十分な電荷を注入することができず、圧電性の高いエレクトレットシートを得ることができないことがあり、多いと、電離性放射線が空気を透過するので、空気中の分子を電離させることができないことがあるので、5〜15kVが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明のエレクトレットシートは、上述の如き構成を有しており、エレクトレットシートに外力が加わると、合成樹脂粒子とシリカ粒子との界面にたまった正電荷と負電荷とが相対変位を生じ、この相対変位に伴って良好な電気応答を生じ、エレクトレットシートは優れた圧電性を有している。
【0037】
上記エレクトレットシートにおいて、シリカ粒子の含水率が0.1重量%以下である場合には、エレクトレットシート中に含有される水分量を減少させてエレクトレットシートを構成している合成樹脂の絶縁性を向上させることができ、エレクトレットシート中に注入した電荷の放電を抑制することができる。従って、エレクトレットシートは優れた圧電性をより安定的に長期間に亘って保持することができる。
【0038】
上記エレクトレットシートにおいて、シリカ粒子が中空シリカ粒子である場合には、中空シリカ粒子内の空隙部とシリカ粒子の内周面との界面にも、正電荷と負電荷が見かけ上、分極した状態でたまっていると共に、中空シリカ粒子内部の空気をイオン化することによって、電荷を見掛け上、正電荷と負電荷に分極した状態でためることができ、更に、中空シリカ粒子の内部に存在する空気によって合成樹脂シートの絶縁性を高めることができるので、エレクトレットシート中に、見かけ上、分極した状態に存在する正電荷と負電荷を多く且つ安定的に存在させることができ、エレクトレットシートはより優れた圧電性を発揮する。
【0039】
上記エレクトレットシートにおいて、合成樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合には、ポリオレフィン系樹脂は、吸湿性が低くて絶縁性に優れており電荷保持力が高いことから、エレクトレットシートはより優れた圧電性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1〜8、比較例1,2)
表1に示した所定量のホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製 商品名「ノバテックPP EA9」、曲げ弾性率:1800MPa、メルトフローレイト:0.5g/10分)、直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー社製 商品名「モアテック0138N」、曲げ弾性率:密度0.917kg/m3、メルトフローレイト:1.3g/10分)、中空シリカ粒子A、中空シリカ粒子B、中空シリカC、超微粒子状シリカ及び酸化防止剤としてテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンを押出機に供給して溶融混練してTダイからシート状に押出して厚みが100μmの合成樹脂シートを製造した。
【0042】
中空シリカ粒子Aは、中空シリカ粒子(日本鉱業社製 商品名「シリナックス」、平均一次粒子径:100nm、殻の厚み:10nm)を常圧、25℃、相対湿度65%の条件下にて2カ月に亘って放置したものである。中空シリカ粒子Aの含水率は0.8重量%であった。
【0043】
中空シリカ粒子Bは、中空シリカ粒子(日本鉱業社製 商品名「シリナックス」、平均一次粒子径:100nm、殻の厚み:10nm)を80℃、真空度700mmHg(9.33×104Pa)の条件下にて2時間放置したものである。中空シリカ粒子Bの含水率は0.1重量%であった。
【0044】
中空シリカ粒子Cは、中空シリカ粒子(日鉄鉱業社製 商品名「シリナックス」、平均一次粒子径:100nm、殻の厚み:10nm)を80℃、真空度700mmHg(9.33×104Pa)の条件下にて2時間放置した後、120℃、真空度700mmHg(9.33×104Pa)の条件下にて5時間放置したものである。中空シリカ粒子Cの含水率は0.06重量%であった。
【0045】
超微粒子状シリカ(アドマテックス社製 平均一次粒子径10nm)は、常圧、25℃、相対湿度65%の条件下にて1週間放置したものである。超微粒子状シリカの含水率は1.2重量%であった。
【0046】
得られた合成樹脂シートの一面にアースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、合成樹脂シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設し、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧−10kV、放電距離10mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させて合成樹脂シートに電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させた。その後、電荷を注入した合成樹脂シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で3時間に亘って保持することで合成樹脂シート表面に存在する静電気を除去してエレクトレットシートを得た。
【0047】
得られたエレクトレットシートの圧電定数d33を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0048】
(圧電定数d33)
エレクトレットシートから一辺が10mmの平面正方形状の試験片を切り出し、試験片の両面に金蒸着を施して試験体を作製した。
【0049】
試験体に加振機を用いて荷重Fが2N、動的荷重が±0.25N、周波数が110Hzの条件下にて押圧力を加え、その時に発生する電荷Q(クーロン)を計測した。電荷Q(クーロン)を荷重F(N)で除することによって圧電定数d33を算出した。なお、圧電定数dijはj方向の荷重、i方向の電荷を意味し、d33はエレクトレットシートの厚み方向の荷重及び厚み方向の電荷となる。
【0050】
製造直後のエレクトレットシートの圧電定数d33を測定し、初期圧電定数d33とした。
【0051】
エレクトレットシートをアルミニウム箔で包み込んだ状態で50℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽内に1週間に亘って放置した後、エレクトレットシートを23℃、相対湿度30%の恒温恒湿槽内に24時間に亘って放置した。このエレクトレットシートの圧電定数d33を測定し、耐久圧電定数d33とした。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂とシリカ粒子とを含む合成樹脂シートに電荷を注入して上記合成樹脂シートを帯電させてなることを特徴とするエレクトレットシート。
【請求項2】
シリカ粒子の含水率が0.1重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットシート。
【請求項3】
シリカ粒子が中空シリカ粒子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットシート。
【請求項4】
合成樹脂100重量部に対してシリカ粒子0.05〜10重量部を含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のエレクトレットシート。
【請求項5】
コロナ放電処理によって電荷を注入してなることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のエレクトレットシート。
【請求項6】
合成樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のエレクトレットシート。
【請求項7】
ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂を含有していることを特徴とする請求項6に記載のエレクトレットシート。

【公開番号】特開2013−75945(P2013−75945A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215247(P2011−215247)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】