説明

エレクトレットシート

【課題】高温下での使用にあっても高い圧電性を保持するエレクトレットシートの提供。
【解決手段】融解開始温度が90℃以上であるポリオレフィン系樹脂を60重量%以上含む合成樹脂シートに電荷を注入して上記合成樹脂シートを帯電させてなるエレクトレットシートで、高温下にてポリオレフィン系樹脂の結晶部の流動に起因する電荷の放電を防止しており、よって、高温下の使用においても経時的に圧電性が低下することはなく、長期間に亘って優れた圧電性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた圧電性を有するエレクトレットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットは絶縁性の高分子材料に電荷を注入することにより、内部に帯電を付与した材料である。エレクトレットは繊維状に成形して集塵フィルターなどとして広く用いられている。
【0003】
又、合成樹脂シートはこれを帯電させることによってセラミックスに匹敵する非常に高い圧電性を示すことが知られている。このような合成樹脂シートを用いたエレクトレットは、その優れた感度を利用して音響ピックアップや各種圧力センサーなどへの応用が提案されている。
【0004】
エレクトレットシートとして、特許文献1には、塩素化ポリオレフィンが付与されているシートであって、かつ、該シートが1×10-10クーロン/cm2以上の表面電荷密度を有するエレクトレットシートが開示されている。
【0005】
しかしながら、上記エレクトレットシートは、高温下にて使用すると経時的に圧電性が低下するという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−284063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高温下での使用にあっても高い圧電性を保持するエレクトレットシートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエレクトレットシートは、融解開始温度が90℃以上で且つ結晶化エネルギーが3mJ/mg以上であるポリオレフィン系樹脂を60重量%以上含む合成樹脂シートに電荷を注入して上記合成樹脂シートを帯電させてなることを特徴とする。
【0009】
本発明のエレクトレットシートにおいては、吸湿性が低くて絶縁性に優れており電荷保持力が高いことから、ポリオレフィン系樹脂を用いている。更に、ポリオレフィン系樹脂としては、高温下での使用であってもエレクトレットシートが高い圧電性を保持するので、ポリプロピレン系樹脂を含有していることが好ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0010】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分を50重量%を超えて含有しておれば、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数2〜20のオレフィンとの共重合体などが挙げられる。なお、ポリプロピレン系樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数3〜20のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0011】
なお、プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。
【0012】
ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、小さいと、エレクトレットシートの電荷の保持性が低下してエレクトレットシートの性能が長期間に亘って安定的に維持されないことがあるので、150MPa以上が好ましく、150〜3000MPaがより好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定された値をいう。
【0013】
エレクトレットシートは、後述するように、合成樹脂シートに電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させてなるものであるが、従来のエレクトレットシートを高温下にて使用すると経時的に圧電性が低下するという問題点を有しており、この原因を鋭意検討したところ、融解開始温度が90℃以上のポリオレフィン系樹脂を用いることによって、高温下にて使用しても経時的に圧電性が殆ど低下しないことを見出したものである。これは、ポリオレフィン樹脂の結晶部が融解することに伴う流動に起因して合成樹脂シートに注入した電荷が放電する現象を抑制できるためと考えられる。
【0014】
ポリオレフィン系樹脂の融解開始温度は、低いと、高温下で使用した場合にポリオレフィン系樹脂の結晶部の流動が起こり、この流動が放電の原因となってエレクトレットシートの圧電性が低下するので、90℃以上に限定され、高すぎると、合成樹脂シートに電荷を注入する工程において、合成樹脂シートに十分に電荷を注入することができないことがあるので、90〜155℃が好ましく、100〜155℃がより好ましく、120〜155℃が特に好ましい。
【0015】
なお、ポリオレフィン系樹脂の融解開始温度は、JIS K7121に準拠して測定した温度をいう。具体的には、ポリオレフィン系樹脂からなる約5mgの試験片を23℃、相対湿度50%の環境下に24時間に亘って放置した。次に、上記試験片について、窒素ガスの流量を毎分10ミリリットルとし、23℃から200℃まで加熱速度10℃/分で昇温した後、200℃にて10分間保持し、続いて、200℃から−20℃まで冷却速度10℃/分で冷却した後、−20℃で10分間保持し、続いて、−20℃から220℃まで加熱速度10℃/分で昇温してDSC(示差走査熱量分析)曲線を測定し、このDSC曲線に基づいて補外融解開始温度を得、この補外融解開始温度をポリオレフィン系樹脂の融解開始温度とした。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂が二種類のポリオレフィン系樹脂を含有する場合、融解開始温度が90℃以上であるポリオレフィン系樹脂を60重量%以上、即ち、60〜100重量%含有している必要がある。これは、融解開始温度が90℃以上であるポリオレフィン系樹脂を60重量%以上含有していないと、エレクトレットシートを高温下で使用した場合に、エレクトレットシートの圧電性が低下するからである。
【0017】
なお、ポリオレフィン系樹脂の融解開始温度は、ポリオレフィン系樹脂が共重合体である場合には、共重合させるプロピレン以外の炭素数2〜20のオレフィンの種類又は含有量、共重合の形態、ポリオレフィン系樹脂の合成に用いる触媒の種類又は使用量、ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量、ポリオレフィン系樹脂の分子量分布などを調整することによって制御することができる。
【0018】
合成樹脂シートには、その物性を損なわない範囲内において、酸化防止剤、金属害防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、ブロッキング防止剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0019】
そして、合成樹脂シートは、合成樹脂非発泡シートであっても合成樹脂発泡シートであってもよい。又、合成樹脂シートは、汎用の要領で一軸延伸又は二軸延伸されていてもよい。
【0020】
合成樹脂非発泡シートの製造方法としては、例えば、(1)ポリオレフィン系樹脂を押出機に供給して溶融混練し押出機に取り付けたTダイからシート状に押出して合成樹脂非発泡シートを製造する方法、(2)ポリオレフィン系樹脂を押出機に供給して溶融混練し押出機に取り付けたサーキュラダイから円筒状体を押出し、この円筒状体を押出方向に連続的に内外周面間に亘って切断して円筒状体を展開し合成樹脂非発泡シートを製造する方法が挙げられる。
【0021】
又、合成樹脂発泡シートの製造方法としては、ポリオレフィン系樹脂及び熱分解型発泡剤を押出機に供給して熱分解型発泡剤の分解温度未満の温度にて溶融混練し押出機に取り付けたTダイから発泡性樹脂シートを押出し、この発泡性樹脂シートを必要に応じて架橋した上で、発泡性樹脂シートを熱分解型発泡剤の分解温度以上に加熱して発泡させて合成樹脂発泡シートを製造する方法が挙げられる。なお、熱分解型発泡剤としては、分解によってガスを発生させればよく、例えば、アゾジカルボンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などが挙げられる。
【0022】
合成樹脂シートの厚みは、薄いと、エレクトレットシートの強度が低下することがあり、厚いと、エレクトレットシートの取扱い性が低下することがあるので、10〜3000μmが好ましい。
【0023】
上記合成樹脂シートに汎用の要領で電荷を注入することによって合成樹脂シートを帯電させてエレクトレットシートを製造することができる。合成樹脂シートに電荷を注入する方法としては、特に限定されず、例えば、(1)合成樹脂シートを一対の平板電極で挟持し、一方の平板電極をアースすると共に他方の平板電極を高圧直流電源に接続して、合成樹脂シートに直流又はパルス状の高電圧を印加して合成樹脂に電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させる方法、(2)電子線、X線などの電離性放射線や紫外線を合成樹脂シートに照射して、合成樹脂シートの近傍部の空気分子をイオン化することによって合成樹脂に電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させる方法、(3)合成樹脂シートの一面にアースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、合成樹脂シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極又はワイヤー電極を配設し、針状電極の先端又はワイヤー電極の表面近傍への電界集中によりコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極又はワイヤー電極の極性により発生した空気イオンを反発させて合成樹脂に電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させる方法などが挙げられる。上記方法の中で合成樹脂シートに容易に電荷を注入することができるので、上記(2)(3)の方法が好ましく、上記(3)の方法がより好ましい。
【0024】
上記(1)(3)の方法において、合成樹脂シートに印加する電圧の絶対値は、小さいと、合成樹脂シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあり、大きいと、アーク放電してしまい、却って、合成樹脂シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあるので、3〜100kVが好ましく、5〜50kVより好ましい。
【0025】
上記(2)の方法において、合成樹脂シートに照射する電離性放射線の加速電圧の絶対値は、小さいと、空気中の分子を十分に電離することができず、合成樹脂シートに十分な電荷を注入することができず、圧電性の高いエレクトレットシートを得ることができないことがあり、多いと、電離性放射線が空気を透過するので、空気中の分子を電離させることができないことがあるので、5〜15kVが好ましい。
【0026】
そして、得られたエレクトレットシートは、このエレクトレットシートに外力が加わると、合成樹脂シートに注入されて見かけ上、分極した状態でためられた正電荷と負電荷とが相対変位を生じ、この相対変位に伴って良好な電気応答を生じ、エレクトレットシートは優れた圧電性を有している。
【発明の効果】
【0027】
本発明のエレクトレットシートは、融解開始温度が90℃以上であるポリオレフィン系樹脂を60重量%以上含む合成樹脂シートに電荷を注入して上記合成樹脂シートを帯電させてなるので、高温下にてポリオレフィン系樹脂の結晶部の流動に起因する電荷の放電を防止しており、よって、本発明のエレクトレットシートは、高温下の使用においても経時的に圧電性が低下することはなく、長期間に亘って優れた圧電性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1〜9、比較例1〜5)
表1に示した所定量のホモポリプロピレンA(融解開始温度:137℃、曲げ弾性率:1800MPa)、ホモポリプロピレンB(融解開始温度:152℃、曲げ弾性率:1800MPa)、プロピレン−エチレンランダム共重合体A(プロピレン成分:4.5重量%以下、融解開始温度:103℃、曲げ弾性率:850MPa)、プロピレン−エチレンランダム共重合体B(プロピレン成分:4.5重量%以下、融解開始温度:116℃、曲げ弾性率:850MPa)、ポリエチレン系樹脂(融解開始温度:78℃、曲げ弾性率:1177MPa(12000kgf/cm2))及び酸化防止剤としてテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンを押出機に供給して溶融混練してTダイからシート状に押出して厚みが100μmの合成樹脂シートを製造した。
【0030】
得られた合成樹脂シートの一面にアースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、合成樹脂シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設し、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧−10kV、放電距離10mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させて合成樹脂シートに電荷を注入して合成樹脂シートを帯電させた。その後、電荷を注入した合成樹脂シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で3時間に亘って保持することで合成樹脂シート表面に存在する静電気を除去してエレクトレットシートを得た。
【0031】
得られたエレクトレットシートの圧電定数d33を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0032】
(圧電定数d33)
エレクトレットシートから一辺が10mmの平面正方形状の試験片を切り出し、試験片の両面に金蒸着を施して試験体を作製した。
【0033】
試験体に加振機を用いて荷重Fが2N、動的荷重が±0.25N、周波数が110Hzの条件下にて押圧力を加え、その時に発生する電荷Q(クーロン)を計測した。電荷Q(クーロン)を荷重F(N)で除することによって圧電定数d33を算出した。なお、圧電定数dijはj方向の荷重、i方向の電荷を意味し、d33はエレクトレットシートの厚み方向の荷重及び厚み方向の電荷となる。
【0034】
製造直後のエレクトレットシートの圧電定数d33を測定し、初期圧電定数d33とした。
【0035】
エレクトレットシートを50℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽内に一週間に亘って放置した後、エレクトレットシートを23℃、相対湿度30%の恒温恒湿槽内に24時間に亘って放置した。このエレクトレットシートの圧電定数d33を測定し、50℃耐久圧電定数d33とした。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
融解開始温度が90℃以上であるポリオレフィン系樹脂を60重量%以上含む合成樹脂シートに電荷を注入して上記合成樹脂シートを帯電させてなることを特徴とするエレクトレットシート。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂は、融解開始温度が90〜155℃であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットシート。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂を含有していることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットシート。
【請求項4】
コロナ放電処理によって電荷を注入してなることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のエレクトレットシート。