説明

エレクトレット化フィルム

【課題】フィルムの均一性に優れ、高電圧での電荷注入が可能である多孔性樹脂フィルムよりなり、長期に渡り高い電荷状態を安定し、電気・電子入出力装置材料として優れた性能を持つエレクトレット化フィルムを提供する。
【解決手段】空孔を有する2軸延伸樹脂フィルムからなるコア層(A)の少なくとも片面に1軸延伸樹脂フィルムからなる表面層(B)を備えた樹脂フィルム(i)を、加圧条件下で非反応性ガスを浸透させ、次いで非加圧条件下で加熱処理を施した多孔性樹脂フィルム(ii)21に、直流高電圧放電処理22を施してエレクトレット化したことを特徴とするエレクトレット化フィルム(iii)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレクトレット化フィルムに関する。特に、フィルム内部に電荷を蓄積することにより電荷密度が長期にわたり安定しているエレクトレット化フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットとは、外部に電界が存在しない状態でも内部に半永久的に電気分極を保持して、外部に対して電界を形成する(電気力を及ぼす)素材であって、従来電気を通しにくい高分子材料や無機質材料などを熱的・電気的に処理することでその材料の一部を半永久的に分極した(静電気を帯びさせた、電荷を保持した)ものを指す。
従来から高分子材料よりなるエレクトレットは、その使用態様に応じて、フィルム、シート、繊維、不織布等の様々な形態で用いられている。特にエレクトレットを成形加工してなるエレクトレットフィルターは、電界により微小な埃やアレルゲン等を効率的に吸着するエアーフィルター等の用途に広く使用されてきた。また、エレクトレットは、スピーカー、ヘッドフォン、マイクロフォン、超音波センサー、圧力センサー、加速度センサー、振動制御装置などの電気・電子入出力装置用の材料として各種用途への利用が広がってきている。
【0003】
多孔性樹脂フィルムを用いたエレクトレットは、圧電効果を示すことが知られており、振動測定、振動制御、音の発生、音の検出などに使用することができる。そのため、このような多孔性樹脂フィルムを用いたエレクトレットは、その軽量性を活かして、スピーカー、ヘッドフォン、マイクロフォンなど音響機器の振動子、フレキシブルシート状の圧力センサーなどへの応用が提案されている(特許文献1)。
又、多孔性樹脂フィルムは高圧ガスを用いて厚み方向に膨らませることで、これを用いたエレクトレットは、圧電素子としての性能が向上すると言われている(非特許文献1)。
【0004】
このように多孔性樹脂フィルムを厚み方向に膨らませる方法として、予め2軸延伸することにより内部に空孔を有するフィルムを作成し、これに高圧ガスを浸透させ、次いで減圧下で熱処理することにより発泡倍率の高い多孔性樹脂フィルムを得る方法が提案されている(特許文献2)。これら発泡倍率の高い多孔性樹脂フィルムは、フィルム内部の空孔により多くの電荷を保持することにより、性能と安定性に優れたエレクトレットを得ることが可能となると考えられた。
しかしながら、実際にフィルム内部により多くの電荷を蓄積するためには、電荷注入の際に、より高い電圧でフィルムを放電処理することが必要になる。
この際、上記非特許文献1や特許文献2に見られる様な、ポリプロピレンからなり全層を二軸延伸することにより予め空孔を形成したフィルムに、高圧ガスを浸透させ、次いで減圧下で熱処理して得た発泡倍率の高い多孔性樹脂フィルムは、フィルム表面の均一性に劣り、また凹凸も大きいために、印加電圧を上げてゆくと局所的な放電集中が発生してしまい、多孔性樹脂フィルムの絶縁耐性を超えてフィルムが部分的に破壊されてしまう問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平05−041104号公報
【特許文献2】特許第3675827号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Applied Physics Letters, Volume 85, Issue 7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため本発明では、従来の多孔性樹脂フィルムと比べてフィルムの均一性に優れ、高電圧での電荷注入が可能である多孔性樹脂フィルムよりなり、結果的に長期に渡り高い電荷状態を安定して維持でき、電気・電子入出力装置材料として優れた性能を持つエレクトレット化フィルムを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、これらの課題を解決する為に鋭意検討を進めた結果、特定の構造を有する樹脂フィルム(i)を用いることにより、これに加圧によりガスを浸透させ、次いで加熱処理をすることにより得られた多孔性樹脂フィルム(ii)は、表面の均一性にも優れ、直流高電圧を用いた放電処理(電荷注入)が可能となり、これにより得られたエレクトレット化フィルムは、所期の性能を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)空孔を有する2軸延伸樹脂フィルムからなるコア層(A)の少なくとも片面に1軸延伸樹脂フィルムからなる表面層(B)を備えた樹脂フィルム(i)を、加圧条件下で非反応性ガスを浸透させ、次いで非加圧条件下で加熱処理を施した多孔性樹脂フィルム(ii)に、直流高電圧放電処理を施してエレクトレット化したことを特徴とするエレクトレット化フィルム(iii)に関するものである。
(2)多孔性樹脂フィルム(ii)におけるコア層(A)の厚みは10〜500μmであり、且つ、表面層(B)の厚みは5〜500μmであることが好ましい。
(3)コア層(A)と表面層(B)を構成する延伸樹脂フィルムは熱可塑性樹脂を含有することが好ましく、
(4)より具体的には、コア層(A)が熱可塑性樹脂50〜97重量%、及び無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一つ3〜50重量%を含有し、且つ表面層(B)が熱可塑性樹脂30〜97重量%、及び無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一つ3〜70重量%を含有することが好ましい。
【0010】
(5)熱可塑性樹脂はポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
(6)本発明の樹脂フィルム(i)は、コア層(A)に表面層(B)を積層した後に、これを1軸方向に延伸して得たものであるのが好ましい。
(7)多孔性樹脂フィルム(ii)の空孔率は5〜95%であることが好ましく、
(8)多孔性樹脂フィルム(ii)の水蒸気透過係数は0.1〜2.5g・mm/m・24hrであることが好ましく、
(9)多孔性樹脂フィルム(ii)の少なくとも片方の面の表面抵抗値は1×1013〜9×1017Ωであることが好ましい。
【0011】
(10)樹脂フィルム(i)は、その少なくとも片方の面にアンカーコート層(C)を更に積層したものであることが好ましい。
(11)その際、アンカーコート層(C)の坪量は0.001〜5g/mであることが好ましい。
(12)多孔性樹脂フィルム(ii)に電荷注入してエレクトレット化するための直流高電圧放電処理における放電電圧は10〜100KVであることが好ましい。
(13)その際、放電処理は多孔性樹脂フィルム(ii)の表面層(B)表面から行うことが好ましい。
(14)本発明のエレクトレット化フィルム(iii)は少なくとも片方の面に表面抵抗値が1×10−2〜9×10Ωの導電層(D)を備えることにより、電気・電子入出力装置用の材料として使用可能なものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)を用いることで、より多くの電荷注入が可能となり、従来よりも長期間安定した電荷保持能力を持つエレクトレット化フィルム(iii)を得ることが可能となる。このエレクトレット化フィルム(iii)は電気・電子入出力装置用の材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のエレクトレット化フィルム(iii)の一態様を示す断面図。
【図2】樹脂フィルム(i)を加圧処理する際の処理形態の一例の模式図。
【図3】加圧処理装置の一例の模式図。
【図4】加熱処理装置の一例の模式図。
【図5】本発明に用いるバッチ式エレクトレット化装置の一例の模式図。
【図6】本発明に用いるバッチ式エレクトレット化装置の別の一例の模式図。
【図7】本発明に用いる連続式エレクトレット化装置の一例の模式図。
【図8】本発明に用いる連続式エレクトレット化装置の別の一例の模式図。
【図9】実施例で使用した落球装置の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明のエレクトレット化フィルムについて詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明のエレクトレット化フィルム(iii)は、空孔を有する2軸延伸フィルムからなるコア層(A)の少なくとも片面に1軸延伸樹脂フィルムからなる表面層(B)を備えた樹脂フィルム(i)に、加圧条件下で非反応性ガスを浸透させ、次いで非加圧条件下で加熱処理を施した多孔性樹脂フィルム(ii)に、直流高電圧放電処理を施してエレクトレット化することにより得られる。
【0015】
[コア層(A)]
本発明において用いるコア層(A)は、内部に電荷を保持することを主目的に用いるものである。そのため本発明のコア層(A)は、2軸延伸により内部に空孔を形成した樹脂フィルムからなり、更に後述する加圧処理及び加熱処理により、空孔の内圧を上昇させて厚み方向に膨らませた層である。
このようなコア層(A)は、好ましくは、静電容量を確保する為に一定以上の厚みを有し、電気を通しにくい高分子材料である熱可塑性樹脂からなり、空孔率で構造を示すように延伸によって形成され、次ぐ加圧処理及び加熱処理によって拡張された空孔を有することにより、電荷を保持し易い構造を有するものである。
【0016】
多孔性樹脂フィルム(ii)におけるコア層(A)の厚み、即ち厚み方向に膨らませた後のコア層(A)の厚みは10〜500μmの範囲であることが好ましく、20〜300μmの範囲であることがより好ましく、30〜150μmの範囲であることが特に好ましい。同厚みが10μm未満ではコア層(A)の静電容量が少なくエレクトレットの用途に不向きであり、また均一な厚みで成形を制御する事が困難となり、後述のエレクトレット化処理の際に局所放電による絶縁破壊が起こりやすいために好ましくない。一方、500μmを超えると電荷注入の際に層内部まで電荷を到達させることが困難となり、本発明の所期の性能を発揮し得ずに好ましくない。
【0017】
コア層(A)は電気を通しにくい高分子材料である熱可塑性樹脂からなることが好ましいが、用いる熱可塑性樹脂の種類は特に制限されない。例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、プロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン等のポリオレフィン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂、ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン等を使用することができる。これらの熱可塑性樹脂の中では、吸湿性が低く、絶縁性が高いポリオレフィン系樹脂、官能機含有ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
【0018】
ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、メチルペンテン、環状オレフィンなどのオレフィン類の単独重合体、及びこれらオレフィン類の2種類以上からなる共重合体が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の具体的な例としては高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、プロピレン系樹脂、エチレンと他のオレフィンとの共重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0019】
これらポリオレフィン系樹脂の中でも、プロピレン系樹脂が、加工性、絶縁性、コスト等の面などから好ましい。プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体でありアイソタクティックないしはシンジオタクティック及び種々の程度の立体規則性を示すポリプロピレンが挙げられ、またプロピレンを主成分とし、これと、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン等のαオレフィンとを共重合させた共重合体が挙げられる。この共重合体については、2元系でも3元系以上でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよい。
熱可塑性樹脂としてプロピレン系樹脂を用いる場合には、後述する延伸成形性をより良好にするために、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)よりも融点が低い樹脂を2〜25重量%配合して使用することが好ましい。このような融点が低い樹脂として、高密度ないしは低密度のポリエチレンを例示することができる。
【0020】
官能基含有ポリオレフィン系樹脂のより具体的な例としては、前記オレフィン類と共重合可能な官能基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。かかる官能基含有モノマーとしては、スチレン、αメチルスチレンなどのスチレン類、酢酸ビニル、ビニルアルコール、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メタロール(メタ)アクリルアミドなどのアクリル酸エステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、フェニルビニルエーテルなどのビニルエーテル類が特に代表的である。これら官能基含有モノマーの中から必要に応じ1種類もしくは2種類以上を適宜選択し重合したものを用いることができる。
【0021】
更に、これらポリオレフィン系樹脂及び官能基含有ポリオレフィン系樹脂を必要によりグラフト変性したものを使用することも可能である。
グラフト変性には公知の手法を用いることができ、具体的な例としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体によるグラフト変性を挙げることができる。該不飽和カルボン酸としては、例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を挙げることができる。また上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等も使用可能である。具体的には無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノエチルアミド、フマル酸−N,N−ジエチルアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等が挙げられる。
【0022】
使用可能なグラフト変性物は、グラフトモノマーをポリオレフィン系樹脂及び官能基含有ポリオレフィン系樹脂に対して一般に0.005〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%を加えて、グラフト変性したものである。
コア層(A)に使用する熱可塑性樹脂としては、上記の熱可塑性樹脂の中から1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を選択して組み合わせて使用してもよい。
コア層(A)に使用する熱可塑性樹脂には、無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一方を添加したものであることが望ましい。無機微細粉末や有機フィラーの添加により、後述する延伸工程により、コア層(A)内部に空孔を形成することが容易となる。
コア層(A)はより具体的には、上記の熱可塑性樹脂50〜97重量%、ならびに無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一つ3〜50重量%を含有することが好ましい。さらにコア層(A)は熱可塑性樹脂60〜95重量%、ならびに無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一つ5〜40重量%を含有することがより好ましい。
【0023】
空孔の核剤となる無機微細粉末及び/又は有機フィラーの含有率が3重量%未満では、後述する延伸工程で形成される空孔数が少なく電荷の蓄積能力に劣るものとなり所期の目的を達成しにくい。一方、50重量%を超えると形成される空孔が互いに連通してしまい、加圧処理時に浸透させる非反応性ガスが樹脂フィルム(i)から抜け易く加熱処理しても膨張しにくくなる傾向にある。また電荷を導入しても連通孔を経由して多孔性樹脂フィルム(ii)の表面や端面から電荷が逃げ易い構造となり、電荷が安定しない傾向があるために好ましくない。
【0024】
無機微細粉末を添加する場合は、平均粒径が通常0.01〜15μm、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.1〜3μm、特に好ましくは0.5〜2.5μmのものを使用する。無機微細粉末の具体例としては、炭酸カルシウム、焼成クレー、シリカ、けいそう土、白土、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、ゼオライト、マイカ、セリサイト、ベントナイト、セピオライト、バーミキュライト、ドロマイト、ワラストナイト、ガラスファイバーなどを使用することができる。本発明において平均粒径はメーカーカタログ値を参照した。
有機フィラーを添加する場合は、主成分である熱可塑性樹脂とは異なる種類の樹脂を選択することが好ましい。例えば熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合には、有機フィラーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン−6、ナイロン−6,6、環状オレフィン重合体、ポリスチレン、ポリメタクリレート等の重合体であって、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも高い融点(例えば170〜300℃)ないしはガラス転移温度(例えば170〜280℃)を有し、かつ非相溶のものを使用することができる。
【0025】
コア層(A)に使用する熱可塑性樹脂には、必要に応じて、熱安定剤(酸化防止剤)、光安定剤、分散剤、滑剤などを任意に添加することができる。熱安定剤を添加する場合は、樹脂に対し通常0.001〜1重量%の範囲内で添加する。熱安定剤の具体例としては、立体障害フェノール系、リン系、アミン系等の安定剤を使用することができる。光安定剤を添加する場合は、樹脂に対し通常0.001〜1重量%の範囲内で添加する。光安定剤の具体例としては、立体障害アミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の光安定剤を使用することができる。分散剤や滑剤は、例えば無機微細粉末を樹脂中に分散させる目的で使用する。使用量は樹脂に対し通常0.01〜4重量%の範囲内である。これらの具体例としては、シランカップリング剤、オレイン酸やステアリン酸等の高級脂肪酸、金属石鹸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸ないしはそれらの塩等を使用することができる。
【0026】
本発明において、加圧処理をする前の樹脂フィルム(i)におけるコア層(A)は、フィルムの巾方向、流れ方向の2軸方向に延伸されている。延伸により層内部に空孔が多数予備形成される。多孔性樹脂フィルム(ii)中に形成される空孔は電荷を保持する観点から個々の体積が大きく、その数が多く、且つ互いに独立した形状であることが望ましい。空孔の大きさは1方向のみの延伸よりも、2軸方向に延伸した方が大きくできる。特にフィルムの巾方向、流れ方向の2軸方向に延伸したものは面方向に引き延ばされた円盤状の空孔を形成できるので、更に加圧処理と加熱処理とを施して空孔を厚み方向に膨張させたときに個々の体積が大きな空孔を形成でき、電荷注入した際に空孔内に正負分極した電荷を蓄積しやすく、エレクトレット化フィルム(iii)とした際の電荷の保持性能が優れたものとなる。したがって、本発明の樹脂フィルム(i)におけるコア層(A)には2軸延伸した樹脂フィルムを用いる。
【0027】
[表面層(B)]
本発明において用いる表面層(B)は、従来の多孔性樹脂フィルムと比べてフィルム表面の均一性に優れ、本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)のエレクトレット化処理の際に高電圧での電荷注入を可能とする層である。また、加圧処理から加熱処理までの間にコア層(A)からの非反応性ガスが外部に拡散することを防止する役目を担っている。更には、多孔性樹脂フィルム(ii)の絶縁耐圧を向上し、コア層(A)内部に蓄積した電荷の保持性を向上する役目を担う。本発明における表面層(B)は、コア層(A)の少なくとも片面に、好ましくは両面に設けられる一軸延伸樹脂フィルムからなる層である。
表面層(B)は、好ましくは、絶縁耐性を向上する為に一定以上の厚みを有し、電気を通しにくい高分子材料である熱可塑性樹脂からなるが、コア層(A)へ電荷の導入が出来る程度に内部に空孔を形成した構造を有するものである。
【0028】
多孔性樹脂フィルム(ii)における表面層(B)の厚みは5〜500μmの範囲であることが好ましく、7〜100μmの範囲であることがより好ましく、10〜50μmの範囲であることが更に好ましく、10〜30μmの範囲であることが特に好ましい。同厚みが5μm未満では多孔性樹脂フィルム(ii)の絶縁耐圧の向上には効果が不十分であり、高電圧での電荷注入が出来ず、高い電荷を持ったエレクトレット化フィルム(iii)は得られにくい。一方、500μmを越えてしまうとエレクトレット化処理の際に内部まで電荷を到達させる事が困難となり、本発明の所期の性能を発揮し得ずに好ましくない。
表面層(B)を構成する熱可塑性樹脂としては、コア層(A)の項で挙げた熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。延伸特性の観点から表面層(B)とコア層(A)に使用する熱可塑性樹脂は同種類の樹脂を用いることが好ましい。
表面層(B)は無機微細粉末又は有機フィラーを含有していても、含有していなくても良いが、表面層(B)の誘電率などの電気的特性の改質という観点から、含有している方が好ましい。含有する場合にはコア層(A)の項で挙げた無機微細粉末及び有機フィラーと同様のものを用いることができる。
【0029】
表面層(B)はより具体的には、上記の熱可塑性樹脂30〜97重量%、及び無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一つ3〜70重量%を含有することが好ましい。
さらに表面層(B)は、熱可塑性樹脂40〜95重量%、及び無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一つ5〜60重量%を含有することがより好ましく、熱可塑性樹脂50〜90重量%、及び無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一つ10〜50重量%を含有することが特に好ましい。無機微細粉末及び有機フィラーの含有率が3重量%未満では、電気的特性の改質効果が充分に得られない。一方、70重量%を越えると、無機微細粉末自身による誘電効果や、互いに連通した空孔の形成によって電荷が逃げ易い構造となり、電荷が安定しない傾向があるために好ましくない。
【0030】
表面層(B)に無機微細粉末や有機フィラーを含有させる場合、コア層(A)に用いた無機微細粉末及び有機フィラーと同種のものを用いても、異種のものを用いてもよい。
特に無機微細粉末は、一般的に熱可塑性樹脂よりも誘電率が高い為に、表面層(B)の電気特性の改質に向いている。特に熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂などの誘電率の低い樹脂を使用する場合は、無機微細粉末や有機フィラーを含有することにより、エレクトレット化処理時の高電圧印加時にはその誘電効果によりコア層(A)まで電荷を到達させることができ、エレクトレット化処理後は、主成分であるポリオレフィン系樹脂の低い誘電特性によりコア層(A)の電荷を逃がさず保持する効果が得られる。
【0031】
本発明において、加圧処理をする前の樹脂フィルム(i)における表面層(B)は、上述の通り一軸延伸樹脂フィルムからなる層である。この点で本発明のエレクトレット化フィルム(iii)は従来のものと比べて大きく性能が改良されている。
本発明の表面層(B)は、延伸によって厚み(膜厚)の均一性を向上させて、絶縁耐圧性などの電気特性の均一化が図られている。表面層(B)の厚みが不均一であると、高電圧を用いた電荷注入時に、特に薄い部分で局所的な放電集中が発生しやすく、効果的な電荷注入は期待できない。
【0032】
従来のものと同様に表面層(B)を2軸延伸フィルムとした場合は、コア層(A)と同様に、無機微細粉末又は有機フィラーを核として空孔が形成しやすく、続く加圧処理と加熱処理により大きな空孔が形成されやすく、結果的に厚み(膜厚)の均一性が損なわれてしまい、所期の目的を達成し得ない。また、これらの空孔形成により、加圧処理から加熱処理までの間にコア層(A)からの非反応性ガスが外部に拡散することを防止する目的や、絶縁耐圧を向上させコア層(A)内部に蓄積した電荷の保持性を向上する目的も達成しにくくなる。したがって本発明の樹脂フィルム(i)における表面層(B)には空孔の形成効率が低い1軸延伸した樹脂フィルムを用いる。
【0033】
表面層(B)は単層構造以外に、2層構造以上の多層構造のものであってもよい。多層構造とする場合は、各層に使用する熱可塑性樹脂、無機微細粉末、及び有機フィラーの種類や含有量を変更することにより、より高い電荷保持性能を備えた多孔性樹脂フィルム(ii)の設計が可能となる。
表面層(B)はコア層(A)の少なくとも片面に設けるものであり、両面に設けても良い。表面層(B)をコア層(A)の両面に設ける場合は、表裏それぞれの組成、構成が同一でも良いし、異なる組成、構成のものであっても良い。
【0034】
[樹脂フィルム(i)]
本発明における樹脂フィルム(i)は、コア層(A)/表面層(B)(二軸延伸樹脂フィルム/一軸延伸樹脂フィルム)の積層フィルムを最小構成単位とする。
[積層]
コア層(A)と表面層(B)の積層は公知の種々の方法が使用できる。具体例としては、フィードブロックやマルチマニホールドを使用した多層ダイスを用いる共押出方式と、複数のダイスを使用する押出ラミネーション方式等が挙げられる。更に多層ダイスによる共押出方式と押出ラミネーション方式を組み合わせる方法が挙げられる。
前述の通り、加圧処理前のコア層(A)は2軸延伸フィルムであり、表面層(B)は1軸延伸フィルムである。そして膜厚の均一性の観点から、コア層(A)と表面層(B)とを積層した後に、これを1軸方向に延伸することが好ましい。コア層(A)との積層後に延伸することによって、延伸フィルム同士を積層するよりも、樹脂フィルム(i)としての膜厚の均一性が向上し、結果的に絶縁耐圧性などの電気特性が向上する。
従ってコア層(A)と表面層(B)との積層は、1軸方向に延伸されたコア層(A)上に、表面層(B)を押出ラミネーションをすることが好ましい。コア層(A)上へ表面層(B)を押出ラミネート積層した後に、積層物を前記コア層(A)の延伸軸とはほぼ直角方向に延伸することで、コア層(A)を2軸延伸フィルムとし、表面層(B)を1軸延伸フィルムとした、膜厚の均一な樹脂フィルム(i)が得られる。
【0035】
[延伸]
コア層(A)、表面層(B)、およびこれらの積層物である樹脂フィルム(i)の延伸は、公知の種々の方法によって行うことができる。
延伸の方法としては、ロール群の周速差を利用した縦延伸方法、テンターオーブンを使用した横延伸方法、圧延方法、テンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸方法、テンターオーブンとパンタグラフの組み合わせによる同時二軸延伸方法などを挙げることができる。又、インフレーションフィルムの延伸方法であるチューブラー法による同時二軸延伸方法を挙げることができる。
延伸時の温度は、各層に用いる主な熱可塑性樹脂の、ガラス転移点温度以上から結晶部の融点以下の範囲内で行うことができる。コア層(A)と表面層(B)の積層物である樹脂フィルム(i)を延伸する場合は、より設定坪量の多い層(通常はコア層(A))に合わせて延伸温度を設定すれば良い。
【0036】
指標としては、用いる熱可塑性樹脂の融点より1〜70℃低い温度である。具体的には、各層の熱可塑性樹脂がプロピレン単独重合体(融点155〜167℃)である場合は100〜166℃であり、高密度ポリエチレン(融点121〜136℃)である場合は70〜135℃である。また、延伸速度は20〜350m/分の範囲とするのが好ましい。
延伸の倍率は特に限定されず、樹脂フィルム(i)に用いる熱可塑性樹脂の特性や後述する得るべき空孔率等を考慮して適宜決定する。
延伸倍率は、例えば、熱可塑性樹脂としてプロピレン単独重合体ないしはその共重合体を使用する場合で、一軸方向に延伸する場合は約1.2〜12倍であり、好ましくは2〜10倍であり、二軸方向に延伸する場合には面積倍率(縦倍率と横倍率の積)で1.5〜60倍、好ましくは4〜50倍である。その他の熱可塑性樹脂を使用する場合、一軸方向に延伸する場合は1.2〜10倍、好ましくは2〜5倍であり、二軸方向に延伸する場合には面積倍率で1.5〜20倍、好ましくは4〜12倍である。
【0037】
[アンカーコート層(C)]
樹脂フィルム(i)ないし多孔性樹脂フィルム(ii)には、更に多素材を張り合わせてエレクトレット化後の用途を拡大することを目的に、接着剤や蒸着金属膜などとの密着性を向上するため、片面もしくは両面にアンカーコート層(C)を有していることが好ましい。
アンカーコート層(C)には高分子バインダーを用いることが好ましく、係る高分子バインダーの具体的な例としては、ポリエチレンイミン、炭素数1〜12のアルキル変性ポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン−尿素)及びポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物、及びポリアミンポリアミドのエピクロルヒドリン付加物等のポリエチレンイミン系重合体、アクリル酸アミド−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミド−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリルアミドの誘導体、オキサゾリン基含有アクリル酸エステル系重合体等のアクリル酸エステル系重合体、ポリビニルアルコールとその変性体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等、加えてポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、アクリル酸変性ポリプロピレン等のポリプロピレン系重合体、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体、ポリエステル等の有機溶剤希釈樹脂又は水希釈樹脂等が挙げられる。これらの内でもポリエチレンイミン系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、及びポリプロピレン系重合体が、フィルム(i)へのアンカー効果に優れ好ましい。
【0038】
アンカーコート層(C)の膜厚は、固形分換算坪量として0.001〜5g/mであるのが好ましく、0.005〜3g/mであることがより好ましく、0.01〜1g/mであることが特に好ましい。層(C)の坪量が0.001g/m未満では、アンカーコート層(C)を設ける効果を充分に得られない。一方、5g/mを超えてしまうと、塗工層であるアンカーコート層(C)の膜厚を均一に保つことが困難となり、膜厚の振れによって多孔性樹脂フィルム(ii)の電気特性の均一性が損なわれたり、アンカーコート層(C)自体の凝集力不足からアンカー効果が低下したり、或いはアンカーコート層(C)の表面抵抗値が低下して1×1013未満となり、多孔性樹脂フィルム(ii)のエレクトレット化の際に電荷が注入されにくくコア層(A)まで到達せずに本発明の所期の性能を発現しないため好ましくない。
【0039】
アンカーコート層(C)をフィルム(i)ないし(ii)に設ける方法としては、上記高分子バインダーを含む塗工液をフィルム(i)上に塗工する方法によるのが好ましい。アンカーコート層(C)はフィルム(i)ないし(ii)上に公知の塗工装置を用いて上記塗工液の塗膜を形成し、これを乾燥することにより形成することができる。塗工装置の具体的な例としては、例えば、ダイコーター、バーコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、スクイズコーター、ブレードコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター等が挙げられる。多孔性樹脂フィルム(ii)へのアンカーコート層(C)の積層は、後述のエレクトレット化処理を実施する前に施すことが好ましい。
アンカーコート層(C)を設置するタイミングは、後述する加圧処理と加熱処理を実施する前の樹脂フィルム(i)の段階、加圧処理して加熱処理を実施する前の樹脂フィルム(i)の段階、加圧処理と加熱処理を実施した多孔性樹脂フィルム(ii)の段階が考えられ、いずれも実施可能である。設備やプロセスの合理性を考慮すれば、加圧処理と加熱処理を実施する前の樹脂フィルム(i)の段階で行うのが好ましい。
【0040】
[加圧処理]
本発明における多孔性樹脂フィルム(ii)は、前述の樹脂フィルム(i)を圧力容器に入れて、該容器に非反応性ガスを導入し、加圧条件下とすることによりコア層(A)内部の空孔に非反応性ガスを浸透させて、後述する加熱処理により空孔を膨張することで得られる。
使用する非反応性ガスの具体的な例としては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、フロン、ハロンなどの不活性ガス、又はこれらの混合ガスや空気が挙げられる。非反応性ガス以外の気体を使用した場合でも膨張効果は得られるが、加圧処理中の安全性や得られた多孔性樹脂フィルム(ii)の安全性の観点から、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の反応性ガスは用いず、上記の非反応性ガスを用いることが望ましい。
【0041】
加圧処理を行う際の圧力は、好ましくは0.2〜10MPa、より好ましくは0.3〜8MPa、更に好ましくは0.4〜6MPaの範囲である。加圧力が0.2MPa未満では圧力が低いために樹脂フィルム(i)中にガスを充分に浸透させられず、充分な膨張効果が得られない。一方、10MPaを超えてしまうとコア層(A)の空孔が内圧に耐え切れず、破裂してしまい多孔性樹脂フィルム(ii)に穴や破れが発生してしまう。
加圧処理の実施時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは1〜50時間の範囲である。加圧処理の時間が1時間未満では非反応性ガスがコア層(A)全体に充分に充満しきれない。逆に、1時間未満の短時間でコア層(A)の空孔に非反応性ガスが充分に充満してしまうような樹脂フィルム(i)では、処理後のガスの放散も同様に早く、後述する加熱処理を施す前、または施している間に、浸透させたガスが拡散してしまい安定した膨張倍率が得られない。
樹脂フィルム(i)が長尺であり、巻取りの形態で加圧処理をする場合は、非反応性ガスが巻取りの内部まで浸透し易いように、図2に示す様に緩衝シートと一緒に巻取ったものを予め用意しておき、これを処理することが望ましい。緩衝シートの具体的な例としては、発泡ポリスチレンシート、発泡ポリエチレンシート、発泡ポリプロピレンシート、不織布、織布、紙などの連通した空隙を持つ物が挙げられる。この巻取りを図3に示す様な加圧容器に入れて、非反応性ガスにより加圧処理が行われる。
【0042】
[加熱処理]
多孔性樹脂フィルム(ii)は、加圧処理により空孔が膨張した樹脂フィルム(i)を加熱処理により形状固定することにより得られる。
加圧処理後、これを非加圧条件下に戻すことにより、樹脂フィルム(i)は差圧によって膨張する。しかしながら、このままでは浸透した非反応性ガスは次第に抜けてしまい、樹脂フィルム(i)は元の厚みに戻ってしまう。
そこで加熱処理を行うことにより、膨張した形状のまま熱可塑性樹脂の非弾性変形(可塑変形)を促し、フィルムから非反応性ガスが抜けてしまって空孔内部が大気圧に下がった後でもフィルムの膨張効果を維持させることができる。
【0043】
係る加熱処理の温度は、コア層(A)に主に用いる熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上から結晶部の融点以下の、熱可塑性樹脂の延伸に好適な公知の温度範囲内で行うことができる。より具体的には、コア層(A)の熱可塑性樹脂がプロピレン単独重合体(融点155〜167℃)の場合は80〜160℃の範囲内である。
また加熱方法も従来公知の種々の手法を用いることが出来る。具体的な例としては、樹脂フィルム(i)が枚葉である場合は、オーブン内での加熱やヒートプレート上での加熱、赤外線ヒーターからの赤外線をフィルム表面に放射よる輻射加熱などが挙げられる。また、樹脂フィルム(i)が長尺であり、巻取りの形態である場合は、ノズルからの熱風をフィルム表面に吹き当てる熱風加熱、赤外線ヒーターからの赤外線をフィルム表面に放射よる輻射加熱、温調機能付きのロールやプレートにフィルムを接触させる接触加熱などが挙げられる。
【0044】
樹脂フィルム(i)の加熱時間は、処理の温度と熱伝達速度により決定されるが、好ましくは1〜100秒、より好ましくは2〜80秒、更に好ましくは3〜60秒の範囲内である。熱処理時間が1秒未満では樹脂フィルム(i)を均一に加熱することが出来ず、熱処理後のフィルム厚みが安定しない。一方100秒を超えると加熱によりガスの透過率が良くなった樹脂フィルム(i)からガスが抜けてしまい、加熱処理中にフィルム厚みが減少してしまう。
加熱処理により得られた多孔性樹脂フィルム(ii)の弾性率は低く、加重が掛ると空孔が潰れ易いことから、非接触方式の熱風加熱や輻射加熱の方が高い膨張倍率を得やすい傾向にある。図4に非接触方式の加熱処理装置の一例を示す。
【0045】
[多孔性樹脂延伸フィルム(ii)]
上記の積層工程や延伸工程、次いで加圧処理や加熱処理を経て、得られる多孔性樹脂延伸フィルム(ii)は、電荷注入によってエレクトレット化フィルム(iii)とするのに好適なものとして設計されている。多孔性樹脂延伸フィルム(ii)は静電容量を確保する為に一定範囲の空孔率を有し、蓄積した電荷が外部に逃げにくいようにする為に、一定値以下の水蒸気透過係数や、一定値以上の表面抵抗値を有している。
本発明において、フィルム(ii)内の空孔は電荷を保持する場所として、割合が多いほど静電容量を確保できるが、多すぎると絶縁する熱可塑性樹脂の割合が減少し、また連通する空孔も増えるために長期に渡り高い電荷状態を安定して維持することが難しくなる。フィルム(ii)の水蒸気透過係数は、こうした連通する空孔の有無を判断するものである。水蒸気透過係数が大きければ、連通空孔表面や介在する水蒸気により電荷が放電しやすくなる。フィルム(ii)の表面固有抵抗値もまた、フィルム(ii)の電荷の逃がしやすさを判断するものである。表面固有抵抗値が小さすぎれば、フィルム表面を介した放電が起こりやすくなる。
【0046】
[厚み]
本発明における樹脂フィルム(i)、多孔性樹脂フィルム(ii)及びエレクトレット化フィルム(iii)の厚みは、JIS−K−7130:1999に準拠し、厚み計を用いて測定した。
コア層(A)および表面層(B)のそれぞれの厚みは、測定対象試料であるフィルムを液体窒素にて−60℃以下の温度に冷却し、ガラス板上に置いた試料に対してカミソリ刃(シック・ジャパン(株)製、商品名:プロラインブレード)を面方向に垂直に当て切断して断面測定用の試料を作成し、得られた試料の断面を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名:JSM−6490)を用いて観測し、空孔形状や組成からコア層(A)と表面層(B)の境界線を判別して厚み比率を求め、上記方法で測定されたフィルム全層の厚みから算出して求めた。
【0047】
[空孔率]
樹脂フィルム(i)は、フィルム内部に微細な空孔を多数有するものであり、次式(1)で算出される空孔率が、1〜50%であることが好ましく、10〜45%であることがより好ましい。の空孔率が1%未満では非反応性ガスの浸透による膨張の効果が充分得られない。一方、空孔率が50%を超えてしまうと空孔どうしの連通が発生してしまい非反応性ガスが抜け易く充分な膨張の効果が得られない傾向にある。
【数1】

【0048】
樹脂フィルム(i)を前述の加圧処理と加熱処理を実施することにより、得られる多孔性樹脂フィルム(ii)は、樹脂フィルム(i)に比べて空孔率が高くなる。空孔の存在により、樹脂フィルム内の界面数が増加し、空孔が存在しない樹脂フィルムと比較して内部に電荷を蓄積できる性能が向上し、性能の高いエレクトレット化フィルム(iii)を得ることができる。しかし過剰の空孔は逆に電荷を逃がす原因となり得る。
多孔性樹脂フィルム(ii)は、前式(1)で算出される空孔率が、5〜95%であることが好ましく、10〜80%であることがより好ましく、12〜70%であることが更に好ましく、15〜60%であることが特に好ましい。空孔率が5%未満では電荷の蓄積容量が低く、得られるエレクトレット(iii)も電気・電子入出力装置用材料として性能が劣るものとなる。一方、95%を越えると、連通した空孔を介した電荷の流出が起こりやすく、得られるエレクトレット(iii)の経時による性能低下が起こりやすい。また多孔性樹脂フィルム(ii)の弾性率が極端に劣るものとなり、厚み方向の復元性が低下し、耐久性に劣るものとなる。
【0049】
[水蒸気透過係数]
多孔性樹脂フィルム(ii)の水蒸気透過係数(g・mm/m・24hr)は、JIS−Z−0208:1976に準拠しカップ法により、温度40℃、相対湿度90%の条件にて透湿度(g/m・24hr)を測定し、フィルムの厚み(mm)から換算して求めた。
本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)の表面層(B)は、コア層(A)に蓄積した電荷が外部に逃げないように、絶縁する効果を有するものであるが、その効果が低い場合は水蒸気透過係数が高くなり、電荷の保持能力が劣るものとなる。本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)中の空孔の多くが連通している場合、水蒸気透過係数が高くなり、電荷の保持能力が劣るものとなる。
本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)の水蒸気透過係数は0.1〜2.5g・mm/m・24hrであり、好ましくは0.2〜2.0g・mm/m・24hrの範囲内であり、特に好ましくは0.3〜1.5g・mm/m・24hrの範囲内である。多孔性樹脂フィルム(ii)の水蒸気透過係数が2.5g・mm/m・24hrを超えると高湿度下での帯電性の低下が著しく、本発明の所期の性能を発揮しない。一方、フィルム(i)の主成分となり得る熱可塑性樹脂、例えばポリオレフィン系樹脂の水蒸気透過係数が0.1g/m・24hr前後であることから、0.1g/m・24hr未満の多孔性樹脂フィルム(ii)を製造することは困難である。
【0050】
[表面抵抗値]
本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)の表面抵抗値(Ω)は、JIS−K−6911:1995に準拠し2重リング法の電極を用いて、温度23℃、相対湿度50%の条件下にて測定した。
また、エレクトレット化フィルム(iii)の少なくとも片方の面に導電層(D)を設けて、表面抵抗値が1×10Ω未満とした場合は、この表面抵抗値はJIS−K−7194:1994に準拠し4端子法により測定した値である。
本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)は、少なくとも片方の表面の表面抵抗が1×1013〜9×1017Ωであることが好ましく、5×1013〜5×1016Ωであることがより好ましい。
表面抵抗値が1×1013Ω未満では多孔性樹脂フィルム(ii)のエレクトレット化処理を施す際に、電荷が表面を伝って逃げやすくなり、充分な電荷注入が行われない。一方、表面抵抗値が9×1017Ωを超えてしまうと多孔性樹脂フィルム(ii)に付着したゴミや埃の除去が困難となり、エレクトレット化処理の際にこれを伝って局所放電が発生しやすくなり、部分的な多孔性樹脂フィルム(ii)の破壊が発生し易く好ましくない。
【0051】
本発明のエレクトレット化フィルム(iii)に導電層(D)を設けて電気・電子入出力装置用材料として用いる場合は、同層表面の表面抵抗値は1×10−2〜9×10Ωの範囲内に調整されていることが望ましい。
表面抵抗値が9×10Ωを超えると電気信号の伝達効率が悪く、電気・電子入出力装置用材料としての性能が低下する傾向にある。一方、1×10−2Ω未満の導電層(D)を設ける為には、導電層(D)を厚く設ける必要があり、塗工により導電層(D)を設ける場合には乾燥時の熱により、蒸着の場合は蒸着される金属の熱により、エレクトレット化フィルム(iii)の温度の上昇から、樹脂の分子運動が活発になり、電荷が移動し易い状態となる。そのため電荷の消失が発生してしまい、電気・電子入出力装置用材料としての性能が低下する傾向がある。
【0052】
[エレクトレット化]
本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)をエレクトレット化フィルム(iii)とするためには直流高電圧放電によるエレクトレット化処理を施す必要がある。
係るエレクトレット化処理としては幾つかの処理方法が考えられる。例えば、多孔性樹脂フィルム(ii)の両面を導電体で保持し、直流高電圧やパルス状高電圧を加える方法(エレクトロエレクトレット化法)やγ線や電子線を照射してエレクトレット化する方法(ラジオエレクトレット化法)などが公知である。
中でも直流高電圧を用いたエレクトレット化処理法(エレクトロエレクトレット化法)は装置が小型化であり、且つ、作業者や環境への負荷が小さく、本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)の様な高分子材料のエレクトレット化に適している。
【0053】
本発明に用い得るエレクトレット化装置の好ましい例としては、図5に示す様に直流高圧電源22に繋がった針状電極23とアース電極24の間に多孔性樹脂フィルム(ii)を固定し所定の電圧を印加する方法、図6に示す様に直流高圧電源22に繋がったワイヤー電極25とアース電極24の間に多孔性樹脂フィルム(ii)を固定し所定の電圧を印加しながらワイヤー電極25を移動する方法、図7に示す様に直流高圧電源22に繋がった針状電極26とアースに接続されたロール27の間に所定の電圧を印加しながら多孔性樹脂フィルム(ii)を通過させる方法、図8に示す様に直流高圧電源22に繋がったワイヤー電極28とアースに接続されたロール27の間に所定の電圧を印加しながら多孔性樹脂フィルム(ii)を通過させる方法などが挙げられる。
【0054】
本発明は、直流高電圧放電によるエレクトレット化処理により、より多くの電荷を内部に蓄積することを特徴とする。係るエレクトレット化処理の電圧は、多孔性樹脂フィルム(ii)の厚み、空孔率、樹脂やフィラーの材質、処理速度、用いる電極の形状、材質、大きさ、最終的に得るべきエレクトレット化フィルム(iii)の帯電量などにより変更し得るが、好ましい範囲としては10〜100KV、より好ましくは12〜70KV、更に好ましくは15〜50KVの範囲内である。エレクトレット化処理の電圧が10KV未満では電荷注入量が不十分となり本発明の初期の性能を発揮しない。一方100KVを超えてしまうと局所的な火花放電が発生しやすくなってしまい多孔性樹脂フィルム(ii)の部分的な破壊が発生しやすい傾向にある。又、100KVを超えてしまうと注入した電荷が多孔性樹脂フィルム(ii)の表面から端面を伝いアース電極へ流れる電流が発生し易くなり、エレクトレット化の効率が悪くなる傾向にある。
【0055】
エレクトレット化処理は、多孔性樹脂フィルム(ii)中に過剰に電荷を注入する場合があり、この場合は処理後のエレクトレット化フィルム(iii)から放電現象が起こり、後のプロセスで不都合を来す場合がある。そのためエレクトレット化フィルム(iii)はエレクトレット化処理後に、余剰電荷の除電処理を行うことも可能である。除電処理を行なうことによりエレクトレット化処理により過剰に与えられた電荷を除去して放電現象の防止が可能となる。係る除電処理としては、電圧印加式除電器(イオナイザ)や自己放電式除電器など公知の手法を用いることができる。これら一般的な除電器は表面の電荷の除去はできるが、コア層(A)内部、特に空孔内に蓄積した電荷までは除去できない。したがって除電処理によりエレクトレット化フィルム(iii)の性能が大きく低下するような影響は与えない。
エレクトレット化処理は、多孔性樹脂フィルム(ii)に用いる主な熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上から結晶部の融点以下の温度で行うことが望ましい。ガラス転移点以上であれば熱可塑性樹脂の非晶質部分の分子運動が活発であり、与えられた電荷に適した分子配列をなすため、効率が良いエレクトレット化処理が可能である。一方、融点を超えてしまうと多孔性樹脂フィルム(ii)がその構造を維持できなくなってしまうため、本発明の所期の性能を得られない。
【0056】
[導電層(D)]
本発明のエレクトレット化フィルム(iii)は、少なくとも片方の面に導電層(D)を設けて電気・電子入出力装置用材料として用いることが可能である。
導電層(D)の例としては、導電性塗料の塗工による塗膜や金属蒸着膜などが挙げられる。導電性塗料の具体的な例としては、金、銀、白金、銅、ケイ素などの金属粒子、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛などの導電性酸化金属粒子やカーボン粒子を、ポリアクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエポキシ、ポリエーテル、ポリエステルなどのバインダー成分の溶液又は分散液に混合したものが挙げられ、またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性樹脂の溶液又は分散液などが挙げられる。
【0057】
導電性塗料の塗工は、従来公知の塗工装置により実施できる。塗工装置の具体的な例としては、ダイコーター、バーコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター等が挙げられる。
金属蒸着膜の具体的な例としては、アルミニウム、亜鉛、金、銀、白金、ニッケルなどの金属を減圧下で気化してエレクトレット化フィルム(iii)に表面に蒸着させ薄膜を形成することにより得られる。
エレクトレット化フィルム(iii)への導電層(D)の設置は、エレクトレット化処理の前でも良いし、後でもよい。しかしフィルム(iii)の両面に導電層(D)を設ける場合は、少なくとも片面はエレクトレット化処理後でなければならない。両面に導電層(D)を設置してからエレクトレット化処理を実施しても多孔性樹脂フィルム(ii)内部まで電荷が到達することなく導電層(D)を介して放電されてしまい、本発明の所期の目的を達成できない。
【実施例】
【0058】
以下に実施例、比較例及び試験例を用いて、本発明を更に具体的に説明する。以下に示す材料、使用量、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
なお、以下に記載される%は、特記しない限り重量%である。
本発明のエレクトレット化フィルム(iii)の製造例、実施例及び比較例に使用する材料を表1にまとめて示す。
【0059】
【表1】

【0060】
[製造例1]
熱可塑性樹脂組成物aを230℃に設定した押出機にて混練した後、250℃に設定した押出ダイスに供給してシート状に押し出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得た。この無延伸シートを135℃に加熱し、周速差の異なる多数のロール群を用いて縦方向に5.0倍延伸して5倍延伸フィルムを得た。
次いで、可塑性樹脂組成物cを250℃に設定した押出機で混練した後、250℃に設定した押出ダイスに供給してシート状に押し出し、これを上で調整した5倍延伸フィルムの表面及び裏面それぞれに積層し、3層構造の積層フィルムを得た。次いで、この積層フィルムを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び約145℃に加熱し、横方向に8倍延伸した後、これを160℃に調整したオーブンによりアニーリング処理を行い、その後60℃に冷却し、耳部をスリットして、3層構造(c/a/c=10/40/10μm、延伸層構成(1軸/2軸/1軸))で厚み60μm、空孔率26%の樹脂フィルム(i)を得た。
【0061】
[製造例2]
熱可塑性樹脂組成物bを230℃に設定した押出機にて混練した後、250℃に設定した押出ダイスに供給してシート状に押し出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得た。この無延伸シートを150℃に加熱し、周速差の異なる多数のロール群を用いて縦方向に4.5倍延伸して4.5倍延伸フィルムを得た。
次いで、可塑性樹脂組成物dを250℃に設定した押出機で混練した後、250℃に設定した押出ダイスに供給してシート状に押し出し、これを上で調整した4.5倍延伸フィルムの表面及び裏面それぞれに積層し、3層構造の積層フィルムを得た。次いで、この積層フィルムを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び約150℃に加熱し、横方向に7.5倍延伸した後、これを160℃に調整したオーブンによりアニーリング処理を行い、その後60℃に冷却し、耳部をスリットして、3層構造(d/b/d=20/60/20μm、延伸層構成(1軸/2軸/1軸))で厚み100μm、空孔率38%の樹脂フィルム(i)を得た。
【0062】
[製造例3]
熱可塑性樹脂組成物bを230℃に設定した押出機にて混練した後、250℃に設定した押出ダイスに供給してシート状に押し出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得た。この無延伸シートを145℃に加熱し、周速差の異なる多数のロール群を用いて縦方向に4倍延伸して4倍延伸フィルムを得た。
次いで、可塑性樹脂組成物dを250℃に設定した押出機で混練した後、250℃に設定した押出ダイスに供給してシート状に押し出し、これを上で調整した4倍延伸フィルムの表面及び裏面それぞれに積層し、3層構造の積層フィルムを得た。次いで、この積層フィルムを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び約155℃に加熱し、横方向に7倍延伸した後、これを160℃に調整したオーブンによりアニーリング処理を行い、その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして、3層構造(d/b/d=10/80/10μm、延伸層構成(1軸/2軸/1軸))で厚み100μm、空孔率39%の樹脂フィルム(i)を得た。
【0063】
[製造例4]
熱可塑性樹脂組成物aを230℃に設定した押出機にて混練した後、250℃に設定した押出ダイスに供給してシート状に押し出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得た。この無延伸シートを145℃に加熱し、周速差の異なる多数のロール群を用いて縦方向に4倍延伸して4倍延伸フィルムを得た。
次いで、可塑性樹脂組成物aを250℃に設定した押出機で混練した後、250℃に設定した押出ダイスに供給してシート状に押し出し、これを上で調整した4倍延伸フィルムの表面及び裏面それぞれに積層し、3層構造の積層フィルムを得た。次いで、この積層フィルムを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び約150℃に加熱し、横方向に8倍延伸した後、これを160℃に調整したオーブンによりアニーリング処理を行い、その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして、3層構造(a/a/a=15/40/15μm、延伸層構成(1軸/2軸/1軸))で厚み70μm、空孔率9%の樹脂フィルム(i)を得た。
【0064】
[製造例5]
熱可塑性樹脂組成物aと熱可塑性樹脂組成物eを、230℃に設定した個別の押出機にて混練した後、それぞれを250℃に設定したフィードブロック式ダイスに供給してダイス内でe/a/eの順になる様に積層してシート状に押し出し、これを冷却装置により冷却して3層構成の無延伸シートを得た。この無延伸シートを135℃に加熱し、周速差の異なる多数のロール群を用いて縦方向に5倍延伸して5倍延伸フィルムを得た。
次いで、この5倍延伸フィルムを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び約145℃に加熱し、横方向に8倍延伸した後、これを160℃に調整したオーブンによりアニーリング処理を行い、その後60℃に冷却し、次いで耳部をスリットして、3層構造(e/a/e=1/40/1μm、延伸層構成(2軸/2軸/2軸))で厚み42μm、空孔率23%の樹脂フィルムを得た。
【0065】
[製造例6]
熱可塑性樹脂組成物bを、230℃に設定した押出機にて混練した後、250℃に設定した押出ダイスに供給してシート状に押し出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得た。この無延伸シートを150℃に加熱し、周速差の異なる多数のロール群を用いて縦方向に4.5倍延伸して4.5倍延伸フィルムを得た。
次いで、この4.5倍延伸フィルムを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び約150℃に加熱し、横方向に7.5倍延伸した後、これを160℃に調整したオーブンによりアニーリング処理を行い、その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして、単層構造(2軸延伸)で厚み60μm、空孔率44%の樹脂フィルムを得た。
【0066】
【表2】

【0067】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
製造例1〜6から得た樹脂フィルムの両面に、コロナ表面処理を施し、表1に記載のアンカーコート剤を、組み合わせ及び乾燥後の塗工量(坪量)が表3に記載の通りとなる様に塗工し、80℃のオーブンにて30分間乾燥し、アンカーコート層(C)を設けた。
この樹脂フィルムをA4サイズに切り出し、圧力容器内に入れ、その後容器内に空気を導入して1.0MPaの圧力で8時間加圧し、取り出して直ぐに95℃に設定したオーブン内で30秒間熱処理を実施し、多孔性樹脂フィルム(ii)を得た。
次いで、図5に記載のエレクトレット化装置を用いて、主電極の針間距離10mm、主電極−アース電極間距離10mmに設定したアース電極盤上に上記で得られた多孔性樹脂フィルム(ii)を置き、印加電圧を1KVから少しずつ上昇し局所火花放電により多孔性樹脂フィルム(ii)が破壊される電圧を測定した。その後、この火花放電電圧よりも1KV低い電圧でエレクトレット処理して、実施例1〜4、比較例1〜3のエレクトレット化フィルム(iii)を得た。
【0068】
【表3】

【0069】
[試験例]
実施例1〜4、比較例1〜3で得たエレクトレット化フィルム(iii)の電気・電子入出力装置用材料としての適性を評価するため、フィルム(iii)の表裏両面に、表1に記載の導電性塗料I、IIを、乾燥後の塗工量が表4に記載の塗工量となる様に塗工し、40℃のオーブンにて5分間乾燥して導電層(D)を設けた。更にこのフィルムを10cm×10cmのサイズに切り出し、導電性テープ(住友スリーエム(株)製、商品名:AL−25BT)を使用して表裏面にリード線を張付けて導電層(D)付きエレクトレット化フィルム(iii)を作成した。
【0070】
(導電層密着性)
エレクトレット化フィルム(iii)に設けた導電層(D)を爪で10回擦り、導電層(D)の密着性を以下の基準で評価した。評価結果を表4に示す。
○ :良好 剥離せず
× :不良 フィルム(iii)より導電層(D)が剥離する
(発生電圧)
図9に記載の落球装置を使用して、直径11mm,重量5.5gの鉄球を、高さ3.6cmの高さから絶縁性フィルム(無延伸ポリプロピレンフィルム100μm)の上に設置した導電層(D)付きエレクトレット化フィルム(iii)上に落下させ、サンプルからの電圧信号を高速レコーダー((株)キーエンス製、商品名:GR−7000)に取り込み、落球の衝撃により発生した最大電圧を5回測定して平均値を算出し、以下の基準で評価した。評価結果及び測定された最大電圧(平均値)を表4に示す。
○ :良好 最大電圧(平均値)が200mV以上
△ :やや不良 最大電圧(平均値)が50mV以上、200mV未満
× :不良 最大電圧(平均値)が50mV未満
【0071】
【表4】

表4に示す通り、実施例1〜4のエレクトレット化フィルム(iii)は、電圧発生の効率が高く、圧電素子としての性能が良好であり、電気・電子入出力装置用材料として優れた性能を持つものであった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の多孔性樹脂フィルム(ii)を用いることで、より多くの電荷注入が可能となり、結果として優れた電圧発生能力を示すエレクトレット化フィルム(iii)を得ることが可能となる。
そのため本発明のエレクトレット化フィルム(iii)は、スピーカー、ヘッドフォン、超音波振動子、超音波モーター、振動制御装置、マイクロフォン、超音波センサー、圧力センサー、加速度センサー、歪センサー、疲労・亀裂センサー、発電装置などの電気・電子入出力装置用材料として非常に有用なものである。
【符号の説明】
【0073】
1 エレクトレット化フィルム(iii)
2 コア層(A)
3、4 表面層(B)
5 加圧処理用に準備した巻取
6 樹脂フィルム(i)
7 緩衝シート
8 圧力容器
9 圧力容器の蓋
10 加圧用バルプ
11 減圧用バルブ
12 スタンド
13 シャフト
14 コンプレッサー
15 多孔性樹脂フィルム(ii)の巻取り装置
16 緩衝シートの巻取り装置
17 熱風装置
18 ガイドロール
19、20 冷却ロール
21 多孔性樹脂フィルム(ii)
22 直流高圧電源
23、26 針状電極
24 アース電極
25、28 ワイヤー電極
27 アースに接続されたロール
29 導電層(D)付きエレクトレット化フィルム(iii)
30 絶縁性フィルム
31、32 リード線
33 透明アクリルパイプ
34 鉄球
35 電磁石
36 高速レコーダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔を有する2軸延伸樹脂フィルムからなるコア層(A)の少なくとも片面に1軸延伸樹脂フィルムからなる表面層(B)を備えた樹脂フィルム(i)を、加圧条件下で非反応性ガスを浸透させ、次いで非加圧条件下で加熱処理を施した多孔性樹脂フィルム(ii)に、直流高電圧放電処理を施してエレクトレット化したことを特徴とするエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項2】
多孔性樹脂フィルム(ii)におけるコア層(A)の厚みが10〜500μmであり、且つ、表面層(B)の厚みが5〜500μmであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項3】
コア層(A)と表面層(B)を構成する延伸樹脂フィルムが熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項4】
コア層(A)が熱可塑性樹脂50〜97重量%、及び無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一つ3〜50重量%を含有し、且つ表面層(B)が熱可塑性樹脂30〜97重量%、及び無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一つ3〜70重量%を含有することを特徴とする請求項3に記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項5】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項3又は4に記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項6】
コア層(A)に表面層(B)を積層した後に、これを1軸方向に延伸して樹脂フィルム(i)としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項7】
多孔性樹脂フィルム(ii)の空孔率が5〜95%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項8】
多孔性樹脂フィルム(ii)の水蒸気透過係数が0.1〜2.5g・mm/m・24hrであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項9】
多孔性樹脂フィルム(ii)の少なくとも片方の面の表面抵抗値が1×1013〜9×1017Ωであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項10】
樹脂フィルム(i)の少なくとも片方の面にアンカーコート層(C)を更に積層することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項11】
アンカーコート層(C)の坪量が0.001〜5g/mであることを特徴とする請求項10に記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項12】
直流高電圧放電処理における放電電圧が10〜100KVであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項13】
直流高電圧放電処理において多孔性樹脂フィルム(ii)の表面層(B)表面から電荷注入を行うことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のエレクトレット化フィルム(iii)。
【請求項14】
請求項1〜13に記載のエレクトレット化フィルム(iii)の少なくとも片方の面に表面抵抗値が1×10−2〜9×10Ωの導電層(D)を更に積層することを特徴とする電気・電子入出力装置用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−89495(P2010−89495A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200197(P2009−200197)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000122313)株式会社ユポ・コーポレーション (73)
【Fターム(参考)】