説明

エレクトレット及びその製造方法、並びにエレクトレットを備えたコンデンサを有する音響感応装置

【課題】高い電荷保持特性を有するエレクトレット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレット12であって、電荷が保持されるように、絶縁体膜の表面のうちの少なくとも一面が改質されてなる改質面を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレット及びその製造方法、並びにエレクトレットを備えたコンデンサを有する音響感応装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレクトレット(電化を保持可能な薄膜)について、従来のエレクトレットを備えたコンデンサを有するコンデンサ型マイクロホンを具体例に挙げて、図6を参照しながら説明する。図6は、従来のエレクトレットを備えたコンデンサを有するコンデンサ型マイクロホンの構造について示す概略断面図である。
【0003】
コンデンサ型マイクロホン6は、図6に示すように、主要な構成要素として、振動電極60と振動電極60と対向するように配置された金属板からなる固定電極61、振動電極60と固定電極61との間に配置されるように固定電極61側に貼り合わせた樹脂からなるエレクトレット62、並びに振動電極60及び固定電極61の各々と電気的に接続する外部電源63を備えている。コンデンサ型マイクロホン6は、外部電源63によって、固定電極61及びエレクトレット62が積層されてなるエレクトレット固定電極61Aと振動電極60との間に静電気を蓄えることにより、コンデンサとしての機能を果たす。コンデンサ型マイクロホン6は、空気の振動を検出すると振動電極60が振動し、振動電極60とエレクトレット固定電極61Aとの間の距離が変化することにより、静電容量が変化し、空気の振動を電気信号として検出することができる。
【0004】
ここで、エレクトレット62への電荷の帯電方法について、以下に簡単に説明する。
【0005】
樹脂からなる絶縁体膜を固定電極61側に貼り合わせた後、コロナ放電又は電子ビームにより、電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレット62を形成する。その後、例えばアニール等の熱処理により、エレクトレット62に帯電させた電荷を安定化させる。
【特許文献1】特開2005−191467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の帯電方法が施されたエレクトレットでは、以下に示す問題がある。
【0007】
例えばコロナ放電により電荷が帯電されたエレクトレットでは、コロナ放電により、エレクトレットの表面にイオンが吸着されているため、イオンが除電物質(主に、空気中に含まれる水分、又はタバコの煙等に含まれる有機性ガス等)と接触することによって電荷が容易に除電されるという問題がある。
【0008】
また、例えば電子ビームにより電荷が帯電されたエレクトレットでは、電子ビームにより、エレクトレットの内部に電子が注入されるが、一般に電子は熱拡散され易いため、エレクトレットの内部に注入された電子が熱拡散されて、エレクトレットの表面に熱拡散された電子が除電物質と接触することによって電荷が容易に除電されるという問題がある。
【0009】
このように、コロナ放電により電荷が帯電されたエレクトレット、及び電子ビームにより電荷が帯電されたエレクトレットの何れの場合においても、除電物質によって電荷が容易に除電されるため、電荷を保持することができずに、エレクトレットの電荷保持特性が劣化するという課題がある。そのため、従来のエレクトレットを備えたコンデンサはコンデンサとしての機能を果たすことができず、当然ながら、コンデンサを有するコンデンサ型マイクロホンの性能を低下させる。
【0010】
前記に鑑み、本発明の目的は、高い電荷保持特性を有するエレクトレット及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明に係るエレクトレットは、電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレットであって、電荷が保持されるように、絶縁体膜の表面のうちの少なくとも一面が改質されてなる改質面を有していることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るエレクトレットによると、電荷が安定に保持されるように(例えばダングリングボンドを多数含むように)表面状態を変化させた改質面に対して帯電処理を施すことができるので、絶縁体膜における改質面に電荷を安定に保持することができるので、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0013】
本発明に係るエレクトレットにおいて、改質面は凹凸が設けられた面であることが好ましい。
【0014】
このようにすると、改質処理によって、改質面に凹凸を設けて改質面の表面状態を変化させるため、凹凸を設けた改質面に対して帯電処理を施すことができる。
【0015】
ここで、改質面に例えば凹凸を設けることにより、改質処理前と比較して、改質処理後の改質面の表面積を増大させ、改質処理後の改質面に含まれる例えばダングリングボンド数を増加させることができると考えられる。
【0016】
一般に、ダングリングボンドが存在すると、ダングリングボンドに電荷が捕獲されることが知られており、そのため、ダングリングボンドに捕獲された電荷は、除電物質によって容易に除電されることはない。このため、絶縁体膜における改質面に電荷を安定に保持することができるので、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0017】
本発明に係るエレクトレットにおいて、改質面に含まれるダングリングボンド数の割合は、絶縁体膜の表面のうちの改質面以外の非改質面に含まれるダングリングボンド数の割合よりも高いことが好ましい。
【0018】
このようにすると、改質処理によって、ダングリングボンド数を増加させるように、改質面の表面状態を変化させるため、ダングリングボンドを多数含む改質面に対して帯電処理を施すことができるので、ダングリングボンドに電荷を捕獲させることができる。ダングリングボンドに捕獲された電荷は、除電物質によって容易に除電されることはないため、絶縁体膜における改質面に電荷を安定に保持することができるので、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0019】
本発明に係るエレクトレットにおいて、改質面に含まれる安定エネルギー準位数の割合は、絶縁体膜の表面のうちの改質面以外の非改質面に含まれる安定エネルギー準位数の割合よりも高く、安定エネルギー準位は、電荷が保持されるようなエネルギー準位であることが好ましい。
【0020】
このようにすると、改質処理によって、安定エネルギー準位数を増加させるように、改質面の表面状態を変化させるため、安定エネルギー準位を多数含む改質面に対して帯電処理を施すことができるので、安定エネルギー準位に電荷を捕獲させることができる。ここで、「安定エネルギー準位」とは、絶縁体膜の伝導帯下端エネルギーよりも比較的低いエネルギー準位、言い換えれば、絶縁体膜の伝導帯下端エネルギーに比較的遠いエネルギー準位であると推測される。安定エネルギー準位に捕獲された電荷は、除電物質によって容易に除電されることはないため、絶縁体膜における改質面に電荷を安定に保持することができるので、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0021】
本発明に係るエレクトレットにおいて、改質面は、絶縁体膜におけるエッチング加工が施された加工面、又は絶縁体膜におけるスパッタ加工が施された加工面であることが好ましい。
【0022】
このようにすると、例えばエッチングにより、改質面に凹凸を設けて改質面の表面状態を変化させることができる。
【0023】
また、このようにすると、例えばスパッタにより、改質面にダメージを与えることによって、改質面にダングリングボンドを形成すると共に改質面に微細な凹凸を設けて改質面の表面状態を変化させることができる。
【0024】
本発明に係るエレクトレットにおいて、絶縁体膜の改質面を覆う疎水性被覆膜を更に備えていることが好ましい。
【0025】
このようにすると、帯電された電荷が除電物質と接触することを防止することができるため、除電物質によって電荷(特に、例えばダングリングボンドに捕獲されていない電荷)が除電されることを防止することができるので、より一層高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0026】
本発明に係るエレクトレットにおいて、疎水性被覆膜は、絶縁体膜の表面を覆うように設けられていることが好ましい。
【0027】
このようにすると、帯電された電荷が除電物質と接触することをより一層防止することができる。
【0028】
本発明に係るエレクトレットにおいて、絶縁体膜上に設けられた絶縁性被覆膜を更に備えていることが好ましい。
【0029】
このようにすると、電荷が帯電された絶縁体膜と、絶縁性被覆膜とが積層されてなる積層型エレクトレットが構成されるため、帯電された電荷が除電物質と接触することを防止することができるため、除電物質によって電荷(特に、例えばダングリングボンドに捕獲されていない電荷)が除電されることを防止することができるので、より一層高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0030】
本発明に係るエレクトレットにおいて、絶縁性被覆膜には、電荷が帯電されていることが好ましい。
【0031】
このようにすると、電荷が帯電された絶縁体膜と、電荷が帯電された絶縁性被覆膜とが積層されてなる積層型エレクトレットが構成されるため、積層型エレクトレットが、絶縁体膜に帯電された電荷量と、絶縁性被覆膜に帯電された電荷量との和に相当する電荷量を有するように構成されるので、充分な電荷量が帯電された積層型エレクトレットを提供することができる。
【0032】
本発明に係るエレクトレットにおいて、絶縁体膜は、パーフルオロ非晶質フッ素ポリマー樹脂からなることが好ましい。
【0033】
このようにすると、本件発明者らの実験的な検討により、パーフルオロ非結晶フッ酸ポリマー樹脂からなるエレクトレットが、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等からなる従来のエレクトレットと比較して、高い電荷保持特性を示すことが見出されており、パーフルオロ非結晶フッ酸ポリマー樹脂からなるエレクトレットを用いることにより、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0034】
本発明に係るエレクトレットにおいて、絶縁体膜は、半導体基板上に形成されたシリコン酸化膜からなることが好ましい。
【0035】
このようにすると、半導体基板上に形成された例えばトランジスタを含む半導体装置内に、本発明に係るエレクトレットを容易に組み込むことができる。
【0036】
本発明に係るエレクトレットを備えたコンデンサは、音響感応装置として機能するコンデンサであって、振動電極と、振動電極と対向するように配置された固定電極と、振動電極と固定電極との間に設けられ、電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレットとを備え、エレクトレットは、電荷が保持されるように、絶縁体膜の表面のうちの少なくとも一面が改質されてなる改質面を有していることを特徴とする。
【0037】
本発明に係るエレクトレットを備えたコンデンサによると、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを用いることができるため、長寿命な音響感応装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係るエレクトレット及びその製造方法によると、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。そのため、本発明に係るエレクトレットを備えたコンデンサを、例えばコンデンサ型マイクロホン等の音響感応装置に適用した場合、長寿命な音響感応装置を実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明は、絶縁体膜に対して帯電処理を施す前に、絶縁体膜に対して改質処理を施すことにより、絶縁体膜における改質処理が施された改質面に電荷が安定に保持されたエレクトレットを実現することによって、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを実現するものである。
【0040】
ここで、「改質面」とは、電荷が安定に保持されるように表面状態を変化させた面であり、具体的には、電荷を捕獲することが可能なダングリングボンド、又は電荷を捕獲することが可能な安定エネルギー準位を多数含むように表面状態を変化させた面である。
【0041】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0042】
(第1の実施形態)
以下に、本発明の第1の実施形態に係るエレクトレットについて、エレクトレットを備えたコンデンサを具体例に挙げて、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係るエレクトレットの構造について示す断面図である。
【0043】
本実施形態に係るエレクトレットを備えたコンデンサは、主要な構成要素として、図1に示すように、振動電極(図示せず)、金属板からなる固定電極11、及び電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレット12を備えており、図1に示すように、本実施形態に係るエレクトレットは、凹凸を設けた改質面に電荷が保持されたエレクトレットである。
【0044】
以下に、本発明の第1の実施形態に係るエレクトレットの製造方法について、エレクトレットを備えたコンデンサを具体例に挙げて、図1を参照しながら簡単に説明する。
【0045】
図1に示すように、金属板からなる固定電極11とシリコン酸化膜からなる絶縁体膜とを貼り合わせた後、絶縁体膜上に形成されたマスクを用いて絶縁体膜をエッチングすることにより、エッチング加工が施された加工面に凹凸を設ける。その後、コロナ放電により加工面にイオンを吸着させる、又は電子ビームにより加工面に向かって電子を注入させることにより、電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレット12を形成する。
【0046】
このように、本実施形態では、絶縁体膜に対して帯電処理を施す前に、絶縁体膜に対して改質処理を施す。具体的には、絶縁体膜に対してエッチング加工を施すことにより、エッチング加工が施された加工面に凹凸を設けて、加工前と比較して、加工後の加工面の表面状態を変化させる。これにより、表面状態を変化させた加工面に対して帯電処理を施すことができるため、加工面に電荷を安定に保持することができるので、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0047】
ここで、本実施形態に係るエレクトレットが高い電荷保持特性を示す理由として、以下に示すことが考えられる。
【0048】
第1に、ある表面の表面状態が変化すると、その表面に含まれるエネルギー準位数が変化することが一般に知られている。本実施形態では、加工面に凹凸を設けて加工面の表面状態を変化させることにより、加工前と比較して、加工後の加工面の表面積を増大させ、加工後の加工面に含まれる安定エネルギー準位数を増加させることができると考えられる。すなわち、改質面に含まれる安定エネルギー準位数の割合を、非改質面に含まれる安定エネルギー準位数の割合よりも高くさせることができると考えられる。ここで、「安定エネルギー準位」とは、絶縁体膜からなるエレクトレットの伝導帯下端エネルギーよりも比較的低いエネルギー準位、言い換えれば、エレクトレットの伝導帯下端エネルギーに比較的遠いエネルギー準位であると推測される。そのため、安定エネルギー準位を多数含む加工面に対して帯電処理を施すことにより、加工面に含まれる安定エネルギー準位に電荷を捕獲させることができる。安定エネルギー準位に捕獲された電荷は、除電物質によって容易に除電されることはないため、加工面に電荷を安定に保持することができるので、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0049】
第2に、本実施形態では、加工面に凹凸を設けて加工面の表面状態を変化させることにより、加工前と比較して、加工後の加工面の表面積を増大させ、加工後の加工面に含まれるダングリングボンド数を増大させることができると考えられる。すなわち、改質面に含まれるダングリングボンド数の割合を、非改質面に含まれるダングリングボンド数の割合よりも高くさせることができると考えられる。ここで、ダングリングボンドが存在すると、ダングリングボンドに電荷が捕獲されることが一般に知られている。そのため、ダングリングボンドを多数含む加工面に対して帯電処理を施すことにより、加工面に含まれるダングリングボンドに電荷を捕獲させることができる。ダングリングボンドに捕獲された電荷は、除電物質によって容易に除電されることはないため、加工面に電荷を安定に保持することができるので、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0050】
尚、本実施形態では、電荷を安定に保持可能な改質面として、凹凸を設けた加工面を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
(第2の実施形態)
以下に、本発明の第2の実施形態に係るエレクトレットについて、エレクトレットを備えたコンデンサを具体例に挙げて、図2を参照しながら説明する。図2は、本発明の第2の実施形態に係るエレクトレットの構造について示す断面図である。
【0052】
ここで、電荷を安定に保持可能な改質面として、前述の第1の実施形態では、凹凸を設けた改質面を採用するのに対し、第2の実施形態では、ダメージを与えた改質面を採用する。
【0053】
本実施形態に係るエレクトレットを備えたコンデンサは、主要な構成要素として、図2に示すように、振動電極(図示せず)、金属板からなる固定電極21、及び電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレット22を備えており、図2に示すように、本実施形態に係るエレクトレットは、ダメージを与えた改質面に電荷が保持されたエレクトレットである。
【0054】
以下に、本発明の第2の実施形態に係るエレクトレットの製造方法について、エレクトレットを備えたコンデンサを具体例に挙げて、図2を参照しながら簡単に説明する。
【0055】
図2に示すように、金属板からなる固定電極21とシリコン酸化膜からなる絶縁体膜とを貼り合わせた後、絶縁体膜の表面をスパッタすることにより、スパッタ加工が施された加工面にダメージを与える。これにより、ダメージによって、加工面付近に位置する共有結合を切断することにより、加工面に微細な凹凸を設けると共に加工面にダンクリングボンドを形成する。その後、コロナ放電により加工面にイオンを吸着させる、又は電子ビームにより加工面に向かって電子を注入させることにより、電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレット22を形成する。
【0056】
このように、本実施形態では、絶縁体膜に対して帯電処理を施す前に、絶縁体膜に対して改質処理を施す。具体的には、絶縁体膜に対してスパッタ加工を施すことにより、スパッタ加工が施された加工面に、微細な凹凸を設けると共にダングリングボンドを形成することにより、加工前と比較して、加工後の加工面の表面状態を変化させる。
【0057】
ここで、一般に、ダングリングボンドが存在すると、ダングリングボンドに電荷が捕獲されることが知られており、ダングリングボンドが加工面に形成されると、ダングリングボンドに起因して安定エネルギー準位が加工面に形成されるため、ダングリングボンドに電荷が捕獲されると考えられる。
【0058】
本実施形態では、加工面にダメージを与えて加工面にダングリングボンドを形成することにより、加工前と比較して、加工後の加工面に含まれるダングリングボンド数を確実に増加させることができる。加えて、本実施形態では、加工面にダメージを与えて加工面に微細な凹凸を設けることにより、前述の第1の実施形態と同様に、加工前と比較して、加工後の加工面の表面積を増大させ、加工後の加工面に含まれるダングリングボンド数(安定エネルギー準位数)を増加させることができると考えられる。
【0059】
このため、本実施形態では、前述の第1の実施形態と比較して、ダングリングボンド(安定エネルギー準位)をより一層多数含む改質面に対して帯電処理を施すことができるので、加工面に含まれるダングリングボンド(安定エネルギー準位)に電荷を捕獲させることができる。ダングリングボンド(安定エネルギー準位)に捕獲された電荷は、除電物質によって容易に除電されることはないため、加工面に電荷を安定に保持することができるので、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを確実に提供することができる。
【0060】
尚、本実施形態では、加工面にダメージを与える方法として、加工面にスパッタ加工を施す方法を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、加工面にパターンニング加工を施す場合においても、本発明と同様の効果を得ることができる。
【0061】
また、第1及び第2の実施形態では、エレクトレットを構成する絶縁体膜としてシリコン酸化膜を用いた場合を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、エレクトレットを構成する絶縁体膜としてパーフルオロ非結晶フッ酸ポリマー樹脂を用いても良い。
【0062】
<第1の変形例>
以下に、本発明の第1の変形例に係るエレクトレットとして、エレクトレットを備えたコンデンサを具体例に挙げて、図3を参照しながら説明する。図3は、本発明の第1の変形例に係るエレクトレットの構造について示す断面図である。図3において、前述の図2に示すコンデンサと同一の構成要素については、同一の符号を付す。したがって、本変形例では、前述の第2の実施形態と同様の説明は繰り返し行わない。
【0063】
本変形例に係るエレクトレットを備えたコンデンサは、主要な構成要素として、図3に示すように、振動電極(図示せず)、金属板からなる固定電極21、及び電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレット22を備えており、本変形例に係るエレクトレットは、ダメージを与えた改質面に電荷が保持されたエレクトレットである。前述の第2の実施形態と本変形例との相違点は、図3に示すように、エレクトレット22の表面及び側面を覆うように、疎水性被覆膜33が設けられている点である。
【0064】
ここで、ダングリングボンドに捕獲されていない電荷は、ダングリングボンドに捕獲された電荷と比較して、除電物質によって容易に除電されるという問題がある。
【0065】
そこで、本変形例では、エレクトレット22の表面及び側面を覆う疎水性被覆膜33を設けることによって、電荷が除電物質と接触することを確実に防止することができるため、除電物質によって電荷(特に、ダングリングボンドに捕獲されていない電荷)が除電されることを確実に防止することができるので、より一層高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0066】
<第2の変形例>
以下に、本発明の第2の変形例に係るエレクトレットとして、エレクトレットを備えたコンデンサを具体例に挙げて、図4を参照しながら説明する。図4は、本発明の第2の変形例に係るエレクトレットの構造について示す断面図である。図4において、前述の図2に示すコンデンサと同一の構成要素については、同一の符号を付す。したがって、本変形例では、前述の第2の実施形態と同様の説明は繰り返し行わない。
【0067】
本変形例に係るエレクトレットを備えたコンデンサは、主要な構成要素として、図4に示すように、振動電極(図示せず)、金属板からなる固定電極21、及び電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレット22を備えており、本変形例に係るエレクトレットは、ダメージを与えた改質面に電荷が保持されたエレクトレットである。前述の第2の実施形態と本変形例との相違点は、図4に示すように、エレクトレット22の表面を覆うように、絶縁性被覆膜43が設けられている点である。これにより、絶縁体膜からなるエレクトレット22と絶縁性被覆膜43とが積層されてなる積層型エレクトレット44を実現することができる。
【0068】
ここで、絶縁性被覆膜43に電荷を帯電させることなく用いた場合、及び絶縁性被覆膜43に電荷を帯電させて用いた場合の各々について、以下に説明する。
【0069】
第1に、絶縁性被覆膜43に電荷を帯電させることなく用いた場合、前述の第1の変形例と同様に、エレクトレット22の表面を覆う絶縁性被覆膜43を設けることによって、電荷が除電物質と接触することを防止することができるため、除電物質によって電荷(特に、ダングリングボンドに捕獲されていない電荷)が除電されることを防止することができるので、より一層高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。
【0070】
第2に、絶縁性被覆膜43に電荷を帯電させて用いた場合、前述の第1の変形例と同様の効果に加えて、更なる効果を得ることができる。具体的には、エレクトレット22に帯電された電荷量と絶縁性被覆膜43に帯電された電荷量との和に相当する電荷量を有する積層型エレクトレット44を構成することができるので、充分な電荷量が帯電されてなる積層型エレクトレット44を実現することができる。
【0071】
特に、例えば、絶縁性被覆膜43に電荷が帯電されてなるエレクトレットとして、絶縁体膜に対して改質処理を施すことなく帯電処理を施す従来のエレクトレットではなく、絶縁体膜における改質処理が施された改質面に対して帯電処理を施す本発明のエレクトレットを用いた場合、本発明のエレクトレットは、従来のエレクトレットと比較して、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを実現することができるので、積層型エレクトレット44が有する電荷量の増大を効果的に図ることができる。
【0072】
以上のように、本発明の第1の実施形態,第2の実施形態,第1の変形例,第2の変形例に係るエレクトレット及びその製造方法によると、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを提供することができる。そのため、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを備えたコンデンサを実現することができる。
【0073】
(第3の実施形態)
以下に、本発明の第3の実施形態に係る音響感応装置、具体的には、本発明の第2の実施形態に係るエレクトレット22を備えたコンデンサ2を有するコンデンサ型マイクロホン5について、図5を参照しながら説明する。図5は、本発明の第3の実施形態に係る音響感応装置、具体的には、本発明の第2の実施形態に係るエレクトレット22を備えたコンデンサ2の構造と、コンデンサ2と電気的に接続する回路とについて示す図である。
【0074】
コンデンサ型マイクロホン5は、図5に示すように、前述の図2に示すコンデンサと同様の構造を有するコンデンサ2を備えており、コンデンサ2は、図5に示すように、主要な構成要素として、振動電極20、振動電極20と対向するように配置された金属板からなる固定電極21、及び振動電極20と固定電極21との間に配置されるように固定電極21側に貼り合わせたエレクトレット22を備えている。
【0075】
コンデンサ型マイクロホン5は、図5に示すように、振動電極20とFET53とが電気的に接続されている一方、固定電極21とGND59とが電気的に接続されている。また、FET53のドレイン側とFET53のドレイン側と電気的に接続する電源57との間には、第1の抵抗器54が設けられていると共に、FET53のソース側とFET53のソース側と電気的に接続する出力端子58との間には、コンデンサ56が電気的に接続されている一方、FET53のソース側とFET53のソース側と電気的に接続するGND59との間には第2の抵抗器55が設けられている。
【0076】
本実施形態に係る音響感応装置によると、コンデンサを構成するエレクトレットとして、高い電荷保持特性を有するエレクトレットを用いるため、長寿命な音響感応装置を実現することができる。
【0077】
尚、本実施形態では、音響感応装置としてコンデンサ型マイクロホンを具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、圧力センサ等を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、エレクトレットの電荷保持特性を向上させることができるので、エレクトレット及びその製造方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るエレクトレットの構造について示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るエレクトレットの構造について示す断面図である。
【図3】本発明の第1の変形例に係るエレクトレットの構造について示す断面図である。
【図4】本発明の第2の変形例に係るエレクトレットの構造について示す断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る音響感応装置について示す図である。
【図6】従来のエレクトレットを備えたコンデンサの構造について示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0080】
11 固定電極
12 エレクトレット
2 コンデンサ
20 振動電極
21 固定電極
22 エレクトレット
33 疎水性被覆膜
43 絶縁性被覆膜
44 積層型エレクトレット
5 コンデンサ型マイクロホン
53 FET
54 第1の抵抗器
55 第2の抵抗器
56 コンデンサ
57 電源
58 出力端子
59 GND
6 コンデンサ型マイクロホン
60 振動電極
61 固定電極
61A エレクトレット固定電極
62 エレクトレット
63 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレットであって、
前記電荷が保持されるように、前記絶縁体膜の表面のうちの少なくとも一面が改質されてなる改質面を有していることを特徴とするエレクトレット。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトレットにおいて、
前記改質面は凹凸が設けられた面であることを特徴とするエレクトレット。
【請求項3】
請求項1に記載のエレクトレットにおいて、
前記改質面に含まれるダングリングボンド数の割合は、前記絶縁体膜の表面のうちの前記改質面以外の非改質面に含まれるダングリングボンド数の割合よりも高いことを特徴とするエレクトレット。
【請求項4】
請求項1に記載のエレクトレットにおいて、
前記改質面に含まれる安定エネルギー準位数の割合は、前記絶縁体膜の表面のうちの前記改質面以外の非改質面に含まれる安定エネルギー準位数の割合よりも高く、
前記安定エネルギー準位は、前記電荷が保持されるようなエネルギー準位であることを特徴とするエレクトレット。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のエレクトレットにおいて、
前記改質面は、前記絶縁体膜におけるエッチング加工が施された加工面、又は前記絶縁体膜におけるスパッタ加工が施された加工面であることを特徴とするエレクトレット。
【請求項6】
請求項1に記載のエレクトレットにおいて、
前記絶縁体膜の前記改質面を覆う疎水性被覆膜を更に備えていることを特徴とするエレクトレット。
【請求項7】
請求項6に記載のエレクトレットにおいて、
前記疎水性被覆膜は、前記絶縁体膜の前記表面を覆うように設けられていることを特徴とするエレクトレット。
【請求項8】
請求項1に記載のエレクトレットにおいて、
前記絶縁体膜上に設けられた絶縁性被覆膜を更に備えていることを特徴とするエレクトレット。
【請求項9】
請求項8に記載のエレクトレットにおいて、
前記絶縁性被覆膜には、電荷が帯電されていることを特徴とするエレクトレット。
【請求項10】
請求項1に記載のエレクトレットにおいて、
前記絶縁体膜は、パーフルオロ非晶質フッ素ポリマー樹脂からなることを特徴とするエレクトレット。
【請求項11】
請求項1に記載のエレクトレットにおいて、
前記絶縁体膜は、半導体基板上に形成されたシリコン酸化膜からなることを特徴とするエレクトレット。
【請求項12】
音響感応装置として機能するコンデンサであって、
振動電極と、
前記振動電極と対向するように配置された固定電極と、
前記振動電極と前記固定電極との間に設けられ、電荷が帯電された絶縁体膜からなるエレクトレットとを備え、
前記エレクトレットは、前記電荷が保持されるように、前記絶縁体膜の表面のうちの少なくとも一面が改質されてなる改質面を有していることを特徴とするコンデンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate