説明

エレクトレット材料用重合体組成物、エレクトレット材料

【課題】 静電誘導型振動発電用材料として好適に用いることができるエレクトレット材料、及び、それを得るためのエレクトレット材料用重合体組成物を提供する。
【解決手段】 特定量の無機誘電体とフッ素含有重合体とを含むエレクトレット材料用重合体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレット材料用重合体組成物及びそれを用いて得られるエレクトレット材料に関する。より詳しくは、静電誘導型振動発電用材料を形成するために好適に用いることができるエレクトレット材料用重合体組成物、及び、該組成物によって形成される材料であって、静電誘導型振動発電装置におけるエレクトレット電極基板上の電極を構成するエレクトレット材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレット材料は、誘電特性を有する材料によって構成された荷電体であり、近年においては、いわゆる静電誘導型変換素子としての使用が提案され、実用化へ向け研究が始められつつある。例えば、絶縁材料に電荷を注入したエレクトレット材料によって誘導電荷を発生させて発電するというような静電誘導を利用した発電素子への適用が期待されるところである。このようなエレクトレット方式発電による発電素子は、素子の小型化が可能であることから、急速に普及しているモバイル等の電子機器に好適なものとして関心が高まっている。
【0003】
従来のエレクトレットに関する技術としては、有機高分子と、比誘電率が2.0〜4.0×10の無機微粒子とを含む有機無機複合材料からなる層を有するエレクトレットが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、エレクトレット材料を作製するための組成物と同様な組成物として、無機誘電体とフッ素化芳香族ポリマーを含有する複合誘電体用液状組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
これらは、誘電体としての無機材料を樹脂材料に含有させたものであり、無機材料や樹脂材料を特定することによって注入された電荷の熱安定性を高めたり、高い誘電率を得ようとしたりするものであった。このように、無機材料と樹脂材料とを組み合わせ、それによって誘電特性を有する材料を構成することは開示されているが、エレクトレット方式発電に好適なものとし、発電素子としての性能を実用化に向けてより高めるためには、種々の技術課題を克服する必要があり、従来技術における誘電体を得る構成に対して工夫を施す余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−253050号公報(第1−2頁)
【特許文献2】再公表特許WO2005/033209号公報(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エレクトレット方式発電の中でも、静電誘導型振動発電が誘電特性を効率よく利用して発電する方式として有用である。
その原理を説明するための発電素子の概念図を示せば図1のようになる。この図1においては、エレクトレット電極基板と対向電極基板とが対向して導通され、両基板は導電性を有する材料(例えば、メタル材料)によって構成されている。それぞれの電極基板上に他方の電極基板に対して対向するように複数の電極が配置され、エレクトレット電極基板上の複数の電極は、エレクトレット材料からなり、絶縁層を介して設置されている。対向電極基板上の複数の電極は、導電性を有する材料(例えば、メタル材料)によって構成されている。
【0006】
このような発電素子において、エレクトレット材料からなる電極に対してプラスの電荷を注入すると、対向電極にマイナスの誘電電荷が発生する。そして、この発電素子に振動を与えると、両基板の他の基板に対する位置がずれることとなり、図1においては、エレクトレット電極基板に対して対向電極基板の水平方向の位置がずれていることが示されている。このときに、プラス電荷とマイナス電荷とが対向してつり合っていたのが、電極どうしの位置がずれることによってつり合わなくなり、そのために対向電極にあったマイナス電荷が移動し、それにともなって電流(P)が発生する。
すなわち、エレクトレット材料による静電誘導型振動発電の原理としては、(1)エレクトレット材料による誘導電荷発生、(2)振動発電による電荷移動で交流発生ということを挙げることができる。振動発電出力の最大値を振動発電出力(Pmax)とすると、これは電荷を注入した時点の電極における表面電荷密度(σ)の2乗に比例することになる。
【0007】
上記表面電荷密度(σ)を導く理論式は、下記数式(1)によって表すことができる。
【0008】
【数1】

【0009】
σ:表面電荷密度(mC/m
ε:比誘電率
εo:真空誘電率(F/m)
V:表面電位値(V)
d:膜厚(m)
上記したような静電誘導型振動発電等に有用なエレクトレット材料においては、振動発電出力(Pmax)を向上することができるような材料設計が求められるところであるが、本発明者らは、これに関して(1)高表面電荷密度、(2)経時減衰抑制、(3)耐熱性という3つの技術課題を挙げて研究開発に取り組んだところ、無機材料と樹脂材料とによるエレクトレット材料を静電誘導型振動発電等に有用なものとして実用化を実現するためには、特に、高表面電荷密度の点で従来技術における材料では更なる改善の余地があることを見いだしたものである。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、エレクトレット電極としたときに高表面電荷密度が得られ、静電誘導型振動発電のための発電素子用材料を形成する樹脂組成物として好適に用いることができるエレクトレット材料用重合体組成物、及び、該組成物によって得られるエレクトレット材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、エレクトレット材料用重合体組成物についてその構成を種々検討したところ、先ず、上述したように、無機材料と樹脂材料(バインダー)とによるエレクトレット材料を静電誘導型振動発電等に有用なものとして実用化するためには、いくつかの乗り越えるべき課題があること自体を見いだした。次いで、無機材料と樹脂材料とを組み合わせた組成物によるエレクトレット材料の表面電荷密度において、無機材料が比誘電率(ε)に関係し、樹脂材料が表面電位値(V)に関係することを見いだし、エレクトレット材料としての基本性能を向上させるためには、無機誘電体とフッ素含有重合体とを含む組成物とすることが好適であることに着目した。そして、表面電荷密度(σ)を向上し、高表面電荷密度とするためには、無機誘電体の組成物中の含有量をある特定量以上に高く設定しなければならないこと、そのような重合体組成物を用いてエレクトレット材料を作製すると、静電誘導型振動発電等に有用なものとなることを見いだし、上記課題を見事に解決できることに想到し、本発明に到達したものである。また、種々の無機誘電体の中から、チタン酸バリウムを選択しこれを必須として用いると、表面電荷密度(σ)に関する性能を際立って高いものとすることができることを見いだしたものである。このように、無機誘電体として選択特定されたチタン酸バリウムを用いる場合は、エレクトレット材料を静電誘導型振動発電等に適用したときに際立って優れた性能を示すこととなり、このことは静電誘導型振動発電等の実用化にとって極めて大きな技術的意義を有するものである。
【0012】
なお、特許文献1に開示された技術おいては、実施形態として、無機粒子として酸化ジルコニウムや酸化チタンを、有機高分子(バインダー)として脂肪族環状フッ素重合体を用い、界面活性剤を含むポリマー溶液と無機粒子分散溶液とを混合し、抽出操作を行うことにより無機粒子の含有量が有機無機複合材料の固形分100質量%に対して1.9〜11.3質量%である組成物を作製している。そして得られた組成物をスピンコート法により基板に塗布し、コロナ放電によって電荷を注入することでエレクトレットを作製している。このようにして得られたエレクトレットの物性としては、表面電荷密度が−2.0〜−3.6mC/mに相当するものであった。
ここで、薄膜のエレクトレット材料としても膜の平滑性を保つためには、無機粒子が非常に細かいものである必要があるが、無機粒子が非常に細かいものであると無機粒子の表面積が増大するため、ポリマー溶液への無機粒子の分散性は著しく低下することとなる。そこで特許文献1に開示の技術においては、無機粒子を凝集させることなくポリマー溶液に分散させるために、ポリマー溶液と無機粒子分散溶液とを一旦混合し、ポリマー溶液中の界面活性剤を用いて無機粒子を分散させた状態でポリマー溶液に移行させ、その後に抽出操作を行うという手法を用いている。
【0013】
すなわち本発明は、無機誘電体とフッ素含有重合体とを含むエレクトレット材料用重合体組成物であって、上記組成物は、無機誘電体を、組成物の固形分100重量%に対して、5重量%以上含むことを特徴とするエレクトレット材料用重合体組成物である。
また本発明は、無機誘電体とフッ素含有重合体とを含むエレクトレット材料用重合体組成物であって、上記無機誘電体は、チタン酸バリウムを必須とすることを特徴とするエレクトレット材料用重合体組成物でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物は、無機誘電体とフッ素含有重合体とを含むものであり、それらはそれぞれ1種含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。また、上記重合体組成物は、無機誘電体とフッ素含有重合体とを含む限りその他の成分を含んでいてもよい。
【0015】
本発明においては、上記重合体組成物において、無機誘電体を、組成物の固形分100重量%に対して、5重量%以上含むものとするか、又は、無機誘電体として、チタン酸バリウムを必須として用いるかによって、表面電荷密度の高いエレクトレット材料を作製することが可能となるものである。そこで、エレクトレット材料用重合体組成物のうち、無機誘電体を、組成物の固形分100重量%に対して、5重量%以上含むものを本発明の第1のエレクトレット材料用重合体組成物とも記載する。
また、無機誘電体として、チタン酸バリウムを必須として用いるものを本発明の第2のエレクトレット材料用重合体組成物とも記載する。そして、本発明の第1のエレクトレット材料用重合体組成物、第2のエレクトレット材料用重合体組成物を合わせて本発明のエレクトレット材料用重合体組成物と記載する。
本発明においては、第1のエレクトレット材料用重合体組成物、第2のエレクトレット材料用重合体組成物のいずれかに該当する重合体組成物であれば、上述した効果を得ることができるが、第1のエレクトレット材料用重合体組成物、第2のエレクトレット材料用重合体組成物のいずれにも該当する重合体組成物がより好ましい。
【0016】
まず、本発明の第1のエレクトレット材料用重合体組成物について述べる。
本発明の第1のエレクトレット材料用重合体組成物は、無機誘電体を、組成物の固形分100重量%に対して、5重量%以上含むものである。このような範囲で無機誘電体を含むことにより、上記重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料が、充分に高い表面電荷密度を有するものとなる。無機誘電体の好ましい含有量としては、組成物の固形分100重量%に対して、10重量%以上であり、より好ましくは、20重量%以上である。ただし、無機誘電体の含有量が高くなりすぎると、上記重合体組成物の粘度が高くなり、取り扱い性が低下する恐れや、上記重合体組成物を基板等に塗工して塗膜を形成した場合にその塗膜が脆くなる恐れがあるため、無機誘電体の含有量としては、99重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、96重量%以下であり、更に好ましくは、93重量%以下である。
【0017】
上記無機誘電体としては、比誘電率が200以上であるものが好ましい。比誘電率がこのような範囲である無機誘電体を用いることによって、本発明の第1のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料を、より高い表面電荷密度を有するものとすることができる。上記無機誘電体の比誘電率としてより好ましくは、400以上であり、更に好ましくは、600以上であり、特に好ましくは、800以上である。
このように、無機誘電体の比誘電率が、200以上であることもまた、本発明の第1のエレクトレット材料用重合体組成物の好適な実施形態の1つである。
【0018】
上記無機誘電体としては、ペルブスカイト結晶構造を有するABO型の誘電体およびこの2元系または3元系の複合ペルブスカイト系誘電体が好ましく、その他、酸化チタンも用いることができる。
【0019】
上記ABO型の誘電体としては、例えば、チタン酸鉛PbTiO、タングステン酸鉛PbWO、亜鉛酸鉛PbZnO、鉄酸鉛PbFeO、マグネシウム酸鉛PbMgO、ニオブ酸鉛PbZbO、ニッケル酸鉛PbNiO、ジルコン酸鉛PbZrO、チタン酸バリウムBaTiO、チタン酸ストロンチウムSrTiO、ジルコン酸カルシウムCaZrO、チタン酸カルシウムCaTiO、チタン酸亜鉛ZnTiO、チタン酸マグネシウムZnTiO、ジルコン酸バリウムBaZrO、ジルコン酸マグネシウムMgZrO、ジルコン酸亜鉛ZnZrO等が挙げられる。
【0020】
上記2元系または3元系の複合ペルブスカイト系誘電体としては、例えば、(BaSr(1−x))(SnTi(1−y))O、Ba(TiSn(1−x))O、BaSr(1−x)TiO、BaTiO−CaZrO、BaTiO−BiTi12、(BaCa(1−x))(ZrTiO(1−y))O等が挙げられる。
【0021】
上記無機誘電体としては、上述したものの中でも、チタン酸バリウムがより好ましい。
本発明におけるチタン酸バリウムは、BaTiO、BaTiO−BiTi12等のチタン原子、バリウム原子及び酸素原子からなるチタン酸バリウムとして称される化合物であることが好ましいが、その他にも、これらの原子を必須として構成される化合物であればよい。すなわち、チタン原子、バリウム原子及び酸素原子を必須とする無機化合物構造を有する限り、その他の原子を有していてもよい。静電誘導型振動発電等に対して好適な形態としては、BaTiO、BaTiO−BiTi12等のチタン酸バリウムと同等と評価できる程度の比誘電率(ε)を得ることができる、チタン原子、バリウム原子及び酸素原子を必須とする無機化合物である。
【0022】
上記無機誘電体の形状としては、粒子状、繊維状、燐片状、円錐状等が挙げられる。
また、上記無機誘電体の平均粒子径としては、上記重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の厚みを考慮して適宜選択されるが、薄膜として用いる場合には、0.01〜10μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜5μmの範囲内であることがさらに好ましく、0.5〜3μmの範囲内が最も好ましい。また、無機誘電体の体積当たりの比表面積は、1m/g〜10m/gの範囲内が好ましく、2m/g〜8m/gの範囲内がさらに好ましく、2m/g〜5m/gの範囲内が最も好ましい。
【0023】
次に、本発明の第2のエレクトレット材料用重合体組成物について述べる。
本発明の第2のエレクトレット材料用重合体組成物は、無機誘電体がチタン酸バリウムを必須とするものである。
【0024】
本発明の第2のエレクトレット材料用重合体組成物における無機誘電体の含有量としては、組成物の固形分100重量%に対して、5〜99重量%であることが好ましい。無機誘電体の含有量が5重量%未満である場合には、上記重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の表面電荷密度が充分に高いものとならない恐れがある。一方、99重量%を超える含有量の無機誘電体を上記重合体組成物に含めることとすると、上記重合体組成物の粘度が高くなり、取り扱い性が低下する恐れや、上記重合体組成物を基板等に塗工して塗膜を形成した場合にその塗膜が脆くなる恐れがある。無機誘電体の含有量としてより好ましくは、組成物の固形分100重量%に対して、10〜96重量%であり、更に好ましくは、20〜93重量%である。
【0025】
本発明の第2のエレクトレット材料用重合体組成物における無機誘電体の形状及び平均粒子径は、上述した形状及び範囲と同様のものとすることができる。
【0026】
以下においては、本発明の第1のエレクトレット材料用重合体組成物、第2のエレクトレット材料用重合体組成物に共通する内容について述べる。
本発明において用いられるフッ素含有重合体としては、ガラス転移点温度(Tg)が150℃以上であることが好ましい。ガラス転移点温度が150℃未満では、エレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の耐熱性が低下するおそれがある。フッ素含有重合体のガラス転移点温度は150℃〜400℃の範囲内であることがより好ましく、170℃〜300℃の範囲内であることが更に好ましい。
なお、ガラス転移点温度は、DSC(製品名;DSC6200、セイコー電子工業社製)を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度の条件で測定することができる。
【0027】
上記フッ素含有重合体の表面抵抗値は、1.0×1015Ω/cm以上であることが好ましい。表面抵抗値が1.0×1015Ω/cm未満では、エレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の絶縁性が低下する恐れがある。フッ素含有重合体の表面抵抗値は1.0×1017Ω/cm以上の範囲内がさらに好ましい。
なお、表面抵抗値は、抵抗値測定装置(製品名;High Resistance Meter 4329A & Resistivity Cell 16008A、ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)社製)を用いて、測定電圧500Vの条件で測定することができる。
【0028】
上記フッ素含有重合体の平均分子量は、数平均分子量(Mn)で5,000〜500,000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が5,000未満ではエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の耐熱性が低下する恐れがあり、数平均分子量が500,000を超えると重合体組成物の粘度が高くなり、作業性が低下する恐れがある。上記数平均分子量(Mn)は10,000〜200,000の範囲内がより好ましく、10,000〜100,000の範囲内が更に好ましい。
【0029】
また、上記フッ素含有重合体の多分散度(重量平均分子量/数平均分子量;Mw/Mn)は、1〜5の範囲内であることが好ましい。Mw/Mnが5を超えると、重合体組成物がゲル化してしまう恐れがある。上記多分散度(Mw/Mn)は1〜4.5の範囲内がより好ましく、1〜4の範囲内が更に好ましい。
なお、上記フッ素含有重合体の数平均分子量、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析装置(GPC)(製品名;HLC−8120GPC、東ソー社製)を用いて、カラムとしてG−5000HXL+GMHXL−L、展開溶媒としてTHF、標準として標準ポリスチレンを用い、流量1mL/分の条件で測定することができる。
【0030】
上記フッ素含有重合体は、フッ素化率が7〜80%であることが好ましい。このようなフッ素化率を有するフッ素含有重合体を用いることによって、無機誘電体とフッ素含有重合体との相互作用が適度に抑制されると考えられ、エレクトレット材料用重合体組成物を作製する上で支障をきたす現象、例えば大幅な増粘、ゲル化、流動性の損失、凝集等が低減される。よって、より多くの無機誘電体を配合したエレクトレット材料用重合体組成物を、無機誘電体とフッ素含有重合体とを混練する等の容易な方法により作製することが可能であり、エレクトレット材料としてより高い表面電荷密度を示すものとすることができるだけでなく、粘度を低下させることができるため、エレクトレット材料を薄膜状に成形することが容易となる。上記フッ素含有重合体のフッ素化率としてより好ましくは、10〜70%であり、更に好ましくは、15〜60%である。
なお、フッ素化率は、下記数式(2)により求めることができる。
【0031】
【数2】

【0032】
上記フッ素含有重合体は、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合の群より選ばれた少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位により構成されたフッ素化芳香族ポリマーであることが好ましい。そのような重合体としては、具体的には、例えば、フッ素原子を有するポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリアミド、ポリエーテルニトリル、ポリエステルなどが挙げられる。
【0033】
上記フッ素化芳香族ポリマーは、上述したものの中でも、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合を含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましく、下記一般式(1);
【0034】
【化1】

【0035】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。また、Zは2価の鎖又は直接結合を表す。m及びm’は0以上の整数であり、m+m’=1〜8を満たし、同一又は異なって、芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。nは、重合度を表わし、2〜5000の範囲内が好ましく、5〜500の範囲内がさらに好ましい。)で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルであることがより好ましい。なお、一般式(1)で表される繰り返し単位は、同一であっても異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0036】
上記一般式(1)において、m+m’は2〜8の範囲内が好ましく、4〜8の範囲内がより好ましい。
【0037】
上記一般式(1)において、エーテル構造部分(−O−R−O−)が芳香環に結合している位置については、Zに対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0038】
上記一般式(1)において、Rは2価の有機鎖であるが、下記の構造式群(2)で表されるいずれか一つ、あるいは、その組み合わせの有機鎖であることが好ましい。
なお、構造式群(2)中、Y〜Yは、同一若しくは異なって、水素原子又は置換基を表す。該置換基は、フッ素原子、アルキル基、又は、アルコキシル基を表し、1つのベンゼン環に同一又は異なって複数個あってもよい。
【0039】
【化2】

【0040】
上記一般式(1)におけるRのより好ましい形態としては、具体的には、下記の構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられる。
【0041】
【化3】

【0042】
上記一般式(1)において、Zは、2価の鎖又は直接結合していることを表す。該2価の鎖としては、例えば、下記構造式群(4)で表される鎖であることが好ましい。
なお、構造式群(4)中、Xは、炭素数1〜50の2価の有機鎖を表している。
【0043】
【化4】

【0044】
上記構造式群(4)におけるXとしては、例えば、上記構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられ、その中でもジフェニルエーテル鎖、ビスフェノールA鎖、ビスフェノールF鎖、フルオレン鎖が好ましい。
【0045】
本発明において用いられるフッ素含有重合体の合成方法としては、一般的な重合反応を用いればよく、例えば、縮合重合、付加重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられる。上記重合反応の際の反応温度や反応時間等の反応条件は適宜設定すればよい。また、上記重合反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0046】
例えば、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルの合成方法を挙げると、Zが上記構造式群(4)のうちの(4−6)であり、さらに、Xがジフェニルエーテル鎖であるフッ素原子を有するポリアリールエーテルを得る場合、有機溶媒中、塩基性化合物の存在下で、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(以下、「BPDE」という)と2価のフェノール化合物を加熱する方法等が挙げられる。
【0047】
上記の合成方法における反応温度としては、20℃〜150℃の範囲内が好ましく、50℃〜120℃の範囲内がさらに好ましい。
【0048】
上記の合成方法で使用される有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミドやメタノール等の極性溶媒やトルエン等の芳香族系溶媒が挙げられる。
【0049】
上記の合成方法で使用される塩基性化合物としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0050】
上記の合成方法において、2価のフェノール化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(以下、「6FBA」という)、ビスフェノールA(以下、「BA」という)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、「HF」という)、ビスフェノールF、ハイドロキノン、レゾルシノール等が挙げられる。
【0051】
上記2価のフェノール化合物の使用量は、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル1モルに対して、0.8〜1.2モルの範囲内が好ましく、0.9〜1.1モルの範囲内がさらに好ましい。
【0052】
上記の合成方法においては、反応終了後に、反応溶液より溶媒除去を行ない、必要により留去物を洗浄することにより、フッ素含有重合体が得られる。また、反応溶液をフッ素含有重合体の溶解度の低い溶媒中に加えることにより、該重合体を沈殿させ、沈殿物を濾過により分離することにより得ることもできる。
【0053】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物には、成形性や成膜性の向上、粘度調節を目的として、溶剤を配合することが好ましい。
【0054】
上記溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、ベンソニトリル等の芳香族系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
また、エレクトレット材料用重合体組成物の安定性を高める、乾燥性を調整する、又は、成形物・成形膜の物性を高めるために、いくつかの溶媒を併用した混合溶媒を用いてもよい。
【0055】
上記溶剤の配合量は、重合体組成物の全量100質量%に対して、1〜70質量%の範囲内が好ましい。溶剤の配合量が1質量%未満では、重合体組成物の粘度低減が十分でなく成形性が低下するおそれがある。また、70質量%を超えると得られたエレクトレット材料中に溶剤が残存して性能が低下するおそれがある。溶剤の配合量は、重合体組成物の全量100質量%に対して、2質量%〜60質量%の範囲内がより好ましく、3質量%〜50質量%の範囲内が更に好ましい。
【0056】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物には、必要に応じて、その他の化合物や副資材を含んでもよい。該その他の化合物や副資材としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等の樹脂、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ガラス、黒鉛等の無機充填材、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、分散剤等が挙げられる。
【0057】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物における、上記その他の化合物や副資材の配合量は、発明の効果を損なわない範囲であればよく、該重合体組成物100質量部に対して、0.001質量部〜500質量部の範囲内が好ましい。
【0058】
上述したものの中でも、本発明のエレクトレット材料用重合体組成物に分散剤を含有させる形態もまた本発明の好適な実施形態の1つである。上記分散剤としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の酸基含有分散剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル等の非イオン性分散剤;アルキルアミン塩、4級アンモニウム塩等のカチオン性分散剤;アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド等の両性分散剤等を用いることができる。これらの中でも好ましいものを商品名により挙げると、BYK−W9010、BYK−W995、BYK−W996(いずれも、ビッグケミージャパン社製)が挙げられる。
【0059】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の成形方法は、求められるエレクトレット材料の形状により適宜選択されるが、例えば、湿式コーティング法、プレス成形法、蒸着、CVD(化学気相成長)、スパッタリング等のドライブプロセス法等が挙げられる。これらの中でも、エレクトレット材料を薄層(薄膜)として用いる場合には、製膜プロセスの観点から湿式コーティング法が好ましい。
【0060】
上記湿式コーティング法としては、キャスティング、水上キャスティング、ディッピングコート、スピンコート、ロールコート、スプレイコート、ダイコート、バーコート、インクジェット、ラングミュア・ブロジェット、凸版印刷、グラビア印刷、平板印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の方法が挙げられる。これらの中でも、キャスティング法、スピンコート法、バーコート法が好ましい。
上述したような方法により、例えば、基板上にエレクトレット材料用重合体組成物を塗工して塗膜を形成した後、溶剤を乾燥して、薄層を形成することができる。このようにしてエレクトレット材料用重合体組成物から形成される層(以下、「複合材料層」という)に、電荷を注入することによりエレクトレット材料を作製することができる。
このような、本発明のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料もまた、本発明の1つである。
更には、上述したように、無機誘電体とフッ素含有重合体とを含むエレクトレット材料用重合体組成物からエレクトレット材料を製造する方法であって、上記製造方法は、無機誘電体とフッ素含有重合体とを混練して重合体組成物を作製する工程、得られた重合体組成物を基板上に塗工する工程、及び、電荷を注入する工程を含むエレクトレット材料の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0061】
上記基板としては、重合体組成物を塗工して得られた塗膜に電荷を注入する際にアースに接続することができる限り、特に制限されないが、基板の材質としては、例えば、金、白金、銅、アルミニウム、クロム、ニッケル等の導電性の金属が挙げられる。また、材質が導電性の金属以外の、例えば、シリコン等の半導体材料、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の有機高分子材料等の絶縁性の材料であっても、その表面にスパッタリング、蒸着、湿式コーティング等の方法で金属膜をコーティングしたものであれば用いることができる。
なお、基板は電荷注入後に剥離してもよい。
【0062】
本発明のエレクトレット材料を薄層(薄膜)として用いる場合、上記複合材料層の厚みとしては、0.1〜100μmの範囲内が好ましく、0.5〜50μmの範囲内がより好ましい。
【0063】
本発明のエレクトレット材料は、複合材料層を有するものであるが、複合材料層を有するものである限り、その他の層を有していてもよい。該その他の層とは、複合材料層と積層可能な層であり、例えば、保護層、上記フッ素含有重合体のみからなる層、上記無機誘電体と同様の無機物からなる層等が挙げられる。
【0064】
上記複合材料層の比誘電率は、5〜10,000の範囲内であることが好ましい。該比誘電率が5未満では、得られるエレクトレット材料が、エレクトレット材料として電荷を蓄積する容量の低いものとなる恐れがある。比誘電率は、10〜10,000の範囲内がより好ましく、15〜10,000の範囲内が更に好ましい。
なお、比誘電率は、誘電正接と共に、後述する実施例において行われているように、インピーダンスアナライザー(ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)社製、製品名「HP4294A」)を用いて測定することができる。
【0065】
上記電荷注入工程において、複合材料層に電荷を注入する方法としては、一般的に絶縁体を帯電させる方法であれば、特に制限されないが、例えば、ベルトコンベア式コロナ放電法、定置型コロナ放電法、電子ビーム衝突法、イオンビーム衝突法、放射線照射法、光照射法、接触帯電法、液体接触帯電法等が挙げられる。これらの中でも、作業容易性、生産性等の観点から、ベルトコンベア式コロナ放電法、電子ビーム衝突法が好ましい。
【0066】
上記電荷注入工程において、電荷を注入する際の温度としては、重合体組成物に含まれるフッ素含有重合体のガラス転移点温度以上であることが好ましい。このような温度範囲とすることにより、電荷注入後にエレクトレット材料に保持される電荷の安定性をより良くすることができる。電荷を注入する際の温度としてより好ましくは、フッ素含有重合体のガラス転移点温度よりも10〜20℃高い温度である。
また、電荷を注入する際の印加電圧としては、複合材料層の絶縁破壊電圧以下の範囲で、高電圧で印加することが好ましい。本発明における複合材料層においては、より好ましくは、−6〜−30kVであり、更に好ましくは、−8〜−15kVである。
【0067】
本発明のエレクトレット材料は、本発明のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるものであって、そのために、表面電荷密度の非常に高い材料である。上記エレクトレット材料の表面電荷密度としては、その絶対値が、5〜200mC/mであることが好ましい。このような範囲の表面電荷密度を有するエレクトレット材料は、表面電荷密度が非常に高い材料であるといえる。表面電荷密度としてより好ましくは、8〜200mC/mであり、更に好ましくは、10〜200mC/mである。
なお、表面電荷密度は、後述する実施例において行われているように、表面電位計(製品名;S−211、川口電気製作所社製)を用いて表面電位値を測定し、上述したように下記数式(1);
【0068】
【数3】

【0069】
(式中、σは、表面電荷密度(mC/m)を表す。εは、比誘電率を表す。εoは、真空誘電率(F/m)を表す。Vは、表面電位値(V)を表す。dは、膜厚(m)を表す。)で表される関係式により求めることができる。
【0070】
本発明のエレクトレット材料は、エレクトレット方式発電の中でも、静電誘導型振動発電のための発電素子として有用なものである。
その構成等は、図1において上述したようである。すなわち、エレクトレット電極基板と対向電極基板とが対向して導通され、両基板は導電性を有する材料によって構成された静電誘導型振動発電素子であって、それぞれの電極基板上に他方の電極基板に対して対向するように複数の電極が配置され、エレクトレット電極基板上の複数の電極は、エレクトレット材料からなり、絶縁層を介して設置され、対向電極基板上の複数の電極は、導電性を有する材料によって構成されたものである。導電性を有する材料としては、通常、基板や電極に用いられるメタル材料が挙げられる。
【0071】
上記静電誘導型振動発電素子においては、上記したようにエレクトレット材料を金属電極と対向させ、一方をもう一方に沿って振動させることで誘導電荷が発生し、その電荷が移動することにより交流電流を発生させることができる。このような静電誘導型の振動発電においては、その振動発電出力は、エレクトレット材料の表面電荷密度と相関するものとなる。したがって、本発明のエレクトレット材料は上述したように表面電荷密度の非常に高い材料であることから、静電誘導型振動発電用材料として好適に用いることができる。
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られる静電誘導型振動発電用材料もまた、本発明の1つである。
なお、本明細書において、エレクトレット材料、静電誘導型振動発電用材料とは、エレクトレット材料用重合体組成物から得られる、エレクトレット方式発電素子を構成する部材であり、好ましくは、エレクトレット電極等が挙げられる。
【発明の効果】
【0072】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物は、上述の構成よりなり、このような重合体組成物を用いてエレクトレット材料を作製すると、表面電荷密度の非常に高い材料を作製することができることから、静電誘導型振動発電用材料として好適に用いることができるエレクトレット材料の原料として有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、静電誘導型振動発電の原理の概略を示した発電素子の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0075】
下記実施例及び比較例においては、次のようにして分析し、評価を行った。
<フッ素含有重合体のガラス転移点温度>
フッ素含有重合体のガラス転移点温度は、以下の装置、測定条件で測定した。
測定装置:DSC(製品名;DSC6200、セイコー電子工業社製)
測定条件
雰囲気:窒素雰囲気下
昇温速度:20℃/分
【0076】
<フッ素含有重合体の数平均分子量(Mn)>
フッ素含有重合体の数平均分子量は、以下の装置、測定条件で測定した。
測定装置:ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析装置(GPC)(製品名;HLC−8120GPC、東ソー社製)
測定条件
カラム:G−5000HXL+GMHXL−L(製品名、東ソー社製)
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
標準:標準ポリスチレン(東ソー社製)
流量:1mL/分
【0077】
<フッ素含有重合体の表面抵抗値>
フッ素含有重合体の表面抵抗値は、以下の装置、測定条件で測定した。
測定装置:抵抗値測定装置(製品名;High Resistance Meter 4329A & Resistivity Cell 16008A、ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)社製)
測定条件
測定電圧:500V
【0078】
(合成例1)
温度計、冷却管、ガス導入管、および攪拌機を備えた反応器に、BPDE 16.74部、HF 10.5部、炭酸カリウム 4.34部、ジメチルアセトアミド 90部を仕込んだ。この混合物を60℃に加熱し、5時間反応した。反応終了後、反応溶液をブレンダーで激しく攪拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物を濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、フッ素含有重合体(1)を得た。フッ素含有重合体(1)のガラス転移点温度(Tg)は242℃、数平均分子量(Mn)は70,770、表面抵抗値は1.0×1018Ω/cm以上であった。
【0079】
(実施例1)
複合液状組成物として、フッ素含有重合体(1) 10部、有機溶剤としてトルエン 90部、分散剤としてBYK−W9010(ビッグケミージャパン社製)0.7部、さらに無機誘電体としてチタン酸バリウム(平均粒子径;0.5μm、比表面積;2.2m/g)70部の順に配合して、ケミスターラーにより均一に混合して、液状重合体組成物1を得た。
次に、ガラス板に両面テープで離型紙を張り、その上に液状重合体組成物1をバーコーターで塗工した。室温で30分間乾燥後、真空乾燥機で100℃、6時間で乾燥を行った。その後、離型紙から乾燥塗膜を剥がして、厚み15μmの電荷注入前の複合フィルム1を得た。
複合フィルム1の一部の表面をイオンスパッタにより白金膜とし、比誘電率測定用フィルム1として比誘電率を測定した。
更に、複合フィルム1をベルトコンベア式コロナ放電処理機(製品名;HFSS−101、春日電機社製)により電荷を注入することで、評価用のエレクトレットフィルム1を得た。エレクトレットフィルム1をアルミ箔の上において、表面電位値を測定し、上記数式(1)により表面電荷密度を算出した。
【0080】
結果を表1に示す。
なお、比誘電率、表面電位値の測定は以下のようにして行った。
【0081】
<比誘電率>
比誘電率は、インピーダンスアナライザー(製品名;HP4294A、ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)社製)を用いて以下の測定条件により測定した。
測定条件
測定周波数:1MHz
【0082】
<表面電位値>
表面電位値は、表面電位計(製品名;S−211、川口電気製作所社製)を用いて測定した。
【0083】
(比較例1)
比較液状組成物として、フッ素含有重合体(1) 10部、有機溶剤としてトルエン 90部を配合して、ケミスターラーにより均一に混合し、比較液状重合体組成物1を得た。
次に、ガラス板に両面テープで離型紙を張り、その上に比較液状重合体組成物1をバーコーターで塗工した。室温で30分間乾燥後、真空乾燥機で100℃、6時間で乾燥を行った。その後、離型紙から乾燥塗膜を剥がして、厚み15μmの電荷注入前の比較複合フィルム1を得た。
比較複合フィルム1の一部の表面をイオンスパッタにより白金膜とし、比較比誘電率測定用フィルム1として比誘電率を実施例1と同様に測定した。
更に、比較複合フィルム1をベルトコンベア式コロナ放電処理機(製品名;HFSS−101、春日電機社製)により電荷を注入することで、評価用の比較エレクトレットフィルム1を得た。比較エレクトレットフィルム1をアルミ箔の上において、表面電位値を実施例1と同様に測定し、上記数式(1)により表面電荷密度を算出した。
結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例の結果から、以下のことが分かった。
液状重合体組成物1を用いて作製したエレクトレットフィルム1は、比較液状重合体組成物1を用いて作製した比較エレクトレットフィルム1と比較して、充分に表面電荷密度の高いエレクトレットフィルムとなっていることが確認された。このことから、無機誘電体を、組成物の固形分100重量%に対して、5重量%以上含むものとする、又は、無機誘電体として、チタン酸バリウムを必須として用いることによって、得られる重合体組成物を用いて作製されたエレクトレット材料が高い表面電荷密度を有するものとなることが実証された。
【符号の説明】
【0086】
1:エレクトレット材料
2:エレクトレット電極基板
3:対向電極基板
4:対向電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機誘電体とフッ素含有重合体とを含むエレクトレット材料用重合体組成物であって、
該組成物は、無機誘電体を、組成物の固形分100重量%に対して、5重量%以上含むことを特徴とするエレクトレット材料用重合体組成物。
【請求項2】
無機誘電体とフッ素含有重合体とを含むエレクトレット材料用重合体組成物であって、
該無機誘電体は、チタン酸バリウムを必須とすることを特徴とするエレクトレット材料用重合体組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られることを特徴とするエレクトレット材料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−55095(P2012−55095A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196037(P2010−196037)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】