説明

エレクトレット材料用重合体組成物

【課題】エレクトレット電極としたときに高温環境下での表面電荷密度保持性が良く、静電誘導型振動発電のための発電素子用材料を形成する樹脂組成物として好適に用いることができるエレクトレット材料用重合体組成物、及び、該組成物によって得られるエレクトレット材料を提供することを目的とする
【解決手段】特定のガラス転移点温度(Tg)を有する芳香族フッ素系重合体を含むエレクトレット材料用重合体組成物を用いる事により課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレット材料用重合体組成物及びそれを用いて得られるエレクトレット材料に関する。より詳しくは、静電誘導型振動発電用材料を形成するために好適に用いることができるエレクトレット材料用重合体組成物、及び、該組成物によって形成される材料であって、静電誘導型振動発電装置におけるエレクトレット電極基板上の電極を構成するエレクトレット材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレット材料は、誘電特性を有する材料によって構成された荷電体であり、近年においては、いわゆる静電誘導型変換素子としての使用が提案され、実用化へ向け研究が始められつつある。例えば、絶縁材料に電荷を注入したエレクトレット材料によって誘導電荷を発生させて発電するというような静電誘導を利用した発電素子への適用が期待されるところである。このようなエレクトレット方式発電による発電素子は、素子の小型化が可能であることから、急速な普及しているモバイル等の電子機器に好適なものとして関心が高まっている。こうした小型発電素子は、用いられる用途が多岐に渡る上、高温に晒されるなどの過酷環境下でも発電性能を維持することが重要となる。
従来のエレクトレット材料に関する技術としては、注入された電荷の熱安定性を高めるために、高いガラス転移温度を有するポリマー材料や、ポリマー鎖の末端にカルボキシル基等の極性官能基を有するポリマー材料、主鎖骨格に脂肪族環状構造を有している含フッ素系重合体材料等が、非特許文献1に提案されている。また非特許文献2では、末端にカルボン酸を有する脂肪族環状フッ素系重合体にアミノシランを添加することで熱安定性が向上することが提案されている。
【0003】
このように、エレクトレット方式発電に好適なものとし、発電素子としての性能を実用化に向けてより高めるためには、種々の技術課題を克服する必要があり、従来技術に対して工夫を施す余地があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成18年度〜平成20年度成果報告書 「超高性能ポリマー・エレクトレットを用いた振動型発電システムの開発」
【非特許文献2】日本機械学会No.08−9 第13回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エレクトレット方式発電の原理を説明するための発電素子の概念図を示せば図1のようになる。この図1においては、エレクトレット電極基板と対向電極基板とが対向して導通され、両基板は導電性を有する材料(例えば、メタル材料)によって構成されている。それぞれの電極基板上に他方の電極基板に対して対向するように複数の電極が配置され、エレクトレット電極基板上の複数の電極は、エレクトレット材料からなり、絶縁層を介して設置されている。対向電極基板上の複数の電極は、導電性を有する材料(例えば、メタル材料)によって構成されている。
【0006】
このような発電素子において、エレクトレット材料からなる電極に対してプラスの電荷を注入すると、対向電極にマイナスの誘電電荷が発生する。そして、この発電素子に振動を与えると、両基板の他の基板に対する位置がずれることとなり、図1においては、エレクトレット電極基板に対して対向電極基板の水平方向の位置がずれていることが示されている。このときに、プラス電荷とマイナス電荷とが対向してつり合っていたのが、電極どうしの位置がずれることによってつり合わなくなり、そのために対向電極にあったマイナス電荷が移動し、それにともなって電流(P)が発生する。
すなわち、エレクトレット材料による静電誘導型振動発電の原理としては、(1)エレクトレット材料による誘導電荷発生、(2)振動発電による電荷移動で交流発生ということを挙げることができる。振動発電出力の最大値を振動発電出力(Pmax)とすると、これは電荷を注入した時点の電極における表面電荷密度(σ)の2乗に比例することになる。
上記表面電荷密度(σ)を導く理論式は、下記数式(1)によって表すことができる。
【0007】
【数1】

【0008】
σ:表面電荷密度(mC/m
ε:比誘電率
ε:真空誘電率(F/m)
V:表面電位値(V)
d:膜厚(m)
上記したような静電誘導型振動発電等に有用なエレクトレット材料においては、振動発電出力(Pmax)を向上することができるような材料設計が求められるところであるが、本発明者らは、これに関して(1)高表面電荷密度、(2)経時減衰抑制、(3)耐熱性という3つの技術課題を挙げて研究開発に取り組んだところ、ガラス転移点温度(Tg)が150℃以上350℃以下である芳香族フッ素化ポリマーを有するエレクトレット材料を静電誘導型振動発電等で実用化した場合、特に、表面電荷密度の高温環境下における良好な電荷保持性を見いだしたものである。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、エレクトレット電極としたときに高温環境下での表面電荷密度保持性が良く、静電誘導型振動発電のための発電素子用材料を形成する樹脂組成物として好適に用いることができるエレクトレット材料用重合体組成物、及び、該組成物によって得られるエレクトレット材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、エレクトレット材料用重合体組成物についてその構成を種々検討したところ、上述したように、ガラス転移点温度(Tg)が150℃以上350℃以下である芳香族フッ素化ポリマーからなるエレクトレット材料が静電誘導型振動発電の課題が解決できることを見出だした。エレクトレット材料を静電誘導型振動発電等に適用したときに際立って優れた性能を示すこととなり、このことは静電誘導型振動発電等の実用化にとって極めて大きな技術的意義を有するものである。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物の内容について述べる。
本発明において用いられる芳香族フッ素化ポリマーとしては、ガラス転移点温度(Tg)が150℃以上350℃以下であることが好ましい。ガラス転移点温度が150℃未満では、エレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の電荷保持特性が低下するおそれがある。またガラス転移温度が350℃以上では、ポリマー溶液粘度が高くなりすぎる為、静電誘導型発電素子の微細構造を作成する際の作業性が低下してしまう上、電荷の注入がされにくくなり、エレクトレットとしての初期表面電位が上がりにくい。芳香族フッ素化ポリマーのガラス転移点温度は160℃〜300℃の範囲内であることがより好ましく、170℃〜270℃の範囲内であることが更に好ましい。
なお、ガラス転移点温度は、DSC(製品名;DSC6200、セイコー電子工業社製)を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度の条件で測定することができる。
【0012】
上記芳香族フッ素系重合体の表面抵抗値は、1.0×1015Ω/cm以上であることが好ましい。表面抵抗値が1.0×1015Ω/cm未満では、エレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の絶縁性が低下する恐れがある。芳香族フッ素系重合体の表面抵抗値は1.0×1017Ω/cm以上の範囲内がさらに好ましい。
なお、表面抵抗値は、抵抗値測定装置(製品名;High Resistance Meter 4329A & Resistivity Cell 16008A、ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)社製)を用いて、測定電圧500Vの条件で測定することができる。
【0013】
上記芳香族フッ素系重合体の平均分子量は、数平均分子量(Mn)で5,000〜500,000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が5,000未満ではエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の耐熱性が低下する恐れがあり、数平均分子量が500,000を超えると重合体組成物の粘度が高くなり、作業性が低下する恐れがある。上記数平均分子量(Mn)は10,000〜200,000の範囲内がより好ましく、10,000〜100,000の範囲内が更に好ましい。
また、上記芳香族フッ素系重合体の多分散度(重量平均分子量/数平均分子量;Mw/Mn)は、1〜5の範囲内であることが好ましい。Mw/Mnが5を超えると、重合体組成物がゲル化してしまう恐れがある。上記多分散度(Mw/Mn)は1〜4.5の範囲内がより好ましく、1〜4の範囲内が更に好ましい。
【0014】
なお、上記芳香族フッ素系重合体の数平均分子量、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析装置(GPC)(製品名;HLC−8120GPC、東ソー社製)を用いて、カラムとしてG−5000HXL+GMHXL−L、展開溶媒としてTHF、標準として標準ポリスチレンを用い、流量1mL/分の条件で測定することができる。
【0015】
上記芳香族フッ素系重合体は、フッ素化率が7〜80%であることが好ましい。このようなフッ素化率を有する芳香族フッ素系重合体を用いることによって、高温での電荷保持性が良好になると考えられ、静電誘導型発電素子を作製する上で支障をきたす作業性低下が抑制される。つまり静電誘導型発電素子の作成上で必要となる、エレクトレット材料を薄膜状に成形することが容易となる。上記芳香族フッ素系重合体のフッ素化率としてより好ましくは、10〜70%であり、更に好ましくは、15〜60%である。
なお、フッ素化率は、下記数式(2)により求めることができる。
【0016】
【数2】

【0017】
上記芳香族フッ素系重合体は、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合の群より選ばれた少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位により構成されたフッ素化芳香族ポリマーであることが好ましい。そのような重合体としては、具体的には、例えば、フッ素原子を有するポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリアミド、ポリエーテルニトリル、ポリエステルなどが挙げられる。
【0018】
上記フッ素化芳香族ポリマーは、上述したものの中でも、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合を含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましく、下記一般式(1);
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。また、Zは2価の鎖又は直接結合を表す。m及びm’は0以上の整数であり、m+m’=1〜8を満たし、同一又は異なって、芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。nは、重合度を表わし、2〜5000の範囲内が好ましく、5〜500の範囲内がさらに好ましい。)
で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルであることがより好ましい。なお、一般式(1)で表される繰り返し単位は、同一であっても異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。上記一般式(1)において、m+m’は2〜8の範囲内が好ましく、4〜8の範囲内がより好ましい。上記一般式(1)において、エーテル構造部分(−O−R−O−)が芳香環に結合している位置については、Zに対してパラ位に結合していることが好ましい。上記一般式(1)において、Rは2価の有機鎖であるが、下記の構造式群(2)で表されるいずれか一つ、あるいは、その組み合わせの有機鎖であることが好ましい。
なお、構造式群(2)中、Y〜Yは、同一若しくは異なって、水素原子又は置換基を表し、該置換基は、アルキル基、アルコキシル基を表す。
【0021】
【化2】

【0022】
上記一般式(1)におけるRのより好ましい形態としては、具体的には、下記の構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
上記一般式(1)において、Zは、2価の鎖又は直接結合していることを表す。該2価の鎖としては、例えば、下記構造式群(4)で表される鎖であることが好ましい。
なお、構造式群(4)中、Xは、炭素数1〜50の2価の有機鎖を表している。
【0025】
【化4】

【0026】
上記構造式群(4)におけるXとしては、例えば、上記構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられ、その中でもジフェニルエーテル鎖、ビスフェノールA鎖、ビスフェノールF鎖、フルオレン鎖が好ましい。
本発明において用いられる芳香族フッ素系重合体の合成方法としては、一般的な重合反応を用いればよく、例えば、縮合重合、付加重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられる。上記重合反応の際の反応温度や反応時間等の反応条件は適宜設定すればよい。また、上記重合反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0027】
例えば、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルの合成方法を挙げると、Zが上記構造式群(4)のうちの(4−6)であり、さらに、Xがジフェニルエーテル鎖であるフッ素原子を有するポリアリールエーテルを得る場合、有機溶媒中、塩基性化合物の存在下で、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(以下、「BPDE」という)と2価のフェノール化合物を加熱する方法等が挙げられる。
上記の合成方法における反応温度としては、20℃〜150℃の範囲内が好ましく、50℃〜120℃の範囲内がさらに好ましい。
上記の合成方法で使用される有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミドやメタノール等の極性溶媒やトルエン等の芳香族系溶媒が挙げられる。
【0028】
上記の合成方法で使用される塩基性化合物としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
上記の合成方法において、2価のフェノール化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(以下、「6FBA」という)、ビスフェノールA(以下、「BA」という)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、「HF」という)、ビスフェノールF、ハイドロキノン、レゾルシノール等が挙げられる。
【0029】
上記2価のフェノール化合物の使用量は、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル1モルに対して、0.8〜1.2モルの範囲内が好ましく、0.9〜1.1モルの範囲内がさらに好ましい。
上記の合成方法においては、反応終了後に、反応溶液より溶媒除去を行ない、必要により留去物を洗浄することにより、芳香族フッ素系重合体が得られる。また、反応溶液を芳香族フッ素系重合体の溶解度の低い溶媒中に加えることにより、該重合体を沈殿させ、沈殿物を濾過により分離することにより得ることもできる。
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物には、成形性や成膜性の向上、粘度調節を目的として、溶剤を配合することが好ましい。
【0030】
上記溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、ベンソニトリル等の芳香族系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
また、エレクトレット材料用重合体組成物の安定性を高める、乾燥性を調整する、又は、成形物・成形膜の物性を高めるために、いくつかの溶媒を併用した混合溶媒を用いてもよい。
【0031】
上記溶剤の配合量は、重合体組成物の全量100質量%に対して、1〜70質量%の範囲内が好ましい。溶剤の配合量が1質量%未満では、重合体組成物の粘度低減が十分でなく成形性が低下するおそれがある。また、70質量%を超えると得られたエレクトレット材料中に溶剤が残存して性能が低下するおそれがある。溶剤の配合量は、重合体組成物の全量100質量%に対して、2質量%〜60質量%の範囲内がより好ましく、3質量%〜50質量%の範囲内が更に好ましい。
【0032】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物には、必要に応じて、その他の化合物や副資材を含んでもよい。該その他の化合物や副資材としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等の樹脂、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ガラス、黒鉛等の無機充填材、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、分散剤等が挙げられる。
【0033】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物における、上記その他の化合物や副資材の配合量は、発明の効果を損なわない範囲であればよく、該重合体組成物100質量部に対して、0.001質量部〜500質量部の範囲内が好ましい。
【0034】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料の成形方法は、求められるエレクトレット材料の形状により適宜選択されるが、例えば、湿式コーティング法、プレス成形法、蒸着、CVD(化学気相成長)、スパッタリング等のドライブプロセス法等が挙げられる。これらの中でも、エレクトレット材料を薄層(薄膜)として用いる場合には、製膜プロセスの観点から湿式コーティング法が好ましい。
上記湿式コーティング法としては、キャスティング、水上キャスティング、ディッピングコート、スピンコート、ロールコート、スプレイコート、ダイコート、バーコート、インクジェット、ラングミュア・ブロジェット、凸版印刷、グラビア印刷、平板印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の方法が挙げられる。これらの中でも、キャスティング法、スピンコート法、バーコート法が好ましい。
【0035】
上述したような方法により、例えば、基板上にエレクトレット材料用重合体組成物を塗工して塗膜を形成した後、溶剤を乾燥して、薄層を形成することができる。このようにしてエレクトレット材料用重合体組成物から形成される層(以下、「複合材料層」という)に、電荷を注入することによりエレクトレット材料を作製することができる。
このような、本発明のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるエレクトレット材料もまた、本発明の1つである。
【0036】
更には、上述したように、芳香族フッ素系重合体を含むエレクトレット材料用重合体組成物からエレクトレット材料を製造する方法であって、上記製造方法は、芳香族フッ素系重合体を所定の溶剤に溶解させた重合体組成物を作製する工程、得られた重合体組成物を基板上に塗工する工程、及び、電荷を注入する工程を含むエレクトレット材料の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0037】
上記基板としては、重合体組成物を塗工して得られた塗膜に電荷を注入する際にアースに接続することができる限り、特に制限されないが、基板の材質としては、例えば、金、白金、銅、アルミニウム、クロム、ニッケル等の導電性の金属が挙げられる。また、材質が導電性の金属以外の、例えば、シリコン等の半導体材料、ガラス等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の有機高分子材料等の絶縁性の材料であっても、その表面にスパッタリング、蒸着、湿式コーティング等の方法で金属膜をコーティングしたものであれば用いることができる。
なお、基板は電荷注入後に剥離してもよい。
【0038】
本発明のエレクトレット材料を薄層(薄膜)として用いる場合、上記複合材料層の厚みとしては、0.1〜100μmの範囲内が好ましく、0.5〜60μmの範囲内がより好ましい。
【0039】
本発明のエレクトレット材料は、複合材料層を有するものであるが、複合材料層を有するものである限り、その他の層を有していてもよい。該その他の層とは、複合材料層と積層可能な層であり、例えば、保護層、上記芳香族フッ素系重合体のみからなる層、無機物からなる層等が挙げられる。
【0040】
上記電荷注入工程において、複合材料層に電荷を注入する方法としては、一般的に絶縁体を帯電させる方法であれば、特に制限されないが、例えば、ベルトコンベア式コロナ放電法、定置型コロナ放電法、電子ビーム衝突法、イオンビーム衝突法、放射線照射法、光照射法、接触帯電法、液体接触帯電法等が挙げられる。これらの中でも、作業容易性、生産性等の観点から、ベルトコンベア式コロナ放電法、電子ビーム衝突法が好ましい。
上記電荷注入工程において、電荷を注入する際の温度としては、重合体組成物に含まれる芳香族フッ素系重合体のガラス転移点温度以上であることが好ましい。このような温度範囲とすることにより、電荷注入後にエレクトレット材料に保持される電荷の安定性をより良くすることができる。電荷を注入する際の温度としてより好ましくは、芳香族フッ素系重合体のガラス転移点温度よりも10〜20℃高い温度である。
【0041】
また、電荷を注入する際の印加電圧としては、複合材料層の絶縁破壊電圧以下の範囲で、高電圧で印加することが好ましい。本発明における複合材料層においては、より好ましくは、−6〜−30kVであり、更に好ましくは、−8〜−15kVである。
【0042】
本発明のエレクトレット材料は、本発明のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られるものであって、そのために、表面電荷密度の高温での保持性が良好な材料である。表面電荷密度は、後述する実施例において行われているように、表面電位計(製品名;S−211、川口電気製作所社製)を用いて表面電位値を測定し、上述したように下記数式(1);
【0043】
【数3】

【0044】
(式中、σは、表面電荷密度(mC/m)を表す。εは、比誘電率を表す。εは、真空誘電率(F/m)を表す。Vは、表面電位値(V)を表す。dは、膜厚(m)を表す。)で表される関係式により求めることができる。
本発明のエレクトレット材料は、エレクトレット方式発電の中でも、静電誘導型振動発電のための発電素子として有用なものである。
【0045】
その構成等は、図1において上述したようである。すなわち、エレクトレット電極基板と対向電極基板とが対向して導通され、両基板は導電性を有する材料によって構成された静電誘導型振動発電素子であって、それぞれの電極基板上に他方の電極基板に対して対向するように複数の電極が配置され、エレクトレット電極基板上の複数の電極は、エレクトレット材料からなり、絶縁層を介して設置され、対向電極基板上の複数の電極は、導電性を有する材料によって構成されたものである。導電性を有する材料としては、通常、基板や電極に用いられるメタル材料が挙げられる。
【0046】
上記静電誘導型振動発電素子においては、上記したようにエレクトレット材料を金属電極と対向させ、一方をもう一方に沿って振動させることで誘導電荷が発生し、その電荷が移動することにより交流電流を発生させることができる。このような静電誘導型の振動発電においては、その振動発電出力は、エレクトレット材料の表面電荷密度と相関するものとなる。したがって、本発明のエレクトレット材料は上述したように高温での電荷保持性が良好であることから、苛酷環境で使用される静電誘導型振動発電素子の材料として好適に用いることができる。
【0047】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物を用いて得られる静電誘導型振動発電用材料もまた、本発明の1つである。
なお、本明細書において、エレクトレット材料、静電誘導型振動発電用材料とは、エレクトレット材料用重合体組成物から得られる、エレクトレット方式発電素子を構成する部材であり、好ましくは、エレクトレット電極等が挙げられる。
【発明の効果】
【0048】
本発明のエレクトレット材料用重合体組成物は、上述の構成よりなり、このような重合体組成物を用いてエレクトレット材料を作製すると、表面電荷密度の非常に高く、高温での電荷保持性に優れた材料を作製することができることから、静電誘導型振動発電用材料として好適に用いることができるエレクトレット材料の原料として有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
下記実施例及び比較例においては、次のようにして分析し、評価を行った。
【0050】
<芳香族フッ素系重合体のガラス転移点温度>
芳香族フッ素系重合体のガラス転移点温度は、以下の装置、測定条件で測定した。
測定装置:DSC(製品名;DSC6200、セイコー電子工業社製)
測定条件
雰囲気:窒素雰囲気下
昇温速度:20℃/分
<芳香族フッ素系重合体の数平均分子量(Mn)>
芳香族フッ素系重合体の数平均分子量は、以下の装置、測定条件で測定した。
測定装置:ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析装置(GPC)(製品名;HLC−8120GPC、東ソー社製)
測定条件
カラム:G−5000HXL+GMHXL−L(製品名、東ソー社製)
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
標準:標準ポリスチレン(東ソー社製)
流量:1mL/分
<芳香族フッ素系重合体の表面抵抗値>
芳香族フッ素系重合体の表面抵抗値は、以下の装置、測定条件で測定した。
測定装置:抵抗値測定装置(製品名;High Resistance Meter 4329A & Resistivity Cell 16008A、ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)社製)
測定条件
測定電圧:500V
4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(BPDE)の合成
ジフェニルエーテル6.8g、塩化アルミニウム26.8g及び乾燥ジクロロエタン60mlを、滴下ロート及び塩化カルシウム(CaCl2)乾燥管を備えた250ml容の三つ口フラスコに仕込んだ。2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾクロライド18.5g及び乾燥ジクロロエタン15mlよりなる溶液を、攪拌しながらゆっくりフラスコ中に滴下した。滴下終了後、反応混合物を室温で一晩攪拌した。少量の水を、反応混合物に非常にゆっくり加え、15分間攪拌し続けた。次いで、反応混合物を250mlの水中に注加し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を集めて、水洗し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、蒸発させた。活性炭処理しメタノールからの再結晶により、BPDEの白色結晶が生成した(収率61.2%)。BPDEの融点は、125〜127℃である。
(実施例1)
2Lセパラブルフラスコに、BPDE 451.98g(810.0mmol)、2,2−ビス(4−ビドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン(6FBA)272.16g(810.0mmol)、炭酸カリウム117.37g(3850.5mmol)及びジメチルアセトアミド2423gを仕込んだ。窒素雰囲気下、60℃に加熱し3時間反応させた。反応終了後、反応溶液をブレンダーで激しく攪拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物を濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、芳香族フッ素化重合体(1)を得た。フッ素含有重合体(1)のガラス転移点温度(Tg)は193℃、数平均分子量(Mn)は56,000、表面抵抗値は1.0×1018Ω/cm以上であった。
【0051】
得られた芳香族フッ素化重合体(1) 20部、有機溶剤としてトルエン 80部をケミスターラーにより均一に混合して、液状重合体組成物1を得た。
次に、ガラス板に両面テープで離型紙を張り、その上に液状重合体組成物1をアプリケーターで塗工した。室温で30分間乾燥後、真空乾燥機で100℃、6時間で乾燥を行った。その後、離型紙から乾燥塗膜を剥がして、厚み50μmの電荷注入前の複合フィルム1を得た。
複合フィルム1の一部の表面をイオンスパッタにより白金膜とし、比誘電率測定用フィルム1として比誘電率を測定した。
更に、複合フィルム1を150℃のオーブンで1分間プレヒートを行い、加熱直後にベルトコンベア式コロナ放電処理機(製品名;HFSS−101、春日電機社製)により電荷を注入することで、評価用のエレクトレットフィルム1を得た。エレクトレットフィルム1をアルミ箔の上において、表面電位値を測定し初期値とした。さらに、このエレクトレットフィルムを再度150℃のオーブンで1分間加熱した後の表面電位値を測定し、加熱後表面電位値とした。
結果を表1に示す。
なお、表面電位値の測定は以下のようにして行った。
<表面電位値>
表面電位値は、表面電位計(製品名;S−211、川口電気製作所社製)を用いて以下の測定条件により測定した。
測定条件:

(比較例1)
実施例1で使用した複合フィルム1の代わりに、カプトンフィルム(東レ・デュポン社製、ポリイミドフィルム、膜厚:50μm)を用いた以外は実施例1と同様に電荷を注入し、表面電位測定を行った。結果を表1に示す。

(比較例2)
実施例1で使用した複合フィルム1の代わりに、スカイブドテープMSF−100(中興化成工業社製、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、膜厚:50μm)を用いた以外は実施例1と同様に電荷を注入し、表面電位測定を行った。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例の結果から、以下のことが分かった。
実施例1で作製したエレクトレットフィルム1は、比較例で作製した比較エレクトレットフィルム1、2と比較して、充分に表面電位が高く、また高温環境におかれた際の電位保持率が高いエレクトレットフィルムとなっていることが確認された。このことから、ガラス転移温度が150℃以上、350℃以下の芳香族含フッ素重合体から得られる重合体組成物を用いて作製されたエレクトレット材料が高い表面電荷密度を有するものとなることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】は、静電誘導型振動発電の原理の概略を示した発電素子の概念図である。
【符号の説明】
【0055】
1:エレクトレット材料
2:エレクトレット電極基板
3:対向電極基板
4:対向電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族フッ素系重合体からなるエレクトレット材料用重合体組成物であって、芳香族フッ素系重合体のガラス転移温度が150℃以上、350℃未満であることを特徴とするエレクトレット材料用重合体組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−102236(P2012−102236A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251976(P2010−251976)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】