説明

エレクトロクロミックシート、調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜及び合わせガラス

【課題】電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスを提供する。
【解決手段】芳香環を有するエレクトロクロミック化合物を含有し、一方の面の水に対する接触角が30〜80°であるエレクトロクロミックシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することにより光の透過率が変化する調光体は、広く用いられている。この調光体を建築物等や、電光板等の表示装置に応用することを目的とする検討が重ねられてきた。近年、自動車等の車内の温度を制御するために、調光体を合わせガラス用中間膜として用いた合わせガラスが提案されている。このような合わせガラス用中間膜を用いることにより、合わせガラスの光線透過率を制御することができると考えられている。
【0003】
上記調光体としては、対向する一対の電極基板の間に、エレクトロクロミック層と電解質層とからなる調光シートが挟み込まれている調光体が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層、イオン伝導層、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層の3層が順次積層された積層体が、2枚の導電性基板間に挟み込まれている調光体が開示されている。また、特許文献3及び特許文献4には、対向する一対の電極基板の間に、有機エレクトロクロミック材料を含有するエレクトロクロミック層と電解質層とが挟み込まれている調光体が開示されている。
【0004】
自動車用、建築用途にかかわらず合わせガラスには、高い安全性が求められる。とりわけ合わせガラスを自動車用フロントガラスに用いる場合には、高い耐貫通性が求められる。合わせガラスが高い耐貫通性を発揮するためには、ガラス板と合わせガラス用中間膜とが適度に密着することが求められる。しかしながら、従来の調光シートを合わせガラス用中間膜として用いた場合、ガラス板に対する密着性が低く、高い耐貫通性を発揮できないばかりか、使用中にガラス板と合わせガラス用中間膜とが剥離してしまう危険性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−062030号公報
【特許文献2】特開2005−062772号公報
【特許文献3】特表2002−526801号公報
【特許文献4】特表2004−531770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、芳香環を有するエレクトロクロミック化合物を含有し、一方の面の水に対する接触角が30〜80°であるエレクトロクロミックシートである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、従来の調光シートを合わせガラス用中間膜として用いた場合に、ガラス板との密着性が低い原因について検討した。その結果、調光シートを構成するエレクトロクロミック層と、ガラス板の表面の導電膜との密着性が低いことが原因であることを見出した。とりわけ、芳香環を有するエレクトロクロミック化合物を用いた場合には、導電膜との密着性が低下する。本発明者は、更に鋭意検討の結果、芳香環を有するエレクトロクロミック化合物を含有するエレクトロクロミックシートの表面の水に対する接触角を30〜80°に調整することにより、導電膜との密着性が改善し、高い安全性を有する合わせガラスを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明のエレクトロクロミックシートは、芳香環を有するエレクトロクロミック化合物を含有する。芳香環を有するエレクトロクロミック化合物は、エレクトロクロミック性に優れ、製膜性にも優れる。
なお、エレクトロクロミック性とは、電圧を印加することにより光の透過率が変化する性質を意味する。
【0010】
上記芳香環を有するエレクトロクロミック化合物は、例えば、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物、ポリピロール化合物、ポリチオフェン化合物、ポリパラフェニレンビニレン化合物、ポリアニリン化合物、ポリエチレンジオキシチオフェン化合物、金属フタロシアニン化合物、ビオロゲン化合物、ビオロゲン塩化合物、フェロセン化合物、テレフタル酸ジメチル化合物、テレフタル酸ジエチル化合物等が挙げられる。なかでも、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物がより好ましい。
【0011】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、エレクトロクロミック性と導電性とを有し、かつ、エレクトロクロミックシートの形成が容易である。従って、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物を用いれば、優れた調光性能を有するエレクトロクロミックシートを容易に形成できる。また、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、構造が変化することにより、吸収特性の変化を示す。その結果、吸収スペクトルが近赤外線の波長領域に及ぶため、エレクトロクロミックシートは広い波長領域について優れた調光性能を有する。
【0012】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は特に限定されないが、例えば、一置換又は二置換の芳香族を側鎖に有するポリアセチレン化合物等が好適である。
上記芳香族側鎖を構成する置換基は特に限定されないが、例えば、フェニル、p−フルオロフェニル、p−クロロフェニル、p−ブロモフェニル、p−ヨードフェニル、p−ヘキシルフェニル、p−オクチルフェニル、p−シアノフェニル、p−アセトキシフェニル、p−アセトフェニル、ビフェニル、o−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、p−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、o−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、p−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、o−(トリフェニルシリル)フェニル、p−(トリフェニルシリル)フェニル、o−(トリルジメチルシリル)フェニル、p−(トリルジメチルシリル)フェニル、o−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、p−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、o−(フェネチルジメチルシリル)フェニル、p−(フェネチルジメチルシリル)フェニル等のフェニル基や、ビフェニル基や、1−ナフチル、2−ナフチル、1−(4−フルオロ)ナフチル、1−(4−クロロ)ナフチル、1−(4−ブロモ)ナフチル、1−(4−ヘキシル)ナフチル、1−(4−オクチル)ナフチル等のナフチル基や、ナフタレン基や、1−アントラセン、1−(4−クロロ)アントラセン、1−(4−オクチル)アントラセン等のアントラセン基や、1−フェナントレン等のフェナントレン基や、1−フルオレン等のフルオレン基や、1−ペリレン等のペリレン基等が挙げられる。
【0013】
本発明のエレクトロクロミックシートは、バインダー樹脂を含有してもよい。上記バインダー樹脂は特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
【0014】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、透明性が高いエレクトロクロミックシートが得られることから、炭素数が4又は5のアルデヒドによりポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂が好適である。
上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。
上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)を用いてポリスチレン換算により求めたポリビニルアルコール樹脂の重量平均分子量を、ポリビニルアルコール樹脂1セグメントあたりの分子量で除算することで求めることができる。
【0015】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が15mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が15mol%を超えると、疎水性が低くなりすぎ、中間膜の白化の原因となることがある。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が30mol%以下であることが好ましい。なお、上記アセチル基量及び上記水酸基量は、JIS K 6728に準じて、滴定法により求めることができる。
【0016】
本発明のエレクトロクロミックシートは、熱線吸収剤や接着力調整剤を含有してもよい。上記熱線吸収剤は、赤外線を遮蔽する性能を有すれば特に限定されないが、錫ドープ酸化インジウム微粒子、アンチモンドープ酸化錫微粒子、亜鉛以外の元素がドープされた酸化亜鉛微粒子、六ホウ化ランタン微粒子、アンチモン酸亜鉛微粒子、及び、フタロシアニン構造を有する赤外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。
【0017】
上記接着力調整剤は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。なかでも、炭素数2〜16のカルボン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好適であり、具体的には例えば、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、2−エチルブタン酸マグネシウム、2−エチルブタン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等が挙げられる。これらの接着力調整剤は単独で用いられてもよく、併用されてもよい。エレクトロクロミックシートがバインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を含有する場合、エレクトロクロミックシートは接着力調整剤を含有することが好ましい。
【0018】
本発明のエレクトロクロミックシートの厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は2μmである。本発明のエレクトロクロミックシートの厚さが0.05μm未満であると、エレクトロクロミックシートに電圧を印加しても充分に光の透過率が変化しないことがあり、2μmを超えると、エレクトロクロミックシートの透明性が低下することがある。本発明のエレクトロクロミックシートの厚さのより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は1μmである。
【0019】
本発明のエレクトロクロミックシートは、一方の面の水に対する接触角の下限が30°、上限が80°である。表面の水に対する接触角をこの範囲内に調整することにより、導電膜との密着性が改善し、高い安全性を有する合わせガラスを製造できる。上記水に対する接触角が30°未満になるほどに強い表面処理を行うと、得られるエレクトロクロミックシートのエレクトロクロミック性が低下してしまう。上記水に対する接触角が80°を超えると、導電膜に対する密着性が低く、合わせガラス用中間膜として合わせガラスを製造した場合に耐貫通性が低くなる。上記水に対する接触角の好ましい下限は34°、より好ましい下限は40°、好ましい上限は75°、より好ましい上限は65°である。
なお、エレクトロクロミックシートの表面の水に対する接触角は、JIS R 3257に準じて、接触角測定装置(KSV社製「CAM200」)を用いて測定することができる。
【0020】
上記芳香環を有するエレクトロクロミック化合物を含有するエレクトロクロミックシートは、通常は表面の水に対する接触角が100°程度である。エレクトロクロミックシートの表面に親水性官能基を付与する処理を施すことにより、水に対する接触角を所期の範囲に調整することができる。
上記親水性官能基を付与する処理は特に限定されず、従来公知の親水化処理を用いることができるが、なかでも高い親水性を容易に付与できることから、プラズマ処理が好適である。
【0021】
本発明のエレクトロクロミックシートの製造方法は特に限定されず、例えば、まず上記芳香環を有するエレクトロクロミック化合物と、必要に応じて添加するバインダー樹脂、熱線吸収剤、接着力調整剤とを適当な溶媒に溶解したうえで塗工法により製膜したり、これらを混練機で混合したうえで押出法により成型したりすることによりシート状体を製造したうえで、該シート状体の一方の面にプラズマ処理を施す方法が挙げられる。
【0022】
上記プラズマ処理法は特に限定されないが、ダイレクト法やリモート法が挙げられ、なかでも、エレクトロクロミック性が低下しにくいことからリモート法が好適である。
【0023】
本発明のエレクトロクロミックシートと、該エレクトロクロミックシートの水に対する接触角が30〜80°である面とは反対側の面に積層された電解質層とを有する調光シートもまた、本発明の1つである。
【0024】
上記電解質層は、イオンを伝導することにより上記エレクトロクロミック層に電圧を印加し、エレクトロクロミック層の光の透過率を変化させる役割を有する。
上記電解質層は、支持電解質塩とバインダー樹脂とを含有することが好ましい。例えば、上記電解質層は、バインダー樹脂と支持電解質塩とを含有する樹脂組成物を用いて形成されることが好ましい。
【0025】
上記電解質層は、更に、下記式(1)で表される化合物又は下記式(2)で表される化合物を含有することが好ましい。上記電解質層に上記特定の構造を有する化合物を添加することにより、更に応答性が高く、電圧を印加してから光の透過率の変化が完了するまでの時間が極めて短い調光体が得られる。
【0026】
【化1】

【0027】
式(1)中、n=2〜4の整数を表し、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表し、Rはエチレン基又はプロピレン基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表し、少なくともR又はRの何れかはアシル基を有する。
【0028】
【化2】

【0029】
式(2)中、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表し、Rは炭素数2〜8のアルキレン基又は炭素数6〜12のアリーレン基を表し、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表す。R及びRは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物は、単独で用いてもよく、併用してもよい。なかでも、耐久性が向上し、かつ、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られることから、上記式(1)で表される化合物を含有することが好ましい。
【0031】
上記式(1)中、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表す。なかでも、上記バインダー樹脂との相溶性がより向上することから、Rは炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基であることが好ましく、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基であることがより好ましく、炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基であることが更に好ましい。
【0032】
上記式(1)中のRを表す炭素数1〜7の有機基を有するアシル基における、有機基の炭素数の好ましい下限は2、好ましい上限は6である。上記炭素数が2以上であると、電解質層の耐久性が向上し、6以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は3、より好ましい上限は5であり、更に好ましい上限は4である。
【0033】
上記炭素数1〜7の有機基は、直鎖構造を有する有機基、又は、分岐構造を有する有機基であってもよく、直鎖構造を有するアルキル基、又は、分岐構造を有するアルキル基であることが好ましい。上記分岐構造を有する有機基又は分岐構造を有するアルキル基において、有機基又はアルキル基の分岐鎖の炭素数は3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましい。
【0034】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜7の有機基が直鎖構造を有する場合は、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基は、炭素数1〜7であり、かつ、直鎖構造を有する有機基を有するアシル基、又は、炭素数1〜7であり、かつ、直鎖構造を有するアルキル基を有するアシル基であることが好ましい。
【0035】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜7の有機基が分岐構造を有する場合は、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基は、炭素数1〜7であり、かつ、分岐構造を有する有機基を有するアシル基、又は、炭素数1〜7であり、かつ、分岐構造を有するアルキル基を有するアシル基であることが好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が3以下であるアルキル基を有するアシル基であることがより好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が2以下であるアルキル基を有するアシル基であることが更に好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が1以下であるアルキル基を有するアシル基であることが特に好ましい。
なお、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基とは、該有機基の炭素数が1〜7であることを意味し、上記炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基とは、該アルキル基の炭素数が1〜7であることを意味する。
【0036】
上記式(1)中のRが炭素数1〜8の有機基である場合、上記バインダー樹脂との相溶性がより向上することから、上記炭素数1〜8の有機基は炭素数1〜8のアルキル基であることが好ましい。
上記式(1)中のRを表す炭素数1〜8の有機基における炭素数の好ましい下限は2、好ましい上限は7である。上記炭素数が2以上であると、電解質層の耐久性が向上し、7以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は3、より好ましい上限は6であり、更に好ましい下限は4、更に好ましい上限は5である。
【0037】
上記炭素数1〜8の有機基は、直鎖構造を有する有機基、又は、分岐構造を有する有機基であってもよく、直鎖構造を有するアルキル基、又は、分岐構造を有するアルキル基であることが好ましい。上記分岐構造を有する有機基又は分岐構造を有するアルキル基において、有機基又はアルキル基の分岐鎖の炭素数は3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましい。
【0038】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜8の有機基が直鎖構造を有する場合は、上記炭素数1〜8の有機基は、炭素数1〜8であり、かつ、直鎖構造を有するアルキル基であることが好ましい。
【0039】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜8の有機基が分岐構造を有する場合は、上記炭素数1〜8の有機基は、炭素数1〜8であり、かつ、分岐構造を有するアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜8であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が3以下であるアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜8であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が2以下であるアルキル基であることが更に好ましく、炭素数1〜8であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が1以下であるアルキル基であることが特に好ましい。
【0040】
上記式(1)中、Rはエチレン基又はプロピレン基を表す。上記プロピレン基はn−プロピレン基であってもよく、イソプロピレン基であってもよい。電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られることから、Rはエチレン基であることが好ましい。
【0041】
上記式(1)中、Rは水素原子、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基を表す。なかでも、上記バインダー樹脂との相溶性がより向上することから、Rは炭素数1〜7の有機基を有するアシル基又は炭素数1〜8の有機基であることが好ましく、炭素数1〜7の有機基を有するアシル基であることがより好ましく、炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基であることが更に好ましい。
【0042】
上記式(1)中のRを表す炭素数1〜7の有機基を有するアシル基における、有機基の炭素数の好ましい下限は2、好ましい上限は6である。上記炭素数が2以上であると、電解質層の耐久性が向上し、6以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は3、より好ましい上限は5であり、更に好ましい上限は4である。
【0043】
上記炭素数1〜7の有機基は、直鎖構造を有する有機基、又は、分岐構造を有する有機基であってもよく、直鎖構造を有するアルキル基、又は、分岐構造を有するアルキル基であることが好ましい。上記分岐構造を有する有機基又は分岐構造を有するアルキル基において、有機基又はアルキル基の分岐鎖の炭素数は3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましい。
【0044】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜7の有機基が直鎖構造を有する場合は、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基は、炭素数1〜7であり、かつ、直鎖構造を有する有機基を有するアシル基、又は、炭素数1〜7であり、かつ、直鎖構造を有するアルキル基を有するアシル基であることが好ましい。
【0045】
電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間が更に一層短い調光体が得られることから、上記炭素数1〜7の有機基が分岐構造を有する場合は、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基は、炭素数1〜7であり、かつ、分岐構造を有する有機基を有するアシル基、又は、炭素数1〜7であり、かつ、分岐構造を有するアルキル基を有するアシル基であることが好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が3以下であるアルキル基を有するアシル基であることがより好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が2以下であるアルキル基を有するアシル基であることが更に好ましく、炭素数1〜7であり、分岐構造を有し、かつ、分岐鎖の炭素数が1以下であるアルキル基を有するアシル基であることが特に好ましい。
なお、上記炭素数1〜7の有機基を有するアシル基とは、該有機基の炭素数が1〜7であることを意味し、上記炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基とは、該アルキル基の炭素数が1〜7であることを意味する。
【0046】
上記式(1)において、少なくともR又はRの何れかはアシル基を有する。これにより、上記バインダー樹脂との高い相溶性が得られる。なかでも、Rは炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基を表し、Rはエチレン基又はプロピレン基を表し、Rは炭素数1〜7のアルキル基を有するアシル基を表すことがより好ましい。
【0047】
上記式(1)で表される化合物の具体例を下記式(1−1)〜(1−28)に示す。
【0048】
【化3−1】

【化3−2】

【化3−3】

【0049】
上記式(2)中、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表す。
上記式(2)中のRを表す炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基の炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は7である。上記炭素数が3以上であると、電解質層の耐久性が向上し、7以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は4、より好ましい上限は6である。
【0050】
上記式(2)中、Rは炭素数2〜8のアルキレン基又は炭素数6〜12のアリーレン基を表す。なかでも、上記バインダー樹脂との相溶性が更に向上することから、Rは炭素数2〜8のアルキレン基であることが好ましい。
【0051】
上記式(2)中のRを表す炭素数2〜8のアルキレン基の炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は7である。上記炭素数が3〜7であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は4、より好ましい上限は6である。
【0052】
上記式(2)中のRを表す炭素数6〜12のアリーレン基の炭素数の好ましい上限は10である。上記炭素数が10以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい上限は8である。
【0053】
上記式(2)中、Rは炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基を表す。
上記式(2)中のRを表す炭素数2〜8であり、酸素原子を有する有機基の炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は7である。上記炭素数が3以上であると、電解質層の耐久性が向上し、7以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより短い調光体が得られる。上記炭素数のより好ましい下限は4、より好ましい上限は6である。
【0054】
上記式(2)で表される化合物の具体例を下記式(2−1)に示す。
【0055】
【化4】

【0056】
上記電解質層中における上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は15重量部、好ましい上限は200重量部である。上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物の配合量が15重量部以上であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物の配合量が200重量部以下であると、調光体の耐貫通性が高くなる。上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物の配合量のより好ましい下限は30重量部、更に好ましい下限は40重量部、特に好ましい下限は60重量部であり、より好ましい上限は150重量部、更に好ましい上限は120重量部、特に好ましい上限は100重量部である。
【0057】
上記支持電解質塩は特に限定されず、リチウム塩、カリウム塩又はナトリウム塩等のアルカリ金属塩であることが好ましい。上記アルカリ金属塩は、無機酸とアルカリ金属の塩又は有機酸とアルカリ金属の塩であることが好ましい。例えば、上記無機酸とアルカリ金属の塩として、無機酸アニオンリチウム塩、無機酸アニオンカリウム塩、又は、無機酸アニオンナトリウム塩等が挙げられ、上記有機酸とアルカリ金属の塩として、有機酸アニオンリチウム塩、有機酸アニオンカリウム塩、又は、有機酸アニオンナトリウム塩等が挙げられる。
なかでも、上記支持電解質塩はリチウム塩であることが好ましく、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム等の無機酸アニオンリチウム塩、又は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム等の有機酸アニオンリチウム塩であることがより好ましい。
【0058】
上記支持電解質塩は、アンモニウムカチオンと、アニオンとの塩であってもよい。
上記アンモニウムカチオンは特に限定されず、例えば、テトラエチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、メチルプロピルピロリジニウム、メチルブチルピロリジニウム、メチルプロピルピペリジニウム、メチルブチルピペリジニウム等のアルキルアンモニウムカチオンや、エチルメチルイミダゾリウム、ジメチルエチルイミダゾリウム、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム等が挙げられる。
上記アニオンは特に限定されず、過塩素酸アニオン、ホウフッ化アニオン、リンフッ化アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドアニオン等が挙げられる。
【0059】
上記電解質層中における上記支持電解質塩の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は3重量部、好ましい上限は60重量部である。上記支持電解質塩の配合量が3〜60重量部であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記支持電解質塩の配合量のより好ましい下限は10重量部、更に好ましい下限は20重量部であり、より好ましい上限は50重量部、更に好ましい上限は40重量部である。
【0060】
上記電解質層は溶媒を含有することが好ましい。上記溶媒は特に限定されず、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の置換テトラヒドロフラン化合物や、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、t−ブチルエーテル、イソブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン等のエーテル化合物や、エチレングリコール、ポリエチレングリコールスルホラン、3−メチルスルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が挙げられる。
また、上記溶媒として、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート等のジエステル化合物を使用してもよい。
【0061】
上記電解質層中における溶媒の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は30重量部、好ましい上限は150重量部である。上記溶媒の配合量が30重量部以上であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記溶媒の配合量が150重量部以下であると、調光体の耐貫通性が高くなる。上記溶媒の配合量のより好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は100重量部である。
【0062】
上記バインダー樹脂は特に限定されないが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
上記バインダー樹脂は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。透明性が高い電解質層が得られることから、ポリビニルアルコールをアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂が更に好適である。特に、上記ポリビニルアセタール樹脂はポリビニルブチラール樹脂であることが好適である。
【0063】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が15mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が15mol%を超えると、電解質層が白化することがある。
上記ポリビニルアセタール樹脂は水酸基量が30mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が30mol%を超えると、上記溶媒との相溶性が低下し、電解質層の透明性が低下することがある。
なお、上記アセチル基量及び上記水酸基量はJIS K 6728に準拠して、滴定法により求めることができる。
【0064】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することで得られる。上記アルデヒドは炭素数4又は5のアルデヒドであることが好ましい。上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度が500以上であると、調光体の耐貫通性が高くなる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度が5000以下であると、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算により求めた上記ポリビニルアルコールの重量平均分子量をポリビニルアルコール1セグメント当りの分子量で除して求められる。GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、Shodex LF−804(昭和電工社製)等が挙げられる。
【0065】
上記電解質層が上記式(1)で表される化合物又は上記式(2)で表される化合物を含有する場合には、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを防止できることから、上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が5モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂A」ともいう。)、アセタール化度が70〜85モル%であるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂B」ともいう。)、又は、炭素数が6以上のアルデヒドを用いてポリビニルアルコールをアセタール化することにより得られるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂C」ともいう。)であることが好ましい。
【0066】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量の好ましい下限は6モル%、好ましい上限は30モル%である。上記アセチル基量が6モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することをより一層防止することができる。上記アセチル基量が30モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Aの製造効率を高めることができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は8モル%、より好ましい上限は28モル%であり、更に好ましい下限は10モル%、更に好ましい上限は25モル%であり、特に好ましい下限は12モル%、特に好ましい上限は23モル%である。
【0067】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aは、アセタール化度の好ましい下限が50モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール化度が50モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを更に一層防止することができる。上記アセタール化度が80モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Aの製造効率を高めることができる。上記アセタール化度のより好ましい下限は55モル%、より好ましい上限は78モル%であり、更に好ましい下限は60モル%、更に好ましい上限は76モル%であり、特に好ましい下限は65モル%、特に好ましい上限は74モル%である。
上記ポリビニルアセタール樹脂Aは、ポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。
【0068】
上記ポリビニルアセタール樹脂Bのアセタール化度の好ましい下限は71モル%、好ましい上限は84モル%である。上記アセタール化度が71モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを更に一層防止することができる。上記アセタール化度が84モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Bの製造効率を高めることができる。上記アセタール化度のより好ましい下限は72モル%、より好ましい上限は83モル%であり、更に好ましい下限は73モル%、更に好ましい上限は82モル%であり、特に好ましい下限は74モル%、特に好ましい上限は81モル%である。
【0069】
上記ポリビニルアセタール樹脂Bは、アセチル基量の好ましい下限が0.1モル%、好ましい上限が20モル%である。上記アセチル基量が0.1モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを更に一層防止することができる。上記アセチル基量が20モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Bの製造効率を高めることができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は0.5モル%、より好ましい上限は15モル%であり、更に好ましい下限は0.8モル%、更に好ましい上限は8モル%であり、特に好ましい下限は1モル%、特に好ましい上限は7モル%である。
上記ポリビニルアセタール樹脂Bは、ポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。
【0070】
上記ポリビニルアセタール樹脂A及びポリビニルアセタール樹脂Bは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することで得られる。上記アルデヒドは炭素数1〜10のアルデヒドであることが好ましく、炭素数4又は5のアルデヒドであることがより好ましい。
【0071】
上記ポリビニルアセタール樹脂Cは、炭素数が6以上のアルデヒドを用いてポリビニルアルコールをアセタール化することにより得られる。上記炭素数が6以上のアルデヒドは特に限定されないが、例えば、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、又は、n−デシルアルデヒド等が挙げられる。
【0072】
上記ポリビニルアセタール樹脂Cは、アセタール化度の好ましい下限が50モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール化度が50モル%以上であると、上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物が上記電解質層から析出することを更に一層防止することができる。上記アセタール化度が80モル%以下であると、上記ポリビニルアセタール樹脂Cの製造効率を高めることができる。上記アセタール化度のより好ましい下限は55モル%、より好ましい上限が78モル%であり、更に好ましい下限は60モル%、更に好ましい上限は76モル%であり、特に好ましい下限は65モル%、特に好ましい上限は74モル%である。
【0073】
上記電解質層は、更に、熱線吸収剤、接着力調整剤を含有してもよい。
上記熱線吸収剤、接着力調整剤は特に限定されず、上記エレクトロクロミックシートに用いる添加剤と同様の添加剤を用いることができる。
【0074】
上記電解質層は単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。上記電解質層が多層構造であるとは、上記電解質層が2層以上積層された構造であることを意味する。
上記電解質層が多層構造である場合、例えば、上記溶媒として可塑剤の含有量の異なる電解質層を積層したり、上記バインダー樹脂として水酸基量の異なるポリビニルアセタール樹脂を含有する電解質層を積層したりすることにより、得られる調光体又は合わせガラスの遮音性等を向上させることができる。
【0075】
上記電解質層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.1mm、好ましい上限は3.0mmである。上記電解質層の厚さが0.1mm未満であると、上記エレクトロクロミック層に電圧を印加しても光の透過率が変化しないことがあり、3.0mmを超えると、上記エレクトロクロミック層に電圧を印加した場合、光の透過率の変化速度が低下することがある。上記電解質層の厚さのより好ましい下限は0.3mm、より好ましい上限は1.0mmである。
【0076】
上記電解質層を形成する方法は特に限定されず、例えば、上記溶媒に上記支持電解質塩を溶解した溶液を調製し、得られた溶液と上記バインダー樹脂とを混合した混合物を熱プレス等の方法により電解質層を形成する方法や、該混合物を押出機により押出成形し電解質層を形成する方法等が挙げられる。
【0077】
本発明の調光シートが、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれている調光体もまた、本発明の1つである。
【0078】
本発明の調光シートは、合わせガラス用中間膜として使用することができる。上記調光シートを用いる合わせガラス用中間膜もまた、本発明の1つである。
本発明の合わせガラス用中間膜は、本発明の調光シートの構成以外に、必要に応じて、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層や、熱線吸収剤を含有する赤外線吸収層等を有してもよい。
【0079】
本発明の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板とで、本発明の調光シート又は合わせガラス用中間膜を挟持した調光体又は合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0080】
上記導電膜は、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等を含む透明導電膜が好ましい。
【0081】
本発明の調光体又は合わせガラスの面密度は特に限定されないが、12kg/m以下であることが好ましい。
本発明の合わせガラスは、自動車用ガラスとして使用する場合は、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして用いることができる。
【発明の効果】
【0082】
本発明によれば、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0083】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
(1)電解質層の調製
トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)2.38gに、支持電解質塩としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)0.67gを溶解して電解質溶液を調製した。得られた電解質溶液の全量と、アセチル基量13mol%、水酸基量22mol%、平均重合度が2300のポリビニルブチラール樹脂5.00gとを混合して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートに挟み、厚さ400μmのスペーサを介して、熱プレスにて150℃、100kg/cmの条件で5分間加圧し、厚さ400μmの電解質層を得た。
【0085】
(2)ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)の調製
窒素雰囲気下−50℃で9−エチニルフェナントレン3gを溶解させたテトラヒドロフラン溶液30mLにノルマルブチルリチウムの1.6mol/Lヘキサン溶液を添加した。次いで、−90℃に冷却後、カリウムターシャリーブトキシド1.8gを溶解させたテトラヒドロフラン溶液15mLを添加し、−80℃で1時間撹拌し、5℃まで昇温した。次いで、−70℃で1−ヨードオクタデカン5.6gを滴下し、−30℃で12時間撹拌した。0℃で水100mLを滴下し、ヘキサンを加え、生成した化合物を抽出した。このヘキサン層を蒸留水300mLで3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで1時間乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。カラム精製後溶媒を留去し、ヘキサンを展開溶媒としてカラム精製することにより3.5gの9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンを得た。
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンについてH−NMR(270MHz、CDCl)により分析を行ったところ、δ8.7(2H)、8.5(1H)、8.1(1H)、7.7(4H)、3.7(1H)、3.5(2H)、1.7(2H)、1.6(30H)、1.0(3H)のピークが認められた。
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン0.35gを、WCl触媒を用いて重合させ、ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)0.27gを得た。
【0086】
(3)シート状体の調製
得られたポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)0.03915gを1.305gのトルエンに溶解して溶液を調製した。この溶液を、得られた電解質層上に、トルエンが揮発した後の厚さが0.3μmになるようにバーコーターを用いて塗布し、乾燥してシート状体を得た。
【0087】
(4)プラズマ処理
得られたシート状体のエレクトロクロミック層側の表面に、常圧プラズマ表面処理装置(積水化学社製「AP−T05」)を用いて、リモート方式にて146V、2.6Aにてプラズマ放電させ、窒素に対する酸素濃度が1体積%になるように調整した気体を放出してプラズマ処理を施し、調光シートを得た。
なお、プラズマ処理は、処理ステージの搬送速度を200mm/分となるように調整して行った。
【0088】
(実施例2)
処理ステージの搬送速度を500mm/分となるように調整してプラズマ処理を行った以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0089】
(実施例3)
処理ステージの搬送速度を1000mm/分となるように調整してプラズマ処理を行った以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0090】
(実施例4)
処理ステージの搬送速度を2000mm/分となるように調整してプラズマ処理を行った以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0091】
(実施例5)
処理ステージの搬送速度を4000mm/分となるように調整してプラズマ処理を行った以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0092】
(実施例6)
電解質層の調製において、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)の代わりに、トリエチレングリコールジブチラートを用いた以外は実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0093】
(実施例7)
処理ステージの搬送速度を4000mm/分となるように調整してプラズマ処理を行った以外は、実施例6と同様にして調光シートを得た。
【0094】
(比較例1)
処理ステージの搬送速度を100mm/分となるように調整してプラズマ処理を行った以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0095】
(比較例2)
処理ステージの搬送速度を5000mm/分となるように調整してプラズマ処理を行った以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0096】
(比較例3)
プラズマ処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にして調光シートを得た。
【0097】
(評価)
実施例及び比較例で得た調光シートについて、下記の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0098】
(1)水に対する接触角の測定
得られた調光シートのエレクトロクロミック層側の表面の水に対する接触角を、JIS R 3257に準じて、接触角測定装置(KSV社製「CAM200」)を用いて測定した。
【0099】
(2)透明導電膜に対する密着性の評価
調光シート(縦25mm×横150mm)を、エレクトロクロミック層側がITO透明導電膜が形成されたガラス(縦25mm×横150mm、表面抵抗100Ω/□)側に、電解質層側がポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム側になるようにしてガラスとPETフィルムA(縦25mm×横150mm)との間に挟み込むことにより、積層体を得た。積層体を作製する際に、調光シートとITO透明導電膜が形成されたガラスとの間に、積層体の横方向の一方の端部とPETフィルムB(縦25mm×横20mm)の横方向の一方の端部とが一致するように、PETフィルムBを挟み込んだ。すなわち、積層体の横方向の一方の端部から20mmの領域Aにおいては、ITO透明導電膜が形成されたガラスと、PETフィルムBと、調光シートと、PETフィルムAとがこの順に積層されていた。積層体の他の領域Bにおいては、ITO透明導電膜が形成されたガラスと、調光シートと、PETフィルムAとがこの順に積層されていた。
【0100】
積層体を90℃の真空ラミネーターで圧着し、140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、ピール試験用のサンプル(縦25mm×横150mm)とした。領域AにおけるPETフィルムBを除去した後、引張試験機でピール試験を行い、透明導電膜と調光シートのエレクトロクロミック層側との密着性を評価した。試験条件は、剥離角度を180°、温度を25℃、剥離速度を200mm/分とした。
【0101】
(3)エレクトロクロミック性の評価
調光シートを縦5cm×横5cmのサイズに切断し、これを合わせガラス用中間膜とした。合わせガラス用中間膜を、縦5cm×横5cmの一対のITOガラス(表面抵抗120Ω)で、合わせガラス用中間膜がそれぞれの導電膜と接するように挟み込んで積層した。得られた積層体を、90℃の真空ラミネーターで圧着し、圧着後140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、合わせガラスを得た。
【0102】
得られた合わせガラスの電極に+2Vの直流電圧を印加した後、−2Vの直流電圧を印加し、透過率の変化を目視にて観察した。透過率の変化が認められた場合を「○」、変化が認められなかった場合を「×]と評価した。
【0103】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できるエレクトロクロミックシート、該エレクトロクロミックシートを用いた調光シート、調光体、合わせガラス用中間膜、及び、合わせガラスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環を有するエレクトロクロミック化合物を含有し、一方の面の水に対する接触角が30〜80°であることを特徴とするエレクトロクロミックシート。
【請求項2】
水に対する接触角が30〜80°である面は、親水性官能基を付与する処理が施されていることを特徴とする請求項1記載のエレクトロクロミックシート。
【請求項3】
親水性官能基を付与する処理は、プラズマ処理であることを特徴とする請求項2記載のエレクトロクロミックシート。
【請求項4】
芳香環を有するエレクトロクロミック化合物は、芳香族を側鎖に有するポリアセチレン化合物であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のエレクトロクロミックシート。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載のエレクトロクロミックシートと、前記エレクトロクロミックシートの水に対する接触角が30〜80°である面とは反対側の面に積層された電解質層とを有することを特徴とする調光シート。
【請求項6】
請求項5記載の調光シートが、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれていることを特徴とする調光体。
【請求項7】
請求項5記載の調光シートを用いることを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
請求項7記載の合わせガラス用中間膜が、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、それぞれの導電膜と接するように挟み込まれていることを特徴とする合わせガラス。

【公開番号】特開2012−83748(P2012−83748A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203353(P2011−203353)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】