説明

エレクトロクロミック化合物、エレクトロクロミック組成物及び表示素子

【課題】マゼンタ系に発色し、消色時の色づきが少ないエレクトロクロミック化合物該化合物を結合又は吸着してなるエレクトロクロミック組成物及び前記化合物又は組成物を用いた表示素子を提供する。
【解決手段】表示電極1と対向電極2間に電解質3を備え、表示電極の対向電極側の表面に、下記一般式(1)で表されるエレクトロクロミック化合物を含む表示層4を形成して表示素子とする。


[式中、X〜X12は水素原子または一価の基を示し、R1、Rは一価の基を示し、A、Bは1価のアニオンを表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色時にマゼンタ発色を呈するエレクトロクロミック化合物、エレクトロクロミック組成物、および該エレクトロクロミック化合物又はエレクトロクロミック組成物を用いた表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、紙に替わる電子媒体として、電子ペーパーの開発が盛んに行われている。
電子ペーパーは、表示装置が紙のように用いられるところに特徴があるため、CRTや液晶ディスプレイといった従来の表示装置とは異なった特性が要求される。例えば、反射型表示装置であり、かつ、高い白反射率・高いコントラスト比を有すること、高精細な表示ができること、表示にメモリ効果があること、低電圧でも駆動できること、薄くて軽いこと、安価であること、などの特性が要求される。このうち特に、表示の品質に関わる特性として、紙と同等な白反射率・コントラスト比、さらにカラー表示についての要求度が高い。
【0003】
これまで、電子ペーパー用途の表示装置として、例えば、反射型液晶を用いる方式、電気泳動を用いる方式、トナー泳動を用いる方式、などが提案されている。しかしながら、上記のいずれの方式も白反射率・コントラスト比を確保しながら多色表示を行うことは大変困難である。一般に多色カラー表示を行うためには、カラーフィルタを設けるが、カラーフィルタを設けると、カラーフィルタ自身が光を吸収し、反射率が低下する。さらに、カラーフィルタは、一画素をレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)に3分割するため、表示装置の反射率が低下し、それに伴ってコントラスト比が低下する。白反射率・コントラスト比が大幅に低下した場合は、視認性が非常に悪くなり、電子ペーパーとして用いることが困難である。
【0004】
特許文献1、2では、電気泳動素子にカラーフィルタを形成した反射型カラー表示媒体が開示されているが、低い白反射率、低いコントラスト比の表示媒体にカラーフィルタを形成しても良好な画質が得られないことは明白である。さらに、特許文献3、4では、複数の色にそれぞれ着色された粒子を動かすことによってカラー化を行う電気泳動素子が開示されているが、これらの方法を用いても原理的には上記の課題の解決にはならず、高い白反射率と高いコントラスト比を同時に満たすことはできない。
【0005】
一方、上記のようなカラーフィルタを設けず、反射型の表示装置を実現するための有望な技術として、エレクトロクロミック現象を用いる方式がある。電圧を印加することで、その極性に応じて可逆的に酸化還元反応が起こり、可逆的に色が変化する現象をエレクトロクロミズムという。このエレクトロクロミズム現象を引き起こすエレクトロクロミック化合物の発色/消色(以下、発消色)を利用した表示装置が、エレクトロクロミック表示装置である。このエレクトロクロミック表示装置については、反射型の表示装置であること、メモリ効果があること、低電圧で駆動できることから、電子ペーパー用途の表示装置技術の有力な候補として、材料開発からデバイス設計に至るまで、幅広く研究開発が行われている。
【0006】
ただし、エレクトロクロミック表示装置には、酸化還元反応を利用して発消色を行う原理ゆえに、発消色の応答速度が遅いという欠点がある。特許文献5では、エレクトロクロミック化合物を電極近傍に固定させることによって発消色の応答速度の改善を図った例が記載されている。特許文献5の記載によれば、従来数10秒程度だった発消色に要する時間は、無色から青色への発色時間、青色から無色への消色時間は、ともに1秒程度まで向上している。ただし、これで十分というわけではなく、エレクトロクロミック表示装置の研究開発に際しては、さらなる発消色の応答速度の向上が必要である。
【0007】
エレクトロクロミック表示装置は、表示材料に用いるエレクトロクロミック化合物の構造によって様々な色を発色できるため、多色カラー表示装置として期待されている。特に、無色とカラー発色状態を可逆的に変化するため、積層多色構成が実現できる。積層構成でのカラー表示では従来技術のように一画素をレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)に3分割する必要がないため、表示装置の反射率、コントラスト比が低下しないという長所もある。
【0008】
このようなエレクトロクロミック表示装置を利用した多色表示装置には、いくつか公知になっている例がある。例えば、特許文献6では、複数種のエレクトロクロミック化合物の微粒子を積層したエレクトロクロミック化合物を用いた多色表示装置が開示されている。該文献では、発色を示す電圧の異なる複数の機能性官能基を有する高分子化合物であるエレクトロクロミック化合物を複数積層し、多色表示エレクトロクロミック化合物とした多色表示装置の例が記載されている。
【0009】
また、特許文献7では、電極上に多層にエレクトロクロミック層を形成し、その発色に必要な電圧値や電流値の差を利用して多色を発色させる表示装置が開示されている。該文献では、異なる色を発色し、かつ、発色する閾値電圧及び発色に必要な必要電荷量が異なる複数のエレクトロクロミック化合物を、積層又は混合して形成した表示層を有する多色表示装置の例が記載されている。
【0010】
特許文献8では、エレクトロクロミック色素を含む電解質層を挟持してなる構造単位を、複数個積層してフルカラー化を容易とするエレクトロクロミック装置が開示されている。また、特許文献9では、少なくとも1 種のエレクトロクロミック色素を含有する電解質層を介在させてなるエレクトロクロミック素子によりパッシブマトリクスパネル及びアクティブマトリクスパネルを構成し、RGB3色に対応する多色表示装置の例が記載されている。さらに、特許文献10では、金属酸化物粒子表面に、特定構造を有する化合物の一種又は二種以上を含む構成とした可逆性記録材料により発色特性と耐久性を向上することが記載されている。
【0011】
しかし、前記特許文献5、特許文献6、特許文献7に例示しているビオロゲン系有機エレクトロクロミック化合物は安定性や繰り返し耐久性が高い化合物であるが、青色、緑色といった色を発色するものであり、フルカラー化に必要なイエロー、マゼンタ、シアンの3原色を発色するものではない。また、前記特許文献8、特許文献9、特許文献10に例示しているスチリル系色素は良好なイエロー、マゼンタ、シアン発色するが、発消色の安定性や繰り返し耐久性に問題があった。
【0012】
一方、特許文献11に例示されている2つのピリジン環の間にフラン環、チオフェン環、セレノフェン環、アルキルピロール環を導入した構造は、良好なマゼンタを発色することを示している。しかしながら、この構造は消色状態においてイエローに着色しているため、消色状態における色づきが大きいという課題がある。また、特許文献12に例示されているフェニルピロール環を導入した構造は、良好なマゼンタを発色することを示し、さらに消色状態のイエローも大幅に低減している。しなしながら、まだ消色状態の色づきはわずかに残っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、発色時にシャープな光吸収スペクトル特性を示し、マゼンタ系に発色を呈し、かつ、消色時の色づきが少ないエレクトロクロミック化合物、エレクトロクロミック組成物(エレクトロクロミック化合物が導電性または半導体性ナノ構造体に結合または吸着されてなるエレクトロクロミック組成物)、および該エレクトロクロミック化合物またはエレクトロクロミック組成物を用いた表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定構造を有するエレクトロクロミック化合物を用いることにより、前記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
即ち、上記課題は、下記一般式(1)で表されることを特徴とするエレクトロクロミック化合物により解決される。
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、X、X、X、X、X、X、X、X、X、X10、X11、X12は各々独立に水素原子または一価の基を示し、これら一価の基は置換基を有していてもよい。R1、Rは各々独立に官能基を有していてもよい一価の基を示し、これら一価の基は置換基を有していてもよい。A、Bはそれぞれ1価のアニオンを表す。]
【0017】
また、上記課題は、請求項1乃至3のいずれかに記載のエレクトロクロミック化合物と導電性または半導体性ナノ構造体が結合または吸着されてなることを特徴とするエレクトロクロミック組成物により解決される。
また、上記課題は、表示電極と、該表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極と、両電極間に配置された電解質とを備え、該表示電極の対向電極側の表面に、少なくとも請求項1乃至3のいずれかに記載のエレクトロクロミック化合物又は該エレクトロクロミック化合物と導電性または半導体性ナノ構造体が結合または吸着されてなるエレクトロクロミック組成物を含む表示層を有することを特徴とする表示素子により解決される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発色時にシャープな光吸収スペクトル特性を示し、マゼンタ系発色を呈し、さらに消色時の色づきが少ないエレクトロクロミック化合物あるいはエレクトロクロミック組成物を得ることができる。また、本発明のエレクトロクロミック化合物またはエレクトロクロミック組成物を用いるので、フルカラー表示が可能な表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のエレクトロクロミック化合物を用いた一般的な表示素子の構成例を示す概略図である。
【図2】本発明のエレクトロクロミック組成物を用いた一般的な表示素子の構成例を示す概略図である。
【図3】実施例1で作製したエレクトロクロミック表示素子の消色状態および発色状態における反射スペクトルを示す図である。
【図4】実施例1のエレクトロクロミック表示素子と比較例1のエレクトロクロミック表示素子の消色時の反射スペクトルを示す図である。
【図5】実施例1で作製したエレクトロクロミック表示層を形成した表示電極の消色状態および発色状態における吸収スペクトルを示す図である。
【図6】実施例1のエレクトロクロミック表示層と比較例1のエレクトロクロミック表示層との消色状態での吸収スペクトルの比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述のように本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)で表されるエレクトロクロミック化合物であれば、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、一般式(1)で表されるエレクトロクロミック化合物は発色時にシャープな光吸収スペクトル特性を示し、マゼンタ系発色を呈し、さらに消色時の色づきが少ないものである。
【0021】
【化2】

【0022】
[式中、X、X、X、X、X、X、X、X、X、X10、X11、X12は各々独立に水素原子または一価の基を示し、これら一価の基は置換基を有していてもよい。R1、Rは各々独立に官能基を有していてもよい一価の基を示し、これら一価の基は置換基を有していてもよい。A、Bはそれぞれ1価のアニオンを表す。]
【0023】
一般式(1)においてX、X、X、X、X、X、X、X、X、X10、X11、X12で示される一価の基としては、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、アミノカルボニル基、スルホン酸基、スルホニル基、スルホンアミド基、アミノスルホニル基、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、および複素環基から選択される一価の基が挙げられ、これら一価の基は置換基を有していてもよい。また、R1、Rで示される一価の基としては、各々独立にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびアリール基から選択される官能基を有していてもよい一価の基が挙げられ、これら一価の基は置換基を有していてもよい。A、Bはそれぞれ1価のアニオンを表す。]
【0024】
ここで、置換基を有していてもよい前記カルボニル基としては、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基等が、置換基を有していてもよい前記アミノカルボニル基としては、モノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、モノアリールアミノカルボニル基、ジアリールアミノカルボニル基等が、前記スルホニル基としては、アルコキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等が、置換基を有していてもよい前記アミノスルホニル基としては、モノアルキルアミノスルホニル基、ジアルキルアミノスルホニル基、モノアリールアミノスルホニル基、ジアリールアミノスルホニル基等が、前記アミノ基としては、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基等が、それぞれ挙げられ、これら一価の基は置換基を有していてもよい。
【0025】
即ち、前記一般式(1)において、X、X、X、X、X、X、X、X、X、X10、X11、X12で示される一価の基としては、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、アミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノカルボニル基、スルホン酸基、置換基を有していてもよいアルコキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、スルホンアミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノスルホニル基、アミノ基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよい複素環基などが挙げられる。また、R1、Rで示される一価の基としては、各々独立に官能基を有していてもよいアルキル基、官能基を有していてもよいアルケニル基、官能基を有していてもよいアルキニル基、および官能基を有していてもよいアリール基などが挙げられ、これら一価の基は置換基を有していてもよい。A、Bはそれぞれ1価のアニオンを表す。]
、X、X、X、X、X、X、X、X、X10、X11、およびX12の一価の基により、エレクトロクロミック化合物の溶媒に対する溶解性を付与することができるので素子作製プロセスが容易になる。また、発色スペクトル(カラー)の調整が可能になる。一方、これらの基により、耐熱性・耐光性などの安定性が低下しやすいので、好ましくは水素原子、ハロゲン、炭素数6以下の置換基がよい。
【0026】
前記R1、Rのうち少なくとも一方の基が水酸基に対して直接的または間接的に結合可能な官能基を有することが好ましい。水酸基に対して直接的または間接的に結合可能な官能基としては、水酸基に対して水素結合、吸着あるいは化学反応により直接的あるいは間接的に結合可能な官能基であればよく、その構造は限定されるものではないが、好ましい例としては、ホスホン酸基、リン酸基、トリクロロシリル基、トリアルコキシシリル基、モノクロロシリル基、モノアルコキシシリル基等のシリル基(又はシラノール基)やカルボキシル基が挙げられる。トリアルコキシシリル基としては、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基等が好ましい。なかでも、導電性または半導体性ナノ構造体への結合力が高いホスホン酸基又はシリル基(トリアルコキシシリル基、あるいはトリヒドキシシリル基)が特に好ましい。
【0027】
また、前記A、Bは各々1価のアニオンを表し、カチオン部と安定に対を成すものであれば特に限定されるものではないが、Brイオン(Br)、Clイオン(Cl)、ClOイオン(ClO)、PFイオン(PF)、BFイオン(BF)等が好ましい。
【0028】
なお、本発明のエレクトロクロミック化合物は、前記一般式(1)が対称的な構造となるようなX(X、X、X、X、X、X、X、X、X、X10、X11、X12)およびR(R1、R)であることが、その合成の容易さ、および安定性向上の面から望ましい。また、本発明のエレクトロクロミック化合物はマゼンタ系の発色を呈するが、前述のように置換基の効果により、イエロー系やシアン系の発色も可能である。
【0029】
本発明のエレクトロクロミック化合物の具体例を下記構造式(2)〜(15)に示すが、本発明のエレクトロクロミック化合物はこれらに限定されるものではない。
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
【化11】

【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

【0043】
【化16】

【0044】
また、本発明に係るエレクトロクロミック組成物は、本発明のエレクトロクロミック化合物[前記一般式(1)で表されるエレクトロクロミック化合物]に導電性または半導体性ナノ構造体が結合されてなることを特徴とするものである。
本発明のエレクトロクロミック組成物は、エレクトロクロミック表示素子に用いたとき、マゼンタ発色を呈しさらに画像のメモリ性すなわち発色画像保持特性に優れたものとなる。なお、導電性または半導体性ナノ構造体とは、ナノ粒子もしくはナノポーラス構造体等、ナノスケールの凹凸を有する構造体である。
【0045】
前述のようにR1、Rのうち少なくとも一方の基が水酸基に対して直接的または間接的に結合可能な官能基を有する場合、例えば、本発明のエレクトロクロミック化合物が、結合または吸着構造としてスルホン酸基またはリン酸基あるいはカルボキシル基を有するとき、該エレクトロクロミック化合物は容易に前記ナノ構造体と複合化し、発色画像保持性に優れたエレクトロクロミック組成物となる。上記スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基はエレクトロクロミック化合物中に複数有していてもよい。また、本発明のエレクトロクロミック化合物が、シリル基又はシラノール基を有するとき、シロキサン結合を介して前記ナノ構造体と結合されてその結合は強固なものとなり、やはり安定なエレクトロクロミック組成物が得られる。ここで言うシロキサン結合とは、ケイ素原子および酸素原子を介した化学結合である。また、該エレクトロクロミック組成物は、前記エレクトロクロミック化合物と前記ナノ構造体がシロキサン結合を介して結合した構造をしていればよく、特にその結合方法・形態は限定しない。
【0046】
前記導電性または半導体性ナノ構造体を構成する材質としては、透明性や導電性の面から金属酸化物が好ましい。このような金属酸化物の例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム(略、アルミナ)、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ケイ素(略、シリカ)、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物が用いられる。また、これらの金属酸化物は、単独で用いられてもよく、2種以上が混合され用いられてもよい。
【0047】
電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性を鑑みるに、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステン等の金属酸化物から選ばれる一種、もしくはそれらの混合物が用いられたとき、発消色の応答速度に優れた多色表示が可能である。とりわけ、酸化チタンが用いられたとき、より発消色の応答速度に優れた多色カラー表示が可能である。
【0048】
前記金属酸化物の形状としては、平均一次粒子径が30nm以下の金属酸化物微粒子であることが好ましい。粒子径が小さいほど金属酸化物に対する光の透過率が向上し、単位体積当たりの表面積(以下、「比表面積」という。)が大きい形状が用いられる。大きな比表面積を有することで、より効率的にエレクトロクロミック化合物が担持され、発消色の表示コントラスト比に優れた多色カラー表示が可能である。ナノ構造の比表面積は、特に限定されるものではないが、例えば、100m/g以上とすることができる。
【0049】
次に、本発明に係る表示素子について説明する。
本発明の表示素子は、表示電極と、該表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極と、両電極間に配置された電解質とを備え、該表示電極の対向電極側の表面に、前記一般式(1)で表されるエレクトロクロミック化合物を含む表示層を有することを特徴とするものである。
図1に、本発明のエレクトロクロミック化合物を用いた一般的な表示素子の構成例を示す。図1(a)、(b)に示すように、本発明の表示素子10、20は、表示電極1と、該表示電極1に対して間隔をおいて対向して設けられた対向電極2と、両電極(表示電極1と対向電極2)間に配置された電解質3とを備え、該表示電極1の対向電極2側の表面に、少なくとも本発明の記載のエレクトロクロミック化合物(有機エレクトロクロミック化合物)4aを含む表示層4を有する。
図1(b)の表示素子において、表示層4は、本発明のエレクトロクロミック化合物を用いて表示電極1の表面(対向電極2側に面する表面)に形成される。その形成方法は、浸漬、ディッピング法、蒸着法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などどのような方法を用いても構わない。
また、図1(a)のように電解質を溶媒に溶解した溶液構成とし、さらに前記溶液中にエレクトロクロミック化合物を溶解させることも可能である。この場合、エレクトロクロミック化合物は電極表面でのみ酸化還元反応により発消色する。
なお、図1(c)の模式図に示すように、本発明のエレクトロクロミック化合物4aが、分子構造中に水酸基に対して直接的または間接的に結合可能な官能基(吸着基)4aを有している場合は表示電極1に該吸着基が吸着して、表示層4が形成される。図1(c)において符号4aは酸化還元発色部、4aはスペーサ部(分子主骨格部)を示す。
【0050】
また、前記一般式(1)で表されるエレクトロクロミック化合物を含む表示層を前記エレクトロクロミック組成物とすることができる。図2に、本発明のエレクトロクロミック組成物を用いた一般的な表示素子の構成例を示す。
図2に示すように、本発明の表示素子30は、表示電極1と、該表示電極1に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極2と、両電極(表示電極1と対向電極2)間に配置された電解質3とを備え、該表示電極1の対向電極2側の表面に、少なくとも本発明のエレクトロクロミック組成物5aを含む表示層5を有する。また、対向電極2の表示電極1側に、白色粒子からなる白色反射層6を有する。
【0051】
図2の表示素子において、表示層5は、本発明のエレクトロクロミック組成物を用いて表示電極1の表面(対向電極2側に面する表面)に形成される。その形成方法は、浸漬、ディッピング法、蒸着法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などどのような方法を用いても構わない。
本発明のエレクトロクロミック組成物中のエレクトロクロミック化合物は、図1(c)に示すように、分子構造中に水酸基に対して直接的または間接的に結合可能な官能基(吸着基)、いわゆる、結合基を有しているものを用いることができるので、前記結合基が導電性または半導体性ナノ構造体に結合して、エレクトロクロミック組成物を構成することができる。そして、該エレクトロクロミック組成物が表示電極1上に層状に設けられて、表示層5が形成されている。
【0052】
以下、本発明の実施の形態に係るエレクトロクロミック表示素子10、20、30に用いられる構成材料について説明する。
表示電極1を構成する材料としては、透明導電基板を用いることが望ましい。透明導電基板としてはガラス、あるいはプラスチックフィルムに透明導電薄膜をコーティングしたものが望ましい。
透明導電薄膜材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、光の透過性を確保する必要があるため、透明且つ導電性に優れた透明導電性材料が用いられる。これにより、発色させる色の視認性をより高めることができる。
透明導電性材料としては、スズをドープした酸化インジウム(略:ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(略:FTO)、アンチモンをドープした酸化スズ(略:ATO)等の無機材料を用いることができるが、特に、インジウム酸化物(以下、In酸化物という)、スズ酸化物(以下、Sn酸化物という)、または亜鉛酸化物(以下、Zn酸化物という)の何れか1つを含む無機材料であることが好ましい。In酸化物、Sn酸化物およびZn酸化物は、スパッタ法により、容易に成膜が可能な材料であると共に、良好な透明性と電気伝導度が得られる材料である。また、特に好ましい材料は、InSnO、GaZnO、SnO、In、ZnOである。
表示電極1を設ける表示基板(符号は不表示)を構成する材料としては、ガラスあるいはプラスチック等が挙げられる。表示基板として、プラスチックフィルムを用いれば軽量でフレキシブルな表示素子を作製することができる。
【0053】
対向電極2としては、ITO、FTO、酸化亜鉛等の透明導電膜、あるいは亜鉛、白金等の導電性金属膜、さらにはカーボンなどが用いられる。対向電極2も一般的には対向基板(符号は不表示)上に形成する。対向電極基板もガラス、あるいはプラスチックフィルムが望ましい。対向電極2として、亜鉛等の金属板が用いられる場合、対向電極2が基板を兼ねる。
さらに、対向電極2を構成する材料が、表示層のエレクトロクロミック組成物が起こす酸化還元反応と逆の逆反応を起こす材料を含む場合、安定した発消色が可能である。すなわち、エレクトロクロミック組成物が酸化により発色する場合は還元反応を起こし、エレクトロクロミック組成物が還元により発色する場合は酸化反応を起こす材料を対向電極2として用いると、エレクトロクロミック組成物を含む表示層5における発消色の反応がより安定となる。
【0054】
電解質3を構成する材料としては、一般的に、支持塩を溶媒に溶解させたものが用いられる。
支持塩として、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができる。具体的な例としては、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、CFSOLi、CFCOOLi、KCl、NaClO、NaCl、NaBF、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BF等を用いることができる。
また、溶媒として、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類、が用いられる。
その他、支持塩を溶媒に溶解させた液体状の電解質に特に限定されるものではないため、ゲル状の電解質や、ポリマー電解質等の固体電解質も用いられる。例えば、パーフルオロスルホン酸系高分子膜などの固体系などがある。溶液系はイオン伝導度が高いという利点があり、固体系は劣化がなく高耐久性の素子を作製することに適している。
【0055】
また、本発明の表示素子を反射型表示素子として用いる場合、図2に示すように、表示電極1と対向電極2の間に白色反射層6を設けることが望ましい。白色反射層6としては、白色顔料粒子を樹脂に分散させ対向電極2上に塗布することが最も簡便な作製方法である。
白色顔料微粒子としては、一般的な金属酸化物からなる粒子が適用でき、具体的には酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化セシウム、酸化イットリウムなどが挙げられる。また、ポリマー電解質に白色顔料粒子を混合することによって、白色反射層を兼ねることもできる。
【0056】
表示素子10、20、30の駆動方法としては、任意の電圧、電流を印加することができればどのような方法を用いても構わない。パッシブ駆動方法を用いれば安価な表示素子を作製することができる。また、アクティブ駆動方法を用いれば高精細、かつ高速な表示をおこなうことができる。対向基板上にアクティブ駆動素子を設けることで容易にアクティブ駆動ができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例にて本発明のエレクトロクロミック化合物およびエレクトロクロミック組成物、またそれらを用いた表示素子について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
<エレクトロクロミック化合物[構造式(15)]の合成>
下記合成フローに従って構造式(15)で示されるエレクトロクロミック化合物を合成した。
【0059】
【化17】

〈a〉中間体(4−1)の合成
500ml三つ口フラスコに、4,7−ジブロモ−2,1,3−ベンゾチアジアゾール6.00g(20.4mmol)を加え、アルゴンガス置換した後、脱水エタノール190mlを加え、氷浴により冷却した。ここに、水素化ホウ素ナトリウム 13.6g(360mmol)を少しずつ加えた後、室温にて終夜撹拌した。その後、エタノールを減圧留去してから、ジエチルエーテルおよび水を加えて固形分を溶解させた後にこれを分液漏斗に移し有機層を飽和食塩水で洗浄してから無水硫酸マグネシウムで脱水した後、溶媒を減圧留去した。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)により精製し、目的物を得た。収量4.50g、収率83%。
【0060】
〈b〉中間体(4−2)の合成
300ml三つ口フラスコに、1,2−ジアミノ−3,6−ジブロモベンゼン2.40g(9.02mmol)およびエタノール 60mlを加えた。ここに、39%グリオキサール水溶液 3g(20.2mmol)を滴下した後に、トリエチルアミンを数滴加え室温にて終夜撹拌した。その後、析出した固形物をろ過により回収し、これをエタノールで再結晶することにより目的物を得た。収量1.79g、収率69%。
【0061】
〈c〉中間体(4−3)の合成
100ml三つ口フラスコに、5,8−ジブロモキノキサリン
1.00g(3.47mmol)、4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ピリジン 3.27g(15.97mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム0.401g(0.347mmol)、相間移動触媒として、Aliquat336(アルドリッチ社製) 0.150g(0.371mmol)を加え、アルゴンガス置換した後、アルゴンガスにて脱気した1,4−ジオキサン27mlおよび1M-炭酸カリウム水溶液22mlを順次加え、105℃で15時間還流した後、反応溶液を室温に戻してから、クロロホルムおよびを飽和食塩水加えた。この溶液を分液漏斗に移し、有機層を飽和食塩水洗浄した後、この有機層に乾燥剤として硫酸マグネシウムを加え室温にて1時間撹拌して脱水したのち、次いで、パラジウムスカベンジャーシリカゲル(アルドリッチ社製)を2g加え室温にて1時間撹拌し、有機層中の残留パラジウムを除去した。上記乾燥剤およびシリカゲルを濾別した後、溶媒を減圧留去した。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン/アセトン=1/2)により精製し、目的物を得た。
収量0.78g、収率79%。
【0062】
〈d〉エレクトロクロミック化合物[構造式(15)]の合成
25ml三つ口フラスコに、5,8−ビス(4−ピリジル)−キノキサリン0.113g(0.40mmol)、4−ブロモメチルベンジルホスホン酸 0.371g(1.40mmol)、ジメチルホルムアミド 2.5mlを加え、90℃で2.5時間反応させた。室温に戻した後、この溶液を2−プロパノールに排出し、次いで、得られた固形分を2−プロパノール中に分散させた後、回収し、100℃で2日間減圧乾燥して目的物を得た。
収量0.28g、収率86%。
【0063】
〔エレクトロクロミック表示素子の作製および評価〕
(a)表示電極およびエレクトロクロミック表示層の形成
まず、25mm×30mmのFTO導電膜付きガラス基板(AGCファブリテック製社)を準備し、その上面の19mm×15mmの領域に、酸化チタンナノ粒子分散液(昭和タイタニウム社製 SP210)をスピンコート法により塗布し、120℃で15分間アニール処理を行うことによって、酸化チタン粒子膜を形成した。この酸化チタン粒子膜に構造式(15)で示される化合物の1wt%2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液を塗布液としてスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことによって酸化チタン粒子表面にエレクトロクロミック化合物を吸着させた表示層5を形成した。
なお、作製のエレクトロクロミック表示素子の構成は図2の構成に準ずる(白色反射層は除く)ものである。
(b)対向電極の形成
一方、前記ガラス基板とは別に25mm×30mmのITO導電膜付きガラス基板(ジオマテック社製)を準備し、対向基板とした。
(c)エレクトロクロミック表示素子の作製
表示基板と対向基板を75μmのスペーサを介して貼り合わせ、セルを作製した。次に、過塩素酸テトラブチルアンモニウムをジメチルスルホキシドに20wt%を溶解させた溶液に、一次粒径300nmの酸化チタン粒子(石原産業株式会社製 CR50)を35wt%分散させ、電解質溶液を調製し、セル内に封入することでエレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0064】
[比較例1]
特許文献11(特開2007−241238号公報)に記載されているエレクトロクロミック化合物、即ち特許文献11において化合物20で示される化合物のカウンターアニオンをClからBrに変えた下記構造式(16)で表されるエレクトロクロミック化合物を合成した。
【0065】
【化18】

【0066】
得られたエレクトロクロミック化合物を用いたほかは実施例1の(a)〜(d)と全く同じ方法で表示電極およびエレクトロクロミック表示層を形成し、エレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0067】
〔発消色比較試験〕
実施例1および比較例1で作製した各々のエレクトロクロミック表示素子について、発消色の比較評価を実施した。
発消色の評価は、大塚電子株式会社製分光測色装置MCPD7700を用いて拡散光を照射することにより行った。
電圧印加前の消色状態において比較例1のエレクトロクロミック表示素子はわずかにイエローに色づいていた。これと比較して、実施例1の本発明のエレクトロクロミック表示素子は色づきがなく白色であった。
各々の表示素子の表示電極1に負極を、対向電極2に正極を繋ぎ、3.0Vの電圧を2秒印加したところ、表示素子は共に良好なマゼンタを発色した。
実施例1で作製したエレクトロクロミック表示素子の消色状態および発色状態における反射スペクトルを図3に示す。また、実施例1のエレクトロクロミック表示素子と比較例1のエレクトロクロミック表示素子の消色時の反射スペクトルをそれぞれ図4に示す。
また、本発明の実施例1は発色電圧(3.0V 2秒)印加後、電源オフ後300秒においても発色状態が保持された。
また、石英セルに実施例1で作製したエレクトロクロミック表示層を形成した表示電極を各々入れ、対極として白金電極、参照電極としてAg/Ag+電極(ビー・エー・エス株式会社 RE−7)を用い,過塩素酸テトラブチルアンモニウムをジメチルスルホキシドに20wt%を溶解させた電解液でセル内を満たした。この石英セルに重水素タングステンハロゲン光(オーシャンオプティクス社 DH−2000)を照射し、透過した光をスペクトロメータ(オーシャンオプティクス社 USB4000)で検出し、吸収スペクトルを測定した。消色状態および発色状態における吸収スペクトルを図5に示す。電圧印加前の消色状態では400nm〜800nmの可視域全体で吸収がなく透明であった。ポテンショスタット(ビー・エー・エス株式会社 ALS−660C)を用いて−1.5V電圧印加したところ、極大吸収波長が580nmになりマゼンタを発色した。
実施例1のエレクトロクロミック表示層と比較例1のエレクトロクロミック表示層との消色状態での吸収スペクトルの比較を図6に示す。比較例1は吸収帯が450nmあたりまでわずかに吸収が存在し、実施例1のエレクトロクロミック化合物のほうがより消色状態の透明性が高かった。
【0068】
[実施例2]
実施例1で合成した中間体15−3に二等量の臭化エチル反応させることにより、エレクトロクロミック化合物[例示した構造式(2)の化合物]を合成した。
次に、2,2,3,3−テトラフロロプロパノールに、合成したエレクトロクロミック化合物[構造式(2)の化合物]を1wt%、および電解質として過塩素酸テトラブチルアンモニウム5wt%を溶解させたエレクトロクロミック化合物溶液を調製した。このエレクトロクロミック化合物溶液を30mm×30mmのITO導電膜付きガラス基板(ジオマテック社製)を表示基板と対向基板として75μmのスペーサを介して貼り合わせたセルに封入することでエレクトロクロミック表示素子を作製した。
作成した表示素子に3Vの電圧を2秒印加したところ、表示素子はマゼンタ発色した。さらに逆電圧−2Vを1秒印加したところ消色し、透明にもどった。すなわち、発色時にシャープな光吸収スペクトル特性を示し、マゼンタ系に発色を呈し、消色時の色づきはなかった。
【0069】
上記評価結果から、本発明のエレクトロクロミック化合物は、発色時にシャープな光吸収スペクトル特性を示し、マゼンタ系に発色を呈し、しかも消色時の色づきが少ないことが確認された。本発明のエレクトロクロミック化合物、またはエレクトロクロミック化合物が導電性または半導体性ナノ構造体に結合または吸着されてなるエレクトロクロミック組成物を表示層に有する表示素子は、電界印加により良好な発消色(マゼンタ発色または消色)の応答性を示し、画像保持性(メモリー性の維持)にも優れている。
すなわち、本発明のエレクトロクロミック化合物は、フルカラー化に必要な3原色の一つとして有用であり、これを用いた表示素子は、例えば、書き換えが可能なペーパーライクな装置技術として重要である。
【符号の説明】
【0070】
(図1の符号)
1 表示電極
2 対向電極
3 電解質
4 表示層
4a官能基(吸着基)
4a酸化・還元発色部
4aスペーサ部(分子主骨格部)
4a エレクトロクロミック化合物
10 表示素子
20 表示素子
(図2の符号)
1 表示電極
2 対向電極
3 電解質
5 表示層
5a エレクトロクロミック組成物
6 白色反射層
30 表示素子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0071】
【特許文献1】特開2003−161964号公報
【特許文献2】特開2004−361514号公報
【特許文献3】特表2004−520621号公報
【特許文献4】特表2004−536344号公報(特許第4093958号公報)
【特許文献5】特表2001−510590号公報(特許第3955641号公報)
【特許文献6】特開2003−121883号公報
【特許文献7】特開2006−106669号公報
【特許文献8】特開2003−270671号公報
【特許文献9】特開2004−151265号公報
【特許文献10】特開2008−122578号公報
【特許文献11】特開2007−241238号公報
【特許文献12】特開2011−085773号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするエレクトロクロミック化合物。
【化1】

[式中、X、X、X、X、X、X、X、X、X、X10、X11、X12は各々独立に水素原子または一価の基を示し、これら一価の基は置換基を有していてもよい。R1、Rは各々独立に官能基を有していてもよい一価の基を示し、これら一価の基は置換基を有していてもよい。A、Bはそれぞれ1価のアニオンを表す。]
【請求項2】
前記R1、Rのうち少なくとも一方の基が水酸基に対して直接的または間接的に結合可能な官能基を有することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック化合物。
【請求項3】
前記水酸基に対して直接的または間接的に結合可能な官能基が、ホスホン酸基、リン酸基、シリル基又はシラノール基から選択される基であることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロクロミック化合物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のエレクトロクロミック化合物と導電性または半導体性ナノ構造体が結合または吸着されてなることを特徴とするエレクトロクロミック組成物。
【請求項5】
表示電極と、該表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極と、両電極間に配置された電解質とを備え、該表示電極の対向電極側の表面に、少なくとも請求項1乃至3のいずれかに記載のエレクトロクロミック化合物又は該エレクトロクロミック化合物と導電性または半導体性ナノ構造体が結合または吸着されてなるエレクトロクロミック組成物を含む表示層を有することを特徴とする表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112632(P2013−112632A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259005(P2011−259005)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】