説明

エレクトロクロミック素子

【目的】 特に、従来のゲル電解質を改良したエレクトロクロミック素子を提供することを目的とする。
【解決手段】 高さ方向に間隔を空けて対向する一対の電極層2,3と、各電極層2,3間に挟持されたエレクトロクロミック層5,7及び前記エレクトロクロミック層5,7に接する電解質層8と、を有するエレクトロクロミック素子1において、前記電解質層8は、電解質塩を有機溶媒に溶解した電解液に親油性層状粘土鉱物を添加して形成されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高さ方向に間隔を空けた一対の電極層間にエレクトロクロミック層及び電解質層が挟持されたエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック素子は、高さ方向に間隔を空けた一対の電極層間にエレクトロクロミック層及び電解質層が挟持された構造である。電解質層には、液体状の電解質やゲル状の電解質を用いることができる。
【0003】
従来では、特許文献1に記載されているように、電解液にポリマーを溶解させてゲル電解質を製造していた。
【0004】
しかしながら、上記ゲル電解質では、ポリマーを溶解したことによる電解液の粘度上昇に影響され、素子の応答速度が極めて遅くなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−101982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、従来のゲル電解質を改良したエレクトロクロミック素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高さ方向に間隔を空けて対向する一対の電極層と、各電極層間に挟持されたエレクトロクロミック層及び前記エレクトロクロミック層に接する電解質層と、を有するエレクトロクロミック素子において、
前記電解質層は、電解質塩を有機溶媒に溶解した電解液に親油性層状粘土鉱物を添加して形成されたものであることを特徴とするものである。これにより、応答速度が速いエレクトロクロミック素子にできる。
【0008】
本発明では、前記親油性層状粘土鉱物は、親油性スメクタイトであることが好ましい。これにより、効果的に応答速度を速くできる。
【0009】
また本発明では、前記電解液にはカリウム塩が含まれることが好ましい。これにより、効果的に応答速度を速くできる。
【0010】
また本発明では、前記電解液の電解質濃度が、0.1M〜1.0Mの範囲であることが好ましい。
【0011】
また本発明では、前記親油性層状粘土鉱物の添加量が、前記電解液の重量に対して3質量%より大きく15質量%より小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、応答速度が速いエレクトロクロミック素子にできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施形態のエレクトロクロミック素子の縦断面図である。
【図2】図2は、本発明の別の実施形態のエレクトロクロミック素子の縦断面図である。
【図3】図3は、実験で使用したエレクトロクロミック素子の平面図である。
【図4】図4は、ゲル電解質を用いた比較例、電解液に親油性スメクタイトを添加した実施例1及び実施例2における応答性(発色→消色)を電流値変化により比較したグラフである。
【図5】図5は、ゲル電解質を用いた比較例、電解液に親油性スメクタイトを添加した実施例1及び実施例2における応答性(消色→発色)を電流値変化により比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、エレクトロクロミック素子の部分縦断面図である。
図1に示すエレクトロクロミック素子1は、高さ方向(Z)に間隔を開けた一対の透明電極層2,3と、各透明電極層2,3間に挟持されたエレクトロクロミック層5,7及び前記エレクトロクロミック層5,7に接して形成された電解質層8とを有して構成される。
【0015】
各透明電極層2,3は、ガラス等の透明基材4の内面に酸化インジウムスズ(ITO)で形成された透明導電層6を備えた構成である。
【0016】
図1に示すように、第1のエレクトロクロミック層5が第1の透明電極層2の導電面に形成されている。第1のエレクトロクロミック層5と透明導電層6とは電気的に接続されている。図1では第1のエレクトロクロミック層5と透明導電層6とが接して形成されている。
【0017】
また第2のエレクトロクロミック層7が第2の透明電極層3の導電面に形成されている。第2のエレクトロクロミック層7と透明導電層6とは電気的に接続されている。図1では第2のエレクトロクロミック層7と透明導電層6とが接して形成されている。
【0018】
各エレクトロクロミック層5,7はスパッタ、電界析出、あるいは印刷等で形成可能である。
【0019】
図1に示す実施形態では、第1のエレクトロクロミック層5と第2のエレクトロクロミック層7とは電解質層8を介して対向している。第1のエレクトロクロミック層5及び第2のエレクトロクロミック層7と電解質層8とは接して形成されている。
【0020】
例えば第1のエレクトロクロミック層5は、プルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)63)を含むインクをスピンコーターで塗布したものであり、第2のエレクトロクロミック層7は、ニッケル置換プルシアンブルー類似体(Ni3[Fe(CN)62)を含むインクをスピンコーターで塗布したものである。なお、本実施形態では、各エレクトロクロミック層5,7として使用されるエレクトロクロミック材料を限定するものでない。
【0021】
図1に示すように電解質層8の周囲には封止層13が設けられている。図1に示すように封止層13は電解質層8と略同一の高さ寸法(膜厚寸法)で形成されている。例えば封止層13にはシリコーンゴムを用いており、機械的な圧着で電解液を封入している。素子としてはサーリンフィルム(三井デュポンポリケミカルのハイミラン)を熱圧着することで封止層を形成している。ただし封止層13の形成は任意である。特に本実施形態では電解質層8の液漏れを抑制できるため封止層13がない形態も可能である。
【0022】
図1,図2に示すエレクトロクロミック素子1は、電解質層8を介して第1のエレクトロクロミック層5と第2のエレクトロクロミック層7との間で酸化還元反応が起こり、第1のエレクトロクロミック層5が発色すれば、第2のエレクトロクロミック層7は消色し、一方、第1のエレクトロクロミック層5が消色すれば、第2のエレクトロクロミック層7が発色する。
【0023】
例えば第1のエレクトロクロミック層5がエレクトロクロミック材料であるプルシアンブルー(PB)を有して形成され、第2のエレクトロクロミック層7が、エレクトロクロミック材料であるニッケル置換プルシアンブルー類似体(NiPB)を有して形成されており、第1のエレクトロクロミック層5が酸化状態になると、紺青の色を呈し、一方、第2のエレクトロクロミック層7は還元状態になり消色する(透明になる)。逆に、第2のエレクトロクロミック層7が酸化状態になると黄色を呈し、一方、第1のエレクトロクロミック層5は還元状態になり消色する(透明になる)。
【0024】
例えば、図1に示す第1の透明電極層2の表面が表示面2aとして、電極層及び電解質が透明あるいは透明に近い状態であれば、表示面2aから第1のエレクトロクロミック層5における紺青の表示とともに、第2のエレクトロクロミック層7における黄色の表示とを交互に見ることができる。
【0025】
あるいは、電解質層8内に例えば酸化チタン(TiO2)粉末を添加して電解質層8を白色化することもできる。これにより表示面2aでは、第1のエレクトロクロミック層5の発色のみが表示され、第2のエレクトロクロミック層7の発色状態を見えなくすることができる。
【0026】
本実施形態における電解質層8は、電解質塩を有機溶媒に溶解した電解液に親油性層状粘土鉱物を添加して形成されたものである。電解質塩としては、過塩素酸塩、鉄錯体、金属ハロゲン化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等であり、有機溶媒としては、エーテル類、カーボネート類、アルコール類、エステル類等を提示できる。電解質にはカリウム塩が含まれることが好適である。本実施形態では、電解液として、炭酸プロピレンにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウムを溶解した電解液であることが好適である。または、カリウム塩として、テトラフルオロほう酸カリウム、過塩素酸カリウム、ヘキサフルオロりん酸カリウム、ビス(フルオロスルホニル)イミドカリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム等も使用することが可能で、特に問題なく駆動できる。
【0027】
親油性層状粘土鉱物は無機物であり、主成分は層状珪素塩鉱物である。親油性層状粘土鉱物は、金属イオンと珪素とが連結して出来たシートが層状に重なりあい、各層状シート間に電解液を取り込むことが出来、親油性層状粘土鉱物は有機溶媒に分散・膨潤する。これによりゲル状の電解質を得ることが出来る。ただし電解液に親油性層状粘土鉱物を添加した電解質は、チクソ性を有し流動性を備える。したがって例えば図1に示す封止層13内に適切に電解質層8を入れることができる。そしてゲル化した状態では、ポリマーを溶解した従来のゲル電解質に比べて粘度が高い固体状となり、液漏れの心配がない。例えばエレクトロクロミック素子1の電解質層として、ポリマーを添加した従来のゲル電解質を用いた構成では、液漏れが生じたが、層状粘土鉱物を添加したゲル電解質層8を用いた本実施形態では液漏れが生じなかった。
【0028】
また親油性層状粘土鉱物は、イオン交換能を備えており、このため電解質層8中の金属イオン(上記カリウム塩であればカリウムイオン)の総量を増加させることができ、また電解質層8内で局所的に金属イオンの増減した際にバッファとなることにより金属イオンの見かけの移動速度が大きくなり、応答速度の向上を図ることが出来る。
【0029】
このように本実施形態における電解質層8は、電解質塩を有機溶媒に溶解した電解液に親油性層状粘土鉱物を添加して形成されたものであり、これにより、従来のポリマーを添加してゲル電解質とした構成に比べて応答速度を速くでき、しかも液漏れを防止することが出来る。
【0030】
電解質塩は、カリウム塩であることが好ましい。これにより、効果的に応答速度を速くできる。また、電解液の電解質濃度は、0.1M〜1.0M程度であることが好ましい。1.0Mを超えると電解質層8がゲル化しなくなり、0.1Mを下回ると電解液の濃度が不足してエレクトロクロミック素子1の特性が悪化する。これにより、電解質層8を適切にゲル化でき、応答速度の向上を図ることが可能になる。
【0031】
また本実施形態では、親油性層状粘土鉱物は、親油性スメクタイトであることが好ましい。これにより、効果的に応答速度を速くできる。
【0032】
また親油性層状粘土鉱物の添加量は、電解液重量に対して3質量%より大きく15質量%(wt%)より小さいことが好ましい。また、前記添加量は、5質量%〜10質量%程度であることがより好ましい。3質量%を超えるとゲル化が起こりやすくなり、5質量%を超えると十分にゲル化する。10質量%を越えるとスメクタイトに取り込まれる電解液の量が相対的に増加するので、エレクトロクロミック層に電解液の供給が不十分となりやすくなり、15質量%を超えると素子として機能しなくなる。これにより、電解質層8を適切にゲル化でき、応答速度を効果的に速くすることが可能になる。
【0033】
また図1に示すエレクトロクロミック素子1では、第1のエレクトロクロミック層5と第2のエレクトロクロミック層7とが膜厚方向(Z)で対向している。一方、図2に示す他の実施形態では、第1のエレクトロクロミック層5と第2のエレクトロクロミック層7とが膜厚方向(Z)にて重ならないように平面視(矢視α)にてずれて配置されている。
【0034】
本実施形態では図1のようにエレクトロクロミック層5,7を対向させた場合、図2のように、エレクトロクロミック層5,7をずらして配置した場合の双方において、ポリマーを溶解したゲル電解質を用いた従来に比べて、速い応答速度を得ることが可能である。すなわち本実施形態では、電解液は層状粘土鉱物の層状シート間に入り込んで保持された構成であり、電解液の金属イオンの移動に支障を与えず、また親油性層状粘土鉱物がイオン交換能を有することから金属イオンの移動を速くでき、図2のように各エレクトロクロミック層5,7をずらして配置しても、速い応答速度を得ることが出来る。
【実施例】
【0035】
実験では、図3の平面図で示すように、第1のエレクトロクロミック層5,5と第2のエレクトロクロミック層7,7とを膜厚方向で対向させず平面視にてずらして配置した。各試料において、プルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)63)を有するインクをスピンコートで塗布して第1のエレクトロクロミック層5を形成し、ニッケル置換プルシアンブルー類似体(Ni3[Fe(CN)62)を含むインクをスピンコーターで塗布して第2のエレクトロクロミック層7を形成した。
【0036】
電解質層として、炭酸プロピレンにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウムを溶解した電解液(濃度0.1M)にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を溶解し更に酸化チタン(TiO2)を分散したゲル電解質(比較例)、前記電解液(濃度0.1M)に親油性スメクタイト(コープケミカル製 ルーセンタイト(型番SAN))を10質量%添加した実施例1、前記電解液(濃度0.1M)に親油性スメクタイト(コープケミカル製 ルーセンタイト(型番SAN))を10質量%添加し、更に酸化チタンを15質量%添加した実施例2を用いた。
【0037】
各試料に対して、0V→1.0V(第1のエレクトロクロミック層の発色→消色)、1.0V→−0V(第1のエレクトロクロミック層の消色→発色)の条件にてクロノアンペロメトリーを測定した。なお測定には北斗電工製のポテンショスタット(型番HZ−5000)を使用した。
【0038】
その実験結果を図4及び図5に示す。電流が流れなくなった時点で応答性を評価した結果、比較例では、発色→消色に約14秒、消色→発色に約13秒かかったが、実施例1では、発色→消色に約9秒、消色→発色に約10秒、実施例2では、発色→消色に約11秒、消色→発色に約8秒であった。このように、本実施例1,2のほうが比較例に比べて応答速度を速くできることがわかった。
【符号の説明】
【0039】
1 エレクトロクロミック素子
2、3 透明電極層
5、7 エレクトロクロミック層
8 電解質層
13 封止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さ方向に間隔を空けて対向する一対の電極層と、各電極層間に挟持されたエレクトロクロミック層及び前記エレクトロクロミック層に接する電解質層と、を有するエレクトロクロミック素子において、
前記電解質層は、電解質塩を有機溶媒に溶解した電解液に親油性層状粘土鉱物を添加して形成されたものであることを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記親油性層状粘土鉱物は、親油性スメクタイトである請求項1記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記電解液にはカリウム塩が含まれる請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記電解液の電解質濃度が、0.1M〜1.0Mの範囲であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記親油性層状粘土鉱物の添加量が、前記電解液の重量に対して3質量%より大きく15質量%より小さいことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−114139(P2013−114139A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261686(P2011−261686)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】