説明

エレクトロクロミック錯体化合物、およびそれを使用するエレクトロクロミック素子

【課題】電位制御により容易に対照色への変化が制御可能、かつ加工容易な高分子材料及びそれを用いたエレクトロクロミック素子を提供する。
【解決手段】下式の構造を有する配位子と、鉄、コバルト、バナジウム、クロム、マンガン及びニッケルから選ばれる金属イオンを含む塩からなる錯体化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック材料として有用な錯体化合物、それを利用する機能性の膜、素子、特にエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境の悪化の原因としては、化石燃料の過度の使用による二酸化炭素の増加が最も大きいとされており、依然として火力発電に頼っている電気も、使用量を減らす努力が必要である。すでに、家庭用テレビに代表されるディスプレイの消費電力を下げる努力が進められている。しかしながら、屋外での電光表示については、そのような努力はまだ始まったばかりといえる。屋外の掲示板であれば、速い応答速度は必ずしも必要ではなく、エレクトロクロミック素子でも十分に活用できる。エレクトロクロミック素子は電圧を印加することによって可逆的に発色、消色または発色物性の変化を生じさせることができる素子であり、変化の少ない電光掲示板への活用が望まれており、すでにポリチオフェン骨格を有するエレクトロクロミック材料が提案されている(非特許文献1)。ポリチオフェン類は溶解性が低く加工が難しい問題があるが、ビスターピリジン誘導体と金属イオンとカウンターアニオンを含む材料は加工性がよいことが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−112957号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem. Rev. 2010, 110, 268-320
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
屋外で掲示板として使用するためには色の明度の変化が少ないままで、色度の変化が大きくなることが好ましい。例えば黄色と青や赤と緑といった対照色(即ち、補色)関係にある有色から別の有色へと変化を生じさせれば遠くからの視認性が高くなり、特に交通安全用の掲示板での使用において優れる。しかし、すでに提案されているビスターピリジン誘導体系のエレクトロクロミック材料では、色の変化が有色から無色であるか、有色から有色であっても色が薄く、色の明度の変化が大きすぎる。
【0006】
本発明の目的は、電位を制御することによって、容易に対照色への変化が制御可能、かつ、加工容易なエレクトロクロミック材料およびそれを用いたエレクトロクロミック素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は第一に、かかるエレクトロクロミック材料として、
下式(1)で表される構造を有する配位子と、鉄イオン、コバルトイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオンおよびニッケルイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む塩とからなる錯体化合物を提供する。
【0008】
【化1】

〔式中、Rは水素原子または置換基を表し、複数のRは同一または異なり、mは1以上50以下の整数を表し、Qは式(2):
【0009】
【化2】

(ここで、
Gは2価の連結基であり、
およびRは相互に独立に水素原子または置換基であり、
p1、Rp2、Rp3およびRp4は相互に独立に水素原子または置換基であり、
但し、同一のベンゼン環に結合したRとRp1は結合して共に2価の基を結合して環を形成してもよく、また、同一のベンゼン環に結合したRとRp2は結合して共に2価の基を結合して環を形成してもよい。
nは1〜9の整数である。
なお、G、R、R、Rp1、Rp2、Rp3、Rp4およびnは、それぞれ、複数存在するときは同一でも異なっていてもよい。)
で表される2価の基を示す。〕
【0010】
本発明は第二に、前記錯体化合物を含むエレクトロクロミック特性を有する膜を提供する。
【0011】
本発明は第三に、前記錯体化合物をエレクトロクロミック物質として備えるエレクトロクロミック素子を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の錯体化合物は成膜で得られる膜の平面性が高く、π電子の共役が広い面積に渡って得られるため発色が強くなる。そのため、該化合物をエレクトロクロミック材料として用いれば、色の明度の変化が少ないままで色度の変化が大きくなるため、視認性が高くなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
【0014】
<配位子化合物>
本発明において式(1)で表される配位子において、Rは水素原子または置換基を表し、この置換基としては、ハロゲン原子、置換または非置換の1価の炭化水素基、メルカプト基、カルボニルメルカプト基、チオカルボニルメルカプト基、置換または非置換の炭化水素チオ基、置換または非置換の炭化水素チオカルボニル基、置換または非置換の炭化水素ジチオ基、水酸基、置換または非置換の炭化水素オキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、置換または非置換の炭化水素カルボニル基、置換または非置換の炭化水素オキシカルボニル基、置換または非置換の炭化水素カルボニルオキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、置換または非置換の炭化水素一置換アミノ基、置換または非置換の炭化水素二置換アミノ基、ホスフィノ基、置換または非置換の炭化水素一置換ホスフィノ基、置換または非置換の炭化水素二置換ホスフィノ基、式:−P(=O)( OH)で表される基、カルバモイル基、置換または非置換の炭化水素一置換カルバモイル基、置換または非置換の炭化水素二置換カルバモイル基、式:−B(OH)2で表される基、ホウ酸エステル残基、スルホ基、置換または非置換の炭化水素スルホ基、置換または非置換の炭化水素スルホニル基、置換または非置換の1価の複素環基、2個以上のエーテル結合を有する炭化水素基、2個以上のエステル結合を有する炭化水素基、2個以上のアミド結合を有する炭化水素基、式:−COMで表される基、式:−POMで表される基、式:−POMで表される基、式:−POで表される基、式:−OMで表される基、式:−SMで表される基、式:−B(OM)2で表される基、式:−SOMで表される基、式:−SOMで表される基(式中、Mは、金属カチオンまたは置換または非置換のアンモニウムカチオンを表す。)、式:−NRM’で表される基、式:−BRM’で表される基、式:−PRM’で表される基、式:−SRM’で表される基(式中、Rは、1価の炭化水素基を表し、M’は、アニオンを表す。)、および、第4級化された窒素原子を複素環内に有する置換または非置換の1価の複素環基等が挙げられ、Rとしては、ハロゲン原子、置換または非置換の炭化水素基、水酸基、置換または非置換の炭化水素オキシ基、カルボキシル基、置換または非置換の炭化水素カルボニル基、シアノ基、アミノ基、置換または非置換の炭化水素一置換アミノ基、置換または非置換の炭化水素二置換アミノ基、スルホ基、置換または非置換の1価の複素環基、および、水素原子が好ましく、ハロゲン原子、置換または非置換の炭化水素基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、置換または非置換の1価の複素環基、および、水素原子がより好ましく、置換または非置換の1価の炭化水素基、置換または非置換の1価の複素環基、および、水素原子がさらに好ましく、1価の炭化水素基、および水素原子が特に好ましく、水素原子がとりわけ好ましい。
【0015】
置換基(置換原子)であるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子、臭素原子が更に好ましい。
【0016】
置換基である1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の炭素数1〜50のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボニル基、アダマンチル基等の炭素数3〜50のシクロアルキル基;エテニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ノネニル基、2−ドデセニル基等の炭素数2〜50のアルケニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−アダマンチルフェニル基、4−フェニルフェニル基等の炭素数6〜50のアリール基;フェニルメチル基、1−フェニレンエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニル−1−プロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、2−フェニル−2−プロピル基、3−フェニル−1−プロピル基、4−フェニル−1−ブチル基、5−フェニル−1−ペンチル基、6−フェニル−1−ヘキシル基等の炭素数7〜50のアラルキル基が挙げられ、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数6〜50のアリール基が好ましく、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基がより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基が特に好ましい。これらの1価炭化水素基は水素原子の少なくとも一部(特には1〜3個、とりわけ1個または2個)が置換されていてもよく、置換基としてはフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素原子1〜4のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボ二ル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;シアノ基等が挙げられる。
【0017】
置換基である、炭化水素チオ基、炭化水素チオカルボニル基、炭化水素ジチオ基、炭化水素オキシ基、炭化水素カルボニル基、炭化水素オキシカルボニル基、および炭化水素カルボニルオキシ基に含まれる炭化水素基部分は「1価の炭化水素基」として説明し、例示した通りである。これらの基に含まれる炭化水素基部分の水素原子の少なくとも一部は上記した1価の炭化水素基の場合と同様に置換されていてもよく、置換基としては同様のものを例示することができる。
【0018】
置換基である、炭化水素一置換アミノ基、炭化水素二置換アミノ基、炭化水素一置換ホスフィノ基、炭化水素二置換ホスフィノ基、炭化水素一置換カルバモイル基、炭化水素二置換カルバモイル基に含まれる炭化水素基部分は「1価の炭化水素基」として説明し、例示した通りである。これらの基に含まれる炭化水素基部分の水素原子の少なくとも一部は上記した1価の炭化水素基の場合と同様に置換されていてもよく、置換基としては同様のものを例示することができる。
【0019】
置換基であるホウ酸エステル残基は、例えば、以下の式で表される基である。
【0020】
【化3】

【0021】
置換基である1価の複素環基は、複素環式化合物から水素原子を1個取り除いた残りの原子団である。複素環式化合物としては、ピリジン、1,2−ジアジン、1,3−ジアジン、1,4−ジアジン、1,3,5−トリアジン、フラン、ピロール、チオフェン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、アザジアゾール等の単環式複素環式化合物;単環式複素環式化合物を構成する複素環の2個以上が縮合した縮合多環式複素環式化合物;単環式複素環式化合物を構成する複素環2個を、または、芳香環1個と単環式複素環式化合物を構成する複素環1個とを、メチレン基、エチレン基、カルボニル基等の2価の基で橋かけした構造を有する有橋多環式複素環式化合物等が挙げられ、ピリジン、1,2−ジアジン、1,3−ジアジン、1,4−ジアジン、1,3,5−トリアジンが好ましく、ピリジン、1,3,5−トリアジンがより好ましい。該1価の複素環基は置換されていてもよく、置換基としては、上述した1価の炭化水素基について挙げた置換基を例示することができる。
【0022】
置換基である2個以上のエーテル結合を有する炭化水素基は、例えば、以下の式で表される基である。
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、R’は、置換または非置換の2価の炭化水素基を表す。pは、2以上の整数である。複数あるR’は、同一であっても異なっていてもよい。)
【0025】
R’で表される2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、1,4−ブチレン基、1,5−ペンチレン基、1,6−ヘキシレン基、1,9−ノニレン基、1,12−ドデシレン基等の炭素原子数1〜50の2価の飽和炭化水素基;エテニレン基、プロペニレン基、3−ブテニレン基、2−ブテニレン基、2−ペンテニレン基、2−ヘキセニレン基、2−ノネニレン基、2−ドデセニレン基等のアルケニレン基、および、エチニレン基等の炭素原子数2〜50の2価の不飽和炭化水素基;シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロノニレン基、シクロドデシレン基、ノルボニレン基、アダマンチレン基等の炭素原子数3〜50の2価の環状飽和炭化水素基;1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、ビフェニル−4,4’−ジイル基等の炭素原子数6〜50のアリーレン基等が挙げられる。これらの2価の炭化水素基が有する水素原子の少なくとも一部は置換基で置換されていてもよい。置換基としては、上述した1価の炭化水素基について挙げた置換基を例示することができる。
【0026】
置換基である2個以上のエステル結合を有する炭化水素基は、例えば、以下の式で表される基である。
【0027】
【化5】

(式中、R’およびpは、前記と同じ意味を有する。)
ここで、R’で表される2価の炭化水素基は上で説明し例示した通りであり、同様に置換されていてもよい。
【0028】
置換基である2個以上のアミド結合を有する炭化水素基は、例えば、以下の式で表される基である。
【0029】
【化6】

(式中、R’およびpは、前記と同じ意味を有する。)
ここで、R’で表される2価の炭化水素基は上で説明し例示した通りであり、同様に置換されていてもよい。
【0030】
前記Mで表される金属カチオンとしては、1〜3価のイオンが好ましく、Li、Na、K、Cs、Be、Mg、Ca、Ba、Ag、Al、Bi、Cu、Fe、Ga、Mn、Pb、Sn、Ti、V、W、Y、Yb、Zn、Zr等の金属のイオンが挙げられる。
前記Mで表されるアンモニウムカチオンは非置換でも置換されていてもよく、置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基が挙げられる。
【0031】
前記Rで表される1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0032】
前記M’で表されるアニオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-、OH-、ClO-、ClO2-、ClO3-、ClO4-、SCN-、CN-、NO3-、SO42-、HSO4-、PO43-、HPO42-、H2PO4-、BF4-、PF6-、CH3SO3-、CF3SO3-、テトラキス(イミダゾリル)ボレートアニオン、8−キノリノラトアニオン、2−メチル−8−キノリノラトアニオン、2−フェニル−8−キノリノラトアニオン等が挙げられる。
【0033】
置換基である、第4級化された窒素原子を複素環内に有する1価の複素環基としては、例えば、以下の式で表される基が挙げられる。
【0034】
【化7】

(式中、RおよびM’は、前記と同じ意味を有する。)
【0035】
式(1)において複数のRが置換基である場合は、複数の(通常2個の)R同士が結合して共に2価の基を形成して環を形成してもよく、形成された環の構成原子の数は5〜10個が好ましく、5〜7個がさらに好ましく、6個が特に好ましい。形成された環には、発色性の観点から共役が分子内に広く広がるべく、π軌道が存在していることが好ましく、π軌道が2個以上あることがさらに好ましく、芳香環となっていることが特に好ましい。
【0036】
式(1)において、Qは式(2)で表される2価の基である。
【0037】
式(2)において、Rp1〜Rp4(以下において、Rp1〜Rp4が定義上識別することに意味がないときは、これらを「R」と総称する。)は水素原子または置換基を表す。ここで置換基は、Rについて説明した通りであり、例および好ましい例に同じである。
【0038】
式(2)において、nは1以上9以下の整数を表し、1以上5以下の整数が好ましく、1以上3以下の整数がより好ましく、1が特に好ましい。
【0039】
式(1)において、mは1以上50以下の整数を表し、1以上20以下の整数が好ましく、1以上10以下の整数がより好ましく、1以上4以下の整数がさらに好ましく、1または2が特に好ましく、1がとりわけ好ましい。
【0040】
式(2)において、2価の連結基Gは置換されてもよい2価の炭化水素基の他、以下の式(A−1)〜(A−7)で表される2価の基が例示され、置換または非置換の2価の炭化水素基、(A−1)〜(A−3)(A−6)、および(A−7)で表される2価の基が好ましく、置換または非置換の2価の炭化水素基、(A−1)、(A−2)、および(A−3)で表される2価の基がより好ましく、置換または非置換の2価の炭化水素基がさらに好ましい。
【0041】
【化8】

(ただしRは水素原子または置換基を表す。該置換基はRについて説明した通りであり、例の説明も同じであり、好ましくは水素原子または炭素数が1〜20個のアルキル基である。)
【0042】
上記の置換または非置換の2価の炭化水素基としては、以下の式(B−1)〜(B−5)で表される2価の基が例示される。
【0043】
【化9】

(ただし、Rは水素原子または置換基を表す。該置換基は、Rが置換基である場合に説明し例示した通りであり、好ましくは炭素数が1〜20個のアルキル基または水素原子である。)
【0044】
結合基Gの具体例としては以下の式(C−1)〜(C−32)で表される2価の基が例示でき、これらの中でも、合成が容易である点では(C−1)〜(C−25)で表される2価の基が好ましく、(C−1)〜(C−14)で表される2価の基がより好ましい。
【0045】
【化10】

【0046】
式(2)において、RおよびRはそれぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。ここで置換基は、Rについて説明した通りであり、例および好ましい例も同じである。
とRとは、結合して共に2価の基を形成することができる。該2価の基は上述したGと同一であり、例および好ましい例も同じである。
【0047】
式(2)において、同一のベンゼン環に結合したRとRp1は結合して共に2価の基を形成してもよく、また、同一のベンゼン環に結合したRとRp2は結合して共に2価の基を形成してもよい。こうして形成された2価の基はそれが結合した当該ベンゼン環上の2個の炭素原子と共に新たな環を形成する。
【0048】
とRp1とで、または、RとRp2とで構成する2価の基の例としては、
−CH=CH−CH=CH−、−CH=CH−S−、−CH=CH−O−、
−N=CH−CH=CH−、−CH=N−CH=CH−、−N=CH−N=CH−、
−N=CH−CH=N−が挙げられ、−CH=CH−CH=CH−が好ましい。これらの2価の基は置換されていてもよい。
【0049】
Qの具体例としては以下の式(Q−1)〜(Q−20)で表される2価の基が挙げられ、これらの中でも、合成が容易であるので、(Q−1)、(Q−3)、(Q−5)、(Q−7)、(Q−9)、(Q−11)、(Q−13)、(Q−14)、(Q−15)、(Q−17)および(Q−19)で表される2価の基が好ましく、(Q−1)、(Q−3)、(Q−7)、(Q−9)、(Q−11)、および(Q−17)で表される2価の基がより好ましく、(Q−1)、(Q−3)、(Q−7)、および(Q−17)で表される2価の基がさらに好ましく、(Q−1)、および(Q−3)で表される2価の基が特に好ましく、(Q−1)で表される2価の基が特に好ましい。
【0050】
【化11】

(上記の式中、Rp1〜Rp4,R、R、RおよびRは前記の通りである。)
【0051】
Qのより具体的な例としては以下の式(Q−1−1)〜(Q−1−12)、(Q−3−1)〜(Q−3−8)、(Q−7−1)、(Q−9−1)および(Q−17−1)で表される2価の基が例示でき、(Q−1−1)〜(Q−1−12)および(Q−3−1)〜(Q−3−8)で表される2価の基が好ましく、(Q−1−1)〜(Q−1−8)および(Q−3−1)〜(Q−3−4)で表される2価の基がより好ましく、(Q−1−1)〜(Q−1−7)で表される2価の基がさらに好ましい。
【0052】
【化12】

【0053】
本発明に用いられる式(1)で表される配位子の好ましい実施の形態として、式(3):
【0054】
【化13】

(式中、R、R,R、Rp1〜Rp4、Rおよびmは前記の通りである。)
で表される配位子が挙げられる。
【0055】
本発明において式(1)で表される配位子の具体例としては以下の式(H−1−1)〜(H−1−12)、(H−3−1)〜(H−3−8)、(H−7−1)、(H−9−1)、(H−11−1)、(H−17−1)、(H−1−1−2)〜(H−1−12−2)、(H−3−1−2)〜(H−3−8−2)、(H−7−1−2)、(H−9−1−2)、(H−11−1−2)および(H−17−1−2)で表される2価の基が挙げられ、(H−1−1)〜(H−1−12)、(H−3−1)〜(H−3−8)、(H−1−1−2)〜(H−1−12−2)および(H−3−1−2)〜(H−3−8−2)で表される2価の基が好ましく、(H−1−1)〜(H−1−8)および(H−3−1)〜(H−3−4)で表される2価の基がより好ましく、(H−1−1)〜(H−1−7)で表される2価の基がさらに好ましい。
【0056】
【化14】

【0057】
【化15】

【0058】
【化16】

【0059】
【化17】

【0060】
【化18】

【0061】
【化19】

【0062】
・配位子化合物の合成:
本発明に用いられる式(1)で表される配位子化合物は、下記反応式に沿って合成することができる。
【0063】
【化20】

(ここで、RおよびQは前記の通りであり、反応基XおよびYの組み合わせ(X:Y)としては、(ハロゲン原子:ハロゲン原子)、(ハロゲン原子:ホウ酸残基もしくはホウ酸エステル残基)または(ホウ酸残基もしくはホウ酸エステル残基:ハロゲン原子)などである。Y−L−1とY−L−2は同一でも異なってもよい。)
【0064】
上記のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示でき、反応性の高い臭素原子またはヨウ素原子が好ましい。
【0065】
上記のホウ酸残基とは-B(OH)2を表し、ホウ酸エステル残基は式(1)に関して説明したホウ酸エステル残基と同じである。
【0066】
反応基XおよびYの組み合わせ(X:Y)が、(ハロゲン原子:ハロゲン原子)の場合の反応としては、山本反応、ウルマン反応、熊田-玉尾反応などを用いることができ、(ハロゲン原子:ホウ酸残基もしくはホウ酸エステル残基)または(ホウ酸残基もしくはホウ酸エステル残基:ハロゲン原子)の場合は鈴木反応などを用いることができる。各反応の条件としては、Chem.Rev.102,1359(2002)、Chem.Lett.,153(1988)及び、Bull.Chem.Soc.Jpn.,72,621(1999)並びにそれらの参照文献に記載されている反応条件を採用することができる。
【0067】
上記の反応においては、XとXまたはYとYの反応が起こらず、XとYの反応が起こることが望ましいため、(X:Y)は(ハロゲン原子:ホウ酸残基もしくはホウ酸エステル残基)または(ホウ酸残基もしくはホウ酸エステル残基:ハロゲン原子)であることが好ましく、(ホウ酸エステル残基:ハロゲン原子)がより好ましく、反応は鈴木反応であることが好ましい。
【0068】
鈴木反応を用いる場合は、まず、X-Ar-XとY-L-1とY-L-2を混合し、相間移動触媒(例えば、Aliquat336(アルドリッチ)、テトラブチルアンモニウムブロマイドなど)とパラジウム触媒(例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム)と溶媒(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ヘプタン、シクロヘキサン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジメチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなど)を加え、不活性ガス(例えば窒素、アルゴンなど)雰囲気下で攪拌し、塩基(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのテトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸銀など)の水溶液またはアルコール溶液を加え、室温から150℃の適切な温度で攪拌することで配位子が生成する。これを、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの方法で精製し、目的の配位子を得ることができる。
【0069】
<金属イオン>
本発明の錯体化合物に用いられる金属イオンは、鉄イオン、コバルトイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオンおよびニッケルイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、鉄イオン、コバルトイオン、クロムイオンおよびマンガンイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、鉄イオンおよびコバルトイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、鉄イオンが特に好ましい。
【0070】
<錯体化合物>
上記配位子と、金属イオンを含む塩とを、その両方が溶ける単一または混合溶媒に加えて、その溶媒の沸点から室温までの温度にて攪拌することにより、本発明の錯体化合物が生成する。
【0071】
上記溶媒としては、例えば極性溶媒を好ましく使用でき、例えば酢酸、蟻酸、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも一種を含む溶媒を挙げることができる。中でも、酢酸、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランから選ばれる少なくとも一種を含む溶媒が好ましく、酢酸、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンから選ばれる少なくとも一種を含む溶媒がより好ましく、酢酸、メタノールから選ばれる少なくとも一種を含む溶媒がさらに好ましい。溶媒としては他の溶媒も混合して用いることができるが、溶媒全体に対する上記の極性溶媒の割合は体積比で50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0072】
上記の反応は混合溶媒を用いて行い、上記反応温度は用いた溶媒の中で最低沸点を有するものの沸点よりも50℃高い温度から、用いたいずれかの溶媒の融点のうち最も低い温度よりも20℃低い温度までの範囲に設定することが好ましい。さらに、用いた溶媒の中で最低沸点のものの沸点よりも10℃高い温度から室温までの範囲の温度とすることがより好ましい。温度が高いほど反応が進みやすいが、高すぎると逆反応も起こりやすくなる。
【0073】
上記配位子は単一でも複数種を混合して用いてもよいが、1〜5種が好ましく、1〜3種がより好ましく、1〜2種がさらに好ましく、単一が特に好ましい。
【0074】
上記金属イオンを含む塩における陰イオンとしては、酢酸イオン、四フッ化ホウ素イオン、ポリオキシメタレート、および塩化物イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のイオンを含むことが好ましい。これらのイオン種およびその組成比の違いで、本発明の錯体化合物の発色性を調整することができる。
【0075】
上記金属イオンを含む塩の具体例としては、酢酸鉄(II)、四フッ化ホウ素鉄(II)、酢酸コバルト(II)、塩化コバルト(II)、塩化ルテニウム(II)、塩化銅(II)、塩化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、塩化バナジウム(III)、酢酸バナジウム(III)、塩化銀(I)、塩化白金(II)等が挙げられる。
【0076】
上記反応によって下式(4)で表される錯体化合物が生成する。
【0077】
【化21】

(ただし、RおよびQは前記の通りであり、mは1以上50以下の整数を表し、lは2以上100000以下の整数を表し、Mq+は鉄イオン、コバルトイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオン、およびニッケルイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のq価の陽イオンであり、(Ai)r−はr価の陰イオンであり、qは1〜5の整数であり、(q/r)個の(Ai)r−の中から選ばれる少なくとも2個は共有結合によってMq+と結合していてもよい。複数あるMq+、qおよび(Ai)r−はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0078】
陽イオンMq+と陰イオン(Ai)r−は、上記反応に供する塩に由来する。
【0079】
上記錯体化合物は、配位子とMq+の間での配位結合によって電子の移動が生じ、発色する。
【0080】
式(4)において、lは2以上100,000以下の整数を表す。上記配位結合は炭素-炭素共有結合のような強い結合ではなく、この結合の生成は可逆的である。溶媒へ溶解させたり、熱を与えることによって結合が切れる場合があるが、特に固体状態では結合は十分に強く、[−配位子−金属カチオン−]の繰り返しが連続してネットワークが形成され、配位子と金属カチオンとの間での電荷の授受が起こることによってネットワーク内での電荷の移動がなめらかに起こる。該配位結合の存在は上記の発色によって確認でき、lが2以上の本発明の錯体化合物が生成できていることは確認できる。
【0081】
上記ネットワークは高分子化合物としてみることができる。一般的な高分子化合物と同様に取り扱うことが可能な場合があり、溶媒に溶かしてGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定もしくはTOF−MS測定によって標準高分子に換算した分子量、即ち、lをおおよそ算出することができるが、lは温度に依存する。特に、固体である場合は、固体の形成過程と熱履歴に依存し、溶液の場合は、溶媒の種類と溶液の動きに依存するため、特定の値を得ることはできない。したがって、本発明の錯体化合物の各分子のlは同一ではなく、分布を有していると考えられる。
【0082】
式(4)で表された、本発明の錯体化合物のうち、好ましい構造は下式(5)で示される。
【0083】
【化22】

(式中、R、R,R、Rp1〜Rp4、R、Mq+、m、l、(Ai)r−、rおよびqは式(4)に関して記載の通りである。)
【0084】
式(4)で表された、本発明の錯体化合物のうち、さらに好ましい構造は下式(6)で示される。
【0085】
【化23】

(式中、R、Mq+、m、l、(Ai)r−、r、およびqは式(4)に関して記載の通りである。)
【0086】
<エレクトロクロミック特性を有する膜>
本発明の膜は、上記の錯体化合物を含んでいる。膜厚は0.1nm〜5mmであり、1nm〜1mmが好ましく、2nm〜100μmがより好ましい。該膜をエレクトロクロミック素子に用いる場合には、20nm〜10μmがさらに好ましく、30nm〜2μmが特に好ましい。この膜はエレクトロクロミック素子を構成する際に有用である。
【0087】
本発明の膜は、本発明の錯体化合物を溶媒に溶解させてなる溶液から作製する。その方法には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャップコート法、キャピラリコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法、ノズルコート法等の塗布法を用いることができる。
【0088】
上記塗布法を用いる場合の溶媒は、錯体化合物を良好に溶解または分散するものが好ましく、極性溶媒を使用できる。例えば酢酸、蟻酸、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも一種を含む溶媒を使用でき、酢酸、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランから選ばれる少なくとも一種を含む溶媒が好ましく、酢酸、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンから選ばれる少なくとも一種を含む溶媒がより好ましく、酢酸、メタノールから選ばれる少なくとも一種を含む溶媒がさらに好ましい。二種以上の溶媒の混合溶媒を用いる場合には、混合溶媒全体に対する上記の極性溶媒の割合は体積比で50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0089】
<エレクトロクロミック素子>
上述のように、本発明は、上記の錯体化合物をエレクトロクロミック物質として備えるエレクトロクロミック素子を提供する。
本発明のエレクトロクロミック素子は、好ましくは、第1の電極と、第2の電極と、第1および第2の電極間にエレクトロクロミック材料として配置された上記の錯体化合物を含む層とを備える。
その際に、第1および第2の電極間にさらに電解質層を含むことができ、前記の錯体化合物は該電解質層に分散されていてもよいし、または、該電解質層とは異なる層に含まれていてもよい。
【0090】
上記の素子の具体的構成としては、
(1)基板上に、第1の電極、第1の電極上に上記の錯体化合物を含む層および電解質層(存在する場合)、そして第2の電極を層状に積み重ねた構成;
(2)一つの基板の上に、第1の電極、第1の電極に隣接させて金属錯体化合物層、そして、該金属錯体化合物層に隣接させて第2の電極を並べて設置する構成(必要に応じて、該電解質層を第1および/または第2の電極と金属錯体層との間に設けてもよい)
が例示できる。
【0091】
発色面積が広くできることや印加する電圧を低くできることから、二つの電極と錯体化合物を含む材料を基板上に層状に積み重ねる(1)の構成が好ましい。特に、第1および第2の電極の少なくとも一方が透明または半透明の電極であり、また、一方の電極の上に前記の錯体化合物を含む層が膜状に形成されている実施形態が好ましい。以下はこのような層状に積み重ねて作製した素子について説明する。
【0092】
本発明のエレクトロクロミック素子を形成する基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン等の基板が挙げられる。不透明な基板の場合には、反対の電極が透明または半透明であることが好ましい。
【0093】
本発明において、通常は、一対の電極の少なくとも一方が透明または半透明であり、陽極側が透明または半透明であることが好ましい。
電極の材料としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が用いられ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド等からなる導電性ガラスを用いて作製された膜NESAや、金、白金、銀、銅等が用いられ、ITO、インジウム・亜鉛・オキサイド、酸化スズが好ましい。作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、該電極として、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体等の有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0094】
電極の膜厚は、光の透過性と電気伝導度とを考慮して、例えば、10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0095】
ここで使用される電解質層は液体状でも固体状でもよい。液体状の電解質層は電解質を有機溶媒に溶解させて調製することができる。固体電解質層は、電解質を高分子ゲルに混合させて調製することができる。
【0096】
電解質としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の化合物が好ましく、例えば、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、六フッ化リン酸リチウム、トリフルオロ硫酸リチウム、六フッ化砒酸リチウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラプロピルアンモニウム等の過塩素酸アンモニウム類、六フッ化リン酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラプロピルアンモニウム等の六フッ化リン酸アンモニウム類が挙げられる。
【0097】
有機溶媒としては、例えば、沸点が120〜300℃の範囲にある有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−(N−メチル)−2−ピロリジノン、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N一ジメチルアセトアミド、N一メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ブチロニトリル、プロピオニトリル、アセトニトリル、アセチルアセトン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノール、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、無水酢酸、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ジメトキシエタン、ジエトキシフラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリクレジルホスフェート、2−エチルヘキシルホスフェート、ジオクチルフタレート、ジオクチルセバケート等が挙げられる。中でも、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチルラクトン等の環状カルボン酸エステル系化合物を用いることが好ましい。
【0098】
上記高分子ゲルとしては、上記の有機溶媒を加えることで溶解または膨潤する(ゲル化する)透明度の高い高分子であることが好ましく、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸フェニル等のポリメタクリル酸エステル類、ポリカーボネート類が挙げられる。
【0099】
次に、エレクトロクロミック素子の動作を説明する。
第1の電極と第2の電極とは、電源に接続されており、錯体化合物と高分子固体電解質に所定の電圧を印加する。これにより、錯体化合物の酸化還元を制御でき、それに応じて発色物性が変化する。
【0100】
錯体化合物の金属イオンを酸化還元することによって、色の変化を制御することができる。また、錯体化合物が複数種の場合、すなわち金属イオン種が複数含まれる場合、それぞれの電位を別個に制御することによって、複数の発色を制御することができる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0102】
〔合成例1〕
−配位子化合物の合成−
4’−ブロモ−2,2’:6’,2’’−ターピリジン(TCI社製)0.98g(3.1mmol)と2,2’−(9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2,7−ジイル)ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボラン)0.50g(1.1mmol)をAliquat336(アルドリッチ社製)0.06gとテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(アルドリッチ社製)0.11g(0.09mmol)の存在下で、トルエン16.0mL中、アルゴン雰囲気下で攪拌した。そこに炭酸ナトリウム0.71gの水溶液16.0mLを滴下し、110℃で4時間30分還流させた。冷却後、有機相を水洗し、生成物をクロロホルム/ヘキサンで再結晶させ、化合物Yを得た。下記のように同定した化合物を、収量0.61g、収率83%で得た。
【0103】
以下のデータにより目的とする化合物であることを同定した。
【0104】
H−NMR(ppm/300MHz,CDCl):1.69(6H),7.4(4H),7.8〜8.0(10H),8.7(4H),8.8(8H)
【0105】
【化24】

【0106】
〔実施例1〕
−錯体化合物の合成−
化合物Yと酢酸鉄(II)を1:1のモル比で混合し、酢酸中(化合物Y1mgに対して約1mLの溶媒濃度)、アルゴン雰囲気下、24時間加熱還流させて錯形成を行った。その後、反応溶液をシャーレ上に移し、溶媒をゆっくり蒸発させることで、下記の構造を有するポリマーY−Feをほぼ定量的に得た(収率97%)。
【0107】
【化25】

【0108】
〔実施例2〕
実施例1で得られたポリマーY−Feの0.5mMメタノール溶液500μLをITOガラス膜上に滴下し、乾燥させ、ガラス上にポリマーY−Feの膜を作製した。不要部分はメタノールでふき取り、シルバーワイヤーを接続しポリマーY−Fe付きの電極を作製した。電解質溶液(テトラブチルアンモニウムホスフェイトの0.1Mアセトニトリル溶液)に上記のポリマーY−Fe付きの電極を入れ、対極として白金電極も入れた。参照電極としてAg/Ag電極を用いた。この時のポリマーY−Feの膜は鮮やかな紫色であった。この電極に+1V(vs. Ag/Ag+)の酸化電圧を印加して電流を流すとポリマーY−Feの膜はおよそ1秒で鮮やかな黄色に変化した。この電圧を0V(vs. Ag/Ag+)に変えると、およそ1秒で元の鮮やかな紫色になった。
【0109】
・素子評価:
ポリマーY−Feの膜は、約0.8V(vs. Ag/Ag+)(ポリマー中の鉄イオン(+2価)が+3価に酸化される電位))より高い電圧を印加されることによって、鮮やかな紫色から鮮やかな黄色に変化し、逆に、0.8Vより低い電圧を印加されることで、素早くもとに戻った。基板の上に電極、ポリマーY−Fe、電解質層、電極の順番で層を形成させて、これに電気を流しても同様の色変化が起こった。紫色と黄色は対照色の関係であり、いずれも鮮やかであったため、明度の変化もなかった。これらの結果から、本発明の錯体化合物を含む膜を用いればエレクトロクロミック素子において、色の明度の変化が少ないままで、色度の変化が大きくなるため、屋外での看板、特に交通標識などで、電光掲示板として用いれば、視認性が格段に高いため有用となる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の錯体化合物はエレクトロクロミック素子の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される構造を有する配位子と、鉄イオン、コバルトイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオンおよびニッケルイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む塩とからなる錯体化合物。
【化1】

〔式中、Rは水素原子または置換基を表し、複数のRは同一または異なり、mは1以上50以下の整数を表し、Qは式(2):
【化2】

(ここで、
Gは2価の連結基であり、
およびRは相互に独立に水素原子または置換基であるか、あるいは、RとRは結合して共に2価の基を形成する;
p1、Rp2、Rp3およびRp4は相互に独立に水素原子または置換基であり、
但し、同一のベンゼン環に結合したRとRp1は結合して共に2価の基を形成してもよく、また、同一のベンゼン環に結合したRとRp2は結合して共に2価の基を形成してもよい。
nは1〜9の整数である。
なお、G、R、R、Rp1、Rp2、Rp3、Rp4およびnは、それぞれ、複数存在するときは同一でも異なっていてもよい。)
で表される2価の基を示す。〕
【請求項2】
請求項1に記載の錯体化合物であって、2価の連結基Gが置換されてもよい2価の炭化水素基である錯体化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の錯体化合物であって、2価の連結基GがCRまたはCRCR(ただしRは水素原子または置換されてもよい炭化水素基。)で表される2価の基である錯体化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の錯体化合物であって、配位子が下式(3)で表される構造を有する錯体化合物。
【化3】

(式中、R、R,R、Rp1〜Rp4およびmは前記の通りであり、Rは水素原子または置換基である。複数のRは同一でも異なってもよい。)
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の錯体化合物であって、下記式(4)で表される構造を有する錯体化合物。
【化4】

(ただし、RおよびQは前記の通りであり、mは1以上50以下の整数を表し、lは2以上100000以下の整数を表し、Mq+は鉄イオン、コバルトイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオン、およびニッケルイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のq価の陽イオンであり、(Ai)r−はr価の陰イオンであり、qは1〜5の整数であり、(q/r)個の(Ai)r−の中から選ばれる少なくとも2個は共有結合によってMq+と結合していてもよい。複数あるMq+、qおよび(Ai)r−はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項6】
請求項5に記載の錯体化合物であって、下記式(5)で表される構造を有する錯体化合物。
【化5】

(式中、R、R,R、Rp1〜Rp4、R、Mq+、m、l、(Ai)r−、rおよびqは前記の通りである。)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の錯体化合物を含むエレクトロクロミック特性を有する膜。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の錯体化合物をエレクトロクロミック物質として備えるエレクトロクロミック素子。
【請求項9】
第1の電極と、第2の電極と、第1および第2の電極間に配置された請求項1〜6のいずれか1項に記載の錯体化合物を含む層とを備える、請求項8に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項10】
前記の第1および第2の電極間にさらに電解質層を含み、前記の錯体化合物が該電解質層に分散されているか、または、該電解質層とは異なる層に含まれている、請求項8に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項11】
第1および第2の電極の少なくとも一方が透明または半透明の電極であり、また、一方の電極の上に前記の錯体化合物を含む層が膜状に形成されている請求項9または10に記載のエレクトロクロミック素子。

【公開番号】特開2012−17265(P2012−17265A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153792(P2010−153792)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】