説明

エレクトロスピニングによる導電性ナノ構造物を生成する装置及び方法

【課題】エレクトロスピニングにより導電性ナノ構造物を生成する方法を提供する。
【解決手段】
本方法の装置は、基板ホルダ(1)と、スピニング液(4)の貯蔵器(3)に接続され、電圧源(5)に接続されたスピニング孔(2)と、スピニング孔(2)及び/又は基板ホルダ(1)を相対的に移動させる調整可能な移動装置(6,6’)と、スピニング孔(2)の出口においてスピニング処理を追跡する光学測定機器(7)と、スピニング処理に依存してスピニング孔(2)及び基板ホルダ(1)の間隔を調節するコンピュータ装置(8)とを少なくとも備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷による方法を用いて導電性材料にてなる構造物を生成する既知の方法から出発する。本発明は、任意の所望の面上に高い空間的精度で目標付けられた方法でナノファイバーを堆積させることが可能な方法に関する。このことは、導電性構造物を形成するための上記目的に適した材料とともに、いわゆるエレクトロスピニングという特別に適応化された処理によって可能にされる。このとき、上記構造物は、導電性粒子から構成されるか、又は、導電性を付与するための後処理が行われる。
【背景技術】
【0002】
多くの構成部品(例えば、自動車の多くの内装部品、ディスク)や、日用品の物(例えば、飲料水のボトル)は、実質的に、電気的絶縁材料から構成される。これには、ポリ塩化ビニルやポリプロピレンなどの既知のポリマーが含まれ、さらに、セラミック、ガラス及び他の無機材料も含まれる。多くの場合、構成部品の絶縁効果が望まれる(例えば、ポータブルコンピュータの筐体である場合)。しかしながら、例えばそのような構成部品又は物に電気的機能を直接一体化するために、構成部品又は物に対して導電性の表面又は構造物を形成する必要性もしばしば存在する。
【0003】
日用品の表面及びその材料に対するさらなる要件としては、設計及び構成における可能な限り高い自由度、良好な機械的特性(例えば、高い衝撃強さ)、ならびに特定の光学的特性(例えば、透明性、光沢など)があり、これらは、特に例示として上に挙げた材料によってさまざまな程度で達成される。
【0004】
従って、良好な特性の材料を得る必要性があり、特に、導電性の表面を生成する必要性がある。特に、このとき、光学的な透明性及び光沢が技術的に必要とされる。これらのことを達成する方法が3つだけ存在する。基板材料自体が特に導電性に作られ、従ってその機械的特性及び光学的特性に不利に影響することがないような方法があり、あるいは、導電性であるが人間の目では視覚的に認識できない材料であって、目標付けて基板の表面に容易に形成可能な材料が使用される方法があり、あるいは、それ自体は透明ではない導電性材料であって、一般に光学的支援なしには人間の目では認識できない構造物をもたらすように適当な方法によって表面上に形成可能な導電性材料が使用される方法がある。この方法では、基板の光沢及び透明性の特性は影響を受けない。
【0005】
一般に、2次元表面に形成されたときに基板の面の2つの次元のうちの一方において20μmの特性長を超えないすべての材料は、視覚的に認識不可能であるとみなされる。表面認識のいかなる影響も確実に除外するためには、サブミクロンの範囲の構造物(すなわち、1μm以下の線幅を有する)が特に望ましい。
【0006】
表面に特定の導電性材料を形成するための多数の方法が存在する。この目的のために、スクリーン印刷又はインクジェット印刷のような従来の印刷方法が特に適している。特にこれらの印刷技術のための導電性材料(インクともいう)の対応する定式化がすでに存在し、これにより、上記方法とともに、表面に導電性構造物を形成できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2001−0045547号明細書。
【特許文献2】米国特許出願公開第2005−0287366号明細書。
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Mater. Sci 2006, 41, 4153。
【非特許文献2】Adv. Mater 2006, 18, 2101。
【非特許文献3】Appl Phys Lett 1995, 67。
【非特許文献4】Adv Mater 2000, 12, 189。
【非特許文献5】Angew Chem 2007, 119, 5770-5805。
【非特許文献6】Biomacromolecules, 2002, 3, 232。
【非特許文献7】Langmuir, 2004, 20(22), 9852。
【非特許文献8】Nano Letters, 2006, 6, 839。
【非特許文献9】T. Allen, Particle Size Measurements, Vol. 1, Kluver Academic Publishers, 1999。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スクリーン印刷方法では、利用可能な印刷スクリーンの非常に小さなメッシュ幅に起因して、原理的に1μm未満の光学的分解能で構造物を生成することができず、その一方、例えばインクジェット印刷方法では、インクジェット印刷方法の場合に基板上で結果的に得られる構造物の寸法は使用する印刷ヘッドのノズル直径と直接に相関したものになるので、理論的にはこの目的に適している。しかしながら、このとき、結果的に得られる構造物の最小寸法の特性長は、概して、使用したノズルヘッドの直径よりも大きい(非特許文献1及び2)。それにも関わらず、1μmよりも有意に小さいノズル開口を有するプリンタを使用できるのであれば、原理的には1μm未満の線幅を有する構造物を生成することができる。しかしながら、このことは、ノズル直径を削減するにつれて使用可能なインクの要件もずっと厳しくなるので、実際には容易ではない。使用するインクが粒子を含むのであれば、粒子の平均直径はノズル直径の削減と整合しなければならない。これにより、1μm以上の粒子を含むすべてのインクは、すでに原理的に除外される。さらに、印刷ヘッドのためになおも使用可能であるような、インクのレオロジー特性(例えば、粘性、表面張力など)の要件も増大する。しかしながら、多くの場合、これらのパラメータは、各基板上におけるインクのふるまい(例えば、拡散及び付着)とは別個に調節することができない。このことは、このサイズ範囲で導電性構造物を生成するためにインクと印刷方法との組み合わせを使用できないことを意味する。
【0010】
ポリマー表面上に1μm未満の構造物を生成できる代替の方法として、いわゆるホットスタンピング(hot stamping)法がある。この方法によって、すでに、約25nmの直径を有する円形の面構造物が生成された(非特許文献3及び4)。しかしながら、ホットスタンピングの欠点は、構造的形状が、各場合に使用するスタンピングパンチ(穿孔機)又はスタンピングローラの形状に制限されるということにある。この方法では、構造物の構成を自由に選択することはできない。
【0011】
特に、「エレクトロスピニング(electrospinning)」という名前で確立された方法によって細いファイバを生成することができる。このファイバは、潜在的には、適当な基板の表面に形成することもできる。この方法で、スピニング(紡糸)可能な材料を用いて数ナノメートルの直径を有するファイバを生成することができる(非特許文献5)。
【0012】
しかしながら、エレクトロスピニングで生成されるファイバは、大きくかつ不規則なファイバマットの形式でのみ得ることができる。ただし、現時点において、規則的なファイバは、回転するローラ上においてスピニングを行うことによってのみ得ることができる(非特許文献6)。導電性ファイバのスピニングは「エレクトロスピニング」によって原理的に実行可能であることも知られている。カーボンナノチューブの導電性を利用した、そのような用途のための対応する導電性材料も知られている(非特許文献7)。
【0013】
特許文献1において、導電性のファイバマットを得ることができる方法及び材料が開示されている。
【0014】
スピニングヘッドと基板の間の距離を短くすることによって、平坦な表面上において絶縁体のファイバの目標付けられた堆積を行うことも達成されている(非特許文献8)。
【0015】
現時点において、エレクトロスピニングによって基板の表面に特定の構成を有する導電性構造物を生成することは行われていない。
【0016】
特許文献2において、導電性ファイバを生成することができる方法及び材料が開示されている。この方法は、約200mmの間隔でエレクトロスピニングを行うことを含み、この結果、同様に不規則なファイバマットが得られる。その材料はポリマーであり、これは、熱処理を含む別の後処理ステップによって導電性にされる。結果として得られるファイバを基板に対して目標付けられた方法で方向付け、かつ形成することについては、開示されていない。
【0017】
従って、本発明の目的は、エレクトロスピニング技術を用いることにより、人間の目では視覚的に直接認識できない導電性構造物を特に面上に生成することができるプロセスを開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題は、本発明に係る、特に絶縁体基板上に、最大で5μmの線幅を有する直線状の導電性構造物を生成する装置を用いて達成される。上記装置は、
基板ホルダと、
スピニング液の貯蔵器に接続され、電圧源に接続されたスピニング孔と、
上記スピニング孔及び/又は上記基板ホルダを相対的に移動させる調整可能な移動装置と、
上記スピニング孔の出口においてスピニング処理を追跡する、特にカメラである光学測定機器と、
上記スピニング処理に依存して上記スピニング孔及び上記基板ホルダの間隔を調節するコンピュータ装置とを少なくとも備える。
【0019】
好ましくは、上記スピニング孔は、最大で1mmの開口幅を有する。
【0020】
特に好ましくは、上記装置において、上記スピニング孔は、0.01mmから1mmまでの、好ましくは0.01mmから0.5mmまでの、特に好ましくは0.01mmから0.1mmまでの内部直径を有する円形の開口を有する。
【0021】
新規な装置の好ましい実施例において、上記電圧源は、最大で10kVまでの、好ましくは0.1kVから10kVまでの、特に好ましくは1kVから10kVまでの、特に最も好ましくは2kVから6kVまでの出力電圧を供給する。
【0022】
別の好ましい実施例では、上記調整可能な移動装置は、上記基板ホルダを移動させるように機能する。
【0023】
好ましくはまた、上記装置において、上記スピニング孔は、基板表面から、0.1mmから10mmの距離に、好ましくは1mmから5mmの距離に、特に好ましくは2mmから4mmの距離に調節されることを特徴とする。
【0024】
上記装置の特に好ましい変形例において、上記スピニング液の貯蔵器は、上記スピニング液を上記スピニング孔に送る輸送装置を備える。この目的のために、例えば、プランジャ駆動装置としてモータスピンドルを備えたプランジャ型注射器が適している。
【0025】
本発明はまた、特に絶縁体基板上にエレクトロスピニングにより、最大で5μmの線幅を有する導電性構造物を生成する方法を提供する。上記方法は、
導電性材料を基礎とするか又は導電性材料の前駆体化合物を基礎とするスピニング液を用いて、最大で1mmの開口幅を有するスピニング孔から基板表面上にスピニングを行うことを含み、上記スピニングを行う際に、上記基板又は基板ホルダと、上記スピニング孔又はスピニング孔ホルダとの間に、少なくとも100Vの電圧が印加され、上記スピニングを行う際に、上記スピニング孔の出口と上記基板の表面との間に最大で10mmの間隔が設けられ、
上記スピニング孔の出口に対して上記基板表面を相対的に移動させることを含み、上記相対的な移動は上記スピニングの流れに依存して制御され、
上記スピニング液の溶媒を除去し、オプションで上記前駆体化合物の後処理を実行し、導電性材料を形成することを含むことを特徴とする。
【0026】
適した基板は、プラスチック、ガラス又はセラミック等の絶縁体材料又は導電率が低い導体材料であるか、あるいは、シリコン、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、及び硫化亜鉛等の半導体物質である。好ましい方法では、上記スピニング孔の出口と上記基板表面との距離は、0.1mmから10mmに、好ましくは1mmから5mmに、特に好ましくは2mmから4mmに調節される。
【0027】
上記スピニング液の粘性は、好ましくは最大で15Pa・sであり、特に好ましくは0.5Pa・sから15Pa・sまでであり、さらに特に好ましくは、1Pa・sから10Pa・sまでであり、特に最も好ましくは1Pa・sから5Pa・sである。
【0028】
好ましくは、上記スピニング液は、少なくとも、
特に、水、C1−C6−アルコール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びメタクレゾールのシリーズから選択された、溶媒と、
好ましくは、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、又はポリアミドである、ポリマー添加剤と、
導電性材料と
からなる。
【0029】
特に好ましくは、上記方法において、上記スピニング液は、導電性ポリマー、金属粉、金属酸化物粉、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びカーボンブラックのシリーズのうちの少なくとも1つを導電性材料として含む。
【0030】
特に好ましくは、上記導電性ポリマーは、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリパラフェニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリフルオレン、ポリアセチレン、特に好ましくはポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸のシリーズから選択される。
【0031】
上記スピニング液が、好ましくは、銀、金及び銅のうちの少なくとも1つ、好ましくは銀の金属粉を導電性材料として含む場合、分散剤を含む水であって、オプションでさらにC1−C6−アルコールを含む水を溶媒として使用し、このとき、上記金属粉は、分散された形式で存在し、最大で150nmの粒子直径を有する。
【0032】
好ましくは、上記分散剤は、以下のリストから選択された少なくとも1つの薬品を含む。
アルコキシレート、アルキロールアミド、エステル、アミンオキシド、アルキルポリグルコシド、アルキルフェノール、アリルアルキルフェノール、水溶性ホモポリマー、水溶性ランダム共重合体、水溶性ブロック共重合体、水溶性グラフトポリマー、特に、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール及びポリ酢酸ビニルの共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、ゼラチン誘導体、アミノ酸ポリマー、ポリリジン、ポリアスパラギン酸、ポリアクリル酸塩又はポリアクリル酸エステル、ポリエチレンスルホン酸塩又はポリエチレンスルホン酸エステル、ポリスチレンスルホン酸塩又はポリスチレンスルホン酸エステル、ポリメタクリル酸塩又はポリメタクリル酸エステル、芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリナフタレンスルホン酸塩又はポリナフタレンスルホン酸エステル、リグニンスルホン酸塩又はリグニンスルホン酸エステル、アクリルモノマーの共重合体、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリ(2−ビニルピリジン)、ブロックコポリエーテル、ポリスチレンブロックとのブロックコポリエーテル、及び/又は、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド。
【0033】
特に好ましいスピニング液では、レーザ相関分光法によって測定されたときに、銀粒子が、10nmから150nmまでの、好ましくは40nmから80nmまでの有効粒子直径を有することを特徴とする。
【0034】
好ましくは、銀粒子は、1重量パーセントから35重量パーセントまでの量で、特に好ましくは15重量パーセントから25重量パーセントまでの量で配合物中に含まれる。
【0035】
スピニング液における分散剤の量は、好ましくは、0.02重量パーセントから5重量パーセントまでの量で、特に好ましくは0.04重量パーセントから2重量パーセントまでの量である。
【0036】
レーザ相関分光法によるサイズ決定は従来技術文献において知られ、例えば非特許文献9で説明されている。
【0037】
新規な方法の他の変形例では、導電性材料の前駆体化合物を含むスピニング液が使用される。ここで、上記前駆体化合物は、ポリアクリロニトリル、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェンのシリーズから選択され、さらに、特に鉄(III)塩であって、特に好ましくは硝酸鉄(III)である金属塩を含む。
適した溶媒は、例えば、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタクレゾール、及び水である。
【0038】
特に最も好ましくは、上記方法は、スピニング液のスピニングを行うために上述の新規な装置又はその変形物を用いて実行される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るスピニング装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
上述の装置によるエレクトロスピニングによって、所望の微細な導電性構造物が生成される。所望の導電率を達成したり、又は増大させたりするために、使用するスピニング液に依存して後処理を実行しなければならない。
【0041】
孔又は孔ホルダと基板ホルダとの間に電圧を印加するとき、スピニングの糸を取り出す液滴が孔の開口に形成される。
【0042】
さらに、孔及び基板の収容部は、基板表面に対して孔の開口を相対的に位置決めできるように構成される。好ましい実施形態において、孔は、調整モータによって基板上に位置決めすることができ、また、他の実施形態では、スピニングを行う際に調整モータによって孔の下方に基板を位置決めすることができる。特に、基板及び孔を移動させることもできる。好ましくは、基板は孔の下方に移動される。
【0043】
スピニング液から所望の導電性構造物を生成するためには、結果的に得られる構造物が表面上にいかなる亀裂/不連続部分も持たないように、スピニング処理が安定化されていることを保証する必要がある。好ましくは、このことは、基板表面に対する相対的な孔の距離を調節することによって達成される。このとき、スピニングの糸が明らかに亀裂を有する場合、線の前進移動は、カメラ画像に依存する調節ループによって中断される。特に好ましくは、この処理は、コンピュータがカメラ画像を分析して、その分析で連続したファイバにおける亀裂、線幅の変化、又は気泡の存在がわかった場合に基板に対する孔の相対的な供給移動を中断するように構成することによって安定化される。
【0044】
カメラは任意の位置に位置決めすることができ、例えば、透明な基板の場合には基板の下方に位置決めすることができ、又は、孔の開口に位置決めすることができる。
【0045】
本方法において印加される最小電圧は、調整される間隔とともに、さらにスピニング液の性質にも依存して線形に変化する。好ましくは、好ましくは、上述したようにファイバの構造化された堆積物を得るように、スピニングのために0.1kVから10kVまでの動作電圧が使用される必要がある。
【0046】
特に、孔のヘッドと基板表面との間の距離が0.1mmから10mmまでであったとき、良好な結果が達成された。
【0047】
本方法の実施例では、スピニングの材料を用いて導電性構造物を高い信頼性で生成するために、そのスピニングの材料は、特に最大で15Pa・sの粘度を有する必要があることもわかった。
【0048】
上述のステップを実行した後に、指定された材料が基板上に所望の形式で存在し、必要であれば、導電率を向上させるために後処理を行うことができる。
【0049】
この後処理は、例えば、生成された構造物にエネルギーを供給することを含む。導電性ポリマー(特にポリエチレンジオキシチオフェン)の場合、溶媒中に分散(懸濁)して存在するポリマー粒子は、例えばその懸濁液を加熱することによって、基板上において互いに溶融される。このとき、溶媒は少なくとも部分的に蒸発している。好ましくは、後処理ステップは、導電性ポリマーの融点で実行され、特に好ましくはその融点より高い温度で実行される。この方法で、連続した導電性経路が形成される。また、マイクロ波放射による基板上における構造物/ファイバの後処理を行うことも好ましい。
【0050】
カーボンナノチューブを含むスピニング材料の場合、分散された形式で存在する粒子間の溶媒は、形成された線の後処理によって蒸発させられ、これにより、浸透可能なカーボンナノチューブの連続したストリップが得られる。このとき、後処理ステップは、材料中に含まれる溶媒の蒸発温度以上の範囲で実行され、好ましくは、溶媒の蒸発温度より高い温度で実行される。浸透の境界に達したとき、所望の導電性経路が形成されている。
【0051】
代替として、導電性構造物は、後述するように、導電性材料の前駆体材料、例えばポリアクリロニトリル(PAN)を基板上に堆積させ、次いで交替するガス媒質の下で基板の熱処理を行い、導電性物質の形式のカーボンを生成することによっても生成可能である。
【0052】
この場合、ポリマー(例えば、PAN又はカルボキシメチルセルロース)及び金属塩(例えば、硝酸鉄等の鉄(III)塩)からなる溶液が、これら両方の成分に適した溶媒(例えば、DMF)中に調製される。ポリマーは、所定温度で安定かつ導電性である材料に変換可能である必要がある。特に好ましいポリマーは、高温処理によってカーボンに変換可能なものである。特に好ましいものは、黒鉛化可能なポリマー(例えば、ポリアクリロニトリルでは700°C〜1000°C)である。金属塩の場合、各ポリマーの分解温度未満において、還元雰囲気下での崩壊温度又は分解温度を有するものであることが好ましい(例えば、硝酸鉄(III)九水和物では150°C〜350°C)。好ましくは熱分解のみを行って、又はガス状の還元剤、特に好ましくは水素を用いて、金属塩を金属粒子に変換した後で、ポリマーは、金属粒子の存在下で炭素に変換される。最後に、オプションで、構造物上にさらに炭素がガス相から堆積され、この堆積は、好ましくは炭化水素から化学的ガス相堆積によって行われる。この目的のために、構造物上に、揮発性炭素前駆体が高温で導かれる。この場合、短鎖の脂肪族化合物を用いることが好ましく、特に好ましくは、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、又はヘキサンが使用され、特に好ましくは、室温で液体である脂肪族炭化水素のn−ペンタン及びn−ヘキサンが使用される。この場合、温度の選択は、チューブ状のカーボンフィラメントと、ファイバに沿った追加のグラファイト層との成長を金属粒子が促進するように行われる必要がある。鉄粒子の場合、この温度の範囲は、例えば700°Cから1000°Cまでの間であり、好ましくは800°Cから850°Cまでの間である。上述の場合におけるガス相堆積の継続時間は、5分から60分までの間であり、好ましくは10分から30分までの間である。
【0053】
好ましい処理により溶媒中の貴金属ナノ粒子にてなる上述の懸濁液をスピニング液として用いて導電性構造物を生成したとき、後処理を行うことができる。この後処理は、金属粒子が焼結して溶媒が少なくとも部分的に蒸発する温度で、構造物部分全体を加熱することにより、又は特に導電性経路を加熱することにより行われる。このとき、粒子の直径は可能な限り小さいことが有利であるが、これは、ナノスケールの粒子の場合には焼結温度は粒子のサイズに比例し、その結果、小さな粒子を用いることで必要な焼結温度が低くなるからである。このとき、基板を熱的に保護するために、溶媒の沸点は、可能な限り粒子の焼結温度に近くされ、かつ可能な限り低くされる。好ましくは、スピニング液の溶媒は、250°C未満の温度で沸騰し、特に好ましくは200°C未満の温度で沸騰し、最も好ましくは100°C未満の温度で沸騰する。ここに指定したすべての温度は、1013hPaの気圧での沸点を示す。焼結ステップは、連続した導電性経路が形成されるまで、指定した温度で行われる。焼結ステップの継続時間は、好ましくは1分から24時間までであり、特に好ましくは5分から8時間までであり、特に最も好ましくは2時間から8時間までである。
【0054】
新規な方法は、特に、表面上に導電性構造物を備えた基板を生成するために使用可能である。これは、1つの次元では1μmを超えない長さを有し、好ましくは1μmから50nmまでの長さを有し、特に好ましくは500nmから50nmまでの長さを有する。このとき、導電性材料は、好ましくは、上述のように導電性粒子の懸濁液であり、基板は、好ましくは透明であり、例えば、上述のように、ガラス、セラミック、半導体材料、又は透明ポリマーである。
【0055】
以下、図1を参照して、本発明について例示的にさらに詳細に説明する。図1は、本発明に係るスピニング装置を概略的に示す図である。
【実施例1】
【0056】
(カーボンナノチューブを備えた導電性ナノ構造物)
以下の装置(図1を参照)を用いて、スピニング液によるスピニングを行った。シリコンディスクである基板9のためのホルダと、スピニング孔2のための金属ホルダ13とがある。スピニング孔2には、スピニング液4の貯蔵器3が接続され、さらに、電圧源5が接続される。電圧源5は、最大で10kVまでの直流電圧を供給する。スピニング孔2は、100μmの内部直径を有するガラスの孔である。制御可能な調整モータ6は、スピニング孔2を移動させるように機能し、調整モータ6’は、基板ホルダ1を移動させるように機能する。調整モータ6,6’は、被移動物間の距離を互いに相対的に調整するように動作する。カメラ7は、スピニング処理を追跡するようにスピニング孔2の出口に対して設けられ、さらに、コンピュータ8に接続される。コンピュータ8は、カメラによって提供された画像データを評価するための画像処理ソフトウェアを備える。基板ホルダ1のモータ6’の駆動は、スピニング孔2からのスピニング液4の流れに依存して、コンピュータ8によって調節される。
【0057】
スピニング液4は、ジメチルホルムアミド中の10重量パーセントのポリアクリロニトリル(PAN:平均分子量210,000g/mol)及び5重量パーセントの硝酸鉄(III)九水和物から調製された。結果的に得られた溶液の粘度は、約4.1Pa・sであった。スピニング処理は、孔の開口と基板9の表面との間に0.6mmの間隔を有し、かつスピニング孔2と基板9との間に1.9kVの電圧を印加して開始された。安定なファイバの流れが確立された後で、電圧を0.47kVに設定し、間隔を2.2mmに増大させた。この設定で、スピニング液4のスピニングを基板9の表面に対して行い、線を形成するように基板を横方向に移動させた。
【0058】
次に、基板9を、含有されたPANファイバとともに、90分間にわたって20°Cから200°Cに加熱し、次いで60分間にわたって200°Cで処理した。これに続いて、サンプル9を収容した乾燥機(乾燥炉)の空気をアルゴンで置き換え、温度を30分間にわたって250°Cに上昇させた。次いで、アルゴンを水素で置き換えた。この水素雰囲気下で、温度を再び60分間にわたって250°Cで保持した。次いで、この雰囲気を、乾燥機のガスとしてのアルゴンで再び置き換え、サンプル9を2時間にわたって800°Cの温度で加熱した。最後に、7分間にわたってアルゴンにヘキサンを投入し、これに続いて、再びアルゴン下で、サンプル9を室温まで冷却した。この場合、冷却過程を調節していないが、乾燥機の内部が再び20°Cの室温まで冷却されるまでモニタリングした。
【0059】
実質的に炭素を基礎とする導電性の線が形成された。この線上において190μm離れた2点で接触すると、1.3kΩの抵抗が測定された。この線は、約130nmの線幅を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(9)上にエレクトロスピニングにより、最大で5μmの線幅を有する導電性構造物を生成する方法であって、上記方法は、
導電性材料を基礎とするか又は導電性材料の前駆体化合物を基礎とするスピニング液(4)を用いて、最大で1mmの開口幅を有するスピニング孔(2)から基板表面(10)上にスピニングを行うことを含み、上記スピニングを行う際に、上記基板(9)又は基板ホルダ(1)と、上記スピニング孔(2)又はスピニング孔ホルダ(13)との間に、少なくとも100Vの電圧が印加され、上記スピニングを行う際に、上記スピニング孔(2)の出口(11)と上記基板表面(10)との間に最大で10mmの間隔が設けられ、
上記スピニング孔(2)の出口(11)に対して上記基板表面(10)を相対的に移動させることを含み、上記相対的な移動は上記スピニングの流れに依存して制御され、
その後、上記スピニング液(4)の溶媒を除去することを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記スピニング孔(2)の出口(11)と上記基板表面(10)との距離は、0.1mmから10mmに調節されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記スピニング液(4)は、少なくとも、
水、C1−C6−アルコール、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、及びメタクレゾールから選択された、溶媒と、
ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、又はポリアミドから選択された、ポリマー添加剤と、
導電性材料と
からなることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
上記スピニング液(4)は、導電性ポリマー、金属粉、金属酸化物粉、カーボンナノチューブ、グラファイト、及びカーボンブラックのうちの少なくとも1つの材料を導電性材料として含むことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
上記導電性ポリマーは、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリパラフェニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリフルオレン、ポリアセチレンから選択されることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
上記スピニング液(4)は、
銀、金及び銅のうちの少なくとも1つの金属粉を導電性材料として含み、
分散剤及びC1−C6−アルコールを含む水を溶媒として含み、
上記金属粉は、分散された形式で存在し、最大で150nmの粒子直径を有することを特徴とする請求項3〜5のうちの1つに記載の方法。
【請求項7】
基板(9)上に最大で5μmの線幅を有する直線状の導電性構造物を生成する装置を用いて上記スピニング液(4)のスピニングを行う請求項1〜6のうちの1つに記載の方法であって、
上記装置は、
基板ホルダ(1)と、
スピニング液(4)の貯蔵器(3)に接続され、電圧源(5)に接続されたスピニング孔(2)と、
上記スピニング孔(2)及び/又は上記基板ホルダ(1)を相対的に移動させる調整可能な移動装置(6,6’)と、
上記スピニング孔(2)の出口においてスピニング処理を追跡する光学測定機器(7)と、
上記スピニング処理に依存して上記スピニング孔(2)及び上記基板ホルダ(1)の間隔を調節するコンピュータ装置(8)とを少なくとも備える方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−76203(P2013−76203A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−9859(P2013−9859)
【出願日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【分割の表示】特願2010−522223(P2010−522223)の分割
【原出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】