説明

エレクトロスプレー質量分析計における試料分注装置

本発明は、後のエレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析計(MS)分析のため試料を分注する装置、そのようの装置の作製方法、ならびにそのような装置の生物学的または化学的分析への適用に関する。当該装置は、基材端部に形成された一つの先端部(6)を有する少なくとも二つの覆われたミクロ構造(1、2)(一般的にはマイクロチャネル)を含む非導電性基材(100)から成り、前記ミクロ構造の一つはエレクトロスプレーイオン化によって質量分析計内へ分注される試料を含み、そして少なくとも前記第二ミクロ構造はシース液またはシースガスとして用いられる流体を含み、前記少なくとも二つのミクロ構造(1、2)が前記サンプルおよび前記シース液/ガスをお互いに接触させ、そして/またはスプレーのテイラーコーン内で直接混合させる等の様式をもって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
質量分析計(MS)において、有効なエレクトロスプレープロセスまたはナノエレクトロスプレープロセスにおける本質的な特徴の一つは、試料に揮発性緩衝剤および/または溶媒の添加が必要なことであり、それは制御された緩衝剤処理環境下において効果的な蒸発を可能とするためである。この要求は時には、分析目的、分離目的、および/若しくは精製目的のため行う必要があるか、またはスプレーのこれら揮発性要素の特異性に起因して要求されるプレスプレー活性に不適合となる。
【背景技術】
【0002】
分離後のシース液および試料の混合
この問題を克服するため種々の戦略が提起され、そこでは、このシース液とスプレーされる溶液とを混合するために、多くの場合慣用的にシース液(たいてい、メタノール、アセトニトリル、および酢酸または蟻酸)と呼ばれる加圧融剤を、スプレーオリフィスのところで加えることからなる。他のシステムでは、シースガス(すなわち気体の加圧融剤、例えばアルゴン)を、試料溶媒の蒸発を助けるために用いる。これらの構成はエレクトロスプレーイオン化(ESI)における標準であり、強制的かつ相対的に高流速の(普通は5μL/分より大きい)シース液/ガスおよびスプレーされる溶液の両方と一緒に作動するシステムと適合する。
【0003】
他の場合では、良好な噴霧を得るため補給流として約50%のシース液を添加するために、エレクトロスプレーキャピラリーの端部にT−セルを用いて液体合流点を導入する。これらシステムも、流速が十分大きくかつ良好に制御される場合に効果的であるが、それらは非常に多くのデッドボリュームをつくり出すことが多く、それらは試料の希釈を誘発し、そしてそれによって感度並びに検出分解能に影響を及ぼす。
【0004】
ナノエレクトロスプレー、すなわちその流速が5μL/分未満の場合において、液体合流点を用いることもできるが、有効に液体合流点を制御することは難しい。それはスプレーされる溶液と混合するシース液に加えられる圧力が、主要な試料キャピラリー中の流れを不安定化することが多いからである。分離する場合において、分離ピークの分解能が大幅に下がることがある。結局、このシステムが電気泳動に活用された場合、シース液に加えられた圧力は電気浸透流を無効にし、そしてプラグプロファイルを歪ませることがあり、分離分解能を低下させる。
【0005】
微量分析装置において、異なるチャネルを作製しそして同じチップ上でそれらを接続する可能性によって、デッドボリュームが最小限の液体合流点の形成を可能にし、感度および分解能の損失を減らすことができる。
【0006】
その場合でも、シース液を伴うエレクトロスプレーおよびナノスプレーサンプリングにおける主要な問題点は、シース液の流速および試料溶液の流速を制御することである。もちろん、これらの流速が同じ大きさの次数である必要があり、それによって検出のために非常に多い試料割合を維持しつつ、良好でかつ安定したスプレー生成が可能となる。
【0007】
これらの流速を制御するため、ある著者は両チャネルにおいて、サイドアームの表面を誘導体化し、電気浸透流を右方向に流すことを可能にした(ラムゼーら「分析化学」、1997年、第69巻、1174ページ)(Ramsey et al., Analytical Chemistry, 1997, vol. 69, 1174)。他のグループは、キャピラリーを介して、シース液シリンジに接続されたチップに、液体合流点を組み込んでいる(R.D.スミスら「電気泳動」、2000年、第21巻、191ページ)(R.D. Smith et al., Electrophoresis, 2000, Vol. 21, 191)。これらのシステムにおいて、ミクロ流体の制御はまだ非常に難しく、そして実試料を用いてスプレーを始める前に、気泡の無い状態でチップの異なるアームを満たすことを必要とする。
【0008】
ナノエレクトロスプレー中の反応
ナノエレクトロスプレー中の化学的または生物学的反応のような他の用途が実証され、そして少量の試料で(特にスプレー中で直ちに、多少の分解が行われるプロテオミクスにおいて)、更なる情報をもたらすことが期待された。例えば、固定化されたトリプシンを用いたナノエレクトロスプレーが用いられ、ペプチドを分解し、そして質量分析計にそれをオンラインでスプレーし、それによってその後の反応速度論が与えられる。その主要な欠点の一つは、トリプシン(有機溶媒中で作用することができる)が作用するにはpH8.2が必要であるが、それに対して、スプレーはpH3でより効果的となることである。ナノエレクトロスプレーにおいて、その体積は小さくかつ流速が遅いため、シース液を加えるための液体合流点を導入することは難しい。したがって、この種の反応を直接モニタリングすることには大きな制限があり、そしてまだ分析ツールとして考えることはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、スプレーアウトレットの外側にシース液を加えることであり、(生成には)高いpHであっても(例えばpH7)、まじりけの無い水溶液のナノスプレーが可能となる。この考え方は、面倒な混合ステップとスプレーチップの事前調整をなくすこととによって、ナノスプレーアウトレットに形成されたテイラーコーン内に直接、好ましくは外圧(シリンジ、ポンプ、または他の)なしで、シース液を加えることにある。本発明にあっては、分離(例えば、電気泳動)および生物学的反応(例えば、アフィニティー、タギング、酵素反応、ポリメラーゼ連鎖反応等)を、まじりけのない水溶液中で任意のpHで実施することができ、そしてカラムの最後の最後まで実施することができる。加えて、試料溶液およびシース液間の混合をテイラーコーン内のみで行うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の観点から、本発明は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計による分析のため、試料を分注する装置を提供し、前記装置は電気絶縁材料の基材を含み、その基材は少なくとも二つの覆われたミクロ構造(一般的にはマイクロチャネル)を含み、どちらのミクロ構造も基材の端部にアウトレットを有しており、そこで電圧を印加することによってエレクトロスプレーを生成させることができ、前記ミクロ構造のうちの一つ(以後「試料ミクロ構造」と呼ぶ。)はスプレーで噴霧される試料を含み、そして前記ミクロ構造のうち他の少なくとも一つ(以後「シース液ミクロ構造」と呼ぶ。)は流体を含み、好ましくはシース液またはシースガスを含み、試料溶液および流体がスプレーのテイラーコーン内で直接混合されるように配置される点で特徴づけられる。
【0011】
この装置は、両ミクロ構造内で印加されかつ制御される電界を可能にする電気的手段をさらに含むことができる。その装置は、シース液および試料ミクロ構造内で流速を制御できる点、スプレーを生成させるためにシース液および/または試料溶液に外圧(単に動電学的なポンプ)をかける必要はない点、そして(シース液溶液とテイラーコーン内で混合するため)まじりけのない水溶液をMS内にスプレーすることができる点で顕著に特徴づけられる。試料チャネルからシース液チャネル内へ(またはシース液チャネルから試料チャネル内へ)流体が流れるのを防ぐため、ミクロ構造表面を誘導体化する必要はない。しかし、ある用途において、一若しくは複数の化学反応または固定化手順(例えば物理的吸着または共有結合)を用いてミクロ構造表面の一部分または複数部分を機能化することができる。
【0012】
本発明では、この基材は電気絶縁材料からなる固体支持体であり、例えばポリマー、セラミック、シリコンまたはガラスである。
【0013】
本発明では、ミクロ構造のサイズ、形状および/または位置に制限がない。試料ミクロ構造は、シース液ミクロ構造と異なる形状および異なる寸法であっても良い。好ましくは、そのミクロ構造は幅または高さが150μm未満のマイクロチャネルである。
【0014】
あるいは、そのミクロ構造は、その後、覆われたミクロ構造のネットワークを有利に形成し、および/またはネットワークに有利に接続されても良く、そのため、その装置は微小化学物質分析システムを構成する、および/または微小化学物質分析システムに接続されても良く、そのシステムは一般的にキャピラリーまたはミクロ構造のネットワークからなり、例えば、キャピラリー電気泳動法、クロマトグラフィーまたはアフィニティー分離に用いられる。ある用途では、ポリマー支持体の厚みの中に作りだされるか、または一つ若しくはすべてのミクロ構造を覆うために用いる層の中に作りだされるミクロ孔に、ミクロ構造体を微細化することができる。本発明の装置のアレイも、同一のポリマー支持体中に作製し、そしてMSにさらしてもよい。
【0015】
さらに、ミクロ構造を作りだすために用いる技法には制限が無く;例えば、エンボス加工、射出成形、注入成形、ウェット若しくは化学エッチング、レーザーフォトアブレーションのような物理エッチング、プラズマエッチングもしくはUV−Liga、シリコン技法、または層の重ね合わせ、機械的にあけた溝、凹み、若しくは穴を含む前記層の少なくとも一つをミクロ構造を作製するために用いることができる。ある用途において、ミクロ構造、リザーバー、およびポリマー基材は、電極、および/または電気コンタクトを有利に含むことができる。その電極および電気コンタクトを装置製作プロセス中に直接組込んでも良く、そしてその場合には、電極がミクロ構造壁の一つの中の一部を構成しても良い。レーザーフォトアブレーション、プラズマエッチング若しくは機械的にあけた溝、凹み、若しくは穴を少なくとも一つ含む層の重ね合わせ、および/または電気伝導手段は、そのような電極および/または電気コンタクトの組込みに特に好適である。
【0016】
ミクロ構造のアウトレットの形状には制限がない。鋭角がスプレー生成および安定性に有利であると言われているが、この現象に対する論理的な説明は見出せない。
【0017】
本発明の一態様では、ミクロ構造は同じ平面に形成され、それによって試料ミクロ構造のアウトレットおよびシース液ミクロ構造のアウトレットが近接する。他の態様では、ミクロ構造のアウトレットは同じ平面に無いか、またはちょうど一方が他方の上にある。この場合において、基材は多層体であってもよく、一つの層は少なくとも前記二つのミクロ構造のうち一方を含み、そして他の層は前記二つのミクロ構造のうちもう一方を含む。他の選択肢では、ミクロ構造の一つをポリマー基材の一方の面に形成しても良く、これに対して、第二のミクロ構造をポリマー基材の反対側の面に形成しても良い。さらなる選択肢では、一つのミクロ構造を他のミクロ構造を密封するために用いるカバー中に形成しても良い(これは、特に試料ミクロ構造を密封するのに用いられるラミネーション層内に形成されるミクロ孔の場合となることができ、前記ミクロ孔は、その後スプレーが生成される試料ミクロ構造のアウトレットのところまたはその近くにシース液溶液を導入するために、直接用いられる)。操作を簡単にするため、すべてのミクロ構造はポリマー基材の同じ側にアクセス孔(またはインレットリザーバー)を有することが有利である。
【0018】
すべての構成において、試料ミクロ構造のアウトレットおよびシース液ミクロ構造のアウトレット間の距離は200μm未満であることが有利であり、それによってスプレーの間に形成されるテイラーコーンが両アウトレットを取り囲む。
【0019】
この距離の短かさによって、溶液の効果的な混合が可能となり、そしてミクロ構造のアウトレットでの液滴の形成を防止し、スプレーの生成を促進し、そしてスプレーの安定性を有利にする。ある場合において、試料ミクロ構造およびシース液ミクロ構造を基材の端部で接続し、それにより唯一のアウトレットを形成する。この場合において、二つのミクロ構造はテイラーコーンの位置でのみ混合され、そしてシース液ミクロ構造は液体合流点とはこのような点で異なる。
【0020】
他の態様では、薄膜ミクロ構造機器中のように、この装置は500μm未満の寸法を少なくとも一つ有する。この様式において、わずかな表面だけによってミクロ構造のアウトレットが囲まれ、それによって滴の形成が防止され、従ってスプレー生成を有利にする。本発明の装置はまた、多層基材中に形成されても良く、前記多層基材のそれぞれの層は、少なくとも二つのミクロ構造のうちの一つを含むことができる。
【0021】
さらなる態様では、アウトレット周囲の固体表面積を最小とするため、および/またはスプレーの方向へ先細にするため、装置のアウトレット先端部はスプレー方向へV字形を呈するか、または3次元的にエッチングされても良い。
【0022】
他の態様では、覆われたミクロ構造をポリマーホイルの接着、ラミネーション、または加圧により密封する。そのようなポリマーホイルは、好ましくは薄いプラスチック層であり、用いる溶媒に耐性があるものでなければならない。他の態様では、MSサンプリングの前に、しかしオンラインで、拡散律速アッセイを実施するため、試料ミクロ構造の一部が補助的なミクロ構造と直接接して良く、および/またはこれら二つのミクロ構造を分離するビーズ若しくは膜のような固体支持体を含んでも良い。この後者の構成は、化合物の物理化学的特性化(親油性、透過性試験等)のため、または精製若しくは分離ステップとして有利に用いることができる。透過性分析では、例えば、二つのミクロ構造を分離している膜は、溶液(一般的に、二つの水溶液を分離する膜中に支持されている有機相)を含んでも良い。
【0023】
好ましい態様では、ポリマー基材および/または覆いは、疎水性材料で形成される。他の態様では、微小流体の制御を有利にするためミクロ構造の表面が親水性となる。スプレーの生成を容易にするため、疎水性基材材料および親水性ミクロ構造表面の特性の両方を組み合わせることが有利となることができ、それは試料溶液はミクロ構造内を容易に流れ、一方、スプレーアウトレットを囲む基材の疎水性の性質によってアウトレットでの液滴の形成が最小化される(であろう)からである。
【0024】
他の態様として、本発明の装置は、伝導手段、すなわちスプレーの生成に対し所要電圧を印加するため、試料および/またはシース液の一または複数のミクロ構造内で液体を動電学的にポンプ注入するため、試料溶液またはシース溶液内のどちらかに反応を誘導するため、化合物またはそれらの組み合わせの電気化学検出を実施するため用いられる一または複数の組込電極を含む。さらなる態様では、一つの電極が一または複数のミクロ構造のアウトレット近くの制御された位置でポリマー支持体内に組込まれ、そして一または複数のミクロ構造内におかれた溶液と接している。他の態様では、ポリマー支持体は、ミクロ構造のインレット(一または複数)におかれるか、またはインレット(一または複数)の周囲のリザーバー内におかれた第二電極をさらに組込む。上記構成において、伝導手段は金属含有層、導電性インク、導電性ポリマー、例えばポリピロール若しくはポリアニリン、導電性ゲル、ionode製のようなイオン透過性膜、またはそれらの任意の組み合わせを含む。スプレー電流密度と同様に、スプレーを生成させるために用いられる電圧を、この導電手段によって制御することができる。ある用途では、この伝導手段はミクロ構造(一つまたは複数)のインレットリザーバー(一つまたは複数)の一つ以上に接している外部電極であっても良い。
【0025】
ある用途では、試料を導電手段それ自体と直接接触させない方が良い。そのような場合において、伝導手段は有機材料、水性ゲル若しくは水性溶液、ゾル−ゲル、または系の導電性を維持しながら電極を試料から物理的に分離する任意の材料のような伝導性電解質を含むことができる。
【0026】
ある用途では、試料ミクロ構造およびシース液ミクロ構造を電気コンタクト内に設置することができる。この様式では、スプレーを開始しそしてそれを維持するため、例えば、高電圧をシース液ミクロ構造に沿って印加し、一方、第二電圧を試料チャネルに重ねて印加することができる。
【0027】
この重ねて印加する電圧によって、試料溶液の流れを誘導することができる。所要電圧を発生させるため、電源をそれぞれのミクロ構造に接続することができる。質量分析計のスプレー源を用い、ミクロ構造のうち一つ内(一般的にはシース液ミクロ構造内)に電圧を印加することができる。そして独立電源を第二ミクロ構造内(一般的には試料チャネル内)に用い、電圧を印加することができる。この様式では、MS入口および電源をアースに接続し、そして二つのミクロ構造に電界がかけられる。試料ミクロ構造がシース液ミクロ構造に電気的に接続される場合、浮遊電位を二つのミクロ構造間に印加して、両ミクロ構造の電界を制御することができる。
【0028】
本発明の他の態様では、シース液ミクロ構造はシース液として用いるのに充分な揮発性を有する溶液を含む。メタノール、アセトニトリル、またはメタノール若しくはアセトニトリルおよび水の混合物がそのような溶液例であり、それらがまたエレクトロスプレーイオン化質量分析計で一般的に用いられる。シース液ミクロ構造に含まれる溶液は、一若しくは複数の酸、または一若しくは複数の塩基を有利に含むことができ、それらはMS中に分注される試料のイオン化を有利にする。他の態様では、試料および/またはシース液溶液(一または複数)はまた、スプレー生成によりイオン化され、そしてさらにMSに分注される化合物を含むことができる。そのような化合物を内部標準として有利に用いることができ、そして定量MS分析用のキャリブレータとして顕著に役立てることができる。
【0029】
他の態様では、シース液ミクロ構造は気体を含む。この気体は窒素、アルゴン、ヘリウム等のような不活性気体であっても良く、例えば、スプレーの生成を有利にするため、および/またはミクロ構造のアウトレットで液滴の形成を防ぐためにはたらく。ある用途では、酸素のような反応性気体、または不活性気体および反応性気体の混合物を、試料溶液と反応を起こさせるため用いても良い。
【0030】
外からの力(例えば背圧)をかけることなく、試料およびシース液溶液をそれぞれのミクロ構造のインレットリザーバーに直接適用することができ、そしてMS内にスプレーすることができる。
【0031】
一般的に、この装置は機器内に支持され、装置のハンドリングを容易にし、および/またはMS入口の直前でスプレー先端部(ミクロ構造のアウトレット)の正確なポジショニングを可能にする。支持機器は、当該装置のミクロ構造内に試料および/またはシース液の容易な導入を可能にする(そして、一般的には最小デッドボリュームを伴う)液体接続手段(例えば、少なくとも一つのキャピラリー)並びに一または複数の電界をかけるための電気的接続を有利に含む。またエレクトロスプレーイオン化によって試料を分注することにより、自動化し、および/またはコンピューターで制御することができ、それによりMS分析全体の制御(試料導入、スプレー生成、ミクロ構造内の試料およびシース液溶液の流速、テイラーコーン内での2溶液の混合、試料のイオン化、MS検出モード等)が可能になる。
【0032】
ある態様では、試料ミクロ構造は他の分離または検出手段、例えば、クロマトグラフィーカラム、電気泳動ユニット、膜、脱塩ステップ等と接続される。他の態様ではまた、試料ミクロ構造は固相(例えば、膜、ビーズ、および/またはミクロ構造壁の一画)、クロマトグラフィー媒体、またはキャピラリー電気泳動系のような分離手段を含むことができる。試料チャネルが分離手段(例えばキャピラリー電気泳動)に接続され、および/または分離手段を含む場合、分離手段または試料ミクロ構造の分離部分と試料アウトレットとの間に配置されたデカップラと一体化することが有利である。
【0033】
さらなる態様では、化合物をミクロ構造表面に塗布、吸着、または結合させることができる。これを化合物の物理化学的特性化(例えば、溶解性アッセイ)のため特に利用することができ、特性化される試料を試料ミクロ構造壁に塗布する。溶解性を評価しなければならない溶液を、その後試料ミクロ構造に導入し、そして所与時間の後、本発明の装置を用いた質量分析計によって、この溶液に溶解した試料を測定することができる。
【0034】
他の態様では、試料ミクロ構造は生物学的材料、例えば、蛋白質、酵素、抗体、抗原、糖、オリゴヌクレオチド、または細胞を含み、それらをミクロ構造表面または固体支持体(例えば、膜、ゲル、ゾル−ゲル、またはビーズ)に固定するかまたは共有結合させることができ、酵素アッセイ、アフィニティーアッセイ、活性アッセイ、免疫学アッセイ、および/または細胞アッセイを試料ミクロ構造内で実施することができる。
【0035】
質量分析計において慣用的に用いられる溶媒(例えば、アセトニトリルやメタノールのような有機溶媒)を支持しない多くの反応を本発明に係る装置で実施することができる。それは試料をまじりけのない水溶液とすることができるからである。
【0036】
酵素反応、アフィニティー試験、溶解性アッセイ、酵素消化または化学的消化、試料の誘導体化並びに電気化学的誘導反応(例えば、プロトン付加、キノンまたは任意の他のレドックス反応を用いたタギング)を、質量分析計への分注前に、そのように試料ミクロ構造内で実施することができる。本発明に係る装置をまた、分子間相互作用の研究に有利に用いることができる。
【0037】
第二の観点から、本発明は、上記規定の装置から試料を質量分析計内に分注する方法を提供する。この方法は、電界を試料およびシース液ミクロ構造の両方に加えることができる点、そしてこれら二つのミクロ構造に含まれる溶液の流速をこのように制御することができる点で特徴付けられ、それによってテイラーコーン内での試料およびシース液溶液の混合と、スプレー中のそれらの割合とを制御することを可能にする。低流速同様に高流速でも、そしてpHが高くても、試料水溶液を質量分析計に分注するため、本発明の方法を有利に用いることができる。
【0038】
本発明の方法はまた、検体の定量MS分析を可能とするため、既知濃度の化合物(キャリブレーションに用いられる一または複数の内部標準)を試料および/またはシース液溶液のどちらかまたは両方に導入することを含んでもよい。加えて、溶液中へ内部標準を導入することを用い、スプレーされる試料およびシース液の割合を測定し、そしてスプレー効率および/またはテイラーコーン内の溶液混合効率を評価することができる。
【0039】
この方法は、化合物のMS検出と試料溶液の精製または分離(例えば、クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、アフィニティーカップリング、脱塩等)を結合することをさらに含むことができる。同様に、この方法は固体支持体(例えば、膜またはビーズ)上で試料分子を可逆的に固定化することと、緩衝液をスプレーするかまたは異なる溶媒の勾配によって、前記分子を固体支持体上から試料ミクロ構造へ放出することとを含んでもよい。
【0040】
この固体支持体はまた、少なくとも一つまたは複数の固定化された、抗体、抗原、オリゴヌクレオチド、DNA鎖等のようなアフィニティー因子を含んでも良い。この方法はまた、溶解性アッセイを実施することを含むことができ、例えば、前記化合物を溶解する溶液の導入およびさらなるスプレー前に、試料ミクロ構造を対象化合物で塗布することができる。
【0041】
第三の観点から、本発明は、エレクトロスプレー質量分析計によって、後の分析のため試料分注装置の作製方法を提供し、それは電気絶縁材料の基材を取るステップ、そして少なくとも二つの覆われたミクロ構造を製作するステップを含み、ミクロ構造からこれらアウトレットを通ってスプレーされる溶液をテイラーコーン内で混ぜるため、両ミクロ構造とも基材の端部にアウトレットを有する。
【0042】
一態様において、基材を多層体とすることができ、一つの層は少なくとも前記二つのミクロ構造のうちの一方を含み、そして他の層は少なくとも前記二つのミクロ構造のうちのもう一方を含む。このミクロ構造を二つの層内で独立して作製することができる。この様式では、本発明の装置は、2またはそれ以上の上記層を結合することによって(例えば、それらを合わせて接着することによって、またはそれらを一方の他方へのラミネートによって)製作することができ、その様式は多層基材を少なくとも二つの覆われたミクロ構造と形成し、ミクロ構造からこれらアウトレットを通ってスプレーされる溶液をテイラーコーンで混ぜるため、両ミクロ構造とも基材の端部にアウトレットを有する。
【0043】
さらなる態様では、基材の端部におけるミクロ構造のアウトレットを、基材をその厚みに切削(例えば、穿孔機のような機械的手段)することによって作製することができる。
【0044】
この作成方法は、電気的手段を直接基材に組込むステップをさらに含むことができ、このように前記基材は少なくとも一つの伝導性部分を含むことができる。
【0045】
基材がポリマーの場合、覆われたミクロ構造をレーザーフォトアブレーション、UV-Liga、エンボス加工、射出成形、溶液流延、光若しくは熱誘導重合、シリコン技法若しくは層の重ね合わせによって形成することができ、前記層のうち少なくとも一つは機械的にあけた溝、凹み、若しくは穴を含む。基材の伝導性部分はまた、インク、導電性ポリマー、イオン交換材料の堆積、金属堆積、スパッタリングまたはその他によって形成されても良い。あるいは、ミクロ構造および/または伝導性部分を、プラズマエッチング、フォトアブレーション、または化学エッチングによって形成しても良い。このような方法で形成された導電性基材部分は、質量分析計に供給する安定したスプレーを生成させるため、マイクロチャネルに高電圧を印加するのに理想的である。
【0046】
基材にくぼみを作り、そしてそのくぼみを導電性材料で満たすことによって、特に伝導性基材部分を形成することができる。
【0047】
本発明に従うそれぞれの装置のアレイを含む分析機器を、多数の試料の分析方法に用いることができ、各装置を試料収集のため順に用いることができ、そして各試料をそれぞれの装置から分注することができ、質量分析計で分析することができる。前記試料は分析システム、例えば、クロマトグラフ、電気泳動ユニット、分離ユニット、またはアフィニティーシステムから集めることができる。
【0048】
添付図を参照して、例としてのみの目的で、本発明を下記に詳細に説明する。
【0049】
図1は、本発明に従う装置例であり、この装置は基材100から作られており、それは覆われたミクロ構造を二つ、すなわち試料マイクロチャネル1およびシース液マイクロチャネル2を含み、それぞれ、インレットリザーバー3、4に接続されており、流体を導入するため支持体100の同じ側に配置されている。図1にはまた、そのミクロ構造が、支持体の端部に形成されたアウトレット6を有することが具体的に示され、そこで電圧の印加時にスプレーが生成される。
【0050】
図2は、テイラーコーン5を伴う、図1と同様の装置を示し、潜在用途に基づいて形成され、試料およびシース液マイクロチャネルの両方のアウトレット6を囲んでおり、それによって試料溶液がシース液と直接当該テイラーコーン内で混合される。
【0051】
図3Aは、同じ支持体100上に作製された装置のアレイの例を示し、当該装置は一つのミクロ構造1、一つのシース液ミクロ構造2、および一つの補助的な(しかし、任意の)ミクロ構造12を含んでおり(本例ではすべてがマイクロチャネルである)、それらは、それぞれ、リザーバー3、4、および13に接続されており、そしてそれらは、スプレーが生成する時にテイラーコーン5が作り出される支持体の端部において形成された、一つのアウトレット先端部6を有している。この図は、支持体を平行に切断するか、またはミクロ構造のアウトレットの周囲の固体表面積を減らすためチップ形に切込んでもよいことと、支持体が導電パッド11および/またはミクロ構造内に設置されるかもしくはミクロ構造のインレットと接触して設置される電極7、8、9、若しくは10のような電気的手段を組込むことができることとを具体的に示している。
【0052】
図3Bは、図3Aに示される装置の一つの様々な断面図(図3Aのa軸に沿う)を表し、そしてこのミクロ構造のアウトレットが様々なタイプの形状および配列をとって良いことが具体的に示されている。
【0053】
図4は、本発明の装置を支持するために用いることができる機器の例を示している。この例では、支持機器20は電気コンタクト21を含み、それは電気パッド11に接続され、電気パッド11は基材100に取込まれ、基材100は試料ミクロ構造1およびシース液ミクロ構造(示されていない)のうち少なくとも一つを含む。支持機器20は、流体接続手段(ここでは、キャピラリー)をさらに含み、試料ミクロ構造のインレットで流体を導入することを可能にする。
【0054】
図5は、試料ミクロ構造およびシース液ミクロ構造間に印加した電位差、ΔUの関数としてのマススペクトルの強度の変化を示し、そして試料溶液がpH5.5で、10mmol/Lのアンモニウムアセテート中の100μmol/Lのプロパノロールおよびカフェイン水溶液であり、そしてシース液溶液が1%の酢酸を含むメタノールのレセルピン溶液である、本発明に係る装置例を用いた。図5Aはm/zを時間の関数としてマススペクトルの変化を示し、そして図5Bは時間の関数としてΔUの変化を示す。図5Cは試料およびシース液ミクロ構造間に400ボルトの電位差がある場合に得られたマススペクトル例であり、一方、図5Dは試料およびシース液ミクロ構造間に0ボルトの電位差がある場合に得られたマススペクトル例である。
【0055】
図6Aは、試料ミクロ構造およびシース液ミクロ構造間に印加した電位差の変化量、ΔUに対する時間の関数として、プロパノロール(すなわち、m/z=259〜261の質量電荷比で)と、レセルピン(m/z=608〜610)とのマススペクトル強度の変化を示す。図6Bは、図6Aの実験データにおいて、ΔUの関数として、レセルピンのマススペクトル強度に対するプロパノロールのマススペクトル強度比の変化を示す。
【0056】
図7は、本発明の装置例を示し、試料ミクロ構造1はマイクロチャネル30および31のネットワークに直接接続されており、マイクロチャネルのネットワークは様々な接続、リザーバー32、並びに、それぞれ、33および34を含む。リザーバー32および34はポンプ手段36および37(動電学的なまたは機械的なポンプシステム、ここでは、シリンジポンプで表す)につながっており、一方、リザーバー33は試料の導入を可能とするキャピラリーにつながっている。高速液体クロマトグラフィーカラムまたはキャピラリー電気泳動ユニットのような分離システムにつなぐため、そのような装置の構成を有利に用いることができる。この試料はインレット33に連続的に押し込むことができ、一方、ポンプ手段は試料流の方向を制御することができ、従って試料ミクロ構造への試料の注入を制御することができる。一例として、インレット33においてキャピラリー35から入ってくる溶液を吸引するため、ポンプ手段37をプルモードで用いてもよく、一方、流体をインレット33からリザーバー34にさらに強制的に流すため、ポンプ手段36をプッシュモードで用い、そして廃棄部への連結部として用いる。ポンプ手段37および36を、それぞれ、プルモードおよびプッシュモードへと切り替えることにより、試料溶液はインレット33からリザーバー32の方へ流れる。そして、リザーバー3および試料チャネルのスプレーアウトレット間に電圧を印加することによって、試料溶液を試料ミクロ構造1に注入することができる。この装置の構成によって、試料の非常に正確な注入が可能となり、そして使用目的によってはスプレーの前に、試料ミクロ構造内で試料をさらに分離することができる。
【実施例】
【0057】
本発明の概念は、図1に概略的に示された装置と同様の装置を用いて得られた以下の実験データによって実証された。その装置は厚さ75μmのポリイミドホイルから作られたプラズマエッチングされたマイクロチップを2つ含み、そのマイクロチップは厚さ38μmのポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート層のラミネーションによって密封されたマイクロチャネル(約60mm × 約120mm × 約1cm)一つと、マイクロチャネルの底に取込まれた微小電極(直径約52μmの金電極)一つとを含んでいる。二つのポリイミドチップは合わせて接着され、そして、さらにこの多層構造システムが二つのミクロ構造を表すような様式で先端部形状に機械的に切り込まれ、二つのミクロ構造は共にポリイミド層の端部にアウトレットを有するマイクロチャネルを含み、それによって試料およびシース液ミクロ構造のアウトレットを配置し、そして図2に示される構成と同様にテイラーコーンを形成することができる装置を形成した。この装置で、二つのミクロ構造を分離する支持体の厚さは50μm未満であった。ここで、この装置が試料およびシース液ミクロ構造の両入口のところにインレットリザーバーをさらに含んでいたことにもまた留意すべきである。この装置内に配置される試料およびシース液の容積を増やすためそれぞれのリザーバーの上に、ポリスチレンウェルをさらに接着した。さらに、この実験では、取込まれた電極を電圧を印加するためには用いなかった。スプレーを生成させるためポリスチレンリザーバーに電圧を直接印加することができ、例えばシース液リザーバーに2kV、そして試料リザーバーに2〜2.5kV印加することができる。
【0058】
この装置を用い、試料水溶液をエレクトロスプレー質量分析計(ここではUSA、Finnigan製の「LCQ−Duo」)に分注するため、以下の方法例を記載する。
1) ミクロ構造のアウトレットをMSオリフィスに向けて、MS入口の直前に装置を配置する(典型的には、数μm〜数cm)。
2) 試料ミクロ構造1を毛管作用によって満たす。例えば、試料水溶液(ここでは100μmol/Lのプロパノロールおよびカフェインと、pH5.5で10mmol/Lの酢酸アンモニウム)を試料リザーバー内に一滴入れる(典型的には、数nL〜数μLの溶液容積)。
3) シース液ミクロ構造2を毛管作用によって満たす。シース溶液(ここでは0.1または1%の酢酸および100μmol/Lのレセルピンを含むメタノール)をシース液リザーバーに一滴入れる。
4) シース液リザーバー4に電圧(ここでは、2kV)を印加することによって、シース液マイクロチャネル2内でスプレーをはじめる。
5) 動電学的ポンプによって試料溶液の流れを生成させるため、試料およびシース液リザーバー3および4の間に補助電圧(+ΔU=100〜500V)を印加することによって、試料溶液を試料ミクロ構造1にポンプ注入する。
【0059】
実証として、図5は、上述の装置および方法例を用い試料ミクロ構造およびシース液ミクロ構造間の電位差、ΔUの関数としてマススペクトルの強度変化を示している。図5Aは、トータルMS強度が時間によって変化し、試料ミクロ構造に加えられた補助電圧ΔUの時間変化に追従することを明確に示している。ΔUが大きい場合、MS強度は高く、それはスプレーされた試料溶液の割合の多さに起因して、MSで検出されるイオン濃度の増加と一致する。ΔUが減少する場合、シース液溶液の割合が増加するためMS強度は減少する。
【0060】
このことは、それぞれ、400および0VのΔU値で測定された図5Cおよび図5Dに示されたフルスペクトルによっても確かめられる。ΔU=400Vでは、最高のピーク強度はm/z=260.4(プロパノロールと一致)で記録され、一方、m/z=609.6(レセルピンと一致)でのピークは非常に低く、これはスプレーされた試料溶液の割合が多いことを意味する。対照的に、ΔU=0Vでは、レセルピンが最高強度で検出され、一方、プロパノロールはΔU=400Vのところより非常に低い強度が検出され、したがって、スプレーされた試料溶液の割合がΔU=400Vのところより非常に小さいことが確かめられた。このことは図6Aでさらに実証されており、ΔUの変化に基づいてプロパノロールおよびレセルピンに対し測定されたマススペクトルの時間変化を示している。
【0061】
レセルピンに関して測定されたピーク強度に対する、プロパノロールに関して測定されたピーク強度の比をΔUの関数として報告することができる。図6Bで実証するように、この比はΔUと共にドラスティックに増加し、スプレーされた試料溶液割合の増加と一致する。そして、そのような較正曲線を、試料およびシース液ミクロ構造内の流速を評価するために用いることができる。図5Cおよび図5Dで説明するように、プロパノロールおよびカフェイン(どちらも試料溶液中に存在する)のピーク強度比は、ΔUの変化に対して同じままである。このこともまた、図6Bの較正曲線が化合物の定量測定のためさらに用いることができることを示している。そのような場合では、レセルピンおよび例えばカフェインを、シース液および試料溶液両方の内部基準として用いることもできる。
【0062】
試料およびシース液ミクロ構造間に液体の接続がある場合には、補助電圧ΔUはチャネル内でのみで印加されることを、ここで強調しておく。本発明では、この液体の「橋」は第一電圧によって生成されたテイラーコーンである。この様式では、本発明の装置は特に有効であり、それは試料ミクロ構造(試料水溶液)へのポンプ注入が、スプレーが始まった後にのみ有効だからである(それによって、スプレーの好ましくない停止を最小化する)。加えて、テイラーコーン内の試料およびシース液の流れを、印加した補助電圧ΔU値の変化によって簡単に変えることができる。それぞれの溶液に既知濃度の化合物を添加することで、質量分析計によって記録される強度によってシース液およびスプレーされる試料溶液の割合をモニターすることができる。またこの方法によって、定量MS分析を実施することが可能になり、従来法よりさらに高い精度で実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明の態様による、装置の概略斜視図である;
【図2】図2は、使用中の図1の装置を示している;
【図3A】図3Aは、一つの支持体上に形成された装置のアレイの一例である;
【図3B】図3Bは、ラインaに沿って切断した、図3Aの装置が採りうる異なる断面を示している;
【図4】図4は、本発明の装置を支持するために用いることができる機器を示している;
【図5】Aは、本発明に従う装置を用いることによって実施された実験において、m/zを時間の関数としてマススペクトルの変化を示している;Bは、時間の関数としてΔUの変化を示している;Cは、試料およびシース液ミクロ構造間の400Vの電位差に関して得られたマススペクトル例を示している;Dは、試料およびシース液ミクロ構造間の0Vの電位差に関して得られたマススペクトル例を示している;
【図6A】図6Aは、試料ミクロ構造およびシース液ミクロ構造間の電位差の変化量、ΔUに基づいて、時間の関数としてプロパノロールおよびレセルピンのマススペクトル強度の変化を示している;
【図6B】図6Bは、図6Aの実験データにおいて、ΔUの関数として、レセルピンのマススペクトル強度に対するプロパノロールのマススペクトルの強度比の変化を示している;そして
【図7】図7は、本発明の他の態様に伴う装置を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスプレーイオン化質量分析計によって分析するための試料分注装置であって、前記装置は電気絶縁材料の基材を含み、前記基材は少なくとも二つの覆われたミクロ構造を含み、両ミクロ構造は基材端部に電圧の印加によってエレクトロスプレーが生成されるアウトレットと流体を導入するためのインレットとを有し、前記ミクロ構造の一つはスプレーされる試料溶液を含みそして前記ミクロ構造の少なくとも他の一つは第二流体、好ましくはシース液またはシースガスを含み、前記試料溶液および前記第二流体が前記スプレーのテイラーコーン内で直接混合されるように配置されていることを特徴とする試料分注装置。
【請求項2】
前記基材が、好ましくは一または複数のポリマー材料の多層体であり、前記多層体の少なくとも二層は、それぞれ前記二つのミクロ構造のうちの少なくとも一つを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
厚さが500μm未満である請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記試料および/またはシース液溶液に電圧を印加するための電気またはイオン伝導手段を含み、前記伝導手段が制御されたサイズおよび位置を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記伝導手段が、一若しくは複数の電極、および/または一若しくは複数の導電パッドを含む請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記伝導手段が一若しくは複数の前記ミクロ構造の壁面の一つに組込まれており、および/または一若しくは複数の前記ミクロ構造のインレットで一若しくは複数の溶液と接している、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記スプレー電圧が、例えば前記ミクロ構造のインレットのところでスプレーされる溶液内に前記伝導手段を設置することによって、スプレーされる溶液に接して配置されている外部の電気またはイオン伝導手段を通して印加される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記伝導手段が、スプレーされる溶液に接して配置される導電性インク、または金属含有層、または例えばポリピロール若しくはポリアニリンのような導電性ポリマー、または導電性ゲル、またはイオン交換樹脂を含む、請求項4〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記試料ミクロ構造の前記アウトレットおよび前記シース液ミクロ構造の前記アウトレット間の距離が200μm未満である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記試料ミクロ構造および前記シース液ミクロ構造が前記基材端部で接続され、それによって単一のアウトレットを形成する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記ミクロ構造のアウトレットがスプレー方向へ先細となる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記ミクロ構造のアウトレットが疎水性であるか、または疎水性材料に囲まれている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記ミクロ構造の寸法のうち少なくとも一つが150μm未満である請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記試料ミクロ構造および/または前記シース液ミクロ構造がミクロ構造ネットワークと連絡する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記試料ミクロ構造が親水性表面を有している、請求項1〜14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記覆われたミクロ構造がポリマーホイルを接着、ラミネーション、または加圧することによって密封されている、請求項1〜15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記試料溶液が水溶液である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記試料ミクロ構造が、酵素アッセイ、アフィニティーアッセイ、活性アッセイ、免疫学アッセイ、および/若しくは細胞アッセイのような生物学的アッセイを実施するため、および/または溶解性、気体透過性、もしくは親油性試験のような化学的アッセイを実施するため、および/または酵素消化若しくは化学消化、試料の誘導体化、プロトン付加、キノン若しくは任意の他のレドックス反応を用いたタギングのような電気化学的誘導反応を実施するために、例えば、蛋白質、酵素、抗体、抗原、糖、オリゴヌクレオチド、DNA、細胞、または有機化合物のような生物学的または化学的材料を含み、それらが前記ミクロ構造に満たされるか、またはミクロ構造表面若しくは固体支持体(例えば、膜、ゲル、ゾル−ゲル、ビーズ等)に塗布されているか、固定化されているか若しくは共有結合されている、請求項1〜17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記試料ミクロ構造が、固体相、クロマトグラフィー媒体またはキャピラリー電気泳動システムのうち少なくとも一つを含む分離手段を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記分離手段が膜、ビーズ、および/またはミクロ構造壁の一画から選択される固相を含む、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記試料ミクロ構造が分離手段、例えばクロマトグラフィーカラム、電気泳動ユニット、膜、脱塩ステップ、アフィニティ−カラム等に接続されている、請求項1〜20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記試料ミクロ構造が(好ましくはミクロ構造が相互に接続されるミクロ構造ネットワークを含む)、前記分離手段からの画分を収集するために用いられ、そして画分または画分の一部をエレクトロスプレーの生成によって前記質量分析計にさらに分注するために用いられる、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
質量分析計入口の直前での前記ミクロ構造のアウトレットを正確にポジショニングするため、並びに/または一若しくは複数の電源との電気的接続を容易にするため、並びに/または前記試料および/若しくは前記シース液溶液を最小デッドボリュームで導入するために、機器内に支持されている、請求項1〜22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
第三のミクロ構造がシースガスをスプレーに導入するために用いられている、請求項1〜23のいずれか一項に記載の装置。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の前記装置を用いるエレクトロスプレー質量分析計による後の分析のために試料を分注する方法であって、前記スプレーを開始するために前記シース液溶液に電圧を印加するステップ、そして、試料の流れを誘導するため前記試料溶液に別の電圧を印加するステップを含み、シース液および試料溶液の両方をテイラーコーン内で直接混合する試料の分注方法。
【請求項26】
スプレーされる前記シース液および前記試料溶液の割合を、シース液にかけられる電圧および試料溶液にかけられる電圧の電位差によって制御する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
浮遊電圧を前記試料溶液および前記シース液間に印加する、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
試料水溶液をスプレーする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記試料および/または前記シース液溶液の一方または両方に既知濃度の化合物を導入することを含む、請求項25〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
スプレーされるシース液および試料溶液の割合を制御するステップ、および/または質量分析計による定量分析を実施するステップを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
固体支持体上に前記試料の分子を可逆的に固定化すること、そして緩衝液をスプレーするかまたは異なる溶媒の勾配によって前記分子を前記固体支持体から前記試料ミクロ構造内へ放出することを含む、請求項25〜30に記載の方法。
【請求項32】
前記試料ミクロ構造を、エレクトロスプレー質量分析による後の分析で、酵素アッセイ、アフィニティーアッセイ、活性アッセイ、免疫学アッセイ、および/若しくは細胞アッセイのような生物学的アッセイを実施するため、並びに/または溶解性、気体透過性、若しくは親油性試験のような化学的アッセイを実施するため、並びに/または酵素消化若しくは化学消化、試料の誘導体化、プロトン付加、キノン若しくは任意の他のレドックス反応を用いたタギングのような電気化学的誘導反応を実施するため、例えば蛋白質、酵素、抗体、抗原、糖、オリゴヌクレオチド、DNA、細胞、または有機化合物のような生物学的または化学的化合物で満たすか、または前記ミクロ構造の表面若しくは固体支持体(膜、ゲル、ゾル−ゲル、ビーズ等)に固定化させるか若しくは共有結合させるステップを含む、請求項25〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
アフィニティー因子の少なくとも一つを前記固体支持体に固定化し、前記アフィニティー因子を抗体、抗原、オリゴヌクレオチド、DNA鎖等から選択する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記試料の前記分子を固定化するステップの後、前記固体支持体を前記試料ミクロ構造に接して設置する、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
放出ステップの前に、化学反応および/またはアフィニティー反応が前記固体支持体内または前記固体支持体上で生ずる、請求項31記載の方法。
【請求項36】
前記化学反応および/またはアフィニティー反応が、脱塩、酵素消化または化学消化、化学転換および化学精製の少なくとも一つを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ポリマー、セラミック、金属含有材料およびガラス材料、例えばポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ニトロセルロース、セルロースアセテート、アクリルアミド、アガロース等から前記固体支持体を選択する、請求項32〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
試料ミクロ構造内に化合物を塗布するステップの後、緩衝液を導入し、エレクトロスプレー質量分析計による後の分析のため部分的または全体的に前記化合物を溶解させる、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記試料溶液のスプレー前に、前記試料ミクロ構造内で、分離を実施し、および/または前記試料溶液に接する溶液内で部分的または全体的な抽出を実施する、請求項32〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
スプレーされる前記試料溶液の蒸発を避けるため、前記試料ミクロ構造の前記インレットに有機層を堆積させる、請求項32〜39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
外圧 (例えば背圧)をかけることなく、それぞれの前記ミクロ構造の前記インレットリザーバーに、前記試料およびシース液溶液を直接適用し、そして質量分析計にスプレーする、請求項32〜40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
質量分析計による後の分析のための試料を分注する装置の作製方法であって、電気絶縁材料の基材を取るステップ、覆われたミクロ構造を少なくとも二つ作製するステップを含み、両ミクロ構造は基材端部に電圧の印加によってスプレーが生成されるアウトレットと、流体を導入するためのインレットとを有し、前記ミクロ構造からこれらアウトレットを通ってスプレーされる前記試料およびシース液溶液を前記テイラーコーン内で混合する、試料の分注装置の作製方法。
【請求項43】
前記基材の前記端部に電圧の印加によって前記スプレーが生成されるアウトレットと流体を導入するためのインレットとを有する覆われたミクロ構造を少なくとも二つ得るため、多層体の基材を取るステップ、複数層の中で覆われたミクロ構造を少なくとも一つ作製するステップ、前記複数層を結合するステップ、そして選択枝として結合された多層体を切込むステップを含み、前記ミクロ構造からこれらアウトレットを通ってスプレーされる前記試料および前記シース液溶液を前記テイラーコーン内で混合する、請求項42に記載の装置の作製方法。
【請求項44】
前記試料および/またはシース液に電圧を印加するための電気若しくはイオン伝導手段を組込むステップを含み、前記伝導手段が制御されたサイズおよび位置を有する、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
レーザーフォトアブレーション、プラズマエッチング、化学エッチング、インクの堆積、導電性ポリマーの堆積、イオン交換材料の取込み、金属堆積、スパッタリング等によって、前記伝導手段の部分を形成する、請求項42〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記伝導手段をミクロ構造の覆いに取込む、請求項42〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
例えば、一または複数のミクロ構造の外部から電圧を印加するため、前期覆われたミクロ構造の少なくとも一つの前記インレットに接続されるリザーバー内に電極を加えることを含む、請求項42〜46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記基材がポリマー材料である、請求項42〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
レーザーフォトアブレーション、UV−Liga、エンボス加工、射出成形、溶液流延、光若しくは熱誘導重合、シリコン技法若しくは機械的にあけられた溝、凹み、若しくは穴を少なくとも一つ含む層の重ね合わせによって、前記ミクロ構造を形成する、請求項42〜48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
複数の装置を同じ基材内に作製し、それにより装置のアレイを形成する、請求項42〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記ミクロ構造のインレットのところでデッドボリュームを最小化する一若しくは複数の流体連結部、および/または前記ミクロ構造内に電位差をつくるための一若しくは複数の電気接続、および/または質量分析計入口の直前で一若しくは複数の前記装置を正確にポジショニングすることを可能とするシステムをさらに含む、請求項1〜24のいずれか一項に記載の、一または複数の装置を含む結合機器。
【請求項52】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の、装置のアレイを含む分析機器。
【請求項53】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の装置のアレイを取ることを含み、複数の前記装置を用い順番に試料を収集し、そしてそれぞれの前記装置からそれぞれの試料を分注し、そしてそれぞれの試料を質量分析計で分析することを含む、複数の試料の分析方法。
【請求項54】
例えばクロマトグラフ、電気泳動ユニット、分離ユニット、またはアフィニティーシステムの分析システムから、前記試料を収集する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
エレクトロスプレー質量分析計による検出に関し、請求項1〜24のいずれか一項に記載の一つの装置または装置のアレイを用いる、化学的または生物学的アッセイを実施する方法。
【請求項56】
酵素アッセイ、アフィニティーアッセイ、活性アッセイ、免疫学アッセイ、および/若しくは細胞アッセイ、溶解性試験、気体透過性試験、もしくは親油性試験から、前記化学的または生物学的アッセイを選択する、請求項55に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2006−505797(P2006−505797A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556196(P2004−556196)
【出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013328
【国際公開番号】WO2004/051697
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(503412539)ディアグノスイス ソシエテ アノニム (3)
【Fターム(参考)】