説明

エレクトロルミネッセンスディスプレイ用の窒化アルミニウムでパッシベーションされた蛍光物質

AC厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスに用いられる輝度及び動作安定性を改善した新規な構造体が提供されている。 この新規な構造体は、酸素との反応に起因する蛍光物質の劣化を防止するために、蛍光膜に接触している窒化アルミニウムのバリア層を有している。 このバリア層は、蛍光膜を蒸着及び焼鈍するために使用される工程と互換性のある真空蒸着工程を使用して蒸着することができる。 本発明は、蛍光膜を形成及び活性化するために高い工程温度にさらされる厚い誘電体層を採用しているエレクトロルミネッセンスディスプレイにおいて使用される蛍光物質に特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い誘電率の厚膜誘電体層を使用しているフルカラーACエレクトロルミネッセンスディスプレイ(electroluminescent displays)に用いられる蛍光物質(phosphors)の輝度及び動作安定性の改善に関するものである。
より具体的には本発明は、厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイ(thick film dielectric electroluminescent display)において、蛍光物質が酸素及び他の有害な種と反応することを最小化あるいは防止するために、蛍光膜と接触している窒化アルミニウムのバリア層を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(引用により、その全体が本明細書に組み込まれる。)に例示されている厚膜誘電体構造が知られており、従前の薄膜エレクトロルミネッセンス(thin film electroluminescent:TFEL)ディスプレイに対して優れた特性を発揮する。
高性能の赤、緑、青の蛍光体材料が、厚膜誘電体構造用として増大された輝度特性を提供するべく開発されている。
これらの蛍光体材料は、青色を発するためのユーロピウム(europium)で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩(barium thioaluminate)ベースの材料と、緑色を発するためのテルビウム(terbium)で活性化された硫化亜鉛、マンガンで活性化されたマグネシウム硫化亜鉛(magnesium zinc sulfide)あるいはユーロピウムで活性化されたカルシウム・チオアルミ酸塩(calcium thioaluminate)ベースの材料と、赤色を発するために適宜フィルタをかけられる従前のマンガンで活性化された硫化亜鉛と、を含んでいる。
【0003】
高輝度フルカラー厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイは赤、緑、青のサブピクセルがパターン形成されるための薄膜蛍光体材料を必要とし、ピクセルの各色は、各サブピクセルについて要求される色座標を達成するために必要な光フィルタの使用に伴う減衰を最小化するように合わせられている。
相対的に低い解像度のディスプレイについては、パターン形成はシャドーマスクを通じて蛍光体材料を蒸着することにより行われる。
しかしながら高解像度ディスプレイについては、シャドーマスク技術ではフォトリソグラフィック法の採用が要求されるような十分な精度を提供することができない。
特許文献2(引用により、その全体が本明細書に組み込まれる。)に例示されているようにフォトリソグラフィック技術は、要求されるパターンを提供するためにフォトレジスト膜の蒸着、及び蛍光膜の一部をエッチングあるいは剥離させることを必要とする。
フォトレジスト膜の蒸着及び除去と、蛍光膜のエッチングまたは剥離には、水あるいはその他のプロトン性溶媒(protic solvents)を含有する溶剤を必要とする。
工程雰囲気中に存在しうる水分あるいは酸素の反応を伴うフォトリソグラフィック工程の後に、ディスプレイ構造体に残存しているこれら溶剤の残留分(traces)は、完成品のディスプレイの性能劣化を生じる酸化反応あるいは加水分解反応に対して敏感な特定の蛍光体材料と化学的に反応する場合がある。
ディスプレイの動作中の連続する化学反応は、継続的な性能劣化を生じ、これによりディスプレイの寿命が短くなる場合がある。
【0004】
かかる性能劣化の問題を解消するために、特定の蛍光体材料と共に用いる種々の材料が提案されている。
テルビウムで活性化された硫化亜鉛及び硫化マグネシウム亜鉛の蛍光物質と共に用いるために、窒化珪素が提案されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0005】
特許文献3、特許文献4、特許文献5及び特許文献6には、プラズマCVD法(plasma chemical vapour deposition method)を用いて蒸着された硫化マグネシウム亜鉛の蛍光膜と共に用いられる窒化珪素層あるいは酸窒化珪素層(silicon oxynitride layers)が開示されている。
【0006】
特許文献7及び特許文献8には、テルビウムがドーピングされたエレクトロルミネッセンスディスプレイ用の硫化亜鉛が開示されている。
また、特許文献9には、硫化亜鉛の拡散バリア層(diffusion barrier layer)を有する希土類で活性化された硫化亜鉛材料を含むエレクトロルミネッセンス積層体が開示されている。
【0007】
また、特許文献10及び特許文献11に記載されているような薄膜エレクトロルミネッセンスデバイスにおけるアルカリ土類カルコゲン(alkali earth chalcogen)のEL発光層と共に用いるための窒化アルミニウムも提案されている。
また、窒化アルミニウムは、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15及び特許文献16に記載されているような有機エレクトロルミネッセンスデバイス/ディスプレイにおける絶縁薄膜層として用いられるだけでなく、特許文献17及び特許文献18に記載されているようなEL素子における水分のバリア層としても用いられている。
また、特許文献19に開示されているように、セラミック基板としての窒化アルミニウムも提案されている。
【0008】
特許文献20は、従前のマンガンで活性化されたマグネシウム硫化亜鉛蛍光膜と厚膜誘電体層との間に設けられる半導体材料としての窒化アルミニウムの使用を開示している。
このようなデバイスは、蛍光膜を焼鈍し、窒化アルミニウムの層を焼鈍された蛍光物質の上に形成し、そしてスクリーン印刷と厚膜誘電体層とをその上に形成して、窒化アルミニウムが蛍光膜と厚膜誘電体層との間に配置されるように構成されている。
【0009】
前掲の特許及び特許出願は、従前の硫化亜鉛蛍光物質と共に、あるいは薄膜エレクトロルミネッセンスディスプレイ内で用いられる窒化アルミニウムのような特定の絶縁材料の使用を教示しているかもしれないが、性能劣化を最小限として改善された輝度及び動作寿命を発揮する厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイ内で使用するために特に改良した蛍光体材料の要請は依然として存在している。
【特許文献1】米国特許第5,432,015号明細書
【特許文献2】米国特許第6,771,019号明細書
【特許文献3】米国特許第4,188,565号明細書
【特許文献4】米国特許第4,721,631号明細書
【特許文献5】米国特許第4,897,319号明細書
【特許文献6】米国特許第5,644,190号明細書
【特許文献7】米国特許第5,496,597号明細書
【特許文献8】米国特許第5,598,059号明細書
【特許文献9】国際公開第00/70917号パンフレット
【特許文献10】米国特許第4,975,338号明細書
【特許文献11】特開平02−103893号公報
【特許文献12】特開平08−288069号公報
【特許文献13】特開平10−092580号公報
【特許文献14】米国特許第6,146,225号明細書
【特許文献15】米国特許第6,383,048号明細書
【特許文献16】米国特許第6,416,888号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第2002/0079836号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2002/0031688号明細書
【特許文献19】米国特許出願公開第2002/0177008号明細書
【特許文献20】米国特許出願公開第2002/0125821号明細書
【特許文献21】国際公開第00/70917号パンフレット
【特許文献22】米国特許第6,589,674号明細書
【特許文献23】米国特許第6,610,352号明細書
【非特許文献1】Mikamiらによる、「2000 Proceedings of the 6th International Conference on the Science and Technology of Display Phosphors」
【非特許文献2】J. Ohwakiらによる、「1987, Review of the Electrical Communications Laboratories Vol. 35」
【非特許文献3】R. Akilaらによる、「Metallurgical Transactions, Volume 18B (1987) pp. 163-8」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイス内に設けられる蛍光物質と共に使用するためのパッシベーション層あるいはバリア層に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
より具体的には、本発明は蛍光物質と共に使用されるパッシベーション層あるいはバリア層であって、希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩(barium thioaluminate)、希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、遷移金属で活性化された硫化亜鉛、希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛(zinc selenide)、及び希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛(zinc sulfo-selenide)のうちから選択されることを特徴とするものである。
蛍光物質は、例えば本出願人による特許文献1及び本出願人により2002年12月21日に出願された米国特許出願第60/341,790号明細書(これらは、引用により、その全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されているような厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイス内で使用される蛍光物質である。
【0012】
本発明のバリア層は、蛍光物質の輝度及び動作寿命を改善するのに寄与するものである。
このバリア層は、(側面視で)蛍光膜の上側及び任意的に蛍光膜の下側に形成された一以上の窒化アルミニウム層を有している。
本発明の好ましい観点において、このバリア層は、蛍光体材料の観察している側面にも形成されている。
【0013】
本発明のバリア層は、デバイス内に存在するあらゆる化学種(chemical species)が蛍光物質と反応することを防止あるいは反応を最小化するように作用するものである。
このような化学種は、発光する蛍光物質における活性化種(activator species)と電子とが相互に作用する効率の低下を引き起こすことにより、電子がデバイスの動作中に蛍光物質内へ注入される効率の低下を生じてしまい、蛍光物質の実現可能な輝度の低下を生じる場合がある。
また、化学種は蛍光物質内で生成される光が有用な輝度を提供するためにデバイスから伝達される効率を低下させるように作用してしまう。
【0014】
とりわけ、蛍光物質の劣化は酸素あるいは水分との反応を伴うので、少なくとも蛍光物質の一部の化学的な組成が変化してしまう。
本発明の窒化アルミニウムのパッシベーション層は、蛍光層の外表面に、例えば、デバイスの厚い誘電体構造、蛍光物質をパターン形成するために使用されるフォトリソグラフィック工程で用いられる化学物質の残留種(residual species)、若しくは隣接する薄膜層に由来する酸素、及び/または外部環境に由来する酸素に対するバリアとして機能するものである。
【0015】
バリア層の材料は、隣接する層、特に蛍光体材料と化学反応を生じないように選択されている。
ディスプレイデバイスの動作のため、及び動作中の製造工程の間の化学的な反応度は直ちに決定できるものではなく、従って、この化学的な反応度は、ディスプレイデバイス内で使用可能な材料の選択、及び蛍光体材料と共に使用可能な材料の選択を困難なものにしている。
【0016】
本発明は、いくつかの異なる実施形態を有している。
一の実施形態においては、薄い窒化アルミニウム膜が厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイ内の無機蛍光膜の観察している側面と接触して設けられていることを特徴としている。
別な実施形態においては、窒化アルミニウム薄膜が厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイ内の無機蛍光薄膜の両面に接触して設けられていることを特徴としている。
更に本発明の別な実施形態においては、蛍光膜は、(a)ユーロピウム若しくはセリウムで活性化されたアルカリ土類・チオアルミ酸塩、(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛から成る一群から選択され、前記窒化アルミニウム膜が、前記蛍光膜の観察している側面と接触して設けられていることを特徴としている。
また更に別な実施形態においては、窒化アルミニウム膜は前記蛍光膜の両面と接触して設けられていることを特徴としている。
【0017】
本発明の一態様によれば、前記蛍光膜の一の側面あるいは両方の側面に直接的に隣接している窒化アルミニウムのバリア層を有しており、前記蛍光膜が厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイ内に存在していることを特徴としている。
【0018】
本発明の更なる観点によれば、安定化された蛍光膜は、厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイ内で、無機薄膜蛍光膜の一の表面あるいは両方の表面に接触してなる安定化した蛍光膜が得られる。
【0019】
本発明の別な観点によれば、厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイのための改良された蛍光膜であって、該蛍光膜は、
(a)希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、
(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、
(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、
(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び
(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛
から成る一群から選択され、
前記(a)、(b)、(d)及び(e)の蛍光膜には、該蛍光膜の上面及び/または下面に窒化アルミニウムのバリア層が設けられ、
前記(c)の蛍光膜には、該蛍光膜の側面上に窒化アルミニウムのバリア層が設けられ、
該窒化アルミニウムのバリア層は、前記蛍光膜と前記ディスプレイとの間の界面の安定性を向上させている、
ことを特徴としている。
【0020】
本発明の更に別な観点によれば、厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイにおいて用いられる蛍光物質の積層体であって、該積層体は、
(a)希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、
(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、
(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、
(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び
(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛
から成る一群から選択される蛍光物質薄膜層を有しており、
前記(a)、(b)、(d)及び(e)の蛍光層にあっては、該蛍光層の上面及び/または下面に直接的に隣接して設けられ、前記(c)の蛍光層にあっては、該蛍光層の上面に直接的に隣接して設けられる窒化アルミニウム層を備えていることを特徴としている。
【0021】
本発明のまた更に別な観点によれば、ガラス基板またはガラスセラミック基板上に構成される厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスであって、該デバイスは、
(a)希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、
(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、
(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、
(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び
(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛
から成る一群から選択される蛍光物質を有しており、
前記(a)、(b)、(d)及び(e)の蛍光膜にあっては、前記蛍光膜とデバイスの残余の部分との間の界面の安定性を向上させるために前記蛍光膜の上面及び/または下面に窒化アルミニウムのバリア層を形成し、
前記(c)の蛍光膜にあっては、該蛍光層の上面側に窒化アルミニウムのバリア層を形成していること、
を特徴としている。
【0022】
本発明のまた更に別な観点によれば、厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスに用いるための安定化された蛍光物質積層体を作製するための方法であって、
i) (a)希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、
(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、
(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、
(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び
(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛
から成る一群から選択される蛍光物質を、第一のセットのアドレスラインと誘電体層とを組み込んだガラス基板またはガラスセラミック基板上に蒸着するステップと、
ii) 前記(a)〜(e)の蛍光膜の上に窒化アルミニウムの層を蒸着するステップと、
iii) 前記蛍光膜を約1100℃に至る温度で焼鈍するステップと、
を備えていることを特徴としている。
【0023】
代替的な実施形態においては、窒化アルミニウムの追加的な層が、蛍光物質の蒸着に先立って基板上に形成される。
【0024】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な記述により明らかにされる。
しかしながら、以下の詳細な記述及び特定の例は本発明の実施形態を示すものではあるが、単なる例示として記載されているものであることは理解されるべきである。
当業者であれば、以下の詳細な記述から、本発明の精神及び技術的範囲を逸脱することなく種々の改変が可能であることも理解されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は以下の記述及び添付の図面によって、より完全に理解されるものであるが、これらは単なる説明の便宜に使用されるものであって、本発明の意図する技術的範囲を限定するものではない。
【0026】
本発明は、厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイ内の蛍光物質と共に使用するためのパッシベーション層あるいはバリア層に関するものである。
パッシベーション層あるいはバリア層は、(a)希土類で活性化されたアルカリ土類・チオアルミ酸塩、(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛から成る一群から選択される蛍光体材料と共に使用される窒化アルミニウムを有している。
窒化アルミニウム層は、好適には厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイス内の薄膜として設けられている蛍光体材料の一の表面あるいは両方の表面に接触して形成されている。
この窒化アルミニウム層は、蛍光体材料及び厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスの残余の部分との界面の、電気的及び電気化学的な安定性を改善するように機能するものである。
【0027】
窒化アルミニウムのバリア層は、酸素が蛍光体材料と反応して性能的な劣化を引き起こす可能性があるデバイスの動作の際に、蛍光体材料への酸素の移動を最小化するのに寄与している。
窒化アルミニウムのバリア層は、酸素の移動に対するバリアとして作用し、及び/または酸素を拘束するように反応するので、デバイスの輝度の低下を引き起こす程度にまで蛍光物質と反応するだけの酸素はもう存在しない状態となっている。
また、バリア層は、蛍光物質の表面で更に好ましい界面を提供するものであり、このため、デバイスの性能を劣化させる場合があるデバイスの動作中に、これら界面での電気化学的な反応を阻止するように作用している。
【0028】
本発明は、高い誘電率の誘電体層を有する厚い誘電体層を使用しているエレクトロルミネッセンスデバイスに特に好適であって、前記厚膜誘電体材料は、熱処理あるいはデバイスの作動に対応して蛍光物質の性能に対して有害な化学種に発展する場合がある2以上の酸化化合物を有している。
更には、厚い誘電体膜の表面は蛍光物質の厚さに比べてスケール的に粗いものであって、デバイス構造体を貫通するクラックあるいはピンホールを生じると共に、有害な化学種を含有あるいは吸収する場合がある空孔(voids)を含み、従って、デバイスの動作寿命に亘って輝度と動作効率とを低下させるような影響を及ぼしてしまう。
本発明が使用される好適な厚膜誘電体デバイスとしては、本出願人による特許文献1及び2002年12月21日に出願された米国特許出願第60/341,790号明細書(これらは、引用により、その全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されているようなものが挙げられる。
【0029】
図1は、通常、参照符号10が付されている本発明の厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスの概略断面図を示すものである。
デバイス10は基板12を備えており、この基板12上には、金属導体層(例えば金)14と、厚膜誘電体層(例えばPMT−PT)16と、平滑層(例えば、鉛、ジルコン酸塩、チタン酸塩)18が形成されている。
基板としては、当業者に理解される種々のものが使用され得る。
基板としては、電磁スペクトラム(electromagnetic spectrum)の可視領域及び赤外領域で不透明な(opaque)基板が好適である。
特に、基板は、セラミック基板上に厚膜誘電体層を形成したものである。
そのような基板の例としては、アルミナ、金属セラミック複合体が挙げられる。
窒化アルミニウムのバリア層20が、蛍光層22に隣接して存在していることが図示されている。
図1では、バリア層20は蛍光物質の両側に設けられているが、そのような層を一つだけ用いても構わないことが理解される。
薄膜誘電体層24、そしてITO移動電極26が蛍光物質の上に設けられている。
シーリングヘッドによって囲繞された積層構造体の上に、密閉筐体28が配置されている。
【0030】
このような厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイの重要な要求特性は、動作の際にデバイスを横断して電圧が印加されるときに、デバイス内の異なる層の間の界面でのデバイスの劣化を生じさせる可能性のある電気化学的な反応を抑制することである。
窒化アルミニウムは、これらの条件下で、デバイス内の種々の蛍光体材料、特にチオアルミ酸塩蛍光物質及び光学的に透明な電極として使用されるITO(indium tin oxide)層とも安定的な界面を形成することが以下に説明される。
【0031】
窒化アルミニウム層は、化学式AB:REで表現される材料を含むチオアルミ酸塩蛍光物質と共に使用することができ、ここでAはMg、Ca、Sr及びBaから成る群の一以上から選択され、BはAl、Ga及びInから成る群の一以上から選択され、CはS及びSeから成る群の一以上から選択されると共にS及びSeの合計濃度の0.2倍より低い相対的な原子濃度で酸素を含有しても良く、そしてREは要求される光スペクトラムを生成する希土類の活性種であって、好適にはEu若しくはCeである。
また、本発明の窒化アルミニウムのバリア層は、希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛の蛍光物質、遷移金属で活性化された硫化亜鉛の蛍光物質(例えばマンガン若しくはテルビウムで活性化された硫化亜鉛)、希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛の蛍光物質、及び希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛の蛍光物質のためのバリア層としても好適である。
【0032】
希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛の蛍光物質は、本出願人により2002年8月29日に出願された同時係属の米国特許出願第60/406,661号明細書(引用により、その全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されているものである。
簡単に説明すると、本発明の硫化亜鉛の蛍光物質は、化学式ZnS:REで表現され得るものであって、ここでREはテルビウム及びユーロピウムから成る群から選択される希土類である。
テルビウムは本発明において使用するのに最も好適である。
テルビウム若しくはユーロピウムと亜鉛の原子比率は、約0.005から約0.02の範囲であり、いくつかの観点においては、約0.01から約0.02の範囲である。
硫化亜鉛の蛍光物質は微粒化され希土類で活性化された硫化亜鉛の蛍光膜であって、この硫化亜鉛の結晶構造は、(111)の結晶学的方向を持つ閃亜鉛鉱(zincblende(sphalerite))の結晶構造を有しており、これは蛍光膜平面に対して実質的に直交する方向である。
【0033】
スルホセレン化亜鉛の蛍光体材料は、化学式ZnSSe1−x:A(0<x<1)で表現され得るものであって、ここでAは活性化元素である。
セレン化亜鉛の蛍光体材料は、化学式ZnSe:Aで表現され得るものであって、ここでAは活性化元素である。
遷移金属で活性化された硫化亜鉛の蛍光体材料は、化学式ZnS:Aで表現され得るものであって、ここでAはマンガン及びテルビウムから選択される。
【0034】
本発明は特に、希土類で活性化されたアルカリ土類・チオアルミ酸塩蛍光体材料、希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛の蛍光体材料、マンガンで活性化された硫化亜鉛の蛍光物質、並びに上述したセレン化亜鉛の蛍光物質及びスルホセレン化亜鉛の蛍光物質の動作寿命を改善することを意図しているものである。
種々の蛍光体材料が厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイ内で形成されている。
これら蛍光物質を安定化するための詳細なメカニズムは解明されておらず、いかなる理論にも結びつかないものではあるが、酸素が蛍光物質と反応するのを防ぐことにより、希土類活性種が母材の(host)チオアルミ酸塩化合物の結晶格子内に溶存していることに寄与していると考えられる。
酸素との蛍光物質の反応により、該蛍光物質から酸化アルミニウム析出が生じ、残余の材料は更にバリウムリッチの状態となる。
多数の異なるチオアルミ酸塩化合物が、アルミニウムに対する異なるアルカリ土類元素の割合で存在しているけれども、必ずしも全てが効果的な蛍光物質の母材であるとはいえない。
更に、希土類種は母材のチオアルミ酸塩溶液から出てきて、RES(REは希土類を表す。)のような酸硫化物種を析出する場合がある。
酸素分圧が非常に低くて硫黄が存在する環境(sulfur-bearing environment)においてこれらの化合物が形成されることは広く知られている(例えば非特許文献3)。
本発明の窒化アルミニウム層が提供されることにより、上述したような望ましくない反応を最小化または防止するのに貢献できる。
【0035】
以下に、窒化アルミニウムが、エレクトロルミネッセンスディスプレイにおいて用いられていた従前の薄膜誘電体材料に比較していくつかの利点を有していることを説明する。
蛍光膜の観察している側の表面と接触すると共に蛍光層内で生成された光が透過されなければならない従前の(酸化アルミニウムのような)誘電体層と比較して、本発明の窒化アルミニウムのバリア層は、チオアルミ酸塩蛍光体材料に近い光学的な屈折率を有している。
【0036】
光学的な屈折率の改善されたマッチングにより、誘電体層を通じて伝達される光量が増加し、全体的な明度が改善される。
また、窒化アルミニウムは、AC厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスの動作中に存在する高電界内での絶縁破壊に対しても安定している。
更に、窒化アルミニウムは、エレクトロルミネッセンスディスプレイにおいて従前使用されていた薄膜誘電体材料に比べて比較的高い誘電係数(13〜15)を有しており、窒化ケイ素(8〜10)及びアルミナ(7〜8)に比べても高くなっている。
これにより誘電体層の前後での電圧降下が最小化され、従ってディスプレイの動作電圧を低下させることができ、0.1〜1[メガボルト/cm]の相対的に高い絶縁耐力を得ることができる。
そして、これにより、蛍光層と隣接する窒化アルミニウム層との間の安定した界面が形成され、従って、蛍光層への安定した電荷の注入、膜のクラックや剥離を防止する低い残留膜応力、及び蛍光物質からの光の抽出が高められるような約2.0の高い光学的な屈折率が得られる。
【0037】
窒化アルミニウムの反応性高周波スパッタリングのための蒸着条件、特にスパッタリング雰囲気中のアルゴンと窒素の割合を適切に制御することにより、窒化アルミニウム膜内の残留応力は最小化され得る。
典型的には、窒化アルミニウム膜は、約0.65Pa〜3.5Paの範囲の圧力、及び窒素とアルゴンの割合が約0:50〜20:50のアルゴン/窒素雰囲気下でスパッタリングにより形成することができる。
チオアルミ酸塩蛍光膜上に低応力の膜を蒸着するために、前記割合は約5:50とされる。
【0038】
蒸着のための窒化アルミニウムのスパッタリングターゲットに加えられる高周波出力密度は、有効ターゲット領域の単位平方センチメートル当たり、約2ワット/cm〜約6ワット/cmの範囲とすることができる。
窒化アルミニウムの蒸着の際には、蒸着基板は雰囲気温度近傍に維持すれば良い。
窒化アルミニウムの膜厚は、種々の観点において約30nm〜約50nmの範囲、及び30nmと50nmとの間にある一つまたは複数の小領域の範囲とされている。
また、窒化アルミニウムは、所望の膜厚に到達するまで、蛍光体材料の各側の上に一層または二層以上で形成することができる。
スパッタリング雰囲気圧力が増加するにつれて、窒化アルミニウムのスパッタリング速度は光学的な屈折率と同様に低下する傾向にあり、これは、スパッタリング雰囲気において不純物として含有されている酸素の分圧が付随的に増加することによるものであると推測される。
また、スパッタリングの際に窒素分圧が低下し、該窒素分圧がゼロへ低下するにつれて膜が黒化することに伴って、光学的な屈折率も低下する。
このことは蒸着膜内の窒素の欠乏に関連しているものであろう。
窒素及びアルゴンの分圧は、高い光学的な屈折率と蒸着膜内の低い残留応力とを両立するように設定することができる。
窒化アルミニウム膜の残留応力は、窒化ケイ素の残留応力よりも著しく低くなっている。
【0039】
スパッタリング以外に、当業者が理解している他の方法によって窒化アルミニウム膜を形成することもできる。
従来技術として、窒化アルミニウム膜を形成するための原子層気相蒸着法(atomic layer chemical vapour deposition methods:ALCVD法)が知られている。
ALCVD法を使用すると、より均一な窒化アルミニウム膜を形成することができる。
本発明の更なる観点において、酸素を窒化アルミニウム膜に添加して隣接する層の屈折率と一致するように光学的な屈折率を変化させることにより、層の間の界面での屈折を最小化することができる。
図2は、エネルギー分散X線分析(energy dispersive x-ray analysis:EDX)を用いて測定した、膜中の窒素と酸素の割合に対する光学的な屈折率の依存性を示している。
窒素と酸素の割合がゼロに近い場合、屈折率は酸化アルミニウムのそれに対応して1.6未満から変化し始め、膜中の窒素と酸素の割合が約3:1より大きくなると、屈折率は約2.0にまで増加される。
典型的には、蛍光体材料の高い光学的な屈折率に最も良く一致させるためには、膜の光学的な屈折率は2に近いことが望ましい。
【0040】
本明細書に記載されているように、蛍光膜と接触している薄膜窒化アルミニウム層は、蛍光体材料の組成に依存して明度の改善度合いを変化させることができる。
マンガンで活性化された硫化亜鉛の蛍光膜を用いたデバイスについて、その改善度合いは約10%〜15%の範囲であり、スパッタリングされたテルビウムで活性化された硫化亜鉛の蛍光物質について、その改善度合いは約10%〜30%の範囲であり、ユーロピウムで活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩膜について、その改善度合いは約30%〜40%の範囲である。
【0041】
本発明の一実施形態は、蛍光膜の上に蒸着される薄膜の窒化アルミニウム層を提供するものであって、前記蛍光膜は、アルミニウムとバリウムの割合が2〜4の間である希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、遷移金属で活性化された硫化亜鉛、希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛のうちから選択される。
本明細書に記述されているように、このような構成は厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイス内に設けられる。
インジウムスズ酸化物の透明電極膜が、この窒化アルミニウム層の上に蒸着されている。
【0042】
本発明の第2の実施形態はAC厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスであって、
厚い誘電体層と、
アルミニウムとバリウムの割合が2〜4の間である希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、遷移金属で活性化された硫化亜鉛、希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛のうちから選択される蛍光膜と、
該蛍光膜上に蒸着された薄膜窒化アルミニウム層と、
該窒化アルミニウム層の上に蒸着された異なる組成を有する第2の薄膜誘電体層と、
前記第2の薄膜誘電体層の上に蒸着されたインジウムスズ酸化物の透明電極膜と、
を備えているものである。
【0043】
本発明の第3の実施形態はAC厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスであって、
厚い誘電体層と、
アルミニウムとバリウムの割合が2〜4の間である希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、遷移金属で活性化された硫化亜鉛、希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛のうちから選択される蛍光膜と、
該蛍光膜の両面と接触している薄膜窒化アルミニウム層と、
を備えているものである。
【0044】
本発明の第4の実施形態は、上述した第1から第3のAC厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスにおいて、バリウムとマグネシウムとの和に対するマグネシウムの原子濃度の割合が、約0.001〜0.2の範囲となるようにマグネシウムを含む蛍光物質の組成を有するものである。
【0045】
本発明の第5の実施形態は、上述した第1から第4のAC厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスにおいて、蛍光物質が、三価のユーロピウムあるいはセリウム(好適にはユーロピウム)で活性化されており、バリウム、若しくはバリウム及びマグネシウムの和に対するユーロピウム若しくはセリウムの原子濃度の割合が、約0.005〜0.04の範囲(好適には約0.015〜0.03の範囲)とされているものである。
【0046】
上記の開示内容が、本発明を一般的に説明するものである。
以下の特定の実施例を参照することによって、より完全な理解を得ることができるであろう。
これらの実施例は、単に説明目的のために記述されているのであって、本発明の技術的範囲を限定する意図ではない。
状況が許せば、あるいは目的にかなうと判断されれば、変形及び均等物との置換も考えられるであろう。
特定の用語が本明細書で用いられているけれども、このような用語は説明的な意図で用いられているものであって、限定的な意図で用いられているものではない。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
ユーロピウムで活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩を含む薄膜蛍光体層を組み込んだ厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスを作製した。
薄膜基板は、約0.1cmの厚さを有する5cm×5cmのアルミナ基板である。
金電極を前記基板上に蒸着し、本出願人による特許文献21(引用により、その全体が本明細書に組み込まれる。)に例示された方法に従って、厚膜の高い誘電率を有する誘電体層を形成した。
本出願人による特許文献22(引用により、その全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されているゾル・ゲル技術(sol gel technique)を用いて、チタン酸バリウムから成る厚さ約100nm〜200nmの薄膜誘電体層を、前記厚膜誘電体層の上に蒸着した。
特許文献23(引用により、その全体が本明細書に組み込まれる。)に記載の方法に従って、バリウムに対して約3原子%のユーロピウムで活性化された400nmの厚さのバリウム・マグネシウム・チオアルミ酸塩蛍光膜を、チタン酸バリウム層の上に電子ビーム法により蒸着した。
蒸着に続いて、蒸着された蛍光物質はベルト式の加熱炉を用いて窒素雰囲気下で焼鈍され、この焼鈍条件はピーク温度が約700℃、加熱時間が12分であった。
【0048】
次に、0.64cmの厚さで38cm×12cmの長方形のターゲットを用いて、50nm厚さの窒化アルミニウム層がスパッタリングにより蒸着された。
圧力を約0.7Paに維持するために、5sccmの流量の窒素と50sccmの流量のアルゴンとをスパッタリングチャンバ内へ噴射することによって、スパッタリング雰囲気を維持した。
蒸着に先立って基板を雰囲気温度に維持した。
スパッタリングターゲットへの高周波出力は約2000Wとした。
蒸着速度は約4Å/秒〜約6Å/秒であった。
膜のエネルギー分散X線分光分析によると、該膜は0.2未満の酸素と窒素の原子比率を示した。
同様の条件下でシリコンウェハ上にスパッタリングで形成された窒化アルミニウム膜のX線回折分析によると、蒸着直後の膜は、一部分に結晶構造の窒化アルミニウムを有するものの大部分がアモルファス構造を呈しており、その後に450℃で焼鈍された同様の膜は、六方晶系の結晶構造を呈すると共に、結晶学的に膜表面に対して直交する方向のC軸へ選択的に配向されて実質的に結晶化されていた。
この好ましい配向性は、領域検出器を有したX線回折計を用いて測定した。
【0049】
次に、インジウムスズ酸化物の上部導体膜が、本出願人による特許文献21(引用により、その全体が本明細書に組み込まれる。)に記載されている方法に従って蒸着され、完成したデバイスが550℃の空気中で焼鈍され、そしてインジウムスズ酸化物の蒸着及び試験に先立って、550℃の窒素雰囲気中で焼鈍された。
【0050】
当該デバイスは、パルス幅30nsで光学的な閾値電圧よりも60V高くした240Hzの交流の方形波状の電圧波形を印加して試験に供された。
図3は、デバイスに対する印加電圧の関数としての輝度を示すものである。
データから理解されるように、閾値電圧である145Vよりも60V高い電圧での輝度は、約180カンデラ/mであった。
【0051】
(実施例2)
デバイスは、窒化アルミニウムの誘電体層を同様の厚さのアルミナ層に置き換えた以外は実施例1と同様に調製された。
このデバイスの輝度データも図3に示されており、閾値電圧である160Vよりも60V高い電圧で、約120カンデラ/mの輝度を示した。
窒化アルミニウム層を有するデバイスのより低い閾値電圧の原因は、アルミナに比べて窒化アルミニウムが高い誘電率を有していることにある。
窒化アルミニウム層を有するデバイスに閾値電圧よりも60V高い電圧を印加した際の輝度は、アルミナ層を有するデバイスの輝度に比べて約40%高くなっている。
【0052】
(実施例3)
デバイスは、蛍光層を、ユーロピウムで活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩に代えてスパッタリングによりテルビウムで活性化された硫化亜鉛とした以外は実施例1と同様に調製された。
同じ試験条件下でのデバイスに対する印加電圧の関数としての輝度が図4に示されている。
データから理解されるように、閾値電圧である170Vよりも60V高い電圧での輝度は、約3000カンデラ/mであった。
【0053】
(実施例4)
デバイスは、窒化アルミニウムの誘電体層を同様の厚さのアルミナ層に置き換えた以外は実施例3と同様に調製された。
同じ試験条件下での、このデバイスについての輝度データも図4に示されており、閾値電圧である180Vよりも60V高い電圧での輝度は、約2100カンデラ/mであった。
ユーロピウムで活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩の蛍光物質を有するデバイスと同様に、この実施例のデバイスは、窒化アルミニウム層を有する実施例3のデバイスよりも高い閾値電圧を呈しており、再度言及すると、この原因は、アルミナに比べて窒化アルミニウムが高い誘電率を有していることにある。
窒化アルミニウム層を有するデバイスについて閾値電圧よりも60V高い電圧を印加した際の輝度は、アルミナ層を有するデバイスの対応する輝度に比べて約40%高くなっている。
【0054】
(実施例5)
デバイスは、酸窒化アルミニウムを形成するために窒化アルミニウム層に酸素がドーピングされている以外は実施例3と同様に調製された。
図4に示されるように、閾値電圧及び輝度の値は、純窒化アルミニウムを有する場合の値と純アルミナを有する場合の値との間を示している。
【0055】
(実施例6)
デバイスは、蛍光層を、ユーロピウムで活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩に代えて、マンガンで活性化された860nmの厚さの硫化亜鉛とした以外は実施例1と同様に調製された。
同じ試験条件下での、このデバイスに対する印加電圧の関数としての輝度が図5に示されている。
データから理解されるように、閾値電圧である150Vよりも60V高い電圧での輝度は、約4000カンデラ/mであった。
【0056】
(実施例7)
デバイスは、窒化アルミニウムの誘電体層を同様の厚さのアルミナ層に置き換えた以外は実施例6と同様に調製された。
同じ試験条件下での、このデバイスについての輝度データも図5に示されており、閾値電圧である160Vよりも60V高い電圧での輝度は、約3700カンデラ/mであった。
ユーロピウムで活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩の蛍光物質を有するデバイスと同様に、この実施例のデバイスは、窒化アルミニウム層を有する実施例3のデバイスよりも高い閾値電圧を呈しているものの、これらの実施例での差異は小さくなっている。
窒化アルミニウム層を有するデバイスについて閾値電圧よりも60V高い電圧を印加した際の輝度は、アルミナ層を有するデバイスの対応する輝度に比べて約10%高くなっている。
【0057】
(実施例8)
実施例1及び実施例2のデバイスと同様な2つのデバイスを作製し、同一の駆動条件下で耐久テストに供した。
図6は、窒化アルミニウムの上部誘電体層とアルミナの上部誘電体層を有するエレクトロルミネッセンスデバイスについての比較耐久データを示すものであって、この図から、チオアルミ酸塩蛍光膜の上に蒸着された窒化アルミニウム膜は、該チオアルミ酸塩蛍光物質を安定化させる効果を有していることがわかる。
このデータによると、アルミナの上部誘電体層を有するデバイスについては200時間後に輝度がゼロにまで低下してしまうが、窒化アルミニウムの上部誘電体層を有するデバイスについては、初期の落ち込み期間の後はずっと緩やかに輝度が現象していくことが理解される。
【0058】
(実施例9)
テルビウムで活性化された硫化亜鉛の蛍光物質を有する4つのデバイスであって、そのうち2つは窒化アルミニウムの上部誘電体層を有する実施例3と同様に調製し、他の2つはアルミナの上部誘電体層を有する実施例4と同様に調製し、これら4つのデバイスを同一の駆動条件下で駆動周波数600Hzにて耐久テストに供した。
図7は、窒化アルミニウムの上部誘電体層とアルミナの上部誘電体層を有するエレクトロルミネッセンスデバイスについての比較耐久データを示すものであって、この図から、窒化アルミニウム膜は、硫化亜鉛の蛍光物質を安定化させる効果を有していることがわかる。
このデータによると、前者のデバイスの初期輝度は約2700カンデラ/mであって、850時間作動後も実質的な変化は生じなかった。
これに対して後者のデバイスは前者と同様の初期輝度を示していたが、最初に約2200カンデラ/mまで急激に落ち込んだ後も緩やかな輝度の低下を生じ、850時間の試験後には輝度は1500カンデラ/m付近にまで低下した。
【0059】
本発明の好適な実施形態が本明細書に詳細に説明されているけれども、当業者が、本発明の精神、または添付クレームの技術的範囲を逸脱することなくこれら実施形態に種々の変形を為し得ることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の窒化アルミニウム層の位置を示している厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスの概略断面図である。
【図2】酸窒化アルミニウム膜中の窒素と酸素の割合の関数としての光学的な屈折率(optical index of refraction)を示すグラフである。
【図3】窒化アルミニウム膜及び酸化アルミニウム膜に接触しているバリウム・チオアルミ酸塩蛍光物質を有する種々の厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスの輝度を示すグラフである。
【図4】窒化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜及び酸化アルミニウム膜に接触しているテルビウムで活性化された硫化亜鉛蛍光物質を有する種々の厚膜誘電体デバイスの輝度を示すグラフである。
【図5】窒化アルミニウム膜及び酸化アルミニウム膜に接触しているマンガンで活性化された硫化亜鉛蛍光物質を有する種々の厚膜誘電体デバイスの輝度を示すグラフである。
【図6】窒化アルミニウム膜及び酸化アルミニウム膜に接触しているユーロピウムで活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩蛍光物質を有する厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスについて、動作時間の関数としての輝度を示すグラフである。
【図7】窒化アルミニウム膜及び酸化アルミニウム膜に接触しているテルビウムで活性化された硫化亜鉛蛍光物質を有する厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスについて、動作時間の関数としての輝度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
10 デバイス
12 基板
14 金属導体層
16 厚膜誘電体層
18 平滑層
20 バリア層
22 蛍光層
24 薄膜誘電体層
26 ITO移動電極
28 密閉筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイのための改良された蛍光膜であって、該蛍光膜は、
(a)希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、
(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、
(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、
(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び
(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛
から成る一群から選択され、
前記(a)、(b)、(d)及び(e)の蛍光膜には、該蛍光膜の上面及び/または下面に窒化アルミニウムのバリア層が設けられ、
前記(c)の蛍光膜には、該蛍光膜の側面上に窒化アルミニウムのバリア層が設けられ、
該窒化アルミニウムのバリア層は、前記蛍光膜と前記ディスプレイとの間の界面の安定性を向上させている、
ことを特徴とする蛍光膜。
【請求項2】
前記バリウム・チオアルミ酸塩蛍光膜は、化学式AB:REで表現され、
AはMg、Ca、Sr及びBaから成る群の一以上から選択され、
BはAl、Ga及びInから成る群の一以上から選択され、
CはS及びSeから成る群の一以上から選択される、
ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光膜。
【請求項3】
前記Cが、S及びSeの合計濃度の0.2倍より低い相対的な原子濃度で酸素を含有していることを特徴とする請求項2に記載の蛍光膜。
【請求項4】
前記REがEu及びCeから成る群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の蛍光膜。
【請求項5】
前記窒化アルミニウムのバリア層が前記(a)〜(e)の蛍光物質の上面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の蛍光膜。
【請求項6】
前記窒化アルミニウムのバリア層が前記(a)、(b)、(d)及び(e)の蛍光物質の下面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の蛍光膜。
【請求項7】
前記窒化アルミニウムのバリア層が前記(a)〜(e)の蛍光物質の上面及び下面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の蛍光物質。
【請求項8】
前記窒化アルミニウムのバリア層の厚さが約30nm〜約50nmであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光物質。
【請求項9】
前記窒化アルミニウムのバリア層がスパッタリングにより蒸着されていることを特徴とする請求項8に記載の蛍光物質。
【請求項10】
前記スパッタリングは、窒素とアルゴンの割合が約0:50〜20:50であり気体の圧力が約0.65Pa〜3.5Pa、及び約2ワット/cm〜約6ワット/cmの出力密度を有するスパッタリング雰囲気内で行われることを特徴とする請求項9に記載の蛍光物質。
【請求項11】
酸素が前記スパッタリング雰囲気に添加されることを特徴とする請求項10に記載の蛍光物質。
【請求項12】
前記窒化アルミニウムのバリア層が原子層気相蒸着法により蒸着されていることを特徴とする請求項8に記載の蛍光物質。
【請求項13】
前記窒化アルミニウムのバリア層が約2.0に至る光学的な屈折率を有していることを特徴とする請求項8に記載の蛍光物質。
【請求項14】
希土類で活性化された前記微粒状の硫化亜鉛の蛍光層は、化学式ZnS:REで表現され、
REはテルビウム及びユーロピウムから成る群から選択されると共に、前記蛍光物質が約50nmに至る結晶粒寸法を有していることを特徴とする請求項1に記載の蛍光物質。
【請求項15】
テルビウム若しくはユーロピウムと亜鉛との原子濃度の割合が、約0.005〜0.02であることを特徴とする請求項14に記載の蛍光物質。
【請求項16】
前記硫化亜鉛が閃亜鉛鉱の結晶構造を有していることを特徴とする請求項15に記載の蛍光物質。
【請求項17】
前記スルホセレン化亜鉛は、化学式ZnSSe1−x:A(0<x<1)で表現され、
Aが活性化元素であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光物質。
【請求項18】
前記セレン化亜鉛の蛍光体材料は、化学式ZnSe:Aで表現され、
Aが活性化元素であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光物質。
【請求項19】
遷移金属で活性化された前記硫化亜鉛は、化学式ZnS:Aで表現され、
Aはマンガン及びテルビウムから選択されることを特徴とする請求項1に記載の蛍光物質。
【請求項20】
厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスディスプレイにおいて用いられる蛍光物質の積層体であって、該積層体は、
(a)希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、
(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、
(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、
(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び
(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛
から成る一群から選択される蛍光物質薄膜層を有しており、
前記(a)、(b)、(d)及び(e)の蛍光層にあっては、該蛍光層の上面及び/または下面に直接的に隣接して設けられ、前記(c)の蛍光層にあっては、該蛍光層の上面に直接的に隣接して設けられる窒化アルミニウム層を備えていることを特徴とする積層体。
【請求項21】
前記窒化アルミニウムのバリア層の厚さが約30nm〜約50nmであることを特徴とする請求項20に記載の積層体。
【請求項22】
前記蛍光物質薄膜層が前記(a)であって、前記窒化アルミニウムのバリア層が前記蛍光物質薄膜層の上面側に形成されていることを特徴とする請求項21に記載の積層体。
【請求項23】
ガラス基板またはガラスセラミック基板上に構成される厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスであって、該デバイスは、
(a)希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、
(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、
(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、
(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び
(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛
から成る一群から選択される蛍光物質を有しており、
前記(a)、(b)、(d)及び(e)の蛍光膜にあっては、前記蛍光膜とデバイスの残余の部分との間の界面の安定性を向上させるために前記蛍光膜の上面及び/または下面に窒化アルミニウムのバリア層を形成し、
前記(c)の蛍光膜にあっては、該蛍光層の上面側に窒化アルミニウムのバリア層を形成していること、
を特徴とするデバイス。
【請求項24】
前記窒化アルミニウムのバリア層の厚さが約30nm〜約50nmであることを特徴とする請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
厚膜誘電性エレクトロルミネッセンスデバイスに用いるための安定化された蛍光物質積層体を作製するための方法であって、
i) (a)希土類で活性化されたバリウム・チオアルミ酸塩、
(b)希土類で活性化された微粒状の硫化亜鉛、
(c)遷移金属で活性化された硫化亜鉛、
(d)希土類または遷移金属で活性化されたセレン化亜鉛、及び
(e)希土類または遷移金属で活性化されたスルホセレン化亜鉛
から成る一群から選択される蛍光物質を、第一のセットのアドレスラインと誘電体層とを組み込んだガラス基板またはガラスセラミック基板上に蒸着するステップと、
ii) 前記(a)〜(e)の蛍光膜の上に窒化アルミニウムの層を蒸着するステップと、
iii) 前記蛍光膜を約1100℃に至る温度で焼鈍するステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項26】
前記(a)、(b)、(d)及び(e)の蛍光膜の上に窒化アルミニウムの層を蒸着するステップを更に備えていることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記窒化アルミニウムの厚さを約30nm〜約50nmとするステップを備えていることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記窒化アルミニウムのバリア層をスパッタリングにより蒸着するステップを備えていることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記スパッタリングを、窒素とアルゴンの割合が約0:50〜20:50であり気体の圧力が約0.65Pa〜3.5Pa、及び約2ワット/cm〜約6ワット/cmの出力密度を有するスパッタリング雰囲気内で行うステップを備えていることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
酸素を前記スパッタリング雰囲気に添加するステップを備えていることを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記窒化アルミニウムのバリア層を原子層気相蒸着法により蒸着するステップを備えていることを特徴とする請求項27に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−511046(P2006−511046A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560943(P2004−560943)
【出願日】平成15年12月5日(2003.12.5)
【国際出願番号】PCT/CA2003/001892
【国際公開番号】WO2004/057925
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(505089913)アイファイアー・テクノロジー・コープ (18)
【Fターム(参考)】