説明

エレクトロルミネッセンス用蛍光体の製法及びエレクトロルミネッセンス用蛍光体

【課題】 リーク現象を抑制し短波長域の光を高強度でかつ継続的にEL発光させることができるEL用蛍光体を得、また本来は高効率でEL発光しない材料系の蛍光体であっても、電解集中を効率良く発生させることにより、短波長可視光や紫外線をEL発光できるEL用蛍光体を提供することを目的とする。
【解決手段】 EL用蛍光体を作成する際に、Zn、Be、Mg、Ca、Sr及びBaより成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする金属粉末と炭素から構成される材料をメカニカルアロイングして合金化することで、導電層となる炭素から構成される材料を蛍光体中に均一に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短波長可視光及び紫外線を高発光強度でエレクトロルミネッセンス(以下、「EL」と略す。)発光する蛍光体を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題から、有害物質や細菌・ウイルスなどを分離、分解、または殺菌する機能が強く要求されている。このような分解・殺菌を行う手段として光触媒材料が注目されている。代表的な光触媒はTiO2であるが、これは一般には波長が400nm以下の紫外線を照射することにより光触媒機能を発揮する。
【0003】
このような波長の光を放射させるデバイスとしては、水銀ランプや発光ダイオードもあるが、点または線光源であるため、大面積の光触媒を均一に励起するには適さない。大面積を均一に発光させるデバイスとして無機EL用デバイスがある。これは、光を放射する機能を持つ蛍光体粉末を誘電体樹脂に分散させて、主として交流電界を印加して発光させるものである。
【0004】
高効率で発光する蛍光体としてはZnS蛍光体が挙げられる。例えば、特許文献1には、ZnSの母体にCuとClを添加することによりCuSを形成して発光効率を上げた蛍光体についての開示がある。また特許文献2には、ZnS系蛍光体とMgS等の2A族元素との混晶により発光効率を上げた蛍光体が開示されている。
一般にZnS蛍光体の中で短波長の発光を示すものはAgで付活されたものであるが、発光波長は450nmの青色であり、可視光領域の光しか放射しない。この発光機構は、ZnS中に添加された付活剤のAgがアクセプタ準位を形成し、共付活剤として添加されるClやAl等がドナー準位を形成し、このドナー準位とアクセプタ準位間で電子と正孔が再結合することにより波長450nm程度のD−Aペア型(別名Green−Cu型、以下G−Cu型)の青色の発光が生じる。このG−Cu型の発光は、蛍光体母材をZnSとZnSよりもバンドギャップの大きい化合物、例えばMgSやCaS等の2A族元素硫化物との混晶により蛍光体母材のバンドギャップを増大させることにより短波長化することができると考えられる。
【0005】
しかし、このようなAgをドーピングした蛍光体はEL発光させることができなかった。この理由を以下に説明する。EL用蛍光体として最も一般的なZnS:Cu、Cl蛍光体は、蛍光体内部に多数の双晶(積層欠陥)が形成されており、双晶界面に沿って導電性の高いCu−S系化合物が針状に存在する。電界印加時に針状導電相の先端で電界集中が生じて蛍光体母体であるZnSが励起され、このエネルギーが蛍光体中の各種準位に移動してEL発光する。
【0006】
この蛍光体の一般的な製法は以下の通りである。原料粉末であるZnSにCuSO4やKClを添加した混合粉末を不活性雰囲気中で1000〜1100℃で数時間焼成後、室温まで冷却する。焼成時に生じるZnSの粒成長段階で、成長双晶と呼ばれる多数の双晶が形成される。さらに焼成後の室温までの冷却段階で、ZnSには六方晶から立方晶への相転移が生じ、転移双晶と呼ばれる多数の双晶が形成される。この時、添加したCu成分の内、ZnSの固溶限界を超えたCuは双晶界面に針状のCu−S系化合物として析出する。Cu−S系化合物は一般的にはCu2Sであると言われている。Cuの変わりにAgをドーピングした場合、双晶界面に析出するのはAg2Sであり、導電性が低いために電界集中効果を示さないのである。
【0007】
一方、蛍光体表面に導電性粒子を付着させることで、電界印加時に該導電性粒子近傍に電界集中を生じさせてEL発光させることが報告されている(例えば、特許文献3)。しかし、このような蛍光体では、導電性粒子が付着することで蛍光体表面の抵抗が低下するために、電界印加時に、蛍光体表面を伝って電界が逃げてしまうリーク現象が起こるために、極めて発光寿命が短いEL用蛍光体しか得られなかった。
【特許文献1】特開平5−152073号公報
【特許文献2】特開2002−231151号公報
【特許文献3】特公平7−47732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、このようなリーク現象を抑制し、短波長域の光を高強度でかつ継続的にEL発光させることができるEL用蛍光体を作製する方法を提供することを目的とする。
さらに、本来は高効率でEL発光しない材料系の蛍光体であっても、電解集中を効率良く発生させることにより、短波長可視光や紫外線をEL発光できるEL用蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑みて本発明者らは鋭意研究した結果、蛍光体内部に、導電性の高い炭素成分を含む導電相を均一に分散させることにより、短波長EL用蛍光体として発光強度の高い蛍光体となることを発見し、本発明に至ったものである。
【0010】
即ち、本発明は以下の構成よりなることを特徴とする。
(1)Zn、Be、Mg、Ca、Sr及びBaより成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする金属粉末と炭素から構成される材料をメカニカルアロイング(以下、「MA」と略す。)して合金化する工程、該合金を硫化して硫化物を主成分とする複合体とする工程と、該複合体を粉砕・熱処理して蛍光体とする工程と、上記のいずれかの工程において付活剤及び/または共付活剤を添加する工程と、からなるEL用蛍光体の製法。
(2)前記合金を硫化して硫化物を主成分とする複合体とする工程において、該合金に硫黄粉末を添加してMAすることを特徴とする上記(1)に記載のEL用蛍光体の製法。
(3)Zn、Be、Mg、Ca、Sr及びBaより成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする金属粉末と、硫黄粉末と、および炭素から構成される材料をMAして硫化物を主成分として複合体とする工程、該複合体を粉砕・熱処理して蛍光体とする工程と、上記のいずれかの工程において付活剤及び/または共付活剤を添加する工程、からなるEL用蛍光体の製法。
本発明は硫化物を主成分とした複合体を作製する際に、硫黄粉末を用いてMAにより硫化させるため、HSガスと反応させて硫化させる方法の場合に生じる排ガス処理の問題も無くなる。
【0011】
(4)前記金属粉末が、Znを主成分とすることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一に記載のEL用蛍光体の製法。
(5)前記金属粉末が、ZnとBe、Mg、Ca、SrまたはBaの少なくとも一種との混合物を主成分とする上記(4)に記載のEL用蛍光体の製法。
【0012】
(6)前記付活剤が、Ag、Cu、またはAuの少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか一に記載のEL用蛍光体の製法。
(7)前記付活剤がAgであることを特徴とする上記(6)に記載のEL用蛍光体の製法。
(8)前記付活剤を金属粉末で添加する上記(1)〜(7)に記載のEL用蛍光体の製法。
【0013】
(9)前記共付活剤が、F、Cl、Br、I、B、Al、Ga、InまたはTlの少なくとも一種である上記(1)〜(8)のいずれか一に記載のEL用蛍光体の製法。
(10)前記共付活剤を金属粉末で添加する上記(1)〜(9)のいずれか一に記載のEL用蛍光体の製法。
【0014】
(11)前記炭素から構成される材料が、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン及び黒鉛から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(10)のいずれか一に記載のEL用蛍光体の製法。
(12)前記炭素から構成される材料の形状が、針状で、直径が100nm以下におけるアスペクト比が100以上であることを特徴とする上記(1)〜(11)のいずれか一に記載のEL用蛍光体の製法。
(13)前記炭素から構成される材料が、前記硫化物の0.005〜1vol%である前記(1)〜(12)のいずれか一に記載のEL用蛍光体の製法。
【0015】
(14)前記蛍光体が、一般式Zn(1-x)xS:Ag,D(式中のAは、Be、Mg、Ca、Sr及びBaより成る群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素、Dは共付活剤であり、3B族及び7B族元素より成る群から選ばれる少なとも1種、0<x<1)で表される組成物である前記(1)〜(13)のいずれか一に記載のEL用蛍光体の製法。
(15)前記(1)〜(14)のいずれか一に記載の方法により作製されたEL用蛍光体。
【0016】
本発明は、硫化物蛍光体の内部に炭素成分を含む導電相を均一に分散した蛍光体を作製する方法に関する。例えば、出発原料として金属粉末と炭素成分を用い、これをMA等の手法で合金化、粉砕することで、炭素成分を極めて高い均一性をもって分散した金属系粉末となる。これに所定の発光中心となる元素をドーピングした後、硫化させることにより、炭素成分が高い分散性で分散した硫化物蛍光体になり、ELにより高い電界集中が起こるために高いEL発光強度が得られる。
【0017】
さらに、本発明では硫化物を母材とする蛍光体において、本来、高効率でEL発光しないAgを付活剤としてドーピングする、例えば、ZnS系蛍光体の内部にカーボンナノチューブ等を導電性炭素成分として均一に分散させて導電相とすることにより高強度の発光を示す蛍光体とするものである。
【0018】
上記蛍光体は、例えば、カーボンナノチューブ粉末等と蛍光体の原料となるZnS粉末を、MA等を用いて混合後、通常の粉末焼成法で作製することもできるが、一般にカーボンナノチューブ等は分散性が悪いため混合時に凝集してしまい、焼成後も凝集が解砕されないためカーボンナノチューブ単体の高いアスペクト比を有効に機能させることが困難なため、高い電界集中効果が発現しないのでEL発光強度は低い。
【0019】
これに対して本発明では、出発原料として蛍光体粉末の代わりに金属粉末を用いることが特徴である。以下、炭素から構成される材料としてカーボンナノチューブを例に説明する。
例えば、金属亜鉛粉末とカーボンナノチューブ等を所定の組成で配合し、MAなどの混合処理を行うと、金属が延性・展性に富むために、MA中に金属組織の引き延ばしや折り畳みが繰り返し生じる。その際にカーボンナノチューブの凝集体が解砕されていき、最終的には金属亜鉛中に高い分散性を持って分散した粉末となる。MA処理は、一般的なボールミル(以下、「BM」とする。)でもいいし、粉砕エネルギーの大きい遊星BMを使えば、高加速度での粉砕が可能になり、分散性はさらに高くなる。MA時の粉砕加速度を大きく、時間を長くするほどカーボンナノチューブの分散状態が向上するので好ましい。しかし、仮に凝集していたとしても、カーボンナノチューブは針状であるため電解集中が起こりやすく、凝集体中からその先端が蛍光体と接触している場合にはEL発光が起こる。
例えば、Znとカーボンナノチューブ粉末の混合物とBM粉砕に使用するボールを、BMポットに充填し、ポットを自公転させて粉砕する。ポットの回転加速度は10G以上が好ましい。これ未満では粉砕エネルギーが通常のBMを使用した場合と大きな差がなく粉砕に時間がかかり、効率が悪い。通常の遊星BMでは150Gの加速度程度までエネルギーを上げることができる。この際、ボールやポットの隔壁からのFe、Cr、Ni、Co等の不純物の混入を防止できるようにしておくことが好ましい。これらの元素は蛍光体の発光キラーとなる。
【0020】
これを回収後、例えばドーピングのためのAg元素、融剤としてのKClを添加した後、H2Sガスを含む還元性ガス中で焼成することによりZnS:Ag,Cl蛍光体となる。カーボンナノチューブの金属亜鉛中での高い分散性は、ZnSへの転化後も維持されるので、蛍光体内部に導電性の高いカーボンナノチューブが均一に分散した構造の粉末となるのである。
【0021】
金属原料としては、Zn、Be、Mg、Ca、Sr及びBaより成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする金属粉末を用いる。これらを単体もしくは複数種を選択して、種々の組成で用いて最終的に蛍光体を作製すると、蛍光体母体のバンドギャップを変化させることができ好ましい。中でも耐湿性の点に鑑みてZnを主成分として用いることが好ましい。さらにBe、Mg、Ca、Sr及びBa等の2A族金属の硫化物は耐湿性が高くないため、好ましくはZnとこれらの金属の混合粉末を出発原料として、最終的にZnMgS、ZnCaS等の混晶母体とすることが特に好ましい。
【0022】
上記の金属粉末とカーボンナノチューブ等をMAし硫化して硫化物とした時には塊状になっている場合が多いので、粉砕するほうがよい。そしていずれかの工程において付活剤と共付活剤を添加し、熱処理して蛍光体とする。熱処理は、MAによって蛍光体に生じた歪を除去するために行うが、その方法としては、通常の炉内での焼成以外に、例えば、レーザアニール、赤外線ランプ加熱、プラズマ加熱等々の方法がある。また、付活剤はAgが好ましいが、CuやAuでも構わない。CuやAuを添加すると、熱処理後にこれらは導電性の高いCu2S、Auとして蛍光体内部に析出するのでカーボンナノチューブ等が内在しなくてもEL発光するが、カーボンナノチューブ等が内在するほうがEL発光強度が高くなる。付活剤の添加はAgCl、Ag2SO4等の硫化物や塩化物等で行えばよく限定されない。共付活剤としては、F、Cl、Br、I、B、Al、Ga、InまたはTl等の汎用のものが用いられる。これらも、KClやNaClの形で添加する場合が多いが限定されない。これらの付活剤や共付活剤はMA処理の前に添加しても構わない。また、付活剤を金属粉末で添加してもよい。例えば、Zn−Mg−Ag合金をMAすればよい。共付活剤を金属粉末で添加することも可能である。例えば、Zn−Mg−Ag−Al合金を用いれば、MA処理の後で付活剤や共付活剤をドーピング添加する必要がなくなる。
【0023】
また、本発明は、蛍光体が一般式Zn(1-x)AxS:Ag,D(式中のAは、Be、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素、Dは、3B族または7B族元素から選ばれる少なくとも1種、混合比率xが0≦x<1)で表される組成物からなり、かつBlue−Cu型発光機能を持つ蛍光体にも適用できる。蛍光体がこのような組成物から主に構成されている場合には、特に短波長発光の点から好ましい。この蛍光体は、蛍光体の母体を、ZnSを基に、バンドギャップの大きいMgSやCaS等の2A族硫化物を混合した混晶母体とし、アクセプタとしてAgを、ドナーとしてClやAl等の3B族または7B族元素を添加して作製され、Blue−Cu型発光機能を持つ蛍光体であり、ELスペクトルのピーク波長を400nm以下の領域にすることができる。このようなBlue−Cu型発光を持つ蛍光体は、付活剤(アクセプタ)であるAgを共付活剤(ドナー)のモル濃度以上のモル濃度で含有させることにより作製できる。
【0024】
G−Cu型発光する蛍光体、例えばZnS:Ag,Clでは、AgはZnS結晶格子のZn位置を置換し、ClはS位置を置換する。これに対して、本発明では、ZnS系蛍光体に共付活剤のモル濃度よりも高いモル濃度のAgを添加することで、Zn位置を置換するAgに加えて、新たに電荷補償されないAgをZnSの結晶格子間に導入することで得られる。更に、蛍光体母材をZnSとBeS、MgS、CaS、SrSおよびBaSの中から少なくとも1種選ばれる2A族硫化物との混晶にすることにより結晶格子を拡大させ、より多くのAgが格子間に侵入しやすいようにした。このような混晶蛍光体を用いると、EL発光スペクトルのピーク波長を388nm以下にすることができる。
【0025】
本発明は、Cuをドーピングした、蛍光体の一般式がZn(1-x)AxS:Cu,D(式中のAは、Be、Mg、Ca、Sr及びBaの群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素、Dは、3B族または7B族元素から選ばれる少なくとも1種、0≦x<1)であり、Blue−Cu型発光機能を持つ蛍光体の場合にも適用できる。Cuをドーピングする場合は、Cu−S系化合物が析出するのでZnS蛍光体には特に必要ない。しかし、ZnMgSやZnCaS等のように、結晶構造が全温度域に亘って六方晶である蛍光体に対しては有効な方法となる。これは、これらの混晶蛍光体は、成長双晶が生成しにくく、また転移双晶が生成しないために、ZnSと同じ通常の焼成では低輝度でしかEL発光しない。本発明を用いることで高輝度でEL発光させることができる。
【0026】
炭素から構成される材料の比抵抗は10-1Ωcm以下であることが好ましい。これを下回ると電界集中効果が低下する。炭素から構成される材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、黒鉛等が候補である。特に、カーボンナノチューブやカーボンナノホーンは、形状が針状で、直径が小さく、アスペクト比が大きいために電界集中しやすく好ましい。好ましくは直径が100nm以下で、かつアスペクト比が100以上であることが好ましい。
【0027】
これらの導電相となるべき材料の含有量は、硫化後の硫化物の0.005〜1vol%になるように調整することが好ましい。これを超えると、導電相同士が接触、連結して蛍光体に電界がかからなくなる場合がある。これ未満だと、電界集中する箇所が少なくなりEL発光強度が低下する場合がある。
【発明の効果】
【0028】
本発明を用いれば、リーク現象を抑制し短波長域の光を高強度でかつ継続的にEL発光させることができるEL用蛍光体を作製することができる。
さらに本発明品は、短波長発光が可能なAgをドーピングした蛍光体をEL発光させることができるという効果を有する。特に、ZnSにMgS等のバンドギャップの大きな蛍光体母材を混晶化することで、発光のピーク波長が400nm以下の短波長発光を容易に発現させることができる。これらの蛍光体を用いた無機EL用デバイスは、光触媒を効率よく励起できる紫外線面光源として有望である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
実施例1
(I)原料
(1)炭素 表1に示す各種の直径、アスペクト比、比抵抗を持つカーボンナノチューブ(以下、「CNT」とする。)またはカーボンナノホーン(以下、「CNH」とする。)を用意した。
(2)金属粉末 純度99.999%、平均粒径30μmのZn、Mg、Sr、Ca、Be粉末を用意した。
(3)付活剤・共付活剤 付活剤:平均粒径1μmのAg2S粉末 共付活剤:平均粒径20μmの各種粉末
【0030】
(II)混合
炭素と金属粉末を所定の組成になるように配合した。これに直径3mmのSi34製ボールを加え、Si34製ポットを用いた遊星BMにより75Gの加速度で60分粉砕混合を行った。
(III)熱処理
回収した原料混合物に付活剤と共付活剤を添加し、20×200×20mm(高さ)の蓋付きの石英るつぼに投入し、管状炉を用い、1気圧の10%H2S−H2ガス中、1050℃で6時間焼成を行った後、炉内で室温まで自然冷却した。その後、BMを用いて、平均粒径が15μmになるまで粉砕して蛍光体とした。
【0031】
(発光波長の評価方法)
50×50×1mm(厚み)の石英ガラス基板に、40×40×50μm(深さ)の凹加工を施した後、Alを0.1μm厚さ蒸着して裏面電極とした。蛍光体をひまし油に、35vol%の体積分率で超音波混合してスラリーにし、これを凹部に流し込んだ。最後に、厚さ0.1μmの透明導電膜(表面電極)がコーティングされた50×50×1mmの石英ガラス基板で蓋をしてEL用デバイスとした。
両電極にリード線を取り付け、電圧500V、周波数2500Hzの交流電圧を印加した。発光スペクトルはフォトニックアナライザを用い、同じ感度で測定した。一部の試料に関して発光強度の比較を行った。得られた発光スペクトルのピーク波長の強度を相対比較した。
結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1より明らかなように、CNTを使用しなかった蛍光体はEL発光しなかった(蛍光体No.1、3)。
ZnS−MgS系で付活剤量を共付活剤量よりも多くすることで短波長発光した。Blue−Cu型発光が生じたためと考えられる(No.4と5の比較)。
CNTの比抵抗が小さいほどEL発光強度が増加した(No.6〜8)。
CNHを用いてもEL発光した(No.9)。
CNTの直径が小さく、アスペクト比が大きいほどEL発光強度は高くなった(No.10と11)。
Mgの代わりにSr、Ca、Baを用いても短波長EL発光は得られた(No.12〜14)。
【0034】
実施例2
(I)原料
(1)炭素
実施例1と同じものを用いた。
(2)金属粉末
実施例1と同じものを用いた。
(3)付活剤・共付活剤
付活剤:平均粒径1μmのAg、CuまたはAu粉末
共付活剤:平均粒径20μmの各種粉末
【0035】
(II)混合
炭素と金属粉末、付活剤、共付活剤を所定の組成になるよう配合した。これに直径3mmのSi34製ボールを加え、Si34製ポットを用いた遊星BMにより75Gの加速度で60分粉砕混合を行った。
(III)熱処理
回収した原料混合物を20×200×20mm(高さ)の蓋付きの石英るつぼに投入し、管状炉を用い、1気圧の10%H2S−H2ガス中、1050℃で6時間焼成を行った後、炉内で室温まで自然冷却した。その後、BMを用いて、平均粒径が15μmになるまで粉砕して蛍光体とした。
【0036】
(発光波長の評価方法)
実施例1と同じ。
比較として、市販のZnS:Ag,Cl蛍光体粉末にCNTを添加し、同様の遊星BM処理を行った後、同様の熱処理を施した試料も作製した。
結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2から明らかなように、付活剤と共付活剤として金属粉末を用いてもEL発光した。
CNTの量を適当な値にすることでEL発光強度が大きくなった。ZnSを出発原料とした場合はEL発光強度が極めて小さかった。これは蛍光体内部にCNTが分散していないためと考えられる(No.15〜19、22を比較)。
CuやAu粉末を用いてもEL発光した。
Cuを用いた場合、CNTがあると発光強度が大きくなった(No.19と20の比較)。
【0039】
実施例3
(I)原料
(1)炭素
炭素種:CNT
炭素種の直径:5nm
炭素種の長さ:550nm
アスペクト比:110
比抵抗:0.02Ωcm
炭素種濃度:0.01vol%
(2)金属粉末
実施例1と同じものを用いた。
(3)付活剤・共付活剤
付活剤:平均粒径1μmのAg粉末
共付活剤:平均粒径20μmのAl粉末
(4)硫黄:純度99.999%の硫黄粉末(平均粒径5μm)を用いた。
【0040】
(II)混合
炭素と金属粉末、付活剤、共付活剤、硫黄粉末を所定の組成になるよう配合した。これに直径3mmのSi34製ボールを加え、Si34製ポットを用いた遊星BMにより5〜75Gの加速度で60分粉砕混合を行った。
炭素と金属粉末、付活剤、共付活剤を先に60分粉砕混合した後、硫黄粉末を添加して再度60分粉砕混合した試料も作製した。
(III)熱処理
回収した原料混合物を20×200×20mm(高さ)の蓋付きの石英るつぼに投入し、1気圧のアルゴンガス中、1000℃で2時間熱処理した後、炉内で室温まで自然冷却した。
なお熱処理後の蛍光体中の各相は以下のようになった。
第1成分ZnS
第2成分MgS
第2成分量(mol%):30
【0041】
(発光波長の評価方法)
実施例1と同じ。
結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3から明らかなように、金属、CNT、硫黄、付活剤及び共付活剤の混合粉末を用いてもEL発光した。
遊星BMの粉砕加速度を大きくするほどEL発光強度が大きくなった。粉砕加速度が大きいほど、CNTが蛍光体中に均一に分散したためと考えられる(No.23〜26を比較)。
熱処理をしないと発光強度が大幅に低下した。これは、粉砕により蛍光体母体に導入された歪みが緩和されないため、結晶性が低いためと考えられる(No.27)。
硫黄粉末を除く混合粉末を先に粉砕処理し、その後、硫黄粉末を添加して再度粉砕処理した試料は最も発光強度が高かった。金属とCNTの粉砕を先に粉砕したほうが、CNTの分散性が高いためと考えられる(No.28)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn、Be、Mg、Ca、Sr及びBaより成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする金属粉末と炭素から構成される材料をメカニカルアロイングして合金化する工程、該合金を硫化して硫化物を主成分とする複合体とする工程、該複合体を粉砕・熱処理して蛍光体とする工程と、上記のいずれかの工程において付活剤及び/または共付活剤を添加する工程、からなるエレクトロルミネッセンス(以下、「EL」と略す。)用蛍光体の製法。
【請求項2】
前記合金を硫化して硫化物を主成分とする複合体とする工程において、該合金に硫黄粉末を添加してメカニカルアロイングすることを特徴とする前記請求項1記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項3】
Zn、Be、Mg、Ca、Sr及びBaより成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする金属粉末と、硫黄粉末と、および炭素から構成される材料をメカニカルアロイングして硫化物を主成分として複合体とする工程と、該複合体を粉砕・熱処理して蛍光体とする工程と、上記のいずれかの工程において付活剤及び/または共付活剤を添加する工程と、からなるEL用蛍光体の製法。
【請求項4】
前記金属粉末が、Znを主成分とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項5】
前記金属粉末が、ZnとBe、Mg、Ca、SrまたはBaの少なくとも一種との混合物を主成分とする請求項4に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項6】
前記付活剤が、Ag、Cu、またはAuの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項7】
前記付活剤がAgであることを特徴とする請求項6に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項8】
前記付活剤を金属粉末で添加する請求項1〜7のいずれか一項に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項9】
前記共付活剤が、F、Cl、Br、I、B、Al、Ga、InまたはTlの少なくとも一種である請求項1〜8のいずれか一項に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項10】
前記共付活剤を金属粉末で添加する請求項1〜9のいずれか一項に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項11】
前記炭素から構成される材料が、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン及び黒鉛から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜10のいずれか一項に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項12】
前記炭素から構成される材料の形状が、針状で、直径が100nm以下におけるアスペクト比が100以上であることを特徴とする請求項1〜11に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項13】
前記炭素から構成される材料が、前記硫化物の0.005〜1vol%である請求項1〜12のいずれか一項に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項14】
前記蛍光体が、一般式Zn(1-x)xS:Ag,D(式中のAは、Be、Mg、Ca、Sr及びBaより成る群から選ばれる少なくとも1種の2A族元素、Dは共付活剤であり、3B族及び7B族元素より成る群から選ばれる少なとも1種、0<x<1)で表される組成物である請求項1〜13のいずれか一項に記載のEL用蛍光体の製法。
【請求項15】
前記請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法により作製されたEL用蛍光体。

【公開番号】特開2007−56123(P2007−56123A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242378(P2005−242378)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】